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週末公開の映画……2022.3.24 |
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『ダイナソーJr./フリークシーン』★★★
『ナイトメア・アリー』★★★★★
『ベルファスト』★★★★★
(満点は★★★★★)
22日、まん延防止等重点措置が一斉に解除されました。
まだ、気兼ねなく、とはいきませんが、今まで以上にエンタメも楽しめそうです。
それでも専門家が言うように、第6波の終焉ではないので、感染対策はしっかりと。
今週紹介する映画の中の2作品は、アカデミー賞ノミネート作品。
どちらも素晴らしかったです。興味を持ったら、劇場に是非!
さぁ、今週は3本です!
『ダイナソーJr./フリークシーン』は、アメリカの人気オルタナティヴ・ロックバンド、ダイナソーJr.のドキュメンタリー映画。
1984年、J・マスキス(G.&Vo.)、ルー・バーロウ(B.&Vo.)、マーフ(Dr.)の3人によって、アメリカ・マサチューセッツ州ボストン郊外のアマーストで結成されたダイナソーJr.。
爆音のギター・サウンドでありながら、メロディしっかりと。そこに、J・マスキスのけだるいボーカルが融合した、アンダーグラウンドなオルタナティヴ・ロック界の人気バンドです。
部屋にあった恐竜の人形から、バンド名をダイナソーにするも、同じ名前のバンドがあったので“Jr.”を付けたそう。
85年にインディーズ・デビューするも、J・マスキスとの確執で、88年にルー・バーロウが脱退。
91年にメジャー・デビューを果たしますが、93年に今度はマーフも脱退。
バンドはJ・マスキスのソロ色の強いものになり、97年、遂にダイナソーJr.は解散してしまうんですね。
ところが、05年、オリジナルメンバーでバンドは再結成。昨年、5年振り、12枚目のアルバム『スウィープ・イット・イントゥ・スペース』をリリースし、今も活動を続けています。
映画は、そんな彼らの約30年間を振り返り、メンバーのそれぞれが本音を吐露。周りの音楽関係者たちのインタビューからも、ダイナソーJr.の輪郭がはっきりと見えてきます。
解散やメンバーの脱退を繰り返すのは、バンドの必定。だって、個性と感性の塊が、同じ方向性の音楽のもとに集まったのがバンド。
でも、初めはやりたいことが一緒でも、個々に少しずつ変化が訪れるる。そのズレが歳月と共に大きくなっていく。
バンドに婚姻届があるわけでもなく(笑)、「じゃ、別れよう」となるわけですよね。
でも、ダイナソーJr.は、結成当時のメンバーで再結成に至ります。
「やっぱり、おまえじゃなきゃダメだったよ」。
“もとの鞘に収まる”じゃないけど、互いの大切さを確認するための別離期間だったのかもしれませんね。
最近、たくさん作られている音楽系のドキュメンタリー映画。
正直、オルタナティヴ系ロックはあまり聴かずに来たのですが、こういう映画を通して、新たなジャンルの扉を開くのもひとつだなと。
発信元であるメンバーたちの人間性に触れることで、楽曲に対する理解が深まりますから。興味を持ったら、ここからさかのぼって、掘り下げていけばいい。
これからも、積極的に観ていきたいジャンルの映画になりそうです。★3つ。
『ダイナソーJr./フリークシーン』公式サイト
『ナイトメア・アリー』は、本年度アカデミー賞4部門ノミネートのサスペンス・スリラー。
1939年。各地を移動しながらショーを見せる、カーニバルの一座がありました。
最大の見世物は、人か獣か、ギークと呼ばれる“獣人”のショー。
流れ者のスタンは、そのカーニバルに潜入すると、一座のマネージャーから仕事に誘われます。
すぐさま、読心術師のジーナに気に入られ、彼女のショーを手伝うことになり、トリックを学んでいくスタン。
一方、カーニバルには体に電気を流すショーで人気のモリーがいました。彼女の美しさに魅せられたスタンでしたが、恋愛は御法度。
ある日のこと、警察がやって来て、カーニバルを閉鎖しろと命じます。
モリーにも逮捕の手が及びそうになった時、スタンは覚えた読心術で警官を操り、モリーを救うんですね。
ここを出て、ふたりで成功しようと誘うスタン。モリーは彼についていくことを決意します。
スタンはモリーをアシスタントに、都市の一流ホテルなどで読心術を披露。上流階級から人気のエンターテイナーになっていきます。
カーニバルではタブーとされていた“幽霊ショー”と呼ばれる、霊媒師的なものにも踏み込んでいくスタン。
ショーの最中、心理学博士のリリスと知り合います。
この謎めいた女性との出会いが、スタンの運命を大きく変えていったのでした…。
面白かったです!
150分。まったく飽きずに観ることが出来ました。
あらすじは骨格。そこに肉が付いて、映画はさらに豪華な衣装をまとうイメージでしょうか。
メガホンをとったのは、17年の『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞4部門受賞に輝いた、ギレルモ・デル・トロ監督。
出演者もアカデミー賞俳優が名を連ね、実に豪華なキャスティングになっています。
ボクらが子どもの頃、近くの神社のお祭りに、ありませんでした?ギークのショー。
昭和のお祭りですから、ギークなんて言い方はしませんでしたが(笑)、ボクが見たのは“へびおんな”。
ニワトリの首に噛みつき、血まみれになった、おどろおどろしい姿を今でも覚えてます。
そんなちょっぴり妖しげな魅力が、見世物小屋にはありました。この映画も、舞台はカーニバルから。観客の深層心理を鷲づかみにすることに、いきなり成功するはずです。
カーニバルで、スタンはギークの作り方を聞かされるのですが、その根本は人間の弱みを熟知することにありました。
映画の中に、いくつも存在するタブー。これにも興味をそそされます。
書きたいことはいっぱいあるけど、あんまり書いちゃうとネタバレになっちゃうからなぁ(笑)。
全編、独特の暗いトーンに被われた映像。
人間の欲望には切りがないけど、そもそも人には器があって、溢れるほどに詰め込むと、器が割れちゃうのでしょう。
“足るを知る”。すごく大切なことだと、改めて思いました。満点!★5つ。
『ナイトメア・アリー』公式サイト
『ベルファスト』は、本年度アカデミー賞で史上最多の7部門にノミネートされた、北アイルランドの小さな町の物語。
1969年の北アイルランドの町、ベルファスト。
9歳の少年、バディはこの町で生まれ育ちました。
バディがパと呼ぶ父親は、イギリスに出稼ぎに行っていて、月に数回しか戻ってきませんが、マと呼ぶ、しっかりものの母が家を守っています。
さらに、優しくて頼りになる兄のウィル、大好きな祖父母のポップとグラニーがいて、学校帰りは必ずと言っていいぐらい、おじいちゃん、おばあちゃんの家に寄ってから帰宅します。
町全体が家族のような雰囲気で、すべての大人が近所の子どもたちを見守ってくれているから、町の全部がバディたちの遊び場所。バディはこのベルファストが大好きでした。
ところが、悲劇は突然訪れます。
北アイルランドは、プロテスタントとカトリックが混在する町。
ここで、信仰の違いによる住民の衝突が起こり、プロテスタントの武装集団が、カトリック住民たちを攻撃。紛争に発展したのです。
1969年8月15日。
この日を境に、ベルファストは、真っ二つに分断されてしまったのでした…。
俳優としても活躍する、ケネス・ブラナー監督の自伝的作品。自身もベルファストの出身で、プロテスタントの労働者階級の家に生まれており、9歳の少年バディを通して描かれる町の物語です。
映画は特別なものとして観客に印象づけられるようにと、モノクロになっていますが、狙いはズバリ。効果的な演出になっているなと感じました。
試写会の時点では、まだウクライナの戦争前。プレス資料にも、コロナ禍による分断が対比として取り上げられていましたが、不幸な偶然というか、兄弟のようと言われるウクライナとロシアの戦争が始まってしまいました。まさに、紛争による分断の構図。過去と現在です。
映画を観る前に、あまりいろいろなことを知りすぎないほうがいいというのが持論ですが、時に入れておくべき下知識というのもあります。
この映画『ベルファスト』においては、“北アイルランド紛争”と呼ばれるものについては、知っておいたほうがいいと思います。
詳しくは、公式サイトにもある専門家・佐藤泰人さんの解説を参照して欲しいのですが、ここにちょっぴり記しておきますね。
時は16世紀にさかのぼります。
国王ヘンリー8世の離婚問題で、イングランドはキリスト教最大教派のローマ・カトリック協会を離脱。このローマ・カトリックに反する宗派をまとめてプロテスタントというのですが、イングランドが勢力拡大のため、隣りのアイルランド島に入ると、人々から土地を奪っていきます。元々の住民たちはカトリック信者だったので、侵攻も、信仰も、どちらにおいても対立は深まるばかり。
それから泥沼の戦いが始まり、1921年にようやくイギリスとアイルランドが条約を締結。プロテスタントが多数いるアイルランド島の北部6つの州は、北アイルランドとしてイギリス領に残り、他はアイルランド自由国として独立します。
しかし、その後も北アイルランド内では両者の対立が続き、1960年代には、プロテスタントとカトリックによる北アイルランド紛争に突入。1998年の和平までに、数多くの犠牲者を出したそうです。
宗教を含む、イデオロギーの問題で人々が争うのは、昔も今も多くあり、この先もなくなることはないでしょう。
でも、個人個人にスポットライトをあててみれば、それぞれがそこで自分の人生を懸命に生きているわけで。ごく普通の幸せまでをも暴力で奪うのはあまりに理不尽なことだと、バディの姿やベルファストの町から、ボクらは感じとることができるはず。いや、感じなくてはならないのです。
危険と知っていても、祖国や故郷に残る人たちの気持ちも、痛いほど伝わってきます。
一方で、希望の光が消えることのないバディの瞳に、きっと勇気をもらえると思います。
是非、ご覧になってみて下さい。
また、ポップとグラニーがいいんですよ。どちらも素敵なおじいちゃんとおばあちゃん。ボクにはもう叶いませんが、永年連れ添ったごほうびに、神様はこんな素敵なシーンをくれるのかって(#^.^#)。うらやましかったです。
音楽は、こちらもベルファスト出身の世界的シンガー、ヴァン・モリソンが担当。監督にとっては、仕事を共にするのが夢だったそうです。
史上最多のアカデミー賞7部門ノミネートも納得。すごくいい映画です。満点!★5つ。
『ベルファスト』公式サイト
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