Pick Up Movie!……2023.12.20
『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』『ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代』★★★
(満点は★★★★★)

今、アップリンク吉祥寺で、映画『ガザの美容室』を“不規則限定上映”ながら、100円均一で、緊急上映しているみたいです。公式サイトにありました。
以前もお話した、ガザの日常を描いた作品です。チャンスがあれば是非!
今週の2本も、アップリンク吉祥寺で上映される映画です。日替わり上映みたいです。サイトも同じなので、興味を持ったらチェックしてみて下さい。
さぁ、今週は2本です!


『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』は、民間人抑留者として苦難の日々を過ごした阿彦哲郎さんの物語。

1945年、樺太の国民学校。
ソ連軍の侵攻を間近に控え、帰宅して家族と島を脱出するように言われた15歳の阿彦哲郎でしたが、母と弟を船に乗せると、自分は日本男児として逃げることはしないと、島に残ります。
捕らえられ、スパイ容疑をかけられた哲郎は、スターリンの政治犯強制収容所に送られるんですね。
そこから中央アジアに送られると、収容所での強制労働の日々が始まります。
「日本に帰って、家族に会いたい」。その気持ちだけを心の支えに、哲郎は毎日を生き抜くのでした…。

『ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代』も、民間人抑留者だった三浦正雄さんの物語。

終戦後間もなく、北海道に疎開していた13歳の三浦正雄は、家族を探しに樺太へと向かいます。
そこでソ連軍に逮捕されると、1年半の収容所生活の後で流刑となり、カザフスタンに送られてしまいます。
ひとりでポツンといたところを助けられ、集団農場で暮らすことになるのですが…。

詳しいことはボクにはわからないのですが、戦争捕虜と民間人抑留者とでは状況がかなり違ったみたいで、そのあたりは公式サイトにある“映画資料”で専門家の解説を読んでみて下さい。
ざっくり言えば、戦争捕虜は軍の記録に残っていても、民間人抑留者はその記録すらないと。
ただ、戦争捕虜であろうと、民間人抑留者であろうと、過酷な環境での過酷な強制労働を強いられたのは同じで、多くの人が命を落とす中、生き延びた人たちがいたわけです。
この映画は、カザフスタンに4人いた民間人抑留者の中の2人、阿彦哲郎さんと三浦正雄さんの人生を描いたもの。
いわれなき罪で、何十年にも渡って、自由と祖国と家族を奪われたわけですから、戦争とはなんと残酷なものか。そのことを、改めて強く感じさせる2本です。★3つ。
『阿彦哲郎物語 戦争の囚われ人』、『ちっちゃいサムライ 三浦正雄の子供時代』公式サイト
					
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.12.14
『あみはおばけ』★★
『きっと、それは愛じゃない』★★★
『ポトフ 美食家と料理人』★★★★★
『香港の流れ者たち』★★★
『未帰還の友に』★★★
(満点は★★★★★)

師走です。ボクは“師”ではありませんが、かなり走ってます(笑)。
「忙殺」という言葉があります。忙の字自体に“心を亡くす”という意味があり、そこに殺ですから、とんでもない言葉だなぁと改めて。
1年の締めとなるこの時期。スケジュールがパンパンだという方もたくさんいると思いますが、そんな時こそ気持ちに遊びをと、ボク自身にも思う12月です。
さぁ、今週は4本です!


『あみはおばけ』は、ファンタジーホラー。

小学校に通う阿美は、父・雄介とふたり暮らし。
正確には、母・三香子もいるのですが、三香子は箱の中。箱の中から顔だけで外の世界を見つめ、阿美と雄介に語りかけています。
阿美はその箱を持って通学。学校の許可を得てはいるものの、阿美は箱のことで、クラスメイトからいじめを受けるんですね。
それでも将来の夢を聞かれると、「お父さんと同じ科学者になること」と答える阿美。「お母さんの手と足を作ってあげたい」。阿美はお母さんのことが大好きだったのです…。

タイトルに“おばけ”の文字があったので、ファンタジックホラーとしましたが、公式サイトにはSFダークファンタジーとありました。
あくまで個人の感想ですが、響くところが少なかったかなと。家族愛も、ファンタジーも、ホラーの要素も。どれも突き抜けていない気がしちゃいました。
ただ、起承転結の“転”は上手く、着想の斬新さと、オリジナル脚本でチャレンジする意欲は“買い”だと思います。
それだけに、ここは厳しく。★2つ。
『あみはおばけ』公式サイト

『きっと、それは愛じゃない』は、ロンドンが舞台の恋愛コメディ。

ゾーイはフリーのドキュメンタリー作家。
実家の隣りに住むパキスタン系のファミリーとは、幼い頃からの家族ぐるみでの付き合い。次男のウェディングパーティに招かれて、久しぶりに隣家を訪れたゾーイは、幼なじみで長男のカズとも久々の再会を果たします。
医者になっていたカズは、もうすぐ見合いで相手を見つけて結婚すると言います。
「今の時代に見合い?愛がなくて結婚できるの?」と首を傾げるゾーイに、「敬虔なイスラム教徒で、親が認めた相手なら大丈夫」とカズは言います。
ある日のこと、ゾーイはプロデューサーとの打ち合わせで、ポロッとカズのことを話してしまいます。見合いから結婚までのドキュメンタリー映像はどうかとプレゼンしたところ、多様性の時代に面白いとGOサインが出るんですね。
ゾーイはカズを口説いて密着取材を始めたのですが、レンズを通してカズを見つめているうちに、ゾーイの中にいつもと違う感情が涌き出てきたのです…。

ロマンスコメディです。
ゾーイも恋愛下手で、母はそんな娘を心配して男性を紹介しますが、ゾーイはどうにもその気になれず。
双方の親が同席したオンラインお見合いで、カズが婚約したのは、年の離れたマイムーナという若い女の子。しかし、彼女にもカズには言えない悩みがあったのです。
なんて書くと、なんとなく着地点はわかっちゃうかな(笑)。
わかったとしても、プロセスが重要。実際の恋愛みたいに、その流れを楽しむ映画です。また、サイドストーリーとしてのカズの妹の存在も効いています。
イギリスは、スナク首相が英国史上初のインド系の首相ですから多様性の国。この手の映画もリアリティを持って響くのかもしれませんね。
日本流に言えば、「灯台もと暗し」。意外や幸せは、近くにあるのかも?★3つ。
『きっと、それは愛じゃない』公式サイト

『ポトフ 美食家と料理人』は、愛と料理の物語。

19世紀末のフランス。
著名な美食家であるドダンは、森の中にあるシャトーで暮らしています。
彼が考えるレシピを忠実に再現できるのが、同居人でもある天才料理人のウージェニー。ドダンにとって、彼女は究極の相方でしたが、プロとしての意識が高いウージェニーは、ドダンのプロポーズを何年も断っています。
ある日のこと、ユーラシア皇太子から晩餐会に招かれたドダン。きっと断るだろうとの友人たちの予想に反し、ドダンは招待を承諾します。
しかし、ドダンの想像通り、メニューは豪華食材のオンパレード。ストーリー性の何もない、ただの金持ちの道楽だったのです。
逆に皇太子を食事に招くドダン。メニューはシンプル過ぎるポトフにしようとウージェニーに伝えます。
ところが、ウージェニーが、突然倒れてしまったのです…。

冒頭から、淡々と、しかし情熱たっぷりに料理するシーンが、とにかく長尺で続きます。
19世紀版の料理の鉄人的映画なのかと思いきや、恋と愛と食の物語。素敵な1本でした。
グルメ過ぎて、食材がマニアック。偏食のボクにとって、正直、食欲をそそるメニューではありませんでしたが(笑)、食を芸術にまで昇華させたドダンとウージェニーの料理。見ていて惹き付けられるものはありました。
フランス映画は、結末がぼやけたものが多いのですが、この作品では未来が確かに見えてくる。そこに何を感じるかは、人それぞれだと思います。
大人の映画です。クリスマス、大切な人との“食前映画”におススメです!
映像も、ストーリーも、満点!★5つ。
『ポトフ 美食家と料理人』公式サイト

『香港の流れ者たち』は、実話を基にしたストーリー。

香港の下町、シャムスイポー。今は再開発が進み、高層ビルが立ち並ぶ地域になっています。
麻薬中毒で収監されていたファイが釈放され、再び町の高架下に戻ると、ホームレス仲間が歓迎してくれます。
自分の城に戻ってきた気分になるファイでしたが、ある晩のこと、何の予告もなく、行政がホームレスの“住まい”を撤去し始めたのです。
片付けられたものの中には、身分証明書や大切な家族の写真もありました。
ソーシャルワーカーのホーは裁判を起こすことを提案。一時は、みんな一丸となって気勢をあげたのですが、裁判が長引くに連れ、ホームレスそれぞれの考え方に相違が生じてきます。
司法の下す結論は?ファイたちの生活は、どうなっていくのでしょうか…。

香港で2012年に、“トンジャウホームレス荷物強制撤去事件”というのがあり、それを基に作られた映画。
人権、命の尊厳といったテーマが根底に流れているので、軽々しくものを言えませんが、裁判を起こすと、それをマスコミが報じ、にわかな支援者がたくさん現れます。ホームレスの人たちが望む、望まないに関わらずです。
現状に至るまでに、まさに紆余曲折あった人生。価値観は違うし、意見が割れるのも仕方のないことでしょう。これは他国のことではなく、日本の問題としても見ることができるはずです。
香港は土地が狭いから、建物は上に伸びるしかないんですよね。昔、訪れた時も思いましたが、映像で見ると、今はさらにすさまじい高層ビル群になっていて。ボクは、その事実にも驚かされました。★3つ。
『香港の流れ者たち』公式サイト

『未帰還の友に』は、太宰治の短編小説の映画化。

昭和17年、小説家の先生のもとに学生たちが集まり、酒を酌み交わしては熱く語り合う毎日。
お気に入りの居酒屋は「きくや」。しかし、社会情勢が厳しくなり、酒の入手も困難に。思う存分呑めなくなってしまいます。
すると先生は学生のひとり、鶴田をだしに使い、「きくや」の一人娘・マサ子の結婚相手にどうだと勧め、居酒屋の主人に酒を出させるという作戦を考えます。
実はこのふたり、そんな姑息な手段とは関係なく、互いに恋心を抱いていたのです。
マサ子は踊ることが好きで、新宿ムーランドールのダンサーになります。
それを温かく見守る鶴田。
しかし、戦争が若いふたりの恋を引き裂くことになるのです…。

翌18年に鶴田が出征する場面から、映画は始まります。
わずかな時間に酒を交わし、あの頃を懐かしむ先生と鶴田。そこで先生は、鶴田からマサ子との話を聞かされるんですね。
原作は、1946年に太宰治が発表した、私小説的な短編作。自身を先生とし、鶴田という若者との友情が描かれています。
声高にこそ叫ばないものの、反戦を訴えた小説。戦争は、夢も未来も奪いますから。
『未帰還の友に』というタイトルが切ないです。★3つ。
『未帰還の友に』公式サイト
					
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.12.7
『Winter boy』★★★
『ヤジと民主主義 劇場拡大版』★★★★
(満点は★★★★★)

年内公開の映画の試写はすべて拝見しました。
11月末時点で152本ですから、160本ぐらいの新作映画(再上映を含む)を観させてもらうことになりますか。
映画鑑賞もいよいよラストスパート!
さぁ、今週は2本です!


『Winter boy』は、フランスのクリストフ・オノレ監督の半自伝的映画。

17歳のリュカ。
寄宿舎で暮らすリュカでしたが、ある冬の日、急に家に呼び戻されます。父が亡くなったというのです。
久々に会う母のイザベルは、悲しみに暮れていました。
リュカには、パリに住む兄のカンタンがいます。カンタンはしばらくの間、リュカをパリに呼び寄せるんですね。
アルプスの麓にある実家とは違い、パリの街は刺激がいっぱいでした。
カンタンには同居人がいます。アーティストのリリオです。リュカはリリオの優しさに惹かれていくのですが…。

自身がゲイであることをオープンにしている、クリストフ・オノレ監督。
半自伝的映画ということですから、その青春時代をベースに描いた作品ということになりますか。
身近な人の死が、若い感性に“生”を鮮明に感じさせたのかもしれません。
兄とぶつかることが多いのですが、それでもすぐに仲が回復するのは“兄弟あるある”(笑)。ただ、ある問題に関してだけは…。
個性的なという表現がいいのかも微妙なところですが、ひとつの青春ストーリーであることは間違いありません。★3つ。
『Winter boy』公式サイト

『ヤジと民主主義 劇場拡大版』は、TVドキュメンタリーの劇場版。

2019年7月の参議院選挙。
JR札幌駅前で応援演説中の安倍元首相に、ひとりの男性が「安倍やめろ!」と声を挙げます。
ソーシャルワーカーの大杉雅栄さんです。
すると突然、数名の警察官が大杉さんを取り囲み、強制的にその場から移動させます。
強制排除に、「おかしいじゃないか」と食い下がりますが、ラチがあきません。
それを見て、「私も声を出さなければ絶対後悔する」と思い、「増税反対です!」と叫んだ女性がいました。大学4年生の桃井希生さんです。
すると、桃井さんも警官に囲まれ、移動を余儀なくされると、女性警官からその後の行動を監視するかのように、1時間に渡ってつきまとわれたのです。
さらに、「年金100年プランどうなった?」と書かれたプラカードを掲げようとした数人の高齢女性グループも、そのプラカードが首相の目に入らないよう、警察官たちにガードされてしまいます。
ヤジの排除に法的根拠がないと、同年12月に大杉氏が北海道を相手に国家賠償控訴を札幌地裁に提訴。
翌20年、桃井さんが同様の訴訟を起こします。
4月にこれが一本化され、ヤジ排除に関する裁判が始まったのです。
地裁が下したのは原告の勝訴。
しかし、北海道はこれを不服とし、高裁へ控訴します。
すると7月、安倍元首相の襲撃事件が起こります。
この案件が影響したから警備が甘くなったのではないかと世の中の一部の批判が、その矛先を大杉さんや桃井さんに向けるという…。
高裁では判断が分かれ、双方が上告。今も裁判は続いています。
“現在進行形のライブ・ドキュメンタリー”とあるのは、そんな意味なんですね。
北海道放送による1460日の取材。識者の「メディアの目の前で起こっているんだから。メディアは無視されているんですよ」。
その言葉に、報道機関として、奮起するところもあったのかもしれません。
TVの『ヤジと民主主義』は数々の賞に輝いていますが、この劇場拡大版では、未公開の映像もたくさん加えられているとのこと。
平和ボケしている日本人のひとりとして、考えさせられる1本です。★4つ。
『ヤジと民主主義 劇場拡大版』公式サイト
					
 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.12.1
『朝がくるとむなしくなる』★★★
『アダミアニ 祈りの谷』★★★★★
『スイッチ 人生最高の贈り物』★★★★
『バッド・デイ・ドライブ』★★★
『香港怪奇物語 歪んだ三つの空間』★★★
(満点は★★★★★)

12月になりました。
今年もあと1ヶ月。
あなたは2023年、何本ぐらい映画を観ましたか?
何かとせわしない師走ですが、そんな時こそ、映画で落ち着いてみてはいかがでしょう(^-^)
さぁ、今週は5本です!


『朝がくるとむなしくなる』は、友情と再生の物語。

飯塚希は、アパートにひとりで暮らす20代の女性。
会社を辞めて、コンビニのアルバイトを始めたのですが、なかなか接客に慣れず。店長にシフトの相談をされると、断ることなく引き受けてしまいます。
ごはんは今日もコンビニ弁当。何の刺激も、変化もない毎日。
そんな希の前に、中学の同級生だった大友加奈子が現れます。初めはぎこちない再会でしたが、自然と打ち解けていき、頻繁に行動を共にするようになります。
コンビニでも、仲間との会話が少しずつ増え、飲み会にも参加することで、それぞれのまた違った一面を知ることになります。
止まってしまったかのような希の毎日に、少しずつ小さな変化が起きていくのでした…。

希は会社を辞めたことを親に話せていなくて、新しい環境に身を置いたといっても、決してポジティブな選択ではなかったわけです。
それでも、コンビニで掛けられた「飯塚…さん?」という加奈子の一言から、少しずつ人生が動き始めます。
希役の唐田えりかと加奈子役の芋生悠は、実生活でも仲のいい友人だそうで、加奈子が希を包み込むシーンなんかは、そんなリアリティが出ているのかもしれませんね。
ちょっとずつすり減らし、ちょっとずつ補修していく、優しい再生の物語。根底にあるのは「大丈夫。きっと大丈夫」というエールなんだと思います。★3つ。
『朝がくるとむなしくなる』公式サイト

『アダミアニ 祈りの谷』は、ドキュメンタリー。

ジョージアの東部に位置するパンキシ渓谷。
そこには19世紀にチェチェンから移住してきたキストと呼ばれる人々も暮らしています。
ジョージアの大多数がキリスト教の正教徒であるのに対し、キストの人々はイスラム教。
第二次チェチェン紛争の際には、チェチェンから難民やゲリラなどが流れ込み、ロシアはジョージア政府がパンキシにテロリストを匿っていると非難。その一方、2001年にアメリカで同時多発テロが起きた際には、ビンラディンの潜伏先だと疑われ。西からも東からも“テロリストの巣窟”というレッテルを貼らてしまいます。
キストの人々は、ジョージアの人たちと穏やかに共存したいと考えていて、この谷の美しい景色を観光資源にと、この映画の主人公であるレイラも、ゲストハウスを経営。観光客をもてなしていました。
ただ、キストの若者の多くが、自分たちの正義を胸にシリアへ流れたのも事実。レイラのふたりの息子も組織に加わり、亡くなっていたのです。
そんな中、キストの女性たちが集まって観光協会を設立。パンキシで開かれる祭りに参加しようと申請を出すのですが、表立ってこそ言われませんが、キストだからという理由で、主催者側から難色を示されます。それでも粘り強く交渉し、なんとか承認を得ます。
ところが、事件が起こるんですね。
テロリストの容疑をかけられたキストの若者が、警察に殺害されてしまったのです。
無実の息子を殺されたと、遺族はジョージア政府に対し、怒りをあらわにします。
正教徒の祭りに参加するとはどういうことだとの非難が観光協会に多数届き、さらに、祭りの当日にはデモを行うので、母親は集まってほしいと請われます。
レイラの心は揺れに揺れます。
貼られた負のレッテルを、内側から自分たちで変えないとステレオタイプは変わらないと立ち上げた観光協会。未来のために祭りに参加すべきだろうという思いと、殺されたのがもし自分の息子だったらという母親としての心情…。レイラの決断は果たして?
実はレイラは再婚していて、ジョージア人との間にマリアムという娘がいます。父親の影響から、パンキシでは珍しい正教徒です。
また、レイラの従兄弟のアボは、“キストの戦士”。それでも将来を見据え、パンキシを愛するバルバラというポーランド人女性のもとで、武骨に?パンキシのツアーガイドを務めています。
この映画、監督は日本人の竹岡寛俊。3年間密着し、撮影したというドキュメンタリー作品です。
歴史と運命に翻弄されるキストの人々。
「結局私たちはひとつにまとまれない」。観光協会の仲間が、諦めるでも、怒りを伴うでもなく、ぼそっとつぶやく言葉が印象的でした。
家族の中で、宗教の中で、ジョージアの中のパンキシで、世界の中のジョージアで、最たるは“個”たる自分自身の中で、居場所を探し続ける。前を向いて、絶望し、立ち上がって、また前を向く。そんな“生きる姿”が描かれています。
たくさんの花を植えるレイラ。その花の命は短くても、美しく咲き、種は次世代に繋がりますから。
長く書いてしまいました。一見、地味に見えますが、本当に素晴らしい映画だと思います。満点!★5つ。
『アダミアニ 祈りの谷』公式サイト

『スイッチ 人生最高の贈り物』は、韓国のヒューマン・コメディ。

大人気俳優のパク・ガン。
彼はスキャンダルもまったく意に介せず。なぜなら、敏腕マネージャーのチョ・ユンが付いていたから。
実はパク・ガンとチョ・ユンは、古くからの劇団仲間。今は芝居を諦めた親友が尻拭いをしてくれるからこその、セレブ生活だったのです。
クリスマスイブの夜、早く家族のもとへ帰りたいと言うチョ・ユンを無理矢理引っ張って、昔の行きつけの店で飲んだふたりは、あの頃を懐かしく振り返ります。オーディションの合否が逆だったら。パク・ガンが、成功ではなく、恋人のスヒョンを選んでいたら。
酒に酔い、クリスマスツリーの行灯をつけたタクシーに乗ったパク・ガンは、運転手から奇妙な言葉をかけられるんですね。
「もし人生を選び直せるならどうしますか?」
目覚めると、そこは見知らぬ家。幼い双子の子どもと、スヒョンがいるではありませんか。どうやら、みんなパク・ガンの家族で、こちらの世界ではチョ・ユンが大スター。パク・ガンは再現ドラマの売れない役者。
そう、パク・ガンとチョ・ユンの人生が180度スイッチしていたのです…。

主人公がとんでもないヤツだと、後に改心してもどうでもいいやと思っちゃう。ボクはよくそう書きますが、このパク・ガンもそんな部類の男なんですよ。
でも、どこかヌケたところがあるなと思わせるキャラクター設定が絶妙で、ギリギリのところで踏みとどまらせる余地があるんですね。もうこうなると、あとは韓国映画ですから、最後は泣かされちゃうんですよ(笑)。
あまり情報を先に入れずに観たほうがいいタイプの映画ですから、このあたりにしておきますね。
クリスマスの“奇跡”。今の季節にピッタリのハートウォーミングな1本です。ボクも家族が欲しくなっちゃいました(笑)。★4つ。
『スイッチ 人生最高の贈り物』公式サイト

『バッド・デイ・ドライブ』は、リアルタイム・サスペンス。

ドイツのベルリンで、やり手の金融マンとして働く、マット・ターナー。
彼には妻のヘザーと、息子のザック、娘のエミリーがいますが、仕事が最優先のマット。家庭には、どこか軋みが生じているようでもありました。
ある日の朝、ふたりの子どもを学校に送る車の中で、助手席にあった見知らぬ携帯電話が鳴ります。不審に思いつつ、マットが電話に出ると、謎の男がこう言うのです。
「座席の下に爆弾を仕掛けた。席を立てば爆発するし、もし電話で助けを求めてもその電波で車は爆発する」と。
最初はいたずらだと思ったマットですが、座席の下を覗いてみると、確かに爆弾らしきものが見えるではありませんか。
爆弾はマットの知り合いの車にも仕掛けられていて、男の言う通りにしなかったその車は、マットたちの目の前で爆発してしまうんですね。
訳がわからないまま、無理難題を押し付けられ、反抗し続けていた子どもたちも、ただ事ではないと察知。マットは真実を伝えます。
犯人の正体は?その狙いは?
マットはこの危機から、家族を守ることができるのでしょうか…。

観た瞬間、「あれ?以前、どこかで観たなぁ」と。そう、記憶にあったのは、日本では昨年2月に公開された韓国映画『ハード・ヒット 発信制限』。
正しくは、そちらもリメイクで、2015年のスペイン映画『暴走車 ランナウェイ・カー』が最初。さらに、ドイツでも『タイムリミット 見知らぬ影』というリメイク作品が作られています。
映画通の人の中には、全部観たという人もいると思いますが、どれが一番面白かったか聞いてみたくなりますよね。
ボクの2022年2月23日のブログをご覧になってみて下さい。『ハード・ヒット 発信制限』の感想が書かれています。新鮮なハラハラドキドキ感は、そちらの文章に委ねたいと思います(笑)。
ちなみに、この作品はリーアム・ニーソンの101本目の映画出演作だそうです。★3つ。
『バッド・デイ・ドライブ』公式サイト

『香港怪奇物語 歪んだ三つの空間』は、香港のオムニバスホラー。

「暗い隙間」
中学生だった少女ヤウガーは、ビルの隙間に何かを発見。気になって近づいてみると、それは人間の死体でした。その目はヤウガーを凝視。その目が残像として、ヤウガーの脳裏に焼きついてしまいます。
大人になり、人気のシンガーになったヤウガーは、プロデューサーと不倫関係にありました。ふたりの時間を過ごすために、新しい部屋を借りたヤウガーでしたが、SNSを通じて、誰かに見られていることに気づくのです。
ヤウガーの心に、再びあの目が甦ってくるのでした…。

「デッド・モール」
投資系YouTuberのヨン・ワイが、新たにオープンしたショッピングモールを紹介。ライブ配信でその良さをPRしていますが、実はこのモール、14年前に火事で多くの死傷者を出した火災現場の跡地に建ったもの。その火災の原因が、ヨン・ワイにあるとの噂も。
すると、配信画面にガスマスクの奇妙な女性が映ったのです…。

「アパート」
ネット小説家のアチーが住む、古びたアパート。その1階で、アチーは水死したと見られる水浸しの幽霊を見てしまいます。
アパートの他の住人たちに助けを求めると、同じ幽霊を見たという人が他にもふたり。
そこで、住人5人で力を合わせて、幽霊を退治しようとするのですが…。

上記の3本の短編からなるオムニバス映画です。
ホラーはホラーなんですが、公式サイトの解説にもあるように、香港ホラーの代表格はキョンシーですから。どこかコミカルで、怖いだけではないストーリー性もあります。
この3本も、物語に“因果応報”、寓話的な含みを持ち、加えて、時にクスッと笑える演出もありました。同じアジアでも、日本や韓国の怖さに特化したホラーを期待すると、肩透かしをくらうかも。
ただ、これはこれでお国柄。経験しておくといいかと思います。★3つ。
『香港怪奇物語 歪んだ三つの空間』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.11.24
『ゴーストワールド』★★★
『ディス・マジック・モーメント』★★★
『翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜』★★★★★
『ほかげ』★★★
(満点は★★★★★)

試写室の試写に行くと、映画評論家さん同士も、オンラインが増えたせいか、「久しぶりー」なんて挨拶をしている場面によく出くわします。
今週紹介する作品のうち、試写室で観たのが2本。スクリーンにはスクリーンのよさが、やっぱりあるなぁと改めて感じました。
さぁ、今週は4本です!


『ゴーストワールド』は、ふたりの少女の青春ブラックコメディ。

1990年代のアメリカ。
郊外のありふれた町で、幼なじみで親友のイーニドとレベッカは、高校の卒業を迎えます。
その後の進路も決まっていないふたり。何か面白いことはないかと探してみても、退屈なこの町に面白いことなどあるはずもありません。
ある日、ふたりは新聞の広告欄に、出会い系のメッセージを発見。広告主の男性を嘘の電話で呼び出し、その姿を見てやろうと企てるんですね。
待ち合わせた店にやってきたのは、いかにもモテなそうな中年男。待てど暮らせど現れない女性に業を煮やした彼は、怒って店を出て行ってしまいます。
ふたりはあとをつけ、住所を特定。わかったのは、シーモアという名前で、ブルース・レコードのマニアだということでした。
後日、ガレージセールをしていたシーモアに話かけると、彼もまた世間になじめない人なんだと判明。シンパシーを感じたのか、イーニドはシーモアに興味を持ち始めるのでした…。

実はこの映画、2001年に公開になった作品の再上映。20年経って時代がひと回り?レベッカとイーニドの生き方に、いわゆるZ世代と共通する部分があるのかも。それが再上映の狙いかもなんて思っています。
当時は「ダメに生きる」がキャッチコピーで、“低体温系青春映画”なる括りで大ヒットしています。
今観ても、背景にやや古さはあるけれど、内容に古臭さを感じることはありませんから。
レベッカにはスカーレット・ヨハンソン、イーニドにはソーラ・バーチ。撮影当時は、それぞれ15歳と17歳。言われなければ、ちょっと若作りな役柄ぐらいに見えるはずです。
当時から、ラストシーンの解釈は様々あったそうですが、ボクは…なんて書いたらネタバレになっちゃう(笑)。
青春はいつの世も、ある意味、コメディですから。大人になって振り返れば、ホントにそう。消したい過去もいっぱいあるもんなぁ。そんな甘酸っぱい思いで、ご覧になってみて下さい。★3つ。
『ゴーストワールド』公式サイト

『ディス・マジック・モーメント』は、ミニシアターを巡るドキュメンタリー。

マレーシア出身の映画監督、リム・カーワイ。
日本に留学して、映画監督を目指すようになった彼の原点が、ミニシアター。
昨年11月には『あなたの微笑み』というロードムービーを発表しましたが、主人公の売れない映画監督が自分の映画を上映してもらえないかと、全国の劇場を回って売り込むストーリー。もうひとつの主役は、実在するミニシアターでした。
南は沖縄から、北は北海道まで。その数、22館。
前作の撮影時にはあった劇場が閉館になっていたり、また閉館が決まっていたり。あるいはオーナーが亡くなっていたりと、様々な理由でミニシアターには逆風が吹いています。
それでもこの映画に登場する関係者たちは、映画に魅せられ、映画の力を信じ、映画を愛しているんですね。
「人に観てもらって、映画は完成する」。
まさにその通りだと思います。
例えば、北海道の浦河町にある北海道最古の映画館・大黒座は、クリーニング店を併営。その収益で劇場経営を支えていると言います。
そんな22のミニシアターの、22の物語。あなたも是非触れてみて下さい。★3つ。
『ディス・マジック・モーメント』公式サイト

『翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜』は、大ヒット・コメディの4年ぶりとなる第2弾。

麻実麗と檀ノ浦百美を中心とした埼玉解放戦線は、埼玉県人が東京都に入るために必要とされていた通行手形の撤廃に成功します。
そこで、さらなる目標として掲げたのが、埼玉県内で希薄とされていた横の繋がりを深めること。そのために麗は、“海なし県”である埼玉に海を作る計画をぶち上げます。
和歌山県白浜の白砂を採取し、持ち帰ろうと決めた麗は、百美を埼玉に残し、他のメンバーと共に、船で和歌山を目指します。
ところが、嵐で船は遭難。気づくと麗は、和歌山の海岸にひとり打ち上げられていたのです。
そこで出会ったのが、滋賀解放戦線の桔梗魁でした。
関西もまた、大阪、神戸、京都が幅をきかせ、滋賀、和歌山、奈良の人々が迫害を受けていたのです。
埼玉と同じ境遇を憂いた麗は、仲間の無事を案じながら、魁と共に戦いの狼煙をあげるのでした…。

前作同様、時は現代。物語は1台の車の中から始まります。
カーステレオからは、埼玉の人気FM局、FM NACK5が流れています。パーソナリティが話していたのは、埼玉の都市伝説第2章。それが今回の物語なんです。
埼玉の自虐ネタ満載で構成され、ウケにウケた前作。麗役のGACKTの体調不良などもあり、続編は無理かと言う声もありましたが、無事に完成、公開の運びとなりました。
TVの人気バラエティー「秘密のケンミンSHOW」などでも、ライバル県同士がバチバチやってますが(笑)、笑いのオブラートに包めれば、それは平和なエンターテイメントになりますもんね。
いわゆる“都道府県民あるある”を、今回は関西に広げての第2弾。油断してると、あなたの地元も餌食になるかも?
NACK5に始まり、NACK5に終わる。そう言っても過言ではない1本。所属のパーソナリティとしては、満点を付けないわけにはいかないでしょう(笑)。満点!★5つ。
『翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜』公式サイト

『ほかげ』は、終戦直後の闇市を舞台にした人間ドラマ。

戦後の闇市に、半壊した居酒屋がありました。
女がひとりでやっているこの店は、居酒屋とは名ばかりで、女はここで自分の体を売り、なんとか生きていくための金を稼いでいたのです。
戦争から戻ったばかりの若い兵隊が店の扉を開け、欲望を吐き出すと、「明日も来ていいか」と尋ねます。金がないのに女を抱く若い男。「明日は必ず仕事を見つけて払うから」。そう言いながら、この男は店に居ついてしまうんですね。
そんなある日のこと、幼い男の子が店に忍び込んできます。どうやら盗みが目的のよう。
「ここはあんたが来るような場所じゃないんだよ!」。怒鳴りつけながらも、粗末な食べ物を出してやると、次の日、男の子は食材を持って、再び店にやってきます。無論、盗んだものに違いありません。
次第に、女は男の子を坊やと呼んで可愛がるようになり、復員兵も交えた、まるで家族のような共同生活が始まります。
しかし、そんな薄っぺらい関係が長くは続くはずもなく、若い兵隊は様子がおかしくなり、追い出されてしまうんですね。
すると、坊やも闇市で暗躍していたテキ屋の男から仕事をもらったと、その男と旅に出てしまうのでした…。

登場人物に名前がない映画です。
誰の目線から見るかで変わってくるとは思いますが、真の主人公は、もしかすると坊やかもしれません。
戦争は終わったけれど、まだ終わってはいなかった。
リスタートを切れるものもいれば、戦争の爪痕に悩まされ、前に進めないものもいる。
生きる意味を見出だすか、見出だせずに絶望するか。
そんな端境期に混沌が渦巻く。その象徴的な場所が、“闇市”だったんでしょう。
女には、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』でヒロインを演じている趣里が扮し、ドラマとはまったく違った表情を見せています。
とにかく、坊やの目が、強く印象に残ります。単に鋭いだけじゃなく、その奥にたくさんの哀しみを経験した憂いがある。大人を疑いながらも信じたい、そんなことをも訴えかける目。塚尾桜雅、8歳。今後が楽しみな才能です。★3つ。
『ほかげ』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.11.17
『SUNRISE TO SUNSET』★★★★★
『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』★★★
(満点は★★★★★)

ボクが紹介する映画は、メジャー系ではないものがほとんどですが、そんな中に、たくさんの名作があります。
もしかしたら、陽が当たらないうちに公開が終了してしまうかもしれませんが、ひとりでも多くの人に知ってもらえたら。そんな気持ちで文章を打つことも少なくありません。
あくまでも個人的な好みですが、今回も満点の作品があります。それ以外でももちろん、興味を抱いたら、劇場に足を運んでみて下さい。
さぁ、今週は2本です!


『SUNRISE TO SUNSET』は、音楽ドキュメンタリー。

日本のラウドロックの始祖とも言われる4人組、Pay money To my Pain。通称“PTP”。
2004年に結成し、2006年にメジャーデビュー。メンバーは、ボーカルのK、ギターのPABLO、ベースのT$UYO$HI、ドラムスのZAX。
映画はバンド結成のいきさつから始まりますが、いかにボーカルKの才能にメンバーが惹かれていたか。Kとの出会いが、まさにPTPの歴史の第一歩でもありました。
唯一無二のKの声を、それぞれに圧倒的存在感を持つメンバーの演奏が引き立てる。PTPの音楽に影響を受けた後進のバンドは数知れず。そのカリスマ性は、他の追随を許さずにいました。
しかし、商業ベースに乗ると、今までのように、楽しむだけの音楽から形を変えざるを得なくなる。Kはその環境に上手く順応できなくなっていきます。
2012年秋、Kの急病を発表し、ツアーは中止に。同年12月30日、Kが急逝。新しいアルバムを制作中の出来事でした。
1年後、2013年12月30日のライブをもって、正式に活動休止を発表したPTP。その存在は伝説と化したのです。
それから7年後の2020年2月、coldrainのMasatoの強い要望に応え、彼らが主催するフェス「BLARE FEST」にPTPの参加が決まります。
ステージでは、Kに影響を受けた多くのボーカリストたちが、Kの代わりにボーカルを務め、観客の多くがこの“奇跡”に涙を流す。
このライブの模様は、映画の終盤、全編ノーカットで放映されます。
正直、ボクがふだんは聴かないジャンルの音楽です。PTPのことも知りませんでした。
coldrainのボーカルMasatoが言います。「めっちゃ売れてはいない。知らなかった人も多い。けど、刺さった人たちの人生は変えたバンドだと思う。それって、何よりもすげーと思う。」
生きている意味とか、価値とかって、ボクはそういうことだと常に思っているんですよ。PTPは十分に有名でしょう。でも、大切なのは有名とかじゃない。子にとっての親もそう。市井の人々の中に、“無名の偉人”がたくさんいると思うんですよね。
うまく伝えられないけど、この映画はすごいです。
PTPのメンバーや、プロデューサー、数々のミュージシャンたちのインタビューと、貴重な映像をもとに構築された音楽ドキュメンタリー。
ジャンルを超えて観てほしい。もっといえば、今の自分に悩んでいる人にもお勧めかな。必ず、何か感じるものがあるはずです。満点!★5つ。
『SUNRISE TO SUNSET』公式サイト

『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』は、“次世代のタランティーノ”と称されるアナ・リリ・アミリプール監督の長編第3弾。

精神病院に12年もの間、監禁されてきた少女、モナ・リザ・リー。
しかし、彼女は赤い満月の夜に、突如、他人を意のままに操れる特殊能力を身につけたのです。
そのサイキック・パワーを使って、いとも簡単に病院を抜け出したモナ・リザ。
欲望の街、ニューオーリンズに辿り着いた彼女ザにとって、すべてが初めての体験。ワケありな人たちと接する中で、ひとりのポールダンサーと知り合います。彼女の名はボニー。チャーリーというひとり息子を持つ、シングルマザーです。
モナ・リザはボニーの家に居候させてもらうのですが、モナ・リザの特殊能力を知ったボニーが、彼女を使った金儲けを企むんですね。
そのことが、モナ・リザたちをとんでもない事態へと導くのでした…。

公式サイトの色合いを見てもわかるように、ポップでサイケな蛍光色に覆われた作品です。
二度と精神病院には戻りたくないモナ・リザ・リー。半ば狂気の役を演じたのは、韓国人俳優のチョン・ジョンソ。彼女を起用したあたり、“東洋の神秘”をプラスする意図があったんじゃないかなと。モナ・リザには、黒髪と切れ長の目が発する強いオーラがありましたから。
今風に言えば、“映える映画”?感覚で楽しむ1本かもしれません。★3つ。
『モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.11.10
『JAZZ GODFATHER』★★★
『法廷遊戯』★★★
『ぼくは君たちを憎まないことにした』★★★
(満点は★★★★★)

11月に入って、まさかの夏日。週末にはこの時期なりの気温に下がるとの予報ですが、こんな時、映画館の空調はどうするんですかね?調整が難しいんだろうなと、余計なことを心配してしまいます。
季節に合わせて公開時期を決める映画ももちろんあるわけで。ズレたとしたら、これもまた気候変動のひとつの被害と言えるのかも!?
さぁ、今週は3本です!


『JAZZ GODFATHER』は、ジャズ・ベーシスト鈴木勲のドキュメンタリー。

世界中の“巨匠”と呼ばれるミュージシャンとセッションを重ねてきた、ジャズ・ベーシストの鈴木勲。
2022年3月にこの世を去った彼の、晩年を追ったドキュメンタリー映画です。
1933年、東京に生まれた鈴木勲。通称“おまさん”。このアダ名の由来は、放送禁止のあの4文字から。女性が大好きだったそうです(笑)。
立教大学在学中に観た、ルイ・アームストロングのライブで、ベースのカッコ良さに魅せられ、ベーシストになることを決意。米軍キャンプや、店の箱バンとして演奏していた1970年、来日中だった大物ジャズ・ドラマーのアート・ブレイキーに声をかけられ、渡米。ジャズメッセンジャーズのメンバーとして、世界中で演奏してきました。
帰国後は、後進の育成にも努め、高齢になっても積極的に海外に出向くなど、とにかく音楽と共に生きてきた鈴木勲。
ところが、認知症の症状が出始めると、追い打ちをかけたのがコロナ禍。外出自粛でライブがなくなると、仲間がオンライン動画で演奏の配信をサポートしますが、回を重ねるごとに、その姿も弱っていきます。
そして、2022年3月8日、コロナウイルス感染症による肺炎のため、89歳で死去。
豪放磊落で、晩年のステージでは奇抜なスカート姿で演奏するなど、実に個性的なベーシストだった鈴木勲。
日野皓正、山下洋輔など、日本を代表するミュージシャンが故人を語り、若き演奏者たちが“ジャズ・ゴッドファーザー”を偲びます。
そんな鈴木勲の音楽と、生きざまと、人柄に触れることができる71分。ジャズファンは必見です。★3つ。
*ちなみに、公式サイトはありません。映画タイトルで検索してみて下さい。


『法廷遊戯』は、五十嵐律人の法廷ミステリー小説の実写映画化。

司法試験の合格を目指す学生が通う、法科大学院ロースクール。
そこで学ぶ3人の若者がいました。久我清義、織本美鈴、結城馨です。
清義と美鈴は昔からの知り合い。馨はすでに司法試験に合格しているにも関わらず、さらに法律を学びたいのか、この学校に通っている“天才”です。
このロースクールでは、時折、馨が発案した“無辜(むこ)ゲーム”という模擬裁判が行われていました。
そのゲームの容疑者に清義が指名されます。内容は、16歳の時に清義がいた施設の施設長をナイフで刺したというもの。
なぜ今、この話が蒸し返されるのか。すると、美鈴のアパートのドアにもアイスピックが刺さっていたのです。
実は、ふたりは同じ児童養護施設にいた幼なじみ。このゲームでは名誉毀損で清義が勝ったのですが、ふたりの中にはモヤモヤしたものが残ります。
学校を卒業して1年。弁護士になった清義の元に、馨から無辜ゲームの誘いがありました。同窓会かと母校に足を運ぶと、胸にナイフが刺さり倒れている馨と、馨の返り血を浴びた美鈴が立っていたのです…。

これだけ読んでも何のことやら、さっぱりわからないと思います(笑)。
究極のエンタメ作品を選ぶ、第62回メフィスト賞を受賞したミステリー小説ですから、短い文章で語れるはずもなく。
登場人物の現在、過去、未来が複雑に入り組んだ舞台設定。それぞれの行動のひとつひとつに意味があり、物語は進んでいきます。
永瀬廉、杉咲花、北村匠海。この3人を主役に持ってきたのも、ある種の“エンタメ”だと思いますが、他の役者が演じたらどうだったのか?
あ、この3人じゃ足りないと言ってるのではありません。誤解のないように。見せ方によって、また違った味が出てくるような、それだけ深みのある話なんだと感じた次第です。
最後の最後まで含みを持たせたストーリー展開。秋はミステリーを解くのにぴったりの季節かもしれません。★3つ。
『法廷遊戯』公式サイト


『ぼくは君たちを憎まないことにした』は、テロで妻を失った男性の手記を基にした映画。

パリで暮らす、ジャーナリストのアントワーヌ・レリス。彼には妻のエレーヌと、1歳半になる息子のメルヴィルがいて、慌ただしくも幸せな毎日を送っていました。
15年11月13日の夜、バタクラン劇場へライブを観に行くエレーヌを見送り、メルヴィルを寝かしつけると、アントワーヌの元に、無事を案ずるメールが複数届きます。
何のことかとテレビをつけると、パリの街で同時多発テロが起きたというではありませんか。そして、その1ヶ所はバタクラン劇場。
すぐにエレーヌの携帯に電話をかけましたが、留守電になってしまいます。何度かけ直しても、状況は変わりません。そう、エレーヌはテロの犠牲者となり、命を落としてしまったのです。
後日、遺体と対面したアントワーヌは、帰宅後、ある文章をインターネットにUPします。それはテロリストたちに向けた、決意の表明でもありました…。

15年11月13日の夜、パリで起きた同時多発テロ。まだ記憶に新しい事件でもあります。
その犠牲者の遺族のひとり、アントワーヌ・レリスが書いた文章は、一晩で、20万人以上の人にシェアされたといいます。
「でも僕は君たちを憎まない。君たちに憎しみを贈らない。君たちの憎しみに怒りで答えたら、同じ無知に屈することになる。」
自分の最愛の妻を、息子の自慢の母親を奪われたとしたら…。言えませんよね、こんな言葉。
当然巻き起こる様々な反応、賛否両論。映画では、アントワーヌに世間の注目が集まった後の姿も描かれています。
ウクライナとロシア、イスラエルとパレスチナ、他の地域でも紛争は起こっています。
負の連鎖を断ち切らないとと人は言うけれど、誰もがアントワーヌのような言葉を口に出せるわけではありませんから。
じゃ、アントワーヌは本当に憎まないことにできたのでしょうか?それは本人にしかわからないことだと思います。
美談を求めて観る映画ではないんじゃないか。個人的には、そう感じましたが…。★3つ。
『ぼくは君たちを憎まないことにした』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.11.01
『おしょりん』★★★
『サタデー・フィクション』★★★
『パトリシア・ハイスミスに恋して』★★★
『私がやりました』★★★
(満点は★★★★★)

11月になりました。
今年もあと2ヶ月。11月はボクの誕生月なので、なんだか落ち着かないというか(笑)。
予定もないから、自分へのプレゼントになるような映画でも観ようかな、なんて考えてます。
さぁ、今週は4本です!


『おしょりん』は、眼鏡作りに情熱を注いだ福井の人たちの物語。

明治37年、福井県麻生津村。冬になるとすべてが雪に覆われ、農作業ができなくなるような豪雪地帯のこの村に、なんとか通年の産業をと考えていたのが、庄屋の増永五左衛門と幸八の兄弟でした。
ある日のこと、地元を離れていた幸八が村に帰ってきます。大阪で働いていたという幸八が言うには、これからはメガネだと。
五左衛門はもちろん、村人たちは幸八の言葉を信じようとはしません。なぜなら、昔、幸八に勧められた羽二重の生産で、多額の損失を出した過去があるから。
「山師のようなことばかり言いおって。増永家の恥さらしが!」。
五左衛門は激しく幸八を叱責します。
ところが、五左衛門の同級生で、宮大工の末吉の娘にメガネを試させたところ、遠くがはっきり見えるようになったと。学校の黒板が見えないと沈んでいた娘の表情が、見違えるほどに明るくなったことでメガネの効用を理解した村人たちは、メガネ作りで村おこしをと一致団結します。
しかし、ことはそんなに容易くはありません。いかに裕福な庄屋と言えども、お金は底を尽き、銀行の融資も厳しくなる始末。
果たして、みんなの思いと努力は成就するのでしょうか…。

この映画のもうひとりの主人公は、五左衛門の妻むめです。
むめも良家の娘で、親の決めた相手である五左衛門と結婚したのですが、その前に幸八とも出会っていて、幸八をそんないい加減な男ではないと知っていたんですね。
事実、羽二重の失敗も、これからという時に不慮の事故でダメになってしまったもの。幸八のせいではありませんでした。
むめは、家事に育児に、メガネ事業にと、粉骨砕身、兄弟のことを支えていきます。
福井県は日本製メガネの95%を生産しているって知ってましたか?
史実に基づいて書かれた、藤岡陽子の同名小説の実写映画化。ボクらがかけているメガネも、もしかしたらその流れを汲んでいるものかもしれませんョ。★3つ。
『おしょりん』公式サイト


『サタデー・フィクション』は、太平洋戦争開戦前夜の上海の7日間を描いた作品。

1941年末の中国・上海。
日本軍が勢力を伸ばす中、欧米各国、中国、そして日本の諜報部員が暗躍する”魔都“、それが当時の上海の姿でした。
12月1日、人気女優のユー・ジンが、以前、恋人関係にあったタン・ナーが演出する舞台に出演するため上海を訪れます。
というのは表向きの理由。実はユー・ジンは、幼い頃にフランスの諜報部員であるヒューバートに孤児院から助け出され、訓練を受けた敏腕の女スパイ。今回、ヒューバートからの依頼で、ある任務を請け負うことになったのです。
その任務とは、12月3日に、日本から古谷三郎海軍少佐が暗号更新のためにやってくると。どうやら奇襲作戦を企てているらしい日本軍の暗号を解読し、事前に奇襲攻撃を失敗させようというもの。
古谷の亡くなった妻は、ユー・ジンに瓜二つ。古谷を捕らえたら、自白剤を使い、妻になりすましたユー・ジンに暗号の意味を聞き出させるという、“マジックミラー作戦“が始まるのでした…。

12月7日は、日本軍による真珠湾攻撃が起き、太平洋戦争に突入した日。
その奇襲攻撃を未然に防ごうと、各国のスパイが上海でしのぎを削る7日間を、全編モノクロで描いた作品です。
虚と実というか、舞台演劇と現実をシンクロさせて見せるあたり、ロウ・イエ監督の技が光っているなと。
若干、人間関係が複雑なので、観る前に公式サイトやパンフレットで、相関図をチェックするなどしたほうがいいかもしれません。
裏と表、男と女、恋愛と諜報。運命の糸が交錯し、とにかくヒリつく1本です。★3つ。
『サタデー・フィクション』公式サイト


『パトリシア・ハイスミスに恋して』は、ドキュメンタリー。

1921年、アメリカ、テキサス州フォートワースに生まれたパトリシア・ハイスミス。
アルフレッド・ヒッチコック監督作の『見知らぬ乗客』(51年)や、アラン・ドロン主演作の『太陽がいっぱい』など、数々の著作が映画化されたことでも知られる、欧米を代表する人気小説家のひとりです。
「私が小説を書くのは、生きられない人生の代わり。許されない人生の代わり」と語っているように、彼女には人には言えないもうひとりの自分がいたのです。
それは、同性愛者であること。
クレア・モーガンという偽名を使って発表した「キャロル」という小説は、レズビアンの物語。哀しい結末がお決まりだった当時の同性愛小説において、この作品はハッピーエンドが待つという珍しい結末で、話題になったそうです。
1963年にヨーロッパに移り住み、1995年、スイスのロカルノで亡くなるのですが、居住地の変更も数多く、女性と猫への愛に生きた人でもありました。
そんなパトリシア・ハイスミスの人生を、彼女と縁のある女性たちが語ります。また、テキサスに残る親族たちも、その素顔を語ります。
ボクは勉強不足でパトリシア・ハイスミスを知りませんでしたが、日本にもファンは多い小説家。興味のある方は是非。★3つ。
『パトリシア・ハイスミスに恋して』公式サイト


『私がやりました』は、1930年代のパリが舞台のユーモラスなクライムミステリー。

女優志望のマドレーヌと、新人弁護士のポーリーヌ。ふたりは仲のいいルームメイト。
家賃を数ヶ月も滞納するほどの貧乏生活でしたが、マドレーヌに千載一遇のチャンスが訪れます。それは、有名プロデューサーのモンフェランによる個別オーディション。
しかし、面接を終えて帰宅したマドレーヌがひどく落ち込んでいたので、ポーリーヌが訳を聞くと、役はもらえたものの愛人になれとせがまれ、突然抱きつかれたと。そこで抵抗し、役を断って屋敷を出てきたと言うのです。
その直後のことでした。警察がふたりの家を訪ねてきて、モンフェランが銃で殺害されたと言うのです。犯行のあった時間に邸宅を訪れていたのがマドレーヌ。有力な容疑者として、嫌疑がかけられたのでした。
これを逆手に取ったのがポーリーヌ。罪を認め、法廷で正当防衛を訴えて釈放されれば、世間はマドレーヌの味方に。そうなれば、彼女は一躍時の人になるはずだと。
収監され、裁判に臨むと、ポーリーヌの書いたシナリオを情感のこもった台詞回しで語るマドレーヌ。陪審員の心を打つ作戦は成功し、無罪を勝ち取ると、マドレーヌはパリで大人気の女優へと駆け上がり、ふたりは豪邸で暮らすまでに出世したのです。
そんなある日のこと、オデットというかつての大女優がやってきて、自分がモンフェラン殺しの真犯人だと言うのです。
彼女の口から語られる事件の真相とは?そして、オデットの出現に、マドレーヌとポーリーヌはどう対処するのでしょうか…。

マドレーヌにはアンドレという恋人がいます。彼はタイヤ販売で成功したボナール家の御曹司。ですが、父親は売れない女優との結婚には大反対。そんな時に起きた、殺人事件。
やってもいない殺人を自白し、一か八かの勝負に出るなど、設定は荒唐無稽ですが(笑)、そんな肝の座った彼女たちに比べ、男たちの間抜けなこと。
舞台は30年代のパリで、社会通念も今とは異なりますが、この物語が現代に通じるのは、強い女性が描かれているからかも。
ファッションも、街並みも、いかにも古き良きパリ。“こじゃれた”という言葉がぴったりの映画だと思います。★3つ。
『私がやりました』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.10.26
『唄う六人の女』★★★★★
『こいびとのみつけかた』★★
『トンソン荘事件の記録』★★★
(満点は★★★★★)

いつもお話しているように、試写の多くはオンライン。自由な時間に観ることができるという意味では、すごく便利で助かります。
ただ、試写室での試写会に行くと、マスコミ用のプレス資料がもらえます。これが、深い映画、難解な映画になると、振り返る時に役立つんですよね。
このコラムを書きながら、もうちょっと資料があれば…と思うこともしばしば。そんな時は視聴回数が限られているオンライン動画を再び、三度と大事に再生し、確認しながら書いています。
さぁ、今週は3本です!


『唄う六人の女』は、サスペンス・スリラー。

萱島森一郎は売れっ子カメラマン。かすみという若い恋人もいて、仕事もプライベートも充実の日々を過ごしていました。
ある日のこと、萱島のスマホが訃報を伝えます。40年以上も離れ離れだった父が亡くなったというのです。
疎遠だった父との関係は冷めきっていて、悲しみの感情など欠片も湧かない萱島でしたが、遺品整理のため、山奥に遺る生家を訪れることに。
その家は、開発業者の下請けに売却することが決まっており、その日は宇和島という男と会って、契約書に印を押すことになっていたのです。
久々に帰ってきた家。車で母とこの家を出た日のことが脳裏をよぎります。
隣人の杉田のおばちゃんが萱島に気づき、「しんちゃん?」と声を掛けてきます。生前のお礼を伝え、父の様子を尋ねると、「森に憑りつかれたみたいだったねぇ」と。
宇和島との売買契約も終わり、宇和島の運転する車で駅まで送ってもらうことにした萱島。途中、トンネルを抜けると、道の真ん中に、和服に日傘の女性が立っているではありませんか。
急ハンドルを切り、「あぶねえじゃねぇか!」と声を荒らげる宇和島。
すると目の前に落石が積み上がっていて、車は止まることができず、衝突してしまうんですね。
気を失った萱島が目覚めると、そこは森の中。古民家のような家の部屋に寝かされ、体を縄で縛られ、身動きが取れなくなっていました。
慌てる萱島の前に現れたのは、謎めいた女性たちだったのです…。

面白かったです。
萱島に竹野内豊、宇和島に山田孝之。対照的な性格の、アクの強いキャラクターを見事に演じていました。
森の中に暮らす女性は6人。刺す女、濡れる女、撒き散らす女、牙を剥く女、見つめる女、包み込む女。
彼女たちの正体こそがネタバレなので書きませんが、描きたいテーマをこういう形で表現するのかと、監督の独自性に驚かされてしまいました。
“唄う”とありますが、女性たちは、言葉を一言も発しません。
現実なのか、夢なのか…。
「もしかして、こういうこと?」と気づいてからは、さらにぐっと惹きつけられました。
ロケ地を調べてみたら、京都府南丹市美山町の芦生の森だそう。緑が、水が、陽光が、自然の色彩が美しかったです。
着地も見事。よく出来たストーリーでした。
ちなみに、この作品はオリジナルの脚本で、映画に先駆け、劇画も公開されています。気になる方は是非!
お勧めです。満点!★5つ!
『唄う六人の女』公式サイト


『こいびとのみつけかた』は、おかしなふたりのラブ・ストーリー。

植木職人のアルバイトをしているトワは、ちょっと変った青年。ポケットには雑誌の切り抜きがいっぱい詰まっていて、トワの話のネタはその記事に書かれたあれやこれや。職場の仲間は、また始まったかと、苦虫を潰したような顔でトワを見ることもしばしば。
そんなトワが恋をします。お相手は、いつも買い物に行くコンビニでアルバイトをしている園子です。
実はまだトワの片想い。彼女に気持ちを伝えることもできず、妄想を膨らませてはニヤニヤしているだけ。
そんな時、トワは考えます。コンビニのドアの前から葉っぱを並べ、園子がそれを辿って、自分のところまで来てくれたら、気持ちを打ち明けようと。
すると作戦は成功。実は園子もかなりの変わり者。トワとは波長が合うようで、ふたりの仲は一気に深まっていきます。
ところがです。園子には重大な秘密があったのです…。

どんなに個性的であろうと、互いの価値観を共有できる存在を見つけること。それが本当のパートナー探し、すなわち真の恋愛なのかもしれません。
そんな意味では、この映画のタイトルはありかなぁと思います。
ただ、この物語の価値観を共有できる人がどれくらいいるのかは、ちょっとボクにはわかりませんでした。広義の多様性ということならば、そうなのかもしれませんが。
裏を返せば、わかる人にはメチャメチャわかる、いい映画なのかも?
ほんわかあったかい映画です。評価はあくまでボク個人の感想。ご自身で試してみて下さい。★2つ。
『こいびとのみつけかた』公式サイト


『トンソン荘事件の記録』は、韓国ホラー。

2019年、寺に放置された1台の車が見つかります。その車の所有者は、以前、記録映画を撮影中で、車内にその映像素材が残っていたのです。それを編集、完成させたのがこの映画だと、冒頭に説明が入ります。
その映像素材は何かというと、1992年に釜山のトンソン荘という旅館で起きた殺人事件を追ったもの。
と言っても、取材班が関心を寄せていたのは、殺人事件そのものよりも、なぜか検察庁が封印したビデオの存在でした。
そのビデオには残忍な事件の一部始終が録画されていたのですが、その中に映るはずのない男の顔が映っていると、当時、検事たちの間で話題になっていたと言います。
その真相を探ろうと、独自の取材で辿り着いたのが、1987年に起きた一家3人惨殺事件。現場となった屋敷の持ち主は、トンソン荘のオーナー。
ここに謎の男に繋がる何かが隠れているに違いないと、さらなる取材を進めるうち、女性スタッフのウニに異変が起こります。何かに憑りつかれたかのように、彼女は豹変してしまったのです…。

ドキュメンタリータッチで描く、“フェイク・ドキュメンタリー”の手法を用いた1本。
実際に起きた事件であるかのように物語は進むので、ホラーの場合、そのリアリティが怖さを増幅させます。
公式サイトにストーリーを記した欄はないのですが、予告編の映像でこの映画のあらすじがわかるようになっています。
恐怖の扉が開いてしまいますから。心してPLAYボタンをタッチして下さいね。★3つ。
『トンソン荘事件の記録』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.10.19
『毒舌弁護人 正義への戦い』★★★
(満点は★★★★★)

イスラエルとハマスの紛争がニュースになるたび、映画『ガザの美容室』を思い出します。
日本では18年6月に公開になったこの映画、監督はガザ生まれの双子の男性監督。彼らは言います。
「テレビやマスメディアは死ばかりを伝えるけど、まるで爆撃がないガザには価値がないかのよう。あらゆる困難をものともせずに暮らし続ける人々の人生を語ること。それがボクらの使命だと思う」。
劇中、美容室は様々な理由で髪を整えに来る女性で溢れ、日常を生きる姿が描かれています。
外でハマスがマフィアの一掃をはかり、戦闘が始まると、爪を塗る手も震えます。
今回の紛争は規模が違いますから、人々の恐怖と悲しみ、そして怒りはいかばかりか…。それはもちろん、イスラエル、パレスチナの双方に言えるわけで。
戦争はダメです。戦争に正義はありませんから。絶対にダメです。
ボクのコラムでも紹介しています。気になる方は、18年6月の映画コラムをご覧になってみて下さい。
さぁ、今週は1本です!


『毒舌弁護人 正義への戦い』は、香港映画。

ラム・リョンソイは治安判事。連日の裁判に辟易としていて、その勤務態度が、反目する上司の知るところとなり、閑職に左遷されてしまうんですね。
年齢も50歳を過ぎ、友人の勧めもあって、ラムは判事を辞め、法廷弁護士へと転身。すると、周りは一転華やかな世界となり、財テクの話や、パーティーに明け暮れる日々。仕事にも身が入りません。
そんな時、児童虐待の案件が舞い込みます。
容疑者は元トップ・モデルでシングルマザーのツァン・キッイ。殺されたのは、口が不自由な7歳の娘エルサ。
父親は、香港財閥チュン家の婿養子、チュン・キンイ。そう、不倫でできた子どもだったのです。
ツァンは無実を訴えます。
「万一、有罪になっても短期で済む」と、あくまで楽観的なラムでしたが、いざ裁判が始まると、チュン家の手回しや裏工作によって証言が覆され、ツァンは禁固17年の実刑を言い渡されてしまいます。
愕然とするラム。
このことが、忘れかけていたラムの正義心に火を着けたのです…。

香港では、これまでハリウッド映画が市場を席巻し、興業成績の上位を独占していたのが、ここに来て風向きが変わってきたと言います。
その代表的な事例がこの作品。なんと香港映画の歴代興業収入No.1に輝いたそうで、香港の映画界にとってはエポックメイキングな出来事だったよう。
ラムは、女性弁護士のフォン・カークワン、ラムを兄貴と呼ぶ通称“御曹司”と、3人でチームを組んで裁判に臨みました。
あれから2年。大手の弁護士事務所を辞め、心を入れ替えたラムは、粉骨砕身、事件を捜査。ツァンの無実を確信し、ツァンに再審を申し出ますが、彼女の心は固く閉ざされたまま。
なんとか口説いて再審の弁護を任されますが、今度はその先にある、強大なチュン家の圧力と戦わなければなりません。
事件の真実は?ツァンの無実を勝ち取ることができるのでしょうか…というお話。
ただ、ラムの態度が最初から酷すぎて、「なんだコイツ」と思ってしまったので、正直、マイナスからの加点式でもボクはプラスにまで達しませんでした。
それでも香港の観客に受け入れられたのは、“勧善懲悪”。権力の圧に対し、ラムのみならず、この映画全体が、戦う姿勢を見せているんですョ。今の香港の人々にとっては、心の底でふつふつと湧いている何かに触れたんじゃないかなと。
あ、あんまり言うとネタバレになっちゃうかな(笑)。
足したり引いたりで、評価はこんなところに落ち着きました。★3つ。
『毒舌弁護人 正義への戦い』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.10.12
『オペレーション・フォーチュン』★★★★★
『くるりのえいが』★★★★★
『サーチライト 遊星散歩』★★★
『ヨーロッパ新世紀』★★★★
(満点は★★★★★)

試写会の案内状を頂きますが、早くも来年の作品の試写が届くようになりました。
きっと、あっという間に公開日(笑)。競馬もそうですが、先、先と意識していると、時の流れは早いものです。
さぁ、今週は4本です!


『オペレーション・フォーチュン』は、ガイ・リッチー監督最新作となるスパイ・アクション。

ウクライナの研究施設が襲われ、完成したばかりのアイテムが盗まれます。
100億ドルで闇取引されるという“ハンドル”という名のアイテム。正体はわかりませんが、これが悪の手に渡ったら、間違いなく世界の脅威になるのは明らか。
そこで、イギリス諜報局は、敏腕諜報員のオーソン・フォーチュンに白羽の矢を立てますが、彼がまたひとクセもふたクセもある男。とにかく要求が高額で、ありとあらゆる高級品を経費として計上してくる。でも腕がたつから、やっかいな存在なんです。
モロッコで休暇中のフォーチュンのもとに、上司であるネイサンが飛び、嫌がるフォーチュンを無理矢理、説得。メンバーには女性ハッカーのサラと、新米スナイパーのJJを選ばれます。
今回の事件には、超大物武器商人のグレッグが絡んでいるようで、このグレッグがダニー・フランチェスコという人気俳優の大ファン。ならばダニーをも巻き込もうと画策します。
敏腕スパイに人気俳優?クセ強なメンバーが揃ったこのチームは、“ハンドル”を奪回することができるのでしょうか…。

面白かったです!
よくある序章的なサイドストーリーもなく、始めから終わりまで、ずっと1つの物語に終始するのもよかったです。
イギリス諜報局には、いくつかのチームがあり、マイク率いるライバル・チームが、フォーチュンらの捜査の足を引っ張ります。
そんな中、次第に明らかになる黒幕たち。
ひとりひとりのキャラが立っているのに雑多にならない。それは撮影が世界7カ国に渡るのに、とっちらからないのもそうで。このあたりが監督の手腕ですよねっ。
ガイ・リッチー監督とフォーチュン役のジェイソン・ステイサムは5度目のタッグだそう。グラント役のヒュー・グラントも、実にいい味を出してました。イギリスを代表する名優です。
イギリスとアメリカの合作となっていますが、イギリス映画の好きなところは、ストーリーに起承転結があって、きちんと“結”に着地する作品が多いということ。もちろん、この映画もしかり。
スタイリッシュ・痛快コメディ・スパイ・アクション(笑)。満点!★5つ!
『オペレーション・フォーチュン』公式サイト


『くるりのえいが』は、音楽ドキュメンタリー。

立命館大学の音楽サークルに所属していた岸田繁(Vo、G)、佐藤征史(Ba、Cho)、森信行(Dr)の3人で、1996年に結成されたバンド、くるり。
98年、シングル「東京」でメジャーデビューすると、その独特の世界観でファン層を拡大していきます。
その後、くるり名義の音盤リリースはもちろん、数多くの映画のサウンドトラックを手掛けるなど、音楽性の高さは業界でも評判でしたが、02年に森が脱退。以降はサポートメンバーを入れるなどして、岸田と佐藤のふたりで、くるりは活動を続けてきました。
映画は、2022年、伊豆のレコーディング・スタジオで始まります。
そこには、オリジナルメンバーの森信行の姿がありました。
3人が揃ったのは20年振り。シェフの帽子をかぶった森の白衣の写真があがっていたので、料理の世界に飛び込んだのでしょう。
「0を1にする基本的なピースがこの3人。それが今回欲しかった」と、新たなアルバムのサウンドにはこの3人以外の音は入れないと岸田が提唱。楽曲作りが進んでいきます。
この映画は、そのレコーディングに密着したドキュメンタリーです。
曲の作り方は、ミュージシャンによって様々ですが、くるりのやり方はこうなのかというのを垣間見ることができます。
互いにアイデアを出し合い、音を紡いでいく過程でわかるのは、信頼と友情。過干渉もなく、それぞれがそれぞれの役割をしっかりと。でも、こうしたらいいんじゃないかという提案は、よければ受け入れる。
作業が本当に楽しそうなんですよね。脱退した森も含め、本当に仲がいいんだろうなと。大学の音楽サークルの延長というか、おそらく音楽の楽しみ方は、彼らの中では何も変わっていないんじゃないのでしょうか。
“0から1を作る”。ボクは“無から有を生む”という言い方で、よく使います。
ボクみたいなラジオのディスクジョッキーは、“0から1を作る”のは苦手。そこに並ぶ素材を調理し、盛り付けるのは得意。まさにシェフのような感覚なんです。
もちろん人によります。シェフだって、自分で畑を持って、野菜を作る人もいますから。無から有を生み出す才能を持つのはうらやましいなと感じてしまいます。
この映画を観たら、くるりのCDをラックから取り出して、歌詞カードを眺めながら、改めてじっくりと聴きたくなるはずです。
昔も振り返りつつ、くるりの今と未来をも映し出す。良質のドキュメンタリー作品でした。満点!★5つ!
『くるりのえいが』公式サイト


『サーチライト 遊星散歩』は、困難な今を生きる少年少女の青春ドラマ。

女子高生の内田果歩。学校帰りにクラスメイトとファミレスに立ち寄ったりと、ごく普通の10代に見える彼女でしたが、実は大きな困難を抱えていたのです。
父は早くに亡くなっていて、母は若年性認知症を患っており、果歩はいわゆるヤングケアラーなんですね。
狭いアパート暮らしで、母が徘徊しないよう、ドアの前に洗濯機を重しにしてから登校。収入がないから、ギリギリのところで生活せざるを得ません。
そんな果歩を心配そうに見つめる男子がいました。上野輝之です。
実は、輝之も子だくさんの大家族に育ち、バイトをいくつも掛け持ちして、家計を助けなければなりません。輝之は、どこか同じ匂いのする果歩のことが、気掛かりで仕方なかったのです。
しかし、行き詰まった果歩は、禁断のバイトに手を出します。それは“JK散歩”。風俗の扉を開く、危険なアルバイトだったのです…。

実際にありそうなお話でした。
今の日本社会の抱える問題のひとつですよね。
でも、果歩はお母さんが大好きなんですョ。どんなに変わってしまっていても、どんなに迷惑をかけられても、お母さんが大好き。そこがまた見ていて切ない…。
輝之のお節介を、初めはウザいと感じていた果歩も、次第に心を開くようになります。
サーチライトは道標。果歩が住む街の、幼い頃から変わらない存在。楽しかった家族の象徴でもあります。
結末は劇場で(^-^)。上手く着地していると思います。★3つ。
『サーチライト 遊星散歩』公式サイト


『ヨーロッパ新世紀』は、ルーマニアのトランシルヴァニアが舞台の社会派サスペンス。

トランシルヴァニアの小さな村から、ドイツの食肉工場へと出稼ぎに行っていたマティアスでしたが、暴力沙汰を起こし、逃げるように村に帰ってきます。
家では妻のアナと失語症の息子ルディが暮らしていましたが、夫婦関係は冷えきっていて、クリスマスだというのに、突然の帰宅を喜んではもらえません。
マティアスは、昔の恋人で、今はパン工場の経営を任されているシーラを訪ねます。複雑な思いながら、マティアスを受け入れるシーラ。
そのシーラの工場が人員不足で、スリランカ人の男性、アリックとマヒンダを雇うんですね。真面目で働き者のふたり。ならばと3人目も雇い入れるのですが、村のSNSではあらぬ噂が拡散され、パンの不買運動が始まり、遂には外国人労働者の追放が声高に叫ばれるようになります。
小さな村の対立は収拾がつかないほどに広がり、殺人予告が出されるまでになっていったのです…。

トランシルヴァニアは、その歴史的背景から、ルーマニア人、ハンガリー人に加え、少数のドイツ人、ロマの人も暮らす多民族集落で、鉱山が活況だった時代は経済も潤っていましたが、今は産業もなく、働き盛りの多くは、マティアスのように出稼ぎに行っています。
映画の中でも数多くの言語が使われ、ルーマニア語、ハンガリー語、ドイツ語、英語、フランス語、スリランカ語が飛び交うのですが、初めに注意書きで、字幕の色が言語によって変わると説明されたのには驚きました。
終盤、村の人々が教会に集まって、アジア人追放に関する緊急集会を開くのですが、その長回しの17分間が見どころだと。確かにそうでした。
テーマから外れて、人々が自分の立場でものを言う。思想、信条、出自が違うから、まとまるはずがない。そこにフェイクニュースが火に油を注ぐ…。
この映画は、タイトルの通り、今のヨーロッパが抱える、差別や貧困、格差などの様々な問題を、トランシルヴァニアの小さな村の出来事に凝縮したもの。
今の時代、似たようなことはどこでも起きるわけで。日本とて例外ではありません。すでに兆候はありますもんね。
初めは、ヨーロッパの小さな村の、日常の些細な問題を描いたお話なのかなぁと思って観ていましたが、途中で「これは違うぞ」と気づいてからは、姿勢を正して観る。そんな映画でした。深いです。★4つ。
『ヨーロッパ新世紀』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.10.5
『オクス駅お化け』★★★
『栗の森のものがたり』★★★
『フラッシュオーバー 炎の消防隊』★★★
『ラ・ボエーム ニューヨーク愛の歌』★★★
『リバイバル69 伝説のロックフェス』★★★★
(満点は★★★★★)

10月になりました。
以前も言いましたが、おかげさまで本当に忙しくて。なかなか試写を観る時間が取れません。
来週公開作品もあと2本残っていて…。いわゆる“尻に火がついた”状態(笑)。
ありがたいことですが、正直、若干の強迫観念にもかられています(^^;
さぁ、今週は5本です!


『オクス駅お化け』は、韓国のウェブ漫画を実写化したホラー映画。

ウェブニュースの記者として働くナヨン。
新米の彼女に課せられたのは、とにかくアクセス数を稼ぐこと。バズるネタを探さなければ、即刻クビになりかねません。
そんな時、深夜のオクス駅で奇妙な事故が頻発していることを耳にします。
酔っているかのようにユラユラ揺れる女。地下にある廃駅で目撃された、いないはずの少女。多発する死亡事故。
実は、オクス駅の係員として働いていたウウォンがナヨンの友達で、防犯カメラの映像を貸してほしいとナヨンに頼まれるんですね。
それを無断でウェブニュースで流したところ、韓国中の関心を集めることに。
一躍、時の人となったナヨンが、さらにオクス駅について調べると、謎は深まるばかり。
そして、廃駅の線路の奥深くにある驚愕の事実に辿り着くのです…。

日本で戦後まもなく起きた事件が元ネタで、脚本は日本のホラー界の巨匠、高橋洋。監督は韓国のチョン・ヨンギ。日韓合作のホラー映画です。
韓国の社会問題を反映しているとのことですが、大元のネタは日本ですから、どこにも横たわる問題ということなのでしょう。
すごく怖い、ゾッとするというよりも、哀しさ、切なさが際立った社会派ホラー。ちなみにオクス駅は、ソウルのど真ん中に実在する駅だそうです。日本なら、変な噂が立つからとNGが出そうですよね。★3つ。
『オクス駅お化け』公式サイト


『栗の森のものがたり』は、スロベニア映画。

1950年代の、イタリアとユーゴスラビアの国境にある村。
第二次世界大戦は終わったものの、貧困と政情不安から、ほとんどの若者は村を捨て、出て行ってしまいます。
残ったのは人生を諦めたかのような老人たち。
棺桶職人のマリオも、そんなひとり。今は妻ドーラとのふたり暮らしですが、昔はジェルマーノという息子がいたのです。消息すらわからない息子を気にかけるドーラ。
そんなドーラが病に倒れます。十分な治療も受けさせてやれないまま、息を引き取るドーラ。
独りになってしまったマリオが、あてもなく乗り合い馬車に揺られていると、若い栗売りの娘マルタを見掛けます。
マルタは収穫した栗を川に流してしまったのです。拾い集めるのを手伝うマリオ。濡れた体を乾かすために家に招かれたマリオは、マルタの身の上を尋ねるんですね。
すると、戦争に行った夫が戻らないと。彼がいるはずのオーストラリアへ行きたいと言うのです…。

サイトのIntroductionに“哀切の余話”とあります。余話とは、あまり世間には知られていないちょっとしたお話、余談のこと。すごくドラマチックじゃないけれど、こんな人生が確かにあったんだよといった感じでしょうか。
現実なのか、幻想なのか。時間も往き来しながら、物語は進みます。
人生は、きっと後悔の繰り返し。それでも生きた証しを誰かに委ねたい…。
クローズしてしまいましたが、岩波ホールがあったら上映したんじゃないかなと。そんなイメージの映画です。★3つ。
『栗の森のものがたり』公式サイト


『フラッシュオーバー 炎の消防隊』は、中国のレスキュー・アクション。

中国・江東省にある天宜化学工場。周りには団地もあり、ここは一大化学工業タウンなんです。
すると、大きな地震がひきがねとなり、工場の一部から出火。化学物質に引火して、大規模爆発が起こります。
消防署長を務めるジャオは、部下を連れて消火活動に向かうのですが、第2、第3の爆発が発生。国は緊急対応計画を発動し、多くの地域から消防部隊が集まります。
しかし、今燃えている施設の横には、大量の水素ボンベがあり、引火すれば水素爆発を起こし、街ごと吹っ飛んでしまうといいます。
「ひとりの犠牲者も出さず、必ず鎮圧する」。
ジャオはそう誓うのですが…。

ジャオにはジャンという女性教師の婚約者がいます。
しかし、ジャオの仕事があまりに危険なため、結婚を先延ばしして、もう一度考え直したいと言うのです。そんな矢先の大火災。
ジャンの学校も被災し、ジャンは必死に子どもたちを助けようとします。そこでジャオの仕事の意義を知るジャン。
また、消防隊のメンバー一人一人にも、それぞれのドラマがあって。それがこの映画のスパイスになっていたりもします。
ただ、どこぞの国の軍事パレードじゃないけど、今の中国の消防機能はこんなに進んでいるんだと言わんばかりに、最新鋭のものが名前付きでたくさん出てきたのにはちょっと…。展示会じゃないんだから(笑)。
らしいと言えば、らしいのかな。そんな中国映画でした。★3つ。
『フラッシュオーバー 炎の消防隊』公式サイト


『ラ・ボエーム ニューヨーク愛の歌』は、ミュージカル映画。

クリスマス・イヴのニューヨーク。
アパートの屋根裏部屋で、画家のマルチェッロが絵を描き、詩人のロドルフォが詩を読んでいます。
とにかく寒い真冬のニューヨーク。ところが、この部屋には燃やせる薪がありません。ロドルフォは暖炉で原稿を燃やし、「世界の損失だ」と笑います。
そこに哲学者のコッリーネとミュージシャンのショナールが戻ってきます。この部屋で共同生活をしている4人が揃いました。
ショナールは臨時収入があったよう。イヴなんだから街へ出ようと、みんなで意気揚々。ロドルフォだけは執筆を急ぐからと部屋に残るのですが、突然の停電に、辺りは真っ暗になってしまいます。
そこへ、同じアパートに住むミミというお針子の女性が、ロウソクの火を借りにくるんですね。
火は無事についたものの、今度はミミが鍵を失くしたと。
暗闇で近づくふたり。神様のイタズラなのか、ロドルフォとミミは、その瞬間、恋に落ちるのでした…。

1896年、イタリアのトリノで上演された人気のオペラ『ラ・ボエーム』。その設定を今のアメリカ・ニューヨークに置き換えて作ったミュージカル映画です。
あらすじは第一幕のさわりの部分。
その後、マルチェッロが昔の恋人だったムゼッタと再会し、恋が再燃したり、ミミとロドルフォが切ない理由で別れることになったりと、ストーリーは原作にほぼ忠実に。
違うのは時代設定にプラスして、現代社会の抱える様々な問題を表現するため、アジアの現役オペラシンガーをメインに据えたこと。
ちなみに、コッリーネ役は日本人歌手の井上秀則が演じています。
いろんな意味で見慣れないせいか、多少の違和感は否めませんが、100年以上経っても、若者の本質は変わらないんだなとも感じます。
オペラで観たという人は、見比べてみてはいかがですか?★3つ。
『ラ・ボエーム ニューヨーク愛の歌』公式サイト


『リバイバル69 伝説のロックフェス』は、音楽ドキュメンタリー。

1969年、トロントで活躍していた若きプロモーター、ジョン・ブラウワー。当時22歳。
次はさらなる大きなイベントをと、思いついた企画が、50年代のレジェンド・ロッカーを集めてのロック・フェスでした。
チャック・ベリー、リトル・リチャード、ジェリー・リー・ルイスetc。ところが、豪華な名前を連ねても、チケットはまったく売れません。
ならばと今の人気ミュージシャンをも集め、トリは音楽以外でも話題を振りまいていたドアーズに決定。
しかし、地元ラジオ局は、あまりにビッグネームが並ぶラインナップに疑念を抱いたのか、一切告知に協力をしてくれません。
コンサート直前まで、チケットはほぼ売れず。焦ったブラウワーは、ツテを頼って、なんとジョン・レノンに電話をするんですね。
すると、ビートルズでの活動に限界を感じていたジョンは、別のバンドでならと、妻オノ・ヨーコの名を記した、プラスティック・オノ・バンドでの出演ならと受諾します。このバンド、ギターはエリック・クラプトン、ドラムはイエスのアラン・ホワイト!
「ビートルズのジョン・レノンが来る!」
チケットは飛ぶように売れたのですが、今度はジョンが「行きたくない」と…。
ウッドストックと並び、ロック史を変えたと称される、1969年9月13日の「トロント・ロックンロール・リバイバル」。
その1日と、それまでの舞台裏を描いた作品です。
出演者は公式サイトをチェックしてみて下さい。豪華アーティストのパフォーマンス、楽屋裏、ここにはとても書ききれない驚愕エピソードたちは、是非映画で確かめて下さい。
ちなみに、オノ・ヨーコのかな切り声には、ボク同様、トロントも引いてました(笑)。★4つ。
『リバイバル69 伝説のロックフェス』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.9.28
『こん、こん。』★★★
『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』★★★★
『ヒッチコックの映画術』★★★
『ルー、パリで生まれた猫』★★★
(満点は★★★★★)

早いもので、9月も最終週。暑さが残っていたせいか、9月は時の流れが本当に早く感じられませんでしたか?
微妙に残る夏の疲れには、映画がいい薬になるかも。今週はそんな作品もあります。
さぁ、今週は4本です!


『こん、こん。』は、長崎を舞台にしたラブストーリー。

静岡から長崎の大学に入学した堀内賢星は、「フツー」が口ぐせの、“普通”な男の子。
ある夜、家の近くで変な声がするので見にいくと、女子がふたり。ひとりはひどい泥酔状態で、もうひとりから、彼女をおぶって家まで一緒に来てくれないかと頼まれます。
酔っていたのは大学のミス・キャンパス、介抱していたのは同級生の七瀬宇海。
宇海は賢星と真逆の性格で、何事にも積極的で、素直に「好き」を口に出せる女の子。
その日、宇海の部屋で語り合いましたが、会話は噛み合いません。
ミス・キャンパス狙いだった賢星ですが、次第に宇海の「好き」に惹かれていくようになります。
ところが、付き合い始めて少し経った頃、なんとなくボタンの掛け違いが始まります。
そして、賢星が他の女性と部屋にいるところを、宇海は見てしまったのです…。

せつない映画でした。
宇海には賢星と行きたかった浜辺があって、映画はそこで賢星がひとりカメラを構えるシーンから始まります。そこに写り込むのは、いないはずの宇海の笑顔…。
そう、冒頭から宇海が亡くなったことが明らかになるんですね。
それを知って観るには、ちょっとつらかったかな…。
本心とは違うのに、互いにすれ違っていくのは、恋愛にはよくあること。とはいえ、宇海が可哀想すぎました。取り返しがつかない賢星も、今、もちろんつらいわけで。
個人の感覚によって違うと思いますが、ボクには救いがないように思えてしまいました。
横尾初喜監督は長崎の出身。俳優たちも、長崎を始め、九州出身の人を多く起用しています。
長崎の映画。そんな長崎の素敵な風景に★をひとつプレゼントして。★3つ。
『こん、こん。』公式サイト


『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』は、ファッション・ドキュメンタリー。

1952年、フランスで生まれたジャン=ポール・ゴルチエ。ご存じ、パリを代表する世界的ファッションデザイナーです。
そんな彼が企画、脚本、演出を手掛けた“ランウェイ・ミュージカル”が「ファッション・フリーク・ショー」。
2018年のパリを皮切りに、今年の5〜6月には東京と大阪でも上演され、大きな話題となりました。
映画では、その制作に密着。ゴルチエの、デザイナーとしての作品作りを目の当たりにすることができます。
このショー自体が、“ファッション・フリーク”たる彼の半生記ですから、幼少期から、ファッションに魅せられていく姿、大切なパートナーのフランシスとの出会い、そして別れ…。ゴルチエの素顔を垣間見ることができます。
すごいのは周りのスタッフもしかりで、ゴルチエの急な変更にも、結局は対応してしまうのですから。こんなクリエイターたちが集まるのもまた、ゴルチエという人に魅力があればこそなのでしょう。
映画や歌手の衣装も多数手掛けたゴルチエこだわりの衣装、音楽、そしてダンス・パフォーマンス。奇抜で美しい衣装を身にまとった出演者に誘われ、まるで夢の国にいるみたい。舞台はとにかく華やかです!
加えて、「Le Freak(おしゃれフリーク)」のヒットで知られるChicのナイル・ロジャースや、マドンナも登場します。
「“違い”とは特別であること」というゴルチエの言葉に、勇気をもらえる人がたくさんいるんだろうなと感じる作品。気持ちをアゲたい方には、特にオススメです。★4つ。
『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』公式サイト


『ヒッチコックの映画術』は、ドキュメンタリー。

1899年、イギリスに生まれたアルフレッド・ヒッチコック。
「サスペンスの巨匠」、「スリラーの神様」と呼ばれた映画製作者で、世界で最も有名な映画監督のひとりです。
初めてスクリーン上に動く写真を投影したのが映画の始まりだとすると、それは1895年のこと。ヒッチコックの監督デビューが1925年ですから、映画が生まれてわずか30年。その斬新な手法が、黎明期の映画界に大きな影響を与えたことは想像に難くありません。
そんなヒッチコックの“裏技”を、作品を見せながら、具体的に本人(もちろん代役)が語るスタイルで解説しているのがこの映画なんですね。
CGなどもない当時、限られた環境で、観客の心の奥底に恐怖の感情を芽生えさせる。そのためのHOW TOは、料理で言えばレシピはもちろん、隠し味まで、さらには火加減や投入のタイミングまでをも教えてくれるといった感じでしょうか。
監督のマーク・カズンズも、過去には930分にも及ぶ、映画史に関する超大作映画『ストーリー・オブ・フィルム』を作るなど、世界が認める“映画通”。そんな監督が掘り下げた作品ですから、ヒッチコックの魅力を余すことなく表現しているはずです。
カラーとモノクロを上手く使いながら、生前のヒッチコックが、死後を見据えて自ら作っていたんじゃないかと錯覚するような1本。
ちなみに、今年はヒッチコックの映画デビュー100周年にあたります。★3つ。
『ヒッチコックの映画術』公式サイト


『ルー、パリで生まれた猫』は、子猫と少女の愛情物語。

フランス・パリの、とある家の屋根裏部屋。10歳の少女クレムが覗くと、そこには生まれたばかりの子猫たちがいました。
母猫はトラブルに遭って、帰ってこられなくなったよう。ミルクを与え、数匹は外へと連れ出したのですが、改めてそこに行ってみると、一匹だけ隠れて出てこなかった、キジトラの子猫がいたのです。
クレムはこの子にルーと名付け、自分で育てようと決めます。
やんちゃでおっちょこちょいのルーでしたが、クレムにとっては弟のような存在に。実はクレムの両親は離婚寸前。喧嘩の声が聞こえてきても、ルーがいるから耐えることができたんですね。
そんなある日のこと、家族で森の別荘に行くと、クレムは両親の離婚を知らされます。ショックを受けるクレム。
一方、好奇心旺盛なルーは、森の奥へと入っていってしまい、帰ってきません。ルーにもまた、カリーヌという白猫との出会いがあったのです…。

小さな命と出会った少女クレム。
別荘の近くには、クレムが“魔女”と呼ぶマドレーヌという老女が、ナポリタン・マスティフ犬のフリョと暮らしているのですが、このマドレーヌが、まさに“おばあちゃんの知恵袋”。クレムにはもちろん、クレムのお母さんにも、世の中のあれこれや、自然の摂理を教えてくれるのです。
パリで生まれた猫にとって、街がいいのか?それとも森の中がいいのか?
両親の離婚に加え、もしルーとも離ればなれになっちゃったら、クレムの心は大丈夫?心配になってきちゃいますよね。
映画は、そんな少女の成長の物語でもあります。
演技をする動物たちの可愛らしさに癒される1本。ルーはもちろん、フリョもいい味出してます(笑)。猫好きの人のみならず、犬好きのあなたも是非。★3つ。
『ルー、パリで生まれた猫』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.9.22
『コンフィデンシャル 国際共助捜査』★★★
『PIGGY ピギー』★★★★
(満点は★★★★★)

今度の土曜日は秋分の日。“芸術の秋”の扉が開く日とも言えますよね。
たくさん映画を観て、感性を磨いて下さい。ボクもまだまだ錆び付かないよう、頑張ります(^-^)v
さぁ、今週は2本です!


『コンフィデンシャル 国際共助捜査』は、韓国映画。

北朝鮮の犯罪組織のリーダー、チャン・ミョンジュン。NYで麻薬取引をしているところをFBIに踏み込まれ、逮捕されます。
ところが、護送中に逃走。ミョンジュンは姿を消してしまうんですね。
その後、ミョンジュンは10億ドルもの金を持って韓国に渡ったとわかり、北朝鮮はエリート特殊捜査員のリム・チョルリョンを南に送り込みます。
北から南に国際共助捜査の依頼があり、担当するのは、ベテラン刑事のカン・ジンテ。仕事をしくじり、今は望まない部署で冷や飯を食っていたのですが、千載一遇のチャンスとばかりに手を挙げたのです。
実は、ジンテがチョルリョンと手を組むのは2度目。周りをも巻き込む、危険な捜査に懲りた妻と娘は猛反対。しかし、義理の妹のミニョンだけは違いました。前回、チョルリョンに一目惚れしたミニョンは再会に大喜び。境界線を越えた愛に燃えていたのです。
ミョンジュンは“氷毒(ピンドゥ)”という合成麻薬を使い、韓国で一儲けを企んでいて、10億ドルはその元締めへの資金ではないかと。NYの一件もあり、FBI捜査官のジャックも失地回復とばかりに韓国へとやってきます。
北と南、そしてFBI。互いが腹の探りあいをしながらの国際共助捜査。しかし、捜査が進むにつれ、この事件にはとんでもない裏があることがわかってきたのです…。

北の特殊捜査員、リム・チョルリョンを演じるのは、ドラマ『愛の不時着』で主役を演じたヒョンビン。
ドラマ以降、初の映画主演作ということで、注目を集めているようです。
実は、17年に『コンフィデンシャル 共助』という映画が公開されており、今回はその続編ということになります。
コミカルに進む、刑事モノのサスペンス。北とFBIのイケメンふたりに対し、南のジンテはルックスはイマイチ。
そのギャップが面白く、前作を観ていなくても十分に楽しめます。
北と南の共助。ボクら日本人以上に、自国の人には感じる何かがあるかもしれませんね。★3つ。
『コンフィデンシャル 国際共助捜査』公式サイト


『PIGGY ピギー』は、スペインのリベンジホラー。

サラは10代の女の子。精肉店を営む両親と共に、ぽっちゃり体型。それを学校の同級生に冷やかされ、毎日のように陰湿なイジメを受けていたのです。
夏の暑い日、サラはひとりで町のプールに向かったのですが、それをいつもの女子3人組に見つかってしまいます。
そして、「ブタクジラ捕獲!」と頭から網を被せられ、危うく溺れそうになったあげく、着替えも荷物も全部持っていかれちゃうんですね。
水着のまま、人の目を避けるように帰宅するサラ。
実は、その一部始終を見ていた男性がいました。
しばらくして、サラは男性が運転する車とすれちがうのですが、なんとその後部座席には、血まみれの同級生たちの姿が。
悲鳴のような声でサラに助けを求める彼女たち。しかし、3人を乗せた車を、サラは静かに見送ったのでした…。

実は、あまり期待しないでオンライン試写のスタートを押したのですが、いやいや、これが面白い。
おデブで陰キャラのサラと、いじめっこの3人の女子。そこにサラに恋する猟奇殺人犯の男性が加わり、彼がサラの代わりに復讐をするという。
男性はサラに一目惚れだったのでしょう。サラもまた、こんな自分を守ってくれる男性に好意を抱いてしまうんですね。
いわゆる“ストックホルム症候群”。
観ている側も、いろんな意味で複雑な感情が湧いてきて。だって、いじめっこは罰せられるけど、それは犯罪だし。サラの恋心は健気だけど、相手は殺人犯だし。
ラストに向かって、ワクワクドキドキ!で、どうなっちゃうの?ってお話です。
実は、この映画のカルロタ・ペレダ監督は女性監督。だから、女子同士のいじめや、特有の感情がうまくスパイスとして効いているんだと思います。
厳しい残暑にぴったりの1本かも?オススメです!★4つ。
『PIGGY ピギー』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.9.14
『ブリング・ミンヨー・バック』★★★★
(満点は★★★★★)

世間は3連休を迎えます。秋の行楽シーズン。あちこちで混雑が予想されます。
それなら、映画館で映画はいかがです?
人混みで疲れるより、“心の旅”でリフレッシュ!
さぁ、今週は1本です!


『ブリング・ミンヨー・バック』は、音楽ドキュメンタリー。

日本の伝統的民俗音楽である民謡を、ラテンなどのワールドミュージックと融合させることで、現代に甦らせようと活動する民謡クルセイダース。
東京の福生を拠点とし、2011年、ボーカルのフレディ塚本、ギターの田中克海を中心に結成されたこのバンドは国の内外で高い評価を得、今年のフジロックにも出演しています。
そんな彼らのステージに圧倒されたという森脇由二監督が、5年間の密着取材を敢行。劇場映画としてまとめたのがこの作品です。
核となるのは19年のワールドツアー。南米、ヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランドを回り、中でもコロンビアでは地元の人気バンド、Fente cumbieroとセッション。レコーディングをする様子は、音楽が言葉や国境を越えるんだなというのを改めて教えてくれます。
民謡とは、元々が労働歌のようなものとして、民の中に自然発生的に生まれ、それが伝承されていく過程で形が定まっていったもの。力を持たないはずがないわけです。
ただ、時代の移ろいと共に、働き方も生活も様式が変わると、民謡自体を口ずさむ機会が減ったことで、今では伝統芸能の一部になってしまっています。しかし、内包するパワーは今も衰えることなく、ふつふつと音を立てているんだということなのでしょう。
特に海外からのオファーがすごいみたいです。ひょっとすると、逆輸入のカルチャーになるかも?
まだ知らなかったという音楽ファンは、要チェックです!★4つ。
『ブリング・ミンヨー・バック!』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.9.7
『6月0日 アイヒマンが処刑された日』★★★
(満点は★★★★★)

9月に入って、秋競馬が始まると、おかげさまで多忙なシーズンを迎えることになります。
9月公開の映画のオンライン試写は、現段階であと残り2本。今週中に観終えなければ。
さぁ、今週は1本です!


『6月0日 アイヒマンが処刑された日』は、イスラエル映画。

第二次世界対戦におけるユダヤ人大虐殺の中枢にいた、アドルフ・アイヒマン。
終戦後、一度は捕らえられ、捕虜収容所に拘束されるも脱走。最終的に、アルゼンチンのブエノスアイレスに逃げたところをイスラエルの秘密諜報機関に発見され、イスラエルへと連行されていきます。
イスラエル政府は61年12月に死刑判決を下しますが、この国で死刑を執行できるのは、5月31日と6月1日の間の深夜のみ。その間の時を“6月0日”と呼ぶのでした。
一方、リビア移民の少年ダヴィッドは、父に連れられて町の鉄工場へ。社長のゼブコは、炉の中に入って掃除ができる、体の小さな働き手を探していたのです。
鉄工場には、いろんな大人が働いていました。機転もきいて、明るいダヴィッドは工場の人気者に。
そんな時です。社長の戦友で刑務官を務めるハイムが、極秘プロジェクトを持ってきます。
それは、死刑になった後のアイヒマンを焼く、焼却炉の製作依頼だったのです…。

イスラエル映画としましたが、イスラエルとアメリカの合作で、監督はグウィネス・パルトロウの弟、ジェイク・パルトロウ。
この作品が他のナチス映画と違うのは、連行の様子や収容所での残虐な行為を描いたのではなく、イスラエルの市井の人々にスポットを当てているという点。
とは言っても、登場人物はダヴィッドのような移民であったり、ホロコーストの生存者だったりと、境遇はさまざま。時代を懸命に生き抜いていたのです。
さらに、アイヒマンを監視する刑務所の看守、髪を切る理髪師などの、緊迫した様子が描かれますが、そんな中にもどこか庶民を感じさせるんですよね。
比喩がいいかはわかりませんが、アイヒマンという“宇宙人”を檻の中に捕らえているかのような…。
ちなみに、今では死刑が禁止されているイスラエル。過去に執行された死刑は2例のみで、アイヒマンの事例が最後の死刑だそうです。★3つ。
『6月0日 アイヒマンが処刑された日』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.9.1
『ウェルカム トゥ ダリ』★★★★
『復讐の記憶』★★
『福田村事件』★★★★
『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』★★★
(満点は★★★★★)

8月が去り、9月がやってきます。
日が短くなり、風にも秋の気配をちらっと感じる昨今。
芸術の秋を語るにはまだまだ早いけど、感性はそちらに向いているはずです。
映画館にGOです(^-^)
さぁ、今週は4本です!


『ウェルカム トゥ ダリ』は、天才芸術家サルバドール・ダリの奇想天外な伝記映画。

1974年のNY。アートスクールを中退したジェームスは、クリストフの画廊で働き始めます。
そこでは大人気の画家、ダリの個展も請け負っていました。
ある日、画廊を訪れたダリに、ジェームスは毎回異なるサインをするダリのサイン集を作って手渡し、こう言うのです。
「絵を描くたび、新しいあなたに生まれ変わるようだ」。
ダリと妻のガラに気に入られたジェームスは、個展のために必要だからと、助手として借り出されます。
ところが、ダリは無類のパーティ好き。ガラはとにかく浪費家で、絵に集中させるのも、ひと苦労。
実はガラには、囲っている若いジェフというミュージシャンがいます。ダリもそれは承知の上。周りにたくさんの女性をはべらせるダリでしたが、それでも愛する女性はガラしかいません。
そう、ガラこそが、ダリの創作の源だったのです…。

観る前はドキュメンタリーかと思っていましたが、オンライン試写の再生ボタンを押すや「あ、違うんだな」と。
サルバドール・ダリの名前や代表作は知っていても、その素顔は知りませんでした。もちろん、劇映画ですから装飾はあるでしょうが、あの独特の口ひげからも、かなりの個性派であることは想像に難くありませんよね。
伝記映画としましたが、実在の画家の深淵な恋愛の映画かもしれません。
劇中、とあるダリの本音がポロリ。これが本当に彼の言葉かどうかはわかりませんが、そこに親近感を感じてしまう人も多いと思います。
光と影。これもまた真理ですよね。
ダリの作品を、改めてじっくり眺めてみたくなりました。★4つ。
『ウェルカム トゥ ダリ』公式サイト


『復讐の記憶』は、韓国映画。

初期の認知症が疑われる80代のピルジュは、17年勤めたファミレスを辞めることにします。
孫のような同僚のインギュに引き止められながらも、ピルジュがバイトを辞めるのには、もうひとつの理由があったのです。
それは“復讐”。
太平洋戦争で旧日本軍から理不尽な仕打ちを受け、肉親を殺されたピルジュは、残りの人生を復讐に費やすと誓っていたのです。
ターゲットを忘れないよう、その名前を指に入れ墨で彫り、日本軍の生き残りと、それに加担して私腹を肥やした韓国人を狙います。
ドライバーのバイトをインギュに頼むピルジュ。途中でことの重大さに気づくも、ピルジュには多額の借金があり、乗りかかけた舟を降りるわけにはいきません。
ひとり、またひとりと、ピルジュの復讐は進むのですが…。

正直、ボクら日本人にはキツいテーマでした。
公式サイトも含め、ピルジュの復讐の理由はあまり書かれていません。
ただ、事実もあれば、そうでないものもある。“臭いものに蓋”をしろと言っているのではありません。悪いことは悪い。過ちは反省すべきです。ピルジュの立場になれば、その気持ちもわかります。
ただ、ちょっと偏っているんじゃないかと感じてしまうのは、ボクだけじゃないと思います。
この映画を観た韓国の人の、“日本憎し”の感情が高まらないか心配になります。
やっと未来指向になってきた感のある日韓関係に、水を差さなければいいのですが。★2つ。
『復讐の記憶』公式サイト


『福田村事件』は、実話に基づく物語。

1923年、千葉県東葛飾郡福田村(後の野田市)。
この年の春、日本統治下の朝鮮・京城(現ソウル)で教師をしていた澤田智一は、妻の静子を連れて、故郷である福田村に帰ってきました。
その頃、売薬を生業とする四国の行商団が讃岐を出発。沼辺新助をリーダーとする一団は、各地を回って、8月に千葉に入っていました。
すると9月1日、関東大震災が起こります。未曾有の大災害となったこの大地震で、様々な噂が飛び交います。
「朝鮮人が集団で火を放った」。
「朝鮮人が井戸に毒を撒いた」。
関東一帯に戒厳令が出され、福田村にも自警団が発足。
そんな時、利根川を渡ろうとしていた行商団に、「鮮人ではないか?」との疑いがかけられます。
その理由は、言葉が変だから。
福田村の人々には、讃岐弁が理解できなかったのです。
村長は巡査に依頼し、素性を明らかにするから待てと言いますが、疑心暗鬼になっていた人々を止めることはできませんでした。
沼辺新助の頭に斧が振るわれると、村人は刃物を持って、行商団に襲いかかったのです…。

数々のドキュメンタリー作品を手掛けてきた、森達也監督の初となる劇映画です。
多くの犠牲者を出した行商団は、香川の披差別部落の人々。智一の帰国の理由も日本軍による虐殺事件を目の当たりにしたから。
第一次世界対戦から太平洋戦争へと移行する狭間の時代。差別、弾圧…。不穏な空気が日本中を覆っていたのです。
そんな中で起きてしまった関東大震災。デマが引き起こした惨劇。それが福田村事件です。
日本には、過去の過ちを自省する映画が少ないように感じますが、これはそんな数少ない映画です。
ドキュメンタリーで鍛えた感性が紡ぎだした1本。フェイクニュースが数多く流され、明日、同じようなことが起きてもまったく不思議はありません。そう遠くない過去が、現代人に鳴らす警鐘でしょう。
今年は関東大震災からちょうど100年。今、観るべき1本と言える作品です。★4つ。
『福田村事件』公式サイト


『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』は、人気恋愛小説の実写映画化。

茜は女子高生。母は再婚し、継父との間に妹が誕生しますが、周りに気を遣いすぎる茜は、家ではものわかりのいい娘を、学校では優等生を演じていました。
その代償として、外ではマスクを外せない“マスク依存症”になっていたのです。
そんな茜に、あからさまに「お前のことが嫌いだ」と言う男子がいます。銀髪がトレードマークの青磁です。
クラスのみならず、学校中で人気者の青磁。そのまっすぐな性格に、茜は段々と惹かれていきます。
青磁は絵を描いていて、活動場所は学校の屋上。茜は、青磁の描く色彩の美しさにも魅せられていくんですね。
自由奔放に自分の道を歩いているかのような青磁。しかし、青磁には人に言えない秘密があったのです…。

汐見夏衛の人気小説の映画化です。
茜にはモデル、俳優として活躍している久間田琳加。青磁には人気グループJO1のメンバー、白岩瑠姫。若者に人気のふたりによるW主演作となっています。
共に悩みを抱える10代の男女が、互いを支えに明るい未来を見据えるというお話。そこにはふたりの過去が絡んでいて、謎解きのように、茜と青磁の関係が解き明かされていきます。
王道のラブストーリー。ただ、原作はコロナ禍前に書き上がっていたそうで、マスクという小道具は偶然の一致。そんな意味では、時代が求めた作品かもしれませんね。★3つ。
『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.8.24
『兎たちの暴走』★★★
『君は行く先を知らない』★★★
『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ロックと家族の絆』★★★★★
『Gメン』★★★★
『卒業 Tell the World I Love You』★★
(満点は★★★★★)

8月も最終週。
夏の思い出作りは完了しましたか?
まだという方は、映画でこの夏を残すのもありですね。
今週も満点の作品があります。音楽ファンは是非!
さぁ、今週は5本です!


『兎たちの暴走』は、中国映画。

シュイ・チンは17歳。父と、再婚した母と、その連れ子である弟との4人暮らし。しかし、あからさまに嫌な態度をとる継母のせいで、シュイ・チンの家庭に彼女の居場所はありませんでした。
学校の友人、マー・ユエユエも父の過剰な干渉に悩み、ジン・シーもお金持ちの娘でしたが、とにかく両親の仲が悪く。3人の女子高生は、それぞれに生きづらさを抱えていたのです。
そんな時、シュイ・チンの産みの母、チュー・ティンが町に戻ってきます。
チュー・ティンはダンサーで、華のある存在。シュイ・チンは、うれしくて仕方ありません。
マー・ユエユエとジン・シーも、カッコいい大人の女性の登場に瞳を輝かせます。
4人は“青春の兎の団体”を結成し、仲良く行動を共にするのですが、幸せな時間はそう長くは続きません。
実は、チュー・ティンには多額の借金があり、組織の男たちがこの町まで追いかけてきたのです…。

2011年に、母娘が娘の同級生を誘拐するという、実際の殺人事件が南京で起きていて、この映画はそれを基に作られたそうです。
撮影の舞台となった四川省の町は、経済発展で生まれた市。しかし、急速な発展は急速な衰退をも生むと。そんな象徴のような町であり、今の中国が抱える問題点をあぶり出したサスペンスと言えるのかもしれません。
南京の事件が与えた衝撃の大きさによっては、自国の人々に与えるインパクトも違いますよね。
なんとしても母をを救いたい、母から愛されたいと願う、シュイ・チンの健気さが痛かったです。その思いは万国共通なんだと感じました。★3つ。
『兎たちの暴走』公式サイト


『君は行く先を知らない』は、イラン映画。

イランの国境付近を、砂煙を上げながら走る車が1台。
乗っていたのは家族4人。
後部座席に座る父親は骨折しているのか、左足にギブスを巻いています。
隣りには、落ち着きなくはしゃぐ幼い男の子が。
前の助手席には母親が座り、古い流行歌を口ずさんでいます。
無言で表情を変えることなくハンドルを握るのは長男。
そして、最後部には愛犬のジェシーがいました。
携帯電話を持っていてはいけない。
後ろを走る車を異様なまでに気にする。
時折見せる母の悲しげな表情。
果たして、この車は、いったいどこに向かっているのでしょうか…。

以前もお話したかと思いますが、ボクは事前に情報をほとんど入れずに映画を観たいタイプ。
例えば、リアルの試写会で資料をもらっても、まず開きません。
ただ、歴史ものや、詳しくない国の社会情勢を描いたような映画の時は別。下知識を入れて臨みます。
そんな意味では、この作品も事前に解説を読んでおきたかった1本。
なぜなら、「もしかしたら、こういうこと?」との仮想が頭を巡り、映画の世界に入り込むのを邪魔するような感覚があったから。
公式サイトには、イラン生まれで、日本公開のイラン映画のほとんどの字幕翻訳に関わっているという、ショーレ・ゴルパリアン氏の解説コラムがあります。
個人的には、読んでから観ることをお勧めします。もちろん、どちらを選ぶかはあなた次第です。
初めは賑やかさがハナにつく感じの次男の男の子ですが、これが演技なんだと冷静にわかると、その卓越した才能に驚かされるます。特に、カーステレオから流れる曲に合わせて踊る、その身のこなしにはビックリ!どの国にも天才子役というのはいるんですねっ。
監督の生い立ちも映画の根っこにはあるようで、自国での評価はさらに高いはず。イランの今を覗き見る作品と言えそうです。★3つ。
『君は行く先を知らない』公式サイト


『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ロックと家族の絆』は、ドキュメンタリー。

今年1月に74歳で亡くなった、ギタリストの鮎川誠さん(以下、敬称略)。
福岡県久留米市出身。妻のシーナをボーカルに迎え結成した、シーナ&ロケッツのギタリストです。
180cmと背が高く、黒ぶちの眼鏡またはサングラスがトレードマークで、79年発売の大ヒットシングル「ユー・メイ・ドリーム」は、ボクも大好きな1曲です。
ぼくとつとした博多訛りで語る鮎川誠。しかし、彼がこれほどまでに優しく、ファン思いで、周りから愛される素敵な人柄だったとは、正直知りませんでした。
映画にはたくさんのミュージシャンが登場し、故人を語りますが、甲本ヒロトが話す出会いのエピソードは鳥肌もの。
その甲本ヒロトのコメントが公式サイトにもあります。
「鮎川さんとシーナが死んだことは大したことじゃない。“いた”ってことがすごいんだ」。
これがすべてを表しているんじゃないかなと。
シーナ亡き後もライブを続けたのは、「ステージに出ると、そこにシーナが待っている気がして」と鮎川誠。
3人の娘の、それぞれのサポートを得ながら、最後までロックンローラーだったギタリストの物語。
“生き切る”って、こういうことなんだと、改めて感じるはずです。
是非、ご覧になってみて下さい!満点★5つ。
『シーナ&ロケッツ 鮎川誠 ロックと家族の絆』公式サイト


『Gメン』は、人気コミックの実写映画化。

私立武華高校。以前は不良が集まる男子校でしたが、周りに4つの女子校ができたおかげで、“彼女出来る率120%”。入学希望者が続出し、偏差値も上がって、今では能力別クラス編成の立派な高校へと変わっていたのです。
ところが、最下級のG組だけは話が別。本校舎から離れた別棟にあるこのクラスだけは、ワルの吹き溜まり。
そんな武華高校に、女子にモテたいと転校してきたのが門松勝太です。
登校初日、ワクワク気分も束の間、連れて行かれたのは、なんと1年G組。
目を白黒させる勝太の、波瀾万丈の高校生活が始まったのです…。

面白かったです!
原作は、週刊少年チャンピオンで連載された、小沢としおの同名コミック。
我が母校・私立桐蔭学園も、中学、高校共に能力別クラス編成。一番下はワルじゃなくて、運動部がほとんどだったけど(笑)。
タイトルの“Gメン”は、かつて存在した伝説の不良グループの名前で、3年生と2年生にそのメンバーが残存。敵対していた天王会を仕切る加藤侠介が刑務所から出てきて、勝太たちと問題を起こすことになります。
また、多摩黒天使(ブラックエンジェル)というレディースのグループがあって、リーダーのレイナと勝太が互いに気になる関係に。クラスメイトも、先輩も、担任の女教師も、みんながいい味出しています。
伝説のGメン復活なるか?
ぶっとんだ青春ムービーです。若者はもちろん、お父さん世代も、昔を思い出して?楽しんでみて下さい!★4つ。
『Gメン』公式サイト


『卒業 Tell the World I Love You』は、タイのBL青春ムービー。

タイとケンは高校の同級生。
ケンには生き別れた母親がいて、中国で暮らしています。それゆえ、ケンは奨学金をもらって中国に留学するのが目標でした。
お金を節約するため、ケンはタイの実家に居候。そこはタイの兄が経営する食堂で、ケンもタイと一緒に店を手伝っていました。
そんなある日のこと、ケンは道で袋叩きにあっている男性を助けます。彼の名はポン。麻薬の密売組織から抜け出そうとしていたのですが、そう簡単ではありません。
組織はケンをも標的にすると、タイの兄の店もメチャメチャにされてしまいます。
ケンはタイの家を出ざるをえなくなり、ポンと暮らすことを選ぶのですが、組織の手は執拗にふたりを追ってくるのでした…。

正直に言わせてもらうと、残念ながらストーリーが飛躍しすぎている感が否めませんでした。
物語の肝にならない部分で言うと、例えば、ケガをして肩を貸して逃げるふたりを若い組織の男が追いかけたのに追いつかないとか、ケンがほとんど学校に行かなくなったにも関わらず奨学金の資格試験に受かっちゃうとか。
そんなのどうでもいいんだよと、ファンからはお叱りを受けるかもしれませんね(笑)。
ただ、フィクションであっても、最低限の整合性を求めてしまうので、そのあたりがちょっとなぁという感じ。
タイの人気俳優たちが多数出演した作品。彼らの魅力を出すのが最優先なのかも。
映画の見方も人それぞれです。あくまで個人の嗜好ですので、辛口もお許しを。★2つ。
『卒業 Tell the World I Love You』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.8.16
『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』★★★
『シン・ちむどんどん』★★★★
『ふたりのマエストロ』★★★★
(満点は★★★★★)

ハワイの山火事のニュースを見て、2018年6月に日本で公開された映画『オンリー・ザ・ブレイブ』を思い出しました。
アメリカ・アリゾナ州の消防隊を描いた、実話に基づくストーリー。山火事を食い止めようとして犠牲になった人々の物語です。
日本も台風、地震と、自然災害の多い国です。いつも言うように、映画から学べることもたくさんあるはずです。それは事例への対処法ばかりではなく、環境や未来を慮る心でもあると思っています。
さぁ、今週は3本です!


『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』は、奇才デヴィッド・クローネンバーグの最新作。

海辺で遊ぶ、ごく普通に見える少年。見つめる母の視線はどこか落ち着かなく。
帰宅するとトイレに籠り、少年はプラスチックのゴミ箱をムシャムシャと食べ始めるではありませんか。
眠りについた息子を手にかける母。
人類の臓器が進化していたのですが、この母は自分の子どもの異様さに耐え切れなかったのです。
ソールという男性がいます。痛みの感覚は消え、体内で新しい臓器が生み出される“加速進化症候群”を持つアーティストです。
パートナーのカプリースが、ソールの腹を裂き、新たな臓器にタトゥーを入れて摘出する。そんなパフォーマンスが大人気で、毎回チケットが完売するほど。
しかし、人類の誤った進化と暴走を監視するため、政府は臓器登録所を設立。ソールの行動を監視するようになっていたのです…。

“そう遠くない未来”の物語だそうです。
実は、デヴィッド・クローネンバーグが1999年には書き上げていた台本でしたが、時が来るまで温めていたとか。
では、なぜ今なのかという理由。それは海洋プラスチックごみ、つまりマイクロプラスチックの存在が明るみに出たのがきっかけだと語ります。
クリーチャーとして映画に出てくる創造物も不気味で、これも監督独自の世界観。カンヌで上映の際、退場者が続出したとのエピソードも頷けなくはなく。
全体を覆う暗いトーンが、近未来の象徴なのか。SFスリラーとしてお勧めの1本です。★3つ。
『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』公式サイト


『シン・ちむどんどん』は、選挙ドキュメンタリー。

今年2月に公開された映画『劇場版 センキョナンデス』の第2弾。
ラッパーのダースレイダーと、時事芸人のプチ鹿島が配信するYouTube番組「ヒルカラナンデス」の劇場版として、2021年の衆院選・香川1区と、22年の参院選・大阪選挙区を追ったのが第1弾。
その最中に安倍晋三元総理の襲撃事件があり、議員や候補たちの生々しい対応もカメラはとらえていました。
この映画を紹介した際、「ネタは向こうからやってくる。それも半永久的に」と書きましたが、
ボクの読みは見事に的中(笑)。約半年で、早くも第2弾です。
今回は昨年9月の、本土復帰50周年の節目を迎えた沖縄の知事選に突撃。
タイトルにある「ちむどんどん」は、当時放送されていた沖縄が舞台のNHKの朝ドラで、候補者の多くがプロフィールの“好きな番組”に「ちむどんどん」を挙げていたのですが、「どんなところが好き?」の質問に、返ってくる答えは様々。中には黙っちゃう人も。
プチ鹿島は言います。「これ、嘘ついてたら、他の政策も嘘ついてるって裏取れちゃう」。
確かに…。

基地問題に揺れ続ける、沖縄の首長を決める大事な選挙。
しかし、選挙ってなんだろうねと改めて思っちゃいます。前回も書きましたが、だからこそ、出来得る限り候補者を精査して、大切な1票を投じなければと思います。
嘘や思ってもいないことは明らかになる、そしてそれが映像として残るような時代になったんだということを、滅私の気持ちを持たない政治家や候補者たちは、知っておく必要がありますよね。
ダースレイダーとプチ鹿島のふたりが、カメラの前では、選挙を俯瞰で見る。あくまでもニュートラルな立場だからこそ面白い。
今回も楽しみながら考えさせられた1本です。★4つ。
『シン・ちむどんどん』公式サイト


『ふたりのマエストロ』は、フランスのヒューマンドラマ。

クラシックの指揮者として大人気を誇る“父子鷹”、フランソワとドニのデュマール親子。
ところが、このふたり、とにかく仲が悪い。
息子のドニが、栄誉あるヴィクトワール賞に輝いても、授賞式に出ないどころか、祝福の電話すらありません。
そんな父フランソワが楽団の練習をしている最中に、携帯電話が鳴ります。それはイタリア・ミラノのスカラ座から。音楽監督への就任依頼だったのです。
40年以上のキャリアの中で、夢にまで見た仕事。喜びを隠しきれないフランソワ。
しかし翌日、息子のドニが、スカラ座の総裁に呼び出されます。そして、耳を疑うような言葉を聞かされます。
「すまない。秘書の過ちで。デュマール違いだ。音楽監督は君に頼みたかったんだ」と…。

フランス映画は、明確に着地することなく、ぼやけたまま終わることも多いので、どうなることかとハラハラしながら観ていました。
とにかく途中はツラかったです。だって、ベテラン中のベテランにとって、夢にまで見た仕事の依頼が人違いだったなんて。
「もし…」と、自分に置き換えたら、ショックは計り知れないものがありますから。
親子なら、息子の成功を素直に喜ぶのが普通かもしれませんが、このふたりはちょっと違う。そこがこの映画の脚本の妙。加えて、職人ですから。譲れないプライドが存在するのでしょう。
フランソワにはしゃぐなと言うほうが無理で、喜び、入念な準備を始める姿を見れば見るほど、こちらは痛々しく感じてしまいます。
ちょこっと言っておくと、ドニの息子でフランソワにとっては孫にあたるマチューがいわゆる一服の清涼剤。彼の良さも後半でわかります。
そんな意味では、“後方一気型”の映画かも(笑)。
果たして、物語はどう着地するのか?
それは劇場でお確かめ下さい!★4つ。
『ふたりのマエストロ』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.8.10
『アウシュヴィッツの生還者』★★★★★
『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』★★★★★
(満点は★★★★★)

8月6日は広島の、8月9日は長崎の、それぞれが「原爆の日」。
「原爆記念日」とすることもありますが、“記念”はアニバーサリーなどではもちろんなく、“念に記す”。つまり、“忘れてはならない”という意味です。
「終戦記念日」もそう。戦争が終わってよかったではなく、悲惨な戦争を忘れないようにの“記念の日”なのです。
今週は、戦争の残酷さを描いた作品も1本。
心をえぐられるようなストーリーですが、あえて触れてみて下さい。学ぶべきがたくさんあると思います。
さぁ、今週は2本です!


『アウシュヴィッツの生還者』は、実話をもとにした作品。

第二次世界大戦後、アメリカでプロボクサーになったハリー・ハフト。
リングに上がる際のキャッチフレーズは、“アウシュヴィッツの生還者”。事実、ユダヤ人の彼は、ナチスの収容所から、奇跡的に生きて帰ったのです。
ハリーがボクシングを続ける理由。それは、戦争で生き別れになった恋人レアの存在でした。
有名になれば、レアに気づいてもらえる。その思いで、圧倒的強さを誇るチャンピオンとマッチメイクをし、新聞記者の取材も受け。
ところが、記者に話した衝撃の告白に、世間はハリーに対し、批判の目を向けるようになります。
その内容はというと、ナチスの将校たちは賭けボクシングをしていて、ハリーはその駒としてリングに上がっていたと。同胞を殴り、勝利を称えられるハリーの背後で銃声が響く。そう、そこは“負ければ死”のリング。ハリーは仲間を殴り続けながら、生き延びてきたのです。もちろん、ハリーに選択の余地などありません。まさに地獄だった収容所の日々。
ユダヤ人不明者を探す団体の、ハリーの担当がミリアムという女性。レアの痕跡を必死に探しながら、献身的にハリーに尽くすうちに、ふたりは恋仲に。結婚し、子どもも授かります。
しかし、ハリーが心に負った、あまりに過酷な傷は、何年経っても、ふとしたきっかけでフラッシュバックし、ハリーを苦しめるのでした…。

実在の人物だったハリー・ハフトの物語を、息子のアラン・スコット・ハフトが綴り、それを『レインマン』などで知られる、バリー・レヴィンソン監督が映画化。
主演はベン・フォスター。収容所時代の姿と、プロボクサーになってからの身体で、40キロ以上の差があったといいます。見比べてみて下さい。別人かと思うほどの役作りの凄まじさに驚かされますから。
現在はカラー、過去はモノクロで。物語はつらいことばかり。運命はあまりに残酷です。
「人生、プラマイゼロだ」とよく言うけれど、ミリアムの愛も、家族の誕生も、確かに喜びだし、幸せでしょう。それでもハリーのマイナスがゼロに戻るとは、どうしても思えず。それほどまでに残忍な仕打ちを受けてきたハリーの人生。
人はこんな鬼畜にもなれるのか?
なれるんでしょうね。多少の脚色こそあれ、実話なのですから。
人を狂気に導く戦争は、何があってもダメ。こういう映画から学んでほしいと、切に願います。満点!★5つ。
『アウシュヴィッツの生還者』公式サイト


『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』は、ドキュメンタリー。

1963年、アメリカのテネシー州ノックスビルに生まれた、クエンティン・タランティーノ。
言わずと知れた、大人気の映画製作者です。
これまでの監督作品は、9本(二部作の『キル・ビル』は1本で計上)。「10作で映画監督引退」を公言しているタランティーノですが、まもなく10作目の撮影に入るとか。作品名もチラホラ?
そんな彼の人となりや、映画に対する姿勢、思いや情熱を、過去の作品に携わった映画人たちが語るドキュメンタリーです。
ちなみに、タランティーノ本人へのインタビューはありません。
この映画の制作は、9作目となる『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の公開前に始まったそうで、1作目から8作目までに出演した俳優を中心にカメラは回ります。
映画は3つの章で構成されていて、それぞれ「革命」、「強い女性&ジャンル映画」、「正義」。
レンタルビデオの店でバイトをしていた、映画オタクのタランティーノですが、そこでも培った映画の知識と深い愛情は、“オタク”だからこそ。
様々な作品へのオマージュもタランティーノの代名詞。それらも含め、奇才の素顔が明かされていきます。
冒頭、「才能豊かで面白くて物騒」、「創造力の塊」などの言葉で表現されていますが、なるほどプロ中のプロに愛されるとはこういうことかと、この映画を見終える頃には、すっかり納得しているはずです。
監督にスポットライトを当てた、まるで次回作への壮大な予告編?興味深かったです!満点!★5つ。
『クエンティン・タランティーノ 映画に愛された男』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.8.3
『炎上する君』★★★
『ジェーンとシャルロット』★★★★★
(満点は★★★★★)

8月になりました。夏本番です。と言っても、今年はすでに6月から暑いですもんね…(^^;
子どもの頃は、夏休みに本を読んで、読書感想文を書かされたじゃないですか。でも、意外とあれが役に立っているんじゃないかと、ボクなんかは思うんですよね。
大人になった今は、毎週毎週、読書ならぬ映画感想文。そこそこの分量でわかりやすくまとめる。難しいなぁと今もなお、壁にぶちあたってますから(笑)。
さぁ、今週は2本です!


『炎上する君』は、ふくだももこ監督最新作。

おかっぱ頭の梨田と、三つ編みお下げに黒ぶち眼鏡の浜中は、親友同士。
あまり器用に立ち回れず、今の世の中にも生きづらさを感じているふたりは、とある出来事をきっかけに、高円寺の高架下で踊るようになります。それもワキ毛をボーボーに生やし、あたかもそれを見せつけるかのように。
顔を半分隠してはいるものの、今では謎のワキ毛ダンサーズとして、ファンが写真を売買するまでに。
日頃、SNSの“炎上”に怒りと関心を抱いてた梨田と浜中でしたが、実際に足が燃えている男がこの高円寺にいるとの噂をキャッチすると、その“炎上”をこの目で確かめたいと、睡眠返上で“炎上男”を探し始めるのでした…。

原作は直木賞作家・西加奈子の、2010年の短編小説。「映画では細部にだいぶ手を加えた」とありました。
個性派俳優うらじぬのとファーストサマーウイカが、梨田と浜中を演じていて、内容的にはヒューマン・コメディ。随所に、今の時代ならではの問題提起が詰まっています。
ただ、舞台が高円寺で、梨田と浜中の憩いの場が銭湯だったりと、昭和を感じさせるあたり、時代のコントラストとしての見せ方が上手いなぁと。
今どき珍しい、42分の映画!サクっと観られる潔さがいいかも。
いろんな意味で、高円寺ぃ〜な映画です(笑)。★3つ。
『炎上する君』公式サイト


『ジェーンとシャルロット』は、ドキュメンタリー。

去る7月16日に亡くなった、ジェーン・バーキンさん(以下、敬称略)。
その次女で、歌手、俳優のシャルロット・ゲンズブールが、監督として初めてカメラを回したのがこの映画です。
ジェーンは1946年生まれ。60年以上に渡って世界中を魅了した、歌手で、俳優で、ファッション・アイコンでもある彼女は、生き方自体からもたくさんの話題を提供してきました。
17歳で結婚。長女のケリーを産み、3年で離婚。歌手のセルジュ・ゲンズブールと知り合うと、次女のシャルロットを産み、最後は映画監督との間に三女のルーが誕生します。
長女は写真家として、次女は母と同じ道を、三女は歌の世界で活躍。ジェーンにとっては自慢の娘たちでしたが、98年にジェーンが白血病と診断され、13年に再発。同じ頃、ケイトが自ら命を絶つなど、辛い出来事もありました。
映画は、親日家のジェーンらしく、2018年の東京のライブから始まります。
日本の楽団を従えてのステージ。そのミュージシャンひとりひとりの椅子の上に、手書きのカードと花を一輪。人柄が垣間見えるシーンです。
冒頭、シャルロットが言うんですね。「今までと違った視線でママを見てみたいと思った。カメラは言わばママを見るための口実」と。
母と娘でありながら、少なくとも“普通”ではない母子関係だったジェーンとシャルロット。
とても仲のいいふたりですが、それでもシャルロットは、自身のこれまでの疑問と本音をぶつけ、母の口から真実を聞こうとします。
娘のカメラに、ジェーンの素顔が浮き彫りになる。ファンには新しい魅力として映るはずです。
エルメスの高級バッグでもあるバーキンは、ジェーンが由来だと、これも改めて広く知られるところとなりました。ご冥福をお祈り致します。満点!★5つ。
『ジェーンとシャルロット』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.8.3
『炎上する君』★★★
『ジェーンとシャルロット』★★★★★
(満点は★★★★★)

8月になりました。夏本番です。と言っても、今年はすでに6月から暑いですもんね…(^^;
子どもの頃は、夏休みに本を読んで、読書感想文を書かされたじゃないですか。でも、意外とあれが役に立っているんじゃないかと、ボクなんかは思うんですよね。
大人になった今は、毎週毎週、読書ならぬ映画感想文。そこそこの分量でわかりやすくまとめる。難しいなぁと今もなお、壁にぶちあたってますから(笑)。
さぁ、今週は2本です!


『炎上する君』は、ふくだももこ監督最新作。

おかっぱ頭の梨田と、三つ編みお下げに黒ぶち眼鏡の浜中は、親友同士。
あまり器用に立ち回れず、今の世の中にも生きづらさを感じているふたりは、とある出来事をきっかけに、高円寺の高架下で踊るようになります。それもワキ毛をボーボーに生やし、あたかもそれを見せつけるかのように。
顔を半分隠してはいるものの、今では謎のワキ毛ダンサーズとして、ファンが写真を売買するまでに。
日頃、SNSの“炎上”に怒りと関心を抱いてた梨田と浜中でしたが、実際に足が燃えている男がこの高円寺にいるとの噂をキャッチすると、その“炎上”をこの目で確かめたいと、睡眠返上で“炎上男”を探し始めるのでした…。

原作は直木賞作家・西加奈子の、2010年の短編小説。「映画では細部にだいぶ手を加えた」とありました。
個性派俳優うらじぬのとファーストサマーウイカが、梨田と浜中を演じていて、内容的にはヒューマン・コメディ。随所に、今の時代ならではの問題提起が詰まっています。
ただ、舞台が高円寺で、梨田と浜中の憩いの場が銭湯だったりと、昭和を感じさせるあたり、時代のコントラストとしての見せ方が上手いなぁと。
今どき珍しい、42分の映画!サクっと観られる潔さがいいかも。
いろんな意味で、高円寺ぃ〜な映画です(笑)。★3つ。
『炎上する君』公式サイト


『ジェーンとシャルロット』は、ドキュメンタリー。

去る7月16日に亡くなった、ジェーン・バーキンさん(以下、敬称略)。
その次女で、歌手、俳優のシャルロット・ゲンズブールが、監督として初めてカメラを回したのがこの映画です。
ジェーンは1946年生まれ。60年以上に渡って世界中を魅了した、歌手で、俳優で、ファッション・アイコンでもある彼女は、生き方自体からもたくさんの話題を提供してきました。
17歳で結婚。長女のケリーを産み、3年で離婚。歌手のセルジュ・ゲンズブールと知り合うと、次女のシャルロットを産み、最後は映画監督との間に三女のルーが誕生します。
長女は写真家として、次女は母と同じ道を、三女は歌の世界で活躍。ジェーンにとっては自慢の娘たちでしたが、98年にジェーンが白血病と診断され、13年に再発。同じ頃、ケイトが自ら命を絶つなど、辛い出来事もありました。
映画は、親日家のジェーンらしく、2018年の東京のライブから始まります。
日本の楽団を従えてのステージ。そのミュージシャンひとりひとりの椅子の上に、手書きのカードと花を一輪。人柄が垣間見えるシーンです。
冒頭、シャルロットが言うんですね。「今までと違った視線でママを見てみたいと思った。カメラは言わばママを見るための口実」と。
母と娘でありながら、少なくとも“普通”ではない母子関係だったジェーンとシャルロット。
とても仲のいいふたりですが、それでもシャルロットは、自身のこれまでの疑問と本音をぶつけ、母の口から真実を聞こうとします。
娘のカメラに、ジェーンの素顔が浮き彫りになる。ファンには新しい魅力として映るはずです。
エルメスの高級バッグでもあるバーキンは、ジェーンが由来だと、これも改めて広く知られるところとなりました。ご冥福をお祈り致します。満点!★5つ。
『ジェーンとシャルロット』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.7.27
『イノセンツ』★★★★★
『イビルアイ』★★★
『キングダム エクソダス〈脱出〉』★★★
『658km、陽子の旅』★★★
(満点は★★★★★)

以前、「今月公開の映画に5時間を超える大作があって」と書きましたが、今週それが公開となります。
観たのかって?観ましたョ(笑)。
季節に合わせたわけではありませんが、今週はスリラーが3本。ゾッとして下さい。
さぁ、今週は4本です!


『イノセンツ』は、北欧のサイキック・スリラー。

ノルウェーの郊外にある団地に引っ越してきた、イーダは9歳の女の子。
両親は、重度の自閉症を持つ姉のアナにつきっきりで、イーダはそれが面白くありません。
イーダは、同じ団地に住む、ベンという男の子と仲良くなります。実は、ベンには不思議な能力がありました。小さな石を自由に操れるのです。ベンに興味津々のイーダ。
ある日、イーダは意地悪をして、アナの靴にガラスの破片を入れます。アナは痛みを言葉に出来ず、靴を脱がせた時に血まみれの足を見て、母親は愕然とするんですね。
ところが、近所に住むアイシャという女の子が、アナの痛みをテレパシーで感じていたのです。
イーダとベン、アナとアイシャは仲良しになり、次第に4人で遊ぶようになります。
ところが、ベンには猫を躊躇なく殺せるような残酷な部分があり、次第にイーダは距離を置くようになります。
育児放棄の母親を持つベン。友達にも見離され、孤独が憎しみに変わり、遂にはベンの暴走が始まったのです…。

面白かったです。
あらすじを上手く伝えられなくてすみません。本当はもっと「おおっ」となるお話です。
イーダもミミズを踏み潰したり、アナの靴にガラスの破片を入れたりと、ベン寄りの黒いキャラで始まるのですが、ベンが高いところから猫を落とし、骨折したその猫の頭を踏み潰すような残虐さを見て、これは酷いと引いていくわけです。
アイシャも母子家庭ですが、優しく育ち、アナの親友になります。アイシャのいい影響で、アナは片言の言葉がしゃべれるようになるのです。
おっと、このへんにしておきましょうか(笑)。
子どもたちのサイキック能力は、互いに作用し、磨き合うのか、どんどんと高まっていきます。実は一番強いのは…って、だからネタバレになるって(笑)。
監督・脚本のエスキル・フォクトは、大友克洋の「童夢」からインスピレーションを受けたと語っています。
子役たちの演技も見事!
子どもって、純粋さと残酷さを併せ持つ存在ですよね。それが見事に表現されています。
おすすめのスリラー映画です。満点!★5つ。
『イノセンツ』公式サイト


『イビルアイ』は、メキシコのスリラー映画。

ナラは13歳の少女。
都会の高層マンションで、両親と妹との4人暮らしでしたが、妹のルナは原因不明の病気で発作に悩まされる毎日。最近、その頻度が増していました。
母のレベッカは、病気を治す最後の手段が自分の故郷にあると、家族全員で祖母の住む村に向かいます。
祖母の名はホセファ。ナラとルナをホセファに預け、数日空けるからと車で出て行く父と母。
一緒に暮らすうちに、祖母は何かおかしいと勘づくナラ。
そう、そこには恐ろしい秘密が隠されていたのです…。

物語は昔話から始まります。
三つ子の姉妹がいて、魔女に呪いをかけられた三姉妹のお話。
このプロローグを含め、この作品を理解するための伏線は、あちらこちらに散りばめられています。
ボクは幸い3回視聴が可能なオンライン試写だったので、「もしかしたら、こういうことなんじゃないかなぁ…」と思いながら、いろんな作品レビューを読んでいたら、いわゆるネタバレを見つけて、「なるほど!」と。一発でわかる人はすごいかも。
ネタを知ってから見ると、さらに技のすごさがわかるマジックのように、答えを知ってから観ると、より深みがわかる。そんなタイプの映画かもしれません。
「いやいや、あなたの理解力が低いだけでしょ」と笑わないで下さいね。
複数回観ることを、おすすめします。その価値ありです。面白かったです。★3つ。
『イビルアイ』公式サイト


『キングダム エクソダス〈脱出〉』は、デンマークの人気TVドラマの最終章。

コペンハーゲンの巨大病院(キングダム)。
夢遊病者のカレンは、助けを呼ぶ謎の声に導かれキングダムへと辿り着く。
数々の不可解な事件を解決するため、カレンは病院の用務係のブルザー、心臓外科医のユディットと手を組むが、悪魔の力に反撃されてしまう。
一方、キングダムに赴任してきて間もないスウェーデン人医師のヘルマー・ジュニアは、亡くなった父スティグ・ヘルマーの秘密を探り始めるが…。

すみません。あらすじは、公式サイトのものをそのまま書き写しました。
デンマークで、1994年に『キングダム』、97年に『キングダムU』として放映された全8話のTVドラマ。視聴率は最高50%を超えるほどの人気だったそう。
その続編にして最終章が、四半世紀を経て作られ、全5話をまとめる形での劇場公開となりました。
監督は、ビョーク主演の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』や、ニコール・キッドマン主演の『ドッグヴィル』、『インフォマニアック』シリーズなどで知られるデンマークの奇才、ラース・フォン・トリアー。
今、彼の14作品を4K修復した企画上映も行われています。詳しくは公式サイトでチェックしてみて下さい。
ユーモアと狂気、デンマークとスウェーデンの確執。そして、悪魔の恐怖。本作は319分。そう、5時間19分です。
ちなみに、『キングダム』も『キングダムU』も、同時に日本再上映となっています。マニアの方は是非!★3つ。
『キングダム エクソダス〈脱出〉』公式サイト


『658km、陽子の旅』は、菊地凛子主演のロードムービー。

青森県弘前市出身の陽子。
夢を抱いて上京したものの、思うようにはいかず。
親に東京に行くことを反対されたこともあり、42歳になった今も故郷には一度も帰っていません。
人と交わることも避け、狭いアパートに引きこもって暮らしていた陽子でしたが、ある朝、激しく部屋の扉を叩く音がします。従兄の茂です。
「親父さんが亡くなった。出棺は明日の正午。俺も家族と車で行くから、陽子も乗っていけ」。
父親とは20年以上会っていません。呆気にとられながら、黒い服に着替え、車に同乗した陽子。
ところが、パーキングエリアで休憩中に、茂の息子が怪我をしてしまい、車は陽子をその場に置いて、病院へ。
壊れた携帯は家の中。茂との連絡も取れず、お金もない陽子は、ヒッチハイクで青森まで行こうとするのですが…。

42歳、独身女性の物語です。
人とのコミュニケーションが苦痛になってしまっていた陽子にとって、ヒッチハイクは至難の業。
乗せてくれたからといって、いい人ばかりではありません。
そんな中でも、真の優しさに触れ、陽子は父を思い、立ち直ろうと考えを改めていきます。
ただ、出棺は明日の正午。果たして、間に合うのでしょうか…というお話。
様々な場面で、父親が幻のように現れます。その父親役がオダギリジョー。「そっか、菊地凛子の父親役がオダギリジョーか…」と、自分の年齢を改めて考えてしまいました(笑)。
人はいくつになっても成長できる、リスタートの一歩を踏み出すことができるんだと、勇気をもらえる映画だと思います。★3つ。
『658km、陽子の旅』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.7.21
『古の王子と3つの花』★★★
『世界のはしっこ、ちいさな教室』★★★
『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』★★★★
(満点は★★★★★)

16日、イギリスの歌手で女優のジェーン・バーキンさんの訃報が届きました。
実は来月4日公開予定の『ジェーンとシャルロット』というドキュメンタリー映画のオンライン試写を観たばかりだったので、本当に驚きました。
親日家だったという彼女。76歳。ご冥福をお祈りします。
映画も公開週にご紹介する予定です。
さぁ、今週は3本です!


『古の王子と3つの花』は、フランスとベルギー合作のアニメ映画。

建設現場に立つひとりの語り部の女性に、集まった観衆が物語のリクエストをしています。
たくさんのワードが飛び交いますが、女性は言います。「入れましょう。いくつかのお話に分けましょう」と。
そうして、3つの物語がスタートします。

第1話「ファラオ」。
今から約3000年前、アフリカの今のスーダンにあった、クシュ王国のタヌエカマニ王子と、美女ナサルサの愛の物語。
ナサルサの母は王子に対し、エジプトを統合し、ファラオにならなければ娘との結婚は認めないと言います。
すると王子は数多の神々に祈り、戦わずして祝福を受けながら、エジプトを制圧していくのでした。

第2話「美しき野生児」
中世フランスのオーヴェルニュ。
領主である冷酷な父から邪険にされ続けた幼い王子は、城の地下牢に幽閉されている囚人の男と会話を交わすようになります。
彼には娘がいましたが、囚われの身で会うことができないと嘆くのを聞き、王子は脱獄に手を貸すんですね。
それを知った父は激怒。王子の処刑を命じたのです。

第3話「バラの王女と揚げ菓子の王子」
18世紀のモロッコ。謀反によって王宮を追われた王子が逃げ込んだのは、バラの王女の国。揚げ菓子店で働くことになった王子は、揚げ菓子を王宮に届けるようにと言われます。その味を王女が気に入り、王子は毎日王女に菓子を届けるようになるのですが…。

『キリクと魔女』、『ディリリとパリの時間旅行』などのアニメ作品で知られる、ミッシェル・オスロ監督作品。
とにかく映像が美しい。色使いの鮮やかさは、溜め息が出そうなくらいです。
第1話の「ファラオ」は、壁画の平面の世界を時に立体化するという手法で、ルーヴル美術館とのコラボレーションによるものだとか。
対照的に、第2話の「美しき野生児」は、切り絵の手法で、黒が主体で描かれています。
第3話の「バラの王女と揚げ菓子の王子」は、そのタイトルからもわかるように、ほっこりした恋物語にバラの艶やかさが
加わるといったイメージ。
1シーン、1シーン、どこを切り取っても、額縁に入れて飾れるようなクオリティの絵が連続して動画になっています。
大人が楽しめるアニメーション。ボクはスマホの画面で観ましたが、大きなスクリーンで見たら、きっと美術館級だと思います。★3つ。
『古の王子と3つの花』公式サイト


『世界のはしっこ、ちいさな教室』は、ドキュメンタリー映画。

アフリカの小国ブルキナファソ。
バングラデイシュ北部に位置するスナムガン地方。
ロシア連邦のエヴェンキ族が暮らすアムール州。
この3つの地域で、子どもの教育に尽力する3人の女性教師を追ったドキュメンタリー映画。

ブルキナファソは、識字率が世界最低レベルの国。夫とふたりの娘を持つサンドリーヌ・ゾンゴは教員の道を選びますが、家族を置いて、携帯の電波も届かないような僻地に数年間赴任しなければなりません。そこに暮らす子どもたちが使う言語も様々で、50人もの生徒を前に、サンドリーヌはいきなり頭を抱えることになります。

バングラデイシュのスナムガンは、1年の半分は水没しているような地域。学校も人道支援団体が主宰するボートスクールで、教師はタスリマ・アクテル。いわゆる児童婚の慣習が残り、教育も、女性の権利もないがしろにされていることにタスリマは強く疑問を抱き、教員の道を選び、特に女子に教育の重要性を説いています。

ロシアのアムール州は極寒の地。トナカイの放牧を生業とするエヴェンキ族の子どもたちへの教育の場は、移動式遊牧民学校。
スヴェトラーナ・ヴァシレヴァは、ソリに机や教材を乗せてキャンプ地を回り、テントを立て、10日間のカリキュラムで授業を行っています。ロシアの義務教育はもちろん、エヴェンキ族であることの誇りを絶やさないよう、伝統や言語も教えていきます。

それぞれに大きな障害が横たわっていて、教えることがいかに大変か。
それでも教育が重要であることを知った情熱ある教育者たちが、犠牲を顧みず、滅私の心で子どもたちに教育を授けているのです。
ボクらは勉強というと、嫌々やってきた感がありますが(笑)、ここに登場する子どもたちは、目をキラキラ輝かせながら学んでいます。
もちろん、最初は遊びたがるし、わからなくて泣き出す子もいます。でも、わかると面白い、先生に褒めてもらいたいと、表情の変化が手に取るようにわかりますから。
子どもの無限の可能性を感じる作品。教育の連鎖にも期待できると思います。3人の教師の志に、敬意と拍手を送りたいと思います。★3つ。
『世界のはしっこ、ちいさな教室』公式サイト


『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』は、オーストリア人作家のベストセラー小説の映画化。

オーストリアのウィーンで公証人として働き、妻のアンナと裕福な暮らしをしていたヨーゼフ。
時はナチス・ドイツがオーストリア侵攻を始めた頃。友人がヨーゼフに国外脱出を勧めますが、ヨーゼフは意に介さず。しかし、悪夢は現実のものとなってしまいます。
ユダヤ人であるヨーゼフは国家秘密警察に捕らえられ、管理していた貴族の莫大な資産を渡すよう迫られるんですね。
直前に書類を焼いたため、必要な銀行番号はヨーゼフの頭の中に。頑として口を割らないヨーゼフに用意されたのは、肉体よりも精神を病む“監禁”という拷問でした。
ホテルの一室で、ただただ時が過ぎるのを待つだけの日々。何日も、何十日も。
活字に飢えていたヨーゼフは、尋問のために部屋を出た時、1冊の本を盗み出すことに成功します。
それはまったく興味のなかった、チェスの指南書だったのです…。

ウィーン出身のユダヤ人作家のシュテファン・ツヴァイクは、いち早くナチス・ドイツによる反ユダヤ主義を察知。1934年、イギリスへ亡命すると、アメリカ、ブラジルと渡り、1942年、この映画の原作となる「チェスの話」を書き終えた直後に自害したそうです。
文豪シュテファン・ツヴァイクに関しては、公式サイト内に、詳しく書かれているコラムがあります。是非、読んでみて下さい。
映画は、ロッテルダム港からアメリカに向かう豪華客船にヨーゼフが乗船するところから始まります。そこで、妻のアンナと久々の再会を果たします。
旅の途中、船の中ではチェスの世界王者が複数の客を相手に一斉に戦っていて、次々軽々と撃破。しかし、途中から代打ちを頼まれたヨーゼフは、勝負を引き分けにまで持ち込むんですね。なぜ、ヨーゼフはこれほどまでにチェスが強いのか。すぐに再戦が組まれるのですが、勝利の行方は…。
そう、物語は監禁されたウィーンのホテルと、豪華客船の中とで繰り広げられていきます。
現在と過去、現実と幻想。
ウクライナでも見せつけられましたが、今ある日常という幸せは、いとも簡単に壊されるものなんだなというのを、改めて突きつけられる作品です。
歴史は繰り返す。こういう映画から学ぶべきは多いと思います。今、見るべき1本がまた加わった気がします。★4つ。
『ナチスに仕掛けたチェスゲーム』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.7.12
『金持を喰いちぎれ』★★★
(満点は★★★★★)

この文章は、札幌帰りの飛行機の中で打っています。
アナログなボクは、いつもガラホで打ったものをスマホに送り、コピペしてアメブロのページに貼り付けているのですが、ガラホにも機内モードがあるので、飛行機の中でも文章が打てるのです。
出張だと日頃のルーティーンワークが難しくなりますからね。この機内時間を有効活用できるのはありがたいことです。
さぁ、今週は1本です!


『金持を喰いちぎれ』は、イギリスで87年に製作されたブラック・コメディ。

ロンドンの最高級レストラン「バスターズ」。
連日連夜、金持ちで溢れかえる店内でしたが、金さえあれば何でも許されると傍若無人に振る舞う客たちには、エチケットもマナーもあったもんじゃありません。
そんな店でウェイターとして働くアレックスでしたが、遂に堪忍袋の緒が切れて大暴れ。店をクビになってしまいます。
ホームレスになったアレックスが、生活保護を申請しに行くと、どこまでも人をバカにしたような役人の態度に腹を立て、なんと銃で撃ち殺してしまうんですね。
ロンドンの街には、アレックスと同じような境遇の人々が溢れています。アレックスは、そんなみんなを集めて、“最底辺軍団”を結成。「バスターズ」を襲撃し、店を乗っ取ってしまいます。
店名を「イート・ザ・リッチ」に改名し、営業を始めると、再び金持ちで店は大繁盛。看板商品はミンチ肉料理。「旨い!旨い!」と、客は舌鼓を打つのですが…。

36年の時を経て、今によみがえった問題作。
超のつくブラック・コメディですが、実は現代社会のあらゆる病巣が、予言のように詰め込まれていて、まるで古さを感じさせない作品なんです。
登場人物はとにかく多種多様。アレックスはLGBTQの黒人で、「バスターズ」では嫌がらせや差別を受けてきました。
さらに、ノッシュというタカ派の内務大臣が出てくるのですが、これがまた粗野で下品で乱暴者。それでも力で押さつける姿が逆に国民の支持を集めるあたり、どこかの国の前の大統領みたい。
他にも、ロシアの工作員やら、テロリストやら…。 
そう、36年前と今が変わっていないのです。
また、ゲストがすごい!ポール・マッカートニーに、ポーグスのシェイン・マガウアン、ザ・ローリング・ストーンズのビル・ワイマンなどなど。乱痴気騒ぎの中に、他にもたくさんいるビッグネームを見つけてみて下さい。
タイトルがすでに“ネタバレ”(笑)。いやはやなんとも…といった映画です。★3つ。
『金持を喰いちぎれ』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.7.6
『愛しのクノール』★★★
『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』★★★★
『Pearl パール』★★★
(満点は★★★★★)

今月公開の映画に5時間を超える大作があって。
オンラインの試写を申し込んだものの、時間が作れるかどうか。
オンラインだから、細切れで観られなくもないのですが、それでも視聴回数に制限があるから、それなりの覚悟が必要です(^^;
悩むなぁ…。
さぁ、今週は3本です!


『愛しのクノール』は、オランダのパペット・アニメーション。

バブスはもうすぐ9歳になる女の子。
ある日突然、アメリカからスパウトじいちゃんが戻ってきます。
バブスは祖父の存在を知らず、どうやら家族も帰国を歓迎していないよう。
誕生日のプレゼントに犬が欲しかったバブスですが、両親は許してくれず。そんな時、スパウトじいちゃんがバブスに子豚をプレゼントするんですね。
両親は猛反対。それでもいくつかのルールを決め、なんとかペットとして飼うことを認めてもらいます。
子豚にクノールと名付けて可愛がるバブス。
ところが、スパウトじいちゃんには、とんでもない目論見があったのです…。

可愛いけど、シュール。
ひと言で言えば、そんな映画です。
豚ですから、犬と違ってしつけもできません。決めたルールを守ろうにも守れず、クノールはあちこちでトラブルを“撒き散らして”いきます。
スパウトじいちゃんがなぜ地元を離れていたのか、何のために戻ったのかが、予告編でも公式サイトでも触れられていなかったので書きませんでしたが、まぁ想像はつくかなと。
ちょっぴりイズム的なものも見え隠れするので、諸手をあげて家族でどうぞと言えない部分もありますが、こういう表現の方法もあるよねといった感じ。
子供が好きな“う○ち”がいっぱい(笑)。観客席に、元気な笑い声は響くと思います。★3つ。
『愛しのクノール』公式サイト


『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』は、ウクライナとポーランドの合作映画。

1939年1月のポーランド。
雪の降る夜、ユダヤ人のハーシュコウィッツ一家が暮らす家に、2組の家族が到着します。
1組はウクライナ人のミコライウナ家、もう1組はポーランド人のカリノフスカ家。どちらも店子として引っ越してきたのです。
ウクライナとポーランドは、国同士が反目し合う関係でしたが、親たちのギクシャクした空気とは無関係に、子供たちはすぐに仲良くなります。
ユダヤ人の娘はディナとタリア。ウクライナ人の娘はヤロスラワ。ポーランド人の娘はテレサ。
実は、ディナはウクライナ人の母ソフィアに歌を習っていました。「これからは遠くまで行かなくてすむ」と喜ぶディナ。テレサもソフィアに歌を教えてもらうことに。
こうして3組の家族は、音楽を通じて仲良くなっていきます。
しかし、時代は第二次世界大戦前夜。幸せな日々が長く続くことはありませんでした…。

登場人物をすべてあげると、3組の家族だけで10人。他にもカギを握る人たちがいるので、あらすじ全体も、ざっくりとにしておきました。ちなみに公式サイトには、家族図が掲載されています。
歴史に翻弄されるポーランドとウクライナ。
まず、ロシア軍がやってきて、ポーランド人夫妻を連行する。時を置いてナチスの進攻が始まるとユダヤ人が連れ去られ。残ったウクライナ人夫婦が、それぞれの娘を匿うのですが、日を追うごとに緊迫感は増していきます。
タイトルにある「キャロル・オブ・ザ・ベル」は、ウクライナで古くから歌われてきたクリスマスキャロル。
ウクライナ人の娘ヤロスラワは、歌うと幸せがやってくるというこの歌を、折りにつけ歌うのですが、哀しみと共に響くことが多く…。
ロシアによるウクライナ進攻が始まる直前に、まるで繰り返される悲劇を予見していたかのように完成した映画だとありました。
戦争、紛争がいかに愚かなものか、最小単位であるひとりひとりの目線で見ればわかりそうなものですが、現実は…。
平和を切に祈る気持ちと、親が子を思う心。
今、見るべき映画だと思います。★4つ。
『キャロル・オブ・ザ・ベル 家族の絆を奏でる詩(うた)』公式サイト


『Pearl パール』は、A24製作のホラー映画。

1918年のアメリカ、テキサス州。
農場の娘パールは、病気の父と、厳格な母との3人暮らし。体が不自由な父の世話をしながら、家畜に餌をあげること。それがパールの日課でした。
実はパールは結婚しているのですが、夫は戦争で出征中。生死すらわからず、日々の楽しみと言えば、動物たちを前に歌って踊ること。そう、パールはダンサーになることを夢見ていたのです。
父親の薬を買いに町に出たパールは、母に内緒でダンス映画を鑑賞。それがきっかけで、若い映写技師と仲良くなります。ヨーロッパにも行ったことがあるという彼の話に、瞳を輝かせるパール。
そんな時、夫の妹から、教会が慰問のためのダンサーを求めていると知らされます。
オーディションに出たいと母に告白すると、猛然と反対され、いつもと変わらぬ強い口調で罵倒されるパール。
それが引きがねとなり、遂にパールの狂気が爆発するのでした…。

22年7月に日本でも公開になった『X エックス』という映画があります。
シリアルキラーの老夫婦が、映画の撮影で家を借りにきた3組の若者を殺害するという話ですが、実はその老婆こそがパール。『X エックス』の舞台は1979年。つまり、その約60年前の話ということになります。
A24の作品は独特の色彩で描かれることが多いのですが、この『Pearl パール』も、20世紀前半のハリウッド映画のような色合い。ロゴもしかりで、昔の映画のレストア版かと思わせるような演出が施されています。
まさに狂気の沙汰の連発ですが、一番恐ろしいのはエンドロールかも。最後の最後を楽しみにしていて下さい。
実は『X エックス』の公開時点で3部作だと発表がありました。『Pearl パール』が前日譚で、待つのは完結編。
白状しちゃうと、ボクは『X エックス』は観てないんです。それでも十分楽しめました。
暑い夏に、ゾッとするホラー。ベストマッチであることは、間違いありません。★3つ。
『Pearl パール』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.6.28
『小説家の映画』★★
『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』★★★★
(満点は★★★★★)

梅雨入り直後は強い雨が多かったものの、6月後半はあまり雨が降らず。
気づいたら梅雨明け間近で、蒸し暑さがやってきました。
雨宿りではなく、冷を求めて映画館。早くも、そんなシーズンの到来ですかね。
さぁ、今週は2本です!


『小説家の映画』は、韓国映画。

人気小説家のジュニ。
しかし、最近は思うように筆が進まず、執筆が止まっていました。
ある日のこと、郊外で書店の店主を務める後輩に会いに行きます。
久々で、なおかつ突然の来訪に驚かれますが、店員のヒョヌも交えて時を過ごしたあと、町の名所であるユニオンタワーまで送ってもらったジュニ。
タワーに登ると、旧知の映画監督のヒョジン夫妻とバッタリ。
挨拶を交わし、タワーを降りて3人で歩いていると、今度はヒョジンがギルスを見つけます。
ギルスは人気の俳優でしたが、仕事を控えているようで、しばらく映画から遠ざかっていたのです。
声を掛け、はじめましての挨拶をするジュニとギルス。互いに互いのキャリアを知っていた二人の女性の出会い。
すると、ジュニはギルスにこう言います。
「わたし、映画を撮りたいと思っていたの。あなたを主演に、短編映画を撮らせてくれない?」…。

韓国を代表する映画監督のひとり、ホン・サンスの27作目。モノクロ映画です。
昨年6月に、25作目の『イントロダクション』と26作目の『あなたの顔の前に』を紹介した際にも書きましたが、長回しの会話が多く、特にお酒を酌み交わしながらの会話のシーンがホン・サンス監督の独特のスタイルだそうで、今作にも、もちろんそんなシーンが登場します。
日常を切り取ったかのような自然なやり取りですが、裏を返せば、それがちょっぴり長く、退屈に感じてしまう…。
ただ、ふとした瞬間に本音が顔に出るんですよ。複雑な感情が裏に隠れているのであろう登場人物たちの本心が。そんな表情に気づけたのなら、この“自然さ”に価値を見出だすことができるのかもしれません。
この作品も、ホン・サンス監督ファンには、たまらない作風なんだと思います。
ちなみに、早くも28〜30作目が完成しているそうです。★2つ。
『小説家の映画』公式サイト


『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』は、内田英治監督と片山慎三監督の共同監督作品。

新宿のゴールデン街で「カールモール」というカラオケスナックを経営するマリコ、27歳。
店の客はみんな“訳あり”。
ホストに入れ込むキャバ嬢。
歌舞伎町のラブホテルでバイトをしている元ヤクザ。
公務員として働いてはいるものの、裏の顔は一流の殺し屋だという姉妹。
さらに、地球外生命体とそれを保護する天才科学者。
忍者を自認するマリコの恋人MASAYA、などなど。
実は、マリコには探偵というもうひとつの顔があります。
すると「カールモール」の扉が開いて、外国人を含む、3人の男女が入ってきます。
聞けば、彼らはFBIで、アメリカに移送中の地球外生命体が連れ去られたと。歌舞伎町にいるはずだから探してほしいと言うのです。
マリコはその依頼を引き受けるのですが…。

このあらすじを読んで、いったい何だ?と思った方がほとんどだと思います(笑)。
でもね、面白い!
『ミッドナイトスワン』の内田英治監督と、『さがす』の片山慎三監督。
新進気鋭の二人の監督が、6つのエピソードを分業。それを1本にまとめているのが、この映画。
それでも新宿・歌舞伎町、新宿ゴールデン街という、混沌とした街が舞台だから、この混沌が当たり前というか。合うんですね。
マリコには15年前の大きな大きなトラウマがある。年の離れたMASAYAと付き合っているのにも理由があって。
書ききれなかった登場人物ひとりひとりに、人生の悲喜こもごもがある。新宿に行けば、本当にいるんじゃないかと思わせるキャラクターたちです。
マリコに伊藤沙莉、MASAYAに竹野内豊。脇を固めるのも個性的な俳優陣。
あなたも「カールモール」の扉を開けて、一緒に飲んでみたくなるはずです!★4つ。した。武藤夫妻の生きざまに、満点!★5つ。
『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.6.23
『告白、あるいは完璧な弁護』★★★
『NO LIMIT,YOUR LIFE ノー リミット,ユア ライフ 』★★★★★
『無情の世界』★★★
(満点は★★★★★)

先日もブログでお話しましたが、FM NACK5がパーソナリティのTik Tokを撮っていて、ボクのところにも依頼がありました。
テーマは「夏にオススメの映画3選」。
Tik Tokだから、数十秒の世界。上手くまとめられるかなぁ…(^^;
公開日が決まったら、またお知らせしますねっ。
さぁ、今週は3本です!


『告白、あるいは完璧な弁護』は、韓国のサスペンススリラー。

ホテルの1室で起きた密室殺人事件。
容疑者はIT企業の若き社長ユ・ミンホ。被害者は彼の不倫相手だったキム・セヒ。
容疑を否認し続けているミンホは、妻の父親のおかげで今の地位にあります。それゆえ、なんとしても無罪を勝ち取らなければなりません。
そこで依頼をしたのが、100%の勝訴を誇る超敏腕弁護士のヤン・シネでした。
山奥にあるミンホの隠れ家を訪れたシネは、無罪を勝ち取るためには、すべてを知っておく必要がある。何ひとつ隠すことなく、事実を話してほしいと告げます。
ミンホは、あの日の出来事を語り始めます。
すると、もうひとつの事件が絡んでいることが判明します。それはこのコテージから、セヒと帰る際に起こしてしまった交通事故でした…。

さわりの部分だけ書いてみました。
セヒが殺されたのは事実。ミンホは容疑を否定していますが、果たして真実は?
徐々に謎解きが進みますが、様々な思惑に、虚と実が入り乱れ、事態は思わぬ方向へと進んでいきます。
書きたいけど、ネタバレしないためには、書けないことがいっぱい(笑)。
どんでん返しというより、いろんな変化球が飛んでくるイメージですかね。二転三転するストーリーを楽しんでみて下さい。
見終わった後で、この映画のタイトルに「なるほど…」となると思います。★3つ。
『告白、あるいは完璧な弁護』公式サイト


『NO LIMIT,YOUR LIFE ノー リミット,ユア ライフ』は、難病のALSと闘う武藤将胤氏を追ったドキュメンタリー。

1986年、アメリカ・LAに生まれ、東京に育った武藤将胤氏。
大学卒業後は、大手広告代理店でプランナーとして活躍し、順風満帆な生活を送っていました。
ところが、27歳の時、手の震えが止まらず、病院を受診すると、ALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されます。
進行が早く、まだ治療法が見つかっていない難病。
絶望しかけたその時、持ち前のクリエィティヴィティが頭をもたげます。
「ALS患者の未来を明るくするアイデアを形にしよう」。
こうして、一般社団法人WITH ALSを設立。
精力的に活動する姿も、病状が進行する現実をも、カメラはとらえていきます。
武藤さんには、妻の木綿子さんがいます。実は、ALSだとわかってから結婚したふたり。木綿子さんの周りからは、心配する声も多数上がったと言います。それでも人生を共にしようと誓った武藤さんと木綿子さん。
パラ馬術の宮路満英・裕美子夫妻のドキュメンタリー本を紹介した時にも書きましたが、巡り合うべくして巡り合い、支え合うべくして支え合っている。もしも前世なるものがあるとしたら、その頃から強い絆で結ばれていたんだろうなと。
2020TOKYOパラリンピックの開会式にも携わった武藤将胤氏。その生き方は、言葉では言い表せないほどに輝いています。
「ぐすぐず言ってないで、前を向いて、とにかく動け!」と強く尻を叩かれたような気がしています。
障がいがあるとか、健常だとかは関係ない。人生を豊かにできるのは、自分自身なんだと教えてもらいました。武藤夫妻の生きざまに、満点!★5つ。
『NO LIMIT,YOUR LIFE ノー リミット,ユア ライフ』公式サイト


『無情の世界』は、3本のショートストーリーからなるオムニバス・ムービー。

『真夜中のキッス』
ユイは、どうやらヤバい事件を犯したよう。血に汚れたまま、ファミレスに立ち寄ると、共犯の恋人ユウジに自首を勧められますが、ユイにそんな気は一切ありません。
ユウジがトイレに立つ間に、近くの席にいたオタクの竹山に言い寄るユイ。
「あの男、ストーカーなの。助けてもらえませんか?」
周りを巻き込み、翻弄しながら、ユイの逃亡劇が始まるのです…。
『イミテーション・ヤクザ』
いかつい顔の渡部龍平は、売れない役者。今日は任侠映画のオーディション。
ちょっと席を外している間に会場階の表記が間違えていたことが伝えられますが、渡部はそれを知らず。戻ってきた時には誰もいません。慌てて当初の階に上がり、扉を開けると強面のお兄さんたちがすごんできます。「どこの鉄砲玉だ、こらぁ!」。
もうオーディションが始まっているのかと、覚えてきたセリフを必死に言う渡部でしたが、そこはオーディション会場ではなく、本物のヤクザの事務所だったのです…。

『あなたと私の二人だけの世界』
フリースペースの雑居ビル。榎本コーチは、女性限定の護身術教室を開いています。ここに男性に恐怖心を抱いている櫻井さんが入会してきます。
護身術教室が終わると、バブリーな女性講師の立花先生による恋愛塾が始まります。下田くんは3年も通っているのに彼女ができません。
護身術教室の片付けと、恋愛塾の準備の間に、少しだけ重なる時間がある。その時です、下田くんは櫻井さんに恋をしてしまったのです…。
俳優の小林且弥が立ち上げた、STUDIO NAYURAの第一回製作作品。
監督はそれぞれ、佐向大、山岸謙太郎、小林昌士。ちなみに『真夜中のキッス』のユイは、唐田えりかが演じています。
ショートフィルムは、起承転結に則らないイメージがありますが、この3本はストーリー性もまずまず。“結”がぼやけるものもありますが、それはそれで狙いなんだなとわかりますから。
三者三様。いろんな料理がワンディッシュに乗ってるイメージ。気軽に楽しめる作品群だと思いますョ。★3つ。
『無情の世界』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.6.16
『カード・カウンター』★★★★
『魔女の香水』★★★
(満点は★★★★★)

雨が多いですね。梅雨のシーズンだから仕方ないと言ってしまえばそれまでですが。
気分転換に映画はいかがですか?大きなスクリーンで異世界に身を委ねるのも、非日常と言えるかもしれません。
さぁ、今週は2本です!


『カード・カウンター』は、『タクシードライバー』(76)の脚本、監督コンビがタッグを組んだ最新作。

米軍の元上等兵だったウィリアム・テルは、悪名高きアブグレイブ刑務所でのイラク人捕虜虐待の罪により、軍の刑務所に約10年間服役。その間に身につけたのが、“カード・カウンティング”という、ブラックジャックの禁じ手とも言える必勝法でした。
釈放されてからは、ギャンブラーとして、カジノを転々とする日々。決して負けることはなく、かといって大きく勝つこともせず。目立たぬように、生活費を稼いでいたのです。
ある日のこと、とあるホテルで、米軍の元少佐が、セキュリティシステムについてのセミナーを行っていました。少佐の名前を見て、中へと入るウィリアム。そこでウィリアムは、カークという若者から声を掛けられます。
聞けば、カークの父もウィリアムと同じアブグレイブ刑務所にいたと。そして、同様の嫌疑で不名誉除隊になってからは、薬物中毒になり、家族をバラバラにした後、自ら命を断ったと。その時の上司こそがセミナーでしゃべっていたゴード少佐。カークは、自分だけ罪から逃れたヤツが、のほほんと暮らしているのが許せないと言うのです。
ちょうどその頃、ウィリアムは、ラ・リンダというギャンブル・ブローカーの女性から、大金を賭けたポーカーの世界大会への参加を持ちかけられていました。
表に出ることを望んでいなかったウィリアムでしたが、カークのことがどうにも心配になったため、これを了承。カークを誘い、カークと共に、真剣勝負の場に身を置くことになるのですが…。

監督は『タクシードライバー』の脚本を書いたポール・シュナイダー、製作総指揮は同作の監督を務めたマーティン・スコセッシ。
オスカー・アイザック演じるウィリアム・テルは、見るからに孤独で、寡黙で、訳ありな男。
宿泊するモーテルの部屋も、あらゆる装飾をはずし、持参した白い布ですべてを覆うという。そんな行動に心の闇が表れています。
カークのことが身内のように思えたのか、共に行動することは、カークが突発的な行動を取らないよう監視する意味もあったのでしょう。
ふたりの会話から、だんだんと明らかになる、あまりに過酷すぎるウィリアムの過去。
ラ・リンダの存在も、ふたりにとっては大きな心の拠り所になっていたようで。
抜け出せない人生の暗闇に、小さな灯りが点ったかのような3人の出会い。これがどう進展して、どんな結末を迎えるのか。それは、どうぞご自身の目で確かめてみて下さい。★4つ。
『カード・カウンター』公式サイト


『魔女の香水』は、黒木瞳、桜井日奈子主演の“香り”の映画。

若林恵麻は派遣社員。今は、バンケットホールでコンパニオンとして働いています。
いつかは正社員にという触れ込みで就職したのですが、上司のセクハラを告発した途端に契約更新がされなくなってしまった恵麻。
次の会社でも、やる気は空回り。恵麻は必要とされていない自分を蔑むかのように、夜の街へ。自らスカウトの男に声を掛けるのですが、ここでも相手にされず。
ところが、そのスカウトマンが入っていったのが、街に古くからある香水の店。“魔女”の呼び名で親しまれている白石弥生が経営するその店は、不思議な魅力に溢れていたのです。
弥生も恵麻の何かを感じ取ったようで、恵麻に店を手伝ってみないかと誘います。
恵麻は弥生からたくさんのことを学び、自ら起業を決め、新たな人生の一歩を踏み出そうとするのです…。

“魔女”こと白石弥生は、昔、フランスで日本人の調香師と出会い、愛を育み、ふたりだけの香水を作ろうとするのですが、全9種類のうち、No.9だけが未完成。そのままふたりは別れてしまい、弥生は今もその香りを作ろうと、人生を賭けてレシピを探っています。
一方の若林恵麻も嗅覚は優れていて、弥生の店を手伝っている時に出会った金木犀の香りの男性は、恵麻のその後に多大な影響を与える横山蓮という実業家。
このように、香りで繋がったいくつもの糸が、幸せと悲劇とを紡ぎだしていきます。
音楽もそうですが、香りも瞬時にあの頃へとタイムスリップさせてくれるのが魅力。ボクも使い切っていないパフュームがいくつかあるから、さりげなく使ってみようかな(笑)。
この映画は、宮武由衣監督のオリジナル脚本。女性らしいという表現が今は適切かどうかわかりませんが、そんな作品だなと感じました。
それにしても、黒木瞳さんが美しい!まさに美魔女です。★3つ。
『魔女の香水』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.6.9
『エリック・クラプトン アクロス24ナイツ』★★★
『コロニアの子供たち』★★
『テノール! 人生はハーモニー』★★★
『逃げきれた夢』★★★
『ミート・ザ・フューチャー 培養肉で変わる未来の食卓』★★★
『リファッション アップサイクルでよみがえる服たち』★★★
『レンタル×ファミリー』★★
(満点は★★★★★)

今週は紹介する作品がたくさんあります。
それでは、早速いきましょう!
さぁ、今週は7本です!


『エリック・クラプトン アクロス24ナイツ』は、ライブ・ムービー。

世界中にファンを持つ、世界最高峰のギタリスト、エリック・クラプトン。
80年代後半は、ロンドンにあるロイヤル・アルバート・ホールでの長期公演を活動の柱にしていましたが、その中で、90年1月18日から2月10日までの18公演と、91年2月5日から3月9日までの24公演から映像をチョイス。
オーケストラとの共演や、ブルースの大御所を招いたブルース・ナイトなど、それぞれに趣向を凝らしたステージを見せていましたが、その中から24のパフォーマンスを選び、1本の映画にまとめて、4Kリマスタリングで今によみがえらせたのが、この作品です。
この手の映画のいいところは、訳詞が付くこと。「えっ、そんな内容の歌だったの?」と驚くことも、たまにありますよね(笑)。
フィル・コリンズがドラムを叩いていたり、先のブルース・ナイトでは、ゲストのギタリストと、まるでギターとギターで語り合うかのような演奏が素晴らしかったです。
今年4月に、外国人アーティストとしては初めてとなる、日本武道館100回公演を記録したエリック・クラプトン。
未発表曲も数多くあり、ファンにとっては必見の1本と言えそうです。★3つ。
『エリック・クラプトン アクロス24ナイツ』公式サイト


『コロニアの子供たち』は、事実に基づくカルト映画。

1960年代の初め、チリの地に、ドイツによって建てられた学校「コロニア・ディグニダ」。
ナチスの残党が創設したというこの学校は、一環した規律に守られ、外から見れば素晴らしい教育の場でしたが、その裏では洗脳や拷問、女性虐待、幼児性愛といった、とんでもない悪事が繰り返されていたのです。
1989年、12歳の少年パブロが奨学生として入学すると、歌が上手く、活動的なパブロは、すぐに校長であるパウルに気に入られます。
しかし、それがパブロにとっての悪夢の始まりだったとは、まだ知るよしもなかったのです…。

全寮制で、生活のすべてが監視されており、パウルのお気に入りになるとTVが観られる代わりに、裸で彼のベッドに入らなければなりません。
そこだけ切り取れば、なんとなく、今、世間を騒がせている某芸能プロダクションの問題にも似て…。
コロニアは実在のカルト集団で、今もなお行方不明者の捜索願いが出されていたり、告発が続いていると言います。
観ていて、決して心地いいものではありませんでした。過去にも何度か映画になっているそうで、地元ではそれだけインパクトの強い存在であることが窺い知れます。★2つ。
『コロニアの子供たち』公式サイト


『テノール! 人生はハーモニー』は、音楽が題材の感動作。

アントワーヌは、寿司のデリバリーで働くフリーター。特技はラップで、敵対するグループとのラップバトルに力を注いでいます。
そんな彼が、パリのオペラ座に出前に行った時のこと。寿司を届けに行った部屋では、オペラのグループレッスンのまっ最中。立ち止まって見とれていたら、最後列の男に「消えな、このスシ野郎」と罵声を浴びせられ、アントワーヌはオペラの真似事で返します。
その歌声に惚れ込んだのが、オペラ教師のマリーでした。
マリーは店に足を運び、出前を届けたのは誰かと問い詰めます。
後日、呼び出されたアントワーヌがオペラ座に行くと、「あなた、オペラを歌ってみない?」と、マリーにスカウトされたのでした…。

しがないフリーターのラッパーが、あのオペラ座でオペラ歌手になる!?
夢いっぱいのサクセスストーリーです。
アントワーヌの長兄はストリートファイターとして違法に金を稼ぎ、家族を支えています。つまり、アントワーヌは貧困層の家庭に生まれ育ったんですね。
オペラは裕福な家の子息が嗜むもの。興味はあれど、まったく場違いなジャンルゆえ、アントワーヌも最初はマリーの誘いを断ります。
それでも、歌の才能がそうさせるのか、だんだんとオペラが楽しくなっていくアントワーヌ。
もちろん兄弟には内緒だし、技術的にも、メンタルの面でも、プライドに関しても、行く手を阻む壁はそこらじゅうにあります。
果たして、アントワーヌの歌は、厳しいオペラ座の“耳”を満足させられるのでしょうかというお話。
いいストーリーだったのですが、「いやぁ、そんなに甘くないでしょ、オペラって」と感じちゃったのが残念だったかな。アントワーヌがオペラに対して、片手間で臨んでいるイメージなんですよね…。
プロは、「才能×多大な努力」で歌を磨いていきます。演歌もそう。あんなに上手いのに、今でもちゃんとレッスンを続けている人気実力派歌手はたくさんいるんですから。
そのリアリティに欠けちゃってたぶん、★を減らしましたが、それ以外は王道を行く感動ドラマだと思いますョ。★3つ。
『テノール! 人生はハーモニー』公式サイト


『逃げきれた夢』は、光石研が主演の人間ドラマ。

末永周平は、北九州にある定時制高校の教頭先生。
ところが最近、もの覚えが悪く、教え子だった南の働く定食屋でも支払いを忘れて店を出てしまうほど。周平は、認知症で施設にいる父親と似てきたのではないかと不安を覚えていたのです。
これまで40年近く真面目に仕事をしてきましたが、妻の彰子にはスキンシップすら拒まれ、娘の由真からは気持ち悪いとまで言われ。ふと振り返れば、自分の人生はいったい何だったんだろうと考えるようになっていました。
仕事から帰った周平は、家族に言います。
「俺、学校辞めるわ」…。

定年まであと僅かという、中年男性のなんでもない日常を描いた物語。
認知症の初期かという症状も出始め、これからの先の人生のために、なんとかリセット、リスタートしようともがく男の姿を描いています。
“なんでもない”と書きましたが、ひとりの人の人生ですから、実はなんでもないことはなくて。それが元教え子との会話や、バイク屋を営む親友とのやり取りに、垣間見えたりもします。
鑑賞後にタイトルの意味を考えてみたのですが正直、よくわかりませんでした。
ただ、先日上岡竜太郎さんが亡くなった際、息子さんが父の生涯を「勝ち逃げの人生」と表現していました。“逃げきる”とはそんなニュアンスなのかなと。
勝ち逃げかどうかはわからないけど、なんとか人生納得して幕を閉じられればという意味なのかなぁと。
ご覧になったら、いろいろと考えてみて下さい。★3つ。
『逃げきれた夢』公式サイト


『ミート・ザ・フューチャー 培養肉で変わる未来の食卓』は、未来の肉を扱ったドキュメンタリー。

牛の出すゲップにはCO2がいっぱい。畜産由来の温室効果ガスの問題は、深刻だと言います。
加えて、命を食べるというこれまでの畜産を変えることはできないだろうかと、インド出身のウマ・ヴァレティ博士は考えました。それが培養肉です。
ウマ博士は、元々心臓が専門のお医者さん。子供の頃、友達の誕生日パーティーに行った時、鶏がしめられるのを見て、肉の成る木があればいいのにと思っていたそう。
映画は、そんなウマ博士の2016年から19年の活動を追いかけています。
博士の企業『アップサイド・フーズ』には、持続可能な食の形態に将来性があるということで、ビル・ゲイツやソフトバンク・グループも出資をしているとか。
肉好きのボクにしてみると、大豆ミートはちょっぴり違和感があったけど、培養肉はどうでしょう?
いつ頃、ボクらの口に入るようになるのかな?怖さと好奇心が入り交じってます(笑)。
ちなみに、この映画と、次の『リファッション…』は、エシカル・ライフ・シネマ特集として、2本同時公開となっています。★3つ。
『ミート・ザ・フューチャー 培養肉で変わる未来の食卓』公式サイト


『リファッション アップサイクルでよみがえる服たち』は、香港を舞台にした環境ドキュメンタリー。

“ファストファッション”。
最新の流行を取り入れながら、低価格の衣料品を
短いサイクルで提供する業態のこと。
人口が密集し、埋め立て地ももういっぱいで、ゴミの廃棄が限界に来ている香港では、廃棄衣料の問題が深刻化していました。
この映画では、そんな社会問題を解決するため立ち上がった、3人の香港人とその周りの人々にスポットを当てています。
まずは、水や薬品を使う
ことなく、廃棄衣料から糸を取り出し、新たな衣類を作ることに成功した、『香港繊維アパレル研究所』のCEOエドウィン・ケー。
次に、香港では敬遠されがちな古着の子供服に、いかに付加価値を付けるかを考え、自身のブランド『RETYKLE』で格安で展開しているサラ・ガーナー。
最後は、ペットボトルやプラスチックごみを回収し、リサイクルする『Vcycle』の代表エリック・スウィントン。
中国や東南アジア、アフリカ諸国が、ごみの輸入を停止したことで、自国のごみの行き場がなくなってしまったのは、日本もそうですが、香港もしかり。ただ、他国にごみを押し付けていたこと自体が問題ですよね。
CO2の排出規制も、金で枠を売るだの、買うだの、なんか違わないですか?
香港は、とにかく土地が狭いから、ごみ問題は喫緊の課題。初めて知りましたが、香港はペットボトルが分別廃棄されていないんだそう。
“無理”とか“不可能”とかから入ってしまったら出来ないことが、“やれる”という信念で動けは可能になるんだというのを知る映画でもあります。
ボクなんか、物持ちがいいから、10年以上ずーっと着てる洋服ばかり。でも、これもある意味、環境に優しいってことなのかもしれませんね。胸張って着ようっと(笑)。★3つ。
『リファッション アップサイクルでよみがえる服たち』公式サイト


『レンタル×ファミリー』は、実在するサービス業を基に描かれたヒューマン・ドラマ。

ヒューマンレンタル株式会社。ここは、人間レンタルの企業。社長は三上健太。
時に父親になり、時にデートの相手をし、時に結婚式の親族を演じ。そのニーズは多岐に渡るといいます。
物語は、三上がパパを演じていた3つの家族のオムニバス・ストーリー。
夫のDVを理由に離婚を決意し、現在シングルマザーとして娘のさくらを育てている朋子。ところが、ある日突然、別れた夫が家を訪ねてきたのです。三上を実のパパだと思っていたさくらは、何かがおかしいと気づいてしまいます。
雅美もひとり息子を育てるシングルマザー。しかし、三上への依存が高まり、決して安くはない料金をどうやって工面しているのか。三上はあえて依頼を断るようにしたのですが。
最後は、由美子と菜々子の母と娘。菜々子は勉強熱心な高校生で、大学進学を目指しています。由美子は昼も夜も働いて、菜々子の夢を叶えようと頑張っていたのですが、過労が原因で亡くなってしまいます。葬儀の後、菜々子は三上から真実を聞かされるのでした…。

本当にあるんですね、人間レンタル業。
この映画は、実在の企業、株式会社ファミリーロマンスの代表・石井裕一が書いた著書の映画化でもあります。
お茶をするとか、デートの相手をするぐらいならまだしも、長らく父親を演じるのは無理があるんじゃないかと思ってしまいますが、大丈夫なんでしょうね。そこが“プロ”たる所以なのかも。
ただ、映画はところどころで演技の粗さが目についてしまいました。繊細なテーマだけに、残念だったかな。
ニーズがあればこそ、企業は成り立つわけで。こんな仕事もあるんだと、知見を広げるにはいいかもしれません。★2つ。
『レンタル×ファミリー』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.6.2
『渇水』★★★
『スパイスより愛を込めて。』★★
『ブラック・デーモン 絶対絶命』★★★
(満点は★★★★★)

6月になりました。
6月といえば、梅雨のシーズン。今年は例年よりも梅雨入りが早いとか。そうなると、インドアの楽しみを見つけないといけません。
そんな中、映画はもってこいの娯楽ですq(^-^q)
新作、旧作とも、よかったら、このコラムを参考になさってみて下さい。
さぁ、今週は3本です!


『渇水』は、30年前の隠れた名作小説を映画化した、生田斗真主演の人間ドラマ。

群馬県前橋市の水道局に勤める岩切俊作は、料金滞納者の家を訪れ、支払いを催促。悪質な場合は、その場で水道を止めるのが仕事。
まったくと言っていいほど雨が降らず、前橋市に給水制限が出される中、今日も後輩職員の木田と一緒に数軒の家を回って、一部で停水を執行していく岩切。
木田は言います。「お日さまはタダなのに。空気だってタダで吸い放題。だから、水だってタダでいいんじゃないですかね」。
車を止めたのは、ふたりの姉妹が留守番をする家。小出家です。父は蒸発し、ほぼ育児放棄の母・有希を健気に待つ、恵子と久美子の姉妹。
「止めるんですか。水道」。
そう尋ねる久美子に、岩切は答えます。
「規則だからね」。
そう言いながらも、考えてしまう岩切。
自分自身も妻とうまく行っておらず、妻が息子を連れて実家に帰ってからは孤独な時間を過ごす毎日。
小さな力で支え合って生きる姉妹の姿に、岩切は葛藤を抱くのでした…。

今は石油で戦争が起きているけど、近い将来は水を巡って戦争になると言われてもいる大切な資源、水。
その水をテーマに、「渇いているのは心でしょ?」というのを描いたのがこの映画です。
岩切と木田が回る料金滞納の家庭は、事情も様々。おそらく取材を基に、たくさんのサンプルを用意したんだと思います。
原作と映画はちょっと違うようですが、物語の中核にふたりの幼い姉妹がいるのは変わらないよう。30年前から社会問題としてあったのなら、社会はあまりよくはなっていないんだなぁと思ってしまいます。
この映画を観て、誰に共感するのか、しないのか。人それぞれかもしれません。逆に、30年前より格差が広がっているとしたら…。表立って見えないだけで、こんな話はあちこちにあるのかもしれませんね。
梅雨空を眺めながら、考えてみてはいかがですか?★3つ。
『渇水』公式サイト


『スパイスより愛を込めて。』は、カレーを真ん中に置いた青春サスペンス。

世間に、新たなウイルスが蔓延していた頃。日本の厚生労働省の山神大臣が、カレーのスパイスが特効薬になると発表してしまったため、世界中のスパイスが争奪戦となり、カレーが世の中から消えてしまいます。
母のカレーが大好きな高校生の山本蓮は、楽しみがひとつ奪われたかのよう。
同級生で、地元のモデルとして活躍している葛城沙羅と蓮は幼なじみ。沙羅のファンだという同級生の端目莉久が、こっそり沙羅にカレーを贈ると、沙羅はそのカレーを蓮にもプレゼント。
なんで莉久がカレーを作れるのかと言うと、実は莉久の家はスパイス研究所。父の陽一は、スパイスがウイルスに効くことを突き止めながら、病に倒れ他界。世界中の人を救うようにと、そのデータを莉久に託したのですが、そこには金の匂いがすると、有象無象の衆が集まってきたのです。
莉久の兄の真司ですら、データはどこだと妹に迫る始末。
この騒動は、終末を迎えることができるのでしょうか…。

カレー店の数の多さが3年連続日本一という、石川県。その金沢市を舞台に作られた映画。
実は、あらすじに書ききれなかった要素がたくさんあって。カレーはスパイスが混ぜ合わさって出来る、味と香りのハーモニーですが、この映画は残念ながら、余計なものが入りすぎているんじゃないかなぁと、正直感じてしまいました。
見出しの“カレーが真ん中の青春サスペンス”って、何?って感じでしょ(笑)。
まぁ、これはボクが付けているので、ボクにセンスがないだけかもしれないけど(^^;
恋愛、家族愛、LGBTQ、リベンジ・ポルノ、SF、サイエンス、カレー、スパイス、政治、利権、そしてサスペンス。一緒の鍋で煮込めるかなぁ…。あ、でもね、最後にカレーが食べたくなることは確かです(笑)。
すみません。カレーだけに、辛口で。★2つ。
『スパイスより愛を込めて。』公式サイト


『ブラック・デーモン 絶対絶命』は、巨大なサメと戦うサバイバル・スリラー。

ポールはニクソン油田の社員。昔、担当したメキシコの海底油田、通称“ディアマンテ”の視察を命じられ、せっかくならと、妻のイネス、娘のオードリー、息子のトミーを連れて、バカンスを兼ねての出張にしようと、家族で車を走らせていました。
訪れたのはバイーア・アズールという町。ところが、あの頃の繁栄は見る影もありません。
それどころか、石油関係者だと言うと、冷たい態度であしらわれてしまいます。
ポールはさっさと仕事を切り上げて、この町を出ようと決意。レストランに家族を待たせ、なんとかボートを出してもらい、沖に浮かぶ建屋へと向かいます。
しかし、そこにいたのは疲弊しきった2人の地元の職員、チャトとジュニアだけでした。他はみんな死んだと言います。耳を疑うポール。
その時、双眼鏡がとらえたのはボートで向かってくるポールの家族でした。
レストランで襲われそうになり、ポールのあとを追ってきたと言うのです。
家族を降ろしたボートが陸に戻ろうとした、その時です。信じられないほどの巨大なサメが現れ、ボートを木っ端微塵に噛み砕いたのです。
「あれがブラック・デーモンだ」。
チャトは言います。「あれはサメじゃない。呪いなんだ」と…。

サメの映画と聞いて、正直あまり期待していなかったのですが、意外にと言っては失礼ですが、面白かったです。
ディアマンテは水も食料も尽きそうな“鉄の孤島”。加えて、電波も届かず、通信手段もない。
実はこの海底油田を爆破しようと、何者かが時限爆弾を仕掛けていて、ポールたちがそれを見つけた時には、爆発まであと1時間もない。海には超巨大なサメもいる。まさに絶対絶命…というお話。
環境問題、家族の愛など、様々な要素が絡まって、うまくストーリーも練り上がっていたと思います。
サメ映画のマニアの人、多いみたいですね。どんな評価になるのか、逆に聞いてみたいです。★3つ。
『ブラック・デーモン 絶対絶命』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.5.25
『The Witch 魔女 増殖』★★★
『THE KILLER 暗殺者』★★★
(満点は★★★★★)

最近は、朝起きて、本格的に動き出すまでの時間に、映画のオンライン試写を観るようにしています。これもボクの中では時間の有効利用。
ただ、重いテーマだったり、残酷な映像の映画だと、1日のスタートがどんより…(笑)。
最近はあまり聞かなくなった言葉ですが“T.P.O.”。どんな時も、作品のチョイスは重要ですよね。
さぁ、今週は2本です!


『The Witch 魔女 増殖』は、韓国のバトル・ロワイヤル・アクション。

秘密研究所アーク。
ここで進められていたのは、遺伝子操作で超人的暗殺マシーンを造る“魔女プロジェクト”。
そのアークが何者かに襲撃され、すべての人や物が破壊されてしまいます。
ところが、ひとりの少女だけが生き残ったのです。
彼女の名はシン・シア。コードネームは“アーク1”。完成した実験体です。
血まみれになりながらも、初めて外の世界を知るシン・シア。
しかし、シン・シアの生存を知ったプロジェクトのペク総括は、その強力な能力を危険視し、彼女の抹殺を命じます。
そんなシン・シアを救ったのは、キョンヒとテギルの姉弟でした。
親が遺した農場を守るふたりでしたが、彼らにも地元の暴力団が所有権を譲れと、強引に迫っていたのです。
プロジェクトからも、アークを襲った謎の集団からも命を狙われるシン・シア。そこにキョンヒたちを脅す犯罪集団も加わり、壮絶なバトルが始まったのです…。

前作が大ヒットとなった韓国映画の第2弾。
映画は、バスに乗った女子学生たちが事件に巻き込まれるシーンから始まります。
どうやら狙われたのは、その中のひとり。それがシン・シアと第1弾のの主役でもあったジャユンの母で、この時すでにふたりを身籠っていたのです。そう、シン・シアとジャユンは双子の姉妹なんですね。
時は流れ、場面は変わって、研究所の襲撃シーンへ。
そこからは、書いたあらすじのような展開へと移っていきます。
バトル・ロワイヤルとは、簡単に言えば“1vs複数”。自分または自分たち以外はすべて敵というサバイバル・バトル。
この映画も、超能力あり、近代兵器ありの壮絶バトル。それでも主人公はまだ幼ささえ残る女の子。ただ、超人的能力を持つ殺人マシーンなわけです。
1作目を知らなくても、十分楽しめます。とはいっても、SNSの時代です。検索して、前作の流れを知ってから観ると、より楽しめると思いますョ。★3つ。
『The Witch 魔女 増殖』公式サイト


『THE KILLER 暗殺者』は、韓国のクライム・アクション。

凄腕の殺し屋だったウィガン。今は稼業から引退し、事業で儲けたお金で豪邸に住み、愛する妻と優雅に暮らしていました。
そんなある日のこと、妻が友人の女性と済州島に旅行に行くので、友人の娘を3週間、家の2階に泊めて欲しいと言い出します。もちろん、ボディーガードの役目も込みです。
妻に頭が上がらないウィガンは、渋々引き受けることに。
友人の娘はユンジ。まだ怖いもの知らずで、生意気盛りの17歳です。
ここぞとばかりに羽根を伸ばそうとするユンジに、魔の手が襲いかかります。ユンジが連れて行かれたのは、売春組織のアジトでした。
そっとユンジにGPSを忍ばせておいたウィガン。居場所を突き止めると、いとも簡単にユンジの救出に成功します。
ところが、組織はユンジを諦めません。ウィガンの外出中に家に侵入し、再びユンジを誘拐していったのです。
裏には何やら巨大な闇が渦巻いていそうなこの事件。ウィガンの殺し屋としての本能に火がついたのです…。

ウィガンはかなりの恐妻家。「ユンジを頼むわね」と言われたからには、何があっても守らなければなりません。
なのにユンジが誘拐されてしまった。救出の期限は妻が戻るまでの3週間。今起きている出来事を、妻とその友人は知らないのです。
表情ひとつ変えることなく、銃のトリガーを弾き、人の体を切り裂くウィガン。クールでスタイリッシュな殺人者ですが、奥さんが怖い(笑)。
裏から見ると、コミカルでもあります。
ボクの周りのお偉いさんにも、実は恐妻家だという人が少なくありません。恐妻家のほうが出世すると聞いたこともあります。この映画は、そんなところにリアリティが隠れているのかも(笑)。
設定は違えど、「うちもそうなのよ…」と苦笑いの人も多いんじゃないですか?★3つ。
『THE KILLER 暗殺者』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.5.18
『宇宙人のあいつ』★★★★
『ソフト/クワイエット』★★★
(満点は★★★★★)

先日、久々に映画会社の試写室で映画を観ました。
最近はオンライン試写をスマホで観ることが増えましたが、やっぱり大きなスクリーンはいいですね!
さぁ、今週は2本です!


『宇宙人のあいつ』は、“エイリアン・コメディ”。

高知県の土佐市に暮らす真田4兄妹。
長男の夢二は、両親が遺した「ヤキニク サナダ」を経営。次男の日出男は店を手伝い、長女・想乃は市の施設で働き、三男の詩文はガソリンスタンドで働いています。
両親を亡くした兄妹は、夢二を中心に固い結束で結ばれていたのですが、ある日突然、日出男が衝撃の告白をします。
「実は俺、宇宙人なんだ」。
何をバカなことをと笑い飛ばす兄妹たちでしたが、日出男は人間の生態を調査しに土星から地球にやってきた土星人で、23年間、家族になりすましていたと言うのです。
その証拠にと不思議な能力を見せつけられては、信じざるを得ません。
さらに日出男は写真には写らないと言います。過去の写真を改めて見てみると、確かにそこに日出男の姿はありませんでした。
日出男に残された時間はあと3日。
ところが、日出男を悩ます重大なミッションがまだ未解決だったのです…。

バカバカしい設定だなと思いきや、感動の家族愛に包まれる“エイリアン・コメディ”。
宇宙人もののコメディで感動したのは、『ギャラクシー・クエスト』以来かも…って、99年作。これまた懐かしい(笑)。
夢二にバナナマンの日村勇紀、日出男に中村倫也、想乃に伊藤沙莉、詩文に榎本時生。
一見して楽しそうなメンバーですが、日村さんの演技の上手さにビックリ!一芸に秀でる人はすごいんだなと改めて感じました。
夢二は女性に縁がなく、逆に想乃はダメンズを掴んでしまう。今もDV男と切れずにいます。
詩文は学生時代の出来事を根にもつヤツに仕返しされるなど、みんなそれぞれに大なり小なり悩みを抱えていました。
そんな中、一番大きな問題に悩んでいたのは日出男。書くとネタバレになるかもしれないので控えますが、それを解決するための行動に家族愛がたっぷりと。
謎のじゃがいもや、巨大うなぎなど、サブキャラもたくさん(笑)。笑って、感動して、楽しめる1本だと思います。★4つ。
『宇宙人のあいつ』公式サイト


『ソフト/クワイエット』は、92分をワンショットで撮影したクライム・スリラー。

白人女性のエミリーは、幼稚園の先生。
そのエミリーが発起人となり、教会の一室を借りて会合を開きます。
会の名前は“アーリア人団結をめざす娘たち”。
そう、白人至上主義女性たちの集まりです。
「差別を口にできるのはやつらだけ。逆に差別されているのは白人のほうだ」と、集まった6人は有色人種や移民、そしてマイノリティの存在を毛嫌いし、罵詈雑言をぶつけ合います。
そんな会話を教会の牧師に聞かれ、追い出されてしまった彼女たちは、場所をエミリーの家に移して2次会をやることに。
買い出しのため、参加者のひとり、キムの営む食料品店に立ち寄った際、近所に住むアジア系のアンとリリーが店のドアを開けます。
露骨に嫌な態度を取るキム。店内で激しい口論になると、姉妹が帰った後も怒りが収まらないメンバーたちは、留守のはずの姉妹の家に侵入し、パスポートを盗んでやろうと意気投合。
ところが、家の中を荒らしている最中、帰宅したリリーと鉢合わせしてしまったのです…。

2000年に設立されたプラムハウス・プロダクションは、『パラノーマル・アクティビティ』や『ゲット・アウト』などの衝撃作を世に送り出してきた映画製作会社。その最新作です。
監督・脚本は、サンフランシスコ生まれのベス・デ・アラウージョ。彼女自身、母は中国系アメリカ人で、父はブラジル人。
公式サイトに、監督のコメントがありますが、異例の長さで、この映画を撮ろうと思ったきっかけ、思いなどが語られています。
ワンショットの92分も、リアルに流れる時間ですからね。観客に1秒たりとも気を抜かずに観てもらいたい、このことを自分事として“体験”してほしいという思いからだったようです。
やや意味不明な冒頭のシーンも、物語が進むに連れ、「なるほど、そういうことだったのか…」と思い返すはず。
スリラーやホラーで一番怖いのは、人の心の中に棲み憑くもの。そんな恐ろしさがあります。
プラムハウスの今後の作品にも注目です。★3つ。
『ソフト/クワイエット』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.5.11
『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』★★★
『同じ下着を着るふたりの女』★★★
『クロムスカル』★★
『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』★★★★
『TAR ター』★★★
『デスパレート・ラン』★★★
『フリークスアウト』★★★
『MEMORY メモリー』★★★
(満点は★★★★★)

GWが明けたら、大量の映画紹介が待っていました(笑)。早速いきましょう。
さぁ、今週は8本です!


『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』は、ジェームズ・グレイ監督の自伝的物語。

1980年代のNY。ユダヤ系の中流家庭に生まれた、12歳の少年ポール。
ポールには、働き者の父アーヴィング、PTAの会長を務める母エスター、私立の学校に通う兄テッドがいます。
そして何より頼りにしていたのが、祖父アーロンの存在でした。
兄と違い、公立の学校に通っていたポールでしたが、あることがきっかけで、黒人のクラスメイトのジョニーと親しくなります。
宇宙への夢を熱く語るジョニー。しかし、ジョニーは教師に目をつけられ、何度も落第している問題児。そのジョニーと学校のトイレで大麻を吸っていたのがバレてしまい、ポールは兄と同じ私立校へと転校させられてしまいます。
ポールに会いに来たジョニー。学校のフェンス越しにジョニーと話すポールに、級友から「お前、黒人の友達がいるのか?」と問われたポールは、本心とは違う言葉を口にしてしまうのでした…。

人種差別がまだ色濃く残っていた80年代のNY。
不自由なく育っていたポールとは対照的に、ジョニーの家は母ひとり子ひとりで、貧しく、頼る大人もいません。
加えて、あからさまに差別的な教師にあらがうジョニーは、不当な仕打ちを受ける毎日。
手を差し伸べてあげたいけれど、でも世の中の目も気になる。ポールの心は千千に乱れます。
わかりますよね、その気持ち。
ポールの心に芽生えた、ジョニーに対する正義、友情が、さらに大きな事件を引き起こします。ジョニーへのと言うより、“自分自身への”と言ったほうが正しいのかも。
祖父のアーロンも、移民です。少なからず差別を受けてきた側の人間です。アンソニー・ホプキンス演じるアーロンは、ポールに言います。「高潔に生きろ」と。
兄弟の通う私立校は、ドナルド・トランプ元大統領の父が資金を出しているようで、スピーチの内容も、それに対するポールの行動も、この映画のひとつの見処となっています。
甘酸っぱいという表現が正しいのかはわかりませんが、観れば、心の奥の奥がむずがゆくなるような感覚をおぼえるはずです。★3つ。
『アルマゲドン・タイム ある日々の肖像』公式サイト


『同じ下着を着るふたりの女』は、母と娘を描いた韓国の人間ドラマ。

若くしてシングルマザーになったスギョン。同居する娘のイジョンは、もうすぐ30歳になります。
ところが、この母娘、ちょっと関係が普通ではありません。スギョンはいくつになってもオンナ。娘の卒業式よりもオトコを選ぶような女性で、イジョンは、気性の荒い母の顔色を伺いながら生きてきたのです。
ある日のこと、スーパーに買い物に行ったふたりは、いつものようにケンカになります。イジョンが駐車場に出ると、スギョンは車でイジョンをはねてしまうんですね。
大怪我をして入院したイジョンは、積年の恨みを母にぶつけます。警察の取り調べでも、車が突然発進したと主張する母に対し、殺すつもりではねたと証言する娘。それは裁判でも変わりませんでした。
イジョンは、会社の同僚で、年下のスヒと気が合い、家を出てスヒの家に転がり込みますが、それも数日。「ここで暮らそうかな」と言うイジョンでしたが、スヒにとっては迷惑な話です。
一方、スギョンにも子持ちの彼氏がいて、再婚を願っていますが、なかなか思い通りに事は運ばず、イライラが募るばかり。
この母娘に待つ未来とは…。

依存と暴力という、歪な関係にある母と娘。
確かに母娘は同じ下着を使い回していたのかもしれないし、このタイトルには比喩の部分もあるのかと思います。
スギョンは頑張って娘を育てた自負があるから、イジョンが自分を憎む意味がわからない。
イジョンはそんな母親であっても、どうしても嫌いになれず、結局は家に舞い戻ってしまいます。
イジョンがスヒの部屋で暮らそうかなとポツリと言った時、やっぱりベクトルは自分にしか向いていない。これって実は、母と同じ自己中心的思考なんですよね。
スギョンが女性としての幸せを探求するのを否定はできません。ただ加減の問題…。
親の子離れ、子の親離れ。これはちょっと極端な話ですが、万国共通なんだなとも感じました。★3つ。
『同じ下着を着るふたりの女』公式サイト


『クロムスカル』は、残虐なバイオレンス・スリラー。

女性が意識を取り戻すと、そこは棺桶の中。恐怖でパニックになりながらも、なんとか脱出すると、今度は銀色のドクロの仮面を被った大男に追いかけられます。
どうやらそこは葬儀場。命からがら外へ出ると、一台の車が通りかかり、女性は助けてほしいと懇願。運転していたタッカーは、彼女を乗せて、自宅へと向かいます。
妻のシンディは、名前すら思い出せない彼女にシャワーを勧め、朝になったら保安官のところへ行こうと話します。
あのドクロの大男、実はクロムスカルと呼ばれる猟奇連続殺人鬼。肩の上に乗せた小さなカメラで、犯行の一部始終を撮影するというサイコキラーです。
絶対に獲物は逃さない。クロムスカルの執念が、すぐ近くにまで迫っていることに、3人は気づいていませんでした…。

あまりに残酷な映像ゆえ、日本では扱いを躊躇し、14年もの間“お蔵入り”になっていたと公式サイトにはありました。そこには残忍なキャッチコピーが、これでもかと並んでいます。
薬物を打たれたのか、自分の名前すらわからない被害女性は、プリンセスと仮の名を名乗り、その後、スティーブンというオタクっぽい若者も巻き込み、逃走劇が始まるのですが、次々と犠牲者が出ます。
その手口がとにかく酷い…。
名付けて、“ソリッド・スプラッター・スリラー”。
お好きな方は是非。★2つ。
『クロムスカル』公式サイト


『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』は、実写ドラマ化された人気コミックの劇場版。

人生の目標も持てずにいた、フリーターのえりぴよ。
ところが、3年前に地元・岡山の七夕祭りで、7人組ローカルアイドルCham Jamのステージを観た瞬間、メンバーの舞菜に惹かれてしまいます。
それ以来、舞菜への推し活を生き甲斐にしてきたえりぴよは、舞菜がパンが好きと知るや、パン屋でアルバイト。稼いだお金はすべて推し活に遣い、自分の洋服は高校時代の赤のジャージのみ。その徹底した推しざまは、推しの中でも伝説と化していたのです。
舞菜はグループの中でも控えめで、自分に自信が持てずにいたのですが、怪我をしてしまい、活動を休んでいる時、Cham Jamに地元企業からCMの依頼が届きます。
舞菜を除く、6人で撮ったCMが話題となり、ますます居場所がなくなってしまったと感じる舞菜。
そんな時、Cham Jamに東京進出の話が舞い込んだのでした…。

面白かったです!
2022年にドラマ化もされた、平尾アウリの原作コミックの実写映画化で、当時のキャストが再び集結。ファンにはたまらなく嬉しい映画になっているはず。
Cham Jamは、リーダーのれお(ピンク)、空音(ブルー)、眞妃(イエロー)、ゆめ莉(パープル)、優佳(ホワイト)、文(グリーン)、そして舞菜(サーモンピンク)の7人組。
えりぴよの推し仲間には、れお推しで古参のくまさ、空音にガチ恋の基、基の妹で舞菜推しになってくれた玲奈がいます。
馬鹿馬鹿しいと言っては失礼ですが(笑)、それでも懸命に推しを推す彼らの青春ストーリーには、清々しささえありました。ボクらが年齢と共に無くしてしまった何かかも…(笑)。
あとから気づくのですが、この映画の素晴らしいところは、嫌なヤツがひとりも出てこないんですョ。みんながみんなを応援している。そのポジティブさのかたまりがパワーとなって、観ている人に元気をくれる。そんなイメージかも。
五月病を吹き飛ばしたい
あなたにおすすめです!★4つ。
『劇場版 推しが武道館いってくれたら死ぬ』公式サイト


『TAR ター』は、ケイト・ブランシェット主演のサイコ・スリラー。

クラシック音楽の世界で、今や頂点に君臨する、リディア・ター。
ベルリン・フィルの首席指揮者の彼女は、数々の音楽賞を総なめにし、若手女性指揮者を育成するための財団も設立。今の目標は、ベルリン・フィルが唯一音源にできていない、交響曲第5番を録音すること。それも現在リハーサル中で、近い将来実現する運びになっています。
そんなターには、オーケストラのコンサートマスターで、ヴァイオリン奏者のシャロンという恋人がいて、彼女と一緒に養女のペトラを育てていました。超のつく多忙なターにとって、ただひとつの心が休まる場所。
ところが、財団のプログラムでターが指導したクリスタという若手の指揮者が自殺したという報が届きます。
スキャンダルを嫌ったターは、クリスタとのメールをアシスタントのフランチェスカに削除するよう命じますが、フランチェスカはそれをしませんでした。
圧政のような態度で人に接してきたツケなのか、ターが築いたはずの王国は足元から崩れ始めていくのでした…。

高尚な芸術の世界では、本当にありそうなお話です。
絶対君主的な存在、贔屓に嫉妬、圧倒的才能とそれを持つがゆえの焦り…。様々な要素がターという人間を“怪物”にしてしまったのでしょう。
築くのには時間がかかるけど、崩れるのは一瞬。
まさにそんな感じです。
この映画のすごいところは、オーケストラに対するトッド・フィールド監督のこだわりで、クラシック音楽の関係者が観た時に違和感を感じられるのが嫌だと、徹底的にリアリティを追求。劇中、ターが指揮するシーンも、その演奏を同時録音して映画でも使用。サントラにも収めたと言います。
音のクオリティに感動したという声は、日本のアニメ映画『BLUE GIANT』でも聞かれましたよね。
公式サイトのトップにもある「旋律 栄光 絶望 狂気」の文字。グラデーションで描かれたこの4つの言葉が、この映画を実に上手く表現していると思います。★3つ。
『TAR ター』公式サイト


『デスパレート・ラン』は、シチュエーション・スリラー。

緑豊かな町、レイクウッドに暮らすエイミー。
1年前に夫を亡くし、高校生の息子ノアと、小学生の娘エミリーを、女手ひとつで気丈に育てています。
ある日の朝、エミリーをスクールバスに乗せ、部屋から出てこないノアに声をかけると、「行かない」と布団を被る始末。「ちゃんと学校に行きなさい。ママは走ってくるから」と、スマホを持って、エイミーは日課のランニングに出掛けます。
森の中を走るエイミーでしたが、けたたましくサイレンを鳴らす数台のパトカーを見た直後、スマホに緊急速報のメールが届きます。そこには「地域のすべての学校が封鎖された」とありました。
立ち止まり、調べてみると、なんと息子の高校で銃を持った男による立てこもり事件が起きているではありませんか。
慌てたエイミーは、ノアに何度電話をしますが繋がりません。知り合いはノアがトラックに乗って走っているのを見たと言います。
犯人はノアなのか?被害者だとしたら、息子は無事なのか?
鬱蒼と茂る森の中で、エイミーは息子を助け出そうと、スマホだけを頼りに行動を起こすのでした…。

シチュエーション・スリラーとは、あえて限られた空間、限られた状況の中で緊迫感を高めたもの。以前『ホーリー・トイレット』という作品を紹介した時にも使った言葉です。
息子の危機、森の中、独り、スマホだけ。まさにシチュエーション・スリラーです。
ナオミ・ワッツ扮するエイミーは、ノアに学校に行きなさいと言ったことを後悔します。あのまま寝させていれば、こんなことにはならなかったと。
人生って、実は後悔の連続なんですよね。
交通事故で夫を亡くしたエイミーにとっては、またかという思いがあったはず。もっとこうしてあげればよかったとか、そんな思いがいっぱい頭を過ったことでしょう。
それが自分の手で、息子を救おうというモチベーションになったのかもしれません。
何を書いてもネタバレになりそうなので、このへんにしておきますね(笑)。
スマホの映画と言ってもいいかも。生活の“今”を象徴する1本でもあります。★3つ。
『デスパレート・ラン』公式サイト


『フリークスアウト』は、異能力バトル・エンタテインメント。

第二次世界大戦下のイタリアで人気を博していた、小さなサーカス団「メッツァ・ピオッタ」。団長はユダヤ人のイスラエル。団員は、光と電気を操る少女マティルデ、虫使いのチェンチオ、見た目は猛獣のような多毛症の怪力男のフルヴィオ、そして磁石人間の道化師マリオ。みんな、その特殊な能力のために、社会で普通に暮らせずにいたのです。
戦争が激化すると、ナチスの影響がイタリアでも強まり、イスラエルは皆の身の危険を感じ、“自由の国”アメリカへの移住を提案します。
密航のための資金を徴収し、船の手配に出たイスラエルが戻りません。持ち逃げしたんだと憤るフルヴィオ。実は、イスラエルはナチスに捕らえられてしまったのです。
渡米が叶わなくなった今、団員たちが生き残る場所はサーカスしかありません。ベルリンには巨大なベルリン・サーカス団があり、皆でその門を叩くんですね。
しかし、ベルリン・サーカス団には裏の顔がありました。
団長のフランツは、異能力者がナチスを戦争の勝利に導くと信じていて、可能性のある者を捕らえては、過酷な人体実験を繰り返していたのでした…。

奇抜なアイデアが面白かったです。
日本で言えば、『ゲゲゲの鬼太郎』なんかも、そんなジャンルになるのかな。ただ、こちらは戦う相手がナチス・ドイツですから、発想が突き抜けてます。
ベルリン・サーカス団のフランツも異能力の持ち主で、親衛隊にいる兄の力になりたいと思っているのですが、なかなか真の異能力者に出会えない。そこにフルヴィオたちがやってくる。飛んで火に入る夏の虫です。
でも、互いの目的が違うから、ここから異能力バトルが始まるという。
そんな意味では、大人も子どもも楽しめる作品かと思います。★3つ。
『フリークスアウト』公式サイト


『MEMORY メモリー』は、認知症の暗殺者を描いたサスペンス・アクション。

アレックス・ルイスは、敏腕の殺し屋。
高齢になっても、その腕に衰えはありません。しかし、最近では認知症の症状が出始めていて、これ以上の任務は難しいと引退を考えているのですが、組織がそれを許してくれません。
テキサス州エルパソ。ここではメキシコ人の子どもを含む人身売買が盛んで、FBIが潜入捜査を続けていました。
遂に本丸に近づき、捜査官のセラがおとりとなって、ベアトリスという少女を指名。斡旋した黒幕のレオンは、なんと彼女の実の父親です。
ところが、セラの身元がバレて、レオンと揉み合いになると、ふたりは窓から転落。ベアトリスは目の前で父の死を目撃してしまうんですね。
一方、アレックスに仕事の依頼がきます。ターゲットはふたり。一件は完璧に遂行したのですが、後日、別の場所でもうひとりのターゲットに銃を向けて愕然とします。銃口の先で怯えていたのは、まだ幼い少女。事件後に保護されていたベアトリスだったのです。
アレックスは、自分の流儀として、子どもは撃たないと決めており、そのままその場を立ち去ります。
組織の任務に背いたアレックス。ところが、数日後、ベアトリスが何者かに殺されてしまうんですね。
記憶が曖昧で、自分が殺ったのではと疑心暗鬼になるアレックス。
実はこの事件、裏に巨大な権力が潜む、一大スキャンダルだったのです…。

アレックスを演じるのは、リーアム・ニーソン。1952年生まれの
、もうすぐ71歳。認知症の設定にもリアリティがありました。
劇中、兄が認知症で施設に入っていて、アレックスはそう遠くない自分の姿だとわかっています。大切なことは震える手で腕に書く。ちょっぴり痛々しいシーンでもありました。
FBI、地元警察、エルパソの巨大企業、国境までも越えて絡み合う悪の闇。
暗殺者だって悪ですが、巨悪の中で孤軍奮闘するアレックスが正義に見えてくる、ある意味、歪んだ勧善懲悪の物語。
いくつもの組織が入りくみ、複雑な人間関係ですが、わかりやすく、かつ無理なこじつけもなく、ストーリーはよく練られていたと思います。
この手の映画が好きな方にはおすすめです。★3つ。
『MEMORY メモリー』公式サイト

 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.5.3
『EO イーオー』★★★
『帰れない山』★★★★★
『銀河鉄道の父』★★★★★
(満点は★★★★★)


GW終盤です。思い出作りはできましたか?
何か足りなかったら、映画館へ是非。今週は満点の作品もあります。心を揺さぶられ、感動の涙を流して感情開放。5月病なんてブッ飛ばせです(^-^)
さぁ、今週は3本です!


『EO イーオー』は、ロバ目線で描く現代の寓話。

サーカス団で働くロバのEO。
EOをこよなく愛する女性パフォーマー、カサンドラの相棒です。
しかし、突然やってきた動物愛護団体により、サーカス団は解体。EOとカサンドラは引き離されてしまうんですね。
EOが向かった先は農場でした。そこに恋人とバイクでやってきたカサンドラ。EOは彼女の後を追うように、柵を乗り越え、農場を脱出します。
森を抜け、街をさまよい歩くEO。
次に出会ったのは、試合中のサッカーチーム。決勝のゴールを決めたチームから勝利のロバと称えられ、祝勝会の会場へ。
そこも抜け出したEOは、さらにトラックドライバー、司教と伯爵婦人らと遭遇します。
あてのないEOの旅は、一体どこまで続くのでしょうか…。

ロバ目線で描く、人間の優しさと残酷さ、聡明さと愚かさ。過去にそんな作品があったにしても、なかなか斬新な手法で描かれた映画です。
まずは冒頭で、動物愛護団体の行動がどうなのかと。サーカス団から抜けたとしても、次に待っている厩だって、ある意味、檻の中ですから。だったらカサンドラに可愛がってもらっていたほうが、EOにとっては幸せだったんじゃない?と疑問を投げかけます。
そんな人間の矛盾とも、皮肉とも言える行動の数々が、EOの旅の中で描かれていきます。
ロバはヨーロッパでは“愚か者”を意味する動物だそうですが、それじゃ人間と比べてどうなのさ?ってお話。
ラストはこれまた衝撃的です。そちらは劇場で確かめてみて下さい。★3つ。
『EO イーオー』公式サイト


『帰れない山』は、世界的ベストセラー小説の映画化。

1984年、ピエトロは12歳の男の子。エンジニアの父は仕事に忙しく、それでも夏の間は少しでも家族と過ごしたいと、大好きな山に囲まれた北イタリアのモンテ・ローザ山麓のグラーナ村に家を借ります。
この村に住むブルーノは、ピエトロと同い年の男の子。父親は出稼ぎに行っていて、叔父の牛飼いの仕事を手伝っています。
都会っ子のピエトロと、自然児のブルーノ。まったく真逆のふたりでしたが、仲良くなるのに時間はかからず、大自然の中で友情を育んでいきます。
ピエトロの両親は、ブルーノのことを何かと気にかけ、教育を受けさせてはどうかとサポートを申し出ますが、牛飼いに学問はいらないと、ブルーノは父親の出稼ぎ先に連れていかれてしまうんですね。
ブルーノのいない山に行かなくなったピエトロ。青年になると、将来のことで父親と衝突。家を出て、ひとり暮らしを始めると、両親とは疎遠になっていきます。
そんな時、突然届いた父の訃報。ピエトロは久しぶりに山を訪れたくなり、ブルーノとも再会を果たします。
互いに互いの髭づらを笑い、そして聞かされる父との様々なエピソード。父はブルーノに、ピエトロの代わりを託していたのかもしれません。その時、初めてピエトロは、大事な何かを失ったと気づくのでした…。

世界39言語に翻訳されたという、イタリア人作家パオロ・コニェッティのベストセラー小説の映画化です。
それをあらすじとしてまとめるには、あまりに難しすぎて…(笑)。
ブルーノは、生前のピエトロの父とあることを約束していました。それは、山の中腹に買った廃墟を壊し、家を建てること。
父の願いをふたりで叶えるため、夏の4ヶ月を費やし、ピエトロとブルーノは汗を流します。家を建てながら、ピエトロは父とブルーノが過ごした時間を想い、父の心中を察すると、えもいわれぬ心持ちになっていきます。親と子なら、誰もが経験することだと思います。
そして、その後に待つピエトロの人生と、ブルーノの人生。大人になったふたりの少年は、どんな生き方を選んだのか、また、選らばざるを得なかったのか。深い映画です。
大人の青春物語。友情だけでなく、家族、人生、幸せ、価値観など、生きることのすべてが凝縮された作品。確かに重いテーマかもしれないけど、“上質の重さ”とでも言うのかな。上手く表現できなくてすみません(笑)。大自然が美しいです。これもこの映画の大きな魅力のひとつです。原作が読みたくなりました。満点!★5つ!
『帰れない山』公式サイト


『銀河鉄道の父』は、宮沢賢治の父・政次郎を中心に描いた家族の愛の物語。

明治29年、岩手県の花巻で質屋を営む宮沢政次郎と妻のイチの間に、待望の長男が生まれます。
政次郎の父・喜助が賢治と命名し、店の三代目として期待していたのですが、賢治は中学を卒業すると質屋は継ぎたくないと言います。
すったもんだの末、高校に進学した賢治でしたが、こんどは人造宝石を作ると言い出し、さらには宗教に傾倒。激怒する政次郎に、賢治は家を飛び出し、東京へと向かいます。
賢治には妹のトシがいて、小さい頃からトシはお兄ちゃんの話す物語が大好き。そんなトシに賢治は、「日本のアンデルセンになる」と夢を語っていました。
大人になって、女学校の教師として働いていたトシが、病に倒れてしまいます。
知らせを聞いた賢治は、一心不乱に原稿用紙に向かい、物語を書き、それをトランクに詰めて、トシの元へと急ぎます。
「やっぱりお兄ちゃんのお話は楽しい。元気が出る」。
そう言って笑顔を見せるトシを励まそうと、物語を書き続ける賢治でしたが、残念ながらトシは病に勝てませんでした。
「トシがいなければ、もう何も書けない」。
涙ながらに弱音を吐く賢治に、父・政次郎は言います。
「わたしが宮沢賢治の一番の読者になる。物語がおまえの子どもなら、父さんの孫だ」と…。

この映画の試写はオンラインではなく、試写会場で観させてもらいましたが、もう最後は涙でぐちゃぐちゃになってしまいました。
感染症対策のマスク着用で助かった。無かったらどんな顔になってたか(笑)。
直木賞を受賞した門井慶喜の同名小説の映画化です。
宮沢賢治は、岩手が生んだ著名な詩人で童話作家ですが、意外やその素顔はダメ息子。名声を得るのも亡くなった後です。リサーチを重ねて書かれたとはいえ、フィクションですから、創作の部分も少なからずあるはず。でも、泣けた…。とにかく泣けました。
ボクが生まれた時、両親はどんなに喜んでくれたことか。そんなことを思ってもみました。家業の寿司屋は継がなかったけど、天国の父は、それをよしとしてくれているかなぁ。胸を張れるぐらい頑張ってるだろうか、自分に問いただしてもいます。
政次郎に役所広司、賢治に菅田将暉。
「きっと家族に、会いたくなる」。
この映画のキャッチコピーです。GW、この映画を観て、大切な家族に会いに行ってみてはいかがですか?満点!★5つ!
『銀河鉄道の父』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.4.25
『不思議の国の数学者』★★★★★
(満点は★★★★★)


GWです。
今では広く使われるようになったこの“ゴールデンウィーク”という言葉、元は映画会社が宣伝用に作った和製英語。
今年は5月1日と2日の月曜、火曜を休めれば、最大9連休。この平日の2日間は、映画館、穴かもしれませんョ。
この「Pick Up Movie!」をちょっとさかのぼって、面白そうな映画に足を運んでみて下さい!
さぁ、今週は1本です!


『不思議の国の数学者』は、韓国映画。

ジウは、超の付く名門、トンフン高等学校に通う男子高校生。
しかし、その中では落ちこぼれの部類にいて、数学が特に苦手。担任から、転校してはどうかと肩を叩かれています。
それでもジウが踏ん張る理由。それはシングルマザーとしてジウを育ててくれた母を悲しませたくないから。
ある日のこと、仲間との寮での飲酒がバレてしまいます。見つけたのは、警備員のハクソン。“人民軍”のあだ名で呼ばれている脱北者です。
4本の焼酎と4本の箸。担任からあとの3人の名前を追及されても、ジウが口を割ることはありませんでした。
結果1ヶ月の退寮処分を言い渡され、一度は実家に帰ったジウでしたが、母に心配をかけまいと夜の学校に逆戻り。すると、またしてもハクソンに見つかってしまったのです。
事情を知ったハクソンは、今夜だけと釘を刺し、自分の部屋の片隅をジウに与えます。
寝静まったジウの数学の課題を見つけたハクソンは、いとも簡単に問題を解き、翌日ジウはまさかの全問正解者になります。
すると、ジウはハクソンのもとへと走り、数学を教えてもらえないかと頼み込みます。
こうして、高校生と警備員による秘密の数学の授業が始まったのでした…。

いい映画でした。
ハクソンは、北朝鮮の天才数学者で、数学をより追究したいと韓国へやってきた脱北者。しかし、ハクソンにも拭い去ることのできない過去があったのです。
ジウのクラスメイトで、女子高生のポラムが、ジウのことが気になるらしく、ハクソンとの秘密授業を知って仲間に加わります。
ハクソンは言います。「正解を出すより、答えを導く過程が大切だ」。
さらに、「数学は単純だ。今にわかる。人生の方がよほど複雑だ」と。
宝物のような言葉がいっぱい。ハクソンの授業を通じて、ジウやポラムはもちろん、観ているボクらも多くを学ぶはずです。
ボクもプロセス重視派。スマホで答えがすぐに見つかる今の時代だからこそ、特にです。
そう、人生はどう向き合ってきたかが大切。結果は時の運。上手くいかないこともたくさんあるけど、結果だと思っていたら、それもまたプロセスだったりするわけで。
この映画、“水戸黄門的”スカッと感があるだろうことは想像できますよねっ。
あんまり言うとネタバレになるけど、ポラムの功績にもっと光をあててあげてほしかったなぁと。それだけは言っておきたい。そこだけ、ちょっぴり不満でした(笑)。
それを差し引いても、いい作品。GWに是非!満点!★5つ!
『不思議の国の数学者』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.4.20
『ヴィレッジ』★★★★★
『J005311』★★★
『高速道路家族』★★★
『レッド・ロケット』★★★
(満点は★★★★★)


ご存知の方も多いと思いますが、北野武監督の最新作『首』が、この秋公開になるとのニュースが流れました。
原作は、自身が2019年に発表した同名小説。実は30年近く温めてきた企画だそうで、映画の公式サイトを覗いたら、黒澤明監督が生前、「北野くんがこれを撮れば、『七人の侍』と並ぶ傑作が生まれるはず」とコメントしていたとか。今から楽しみですねっ。
さぁ、今週は4本です!


『ヴィレッジ』は、横浜流星主演の問題作。

緑豊かな日本の集落、霞門村。
しかし、その山の上には、風景に溶け込むことのない巨大なゴミ最終処分場が建てられていました。
代々この村を治める大橋家の長男・修作が、今は村長を務め、この施設を運営しています。
片山優は、この村に生まれ育った青年。しかし、父親が犯した罪で、母はアルコールとギャンブル依存になり、作った多額の借金を支払うため、優はゴミ処分場で、地元のヤクザ絡みの裏の仕事にも手を染めざるを得なかったのです。
そんな時、幼なじみの美咲が東京から帰郷、修作のもとで働くことになります。
久しぶりに再会した優と美咲。ゴミ処分場を環境保全のPRに使い、村おこしのシンボルにしようと、美咲は優を案内役に抜擢しますが、村人の反対は多く、美咲に恋心を抱く修作の息子・透も面白くありません。
それでも優は大役を任されると、再び彼の目には輝きが戻り、マスコミ対応も含め、生き生きと働きます。
美咲と優は恋人同士に。
ところが、過去に優も関わっていたゴミ処分場の不法投棄が発覚。火消しのために修作は、すべての罪を覆い被るよう、優に命じるのでした…。

『余命10年』などのヒット作で知られる藤井道人監督作品。プロデューサーは、社会問題をテーマにした話題作を多数世に送り出し、昨年6月に亡くなった河村光庸。
確かに霞門村は、現代日本の問題点がぎゅっと凝縮したような“ムラ”。その村を舞台に、ドロドロとした人間模様が描かれていきます。
少年期には、村の伝統芸能である薪能の担い手として嘱望されていた優と美咲。ところが優の父親の事件があってから、人生の歯車は狂っていきます。
あらすじでは紹介しませんでしたが、他の登場人物もエッジの効いたキャラクター設定で、閉ざされた村の晴れることのないどんよりとした空気感と、ドス黒い人間の欲と業とがスクリーンを覆い尽くします。
横浜流星の演技力が話題になっていますが、大橋家の当主で、寝たきりの老女・ふみの存在感もすごい。演じた木野花の表情が、特殊メイクだと思いますが、この映画の柱のひとつでもある薪能の能面そのもの。一言も発しないのに、ゾッとするほどの迫力でした。
亡くなった河村光庸氏が携わった作品には、これまで何度も唸らされてきましたが、この『ヴィレッジ』も例外ではありません。これが最期のプロデュース作品だそうです。観る人に引っ掻き傷を残すこと、間違いなしです。満点!★5つ。
『ヴィレッジ』公式サイト


『高速道路家族』は、韓国映画。

夫のギウと妻のジスク、9歳の娘ウニと5歳の息子テク。4人はホームレスの家族。
高速道路のサービスエリアに忍び込んではテントを張り、二度と会わないであろう人のよさそうなドライバーに声を掛けては、「財布を盗まれて、給油の金がなくて帰れない」と嘘をつき、「必ず返しますから」と2万ウォンを騙し取る。その金で食事をするという生活を続けていたのです。
ところが、リサイクルショップを営むヨンソンに、またも声をかけてしまったギウ。詐欺だと知ったヨンソンは、警察に通報。ギウは逮捕されてしまいます。
しかし、ヨンソンは残された3人の家族が気になって仕方ありません。
そこで、ヨンソンは店の一角をジスクたちに提供。子どもたちを子や孫のように可愛がります。
ジスクは気付きます。これが幸せな生活なんだと。そして、ある決断を下すのですが…。

この映画のキャッチコピーに、“パラサイティック・スリラー”とあります。
ギウが言葉巧みに難を逃れていく姿や、幼い子どもたちにこの生活も悪くないと思わせるよう努める様は、まさに“コメディ”ですが、全体を通すと、“スリラー”の要素も多分にあって。
ギウにもジスクにも、ヨンソンと情け深い夫のドファンにも、抱えているものがあって。方や貧困、方や裕福な家族の出会いが、予想だにしなかった結末を迎えます。
幸せって、家族って何だろう。そんなことを改めて考えさせられるかもしれません。
衝撃のラストにご注目です。★3つ。
『高速道路家族』公式サイト


『J005311』は、第44回ぴあフィルムフェスティバルのグランプリ受賞作。

朝、神崎の携帯電話がなります。
「すみません。すぐ向かいます」。
そう言って電話を切ると、神崎は身支度を整えて外出します。
どこかに行こうとしているようで、タクシーを止めようとしますが、断られてしまいます。
階段に腰かけてボーッとしていた時です。道の反対側でひったくりを目撃してしまうんですね。
犯人の後を追う神崎。
路地裏で、盗んだバッグの中身を物色していた犯人の山本に声を掛けると、神崎はこう切り出したのです。
「100万円差し上げます。ボクをある場所まで連れていってくれませんか」…。

第44回ぴあフィルムフェスティバル(PFF)のグランプリは、満場一致だったそうです。
監督は山本を演じた、河野宏紀。27歳の若き映画人です。
山本も当然すんなりと
神崎の頼みを受け入れるわけではありませんが、結局100万円欲しさに、レンタカーを借りて、問題を抱えた男ふたりのドライブが始まるんですね。
道中、言葉少なのコミュニケーションでも、通じるものがあったのか、物語は着地点に向かうという。
正直、長く感じました。
PFFでの高い評価は、映画の見方の差異を示すいい例で、映画をアカデミックに見るのか、それとも娯楽として見るのかの差とでもいうんですかね。
専門家やプロの映画人は、一般の映画ファンとは違う視点で見ますもんね。
ただ、確かに熱量は感じました。実はここからがスタート。この受賞が未来への燃料を与えたと言うか。
タイトルの『J005311』は、光らない2つの星が奇跡的な確率で衝突したことによって輝きだした、実在の天体の名前から取ったそうです。それを踏まえて臨むと、監督の意図がより伝わると思います。
グランプリ受賞に★をひとつプレゼント(笑)。★3つ。
『J005311』公式サイト


『レッド・ロケット』は、元ポルノスターが主役のヒューマンコメディ。

元ポルノ俳優のマイキー。
今は仕事もなく、無一文。夫婦とは名ばかりで別居中の、妻レクシーの住むテキサスに向かいますが、義母のリルからも「何の用だ」と門前払い。そこは口八丁のマイキー。巧く言いくるめて、家の中に転がり込みます。
とはいえ家賃を約束したマイキーは、収入を得るために知り合いのディーラーを訪ね、大麻の売人をやらせてもらうことになります。
反目していても、そこは元夫婦。やけぼっくいに火がつくこともあるわけで。そんなコトになった翌日、3人で仲良くドーナツショップへ行くと、アルバイトのストロベリーという若い女の子に目が釘付けになります。
彼女に、ポルノスターの可能性を見出だしたマイキーは、ストロベリーとならいけると、再起を夢見るのですが…。

落ちぶれた元ポルノスターという設定がすごい(笑)。
いい加減だし、懲りないし、自己中心のナルシストだし。ただ、マイキーは“人たらし”なんでしょうね。
だから、久々に会った地元の人たちや、親子も年の離れたストロベリーをも落としちゃう。
アメリカの田舎町って、本当に娯楽や刺激が少ないんだろうなぁと。日本ぐらいの広さがいいのかも。
オンライン試写にはモザイクがかかっていませんでしたが、マイキーの“仕事道具”は驚くほどに立派です(笑)。ちなみに、映倫区分はR+18です。★3つ。
『レッド・ロケット』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.4.14
『サイド バイ サイド 隣にいる人』★★★
『聖地には蜘蛛が巣を張る』★★★★
『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』★★★
『マネーボーイズ』★★★
『妖獣奇譚 ニンジャVSシャーク』★★★
(満点は★★★★★)


夏日も記録し、暑い4月ですが、映画の試写では早くも7月公開作品の案内が届き始めています。
競馬でもそうですが、先、先と考えていると、時間があっと言う間に流れていきます。
まずは、春を、今を、しっかり体感したいところです。
さぁ、今週は5本です!


『サイド バイ サイド 隣にいる人』は、坂口健太郎主演のマジックリアリズム。

緑豊かな日本の集落、霞門村。
しかし、その山の上には、風景に溶け込むことのない巨大なゴミ最終処分場が建てられていました。
代々この村を治める大橋家の長男・修作が、今は村長を務め、この施設を運営しています。
片山優は、この村に生まれ育った青年。しかし、父親が犯した罪で、母はアルコールとギャンブル依存になり、作った多額の借金を支払うため、優はゴミ処分場で、地元のヤクザ絡みの裏の仕事にも手を染めざるを得なかったのです。
そんな時、幼なじみの美咲が東京から帰郷、修作のもとで働くことになります。
久しぶりに再会した優と美咲。ゴミ処分場を環境保全のPRに使い、村おこしのシンボルにしようと、美咲は優を案内役に抜擢しますが、村人の反対は多く、美咲に恋心を抱く修作の息子・透も面白くありません。
それでも優は大役を任されると、再び彼の目には輝きが戻り、マスコミ対応も含め、生き生きと働きます。
美咲と優は恋人同士に。
ところが、過去に優も関わっていたゴミ処分場の不法投棄が発覚。火消しのために修作は、すべての罪を覆い被るよう、優に命じるのでした…。

マジックリアリズムとは、日常に存在するものと存在しないものとが融合した芸術表現。リアルとファンタジーの混在を表します。
映画自体が、不思議な空気感に包まれていて。観たあとも、その感覚はしばらく続くと思います。
伊藤ちひろ監督のオリジナル脚本。確かに監督が語るように、主演の坂口健太郎の透明感によるところが大きい映画です。
隣に今いる人がリアルなら、これまで隣にいた人は今はもうファンタジー。
ここ数年の人との“距離感”が産み出した物語だとしたら、これもまた今という時代を反映した1本なのかもしれません。★3つ。
『サイド バイ サイド 隣にいる人』公式サイト


『聖地には蜘蛛が巣を張る』は、イランで起きた連続殺人事件を基にした作品。

イラン第2の都市マシュハド。
宗教の中心地で、聖地として崇められているこの街で、残忍な殺人事件が起こります。それは、娼婦ばかりが狙われた連続殺人事件。
犯行声明を出したのは“スパイダー・キラー”。「街を浄化する」という大義を掲げての犯行でした。
女性ジャーナリストのラヒミは、この事件の他の部分に異様性を感じ、危険な取材に身を投じます。
実は、“スパイダー・キラー”は、サイード・ハナイという男で、家庭を持つ父親でもありました。
家族を偽り、16人もの女性を殺したハナイが、遂に捕まります。
ところが裁判が始まると、一部のメディアや市民から、ハナイを擁護する声が上がり出したのです…。

2000〜01年にかけて、イランのマシュハドで実際に起きた連続殺人事件。
一部の保守系メディアや市民からは、「“汚れた”女たちを街から始末した」「宗教的務めを果たしただけ」と、ハナイを英雄視する声まであがったそう。
1981年生まれのアリ・アッバシ監督は、当時イラン在住で、この事件に関心を持ったと言います。
イランには女性蔑視の風潮があり、それは今も続いていると。昨年、髪を覆うヒジャブ着用に対する抗議デモにより、多くの女性が命を落としたという報道を目にした人も多いはず。
もちろんフィクションですが、映画の中でも、事件に対する警察や宗教家の腰が重く、逆にラヒミに圧力がかかるシーンが描かれています。
ラヒミ役のザーラ・アミール・エブラヒミは、テヘラン生まれで、パリ在住のイラン人女優。イラン国内で批判が出ても、世界中の人々にこの映画を観てもらいたいと語ります。
単なるクライム・サスペンスではないと承知の上で、劇場に足を運んでみて下さい。考えるところがあると思います。★4つ。
『聖地には蜘蛛が巣を張る』公式サイト


『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は、“ジェンダー文学の新星”と呼ばれる大前粟生の同名小説の実写映画化。

高校時代、女子から告白されても、“好き”の感覚がわからないと断ってしまっていた七森剛志。
女子よりも水溜まりに落ちたぬいぐるみが気になり、拾って家で洗ってあげるような優しさを持つ七森が、いよいよ大学生になります。
入学初日に出会ったのは、なんとなく同じ匂いのする麦戸美海子でした。
ふたりは、“ぬいサー”と呼ばれるぬいぐるみサークルの扉を開けます。
そこは、ぬいぐるみと話すだけのサークル。ぬいサーのメンバーは、今の世の中にどことなく生きづらさを感じている学生たち。
七森も、麦戸も、ようやく自分の居場所を見つけたかと思ったのですが…。

ボクも子どもの頃、絶対に手離せない熊のぬいぐるみがありました。“たけくま”と名付けたその熊を、ボロボロになってもずっと捨てずに取っておいたのを覚えています。なんだか懐かしい…(笑)。
最近は、ドールに話す人も増えているとか。
コミュニケーションが、結果として誰かを傷つけてしまうなら、黙って聞いてくれるぬいぐるみに思いのたけをぶつけたほうがいい。ぬいサーはそんなサークルのようです。
これを優しさととるか、弱さととるか。
社会は誰かと交わることで出来ています。傷つき、傷つけて、そうして自分自身も成長していきます。
でも、そんな生き方を選ばなくてもいいんじゃないの?というのが、この作品なのかなと。“生き方の多様性”とでも言うのでしょうか。
わかる!という人だけじゃなく、これからの時代、自分の価値観の外にあるものを知るのも大切なのかなと感じました。★3つ。
『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』公式サイト


『マネーボーイズ』は、同性愛の男娼を描いた中国映画。

フェイとシャオレイは同性愛の恋人同士。
田舎から出てきたフェイは、体を売って稼いだお金で実家に仕送りをしていますが、家族や親族はそれに頼りながらも、一族の恥とフェイの同性愛を認めてはくれません。
ある日のこと、フェイが
客から暴行を受けたと知ったシャオレイが、その客を痛めつけるのですが、今度はシャオレイが客の手下にやられてしまいます。
これが警察沙汰になり、逮捕されるのを怖がったフェイは、シャオレイを置いて逃げてしまうんですね。
あれから5年、別の街で人気の男娼になったフェイ。同郷の幼なじみのロンが、自分も体を売って稼ぎたいとフェイを頼って出てきます。
そんな時、偶然にも、フェイはシャオレイとバッタリ再会してしまうのです…。

中国の経済事情には詳しくありませんが、田舎の若者が大金を手にするのはなかなか難しいことのようで。
何かをしなくてはいけない。
だからといって、男娼が当たり前ではないとは思いますが。
オシャレに、スタイリッシュに描かれていても、そこには陰があり、主人公たちは大金を手にしていても、決して幸せそうには見えません。
生きるためには何かを犠牲にしなくてはならず、その際の選択には葛藤がつきまとう。
この映画が描きたかったのは、それが男女を問わず、いつでもどこにでも存在する命題なんだということなのかもしれません。
これもまた生き方の多様性。ただ、自らが望むと望まないとでは、大きな違いがあるものと感じますが…。★3つ。
『マネーボーイズ』公式サイト


『妖獣奇譚 ニンジャVSシャーク』は、SFX時代劇。

江戸時代、真珠が名産の沖津村では、村人が次々と惨殺される事件が起こります。
これは邪教集団・紅魔衆の仕業。ところが、村人たちは、その原因を“呪われた血筋”の娘・沙代にあるとし、沙代をいけにえに差し出そうとしていました。沙代に思いを寄せる村の青年・信助は、指をくわえて見ていることしかできません。
村長が潮崎小太郎という若者を用心棒に雇うと、小太郎は信助の家に転がり込みます。
その動きを察知した紅魔衆が、小太郎と沖津村に対して差し向けたのは、この世のものとは思えないほど巨大な鮫だったのです…。

いわゆる時代劇エンターテイメントです。
他にも登場人物はたくさんいて、小太郎を愛するくノ一の菊魔や、殺されても復活するゾンビまで。「史上最大の異種格闘戦」というキャッチフレーズの如く、ニンジャVSシャークどころか、あらゆる娯楽映画の要素が詰め合わさった感じ。
さすが配給会社エクストリームの世界観(笑)。カオス好きの方にはお勧めです。★3つ。
『妖獣奇譚 ニンジャVSシャーク』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.4.6
『この小さな手』★★★
『仕掛人・藤枝梅安2』★★★
『ダークグラス』★★★
(満点は★★★★★)


先週お休みでしたので、新年度最初の「Pick Up Movie!」です。
2023年、ここまで試写は44本。月平均で約15本。昨年とほぼ同ペースです。
これからも、たくさん拝見して、たくさんご紹介したいと思います!
さぁ、今週は3本です!


『この小さな手』は、父と娘の愛情物語。

吉村和真はイラストレーター。妻の小百合と娘のひなとの3人暮らし。
仕事に恵まれない和真でしたが、小百合は彼の才能を信じ、駆け落ちをしてまで結婚。不妊治療でようやく授かったひなと共に、和真を支えていたのです。
いつものように、和真が出版社に売り込みに行くと、雑誌「週刊人間」の編集長が、和真のイラストを表紙にどうかと言ってくれます。
いきつけの居酒屋で編集長を接待し、深酒になった和真は帰宅できず。
そんな時、小百合は階段から足を滑らせ、頭を打ち、病院に運ばれていました。ひとりぼっちのひなは警察に保護され、児童養護施設に預けられてしまいます。小百合の意識は戻りません。
そのことを知って愕然とする和真。児童相談所の職員からひなのことを尋ねられても、育児は小百合任せだったため、何も答えられず。そのため、ひなを帰してはもらえませんでした。
施設に面会に行っても、笑顔を見せてはくれないひな。
そんな娘を見て、和真は初めて父親としてのこれまでを反省するのですが…。

家族の、親子の修復のお話。
小百合は病院で寝たきりですから、身寄りのない和真はどうしていいかわからない。
しかしそこには、児童相談所や児童養護施設の職員さんたちが、またお節介焼きだと煙たがっていた大家さん一家が、手を差し伸べてくれるんですね。ひとりじゃないと気づく和真。そして、真の父親になろうと努力を始めます。
中田博之監督自身が、自分の息子の寝顔を見ながら、「本当の父親とは何だろう」と疑問を抱いたのが、この作品誕生のきっかけだったそう。
少子化、子育て支援などが問題となっている今、タイムリーなテーマと言えそうです。観れば気づきのあるパパもいるかもしれませんね。★3つ。
『この小さな手』公式サイト


『仕掛人・藤枝梅安2』は、池波正太郎の同名時代小説の実写映画化、第2弾。

普段は鍼の名医として町人に慕われている藤枝梅安の裏の顔、それは金で人の命を闇に葬る“仕掛人”。
仕掛人仲間の彦次郎と共に、恩師の墓参りにと京へ向かう道すがら、ひとりの侍を見た彦次郎の表情が一変します。
聞けば、絶対に許せない仇だと言います。
妻のおひろとの間に子どもも産まれ、つつましやかに生きてきた彦次郎でしたが、ある日、彦次郎の目の前で、おひろは暴漢から辱しめを受け、それを苦に、おひろは赤子を道連れに自害したと。初めて聞いた彦次郎の悲しい過去でした。
そして、先の侍は、間違いなくその仇だと言うのです。
その頃、京の街では、ならず者の集団が、好き放題に暴れまくっていました。中心にいたのは、井坂惣市という浪人侍。
そんな時、上方の仕掛の元締めから、梅安は井坂の仕掛を依頼されたのです…。

2月3日に公開となった第1作目に続く続編です。
こちらも登場人物がたくさんいて、その関係性は複雑で。あらすじにまとめるのも難しく、前作に続き、一部だけを導入として紹介しました。
公式サイトに相関図があり、そこに書かれているのですが、実は彦次郎が仇とにらんだ侍は峯山又十郎といい、井坂惣市とは双子の兄弟。
また、梅安も井上半十郎という因縁の仕掛人と、望まぬ再会をしてしまいます。
憎しみの対決、因縁の決着。それがこの“2”なんですね。
時代劇は面白い。特に藤枝梅安は、観る者にひっかき傷を残すというか、ささくれを作るというか。そんなダークヒーローだから魅力的なのかも。
1と2までかと思いきや、エンドロールの最後に、またまた予告がありました。3の完成を期待したいですね。★4つ。
『仕掛人・藤枝梅安2』公式サイト


『ダークグラス』は、“ホラーの帝王”ダリオ・アルジェントの最新作。

ローマで起きている連続殺人事件。この事件が異様なのは、犠牲者がすべて街角に立つコールガールだということ。犯人はまだ捕まっていません。
ある夜のこと、コールガールのディアナが仕事を終え、車で帰宅しようとすると、後ろから白い車に執拗に追いかけられ、追突。交差点に押し出されたディアナの車は、左から来た車と衝突し、大破してしまいます。
巻き込まれた車には、中国人家族が乗っていましたが、両親は死亡。助かったのは後部座席にいた子どものチンだけ。ディアナも病院に運ばれます。
一命はとりとめたものの、両目を失明してしまったディアナ。介護士や盲導犬の助けを借りて、なんとか自立した生活を始め、施設にいるチンを訪ねると、チンはディアナと一緒に暮らしたいと家にやってきます。
幸せを感じかけたのも束の間。連続殺人鬼は、再びディアナに目をつけたのです…。

1977年に日本でもヒットした映画『サスペリア』で知られる、イタリアのダリオ・アルジェント監督。その10年ぶりの新作です。
ホラーというよりは、猟奇殺人を描いたサスペンス・スリラー。
公式サイトのイントロダクションに、“見えない恐怖”を描いたとありましたが、『サスペリア』にも盲目の男性ピアノ講師が出てきました。監督の深層心理に“見えない”ことへの怖さが根付いているのかもしれませんね。
82歳で映画を創る、そのバイタリティーに拍手です。★3つ。
『ダークグラス』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.3.24
『雑魚どもよ、大志を抱け』★★★
『マッシブ・タレント』★★★
(満点は★★★★★)


来週末公開の映画で、観た試写は1本もなく。
従いまして、次回更新は1週空いて、4月5、6日あたりになります。
先にお知らせしておきますね。
さぁ、今週は2本です!


『雑魚どもよ、大志を抱け』は、7人の小学生が織り成す友情物語。

とある地方の町に暮らす小学生の瞬は、両親と妹との4人暮らし。
中学受験のために塾に入れられるのが今の最大の悩みでしたが、それでも親の目を盗み、今日もリーダー格の隆造と、仲良しの元太と太郎と、自転車を飛ばして遊びに行ってしまいます。
そんな彼らの小学校には、明が率いるもうひとつの派閥があり、隆造グループとはバチバチの関係に。
結局、塾に行かされることになった瞬は、そこで聡という同級生と仲良くなります。
聡の夢は映画監督。ところが、聡は明のグループからイジメにあっていて、お金を巻き上げられていたのです。
その現場を見てしまった瞬と元太。
「誰にも言わないで」と言う聡の言葉に、瞬の心は揺れるのですが…。

この映画には『弱虫日記』という原作小説があります。瞬も決して強くなんかない男の子。
7人の小学生たちは、みんな様々な問題を抱えて生きています。
隆造の父は人を殺した過去があるヤクザで、母とは別居。
元太の母は新興宗教にはまっていて、太郎の家族は母も姉もヤンキー。
聡はいじめられていますが、いじめる側の明にも中学生のヤバい先輩がいて、恐喝したお金はその先輩への上納金です。
瞬の母親にも、乳がんが見つかります。
小さな心は、それぞれの悩みでパンパンになっていますが、やんちゃで無邪気な仲間との友情が、それを忘れさせてくれていたんですね。
あの頃はそうだったなぁ。
でも、大人になると、人生“忘れる”だけじゃ済まなくなってくるからね。
あなたもきっと、自分の小学生時代を思い出すはず。駄菓子屋のおばちゃんって、子ども相手の商売なのに、なんであんなに怖かったんだろとかね(笑)。
映画『スタンド・バイ・ミー』よろしく、線路が出てきます。そう、人生は続くのさ。
長回しの撮影に頑張った、役者くんたちに拍手です。★3つ。
『雑魚どもよ、大志を抱け』公式サイト


『マッシブ・タレント』は、ニコラス・ケイジ主演のアクション・コメディ。

ニック・ケイジは、落ち目のハリウッド・スター。
望む役などやれるはずもなく、とはいえビッグネーム。関係者にとっても扱いづらい存在です。
プライベートでは妻子とも別れ、借金まで抱え、悲嘆に暮れる日々を送っていました。
そんな時、エージェントから仕事のオファーが舞い込みます。
それは、スペインに住む大富豪の誕生日パーティーに出席すれば、それだけで100万ドルのギャラが出るというもの。
プライドが許さず、気乗りはしなかったものの、背に腹は変えられないと受諾し、スペインに向かうニック。
迎えたのはハピという男で、ニックの大ファンだというハピは、彼の来訪に大興奮の様子。
初めは心を開かなかったニックでしたが、自身の映画の話で盛り上がると、次第にふたりの距離は縮まっていきます。
そんな時、CIAの捜査官がニックに接近。ハピは国際的犯罪組織を束ねるトップで、逮捕のための潜入捜査に力を貸してくれないかと言うのです…。

ネタバレにつながりそうだから詳しくは書けないのですが、若干ややこしいのは、フィクションは当然ですが、ニック・ケイジはニコラス・ケイジなのかというところ。
設定は、ほぼほぼ等身大のニコラスみたいで、事実、ハリウッドでは興行的失敗が続いたためにオファーは無くなり、多額の借金も抱えていたと。それでも精力的に頑張って借金を完済したところに、この作品の話が来たと解説にはありました。
なんて自虐的…(笑)。
それでもこの映画は評論家やファンに絶賛され、世界中でスマッシュ・ヒットを記録しているそうです。
ハピの豪邸には、ニックの資料館みたいなものがあって、買い集めたニック・グッズがズラリ。細部に渡り、“ニコラス愛”に包まれているあたり、製作陣もニコラス好きなんだろうなと。
ストーリーの軸が二転三転。ファンは必見の1本ですが、詳しくなくても十分楽しめますョ。★3つ。
『マッシブ・タレント』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.3.17
『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』★★★★
『The Son 息子』★★★★★
『死体の人』★★★
『ハンサン 龍の出現』★★★
『赦し』★★★★
『妖怪の孫』★★★★★
『零落』★★★★
(満点は★★★★★)


今週は面白い映画が目白押し。★4つは、すべて満点でもいいくらい。さらに、★3つでも見応え十分の作品ばかり。
期待して、映画館にどうぞ!
ご存知の方もいると思いますが、ボクはこの文章をガラ携で打って、スマホに送って、ブログとしてUPする。今回は6時間ぐらいを費やしました。
その作業に、ボクのHPを管理してくれている友人は、「ホント尊敬します」と。あまりのアナログさに半ば呆れ顔(^^;
頑張って打ったので、読んでみて下さいね(笑)。
さぁ、今週は7本です!


『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』は、伝説のファッション・ジャーナリストの生涯を追ったドキュメンタリー。

1948年、まだ人種差別が残るアメリカ南部で幼少期を過ごした、アンドレ・レオン・タリー。
大柄で、“ゲイの猿(キングコング)”と揶揄されたこともあるけれど、「中傷には慣れっこ」と語る彼は、アフリカ系アメリカ人として初めてVOGUEのクリエイティブ・ディレクターに就任した、ファッション界のレジェンドです。
誇りと品格を持って生きることを祖母から教わり、それを実践したアンドレ。作年2022年1月18日に逝去した彼の73年の人生を、映像とインタビューで綴った伝記映画です。
ウーピー・ゴールドバーグをして、「黒人のイメージと違いすぎる」と言わしめたアンドレは、みんなに愛されたであろうことが容易く想像できるキャラクター。変な言い方ですが、こんな人が近くにいたら、友達になりたいと思っちゃうよねって感じ(笑)。
数々の著名人がアンドレの死を惜しみ、今年のNFLのハーフタイムショーでは、ゲストのリアーナが、アンドレのトレードマークでもあるケープを身にまとってパフォーマンスを披露しています。
VOGUEの編集長、アナ・ウィンターは語ります。「アンドレは皆に冒険する勇気を与えた」と。それはこの映画からも、十分に伝わってきます。
ファッションに疎いボクは、彼の存在を知りませんでした。世界には、魅力的ですごい人がたくさんいるんだと、改めて教えてもらった気がします。★4つ。
『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』公式サイト


『The Son 息子』は、ある家族の在り方を描いた衝撃作。

ピーターはNYで活動する敏腕弁護士。
前妻のケイトとは離婚していますが、ふたりの間には17歳になる息子のニコラスがいます。
今は、再婚した妻ベスとの間に娘が誕生。仕事に、プライベートに、充実した毎日を送っていました。
そんなある日のこと、別れた妻のベスがやってきて、ニコラスの様子がおかしくて、自分には手に負えないと言うのです。
ニコラスに会いにいくと、息子は「父さんといたい」と言います。しかし、家には生まれたばかりの娘がいて。産後間もないベスに、17歳の少年との同居は重荷すぎます。
それでも、ベスを説得し、ニコラスを受け入れたピーターでしたが、上手くいっていたのは初めのうちだけ。転校したはずの高校にニコラスは通っておらず、ピーターはニコラスを叱りつけます。
ピーターは、ニコラスの発信していたSOSに、気づけずにいたのです…。

監督はフランスの作家で脚本家でもある、フロリアン・ゼレール。初メガホンでもある前作『ファーザー』では、主演のアンソニー・ホプキンスがアカデミー主演男優賞を受賞。脚本賞との2冠に輝いています。
彼の“家族3部作”の第2弾となるのが本作で、主演はヒュー・ジャックマン。
離婚した親を持つ子どもの精神的苦悩、逆に親の子どもに対する接し方、問題に直面した際の対応など、正解がないがゆえに難しい、そんなテーマに挑んだ作品です。
ピーターは、キャリアとしては大成功を収め、富も名誉も手にしていますが、自分中心の性格は、まさに大嫌いだった父そのもの。実は、ピーターもそれを自覚していました。そんな父の役を、アンソニー・ホプキンスが演じるのですが、いやいや、鳥肌が立つほどの、さすがの存在感でした。
観ていて痛々しかったのは、ボクも結婚生活を続けていたら、こんな夫、こんな父親になっていたんじゃないかと、自己分析をしてしまったことですかね。
“父”、“息子”ときて、フロリアン・ゼレール監督には、3部作最後の“母”が控えています。怖いもの見たさに近い、複雑な待ち遠しさがあります。
衝撃のラストシーンが待っています。覚悟して劇場に足を運んで下さい。満点。★5つ。
『The Son 息子』公式サイト


『死体の人』は、ユーモアとペーソスのヒューマン・ドラマ。

売れない役者の吉田広志。
若い頃は、自らが主宰した劇団の中心人物でしたが、演技のリアリティを追求しすぎて役の幅が狭まり、今では死体の役ばかり。
とはいえ、監督にとっては面倒くさいタイプの役者ゆえ、スケジュールはガラ空きだったのです。
ある日のこと、デリヘル嬢を部屋に呼んだ広志。やって来たのは、加奈という若い女性で、加奈もまた人生に問題を抱えていました。
そんな時、広志の父親から連絡が入ります。母が倒れたと言うのです…。

帰宅して発泡酒を飲んでは毒殺の演技を練習し、風呂に入れば溺死の真似をする。
このクソ真面目な性格が、広志の手かせ足かせになっているようで。
そんな広志の人生を変えるような、エポックメイキングな出来事が、加奈との出会いでした。
加奈には、売れないミュージシャンの恋人がいます。金をせびっては酒を飲み、雀荘に入り浸るような男。それでも輝いていた頃の姿が忘れられず、加奈は風俗で働いて、尽くしているのです。
と、書きながら、実はオンラインの不具合で、試写が音声なしでしか観られなかったんですよ。すみません。
最初は実験的な無声映画かと思いました。タイトルが『死体の人』だから、声が出ないのかとも。いや、まじで(笑)。だから、ちゃんと音声のあるもので見直したいですね。
加奈を演じる唐田えりかが、本当に可愛い。音がないのでルックスだけで。下衆な発言ですみません(^^;
「生きることが下手です。死んだふりは上手です」というキャッチフレーズが沁みてくるであろう1本です。★3つ。
『死体の人』公式サイト


『ハンサン 龍の出現』は、韓国映画。

1592年、日本の天下統一を成し遂げた豊臣秀吉が狙うのは、大陸、明への侵攻でした。
日本軍は、まず朝鮮を支配下に置こうと、朝鮮半島に攻め入ると、わずか20日で首都である漢陽を陥落し、王のソンジョを追放すると、反撃に出ようとする5万の朝鮮勤王軍をたった2千の兵力で奇襲。いとも簡単に打ち破ったのです。
そんな破竹の勢いの日本軍の前に立ちはだかったのが、全羅左道水軍の将軍、イ・スンシンでした。
脇坂安治を将とし、釜山浦に拠点を置く日本水軍は、日に日に勢力を増していきます。この侵攻をなんとしても食い止めなければならない。イ・スンシンは策を練るのですが…。

いわゆる、文禄・慶長の役を、今の韓国側から描いた時代劇。
一大バトルエンタテインメントとあるように、史実をどうこうというよりも、艦隊による合戦を、愛国、忠誠はもとより、政治的思惑や互いの間者(スパイ)などの暗躍も絡めて楽しむ娯楽映画になっていると言ってもいいかもしれません。
大ヒットした“VS日本”ものということで、また反日感情が高まったりはしないかと心配するのは、考えすぎでしょうか(笑)。
そんな意味では、日韓武将同士のリスペクトのような部分が、チラッとでも見て取れたのはよかったかなと。
砲弾の射程飛距離が限られているからこその戦術があったり、当時の個性的な戦艦がスクリーン上に再現されたりと、時代を感じさせる海戦もの。そんなアナログ感が、逆に観る人を新鮮に楽しませてくれるかもしれません。★3つ。
『ハンサン 龍の出現』公式サイト


『赦し』は、少年犯罪をテーマにした裁判劇。

7年前、高校生だった福田夏奈は、同級生の樋口恵未を殺害。懲役20年の刑を言い渡され、服役しています。
被害者の父・樋口克は事件以来、アルコールに依存。妻の澄子とは離婚。澄子は、同じく子どもを亡くした親のグループセラピーで知り合った岡崎直樹と新しい暮らしを始めていました。
そんなふたりの元に届いた福田夏奈の再審の通知。
克と澄子は、再び顔を合わせることになります。
少年法を基に、刑の軽減と、それに伴う賠償金を求める弁護士に対し、福田夏奈の真意は別のところにありました。
克と澄子の間にも、考え方の相違がある。
果たして、この裁判の行方とは…。

なかなか強烈でした。
早い段階で、福田夏奈の殺意がなぜ沸き起こったのかが描かれますが、樋口恵未の両親はそのことを知りません。つまり、最初の裁判で、夏奈は動機を話さなかったのでしょう。
絶対に許さないと、復讐の念だけで生きてきた克。一方で、出来ることなら過去を忘れたいと、既に新たな一歩を踏み出している澄子。
亡き娘への愛情は変わらなくても、再審に向かうふたりの思いには大きな違いがありました。
また、獄中で7年を過ごしてきた夏奈も、自分のやってしまったことを省みて、自分の将来についても冷静に捉えていたのです。
殺人に、成人も少年もないとは思いますが、法の解釈は違います。その是非論は避けますが、これも自分事ならどうでしょう。本音と建前は異なりませんか?
本音が克で、建前が澄子。なんて書き方をすると、「いや、澄子も本音だ」と言う人からは違うと叱られてしまうかもしれませんね。正解のない、難しいテーマです。
メガホンをとったのは、日本在住のインド人監督、アンシュル・チョウハン。
重い中にも一筋の光が差すかな…。どうでしょう。夏奈を演じた松浦りょうの演技が光ります。★4つ。
『赦し』公式サイト


『妖怪の孫』は、政治ドキュメンタリー。

凶弾に倒れ、非業の死を遂げた、故安倍晋三元内閣総理大臣。
これは、歴代最長在任期間を誇った、安倍内閣の功罪を描いたドキュメンタリー映画です。
いや、描かれているのは、ほとんどが“罪”のほうですかね。
「安倍自民党は、なぜ選挙に強かったのか」
「アメリカは安倍総理をどう見ていたのか」
「アベノミクスとは」
「安倍晋三氏の生い立ち」
「安倍総理と官僚の関係とは」
「地元選挙区の様子」
「元統一協会との関係」
「憲法をどう思っているのか」
主に、この8つの項目について取材を重ね、闇の部分を明らかにしようとしています。
安倍氏の国葬に並ぶ国民の姿と、それに反対する人々のシュプレヒコールから始まるこの映画、反対が6割ですから、スタートからして日本分断の象徴です。
いつも言いますが、ボクは無思想、無宗教。この手の映画は、プロパガンダとまでは言わないまでも、片側からの主張で描かれることが多く、すべてを鵜呑みにするのは危険です。
ただ、ボクの“人生の師”でもある、音楽評論家の富澤一誠さんがおっしゃっていた「事実はひとつ。でも、真実はひとつではない」。その言葉がまさに当てはまるというか。つまり、起こった事例は事実としてあっても、それをどちらから見るかで、見る人によって“真実”はいくつもあるということなんです。
この映画は、その“真実”のひとつを提示していると思います。それも、なかなか見ることの出来ない側からの提示です。
タイトルの『妖怪の孫』は、安倍晋三氏の母方の祖父、岸信介氏が“昭和の妖怪”と呼ばれたことから。岸氏も相当の人物だったようですね。
地元の人が、安倍晋三氏の父、安倍晋太郎氏は称えますが、晋三氏については「あのバカ息子が」と言う。安倍晋太郎氏の父は反骨の政治家、安倍寛。晋太郎氏は「私は岸信介の娘婿じゃない。安倍寛の息子だ」が口グセだったとか。
実は、岸信介氏も暴漢に刺されているんです。“因果は巡る”、“歴史は繰り返す”。いろんな言葉が浮かびます。
今、高市早苗経済安全保障担当大臣の、総務大臣時代の行政文書問題が取り上げられていますが、映画の中でも、まさに当時の国会答弁があったり、実にタイムリー。
この映画がすごいのは、ラストで監督の決意が示されているところ。身の危険を顧みず、自身のみならず、最愛の娘の顔写真まで出して、日本の将来を憂います。その姿勢に敬意を表さないと。
繰り返しになりますが、盲目的に信じ込むのではなく、ボクらも自身で知って、考えて。自分の“真実”を見つける必要があるんじゃないでしょうか。満点。★5つ。
『妖怪の孫』公式サイト


『零落』は、竹中直人監督、斎藤工主演作品。

深澤薫は漫画家。8年に渡る連載が終了し、今は脱け殻のような状態です。
エゴサーチをすると、連載終盤の内容に対する酷評の数々が。
次回作について打ち合わせをしたいと申し出ても、冷たい対応の担当編集者。
アシスタントに解雇を告げると、溢れ出す不満、そしてパワハラの言いがかり。
売れっ子漫画家の牧浦かりんを担当する、編集者の妻・のぞみはとはすれ違いの毎日。そして離婚の危機。
そんな深澤が、猫のような目をした風俗嬢のちふゆと出会います。
繰り返す逢瀬。どこかクールな彼女との割り切った時間に、深澤は心の安堵を求めるようになるのですが…。

原作は、数多くのヒット作を持つ人気漫画家、浅野いにおの同名漫画。
深澤は、自身の描くものに高い理想と志を抱いています。でも、それは今の世の中が求めているものとは乖離がある。
“元”人気漫画家になってしまったがゆえの苦しさ、葛藤と闘う深澤の姿を描いた作品で、中年と呼ばれる年齢以上になれば、職種の違いこそあれ、誰もが一度は感じる閉塞感なんだろうと。
ボクなんか、まさにそうで、世代交代を痛烈に感じていて、今はもう達観したところがありますが、「違う。違うんだ」とか「なんでわかってくれない」とか、昔の心の叫びが甦ります。
ちふゆだって違うんだよね、深澤さん。
いろんな感情が出ては消え、淡々と進みながら、それでも心を揺さぶられる、そんな映画。ところどころに、監督・竹中直人のカラーをちゃんと感じます。★4つ。
『零落』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.3.10
『有り、触れた、未来』★★★★
『書かれた顔』★★★
『デスNS インフルエンサー監禁事件』★★★
(満点は★★★★★)


日が長くなりました。
なんだか1日そのものが長くなった気になりませんか?
2時間あれば映画が1本観られます。積極的インドア?(笑)。春の感性に刺激を与えましょう!
さぁ、今週は3本です!

『有り、触れた、未来』は、東日本大震災から10年後の宮城県を舞台にした作品。

保育士として働く愛実は、昔、音楽活動をしていたのですが、バンド仲間で恋人の和樹を事故で亡くし、バンドは解散。今は中学校教師の悠二と交際。結婚もあと僅かに迫っていました。
悠二の勤める中学校に通う結莉は、10年前の震災で母と弟を亡くし、漁師だった父の健昭は、それ以来、酒浸りの日々。結莉は父の姿を見るたびに、自分が死ねばよかったと思い詰め、学校にも行かなくなってしまいます。
そんな二人を優しく見守るのが、祖母の文子でした。結莉の三者面談に、父親の代わりとして出席した文子は、県外から来た学年主任の型通りの進言に対し、こう言ったのです。
「みんな、生きてるだけで、十分頑張っているんじゃないでしょうか」…。

このあらすじは、ほんの一部でしかありません。
他にも、健昭が働く工場の同僚で、悠二の兄でもあるボクサーの光一と、支える妻の若菜。
愛実の友だちで劇団員の蒼衣と、リーダーの翔。
蒼衣の劇団が打ち上げで使う居酒屋の店主真治は、愛実の実の父。離婚している母の有美子は、がんを患い余命宣告をされていますが、娘の花嫁姿を見たいと懸命に治療を受けている…。
それ以外にも、たくさんの登場人物がいて、みんな一生懸命に生きています。
監督の言葉に、「人間は支え合い、繋がって生きていく」というのがあります。確かにそれを強く感じる内容です。
原案は、震災の語り部としても活躍している齋藤幸男の著書「生かされて生きる―震災を語り継ぐ―」。
132分の作品。造語である映画のタイトルや、ポスターの印象などから、重い映画なんだろうなとの先入観がありましたが、軽くはないものの、素敵なヒューマンドラマに仕上がっているなと感じました。
3月11日で、東日本大震災から12年。コロナ禍で命を失った人も多い中、すべての今を生きる人たちへの応援歌のような作品です。★4つ。
『有り、触れた、未来』公式サイト


『書かれた顔』は、1990年に作られた映画の4Kレストア版。

日本では1996年に公開された本作は、スイスの映画監督ダニエル・シュミットが、歌舞伎の女形スターの坂東玉三郎を主軸に、女優の杉村春子、日本舞踊の武原はん、舞踏家の大野一雄、日本最高齢芸者の蔦清小松朝じの姿を収めたドキュメンタリー映像集。
原題の『WRITTENFACE』は、坂東玉三郎の化粧を意味するのではないかと推察します。
当時はジェンダーの意識も薄かった日本において、監督にとっても女形という存在は興味深く映ったのでしょう。
日本人がイメージしていた、あるいは求めていた“女性らしさ”を、男性が演じるわけですもんね。
「なぜ、今再び?」と問われれば、「時代が求めた」または「今だからこそ」との答えが返ってきそう。
外国人の目というフィルターを通して客観的に見える何かに、新たな発見があるのかもしれません。★3つ。
『書かれた顔』公式サイト


『デスNS インフルエンサー監禁事件』は、カナダ映画。

チアリーダーのケリーは、50万人近いSNSのフォロワーを持つ、超人気インフルエンサー。
ケリーが目覚めると、椅子に縛りつけられ、身動きが取れない状態に。そう、彼女は何者かに拉致され、監禁されていたのです。
恐怖におののくケリーの前に、不気味なマスクを被った男が現れます。男は、チャールズだと名乗ります。
男は言います。「今から1時間以内に“いいね!”を1000集めろ」と。さらに「達成すれば、無傷で解放してやる」とも。
ところが、強気なケリーは「命乞いはしない」とそれを拒むんですね。
その途端、再び気を失うケリー。気がつくと、今度はサブリナという女性が椅子に縛られていました。
チャールズは言います。「自分のためじゃなく、人のためならどうだ」。
サブリナの身の危険を回避するため、ケリーは写真を撮影し、それをSNSにUPするのですが…。

「バズるか、死か。」のキャッチフレーズが付いたこの映画。タイトルの“デスNS”は、“エスNS”と掛けたんだと、映画の途中で気付きました(笑)。配給会社は、上手い邦題を考えましたねっ。
ケリーへの要求は次々にエスカレートし、2時間で5000の、さらには6時間で5万の“いいね!”を集めろと言われます。
謎の男チャールズの狙いは、いったい何なのか?ケリーは無事に逃げ出すことができるのか?というサスペンス・スリラーです。
ネタバレになっちゃったらすみません。でも、ボクら昭和のオジサンたちが感じていながらも、口に出すと、時代錯誤も甚だしいと批判されそうなことを代弁してくれているような映画でもあります。
それゆえ、世代によって感じ方が変わりそう。若い人は「説教くせえ映画だ」となるんじゃないかなぁ(笑)。
それぞれの感想が聞きたくなる1本でもあります。★3つ。
『デスNS インフルエンサー監禁事件』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.3.2
『エッフェル塔 創造者の愛』★★★
『丘の上の本屋さん』★★★
『KG200 ナチス爆撃航空団』★★★
『ホーリー・トイレット』★★
(満点は★★★★★)


3月になりました。
花粉の大量飛散の頃になり、以前なら、試写会でのくしゃみが大変などと書いたりもしていました。しかし、今はオンラインでの試写が主流。それを感じることはなくなっています。
これもまた時代の変化なんだなぁと、つくづく思ったりもします。
さぁ、今週は4本です!

『エッフェル塔 創造者の愛』は、史実を基にした愛の物語。

ギュスターヴ・エッフェルは、今や押しも押されもせぬパリの人気設計士。彼を一躍有名にしたのは、アメリカの自由の女神像建造への協力でした。
そんなエッフェルに、1989年に開催されるパリ万博のシンボルとなるモニュメントの制作依頼がきます。
しかし、エッフェルの頭の中は、パリで走らせる地下鉄のことでいっぱいで、この案件にはまったく気乗りがしていませんでした。
友人で記者のアントワーヌ・ド・レスタックは、エッフェルのよき理解者。アントワーヌは、政府主催のパーティにエッフェルを誘い、その席で初めて妻のアドリエンヌを紹介します。
衝撃が走るエッフェル。
実は、エッフェルとアドリエンヌは、エッフェルが20代の頃に恋人同士の関係にあったのです。
ボルドーで鉄橋建築を指揮していたエッフェル。過酷な現場環境を仕切るエッフェルを見たアドリエンヌは、恋に落ちます。しかし、ブルジョワのお嬢様と労働階級の男。周りがこの恋を許すはずがありませんでした。
20年ぶりの再会は、友人の妻という残酷なものでしたが、アドリエンヌの野心的な性格を知るエッフェルは、彼女の愛を満たすために、パリのど真ん中に、高さ300mの鉄の塔を立てるとぶち上げたのです…。

ギュスターヴ・エッフェルは実在の人物ですから、その伝記的な部分に、想像と創造を加えて紡いでいったラヴ・ロマンスといった感じでしょうか。
エッフェルも他の女性と結婚し、子どもにも恵まれるのですが、妻とは死別。そこに、大恋愛の末、向こうの両親に関係を引き裂かれた元カノが現れる。それも友人の妻としてですから、運命とは残酷で。
あ、この部分が事実なのかフィクションなのかはわからず。
エッフェルのみならず、アドリエンヌは相当悩みますよね。
彼女の身の振り方、反対の声が上がりながらも進めたエッフェル塔の建設。このあたりが見どころとなる映画です。
最後に「なるほど…」とニヤリ。これも事実か、フィクションか。都市伝説レベルのラストを、どうぞお楽しみに。★3つ。
『エッフェル塔 創造者の愛』公式サイト


『丘の上の本屋さん』は、イタリアとユニセフの共同製作作品。

丘の上にある小さな古書店。店主のリベロは、長い歳月、ここで個性的な客の相手をしてきました。
隣のカフェで働く二コラ
もそのひとり。二コラは、高齢のリベロを気にかけ、ちょくちょく店に顔を出していました。
ある日のこと、店の前で興味深そうに本を手にとる少年がいました。彼の名はエシエン。西アフリカのブルキナ・ファソからの移民であるエシエンは、イタリアに来て6年になると言います。
ところが、経済的に貧しくて本など買えないエシエンに、リベロは本を貸してあげるんですね。初めはコミックから、そして段階を上げ、長編ものまで。
いつしか、ふたりの間には、年齢を超えた友情が芽生えていたのです…。
イタリアで最も美しい村のひとつと言われる、チヴィテッラ・デル・トロントを舞台に繰り広げられる、ハートウォーミングな物語。
ユニセフが共同製作ですから、まったくのお堅い映画かといえばそうでもなく。
客の中にはSM嬢がいたり、極右の思想を持つ男性がいたり、また二コラの恋愛が描かれていたりと、これもまたお国柄?それとも多様性の表れ?
根底には、“自由”を意味する名前の店主リベロと、移民の少年エシエンとの、国も人種も年齢も超えた友情物語があり、さらに本というものの素晴らしさが描かれているのですから、ユニセフらしいといえば、らしいのだと思います。
リベロは、エシエンから本の感想を聞くのが、楽しみで仕方ない。そう、人生は生き甲斐が大切なんですよね。互いに互いを支え合う出逢い。それが幸せなんだと感じます。★3つ。
『丘の上の本屋さん』公式サイト


『KG200 ナチス爆撃航空団』は、戦闘機アクション映画。

第二次世界対戦中の、ナチス占領下のフランス。
連合国軍であるアメリカ空軍のB―17爆撃機“ヤンキー・レディ”が、護衛の2機を引き連れて、ナチスの基地を殲滅すべく飛行していました。
すると2機のイギリス機が近づいてきます。味方であることに安堵したのも束の間、なんとこの2機が攻撃を仕掛けてくるではありませんか。
実はこの戦闘機、ナチスが撃墜し、修理したイギリス空軍のもの。これはコード・ネーム「ウルフ・ハウンド」という、敵の目を欺く作戦だったのです。
奇襲を受け、3機は墜落。生き残ったB―17のクルーたちは、ナチスの捕虜になってしまいます。
一方、不時着した護衛機のホールデン大尉は、敵の目をかいくぐりながら、なんとか仲間を探し出そうとします。
B―17は「ウルフ・ハウンド」の格好の餌食に。大都市を一発で壊滅状態にする爆弾を積み、どうやら標的はロンドンだと知るホールデン大尉。
仲間を助け、ナチスの謀略を止めることはできるのでしょうか…。

ナチスの第200爆撃航空団というのは実在したみたいですね。
「極限のドッグファイト・エンターテインメント」とキャッチフレーズにあるように、冒頭から戦闘機による、手に汗握る戦いが見られます。
捕虜が収容されている施設あたりから、ちょっぴりリアリティが欠け始めたのが残念でしたが、エンターテインメントとして観れば楽しめる作品だと思います。
劇中では、本物のヴィンテージ機が使われ、破壊シーンもCGではなく、精密なスケールモデルを使うほどのこだわりよう。確かに、“ヤンキー・レディ”は美しかったです。
戦闘機マニアには、垂涎の1本かもしれません。★3つ。
『KG200 ナチス爆撃航空団』公式サイト


『ホーリー・トイレット』は、仮設トイレに閉じ込められた男の脱出劇。

建築家のフランクが目覚めたのは仮設トイレの中。
どうやら意識を失っていたようで、どうしてこうなったのかがわかりません。
その時、右腕に激痛が走ります。なんと、長い鉄筋が右腕を貫いていたのです。
必死に記憶を甦らせるフランク。思い出したのは、友人でもある市長ホルストのこと。
ここは新たなリゾート開発地。この新規事業をなんとしてもやり遂げたいホルストに対し、貴重なふくろうの生息地であると環境団体は猛反対。フランクも再考を促したのですが、邪魔者は消せとばかりのホルストの手にかかり、まもなくダイナマイトで木っ端微塵になる敷地内に突き落とされたのでした。
大規模な破壊をひと目見ようと、市民が大勢集まり、爆破へのカウントダウンが企画されていました。アナウンスによれば、残された時間は34分。スマートフォンは便器の中。
果たしてこの絶望的な状況から、フランクは脱出することができるのでしょうか…。

解説によると、状況設定を極端に限定することで緊迫感を高めるスリラー映画を“シチュエーション・スリラー”と呼ぶそうです。
仮設トイレの中で身動きがとれないのですから、まさに悲惨な“シチュエーション・スリラー”です。
ちなみに、試写の案内メールに赤字で「本作は、お好きな方だけご覧下さい」とありましたが、観たからと言って、ボクは別にトイレ好きじゃありませんからね(笑)。
友人だと思っていた市長から命を狙われる。それどころか、フランク亡き後はフランクの妻マリーをも寝とろうとしている、ホルストとはとんでもない輩なんです。
こんなヤツの末路は、大抵が“ウンの尽き”。
おあとがよろしいようで…(笑)。★3つ。
『ホーリー・トイレット』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.2.24
『アラビアンナイト 三千年の願い』★★★★
『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』★★★★
『日の丸 寺山修司40年目の挑発』★★★
『ワース 命の値段』★★★★
(満点は★★★★★)


2月2日に紹介した映画『茶飲友達』が、かなりの注目を集めているそうです。1館だけの上映だったのが、名古屋、大阪、福岡、京都、横浜など、25館に広がったとニュースにありました。
高齢化社会の抱える問題に、若者の生きづらさも併せて描くことで、幅広い層に問題提起ができたのでしょう。
あの作品紹介のまとめに、「こういう作品が注目され、世間の話題に上がってほしいと思います」としましたが、そうなってよかったです。映画の持つ役割、力のひとつですから。
さぁ、今週は4本です!

『アラビアンナイト 三千年の願い』は、現代のおとぎ話。

世界中の物語や神話研究を専門とするアリシア。
彼女自身の物語はといえば“孤独”。しかし、それもよかれと物語を人生の相棒としてそばに置いてきました。
そんな彼女が、トルコのイスタンブールを講演で訪れます。
街を散策中に綺麗なガラスの小瓶を気に入り、購入。ホテルの部屋に帰って、汚れを落とそうとこすっていると、瓶のふたが取れ、なんと中から魔人が現れます。
彼の名はジン。出してくれたお礼に、3つの願い事を叶えてくれると言います。
しかし、アリシアは知っています。願い事がすべてハッピーエンドにならないことを。
ジンは焦ります。願い事を3つ叶えないと、自由の身にはなれないから。
すると、ジンは、これまでの自分の3000年の出来事を話し始めたのです…。

ジョージ・ミラー最新作。面白かったです!
この手のファンタジーは、舞台ごとすべて“a long long ago…”だったりしますが、この作品は、現代が舞台。もちろん、ジンが語る数千年前は“昔”ですョ。
でも、映像テクノロジーの進化というか、魔人が小瓶から現れるシーンなんて、すごいです。ホテルの天井に頭がつかえた巨大な魔人が煙をシューシュー言わせながら、ベッドに腰かけている(笑)。ここで一気に魅せられてしまいます。古代は古代で、まさにファンタジー。
そこに加わるエッセンスが、アリシアの存在。孤独に生きる女性の本心、欲望、理性、知的好奇心が、ジンとのやり取りに絶妙なスパイスを振りかけます。
現代版大人のおとぎ話。今のあなたなら、願い事3つ、どうします?
深く考えても、考えなくても楽しめます。実によく出来た映画だと思います。★4つ。
『アラビアンナイト 三千年の願い』公式サイト


『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』は、全町避難の福島県富岡町に暮らす男性のドキュメンタリー。

福島県富岡町。
2011年3月、東日本大震災で、福島第一原発が事故を起こし、原発から12キロにあるこの町は、警戒区域となり、全町避難を余儀なくされました。
家畜はすべて殺処分が命じられますが、それに納得しなかったナオトは、牛、馬、ダチョウ、猫など、動物の世話をするため、この町に残ったのです。
そんなナオトの生活を追った、10年の記録。
ちなみに、2015年には『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』というドキュメンタリーが公開されていて、今作はその続編にあたるそう。
同じ町の同じ場所で映像を撮ると、その変化は目に見えてわかる。それが“復興”の進み具合だと信じたいけど、中身はそうじゃない。
さらに、この映画で驚かされたのはふたつ。
ひとつは、ナオトの自然や動物に対する知識の豊かさ。桜の木に蜜蜂が戻ってきたのが、こんなにも大切なことなのかと。些細な変化に気づくナオトの感性は、現代人?都会人?が忘れてしまった、いや、捨ててしまったものなのでしょう。
もうひとつは、原発についての考え方です。それを書こうと思いましたが、公式サイトの監督のコメントに「彼らから驚愕の答えを聞いた。それはこの映画の中で、観客の皆さんに確かめてもらい、考えて欲しい」とありました。
そう、それを明らかにするのはネタバラシなんだなと。なので控えますが、確かに驚愕でした。ボクも「えっ?」って声が出ましたから。あなたも、ぜひ劇場で確かめてみて下さい。
ナオトは、松村直登さん。たくましく、優しく、本来、人はこうあるべきと思わせてくれる人です。
生活自体が“汚染”されてしまっているボクには、絶対になれない理想像かもしれません。★4つ。
『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』公式サイト


『日の丸 寺山修司40年目の挑発』は、TBS制作のドキュメンタリー。

劇団「天井桟敷」の主宰者で、歌人や劇作家、作詞家、映画監督としても知られる寺山修司。
彼が構成を務めたドキュメンタリー番組『日の丸』が、今から56年前の1967年2月9日にTBSで放送されました。
内容は、街行く人へのインタビュー。女性インタビュアーが、無機質に、ただただ質問だけをぶつけていきます。
「あなたは日の丸を掲げたことがありますか」
「それはなぜですか」
「あなたに外国人の友だちはいますか」
「戦争になったら、その人と戦えますか」
1967年(昭和42年)と言えば、ラジオの深夜放送「オールナイトニッポン」が始まり、映画ではゴジラが大暴れ、グループ・サウンズブームのまっただ中で、ザ・フォーククスセダーズの「帰ってきたヨッパライ」が大ヒットした年。
「もはや戦後ではない」と政府が宣言した1956年から11年、73年まで続く日本の高度経済成長期において、人々の生活が確実に変わり始めた頃。
その一方で、富山のイタイイタイ病、熊本の水俣病、四日市ぜんそくなどの公害の問題が表面化したのも、この年です。
寺山修司は「国家とは何か」を追い続けていたと言います。そして、テレビのタブーにふれるような番組を作ったと。実際、視聴者からの抗議が殺到し、閣議でも問題視されたと公式サイトにありました。
あれから55年が過ぎた今、28歳の若手ディレクター佐井大紀が、あの『日の丸』を再現しようと試みたのがこの映画です。
同じやり方でインタビューをし、同じ質問への返答の差異に、現代人の心を見ようという実験的映像です。
テーマがテーマだけに、決して商業的ではないし、エポックメイキングな言葉が聞かれるかと言えば、そうでもない。
このキナ臭い時代に、“そうでもない”のが現代人なんだと言われれば、そうなのでしょうけど…。

2023年は、寺山修司の没後40年。大の馬好きとしても知られています。
ボクの周りに、「『日の丸』という寺山修司の映画があるみたいだけど観ましたか?」と尋ねてきた人が数人いて。今もなお生き続ける、寺山修司の影響力の大きさに、正直、驚いたものです。★3つ。
『日の丸 寺山修司40年目の挑発』公式サイト


『ワース 命の値段』は、実話に基づくストーリー。

大学で講師も務める、ワシントンD.C.の弁護士、ケン・ファインバーグ。彼は調停のプロフェッショナルとして、独自の計算式を編み出し、補償金額の算出に確固たる自信を持っていました。
そんな時、同時多発テロが勃発します。2001年9月11日のことです。
22日、政府は被害者補償基金を設立することを発表。遺族や直接の被害者、瓦礫解体などで身体的被害を受けた人たちが、納得のいくような分配をしなければなりません。
その特別管理人に、ファインバーグは自ら手を挙げたのです。
7000人にも及ぶ、テロ被害者の80%を賛同させることを課せられたファインバーグでしたが、職業や肩書きによって補償金にあまりに大きな差が出るその計算式に、「人の命を平等に扱え」と、初めての説明会から、多くの反発を受けます。
反対派の代表的存在になったチャールズ・ウルフは、ファインバーグの計算式の欠点に加え、血の通わないやり方への間違いを指摘します。
プログラム申請期限の2003年12月22日を直前にしても、目標には程遠い賛同者の数に、ファインバーグはある決断をするのでした…。

実在の弁護士と事例を描いた物語。当然、ファインバーグひとりではなく、彼の法律事務所のスタッフたちが、チームとして取り組んでいきます。
遺族たちが一斉に大手航空会社を訴えれば潰れてしまうのを怖れた政府は、基金を立ち上げて、その多くに納得してもらうことで訴訟を回避したい。救済プログラムの第一義は(あくまで劇中では)そこですから。
ファインバーグも、始めは自慢の計算式で何とかなるとたかをくくっていたのですが、“人の命”はそう簡単ではありませんでした。皿洗いをしている人の命は安くて、大企業の重役なら高いのかと。
数組の遺族がクローズアップされますが、個別に話を聞けば聞くほど、皆それぞれに抱えているものが違う。ただ、かけがえのない大切な存在を失ったことだけは、共通の事実で。
ギリギリのところでファインバーグの下した決断こそ正義。そう強く感じました。それは劇場でお確かめ下さい。
主演は、30年振りのバットマン役でも話題のマイケル・キートン。正義の味方が似合います(笑)。★4つ。
『ワース 命の値段』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.2.17
『ICE ふたりのプログラム』★★★
『いつかの君にもわかること』★★★
『劇場版 センキョナンデス』★★★★
『呪餐 悪魔の奴隷』★★★
(満点は★★★★★)


2023年に入ってからも、たくさんの試写の案内を頂いていますが、そのほとんどが“オンラインも可”。
これがコロナ以降のスタイルとして、定着するんだろうなと思っています。
ただ、映画をスマホの小さな画面で観ることに慣れ過ぎてしまうと、映画本来の良さを忘れてしまう怖さもあって…。
たまに劇場に足を運ぶことは、積極的に続けないといけないなと改めて感じています。
さぁ、今週は4本です!


『ICE ふたりのプログラム』は、ロシアの恋愛映画。

母と二人暮らしのナージャ。
ナージャの夢は、フィギュアスケートの選手になること。母はナージャの夢を叶えようと、決して楽ではない生活でも、決して後ろ向きな言葉を口にしませんでした。
ところが、無理が祟り、母は早逝してしまいます。
ナージャは母の言葉を胸に、コーチのイリーナに直談判。クラブに入れてもらうことになります。
すると、努力で腕を上げてきたナージャが、国を代表するトップスケーターのレオーノフの相手に選ばれたことで、彼女のスケート人生が一変するんですね。
しかし、好事魔多し。演技中に無理を強いられ、ナージャは大ケガを負ってしまいます。
選手生命の危機と共に、地元に戻ったナージャ。元のコーチのイリーナを訪ねると、ひとりの男性を紹介されます。
それはアイスホッケー選手のサーシャ。イリーナに対する粗暴な行動で出場停止になっていたサーシャに、イリーナはナージャの面倒を見るように命じたのです。
凸凹コンビが誕生した瞬間でした…。

2018年に作られたロシア映画。まだ平和だった頃です。
自国ロシアでは大ヒットし、続編がすでに公開され、そちらもヒットしたそうです。
映画の登場人物もそうですが、人単体で見れば、優しさに満ち溢れた人はたくさんいます。これが国となると、変わってきちゃう。今のような状況だと特にですよね。
だから、ボクらは見方に気をつけないといけない。小さくも、大きくも、どちらからも見る必要があります。
戦争が悪い。面子のために人を駒のように使う政治のトップが悪い。
皆、普通に生きて、喜んで、悲しんで。“普通”を奪うなと、声を大にして言いたくなります。
作品の評論になってないけど、そう感じさせるのもまた、映画の持つひとつの力ではないでしょうか。★3つ。
『ICE ふたりのプログラム』公式サイト


『いつかの君にもわかること』は、実話から生まれた父と子のストーリー。

ジョンは33歳のシングルファーザー。窓拭き清掃員として生計を立てている彼には、幼いひとり息子のマイケルがいます。
しかし、ジョンは不治の病に冒されていて、余命宣告を受けていたのです。
自分が死んだ後、マイケルは天涯孤独の身になってしまう。そこでジョンは、マイケルを養子に出すことを決意。手を挙げてくれた家庭を、マイケルと共に、いくつも訪問します。
ところが、回れば回るほど、何がマイケルの将来にいいのかが、わからなくなっていくんですね。
そんな時、マイケルがジョンに聞きます。
「ねぇパパ、“ようし”ってなぁに?」…。

切ない映画でした。
安楽死をテーマにした映画なんかもそうですが、正解がないから。
ジョンはマイケルにとっての完璧を求める。
でも、それは存在しないわけですよね。もし自分が親を続けていったとしても、未来は未知なわけで。
ただ、ジョンの気持ちはわかる。子どもがいないボクにもわかります。
原題は「Nowhere Special」。“どこも特別な場所なんてない”といったところでしょうか。
自分が親を思う時、人生の大半を子どもにかけてくれたことへの感謝しかありません。じゃ、親孝行が出来たかといえば、これまた完璧にはほど遠く。特に、亡くなった父に対しては、後悔ばかりです。でも、親子の愛情は、“作用・反作用”だと信じたい。自分に言い訳でしょうか(笑)。
ジョンとマイケルで幸いなのは、ふたりで話す時間が比較的あるということかな。
いつかの君にもきっとわかりますように…。★3つ。
『いつかの君にもわかること』公式サイト


『劇場版 センキョナンデス』は、選挙ドキュメンタリー。

時事芸人のプチ鹿島と、ラッパーのダースレイダーが配信しているYouTube番組「ヒルカラナンデス」。
この番組で取り上げているのが時事ネタで、今回はこのふたりが選挙取材企画を立ち上げ、2021年10月の衆院選における香川1区と、22年7月の参議院選における大阪選挙区を突撃取材。その模様をまとめたのが、この映画です。
香川1区は、初代デジタル大臣でもあった自民・平井卓也氏の保守地盤。対抗馬は立憲の小川淳也氏。
このふたりの選挙戦、面白いぐらいに“熱量”が違うんですよね。
選挙事務所のスタッフの対応も、支援者の熱さも。勝ちを確信したかのような落ち着きと、巨人に挑む挑戦者の勢いとでもいうか。
撮影が偏向してるようには感じませんでした。あくまで客観的に、おかしいことはおかしいと。それは例えば、平井氏一族の会社である四国新聞社の報道の在りようもしかりで、ふたりは社に乗り込んで、真正面から質問をぶつけます。その対応も、今の日本の政治を象徴するかのようで。ギャグかと思いました。
また、参院選の方はと言えば、選挙中に安倍晋三元総理の銃撃事件がありましたよね…。まさにリアルタイムで、各陣営の動きが収められています。
この映画を観て感じるのは、本当はこれぐらい各候補者に密着して、選挙事務所の対応や、本人の素顔を知ってから1票を投じたいなということでした。
それでもわからないことは多いし、現実的には難しいことだらけなんですけどね。
でも、そう思わせるぐらい、面白い映画でしたョ。
政治家は国民によって選ばれる。でも決して“選ばれし民”ではない。“頼まれし人”なのですよ。なのに、そこを先生方は勘違いしちゃうんでしょうねぇ。権力を持っちゃうと自分は特別な存在なんだとね。
プチ鹿島、ダースレイダーのふたりはいいところに目をつけましたよね。だって、話のネタは向こうからやって来るんだもの。それも、半永久的に(笑)。★4つ。
『劇場版 センキョナンデス』公式サイト


『呪餐 悪魔の奴隷』は、インドネシアのホラー映画。

4年前、田舎の一軒家に暮らしていたリニは、そこで母と祖母、末の弟を亡くし、今はジャカルタ北部に建つ高層アパートに引っ越して、父とふたりの弟と暮らしていました。
ある嵐の夜、猛烈な雨により、アパートは陸の孤島と化してしまいます。
さらに、不幸は続きます。アパートのエレベーターが落下し、乗っていた住人たちが命を落としてしまったのです。
大事故が起きたにもかかわらず、救助には誰も来られず、遺体はそれぞれの部屋に安置するしかありませんでした。
リニは気付いていたのです。「このアパートはおかしい。何かがいる」と…。

2017年のインドネシア映画『悪魔の奴隷』の続編です。
リニたち一家が中心ではありますが、登場人物は他にもたくさんいて、その前作をボクも知りませんが、観ていなかったとしても大丈夫。終盤、「あ、4年前、リニたちには、きっとこんなことがあったんだろうな…」と想像がつきますから。
イスラム教圏のホラー映画。日本だと怪奇映画は主に霊で、悪魔はキリスト教だけかと思っていたら、違うんですね。
『悪魔の奴隷』自体が、“1980年代にイスラム教圏で最も怖いホラー映画”と呼ばれた『夜霧のジョギジョギモンスター』の現代版リメイクだそう。ゆえに、自国では大ヒット。きっと、“恐怖の連鎖”という名の、人々の期待が作品に乗り移っているのでしょう。
怖さのスパイスというか、多少のお国柄による差異は感じますが、インドネシア産が気になる人は、是非チェックしてみて下さい。★3つ。
『呪餐 悪魔の奴隷』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.2.9
『崖上のスパイ』★★★
『コンパートメントNo.6』★★★
『呪呪呪 死者をあやつるもの』★★★
『二十歳の息子』★★★
(満点は★★★★★)


観てきました。ヨネスケさん主演『突撃!隣のUFO』。
馬鹿馬鹿しいのが売りでしょうが、途中で、UFO・超常現象研究家の矢追純一さん、雑誌『ムー』の編集長らのインタビューが入り、UFOの話題で盛り上がります。
エクストリームの配給作品。★は…う〜ん、やっぱり2つ(笑)。でも、それが誉め言葉だと思って頂ければ(^-^)
さぁ、今週は4本です!


『崖上のスパイ』は、中国映画。

1934年、日本の統治下にあった満州国。
この年の冬、“ウートラ作戦”という極秘の任務を遂行するために、ソ連で特殊訓練を受けた共産党スパイチームの男女4名が、ハルビンに潜入します。
仲間を助け、日本の蛮行を世界に知らしめること。それが今回のミッションです。
リーダーはチャン・シエンチェン、妻のワン・ユー。チュー・リャンとシャオランは恋人同士。ですが、互いに別れてコンビを組み、1班と2班となって行動します。
周りは特務警察だらけ。
加えて、過去に捕まった共産党スパイの中には処刑寸前に寝返った者もいて、ウートラ作戦の中身が明らかにされてしまいます。
すると、特務警察の手が次第に4人に伸びていき、遂にはシャン・シエンチェンが捕らえられてしまったのでした…。

チャン・イーモウ監督作品。
諜報戦の物語として観れば楽しめますが、やはり日本人には耳の痛い内容です。
全編を覆う雪、暗い空、重い空気感。そんな中、ヒリヒリするような神経戦が繰り広げられていく。
特務警察の中にも、逆に共産党のスパイがいて、特務課トップのガオ科長も、その存在に気づいてはいるけれど、誰なのかは特定できておらず。
皆が疑心暗鬼の中で、両者の仕掛けや、明かされる騙しのトリック。
目を覆いたくなるシーンもあり、これでまた反日感情が高まらないといいなと、正直、心配になってしまうほどで。
日本人のボクが、他人事のように語ると叱られるかもしれませんが、戦争はこうして憎しみを、消えないタトゥーのように後世にまで残していきます。戦争だけは、絶対にしないよう、そこに人間の知恵が必要なのだと思います。★3つ。
『崖上のスパイ』公式サイト


『コンパートメントNo.6』は、カンヌ国際映画祭のグランプリ受賞作。

ラウラは、フィンランドからモスクワにやって来た留学生。
彼女には、モスクワで知り合ったイリーナという年上の女性の恋人がいますが、どうやら恋多き人のよう。一緒に行こうと計画していた旅行をドタキャンされ、ラウラはひとり寝台列車に乗ります。
モスクワから、世界最北端の駅・ムルマンスクに向かう旅。その目的は、古代の岩面彫刻・ペトログリフを見に行くこと。
しかし、その寝台列車の6号室で同室になったのは、ロシア人炭鉱労働者の男・リョーハ。酒を飲み散らかし、失礼極まりない振る舞いのこの男も行き先はムルマンスク。
逃げ場のない寝台列車。
気が滅入るような旅は、まだ始まったばかりでした…。

メガホンをとったのは、フィンランド人のユホ・クオスマネン監督。2021年の第74回カンヌ国際映画祭グランプリ作品です。
無礼なリョーハが、フィンランド語で「愛してる」は何て言うかを尋ねると、ラウラは「くたばれ」を教えます。うれしそうにその言葉を繰り返すリョーハ。
しかし、寒く、長い旅で起こる様々なことが、ふたりの心に変化を生み出していくんですね。
ロードムービーでもあり、恋愛映画でもある。
ハリウッドにはない、カンヌが好きそうなテイストの作品かなといったイメージ。「恋愛は加点式。出会いは低いほうがいい」なんて言葉がぴったりの1本です。
とはいえ、カンヌのみならず、世界中で高い評価だそうです。寒い季節の今こそ、お試しあれ。★3つ。
『コンパートメントNo.6』公式サイト


『呪呪呪 死者をあやつるもの』は、韓国ホラー。

閑静な住宅街で起きた殺人事件。
警察が踏み込むと、被害者の脇にあったのは容疑者らしき遺体。しかし、鑑定の結果、その遺体は死後3ヶ月が経過していたのです。
オカルト系に強いジャーナリストのジニが、ラジオの生放送に出演中、リスナーと繋いだ電話に出たのは自分が犯人だと名乗る男。彼は、直接取材を受けたいとジニに申し出ます。
受諾したジニは、多くのマスコミと警察が見守る中、インタビューを敢行。男によれば、自分が死者を操って殺人事件を起こしたと。そして男は新たな殺人事件を予告すると、体が砂像のように崩れ落ちて死んでいったのです。
チョン刑事らと事件を追うジニ。命を狙われているのは大手製薬会社のトップの役員たち。この会社は、過去に治験などで多くの健康被害者を出していたのです…。

ストーリーのさわりの部分です。
この映画のキャッチコピーのひとつが、「呪術師vsKゾンビ」。グレーのパーカー?ポンチョ?に身を包んだ、大量のゾンビが大暴れ。
通常のゾンビは動きが緩慢ですが、Kゾンビはメチャメチャ速い(笑)。
それを美少女呪術師のソジンが退治しようとする。
ジャーナリストとしてのジニは、巨大企業の内幕を暴露し、チョン刑事らと事件の全容解明に努める、というお話。
ホラーなんだけど、ボクらがイメージするホラーとはちょっと違った感じ。そんなジャンルが、既に確立しているのでしょうか。勉強不足ですみません。
アニメの実写化みたいな感覚で臨むといい1本かなと思います。★3つ。
『呪呪呪 死者をあやつるもの』公式サイト


『二十歳の息子』は、ドキュメンタリー。

引っ越しのシーンから始まるこの映画は、ゲイの男性である当時40歳の網谷勇気と、児童養護施設で育った当時20歳の渉が、養子縁組をし、新たに父子として生活を始めた姿を追ったドキュメンタリー作品。
敬称略で書かせてもらいますが、網谷は子どもたちへの支援団体で働いていて、渉とは高校生の頃から関わっていたものの、彼が事件を起こして起訴されてしまったことをきっかけに、職員としてではなく、家族として支えられないかと養子縁組を提案。渉がそれを受け入れて、アパートでの共同生活が始まったのです。
渉は幼少期に里親からの虐待や、施設でのいじめに遭ったと。それでもそんな経験を逆に武器にしたいと、明るく夢を語ります。
でも、公式サイトの監督の言葉にもありますが、渉は人懐っこいけれど、他人を寄せ付けない鋭い視線も併せ持つと。確かに、それが伝わってきます。
以前から家族を持ちたいと望んでいたわけでもなかった網谷。手探りで渉との新たな関係を進めていくのですが…。

フィクションなら、あれこれ自分の考えを書けますけど、ドキュメンタリーですからね。
今はどうかわかりませんが、撮影当時、芸能関係に行きたいと話していた渉にひとつだけ言うとしたら、「その世界はそんなに甘くないし、君が思ってる武器は武器にはならないよ」ということぐらいですかね。でも、撮影は5年前。もう、そんな言葉は期限切れかな(笑)。
LGBTQに関する、岸田総理や、その周りの人たちの発言が問題視されていますが、みんな一生懸命生きているわけで。道は違えど、それはボクも一緒です。
自分の人生は、自分が脚本家で、かつ自分が監督。自分が描く物語を、時につまづきながらも歩いていけるのは幸せなこと。それだけに、逆を考えればわかることがたくさんあると思うのですが。★3つ。
『二十歳の息子』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.2.2
『仕掛人・藤枝梅安』★★★★★
『スクロール』★★★
『すべてうまくいきますように』★★★
『茶飲友達』★★★★
(満点は★★★★★)


実は、タレントのヨネスケさん(落語の時は桂米助師匠)とご縁がありまして。
映画初主演作『突撃!隣のUFO』という作品が、2月3日(金)に公開となります。
四半世紀以上に渡り、日本テレビ系のワイドショーで放送されていたヨネスケさんの看板コーナー、『突撃!隣の晩ごはん』をもじったタイトル。
試写を観ることができなかったので、劇場に行くつもりです。感想はまたここに書きますね。楽しみにお待ち下さい。
さぁ、今週は4本です!


『仕掛人・藤枝梅安』は、池波正太郎の人気時代小説シリーズの映画化。

鍼の名医として、町で評判の藤枝梅安。しかし彼には、もうひとつの裏の顔がありました。
それは、悪を葬る“仕掛人”。蔓(つる)と呼ばれる元締めから金をもらって、仕掛をする。受けたからには詳細を尋ねることはご法度の、闇の仕事です。
梅安には仕掛人の仲間がいます。楊枝職人の彦次郎です。互いに素性こそ深く知らねども、心を交わせる貴重な存在でした。
ある日、梅安は蔓である羽沢の嘉兵衛から仕掛の打診を受けます。
料理屋『万七』のおかみ・おみのを仕掛けてほしいと言うのです。
おみのは先代のおかみが亡くなったあと、その美貌で旦那をそそのかし、新しいおかみの座に就いたのですが、実は先代のおかみを仕掛けたのは梅安。『万七』の女中・おもんに聞けば、おみのが来てから店は変わり、何やらよからぬことで利益を上げているよう。
先代のおかみの仕掛を依頼したのは、おみのだったのか?
梅安はこの仕掛を受けるのですが…。

あらすじを書いていて、自分の表現力のなさにがっかりしますが(笑)、短くまとめられない深みが、この映画にはあります。そりゃそうですよね。池波正太郎作品ですから。
表の顔と裏の顔。言ってみれば、陽と陰。梅安にも彦次郎にも、生い立ちに陰があるから、キャラクターとしての魅力が立つ。
添付の公式サイトで相関図を見てもらえばわかるように、様々な登場人物が、それぞれに重要な役どころとして存在しています。
藤枝梅安に豊川悦司、彦次郎に片岡愛之助。おみのには天海祐希。
菅野美穂扮する『万七』の女中のおもんは、梅安と恋仲になる。
梅安の身の回りの世話を焼くおせきは、梅安の裏の顔を知らない。このおせき役の高畑淳子の演技が素晴らしい!
よく出来たストーリーを、豪華な出演陣が彩る。池波正太郎生誕100年企画にふさわしい作品です。
時代劇は面白い。勧善懲悪だけど、ヒーローにもちょっぴりダークな側面もあるからこそ、人間くさい魅力が増すわけで。
実は、これが第一作。もうニ作目も出来ていて、こちらの試写も拝見しました。面白かったです!
ニ作目は4月7日公開予定。そこに続く導入の映像が、エンドロールの最後に流れます。劇場内が明るくなるまで席を立たないようにして下さいね。満点!★5つ。
『仕掛人・藤枝梅安』公式サイト


『スクロール』は、4人の若者を中心に描かれた群像劇。

“僕”とユウスケは大学時代の友だち。
ある日のこと、同じく友人だった森が自殺したのをきっかけに、ユウスケは“僕”に久々に電話をします。そして、再会。
今のふたりはというと、“僕”もユウスケも就職はしたものの、“僕”は上司のパワハラにあっていて、その不満をSNSにぶちまけることで、なんとか精神を保っている状態。
一方のユウスケは、女性にだらしないというか、それを悪いことだとは思っておらず。イケメンで、業界の人間で、今日が楽しければいいと考えていました。
“僕”のSNSには、いつも「いいね!」がひとつ。実はこれ、同僚の“私”がこっそり見つけて反応していたのです。
ユウスケは、今日も行きつけのバーで、女性をナンパ。彼女の名は菜穂。地味めの女性である菜穂は、酔って結婚を口にしたユウスケの言葉を信じて、重たい女になっていきます。
“私”はパワハラ上司にくってかかって、自ら退社。その後、“私”と“僕”は急接近。“僕”も上司に暴言を吐くと揉め事になり、上司は“僕”への暴力で会社をクビになってしまいます。
すると、逆恨みした上司が、“僕”に対して「殺してやる」と脅迫してきたのです…。

橋爪駿輝のデビュー小説の映画化。
“僕”に北村匠海、ユウスケに中川大志、“私”に古川琴音、菜穂に松岡茉優。今をときめく、若き俳優陣の共演です。
これが20代のリアルなのかもしれませんが、正直、時代が変わったなぁという印象です。
群像劇の場合、登場人物の少なくともひとりは、自身を投影したかのようなキャラクターを発見できるものですが、年の差を考慮しても、それがいない。
強いて言えば、重い恋愛の菜穂でしょうか(笑)。
物語はサスペンスやスリラーの要素を含みつつ、展開。結末が気になったおかげで、ドキドキしながら観終えることができました。
橋爪駿輝と聞いて、ピンと来る世代にはお勧めかも。小説を題材に曲にするYOASOBIの大ヒット曲の、元になるものを書いた作家です。この時点でピンと来なければ、同じ感想を抱くかもしれません。ご同輩はお試しあれ(笑)。★3つ。
『スクロール』公式サイト


『すべてうまくいきますように』は、安楽死がテーマの父と娘のドラマ。

小説家のエマニュエルと、パスカルの姉妹。ふたりには自由奔放な父アンドレと、彫刻家の母・クロードがいます。
しかし、両親は長いこと別居状態。それが原因なのか、母は心を病んでしまっているよう。
ある日、エマニュエルのもとに、父が倒れたとの連絡が入ります。85歳の高齢での脳卒中。命は助かりますが、右半身不随の後遺症が残ります。
自由に体を動かせないもどかしさから、アンドレは「終わらせてほしい」と訴えます。
安楽死が許されないフランス。姉妹は葛藤しますが、父の望みを叶えるならと、スイスでの安楽死を手助けする協会を訪ねます。
その後、リハビリをし、孫の楽器の演奏会を見、かつての行きつけだったレストランに足を運び。生きる希望を見出だしたかに思えたアンドレの口から出たのは、「3月はどうだ?」。
父の死の決意は変わってはいなかったのです…。

この映画、実話に基づく物語だそうで、実在の脚本家の女性をモデルにエマニュエルは描かれています。従って、劇中のエピソードも実際に起こったことだと言います。
いかにもフランスだなと思うのは、フランスは個人主義の国。「私はこう思うけれど、あの人がそう思うなら仕方ない」という個人主義。だから、娘としては生きていてほしいと思っても、父の死にたいという願望は尊重するという。
重いテーマですが、ユーモアも散りばめて。それもリアルなエピソードだと言うからなんとも…。
予告編で出てくるから書くと、バイセクシュアルでもあるアンドレ。それを知ってもアンドレと離婚はしなかった妻クロードの心中を察すると、ちょっとぐっとくるものがありました。ふたりの共演という人生のドラマの幕は、もうすぐ閉じてしまうのだから。
タイトル通り、“すべてうまくいく”かどうか。これは、正解のない問いだなと感じました。★3つ。
『すべてうまくいきますように』公式サイト


『茶飲友達』は、高齢化社会に一石を投じる物語。

新聞の三行広告にある「茶飲友達、募集。」。
それは、高齢者専門の売春クラブ“ティー・フレンド”の広告でした。
仕切っているのは、若い女性の佐々木マナ。所属するのは65歳以上の女性たち。様々な事情を抱えた彼女たちが、同じく年老いた男性の相手をしているのです。
働くスタッフも、今の社会に夢を見出だせない若者たち。
マナはすべてのメンバーを“ファミリー”と呼んで、その繋がりを、まるで家族のように感じていたのです。
事業は順調に右肩上がり。新メンバーも入り、さぁこれからという時に事件は起こります。
堅いと思っていた“ファミリー”の絆が、ほころび始めた瞬間でした…。

外山文治監督は、2013年に実際に起きた、高齢者売春クラブの摘発に着想を得たと語っています。ボクも、そのニュースは複雑な思いと共に覚えています。
善悪で言えば“悪”なのでしょうが、触れあうことの希薄な世の中で、さらに触れあいの機会が少ない高齢者が、それを求めていた構図。“必要悪”と言っても誤解されてしまいそうですが、高齢者のその後を想像すると、とにかく複雑な感情が沸いてきたものです。
この映画は、そこに加えて、若者の閉塞感も描いています。どの世代にとっても、今は生きづらい世の中なんですよね。
佐々木マナも、親との関係がギクシャクしていて、自身も風俗で働いていた経験があります。
偽りではないけれど、脆弱な関係性を信じていたマナ。最後は、物事の道理というか、真理というか、本当に大切なものが提示されるけど、彼女は気付くかなぁ。
あ、あんまり言うとネタバレになりますね(笑)。
老いも、若きも、考えさせられる1本。こういう映画が注目され、世間の話題に上がってほしいと思います。★4つ。
『茶飲友達』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.1.25
『あつい胸さわぎ』★★★★★
『ピンク・クラウド』★★★
(満点は★★★★★)


先週、小倉競馬場に出張した際、宿泊先が旦過市場の並びのホテルで。
昨年夏の2度目の火災により、老舗の映画である昭和館が焼失してしまったのは映画ファンでなくてもご存知かと思います。
跡地はすでに更地になっていましたが、表通りにある案内板はそのままなんですね…。
ちょっぴり寂しい気持ちになりましたが、でも、きっとここに昭和館を再建するからという意思の表れにも見えて。
被災された皆さんの1日も早い復興を、心よりお祈り申し上げます。
さぁ、今週は2本です!


『あつい胸さわぎ』は、若年性乳がんを患った娘と、その母の物語。

小さな港町に暮らす母と娘。母の昭子は繊維工場に勤め、小説家を夢見る娘の千夏は芸大に合格。
ふたりは仲睦まじく暮らしていました。
千夏には好きな男の子がいます。初恋の相手、光輝です。同じ芸大に通う光輝と再会し、心ときめく千夏でしたが、実は昔、彼から言われた何気ないひとことが、今も小さなトゲのように、胸に刺さったままで。
一方の昭子は、新たに職場にやってきた、いかにも不器用そうな木村という男性のことが気になり始めます。
昭子の同僚で、千夏にとってはお姉さんのような存在の透子には、昭子の気持ちはバレているよう。久々の恋心に昭子の心も弾みます。
ところが、千夏の部屋を掃除していた昭子が、1枚の紙を見つけてしまいます。それは、千夏の乳がん検診の診断書。そこには“要再検査”とあったのです…。

演劇ユニットiakuの舞台の映画化。作品のファンも多いそうですが、その期待を裏切らないデキだと、前評判も高いようです。
上記の5人の他に、知的障がいを持つ崇と、その母・麻美が登場します。主な登場人物はそれくらい。原作が舞台だからか、コンパクトにまとまってはいるものの、中身はかなり濃く。
とはいえ、それを自然な日常生活の中で描いているから、違和感もなければ、押しつけがましさも、説教臭さもない。
病気のこと、恋愛について、人の優しさ、生きることの難しさ、幸せとは何か。病気ですら、日常のひとコマというか。
うまく表現できなくてすみません(笑)。
とにかく、さりげないやり取りの中に、いい場面がたくさんあって。ボクの感性は、すごくいい映画だなぁと感じていました。
昭子を演じる常盤貴子、ハマリ役です!
素敵な人間ドラマです。お勧めです!満点!★5つ。
『あつい胸さわぎ』公式サイト


『ピンク・クラウド』は、ブラジルのSFスリラー。

ある日の朝、街に激しく警報が鳴り響きます。
聞けば、正体不明のピンク色の雲が発生したと。触れると10秒で命を落とす猛毒性のものなので、すぐに建物の中に入り、厳重に外気を遮断しろと言うのです。
実は、ジョヴァナはヤーゴという見知らぬ男性と自宅で一夜を過ごし、朝を迎えたらこの事態に。
ふたりで窓の隙間にも目貼りをし、ひとまず安全は保てましたが、外出が不可能になったため、街からは人が消え、完全なるロックダウン状態。
ジョヴァナは、よくは知らない男性との共同生活を余儀なくされることになります。
人との交流はパソコンの中の画面のみ。ニュースや世間の情報もインターネットだより。
月日は流れ、いつしかヤーゴとの間に男の子が誕生し、リノと名付けられます。
しかし、徐々にジョヴァナとヤーゴの関係にも亀裂が入り始め、遂には家庭内離婚になるんですね。
いつまでこの不自由な生活が続くのか?まったく目処も立たないまま、時だけが過ぎていくのでした…。

2017年に脚本が書かれて、2019年に撮影された作品。
つまり、コロナウイルスの感染爆発前に作られた映画なのですが、まるでコロナ禍を予見したかのようだと話題になっている1本です。
食料等の生活必需品に関しては、窓に特殊なハッチを取り付け、政府がドローンで送ってくれる。いやいや、ハッチを付ける時に外気に触れるでしょとか、国が食料をどう調達してるのかとか、突っ込みどころは満載です。
それは置いておいて(笑)、完全に自由を制限された環境で、人間の心身はどうなっていくのか?
でも、息子リノには、それが生まれつきの環境。まったく不自由を感じていないのです。
「井の中の蛙、大海を知らず」という諺がありますよね。世界が狭いことを憐れむ喩えで使われます。
でも、ボクはいつも思うんです。一生、井の中なら、蛙は可哀想でもなんでもない。だって、そこしか知らないのだから。
ところが一度大海を知ってしまった後に、再び井の中に戻されたとしたら…。それは悲劇でしょう。
そんな映画です。
ピンクの雲は消える気配もなく、なるほどと思わせるラストシーンが待っています。劇場で確かめて下さい。
前述の突っ込みどころが、気になり出すと気になっちゃう(笑)。フィクションだと割り切ってご覧あれ。★3つ。
『ピンク・クラウド』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.1.19
『キラーカブトガニ』★★
『シャドウプレイ 完全版』★★★
『母の聖戦』★★★
『まくをおろすな!』★★★★
『野獣の血』★★★
(満点は★★★★★)


今週紹介する作品の中に、ノワールとか、クライムという言葉が多く出てきます。
ノワールはフランス語で、闇社会や犯罪者の目線から、人間の悪意、差別、暴力を描き出したものを指し、一方のクライムは英語で、犯罪や罪の意味。
どちらも、裏社会の欲望渦巻くストーリーを描いた作品に用いられる言葉です。頭の中に置いておいて下さいね。
さぁ、今週は5本です!


『キラーカブトガニ』は、カナダ製作のパニックムービー。

カリフォルニアの、とある海辺の町。
廃炉となった原発の爆破処理が行われると、その後、たくさんの人が行方不明となり、その行方不明者と見られる白骨化した遺体が、数多く発見されるようになります。
最初はサメの仕業かと思ったのですが、クジラが襲われたりもしたので、サメではないと。では、何が暴れまわっているのか、地元警察も頭を抱えます。
しかし、犯人の正体がわかるのに、さほど時間はかかりませんでした。
なんと、放射能を浴びたカブトガニが突然変異。狂暴性を持って、次々と人間を襲っていたのです。
中には、ゴジラ並みの大きさのカブトガニまで現れ、このままでは町が壊滅してしまいます。
果たして、このピンチを救うことはできるのでしょうか…。

ご存じ、エクストリームの配給作品。
馬鹿馬鹿しさ満載ですが、それもこのレーベルの魅力のひとつですもんね。
あまり多くは語りません(笑)。マニアの方は是非!★2つ。
『キラーカブトガニ』公式サイト


『シャドウプレイ 完全版』は、2019年に公開された中国映画の完全版。

2013年、広州の再開発を巡り、賠償に不満を持つ住民が蜂起。説得に入った開発責任者のタンが、建物の屋上から転落死してしまいます。
自殺と他殺の両面から捜査が始まり、担当するのはヤンという若い刑事。調べていくと、不動産開発会社の社長ジャンは、タンとタンの妻のリンとは大学時代からの友人で、その頃、ジャンはリンと恋人関係にありました。
しかし、リンはジャンではなく、タンと結婚。ふたりの間には、ヌオという娘がいたのです。
一方のジャンは、台湾のキャバレーの歌手だったアユンと知り合い、ビジネスパートナーにするのですが、今ではアユンは失踪、行方不明になっています。
この人間たちが、事件のカギを握っているとヤンは確信するんですね。
ところが、ヤンは何者かにハメられ、逆に追われる立場になってしまったのです。
タンの死は、自殺か他殺か。殺されたとしたら、犯人は一体誰なのか。事件の発端は1989年にまでさかのぼるのでした…。

2017年春に完成したものの、検閲で何度も修正を命じられ、多くの部分をカット。それでも、自国中国で大ヒットとなったノワールサスペンス。
今回はそれを129分の完全版として、新たに公開の運びとなりました。
中国の市場経済が発展した90年代。続く2000年から中国バブルが始まりますが、その光と闇。人としての大切な部分より、金や物への欲望が勝っていた時代の人間模様を描いた作品です。
哀しみがスクリーンを覆う。そんな1本だと思います。★3つ。
『シャドウプレイ 完全版』公式サイト


『母の聖戦』は、メキシコの誘拐犯罪の現実を描いたクライムミステリー。

メキシコの北部の町に暮らすシエロはシングルマザー。10代の一人娘、ラウラとのふたり暮らしです。
年頃のラウラはメイクに余念がなく、今日は彼氏とデートだと言います。家を出る娘に、気をつけてと声を掛けるシエロ。それがラウラとの最後の会話になるとは、想像もしていませんでした。
帰宅しない娘を心配するシエロは、ラウラの恋人に電話。すると、今日はキャンセルしたとの返事。嫌な予感に怯えるシエロに、脅迫の電話が入ります。ラウラを誘拐したと言うのです。
愕然としたシエロは、別れた夫の元へ急ぎ、身代金を用意して欲しいと頼むのですが、満額用意せずに犯行グループと接触。怒りに火をつけたのか、要求はエスカレートします。
とにかく娘の命だけはと願うシエロ。警察に届け出ても、何もしてはくれません。
ならば自分で娘を助けようと、シエロは自ら犯罪組織と戦うことを決意するのですが…。

メキシコの誘拐件数は、推定で年間6万件だとか。
このうち、警察に届け出たりして表沙汰になったのは数%。そのほとんどが、報復を恐れての泣き寝入りだと言います。
実はこの作品、実話に基づくストーリー。監督のテオドラ・アナ・ミハイは、ドキュメンタリー出身で、劇映画はこれがデビュー作。
当初はドキュメンタリー映画として作ろうとしましたが、あまりに危険すぎると断念。フィクションにしたものの、ミハイ監督に話をしてくれたシエロのモデルの女性は後日、自宅の玄関前で殺害されていたそうです…。
ドキュメンタリー出身だけに、映像も実にリアルで。
貧困ゆえの犯罪と、子を思う母の心。どちらからも“壮絶”の二文字が浮かんでくる作品です。★3つ。
『母の聖戦』公式サイト


『まくをおろすな!』は、ミュージカル時代活劇。

五代将軍・徳川綱吉が治める江戸の町。
この日も、吉原の遊廓で心中騒ぎがありました。
ブン太(紀伊国屋文左衛門)とモン太(近松門左衛門)は、客と遊女の亡骸をさっさと運び出し、店主に手際のよさを驚かれます。
それもそのはず。実はこの心中、ふたりが仕組んだ芝居で、運び出された客と遊女は、そこから新たな生活に踏み出すという、“心中コーディネート”だったのです。
モン太は自身が書いた“心中もの”が大ヒット。実際の心中を焚き付けたとされ、大阪を出て東京へ。罪滅ぼしじゃないけれど、この心中劇の台本はモン太が書いていたのです。
ひと仕事を終え、仲間の溜まり場であるどっぐかふぇ「いずもや」に行くと、そこには堀部安兵衛がいて、吉良邸に仇討ちに行くために赤穂浪士が集結すると。ブン太とモン太のふたりは、誰も血を流さない討ち入りの台本を書くからと、安兵衛を説得。計画はうまくいくかに思われたのですが…。

劇団ユニット30―DELUXの舞台を原案に映画化。監督も劇団主宰の清水順二で、これが初の映画監督作品となります。
ブン太にはジャニーズのアイドルグループ、ふぉ〜ゆ〜の諸岡裕貴、モン太にはグラビアアイドルとしても活躍する工藤美桜。
アイドル主演の映画は、そのファンがターゲットゆえ、中身の薄いものも多く、あまり気乗りせずに観たのですが、意外と言っては失礼ですが、よく出来ていて面白かったです。
歴史上の人物が史実の部分も持ちながら、オリジナルストーリーの中で、別のキャラクターを生きる。もちろん、他にも登場人物はたくさんいます。ボクらが知った名前ばかりです。
タイトルは、ブン太のモットーである、「人生の幕は自分でおろすな!」から。
舞台の匂いがプンプンするあたり、これも監督のオリジナリティーだと思います。楽しませてもらいました。★4つ。
『まくをおろすな!』公式サイト


『野獣の血』は、韓国のノワールサスペンス。

1993年、韓国最大の港湾都市・釜山の片隅にある小さな港町クアム。
養護施設育ちで、札付きのワルだったヒスは、クアムの街の裏稼業を仕切るソンに拾われ、ぐんぐんと頭角を現します。
しかし、ヒスの夢はヤクザで出世することではなく、施設時代からの恋人インスクと、島でペンションを経営すること。
「オレとここを出ないか」と言うヒスに対し、「夢は叶わない。ここは世界のドン底だから」と、冷めた口調で答えるインスク。
そんな中、クアムの街の利権に目をつけたのが、ヨンド派と呼ばれる一派で、そこにはヒスの施設からの親友チョルジンがいました。
ヨンドはチョルジンを使って、ヒスを寝返らせようと画策しますが、ヒスが応えるはずもなく。
堅気になるため組織を抜けたいとソンに伝えるヒスでしたが、過酷な運命はそれを許さなかったのです…。

解説によると、1990年に、当時の政権が犯罪組織を一掃する政策を打ち出したと。まさに生き残りを賭けた時代のアウトローたちを描いた作品なんですね。韓国では初登場1位に輝いたそうです。
多くが命を落とすのは百も承知。この人が殺られるんだろうなというのは予測がつくけれど、それがちょっぴり人間くさいキャラクターだったりすると切なくなる。今回も例外ではありませんでした。
でも、この手の映画はそんな人たちが流すおびただしい量の血で成り立っているんですもんね。
観賞後は少々重たい気持ちになってしまいますが、それでもさすがのコリアンノワールだと感じるはずです。★3つ。
『野獣の血』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.1.13
『そして僕は途方に暮れる』★★★
『ひみつのなっちゃん』★★★
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』★★★★★
(満点は★★★★★)


先週紹介した『恋のいばら』ですが、chilldspotが歌う主題歌の「get high」は、お勧めの楽曲です。
実は、この曲の発売前に聴かせてもらう機会があり、ダークでアンビエントな歌世界に「おおっ」と。ボクら世代だと、Coccoとか鬼束ちひろが好きな人なら同じ反応をするんじゃないですかね。若い世代から「違う」と言われないことを祈ります(笑)。
映画と共に、曲にも関心を抱いてみて下さい。今週はそんな映画が、今年最初の満点★5つ。
さぁ、今週は3本です!


『そして僕は途方に暮れる』は、オリジナル脚本の舞台を映画化した“逃避劇”。

菅原裕一はフリーター。
恋人の里美と5年間も同棲していましたが、彼女の話も上の空で、見るのはスマホの画面ばかり。
その裕一のスマホの見方に、里美は他の女の気配を感じ取るんですね。
慌てふためく裕一は、荷物を持って、部屋を飛び出します。逃避劇の始まりです。
おさななじみで親友の伸二のもとに転がり込むも、あまりに身勝手な裕一の態度に堪忍袋の尾が切れた伸二が怒鳴りつけると、裕一は伸二の部屋をも逃げるように飛び出し、バイト先の先輩、学校の後輩など、スマホの中の頼れる人には片っ端から電話をしては、また逃げていく裕一。
遂には、姉に、そして北海道の苫小牧に住む母にも頼りますが、これまた気まずくなって飛び出す始末。
すると、家族の前から逃げていった父親と、10年ぶりに再会します。
「うちに来るか?」
裕一は、父親の言葉を受け入れるのですが…。

2018年に、三浦大輔の作、演出、Kis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔の主演で行われた、同名舞台を映画化。監督、主演を始め、主要メンバーの何人かは、舞台と同じキャスティングだそうです。
公式サイトにも“クズ男”という表現がありますが、本当にどうしようもないのが裕一という男のキャラクターで。
「共感と反感が渦巻く《現実逃避型》エンタテインメント」というキャッチフレーズにも、「反感しかないだろ」と思わせるほど。
ただ、家族の前から逃げた父親のDNAだから、息子も逃げるんだろうなというのは、ある種の“あるある”かもしれません。自分で考えても、思い当たる節は無きにしもあらず。あ、ボクら父子は逃げたりはしませんけど(笑)。
「で、どうなっちゃうのさ?」と結末が気になる方は劇場へどうぞ。衝撃の?ラストが待っています。★3つ。
『そして僕は途方に暮れる』公式サイト


『ひみつのなっちゃん』は、滝藤賢一主演によるドラァグクイーンたちのヒューマンコメディ。

新宿二丁目の店のママ、なっちゃんが亡くなります。
バージンがそれを知ったのは、なっちゃんの店で働くモリリンからの電話でした。
バージンは、今やTVで人気者になっている仲間のスブ子に連絡。3人は突然の出来事に、どうしたものかと頭を抱えることになります。
というのも、なっちゃんは実家の家族にはオネエであることをカミングアウトしていなかったから。
そこで3人はなっちゃんの自宅に侵入。証拠を隠そうと慌てているところに、訃報を聞いて上京したなっちゃんの母、恵子と鉢合わせしてしまうんですね。
「ルームシェアをしている仲間です」とごまかしたものの、「でしたら葬儀にはいらして下さい」と言われ、岐阜の郡上八幡にある、なっちゃんの実家に行かざるを得なくなる3人。
自分たちのオネエを隠し通し、なっちゃんの素性をバラすことなく、無事葬儀を終えることができるのでしょうか…。

意外や、滝藤賢一にとっては、これが劇場用長編映画としての初主演作になるそうです。
その滝藤賢一がバージンを、渡部秀がモリリンを、前野朋哉がスブ子を演じ、カンニング竹山がなっちゃんに扮します。
郡上八幡までは車で行くのですが、途中、トラック運転手に色目を使われたり、立ち寄ったスーパーの若い男の子の店員が気になって仕方なかったりと、まさに“チン道中”のロードムービー。
タイトルにあるなっちゃんが、映画の中で主役を張らないのが、逆に面白いなぁと。
華やかさの裏に、少しの悲哀がある世界。だからこそ、人の情や優しさを描きやすいテーマなのかもしれません。ポッと心が温かくなる作品です。★3つ。
『ひみつのなっちゃん』公式サイト


『モリコーネ 映画が恋した音楽家』は、イタリアの映画音楽の至宝、エンリオ・モリコーネのドキュメンタリー。

2020年7月、91歳でこの世を去った、映画音楽の巨匠、エンリオ・モリコーネ。
『荒野の用心棒』、『夕陽のガンマン』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』、『ミッション』、『ニュー・シネマ・パラダイス』、『海の上のピアニスト』。これらはほんの一部で、手掛けた映画は数知れず。
そんなマエストロの生涯を、本人の語りと、数々の著名な映画人へのインタビューで構成したドキュメンタリー映画です。
監督は『ニュー・シネマ・パラダイス』(88年)のジュゼッペ・トルナトーレ。
『ニュー・シネマ・パラダイス』については、一度映画音楽から離れようと決めたモリコーネが脚本を読んで感動し、是非音楽を書かせて欲しいと、まだまったくの無名だったトルナトーレ監督に自ら申し出たということで、それからは友人として長年の付き合いになったそう。
カメラの前で心を開いて話しているのも、ふたりの関係性があればこそなのでしょう。お茶目で人間くさい、モリコーネの素顔を知ることができます。
トランペッターの父を持つモリコーネは、父の指示のもと、クラシックを学ぶための音楽院に進学しますが、オーケストラの道へは進まず。選んだのは作曲、編曲の面白さ。それをいかんなく発揮できたのが映画音楽でした。
偶然にも、『荒野の用心棒』(64年)は、小学校の同級生だったセルジオ・レオーネが監督した映画で、それからふたりは数多くの作品で“共演”することになります。
しかし、モリコーネの心の奥底には葛藤があったと言います。
当時、映画音楽は、モリコーネが学んできた音楽の世界においては亜流であり、それはモリコーネ自身もわかっていたから。
それでも、映画の持つ何かが、彼を突き動かしたのでしょう。モリコーネの才能は高い評価を得、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84年)では、「商業音楽に魂を売った」と酷評していた昔の学友が、モリコーネの素晴らしい音楽に心を打たれ、素直に謝罪をしたというエピソードもあるぐらいで。
一方、アカデミー賞に何度もノミネートされながら、その度に受賞を逃してきたモリコーネは、自分の音楽を理解してもらえないならと、映画音楽から離れようとしたこともあったと言います。
それでも作品のラッシュ(音声の入っていない未編集のもの)を観て素晴らしいと感じると、音楽を書きたくなる。「映画音楽は“現代音楽”だ」と言わしめるほどに、映画音楽を芸術として昇華させたのは、間違いなくモリコーネの偉業によるものでしょう。
後進のハンス・ジマーは語ります。
「モリコーネの音楽は、人々の人生を彩るサウンド・トラックだ」と。
まさに、その通りだと感じます。
ベートーベンやショパンといったクラシックの大家の音楽がいつまでも聴き継がれるように、エンリオ・モリコーネの音楽も、時代を超えて、永遠に人々の心に残ると確信します。
この映画を観たら、改めて彼の手掛けた作品を、音楽を意識しながら見直してみたくなること受け合いです。
新年早々、素晴らしい作品に出会えました。
ここに書き切れない魅力がたっぷり。人生の勉強になることもいっぱい詰まった1本です。もちろん満点!★5つ!
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.1.5
『カンフースタントマン 龍虎武師』★★★★
『恋のいばら』★★★
『ドリーム・ホース』★★★★
『非常宣言』★★★
『ファミリア』★★★
(満点は★★★★★)


2023年最初の映画紹介です。
昨年は198本。残念ながら、200本の大台には届かずでしたが、それでも自己最多は更新したので、映画的には満足の1年でした。
今年も心揺さぶる作品に出会えるのを楽しみに!
さぁ、今週は5本です!


『カンフースタントマン 龍虎武師』は、ドキュメンタリー。

ブルース・リーのカンフー映画が世界中で大ヒット。香港のアクション映画が注目の的になった1970年代。
その後も、ジャッキー・チェンやジェット・リーなど、ハリウッドでも人気の俳優を輩出しますが、そのアクション大作の裏には、身の危険をも顧みない数々のスタントマンがいたというお話。
そんな香港映画のスタントマンたちにスポットライトを当てたのがこの映画で、「龍虎武師」の“武師”はスタントマンのこと。つまり、直訳すると“ドラゴン・タイガー・スタントマン”。それほどに勇猛果敢なスタントマンがいたということなんです。
京劇にルーツを持つ、香港のスタントマンは、京劇のブームが下火になったことで、活躍の場をスタントに移行。激しい競争を勝ち抜いてこそ仕事にありつける世界ゆえ、彼らは決してNOと言わない、強い精神力を身につけるようになるんですね。
とはいえ、体の強さには限界が…。
伝説のスタントマンたちが自身のスタントを語るのですが、その映像のすさまじいこと!死んじゃいますって。
実際、大怪我を負ったことも数知れず。それをケロッと笑いながら話すのですから、驚きです。
正月のTVで「衝撃の映像スペシャル!」みたいなのをやってましたが、その手が好きな人には、こっちのほうがオススメです。ビルの8階から飛び降りるんですよ。“衝撃”は何倍も、何十倍もありますから。
『燃えよデブゴン』で知られるサモ・ハン・キンポーは、監督としては厳しいんですね。でも、そんなサモ・ハン監督に声を掛けられることを誇りに思うスタントマンたち。
出演者や取り上げる作品等、詳細は添付の公式サイトに委ねます。覗いて興味を持ったら、ぜひ劇場へ!★4つ。
『カンフースタントマン 龍虎武師』公式サイト


『恋のいばら』は、奇妙な男女の三角関係の物語。

図書館で働く桃は24歳。
カメラマンの健太朗という恋人がいましたが、最近フラれたばかり。
それでも彼のことが気になる桃が、インスタで健太朗をチェックしていると、どうやら新しい彼女ができたよう。
その子の名前は莉子。ダンサー志望の今ドキ女子で、あか抜けない桃とは正反対。
すると桃は、莉子のインスタからよく行く場所を導きだし、莉子に直接会いに行ったのです。
健太朗の元カノだと自己紹介をする桃。いぶかしげな対応をする莉子に、桃は言います。
「リベンジポルノって、知ってます?」
桃は、健太朗のパソコンに残っているだろう、自分のあられもない写真を消したいだけだと莉子に話します。
初めは相手にしなかった莉子でしたが、自分も思うふしがないわけではなく。次第に健太朗の女性関係のだらしなさにも気付いた莉子は、パソコンのパスワードを盗み見ることに成功。遂には、桃と一緒に健太朗の部屋に忍び込み、パソコンを開こうとするのですが…。

ピンク映画出身の城定秀夫監督が、桃役の松本穂香、莉子役の玉城ティナのW主演で撮った、ちょっぴりアブノーマルな恋愛映画。興味津々で観ちゃいました。
期待したほどの過激さはなかったのですが(笑)、あとで公式サイトを見てみたら、オリジナル作品があると。それは2004年の香港映画『ビヨンド・アワ・ケン』。
その映画は観たことはありませんが、やはりリベンジポルノを巡るストーリーだったよう。
ある種のジェラシーと、こらしめの行動ですよね。
ボクも自分で認める相当な焼きモチ妬きですが(笑)、彼女の携帯は一度も見たことがありません。だって、見たっていいことなんて、ひとつもないでしょ。
だから、彼氏のパソコンは開いちゃダメなんだって。なんて言ったら映画にならないか(笑)。
「恋人同士では観ないでください」が、この映画のキャッチコピー。いやいや、恋人同士で観て語り合ってみてはいかがです?★3つ。
『恋のいばら』公式サイト


『ドリーム・ホース』は、イギリスの実話に基づく競走馬のお話。

イギリス、ウェールズ地方の小さな村。昔は炭鉱の町として栄えていましたが、閉山した今はさびれる一方。
ジャンは夫のブライアンと、この村で二人暮らし。
今では夫に何を言っても空返事。ジャンは、昼はスーパーでレジを打ち、夜は労働者向けのバーで働き、さらには高齢の両親の面倒を看て過ごす毎日。何も変わらず、何の刺激もなく。出るのはタメ息しかありませんでした。
そんなある日のこと、バーにいた税理士のハワードが、競走馬で稼いだ話をしていました。
それを聞いて、ジャンが閃いたのは共同馬主。ひとりじゃ無理でも、たくさんで持てばなんとかなる。
競馬について徹底的に調べたジャンは、村人たちを誘って繁殖牝馬を購入します。
参加したのは、22人の村人たち。種牡馬を選び、種付けをして、産まれた馬にドリームアライアンス(夢の同盟)という名前をつけるんですね。
ジャンは持ち前の行動力で調教師も見つけ、預託先を確保。
そうして調教を積まれたドリームアライアンスが、いよいよデビューの日を迎えたのです…。

このドリームアライアンスは、実在した障害レースの馬。
2009年に、ウェルシュ・グランドナショナルというGVのレースを勝って、ドキュメンタリー映画にもなり、2015年のサンダンス映画祭では観客賞も受賞しています。
実話ですから何もケチはつけられないのですが、これは稀に見る成功例。
極端な言い方をすれば、宝くじに当たったようなもの。一口馬主歴、ン十年のボクが言うのですから、間違いない。これもまた“実話に基づく”です(笑)。
ただ、もうひとつ間違いないのは、この映画のキャッチフレーズにもある「欲しいのは儲けじゃない。胸の高鳴り」という言葉。
あ、いや、ボクは儲けも欲しいかな(笑)。
事実、中央競馬の馬主で、黒字は僅かに4%と言われます。
「じゃ、何で馬主なんてやってるの?」
競馬を単なるギャンブルだと考えている人は、みなさん、そう言います。
その答えがこの映画にある…かな(笑)。
日本と違って、レースの賞金がさほど高くないヨーロッパの競馬。ドリームアライアンスが稼いだ賞金も、総額で137000ポンド。週に10ポンドの出資金で、出資者ひとりあたり1430ポンドの配当だったそう。これは映画のラストにテロップで出てきます。1ポンドが157円だとして、手にした配当は22万4510円。計算してみれば、預託料等は差し引いた金額だと思われますが、それでも人生が変わるような大金を手にしたわけではない。そう、やっぱり得たのは「胸の高鳴り」なんですョ。わかるなぁ(笑)。
夢や楽しみ、打ち込めることを見つけることが、人生において、どれほど大切なのかを教えてくれると思います。
もし、この映画を観て、競馬に興味を持ったなら、まずはこの1冊。拙著『究極の競馬ガイドブック』をお勧めします!
って、宣伝かいっ(笑)。★4つ。
『ドリーム・ホース』公式サイト


『非常宣言』は、韓国のパニック映画。

韓国・仁川空港からハワイのホノルルに向かう、スカイコリア501便。
空港には、この飛行機に騎乗予定の父と幼い娘がいました。パク・ジェヒョクとスミンです。
ジェヒョクは極度の飛行機恐怖症でしたが、スミンのアトピーを考えてのハワイ行きです。
一方、ベテラン刑事のク・イノは、妻から旅行に誘われるも、仕事を理由に断ると、皮肉たっぷりに責められる始末。実は、イノ刑事の妻も、この便でハワイに向かう予定でいました。
空港のロビーで、ジェヒョクとスミンに執拗に絡んでくる男がいます。男の名はリュ・ジンソク。その場はなんとかやり過ごしましたが、なんと同じ便にジンソクが乗り込んできたではありませんか。見つからないように身を屈めるジェヒョクとスミン。
その頃、韓国国内では、1本の動画が話題になっていました。それは航空機へのバイオ・テロの予告動画です。
ここに映っている男を知っていると通報を受け、イノ刑事たちが向かった先で発見したのは、ビニールでグルグル巻きにされた遺体と、モルモットを使ったウイルスの実験ビデオでした。犯人の名は、リュ・ジンソク。そう、機内にいるあの男です。
バイオ・テロが嘘ではないと確信したイノ刑事は、狙われた旅客機に妻が乗っていると知り愕然とします。
離陸から30分後、ひとりの男性客が変死すると、体調の悪化を訴える乗客やCAが続出。
異変に気付いた乗客がスマホを操作。するとSNSでは国内が騒然となっていて、バイオ・テロの標的がこの便であることを知り、機内は瞬く間にパニックに陥ったのでした…。

航空機が緊急事態を宣言した場合、着陸に対して何よりも優先権があるそうで、空港のみならず、基地などへの着陸も認められる場合があると。タイトルの『非常宣言』は、それを表しています。
ところが、未知のウイルスに感染した航空機ですから、そう簡単に「どうぞ、降りて下さい」とはいかないわけで。
ましてや、操縦竿を握る機長や副機長にも、感染の可能性がある。操縦不能になれば、墜落の危険性だってあります。
殺人ウイルスを撒き散らすリュ・ジンソクという男は何者なのか?なぜそんなことをするのか?
それは意外とすぐに明らかにされます。
実は過去のあるジェヒョクにイ・ビョンホン。ク・イノ刑事にソン・ガンホ。韓国の人気俳優が共演したこの映画、パニックになった時に出る人間の本性もまた恐ろしいと描きます。とはいえ、自分だったら冷静でいられるかと言えば、自信はまったくありません。
どこかコロナウイルスの
蔓延初期を思わせる1本。あの頃、人を変な目で見ていませんでしたか?
高度28000フィートのパニック映画。ハラハラドキドキの141分です。★3つ。
『非常宣言』公式サイト


『ファミリア』は、在日ブラジル人と日本人家族の物語。

陶芸を生業とする神谷誠治。
児童養護施設に育ち、若い頃はやんちゃだった誠治でしたが、そんな彼を変えたのは妻の晶子でした。
しかし、晶子はもうこの世にいません。それでも、一人息子の学は立派に育ち、今では一流企業に勤め、アルジェリアにプラント建設の責任者として赴任していました。
そんな学が、現地で結婚した難民出身のナディアを連れて帰国。幸せそうな二人を見て、誠治は頬を緩めるのでした。
学は誠治に言います。「3ヶ月後に建設は完了する。そうしたら、父さんの跡を継いで、ここで焼き物をやる」。
自身の経験から反対する誠治でしたが、学の決意は堅いよう。
そんな時、怪我を負ったひとりのブラジル人青年が、誠治の家に迷い混んできます。彼の名はマルコス。トラブルを起こし、半グレのグループに追われていたのです。
手当てをするも、礼も言わずに逃げ去るマルコス。
この出来事が、誠治たちがブラジル人コミュニティーと繋がりを持つきっかけとなったのです…。

物語のさわりの部分だけを書いてみました。
この映画の試写は、オンラインではなく映画会社の試写室で観させてもらったので、マスコミ用のプレス資料も、公式サイトの解説よりは深く記されています。
その中で、ノンフィクションライターの安田浩一氏が、在日ブラジル人の歴史と現状を書いていました。
それによると、昔、日本人がブラジルに渡り、日系ブラジル人のコミュニティーができると、今度は日本が労働力を欲しがった。政府が“日系”に特例を出したことで、多くの日系ブラジル人が日本にやってきたと。
彼らは祖先に日本人を持つから、日本に対し親近感を抱いて移住を決めるも、日本人は“ガイジン”としてしか見ず、差別の対象として扱われてきた負の歴史がある。
今でこそ、環境は少しずつ変わりつつあるけれど、この映画に出演しているシマダアランは、ほとんどが在日南米人のラップグループ、GREEN KIDSのメンバーで、ラッパーとしての名はFlight-A。彼はルイという若者の役を演じますが、そのほとんどが自分たちのリアルだと語ります。
人種間の偏見やトラブルを他人事だと考えていると、自らにも降りかかってくることがあります。それは時に直接、時に間接的に。
新年からズシリと重い1本ですが、役所広司、吉沢亮、佐藤浩市といった顔なじみの俳優陣が身近なものとして見せてくれます。知って、考えてみてるには、いい契機になるかもしれません。★3つ。
『ファミリア』公式サイト