週末公開の映画……2020.12.23
『ソング・トゥ・ソング』★★★
(満点は★★★★★)


いよいよ2020年最後の映画コラムになりました。
拝見した映画はなんとか100本を超えました。例年と比べると、やはりかなり少ないです。
この文章を書いた後、年末までに何本をオンライン、DVDで観るかで数は変わるので、また新年最初の回で報告したいと思います。
さ、今週は1本です!

『ソング・トゥ・ソング』は、音楽の街を舞台にした男女4人の物語。

フェイはテキサス州オースティンに暮らすフリーターの女性。自分自身を見つけられないまま、著名なプロデューサーのクックと付き合っていましたが、世間には内緒の関係。
そんな時、売れないソングライターのBVがフェイにアプローチをかけるんですね。当然、クックとのことは知らずにいるBVと、フェイは深い仲になっていきます。
一方、奔放な恋愛を楽しむクックは、夢を断念し、今はウェイトレスをしているロンダを誘惑するのでした…。

映像の美しい映画。
ただ、あまりストーリーが残らず。あらすじを書くのも、やや不安になってしまいました(笑)。
でも、様々なレビュー等を見ると、そういう映画だと受け止めている人が多いようですね。
特筆すべきは、パティ・スミス、イギー・ポップ、ジョン・ライドン(exセックス・ピストルズ)、レッド・ホット・チリペッパーズら、豪華ミュージシャンがカメオ出演。
好きか嫌いかで言えば、あまり好みのタイプの作品ではありませんが、俳優もミュージシャンも、これだけのメンバーが揃ったことと、2020年最後の紹介作品なので、ちょっぴりオマケしましょ(笑)。★3つ。
「ソング・トゥ・ソング」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.12.16
『声優夫婦の甘くない生活』★★★
『日本独立』★★★★
『また、あなたとブッククラブで』★★★★★
(満点は★★★★★)


12月も半分を過ぎ、あっという間に終わりが見えてきました。
国全体が、いや世界中がバタバタのうちに、2020年が幕を閉じることになりそうです。
今年、心に残った映画を振り返る時期でもあります。またゆっくり考えて、発表したいと思います。
さ、今週は3本です!

『声優夫婦の甘くない生活』は、イスラエル映画。

1990年、ソ連からイスラエルに移民としてやってきた、ヴィクトルとラヤ。
自国では、主に西洋映画の吹き替えをやっていた声優夫婦のふたりでしたが、新天地と見込んだイスラエルで、60歳を越えたふたりに声の仕事はありません。
生活のためにと、ヴィクトルは、違法なレンタルビデオ屋で吹き替えを始めます。
一方のラヤは、なんとテレフォンセックス嬢に。声色を自在に変えて、若い女性を演じるや、大人気となります。
ヴィクトルは、妻がそんな仕事をしているとはつゆ知らず。
ある日のこと、ラヤの常連客が、これを最後にもう電話は出来なくなるが一目会いたいと、一方的に待ち合わせの場所を告げて、電話を切るんですね。
花束を抱えて声の主を待つ男性を、離れた場所から見つめるラヤだったのですが…。

イスラエルのコメディ映画。
最近お亡くなりになった、日本を代表するコメディアンの小松政夫さんが、「コメディとは、笑わせて、最後にホロッとさせる。その悲哀が大切なんだ」と言っていたそうです。
この映画も、ホロッとするかは別にして、確かに人生の哀しみがあちらこちらに散りばめられています。
お国が違うと、場面設定はもちろん異なりますが、でも生きていくって大変だよなぁというのは、万国共通。
なかなか観ることがないかもしれないイスラエル映画。なかなか、おつなものですョ。★3つ。
「声優夫婦の甘くない生活」公式サイト


『日本独立』は、終戦直後、憲法改正までの日本政府を描いた意欲作。

太平洋戦争が終わった、昭和20年8月15日。日本はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の占領下に置かれます。
アメリカから来日したのは、最高司令官のマッカーサー。GHQは日本に対し、民主化と非武装化を求め、戦争犯罪人を逮捕、裁判にかける一方で、憲法改正を求めます。
しかし、時の内閣が作った草案は受け入れられず、GHQが独自の憲法草案を提示してきたのです。
そこに書かれていたのは、戦争放棄と天皇の象徴制。
我が国の憲法を他国に作らせることを許すまじとする声が上がる一方で、この国の将来を見据えた時、まずはこれを受け入れ、GHQが去り、日本が独立した際に再び憲法を変えればいいではないかと考えた政治家がいました。
それが当時の外務大臣で、後に首相となる吉田茂と、懐刀の白州次郎だったのです…。

コロナの問題で、やや薄らいだ感はありますが、憲法改正の是否が持ち上がっている日本。
そんな中で公開となったのが、この『日本独立』です。
白州次郎については、BS―TBSの『にっぽん!歴史鑑定』で、少し前に特集が組まれており、ポツダム宣言の調印式で、吉田茂首相のスピーチを、英語ではなく日本語でと、直前に変えさせた男とありました。敗戦国だが属国ではないと、世界に向けて、日本の威信を保つことが出来たことは大きかったのではないでしょうか。
その白州次郎に浅野忠信、吉田茂に小林薫。小林薫は特殊メイクで役に挑んでいます。
他にも、宮沢りえ、柄本明、松重豊、石橋蓮司、佐野史郎、ナレーションに奥田瑛二を始め、超豪華な日本の俳優陣が出演。
戦争を体験した83歳の伊藤俊也監督が、今の日本に残しておかなければとメガホンをとったであろう作品に、日本を代表する役者たちが呼応したかのよう。
プロパガンダではありませんが、映画であることは念頭に。でも、ボクらはこういう作品から、日本国憲法とはどうあるべきかを、真摯に考える契機にすべきじゃないかと思います。
ズシリとくる1本です。★4つ。
「日本独立」公式サイト


『また、あなたとブッククラブで』は、豪華ベテラン女優たちの共演作。

人生も後半を迎えた4人の女性たち。
40年連れ添った夫に先立たれ、ふたりの娘から過剰に心配されることに閉口しているダイアン。
ホテル経営等で社長業は順調、独身貴族で恋も奔放なビビアン。
裁判官として忙しい日々を送るも、何年も前に離婚した夫のことがずっと心に引っ掛かっているシャロン。
結婚35年、仕事を定年退職した夫とギクシャクし始めたキャロル。
4人は旧くからの友人で、定期的に開く“ブッククラブ”で集まり、順番にお気に入りの本を推奨。実は、この食事会が愚痴のこぼし場所。いわば女子会になっていたのです。
今回、本を選ぶのはビビアンの番。
ビビアンがみんなに手渡したのは、今話題の官能小説『フィフテイ・シェイズ・オブ・グレイ』。
この1冊が、彼女たちの人生を大きく変えていったのです…。

面白かったです!
主演の女優陣は、ダイアン・キートン、ジェーン・フォンダ、キャンディス・バーゲン、メアリー・スティーンバージェン。すべて、アカデミー賞またはゴールデングローブ賞の受賞者。
驚くべきは、その年齢!
レディに失礼ですが(笑)、撮影時の平均年齢74歳とありました。
いやぁ、キレイでチャーミングで、びっくり!
ジェーン・フォンダの年齢を調べて、さらにびっくり。美容にお金を掛けてはいるでしょうけど(笑)、それにしても若い!
恋のお相手となる男性陣も、46〜56年生まれ。ダンディーでおしゃれで、カッコいい。こんな歳の重ね方をしたいなぁと、お手本にしたくなります。
これが長編映画監督デビュー作となる、ビル・ボルダーマン監督が1977年生まれですから、抜けて一番若い(笑)。
初めは「いやだぁ〜」なんて言っていた官能小説ですが、女性たちの眠りかけていた恋愛の炎に火をつけます。
ちょっと上品な?大人の下ネタがたっぷり(笑)。
高齢化社会が言われる今、まだまだ現役と元気になること間違いなし。男女共に楽しめる快作です。
いいんじゃないですか?こういう映画。満点!★5つ。
「また、あなたとブッククラブで」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.12.10
『ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』★★★★
『NETFLIX 世界征服の野望』★★★
『BOLT』★★★
(満点は★★★★★)


先週は紹介する映画がありませんでした。
中1週でのコラムとなります。
師走の忙しい中でも、映画を見る余裕を持った生活が出来るといいですね。
さ、今週は3本です!

『ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢』は、ハートフルなサクセスストーリー。

マギーは、カリスマ女性シンガー、グレース・デイヴィスの付き人。
彼女の夢は音楽プロデューサーになること。
今の仕事は大変でも、大好きな歌姫のお世話が出来るのだから、苦にはなりません。
絶大な人気を誇るグレースでしたが、グレースにも悩みはありました。それは過去のヒット曲ばかりを求められること。
新曲を出したいと言ったところで、レコード会社は色よい返事をせず、信頼しているマネージャーのジャックでさえ、ラスベガスでの長期公演を勧めてきます。
それはチャレンジではなく、“守り”を意味するもの。
そんな時、マギーは内緒でグレースの歌のリミックスをし、「私のミックスを聴いて下さい」と申し出るんですね。
出来は良くても、明らかな越権行為。
マギーはジャックから、「プロデューサーになりたいのなら、自分でタレントを見つけてやれ」と怒られてしまいます。
いつものように、グレースのための買い物をしていた店で、マギーはデヴィッドというプロのシンガーを目指す男性と出会います。
彼の声に才能を見込んだマギーは、自分を音楽プロデューサーだと偽り、一緒に組んでデビューを目指さないかと、デヴィッドを誘ったのですが…。

久々に、オンラインやDVDではなく、試写会で見た映画。
入口で宣伝の人が別のお客さんと、「まさに王道の映画です」と話していたのが耳に届いたけど、確かに王道を行くサクセスストーリー。でも、個人的には好きなタイプの作品です。
というのも、よくあるのが、主人公がとんちんかんなことばかりやって、見ている側が、「こんなやつ、どうなったっていいじゃん。別に…」と思っちゃうほど下げておいて、最後に改心して、成功して、上げるパターン。それはいただけません…。
でも、この映画の主役であるマギーの“ダメ”は許される範囲。基本、ちゃんとやることはやってるんですョ。そこがいい。
隠し味の部分も、書けばこの映画の魅力はより伝わるんだろうけど、あえてやめときます(笑)。
音楽好きなら、是非観てみて下さい。お勧めです!★4つ。
「ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢」公式サイト


『NETFLIX 世界征服の野望』は、ドキュメンタリー。

世界中がコロナでステイホームを余儀なくされ、2020年の第2四半期だけで、1010万人もの有料契約者を獲得し、全世界190ヶ国以上で1億9300万人以上の登録者数を誇る、巨大メディア企業のNETFLIX社。
1997年に創業し、翌年、郵便DVDレンタルを開始。ライバルたる全米最大のレンタルビデオチェーン、Blockbuster社とはスパイ合戦を繰り返すなどして戦ってきましたが、とにかく新たなアイデアで時代を先取り。失敗と成功を繰り返しながらも、常に前に進み続けることで、大ヒット・オリジナルコンテンツという決定打を繰り出すことに成功します。
今や、年間1兆5000億円以上のコンテンツ投資で、世界中の会員たちの心を鷲掴みにしているNETFLIX社のこれまでを、実際に働いていた、あるいは今も働いている上層部たちの証言で構成したドキュメンタリー作品です。
もっと裏話が聞ける?と期待し過ぎると、肩すかしを食らうかもしれませんが、巨大動画配信企業の社史を見るのは、なかなか興味深いところです。
ちなみに、ライバルだったBlockbusterは、今ではわずか1店舗に。
まだまだ続く、巣ごもり生活。映画と配信は別物と声を荒げるハリウッドも、戦々恐々なのかもしれませんね。★3つ。
「NETFLIX 世界征服の野望」公式サイト


『BOLT』は、林海象監督の7年振りの作品。

突如、襲ってきた巨大地震。
原子力発電所にも被害が及び、圧力制御タンクのボルトがゆるんでしまいます。
漏れ始めた冷却水。多くの放射能を含む“死の水”が流れ出します。
職員たちは、放射線量が高い中、決死の思いでボルトを締めに行くのですが…。

実はこの映画、3本のオムニバスになっていて、紹介した『BOLT』の他は、以下の2本。
『LIFE』は、原発事故で住んでいた町が避難指定地域となり、立ち退きを言われたのに住み続けていた独居老人が亡くなります。その家の遺品整理を依頼された業者の物語。
『GOOD YEAR』は、古ぼけた自動車修理工場の近くで、女性が車の自損事故を起こします。工場主は女性を助け、車を直してあげるのですが、その女性はどこか見覚えのある女性だったのです。
3作品すべてに出演しているのが、永瀬正敏。ストーリーに繋がりがあるか、否かは不明ですが、『BOLT』と『LIFE』は、原発に一石を投じている内容に。
抽象的、幻影的な中にも、監督の思いが汲み取れる作品たちだと思います。★3つ。
「BOLT」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.11.25
『君の誕生日』★★★
(満点は★★★★★)


寒さが本格化してきました。
今年はコロナ対策もあって、うがい手洗いを徹底しているせいか、インフルエンザや風邪にかかる人が少ないと言われます。
とはいえ、心身共に暖かくして、引き続きの風邪予防。心のほうは映画でほっこりと(^-^)
さ、今週は1本です!

『君の誕生日』は、韓国映画。

2014年4月16日、修学旅行中の高校生300人以上が犠牲となった、セウォル号の沈没事故。
スホも、その犠牲者のひとりでした。
亡き息子の思い出と共に、悲しみの中をギリギリの精神状態で生きる、母スンナム。
兄のことが大好きだった、妹のイェソル。
そんな中、ベトナムに赴任していて、事故当日はもちろん、訳あってずっと戻れなかった父ジョンイルが、2年振りに帰宅します。
変わってしまった家族の風景。
周りの人たちが声を掛けてくれて、スホの誕生日会を開こうと提案するのですが、頑なに拒む母スンナム。
壊れてしまった家族の絆を修復することは不可能に見えたのですが…。

我々日本人にとっても記憶に新しい、セウォル号の痛ましい沈没事故。
イ・ジョンオン監督が、事故の際のボランティア活動で、多くの遺族、犠牲となった生徒たちの友人らから話を聞き、実際に“誕生日会”に参加し、これを映画にしなければと強く感じたそう。
亡くなった人の誕生日会、すなわち“記憶に残す会”なんですね。そこではスホの短い人生に関わりのあった人たちが、彼の思い出を、人となりを語ります。
犠牲者家族の再生の物語。おそらく、自国韓国では、よりリアルに心に響いたはず。
こんな事故は二度と起きないで欲しいと、祈るばかりです。★3つ。
「君の誕生日」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2020.11.18
『家なき子 希望の歌声』★★★★
『おろかもの』★★★★
『THE CROSSING 香港と大陸をまたぐ少女』★★★
『フード・ラック!食運』★★★★
『ボルケーノ・パーク』★★★
(満点は★★★★★)


以前は試写会のスケジュールが合わないと足を運べず、「どんな映画だったのか、気になるなぁ…」ということも少なからずあったのですが、今はDVDやオンライン対応もしてくれるので、ご案内頂いた、ほとんどの作品を観ることが出来ています。
なので、紹介する数も増えてるかも?選択肢は多いほうがいいですもんね(^-^)
アナログゆえ、相変わらずガラ携で打っている長文。頑張ります(笑)。
さ、今週は5本です!

『家なき子 希望の歌声』は、フランス人作家のエクトール・アンリ・マロが1878年に発表した、著名な児童文学の実写映画化。

フランスの、のどかな村に暮らすレミは11歳。
父親はパリに出稼ぎに行って不在でしたが、優しい母親と、貧しくても幸せな毎日を過ごしていました。 ところが、父が怪我をして働けなくなり、家に戻ってきます。
手紙でしか知らなかったパパに甘えようとすると、「パパじゃない。お前はうちの子なんかじゃない」と、突然、非情の宣告を受けたのです。
実は10年前、パリの街角に、高級な産着にくるまれて捨てられていた赤ちゃんを、礼金目当てで拾ってきたと言うのです。
レミは大好きな育ての母とも引き裂かれ、旅芸人のヴィタリスに売られてしまうんですね。
しかし、このヴィタリスは、レミの持つ天性の歌の才能に気づいていたのです。
新たな人生のスタートを切るレミでしたが、この先、幾多の困難が待ち受けていようとは、この時、想像だにしていなかったのです…。

『家なき子』は日本でも出版され、アニメにもなった有名な児童文学。読んだことがある、見たことがあるという人も多いはず。
ボクは恥ずかしながら、タイトルは知っていたけど、どんなお話かは知りませんでした。
原作とは若干違うところもあるそうですが、美しい自然、壮大な景色、当時を再現した古い街並みは、ヨーロッパの実写ならでは。
なるほど、こういう内容だったのかというのを初めて知りました。意外と同じような人、多いんじゃないですか?
映画は決して子供向けだけではなく、大人の鑑賞に十分耐えうる中身の濃さ。もし、あの大ヒットアニメーションの好影響で、お子さんが「ねぇ、映画に連れてってよぉ」とおねだりしてきたら、一緒に観るにはもってこいかも。
たぶん、観た後で、親子で語り合うことが大切なんだと思いますョ。★4つ。
「家なき子 希望の歌声」公式サイト


『おろかもの』は、若手監督の登竜門と言われる映画祭で5冠に輝いた作品。

両親を亡くし、兄妹ふたりで暮らしている健治と洋子。
その健治には、果歩という婚約者がいました。
女子高生の洋子にとって、果歩はなんとなくウマが合わない存在。「そのうち慣れてくれればいい。新しい家族になるんだから」という兄の言葉も虚しく耳に響きます。
ところがです。洋子は、健治が別の女性とホテルから出て来るのを目撃してしまいます。カメラを構え、ふたりに向けてシャッターを切る洋子。
かまをかけても、しれっと嘘をつく健治。
また別の日に、ホテルから出てきた女性を追いかけ、洋子は彼女を問い詰めます。独特の雰囲気を醸し出す美沙というその女性は、「だって、あたしは健治を愛してるんだから」とキッパリ。
美沙にどこか魅せられた洋子は、美沙と連絡を取り合うようになるんですね。そして、こう言ったのです。
「ふたりでこの結婚、ぶち壊しませんか?」と…。

失礼な言い方かもしれませんが、さほど有名な俳優陣が出演しているわけでもなく、監督もまだ無名のふたり。
それでも面白く、引き込まれながら観ることが出来ました。
若手監督の登竜門と言われるのは田辺・弁慶映画祭。2019年のコンペティション部門でのグランプリの他、俳優賞や観客賞など5冠に輝いたというのも納得の出来。ラストもきちんと着地しているのがいいなぁと感じました。これが観客動員に繋がるといいですね。
監督は芳賀俊と鈴木祥。今後に向けての応援の意味も込めて。★4つ。
「おろかもの」公式サイト


『THE CROSSING 香港と大陸をまたぐ少女』は、中国映画。

中国大陸の深センに住み、香港の学校に通う、いわゆる“越境通学”をしている16歳の女子高生、ペイ。
父は香港で別の家庭を持ち、母は麻雀で生計を立てているその日暮らし。同級生で親友のジョーだけが、ペイの心を満たす大切な存在。ふたりの夢は、お金を貯めて、日本の北海道で雪を見ることでした。
ある日のこと、学校からの帰り道、ペイはトラブルに巻き込まれます。スマートフォンの密輸です。
関税の関係で、香港で買ったスマートフォンを大陸に違法に持ち込めば、かなりの利ざやが稼げると、密輸が横行していたのです。
ジョーの恋人のハオも密輸団のメンバー。ペイはハオを介して、仲間に入り、何食わぬ顔で税関を通過。あっという間に大金を手にするようになるのですが、そこには当然のごとく、落とし穴が待っていたのです…。

一国二制度の問題は、民主主義と政治だけでなく、人々の生活にも大きく影響を及ぼしているんだなぁというのがわかります。
初めタイトルを見た時は、ドキュメンタリーチックな作品かと思いましたが、さにあらず。
これが初の長編映画だという、若き女性監督のバイ・シュエ監督は、「今のリアルな中国の青春映画」と語ります。
様々な“ねじれ”の中に生きざるをえない、市井の人々。我々日本人も、知っておく必要があるかと思います。★3つ。
「THE CROSSING 香港と大陸をまたぐ少女」公式サイト


『フード・ラック!食運』は、ダチョウ倶楽部の寺門ジモン初監督作品。

フードライターの良人は、なじみのIT企業の社長から、「“本物”だけを紹介する、新しいグルメ情報サイトを立ち上げてくれないか」と依頼を受けます。 その相方として紹介された編集者が、竹中静香。
静香は、良人のあまりのマイペースに戸惑い、何度もぶつかるのですが、社長の「あいつには食運がある」という言葉を、次第に実感していくことになります。
実は良人の実家は、根岸苑という良心的で美味しい人気の焼肉店。父の死語、母の安江がひとりで切り盛りしながら良人を育ててきたのですが、古山という人気グルメ評論家の事実無根の記事により、店は潰れてしまったんですね。
母とのいさかいも増え、家を飛び出した良人は、母とも疎遠になっていました。本当は大好きなのに、顔を見ることが出来なかった良人。
そんな良人のもとに、安江が倒れたという報せがが届いたのです…。

美味しい焼肉と、母子の愛情物語。
グルメで知られる寺門ジモンが、自分の得意分野を上手く活かして、ひとつの感動ストーリーを組み立てています。初監督作品にしては、やるなぁといった感じです。
たくさんのお店が登場し、そこに焼肉のうんちくが入る。逆にフェイクもそこで教えてくれる。勉強になるし、お腹も空く1本です(笑)。
ただ、ロース肉を焼き網全体に何枚も乗せて焼くのはどうなの?なんて、ボクも肉にはうるさいので(笑)、ちょっと思っちゃったりも。
ま、自分が美味しく食べられるのが一番なんですけどね!
ホロッとさせてくれます。感性のあちこちを刺激してくれる作品です。★4つ。
「フード・ラック!食運」公式サイト


『ボルケーノ・パーク』は、中国のパニック・アクション。

活火山の天火島。
20年前に噴火し、大災害を起こしたにも関わらず、今は実業家のハリスによって、この島は一大リゾート化されていたのです。
売りは「世界初の活火山テーマパーク」。
火山学者のタオは、同じく火山を研究していた妻を、20年前の災害で亡くしたひとり。娘のシャオモンは、仕事でいつも一緒にいてくれなかったから母は亡くなったんだと、父に対しわだかまりを抱いていました。
そんなシャオモンも、両親と同じ火山学者に。しかし、働いていたのはハリスの運営するボルケーノ・パーク。
危ないと諭すタオの言葉に、耳を貸さないシャオモン。
そんなある日のこと、マグマの動きに異変が起きます。先にそれを察知したタオが、シャオモンに逃げるよう電話を掛けますが、シャオモンは電話に出ません。
タオがシャオモンを迎えに行ったその時、天火島が20年振りの大噴火を起こしたのです…。

『ジュラシック・パーク』の火山版。
中国映画ですが、メガホンを取ったサイモン・ウェストは、『コン・エアー』などのヒットで知られるイギリス生まれの映画監督。
でも、突っ込みどころは満載で(笑)、逆にそちらを楽しむのもありかもしれません。
お金はかかっているのに、どこかB級感漂う作品。興味のある方は是非!★3つ。
「ボルケーノ・パーク」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.11.12
『音響ハウス Melody-Go-Round』★★★★
『さくら』★★★
『THE CAVE サッカー少年救出までの18日間』★★★
(満点は★★★★★)


オンライン試写が増えたと言いましたが、アナログなボクにとって、視聴環境がよくないので、たまに観られない場合があるのです。
実は権利保護のため、再生ボタンを押せる回数が決まっていて、何度も何度も止まってしまうと、その度に再生ボタンを押す。結果、“視聴不可”になってしまうのです。
こちらの機材の問題ですから、考えないといけないんですけどね。
さ、今週は3本です!

『音響ハウス Melody-Go-Round』は、ドキュメンタリー映画。

昨年、創立45周年を迎えた、東京は銀座にあるレコーディングスタジオ、音響ハウス。
この映画はそのドキュメンタリーです。
レコーディングスタジオのドキュメンタリー映画と聞くと、「ん?」と思うかもしれませんが、例えば、ビートルズがレコーディングしたことで有名なロンドンのアビーロードスタジオを始め、世界に名だたるスタジオがある中、世界中のミュージシャンから“日本に音響ハウスあり”と評されるのが、このスタジオなんですね。
映画の中で、ギタリストでプロデューサーの佐橋佳幸と、レコーディングエンジニアの飯尾芳史が、実際に曲を作っていく。一流のミュージシャンたちが音を重ねていく作業を見ながら、その合間合間に、数々のミュージシャンがスタジオでの思い出、レコーディングの際のエピソードを語っていく。そんな作りになっています。
坂本龍一、矢野顕子、松任谷由実、佐野元春、高橋幸宏、綾戸智恵、葉加瀬太郎、大貫妙子、デイヴィッド・リー・ロスetc。
70〜80年代を彩ったシティ・ポップの流れもよくわかるし、その時代のサウンドに魅せられた音楽ファンには必見の1本です。
職人の技術が積み重なって、ひとつの作品が出来上がる様は、ある意味、圧巻です。★4つ。
「音響ハウス Melody-Go-Round」公式サイト


『さくら』は、直木賞作家、西加奈子の大ヒット小説の映画化。

長谷川家は5人家族。父の昭夫、母のつぼみ、長男の一(ハジメ)、次男の薫、妹の美貴。そして愛犬のサクラがいました。
3人の子どもたちが幼い頃、近所の家で産まれた子犬の中から、一番やせっぽちだった子を選んで育ててきたのがサクラでした。
何をやってもカッコ良かった兄のハジメ。しかし、そのハジメが2年前に亡くなってから、長谷川家はバラバラになってしまいます。
父・昭夫は家を出て音信不通に。薫は逃げるように東京の大学へ。
そんな時、「年末、家に帰ります」と父からの手紙が。
2年振りに実家に帰った薫。言葉少なな父・昭夫。ギクシャクした食卓を賑やかにと努める母・つぼみ。相変わらずクールに振る舞う妹の美貴。そして、傍らには、老犬になったサクラが座っていたのです…。

55万部を突破した、西加奈子のデビュー2作目。
夫婦、兄弟妹、親子、恋、愛、死、そして生きること。長谷川家とサクラに起きた様々な出来事を通して、人生の機微を描き出します。
あらすじもサラッと書きましたが、いやいや、それぞれに関わる、あり余るほどたくさんのドラマがあって…。
兄を吉沢亮が、弟を北村匠海が演じてますが、このふたりがよく似ていて(笑)、実の兄弟かと思ってしまうほど。妹役の小松菜奈も、難しい役を上手く演じていたと思います。
著名人からの送られたたくさんの感想の中に、「どこにでもあるような家族なんて、本当はどこにもないんだろうな」というのがありました。そのコメントが、この映画を一番言い表しているように感じました。★3つ。
「さくら」公式サイト


『THE CAVE サッカー少年救出までの18日間』は、全世界でニュースになったタイの救出劇の映画化。

タイ北部のチェンライにあるタムルアン洞窟の中に、練習後のサッカー少年とコーチが、チームメイトの誕生日を祝おうと入ったのが、2018年6月23日。
しかし、その後の豪雨で、洞窟内の水位が急上昇。閉じ込められた13人の生存が確認されたのは、9日後の7月2日。入口から4キロも離れた地点での発見でした。
タイ警察、タイ海軍の特殊部隊に加え、世界中から洞窟探検家たちが集結します。
そんな中、ダイバーが酸素不足で命を落とすなど、救出は困難を極める状況に。果たして、少年たちを無事救い出すことは出来るのでしょうか…。

わずか2年前の出来事が、もう映画になるのかという驚きがありました。教訓としての忘備録の意味もあるのかもしれませんね。
結果として、奇跡的に、少年らとコーチが全員救出されたのは記憶に新しいところ。この作品では、救出にかかわった人々の行動、思い、葛藤を描いています。実際に救出に当たったダイバーたちも、自身の役で、多数出演しています。
世界的ニュースのサイドストーリーとして、こんなドラマがあったのかというのを知ることが出来る1本です。★3つ。
「THE CAVE サッカー少年救出までの18日間」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.11.4
『愛しの故郷』★★★
『ストックホルム・ケース』★★★
(満点は★★★★★)


11月になりました。
コロナ禍ゆえ、“芸術の秋”などと優雅に構えていられないかもしれませんが、それでも心は豊かにいたいもの。こんな時だからこそ、感性のアンテナを伸ばしてみませんか?
さ、今週は2本です!

『愛しの故郷』は、中国のオムニバス映画。

先週紹介した『愛しの母国』の姉妹版。
こちらは中国の東西南北と中部の町を舞台に、『愛しの母国』に比べ、より身近な人々の人情物語になっています。
甲状腺の病気だという貧乏ないとこを、何とか助けてやりたいと、嘘八百を並べる男。
UFOが出没して話題の町にテレビクルーがやってきて、真実を暴こうとします。
認知症になった老教師のために、昔の生徒たちが学校を再現。
今や“通販の女王”も、生まれ故郷は砂漠の村。記念式典に呼ばれて出会った怪しい男性の正体とは。
妻に嘘をついて、貧しい過疎の村を助けようとする画家の話。
全5話。みんないいお話です。プッと笑って、ホロッと泣けると思います。
『愛しの…』シリーズに対する思いは、先週のコラムを読んでみて下さい。
ホント、日本で言うところの“昭和の匂い”がするような短編集です。★3つ。
「愛しの故郷」公式サイト


『ストックホルム・ケース』は、“ストックホルム症候群”の語源になった事件を映画化したもの。

1973年、スウェーデンのストックホルム。
いつのまにか人生の歯車が狂い、今や犯罪歴さえ持つ男、ラース。
アメリカに憧れ、自由の国で人生をやり直したいと考えたラースは、ストックホルム最大の銀行に押し入り、天井に向け機関銃をぶっ放します。銀行内はパニックに。
ラースは、客を外に逃がすと、ふたりの女性行員と男性ひとりを人質に取り、親友で収監中のグンナーの釈放を要求。グンナーがラースの元にやってくると、次は逃亡のための車と金を要求します。
ところが、警察との交渉の中で、全員が金庫室の中に閉じ込められてしまうんですね。事件は長期戦の様相に。
ところがです。時間を共にし、生い立ちやら生活を語り合う中で、犯人と人質の間に、奇妙な連帯感が芽生え始めていたのです…。

「誘拐事件や監禁事件などの被害者が、犯人と長い時間を共にすることにより、犯人に連帯感や好意的な感情を抱いてしまう心理現象」。
これを“ストックホルム症候群”というのですが、その語源がこの事件なんだとか。
スウェーデン史上、最も有名な銀行強盗事件で、立てこもりは5日間に渡ったそう。
ラースが実は優しい男で、つまづき、やり直したい人生に、夫も子もいる女性行員のビアンカは、なぜか寄り添ってあげたくなってしまいます。
そして、それ以上の感情も…。
一応“クライム・スリラー”のキャッチコピーが資料にありましたが、シリアスな事件ものというよりは、ヒューマン・コメディといった感じ。
アメリカに憧れるラースはボブ・ディランが大好きで、劇中、彼の曲も効果的に使われています。
ラースより、警察所長や首相らが悪人に思えてしまうから、これまた不思議(笑)。“プチ・ストックホルム症候群”かも?
話のネタにお勧めです。★3つ。
「ストックホルム・ケース」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2020.10.29
『愛しの母国』★★★
『ウルフウォーカー』★★★
『私たちの青春、台湾』★★★★
(満点は★★★★★)


『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』、すごいですね。公開10日で107億円を突破!これは日本映画史上最速の記録だそうです。
TVで、「シネコンの映画が大ヒットするたびに“くそっ”と思ってたけど(笑)、これが映画館に人が戻るきっかけになればと、今回はもろ手を挙げて喜んでいます」と、ミニシアターのオーナーが語っていました。これこそが本音だなと(笑)。
たくさん、いい映画があります。もし『鬼滅…』が満席で入れなければ、“返す刀”で別の映画館へ(^-^)
何を見ようか迷ったら、このブログ、またはボクのホームページのコラムの“MOVIE”を参照下さい。文章は同じですが、ホームページのほうには作品の公式HPを添付してあります。参考にしてみて下さい!
さ、今週は3本です!

『愛しの母国』は、中国建国70周年記念のオムニバス映画。

中華人民共和国が建国されたのが1949年のこと。
そこからの大きな節目とも言うべき様々な出来事を、7本のオムニバスで集めたのが、この作品です。
建国宣言の1949年10月1日、式典の国旗掲揚に尽力した技術者たち。
1964年、初の核実験成功のために、自分の人生を犠牲にした科学者たちがいました。
1984年、ロサンゼルスオリンピックで世界一になった女子バレーボール。その時、街頭でもひとつのドラマが。
1997年、香港返還時のエピソード。
2008年、北京オリンピック開幕前日、開会式のチケットを手にしたタクシードライバーに起こった出来事とは。
2016年、初の有人宇宙飛行に成功。その時、村の貧しい青年の人生が変わります。
2015年、戦争勝利70周年の式典パレードに臨む、ひとりの女性パイロットがいました。
主人公は、みんな普通の人々。名もなき民衆の物語です…。

もちろん、中国の国威高揚の映画です。それでも、それを承知の上で観ると、人の情けとか個々人の在りようは、どんな国であろうとみんな変わらないんだなと、改めて。ユーモアを交えて描かれたものには、日本で言うところの“寅さん”的親近感すら感じます。
“逆もまた真”だといいですよね。反日を叫ぶ人たちにも、そんな目線を持って欲しい。それが世界中のあらゆる国同士で持てたなら。
きっと、国という塊じゃなく、人という点で見ることが大切なんですよね。理想論だと笑われるかな(笑)。
ロサンゼルスオリンピックの少年にホロリ。まさに、旧き良き昭和の日本です。★3つ。
「愛しの母国」公式サイト


『ウルフウォーカー』は、アイルランドのアニメ映画。

1650年のアイルランド、キルケニー。
この町にイングランドか来た父娘がいました。
少女の名はロビン。父親のビルは、町の実力者である護国卿に雇われたオオカミハンター。
好奇心旺盛なロビンが、父の後を追うように森に入ると、ひとりの少女と出会います。彼女の名はメーヴ。ふたりは仲良しになるんですね。
実はメーヴは、人間とオオカミがひとつの体に共存する“ウルフウォーカー”で、魔法の力で傷を治す“ヒーラー”でもありました。
メーヴには心配事がひとつ。母のモルが、オオカミの姿で森を出てから、帰って来ないというのです。ロビンは一緒にお母さんを探す約束をします。
ところが、しばしば森へ入るロビンを見たビルは、危険だからとロビンを外出禁止にしてしまうんですね。さらにロビンは、護国卿の調理場で働かされることになります。
森に行けなくなったロビン。メーヴは裏切られたと勘違いしてしまいます。
一方、ロビンが建物の中を探索すると、牢に入れられたオオカミを発見します。そのオオカミこそが、メーヴのお母さんのモルだったのです…。

眠ると魂が抜け出し、オオカミになる…。
アイルランドに伝わる“ウルフウォーカー”の伝説を題材にしたというアニメ作品。
プロのアニメ作家たちに言わせると、色彩もカットも素晴らしいとのこと。
確かに、森の緑が、差し込む光が、深い水の青が、燃え盛る炎の赤が、美しさを放つ映像です。
森を開墾して領地を増やしたい人間と、自分たちの住む自然を守ろうとするウルフウォーカー。両者を繋ぐのは、純粋な心で不条理と闘うふたりの少女、ロビンとメーヴでした。
残念ながら、アイルランドではオオカミは絶滅してしまったとか。
すべての命が大切なんだということを、オオカミとの共存の道を探るロビンの姿を通じて表現した1本です。
大人も、いや大人が楽しめるアニメだと思います。★3つ。
「ウルフウォーカー」公式サイト


『私たちの青春、台湾』は、ドキュメンタリー映画。

ドキュメンタリー作品の女性監督、フ・ユ。
マレーシア華僑の父と、インドネシア華僑の母との間に、1982年、台北に生まれます。
そんな彼女が、2011年、ふたりの大学生と出会います。
台湾の苗栗県出身のチェン・ウェイティンと、中国大陸からやってきた留学生のツァイ・ポーイです。
ウェイティンは、中国政府に脅威を感じ、台湾の主権を守ろうと社会運動に邁進。2014年のひまわり運動のリーダーとして、民衆の先頭に立った男子大学生。
一方のポーイは、中国で人気の女子ブロガーでもあり、「政治的なことに首を突っ込まないでくれ」と親に止められても、「私には私の人生がある」と、ウェイティンたちと行動を共にするんですね。
台湾は本省人、外省人、原住民族からなる多国籍国家。監督もふたりの大学生も、それぞれに違った出自を持つわけです。
その“3つの目”が見、行動した台湾の今を映し出した作品です。

若干のネタバレになることを許してもらうと、民主主義の難しさが如実に現れます。
ひまわり運動が大きくなればなるほど、人が増える。台湾全土を巻き込めば、意見や主張はその分多岐に渡って噴出してくるわけで。
まとまらないんですよ…。
中国から来たポーイを排除しよう。そんな声まであがってくる。ただただ、台湾の民主主義を守ろうと活動していたポーイも、居場所がないと感じてしまいます。
映画は、2017年、ウェイティンとポーイが、フ・ユ監督の撮り溜めた、ふたりの学生時代の映像を眺める場面から始まります。
香港の民主活動家で“民主の女神”と呼ばれるアグネス・チョウや、ジョシュア・ウォンらとの、雨傘運動前の交流映像もものすごく新鮮で、興味深いものがありました。
これはフィクションではなく、今も現実として台湾に横たわっている問題です。
どちらの主義、主張に偏れというのではなく、大局として知っておくことが、ボクら日本人にとっても大切なんじゃないかなと。
そんな意味でも、是非観ておきたい1本だと思います。★4つ。
「私たちの青春、台湾」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.10.22
『朝が来る』★★★★★
『おもかげ』★★★
『キーパー ある兵士の奇跡』★★★★
『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』★★★★
『空に住む』★★★
(満点は★★★★★)


「映画館に人が戻った」。そう、『鬼滅の刃』の効果です。
ボクが初めて父と映画に行った幼少の頃の記憶も鮮明で、ゴジラ、モスラ、エビラに、サンダ対ガイラ。怪獣が好きだったので、おそらく「映画館に連れてって」とおねだりしたのでしょう。
普段の生活とは違う、あの大きなスクリーンは、いわゆる“異空間”。慣れてしまえばなんでもないかもしれませんが、映画初体験の子どもには、おそらく衝撃体験。
「また映画館に連れてって」。
これが映画館の恒久的な活性化に繋がるといいですね。
さ、今週は5本です!

『朝が来る』は、辻村深月原作、河瀬直美監督最新作。

佐都子と清和夫妻には、子供がいませんでした。
病院で検査をしたところ、清和の無精子症が判明したのです。
不妊治療を諦め、夫婦ふたりで生きていこうと決めた時、テレビのドキュメンタリー番組で特別養子縁組の制度を知り、NPO法人“ベビーバトン”を訪れます。
しばらくして、会の代表の浅見から、「お宅に育てて頂きたいお子さんが生まれましたよ」と連絡が入ります。
ふたりで病院に行き、赤ちゃんを抱く佐都子。夢に見た、幸せの瞬間でした。
すると、浅見が言います。「この子のお母さんに会ってみます?」。
ふたりは「はい」と答え、産みの親と対面すると、それはまだ14歳の少女でした。
「ごめんなさい。お願いします」と泣きながら頼む少女の手を握り、佐都子と清和は、この赤ちゃんの親になる決意をより強く固めたのでした。
それから6年。息子の朝斗は幼稚園に通うようになり、家族の幸せな時間が流れていた頃、頻繁に電話が鳴っては切れるようになりました。
ある日のこと、いつものように電話が鳴り、受話器を取ると、電話の向こうの声が、話します。
「子供を返して欲しいんです。それがダメならお金を下さい」。
あの時の朝斗を産んだ少女なのか。ふたりはこの女性と会うことにしたのですが…。

「朝斗くんが、友達をジャングルジムから突き落としたらしい」。
幼稚園からの電話です。
「ぼく、やってないよ。でも、やったってウソついたほうがいいのかなぁ…」。
息子を信じたいと思いつつも、真実がわからず、心が揺れる佐都子。
最初はサスペンス映画の要素もあって、物語は進みます。
そして、夫婦の前に現れた女性は一体誰?
これ、あまりあらすじも、感想も書かずにおきますね。
でも、ひとつだけ。すべてはラストの数分のためにあります。
すごい、凄まじい映画だとボクは感じました。満点!★5つ。
「朝が来る」公式サイト


『おもかげ』は、ひとりの女性の再生の物語。

スペインのマドリードに暮らすエレナ。
6歳の息子イバンは、今日は離婚した元夫と旅行中。
しかし、そのイバンから緊迫した電話が入ります。海辺にいるが、父親が戻って来ず、近くに怪しい男がいると言うのです。
建物もなく、どこだかわからないと恐怖に震える声も、携帯電話の電池が切れ、聞こえなくなってしまいました。
それから10年、警察の捜査も虚しく、失踪した息子と会えずにいたエレナは、イバンがいなくなったと思われる、フランスの海辺の町のレストランで、雇われ店長として働いていました。
“息子を失ってイカれたスペイン女”と誹謗中傷する地元民もいる中、ひとりの少年と出会います。
彼の名はジャン。夏の間だけ、パリからこの町に家族でやってくると言います。
ジャンはエレナを慕い、度々店を訪れ、連絡先を交換。エレナもジャンの後をつけ、住まいを確かめたりするんですね。
なぜなら、ジャンには、失踪したイバンの面影があったからなのです…。

第91回アカデミー賞の短編実写映画賞にノミネートされた、『Madre』という作品の主役であった、エレナのその後を描いた作品。
息子を失い、絶望の中、それでも生きる彼女に、一筋の光明が差す。それがジャンでした。
ただ、これはあくまでも息子の“おもかげ”で、ジャンはエレナに淡い恋心を抱いているかもしれませんが、エレナの気持ちには、複雑なものが入り混じっているわけで。
エレナの現恋人、元夫、ジャンの両親、家族。様々な人との関係性の中、エレナはどうこの瞬間を“捌いて”いくのかというお話。
特別なシチュエーションだからこそ見える、母としての愛、女性としての愛があるのかもしれませんね。★3つ。
「おもかげ」公式サイト


『キーパー ある兵士の奇跡』は、実話に基づくストーリー。

第二次世界対戦下のヨーロッパ。
ナチス・ドイツの兵士として捕らえられたバート・トラウトマンは、イギリスのランカシャー収容所へと送られます。
ある日のこと、バートはサッカーに興じる他の捕虜たちに、タバコを賭けてのPK合戦を申し出ます。
次々とシュートを止めるバート。
それを見ていたのは、食料品店を営み、地元のサッカーチームの監督も務めるジャックでした。
低迷するチームの立て直しにバートが必要だと感じたジャックは、試合にバートを借りることに。
「ドイツ人とサッカーが出来るか!」。
当然、チームの選手は反対しますが、降格すれば有力者からの資金提供がなくなると聞き、渋々試合を始めます。
すると、ファイン・セーブを繰り返すバート。おかげでチームは久々の勝利を挙げることが出来ました。
ジャックは店でバートを働かせることに。チームメイトと交際中の娘、マーガレットも、最初はドイツ人であることを憎んでいましたが、バートの人柄に徐々に心を開いていきます。
リーグ残留がかかる試合の1週間前に、捕虜収容所の解体が決まり、捕虜たちはドイツに帰国。それでもバートは、チームのため、イギリスに残ることを決意するんですね。
その大切な試合に、熱い視線を送る男がもうひとり。それは、名門マンチェスター・シティFCの監督だったのです…。

実在のサッカー選手、バート・トラウトマンの伝記映画。
終戦直後のイギリスにおけるドイツ人ですから、間違いなく様々な逆風が、我々の想像以上に吹いていたはず。
バートは後にマーガレットと結婚。マンチェスター・シティFCに入団後の大ブーイングを、自らのプレーで打ち消していくのですが、地元はユダヤ人が多数住む街。そのコミュニティーの代表までもが、バートを応援しようと言った背景に、戦争へのある意味正しい解釈、赦しの心があったようです。
試合中に首の骨を折り、それでもピッチに立ち続け、ヒーローとなったバートにも、決して消せない過去がありました。“戦争に勝者はいない”というのが、改めて真実だと思います。
スポーツと戦争を、実に上手いバランスで描いている秀逸な作品。イギリス、ドイツ両国から勲章をもらったバート・トラウトマンの生涯に触れてみて下さい。★4つ。
「キーパー ある兵士の奇跡」公式サイト


『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』は、伝説のバンド、ザ・バンドのドキュメンタリー。

“ビートルズと並び称される唯一のアメリカのバンド”とも評される、ザ・バンド。
ドラムのリヴォン・ヘルム以外の4人は、すべてカナダ人でありながら、アメリカのルーツ・ミュージックの魅力を追求し、60年代末から70年代の人気バンドとなりました。
そんな彼らの歴史を、バンドの中心人物で、ギターでソングライターのロビー・ロバートソンが語ります。
ロビーが2016年に回想録「Testimony(ロビー・ロバートソン自伝 ザ・バンドの青春)」を出版。ゴーストライター抜きで、5年の歳月を掛けて書いたというこの本を、24歳の若きドキュメンタリー監督、ダニエル・ロアーが手掛けた映画。
親の影響でザ・バンドに興味を持ち、知識が豊富であったこと、ロビーたちがデビュー・アルバムを作ったのが24歳だったことなどから、生まれる前に解散していたバンドのドキュメンタリーを、若き新鋭に託したと言います。
ボブ・ディランとの交流は興味深く、エリック・クラプトン、ブルース・スプリングスティーン、ヴァン・モリソン、ジョージ・ハリスン他、多くの人気アーティストも登場。バンドの偉大さを語るんですね。
タイトルが示すように、ザ・バンドも問題を抱えて解散。その人間模様も、まるでドラマのよう。
時代的にわからないからと言わずに、ご覧になってみて下さい。ボクらにも、学ぶべきことがいっぱいに詰まっていますから。★4つ
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『空に住む』は、人気作詞家・小竹正人の小説からインスパイアされた作品。

直美は郊外にある、小さな出版社に勤める編集者。
両親が急死し、ひとりになった直美は、叔父が投機目的で購入したタワーマンションの高層階に、愛猫の黒猫ハルと共に暮らすことになります。
大都会を見下ろす生活。
ビルの屋上にある看板でさえも、上から見る環境になかなか慣れずにいたのは直美だけでなくハルも一緒でしたが、直美はそのことに気付けずにいたのです。
ある日のこと、エレベーターの中で、ひとりの若い男性に声を掛けられます。「ねぇ、オムライス作れる?」。
それはいつも窓から見下ろしていた看板のモデル、今をときめく人気俳優、時戸森則だったのです…。

多部未華子主演作。
直美が勤務する出版社も個性派の集まりで、こだわりの社長のもと、訳あり妊婦が働いていたりもします。
直美の暮らす部屋は売り物なので、内見に来る客のために合い鍵を持つ叔母が、直美の留守の間に、テーブルの上にこじゃれたオードブルを置いていったりもする。これがありがたくもあり、うざったくもあり。この叔母も、叔父にはわからない悩みを抱えています。
時戸森則も、TVとプライベートのどちらが本当の彼なのか、わからない。
仕事、恋愛、結婚、妊娠、ペットと同居のおひとりさま生活。現代女性の悩みを凝縮したような1本に、女性は同感する部分があり、男性はこの映画で女性を学ぶのかも?
自分に素直でいることすら息苦しいって、どういうことなんだろうって考えちゃいます。★3つ。
「空に住む」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.10.14
『アイヌモシリ』★★★★
『薬の神じゃない!』★★★★
『みをつくし料理帖』★★★★
(満点は★★★★★)


昨今、オンラインやDVDでの試写が増えたとお伝えしました。
もちろん、データの転送やDVDのまた貸し等は厳禁。ネット上の管理や、DVDにはシリアルナンバーを付けるなどして、厳しく管理がされています。
以前、試写のハガキが金券ショップに売られていたなんてこともあり。このまま“新しい試写様式”になると、新しい問題も起きるのかなぁと。
事はシンプルに、ボクら観せてもらう側の良識に委ねられているんですけどね。
さ、今週は3本です!

『アイヌモシリ』は、現代を生きるアイヌ民族の物語。

北海道の阿寒湖畔にある、アイヌの人々の集落“アイヌコタン”。
中学生の少年、カントは14歳。民芸品店を営む母とふたり暮らしです。
それまでは自然とアイヌ文化に触れながら育ったカントでしたが、1年前に父が急死。それから地元の活動に参加するのを止めてしまったのです。
父の友人で、コタンの中心人物のひとりであるデホは、そのことを憂い、積極的にカントにアイヌ文化を教え込もうとします。
その一環として、デホは、山の奥で内緒で育てている子熊の世話をカントに託すんですね。
しかし、この子熊は、イオマンテの儀式のための子熊だったのです…。

今年7月14日、サラブレッドの競りであるセレクトセールで北海道に行った際、白老町にオープンして2日目の民族共生象徴施設『ウポポイ』に立ち寄りました。
この時の模様は、ボクの7月のブログにありますが、最近ではテレビのCMも増え、あの頃よりは確実に施設も充実しているんだろうなと。
小さなカタカナ表記についてもブログに書きましたが、元々アイヌの言葉は口承言語。そこにカナをあてたので、「その言葉を発する口は作るけど、音になる直前の感じ」が、小さなカタカナ。
タイトル『アイヌモシリ』の“リ”も、正しくは小さな“リ”。ガラ携では変換出来ませんでした(笑)。
イオマンテは、神(カムイ)が熊の毛皮をまとって人間界(アイヌモシリ)に遊びに来た。熊の肉や毛皮は神様からのお土産で、それをありがたく頂戴した人間は、酒宴を催し、歌や踊りでもてなして、魂を神の国(カヌイモシリ)に帰す。
すると、神は「人間はこんなに歓待してくれた」と自慢気に話し、他の神も「ならば私も行くか」と、熊の姿で人間の前に現れてくれると。その、魂を帰す儀式のことを言うようです。
だから、心が汚い人間の矢は熊(神様)には当たらないんだとか。
ただ、動物愛護の観点から、今ではアイヌ民族の中でも賛否があるそうです。伝統と変化の難しさですかね。
作品の中では、一生懸命に面倒を見、愛着が出て来た子熊が、イオマンテで(一方の見方で見れば)命を奪われてしまう。そんなカントの心の葛藤が描かれています。
先住民のアイヌについて、『ウポポイ』のような施設で学んでから映画を観ても、映画が先でも、どちらでも(^-^)
“知る”ことこそが大切なんだと思います。★4つ。
「アイヌモシリ」公式サイト


『薬の神じゃない!』は、実際の事件をフィクションとして描いた中国映画。

チョン・ヨンは、男性向けの精力剤をインドから輸入し、販売する薬局の店主。
商売は上手くいかず、店の家賃は滞納。妻にも見放され、ひとり息子をも奪われそうになっていました。
そんな時、“血液のガン”と言われる、慢性骨髄性白血病を患うリュ・ショウイーが店に来て、インドから薬を買ってきてくれないかと言うのです。
リュ・ショウイーによると、国内で認可されている治療薬はあまりに高価で、病に苦しむ貧しい人たちはとてもじゃないけど薬を手に出来ないと。そこで、同じ成分で安価なインドのジェネリック薬を買ってきて欲しいと。
密輸ですから、まさに危ない橋を渡らなくてはなりません。それでも、自身の生活もギリギリだったチョン・ヨンは仕事を請け負います。
そこで、白血病患者とその家族でグループを結成。それぞれに得意分野で、薬の輸入に力を注ぎます。
しかし、そんなチョン・ヨンたちを、警察が見逃すはずがなかったのです…。

2004年に陸勇という白血病患者が、インドから安い抗ガン剤を輸入し、同じ病に苦しむ人たちに販売。“ニセ薬”を売ったと起訴されますが、周りの抗議の声で釈放された。これが世に言う“陸勇事件”です。
このことが、中国の医薬界を変えたそうで、映画はその事件をもとに、フィクションとして描かれています。
ややもすれば、当局批判だと、“お蔵入り”もありそうなテーマ、内容ですが、公開が許可されて、本国では大ヒットを記録。日本でも5月あたまの公開予定だったものが、コロナの影響でここまでずれ込みましたが、公開となりました。
コロナの特効薬、ワクチンの開発、アメリカの保険制度など、薬に関する話題に人々の目が向く昨今。タイミング的にはどんぴしゃかも?
人の熱意が、思いが、世の中を大きく変えることもあるんだってこと、肝に銘じておきたいですね。★4つ。
「薬の神じゃない!」公式サイト


『みをづくし料理帖』は、角川春樹監督にとって生涯最後の映画監督作品。

亨和2年、大阪。
8歳の澪と野江は大の仲良し。
ところが、大洪水が起き、ふたりとも離れ離れになってしまいます。
両親を失った澪は、料亭の女将に拾われ、料理を学び、10年経った今は江戸に上り、神田の蕎麦屋“つる家”で働いていました。
ところが、上方の味は江戸の舌に会わず、なかなか受け入れてもらえません。
客で町医者の永田が、悩む澪を吉原の祭りに誘います。遊女たちの華やかな舞い、見物客の歓声。そんな中、“幻の花魁”と呼ばれるあさひ太夫の存在を知ります。
加えて、酢醤油の心太を食べて閃いた澪は、江戸と上方の融合で心太を作ると、これが大ヒット。さらに、昔働いていた料亭のとろとろ茶碗蒸しに挑戦。ここにも江戸の風味を加えたところ、「つる家」は行列の出来る大人気店になったのです。
そんなある日のこと、ひとりの男がやってきて、茶碗蒸しが欲しいと。又次というこの男、聞けば、吉原の遊郭で働く料理人で、あさひ太夫の料理番をしていると。太夫も上方の出身で、店の評判を聞いた太夫が、ふるさとのとろとろ茶碗蒸しが食べたいと。
又次は土産に上方の話もと、澪に頼みます。澪は野江との思い出を話すんですね。
遊郭に帰った又次がその話を太夫にすると、太夫は言葉を失います。
そう、あさひ太夫こそが、澪の大切な幼なじみの野江だったのです…。

原作は全10巻と特別編からなる、高田郁の大人気時代小説シリーズ『みをづくし料理帖』。その中からの抜粋です。
角川春樹監督、最後の作品。
始まってすぐ、「ん?ミスプリントか?」というフィルムの映像が映ります。
お恥ずかしながら知らなかったのですが、これは角川春樹監督のプライベートフィルムであることの証しなんですって。終映後に宣伝担当さんに聞いちゃいました。“聞かぬは一生の恥”。いいですよね(笑)。
主演は松本穂香、奈緒。どちらもいい役者さんです。以前も言いましたが、松本穂香は作品毎に顔が違う。奈緒は有馬記念のイベントでご一緒した時の、透明感にびっくり!どちらも今後に期待が出来る女優さんです。
美味しそうな料理の映画でもあります。タイムスリップしながら、人の情と味の世界を、視覚でご堪能あれ。★4つ。
「みをづくし料理帖」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.10.08
『望み』★★★★★
『わたしは金正男を殺してない』★★★
(満点は★★★★★)


“秋の夜長”と言いますが、翌日の仕事が早くない時には、明け方までオンラインやDVDで、新しい映画の試写を観ています。
映画ファンからは、羨ましがられるかもしれませんね(笑)。
もちろん、その分、きちんと作品を紹介しないとと。このブログも、そのひとつのツールです。興味を持ったら、是非劇場に足を運んでみて下さい!
さ、今週は2本です!

『望み』は、雫井脩介のベストセラーの映画化。

郊外の洒落た一軒家に住む石川家。
主人は、その家の設計も手掛けた、建築デザイナーの一登。
妻の貴代美は、家で編集の仕事をしています。
子供がふたり。高校1年生の息子、規士はサッカーで大活躍。
娘の雅は頭がよく、名門高校への受験を控えていました。
幸せを絵に描いたような4人家族でしたが、規士が練習中に膝に大怪我を負ってしまい、サッカーを断念。ユース代表候補と言われるほどの実力だった規士は目標を失い、両親にも反抗的な態度を取るようになっていたのです。
ある日のこと、貴代美が、規士の部屋を掃除していると、ゴミ箱からナイフの空箱を発見します。一登が問い詰めても、規士は答えません。
一登はナイフを取り上げ、事務所の用具箱の中に隠すんですね。
数日後、無断外泊をして、帰宅しない規士を心配する貴代美のもとに、母から電話が入ります。テレビのニュースで、高校生が関係した殺人事件を報じていると言うのです。
それによると、車のトランクに若い男性の遺体があり、高校生ぐらいの少年ふたりが逃走。SNSでは、もうひとり犠牲者がいると。
そんな時、玄関のベルが鳴ります。立っていたのはふたりの刑事でした…。

面白かったです。
面白いという表現が適切なのかは、わかりませんが。
記したあらすじは単なる導入部。殺されたのは規士の同級生。時間が経つに連れ、規士が事件に絡んでいる可能性がどんどん高くなっていきます。
加害者ならば、息子は殺人犯。被害者ならば、息子は亡くなっている。
よく、「どっちに転んでも勝てるケンカ」なんて言い方をしますが、今回はその真逆なわけです。
近隣の目、周囲からの嫌がらせ、押し寄せるマスコミ…。一変してしまった生活の中で、家族それぞれの心の中に、息子が加害者、被害者のどちらであることを“望む”のか、極限で揺れる本音が浮かんでは消えます。
そして、結末…。
凄まじい小説の映画化です。堤真一、石田ゆり子、岡田健史、清原果耶。脇を固めた俳優陣も素晴らしい。堤幸彦監督もさすがです。
ボクはあるシーンで体を震わせて泣きました。でも、きっと観る人によって、そのポイントは違うはず。ただ、どこであろうと、必ず突き刺さる部分があると思います。
最近、家族や身内の殺人事件も増えています。同じ家に住み、たとえ血を分けた肉親であったとしても、個は個。親も兄弟も、その心の奥底はわからない。推測するしかないということなんでしょうね。
ただ、家族という密な時間が、空間が、他人よりは、心を通じさせているはず…。
タイトルの『望み』は、前述のように、石川家の残された家族の“本音”のことのようにプレス資料には書かれていましたが、ボクはそうじゃなくて、人という存在そのものに対する“希望”のように感じました。
あ、しゃべり過ぎましたね(笑)。
是非ご覧になってみて下さい。満点!★5つ!
「望み」公式サイト


『わたしは金正男を殺してない』は、世界を震撼させた、あの殺人事件を追ったドキュメンタリー。

北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)。その実兄、金正男(キム・ジョンナム)。
2017年2月13日、マレーシアのクアラルンプール国際空港で事件は起きました。金正男が殺されたのです。
数日後、犯人として逮捕されたのは、ふたりの若い女性。インドネシア人のシティ・アイシャと、ベトナム人のドアン・ティ・フォンでした。
20代半ばの女性が、一国の首都にある大きな空港で、午前9時という時間に、大勢の人の目の前で暗殺事件を起こすとは…。世界中に衝撃が走ったのは、記憶に新しいところでしょう。
黒幕と思しき、北朝鮮の工作員が8名。4人は事件後すぐにマレーシアを脱出するなどして、逮捕されたのはひとりだけ。ところが、北朝鮮の猛烈な訴えと対抗措置で、その男は釈放され、金正男の遺体も北朝鮮へ。
残ったのは、実行犯とされたふたりの女性だけになったわけです。
彼女たちは、一貫して「イタズラ動画の撮影だった」として、殺意を否定。
その後の防犯カメラの映像から、彼女たちが被害者の顔に塗りつけたものが、猛毒だったと知っていたのか、知らなかったのかの論争にもなりました。
映画は、事件そのものを分析。加えて、女性ふたりの生い立ちや、当時の生活を取材。事件の真実に迫ります。

100%信じていいと言っているのではありませんが、「なるほど、そうだったのか…」と、ストンと腑に落ちる結論にまで、導き出しているのがいいなと。
観た後にモヤモヤが残るのでは、意味がないですもんね。
この映画を作るスタッフも、ある意味、命がけ?
その勇気と使命感に拍手です。★3つ。
「わたしは金正男を殺してない」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.9.30
『ある画家の数奇な運命』★★★★★
『オン・ザ・ロック』★★★
『ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン』★★★★
(満点は★★★★★)


10月4日(日)から始まる、BS―TBSの新番組『ジンバナ』。第1回のテーマは“役者になった馬”。
時代劇などで使われる馬を育てる牧場にスポットを当て、怖がりで神経質な馬が、なぜあんな動き、走りが出来るようになるのかを追求します。映画にもたくさん、馬が登場しますもんね。
20時54分から。『ジンバナ』、お見逃しなく!
さ、今週は3本です!

『ある画家の数奇な運命』は、ドイツ人画家、ゲルハルト・リヒターの半生をモデルにした作品。

ナチス・ドイツの時代。
クルトは大好きな叔母の影響で、芸術に親しむ少年。
当時、近代芸術は“退廃芸術”とされ、政府当局はドイツ民族賛美のもののみを推奨。しかし、叔母は「真実はすべて美しい」と、少年クルトに自分の価値観と感性を信じることを教えたのです。
そんな叔母が精神のバランスを崩したとされ、強制入院。安楽死政策で命を絶たれてしまいます。
終戦後、クルトは東ドイツの美術学校に進学し、そこでエリーという名の女性と出会います。
恋におちたふたりは結婚。しかし、エリーの父、カール・ゼーバントこそ、叔母の死を決めた医師だったのです…。

モデルになったゲルハルト・リヒターは、1932年生まれの現代美術界の巨匠。オークションで彼の作品には、数十億の値がつくんだとか。
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督には1ヶ月の取材が許され、人名は変えて、何が事実で、何が事実でないかは、絶対に明かさないことを条件に、映画化が決まったそう。
その後、東ドイツの芸術に疑問を抱いたクルトは、ベルリンの壁が崩壊する前に西ドイツへと逃亡。激動の東西ドイツを生き抜いた芸術家ですから、まずそれだけで波瀾万丈。
加えて、西の芸術に馴染めないクルトは、美術学校で作品を全否定されてしまいます。
しかし、恩師との出会い、亡き叔母の言葉が、クルトに新たな表現方法を導き出させ、彼の描いた作品が、義父を震え上がらせるという…。
まさにタイトルにある“数奇な運命”です。
189分。3時間超えの超大作ですが、一気に観られてしまいます。本当に面白かったです。
ちなみに、リヒターの作品を恒久展示する施設が、瀬戸内海の豊島にあるそう。きっと観に行きたくなると思いますョ。芸術に明るくないボクですら、そう感じましたから。満点!★5つ!
「ある画家の数奇な運命」公式サイト


『オン・ザ・ロック』は、A24制作、ソフィア・コッポラ監督の最新作。

ニューヨークに暮らし、妻として、ふたりの娘の母として、またライターとしても働くローラ。
夫のディーンも、仕事は順調で、多忙な毎日を送っていました。
そんな中、夫は新しくやってきた美人の同僚との残業が増え、出張も頻繁に。ローラはディーンの浮気を疑い始めるんですね。
男心は男に聞けとばかりに、ローラは、プレイボーイで母を泣かした父フェリックスに相談を持ち掛けます。
今もなお、女性に色目を使うフェリックス。愛娘に頼られた父は、ディーンを尾行しようと、探偵ばりの行動を提案。ローラもそれに乗り、ふたりは実行に移したのですが…。

ソフィア・コッポラ監督が、新進気鋭の映画制作スタジオ・A24と手を組んだ話題の新作です。
ソフィア・コッポラは、あのフランシス・コッポラ監督の娘。
実は、主役のローラを演じているのが、ラシダ・ジョーンズ。あの音楽界の巨匠、クインシー・ジョーンズの娘なんです。
つまり、すごい父を持つ、ふたりの二世女性のタッグとも言えます。
ラシダ・ジョーンズ、言われてみれば、目のあたりがパパによく似てる…(笑)。
父娘が、夜のマンハッタンの街を、ヴィンテージのオープンカーで駆け抜けて行く。さらにはニューヨークを飛び出して、父娘の奇妙な探偵旅行?もあるのですが、単なる仲良し親子ではなく、そこには過去の辛い思い出もあり、家族のペーソスも描かれているんですね。
「スタイリッシュなニューヨークのコメディ」と監督が語るように、自身の人生も重ね合わせたような作品だとか。
すごい家に生まれると、それなりの葛藤もあるのかもしれませんね。ボクのような庶民にはわかりませんが(笑)。
いかにもアメリカンな、ニヤリと笑うタイプの映画です。★3つ。
「オン・ザ・ロック」公式サイト


『ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン』は、ドキュメンタリー。

1922年7月2日生まれの98歳。今だ、現役で活躍を続けるファッション・デザイナー、ピエール・カルダンのドキュメンタリーです。
イタリアに生まれ、ファシズムを嫌い、2歳の時にフランスへ移住。
1945年に初めてパリを訪れ、マダム・バンカンのアトリエに入り、50年に独立。今年で70周年を迎えることになったブランド、ピエール・カルダン。
彼のすごさの詳細は、この映画に譲りますが、オートクチュール(高級仕立服)ではなく、プレタポルテ(既製服)にして、一般の人に着てもらう服を作りたいとした、志が素晴らしいなぁと。
ビートルズも身にまとった襟無しジャケットもそうですが、その斬新なデザイン同様、ビジネスのアイデアも時代の先を行っていて、モデルに日本人などのアジアン・ビューティーを起用したり、共産圏の中国やソ連をマーケットにしたり。さらにはライセンス・ビジネスも大成功。110ヶ国で800ものライセンスを持っていたそうです。
あまりの斬新さに、当時のモード界から除名をくらってもなんのその。面白いエピソードのひとつは、自身の最新デザインの服を着て行ったところ、ドレスコードで入店を拒否されたマキシム・ド・パリを完全買収し、自らがオーナーになるという。いやぁ、スカッとしたでしょうね(笑)。

プレス資料に、ピチカート・ファイヴのボーカリストだった野宮真貴さんがエッセイを寄せていますが、宇宙をイメージしたピエール・カルダンのデザインは、まさにピチカートファイヴ時代の彼女のファッションのイメージ。
劇中にも、たくさんの日本人が登場します。ピエール・カルダンを身近に感じることが出来るはずです。

清涼剤であり、栄養剤。心が沈みがちな今の時代を、パッと明るくしてくれるような1本。何と言っても御年98歳の頑張りには、勇気をもらえます!★4つ。
「ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.9.23
『甘いお酒でうがい』★★★
『鵞鳥湖の夜』★★★
(満点は★★★★★)


今月19日のイベント開催制限の緩和を受け、一部の映画館が、全座席分のチケットを発売するようになりました。
マスクの着用や検温、消毒はもちろん、満席にならなければ、観客自らが席をひとつ空けるなどの対策は取りますもんね。
この小さな前進が、再び後退しなくてもいいように祈るばかりです。
さ、今週は2本です!

『甘いお酒でうがい』は、お笑いコンビ、シソンヌのじろうが書いた小説の映画化。

川嶋佳子は40代の独身女性。派遣社員として出版社で働く、ベテランOLです。
佳子の日常は、ドラマチックな出来事が起きるでもなく、平々凡々と過ぎる毎日。
一番の楽しみは、年下の同僚、若林ちゃんとの時間。そしてお酒。
佳子はそんな生活を、自身の人生をメモするかのように、日記に書いていたのです。
ある日のこと、若林ちゃんが、後輩の岡本くんを連れてきました。
すると、佳子の心がざわつき始めるではありませんか。ふた回りも年下の岡本くんに、佳子は恋をしてしまったのです…。

シソンヌのじろうが、ネタの中で演じてきた代表的キャラクターの川嶋佳子。
彼女が日記を書いたなら…という設定で書かれた小説が『甘いお酒でうがい』です。
その中から、いくつかのエピソードをチョイスし、脚本もじろうが担当しています。
男にとっても、女にとっても、やっぱり恋愛というのはすごいパワーを持つものなんだなと。人生をまるっと変えちゃいますもんね。
40代女性が、ふた回りしたの男性と付き合う。
これを自分に置き換えた時、「あ、お伽噺だな」と。でも、そこに夢はあるんですよねぇ(笑)。
いつ何時、運命の出逢いがあるかなんて、わかりません。いくつになっても、胸ときめかせるって、素敵だと思います。
ちなみに、老人ホームの入居者同士の一番のトラブルは、“恋愛”だと聞いたことがあります。★3つ。
「甘いお酒でうがい」公式サイト


『鵞鳥湖の夜』は、中国映画。

バイク窃盗団の幹部、チョウ・ザーノン。
窃盗団同士のトラブルから、抗争に発展。その最中に、チョウは誤って警官を射殺してしまうんですね。
翌日、警察はチョウを全国に指名手配。30万元の報奨金で情報を収集したところ、チョウも胸に銃弾を受けていて、動物病院で治療した後、鵞鳥湖の近くに隠れていると判明。
チョウは、自分が自主する代わりに、報奨金の30万元を妻のシュージュンに渡したいと、5年振りにシュージュンに連絡を取ります。
ところが、約束の場所に現れたのはシュージュンではなく、見知らぬ赤いワンピースの女性だったのです…。

この映画のキャッチフレーズが、“革新的ノワール・サスペンス”。
フィルム・ノワールという言葉を知ってますか?
何となく聞いたことはあるけど、意味はよくわからないという人もいるはず。フィルム・ノワールとは、悲観的、虚無的な犯罪映画の意味。
この作品も、明るい結末が欠片も見えず、夜の静寂に展開する謎めいたサスペンス・ストーリー。
赤いワンピースの女性は、鵞鳥湖の娼婦アンアンでした。
なぜ、妻ではなく、アンアンなのか…。
監督は、中国の“気鋭”と呼ばれるディアオ・イーナン監督。
個人的には、ちょっぴり人間関係がわかりづらいというか、これまた中国映画の様式美すら感じるので、観る前にあらすじは、ある程度知っておいたほうが楽しめるかと思います。★3つ。
「鵞鳥湖の夜」公式サイト

 
 
   
週末公開の映画……2020.9.16
『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』★★★★
『メイキング・オブ・モータウン』★★★★★
(満点は★★★★★)


来年1月公開の映画の、試写会の案内が届きました。早くも2021年なんですね…(笑)。
さ、今週は2本です!

『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』は、ドキュメンタリー映画。

岩手県一関市にあるジャズ喫茶ベイシーは、「レコードを演奏する」と言われる、マスターの菅原正二さんが経営する店。
早稲田大学を卒業後、故郷に戻って、1970年に開店し、今年で50年を迎える老舗のジャズ喫茶です。
音へのこだわりから、世界一のサウンドが聴けると、日本はもとより、海外からもジャズやオーディオのマニアが集まる“聖地”になっていて、著名なジャズのアーティストが、実際にこの店でライブを行ったりもします。
劇中でもいい音で素敵なジャズがたっぷりと流れますが、菅原氏は開店以来使用し続けているJBLのオーディオシステムを、自身の手で、耳で、毎日調整。菅原氏不在で店をオープンしたことは1日もないそう。
この映画で学ぶのは、好きなことをとことん追求すると、人生はこんなにも豊潤になるのかということ。
加えて、リモートやテレワークが言われる今、東京じゃなくてもいいんだというのを、改めて感じたということでしょうか。
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』が生まれるほど、夜空の美しい岩手県。
人々が夜空を眺めて、空想にふけったように、岩手県はフュージョンやジャズなど、詞の無い音楽が好まれる土地でもあると聞きます。
人生100年時代。菅原さんがオシャレでカッコいい!こんな歳の重ね方は憧れです。
ボクらの世代は、観れば、きっと刺激を受ける1本だと思いますョ。★4つ。
「ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)」公式サイト


『メイキング・オブ・モータウン』は、アメリカの大人気レコードレーベルのドキュメンタリー映画。

アメリカのブラック・ミュージックを代表する老舗レーベル、モータウン。
自動車が主力事業のデトロイトで生まれたモータウンは、“モータータウン”から名前を取ったと言われています。
創始者のベリー・ゴーディも、以前は自動車工場に勤め、組み立てラインで働いていたそう。そこで彼は、ふと気付くんですね。
ただの鉄の部品が、人の手や技が加わって組み立てられていくと、最後には立派な自動車になっていると。これをミュージシャンや、音盤制作にも当てはめられないかと考えたのです。
ただ、自動車と大きく違うのは、音楽の“原材料”は、鉄の塊じゃない。人なんだということでした。
1959年に、デトロイトの片隅の、2階立て一軒家から始まったモータウン。
その成功の秘訣を、ベリー・ゴーディと、相棒のスモーキー・ロビンソンが語ります。

ベリー・ゴーディが、実に明るいオジサンで(笑)。モータウンの創始者として、名前は知っていても、こんなキャラだったのかというのは、新たな驚きだと思います。
今、アメリカは人種差別問題に揺れていますが、当時はもっとひどかった。そんな中、モータウンの音楽が、白人と黒人の境界線を、少しずつですが、確実に消していった。ダイアナ・ロス&スプリームスが、白人司会者のテレビ番組に出たのが、エポックメイキングな出来事だったぐらいで。
“根深い”と語られるのも、なるほどそうなのかと、音楽以外の部分にも学びがあります。
マイケル・ジャクソンやスティーヴィー・ワンダーなどの、貴重なオーディション映像もあり、音楽ファン必見です!満点!★5つ。
「メイキング・オブ・モータウン」公式サイト

   
 
 
週末公開の映画……2020.9.9
『喜劇 愛妻物語』★★★
『窮鼠はチーズの夢を見る』★★★
『スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』★★★
『東京バタフライ』★★★
『ミッドウェイ』★★★★
(満点は★★★★★)


コロナで公開延期になっていた作品が、続々と公開になります。
少し前に観た映画については、プレス資料のみならず、公式サイトを見たりして、記憶を蘇らせたりもしました。
今回もガラ携で、この文章を打ってます。打ち応え十分です(笑)。
さ、今週は5本です!

『喜劇 愛妻物語』は、足立紳監督の自伝的小説の映画化。

豪太とチカは結婚10年目の夫婦。ふたりには5歳の娘、アキがいます。
豪太の仕事は脚本家。でも、全然売れていないので、年収は僅かに50万円ほど。家計の柱はチカのパート収入でした。
学生時代に知り合い、豪太の才能に惚れて結婚したチカでしたが、今や愚痴と罵倒のみ。夫婦の夜の生活など、あろうはずもなく。
ところが豪太は、何とかしてチカを抱きたい。悶々とした毎日を送っていたのです。
そんなある日のこと、豪太は、自身の企画を映画会社に持ち込みます。なんとなく興味を持つプロデューサー。しかし、当然取材費は出ないので、舞台となる四国まで自費で取材旅行に行くことに。
車が必要なロケハン旅。免許のない豪太は、運転手としてチカに同伴を依頼。アキも連れて、半分家族旅行でと提案します。
パートも休み、嫌々首を立てに振ったチカが選んだのは、超節約の旅。
一方、豪太はといえば、チカとの夜の営みのことで、頭の中がいっぱいだったのです…。

『百円の恋』の脚本家、足立紳の監督、脚本作品。
さらけ出しの美学とでも言うのでしょうか(笑)、頭に“喜劇”と、自ら付けることで、救いになっているのかもしれませんね。
離婚が当たり前になった今、それでも別れないのは“縁と愛”があるから。
当人たちは否定しても、離婚経験者のボクとしては、きっとそうなんだと思います。
また、娘さんの存在も大きいんでしょうね。
鈍行列車を乗り継いで、四国まで。
着いたら着いたでシングル1部屋に、家族3人が“忍び込む”。
旅行中、早々に企画はぽしゃり、決まっていた映画までもが中止になる。
どこまで上手く行かないんだと、奥さんがあまりに可哀想になりますが、たぶん大丈夫なんですョ。よその夫婦のことですから(笑)。
突き放してるんじゃなくて、別れないんだから、他人にはわからない“絆”があるんですって。
ボクの辞書に“離婚”の二文字はなかっただけに、ちょっぴり羨ましくなりました。
なんて、ボクもさらけ出してますかね(笑)。★3つ。
「喜劇 愛妻物語」公式サイト


『窮鼠はチーズの夢を見る』は、行定勲監督が描く、男性同士のラブストーリー。

大伴恭一は、妻の知佳子と結婚生活を送っていましたが、恭一には不倫相手の瑠璃子がいて、知佳子はそれを薄々察知。興信所に調査を依頼しています。
探偵の今ヶ瀬渉は、調査対象の恭一が学生時代の先輩であることを知り、不倫現場の証拠写真を持って、恭一のオフィスを訪ねるんですね。
7年振りの再会。自身の浮気に妻が気付いていたことに戸惑いを隠せない恭一でしたが、さらに驚いたのは、渉の一言でした。
「ずっと好きでした」。
不倫の事実を隠して欲しいと頼む恭一。その交換条件に、渉が提示したのは、一緒にホテルに行くこと。恭一は、渉と唇を重ねます。
しかし、その後も、恭一は瑠璃子と逢瀬を重ね、遂には知佳子から「お付き合いしてる人がいます」と三行半を突き付けられ、離婚が成立。
すると渉が恭一の部屋にやってきて、男性ふたりの同棲生活が始まったのです…。

水城せとなの同名人気コミックの映画化です。
近年、性の問題は、あらゆる角度から語られ、逆に本音が言いづらくなってしまった感もありますが、男性同士のラブシーンを正視出来るかは、これまた人それぞれで。
ボクは正直、苦手かなと。
恋愛に好みがあるように、いい悪いじゃないので、誤解なきよう。
恭一に大倉忠義、渉に成田凌。想像するに、例えば女性が見ても、美しいと思える組み合わせなのかもしれません。
恭一が女性に優柔不断でだらしなく、その後も次々と女性が出てきて、ふたりの仲に影響を与えていきます。
セクシュアリティの問題と、性嗜好との境界線が、今は曖昧なような気もしていて。
あ、ここで軽く語るには、あまりにデリケートな話題かもしれませんね。やめておきます。★3つ。
「窮鼠はチーズの夢を見る」公式サイト


『スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話』は、タイトル通り、実話に基づく物語。

「何とかする」がモットーのブリュノは、“正義の声”という名の自閉症ケア施設を運営しています。
ここは、無認可で、赤字経営の団体。社会問題総合監査局の検査官がやって来て、査察に入るのですが、法律やら何やらで線を引けば、即閉鎖の組織。
しかし、入所者の親や、緊急地域医療センターの医師たちに聞き取り調査をすると、みんな口を揃えて検査官に言います。
「認可?深刻な問題を抱えた彼らを受け入れてくれるのは、心と信念で働くブリュノだけだ」と。
ブリュノをサポートするのは、社会からドロップアウトした若者たちの独立支援をする“寄港”という組織の代表マリク。“寄港”で教育された若者を、“正義の声”に送り込み、入所者のケアに当たらせていたのです。
重度の自閉症を抱えるヴァランタンの担当になった、新人のディラン。
初めはやっぱりトラブル続き。それでも互いに少しずつ信頼関係を築いていきます。
ところが、ディランがちょっと目を離した隙に、ヴァランタンが姿を消してしまったのです…。

2011年、介護が必要なお金持ちと、問題だらけの黒人男性との、友情と絆を描いた『最強のふたり』。あの映画の監督、エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュの作品です。
実は、彼らが映像制作に取り組み始めた頃に出会った、自閉症や問題を抱える若者の支援団体の代表に心を打たれ、いつか映画にしたいと誓ったそうで、この作品も、『最強のふたり』も、そんな下地があって出来た映画なんだとか。
劇中、もうひとり、ジョセフという自閉症の男性が出てきます。彼に仕事をさせるため、ブリュノが企業に送ったメールは1万通。そして、1社だけが面接を受けさせてくれたという。
“寄港”の若者たちが無資格であることを検査官に問われると、ブリュノは言います。
「資格があれば暴れる子を抑えられるのか?」。
表面(おもてづら)の綺麗事では語れない、すべての人の尊厳と、真の優しさと。多少の脚色はあるにしても、実話ですから。
日本でも、こうして誰かのために奮斗努力の方々がいるんだろうなと、思いを馳せてしまいました。★3つ。
「スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話」公式サイト


『東京バタフライ』は、バンドを組んでいた大学生4人の青春ストーリー。

大学生バンドのSCOREは、女性ボーカルの安曇、ギターの仁、ベースの修、ドラムスの稔からなる4人組。
レコード会社にその実力を認められ、メジャーデビューが決まるのですが、売れるためにはと、ディレクターが安曇の詞に手を加えるんですね。
それを飲んでもデビューしたいメンバーと、曲を変えたくない安曇との間に亀裂が入ります。
そして、レコーディングの際、安曇は倒れてしまいます。
あれから6年。バンドは解散し、安曇は介護士に。仁は人気バンドのサポートギタリスト、修はアルバイトをしながらベースを弾き、稔は結婚し、妻の実家の和菓子屋を手伝っていました。
そんな4人が再会し、それぞれが本音で6年前を振り返ります。
そして、果たせなかった、あの曲のレコーディングをしようという話になるのですが…。

バンドを組み、プロを目指した人のほとんどが経験したであろう“挫折”。厳しい現実です。
でも、何かに打ち込み、本気で挑んだならば、そこには必ず発見があるし、“意味”がある。
バンドに限らず、挫折と後悔を抱きながら、頑張って、愚直に生きている人たちへの応援映画だと言います。
ボク自信、転職は29歳。数字じゃないと言いつつも、“30歳を前に”というのは、正直ありましたからね。
何かに躓いてしまったり、壁にぶつかってしまった人は、「自分だけじゃないんだ」と、勇気をもらえるかもしれませんョ。★3つ。
「東京バタフライ」公式サイト


『ミッドウェイ』は、『インデペンデンス・デイ』のローランド・エメリッヒ監督が描いた戦争映画。

1941年12月7日。ハワイの真珠湾を、突如日本軍が襲います。
太平洋戦争の幕開けです。
当時、破竹の勢いを誇った日本軍。ミッドウェイ環礁は、ハワイ諸島の西に位置し、そこを攻略すれば、ハワイをも陥落し得ると考えた日本軍に対し、アメリカ軍にとってもミッドウェイは日本攻撃の前哨基地。この地は、太平洋戦争を占う上で、両国にとっての最重要拠点でもありました。
アメリカ太平洋艦隊の指揮を執るのは、ニミッツ大将。ニミッツ大将は、情報主任参謀のレイトン少佐に、「日本の通信を傍受して、暗号を解読せよ」と命じます。
すると、日本の次なる目的地がミッドウェイだと判明するんですね。
それでも日本軍の兵力は凄まじく、空母4隻に、戦闘機250機以上。後方に控えしは、山本五十六海軍大将率いる、無敵の戦艦、大和。
真珠湾攻撃で大打撃を受けたアメリカ軍は、果たして、ミッドウェイを守ることが出来るのか。運命の戦いが始まろうとしていたのです…。

ローランド・エメリッヒ監督はドイツ人。
再びナショナリズムが台頭しつつある今、日米双方への平等な視点から、日本人をも単なる敵ではなく、敬意を持ってミッドウェイ海戦を描きたいと、ずっと望んでいたそう。
監督は言います。
「多くの命が失われる戦争に勝者は無く、敗者しかいない」と。
さらに、「日米の海軍軍人への鎮魂の映画」とも語ります。
時間軸も史実に忠実に、軍艦も、戦闘機も、武器も実物を再現。勇敢な兵士もいれば、尻込みする兵士もいる。大切な仲間が多数、命を落としていく。憎しみの連鎖…。
そんな中で、二度と起こしてはいけない戦争について、今を生きる人々に問いかける作品になっています。
個人的に残念だったのは、DVDを借りて観たので、画面が小さかったことですかね。
いやいや、この作品は絶対に大きなスクリーンがいい!
そんな意味でも、映画の映画たる在りようを、映画館の必要性を再認識させてくれる1本だとも思います。★4つ。
「ミッドウェイ」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2020.9.3
『世宗大王 星を追う者たち』★★★
『人数の町』★★★
『mid90s ミッドナインティーズ』★★★
(満点は★★★★★)


9月になりました。
今週は、先日お伝えした『海の上のピアニスト』(日本公開1999年)の、イタリア完全版が公開となります。170分の大作。見応え十分です。
約20年前に感動したという人は、改めて観てみてはいかがですか?また違った発見があるかもしれませんョ。
さ、今週は3本です!

『世宗大王 星を追う者たち』は、韓国の歴史映画。

5世紀半ば。その頃の朝鮮王朝は、明国の属国的な地位にあり、4代王である世宗(せじょん)は、朝鮮の自立を成し遂げたいと常に考えていました。
チャン・ヨンシルは、天文学や科学の知識に長けていたものの、賤民の位。世宗は、その才能をいかんなく発揮させるために、周囲の反対を押し切って、ヨンシルに武官に押し上げます。
すると、ヨンシルは、水時計や天体観測機器など、民衆のためになるものを次々と発明、製作するんですね。
世宗の究極の夢は、朝鮮独自の文字を作ることでした。
ところが、当然、明はこれをよしとはせず、臣下の中にも、王の行動が国を危うくすると言う者もいたのです。
身分の差を感じさせない世宗とヨンシルの仲でしたが、遂にはふたりを引き離そうと画策するものが出て来ます。
王が乗る輿をヨンシルに作らせたのですが、気付かないように細工がなされ、旅の途中で輿が崩壊してしまったのです…。

世宗大王。韓国では、ハングルを作った王として崇められる人物だそう。
ちょっと検索したら、これまでにも、たくさんドラマ化もされてるんですね。
ただ、一方のチャン・ヨンシルについてはあまり取り上げられたものがないそうで、ここでは身分を超えた友情物語としても描かれています。
133分の大作ですが、韓国映画のクオリティの高さが、飽きずに観させてくれます。
日本で言えば、時代劇を観る感覚。隣国の歴史を知る一助にもなるかと思います。★3つ。
「世宗大王 星を追う者たち」公式サイト


『人数の町』は、中村倫也主演のヒューマン・ミステリー。

裏通りで借金取りに痛めつけられていた蒼山を、黄色いつなぎを着た男が助け、蒼山にこう言います。
「安心していいよ。居場所は用意するから」。
そうして蒼山が連れて行かれたのは、どこかの“町”でした。
首にチップのようなものを埋められ、“自由と友愛の印”とされるパーカーを着て、町のガイドである“バイブル”を熟読するよう指示される蒼山。
簡単な労働と引き換えに衣食住は保証され、さらに社交場であるプールで知り合った男女は、肉体関係を結ぶことも許されるという“町”。
しかし、入るのは自由でも、出ることは出来ません。
ここでの生活にも慣れ始めた頃、新しく、紅子という女性がやってきます。ところが、他の住人たちとはどこか様子が違います。
聞けば、妹がいたのですが、妹は幼い娘と一緒に突然姿を消してしまったと。捜した結果、ここにいると判明。妹たちを助けるために、“町”にやってきたと言うのです。
その妹というのは、プールでも一際目をひく美貌の女性、緑のことだったのです…。

不思議なタイトルで、斬新な設定。どんな物語なんだろうと興味が湧くと思います。
個は滅し、数としての存在となる。
この“町”の住人はそんな感じでしょうか。
そもそも、何らかの問題を抱え、社会からドロップアウトした人間たちの集まり。自由なようでいて、本当は不自由。
言い換えれば、不自由さを知らないがゆえに、偽(いつわり)の自由を自由と勘違いしているかのよう。
どこかの国の今に似てませんか?
新型コロナウイルスについても、多くの人数がテレビから流れます。そこにも、ひとりひとりの人生があるのに、単なる“数”で捉えてしまう現実…。
“2020年の映画”という感じ。いろんなことを考えさせてくれる1本かと思います。★3つ。
「人数の町」公式サイト


90年代半ばのLA。
スティーヴィーは13歳。兄と母との3人暮らしでしたが、体の小さなスティーヴィーは、兄にいいようにやられてばかり。
そんなスティーヴィーがふらっと入った、街のスケートボードショップ。そこにはちょっぴり年上の、自由でカッコいいティーンエイジャーたちがたくさん集まっていたのです。
何度か出入りをするうちに、スティーヴィーは彼らの仲間になり、スケートボードに熱中します。
スティーヴィーの変化に気付いた母親は、息子を心配し、彼らと付き合うのをやめろと叱るのですが…。

『ムーンライト』や『ミッドサマー』などの話題作で知られる、新進気鋭の映画スタジオ、A24の作品。
監督、脚本を務めたジョナ・ヒルの、半自伝的物語だそうです。
舞台は90年代のLA。カセットテープや、当時のヒット曲のCDケースの背、ストリートファイターなど、90年代カルチャーもいい味付けになっていて、日本人のボクらでも「懐かしいなぁ…」となるのですから、西海岸で過ごした当時のキッズには、より一層の懐かしさが込み上げるのではないでしょうか。
それが証拠に、全米では、僅か4館からスタートし、それが1200にも広がったとか。
自分のローティーン時代を思い出しても、そのスタイルに憧れた先輩がいました。背伸びして付いていこうと真似してましたもんね(笑)。
夏の終わりに、あの頃に戻ってみるのもいいかもしれません。★3つ。
「mid90s ミッドナインティーズ」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.8.28
『ふたつのシルエット』★★
『マロナの幻想的な物語り』★★★
(満点は★★★★★)


試写会がオンラインやDVDに替わるパターンが増えていることはお話ししましたが、観させてもらう側からすれば、利点は時間を選ばないということですよね。
スクリーンでの試写は、限られた日程に合わせないといけないけど、オンラインなら空いた時間を活用出来ます。
テレワークには無縁だと思っていたボクですが、長所はこういうところにあるのかと、なんとなくわかったような気がしています。
さ、今週は2本です!

『ふたつのシルエット』は、“ファンタジック・ラブストーリー”。

妻と娘の3人で車を走らせる慧也。
妻の用事で別行動となった慧也は、海沿いのレストランに入ります。
偶然そこに居合わせたのは、7年前に別れた元恋人の佳苗でした。
あれから佳苗は仕事にすべてを注ぎ、キャリアを築いた今は、新しい恋人も出来、プロポーズもされているんですね。
久々の再会で、浜辺を歩くふたり。愛し合っていた当時の記憶が、鮮明に蘇るのでした…。
“ファンタジック・ラブストーリー”というのは、この映画のキャッチフレーズ。
時折、慧也と佳苗の服装が、恋人同士だった頃のものに瞬時に変わる。時を超えて、記憶が行き来するのを表現しているんだと思います。
2人組ユニット、jan and naomiの楽曲「dab♭」にインスピレーションを得たそうで、どこかアンニュイに独特の空気感で流れる作品です。
良く言えば、映画ならではの実験的表現方法を実践してるなと。悪く言っちゃえば、痴話喧嘩を延々見せられてる感じ(笑)。
ドラマチックである必要はないかもしれませんが、食い足りないと感じてしまったかなぁ。
その一方で、このタッチが好きだという人もいるはずです。
あなた自身の目で確かめみて下さい。★2つ。
「ふたつのシルエット」公式サイト


『マロナの幻想的な物語り』は、ルーマニアのアニメーション映画。

マロナはハート型の鼻を持つ小さな牝犬。
ちょっぴり怖いお父さんが、血統書付きのお母さんに一目惚れ。散歩の途中で2匹は結ばれ、9匹の子犬が生まれます。
その末っ子がマロナ。最初はナインと呼ばれていました。
マロナは曲芸師マノーレの元へ。マノーレは彼女をアナと名付けます。
大道芸の最中も、アナは大好きなマノーレと一緒。幸せな毎日でしたが、マノーレに大きなチャンスが訪れるんですね。ところが、その仕事は“犬禁止”。
自分がいてはとマノーレの夢が叶わないと、アナはマノーレの元を去るんですね。
その後、建設現場で暮らしていたアナは、出入りのエンジニア、イシュトヴァンに可愛がられます。
イシュトヴァンはアナをサラと名付け、母親の住む実家に連れていくのですが、心の病を持つイシュトヴァンの母はサラを傷つけてしまいます。
そこで妻を説得し、イシュトヴァンは自宅にサラを連れ帰るのですが…。

ルーマニアのアニメ。まず、それだけで興味が湧きませんか?
アニメというより、斬新なアート作品。映画としても十分楽しめました。
マロナはイシュトヴァンの家も出ることになり、もうひとり、新たな飼い主とその家族に出会います。そこでマロナと名付けられます。
マロナ目線で描かれた、人生ならぬ“犬生”の物語。
監督は、マロナの3つの環境の変化を、子供時代、思春期、老年期に当てはめ、それぞれのキャラクターたちも、優しいだけじゃなく、ネガティブな部分も持つ設定にしたと語ります。
街を流れる景色の中に、最初の飼い主マノーレの、マロナへの思いを発見しました。一瞬で見逃してしまうかもしれませんが、ちょっとぐっと来ますョ。
ささやかな幸せが、大切な、本当の幸せなんだとマロナが教えてくれる物語。
コロナ禍のボクたちに、共感出来る部分は大きそうです。★3つ。
「マロナの幻想的な物語り」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.8.20
『狂武蔵』★★★
『シリアにて』★★★★
(満点は★★★★★)


今週は、日本でも1999年12月に公開になった『海の上のピアニスト』の4Kデジタル修復版(121分)が公開となります。
豪華客船の中で生まれ育ち、陸上を知らない天才ピアニストの数奇な人生の物語。ご覧になった方も多いはず。 そのイタリア完全版なる170分のものも、来月4日に公開となります。見応え十分ですョ。
さ、今週は2本です!

『狂武蔵』は、77分ワンカットの剣術アクション作品。

時は、慶長9年(1604年)。
宮本武蔵によって、道場破りをされてしまった名門・吉岡道場は、名誉挽回と、亡くなった師範らの仇を討つため、まだ幼い師範の嫡男を立て、宮本武蔵に決闘を申し立てます。
しかし、これは罠。
吉岡一門100人に、金で雇った300人が身を潜め、宮本武蔵を一網打尽にしようとしていたのです。
それを知ってか、知らずか、決闘の場に現れた宮本武蔵。
1vs400の、果てしのない、まさに死闘が始まったのです…。

主演は坂口択。
77分のワンカットシーンは、実は9年前に撮影されていて、クラウドファンディングなどで資金を集め、そこに新たな撮影部分を付け加えた91分の“完全版”として公開となります。
オンライン試写の映像を観始めた時、「ん?もしかして、ずっとこの殺陣のシーンが続くのか…」。
予感は的中(笑)。
エピソードを読むと、開始5分で指が折れ、肋骨が折れ、奥歯も砕けたと。確かに、途中で異変に気づくはずです。
壮絶…。
なので、ストーリーも何もありません(正確にはあるのですが)。同じ衣装の侍が、斬られても斬られても、何度も出てくるとか、細かいことはご愛嬌(笑)。
前代未聞とも言えるチャレンジです。役者魂はもちろん、カメラを始めとするスタッフのプロの仕事ぶりにも“拍手”だと思います。★3つ。
「狂武蔵」公式サイト


『シリアにて』は、内戦のシリアが舞台の密室劇。

アサド政権と反体制派、加えてISとの対立も激化するシリア。
内戦は泥沼化し、首都ダマスカスも、銃弾と爆撃の街と化していました。
そんなダマスカスに建つ、一軒のアパート。その一室に暮らすオームは、3児の母。戦地に赴いた夫に代わり、家族を守っていました。
そこには、オームと3人の子どもに加え、義理の父に、メイドたち。また、産まれたばかりの幼子を持つ、隣人夫婦も身を寄せていたのです。
ある日の朝、隣人の夫が、レバノンへの脱出ルートを見つけたと、妻ハリマに話します。
「逃げるなら、今夜だ」と言う夫は、手はずを整えるために外出するのですが、数分もたたないうちに、目の前の駐車場でスナイパーに撃たれてしまうんですね。
それを目撃したメイドの女性が、震えながらオームにそのことを伝えるのですが、助けにも出られない現状。ハリマには黙っておくことに決めます。
爆撃があるたびに揺れるアパート。子どもたちがベランダに出ことさえも危険な状況。
そんな時、激しくドアを叩く音が。強盗と思しき男たちでした。
みんな、シェルターにしている一室へと逃げ込んだのですが、ハリマだけは逃げ遅れてしまいます。
そして、男たちが家の中へと入ってきたのでした…。

死者数十万人と言われるシリアの内戦の惨状を描いた映画。
それをアパートの一室だけで、それも24時間の出来事のみで描いたのですから、恐怖と緊張がギュッと濃縮された作品だというのがおわかり頂けるかと思います。
良質の舞台作品として上演するのも、いいかも。
直接の銃撃シーンは、隣人夫婦の夫が撃たれる場面ぐらい。それでも、戦時下にあるという心身の張り詰めた緊張感は、全編を通して、ずーっと続きます。
映画では24時間ですが、日常生活は、何日どころか、下手をすれば何百日も続くんですもんね…。
こんな時、人間は何に幸せを感じ、どこに希望を見いだすのだろう。そんなことを考えてしまいました。
そして、「日本に生まれてよかった…」。
当たり前のありがたさに気づかせてくれる1本かもしれません。★4つ。
「シリアにて」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.8.12
『ディヴァイン・フューリー 使者』★★★
『はりぼて』★★★★★
『ファヒム パリが見た奇跡』★★★
(満点は★★★★★)


暑いですね…。
急に猛烈な暑さがやってきました。
街を歩いていてキツくなったら、冷房の効いた映画館に、涼をとりに入ってはいかがですか?
さ、今週は3本です!

『ディヴァイン・フューリー 使者』は、韓国版エクソシスト。

あまりの強さに“死神”のニックネームを持つ若きチャンピオン、総合格闘家のヨンフ。
ヨンフは幼い頃、大好きだった父親を亡くし、それからは神を信じないどころか、憎むようにすらなっていたのです。
その頃、韓国では、悪魔の仕業と思しき事件が多発。バチカンからアン神父が派遣され、悪の根源である“闇の司教”の存在を突き止めようとしていました。
ある晩のこと、ヨンフの右手に傷が出来、シーツが真っ赤な血に染まってしまいます。その傷は、十字架に磔(はりつけ)にされたキリストの手にも似ていたのです。
運命に導かれるように出会うヨンフとアン神父。
ふたりは、ヨンフの右手に宿りし神の力で、“闇の司教”ジシンに対峙するのですが…。

いつも言うように、韓国映画は面白い。総じて、エンタメはレベルが高いですよね。
韓国はキリスト教の信者が多い国。そういうのを抜きにしても、ホラーとサスペンス・アクションの娯楽作品として、十二分に楽しめる映画だと思います。
この夏、お化け屋敷がソーシャル・ディスタンスで“休止”だとしたら、この映画で代用するのも“あり”だと思いますョ。★3つ。
「ディヴァイン・フューリー 使者」公式サイト


『はりぼて』は、富山市議会を舞台にしたドキュメンタリー。

“保守王国”富山県。
有権者における自民党員の割合が、10年連続で日本一という富山県の、県庁所在地が富山市。
この富山に、2016年、チューリップテレビというローカル局が誕生しました。
このチューリップテレビのニュース番組が、自民党富山市議による政務活動費の不正使用について、スクープ報道を流すんですね。
“富山市議会のドン”と呼ばれていた、自民党の重鎮市議は、報道をきっかけに辞任。
すると、出るわ出るわ、芋づる式に、半年間で14人もの議員が、同様の嫌疑で辞職。
例えばです。議長が辞任。新たに議長になりました。はい、謝罪。辞任の繰り返し。
ところが、慣れっこになってしまったのか、不正が発覚し、一度は疑惑を認めるも一転無罪を主張。裁判になっても、係争中は辞める必要がないからと居座る議員が現れたかと思えば、今度は夜間に無断で議会事務局に侵入し、女性職員のデスクを物色していたという議員が出現。謝罪はしたものの、辞職勧告には応じず、「この不正を糾弾出来るのは、わたししかありません!」と大声で主張。
おいおい…(笑)。
市長も何かと言えば、「私のコメントする類のことではありませんから」と、まるで他人ごと。
富山市出身の、きちんと生きていらっしゃる方には誠に申し訳ありませんが、富山市民全体の民度が低いと思われてしまいますよねぇ。いい迷惑でしょう。
“報道のチューリップテレビ”を謳ったテレビ局も、まるで犯人探しのための取材、報道のようになり、メディアとしての在りように疑問が生じるようになります。
実際、この映画の監督を務めた五百旗頭幸男氏は、この不正を報道していたチューリップテレビの元アナウンサーで、ニュース番組のキャスター。2020年3月に、局を退職しています。
映画のタイトル『はりぼて』は、富山市議会のみならず、自分自身にも向けた言葉だと、監督はコメントしているんですね。
地方、国を問わず、高い志を持って政治の世界に入っても、周りの環境に染まってしまうのが人間の弱さ。「先生!」と持ち上げられ、そこに利権や金銭を差し出された時、拒む勇気はあなたにありますか?
ボクだって、確かな自信はありません。だから政治家になろうなんて、これっぽっちも思わないわけで(笑)。
富山市に限ったことではありません。たまたま富山市議会だっただけかもしれません。
後ろに流れるBGMがまた、滑稽さに輪をかけてくれます。
“人間喜劇”として笑えます。ただし、これはドキュメンタリー映画であることをお忘れなく。満点!★5つ!
「はりぼて」公式サイト


『ファヒム パリが見た奇跡』は、実話に基づいたストーリー。

バングラデシュのダッカに暮らすファヒムは、チェスが大好きな男の子。
大会での優勝は数知れず。町の賭けチェスでも、大人は8歳のファヒムにきりきり舞い。
そんなファヒムの身に危険が迫ります。ファヒムの名声に対する妬みと、親族が反政府組織に加わっていたことで、一家が脅迫を受けたんですね。
父はパリに逃げようとしますが、家族全員は無理。そこで、まず父とファヒムが先にパリへ行き、仕事に就いてから、残りの家族を呼ぶことにします。
しかし、現実はそう甘くはありませんでした。パリの難民センターに身を寄せるも、父に仕事は見つからず。
ただ、ファヒムがチェスのクラブに入ることは叶います。フランスでも指折りのコーチ、シルヴァンが指導するクラブです。
この、頑固で偏屈なシルヴァンとの出会いが、ファヒムの運命を変えていくことになるのです…。

実在の人物、ファヒム・モハンマドの物語。
「チェスのチャンピオンと闘ってみたくないか?」。
そんな父の言葉に釣られてパリ行きを決めたファヒムでしたが、実際には長期に渡る母との別れでもあったわけで。
パリで父は仕事を見つけられず、ファヒムの前から姿を消してしまいます。なぜなら、難民申請が通らず、強制送還の可能性があったから。
この時、ファヒムに差し伸べられた、シルヴァンや、クラブの仲間たちの暖かい手。
大会の大詰めになって、ファヒムには資格が無いからと、出場を拒まれてしまいます。
この時も、ラジオの生放送に出演中の当時の首相に、ファヒムの事情を知る女性(映画の中ではクラブの女性経営者)が、「身分証を持たないからという理由で、才能ある子どもが、チェスの大会に出られないのは問題ではないか」と問いただしたのも事実だそう。
チェスでチャンピオンになることだけが、家族が再びひとつになるための道と、ファヒムは頑張るんですね。
ちなみに、フランス入国から10年以上が経ち、ファヒムもファヒムの父にも、フランス国籍はまだですが、滞在許可証は下りたそう。
「それだけでも大きな進歩」と、成長したファヒムは語っています。
まさに“芸は身を助く”ですね。★3つ。
「ファヒム パリが見た奇跡」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2020.8.5
『ジョーンの秘密』★★★★
『れいこいるか』★★★
(満点は★★★★★)


7月に観た新作の試写は12本。
そのうち、試写会場では2本だけ。オンラインが6本、DVDで4本。
ほとんどが“おうち試写”でした。
移動もなく、時間を自分の都合に合わせられるのが利点。
映像管理をしっかりとして、アフターコロナもこの形が残ってくれるとありがたいんですけどね。
さ、今週は2本です!

『ジョーンの秘密』は、実在の女性スパイの半生をもとに書かれたベストセラー小説の映画化。

イギリス郊外に暮らす、80代女性のジョーン。夫は亡くなりましたが、息子は弁護士として独り立ち。
そんな彼女ののどかな生活に、突然イギリスの国家保安局が踏み込み、ジョーンは逮捕されてしまいます。
容疑はスパイ。第二次世界大戦下、旧ソ連のKGBに、機密情報を流した罪に問われたのです。
時は1938年、ジョーンがケンブリッジ大学で物理学を学んでいた頃、同じ学年の女友達に誘われ、共産主義の会合に参加。そこで、レオという男性と知り合います。
演説は力強く、カリスマ性のあるレオに、ジョーンは惹かれ、ふたりは恋に落ちるんですね。
優秀な成績で大学を卒業したジョーンは、核兵器の開発機関で働き始めるのですが、その才能を認められ、機密任務である原爆開発のチームに配属されます。
それを知ったレオは、情報をソ連側に流すよう、ジョーンに詰め寄ります。
これは恋愛なのか、それとも利用されているだけなのか?
ジョーンは共産主義には賛同出来ないと、レオの申し出を一度は断るのですが…。

2000年に、イギリスで実際に起こった逮捕劇を元に小説化。そのベストセラー小説の映画化です。
当時、イギリスでは“ばあばスパイ”と話題となり、普通に暮らす平凡な老女が、まさか重大機密を漏らしたスパイだったとはと、イギリス中が驚いたと言います。
映画は、ジョーンの今と、若い頃の回想が交互に描かれ、80代のジョーンには、イギリスが誇る大女優のジュディ・デンチが扮します。
なぜ、彼女はスパイ行為を働いたのか。
それは逮捕された際にも、実際にジョーンの住まいの前で行われたという、記者会見で語られた、彼女の抱く“信条”にありました。
ここではもちろん詳細を書くことはしませんが、その言葉を聞いて、ジョーンの信念や行動を、“悪”とひとくくりに出来るのかどうか…。
当時、広島、長崎に原爆が投下され、ジョーンはひどく動揺したと言います。
フィクションではありますが、我々日本人も観ておく必要がある1本かもしれません。★4つ。
「ジョーンの秘密」公式サイト


『れいこいるか』は、阪神・淡路大震災から25年目に作られた、追悼と再生の物語。

小説家を目指すと言いながら、1冊の本も書けない太助。
その妻で、自由奔放に生きてきた伊智子。
ふたりの間には、れいこという一人娘がいました。
親子3人で海に行った時のこと。伊智子の携帯が鳴り、伊智子は話し相手のもとへ。太助とれいこは先に家に帰ります。
「おかあちゃん、遅いなぁ」。
実は伊智子、浮気相手とラブホテルにいたのです。
その時です。経験したことのないような大地震が襲ってきたのです。
家は崩れ、れいこは下敷きになって、亡くなってしまうんですね。
いるかが大好きだったれいこ。そのぬいぐるみが、近くに転がっていました。
その後、太助と伊智子は離婚。それぞれ別々の人生を歩み始めます。
ところが、太助が人を殺めてしまいます。
罪を償い、出所した太助が町に戻ると、そこには以前と変わらない神戸の下町、長田区の路地裏の景色があったのです…。

もう25年も経ったのか。
いや、まだ25年しか経っていないのか。
時が止まったままの人もいるでしょう。阪神・淡路大震災で被災した皆さんの、それぞれの立場で、感じ方、考え方は違うんだろうなと推測します。
この映画も、れいこちゃんも、いるかも、さほどフィーチャーされず、タイトルになっている割には、サブ的な扱い。
でも、ずーっと存在しているんですよ。
ぬいぐるみだったり、思い出だったり、決して消えることなく、太助と伊智子の中にずーっといる。
この映画の本筋は、夫婦の崩壊から、絆が再び結ばれるストーリーかもしれないけど、本当に言いたいのはそっちじゃなくて、亡くなった人に対する思い。“ずーっといるよ”ってことのほうなんじゃないかなって思います。
ドラマチックとは言えないけど、平凡な日常とも言えないストーリー展開。感じ方は人それぞれでいいと思いました。そんな映画です。★3つ。
「れいこいるか」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2020.7.28
『君が世界のはじまり』★★★★
『剣の舞 我が心の旋律』★★★★
(満点は★★★★★)


今週末は、早や8月。
コロナと長梅雨で、気が付けば夏本番になっていたという感じ。
2020年の夏を印象に残すためにも、素晴らしい映画や素敵な音楽に出会えるといいですね。
じゃないと、いつの間にかやってきて、いつの間にか終わっていた夏になってしまいそう…。
さ、今週は2本です!

『君が世界のはじまり』は、ふくだももこが自身の2つの短編小説を再構築して、監督、映画化した作品。

縁(ゆかり)と琴子は幼なじみ。同じ高校に通う2年生。琴子は縁を“えん”と呼びます。
縁は勉強の出来る優等生で、琴子は教師にタテツくような真逆のタイプ。それでもふたりは大の仲良し。よく立ち入り禁止の旧講堂で授業をサボったりもしていました。
学校イチの人気者の岡田は、琴子が気になって仕方ない様子。一方の琴子は、岡田のことなど眼中にない様子。
ある日のこと、いつものように旧講堂に忍び込んだところ、ひとりの男子生徒がいて、涙を流していたのです。彼の名は業平。琴子は業平に、一瞬で恋に落ちてしまいます。
同じ高校に通う同学年の純。母親が家を出て行ってから、父との関係がこれまで以上にギクシャクしていた純が、ショッピングモールの屋上の駐車場で時間を潰していると、車の中で激しくキスをしている男女を目撃。なんと若い男は、東京から転校してきた伊尾でした。
面識もないのに話かける純。すると伊尾は、相手の女性が、父の再婚相手だと言うではありませんか。衝動的に体の関係を持つ純と伊尾。
縁、琴子、純、岡田、業平、伊尾。6人の青春の歯車が、複雑に絡み始めるのでした…。

監督を務めた、ふくだももこの短編小説『えん』(第40回すばる文学賞佳作)と『ブルーハーツを聴いた夜、君とキスしてさようなら』を組み合わせて映画化した、青春物語。
縁を主軸に、6人の高校生が織りなすストーリーは、ボクらの時代の青春ものとは明らかに別のもの。当然と言えば、当然ですなんですけどね(笑)。
家庭環境が違う。家族が抱える問題が違う。性に対する考え方が違う。行動が違う。まずもって社会が、世の中が違う。
舞台となる街に、象徴となる建物がいくつかあるのだけれど、その中のひとつのショッピングモールも“閉店セール”の紙が貼られ、まもなくつぶれてしまうとか。そんな何もない街に暮らす若者たちの無力感。一方で溜まりに溜まったマグマのようなパワー。
彼らの10代が、また未来が、どうなっていくのだろうと、自分の若い頃と比較対象しながら、興味深く観ることが出来ました。
縁を演じるのは、松本穂香。この子、いいですね。作品毎にちゃんと顔が違います。
時代が違えば、似て非なるもの。でも、異なれど同とでも言うのかな。今も昔も、青春は“青い”のです(笑)。
ボクらの世代も観るべき1本だと思いますョ。★4つ。
「君が世界のはじまり」公式サイト


『剣の舞 我が心の旋律』は、“剣の舞”の作曲者アラム・ハチャトゥリアンの生涯を描いた作品。

第二次世界大戦下のソ連。
レニングラード国立オペラ・バレエ劇団は、戦火を逃れるため、疎開を余儀なくされていました。
寒さと食料不足の困難の中、それでも10日後にはバレエ“ガイーヌ”が初演を迎えます。
作曲家のアラム・ハチャトゥリアンは、直前だというのに、振付家から何度も変更を指示され、不眠不休で曲を修正していました。
この演目は、アルメニア出身のアラムにとって、母国への思いを書き上げた大切な作品。
ところがです。ソ連文化省のプシュコフが、完成した“ガイーヌ”の結末を変更し、最終幕に士気高揚の踊りを入れるよう、無理難題を押し付けてきたのです。
実は、アラムとプシュコフは、昔、同じ師の元で音楽を学んだ同士。ところが、ふたりはトラブルになり、プシュコフはアラムに復讐の時を狙っていたのでした。
アラムはこの難局を、どう乗り越えるのでしょうか…。

誰もが一度は耳にしたことのある“剣の舞”。
てててててててててててててて、てれれってって、てれれれってって、てれれってって、てれれれってって、てれれれれれれれれ〜、て〜れ〜、て〜れ〜。
わかりますよね(笑)。
あの曲の完成には、こんな秘話が隠されていたのかというお話。
世界で最も多く演奏されてきたあの名曲を、アラムは一晩で、それも8時間で書き上げたんだそう。
その原動力になった、作曲家としてのプライド、人間としての怒りが描かれています。
アラムに思いを寄せるソリストのサーシャ、不器用な弟子のゲオルギー、さらにプシュコフも含め、これらは、実際にアラムが出会った実在の人物をもとに作った、架空のキャラクターだと監督は語ります。
もちろん、ドキュメンタリーではないので、そういう描き方もありなんだと思います。
アラム・ハチャトゥリアンの他の作品には、浅田真央がバンクーバーオリンピックで銀メダルに輝いた際の“仮面舞踏会”も。
作曲家を描いた伝記映画にしては、最後までドキドキさせる、娯楽映画としても秀逸な作品だと思います。★4つ。
「剣の舞 我が心の旋律」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2020.7.22
『17歳のウィーン フロイト教授 人生のレッスン』★★★
『ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき〜空と木の実の9年間〜』★★★
(満点は★★★★★)


広くはない試写室での試写は、完全予約制。少人数での実施となる場合があります。
いつも言うように、クラスターにはなりにくいのが映画ですが、“念には念を”。
感染者を出さないように、様々な工夫をしているというのが実情です。
少人数試写のいいところは、感動して涙がポロポロ溢れても、隣りの人の目を気にしなくていいこと(笑)。
先日も、1列7、8人の席の左端にボク。もうひとりは右端の席ですから、涙は流しっぱなし。そのままマスクに吸わせてました。
泣いてるのを見られるのは、男としては、やっぱり照れくさいものです(笑)。
さ、今週は2本です!

『17歳のウィーン フロイト教授 人生のレッスン』は、ドイツのベストセラー小説の映画化。

1930年代のオーストリア。
緑豊かな湖のほとりで母親と暮らしていた17歳のフランツでしたが、母親から独立して生きるために、ウィーンへ。タバコ店の見習い店員として働き始めます。
店の常連客のひとりが、後に“心理学の三大巨匠”と言われる、ジークムント・フロイト。ユダヤ人であるフロイト教授は、街で“頭の医者”として頼りにされていました。
フランツは教授と親しくなり、人生を豊潤に生きるためのあれこれを教えてもらいます。特に恋愛を勧められ、フランツは初めての恋に落ちるんですね。
ところが、時代はナチス・ドイツがヨーロッパを席巻していた頃。オーストリアもヒトラーによって併合されようとしていたのです…。
ウィーン生まれの作家、ローベルト・ゼーターラーの、2012年の小説「キオスク」を映画化したもの。
若きフランツが、初めて都会に出て、何をするにも迷いがある中、心理学の巨匠がアドバイスを与えます。
しかし、時代の荒波がフランツを、フロイト教授を、そしてタバコ店をも飲み込んでいくという。
フランツが恋をするアネシュカという女性の出自など、おそらくオーストリアやドイツの人が観れば、ボクら日本人以上に感じ入るところはあるのでしょう。
それでも、青春の迷いは万国共通。十分に楽しめると思います。
個人的な思い込みですが、Bunkamuraル・シネマで上映する映画には、いい作品が多いなぁと。これもその1本です。★3つ。
「17歳のウィーン フロイト教授 人生のレッスン」公式サイト


『ボクが性別「ゼロ」に戻るとき〜空と木の実の9年間〜』はドキュメンタリー。

小林空雅。女性として生まれたけれど、心は男性。スカートをはいて中学校に通う自分が嫌。自身の性に違和感を持ち続けていた空雅が、初めて知った言葉、それが“性同一性障害”でした。
そんな若者の、15歳からの9年間を追ったドキュメンタリーです。
13歳で“性同一性障害”の診断が下り、セーラー服を着なくていいと学校から許可されます。名前を空雅(たかまさ)にし、高校ではクラスメートにセクシュアリティをカミングアウト。20歳になったら許される、性別適合手術を受けることが目標となります。
そして、手術。
同じような悩みを持った多くの人たちと出会い、話を聞くことで心も成長していく空雅。自分の気持ちに正直に生きようとした時、空雅はさらに新たな境地に達するのです。

正直、わからないというか、表面だけを見て「わかる!」と言うほうが無責任かなと。なので、この映画を紹介するのに、何をどう書こうか、主観は抜きがいいのかなど、相当悩みました。★も、つけていいものかと。
「えっ?」というより、「へっ?」というような大転換があります。でもこれが空雅自身の人生の選択ですから。
タイトルの“性別「ゼロ」に戻る”とは、「いま自分はマイナスにいるから、プラスに行くにはまずゼロに戻らなきゃいけない」という、空雅の心の言葉から。
とにかく、ご覧になってみて下さい。★はあくまで映画としての評価です。★3つ。
「ぼくが性別「ゼロ」に戻るとき〜空と木の実の9年間〜」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2020.7.17
『悪人伝』★★★★
『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』★★★
『パブリック 図書館の奇跡』★★★
『ZK/頭脳警察50 未来への鼓動』★★★★★
(満点は★★★★★)


新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。
締め切った空間とはいえ、映画館でのクラスターが発生していないのは幸いですよね。
やはり大きな声でしゃべらないので、飛沫の拡散も少ないということなのかも。
映画は“心の薬”にもなります。
心身の“心”のほうが疲れたら、感染防止対策をしっかり整えて、是非映画館に足を運んでみて下さい。
さ、今週は4本です!

『悪人伝』は、韓国のバイオレンス・アクション映画。

ヤクザのボス、チャン・ドンス。
事務所でサンドバッグを叩いてトレーニングかと思いきや、中には人間が入っていたりと、規格外の凶暴さで恐れられている、裏社会の大物です。
そんな彼がある夜、何者かに刃物でメッタ刺しにされてしまいます。
奇跡的に一命をとりとめたドンスは、犯人探しにやっきになるんですね。
同じ頃、街では連続して、刃物による猟奇殺人が起きており、捜査にあたっていたチョン・テソク刑事は、同一犯による連続無差別殺人と推理。ドンスを襲ったのもこの犯人ではないかと、ドンスを追及しますが、刑事には口を割らないドンス。
ところが、この犯人を捕まえるのは困難だとわかり、ふたりは手を組むことに。
チョン刑事も署内では札つきの問題刑事。
ヤクザと刑事がタッグを組んで、犯人を捕らえるのに、全力をあげるのでした…。
面白かったです。
映画に関しては、韓国さすがです。
ボクの書いたあらすじでは伝わらない面白さがたっぷり。
まず、ドンス役のマ・ドンソクの迫力が凄い。
日本では2017年9月公開の『新感染 ファイナル・エクスプレス』の好演で語られることの多いマ・ドンソクですが、18年10月公開の『ファイティン!』で見せた、“気は優しくて力持ち”なキャラクターがピッタリのガチムチ俳優。しかし、そんな彼が、今回は徹底した悪役に回ります。
そのムチャクチャな感じは、見ていて爽快感さえ感じるほど(笑)。
そんなドンスを襲ってしまった猟奇殺人犯に、一体どんな結末が待っているのか、推して知るべしですよね。
シルヴェスター・スタローン制作による、ハリウッド・リメイクが決定していというのも納得です。★4つ。
「悪人伝」公式サイト


『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』は、事実に基づくストーリー。

40歳のアレクサンドルは、パリのTV局の顧問。
妻と5人の子どもと、リヨンに暮らしていました。
2014年のこと、ボーイスカウト仲間だった友人から、「君もプレナ神父に触られた?」と聞かれ、アレクサンドルは忌まわしい過去を思い出します。
そう、アレクサンドルは少年期、プレナ神父から性的虐待を受けていたんですね。
神父が今も子どもたちに聖書を教えていると知ったアレクサンドルは、同様に犠牲になっている少年がいるはずだと、告発を決意します。
アレクサンドルが相談に行ったバルバラン枢機卿は、のらりくらりと話をかわしながら、まったく動く気配がありません。そこでアレクサンドルは告訴状を出し、警察が捜査に動き出します。
自身の事件は時効でしたが、捜査の中で、時効前の複数の被害者が判明。始めは思い出すのも嫌だと拒んでいた被害者たちでしたが、次第に怒りが再燃。次々と名乗りを上げます。
しかし、そこには信仰や、周囲との軋轢、社会の目など、数々の困難が横たわっていたのでした…。

日本でも話題になった、聖教者による少年への性的虐待事件の映画化です。
1人の告発から、80人もの証言が得られたこの事件。家族を持っても、数十年という歳月が過ぎても、虐待のトラウマに苦しむ被害者男性がこんなにもいたのに、教区は何もしてこなかったと。さらに新たな被害者も生まれているとしたら。
彼らの怒りは沸点に達します。
“沈黙を破る”という被害者の会が出来るのですが、今の立場が行動を躊躇させたりもします。事はそう簡単ではないんですね。そんな葛藤と軋轢と、再生の物語。
ちなみに、2016年1月に捜査が始まり、今年3月、プレナ元神父に禁錮5年の有罪判決が出ましたが、被告側は上訴。現在も係争中だそうです。★3つ。
「グレース・オブ・ゴッド 告発の時」公式サイト


『パブリック 図書館の奇跡』は、エミリオ・エステベス主演、監督作品。

毎日のように死者が出るほどの、稀にみる大寒波に見舞われた、アメリカ・オハイオ州シンシナティ。
行き場の無いホームレスたちは、市の図書館が開くのを待ち、開館と同時に図書館の中へ。
トイレの洗面所で身支度を整え、日がな1日、暖をとっていたのです。
図書館員として働くスチュアートは、すでに彼らとも顔見知り。一定の距離感は保ちつつも、たまに顔が見えないホームレスがいると、心配もするような仲でした。
ある日のこと、図書館が閉館時間を迎えます。
すると、スチュアートはホームレスから、「行き場がないんだ。ここにいさせてもらえないだろうか」と頼まれます。
当然「ダメだと」断るスチュアートでしたが、彼らの窮状を考えると、むげに追い出すことも出来ません。
館長に相談しても答えは同じ。
すると、約70人のホームレスたちは、スチュアートを巻き込んで、図書館を占拠してしまったのです…。

ある公共図書館の元副理事がロサンゼルス・タイムズに寄稿したエッセイをもとに、完成までに11年を要した作品だそう。
図書館の占拠となれば大騒動になるわけで、スチュアートやホームレスはもとより、図書館の館長、事件に対応する刑事、検察官、TV局のリポーターなど、それぞれの立場、思惑が交錯。機動隊は出動するし、大変なことにはなるのですが、映画の舞台を覆う大寒波とは逆に、どこか暖かい空気が全体を包み込みます。
この寒波が、地球温暖化による災害や格差など現代社会の病巣だとすると、それを打ち破るのは、人の優しさ、思いやり、暖かさかなと。
本当は、もっと根底から何とかしないといけない問題ではあるんですけどね。
ほっこりと見られる1本だと思います。★3つ。
「パブリック 図書館の奇跡」公式サイト


『ZK/頭脳警察50 未来への鼓動』は、結成50周年を迎えたロックバンド、頭脳警察のドキュメンタリー。

1969年12月、PANTAとTOSHIで結成した頭脳警察。
当時の日本は、若者の反戦や反体制へのパワーが溜まりに溜まっていた時代。
そんな中、頭脳警察の過激な歌詞と、日本語ロックの源流とも言われるサウンドは、多くの若者たちから支持され、のちに“革命3部作”と呼ばれる、「世界革命戦争宣言」、「銃をとれ」、「赤軍兵士の詩」は、その象徴的楽曲となっていきます。
その一方で、アルバム『頭脳警察1』、続く『頭脳警察セカンド』が発売中止、放送禁止、発売禁止になるなど、バンドの活動自体が“ロック”と化していくんですね。

メンバーの脱退、解散、再結成を繰り返し、新たなスタートを切った頭脳警察の50年を振り返ったドキュメンタリー。
宮藤官九郎、大槻ケンヂを始め、多くの著名人も登場しますが、「えっ?こんな人も頭脳警察のファンなんだ!」というのに驚くかもしれません。
実はボーカルのPANTAさんと、ご縁がありまして、試写の会場でご挨拶。PANTAさん、若い頃はめちゃめちゃカッコ良かったけど、70歳になった今のほうが、もっとカッコいい!
「こんな年の重ね方が出来たらなぁ」と、大先輩の優しい笑顔に触れて思った次第です。
直接、PANTAさんに映画の見どころを聞いたら、
「エンドロール!絶景かな!」
と、ロックな答えが帰ってきました(^-^)。気になる方は、是非劇場に足を運んでみて下さい。
PANTAさんの生き様に、満点以外は失礼でしょ。★5つ!
「ZK/頭脳警察50 未来への鼓動」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2020.7.9
『WAVES ウェイブス』★★★
『バルーン 奇蹟の脱出飛行』★★★★
(満点は★★★★★)


先日、試写会が激混みで、もちろん皆さん、検温、手指消毒をしてから入場するのですが、ちょっと“密”が嫌だなぁと。
すると、満席で入れない人にDVDを渡しているのを見て、ボクもDVDを頂いて帰ることにしました。
結果、1席空けたことになり、「すみません、ありがとうございます。助かります」と、逆に感謝されてしまいました。
いやいや、こちらこそです。
安心という意味では、やっぱり100%には戻ってはいないんだなと感じた瞬間でもありました。
さ、今週は2本です!

『WAVES/ウェイブス』は、A24の最新作。

タイラーとエミリーは、マイアミに暮らすアフリカ系アメリカ人の兄妹。
母親こそ継母でしたが、上流家庭に育ち、タイラーはレスリング部のスター選手に。コーチでもある父の、厳しく、ストイックな指導の元、将来を期待される逸材として輝きを放っていたのです。
ところが、その裏で、タイラーの肩は悲鳴を上げていました。
そのことを誰にも言えないタイラーは、ドクターストップを振り切って試合に出場。その結果、二度とレスリングが出来ない身体になってしまいます。
タイラーには、アレクシスという恋人がいました。彼女との幸せな毎日も、すべてが激変してしまいます。
そして迎える悲劇。
このことは妹エミリーの日常にも、大きな影を落とすのでした…。

2016年の『ムーンライト』の衝撃が記憶に新しい、映画制作会社のA24。
アフリカ系アメリカ人の肌を宝石のように輝かせる独特の色彩演出で、第89回アカデミー賞の作品賞、脚色賞、他を受賞。一躍、注目の映画スタジオとなりました。
そのA24の最新作が、約3ヶ月遅れでの日本公開です。
今回も、その色彩演出は冴えていて、他にも様々な映像的演出、カメラワーク、こだわりの音楽など、A24らしい作品に仕上がっています。
ストーリーは2部構成で、前半は兄タイラーの物語、後半は妹エミリーの物語。
人生は、ほんの小さなほころびから、こんなにも変わってしまうほど脆く、危ういもので、それを繋ぎ、支えるのが家族や恋人の愛、そして絆なんだという再生のストーリー。
この色彩演出が様式美になり過ぎると、正直みんな一様に見えてしまう危険性は含みつつ。それを上回るドラマがあれば、良質のオリジナリティとして定着するんだろうなと。
まだ体感していない方は是非!★3つ。
「WAVES ウェイブス」公式サイト


『バルーン 奇蹟の脱出飛行』は、実話に基づいたドイツ映画。

東ドイツに暮らす電気技師のペーターは、妻ドリス、15歳の長男フランク、11歳の次男フィッチャーとの4人家族。
どこにでもいる普通の親子に見えた彼らでしたが、実は西側への亡命を企てていたんですね。
向かいに住むのは、国家保安省シュタージの職員、バウマン。そのバウマン一家の目をも欺き、親友のギュンターと熱気球を設計、制作。1979年夏、いよいよ決行の時がやってきます。
しかし、設計上のリスクを理由に、幼い2人の子を持つギュンターの家族は搭乗を断念。ペーターたちだけで、熱気球に乗り込むことに。
風も計算し、気球は順調に飛行。ところが、防水加工をしていなかったため、布が水分を吸収。その重さで、気球は急降下。国境のわずか数百メートル手前に落下してしまいます。
ほうほうの体で帰宅したペーターたちでしたが、シュタージは現場の遺留品から捜査を開始します。
亡命者には容赦ない罰則が待っていることから、なんとか西に逃れないとと焦るペーターは、もう一度ギュンターと気球の制作に取りかかります。
ギュンターには、6週間後に兵役が待っていて、それまでに計画を実行する必要があり、8人乗りの熱気球を短期間で作らなくてはなりません。
一方、シュタージの捜査の網は、着実にペーターたちに近づいていたのです…。

いやぁ、面白かったです。
リスクから逃げる映画って、たくさんありますよね。サメとか、嵐とか、火とか。それらの作品は、だいたい平穏な風景から始まって、しばらくして危機と遭遇。いくつかの悲劇を伴いながら、なんとか逃げおおせる、もしくは犠牲となってしまう。
この映画は、始まった最初から脱出劇。全編がピリピリした空気の脱出劇なんです。
それも実話ですから。いやいや、すごいことをやってのけた人がいたんだなと。
ベルリンの壁が崩れて、東西ドイツが統一されたのが30年前。今でこそ、ひとつのドイツですが、当時はまったく政治的イデオロギーが違ったので、まさかベルリンの壁が壊されるなんて考えもしなかったはず。命を賭しての亡命しかなかったのは、北朝鮮の現状にも似たものなのでしょう。
最初の失敗のあとに、ベルリンのアメリカ大使館との接触を試みるシーンもあるのですが、これまた気球と同じぐらいハラハラドキドキ!
満点でもいいくらいの作品ですが、満点は涙腺が緩む類のものに付けたいという、個人的な理由だけで(笑)、満点ではありませんが、お勧めです!★4つ。
「バルーン 奇蹟の脱出飛行」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2020.7.2
『癒しのこころみ 自分を好きになる方法』★★★★
『マザー』★★★★
(満点は★★★★★)


7月になりました。
東京ディズニーランドが再開し、まもなくプロ野球が制限付きで観客を入れます。
密を避ける対策を練りながら、徐々に人が集まれるようになってきました。
映画も、映画という文化の継承、継続のためにも、気になる作品を見つけたら、積極的に映画館に足を運んで欲しいものです(^-^)
さ、今週は2本です!

『癒しのこころみ 自分を好きになる方法』は、篠原哲雄監督最新作。

一ノ瀬里奈は、働いていた会社の、あまりにブラックな環境に耐えきれず、自ら退職。
たまたま通りがかったセラピストによる癒しのトークショーで、カリスマセラピストに施術を受けると、今までのツラさが嘘のように楽になるんですね。
今度は自分が誰かを癒したいと、里奈はセラピストを目指して研鑽を積み、リラクゼーションの店に再就職を果たします。
店長を始め、優しい先輩たちと働く里奈でしたが、お客さんも千差万別。店を訪れる理由は、実に様々。
里奈が担当になった碓氷隼人は、里奈の施術にまったく満足が行かないようで、冷たい言葉を残して帰ってしまうんですね。
実は、碓氷は元プロ野球選手。強打者として活躍した有名選手だったのですが、試合で頭にデッドボールを受け、それからバッティングの歯車が合わなくなり、戦力外通告を受けてしまったのです。
それでも野球への道を断ち切れない碓氷は、子供たちに野球を教えながら、プロ野球選手への復帰を目指していました。
それを知った里奈は、なんとか力になれないものかと、お客様である碓氷を知ろうと、努力を始めたのでした…。

ご存知、篠原哲雄監督はボクの中高同級生。
あらすじを読んでいてわかるかと思いますが、野球のシーンがたくさん出てきます。その野球の指導に力を貸したのも、ボクらの同級生の大川和正くん。
高校時代は野球部に所属し、レギュラーとして活躍。大学卒業後は、母校・桐蔭学園の教師になり、高校野球部の監督も務めた同級生です。エンドロールにしっかり名前を見つけて、ニヤリ。
なんかいいでしょ?このつながり(笑)。
主演の松井愛莉と、カリスマセラピスト役の藤原紀香が、でーっかい富士山をバックに語り合うシーンがあるんだけど、これが壮大!大きなスクリーンで、これだけ見るのでも“価値あり”です。
山が人を癒やすのもわかります。というか、「やっぱり富士山って、すげーな」と、きっと思うはず。
活動再開で、体がバキバキに。文章打ってて、マッサージに行きたくなりました(笑)。★4つ。
「癒しのこころみ 自分を好きになる方法」公式サイト


『マザー』は、長澤まさみ主演の話題作。

シングルマザーの秋子には、幼いひとり息子の周平がいました。
仕事も続かず、生活保護を受けていた秋子は、僅かなお金をもパチンコで無くし、実家の両親に借金をしに行くのですが、追い返されてしまいます。
やることもなく、周平と行ったゲームセンターで、遼というホストの男と出会うんですね。
それから、遼は秋子のアパートに入り浸り。それどころか、秋子は以前から自分に好意を持っていた市役所の宇治田という職員に周平を預け、遼と旅に出てしまったのです。
結局、周平はアパートにひとりきり。電気もガスも止められた部屋に、ようやく秋子と遼が帰ってきます。
周平の面倒を見なかった宇治田を脅し、金を巻き上げようとした秋子と遼でしたが、誤って宇治田を刺してしまいます。
それから3人は、逃亡生活を始めるんですね。
そんな中、いつしか秋子のお腹の中には、新しい命が宿ります。
堕ろせと言う遼。拒む秋子。
遼は、秋子のもとから、立ち去って行くのでした。
それから5年。17歳になった周平の隣りには、妹の冬華がいたのです…。

まだまだ話は続きます。
大森立嗣監督が、実際にあった殺人事件を題材に、あくまでフィクションとして作った作品。
その事件とは、17歳の少年が、生活苦から祖父母を殺害し、金品を奪ったと。その犯行を促したのは、実の母親だったのではないかと言われているショッキングな事件。
それが事実なら、母親が、実の息子に、実の両親を殺して金目の物を奪ってこいと指図をしたということになりますよね。
考えられますか?
17歳になった周平は、児童相談所の女性職員の差し伸べた手によって、学ぶことの楽しさを知ります。というか、知ってしまいます。
しかし、それもすべて秋子によって壊されてしまうんですね。
あまり書くとネタバレになるから、このへんにしておきますが、周平にとって、ある大きな大きな分岐点となる場面がある。
「ほら、周平!ほらっ…」。
見ているボクらは、心の中で叫ぶのですが…。
あ、いけない、いけない。ネタバレになる(笑)。
長澤まさみの女優魂というか、表情の変化に「さすが!」と唸る1本でもあります。
監督曰く、「“強依存”の物語」。普通の幸せの“普通”すら縁遠い、日本の闇の部分です。
重い気持ちになる覚悟で、是非ご覧になってみて下さい。★4つ。
「マザー」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2020.6.23
『ハニーランド 永遠の谷』★★★
(満点は★★★★★)


映画の試写も、ようやく試写室で行われるようになりました。
2ヶ所に足を運びましたが、1つは体温を計り、どちらも座席は1つ置き。前後も斜め前、斜め後ろに座り、ジグザグになるようにしていました。
引き続き、オンラインやDVDでも見せてもらえるようで、そのあたりはありがたい配慮です。
しばらくは、これが試写会のニューノーマルということになりそうです。
さ、今週は1本です

『ハニーランド 永遠の谷』は、北マケドニアのドキュメンタリー作品。

首都スコピエから、わずかに20キロの距離とはいえ、道路もなければ、電気も水道も通っていない山岳地帯の奥地の谷に、母と娘は暮らしていました。
老母のナジフェは盲目で、寝たきり。娘のハティツェはヨーロッパ最後の自然養蜂家。母の面倒を見ながら、徒歩で4時間もかかる町まで蜂蜜を売りに行き、生計を立てていたのです。
生きていくための大切な考え方。それは、「半分はわたしに、半分はあなたに」。
つまり、蜂蜜も、全てとってしまってはいけない。“半分は蜂のもの”なんですね。
ところが、ある日突然、大きな車がやってきます。夫婦と7人の子どもたちが、牛を連れてやってきたのです。
近くで生活を始めたその家族と、ハティツェもすぐに仲良くなるのですが、徐々に問題が発生します。
彼らには、ハティツェのような信条がない。真似をして養蜂を始めた結果、ハティツェの蜂までもが全滅の危機にさらされてしまいます。

全編を通して、ものすごくドラマチックな事が起きるかというと、そうではない。
ただ、この厳しい環境の中で生活をし続けた母娘がいたこと。
そして、その姿を3年+400時間もカメラが追ったという、事実がすごい。
実は、本年度アカデミー賞のドキュメンタリー映画賞部門にノミネートされ、さらに国際映画賞にもWノミネート。これは、アカデミー賞史上初だそう。
国際映画賞は、韓国の『パラサイト 半地下の家族』が獲った、あの賞です。
生きること、働くこと、家族とは、幸せって何?
いろんなことを考えるかもしれません。
なにより北マケドニア映画が珍しかったです。★3つ。
「ハニーランド 永遠の谷」公式サイト
 
 
 
 
週末公開の映画……2020.6.17
『サンダーロード』★★★★
『水曜日が消えた』★★★
『はちどり』★★★

(満点は★★★★★)


今週も話題の新作が封切りとなります。
もし、映画館でのウイルス感染の可能性が低いというのが実証されれば、今後、大切なエンターテイメントとして、映画がより重要視されるかもしれませんね。
すべての芸術が元に戻るのがもちろん理想ですが、まずは先んじて第一歩。後に続く道筋が作れますように。
さ、今週は3本です!

『サンダーロード』は、サンダンス映画祭で短編グランプリを獲得した12分のワンカット作品から生まれた長編作。

テキサス州で警官として働く、ジム・アルノー。
結婚し、ひとり娘をもうけたものの、離婚。愛娘のクリスタルとは週3日会えるのですが、どう接していいかがわからず、ギクシャクした関係に。
仕事も上手くいかず、あらゆることが裏目、裏目の日々。
そんな中、ジムの母親が亡くなります。
葬儀の際、弔辞を述べようとしたジムでしたが、母親の好きだった曲を流そうと持参したラジカセが故障。
するとジムは、曲を自分で口ずさみながら、棺の前で踊り出したのです。
ざわつく参列者。
でも、これはバレエ教室を主宰していた亡き母ブレンダへの、彼なりの感謝の表現だったのです。

サンダンス映画祭でグランプリを取った短編のほうも見ました。
葬儀で踊るジム。異様な空気を感じ、怖くなってしまったクリスタルを抱きかかえるジム。クリスタルに声を掛けるも、ぷいっとそっぽを向かれる。そんなワンカットの12分。
『サンダーロード』というのは、母が好きだったブルース・スプリングスティーンの「涙のサンダーロード」から。
12分の短編に、ジムの人生を肉付けして出来上がったのが今回の作品。とちらもジム・カミングス監督自身が主演、脚本、編集、音楽も手掛けています。
生きることに懸命なのに、どうにも不器用で、上手くいかないジム。そんな彼の姿を、笑いと涙で描いた物語。
オンラインで見ながら、深夜にひとりでプッと吹き出してました。大声で笑うんじゃなくて、プッ。伝わりますかね、ニュアンス(笑)。
父娘だなぁというか、母から子、そして孫へ。血の継承みたいなものを感じます。これもまた人間の、ある意味忌まわしく、またある意味ロマンを感じる部分でもあるのです。★4つ。!
「サンダーロード」公式サイト


『水曜日が消えた』は、中村倫也主演作。

幼少期の交通事故が原因で、曜日毎の人格が出来てしまった“僕”。
そう、“7人の僕”が存在するのです。
朝、目覚めると、隣りに見知らぬ人が寝ていたり、自分の記憶に無いことの後片付けに追われることも。
そこで、毎日のすべての出来事をノートに書く。
部屋のあちこちに付箋を貼って、他の曜日にメッセージを残す。
7人はルールを決めて生活していました。
そんなある日のこと、“火曜日”が目覚めると、何かが違う。つけたテレビでは見慣れないコーナーをやっていたり、休館日のはずの図書館が開いていたり。
そう、今日は水曜日だったのです。
“火曜日”にとって、初めて経験する水曜日は、とても刺激的。図書館に入ると、司書の女の子にひとめ惚れ。実は彼女、どうやら“水曜日”が気になっていたよう。
翌週目覚めた“火曜日”は、夜を跨ぐことを初めて体験。違和感のないよう“水曜日”を研究し、図書館の女の子ともデートにこぎつけますが、その最中に“火曜日”は意識を失ってしまうんですね。
怖くなった“火曜日”は、ふと考えます。
「“水曜日”はどこに行ったのだろう?このまま僕も消えてしまうのではないか」と…。

多重人格を扱った映画はたくさんありますが、曜日毎に人格が変わるという発想は斬新。
物語は“火曜日”を中心に進みますが、中村倫也は7人格を演じるという。俳優としての才能をいかんなく発揮した作品になったのではないでしょうか。
“7人の僕”をずっと研究、治療している医師や、すべてを知る幼なじみの女友達がいたり、決して孤独では無い“彼ら”ですが、この異変は何なのか。“火曜日”は、他の“曜日”たちはどうなってしまうのか。結末は劇場で確かめてみて下さい。★3つ。
「水曜日が消えた」公式サイト


『はちどり』は、1994年の韓国を、中学2年生の女子を通して描いた作品。

軍事政権から民主主義国家へと移行し、88年のソウルオリンピックを成功させ、国際化と経済発展が急激に進んだ韓国。
94年、ソウルの集合団地に暮らすウニは、中学2年生。
小さな餅屋を営む両親と、兄と姉との5人家族。
兄のデフンは学校で生徒会長を務め、ソウル大学への進学を目指していました。
一方、姉のスヒは第一志望の高校に落ち、橋を渡って、隣り町の高校へ。
まだ家長が絶対の時代で、威圧的な父、プレッシャーからか時に暴力を振るう兄、落ちこぼれて遊び人になった姉、それらを見ながらも存在を消しているかのような母。そんな家族の中で、ウニももやもやしたものを抱えながら、毎日を暮らしていたのです。
いつものように漢文塾に行くと、何の前触れもなく、先生が変わっていました。
タバコをくゆらせ、独特の雰囲気を漂わせる女性、ヨンジが新しい先生になったのです。
すると、このヨンジ先生だけが、ウニの心の理解者になっていきます。
右耳のしこりを除去する手術で入院した際も、ヨンジ先生は見舞いに来てくれました。
しかし、退院した時、漢文塾にヨンジ先生の姿はなかったのです。
なんで辞めさせたのかと、塾の責任者に詰め寄るウニ。
そんな時です。発展の象徴とも言える、ソンス大橋が崩落したとニュースが伝えたのでした…。

韓国が民主化されて30年と少し。日本は終戦後にと考えると75年。両国の政治、お国柄に、その差は少なからずあるかもしれません。
ソウルの中心部を流れる漢江に架かるソンス大橋の崩落、北朝鮮の金日成国家主席の死去など、絶対的象徴が“突然”崩れ落ち、消え去る。
1994年という年は、韓国にとっては特別な年だったようです。
新と旧が混在し、新たな時代へと移り変わるその真っ只中に生きる、多感な14歳。実は、これにはキム・ボラ監督の実体験が描かれているようで、そのリアリティに、同じ時を生きた多くの韓国国民が共感。話題作『パラサイト』に次ぐ、高い評価を得たそうです。
ボクらが見て感じる以上に、韓国では感じ入る部分があるのだと思います。
ボクら日本人が見逃す細部にも、リアルなドラマがあるとしたら、隣人を知るのには、参考になる1本ではないでしょうか。★3つ。
「はちどり」公式サイト
 
 
 
 
週末公開の映画……2020.6.10
『15年後のラブソング』★★★★★
『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』★★★★★

(満点は★★★★★)


本当なら今週は3本なんですが、以前“オンライン上映版”として紹介した『ホドロフスキーのサイコマジック』が、改めて劇場で公開になります。
ボクの評価は今イチですが(笑)、いろんな映画評を見ると、かなり評価が高かったりもします。興味のある方は是非!

さ、今週は2本です!
『15年後のラブソング』は、大人の恋物語。

イギリスの地方都市、サンドクリフ。刺激的な事件も起きなければ、派手な出会いもない、そんな町に住むアニーは、30代半ばの女性。
昔は、ロンドンの大学に通っていたものの、父親の病気で故郷に戻り、今は父の郷土史博物館を引き継いでいます。
そんなアニーには恋人がいました。ダンカンという地元の大学の客員教授です。
ところが、最近は価値観の違いが露呈していて、本当は別れたくても、じゃあ他に誰かいるのと言ったら、誰もいない田舎町。仕方なく付き合っているようなものでした。
一番わからないのは、ダンカンが“消えた天才”と称するロックシンガー、タッカー・クロウへの崇拝ぶり。
90年代あたまに残した1枚のアルバム『ジュリエット』が、オルタナティブ・チャートで上位にランクインするも、とあるライブの最中に姿を消したことで伝説化。アニーには、まったくピンと来ないアーティストを敬愛し、地下に“聖堂”まで作ってしまったダンカンがわからない。
そんなある日のこと、アルバム『ジュリエット』のデモ音源を入手したダンカンが、彼の作ったマニア専用のサイトで大盛り上がり。ところが、アニーはこのサイトに批判的なコメントを送るんですね。
すると、アニーのもとに1通のメールが届きます。
「君の評価が正しい。ファンサイトのやつらはイカレてる」。
そう書かれたメールの送信者は、なんとタッカー・クロウ、その人だったのです…。

あらすじは、ほんのさわりの部分です。
アニーはメールの主が本当にタッカーだとわかると、ダンカンには内緒で、イギリスとアメリカでの遠距離メールのやり取りを始めます。
徐々にわかってくるタッカーの素顔。
刺激の無かった毎日に、突如降って沸いたまさかの出来事。
あんまり書いちゃうとネタバレになっちゃうけど(笑)、ダンカンが浮気して、アニーと別れることになります。
すると、用事でタッカーがロンドンに行くから会わないかと。物語は急展開!

ねっ、面白そうでしょ(笑)。
アニーは、これまでの15年を無駄に過ごしたと後悔していて、タッカーもある意味、同じような時の過ごし方をしてきたわけです。
そんな二人の“再生”というか、“リスタート”の物語。
ヤングじゃないから、それ相応の“過去”がある。それも受け入れての恋愛ですから、ボクが高評価なのもわかるでしょ(笑)。
タッカーに扮するイーサン・ホークは、こういう役にピッタリですね。
ステイ・ホーム中に、似たようなヒゲを伸ばしたけど、ああいうオトコ臭い男にはなれなかったなぁ…(笑)。
世の中が“再開”の今、リスタートの映画は、時節的にも合うと思います。
恋愛も再開したいと願う、大人の皆さんにおすすめです!満点★5つ!
「15年後のラブソング」公式サイト


『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』は、時代を超えて愛される小説『若草物語』の映画化。

19世紀後半のアメリカ、マサチューセッツ州に暮らすマーチ家には、4人の姉妹がいました。
女優としての才能がありながら、最愛の人と家庭を築くことこそが夢という長女のメグ。
対して、女性の幸せは結婚だけじゃないと、小説家を目指し、執筆に没頭する、行動的な次女のジョー。
姉妹の中では一番繊細で内向的。音楽の才能に溢れながら、病に侵されてしまう三女のベス。
裕福な叔母に愛され、末っ子らしく自由で夢見がちで、とにかく陽気な四女のエイミー。
両親の愛に包まれ、様々な出会いの中、四姉妹は成長していきます。
大人になると、彼女たちを取り巻く環境は、当然のことながら変化していきました。
それでもマーチ家の四姉妹は、自分らしく生きることを考え、それぞれが自分の人生を選択していったのです…。

1868年に出版された、ルイーザ・メイ・オルコットの自伝的小説『若草物語』。
読んだことのある人、多いんじゃないですか?
当時、「不朽の名作は男性が書くもの」とされている中で、初版は数日で書店から無くなるほどの人気を博します。
150年以上経った今も、国を越え、時を超え、愛され続けている大ベストセラーです。
登場人物に対する解釈は実に様々で、いつの時代にも、彼女たちについて議論が交わせるような、普遍的でいて、かつ奥が深い(人間誰しも奥は深いのですが)キャラクターが、この物語の魅力なのでしょう。
監督で脚本も書いたグレタ・ガーウィグにとっての『若草物語』。つまり、現代社会における女性のエッセンスも含まれていて。
逆に150年前のアメリカに生きた、溌剌とした女性たちから学ぶべきを、改めて今感じてみませんか?ということかもしれません。
男はバカみたいに、仕事と言いながら夢を追いかけられるけど、女性にはもうひとつ、家庭を持ち、母になるという“選択肢”がある。
おそらく、このことはこれから先もずーっと存在し続ける命題なのでしょう。
母は、叔母は、メグは、ジョーは、ベスは、エイミーは…。何を選び、何を受け入れざるを得なかったのか。
男は添え物の映画です(笑)。でも、逆に男性には勉強になるはず。
後ろ向きな発言になるかもしれませんが、ボクはちょっと人生を巻き戻したくなりました(笑)。
裏を返せば、若い人たちには、男女の別を超えて、見てもらいたい1本ということですかね。
そして、大いに語り合って欲しいと思います。満点★5つ!
「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2020.6.3
『ハリエット』★★★★
(満点は★★★★★)


都の休業要請解除のロードマップがステップ2になって、映画館の営業が再開となりました。
席数を減らすなど、それぞれに工夫をしながらの再開。延期になっていた新作の公開も続々と。うれしいことです(^-^)
試写会のご案内を頂戴していたのに、試写会が中止に。そのまま公開日を迎える作品も多数あり、気になるものは、劇場に足を運ぼうと思っています。
再びの閉鎖にならないよう、感染者の増加だけは防ぎたいですね。

さ、今週は1本です!
『ハリエット』は、実在の奴隷解放運動家女性の生涯を描いた作品。

1822年、メリーランド州ドーチェスター郡に、奴隷の第5子として生まれたアラミンタ・ロス。
彼女はミンティと呼ばれ、6歳から農場で働き始めます。
しかし、13歳の時に、奴隷監督が投げた分銅が頭に当たり、生涯の後遺症として、強い眠気の発作を伴う睡眠障害、ナルコレプシーに悩まされることになります。
1844年、自由黒人であるジョン・タブマンと結婚。この時、名前をハリエット・タブマンと改名します。
それでも虐げられた一家の生活が変わることはなく、姉たちが次々と売られていき、消息不明に。
そんな状況を自ら打破しようと、地元で秘密裏に活動していた奴隷解放組織“地下鉄道”と手を組み、脱走。奴隷制が廃止された自由州であるフィラデルフィアまで、命からがら辿り着くことに成功します。
自らの安全は保証されたハリエットでしたが、彼女は自分の家族のみならず、仲間の奴隷を助け出すために、危険をかえりみず、何度もドーチェスターへと戻ったのでした…。

今、アメリカでは、ミネアポリス市警の元警官が、黒人男性を死亡させた事件に対するデモが激化。暴動も起こっています。
無くならない人種差別。
コロナの死亡率も、黒人は白人の約2倍だというし、雇い止めも黒人からだそう。溜まった鬱憤が、今回の事件を機に爆発したと見られています。
ボクら日本人が、黒人差別の根元を知るにはいい契機になる映画、それが『ハリエット』かもしれません。
彼女はその後、南北戦争を戦い、南部の多くの黒人奴隷を解放。終戦後は、人種、性別を問わず、生活に困窮した人々を救う施設を作るなど、その生涯を女性とアフリカ系アメリカ人の地位向上に捧げ、1913年3月10日に亡くなっています。
実は、2016年、アフリカ系アメリカ人として初めてハリエット・タブマンが、新20ドル紙幣の表を飾ると決まったのですが、トランプ大統領は未だ施行せず。
イデオロギー的理由ではないとしているそうですが、果たして?
主演のシンシア・エリヴォが歌うテーマ曲「スタンド・アップ」も、力強く心に響きます。
再開最初に見るには、いい映画だと思います。★4つ。
「ハリエット」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画(オンライン上映版)……2020.5.20
『ケヴィン・オークイン:美の哲学』★★★★★
『ハウス・イン・ザ・フィールズ』★★★
『ホドロフスキーのサイコマジック』★★

(満点は★★★★★)


このコロナ禍で映画館が閉まり、非常事態宣言が解除になった地域では、一部劇場の営業が再開になったものの、新作がなかなか公開出来ないという状況に。
我々マスコミにもオンラインや、DVDの貸与という形での試写が行われています。
今回紹介する3本は、UPLINKの配給作品。皆さんは、オンライン上映で見ることが出来ます。
それとは別に、今、UPLINKでは2980円から、過去の配給作品を3ヶ月間見放題というのをやっています。
中には、★5つを付けた、『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン 世界一優雅な野獣』。
『ガザの美容室』、『ラジオ・コバニ』、『ラッカは静かに虐殺されている』など、中東の迫真のドキュメンタリー。
『モンサントの不自然な食べもの』、『ブルー・ゴールド』などの、遺伝子組み換えや水の話、などなど、興味深い作品がたくさん見られます。
東京都を含め、まだまだ“ステイ・ホーム”です。この機会にお家で映画をご覧になる、選択肢のひとつにしてみてはいかがですか?
詳しくはUPLINKのホームページで。

さ、今回は3本です!
『ケヴィン・オークイン:美の哲学』は、アメリカを代表するメイクアップ・アーティストのドキュメンタリー。

1962年、ルイジアナ州生まれのケヴィン・オークイン。
誕生後に、同州ラファイエットの夫婦に養子として育てられたケヴィン。
幼い頃から絵を描くことが大好きで、美のキャンパスを女性の顔に求めた彼は、メイクの世界へと進んでいきます。
革新的で、探求心の強い彼のメイクは、80〜90年代多くのモデル、女優、アーティスト、セレブリティたちの信頼を獲得。それを一般女性も、自分で出来るというメイク本を発売。広く人気を博し、それまでになかったメイクアップ・アーティストという地位を確立します。
メイク界の頂点に立ったケヴィンでしたが、流行というものは、必ず揺り返しが来る。主流とは逆のものを求めるうねりが、ケヴィンをも飲み込んでいくんですね。
精神的な辛さに加え、身体の痛みにも悩まされるようになったケヴィンは、鎮痛剤を多用するようになります。
薬への依存が、彼の心身を壊していき、周りから人が離れていきました。
そして、2020年、早過ぎる死を迎えます。

あのナオミ・キャンベルは、ケヴィンの前の椅子にしか座らなかったと。他にもボクらがよく知る著名人が、彼に“美しさ”を委ねていました。
こういう映画を見ていて、いつも思うのですが、やはり人生には基準の0地点があって、ボクらがうらやむような成功を収める人は、プラスも大きい分、マイナスも大きいんだなと。相応の大きな苦悩があるということなんですよね。
みんな成長と共に、自分の器を徐々に大きくはしていくんだけれど、時に諫めてくれる仲間がいるとか、その声を聞く謙虚さが、人生を誤って“溢れさせない”ポイントなんじゃないかなと思うんですョ。
そんなこと言ってるから、自分がちっちゃく収まってるのもよーくわかってるんですけどね(笑)。
伝説になる人生を選ぶか、それとも…。
「幸せってなんだろう」。
夜長に考えるには、いい映画だと思います。満点★5つ。
「ケヴィン・オークイン:美の哲学」公式サイト


『ハウス・イン・ザ・フィールズ』は、モロッコの山奥に住む、ふたりの姉妹のドキュメンタリー。

モロッコのアトラス山脈に暮らすアマジグ族の姉妹、ファティマとカディジャ。
仲良しのふたりでしたが、姉のファティマは、学校を辞め、顔も知らない男性の元に嫁ぐことになります。
大好きなお姉ちゃんと離れ離れになるのが寂しくて仕方ないカディジャには、もうひとつ心配なことがありました。
それは、自分も姉のように、学校を卒業出来ないんじゃないかということ。
勉強が大好きなカディジャの夢は、弁護士になること。そのためにはきちんと学校を卒業したかったのです。
秋、冬、春、夏と季節が巡り、ラマダンが明けたら、ファティマは遠くに行ってしまいます。

美しい四季の移ろいと共に、そんな姉妹の姿を追ったドキュメンタリー作品です。
これもまた、幸せってなんだろうと考えさせられる1本。
時間に追われるかのような社会に生きている我々にしてみれば、彼女たちの時間の流れは、悠久のように感じるかも。
それこそ、ドラマチックな出来事は少ないでしょう。でもそれを“つまらない”とは言えませんよね。
きっと振れ幅は、ある意味小さいのかもしれないけど、下に大きくは振れない分、ボクらより、よっぽど幸せなのかもしれません。★3つ。
「ハウス・イン・ザ・フィールズ」公式サイト


『ホドロフスキーのサイコマジック』は、“カルト界の巨匠”と呼ばれるアレハンドロ・ホドロフスキー監督の最新作。

1929年にチリで生まれたアレハンドロ・ホドロフスキー。90歳を過ぎた今も、精力的に活動を続けています。
彼の作品には熱烈なファンが多い一方で、なかなか理解するのが難しく、過去に紹介した『リアリティのダンス』や『エンドレス・ポエトリー』も、正直“?”が付いていました。
今回の“サイコマジック”というのが、ホドロフスキー監督の考案した心理療法で、アートを使ったセラピーだと。映画には、実際にこのセラピーを受ける人々が出てきます。
さらに、これまでの作品が、この技法によって表現されているというので、何かホドロフスキー作品の、謎を解く“カギ”が見つかるかもと見てみましたが、ボクの陳腐な頭脳と感性とでは、“?”が、さらに増えた感じでした(笑)。
でも、「待ってました!」というファンもいるのですから、あなたもご覧になって、自身で判断してみて下さい。ボクはごめんなさい。★2つ。
「ホドロフスキーのサイコマジック」公式サイト
 
 
 
 
週末公開の映画……2020.4.9
『囚われた国家』★★★
(満点は★★★★★)


映画館の閉鎖、映画の公開延期、試写会の中止が相次いでいます。
実は今回紹介の映画は、先週末公開の作品が洩れてしまったものを(すみません!)、改めてご紹介するのですが、公開映画館を探してみたら、関東では、茨城県で1館だけでした…。
以前紹介した『ちむぐりさ』も、沖縄でしか公開しておらず。残念です。
一度封切った映画も、コロナが終息したら、改めての公開が出来るといいですね。

今週は先週末公開の1本です!
『囚われた国家』は、SF映画。

2027年、世界は地球外生命体の支配下に。アメリカ政府もエイリアンの傀儡となり、シカゴの中心部に閉鎖区域を作り、地下にエイリアンの居住区を構築したのです。
市民は首にチップを埋められ、行動が制限されています。違反者は地球外追放に。
そんな中、市民は圧政に従属する派と、反抗する派に分かれます。
警察官だった父を、母親と共にエイリアンに殺されたアフリカ系アメリカ人の兄弟、ラファエルとガブリエル。
兄のラファエルは、反政府テロ組織“フェニックス”のリーダーでしたが、テロに失敗し、それ以来、消息がわからなくなっていました。
弟のガブリエルは、父の同僚だったマリガンの世話になりながら、一般市民として生活。同時に兄を捜していて、その行動をマリガンが監視していたのです。
そんなある日の事、ガブリエルはラファエルと再会を果たします。今も身を潜めながら、反体制活動を続けている兄が狙っているのは、市内スタジアムで開催される政府主催の団結集会でのテロでした…。

『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』の、ルパート・ワイアット監督最新作。
面白いのは、エイリアンの映画なのに、エイリアンの登場はさほど多くないところ。どちらかというと、重きを置いたのは人間ドラマのほうだと感じました。
その分、ちょっぴり中だるむというか、派手なSFアクションを期待すると、ハズレてしまうかもしれません。
あらすじはさわりの部分をざっくりと。団結集会のテロのあと、物語は急展開。ラストは「なるほど、そう来たか…」となるはずです。★3つ。
「囚われた国家」公式サイト
 
 
 
 
週末公開の映画……2020.4.2
『悲しみより、もっと悲しい物語』★★★
『ようこそ、革命シネマへ』★★
(満点は★★★★★)


今週も満点の映画が1本!
「コロナどころじゃねーよ。若いのがいっぱい集まって、ギャーギャー騒いでやがる」。
渋谷で映画の試写を見た帰り、地元のお年寄りが怒ってました。近くのライブハウスのことみたいです。
映画館は静かです。若者よ、コロナ対策をしっかりとして、映画で感性を刺激してはいかがです?

さ、今週は2本です!
『悲しみより、もっと悲しい物語』は、台湾映画。

高校時代に出会ったKとクリーム。
大人になって、Kは音楽プロデューサーとして、クリームは作詞家として活躍しています。
Kは父親を白血病で亡くし、看病に疲れた母は家出。クリームも交通事故で家族を亡くしていて、共に孤独なふたりは、一緒に暮らし始めるんですね。
決して一線を越えないKに対し、クリームは「私が好きなら結婚して」と言いますが、「僕じゃダメだ」とKは拒みます。
実は、Kも父親と同じ白血病に侵されていて、余命宣告もされていたのです。そのことをクリームに悟られてはいけないと努めるK。
それならばと、クリームは歯科医の男性と付き合い始め、結婚を決めます。それを見たKは、安堵するのですが…。

2009年の韓国映画『悲しみよりもっと悲しい物語』の、台湾リメイク版。
オリジナルを見た人なら、裏で進む、もうひとつの物語をご存知でしょう。
でも正直、何が優しさで、思いやりで、真の愛情なのかがわからなくなります。
表現が悪いと批判されるかもしれませんが、Kとクリームに翻弄?された周りの人たちが、それでも幸せだったと思えるかどうかがポイントかなぁ。だって、Kとクリームの幕引きは、別の人の犠牲の上に成り立っているのですから。
作品の良し悪しではなく、ストーリーに、手放しで「感動しました」と言えない自分がいます(笑)。★3つ。
「悲しみより、もっと悲しい物語」公式サイト


『ようこそ、革命シネマへ』は、アフリカ・スーダンのドキュメンタリー。

イブラヒム・シャダッド、スレイマン・イブラヒム、マナル・アルヒロ、エルタイブ・マフディ。
4人は60、70年代に海外で映画を学び、母国に戻って映画制作に携わってきた友人たちです。
ところが、クーデターで誕生した独裁政権の弾圧により、表現の自由が奪われ、4人は思想犯にされたり、海外亡命を余儀なくされます。
それから時が流れ、久々に母国で再会を果たした4人ですが、スーダンに映画の文化は無くなっていたのです。
全国各地を回り、巡回上映をしながら、どんな映画を見たいのか、アンケートを集めるなど、4人はスーダンにもう一度映画をと奔走します。

と、書いていると、『ニュー・シネマ・パラダイス』的な作品を想像するかもしれませんが、さにあらず。
監督も認めているように、これは政治的な映画です。
ボクらはプレスの資料をもらうので、事前にスーダンという国のおおまかな情報を入手出来ますが、そうじゃないとちょっと難しいかな。
スーダン通の人は、楽しめるかも。そうじゃない人には、パンフレットの購入をお勧めします。
ただ、かつて映画に情熱を傾けた老監督たちが、映画を奪われ、それを再生しようとしている姿には、政治もなにもありませんから。
悪い映画ではないんですョ。ただ、娯楽という意味では、ごめんなさい。★2つ。
「ようこそ、革命シネマへ」公式サイト
 
 
 
 
週末公開の映画……2020.3.25
『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ』★★★
『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』★★★★★
(満点は★★★★★)


今週も満点の映画が1本!
もし、こういう素晴らしい作品が、コロナの影響で埋もれてしまったら、とても哀しいなと。
小さな劇場での公開ですが、創意工夫でロングラン上映になることを祈ります。

さ、今週は2本です!
『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ』は、南米ウルグアイの元大統領の半生記。

人口345万人の、南米の小国ウルグアイ。
1935年、首都モンテビデオの郊外に生まれ、10代の頃から政治活動を始めたホセ・ムヒカは、20代になると、当時の政府に対するゲリラ活動を行う非合法政治組織『トゥパマロス』に参加します。
軍事独裁政権が誕生すると、ホセを含むメンバーたちは人質として捕らえられ、想像を絶するような拷問を受けつつも、なんとか正気を保ち、解放までの約13年という歳月を、獄中で過ごすことになります。
その中には、後に妻となる、ルシア・トポランスキーもいました。
解放後は、仲間と結成した左派の政治団体から下院議員に立候補し、当選を果たします。
そして2009年、第40代のウルグアイ大統領になると、給与の90%を寄付。自ら、トラクターに乗り、畑仕事も続ける“世界一貧しい大統領”となったのです。

“ペペ”の愛称で、今も国民から愛される元大統領ですが、ゲリラ時代は過激な犯罪行為も行っていたわけです。
ただ、それを上回る政治的善行を人々が認めたということなのでしょう。
「大勢の国民に選ばれたなら、国民と同じ暮らしをするべきだ。特権層ではなくね」。
どこかの国のお偉いさんたちに、聞かせてやりたい言葉です(笑)。
それを実践した大統領ですから、国民に愛されるのも納得ですよね。
それでも政治的反対論者はいるわけで、映画の中でも、街中でそうした国民と言い合いになる場面も出てきます。ふと、“昔の顔”を垣間見るシーン…。
ちなみに、日本の時代劇にある“人情裁き”のような内容を期待して見ると、その期待は裏切られます。あくまで、ひとつの国の大統領のドキュメンタリーだと思って臨んで下さい。★3つ。
「世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ」公式サイト


『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記』は、沖縄に暮らす、ひとりの少女のドキュメンタリー。

当時15歳だった坂本菜の花ちゃん。
石川県珠洲市で旅館を経営する両親のもとに生まれますが、学校でいじめに遭い、ひとり沖縄へと移ります。
彼女が通うのは、『珊瑚舎スコーレ』というフリースクール。そこには夜間部もあり、戦争で学校に通えなかったお年寄りも一緒に学ぶ、個性豊かな学校でした。
「学校で勉強するのが夢だった」と語るおじいやおばあが、瞳を輝かせながら通学するのを見て、菜の花ちゃんは、沖縄では今も戦争が続いていることを実感したと言います。
それでも沖縄のおじいやおばあは明るい。なんでそんなに明るくいられるのかが、不思議で仕方ありません。
一方で、沖縄では基地があるがゆえの事件や事故が次々と起こる。そこで感じたことを、彼女は故郷の北陸中日新聞に『菜の花の沖縄日記』というコラムとして、書き綴ったのです。
この映画は、そんな坂本菜の花ちゃんと、沖縄の日常を追ったドキュメンタリー。

タイトルの『ちむぐりさ』とは、沖縄には“悲しい”を意味する言葉が無いそうで、それに最も近いのが『肝(ちむ)ぐりさ』。「あなたが悲しいと私も悲しい」。
誰かの心の痛みを自分の悲しみとして、一緒に胸を痛めるという意味の言葉だそうです。
ボクは冒頭からウルウルきてました。お年寄りが学校の急な階段をようやく登り、息を切らせながらも、本当に楽しそうに教室にやってくる。
「戦争で学校に来られなかったから、勉強するのが夢でね」。
今の世代には、当たり前のこと。その“当たり前”を奪われた、おじいやおばあの少年期。
「よかったですね」と心の中で思ってたら、同じように、周りからもすすり泣く声が聞こえてきました。
沖縄の問題は難しいです。東京に暮らすボクには、正直どちらも“真”に思えてしまう心もある。
じゃ、沖縄の犠牲はいいのかといえば、それは明らかに“NO”。
でも、「代案は?」と問われれば、答えに窮するわけで…。わからないなら学べと言われても、そこで行動に出られるかというと…。
無責任な言葉ですよね。すみません。菜の花ちゃんに怒られちゃうな。
ただ、これが日本人の大半の、正直な気持ちなんじゃないかとも思うんですョ。
そんなボクらには、沖縄を“知る”必要が絶対にあると思います。
中立的に描かれていたとしても、この手の作品を「プロパガンダだ」とする向きもあると思います。
だからこそ、それは見て判断すればいい。
最後のほうで、埋め立てを眺める漁師さんが、菜の花ちゃんに語るシーンがあります。そこで語られる言葉こそが、“真の中の真”のような気がしました。
その言葉は、ストーリーの結末を話してしまうような感じなので、あえて控えますね。
見た目はいかつい漁師さんですが(失礼!)、優しい。本当に優しい…。それでいて、現状を客観的にしっかりと見ている。沖縄の人って、すごいなぁと思いました。
沖縄テレビ放送局60周年記念作品。報道の“志”もしっかり伝わった、いい映画だと思います。
ヤマトンチュは見るのが義務のようにさえ思える1本。その上で、考え方は人それぞれでいいんじゃないかと。まずは知りましょう。満点!★5つ。
「ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記」公式サイト
 
 
 
 
週末公開の映画……2020.3.19
『カゾクデッサン』★★★
『恐竜が教えてくれたこと』★★★★
(満点は★★★★★)


最近は、届く試写の案内状にも、〔重要なお知らせ〕として、次のような文言が。
「新型コロナウイルス感染症対策の為、試写にお越しいただく皆様にはマスク等の予防、また発熱や咳など体調が心配な方は、どうかご無理をなさいませんようにお願い申し上げます。」
早く、平常に戻りますように…。

さ、今週は2本です!
『カゾクデッサン』は、タイトル通り、家族の在り方がテーマの映画。

恋人のバーで働く、元ヤクザの剛太のもとに、ひとりの少年がやってきます。
彼の名は光貴。剛太の離婚した元妻の子で、実は、本当の父親は剛太だったんですね。
光貴は出世の秘密を知らないまま、新しい父親と幸せに暮らしているはず。
すると、光貴の口から、思わぬ言葉が飛び出します。
「母が交通事故にあって、意識が戻らないんです。病室にきて、声を掛けてもらえませんか?」
連れられて病室に行くと、寝たきりの元妻の姿が。剛太が呼んでも、目を覚ますことはありません。
「なんであんなヤツを連れてきたんだ」。
光貴は父親に怒られます。
「アイツはヤクザだぞ。二度と会うな」。
しかし、光貴は剛太に惹かれ始めていました。
そんな時、父親の独り言から、光貴は自分の実の父親が剛太であることを知ってしまうんですね。
「本当の父親はあんたなんだろ!」
光貴は剛太に詰め寄ります。
次第に暴力的になっていく光貴に、剛太は…。

家族って、どこまでが家族ですか?
これが、この映画のキャッチフレーズです。
血が繋がっていれば?一緒に住んでいれば?
ワケありの状況を揃えることで、その問題を考える舞台を整えました。
映画は時間の中に収めないといけないんだけど、ちょっとあっさりと落ち着いちゃったかなというイメージ。
いいコと、ものわかりのいい大人と(笑)。
もちろん、修羅場もありますが、心の中に刺さったトゲって、そう簡単には抜けないからなぁ。
みんな何かマイナスのものを抱えながら、それでも前を向こうという、再生の物語でもあります。★3つ。
「カゾクデッサン」公式サイト


『恐竜が教えてくれたこと』は、オランダ映画。

11歳のサムは、夏休みを家族と過ごすために、北部の島に来ていました。
サムは繊細な男の子。
「地球最後の恐竜は死ぬとき、最後の1頭だってしっていたのかな」。
死や孤独について、思いを巡らせることもしばしば。
兄が砂浜で骨折、母は頭痛がひどく、父は兄の病院通いに付き合っている。孤独に慣れるにはもってこいだと、バカンスの7日間は、なるべく独りで過ごそうと決めたサムの前に、ひとりの不思議な少女が現れます。
島を散策中に、庭でサルサを踊る女の子を眺めていたら、「一緒に踊ろう!」とサムを引きづり込んだ女の子。名前はテスと。
今までに出会ったこともないタイプの出現に、サムは一目惚れしちゃうんですね。
独りで過ごすつもりだったサムの夏休みが、急に光り輝き始めたのです…。
テスは看護師のお母さんとふたり暮らし。お父さんは、火山の噴火で亡くなって、顔も知らないと話します。
ところが、テスはフェイスブックで父親が生きていることを知り、策を巡らせて、この島に招待したと言うのです。
いい人だったら、娘だと告白したい。もちろんお母さんには内緒で。
それにサムが力を貸し、少年少女のある意味“冒険の夏”が過ぎていくというお話。

なかなかよかったですョ。確かに映画の中では、孤独と恐竜を結びつけているけど、そこまで恐竜にスポットライトは当たっていないので(笑)、この邦題はどうでしょう?
鑑賞後、すぐに思ったのは、「タイトルがもったいないなぁ」ということ。
誰もが体験したことのある、ひと夏の成長物語。よかれと思って頑張ったことが、裏目に出たりしたこともあったよなぁと、あの頃の甘酸っぱい思い出がきっと蘇ると思いますョ。
あ、恐竜ファンは恐竜に期待せずに(笑)。★4つ。
「恐竜が教えてくれたこと」公式サイト
 
 
 
 
週末公開の映画……2020.3.12
『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』★★★★★
(満点は★★★★★)


イベント自粛の中、休日は家で見るエンタメが増えているようで。以前公開の映画も、だいぶ見られているとか。
ボクのHP、takehirohasegawa.comを訪れてもらうと、左のコンテンツ一覧に“コラム”があり、その中の“movie”を選ぶと、過去の作品評を見ることが出来ます。
何を見ようか迷った時に、よかったら参考になさって下さい。

さ、今週は1本です!
『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』は、ドキュメンタリー。

ジョンとモリーのチェスター夫婦。
夫のジョンは映画やTVの監督、カメラマンとして、妻のモリーは料理家として活躍していました。
ある日のこと、殺処分になる犬を引き取ることにしたふたり。すると、トッドと名付けたその犬の吠える声がうるさいからと、ふたりはLAのアパートを出なくてはならなくなるんですね。
本当に体にいいものを育てたいという、昔からのモリーの夢を叶えるため、夫婦はこれを機に農場を作ろうと決意。郊外に200エーカーもの広大な農地を購入するのですが、そこは東京ドーム17個分の荒れ果てた土地。
それでも、夫婦は時間を掛け、ひとつひとつ、開拓、開墾。植物、野生動物、家畜、すべてが手を取り合う場所。モリーの頭の中に明確にあった、理想のオーガニック農場を作り上げていきます。

その苦難と喜びの8年という歳月を、カメラマンである夫のジョンが撮り続けたドキュメンタリー作品なんですね。
伝統農法の伝道師や、志を同じくする仲間たちが集まり、力を合わせ、美しい農場を作っていく。そのプロセスに、ボクらは学ぶことがいっぱい。 害だと思っていたことが、実は必然で、それこそが大地のあるべきサイクルなんだと気付かされたり。その中に、人間がいるのに、人間はそのサイクルを、自分たちの都合のいいように壊すばかり。それじゃ、しっぺ返しがくるのも当然ですよね。
地球温暖化、異常気象、今回のようなウイルスの出現…。
すべて、自分たちのまいた種かもしれません。
ツラく、厳しい現実も、ちゃんと見せながらの映像に、本来こうして人間は自然と共存する場を作ってきたのかと。本当に興味深いドキュメンタリー映画です。
文明の中に生きていて、ボクだって、それを手放すことは現実問題として無理。環境問題を声高に主張する気はありません。それでもやっぱり、ボクらは地球という大きな大きな器の中で生かされているんだなと、気付くだけでも違うと思うんですよね。
多くの人に見てもらいたい作品。特に今、まさにお勧めの1本です!満点!☆5つ!
「ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方」公式サイト
 
 
 
 
週末公開の映画……2020.3.6
『劇場版 おいしい給食 Final Battle』★★★
『ダンシングホームレス』★★★
『星屑の町』★★★★

(満点は★★★★★)


いよいよ新型コロナウイルスの影響が、映画業界にも広がってきました。
新作の公開が延期になったり、映画館が一部閉鎖されたり、試写会がなくなったり…。困ったものです。
閉ざされた空間。ボクも、試写会はマスク着用で拝見していますが、咳やくしゃみがなければ、観客はほとんどしゃべらないから、映画館での飛沫感染のリスクは低いと思うんですけどね…。
とにかく、一日も早く、普段の生活に戻りたいものです。

さ、今週は3本です!

『劇場版 おいしい給食 Final Battle』は、人気TVドラマの映画化。

1980年代の、とある中学校。
ここに、学校給食をこよなく愛する“給食マニア”の教師、甘利田幸男がいました。
甘利田にはライバルがいます。それは、美味しく給食を食べることにかけては学校イチを自負するクラスの生徒、神野ゴウです。
午前の授業が終わり、いざ給食の時間。
甘利田は神野の食べ方を気にしながらも、今日の給食の献立を確かめ、ひとつひとつを愛おしそうに口に運びます。
すると、神野は思いもよらない食べ方で給食をアレンジ。
「その手があったか!」と悔しがる甘利田に対し、挑発的にニヤリと笑う神野。
そんな神野が“給食改革”を公約に、生徒会長に立候補します。
ところが、学校全体を揺るがすような知らせが、飛び込んでくるんですね。なんと、教育委員会が、学校給食を無くす決定をしたというのです。
甘利田は、神野は、この窮地にどう対処するのでしょうか…。

テレビ神奈川や、TOKYO MXなどで放送されていた、ややマニアックな?人気TVドラマの映画化です。
なんと言っても、その魅力は、懐かしい給食のメニューにあります。
ソフト麺、揚げパン、クジラの竜田揚げ…。牛乳に入れる“ミルメークいちご”は知らなかったなぁ。微妙なジェネレーション・ギャップかも(笑)。
ボクの給食は60〜70年代。小学校低学年の思い出は、脱脂粉乳だもの(笑)。知らないでしょ?これが美味しくなくて…。
ただ、月に1、2回、ココア味になる。この時だけは、メチャメチャうれしかったのを覚えてます。
あと、ボクらは給食でお米を食べたことがないんですよねぇ。
そんな昔話に花が咲くこと間違いなし!
あらゆる世代で楽しめる1本です。☆3つ。
「劇場版 おいしい給食 Final Battle」公式サイト


『ダンシングホームレス』は、ドキュメンタリー。

アオキ裕キは、チャットモンチーやL'Arc-en-Cielの振り付けを手掛けるなど、一流のキャリアを持つダンサー。
そんな彼が、NYに留学中に、9.11・同時多発テロに遭遇し、ダンスとの向き合い方が変わります。
帰国後は路上生活者、いわゆるホームレスの“肉体表現”に着目するようになるんですね。
個々人が、様々な理由から、あらゆるものを捨てた。そうして最後に残った唯一の持ち物、それが肉体だと。その肉体からほとばしる原始的な動きにこそ、踊ることの真の表現があるということなのでしょう。
アオキは、『新人Hソケリッサ!』なる、ホームレスのダンスチームを作ります。
練習に来たくなければ、来なくてもいい。「人に危害を加えない」以外の“社会のルール”は適用されないのが、逆にルール。
そんな中、『新人Hソケリッサ!』のメンバーは、路上で、また全国の大小のイベントで踊るのです。
つらい生い立ちや、苦しい現状までもが、表現のルーツになる。それでも彼らにとって、踊ることは生きる糧になっているのです。
たまたま、試写の会場に、メンバーの多くが来てました。今も路上生活を続けているようですが、お世辞抜きで、キラキラしてました。ま、自分が映画に出てるのを見た直後ですもんね(笑)。
でも、目標が、生き甲斐があるって、それだけで人を輝かせるんだなと改めて。☆3つ。
「ダンシングホームレス」公式サイト


『星屑の町』は、人気舞台シリーズの映画化。

売れないムード歌謡グループの「山田修とハローナイツ」。
ヒット曲は1曲だけ。でも、それがあるからドサ回りは出来る。
この日は、リーダー・修の、故郷の青年団の誘いで、東北の田舎町に歌いに来ていました。
ショーの前夜、地元のスナックに飲みに行くと、そこはママと娘のふたりで切り盛りしている店。娘の愛は歌手志望だと言います。
メンバーの市村が、酔った勢いで、愛にこう話します。
「付き人として俺たちに付いてくれば、歌手にしてやる」。
そんな市村の話を真に受けて、翌日の会場にやって来た愛。
当然、付き人の話は口からの出まかせで、市村は逃げ回るばかり。
仕方なく即興のオーディションを行うと、愛はなかなかの歌上手。活性化のためにメンバーに入れてはどうかという声も出ますが、賛否両論。メンバー内に亀裂が走ります。
さらに愛の父親が、メンバーのひとりである疑惑も浮上します。
ハローナイツはどうなってしまうのか?また、愛の夢は叶うのでしょうか…。

1994年9月に最初の上演があり、2016年2月の7作目で完結した、人気の舞台シリーズ。
作品を形に残したいという思いで、映画化が実現したそう。
「山田修とハローナイツ」のメンバーは、「太平サブロー・シロー」の太平サブロー、「コント赤信号」のラサール石井、小宮孝泰ら、ベテランお笑い芸人と、でんでん、渡辺哲、有薗芳記ら、個性派俳優たち。
一緒にドサ回りをするキティ岩城に、戸田恵子。愛に、のんという、豪華で賑やかなキャストが出演。それだけでも、何となく楽しそうな絵が浮かびますよね。
ヒット曲が1曲しかないから、ステージのシーンで歌われるのは、懐かしの昭和歌謡の数々!太平サブローも、戸田恵子も歌が上手いので、昭和歌謡ファンは、歌でも楽しめます。
笑って、泣けるドタバタ人情コメディ。
『三丁目の夕日』世代にオススメです!☆4つ。
「星屑の町」公式サイト
 
 
 
 
週末公開の映画……2020.2.27
『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』★★★★
『レ・ミゼラブル』★★★
『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』★★

(満点は★★★★★)


新型コロナウイルスの影響が一段と拡大。
「この1、2週間がヤマ」と政府が見解を発表し、様々なイベント事の自粛を要請。飲み会の中止まで言及するのですから、仕方がないとはいえ、経済は大打撃ですよね。映画業界も大変だと思います。
かと言って、「自分だけは大丈夫」と思うのもよくないわけで。
試写会も中止になったりするのかなぁと、心配しているところです。
“vs未知の脅威”。早く終息に向かって欲しいものです。
さ、今週は3本です!

『ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像』は、フィンランドを代表する映画監督、クラウス・ハロ監督の最新作。

ヘルシンキで美術商を営む、72歳のオラヴィ。
昔から、家族のことはそっちのけで絵画に夢中だったオラヴィは、一人娘のレアとも音信不通の状態。
今や、オンラインギャラリーの時代で、古いスタイルの画商は資金繰りも苦しく。それでも、最後にもうひと花咲かせたいと、オラヴィは強く心に思っていたのです。
ある日のこと、近所のオークションハウスの下見会で、オラヴィは1枚の肖像画に魅せられてしまいます。
ところが、この絵には署名がない。出どころも不明でリスクが高いと、友人たちは止めるのですが、オラヴィは自分の審美眼を信じ、僅かな裏書きから、この絵の正体を掴もうと調査を始めるんですね。
そんな時、ひとりの少年が店にやって来ます。疎遠になっていた娘レアの息子、オットーでした。
孫の顔にも気付かないオラヴィでしたが、聞けば、学校の職業体験の受け入れ先になって欲しいと。レアの話では、以前に問題を起こしたオットーを引き受けてくれるところがなく、オラヴィを頼るしかなかったと言うのです。
肖像画のことで頭がいっぱいだったオラヴィは、何度か断るのですが、最後は渋々、オットーを店で働かせます。
壊れた家族の関係は、修復出来るのか。あの肖像画の正体は一体…。

これまで手掛けた5本の長編映画のうち、4本がアカデミー賞外国語映画賞のフィンランド代表に選ばれているという、クラウス・ハロ監督。
絵画の謎解きと、家族の絆という、2つの大きなテーマを、バランスよく、見事に描き切った作品だと感じました。
仕事一筋の老画商は、ボクらの父親たちの世代を思わせ、あまり馴染みのないフィンランドの映画でも、感情移入は十分に出来ました。
物語は、その後も問題山積。オラヴィの前に、大きな壁が立ちはだかり、父と娘の間の確執も再燃します。
果たして、どうなっちゃうのか?
衝撃の結末は、是非映画館で。☆4つ。
「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」公式サイト


『レ・ミゼラブル』は、今のフランスの抱える闇を描いた問題作。

パリ郊外のモンフェルメイユ。
今や、犯罪多発地域と化したこの街にあるボスケ団地は、移民や低所得層が暮らす犯罪の温床でした。
そんな団地の治安を取り締まるのが、警察の犯罪防止班“BAC”。クリスとグワダのふたりの担当警官に、のどかな北フランスから赴任してきた、ステファンが加わります。
ムスリム同胞団と麻薬の売人。ロマと黒人たち。ありとあらゆる対立を内包したこの街は、常に一触即発の状況に。
そんな時、黒人の少年が、ロマのサーカス団から、ライオンの赤ちゃんを盗み出したのです。
捜査に乗り出す、ステファンたち。
しかし、この事件が、とんでもない事態を巻き起こすのでした…。

モンフェルメイユは、ヴィクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル」の舞台としても知られる場所。
本当なら、ボスケ団地も開発によって、利便性が向上するはずだったのが、計画の中止で“陸の孤島”となり、その結果、多くの貧困層が暮らす地域になったそう。
ラジ・リ監督は、このモンフェルメイユ出身の黒人男性で、これが初の長編映画。それまではドキュメンタリー作品を撮ってきた監督です。
そんな出自の監督の作品ですから、フィクションであっても、リアリティがある。日本人のボクらが感じる以上に、自国フランスでの反響は大きかったのでしょう。
マクロン大統領もこの映画を見て、「映画の舞台となった地域の生活条件を改善するためのアイデアを直ちに見つけて行動を起こすよう」指示したと、プレス資料にありました。
映画が政治をも動かしたんですね!
EUの問題のひとつが“移民”。フランスは移民国家です。それを語るには勉強不足ゆえ控えますが、世界のとある場所では、こういう問題が起きているんだというのを、知っておくのは大切なことだとも思います。☆3つ。
「レ・ミゼラブル」公式サイト


『ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ』は、“中国人監督第8世代”の筆頭株と評されるビー・ガン監督の最新作。

ルオ・ホンウは、何年もの間距離を置いてきた故郷・凱里(カイリ)へ、父の死を機に帰還する。
そこでは幼馴染、白猫の死を思い起こすと同時に、彼の心をずっと捉えて離れることのなかった、ある女のイメージが付き纏った。
彼女は自分の名前を、香港の有名女優と同じワン・チーウェンだと言った。
ルオはその女の面影を追って、現実と記憶と夢が交錯するミステリアスな旅に出る…。

すみません。あらすじは、プレス資料のものを“まま”で使わせて頂きました。
記憶と夢と時間の映画?
読んでもらうとわかるように、説明が難しい…(笑)。
ビー・ガン監督は、26歳の時にメガホンをとった『凱里ブルース』で高い評価を得、これが短長編合わせて4作品目。現在30歳の若き才能ということになります。
主人公のルオが映画館に入って、眼鏡を掛けるのと同様に、観客であるボクらも3Dメガネを掛ける。そこから、映画は3Dで進んでいくという仕掛けもあって。
確かに実験的映画というか、途中から3Dというのは、初めてのパターンではありました。
中国映画の様式美というか、新しいのでしょうが、根っこの伝統は継承しているような気がしました。
世界中で高い評価を得ているとのこと。このジャンルの映画を愛する人も、たくさんいるということなのでしょうが、ボクにはちょっぴり高尚過ぎたかな。
歯切れの悪いコメントですみません(笑)。☆2つ。
「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」公式サイト
 
 
 
 
週末公開の映画……2020.2.21
『うたのはじまり』★★★★
『チャーリーズ・エンジェル』★★★
『ミッドサマー』★★★
『恋恋豆花(れんれんどうふぁ)』★★★

(満点は★★★★★)


新型コロナウイルスの影響で、「閉鎖された空間が嫌」となると、映画館も打撃が大きいかもしれませんね…。
とにかく、ボクら一人一人が、保菌者にならないように心掛ける。うがい、手洗い、マスクがあればマスクをする。それしかないですもんね。
お互い、気をつけましょう。
さ、今週は4本です!

『うたのはじまり』は、“ろう”の写真家夫婦のドキュメンタリー。

齋藤陽道は、聴覚に障がいを持つ“ろう”のカメラマン。
音楽の授業でも、先生から、「齋藤はいいから」と自分だけ飛ばされて、歌が大嫌いになったと言います。
彼にとって、疑問と向き合うための表現手段こそが、写真でした。
そんな陽道の妻、麻奈美も“ろう”の写真家。
そんなふたりの間に、息子が生まれます。“健聴者”でした。ふたりは息子に“樹”と名付けます。
陽道が樹をあやすうちに、ふと口をついた子守歌。陽道が嫌いなはずの、その“うた”で、樹は泣きやみ、スヤスヤと眠りにつきます。
「うたって、歌ってなんだろうなといつも思うのですが、今日、より思います」。
監督の河合宏樹と筆談で交わした、陽道の言葉です。

ドキュメンタリーです。
途中、「それはないだろう…」と思うような他人の言動もありますが、監督はどんな思いで、そこをカットせずに残したのか。発言者が叩かれないか、ちょっと気になったシーンもありましたが、映画は監督の作品ですから。
でも、ひとつ。
樹は、言葉より先に“手話”を覚えたと。
陽道から、自然と“うた”が口をついたように、樹は自然と“手話”を覚えた。
親と子の在りように、感動を覚えたシーンです。
そのまま、優しい人に育って欲しいなと、切に祈ります。
そう、“うた”は本能に根ざした“祈り”にも似ているのかもしれませんね。☆4つ。
「うたのはじまり」公式サイト


『チャーリーズ・エンジェル』は、すべてを一新した人気シリーズの再映画化。

巨大テクノロジー企業に勤める、天才プログラマーのエレーナ。
彼女が開発したのが、持続可能な革命的エネルギー源の“カリスト”でした。
ところが、エレーナの上司たちは、これを軍事転用すればケタ違いの利益になると、“カリスト”を売却しようとしていたのです。
危険を感じたエレーナは、国際機密企業のチャーリー・タウンゼント社に助けを求めるんですね。
チャーリー・タウンゼント社で特殊訓練を受けたエリート女性エージェントこそが、“チャーリーズ・エンジェル”たち。
司令塔のボスレーがエレーナのもとに送り込んだのは、変装と潜入の名手のサビーナと、元MI6で武器のエキスパートのジェーンでした。
遂には、命を狙われるまでになったエレーナを守り、悪のたくらみを阻止するため、美しく、強い女性たちが、動き始めたのです…。

1976年に、全米でTV放映されると、瞬く間に大人気となり、2000年には最初の映画化が、2003年には第2弾となる続編が公開された『チャーリーズ・エンジェル』。
セクシーで、強い女性にノックアウトされた男性も多かったはず。
実は、その時々の女性像が描かれてもいる作品で、TVシリーズの頃のウーマンリブの時代から、女性が力を合わせようという前回の映画シリーズの時代。じゃ、現代は?というと、機会さえ与えられれば、女性は何でも出来るんだという、女性の力そのものを表現しています。
男の“こズルさ”も描かれていて(笑)、昔からのシリーズ・ファンには、「へっ?まさか、ウソでしょ?」という展開も。
ちなみに、脚本・監督は、女優としても人気のエリザベス・バンクス。司令塔のボスレーとして、自身も出演しています。
さらに主題歌は、アリアナ・グランデ、マイリー・サイラス、ラナ・デル・レイが初コラボ。チャーリーズ・エンジェルさながらの超豪華トリオです。☆3つ。
「チャーリーズ・エンジェル」公式サイト


『ミッドサマー』は、白夜のスウェーデンが舞台の“フェスティバル・スリラー”。

ダニーとクリスチャンは、同じ大学に通う恋人同士。
しかし、ふたりの仲は破局寸前。クリスチャンの心は、既にダニーから離れていたのです。
ダニーには精神的に不安定な妹がいて、その妹が両親を道連れに一家心中をはかります。一瞬にして身内をすべて亡くしてしまうダニー。
ちょうどその頃、クリスチャンは、ダニーに内緒で旅行に行く計画を立てていました。
その旅行とは、スウェーデンからの交換留学生であるペレの故郷で、90年に一度行われるという浄化の“祝祭”に参加しようというもの。
下心もある男同士の旅に、ハッキリ言って女性のダニーは邪魔でしたが、状況が状況だけに、彼女も誘うことにするクリスチャンたち。
総勢5人でスウェーデンに着くと、人里離れた奥地に、ペレが生まれ育った小さな共同体がありました。
“ホルガ”と呼ばれるその村では、共通の白い衣服を身にまとった村人たちの優しい笑顔が、ダニーらを迎えます。
沈まない太陽、咲き誇る花々、陽気に歌い、舞うダンス。
しかし、時が経つに連れ、何かがおかしいと感じ始めるんですね。それこそが、想像を絶する悪夢の始まりだったのです…。

“フェスティバル・スリラー”とは、もらったプレス資料にあった言葉。
普通、スリラー映画は暗闇と共に進行するものですが、この映画の舞台は太陽が沈まない白夜の村。それも、美しい花々や、優しい笑顔の中で展開するからこそ恐ろしい…と。
アリ・アスター監督の過去の作品についての解説があったのですが、それを知ると、この映画がよく理解出来ると思います。
逆に、知らないで見ると、理解するのは少々難しいかも。
かなりショッキングな内容なので、ここに書くのは避けますが、アリ・アスター監督の過去の作品を検索してみて下さい。
ダニーの絶望こそ、監督自身らしいです…。☆3つ。
「ミッドサマー」公式サイト


『恋恋豆花(れんれんどうふぁ)』は、台湾のグルメロードムービー。

大学生の奈央。
父の3度目の結婚が決まり、新しく母になる綾とふたりで、1週間の台湾旅行を勧められます。
距離を近づけたい綾は超乗り気ですが、奈央は気持ちが重たいだけ。
ところが、台湾に着くと、とにかく美味しいものを食べようと話題の台湾グルメの店をハシゴしまくります。
飲茶やスイーツに、ほっぺたが落ちそうになる奈央。時にぶつかりながらも、ふたりは徐々に打ち解けていきます。
そんな時でした。日本に残った父が、軽い交通事故にあったとの連絡が入ります。
綾は帰国しますが、奈央はそのまま残って、台湾ひとり旅。そこで奈央を待っていたのは、素敵な出会いたちでした…。

主演は、『風の電話』での好演も話題となった、モトーラ世理奈。
「ママはね…」と話しかけてくる綾に違和感を覚えながらも、甘いものを前にするとニコ〜ッとなってしまう、多感な年頃の女子大生を上手く演じています。
旅は人を成長させるもので、たくさんの人との出会いが、奈央の人生観を変えていくんですね。
台北、台中、台南と、台湾縦断の旅。
これから台湾旅行に行く人は、ガイドブックを買うより、この映画を見るほうがいいかも(笑)。台湾の魅力が満載です。☆3つ。
「恋恋豆花」公式サイト
 
 
 
 
週末公開の映画……2020.2.5
『37セカンズ』★★★★
(満点は★★★★★)


先日、ボクのブログを読んで下さってる方から、映画のコラムを楽しみにしていると言われました。
「メジャーじゃないものをたくさん紹介してくれてるから、うれしい」と。
ありがたい言葉です(^-^)。
例えば、月イチぐらいで映画を見る人が「何を見よう」となった時、そりゃ、話題作に行きますよね。それは仕方のないこと。
お金の掛かった話題作も面白いけど、他にもあるよという選択肢になればと思ってます。
と言っても、映画評論家の皆さんと比べたら、数は少ない、少ない。ホント、雲泥の差。
それでも一生モノとの“出会い”って、そんな中にあったりもしますから。
さ、今週は1本です!

『37セカンズ』は、障がいを持つひとりの女性の“生きる”物語。

23歳のユマは、身体に障がいを抱える女性。
離婚をし、シングルマザーになった母の恭子が、常に面倒を見てくれるのですが、それが成人したユマにとって、たまに息苦しく感じるのも事実。
ユマは漫画を描くのが得意で、親友の人気少女漫画家、SAYAKAのゴーストライターとして収入を得ています。
SAYAKAの作品は、ほとんどがユマの手によるもの。なのに、ユマにはまったくスポットライトが当たらない。名声も、多くのお金も、みんなSAYAKAのもの。
ユマも自分自身の名義で頑張ってみたいと、編集者に新しい作品を見せるのですが、「先生の作品に似過ぎてますね」と言われてしまいます。
落ち込んだユマが、公園の片隅で見つけたもの。それは、アダルトコミックの雑誌でした。
思い切って、編集部に電話をしてみると、「原稿を持ってきて」と。ユマはセクシーなシーンも描いたSFコミックを仕上げて、出版社を訪れます。
対応したのは女性編集長。
車椅子姿のユマを見て、「リアリティがないんだよね。作家に経験がないと、いい作品は作れないの」と言われてしまいます。
しかし、その言葉が、ユマの人生を変える一歩を踏み出す、大きなきっかけとなったのです…。
タイトルの『37セカンズ』とは、“37秒”のこと。
ユマが生まれて来る時、息をしていなかった時間です。
その結果、身体に障がいを抱えてしまった。そんなユマを、実際、出産時に障がいを負った佳山明が演じています。
監督のHIKARIは、健常者の女優ではなく、「ユマはどこかに必ずいる」と、オーディションから佳山明を見つけたと言います。
試写状が届いた時、最初はドキュメンタリーかと思いましたが、フィクションなんですね。
でも、様々な現実を知ることになる。

介護に携わるのは介護福祉士だけじゃない、障がいを持つ人の性の問題に対処する人もいる。
漫画だって、少女コミックだけじゃない、アダルトコミックもある。
母の愛情も、友の友情も…。
みんな表と裏があって、実はどちらも“真”。
でも、みんな表ばかりを見ようとするから、事実が見えない。
障がい者も、健常者も、悩みの形が違うだけで、生きるって大変なんだって。そう、誰もが何かしらの問題を抱えながら、懸命に生きてるはずなんです。その“事実”には、障がい者も健常者もないと思うんですね。
一歩踏み出した後のユマから、多くのことを学んだ気がします。
佳山明の体当たりの演技に、感動するはずです。★4つ。
「37セカンズ」公式サイト
 
 
 
 
週末公開の映画……2020.1.29
『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』★★★
『母との約束、250通の手紙』★★★
『バッドボーイズ フォー・ライフ』★★★

(満点は★★★★★)


試写を行う試写室は、決して広くはない、閉ざされた空間。咳をしてる人がいると、気になってしまって、映画に集中出来なくなってしまいます。今は、新型コロナウイルスが心配ですもんね。
自分が逆に心配を掛けないように、感染はもちろん、風邪にも気を付けないといけません。
さ、今週は3本です!

『ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密』は、謎解きミステリー。

人気ミステリー作家のハーラン・スロンビー。数々のベストセラー小説で、大金を稼いだ大富豪です。
彼の85歳の誕生日を祝おうと、一族が集まります。
パーティに参加したのは、以下のメンバー。
長女リンダと夫のリチャード、その息子のランサム。
亡き長男の妻ジョニと、娘のメグ。
次男ウォルトと妻のドナ、その息子のジェイコブ。
ハーランの年老いた母ワネッタ。
そして、ハーランの専属看護師マルタ。
みんなキャラクターの強い面々です。
ところが、翌朝、ハーランは、自室で遺体となって見つかります。
第一発見者は、屋敷の家政婦フラン。
自殺か、他殺か。莫大な遺産はどうなるのか?
1週間後、匿名の依頼が名探偵ブノワ・ブランの元に届いたとして、2人の警察関係者と共に屋敷を訪れます。
果たして、事件の真相やいかに…。

殺人事件なら、そこにいるすべてに犯人の可能性がある。その犯人捜しが、コミカルに、またシリアスに行われていきます。
名探偵ブノワ・ブランに、『007』シリーズのジェームズ・ボンド役のダニエル・クレイグ。
長女の息子で、放蕩息子のランサムに、『アベンジャーズ』シリーズのキャプテン・アメリカ役のリス・エヴァンス。
誕生日の翌日に遺体で見つかるハーラン・スロンビーには、『サウンド・オブ・ミュージック』のトラップ大佐役だったクリストファー・プラマー。
他にも豪華な俳優陣が出演しています。
「楽しすぎて、脳みそが、痛い」なんて評価がありましたが、そこまでかどうかは、おそらく笑いのツボ次第(笑)。
社会風刺も散りばめた、凝った謎解きであることは間違いありません。★3つ。
「ナイブズ・アウト 名探偵と刃の館の秘密」公式サイト


『母との約束、250通の手紙』は、実在のフランス人作家、ロマン・ガリの私小説「夜明けの約束」の映画化。

1950年代半ば、LAのフランス総領事で小説家のロマン・ガリは、妻レスリーとメキシコ旅行に来ていました。
旅先で、具合が悪そうにしながらも、執筆を止めないロマン。
病院に向かう車の中で、レスリーはロマンの鞄の中から書きかけの原稿をそっと取り出し、目を通すと、そこにはロマンと、母ニナとの壮絶な時間が書かれていたのです。
モスクワからポーランドに入った、ユダヤ系母子に人々は決して優しくなく。それでも母は息子を焚き付けます。
「お前はフランスの大使になるんだ」。
「将来、トルストイに、ヴィクトル・ユゴーのような文豪になる」。
時に、詐欺まがいの商売をしながら金を稼ぎ、母子はフランスのニースに転居。ロマンはパリの大学に入り、小説家を目指します。
母に糖尿病がわかった頃、ロマンはフランス軍に入隊。母からは励ましの手紙が毎日のように届きます。
ロンドンへ赴任したロマンは、次にアフリカへ行き、リビアでは腸チフスで入院しますが、どこに行こうと、週に一度は母からの手紙が必ず届いていたのです。
そして、戦地で書き上げたロマンの長編小説「白い嘘」が、遂にイギリスで出版されることになり、喜び勇んで、母の入院先を訪れるのですが…。
今だったら、過干渉で、母子の関係は絶対上手くいかないだろうなというくらい、母は息子を愛し、夢と将来を語り。いや、語るというより、決めつけ、洗脳し。
息子はそれでも、そんな母の言葉が支えとなっていきます。

実話であることがすごい…。
史上唯一、フランスのゴンクール賞を2度受賞し、文豪と呼ばれ、外交官にもなった。つまり、母の言葉通りの将来を獲得したわけですもんね。
なんとなく想像の出来るラストではありましたが、母の愛の深さ、子を持つ母親の強さを、改めて感じました。
事実、試写の後、母の顔が見たくなり、実家に帰ったぐらいですから。★3つ。
「母との約束、250通の手紙」公式サイト


『バッドボーイズ フォー・ライフ』は、マイアミ市警のマイクとマーカスの、人気コンビによるシリーズ最新作。

マイアミ市警の敏腕刑事マイクと相棒のマーカスは、“バッドボーイズ”を名乗る名物コンビ。
ところが、年齢も年齢となり、マーカスは家族の心情を思い、引退を決意するんですね。
一方のマイクは、ハイテク捜査班のAMMOに配属を命じられます。
生意気な若手とぶつかる毎日に、ストレスが溜まるマイク。
実はその頃、犯罪王の女囚イサベルが、20年間、虎視眈々と狙っていた脱獄を実行に移し、まんまと成功させます。
その裏には、獄中で産んだ、息子のアルマンドが関わっていました。
冷酷な殺し屋に育ったアルマンドに、イサベルは“復讐”を命じます。
リストに書かれた警察関係者が次々と殺害されていく中、リストには、なんとマイクの名前も。
イサベルとアルマンドの復讐の魔の手は、確実にマイクに伸びていたのでした…。
ウィル・スミスとマーティン・ローレンスのコンビで、95年の『バッドボーイズ』、03年の『バッドボーイズ 2バッド』に続く、シリーズ最新作です。

あれから17年。少しは丸くなってる…はずもなく(笑)。
でも、マーカスには初孫が生まれますから、時の流れを感じますよね。
マイクはモテ男なので、そのあたりも今作のいい味付けになってます。
いくつになっても、モテる男はモテる。熟年男性の“憧れ”と言いたいけれど、さすがにあれだけのムチャは出来ませんから。マーカスのほうが、まだ現実的かな(笑)。
とはいえ、ファンにとって、コンビ解消は寂しいもの。さらなる続編を期待したいですね。★3つ。
「バッドボーイズ フォー・ライフ」公式サイト
 
 



 
 
週末公開の映画……2020.1.22
『風の電話』★★★
『シグナル100』★★★

(満点は★★★★★)


1月に入って、積極的に試写会へ。
実は、2月半ばから3月は、また忙しくなりそうなんです。
時間が許す今のうちに、たくさん見ておこうと思ってます(^-^)
さ、今週は2本です!


『風の電話』は、岩手県大槌町に実在する“風の電話”と呼ばれる電話ボックスをモチーフにした映画。

東日本大震災で家族を失った、高校生のハル。
震災後は、伯母を頼って、広島に住んでいたのですが、その伯母が突然倒れてしまいます。
病院で昏睡状態の伯母を見舞ったたハルは、あてもなく歩き始め、泣き疲れて倒れてしまいます。
そこに軽トラックで通りかかった公平という男性が、ハルを助けます。
公平は、年老いた母との二人暮らし。そこでハルは、広島で起こった悲しい過去を聞かせられるんですね。
公平に駅まで送ってもらったハルでしたが、自宅とは逆方向の電車に飛び乗ります。ハルの心は、故郷の岩手県大槌町を目指していたのです…。
“風の電話”は、大槌町在住のガーデンデザイナー、佐々木格さんの自宅の庭に実際にある、電話線の繋がっていない電話ボックス。
天国にいる大切な人に繋がる電話として広まり、震災以降、3万人を超える人々が訪れたと言います。
ハルが広島から岩手まで、ヒッチハイクで旅をする中で、様々な人々と出会いながら成長していく、ロードムービー。
生家に着き、今は家の基礎だけになった自宅跡ではしゃぐハルの姿は切なく、“風の電話”に辿り着いて、受話器を手に、天国の両親に語りかける場面は、実際の被災者の皆さんには、ボクらの比じゃない悲しみの感情が沸き起こるんだろうなと。
旅の途中、ハルが出会う人々に、三浦友和、西田敏行、西島秀俊。豪華俳優陣が顔を揃えました。

実は、この映画の試写会に、ハルを演じた主役のモトーラ世理奈さんが来ていて、ボクらに混じって、自身の映画を見ていました。
上映後に、チラッと顔を見たら、泣いてました。★3つ。
「風の電話」公式サイト


『シグナル100』は、橋本環奈主演のサスペンス・ホラー。

聖新学園高校3年C組は、男女合わせて36人のクラス。
ある日のこと、担任の教師が、クラス全員を視聴覚教室に呼び集めます。
そこで生徒たちが見せられたのは、意味のわからない不気味な映像。それは、自殺催眠の映像だったのです。
この自殺催眠は、日常の行動が発動の契機である“シグナル”に。
スマホを使う、涙を流す。何でもない行動が引きがねとなり、壮絶な死に方で、次々と自ら命を落としていったのです。
そのシグナルは全部で100個。催眠を解くには、最後のひとりになること。つまり、35人のクラスメートが死に絶え、自分だけが残る以外に、助かる方法はないというのです。
謎を明かすことのないままに、先生はベランダから飛び降りてしまいます。
教室は、恐怖とエゴが渦巻く、絶望の空間へと変わっていったのでした…。

原作・宮月 新、作画・近藤しぐれの人気コミックの実写映画化。
もちろん学校の敷地外に出るのもシグナル。外に助けを求めることは不可能です。
次は自分かもしれない。シグナルは一体何なのか。
恐怖の中で、なんとか、みんなで助かる方法を見つけようとするのですが…というお話。

人が死ぬ映画があんまり得意じゃないので、「う〜ん」という感じですが(笑)、発想は確かに面白いですよね。
人間の醜さが、あちらこちらに。もちろん、これはフィクションですが、一向に無くなることのない現実社会でのイジメも、根っこにはこんな醜い人間の素性があるんだろうなと思ってしまいます。
絵空事と笑ってばかりもいられません。★3つ。
「シグナル100」公式サイト
 
 
 
 
週末公開の映画……2020.1.15
『記憶屋 あなたを忘れない』★★★
『太陽の家』★★★★
『東京パラリンピック 愛と栄光の祭典』★★★
(満点は★★★★★)


2020年最初の映画紹介です。
評価の星を、白から黒に変えてみました。今更ですが、こっちのほうが見やすいかなと(笑)。
今年も、時間の許す限り、たくさん試写を拝見したいと思ってます。
単館ものも多いので、“お宝探し”のように読んでもらえるといいかも。
さ、今週は3本です!


『記憶屋 あなたを忘れない』は、映画『ツナグ』、ドラマ『JIN―仁―』、『天皇の料理番』などで知られる、平川雄一朗監督最新作。

大学生だった遼一が、恋人の杏子にプロポーズすると、戸惑いながらもOKが。幸せの絶頂にいたふたり。
ところが、翌日から杏子と連絡が取れなくなり、何日か経って、駅で見かけた杏子に声をかけると、杏子は遼一を「どちらさまですか?ちょっと、やめて下さい」と拒むのでした。
その頃、ネット上で、都市伝説的に話題になっていたのが“記憶屋”。人の記憶を消せると言います。
遼一は、今回のことが記憶屋の仕業じゃないかと、記憶屋について調べを進めていきます。というのも、子供の頃、幼なじみの真希が、目の前で記憶の一部を無くしたのを見たことがあったから。
「記憶を消せる人間がいるのは間違いない」。
すると、大学で講義をしていた弁護士の高原も、ある事情から記憶屋を探していました。
ふたりは協力して、記憶屋に会うために、奔走するのですが…。

シリーズ累計50万部、織守きょうやの人気小説を実写映画化した作品。
ミステリーのエッセンスと、恋愛や、親子の情など、普遍的要素が上手く絡まった内容となっています。
ただ、この手のタイトルの作品で、この監督となると、「泣けるっ」的な期待感を大きく抱いてしまうじゃないですか(笑)。ボクも『ツナグ』では、号泣しましたから。
でも、あまりそっちのハードルを高くしちゃうと、泣けないかも。
“謎解きファンタジー”の映画として見ると、たぶん面白いんじゃないかと思います。
おそらく、“人の記憶を消す”力に、功罪の“罪”を強く感じる人が多数だからじゃないかなぁ。『ツナグ』のように、“亡くなった人と繋ぐ”力は“功”のイメージなんでしょうね。
あなたはどう感じるか。ご覧になってみて下さい。★3つ。
「記憶屋 あなたを忘れない」公式サイト


『太陽の家』は、長渕剛、20年振りの映画主演作。

川崎信吾は大工の棟梁。
妻の美沙希、娘の柑奈との3人で、仲睦まじく暮らしていました。
ある日のこと、建設中の現場にひとりの女性が通りかかります。保険の営業レディ、芽依です。
芽依に誘われ、ほいほいとついていく信吾。案の定、保険の契約をさせられてしまうんですね。
独身女性かと思っていた芽依ですが、実はシングルマザー。息子の龍生は父親を知りません。
すると、信吾の中の男気に火がつき、「龍生を一人前の男にしてやる」と宣言。
初めは引っ込み思案の龍生でしたが、次第に信吾に心を開いていきます。
そこで、信吾は約束します。
「俺はお前たちに家を建ててやるからな」と…。

久し振りに、俳優・長渕剛を見ました。
カリスマ然としてしまってからは、気難しいイメージばかりが先行していましたが、やっぱりいい味を出す役者です。
年頃の娘の柑奈が“お兄ちゃん”と慕う、一番弟子の高史に、瑛太が扮するのですが、パンチパーマに剃り込みを入れ、眉毛も細く、鋭く、剃り。瑛太だと言われなければ、わからないかも。そんな役者魂に、凄みすら感じてしまいました。
この映画は“ひっぱたく映画”。
登場人物には、様々な葛藤があります。そんな中で懸命に生きているからこそ、ぶつかることがある。時には手をあげることも。
体罰を肯定するつもりは、さらさらありませんョ。ただ、本当に愛のある痛みなら、きちんと届く。ボクはそう思っているんですね。
この映画でも、よくひっぱたき、ひっぱたかれます。
誰かをひっぱたいた信吾が、今度は女房の美沙希にひっぱたかれる。
「あぁ、そうか。そういうことか…」と、あくまで邪推?ですが、この映画に込めた長渕剛の思いを推し測ってみたりもしました。
そういう意味では、昭和の匂いのする1本です。時代のギャップが、受け入れられるのかどうかも興味深いところです。★4つ。
「太陽の家」公式サイト


『東京パラリンピック 愛と栄光の祭典』は、55年振りに復活上映されるドキュメンタリー映画。

1964年、東京オリンピックが熱狂のうちに終わり、戦後の日本が、世界に成長した姿を見せた後、もうひとつの国際スポーツ大会が幕を開けました。「国際身体障害者スポーツ大会」、愛称“東京パラリンピック”です。
パラリンピックとは、下半身麻痺を表す“パラプレジア”と、オリンピックを組み合わせたもの。当時は下半身麻痺の選手を対象としたスポーツ大会でした。
“パラリンピックの父”と呼ばれる、イギリスのグッドマン博士は、初めて障がい者治療にスポーツを取り入れたひとり。博士の発案の下、「障がいがあっても、やればやれるんだ」と、オリンピックと同時期に、パラリンピックは開かれることになりました。
映画に登場する日本の選手も、リハビリの一環ですから、練習は病院の中。そして、大会では、明るい海外の選手団に驚かされます。
その姿を見て、「イギリスでは、80%もの障がい者が社会復帰して、税金を納めている。我々は年金、つまり税金を食う存在。社会福祉制度の違いがある」と、社会復帰への意欲を取り戻していったと言います。
モノレール、首都高、東京タワーが誇らしげな、1964年、昭和39年の東京の風景。
今の上皇、上皇后両陛下が、皇太子、皇太子妃でいらした頃のお姿も映し出されます。
貴重なフィルムです。オリンピック、パラリンピックイヤーの今年だからこそ、見ておきたいドキュメンタリー作品です。★3つ。
「東京パラリンピック 愛と栄光の祭典」公式サイト