週末公開の映画……2019.12.28

『ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!』☆☆☆


2019年もあと少し。師走の慌ただしさが、街中を覆います。
こんな時だからこそ、ちょっと小休止。映画でも見てみませんか?
さ、今週は2本です!


2019年最後の映画紹介です。
今年は終盤に大きな仕事があり、試写に行く時間が取れず、
本数は伸び悩みましたが、140本の新作を見せてもらいました。
個人的なベスト3は、また改めて発表したいと思います。お楽しみに!
さ、今週は1本です!


『ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!』は、フィンランド映画。

フィンランド北部の退屈な田舎の村に住むトゥロは、介護病院で働く傍ら、
4人組ヘヴィ・メタルバンドを組んでいて、ボーカルを務めていました。
実は、結成12年のバンドなのに、一度も人前でライブをやったことがありません。
その理由は2つ。ひとつはカバーばかりで、オリジナル曲がないこと。
もうひとつは、トゥロが極度の上がり症だから。
そんな彼らに、自信たっぷりのオリジナル曲が誕生します。
すると、トナカイの解体業を営んでいるギターのロットヴォネンの家に、
偶然、演出に使うためのトナカイの血が欲しいと、
ノルウェーの巨大メタルフェスの主催者が訪れます。
ここぞとばかりに、デモテープを渡し、フェスへの出場を打診するトゥロたち。
返事を待っている間に盛り上がるメンバーを見て、「フェスに出場出来るぞ!」と、
トゥロはついウソをついてしまうんですね。
そのニュースが村じゅうに広まり、彼らは一躍ヒーローに。
しかし、ウソがバレてしまい、バンドは解散を余儀なくされてしまいます。
すると、ドラムのユンキが、自動車の運転中に事故で亡くなってしまうんですね。
ユンキのためにと、トゥロは一念発起し、バンドを再結成。
訳ありの新ドラマーを加えて、ノルウェーの巨大フェス会場へと乗り込むのでした…。

フィンランドは超メタル大国なんだそう。
あらすじですから、話はだいぶはしょってますが、他にも登場人物はたくさんいるし、
サイドストーリーもいっぱいあります。
昔、『アンヴィル』という、ロックバンドを描いた映画があって、
それがすごく良かったので、近いものがあるかなぁと期待して見に行きました。
で、どうだったかと言うと、似たテイストはありましたが、
若干、作りの“粗さ”が気になっちゃったかな。
それでも、どこの国の若者にも共通の、恋と音楽の青春サクセスストーリー。
トゥロたちのバンド名は“インペイルド・レクタム”。直訳すると“直腸陥没”(笑)。
お国柄なのか?ちょっぴりグロいシーンもありますが、
特にメタルファンや、バンドをやってる人には楽しんでもらえると思いますョ。☆3つ。
「ヘヴィ・トリップ 俺たち崖っぷち北欧メタル!」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.12.20

『冬時間のパリ』☆☆☆
『ブレッドウィナー』☆☆☆☆


2019年もあと少し。師走の慌ただしさが、街中を覆います。
こんな時だからこそ、ちょっと小休止。映画でも見てみませんか?
さ、今週は2本です!


『冬時間のパリ』は、二組の夫婦を描いた、大人のラブ・ストーリー。

アランとセレナは、仲のいい夫婦。
夫のアランは、出版社の敏腕編集者。
彼は今、昨今の電子書籍ブームにどう対応すべきか、頭を悩ませていました。
妻のセレナは、人気テレビシリーズに出演中の女優。
しかし、マンネリ化した役どころに、正直飽きが来ていたのです。
この夫婦、実はどちらも不倫をしていました。
夫はデジタル担当の女性部下のロールと、
妻は夫の友人でもある私小説作家のレオナールと、浮気をしていたのです。
レオナールも既婚者ですが、そのレオナールの新作が、
なんとエレナとの不倫を題材にした私小説。私小説ですから、描写はリアル。
アランはこの“新作”の出版を依頼されるのですが、
まさかモデルが妻であろうことなど、知るよしもなかったのです…。

フランス、パリですから、恋愛も自由っちゃ、自由なんでしょうけど、
浮気はNGのボクにとっては、あまり気持ちのいいお話ではなかったかなぁ(笑)。
フィクションだろうが、何だろうが、裏切られてる側の人の気持ちになっちゃう。
って、この夫婦はどちらも不倫してるんだから、お互い様なんですけどね。
出版のデジタル化、女優としての行き詰まりに象徴されるように、
年を重ね、そろそろ変革も必要な熟年世代。
主人公以外の登場人物もしかり。
足掻き、もがく姿も、パリらしく、オシャレでスタイリッシュに描かれています。
「大人だね」で片付けられるかどうかは、あなた次第です(笑)。☆3つ。
「冬時間のパリ」公式サイト



『ブレッドウィナー』は、アフガニスタンを舞台にしたアニメーション映画。

アフガニスタンのカブールに暮らす、11歳の少女パヴァーナ。
元は教師でしたが、戦って片足を無くした父と、作家だった母、
それに姉と幼い弟と、ひとつの部屋に住み、市場で父と共に、
人々の手紙を代読したり、代書したりすることで収入を得ていたのです。
街はタリバンの支配下にあったため、女性だけでの外出は禁止、
女性に物を売ったら罰せられるなど、女性は様々な制約を受けていました。
そんなある日のこと、突然タリバンの兵士が家に押し入り、
父を連行して行ってしまったのです。
理由もわからず、大切な男手を奪われたパヴァーナたち。
パヴァーナは、母とふたりで刑務所まで行き、父親に面会しようとしますが、
途中でタリバンに見つかり、「女だけで外に出るな。帰れ」と、
母親はひどく痛めつけられてしまいます。
買い物にも行けず、食料も底を尽きかけた時、パヴァーナは重大な決意をするんですね。
髪の毛をバッサリ切り落とし、男の子に成りすますのでした…。

アメリカに同時多発テロが起きた、2001年のアフガニスタンが舞台。
タイトルにもなっている“ブレッドウィナー”とは、一家の稼ぎ手を言うそうです。
パヴァーナは父から教わった“物語”を、幼い弟をあやすために語り聞かせるのですが、
主人公の少年も、村人のために恐ろしい怪物と勇敢に闘うお話。
何とか父を救おうと奮闘する自らの姿を、重ね合わせていくんですね。
アンジェリーナ・ジョリーが支援を申し出て、監督をサポートしたそう。
我々日本人にもすーっと入りやすい、どこか懐かしさを感じさせるタッチ。
おそらく、それは世界共通なのでしょう。
第90回アカデミー賞の長編アニメ映画賞にもノミネートされました。
どんな困難の中であろうと、力強く生きている少女がいるんだということを、
世界中に知らしめた作品。
それも遠い昔ではなく、20年と経っていない21世紀の話なんだと思うと、
愕然としてしまいます。☆4つ。
「ブレッドウィナー」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.12.6

『“隠れビッチ”やってました。』☆☆☆


11月は、試写にほとんど足を運べませんでした。
優先事項があり、まったく時間が取れなかったということです。
見たくても、見られなかった試写も数多く…。う〜ん、残念。
その分、12月は追い込みたいと思います!
さ、今週は1本です!



『“隠れビッチ”やってました。』は、あらいぴろよの同名コミックの実写映画化。

26歳、荒井ひろみ。
デパートのプリン売り場でアルバイトをする独身女性。
彼女は、シェアハウスで、バイセクシャルのコジと、
すぐに男性に体を許してしまう彩との3人暮らし。
ひろみ自身はというと、男をその気にさせて、告白されたら、ハイ、さよなら。
ゲームのように男心を弄ぶひろみを、コジと彩は“隠れビッチ”と罵ります。
「“隠れビッチ”。いいじゃない、その言い方!」。
ひろみには、どこ吹く風でした。
ひろみの新たなターゲットは、バイト先の安藤という年下の男の子。
ところが、安藤はモテ男くん。
ひろみのために買ったと言っていたヘルメットを別の女性に被せて、
バイクで走り去るのを見て、ひろみは敗北感と共に、
本当に安藤のことが好きだったんだと気付くんですね。
ヤケ酒を煽って醜態をさらしているところに、
百貨店の責任者である三沢が通りかかります。
酔った勢いで、自分のすべてを三沢に話したひろみ。
生き方を反省し、
昔からの夢だったイラストレーターになるために転職を決意したひろみが、
三沢に退職の挨拶に行くと、思いもよらない三沢の言葉が待っていました。
「好きです。荒井ちゃん」…。

“しあわせはいつもじぶんのこころがきめる”とは、相田みつをさんの言葉。
それを履き違えたような主人公ひろみの言動に、フィクションとはいえ、
あまりいい心地はしませんでした。
“三つ子の魂、百まで”という諺が、ずーっとつきまとうような映画でしたが、
誰かのせいにしてたって、人生はつまらない。
それこそ、あなたの人生の映画監督は、あなた自身なんだから。
ストーリーをハッピーエンドにしようと努めるのも、
悲劇のままでと諦めるのも、あなた自身。
なんて、フィクションに目くじら立てても仕方ないけど、
登場人物の誰にも感情移入が出来ないストレスはこんなに大きいのかと(笑)。
あくまで個人的な感想です。
コミックの映画化なんだから、笑って見てればいいんでしょうけどね。
ジェネレーションギャップかなぁ…。
あ、映画としてダメではないので、誤解なく(笑)。☆3つ。
「“隠れビッチ”やってました。」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.11.30

『テルアビブ・オン・ファイア』☆☆☆
『台湾、街かどの人形劇』☆☆☆
『ハルカの陶(すえ)』☆☆☆☆
『羊とオオカミの恋と殺人事件』☆☆☆


すみません。
先週22日公開の映画『テルアビブ・オン・ファイア』の紹介を忘れてしまいました。
今週、改めて紹介させて頂きます。
さ、今週は4本です!



『テルアビブ・オン・ファイア』は、エルサレムを舞台にした、
イスラエル人とパレスチナ人のコメディ。

イスラエルのエルサレムに住む、パレスチナ人のサラームは、
叔父のバッサムがプロデューサーを務めるTVドラマ
『テルアビブ・オン・ファイア』の現場で下働きをしていました。
あるシーンで、言葉遣いの違和感を指摘したサラームは、
脚本家からは睨まれるものの、主演女優のタラからは信頼を得るんですね。
仕事を終え、家に帰る途中、いつもの検問所で女性兵士に語りかけたところ、
不審人物だとの嫌疑をかけられ、
イスラエル軍司令官のアッシのもとへと連行されてしまいます。
高圧的だったアッシの態度が一変したのは、
サラームがドラマ『テルアビブ・オン・ファイア』の仕事をしていると知った時。
実はこのドラマ、妻が大好きな番組だったのです。
それからというもの、検問所を通る度に、アッシは何かとサラームに、
ストーリー上の注文をつけるようになるんですね。
しかし、それが意外と的を射ていて、ドラマの現場でサラームが進言すると、
これが採用されるようになります。
面白くないのは脚本家。怒って、辞めてしまいます。
叔父はサラームに脚本を書くよう命じますが、そうなったらそうなったで、
なかなかいいアイデアが出ません。
そこで頼ったのが、アッシでした。アッシの書く脚本がドラマのストーリーに。
ところが、対立する民族の、それも素人の軍人が書く脚本。
思わぬトラブルが起きてしまいます。果たして、サラームはどう対処するのでしょうか…。

テロや紛争で知られる地域のイスラエルとパレスチナですが、
意外や、それぞれの民族の往来は多く、
ボクら思っているほど、庶民のピリピリ感はないとか。
このTVドラマも、政治的なイデオロギーは脇に置いて、
ロマンチックなラブ・ストーリーが魅力。
民族を越えて、多くの女性たちに支持されていたのです。
アッシの妻もそのひとり。
中東でもどこでも、妻のご機嫌とりが大事なのは変わらないようで、
軍では偉いアッシも、ドラマの筋書きをサラームに強要することで、
妻の前で偉そうに出来るという(笑)。
その歪みが、後になって、サラームを苦しめることになるのですが、
そんな困窮した状況をサラームがどう切り抜けるのかが見どころとなっています。
“笑撃のラスト”とありますが、実際の衝突も、
笑顔で終われるようになるといいんですけど、現実は…。☆3つ。
「テルアビブ・オン・ファイア」公式サイト



『台湾、街かどの人形劇』は、
台湾の伝統芸能である布袋戯の大家、
チェン・シーホァンを追ったドキュメンタリー。

布袋戯。それは布袋で出来た人形衣装の中に手を入れて操る人形劇。
台湾の民間芸能です。
神への敬意を表すことを第一義とする一方で、子供にとっては、
TVでアニメを見るのと同じぐらい楽しみだったと言います。
そんな布袋戯の巨匠がチェン・シーホァン。88歳を過ぎて、
今なお現役の人形師なんですが、実は、父のリ・ティエンルーも布袋戯の大家。
人間国宝たる父の存在は、親子の繋がりをも超えた師弟の関係。
複雑な思いもありながら、息子チェン・シーホァンは父の背中を追い、
自身も人間国宝にまで、登りつめます。
今は、現代風の布袋戯が盛んになり、
昔ながらの伝統を大切にした布袋戯が減っていると言います。
新たな時代のニーズの中、古き良き伝統を、どう折り合いをつけて残すのか。
それとも、敢えて滅するを潔しとするのか。
日本にも同じようなことはあります。
お隣りの文化に学ぶことも多そうです。☆3つ。
「台湾、街かどの人形劇」公式サイト



『ハルカの陶(すえ)』は、
週刊漫画TIMESで連載された同名コミックの実写映画化。

東京で、OLとして、平凡な日々を生きてきた小山はるか。
偶然、上司のお供で向かった百貨店の展示会で、
備前焼の大皿の前で足が止まります。
えもいわれぬ感動を覚えたはるかは、岡山県備前市に住む作者を訪ねます。
出て来たのは、いかにも職人気質といった、愛想の悪い、修という男性でした。
はるかが陶芸への思いを伝えても、ぶっきらぼうに突き放すだけ。
はるかは追い返されてしまいます。
うなだれていたはるかに、陶人という地元の老人が話しかけてきます。
陶人は、はるかの思いを聞くや、備前焼の魅力を語って聞かせるんですね。
この陶人という老人は、備前焼の人間国宝だったのです。
もう一度、修の工房へと向かうはるか。
ろくろに向き合う修を前に、今度は力強くこう言ったのです。
「弟子にして下さい!」…。

もっと文芸的に作られた、どちらかというと堅くて、
たいくつな作品かなと思って臨みましたが、いやいや、全然そんなことはなく。
おそらく、はるかの頑張る姿が、
本当に見る人に感動を与えるからだと思うんですね。
脚本の妙というか、隙がない。
あと、はるか役の奈緒という女優さんがいいんです。今後の活躍にも注目です。
成し遂げることの喜びを、映画の中でバーチャルに感じたならば、
それを現実の生活でも感じてみたくなる。そんな1本。
勇気とやる気をもらえると思いますョ。☆4つ。
「ハルカの陶(すえ)」公式サイト



『羊とオオカミの恋と殺人』は、
マンガアプリで話題の“スプラッター・ラブコメディ”の実写映画化。

大学受験に二度失敗し、浪人中の黒須。
料金滞納で、ライフラインも止められ、人生に絶望した黒須は、ア
パートの自室で、壁にフックをつけて首を吊ろうとするも、失敗。
その結果、壁に穴が開いてしまうんですね。
覗いてみると、隣りには宮市さんという美しい女性が住んでいて、
その生活が丸見えになります。
しかし、驚いたことに、宮市さんは殺人鬼!
部屋に連れ込んだ人を次々と殺していたのです。
ある日のこと、黒須が宮市さんの部屋を覗いていたことがバレてしまいます。
ところが、宮市さんは、「私を覗いて欲しい」と言うのです。
それがきっかけとなり、付き合い始めたふたりですが、
なぜ、こんな凄惨な事件が世に出ないのか、
黒須には不思議にで仕方ありません。
そこには、とんでもない秘密が隠されていたのです…。

確かに、突飛な舞台設定(笑)。
でも、根底には、
「恋愛とは、相手の異和をどれだけ取り込めるか」だという思いがあるよう。
元々、自殺願望のある男性が、
愛する殺人鬼の女性に“殺されるかもしれない”と思いながら、
付き合っているという発想は、なかなかのアイデア。
原作は、マンガアプリ“マンガボックス”で、
閲覧数1位を独走したという裸村の『穴殺人』。
スマホのアプリ世代が、この実写映画化をどう評価するのか?
そこにも興味が湧きます。☆3つ。
「羊とオオカミの恋と殺人」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.11.23

『草間彌生∞INFINITY』☆☆☆☆
『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』☆☆☆☆☆


今週紹介する1本、『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』は、
今年のボクのNo.1ムービーです!
いやぁ、本当にいい映画でした。
もちろん、全然そう感じない方もいると思いますョ。映画はそれでいい。
おそらく、大きな話題になることもないでしょう。
だからこそ、このコラムを読んでみて、ちょっとでも気になったら、見て来て下さい!
さ、今週は2本です!



『草間彌生∞INFINITY』は、
水玉と網目で世界を魅了する芸術家、
草間彌生のこれまでを追ったドキュメンタリー。

1929年、長野県松本市の裕福な家庭に、4人兄弟の末っ子として生まれた、草間彌生。
母は父の不貞に悩み、草間彌生本人の絵画への思いは家族に理解されず、
幻聴や幻覚を体験した幼少期。
その後、“アメリカモダニズムの母”と呼ばれる、
ジョージア・オキーフの絵に魅せられ、彼女はオキーフに手紙を書きます。
「アメリカにいらっしゃい」。
オキーフのそのひと言で、1957年、1ドル=360円の時代に、草間彌生は単身渡米。
活動拠点をNYに移します。
NYと言えども、当時は人種差別や性差別がはびこっていた時代。
東洋人の女性芸術家が生き延びるには困難な環境であったことは、想像に難くありません。
60年代後半には、ベトナム戦争に反対するため、
ボディ・ペインティングのゲリラ・イベントを敢行したところ、
故郷の松本からは“ハレンチの女王”と痛烈なバッシングを受けてしまいます。
どんなに革新的な芸術を生もうとも評価されない。
彼女はアメリカを出て、73年に帰国しますが、
強迫神経症やうつ病で、自ら精神病院に入院することに。
日本では誤解され、NYでは忘れ去られ。
そんな彼女が、再び表舞台に登場するきっかけは、
「これほどの天才を何とか正当に評価させたい」と願った、キュリエーターたちの情熱でした。
1989年ですから、60歳の年に、NYで『草間彌生回顧展』が開かれたんですね。
NYでは、20年以上も展示されなかった作品たちに、まさに時代が追いついたのでしょう。
再び評価され始めたのです。
ドット(水玉)とネット(網目)。
今や、草間彌生の作品は、世界的現象となっています。
そんな彼女の作品が、故郷、松本市の松本美術館のオープニングを飾り、
松本市の名誉市民に選ばれたことは、バッシングを受けていたあの頃には考えられなかったはず。
うれしい出来事だったと思います。
60歳で花開く。90歳の今も、現役の芸術家として作品を生み出す草間彌生。
諦めないこと、冷めることのない情熱を持ち続けることの大切さを、
ボクらに教えてくれます。
あと、そんな姿を誰かが必ず見ていてくれることも!☆4つ。
「草間彌生∞INFINITY」公式サイト


『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』は、
ダン・フォーゲルマン監督・脚本の、珠玉のヒューマン・ドラマ。

ウィルとアビーは幸せいっぱいの夫婦。アビーのお腹の中には、
第一子がいて、間もなく生まれてくる日を、ふたりは待ちわびていました。
ところが、何とアビーはウィルの目の前でバスにはねられて、亡くなってしまったのです。
悲しみに暮れるアビーは、自分の感情を抑えきることが出来ませんでした。
お腹の子は無事産まれます。ふたりが好きだったボブ・ディランから名付けられた、
ディランという名の女の子は、祖父母に育てられ、
今はミュージシャンを夢見て、ライブハウスで音楽活動をしています。
そんなディランの、21年前の母の死には、ひとりの少年が関わっていました。
遠くスペインに暮らすその少年と、少年の両親にも、出会いと別れ、人生の物語がありました…。

いやぁ、よかったです。
人間関係は複雑、でもないのですが、文字にしちゃうときっとわかりづらいから、
本当はあらすじさえ書きたくなかったぐらいで(笑)。
言っちゃえば、あなたが想像している通り。最後は、皆が繋がってチャンチャンなんですよ。
でもね、「なんだ、結局、皆が繋がってチャンチャンか…」と思う人はそれでいいし、
そこまでなんです。
でもボクには違った。
この映画に出て来る登場人物が、みーんな“滅私”。
みーんな、誰かのために生きている。
見ているボクらも騙されながら、でも人の優しさを知る。
そんな人たちの思いや優しさが、バトンのように受け継がれて、で、
最後にまとまってダーッとやって来るんですから。感動しないはずがない。
なんだろ、号泣じゃないんです。もっと深いところから染み出てくる感じかなぁ。
うちは両親が滅私の人。特に母親がそう。受け継がれるんです。そう、ボクにもね。
これがまさに“価値観”なんだと思います。
ボクにとっては、今年No.1の作品。でも、意見は分かれていいんです。
同じ価値観の女性との出会いを、ボクは未だに夢見ているんです。笑ってやって下さい(笑)。
「胸が張り裂けるほどの悲しみのその隣に必ず隠れている幸せの見つけ方」。満点!☆5つ!
「ライフ・イットセルフ 未来に続く物語」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.11.15

『i 新聞記者ドキュメント』☆☆☆☆
『いのちスケッチ』☆☆☆
『影踏み』☆☆☆☆☆
『殺さない彼と死なない彼女』☆☆☆☆


今まで、あまり本を読まない人生だったのですが(笑)、
最近時間があると、面白かった映画の原作小説などを読んだりもします。
今週紹介する『影踏み』は逆で、先に小説を読んでから試写を見たパターン。
「なるほど、こう変わるのか…」というのが、今さらですが、新鮮でした(^-^)。
さ、今週は4本です!



『i 新聞記者ドキュメント』は、タイトル通りのドキュメンタリー。

東京新聞の記者、望月衣塑子。
官邸取材で、菅官房長官に何度も同じ質問を繰り返し、
官房長官は辟易とした表情を浮かべ、
官邸スタッフが「短めにお願いします」と咎める。
そんな姿が話題となり、有名にもなった女性記者です。
でも、彼女は言います。
「納得できる答えを頂いていないので繰り返しています」。
この映画の監督は、オウム真理教を題材にした『A』『A2』、
ゴーストライター騒動の佐村河内守を追った『FAKE』など、
ドキュメンタリー作品で鋭く社会を斬る森達也。
「この国のメディアはおかしい。ジャーナリズムが機能していない」。
そんな声が多く聞こえるようになったがゆえに、望月衣塑子に密着。
辺野古基地移設問題、森友・加計問題などを中心に、彼女というフィルターを通して、
今のジャーナリズムの在り様を検証していきます。
新聞社によって、確かに報道に偏りがある。
報道・表現は自由だから、それでいい。ただ、誰のための報道なのか。
国民ため?それとも、政治家を含む、一部の人間のため?
実は、ボクは右寄りと言われる新聞と、左寄りと言われる新聞の2紙を宅配で読んでます。
それは、読み比べないと、偏った知識を自分に植え付けてしまう怖れがあるから。
保守でも、リベラルでも、思想は人それぞれ。どちらでもいい。
ただ、メディアがプロパガンダ(意識誘導)になることだけは、確かに避けないと。
映画の中で、ある別の記者が、次のような意味のことを言います。
「時の政権が右ならボクらは左と言われ、左なら右と言われるんだろうね。
ボクら記者というのは、きちんと政府が国民のために機能しているかを注視するための存在なんだ」。
そんな目で見ると、望月衣塑子という記者の、
ジャーナリストとしての“志”が、より鮮明に見えてくるかも。
タイトルの“i”は、監督の思い。主語が多数になると、ぼやけて見えなくなるものが増える。
少数で考えて。主語は単数のほうがいいと。面白かったです。☆4つ。
「i 新聞記者ドキュメント」公式サイト



『いのちスケッチ』は、実話に基づくストーリー。

漫画家を目指して上京したものの、挫折。
故郷の福岡に帰ってきた亮太が始めたのが、地元の動物園でのアルバイト。
この動物園は、動物福祉に力を入れた、世界でも珍しい“延命動物園”でした。
ところが、市の予算縮小のあおりを受け、園の存続が厳しくなります。
アメリカの動物園からの引き抜きをも断って、
この園のために頑張っている優秀な獣医師の彩を始め、スタッフはみんな動物が大好き。
初めは気軽な気持ちで始めた飼育員のアルバイトでしたが、亮太の心にも変化が生まれます。
自分にいったい何が出来るのだろう。亮太が出した答え、それは絵を描くことだったのです…。

福岡県大牟田市にある、大牟田市動物園がモデルの映画。
「動物園の動物たちは幸せなのだろうか?」。
確かに考えたこと、ありますよね。
天敵はいない。食事は与えてもらえる。でも、それをボクたち人間に当てはめてみたら?
例えば、飼育されている小動物を見て、「かわいい!」と思わず口にしますよね。
それもよくよく考えたら、人間のエゴだと。
望まない環境で暮らす動物たちが、幸せでいられるにはどうしたらいいか。
それを一義に考えているのが、この大牟田市動物園で、
そこでの研究、データに世界が注目しているんだとか。
こういう取り組みを知るのも、映画のひとつの力だなと感じました。☆3つ。
「いのちスケッチ」公式サイト



『影踏み』は、山崎まさよし主演、篠原哲雄監督作品。

真壁修一は、“ノビ師”と呼ばれる窃盗犯。
ノビ師とは、空き巣と違い、深夜に住人が寝静まったところに忍び込む泥棒のこと。
修一は凄腕のノビ師で、警察からは“ノビカベ”と呼ばれていました。
県会議員の家に忍び込んだ時のこと、床には灯油らしきが撒かれていて、
妻が夫に火をつけようとしています。
止めに入った修一でしたが、通報もされていないのに、
幼なじみの刑事、聡介に逮捕されてしまいます。
2年の刑期を終え、出所した修一を迎えたのは、弟の啓二でした。
なぜ、通報前の県会議員の家に聡介がいたのか。
なぜ、妻は夫に火をつけようとしていたのか。修一は、それを探り始めます。
そんなさなかに、聡介が何者かに殺されたとの報が入ったのでした…。

ミステリー作家、横山秀夫の人気小説を映画化。
山崎まさよしが、ダークヒーローを演じていることも話題となりそうです。
修一は、弁護士を目指していたほどの秀才でしたが、ある出来事がきっかけで、盗みの道へ。
そんな修一には、保育士として働く久子という恋人がいるのですが、
一途に耐え忍ぶ久子を幸せにするのは自分ではないと、今一歩踏み出せずにいたのです。
簡単に説明できないからこそ、人気のミステリー小説なんですが(笑)、
複雑な原作を、なるほどこう作るとわかりやすく、
ドラマになるんだなという1本。さすが、篠原哲雄監督です。
脇を固める俳優陣の大切さも感じました。
修一兄弟の母に大竹しのぶ、久子に尾野真千子。素晴らしい演技です。
思わず監督に、「大竹しのぶさんでよかった。尾野真千子さんでよかった。」と、
感想を送ってしまったほど。
それぞれの登場人物の裏側にある生き様を描いた、ヒューマンサスペンスでもあります。
是非、劇場でご覧になってみて下さい。満点!☆5つ!
「影踏み」公式サイト



『殺さない彼と死なない彼女』は、ツイッターで話題の“泣ける4コマ漫画”の映画化。

「殺す」が口グセのスマホ依存少年、小坂れい。
「死にたい」が口グセの“リストカット”少女、鹿野なな。
ふたりは、同じ高校に通う同級生でした。
ななはクラスで、完全に浮いた存在。
でも、そんな彼女が、ハチの死骸を丁寧に埋葬する姿を見て、れいは妙に興味を抱いたのです。
口の悪いれいに、初めは嫌悪感を抱いていたななでしたが、次第にふたりの距離は縮まっていきます。
「殺す」、「死ねっ」。
いびつな恋人同士の、それでも互いにかけがえのないカップル誕生でした…。

間宮祥太郎と桜井日奈子。今、注目を集めるふたりが主役を務めます。
あらすじに書いた内容だけだと、“泣ける”とはなりません。物語には、様々な仕掛けがされています。
“かけがえのない”は、まさに“唯一無二の”ということで、そんな出会いがあれば、本当に幸せで。
でも、もしそれを失ってしまったとしたら、その喪失感は、だからこそ大きい。
恋愛の残酷な側面でもあります。
あまり話すと、ネタバレになりかねないので、このへんにしておきますが(笑)、
人生のいろんなことを考えさせられる1本。
あ、ボクは“泣く”まではいかなかったけど、いい映画だなとは思いました。
個人的には、「桜井日奈子は、やっぱり元カノにそっくりだなぁ」
なんてことも思い出してました(笑)。☆4つ。
「殺さない彼と死なない彼女」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.11.8

『永遠の門 ゴッホの見た未来』☆☆☆
『スペインは呼んでいる』☆☆
『マイ・フーリッシュ・ハート』☆☆☆


今週は、絵画、グルメ、音楽。まさに芸術の秋、食欲の秋といった感じ。
気になったら、ご自身の目で確かに映画館へ。
さ、今週は3本です!



『永遠の門 ゴッホの見た未来』は、フィンセント・ファン・ゴッホの生涯を描いた作品。

1853年3月30日、オランダのフロート・ズンデルトに生まれたゴッホは、
様々な挫折を経て、27歳で画家になろうと決意します。
“芸術の都”パリでまったく評価されず、頭を抱えていた時、
出会ったばかりのゴーギャンから「南へ行け」と言われ、
南フランスのアルルに移り住むんですね。ゴッホ、35歳の時でした。
広大な畑、どこまでも続く大地、沈みゆく太陽。
まだ見ぬ光を見たいというゴッホの願いは、この地で叶ったのです。
しかし、些細なことから、地元の人たちとトラブルになり、病院に強制入院させられてしまうんですね。
兄を慕い、常に手を差し伸べてくれる弟のテオにだけ、ゴッホは心の内を打ち明けます。
「自分には、特別なものが見えるんだ」と…。

これまでにも、数多く、ゴッホの人生を描いた作品がありましたが、
ジュリアン・シュナーベル監督は、「自分だけに見える、その美しさを人々に伝えたい」
という使命と情熱から、ゴッホは絵筆をとったのではないかと考えたそう。
「その色使いや独特のタッチが、ゴッホにはそう見えていたのか…」。
そう考えると、ゴッホの絵を一段と興味深く見ることが出来ますよね。
先月、『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』という
ドキュメンタリー映画を紹介しました。
37年という短い人生の中の、さらに短い10年ほどの画家生活。
アルルに移り住んでからは僅かに2年。
その解釈には様々な捉え方があるんだなぁと、両者を見比べて思った次第です。
上野の森美術館の『ゴッホ展』は、来年1月13日まで。
映画を見てから、ゴッホの作品に触れてみてはいかがですか?☆3つ。
「永遠の門 ゴッホの見た未来」公式サイト



『スペインは呼んでいる』は、大ヒット・グルメ旅シリーズの第3弾。

イギリスのショービズ界で活躍するスティーヴ・クーガンとロブ・ブライドン。
実生活でも仲良しの、個性豊かな2人が、今回はスペインを旅します。
イギリスからフェリーでサンタンデールに入り、1週間かけて、スペインを縦断。
観光と美食の1000マイルです。
『スティーヴとロブのグルメトリップ』、『イタリアは呼んでいる』に続く第3弾で、
それはそれは賑やかな2人が、しゃべりまくりながらの旅なんですが、
“抱腹絶倒”と言う割には、申し訳ないんですが、笑えない(笑)。
ツボが違うんだと思います。
個人的な感想ですが、これは英語圏の人のための映画か、
あるいはスペインを懐かしむ環境にある人のための作品かと。
物まねも、あんまりよくわからない…(苦笑)。
もらった資料には「もっと楽しむための手引き」がありました。
逆に、これが必要なんだってこと。
自分の浅さを露呈するようで、お恥ずかしいのですが。
面白味がわからず、すみません。☆2つ。
「スペインは呼んでいる」公式サイト



『マイ・フーリッシュ・ハート』は、伝説的トランペット奏者、
チェット・ベイカーの、最期の数日に焦点を絞った映画。

1988年5月13日未明、オランダ・アムステルダムの、
場末のホテルから転落したと見られる、男性の死体が発見されます。
その男性は、伝説的ジャズ・トランペット奏者のチェット・ベイカー。
自殺なのか、他殺なのか、それとも単なる事故なのか。
現場に駆けつけた、地元の刑事ルーカスが捜査を始めます。
ホテルの部屋には、ドラッグ用の注射器とトランペットが。
関係者を訪ね、聞き込みを続けて行くうちに、
ルーカスは、チェットの苦悩に満ちた、心の闇を知ることになるのです…。

2015年、イーサン・ホーク主演の映画『ブルーに生まれついて』も、
チェット・ベイカーの伝記映画でしたが、今作は、死の直前の数日間に的を絞り、
架空の刑事ルーカスが事件を捜査する中で、
チェットのこれまでの人生を掘り起こしていくという手法。
尚、ルーカス以外は、ほとんどが実在の人物だとか。
“天才”とか、“伝説”なんて言葉で表現される人は、その重圧も想像以上なのでしょう。
凡人のボクにはわかる術もなく。
ただ、その音や歌声に響く哀しみは、まさにチェット・ベイカーそのものだったんだろうなぁと。
ミステリーの要素もあり、チェット・ベイカーを知らなくても、
十分に楽しめる1本に仕上がっています。☆3つ。
「マイ・フーリッシュ・ハート」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.11.1

『CLIMAX クライマックス』☆☆☆
『最初の晩餐』☆☆☆
『人生、ただいま修行中』☆☆☆
『閉鎖病棟 それぞれの朝』☆☆☆


ある日のことです。「今日は映画の日!」と、
朝からまとめて試写を見ようと張り切っていたら、ちょっとしたトラブル発生。
1本のみで、あとの試写会行きを断念せざるを得ませんでした。
こういうことがあるから、なるべく先送りしないようにはしてるんですけどねぇ。なかなか…。
さ、今週は4本です!



『CLIMAX クライマックス』は、“奇才”ギャスパー・ノエ監督の最新作。

1996年。有名振り付け師のオーディションに合格した22人のダンサーたちが、
アメリカ公演のためのリハーサルで、携帯電話もつながらない、
山奥の廃墟に集まりました。
外は雪。大音量の音楽も、まったく迷惑にはなりません。
リハは順調に進み、仕上げも無事終了。
打ち上げパーティーがスタートし、メンバーたちは思い思いのダンスに興じます。
メインのドリンクは、カクテルの中にフルーツが浮くサングリア。
しかし、そのサングリアの中に、何者かが大量のLSDを投入していたのです。
その場にいる皆がトランス状態に。
狂気が加速度を増す中、パーティーは進んでいくのでした…。

数々の“問題作”を、世に送り出してきた、ギャスパー・ノエ監督。
今作も、カンヌ国際映画祭で上映されるや、賛否が真っ二つに割れ、
気分悪そうに退室する観客もたくさんいたとか。
あちこちに仕掛けがなされ、それに気付くと深みもわかるようですが、
ボクは残念ながら浅いもので…(笑)。
ただ、長回しの冒頭のダンスシーンは圧巻!出演者は、演技経験のない、
本物のダンサーたちがほとんどだそうで、その実力の確かさと、演出のすごさに圧倒されます。
不快に感じる理由は、おそらく、トランス状態の人間の自我の露呈にあり。
これもまたこの映画の主張の一部と受け入れるか否か、かな。
「ものは試しに見てみては?」
これが、この作品の最大のプロモーション用語かも(笑)。
映画を感じる脳のパーツを、いつもとは別にして臨むといいかもしれませんョ。☆3つ。
「CLIMAX クライマックス」公式サイト



『最初の晩餐』は、常盤司郎監督が家族を描いたオリジナル・ストーリー。

父・日登志が亡くなります。
故郷の実家には、カメラマンになって2年目の麟太郎、姉の美也子、
母・アキコが、久々に集まり、葬儀の準備をしています。
日登志は登山家で、アキコとは再婚同士。
美也子が9歳、麟太郎が7歳の時に新しい家族になったのですが、
その時、アキコには15歳の息子・シュンがいたんですね。
麟太郎と美也子には、新しい兄が出来、ぎくしゃくしながらも徐々に打ち解けながら、
5人家族として暮らしていったのでした。
ところが、父とシュンが2人で登山に行った翌日、
シュンは自身の22歳の誕生日に家を出て行ってしまいます。
それ以来、会っていないシュンと、麟太郎、美也子。
葬儀で母が参列者に振る舞った料理、それは目玉焼きでした。
そして、扉が開き、シュンが姿を現します。15年振りの再会…。

ものすごくドラマチックな展開はありませんが、
実際の家庭でも起こるような小さな波が、あちこちに立ちます。
母が仕出しの料理をキャンセルしてまで、皆に振る舞った目玉焼き。
それは父・日登志が初めて家族に作った料理。それが、この映画のタイトルにも関連してるんですね。
シュンが家を出た理由。気になるでしょ?
山小屋で父と新しい息子は、何を語ったのか。それは見てのお楽しみ。
この映画の見どころのひとつは、その出演者たち。
染谷将太、戸田恵梨香、窪塚洋介、斉藤由貴、永瀬正敏。
これからの日本の映画界を背負って立つであろう俳優陣が揃いました。
秋という季節の公開がぴったり。そんな1本です。☆3つ。
「最初の晩餐」公式サイト



『人生、ただいま修行中』は、看護師を目指す、フランスの若者たちのドキュメンタリー。

パリ郊外にある看護学校。
移民やその子孫が多いフランスらしく、国籍や出身地、宗教までもが違う生徒たちが、数多く集います。
それぞれが、それぞれに志を抱いて入学するのですが、そこは人の命を扱う職業。
一筋縄では行きません。
注射も点滴も、すべてが初体験の彼らですが、
1年目からインターンシップとして、実際の医療現場へ。
患者とのやり取りに、よく言えば“初々しさ”が、悪く言えば“危なっかしさ”が見え隠れ。
派遣先は自身では選べないのが1年目だそうで、重い心臓病患者の病棟や、
末期ガン患者のホスピス、精神科など、ややもすれば心が折れそうな経験が、
彼らを待ち構えています。
でも、そんな体験こそが、成長を促してくれるでしょうね。
ボク自身、亡くなった父の入院中、見舞いに行く度に、
「看護師さんって、本当に大変だなぁ」と、思っていたものです。
まさに“初志貫徹”。頑張って欲しいと、エールを送ります。☆3つ。
「人生、ただいま修行中」公式サイト



『閉鎖病棟 それぞれの朝』は、平山秀幸監督・脚本、笑福亭鶴瓶主演作。

あることが原因で、妻と母を殺害、死刑判決を受けた梶木秀丸。
ところが、刑の執行に失敗し、身体に障害を残すことになりながらも、
秀丸は息を吹き返したのです。
その後、長野県のとある精神科病院に入院。
陶芸を趣味としながら、静かに暮らしていたのです。
この病院には、様々な人が入院していました。
幻聴に悩む、元サラリーマンのチュウさん。
義父のDVでやってきた女子高生の由紀。
元ヤクザの重宗など、それぞれに悩みを抱えながら、日々を生きていました。
ところが、院内で殺人事件が起こります。加害者は、あの秀丸です。
一体何があったのか。
秀丸は、再び、殺人事件の犯人として逮捕され、法廷で裁かれることになったのですが…。

帚木蓬生の同名小説の映画化。
鶴瓶師匠の主演作と聞けば、きっと泣けるはずと、期待に胸が膨らみますよね。
この手の映画の難しいところは、精神科病棟の在りよう、描き方にあると思うんです。
患者の中の数名が、作品の真ん中にいる。
その他の患者たちは、普通の映画ならスポットライトが当たらないポジションなんだけど、
舞台が舞台なので、彼らの個性も描かざるを得ない。
ただ、それが必要なのか、どうなのかってところでしょうか。
例えば、家族に会うために外出が許可されている、女性患者のサナエという登場人物がいます。
彼女の悲哀は、このシチュエーションに不可欠だと思います。
他については、「わかるんだけどなぁ…」って感覚なんですよね。
あくまで個人的な感想、肌感です。自身でご覧になって、感じてみて下さい。☆3つ。
「閉鎖病棟 それぞれの朝」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.10.26

『空中茶室を夢みた男』☆☆☆
『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』☆☆☆


最近はちょっと多忙で、試写会も選んで行かざるを得ない状況になっています。
「見なかった映画がいい作品だったらどうしよう」。
そんな不安は常につきまといます(笑)。
行ける試写会は、大切に拝見したいと思ってます。
さ、今週は2本です!



『空中茶室を夢みた男』は、
江戸・寛永期の文化を代表するふたりの男性を追ったドキュメンタリー。

寛永元年は1623年。1603年に徳川家康が江戸幕府を開いて20年。
小堀遠州と松花堂昭乗が、この時代の文化を引っ張っていました。
小堀遠州は、大名茶人で総合芸術家。遠州流という武家茶道の流祖となります。
一方、松花堂昭乗は、石清水八幡宮の社僧。
書道、絵画、茶道を極め、“寛永の三筆”と称されるほどの人物。
ふたりは茶の道を通じて、親交を深めます。
遠州流は和歌を取り入れ、道具に名前を付けるのが特徴のひとつ。
遠州が昭乗に相談し、付けた名前を、昭乗が書で文字にしていったのだそう。
石清水八幡宮の男山に、昭乗が遠州に頼んで作った茶室があります。
それが“空中茶室・閑雲軒”。
現存しないこの空中茶室を、礎石や資料から考えてみようというのが、この映画のテーマ。
そこはおそらく当時のサロン的スペースで、
政治や経済の話がなされていたんだろうと推察されます。
松花堂は“松花堂弁当”の名で今に残りますが、その由来は、
昭乗が愛用していた間仕切りのある四角い道具箱から。
“綺麗さび”と呼ばれ、戦国時代の雰囲気を払拭し、
長き安定の入口にあった茶の文化を、しばし堪能してみてはいかがですか?☆3つ。
「空中茶室を夢みた男」公式サイト



『ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝』は、
無名時代のゴッホの作品に魅せられた、ひとりの女性のドキュメンタリー。

今でこそ、世界的にも“最も偉大な画家”として価されるフィンセント・ファン・ゴッホですが、
彼が存命の頃は、まったくと言っていいほど、無名の存在。
そんなゴッホの作品を、個人収集家としては最大規模となる300点も集めたのが、
ヘレーネ・クレラー=ミュラーでした。
オランダ有数の資産家でしたが、ゴッホがしていたような質素な生活を好み、
資財を投げ打ってまでクレラー=ミュラー美術館を設立。
そのコレクションは国に寄贈され、大切に保管、展示されることになりました。
フィンセント・ファン・ゴッホとはどんな人物で、
ヘレーネ・クレラー=ミュラーはなぜゴッホの絵に魅せられたのか?
それを追った90分の作品です。
今、上野の森美術館で『ゴッホ展』が開催されていて、来月8日には、
ゴッホの生涯を描いた映画『永遠の門 ゴッホの見た未来』が公開されるなど、
日本でも注目が集まるフィンセント・ファン・ゴッホ。
自身で胸を撃ったとされる死因にも様々な説があり、この2本の映画を見比べて、
ゴッホという人物をさらに知ってから実際に絵を見に行くと、感じ方はまったく違うはず。
ゴッホの導入昨品として、お勧めです。☆3つ。
「ゴッホとヘレーネの森 クレラー=ミュラー美術館の至宝」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.10.9

『ウォーキング・マン』☆☆☆
『第三夫人と髪飾り』☆☆☆
『天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


毎週気温は上がったり、下がったり。台風の影響も心配しないといけない。
“○○の秋”なんて、優雅に、のんびり過ごせる感じじゃありませんよね。
せめて心ぐらいは穏やかに…。
さ、今週は3本です!


『ウォーキング・マン』は、人気日本人ラッパー、ANARCHYの映画初監督作品。

川崎の貧しい母子家庭で、母と妹と暮らすアトム。
幼い頃からの吃音に悩み、あまり人と話すことが得意ではありません。
そんな彼は、遺品も含む、
不用品回収のアルバイトで収入を得て、家計の足しにしていたのです。
ところが母が倒れ、入院。保険に入っていなかったため、入院費は全額自己負担。
周りの大人は「自己責任だ」と冷たく突き放します。
そんなある日のこと、仕事で向かったのは、酒に溺れ、
若くして命を落としたラッパーの部屋。
遺品の整理をしていると、ラップの詞を殴り書きにしたノートと、
パフォーマンスのビデオが出てきたんですね。
それを見たアトムは、決してカッコよくはないけれど、
確かに伝わってくるものがあると感じたのです。
「ラップか」。アトムの中で何かが変わった瞬間でした…。

人気ラッパーのANARCHYが、初めてメガホンを取った作品。
決して自伝ではないとのことですが、
「ラップには、逆境をひっくり返していく精神が一番大事」と語ります。
そんな意味では、ラップの根っこみたいなものを教えてくれる1本かもしれませんね。
女子高生の妹も、何年も同じ制服のシャツを着てるから、黄ばんで友達にバカにされる。
お金が欲しいから、危ないバイトに手を出す。
大人は何でも「自己責任だ」と言う。
でも、世の中には「そうじゃないぜ」と言ってくれる大人もいたりする。
それがアトムにとっての救いにもなるし、さらには立ち上がろうとする原動力にもなるんですね。
Afrika Bambaataaや、Grandmaster Flashなんかの、
いわゆる“オールド・スクール”を聴いてきたボクにとって、
「日本のラップってどうなのさ」と思ってた時期も正直あったけど、
今は上手いヤツは本当に上手い!逆に格差は大きいかも。
エセやにわかじゃダメ。やるなら、絶対に頂点目指して頑張れって。
なっ、アトム!☆3つ。
「ウォーキング・マン」公式サイト



『第三夫人と髪飾り』は、ベトナム映画。

19世紀の北ベトナム。
大地主の男性のもとに、14歳のメイが嫁いできます。
実は彼女は第三夫人。
この家には、一人息子をもうけた第一夫人のハ、三人の娘の母である第二夫人のスアンがいたのです。
ふたりの夫人はメイに優しく接してくれますが、日が経つに連れ、メイはあることに気づくんですね。
世継ぎを産んでこそ、“奥様”の称号を得ると。
妊娠したメイは、お腹の中の子が男の子であって欲しいと祈るのでした…。

一夫多妻制が認められていた時代の、ベトナム人女性の物語。
ある意味、タブーに踏み込んだ話でもありますが、
これはベトナム人女性監督のアッシュ・メイフェアの曾祖母の体験談をもとにしたとか。
人里離れた絹の産地。いろいろな事件も起こります。
ひとつだけ書いておきますね。
ハの一人息子のソンが、第二夫人のスアンと密通していて、
ソンはスアンへの思いから、花嫁を迎えることを拒否。
若き花嫁は、実の親からも家名に泥を塗ったと罵られ、哀しみのあまり自害してしまいます。
美しいベトナムの風景と、女性たちが主役の映画。
これもまた、Bunkamura ル・シネマらしい1本です。☆3つ。
「第三夫人と髪飾り」公式サイト



『天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント』は、
世界の著名人107人へのインタビューをまとめたドキュメンタリー。

ドイツ人監督で、ドキュメンタリー作家としても活躍するハーマン・ヴァスケ。
最初は広告代理店に勤め、クリエイティブ・ディレクターの下で、クリエイティブな案件に取り組み、
クリエイティブな作品を生み出すはずのクリエイティブ部門にいたのに、
単調で何ひとつ面白くない。
そこで、本当にクリエイティブな人々に、
「Why are you creative?(あなたはなぜクリエイティブなのですか?)」
という質問を、30年以上の長きに渡り、問いかけてきたのです。
すごい人たちが登場します。
スティーヴン・ホーキング、ダライ・ラマ法王14世、ネルソン・マンデラ、
クエンティン・タランティーノ、デヴィッド・ボウイ、オノ・ヨーコ。
日本人でも北野武、山本耀司、荒木経惟などなど。
プレス資料にあったスティーヴン・ホーキングの言葉が印象的で、
「どこかに到着してしまうよりも、希望を抱きながら移動している方がずっといい」と。
確かに!
ボクなんかは、北野武の言葉に期待しちゃったけど、
あまり響かない言葉をピックアップされちゃってました。日本人として、そこはちょっと残念だったかな。
時にアポを取り、時にゲリラ的に、突撃インタビューを敢行。
これだけの数ですから、響く言葉に出会えるかと思います。
仕事に行き詰まってる人などは是非。☆3つ。
「天才たちの頭の中 世界を面白くする107のヒント」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.10.5

『エンテベ空港の7日間』☆☆☆
『“樹木希林”を生きる』☆☆☆☆☆
『典座 TENZO』☆☆
『ホームステイ ボクと僕の100日間』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


10月になりました。
日が短くなって、夕方暗くなるのが、随分と早くなりましたよね。
それでも日中は30℃を超えたりするから、変な感じ…。
秋の夜長。仕事終わりで、まっすぐ家に帰らず、
ちょっと1本映画を見てから帰宅するのも、いいかもしれませんョ。
さ、今週は4本です!


『エンテベ空港の7日間』は、ブラジル人監督、ジョゼ・パジーリャ最新作。

1976年6月27日、経由地アテネを飛び立った、
イスラエル・テルアビブ発、パリ行きのエールフランス139便。
実はこの旅客機、4人のテロリストにハイジャックされていたのです。
犯人のうち、2人はパレスチナ人、残る2人はドイツ人でした。
犯人たちの要求は、イスラエルに収監中の50人を超えるテロリストの釈放です。
乗客239名を乗せた旅客機は、
軍事クーデターでトップに立った“狂犬”アミン大統領率いる、ウガンダのエンテベ空港へ。
イスラエル政府は策を練り、秘密裏に特殊舞台を送り込み、人質の救出を謀るのですが…。

実際に起きたハイジャック事件ですが、過去3回も映画化されている70年代の題材を、
なぜジョゼ・パジーリャ監督が取り上げたのかということなんですね。
そこにはドイツ人の活動家が、どうしてこの事件に関わったのか。
犯人を、犯人グループとしてひと括りにするのではなく、
特に思想的事件の場合、その行動の背景にあるものを
しっかり捉えておくことが大切だということなのでしょう。
犠牲者が奇跡的に少なく、“奇跡の奪還”と言われ、何度も映画になってきたものが、
犯人側の心理描写に重きを置くことで、違った視点からの作品として蘇りました。
より深く見るには、パンフレットを買って、
今なお続く、パレスチナ問題を頭の中に入れてからがいいと思います。
緊迫の7日間です。☆3つ。
「エンテベ空港の7日間」公式サイト


『“樹木希林”を生きる』は、昨年9月15日に、
享年75歳で亡くなった女優・樹木希林さんのドキュメンタリー。

樹木希林さんが亡くなられてから、もう1年が経つんですね。早いものです。
ご存知のように、唯一無二の存在で、“偏屈”との声も上がるほどの、プロ中のプロ。
そんな希林さんの役者に対する“志”と、
人間としての生き様を、改めて感じることが出来る1本です。
亡くなった後に、希林さんの言葉を集めた本が出版されたり、
TVのドキュメンタリー番組が放送されたりして、世間の評価はまさに“二分”。
ただのわがままだとか、変人だと評する人もいて、
それはそれで見方としては“あり”だと思います。
それでも、希林さんの言葉が響く人って、同様にプロとしての意識で頑張っている人や、
そうなりたいと努めている人。
それは何も職業だけじゃない。
親としてのプロフェッショナルになろうとしている人だってそう。
そういう人には、特に刺さると思うんですね。
演じることへの原動力を聞かれ、
「自分に対する怒り。こんなんじゃダメだと自分を壊して行くこと」
というようなことをおっしゃってました。
徹底した準備が、仕事に臨む姿勢の裏に見える。そんな希林さんですら、
自分に満点をつけることはないのか…。そう感じるはずです。
この映画は、NHKが昨年9月26日にOAしたドキュメンタリー番組を、
未公開映像も加えて再編集。TVでは73分だったものが
、映画では108分の尺になっています。
ヘアメイクさんに、厳しく注文をつける。
でも最後に「違うって、自分で考えてやるのよぉ。でも安心しなさい。
あなたに責任を取らせるようなことはしないから」と。
本当に相手を思っての、9の厳しさと1の優しさは、
後に1の厳しさと9の厳しさに変わるとボクは信じてるんです。まさにそんなシーン。
ボクの大好きなドキュメンタリー映画に、
『デブラ・ウィンガーを探して』というのがあるんですが、その中で、
あるベテランの女優が自分の顔のシワを愛おしそうに見ながら、
「みんな整形して、若作りして。おばあちゃんになったら私のひとり勝ちよ」と笑う場面があります。
希林さんも「せっかく出来たシワなんだから、もったいない」と、愛おしそうに鏡を覗き込む。
「借り物の体なんだから、使い切らなきゃ、バチが当たる」と言うんですョ。同感!
いよいよとなり、在宅治療を選ぶ。その姿までをも映させるのは、
引き受けたからにはという頑なまでの責任感と、
1年間密着取材をしたプロデューサー氏への“9の厳しさと1の優しさ”ではなかったかと。
何か感じ入る事がきっとある。刺さって欲しい1本です。満点!☆5つ。
「“樹木希林”を生きる」公式サイト



『典座 TENZO』は、曹洞宗の僧侶が自ら出演、演技を行った映画。

ドキュメンタリーではないのですが、富士山の麓、
山梨県都留市にある耕雲院の住職・河口智賢と、福島に寺を構えながら、
震災で本堂も檀家も失い、再建を目指しながら、今は瓦礫撤去の作業員として働く、
兄弟子の倉島隆行。
このふたりを軸に、曹洞宗を通じて、人々との触れ合いを描いた映画。
典座というのは、禅宗の寺院において、僧侶や参拝者への食事を司る役職のこと。
典座職は“六知事”という重要な職務の中のひとつだそう。
ただ、やはり役者じゃない人たちの演技ですから、
お金を払って見るレベルにあるかと言えば、う〜ん(笑)。
元は世界仏教徒大会なる大会で、
日本の曹洞宗を知ってもらうための短編映画を作ろうと始まった企画。
資金集めに奔走してたら、長編を作れるだけのお金が集まり、それならばと作った映画だとか。
ならば、もう少し曹洞宗の教えとか、より深い部分にスポットライトを当てて、
ドラマ仕立てじゃなく、無宗教の人や、
他の宗教の人にも興味を持たせるような作りにしてもよかったんじゃないかと思ってしまいます。
一応、うちの菩提寺は曹洞宗なんですけどね(笑)。厳しい評価ですが、お許しを。☆2つ。
「典座 TENZO」公式サイト



『ホームステイ ボクと僕の100日間』は、タイ映画。

死亡宣告を受けた少年が、霊安室で息を吹き返します。
状況が飲み込めず、動揺していると、“管理人”なる人物が現れ、こう説明したのです。
「“当選”したキミは、人生に再挑戦できる。
自分の記憶はすべて消し、自殺したミンの肉体に100日だけ“ホームステイ”し、
自殺の原因を突き止めるのだ。
それが出来なかったら、キミの魂は永遠に消えてしまう」と。
そして渡された砂時計。逆さにしても、砂は逆流して、時を刻みます。
すると、奇跡的に生き返ったミンを、表面的には喜んでいるものの、
家族はどこかぎこちなく迎えます。
ミンのことも、ミンの家族のことも、何もわからない中で、
なぜミンは自殺したのか。それを探る日々が始まったのです…。

原作は、98年の森絵都の小説「カラフル」。
高校生活に戻ったミンに、ふたりの女子高生が寄り添います。
ひとりは、応援部に所属するリー。もうひとりは、
先輩で科学オリンピックに出場するほど聡明な、才色兼備のパイ。
パイとの仲が深まり、ミンは青春を謳歌するのですが、
彼の使命はミンの自殺の原因を究明すること。そのリミットは100日。
わかりやすいけど、わかりづらい(笑)。そんな映画でした。
自分の人生をやり直すのではなく、見ず知らずの他人の人生の謎を解く。
その設定に難しさを感じるかも。
ただ、ヒロインのチャープラン・アーリークンが可愛い!
AKBグループのタイのグループ、BNK48のキャプテンなんですって。
この映画に、原作者の森絵都さんがコラムを寄せていて、
“「カラフル」と血のつながった二卵生のふたごを見守るような思い”とありました。
何となく、その言葉の意味がわかるかなって感じです。
☆は2つにしようか、3つにしようか迷いましたが、
タイの映画界にエールを送る意味で、☆3つ。
「ホームステイ ボクと僕の100日間」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.9.26

『悪の華』☆☆☆
『サラブレッド』☆☆☆
『任侠学園』☆☆
『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』☆☆☆
『ヘルボーイ』☆☆☆
『ホテル・ムンバイ』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


今週も6本とかなりの本数です。
一度の送信で送れるギリギリの文字数かと(笑)。
秋は感性が豊かになる季節。映画は感性のサプリメントですョ。
さ、今週は6本です!



『悪の華』は、人気コミックの実写映画化。

中学2年生の春日高男。
目標も、夢もない毎日を、なんとなく生きている。そんな男の子でした。
しかし、クラスのマドンナ、佐伯奈々子のことが好き。
ある日の放課後、春日は、偶然見つけた佐伯の体操着を盗んでしまうんですね。
走り去る春日。でも、その一部始終を、クラスの問題児、仲村佐和に見られていたのです。
「わたし、見てたんだよ。春日君が佐伯さんの体操着を盗んだところ」。
動揺する春日に、仲村は言い放ちます。
「クソムシ!」。
春日は黙っていてくれと懇願します。すると仲村はある“契約”を提示します。
仲村はさらに、こう言ったのです。
「わたしも春日くんと同じ、変態なの」…。

押見修造の人気同名コミックの実写映画化。
『悪の華』とは、劇中で、春日が心の拠り所にしているボードレールの詩集のタイトルです。
この後、佐伯と春日が交際を始めるんですが、そこには常に仲村の影がつきまとう。
春日はどっちが好きなのか、わからなくなっていきます。
映画は“3年後”の彼らも描いていて、それぞれがどう成長し、
変わっていったのか、それとも変わらないのか。
興味の湧くところかと思います。
“超変態狂騒劇”とのキャッチフレーズがある、過激な青春ストーリー。
原作ファンは必見でしょう。☆3つ。
「悪の華」公式サイト



『サラブレッド』は、
ティーンエイジの女子2人が繰り広げる“スタイリッシュ・サスペンス”。

豪華な邸宅に住むリリーのもとを、ひとりの少女が訪ねてきます。
長年疎遠だった、幼なじみのアマンダです。
リリーに勉強を教えてもらいに来たアマンダは、社会のはみ出し者になっていて、
上流階級のセレブな生活をしていたリリーとは正反対。
しかし、リリーが裕福な生活が出来るのは、母の再婚相手が金持ちだから。
リリーは義理の父を疎ましく思っていたのです。
闇の部分で、徐々に心通わすようになるアマンダとリリー。
継父を殺害すべく、ふたりは計画を練り始めるのでした…。

“スタイリッシュ・サスペンス”とはよく言ったもので、美少女ふたりが、
まさかの継父殺しを企てるという。
「どうなっちゃうんだろう…」と、ドキドキの映画でした。
初めは演劇の舞台用に書いた脚本だ、というのにも納得です。
タイトルの『サラブレッド』にも、複数の意味が隠されていると思うんですよ。
冒頭に馬が出てくる。常に無表情のアマンダは、その馬を心から愛しているよう。
そんなアマンダが馬に対し、取った行動も伏線になってるし、
血のつながり(血統)なんて側面もあるのかと思います。
何か感動したとかではないけれど、
娯楽として見るに、十分価値のある1本だと思いますョ。☆3つ。
「サラブレッド」公式サイト



『任侠学園』は、ちょっと変わった学園コメディ。

弱小ヤクザの阿岐本組。 組長の雄蔵は、社会貢献を是とし、地元とのつながりを大切にする人情の親分。
振り回されて困っているのは組員たち。
なんと今度は、経営不振の高校を立て直すと言い始めたのです。
問題だらけの高校なのに、校長は我関せず。
いじめはあるし、ガラスは割られる。
一の子分である日村をリーダーに、学校に日参する組員たち。
問題校をなんとかしようとするのですが…。

今野敏のシリーズ小説の映画化。
これまでに、『任侠書房』、『任侠学園』、『任侠病院』、『任侠浴場』とあり、
今『任侠シネマ』が連載中だそう。読んでみたくなります。
雄蔵に西田敏行、日村に西島秀俊、さらに伊藤淳史、葵わかな、
桜井日奈子、中尾彬 and moreとなれば、こりゃ見なきゃとなりますよね。
ところが、正直残念だったのが、ギャグがTOO MUCHだってところかなぁ。
作ってる側が楽しそうにやってるだろうことは推察出来るのですが、
正直、それが観客に伝わってこない気がしました。
西島秀俊はヤクザ役には適さないかも(笑)。
その前に、ハードルをこちらが上げ過ぎちゃったかな。
ただ、西田敏行vs白竜のシーンだけは、ド迫力!一番の見せ場でした。
そんなわけで、ごめんなさい。厳しいけど、☆2つ。
「任侠学園」公式サイト



『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』は、
実話をもとにしたストーリー。

2008年のリーマン・ショック以来、大手金融機関の主流は“高頻度取引”なるものへと移行。
これは、最先端マシンにより、誰よりも先んじて取引が出来れば、
1株毎に微額ながら利益が発生。
それを1日数十万件行えば、塵が積もって、巨額の儲けを得られるというもの。
従兄弟同士のヴィンセントとアントンは、NYの金融会社で働いていて、
ミリ秒=0.001秒をどう縮めるかのシステム作りに取り組んでいたのです。
すると、ヴィンセントがあることを思いつくんですね。
カンザスのデータセンターからニューヨーク証券取引所までを、
一直線に光ファイバーケーブルで結べば、最短アクセスが叶うと。
今は、鉄道の路線に沿って敷かれているケーブルを、何があろうと一直線に結ぶ。
そうすれば、0.001秒短縮出来て、巨万の富を得ると。
ふたりは即座に会社を辞め、投資家に資金を依頼。
パイプ埋設のプロを雇い、一万件の土地買収と、国立公園の岩盤をもぶち抜き、
1600kmの距離をとにかく一直線に結ぶという、
前代未聞のプロジェクトが始まったのでした…。

実話です。そのこと自体がすごい。
ただ、天才と言われたアントンも、なぜ気付かなかったのでしょう。
技術の進歩は早く、自分たちが考えていることは、
方法論こそ違えど、他の誰かも考えているということを。
0.001秒は、ハミングバード(ムクドリ)が一度羽ばたく速度だそうです。
でも、ヴィンセントの計算からすると、週末は休んでも、
年に5億ドルになる。そりゃ、惹かれますよね(笑)。
日本には「取らぬ狸の皮算用」という言葉がありますが、
こちらは「取らぬ椋鳥の皮算用」といったところでしょうか。
実行力に賛美を、無謀さに憐れみを。
あなたはどちらの観点から、彼らを見るのでしょう?☆3つ。
「ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち」公式サイト



『ヘルボーイ』は、人気アメリカンコミックの実写映画化。

舞台はロンドン。
極秘の組織である超常現象調査防衛局(B.P.R.D.)のエージェント、
ヘルボーイは、悪魔の力を持つ男。
組織の創設者で、ヘルボーイの育ての親でもあるブルーム教授の愛情に応えたいと、
彼は人間界を守っていたのです。
ところが、暗黒時代にバラバラにされ、
亡骸をあちこちに分断して封印された魔女ニムエが、
なんと1500年の眠りから目覚めたというのです。
地球上に疫病を流布して人間を死滅させ、世界をこの手に収めたい。
ニムエの野望が、再び動き出そうとしていました。
女王には王が必要と、ニムエが白羽の矢を立てたのが、なんとヘルボーイ。
わがままで自分勝手な人類に嫌気が差しつつあったヘルボーイは、
どちらを選択するのでしょうか…。

『マスク』や『シン・シティ』を生んだ、ダークホース社の人気コミック。
作者はマイク・ミニョーラ。
アメコミ・ファンに言わせれば、マーベルやDCとはまた違った魅力があるのでしょうね。
15年前に一度映画化されていて、日進月歩の技術の向上で、
さらに進化したヘルボーイになっているようです。
いわゆる“雑魚キャラ”も充実(笑)。いろんなモンスターが登場します。
好きな人にはたまらないんじゃないでしょうか。☆3つ。
「ヘルボーイ」公式サイト



『ホテル・ムンバイ』は、実話に基づくストーリー。

インドの中心都市のひとつ、ムンバイ。
そこにある歴史と伝統の五つ星ホテル、ダージマハル・ホテルのレストランの給仕として、
アルジュンは働いていました。
階級制度が残るインドで、アルジュンは決して楽は言えない生活でしたが、
仕事に誇りを持ち、臨月の妻と幼い娘と、幸せに暮らしていたのです。
しかし、2008年11月26日、事件は起こります。
武装したテロリストが、隣国パキスタンから海を渡り、入国。
幾手にも別れて、各地で無差別殺人を行ったのです。
そのターゲットのひとつが、ダージマハル・ホテルでした。
見るからにまだ少年という男が、無表情で銃を乱射する。
ルームサービスを装い、宿泊客を容赦なく射殺する。
ホテルはまさに地獄と化したのです。
この惨状に気づいたレストランのスタッフたち。
料理長は、隠し部屋とも言えるスペースへ、客を誘導しようとしますが、その前にこう言うんですね。
「逃げたい者がいれば、今、逃げろ。恥ではない」。
しかし、多くの部下がこう返します。
「ここが家です」。
アルジュンも、もちろんそのひとりでした…。

北部カシミール地方の領有権を争い、今も対立が続く、インドとパキスタン。
イスラム教過激派のテロ組織は、パキスタン軍の協力を得て、
何度もテロ事件を起こしているといいます。
ムンバイの、またインドの象徴とも言えるダージマハル・ホテルが火に包まれるシーンを
TVのニュース等で見たという人も多いかと思います。
犠牲者も出ましたが、500人以上が閉じ込められ、その多くが生還出来た背景には、
ホテルマンたちの勇敢な行動があったと言います。
それを入念に取材、調査し、映画化した作品です。
アルジュンだって、貧しい。洗脳された若きテロリストたちも、同様です。
それでも生き方は真逆になってしまうわけですから。
テロに駆り出される少年たちの、心の底の“実”を描くことも忘れてはいません。
深い映画だと感じました。☆4つ。
「ホテル・ムンバイ」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.9.20

『アイネクライネナハトムジーク』☆☆☆☆☆
『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』☆☆☆
『おいしい家族』☆☆
『3人の信長』☆☆☆
『シンクロ・ダンディーズ』☆☆☆
『セカイイチオイシイ水〜マロンパティの涙』☆☆☆
『葬式の名人』☆☆
『レディ・マエストロ』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


今週は大量8本です(笑)。
実は来週も6本紹介予定。
ボクはこの文章をガラ携で打っているので、
HPを管理してくれている知人に送るのに2度に分けて送らないと、
文字数の限界を超えてしまうという…(笑)。
PCにしようと思っても、ダメなんですよ。ガラ携もあと2年。
終わっちゃったらどうしましょ。
さ、今週は8本です!



『アイネクライネナハトムジーク』は、伊坂幸太郎、初の恋愛小説集の映画化。

仙台駅前のデッキ広場。
多くの人が行き交い、大型ビジョンの前には、
日本人初のヘビー級王座を賭けた世界タイトルマッチを見る人で溢れていました。
そんな中、サラリーマンの佐藤は、街頭アンケートの真っ最中。
誰も協力してくれず、途方に暮れていた時、ギターの弾き語りが耳に届きます。
近寄ってみると、リクルートスーツ姿の紗季と目が合い、アンケートを頼むと快く答えてくれたのです。
紗季の手には“シャンプー”の文字が。
買うのを忘れないようにと書かれた手書きの文字を見て、ふたりは微笑んだのです。
それが佐藤と紗季との出会いでした。
佐藤の大学時代からの大親友、織田は“大学のマドンナ”由美を射止め、
ふたりの子供と幸せな家庭生活を送っています。美女と野獣。
なぜ由美が織田を選んだのかは未だに謎でした。
由美の同級生で美容師の美奈子は、お客さんの弟を紹介されるのですが、電話でしか話したことがなく、
それでも声しか知らない彼に恋心を抱き始めていたのです。
そして、それから10年…。

よかったです。
プレス資料にあったのは、“幸福な〈出会い〉の連鎖から生まれた奇跡のラブストーリー”。
ボクのブログを読み続けて下さってる方なら、
「あ、長谷川がいかにも好きそうな…」と笑ってるかもしれませんね(笑)。
この小説が出来る、事の発端もすごくて、歌手の斉藤和義が、
2007年3月リリースのアルバムのために、伊坂幸太郎に“出会い”をテーマにした詞を書いて欲しいと依頼。
すると斉藤和義の大ファンだという伊坂幸太郎が、
小説ならと初の恋愛小説となる短編の『アイネクライネ』を執筆。
この小説から斉藤和義は「ベリー ベリー ストロング〜アイネクライネ〜」という曲を作り、
シングルカットした際の初回限定版特典に伊坂幸太郎が新作『ライトヘビー』を提供。
この2編に、新たに2編を加えたのが『アイネクライネナハトムジーク』。
54万部以上を売り上げているそうです。
その小説の映画化。出会い、絆、運命を描いた作品。悪かろうはずがない(笑)。
これを書くと、また「キモい」と引かれそうですが、
「あ〜、恋がしたいっ!」。ホント、そう叫びたくなる1本です(笑)。満点!☆5つ!
「アイネクライネナハトムジーク」公式サイト



『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』は、
多感な13歳の女の子の世界を描いた作品。

ケイラは13歳。中学校生活の最後に「学年で最も無口な子」に選ばれてしまい、
残りの1週間で不器用な自分を変えたいと、
SNSで動画をYouTubeにあげるなどして頑張るんですね。
そんな娘を、シングルファザーの父マークは心配し、声を掛けるのですが、
こちらも上手くコミュニケーションが取れず終い。
ケイラは“1日高校体験”で、ケイラの案内役に付いてくれたオリヴィアと意気投合。
お姉さんのようなオリヴィアの言葉に救われたケイラは、
その後も連絡を取り合い、一緒に買い物に行ったりもするようになります。
しかし、ちょっぴり背伸びをする娘を心配するマークの姿も。
悩み多きローティーンの日常は、どうなっていくのでしょうか…。

公開4館から始まって、3週間後には1084館に拡大したという話題の映画。
“エイス・グレード”とは、“8年生”という意味で、日本では6・3・3ですが、
アメリカでは5・3・4または6・2・4が一般的。つまり、中学最後の学年になります。
「すっげー、わかる!」とオジサンが賞賛するほうがおかしいというか(笑)、
ツールはSNSだし、なんかボクらとは世界が違う。
あたふたとする、お父さんのマークに共感しちゃうかな。
同世代のみなさん、また10代の気持ちがわからなくて悩んでる大人は見てみるといいかも。
ま、青春の根っこは、時代や形が変わっても一緒なんですけどね。☆3つ。
「エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ」公式サイト



『おいしい家族』は、いっぷう変わった家族の在り方の物語。

銀座で美容部員として化粧品を売る橙花。プライベートでは夫と別居中。
そんな橙花が、母の三回忌で故郷の離島へ帰ると、驚きの光景が。
父が亡き母のワンピースを着て、立っていたのです。
「父さん、母さんになろうと思う」。
あ然とする橙花に追い討ちをかけたのが、見知らぬ2人の存在でした。
食卓に座っていたのは、中年男性の和生と、女子高生のダリア。
さらに橙花の弟夫婦も、平然とその中で暮らしていたのです。
「父さん、この人と家族になろうと思う」。
橙花は言葉を失うのでした…。

ふくだももこ監督の短編映画『父の結婚』を、長編化した作品。
性別も国籍も超えて、好きなものを好きといえる世界を描いたということですが、
監督はこうも言ってます。
「世界に必要なのは、自分を大切にして、人にやさしくすることだけです」。
その思いを映像で表現すると、こうなのかな。表現者としては“あり”でしょう。
あとは、受け手がどう感じるか、受け手にどう伝わるか。
いいとか悪いとかではなく、ボクはどちらかというと、
特に日常が舞台だとリアリティのないものを避けてしまうタイプなので…。
なかなか共感出来ませんでした。ごめんなさい。☆2つ。
「おいしい家族」公式サイト



『3人の信長』は、時代劇エンターテインメント。

戦国時代。
桶狭間の戦いで、主君・今川義元を討ち取られた今川家の家臣・蒲原氏徳は、
敵(かたき)である織田信長の首を狙っていました。
朝倉義景を討ちに出た金ヶ崎の戦いを、
浅井長政の裏切りで敗れた信長が京へ逃げ込もうとした時、
逃げ切れず蒲原に捕まってしまいます。
そして、今まさに首を斬り落とされようとしていた時、
家来が駆け込んできて、こう叫んだのです。
「蒲原さま!信長を捕らえて参りました!」。
さらにもう1人、蒲原の元に、信長が連れてこられます。
「信長が3人?」。
そう、信長には影武者がいたのです。
目の前には3者3様の信長が。でも、すべて聞くところの特徴には当てはまる。
どれが本物の信長なのか?蒲原は迷いに迷うのですが…。

TAKAHIRO、市原隼人、岡田義徳。
この人気の3人が、信長(影武者?)を演じます。
頭が切れるかぶき者、貫禄はあるが天然、うつけ者で読めない。
誰が本物の信長なのか。はたまたすべてが影武者か。
高嶋政宏演じる蒲原は、それを見抜けるのかというお話。
みんなまとめて斬っちゃえばいいのにと思うかもしれませんが、それじゃ映画にならない(笑)。
武士には武士のプライドがある。本物の首だけを主君の墓前に差し出したいのだと。
そのなんとなくのもどかしさというか、中だるみ感は正直あったかなぁ。
戦国コメディです。お好きな人は是非!☆3つ。
「3人の信長」公式サイト



『シンクロ・ダンディーズ!』は、男性シンクロチームの実話に基づくストーリー。

大手企業の会計士として働くエリック。
ルーティーンのような毎日に辟易としていた時、政治家を目指す妻は選挙に当選。
先輩議員との親しげな関係にイライラ。
息子からもバカにされ、遂にエリックは家を出て、ホテル暮らしをすることになります。
日課だった公営プールでの水泳は続けていたエリック。
気付くとそこに、オッサンばかりのシンクロチームがいたのです。
目を疑うエリックでしたが、勧誘され、メンバーに加わることに。
ダメダメなメンバーに、会計で学んだ数学的見地から動きやポジションをアドバイス。
すぐにメンバーと打ち解けていったのです。
すると、単なるノリから、イギリス代表として世界選手権に出ることになったおじさんチーム。
厳しくも優しい“プールの女神”スーザンの指導のもと、問題を抱えた中年のおじさんたちは、
懸命に練習に励むのでした…。

今年7月に、『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』
という映画が公開になりましたが、題材は同じ。
あちらはフランス映画、こちらはイギリス映画です。
もちろん細かい設定は違うし、笑いのセンスも違いますが、
自分はいったいどちらが好きなんだろう?というのを見比べてみると面白いかもしれませんね。
個人的にはイギリス派ですが(笑)、この2作品は甲乙つけがたし。
最後はイギリスっぽいなと思うラストシーンではあります。☆3つ。
「シンクロ・ダンディーズ!」公式サイト



『セカイイチオイシイ水〜マロンパティの涙〜』は、
日本のボランティアがフィリピンの村に水道を引いた感動の実話を映画化したもの。

1990年の夏、ひとりのフィリピン人留学生から、
アジア協会アジア友の会(JAFS)に1本の電話が入ります。
「故郷に井戸を掘ってもらえませんか」。
その場所は、フィリピンの首都マニラから300キロ南にある、パナイ島の田舎町パンダンでした。
パンダンには海水混じりの井戸水しかなく、村人は腎臓病や高血圧に悩まされ、
幼い子や老人の多くが命を落としていたのです。
そんな中、気軽な気持ちでボランティアに参加したのが、女子大生の明日香でした。
現地に赴くと、宿泊先の幼い娘のアミーが、コップ一杯の水を差し出してくれました。
何も考えずに口をつけ、飲み残す明日香。
でもこの水は、アミーがずっと遠くの水源まで歩いて行って、わざわざ汲んできてくれた貴重な水。
そのアミーも重い腎臓病にかかっていることを、明日香はまだ知らなかったのです…。

パンダンから10キロ先にあるマロンパティの湧き水を汲み上げ、錆びない水道管を埋設し、きれいな水を届ける。
しかし、これには多額の費用と労力がかかると。
何度も頓挫しかかるのですが、JAFSの会長が「資金がなければ私の生命保険を使えばいい!」と発言。
その強い思いから、プロジェクトは実現したといいます。
援助ではなく、自立支援。
でも、そこにはもうひとつの問題がありました。
太平洋戦争で、パンダンの人々は日本人を良く思っていなかったのです。
問題山積のプロジェクトは成功するのでしょうか…というお話。
“マロンパティの涙”とは、マロンパティには伝説があり、そこに住む牝のワニを巡り、
2匹の牡のワニが争い、共に命を落としてしまったと。
それを嘆いた牝ワニの涙が湧き水になったという言い伝え。
胸打たれる1本です。
今この瞬間も、世界のあちこちで、誰かのために汗を流しているたくさんの人がいるんですよね。
大上段に構えず、ボクらも出来ることからコツコツと。あなたも“小さな学級委員”を拝命です。☆3つ。
「セカイイチオイシイ水〜マロンパティの涙〜」公式サイト



『葬式の名人』は、大阪・茨木市の市制施行70周年記念事業の一環として作られた映画。

雪子は28歳のシングルマザー。
息子のあきおは10歳。パパはアメリカにいて、大リーグに入団すると信じて疑いません。
そんな雪子の元に、地元・茨木高校の同級生だった吉田の訃報が届くんですね。
すぐに高校時代の仲間たちが遺体の安置所に集まり、久々の再会となります。
高校時代、野球部のエースだった吉田は、ケガで甲子園の地方予選決勝を棄権。
バッテリーを組んでいた豊川は、そんな吉田をもう一度母校に連れて行ってやりたいと提案。
集まった全員で棺桶を担いで、茨木高校へと向かいます。
そして、母校で吉田を送るという、変わったお葬式が始まるのでした。
あきおを呼んだ雪子は言います。
「あそこで寝てる人。あの人があきおのパパやねん」…。

茨木出身の文豪・川端康成の作品タイトルに案を得たという作品。
雪子に前田敦子、豊川に高良健吾。
雪子は16歳で祖父を送ると、天涯孤独になりました。
「わたしは“葬式の名人”やね」。そうつぶやくシーンがあります。
コメディとしての要素も織り交ぜて、地元出身のプロデューサーは
「狭い範囲でしか見られない“ご当地映画”にしてはいけない」と語っていましたが、
ちょっとその感は否めないかなぁ。
お葬式自体があり得ない形に。映画だから“作って”いいんですョ。
ただ、奇をてらって、逆に焦点がぼやけてしまったかも。☆2つ。
「葬式の名人」公式サイト



『レディ・マエストロ』は、実在する女性指揮者のパイオニア、アントニア・ブリコの物語。

幼い頃、オランダからの移民としてアメリカに移住したウィリーは、音楽に夢中。
夢は指揮者になることでした。
大人になると、NYのコンサートホールで案内係として働くのですが、ある日の公演で、
なんと最前列に椅子を置き、膝のに楽譜を広げたのです。
指揮者の動きを、間近でこと細かに見るには、これしかないと考えたのでした。
当然、つまみ出され、仕事はクビになってしまいます。
1900年代の前半、女性の指揮者が存在しない時代。
ウィリーが夢を語れば、周りは蔑んだ視線を送るばかり。
それでもウィリーは諦めることなく、何度跳ね返されようと、何度困難にぶち当たろうと、
女性指揮者になる夢を捨てることはなかったのです…。

没後30年となった、実在の女性指揮者、アントニア・ブリコの物語。
ウィリーというのは、生後まもなく養子に出された時に付けられた名前(ウィルヘルミーナ)で、
本名はアントニア。その事実も、彼女は大人になって知ることになります。
蔑みや非難はもちろん、セクハラまがいの行為を受けたりしたことも。
それでも、NYからオランダへ、オランダからドイツ・ベルリンへ。夢を叶える旅は続きます。
その間、恋におちることもありましたが、アントニアは指揮者への道を選びます。
何事もそうですが、初めて道を拓くには、相当な勇気と覚悟が必要。
何かに迷って一歩踏み出せずにいる人にとっては、背中を押してくれる作品かもしれませんね。☆3つ。
「レディ・マエストロ」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.9.13

『王様になれ』☆☆☆☆
『サウナのあるところ』☆☆
『人間失格 太宰治と3人の女たち』☆☆☆
『みとりし』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


“秋眠も暁を覚えず”(笑)。
試写会に足を運ぶのも、眠気との闘いだったりします。
無理して行って、会場ですーすーと寝息を立てていたんじゃ失礼だし。
1日が36時間あればいいのに…(笑)。
さ、今週は4本です!



『王様になれ』は、3ピースバンド、the pillowsの30周年記念映画。

カメラマン志望の祐介。 まだプロで食べていけるほどの力はなく、叔父の経営するラーメン店でバイトをするも、中途半端。
常にモヤモヤしたものを、心に抱えていたのです。
そんな時、叔父が所属していた劇団の後輩だというユカリが、店にラーメンを食べにやってきます。
ユカリが着ていたTシャツはthe pillowsのもの。
「聴きまくったほうがいいかもね」。
そんなユカリの一言で、祐介はthe pillowsの音楽にハマっていったのです。
カメラマンとして成功したい。
その思いから、祐介はthe pillowsのライブ撮影を担当している
カメラマンの虻川に弟子入りを志願。
そして、ボーカルの山中さわおが主宰するレーベルに所属するバンドの撮影を依頼されるのですが、
事前打ち合わせとは違った、祐介の押し付けの世界観に、
山中さわおが激怒してしまいます。
その頃、ユカリも持病の心臓が悪化。
手術のために、故郷・秋田への帰郷を決めたのでした…。

the pillowsは、ボクが昔やっていたNACK5の
『ジャパニーズ・ドリーム』という、リリース前にすべての楽曲をOA、
その中からリスナーが“いい曲”を選ぶ、“ビフォア・ヒットチャート番組”で、
何度もグランプリに輝いていました。
彼らの楽曲には、良質なメロディーがある。さらに深い詞の世界がある。
今回、劇中で聞いて、改めていい曲だなぁと感じてました。
その詞を書いているのが、ボーカルの山中さわお。
映画の原案まで書いちゃうんですから、やっぱり才能があるんですね。
素晴らしいストーリーでした。
“必然”がテーマのひとつ。
祐介とユカリの出会いも、祐介とthe pillowsとの出会いも、必然なんですよね。
ラストはいいですョ。こういうのに憧れちゃうよなぁ。
だって、絶対に祐介にはユカリだし、ユカリには祐介なんだもの。くぅ〜っ(笑)。
最初のグダグダ時代の祐介がイヤで、満点はつけませんでしたが、いやいや、いい映画です。
the pillowsファン以外にも、かなりお勧めです!☆4つ。
「王様になれ」公式サイト


『サウナのあるところ』は、フィンランドのドキュメンタリー映画。

フィンランドは、人口約550万人の北欧の国。
なのに、サウナの数は約300万個も!
それほどまでにサウナを愛する国民性なのです。
フィンランドの男性は、シャイで寡黙。
そんなフィンランド男性たちが、サウナの中では饒舌になる。
家族のこと、自分の悩み、誰にも言えなかった過去、先に逝ってしまった大事な人の話…。
この映画では、様々なスタイルのサウナを紹介しながら、
ロウリュと呼ばれる蒸気に包まれて語られる、14のエピソードを紹介しています。
ただし…。
ずーっと男性器も映ってるんですよねぇ。
試写終わりでスタッフに尋ねました。
「ぼかしとかは入れないんですか?」。答えは、「入れません」。
賛否両論ありそうですが、正直、ボクには話が入って来なかったかなぁ。☆2つ。
「サウナのあるところ」公式サイト



『人間失格 太宰治と3人の女たち』は、蜷川実花監督作品。

1946年。人気作家の太宰治は、妻・美知子とふたりの子供がいながら、
自分のファンだという静子と恋仲に。
静子は上流階級の娘にして、自由奔放な女性。
彼女の日記を見せてもらった太宰は、静子の文才に惹かれ、それを小説「斜陽」として出版。
曰く“芸術のための恋”は、静子のお腹の中に新しい生命を宿すことになります。
同じ頃に知り合った、富栄という美容師の女性とも深い関係となった太宰でしたが、
静子の出産を知り、自分も太宰の子が欲しい迫る富栄。
不貞を働いているのを知りながら、肺を病んだ太宰を叱咤し、支える美知子。
太宰治と3人の女たちの結末やいかに…。

「人間失格」は、太宰治の自伝的小説。
そんな彼自身が言うところの“恥の多い生涯”を、3人の女性を軸に描いた作品。
太宰治に小栗旬、妻・美知子に宮沢りえ、静子に沢尻エリカ、富栄に二階堂ふみ。
豪華俳優陣が顔を揃えました。
蜷川実花監督が語ります。
美知子は家と太宰作品の権利関係を、静子は「斜陽」という作品と子供を、
富栄は“太宰治の最後の女”というその一点を、それぞれに得た。
みんな幸せそうなところに収まっていると。
なるほど、面白い見方だなと。
文芸作品としての小説はあまり読まないできたボクは、恥ずかしながら、
太宰治作品は「走れメロス」ぐらいしか読んでませんが、
太宰ファンにはどう響くのか、興味の湧くところです。☆3つ。
「人間失格 太宰治と3人の女たち」公式サイト



『みとりし』は、人生の最期に寄り添う“看取り士”の物語。

交通事故で娘を亡くし、仕事に身が入らなくなった柴は、会社に早期退職を申し出て、
セカンドキャリアとして、看取り士になることを選びます。
岡山県に引っ越し、地元の病院と連携しながら、余命宣告を受けた患者さんに優しく寄り添う。
そんな看取りステーションを、ボランティアスタッフと営むことにしたのです。
そんな柴の元に、23歳の新人女性看取り士、みのりが赴任します。
9歳の時に母を亡くし、この仕事を選んだというみのり。
しかし、人の人生に寄り添うというのは、決して簡単なものではありませんでした…。

看護士と違って、医療行為が出来ない看取り士。
一般社団法人『日本看取り士会』の代表理事、柴田久美子さんは、
「ただただ寄り添っているだけ(笑)」と。
でも、「人生の、たとえ99%は不幸だとしても、最後の1%がしあわせならば、
その人の人生はしあわせなものに変わる」とも語ります。
確かに…。
ボクも父を3月に亡くし、高齢の母が弟夫婦と暮らします。
「父はしあわせだっただろうか。母は今しあわせだろうか」。
この映画を見終え、すぐさまそれを考えてました。
思いを馳せることから始まる一歩もある。
あなたも、考える契機を与えてもらえるかもしれませんョ。☆3つ。
「みとりし」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.9.6

『いなくなれ、群青』☆☆☆☆☆
『影武者 SHADOW』☆☆☆
『タロウのバカ』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


9月になりました。
8月までに見た試写の本数は108本。煩悩の数と同じ…(笑)。
でも、人と会話をする時にも、見た映画が役に立つ場面って、すごく多いんですよ。
ドキュメンタリーだけじゃなく、国の内外もジャンルも問わず。
映画館に足を運ぶこと、本当にお勧めします。
今月は、まだ紹介していない作品が多数公開となります。
ちょっとでも気になったら、是非見に行ってみて下さい!
さ、今週は3本です!



『いなくなれ、群青』は、河野裕のベストセラー小説の映画化。

男子高校生の七草。
ふと気づくと、階段島という、人口2000人程度の島にいたのです。
なぜ、この島に来たのか、誰もその理由を知りません。
PCも使えず、島の外に出ることは叶いません。
それでも、ここにいることに疑問を抱かなければ、
島のみんなは優しく、生活は快適なものでした。
始めは島を出たいと思っていた七草も、次第にここでの生活に慣れてきた頃、
幼なじみの真辺由宇がやってきます。
七草同様、現状が飲み込めず、島から出ることばかり主張する由宇。
しかし、彼女の行動が、この島の謎と、七草の真実をも、解き明かすことになるのでした…。

面白かったです。
原作が“読みたい本ランキング”で1位を獲得したのも納得かな。
階段島には、その名の通り、階段があって、登りきったところに“魔女”が住むと。
この島のことは“魔女”が仕切っている。
実は、この島は捨てられた人たちの場所で、
島を出るには“失くしたもの”を見つけなければならなかったのです。
真辺由宇は、こんなところに来るはずの女子ではないと、
七草は憤るのですが、それには理由がありました。
原作の発想もすごいし、映画化するのも難しかったんじゃないかと思うのですが、
“新鋭”とある柳明菜監督、お見事でした!
ボクらの世代も、『取り戻せ、青春』。
なんて、満点の作品紹介の締めにしては、あまりにダサいかな…(笑)。☆5つ!
「いなくなれ、群青」公式サイト



『影武者 SHADOW』は、チャン・イーモウ監督最新作。

戦国時代。
強大な炎国に領土を奪われ、休戦協定を結んだペイ国。
ペイ国の若き王は、妹を差し出してまでも関係を維持しようする平和派。
一方、重臣の都督は、いつまでも怯えて暮らすより、戦おうではないかという開戦派。
ペイ国は2つの意見に割れていました。
しかし、王の前にいる都督、実は影武者。
真の都督は病に倒れ、隠れ家に隠れ住み、影に指示を出していたのです。
あえて王に逆らい、無官となった都督は、炎国に戦いを宣言。
特訓を重ね、影武者は炎国へと乗り込むのですが…。

「三国志」の“荊州争奪戦”を大胆にアレンジしたストーリーだとか。
「三国志」ファンにとっては、ニヤリとする作品かもしれませんね。
チャン・イーモウ監督の映像美、今作では、中国絵画の水墨画にインスパイアされたそう。
雨、霧、水。
モノクロではないものの、全編を通して、水墨画のイメージを貫いています。
都督には美しい妻がいて、瓜二つの影武者に心が動く。
命も、愛も、雲散霧消。
若き王の心中も、都督の狙いも、その真(まこと)はわからない。
武器が近未来的な架空の刀剣だったり、特訓を積む技が舞のようであったりと、
美しい映像を楽んで下さい。見応えは十分です。☆3つ。
「影武者 SHADOW」公式サイト



『タロウのバカ』は、数々のヒット作を生み出してきた大森立嗣監督の、
オリジナル脚本作品。

川沿いの町に住む少年タロウ。
父親はなく、母親は新興宗教に熱心で、ほとんど家に戻らず、
タロウは学校に通った経験がありません。
タロウという名前も、実はエージとスギオというふたりの仲間が付けたもの。
「名前がない奴はタロウだ」と、スギオが勝手に名付けたのでした。
エージもスギオも、器用に生きることが出来ず、
高校から、世の中から、はみ出して生きていました。
ある時、3人が覆面を被って、半グレのリーダーを襲撃。奪ったカバンの中には拳銃が。
浮かれる3人でしたが、銃という最強、
最恐の武器を手にした少年たちを待ち受けていたのは、とんでもない運命だったのです…。

正直、不快になるような、暴力的な映画でもあります。
ただ、大森立嗣監督が、この時代に、なぜこの映画を撮ったのか?
それを知ってから見ると、この作品が違って見えるかも。
ボクのHPだとリンクも貼ってありますが、
『タロウのバカ』の公式サイト(www.taro-baka.jp)に行き、
“大森立嗣監督の言葉”というのを読んでみて下さい。よーくわかると思います。
エージに扮するのは、菅田将暉。
今をときめく人気俳優が出演しているので、多くのファンがきっと劇場に足を運ぶはず。
タロウって何?
自分を、生きることを、今の世の中を、考える契機にはなるはずです。☆3つ。
「タロウのバカ」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.8.30

『ブラインドスポッティング』☆☆☆
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


ボクはスケジュールの関係で、まず旅行に行けません。
競馬での出張が半ば旅行かな。なんて言うと、遊び半分かと怒られそうですが(笑)。
海外なんて、もってのほか。映画でそんな気分だけでも味わいたいものです(^-^)。
今週訪れるのは、オークランドとハリウッド!
さ、今週は2本です!



『ブラインドスポッティング』は、オークランドを舞台にした、
幼なじみ男性ふたりの物語。

黒人のコリンと白人のマイルズは幼なじみ。
ふたりは引っ越し業者に勤めていて、マイルズには黒人女性の妻と、
ひとりの息子がいます。
ふたりがバーで飲んでいた時に揉め事が起き、暴行事件に発展。
ところが警官に逮捕されたのは、黒人のコリンだけ。マイルズはおとがめなし。
これがオークランドの“肌の色”の事情でもありました。
釈放されたコリンは、あと3日で指導監督期間が終わります。
何も問題を起こさなければ、ようやく自由の身になれる。
しかし、常に行動を共にする相棒のマイルズは、気の短い問題児。
「頼むから大人しくしていてくれ」と、コリンは祈るしかありません。
仕事帰りの車での中で、コリンは逃げる黒人男性が、
背後から白人警官に撃たれるのを目撃するんですね。
その出来事が、コリンの中の何かを揺り動かしたのでした…。

オークランドという土地柄を知って見ると、
きっと面白さは倍増するんだろうなと。
もらったプレス資料から簡単に紹介すると、
オークランドはサンフランシスコ湾の東に面する港町。
40、50年代はアフリカ系アメリカ人のビジネス、カルチャーが栄え、
60年代にはブラック・ムーブメントの中心地となり、港町という性格上、
移り住む人は昔から多く、白人、黒人、ヒスパニック系、アジア系と、
今ではアメリカで最も多様な人種が住む街になったそう。
表向きリベラルな雰囲気を湛えた街には、
ベイエリアにオフィスを建てたIT系の社員たちが居を構え、
近年では高級住宅地へと様変わり。
いわゆる“こじゃれた”人々が集うようになったと。
そんな中、生粋の“オークランドっ子”のコリンとマイルズにとっては、
自分の街が変わっていくのが面白くない。
ただ、白人のマイルズと黒人のコリンでは、さらにまた根っこが違う。
“黒人と白人男性の友情物語”というだけじゃない、深い部分を感じ取れると、面白いと思いますョ。
シリアスな部分と笑いとのバランスも秀逸。自国で高い評価なのも納得です。☆3つ。
「 ブラインドスポッティング」公式サイト



『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、
ディカプリオとブラピのW主演作。

1969年のアメリカ・ハリウッド。
TVの西部劇で人気を博していたリック・ダルトンでしたが、その人気にも翳りが見え始め、
なんとか映画スターに転身出来ないかと悪戦苦闘の日々。
そんな彼には唯一無二の友人がいました。
リックのスタントマンで付き人のクリフ・ブースです。
神経をすり減らす生活に喜怒哀楽を表に出しやすいスター俳優のリックと、
実にマイペースで感情をぐっと内に飲み込んだようなクリフ。
太陽と影のような対照的な存在でしたが、ふたりは真の友情で結ばれていたのです。
ある日のこと、リックの豪邸の隣りに、
新進気鋭の映画監督ロマン・ポランスキーが引っ越してきます。
妻は女優のシャロン・テート。
そして、1969年8月9日。あの事件が起きるのです…。

クエンティン・タランティーノ監督の9作目。
2時間41分の作品。
あらすじをまとめるのも難しいし、そもそも必要ないと言われそう(笑)。
実在の人物と、実際に起きた“シャロン・テート殺人事件”をテーマに虚々実々。
タランティーノ監督が、古き良き60年代のハリウッドの光と影を描いた作品です。
レオナルド・ディカプリオはリックを、ブラッド・ピットはクリフを演じます。
ボクがもっとハリウッド事情に詳しかったら、細かい仕掛けに気がつけて、
より一層楽しめたのかなと自戒の念。
☆1つ減らしたのは、そんな部分でもあります。
もらったプレス資料の冒頭に、
「何事も事前に明かされることなく、これから見られるお客様にも
この映画を楽しんで頂きたいと思っています」と、
タランティーノ監督のサイン入りの文章が。
ゆえに多くは語りませんが、ボクらの世代のスーパースターも登場!
ワクワクしちゃいました(笑)。☆4つ。
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.8.23

『火口のふたり』☆☆☆☆
『ジョアン・ジルベルトを探して』☆☆☆
『ディリリとパリの時間旅行』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


8月もあと僅か。
学生、生徒は「夏休みが終わっちゃう…」と焦燥感にかられていることでしょう。
同じ1日なのに、始まった時よりも早く時間が過ぎると感じるのは、
“まだ…ある”から、“もう…ない”に変わるから。
折り返しを過ぎると、同じものを裏の目線で見ることになる。人生も同様かな。
大人も映画を見て、夏休みの宿題よろしく、
感想文などを書いてみてはいかがですか?感性のトレーニングになりますョ。
さ、今週は3本です!



『火口のふたり』は、直木賞作家・白石一文作品、初の映画化。

東京で暮らす賢治のもとに、元恋人の直子が結婚するという知らせが届きます。
故郷の秋田に帰郷した賢治は、直子と久々に再会。
新生活の準備を手伝っていた時、直子が1冊のアルバムを取り出すんですね。
そこには、一糸まとわぬふたりの姿が写った写真がたくさんありました。
「なんでこんなのとっておくんだよ」。
そう言った賢治でしたが、「今夜だけ、あの頃に戻ってみない?」。
直子のその一言で、ふたりは身体を重ねるんですね。
婚約者が戻るまでの5日間だけ。
直子と賢治は、あの頃の思い出を手繰り寄せながら、ただただ欲望の時を過ごすのでした…。

R―18指定です。
柄本佑と瀧内公美による、ほぼ全編ふたり芝居。そしてラブシーン。
ですが、なんかいいんですよね。まさに着飾ってないというか、心も体も裸で、
ヒトの、動物としての本音のようなものがダダ漏れという感じが。
映画ではこれを“身体の言い分”と表現しています。
音楽をシンガーソングライターの下田逸郎が担当しているんですが、
これがまた“ハマり”で。
劇中歌の詞の一節に「生きてようね、すぐ死ぬから、それまでは、この世の夢追いかけようね」
というのがあるんですが、そう、人生なんて、どうせあっという間ですから。
死に急ぐ必要なんて、ないんですよね。
コンプライアンスだ、SNSだと、生きづらい、窮屈な世の中になってしまいました。
そんな現代社会で、ここまで欲望をさらけ出せる気持ち良さみたいなものを、
スクリーンの中だけでも、感じられるのがいいと思います。
R―18指定でも、ボクが自分の昼のレギュラー番組で紹介したのには、
そんな部分も大きかったかな。☆4つ。
「火口のふたり」公式サイト



『ジョアン・ジルベルトを探して』は、ドキュメンタリー。

今年7月6日に、リオ・デ・ジャネイロの自宅で亡くなった
“ボサノヴァの神様”ジョアン・ジルベルト。享年88歳。
1950年代に、サンバとジャズを融合させた、ボサノヴァの創始者として知られ、
ブラジルを代表する世界的シンガーですが、晩年の素顔は謎に包まれたまま。
自国でも、08年のボサノヴァ誕生50周年記念コンサートに出演して以来、
10年以上、いっさい人前に姿を現していないのです。
そんなジョアン・ジルベルトに会いたいと、
ドイツ人ジャーナリストのマーク・フィッシャーがリオ・デ・ジャネイロを訪れ、
縁の地、縁の人を訪ね、なんとかジョアン・ジルベルトに辿り着こうとしたのですが叶わず。
その顛末を綴った本の出版の1週間前に、マークは自ら命を絶ったのでした。
そのマークの本を手にしたのが、フランス生まれ、
ブラジル音楽が大好きなジョルジュ・ガシュ監督でした。
マークの夢を叶え、マークの旅を完結させたい。
ジョルジュ・ガシュ監督は、彼の足跡をなぞるように辿りながら、
ジョアン・ジルベルトに近づいていく。そんなドキュメンタリー映画です。
で、ジョアン・ジルベルトに会えたのか、会えなかったのか。
それは言いますまい(笑)。劇場で確かめて下さい。
ちなみに来日公演も3回。
代表曲のひとつ『イパネマの娘』を聴けば、「ああ、あの曲の…」と、
あなたもきっとわかるはずです。☆3つ。
「ジョアン・ジルベルトを探して」公式サイト



『ディリリとパリの時間旅行』は、フランスのアニメーション映画。

ベル・エポックの時代のパリ。
フランス人とニューカレドニア人の混血少女ディリリは、外国に行ってみたいと、
ニューカレドニアから船で密航。
パリに着いたディリリは、万博会場でのアルバイトが終わると、
パリの街をひとり探索していました。
そんな中で、ディリリは三輪自転車での配送業に勤しむ青年オレルと知り合います。
オレルは仕事柄、パリの有名人をいっぱい知っていて、ディリリに紹介してくれます。
ところが、当時パリを恐怖に陥れていたのが、男性支配団という悪の組織による少女たちの誘拐でした。
ディリリとオレルはピカソから男性支配団のアジトを教えてもらい、
男性支配団の強盗を事前に阻止するのですが、
その結果、今度はディリリが狙われることに。
遂にはディリリが誘拐されてしまったのです…。

絵が美しい。
『キリクと魔女』のミッシェル・オスロ監督の、素晴らしいアニメーションです。
解説によると、1900年を挟んでの前後30年間が、フランスの国力が最も充実していた時代だそうで、
1885年から1900年を“世紀末”、1900年から1915年を“ベル・エポック”と呼ぶそう。
政治、経済、文化のすべての面で、素晴らしい才能を輩出した時代。
我々が観光で回る建物や文化財のほとんどが、この時代に建立されたもの。
映画の中でも、美しく描かれています。
あらすじの中に、ピカソだけ出てきましたが、キュリー夫人、ルソー、パスツール、
ドビュッシー、ルノワール、ニジンスキー、モネを始め、
他にもたくさんの著名人が登場。とにかく華やかなんですね。
試写が終わって、配給会社の人と映画評論家と思しき女性が
“男性支配団”という日本語訳について話していたのが印象的で、
ミッシェル・オスロ監督の日本語訳へのこだわりはかなりのものがあったとか。
他の訳語がなかったかとボクも思っていたのですが、
「これじゃなきゃダメ」だったとか。なるほどなぁ。
物語以上に、原画の1枚1枚が愛しくなる映画。
古き良きフランス、パリを満喫して下さい。☆4つ。
「ディリリとパリの時間旅行」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.8.16

『イソップの思うツボ』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


すみません。間違えました。
先々週に紹介した『メランコリック』を、「3人監督による」としましたが、
“One Goose”という3人組の映画制作チームによる作品で、
それぞれがプロデューサーと俳優、監督と脚本、アクション指導と俳優を担当。
試写の上映後に3人で挨拶したので混同してしまいましたが、
3人監督による映画は今週紹介する作品です。
ちなみに、こちらも3人による挨拶が上映後にありました(^^;)。失礼しました!
さ、今週は1本です!


『イソップの思うツボ』は、『カメラを止めるな!』の
上田慎一郎監督による脚本と、トリプル監督が話題の作品。

3つの訳あり家族と、3人の娘。
大学に通うも、友達がなく、帰宅すると母と仲良く会話。
飼っている亀だけが親友という、亀田美羽。
美羽と同じ大学に通い、
“日本で一番仲のいい家族”としてTVで大人気のタレント一家の娘で、
超の付く恋愛体質の、兎草早織。
父とふたりで“復讐代行屋”を生業にし、
おんぼろのバンでギリギリの生活をしながら、
将来はファッション業界で活躍することを夢見る、戌井小柚。
この3人がふとしたきっかけで出会います。
それぞれがそれぞれに悩みを抱え、家族の実情も交えながら、
友情を育んでいくのかと思いきや、そこから話は急展開していくのでした…。

『カメラを止めるな!』を見た人なら、あの後半のどんでん返しを思い出し、
「何かある」とピンと来るはずです。
もらった資料から抜粋すると、
「あの有名童話さながらに、ウサギとカメ、そしてイヌが“奇想天外”な騙し合い!
誘拐、裏切り、復讐、はがされる化けの皮!予測不能の騙し合いバトルロワイヤル!」。
ヒロインの妙な名字には、亀、兎、戌と、それぞれの動物が入ってます。
作品タイトルも、観客が映画を見る前に、あの童話に関係あるのか、ないのか、
あれこれ思いを巡らせるだろうことを期待したと、
上映後の挨拶で、上田慎一郎、中泉裕矢、浅沼直也の3監督の誰かが言ってました。
とにかく、あまり多くを語らないことが大切な1本。
『カメ止め』に魅せられた人は、まず劇場に足を運ぶでしょうから、
黙ってたってヒット作になると思いますョ。☆3つ。
「イソップの思うツボ」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.8.9

『マイ・エンジェル』☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


冷房がキツい。試写の会場での話です。
汗をかいて、席に座った時は涼しくていいけど、
ずっとそのままだと、さすがに冷えてきます。
女性は大変みたいですね。自分で膝掛けを持ってくる人もいれば、
“ご自由に”と置いてある試写室もあります。
昔、亜熱帯のリゾート地で見られたような風景。日本の亜熱帯化の一片ですよね。
さ、今週は1本です!



『マイ・エンジェル』は、フランス映画。

南仏のコート・ダジュールに暮らす、シングルマザーのマルレーヌ。
娘のエリーは8歳。“エンジェル・フェイス”と呼んで溺愛していたのですが、
マルレーヌは母親失格。男性にだらしない性格だったんですね。
そんなマルレーヌが、ジャンという男性と再婚することになり、
「もう二度と失敗しない」と誓って臨んだ結婚式のバックヤードで、
酒に酔ったマルレーヌは、
見知らぬ男性と関係を持っているところをジャンに見られてしまいます。
再婚は破談となり、職につかないマルレーヌはカードも止められてしまいます。
母を心配そうに励ますエリー。
ところが、新しい恋人が出来たマルレーヌは、エリーをひとり残し、
彼のところに行ってしまうんですね。
母が飲んでいたアルコールの瓶に手を伸ばすエリー。
8歳の少女の、危ういひとり暮らしが始まったのでした…。

マルレーヌに扮するのは、07年の『エディット・ピアフ〜愛の賛歌〜』で、
フランス人女優として49年ぶりにアカデミー賞の主演女優賞に輝いた、
マリオン・コティヤール。
そんな大女優が、無名の新人女性監督の作品に出演したと話題の1本です。
エリーを演じたエイリーヌ・アクソイ=エテックスの演技も素晴らしいし、
玄人目線で見たら評価も違うのかもしれませんが、ボクは常に“素人目線”。
こういう虐待の物語に高い評価は出来ません。
日本でも無くなることのない、幼児虐待事件や育児放棄問題。
ご自身の目で、と委ねます。☆2つ。
「マイ・エンジェル」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.8.3

『あなたの名前を呼べたなら』☆☆☆☆
『風をつかまえた少年』☆☆☆☆
『世界の涯ての鼓動』☆☆☆☆☆
『メランコリック』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


8月になりました。
暑い毎日が続きます。心身共にケアが必要な暑さ。
素敵な映画を見て、心に栄養補填ですね。
今週はいい作品が揃いました!
さ、今週は4本です!



『あなたの名前を呼べたなら』は、女性監督によるインド映画。

ラトナは建設会社の御曹司の家で、住み込みのメイドとして働く女性。
雇い主のアシュヴィンが、海外での挙式のために家を空けるので、
その間は里帰りが許されていたのですが、急に呼び戻されます。
聞けば、婚約者の浮気が原因で、
アシュヴィンの結婚は破談になったというのです。
実は、ラトナも若き未亡人。
19歳で親の決めた結婚を強いられ、わずか4ヶ月で夫は病死。
インドで未亡人は、再婚どころか、恋愛すらしてはいけないのです。
ラトナはアシュヴィンの話を聞き、慰めます。
アシュヴィンも、父の跡を継ぐはずの兄が亡くなり、
夢を半ばで諦めて、アメリカから帰国していたのです。
「きみの夢は?」と聞かれ、「ファッションデザイナーになることです」と答えたラトナ。
ラトナは仕事に支障をきたさないから、
裁縫教室に通わせてもらえないかとアシュヴィンに頼むんですね。
承諾するアシュヴィン。
楽しそうに裁縫教室に通うラトナの姿が、
アシュヴィンには輝いて見えるようになります。
ひとつ屋根の下、男女としての意識が芽生えます。
でも、ふたりは雇い主と使用人。
越えることの出来ない、身分の違いが立ちはだかっていたのです…。

インドにはカースト制度があり、厳格な階級制がしかれています。
また、同じインド人であっても、
文化がまったく異なる環境で育てば、慣習が交わらないことも当たり前のようにある。
そんなある種の“タブー”をテーマに、インド人女性のロヘナ・ゲラ監督が挑んだ映画。
インドで生まれ育ったけど、カリフォルニアやNY、パリでも生活した経験が、
客観的に自分の国を見つめさせたのでしょう。
加えて、女性の地位向上にも一石を投じています。
それでも、監督自身が「あり得ない」と語るアシュヴィンとラトナの関係。
ふたりの恋が成就する唯一無二の方法とは?
ボクの価値基準ですが、Bunkamuraル・シネマで上映される映画は、
やっぱり面白いです。☆4つ。
「あなたの名前を呼べたなら」公式サイト



『風をつかまえた少年』は、実話に基づくストーリー。

アフリカ南東部、マラウイ湖の西に隣接する“アフリカ最貧国”のひとつ、マラウイ。
ウィリアムは父が買ってくれた制服を着て、喜び勇んで中学の入学式へ。
ところが、不足分の学費を払わなければ退学だと、
その日に通告されてしまいます。
天候不順で農作物が穫れず、家にはお金などありません。
学費どころか、母と姉、幼い赤ん坊の食べるものすら足りませんでした。
退学が決まってしまったウィリアムでしたが、
図書館でこっそり本を読むことだけは許してもらうんですね。
むさぼるように本を読むウィリアム。
すると、風車を使ってポンプを作れば、畑に水を引けると考えます。
仲間と廃品を集めて、小さな風車を作ったところ、
その電気でラジオが鳴りました。“発明の卵”が生まれた瞬間です。
しかし、父にそのことを告げても、父は一切聞く耳を持たず、
「二度と下らない話をするな」とウィリアムを叱るのでした…。

当時、電気を使えるのが、人口の約2%しかいなかったマラウイ。
教育を施すことも難しいこの国で、ひとりの少年が、その困難に立ち向かう物語。
原作はウィリアム・カムクワンバ氏自身の書いた同タイトルの自叙伝です。
母は先進的な考えを持つ女性でしたが、
父は日照りには雨乞いの祈りしかないといった古いタイプの人。
風車を作るには、父の大事にしている自転車を解体する必要があったのですが
理解してくれるはずもありません。
それでも自分を信じ、皆の幸せを思い、闘ったウィリアム少年。
ウィリアム・カムクワンバ氏は、2013年、
タイム誌の『世界を変える30人』にも選ばれ、
今や世界を股にかけて活躍する人に。素晴らしいことですよね。
この映画がきっかけとなり、
世界中の子供たちが教育を受けられるようになるといいですね。
可能性は無限にあるはずですから。☆4つ。
「風をつかまえた少年」公式サイト



『世界の涯ての鼓動』は、ヴィム・ヴェンダース監督最新作。

ダニーは海洋生物数学者。
彼女はすべての生命が深海から誕生したことを証明するために、
超深海層よりさらに深い海へと潜るミッションに携わっていました。
人類がまだ挑んだことのない領域。
探査艇のわずかな不備でも命を落とす、ギリギリのチャレンジです。
その任務の前に、バカンスに来ていたノルマンディーのホテルで、
ダニーはジェームズという男性と出会います。
ダニーは水道事業の指導をしに、ケニアに行くと言います。
ふたりはあっという間に惹かれ合い、わずか数日の間で、
互いに運命の人だと確信するんですね。
それから1ヶ月。ダニーは遂にミッションに挑むことになります。
しかし、ジェームズからの連絡は途絶えたまま。心が乱れたままのダニー。
実はダニーの知らないジェームズの正体は、MI-6の諜報員。
テロの首謀者を捕まえるべく南ソマリアに潜入したところを、組織に監禁され、
いつ処刑されてもおかしくない状況にあったのです…。

面白かったです。
主人公の男女は共に容姿端麗、頭脳明晰。
アプローチは違えど、信念のもと、
人類の発展や平和のために命を賭けるという点で共通するなら、
瞬時に惹かれてしまうのも納得です。
連絡がつかなくなったジェームズの心変わりが心配で仕方ないダニー。
そんな不安を抱きながら深海へ。
一方のジェームズも、ジハード戦士に、銃口を突きつけられます。
このまま再会出来ずに終わってしまうのか…。
それは見てのお楽しみ(笑)。
海洋生物数学者と諜報員。まったく異なる男女を、
これほどまで上手く結びつけ、並行して描く、
J・Mレッドガードの原作小説『Submergence』のクオリティの高さと、
映像化は不可能と言われていたものを見事に映画化した
ヴィム・ヴェンダース監督の手腕に脱帽です。
恋愛映画で、サスペンス映画でもある。でも、それらを超越した何かがあります。
オススメです!満点!☆5つ。
「世界の涯ての鼓動」公式サイト



『メランコリック』は、同じ年齢の3人の監督で作ったサスペンス・コメディ。

東大出身のニート、鍋岡和彦、30歳。
母親が風呂の湯を抜いてしまい、近所の銭湯“松の湯”へ行くと、
高校時代の同級生、百合とバッタリ。
同窓会があると聞かされ、なんとなく行く約束をします。
同窓会の日、百合に「今は休憩中」と言い訳をする和彦。
「だったらあの銭湯で働いたら?私もたまに行くし」と言われ、
百合のことが気になっていた和彦は、百合と会うのが目的で、松の湯で働くことに。
松の湯には、小寺という古参の従業員がいたのですが、
オーナーの東は和彦と同時にもうひとり、松本晃という若い男も採用します。
ある夜のこと、誰もいないはずの銭湯に明かりがついているのを見つけ、
和彦がこっそり覗き込むと、そこでは小寺が血まみれの死体のそばに立ち、
東と笑いながら話をしているではありませんか。
そう、松の湯は人殺しのスペースだったのです…。

昨年話題となった『カメラを止めるな!』を発掘した
ウディネファーイースト映画祭で、同じ新人監督作品賞を受賞した作品。
確かに、銭湯なら血は洗い流せるし、
遺体は刻んで窯に投げ入れれば跡形もなくなりますもんね。
人を殺すにはもってこいの場所だ(笑)。
“巻き込まれ系”との表現がありましたが、
和彦がどんどんと仕事としての殺人に使命感を持ち、意欲が湧いていくという。
いやいや、間違えてますから、方向性(笑)。
奇抜な発想とストーリー展開が面白い1本。
B級感はたっぷりですが、それもまた味かな。
3人監督という異例の手法も話題になりそうですね。☆4つ。
「メランコリック」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.7.25

『隣の影』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


雨の季節は試写会に足を運ぶのも、少々面倒だったのですが、
梅雨が明けたら明けたで、今度は暑さと闘わないといけなくなります。
移動は自転車が多いので、汗拭きシートは必需品。汗臭い隣人は嫌ですもんね。
あ、なんか紹介する映画の上手いフリみたいになっちゃいました(笑)。
さ、今週は1本です!



『隣の影』は、アイスランド映画。

アイスランド郊外の住宅地。 老夫婦のバルドウィンとインガが暮らす家の庭には、1本の大きな木がありました。
隣りに住むのコンラウズは、妻のエイビョルグが日光浴をする際に木が影になるので、
枝葉の手入れをしてくれないかと、バルドウィンに頼むのですが、
妻のインガは「あの木には触らせない」と拒否。
それが原因となり、互いにいがみ合うようになります。
何か嫌なことが起きると、「隣がやった」「隣のせいだ」と。
ある日のこと、インガの飼っていた猫が姿を消し、
エイビョルグの愛犬が変わり果てた姿で発見されたのでした…。

コンパクトにまとまった、舞台演劇のような映画です。 ここにインガとバルドウィンの息子で、パソコンでエロ動画を見ていたことから、
妻のアグネスに三行半を突きつけられ、実家に戻ってきたアトリが加わります。
つまり、登場するのは名前を挙げた3組の夫婦6人と、猫と犬が2匹。
憎しみの連鎖で、事は次第にエスカレート。
どんな結末に着地するのかと見てたら、なるほど、そこですか…。
個人的には、インガの底意地の悪さが最悪かも(笑)。
隣人も、隣国も、選べないですからね。
上手くやっていくしか無いのでしょうが、ハズレを引いたら大変です(^^;)。
因果応報。怖い、怖い。☆3つ。
「隣の影」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.7.19

『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』☆☆☆☆☆
『五億円のじんせい』☆☆☆☆☆
『東京喰種 トーキョーグール【S】』☆☆☆
『マーウェン』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


今週は満点の映画が2本。
国も、ジャンルも、まったく違う作品ですが、それぞれによかったです。
残る2本ももちろん、興味を持ったら劇場に足を運んで下さいねっ。
さ、今週は4本です!



『工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男』は、
韓国と北朝鮮の、実話に基づくストーリー。

1992年、陸軍の少佐だったパク・ソギョンは、
国家安全企画部から、工作員になるよう命じられます。
事業家に扮し、スパイとして北に潜入。核兵器開発の実態を探るのが目的です。
北京に駐在する、北朝鮮の対外経済委員会の所長が、リ・ミョンウン。外貨獲得の総責任者で、
金正日総書記と単独で会える超エリートです。
そのリ所長との接触を計るパクは、時間を掛けながら、徐々にその距離を縮めていきます。
完璧に若き実業家になりすましたパクでしたが、北の洞察力は鋭く、
韓国の工作員の多くが不可解な死を遂げていた中、
ささいな会話からもスパイかどうかを探るリ所長。
幾度も訪れる危機を乗り越え、パクはリ所長の信頼を勝ち得ていくんですね。
そして、互いのビジネスとして、外貨獲得のために、北での広告撮影を提案。
すると、驚きの電話が入ります。金正日総書記が直接会いたがっているというのです…。

ここまでは触りも触り。数百文字なんかで書けないストーリーが展開していきます。
“実話に基づく”とありますが、本当に実話なのかは闇の中。
ただ、実在のスパイを通しての“史実”というのですから、
実際にあったのかもしれません。
選挙の時や政権危機の際に、必ずと言っていいぐらい北朝鮮にかかわる事件が起きて、
国民世論の風向きが変わると。これを“北風”と呼ぶんだそう。
劇中でも描かれていますが、例えば、1996年に野党の金大中氏が政界に復帰し、
人気となり、当時の政権を脅かすと、総選挙の6日前に北の武力挑発が起き、
国民の支持は保守に翻って形勢は逆転。金大中氏ら野党は惨敗するんですね。
これ、実は北朝鮮と韓国政府の“出来レース”で、
韓国は北に多額の報酬を払って、トラブルを起こしてもらっていたと。
本当だとしたら、すごい話でしょ?
こんなシーンが出て来たら、「まじかっ」と身を乗り出してしまいますよね。
お隣り国の分断の話。でも、最後はちょっといいんだなぁ…。
互いに国を思う男と男。ぐっと来ました。
ちなみに、金正日総書記は超絶ソックリです(笑)。
今、日本と韓国はめちゃめちゃギクシャクしてますが、
いいものはいいでいいじゃないですか。
この映画はすごいっ。実に深くて、面白かったです!満点!☆5つ。
「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男」公式サイト



『五億円のじんせい』は、募金で心臓移植を受けた男子の青春物語。

高月望来(みらい)は、17歳の高校生。
実は彼は、6歳の時に心臓移植手術を受けていて、
その費用の五億円は「望来ちゃんを救う会」の皆さんによる募金活動で集まったもの。
いい子を演じ、将来の夢は医者だと言わざるを得ない。
彼は、五億円分の善意を背負って生きていたのです。
自分の命に五億円の価値があるなんて思えない。
SNSの匿名アカウント“go_oku”で、自殺宣言をすると、
“キヨ丸”という見知らぬアカウントから、
「五億円稼いで、借金チャラにしてから死ね」とDMが届いたのです。
それならやってやろうと奮起。
「旅に出ます。探さないで下さい」と書き置きをして、家を出た望来。
果たして、五億円の呪縛から、逃れることが出来るのでしょうか…。

これも面白かったです!
望来は計算するわけですよ。時給1000円で1日8時間働いて8000円。3
65日休まず働いても、五億円稼ぐには171年かかる!
それならばと、宝くじを買ってはみたものの、
未成年者は受取人が保護者になると。
工事現場で働き、添い寝カフェで女性の相手をし、
死体清掃をするなど、とにかく高額のアルバイトにチャレンジ。
特殊詐欺にまで手を染めそうになるんですね。
泊まれるところもないから、ホームレスの簡易テントで寝床を借りたりと、
今まで知らなかった世界を次々と経験していく望来。
ところが、優しいと思って信じていたホームレスのおっちゃんが、
望来のトラの子の貯金を盗んだかも。
初めて人に裏切られた望来は、悔しくて悔しくて涙が止まらない。
よしよし、望来、デッカくなれよ。
あんまり言っちゃいけないと思いますが、この映画はね、
感動のどんでん返しが待ってます。これがたまんないんだよなぁ。
着想はもちろんのこと、純な高校生にいっぱい悪いことやらせちゃうんだから、
ストーリー展開も大胆(笑)。でも、すごくいい映画っ。
ボクは好きです。満点!☆5つ。
「五億円のじんせい」公式サイト



『東京喰種 トーキョーグール【S】』は、人気コミックの映画化、第2弾。

今、社会には人間のみならず、
“喰種(グール)”と呼ばれる、人を喰らって生きる種族が混在。
しかし、姿、形は人間そのもの。
ひっそりと正体を隠しながら生きる喰種もいれば、
快楽を追い求めるかのように人を喰らう喰種もいたのです。
カネキは不慮の事故をきっかけに、
喰種と人間のハーフ“半喰種”になってしまった男子高校生。
そこに現れた月山という“快楽グルメ”の喰種が、
カネキのえもいわれぬ香りに、美食家としての興味を止められなくなります。
カネキを喰らおうと、カネキの仲間にも、月山の魔の手が伸びます。
果たして、カネキは自分自身を、
また周りのみんなを救うことが出来るのでしょうか…。

週刊ヤングジャンプに連載された、石田スイの人気コミック。
シリーズ累計4400万部突破というから、すごいですよね。
初の映画化となった2017年の続編が今作。2年振りの公開となりました。
一見、共存は不可能な喰種と人間。それでも、それぞれが何とか道を探ろうとする。
その一方で、強者が力でねじ伏せようともする。
多様性を考えなくてはならない現代社会にも、
何か通じる部分があるんじゃないですかね。
なんて、評論家チックに語ると、そんな感じかな(笑)。
窪田正孝vs松田翔太。イケメンの競演は、ファン必見です。☆3つ。
「東京喰種 トーキョーグール【S】」公式サイト



『マーウェン』は、実在の人物の半生を描いた、ロバート・ゼメキス監督最新作。

マーク・ホーガンキャンプ、38歳。アメリカ海軍を名誉除隊となった、元軍人です。
家の近くのバーで飲んでいたマークは、その帰り道、5人の若者から暴行を受けます。
原因は、マークが彼らに話した自分の“異性装”。
「女性のストッキングとハイヒールを身につけることがある」ともらしたマークを、
若者たちはさげすみながら、頭と胸を執拗に踏みつけたのです。
結果、マークは脳に大きな障がいを抱えることに。
成人後の記憶もほとんど失い、
ひどいPTSDに苦しみながらの生活を強いられることとなります。
そんなマークの心を救ったのが、自宅の庭に作った架空の村“マーウェンコル”。
6分の1サイズのその村には、
自分と同じところに傷があるG.Iジョー人形のホーギー大尉と
5人のバービー人形たちが住み、ナチスの親衛隊と戦っていました。
その村で繰り広げられる物語を、古いペンタックスで撮ること。
それがマークのライフワークになっていたんですね。
しかし、マークにはやらなくてはならない大仕事がありました。
暴行事件の裁判での証言です。
犯人を軽い刑罰で済ませないためには、マークの出廷は不可欠。
ところが、記憶の中のあの日に戻るのは、マークにとってあまりに苦痛。
とてつもなく大きな勇気が必要なことだったのです…。

『フォレスト・ガンプ 一期一会』のロバート・ゼメキス監督最新作。
いわゆる“ヘイトクライム(憎悪犯罪)”の被害者で、障がいを抱えながらも、
独自の視点で撮った写真が高い評価を得ている、
マーク・ホーガンキャンプの半生を描いた作品です。
劇中、マークの実生活に加え、フィギュアたちが物語を生きるのですが、
そのフィギュアの精密さ、モーション・キャプチャを使ったアクションなどのこだわりは、
まさにリアルとバーチャルのミクスチャー。
掛けた制作費は、なんと約44億円!
ナチスの親衛隊は、マークを襲った若者たちの象徴。
マークはホーギー大尉に自分を置き換え、ヤツらと戦っていたのです。
事件が起きたのは2000年4月。
今は56歳になったマークですが、マーウェンコルの村で、
今も写真を撮り続けているそうです。☆3つ。
「マーウェン」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.7.12

『カニバ パリ人肉事件38年目の真実』☆☆☆
『さらば愛しきアウトロー』☆☆☆☆
『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


試写会で、R-18指定の作品と知ってる時、
隣りに若い女性が座るとちょっと焦りますね。
意外とじーっとしていられないタイプですが、
この時ばかりは変に動かないように気を遣ったりして(^^;)
終映後は「ふぅ…」とひとつ息をついてしまいます。意識し過ぎかな(笑)。
さ、今週は3本です!



『カニバ パリ人肉事件38年目の真実』は、
佐川一政氏の今を追ったドキュメンタリー。

覚えていますか? 1981年、パリでオランダ人留学生の女性を背後から射殺し、屍姦のあと、
その肉の一部を食べるという、
あまりにも衝撃的な事件を起こした日本人、佐川一政の名前を。
彼はフランスでの取り調べで、
「昔、腹膜炎をやった」と答えたのを“脳膜炎”と誤訳され、
精神鑑定の結果、犯行時心神喪失状態だったと判断。不起訴処分となります。
帰国後、日本の警察はフランス警察に捜査資料を渡すよう求めますが、
不起訴になった者の資料を引き渡すことは出来ないと拒否。
精神病院への入院から15ヶ月で、佐川一政は社会に復帰します。
有名人のように扱われることに、世論は制裁を受けるべきとの声をあげるのですが、
89年に宮崎勤事件が起きると、猟奇犯罪の理解者としてメディアに多数出演。
バラエティにも出演するようになります。
その後、紆余曲折あって、今は脳梗塞と糖尿病を患い、
都内の病院に入院中で、弟の純さんが熱心に面倒を見ています。
むくんでいるのか、腫れぼったい目。生気の無い語り口。
海外の映画祭で上映した途端に、席を立つ人が続出というのも納得です。
『カニバ』はカニバリズムに由来しますが、これには嗜好だけでなく、
スピリチュアル的なものと、併せて語られることもあるとか。
キリスト教の聖体拝領も、パンでキリストの聖体を自分の体内に頂きます。
“同体化”に意味があるということなのでしょうか。
ショッキングだったのは、弟の純さんの…。あ、これは書くのは控えましょう。
事件を赤裸々に語る佐川一政。
猟奇性は、生まれもってのものなのか、
それとも後天的に備わってしまったものなのか。
なんだか、いろんなことを考えてしまいました。
点数はつけづらいのですが、☆3つとしておきます。
ご覧になって、自身で判断してみて下さい。
「カニバ パリ人肉事件38年目の真実」公式サイト



『さらば愛しきアウトロー』は、名優ロバート・レッドフォードの引退作。

1981年のアメリカ、テキサス州。
フォレスト・タッカーは、初老の銀行強盗。
今日も仲間と銀行へ。スーツをスマートに着こなし、笑顔で行員や支店長に近付くと、
すっと上着を開き、ポケットの拳銃を見せ、「金を入れて」とバッグを開ける。
ただ、それだけ。
これまでに100件近い銀行強盗を働きながら、誰ひとりとして傷つけていないんですね。
逃亡途中に出会ったジュエルという女性は、子供も独立し、牧場のある自宅で、
悠々自適の生活を送る、美しい未亡人。
初めはフォレストを怪しい目で見ていたのですが、
紳士的な振る舞いに心を開き、互いに惹かれていきます。
でも、フォレストは銀行強盗。
地元警察の若きジョンに加え、遂にはFBIまでもが動き出したのです…。

アメリカを代表する数々の名作に出演してきたロバート・レッドフォードの引退作。
フォレスト・タッカーは実在の人物で、
冒頭の「この映画はほとんど実話である」という字幕は、
69年の『明日に向かって撃て!』の冒頭の字幕と同じものだと、
もらったプレス資料の解説コラムにありました。
その他にも、スタートの合図に鼻をこするのは“あの映画から”だとか、
ロバート・レッドフォードファンが見れば、
ニヤリとする仕掛けがあちこちに散りばめられていると教えてくれています。
ジュエルに扮するのは、シシー・スペイセク。
あのホラー映画の『キャリー』のイメージが強過ぎる女優さんですが、
いやいや、とても美しく。いい年の重ねかたをしてるなぁと。
1936年生まれのロバート・レッドフォードは、83歳。
素敵な引退作品に出逢えたと、本人も満足しているのではないでしょうか。
青春時代をロバート・レッドフォードの映画と共に過ごしたという皆さんには、
必見です!☆4つ。
「さらば愛しきアウトロー」公式サイト



『シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢』は、男性シンクロチームの奮闘記。

ベルトランは、2年前にうつ病になり、会社を辞め、
今も家に引きこもる中年男性。
妻は心配し、子供たちからは冷たい目で見られています。
そんなベルトランが地元の公営プールに行くと、
「男性シンクロナイズドスイミング、メンバー募集」の貼り紙が。
珍しく興味を抱き、やる気を出したベルトランでしたが、メンバーを見てビックリ!
みんなお腹たっぷんたっぷんの中年男性ばかりで、
それぞれが家庭に、仕事に、そして自分自身に悩みを抱えていたのです。
コーチのデルフィーヌも、元シンクロの強豪選手だったのですが、
相方の事故で選手生活を諦め、恋愛も上手くいかず、心に闇を抱えています。
そんなメンバーたちが、ふと開いたパソコンで、世界選手権の存在を知るんですね。
軽い気持ちでエントリーのボタンを押してしまったベルトランたち。
そこから悪戦苦闘の毎日が始まるのでした…。

原題は“大浴場”を表す『Le grand bain』。プールを皮肉ったイメージでしょうか。
英題の『SINK OR SWIM』の“シンク”には“沈む”などの意味があり、
これで“イチかバチか”となるそうです。勉強になりますね(笑)。
スウェーデンの、実在の男性シンクロチームのドキュメンタリーから発想を得たというフランス映画。
なんとなく、ストーリーや結末はイメージ出来ると思いますが、興味深かったのが練習シーン。
デルフィーヌがコーチを放棄してしまうと、代理で車椅子の女性コーチがやってくるんですが、
この人が超スパルタ!今の日本だったら“パワハラ”や“暴力指導”で叩かれるはず。
でも、人権問題には世界で最も厳しい国のひとつである、
フランスでこの映画がヒットしたということは、
日本の現状があまりにも神経質になり過ぎているんじゃないかと、
ふと思ったんですね。
いや、軽々しく言える問題でないことは、重々理解してますョ。
でも時に選手の命を守るコーチは、そのことを教えるために、
厳しく接する必要があるんじゃないかと思うことが正直あります。
フランス映画ですが、イギリス映画にも似たテイスト。
笑って、感動して、そして考えて。
ちょっぴり出っ張った自分のお腹をさすりながら、
何かを始める契機になるかもしれませんョ。☆4つ。
「シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.7.5

『ゴールデン・リバー』☆☆☆
『田園の守り人たち』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


雨が続きますね。梅雨だから当たり前なんですが、
雨だと試写から試写への移動が大変になります。
特に時間がカツカツの場合は、眉間にシワが出来てるはず(笑)。
傘立てに傘を入れて、間違えてだとは思いますが、
持っていかれちゃったこともあるから、席まで持っていきたいし。
雨が降らなきゃ降らないで困るのもわかります。
それでも、早く梅雨が明けてくれないかなぁと思う今日この頃です。
さ、今週は2本です!



『ゴールデン・リバー』は、フランス産のウェスタン映画。

1851年、ゴールド・ラッシュに湧くアメリカ、オレゴン。
提督のもと働く、最強の殺し屋兄弟がいました。
イーライとチャーリーのシスターズ兄弟です。
今回の仕事は、ウォームという男の始末。
ウォームを追う連絡係のモリスからの情報を頼りに、
ふたりはサンフランシスコへと南下していきます。
すると、モリスは金脈を探す金採掘者の中にウォームを発見。
会話を交わし、ふたりは旅を共にすることに。
ウォームはこんな話を打ち明けるんですね。
「自分は科学者で、金を瞬時に見分ける薬の化学式を発見した」と。
ところが、モリスの行動に不信感を抱いたウォームがモリスの鞄を開けると、
メモにはモリスの本当の目的が書いてあったのです。
腕に勝るモリスはウォームを拘束しますが、ウォームの壮大な理想論を聞いているうちに、
モリスはウォームと手を組むことを決意。
提督を裏切り、ふたりで逃げ出したのです。
それを知ったシスターズ兄弟は、ウォームのみならず、
モリスをも標的にすることになったのですが…。

原題は『シスターズ・ブラザーズ』。
カナダ人作家、パトリック・デウィットの同名小説を、
フランス人監督のジャック・オーディアールが映画化。
邦題を『ゴールデン・リバー』にしたのは、“姉妹兄弟”じゃ、
イメージからかけ離れてしまうと思ったんでしょうか。シスターズは名前なんですけどね(笑)。
アメリカのウェスタン映画とは、ちょっと違ったテイスト。
その後、シスターズ兄弟は訪れた先の有力者から命を狙われ、
モリスとウォームの力を借りて、追っ手を撃退。
すると、敵だった4人が手を組んで金を探すことになるのですが、
思いもよらない方向に4人の運命は転がっていきます。
ウェスタンをベースにした、サスペンス映画と言ったほうが正しいのかも。
「そうくるか…」という、終盤の意外な展開が面白かったです。☆3つ。
「ゴールデン・リバー」公式サイト



『田園の守り人』は、フランス映画。

第一次世界大戦中のフランス。
のどかな田園地方では、直接の砲撃こそなかったのですが、長男、次男と男子を皆、
兵役に取られ、母オルタンスと近所に嫁いだ娘のソランジュは、
女の手で自分たちの田畑を守っていたのです。
収穫時期になると、いよいよ人手が足りなくなり、
孤児院出身の20歳のフランシーヌを雇い入れます。
フランシーヌは働き者。歌も上手く、その歌声が、女性たちを癒やしていました。
休暇で次男のジョルジュが帰ると、ジョルジュとフランシーヌは恋仲に。
その一方でソランジュが米兵と密会しているとの噂が近所で広まり、
それを娘ではなくフランシーヌの仕業に仕立て上げようと考えたオルタンスは、
フランシーヌにクビを言い渡します。
ジョルジュとの仲も深まっていたフランシーヌは猛反発。
すると、オルタンスはジョルジュにまでも、フランシーヌの素行の悪さを吹き込みます。
母の嘘を信じたジョルジュは、フランシーヌを追い出すよう伝え、戦場に向かうのでした。
しかし、その時すでにフランシーヌは、お腹の中にジョルジュの子を宿していたのでした…。

戦争が生み出すもうひとつの悲劇。“哀しみのサイドストーリー”とでも言いましょうか。
ただ裏を返せば、みんな強く、たくましく生きていた時代。
他人を蹴落としてでも、大切なものを守ろうとする母オルタンスの姿勢に、
非難の声を挙げられるかと聞かれたなら、答えに窮するかもしれませんよね。
フランシーヌもその後、炭焼きを営む女性の家に住み込みで働き、
シングルマザーとしての道を選びます。
フランス映画にしては、結末がしっかりと。
岩波ホールで上映する映画らしい作品です。
感じ入る部分は必ずあると思います。☆3つ。
「田園の守り人」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.6.29

『今日も嫌がらせ弁当』☆☆☆☆☆
『劇場版パタリロ!』☆☆☆☆
『COLD WAR あの歌、2つの心』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


暑くなってくると、試写会でどうしても気になるのが“臭い”。
意外と多いんですよ、お風呂に入ってないなぁという人…。
さすがに映画に集中出来なくなるから、席を替わったりします。
せっかく早く着いて、お気に入りの席に座ったのに(^^;)。
自分の臭いはわからないといいますが、試写室は密室ですから。
ちょっと気を遣って欲しいものです。
さ、今週は3本です!



『今日も嫌がらせ弁当』は、エッセイにもなった大人気ブログの映画化。

八丈島に住む、かおりは、夫を事故で亡くしたシングルマザー。
ふたりの娘がいるんですが、長女は就職し、今は15歳の次女・双葉との二人暮らし。
その双葉が強烈な反抗期で、目の前にいるのに会話はline。
高校入学式当日、あまりに態度の悪い双葉に対し、かおりはこう宣言します。
「その態度を改めるまで、私もあなたの嫌がることをします」。
友達からクールで通っていた双葉が嫌がること。
それは、毎日可愛らしい“キャラ弁”を持たせることでした…。

月間のアクセス数が350万を突破したという、
kaori(ttkk)のブログがエッセイになり、
篠原涼子、芳根京子のW主演で映画化されました。
かおりは昼も夜も、さらに家でも内職をするという働き者。
嫌がらせと言いながら、睡眠を削ってまで、キャラ弁を作り続ける姿に、
母の愛情を感じずにはいられません。
そのかおりが過労で倒れます。
どうする、双葉?
年頃の女の子ですから、恋もする。就職の悩みもある。
母娘の3年間を描いた、笑って泣ける1本です。
お弁当箱を開いた時、作ってくれた人の顔を思い出してみて下さい。
味がひと味、いやふた味違うかもしれませんョ。満点!☆5つ。
「今日も嫌がらせ弁当」公式サイト



『劇場版パタリロ!』は、1978年に連載がスタートした人気コミックの実写映画化。

ダイヤモンドの一大産出国であるマリネラ王国。
この国では、国王派と大臣派が権力争いを繰り広げていました。
そんな中、皇太子のパタリロ・ド・マリネール8世がロンドンを訪れます。
パタリロが命を狙われているという情報は、イギリス諜報部の耳にも届いており、
側近のタマネギ部隊の他に、M16からバンコラン少佐がパタリロの護衛につきます。
バンコラン少佐は“美少年キラー”と呼ばれるイケメンの実力者。
さらに、BBCのマライヒという記者が密着取材を行うのですが、これがまた美少年。
危険な匂いがいっぱいの、パタリロのロンドン滞在が始まったのです…。

最初にヒースロー空港に飛行機が到着するシーンを見て、
「下らないドンチャン騒ぎの映画か…」と、席を立ちたくなるぐらいだったのですが、
話が進むにつれて、「面白い!」に変わっていきました。
バカバカしいのは、間違いなくバカバカしい(笑)。
でも、ミュージカル仕立ての曲がすごくいいんですョ。
詞も下らないんですが、何故か引き込まれていきます。
原作は魔夜峰央。あの『翔んで埼玉』の作者でもあります。
主演は加藤諒。以前、舞台化された時もパタリロを演じました。
美少年たちが倒錯の世界を展開させるその中に、3等身ぐらいのパタリロが食い込んでいく。
笑いのツボは人それぞれですが、意外やボクはハマりました。
興味があれば、是非ご覧になってみて下さい!☆4つ。
「劇場版パタリロ!」公式サイト



『COLD WAR あの歌、2つの心』は、ポーランド映画。

1949年のポーランド。
国立の舞踏団を立ち上げるため、3人の男女が村々を歩き、
音楽の才能に長けた少年少女を探していました。
ある村に着いた時のこと、ピアニストのヴィクトルの心を、一発で撃ち抜いた少女がいました。
彼女の名はズーラ。
父親殺しで執行猶予中だと言います。
練習を積み重ね、51年の初舞台は大成功。中でも輝いていたのはズーラでした。
ヴィクトルとズーラは恋に落ちます。
しかし、ヴィクトルは西側の音楽を好み、指導部から目を付けられていたのです。
自らの音楽家としての信念を捨てられず、パリへの亡命を決意したヴィクトルは、
ズーラに一緒に来て欲しいと誘います。
しかし、待ち合わせた場所に、ズーラは現れなかったのです…。

複雑な時代を背景に、一組の男女の愛を追った映画。
パヴェウ・パヴリコフスキ監督の両親がモチーフだという、深い愛の物語です。
全編モノクロの映像が、その時代を演出。
「それぞれに別のパートナーとくっついたりしながらも、
とても激しい関係を結んでいた」と監督の言葉にあるように、
別れては出会い、再会を果たしては引き離されるヴィクトルとズーラ。
亡命生活、全体主義…。個々人が思うように生きづらい時代の、
究極の愛の在りようが描かれているんだと思います。
自国での響き方は、きっとボクらとは比べようがないぐらいなんでしょうね。☆3つ。
「COLD WAR あの歌、2つの心」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.6.18

『アンノウン・ソルジャー 英雄なき戦場』☆☆☆
『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


電車の中での、男子高校生の会話。
「映画見たくね?」
「『メン・イン・ブラック』面白そうじゃん」
「えっ?『ペンギン・ブラック』?“黒いペンギン”の話?」
ぷっ(笑)。聞こえなくもない…。
若い男子が、映画館で映画を見たいと言ってることに、明るい未来を見た感じです。
さ、今週は2本です!



『アンノウン・ソルジャー』は、フィンランド映画。

1939年から40年にかけて、旧ソ連がフィンランドに侵略し、起こした“冬戦争”。
敗れたフィンランドは、停戦時、ソ連に広大な土地を奪われてしまいます。
すると41年に、ドイツがソ連に侵攻。
フィンランドは国土回復を掲げて、ドイツと共にソ連と戦ったのです。
これを“継続戦争”と呼びます。
この戦争に、機関銃中隊の兵士として配属されたロッカは、家族で農業を営んでいたものの、
冬戦争で、その土地をソ連軍に奪われてしまったのです。
大事な祖先からの土地を取り戻し、家族で元の畑を耕したい。ロッカの思いはそれだけでした。
すべての兵士が、大切なもののために、命を賭して戦闘に臨んでいたのですが、
圧倒的戦力の前に、なすすべもなく倒れていくのでした…。

フィンランドでは知らない人がいないという小説「無名戦士」が原作で、
これが3度めの映画化だそう。
1テイクに使用した爆薬の量が、ギネスの世界記録に認定されたほどの迫力のある映像で、
戦争の痛ましさをスクリーンに映し出しています。
多くの理不尽、個のあまりの無力さ…。
様々な負の要素が映像を覆い尽くし、重く、暗い映画です。
でも、戦争って、きっとこういうものなんだろうなと。
逆に華々しく活躍するヒーローにスポットライトが当たるより、
よっぽどいいんじゃないかと思います。
知らない人が、知らない人を、正義の名のもとにバンバン殺すんですから。
戦争は狂気の沙汰です。☆3つ。
「アンノウン・ソルジャー」公式サイト



『劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん』 は、
実話に基づく、人気ブログの映画化。

広告代理店に勤めるアキオは、母と妹との3人暮らし。
父はずっと単身赴任。家にはいませんでした。
仕事一筋で、以前から出張ばかり。たまに家にいても、家族とはめったに口も聞かず。
そんな父が、突然会社を辞めて、実家に戻ってきたのです。
昇進の噂もあったのに。理由はわかりません。
それでもアキオは、少しでも父のことを知りたいと思ったんですね。
父との唯一の接点。それは、子供の頃に一緒に遊んだ“ファイナルファンタジーIII”でした。
今はオンラインゲームになっている“ファイナルファンタジー”も、シリーズ14本目。
退職祝いにと、父にゲームソフトをプレゼントすると、狙い通り、父はゲームを始めます。
アキオのキャラクター名は“マイディー”、父は“インディ”。
父に気付かれないよう、アキオはインディにフレンド申請。
すると父はすっかりゲームにハマっていったのです。
画面上での会話に、父の知らなかった一面を見て、驚くアキオ。
仲間と力を合わせて、最強の敵を倒す約束をするのですが、ゲーム当日、
思いも寄らないアクシデントが待っていたのです…。

アキオに坂口健太郎、父に吉田鋼太郎。
このキャスティングを聞いただけで、なんとなく家族像が浮かびませんか?
ブログが話題となって、まずはドラマ化。
さらに映画化の話が出た矢先に、ドラマで父を演じていた大杉漣さんが亡くなります。
ならば、一からキャスティングを考えようとなったそうです。
家族って、面倒くさいですよね(笑)。
血は繋がっていても、その実、個の人間ですから。心の奥底まではわからない。
わからないからこそ、どっちの側から接するかで、その関係性は変わってくる気がします。
根底にあるだろうはずの優しさの部分か、それともギクシャクしている時の嫌な部分か。
アキオは前者で父に対峙しようと努めました。だから心が通じたんだと思います。
ボク自身、父が亡くなって、あまり間もなく見たものですから。
「もっと、こうしてたらよかったなぁ」と後悔しきり。正直、ぐっと来るものがありました。
親不孝者?のほうが、感動する1本かもしれませんョ(笑)。☆4つ。
「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.6.14

『さよなら、退屈なレオニー』☆☆☆
『ハウス・ジャック・ビルト』☆☆☆☆
『耳を腐らせるほどの愛』☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


最近、ボクのレギュラー番組、FM NACK5『Beautiful Songs』でも、
また映画をちょいちょい紹介するようになりました。
時間帯や、番組の性格上、食か音楽にまつわる映画が多いんですけどね。
ラジオからも、是非聴いてみて下さい!
さ、今週は3本です!



『さよなら、退屈なレオニー』は、カナダの青春映画。

高校の卒業を1ヶ月後に控えたレオニーの毎日は、不満だらけ。
特に、父と離婚した母の再婚相手のポールが大嫌い。
ラジオのDJをしているポールは、実父のシルヴァンとは真逆の人間。
シルヴァンは職場でストライキが起こった時、労働者の代表として闘い、
クビになったのですが、レオニーはそんな父を誇りに思っていたのです。
ある日のこと、レオニーは、街のダイナーでいつも食事をしている、
冴えない中年男性に興味を持ちます。
後日、思い切って声を掛けてみると、彼はスティーヴという名で、母親と二人暮らし。
家でギターを教えて生計を立てていると言います。
スティーヴといると、なぜか落ち着くレオニーは、スティーヴからギターを習うことに。
そこから、二人の微妙な関係が始まったのでした…。

街は出たいけど、やりたいことがわからない。
不満はあるけど、ぶつける場所がない。そんなレオニーの高校卒業直前のお話です。
レオニーとスティーヴは恋人同士じゃない。でも周りは関係を疑う。
卒業パーティにスティーヴと出て、スティーヴの部屋で寝ちゃった時も、
義父はレオニーをふしだらだと叱りつけるんですね。
レオニーはこれまでの不満を爆発させ、義父を思いっ切り罵ると、
義父はレオニーに向かって、両親の離婚の、本当の理由を暴露します。
それは大好きだった父の、信じられない行動だったのです。
大人になるって、今まで知らなくて済んでいたことを知ることでもありますよね。
あなたにも経験がありませんか?
お国柄で、細部は違うかもしれませんが、「わかる!」という部分も大きいと思います。
若い人は等身大で、大人は甘酸っぱく懐かしく見られる1本です。☆3つ。
「さよなら、退屈なレオニー」公式サイト



『ハウス・ジャック・ビルト』は、シリアルキラー(連続大量殺人鬼)の物語。

1970年代のアメリカ、ワシントン州。
ジャックが車を運転していると、雪道で立ち往生していた女性に助けを求められます。
しつこく頼まれたので、知り合いの修理工場まで乗せていってあげたのに、
その女の車中での態度の非礼なこと。
耐えられなくなったジャックは、女性をジャッキで殴り殺してしまうんですね。
それがジャックにとって、最初の殺人。
それからジャックは堰が切れたかのように、凶行を繰り返します。
ジャックは病的な潔癖症で、なおかつ脅迫性障害。
一度、現場を後にしては再び戻り、何度も何度も戻っては清掃を繰り返します。
それが完全犯罪となり、ジャックにとって、殺人がある種のアートに昇華したのでした。
自ら“ミスター洗練”と名乗り、遺体を用いた“芸術写真”を新聞社に送りつけるようになり、
世間は正体不明の殺人鬼を恐れたのです。
ある時は初老の女性、またある時は二人の子どもを持つシングルマザー。
ジャックの残忍な犯行は続いていくのでした…。

カンヌで賛否がまっぷたつ。わかります。
“映画史に刻まれるほどの破格の問題作”という宣伝文句にも、納得です。
目を覆いたくなるシーンの連続で、女性だろうが、子どもだろうが、
お構いなしに殺めてしまいます。
監督、脚本は、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』、『ドッグヴィル』などでおなじみの
“奇才”ラース・フォン・トリアー。
トリアー監督は語ります。
「ジャックはボクの一部だ。ボク自身はサイコパスじゃないけどね。
人を殺さないし、殺したこともない。
でも、ジャックの中には、ボク自身の持っているものがたくさん入っているんだ」と。
何故、無差別に人を殺すのか?
ボクらにはわかりようがないその心理を、
自らが「境界を越えないだけ」と語る監督が描くのなら、
何か垣間見えないかなぁと期待してしまいませんか?
見ていて、その人のその末路はわかるわけだから、
「バカだなぁ。逃げればいいのに…」と気が滅入りますが、
「何故?」を知りたいから、最後まで見てみたいとなるはずです。
ジャックの、物語の結末が気になりませんか?きちんと着地してるとボクは感じました。
満点を付けるのは不謹慎かなと思い、☆は1つ欠きましたが、
現代に生きる我々にとって、もしかしたら、見ておく必要のある1本かもしれませんョ。☆4つ。
「ハウス・ジャック・ビルト」公式サイト



『耳を腐らせるほどの愛』は、お笑いコンビ、
NON STYLEの石田明脚本、井上裕介主演作。

無人島のリゾートホテル。
携帯電話も繋がらない島で、殺人事件が起こります。
殺されたのは“こじつけ部”の合宿で島に来ていた、会社員の鈴木鈴吉。
“こじつけ部”の部長です。
死体の脇にはガラス製の大きな灰皿があり、何者かに頭を殴られたよう。
たまたま宿泊していた探偵の真壁と、助手の能冨は大張り切り。
ホテルには、管理人の出口、“こじつけ部”の男性部員の倉敷、
女性部員の葉山、福山、小倉。
自殺願望を持つ白木、謎の男・黒柳、物静かな女性の豊橋。
犯人はこの中の誰かであることに間違いはない。
真壁が捜査のため、それぞれから事情聴取すると、とんでもない事実が判明します。
果たして犯人は誰なのか?
その一部始終が、防犯カメラに映っていたのです…。

NON STYLEの井上裕介といえば、毎年ブサイク芸人の上位にランクされながら、
自分ではイケてると思っているみたいな勘違いもウリにしている芸人さん。
劇中でも、女子部員すべてと交際しているというゲスな男を演じています。
ただ、笑いって、人によってツボが違うじゃないですか。
申し訳ないけど、ボクにはまったく笑えませんでした。
だからと言って、つまらないとするのは早計です。
NON STYLEファンはもちろんのこと、お笑いが好きな人は自分の目で確かめてみて下さい。
ボクはごめんなさい…(笑)。☆2つ。
「耳を腐らせるほどの愛」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.6.8

『エリカ38』☆☆☆
『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』☆☆☆
『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』☆☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


いいことなのか、悲しむべきことか、5月は忙しくて、
試写を8本しか見ることが出来ませんでした。
しわ寄せが6月に来ても、それはそれで時間がなく。
諦めて試写状を捨てる時の、何とも言えない気持ち…。
1日が24時間で足りないなんていうのは、贅沢な悩みなんですけどね(笑)。
さ、今週は3本です!



『エリカ38』は、亡くなった樹木希林さん企画の作品。

渡部聡子はホステスをしながら、
アメリカ製サプリメントを取り扱うマルチ商法的な商売をしていました。
喫茶店に客を集め、ひと通りのセールストークを終えたところで、
近くにいた上品な着物姿の女性に声を掛けられます。
「その商品、そんなにいいなら、私に分けて下さらない?今、これしか手持ちがないんだけど」。
伊藤と名乗る女性が出したのは、現金20万円でした。
数ヶ月後、伊藤が聡子の勤める店に、平澤という男を紹介しにやってきます。
平澤は途上国の支援事業をやっていると言います。聡子はそれを手伝うことに。
聡子は、支援の名の元に、多くの人からお金を集めます。
もちろん、高額の配当金をちらつかせながら。
平澤と肉体の関係を持ち、集めた金を湯水の如く遣う聡子。
さらに金持ちの高齢男性と知り合い、豪邸をも手に入れるのですが、
そんな生活が長く続くはずもありません。
配当金どころか、元本さえ戻らないことに苛立ちと焦りを感じた出資者たちが、
聡子のもとに血相変えて、詰め寄ってきたのです…。

少し前に、実年齢からかなりサバを読んだ日本人女性が、
東南アジアで詐欺の容疑で捕まりましたよね。
その時、地元の若い男と付き合っていて、「そんな年には見えなかった」と言わしめた事件。
記憶に新しいかと思います。
あの事件をヒントに、亡くなった樹木希林さんが、
親友でもある浅田美代子の代表作にしたいと“企画”したのがこの映画。
聡子もタイへ行き、若い男を囲うのですが、その時に名乗っていたのが、「私はエリカ。38歳」。
ちなみに樹木希林さんは、聡子の母親役で出演しています。
騙し、騙されの愛憎劇。
欲が人を狂わせるのでしょうが、描かれているのは絵空事ではありませんから。
「何でかなぁ。そんなウマい話、あるわきゃないのに…」といつも思ってしまいます。
幸せは、ほどほどが一番なのかもしれませんョ。☆3つ。
「エリカ38」公式サイト



『クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代』は、美術史ドキュメンタリー。

1862年、オーストリアのウィーン郊外に生まれた、グスタフ・クリムト。
彫金師の家系ということもあって、芸術方面に才能を発揮。
14歳で奨学金を得て、国の工芸美術学校に入学します。
劇場の壁画装飾や天井画で名を馳せるも、保守的なウィーンの画壇を嫌い、
1897年、自らが代表となって『ウィーン分離派』を結成。
金箔を使い、妖艶でありながら、死の香りをも漂わせる、独自の世界観を描いていきます。
一方、1890年、ドナウに生まれたエゴン・シーレは、17歳の時にクリムトと出会い、
勉強のためにデッサンの交換を願い出たところ、「その必要はない」と、
クリムトはシーレの才能を評価したと言います。
クリムトの作品が華やかな装飾性に彩られていたのに対し、
シーレの作品は、苦痛や不安に満ち溢れたもので、
共に世紀末的官能は抱きながらも、手法や方向性は対照的なものでした。
精神科医のジークムント・フロイトが、代表作となる本をたくさん著した時代。
19世紀の“世紀末”を感じることが出来るかと思います。
ちなみに、7月10日(水)まで、上野の東京都美術館で『クリムト展』が行われています。
映画を見てから行くもよし、行ってから映画を見るもよし。
ドキュメンタリーでも、学術的な内容の1本です。☆3つ。
「クリムト エゴン・シーレとウィーン黄金時代」公式サイト



『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』は、音楽が結ぶ、父と娘の絆の物語。

元バンドマンのフランクは、妻を事故で亡くし、娘のサムと二人暮らし。
サムは夢を叶えるべく、LAの医大に進学を決めていて、
ブルックリンで17年というアナログのレコードショップも赤字続き。
これを機に閉店を決意したのです。
音楽の才能はサムにも遺伝したのか、サムも音楽が大好き。
ある晩のこと、勉強中のサムを無理矢理引きずり込んで、家の機材でセッションを開始。
フランクが、録音した楽曲をサムに内緒でSNSにアップしたところ、大反響!
インディーズのチャートで大人気となったのです。
医大にいかずにバンドをやろうと誘う父に、サムは猛反発。「バンドはやらないよ」。
諦めようと努めるフランク。その代わり、離れ離れになってしまう愛娘との思い出作りに、
フランクはあることを画策するのでした…。

すっごく温かくて、いい映画でした。
『小さな恋のうた』、『さよならくちびる』と、
最近は音楽がテーマの映画に良作が多いのですが、邦画のみならず、
洋画にもこんなにいい作品がありました。
フランクを見ていると、ミュージシャンって、いくつになっても、パパになっても、
子どもなんだなぁと笑ってしまいます。サムのほうがよっぽど大人(笑)。
そんなサムには恋人がいます。出逢って間もない女性のローズです。
LAに行けば、彼女とも別れなければならないわけで、サムは今、音楽どころじゃない。
ここで、いわゆるLGBTが描かれてくるのですが、
『さよならくちびる』然り、自然なんですよね。
そこに最大のスポットを当てていないから、普通に見られるんだと思います。
フランクとサムにある、日本人に通じる慎ましやかさというか。
だけど、みんなをこちらに向かせてしまう、そんな音楽の素晴らしさもあって。
父娘を間違いなく繋いでいる音楽の存在に、感動必至です。満点!☆5つ!
「ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.6.1

『さよならくちびる』☆☆☆☆☆
『誰もがそれを知っている』☆☆☆☆
『氷上の王、ジョン・カリー』☆☆☆
『LUPIN THE 3RD 峰不二子の嘘』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


異常な暑さに見舞われた5月後半。涼を求めて、映画館に入ったなんて人もいたかもしれませんね。
6月。梅雨入りも前倒しになると、今度は雨宿りで映画館に…なんてこともあるのでしょうか。
さ、今週は4本です!



『さよならくちびる』は、“青春音楽エンタテイメント”。

インディーズシーンで人気の、ハルとレオによる女性デュオ“ハルレオ”。
ところが、全国7都市を回る、今回のツアーで解散すると言います。
ローディ兼マネージャーのシマが、ツアーに出発する車の中で確認します。
「本当に決心は変わらないんだな」。
うなずく二人。
ファンには最後の函館のライブで伝えると。
ハルとレオは、バイト先のクリーニング工場で出会い、ハルがレオに声を掛けます。
「あたしと音楽やらない?」。
それぞれの事情で、孤独だったふたりが繋がった瞬間でした。
レオはハルにギターを習い、ふたりがギターを弾き、歌うスタイルで、ハルレオは活動をスタート。
路上で歌うようになると、「ハルさんの曲と詞のセンスが好き」と、
元ホストだったシマが、ローディとマネージャーとして参加。
彼もまた音楽のセンスは抜群でした。
シマはハルが好き。ハルはレオが好き。
ふたりの気持ちを共に知りながら、レオはシマを好きになってしまいます。
それがきっかけで亀裂が入ったハルレオの、最後のツアーが始まるのでした…。

ハルに門脇麦、レオに小松菜奈、シマに成田凌。
なんとなくイメージの浮かぶキャスティングですよね。
ハルが詞を紡いでいく様がスクリーンに映し出される。
つまり、文字が、文章が、テロップで徐々に現れてくるんですが、この映画を見てると、
詞の大切さを改めて感じるというか。
「メロディは外見で、詞は中味の人間性」みたいなことを、改めて思ったりもします。
ライブ会場も、実在のライブハウス。
浜松、大阪、三重、新潟、山形、青森、そしてラストの函館と回る、ロードムービーでもあります。
ツアーの車も、売れたバンドが昔使っていたバンを、シマが手に入れたバン。
そんな設定にも、監督の細やかな演出が見て取れます。
実際に曲を作ったのは、秦基博とあいみょん。
タイトル曲はずーっと耳に残って、今も口ずさんでいるほどです。
日本の音楽映画に名作誕生です。満点!☆5つ。
「さよならくちびる」公式サイト



『誰もがそれを知っている』は、スペインを舞台に描かれたヒューマン・サスペンス。

スペインの自然豊かな田舎の村で育ったラウラ。今は夫とアルゼンチンで暮らしていました。
そのラウラが、娘イレーネと息子ディエゴを連れて、妹アナの結婚式のため、帰郷します。
広大なぶどう畑を持つ父アントニオ、姉マリアナとその夫フェルナンド、
姪のロシオ、アナの夫になるホアンら家族が迎える中、アントニオから土地を譲り受け、
今はワイナリー経営者として成功を収めた、
ラウラの幼なじみのパコも美しい妻のベアを連れて挨拶に来ます。
実は、ラウラとパコが、昔恋人同士だったことは、村中の誰もが知っていることでした。
翌日、無事結婚式が終わり、実家の庭で盛大なパーティが行われていた時のこと。
突然、停電が起き、2Fで寝ている子供たちをラウラが見に行くと、娘のイレーネの姿がありません。
と同時に、ラウラの携帯に、恐ろしい脅迫メールが届いたのです。
「娘を誘拐した。警察に知らせたら殺す」と…。

面白かったです。
資料にも“極上のヒューマン・サスペンス”とあるように、
周囲の人間関係が、物語に深みを与えていきます。
娘は確かに誘拐された。でも犯人は一体誰なのか。身内の犯行?それとも外部の人間?
アルゼンチンから駆けつけるラウラの夫アレハンドロは、
昔は裕福だったけれど、今は失業中で無職。
そのアレハンドロにまで、疑いの目が向けられます。
たぶん、見ている観客の側も、推理が二転三転するはず。
ちなみにラウラ役はペネロペ・クルス、パコ役はハビエル・バルデム。
ふたりは実生活では夫婦です。
監督は2度のアカデミー賞に輝く、イラン出身のアスガー・ファルハディ。
確かに“極上の”ヒューマン・サスペンスです。☆4つ。
「誰もがそれを知っている」公式サイト



『氷上の王、ジョン・カリー』は、ドキュメンタリー。

1949年、イギリス・バーミンガムに生まれたジョン・カリー。
幼い頃からミュージカルなどの舞台芸術が好きで、
ダンスのレッスンを受けたいと家族に伝えたものの、
厳格な父親の「男らしくない」という理由で、願いは叶いませんでした。
しかし、TVでアイスショーを見たカリーがスケートを習いたいと言うと、
スポーツならとOKが出ます。カリー少年、7歳の頃でした。
氷の上を“滑る”のではなく“踊る”、カリーのフィギュアスケートは芸術性が高く、
1971年、初の全英チャンピオンに輝くと、1976年には欧州選手権大会、
オーストリア・インスブルック冬季オリンピック、
世界選手権大会のすべてを制し、3冠の偉業を成し遂げます。
その後もプロに転向し、アイスショーのスケーティング・カンパニーを設立するのですが、
オフレコで記者に語った、同性愛者であることの告白を、タブロイド紙が暴露。
当時は世間の理解が得られない時代でもあり、苦悩の日々を過ごします。
1987年にHIV感染が発覚。94年に44歳で死去。
そんなジョン・カリーの人生を追ったドキュメンタリー映画です。
“監督の言葉”に、「映画の3分の2がアーティストやスポーツ選手としての苦悩の物語だとすれば、
残りの3分の1は社会や家族に自身のセクシャリティを抑圧された男の物語といえる」とあるのですが、
スケーターとしての前者より、どうしても後者の部分を強く描いている気がしてしまいました。
どの作品が先で、どの作品が後かはわかりませんが、
最近、この手のものが多くて、少々お腹いっぱいな気も正直しています。
真意が伝わらず、誤解されても困るのですが、セクシャリティの問題自体が云々ではなく、
逆に「そっとしておいてあげればいいんじゃない?」と思うこともしばしば。
スケーター、アーティストとしてのジョン・カリーの生涯を見るには、
貴重な映像もたくさんあるので、いいかもしれません。☆3つ。
「氷上の王、ジョン・カリー」公式サイト



『LUPIN THE 3RD 峰不二子の嘘』は、シリーズ第3弾。

難病を抱える息子ジーンのために、会社から5億ドルを横領したランディは、
殺し屋から命を狙われます。
5億ドルの在処を知るのはジーンだけ。
不二子はジーンを守り、なんとかその場は逃げることに成功します。
殺し屋ビンカムは、“呪い”で人の心を操ることのできる男。
ジーンの口を割らせようと、執拗に二人を追ってくるのでした。
一方で、ルパン三世と次元大介が、5億ドルの話を知らないはずもなく。
敵か、仲間か、不二子たちの行方を追ってきたのです…。

ご存知、『ルパン三世』のSEXYミューズ、峰不二子が主役のアニメ。
“次元大介の墓標”“血煙の石川五ェ門”に続く、シリーズ第3弾です。
実は、ボクがこの試写を見に行く前日に、原作のモンキー・パンチさんが亡くなりました。
訃報が大きく載ったスポーツ紙を、試写会場で読んだのを覚えています。
『ルパン三世』には、様式美があって、あまり細かいことを言うのが野暮というか(笑)。
今作も、漫画アクションで連載されていた頃の匂いがしてきそう。
ちなみに、入浴シーンがあります。かなり得した気分になれます(笑)。
モンキー・パンチ先生を偲んで、劇場に足を運んでみて下さい。☆3つ。
「LUPIN THE 3RD 峰不二子の嘘」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.5.24

『空母いぶき』☆☆☆
『小さな恋のうた』☆☆☆☆☆
『バイオレンス・ボイジャー』☆☆☆
『パリ、嘘つきな恋』☆☆☆☆
『パリの家族たち』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


春眠暁を覚えず。
眠い目をこすって、試写に足を運び、つまらない作品だとガッカリですが(笑)、
いい映画に当たると本当に「来てよかったぁ」となります。
それがあるから、なるべく頂いた試写は全部見たいと思うんですよね。
「う〜ん、スケジュールがあわなかったけど、いい作品だったらどうしよう…」。
半ば脅迫観念です(笑)。
さ、今週は5本です!



『空母いぶき』は、かわぐちかいじの人気コミックが原作の映画。

自衛隊初の航空機搭載型護衛艦いぶき。
計画段階から“専守防衛”の憲法違反ではないかと物議を醸し出してきた攻撃型空母が、
遂に出動することになりました。
3年前に建国され、これまでも波留間群島の領有権を主張してきた東亜連邦が、
日本の領海を侵犯し、武力行使に出たからです。
戦後、自衛隊創設以来、初めてとなる防衛出動。
いぶきを旗鑑とし、イージス鑑2隻、護衛艦2隻、そして潜水艦1隻からなる第5護衛隊群。
いぶきの艦長は「戦わなければ守れないものがある」と主張する秋津。
一方、副長の新波は「戦争をする力は持っているが、絶対にしない」と言い切ります。
防衛大学時代の同期で、常にトップを争ってきた、
考え方の違うふたりが、この危機にどう立ち向かうのか。
敵の攻撃は激しさを増します。
戦後、日本が経験したことのない24時間は、まだ始まったばかりでした…。

自衛隊の在りようを含む、憲法改正が言われる中、フィクションではありますが、
「もし、こうなったら、あなたならどうしますか?」
というのを考えるきっかけになりそうな1本です。
いぶきの体験乗船取材中だった記者が、目の前で起きている戦闘を伝えることになるのですが、
規制がしかれても、それをかいくぐるかのように、ネット上には緊迫した様子が上がります。
クリスマスの賑やかさが一転、日本中がパニックに。
世界のあちこちがきな臭い今、無い話ではないと、スクリーンに引きつけられていくはずです。
理想と現実は違うかも。
でも、ひとつだけ強く願うのは、リーダーたるもの、
本当に高い志を持って、国難にあたって欲しいということです。☆3つ。
「空母いぶき」公式サイト



『小さな恋のうた』は、沖縄出身のインディーズバンド、
MONGOL800の代表的ヒット曲にインスパイアされて作られた青春ストーリー。

沖縄の高校に通う、亮多、航太郎、慎司、大輝はバンド仲間。
オリジナル曲で学校中を魅了し、その実力は東京の業界関係者の耳にも届くほどでした。
すると、練習スタジオでライブハウスのオーナーにレコード会社のプロデューサーを紹介され、
なんとプロデビューが決定します。大喜びの4人。
ところが、喜びも束の間、悲劇が起こります。
交通事故で慎司が命を落としてしまうのです。
一緒にいた亮多は、記憶の一部を失い、バンドは活動休止を余儀なくされてしまいます。
慎司には仲のいい女の子がいました。
自宅前の米軍基地内に暮らす、アメリカ人女子高生のリサです。
いつもフェンス越しに、ひとつのイヤホンで、慎司の作った曲を一緒に聴いていたのに。
妹の舞はそのことをリサに告げます。哀しみに暮れるリサ。
一方、ベースの大輝が正式にバンドを抜けてしまいましたが、
ドラムの航太郎はボーカルの亮多に、なんとか歌を歌って欲しいと懇願します。
「ギターもベースもいないのに歌えないだろ」。
ところが、舞が兄の新曲を届けにやってきて、そのメロディーをギターで弾き始めたのです。
「おまえ、ギター弾けるのか?」。
「うん」。
そんな時、リサが日本を離れると知り、亮多は決意します。
「俺があいつの歌を歌うから、学園祭に来て欲しい」。リサは大きく頷いたのでした。
こうして、ベースは亮多が担当し、航太郎と舞との3ピースバンドでの再出発となったのですが…。

「小さな恋のうた」は、MONGOL800が2001年に発表した2ndアルバム
『MESSAGE』に収められた大ヒット曲。
インディーズにもかかわらず、アルバムはオリコン史上初の1位に輝き、ミリオンセールスを記録します。
音楽で出会い、音楽で別れ、音楽で絆を深めた高校生たちが、
人種や国境、基地問題など、目の前に横たわる問題に対峙していく。
沖縄の等身大の青春ストーリーです。
最近、音楽を題材にした映画が増えていて、秀逸な作品が多いんですョ。
そんな中、この『小さな恋のうた』も素晴らしい映画です。
音楽好きにはオススメの1本です!満点!☆5つ。
「小さな恋のうた」公式サイト



『バイオレンス・ボイジャー』は、劇画とアニメーションが合体した“ゲキメーション”作品。

アメリカ人の父と日本人の母を持ち、のどかな日本の山奥で暮らす金髪のボビーは、8歳の男の子。
ある日のこと、友達のあっくんが、
親友のたかあきが引っ越した隣り村に行くルートを見つけたと興奮気味に話してきました。
早速、ふたりは翌朝待ち合わせをし、冒険の旅に出ます。
途中で、猿吉じいさんに「危険だ。やめておけ」と止められますが、ふたりは聞く耳を持ちません。
すると、川の向こうに[体験型アトラクション バイオレンス・ボイジャー]と書かれた看板を発見。
寄り道をしていくことに決め、橋を渡り、さびれたテーマパークの入口へ。
入場料の200円が払えなくて困っていると、中から運営者の男性が出てきて、
「今度はいっぱい友達を連れてきてくれよ」と、笑顔でふたりを招待してくれました。
この時、男性の優しい笑顔の裏に、世にも恐ろしい別の顔が隠れているとは、
思いもしなかったのです…。

監督、脚本から、作画、撮影までの6役をこなしたのが、宇治茶。
ゲキメーションとは、紙に書いた絵を切り取り、
棒などに貼り付けたものを手で動かして撮影したもの。
紙人形劇のようなアナログっぽさが、実に味わい深く、不思議な魅力を放っていました。
1976年、楳図かずお原作のアニメ『妖怪伝 猫目小僧』で取り入れられた手法らしいのですが、
その後は誰も継承しなかったとか。
このB級感あふれる企画に心を揺さぶられたのか、ダウンタウンの松本人志がナレーターとして、
ココリコ田中、サバンナ高橋など、人気芸人が声で参加。
このキャスティングも話題になりそうです。
「キモかわいい」という言葉がありますが、それに近い感覚でしょうか。
百聞は一見にしかず。謎の“ゲキメーション”を、自身で体感してみて下さい。☆3つ。
「バイオレンス・ボイジャー」公式サイト



『パリ、嘘つきな恋』は、フレンチ・ラヴコメディ。

パリの大手スニーカー代理店を経営するジョスランは、
金持ち、イケメンでノリの軽い、典型的なプレイボーイです。
車椅子生活を続けていた母が亡くなり、遺品整理のために母の部屋を訪れ、
母の車椅子に座ったその時、玄関の扉が開きます。
そこに立っていたのは、超セクシーなジュリーという女性でした。
介護の仕事をしているという彼女の気を引くため、
自分が車椅子生活なんだと嘘をつくジョスラン。
すると、ジュリーは紹介したい女性がいると、実家のパーティーにジョスランを招くんですね。
もちろん、車椅子で行き、紹介されたのは姉のフロランス。
彼女もまた、車椅子に乗った女性だったのです。 最初は妹目当てだったジョスランでしたが、ふたりきりでデートを重ね、知れば知るほど魅力的なフロランス。
真実を伝えられないまま、時間だけが過ぎて行くのでした…。

テーマがテーマだけに、どうなることかと、ジョスランの“嘘”に腹立たしい場面もありました。
ただ、何度か話そうとしたけれど、話せなかったのも事実。
そうこうしているうちに、人として魅力的なフロランスにどんどん惹かれていく中で、
ジョスランの考え方も変わっていきます。
車椅子生活が真っ赤な嘘であることが、妹のジュリーにバレてしまい、
そこからが、この物語の第2章。
嘘から始まったふたりの恋愛が、どう着地するのか。気になりませんか?
見れば、あなたもきっとまた恋がしたくなると思います!☆4つ。
「パリ、嘘つきな恋」公式サイト



『パリの家族たち』は、パリで働く女性たちの物語。

小児科医のイザベル、シングルマザーでジャーナリストのダフネ、
大学教授のナタリーの3姉妹は、幼い頃から母親と上手くいかず、
それぞれに心にトラウマを抱えていました。
その母ジャクリーヌは、認知症が進んでいました。
フランスの女性大統領であるアンヌは、妊娠、出産を経験。
職務と母親業の間で悩む日々を送っていました。
病気を患い、残された時間を自由に生きたいと願うも、
心配症の息子に行動を制限されている舞台女優のアリアン。
息子のために、パリに来て、娼婦になることを選んだ中国人女性。
恋人の子を妊娠したのに、彼とまったく連絡が取れなくて困っている花屋の店員ココ。
パリの街には、それぞれに幸せを探す女性たちが、懸命に生きていたのです…。

上手く説明出来なくてすみません(笑)。
複数の登場人物がいるオムニバスタイプの作品です。
その登場人物の多さに、もしかしたら、関係性を理解しようとしているうちに終わってしまうかもしれません。
外国人だけに、判別が難しく、誰が誰だか…(笑)。
少なくともボクはそうだったので、ご覧になる方は、事前に相関図を頭に入れておいたほうがいいかも。
フランス人女性の凜とした強い姿勢と、その裏にある弱い部分との対比に、
女性は同感し、男性はぐっとくる何かを感じるのかもしれませんね。☆3つ。
「リトル・フォレスト 春夏秋冬」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.5.18

『リトル・フォレスト 春夏秋冬』☆☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


試写が始まる前に、宣伝担当の人が、簡単に前説をするのですが、
人前で話すのが得意な人と、そうでない人とで、やっぱり違うんだなぁと。
緊張している姿を見ると、ちょっぴり可哀想になって、
しゃべるコツを教えてあげたくちゃいますが(笑)。
ま、宣伝マンとしては、こういうのも勉強なんでしょうけどね。
さ、今週は1本です!


『リトル・フォレスト 春夏秋冬』は、日本のマンガが原作の韓国映画。

就職浪人生のヘウォンは、何ひとつ上手くいかない都会の生活に疲れ、
あらゆるものを残したまま、故郷に戻ってきました。
そこは母と暮らした家。
自然豊かな環境の中、母はいろんな食材を使って、様々な料理を作ってくれました。
ところが、ある日突然、1通の手紙を残して、ヘウォンの元から立ち去ってしまったのです。
でも故郷には、幼い頃からの友達がいます。
地元で就職し、一度も外に出たことのないウンスク。
大学卒業後に都会で就職したものの、その生活が嫌で、
両親の果樹園を継ごうと故郷に戻ってきた、男友達のジェハ。
ふたりはヘウォンに寄り添います。
春、夏、秋、冬。
それぞれの季節が巡る中で、ヘウォンは自分らしい生き方を探していくのでした…。

すごくいい映画でした。原作は五十嵐大介のコミック「リトル・フォレスト」。
実は2014年に、日本でも映画化されているんですね。
この時は、夏秋と冬春の2本に分かれていたのですが、
韓国版は春夏秋冬、そして春で描かれています。
ヘウォンも、悩みに明確な答えを出すためにしゃかりきになるのではなく、
生き物としてのヒトが、四季の移り変わりを通じて、
自然の中で浄化されていくとでも言うのでしょうか。
見ているだけで、すごく心が柔らかくなる映画でした。
この映画の主役のひとつが“料理”。
出て行ってしまった母が残したレシピと、
ヘウォンの記憶の中の味が韓国料理となって、何度もスクリーンに登場。
これがまた実に美味しそうで(笑)。
“食べる”っていうのは、人間にとって大切な行為なんだというのを再確認させられます。
韓国の美しい四季を撮るために、4回のクランクインとクランクアップを繰り返したそう。
監督、出演者のみならず、スタッフ全員の意気込みを感じますよね。
ちなみに、この映画の試写の時の女性宣伝マンが、いきなり「わたしは春が嫌いです」と話し始め(笑)、
前説には珍しく、自分の思いを語ったんです。すごく伝わってきました。
日本と韓国は今、あまりいい関係にはありませんが、
よく言う「民間交流の分野ではそんなことないのに」というのは、
こんなところにも表れているのではないでしょうか。
いろんな意味で素晴らしい映画だと思います。
疲れているあなたに、また五月病だなんて言ってる人がいたら、是非勧めてあげて下さい(^-^)。
満点!☆5つ。
「リトル・フォレスト 春夏秋冬」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.5.10

『映画 としまえん』☆☆☆
『オーヴァーロード』☆☆☆
『スケート・キッチン』☆☆☆
『僕に、会いたかった』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


まだ連休ボケが続いている、なんて人も多いはず。
映画館に足を運ぶと、いつもと違った刺激を受け、気持ちがシャキッとするかもしれませんョ。
さ、今週は4本です!



『映画 としまえん』は、人気の遊園地“としまえん”を舞台にしたホラー映画。

女子大生の早希は、海外留学を目前に控え、高校時代の友人、杏樹、千秋、
かや、亜美たちと久々に再会。懐かしい話に花を咲かせていました。
ところが、早希が由香の両親にバッタリ会ったことを伝えると、空気は一変。
由香は高校時代に行方不明になっていて、まだ見つかっていなかったのです。
その由香の両親が早希にくれたのが“としまえん”のチケット。
早希と由香がよく遊びに行っていた、思い出の遊園地だったのです。
翌日みんなで行こうと決め、その日は解散。
次の日、としまえんに集合した早希たちは、高校生に戻ったかのようにアトラクションを楽しみ、
古い洋館の前で、ふとこんな話になります。
「ねぇ“としまえんの呪い”って、知ってる?」…。

元AKB48の北原里英、グラビアで人気の浅川梨奈ら、
若手アイドルやモデル、女優たちが出演。
“としまえんの呪い”は、
「古い洋館の扉を叩くな。お化け屋敷で返事をするな。秘密の鏡を覗くな」の3つのうち、
どれか1つでも破ると、帰って来られなくなってしまうというもの。
面白半分に、また導かれるように、彼女たちはやってはいけないことをやってしまうのです。
由香の行方不明も、また…。
なんか、ありそうですよね、遊園地にはそんな噂が。
昼が華やかな分、夜の遊園地って、ちょっと怖かったりしませんか?
全体の90%以上を、としまえんで撮影したそう。アイデアとしては面白かったと思います。
この映画を見た後、“としまえんの呪い”にチャレンジする人が出そうです。
気をつけて下さいね(笑)。☆3つ。
「映画 としまえん」公式サイト



『オーヴァーロード』は、J.J.エイブラムスによるプロデュース作品。

第2次世界大戦中のアメリカ第101空挺師団。
彼らは、ドイツ占領下にあるフランスのある村に降り、
連合国軍の通信を妨害している電波塔を破壊するという、重大な任務を背負っていました。
ドイツ軍の激しい攻撃で、飛行機は被弾。
命からがら敵陣へと降下した兵士たちは、
森の中でクロエという村の若い女性と遭遇します。
ナチスのやり方に我慢がならなかったクロエは、彼らを家に匿い、協力を約束するんですね。
電波塔は教会の屋根に設置されていたのですが、教会には秘密の施設があるとクロエは語ります。
そこでは恐ろしい実験がなされていて、ナチスの科学者が“研究”と称し、
村人を次々と教会の中へと連れ込んでいると言うのです…。

J.J.エイブラムスは『ミッション:インポッシブル』シリーズを始め、
数多くの映画の製作、脚本、監督として成功を収め、今、注目を集める映画人。
この映画をどのジャンルで括るのがいいのか?
資料には“サバイバル・アクション”とありましたが、「う〜ん、そう単純かなぁ」という感じ(笑)。
冒頭の戦争における戦闘シーンはさすがの迫力で、その前半と、
ナチスの“研究”が暴かれていく後半とでは、違う作品と言ってもいいぐらい。
ま、見てのお楽しみとしておきましょうか(笑)。
ちなみにJ.J.エイブラムスは、アニメ『君の名は。』の
ハリウッド実写版のプロデュースを担当する予定だそうです。
彼を知る意味でも、見ておくといいかもしれませんね。☆3つ。
「オーヴァーロード」公式サイト



『スケート・キッチン』は、ガールズスケーターの青春物語。

母親と二人暮らしのカミーユは17歳。
内気な性格の彼女でしたが、スケートボードだけは男子も顔負けの上手さで、
スケボーが彼女の生活のすべてと言ってもいいくらいのものになっていたのです。
ところが、そのスケートボードで大怪我をしてしまい、
心配した母親からスケートボードを禁止されてしまいます。
退屈な毎日を過ごす中で、
偶然出会ったのが“スケート・キッチン”と呼ばれる女子だけのスケートクルーでした。
カミーユとメンバーたちは、すぐに意気投合。
仲間になるのですが、それは母親との約束を破ること。
厳しく叱られたカミーユは荷物をまとめ、家を飛び出したのでした…。

この“スケート・キッチン”は、実在のスケートボード・グループ。
カミーユを演じるレイチェル・ヴィンベルクは、グループを立ち上げたメンバーのひとりで、
登場するのも実際のメンバーたち。
当然、ハメも外せば、恋もする。
そのカギを握る男子に、ウィル・スミスの息子、ジェイデン・スミスが扮しています。
スケートボードがオリンピック競技になりましたが、公道でやってはいけないというルールがある。
そのマナーの部分が守られないと、
スケートボード自体が“迷惑競技”として見られちゃうと思うんですよ。
「世の中のルールを逸脱するからこそ青春!」なんて言われたら、
おじさんたちは出る幕がないんですけどね(笑)。
若者が共感する映画ということで、これは割り切っていいのかもしれません。☆3つ。
「スケート・キッチン」公式サイト



『僕に、会いたかった』は、EXILE TAKAHIRO主演作。

島で指折りの漁師だった池田徹。
ところが、12年前の嵐の中の漁で事故に遭い、妻を亡くし、
自身も記憶を失ってしまったのです。
それからは船に乗ることが出来ず、裏方として漁港で働く日々。
前にも後ろにも進めず、徹は苦しい毎日を過ごしていたのです。
島には“島留学”という制度があり、今年も都会から高校1年生の留学生がやってきます。
母親の信子と二人暮らしの徹の家も、“島親”を買って出て、
今年は雄一という男の子を受け入れることに。
島の高校生と交流を深め、自分の将来像を描いていく島留学の若者たちとは対象的に、
何も進まない自分に焦りすら感じる徹。
そんな徹のために、信子はある計画を立てていたのです…。

島根県隠岐島で撮影された映画。
島留学の制度は実際にあるようで、例えば、島根県立隠岐島前高校の全校生徒の約半数が、
島留学による生徒なんだそう。
記憶を失ったひとりの男の物語。
あまり語ってしまっては、ネタバレになってしまうので、あらすじをサッと紹介するに留めましたが、
漁師役のTAKAHIROが、無精ひげをたくわえて、感情を出さない演技に徹する。
ファンにとってはあまり見ない姿かも?
雲の合間から光が降りる様を“天使のはしご”というそうです。
この映画の仮タイトルがそれだったとか。
そこからなんとなく想像してみて下さい。☆3つ。
「僕に、会いたかった」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.5.4

『映画 賭ケグルイ』☆☆
『ドント・ウォーリー』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


令和最初の週末。GWもあとわずかとなりました。
連休前半は遠出をして、終盤は家でのんびりという方は、
映画館に足を運んでみてはいかがですか?
さ、今週は2本です!


『映画 賭ケグルイ』は、シリーズ累計500万部を超える人気コミックの実写映画化。

私立百花王学園。
この学園には、生まれながらの勝者が集い、将来、人の上に立つにあたっての駆け引き、
勝負強さ、そして運などを学ぶための、ギャンブルによる弱肉強食の掟がありました。
勝てば勝ち組として称えられ、負ければ家畜のポチとミケになり下がり、
人としての権利を失うのでした。
その学園で、絶対的な権力を持つ生徒会。その会長は桃喰綺羅莉。
ところが、学園内には、非ギャンブルと生徒会不服従を掲げる対立集団、
ヴィレッジの存在もあったのです。
そんな中、2年華組に蛇喰夢子が転校してきます。
夢子は天性の勝負強さをして、生徒会役員を次々と破っていくんですね。
「ヴィレッジと夢子を潰さなくては」。
そう考えた生徒会長の綺羅莉は、不参加の生徒は全員即刻退学のギャンブルイベント
“生徒代表指名選挙”の開催を決めたのでした…。

ドラマやアニメ、ゲームにもなっている『賭ケグルイ』。
今作は完全なるオリジナルストーリーだそうで、
ファンにとっては、まさに待望の新作になると思います。
冷静に考えてみたら、こんな学校、嫌だったら辞めればいいのに(笑)、
「ポチやミケになってもしがみつくのはなぜ?」なんて考えるのは野暮というもので。
ただ、“生徒代表指名選挙”の中のギャンブル競技が、
ギャンブル好きのボクに言わせてもらうと「甘い」。甘過ぎるんだなぁ…。
競技自体がもう少し深かったら、この映画をもっと面白く感じられたかもしれません。
登場人物のキャラは濃いし、夢子の半分狂ったような表情は、
演じる浜辺美波の女優としての可能性の大きさを示したものだと思いました。
ボクには食い足りなくても、ファンにはたまらないと思いますョ。☆2つ。
「映画 賭ケグルイ」公式サイト



『ドント・ウォーリー』は、実在した風刺漫画家、ジョン・キャラハンのを描いた作品。

21歳のキャラハンは、酒浸りの毎日。
ある日、パーティーで知り合った男性が運転する車に乗ったキャラハン。
ところが、車は飲酒運転で事故を起こし、キャラハンは下半身麻痺の後遺症を遺すことに。
それからは、車椅子生活を余儀なくされてしまうんですね。
リハビリセンターから自宅に戻ったキャラハンでしたが、
排泄すら介護人の手を借りなくては出来ない自分に腹が立ち、
再び酒に溺れ、周囲に当たり散らす日々を送っていたのです。
そんな彼に禁酒を決断させたきっかけ、それは自分を捨てた母の幻影でした。
禁酒の会に入って、なんとか酒を断とうと頑張るキャラハン。
つらい人生を送っているのは自分だけじゃないんだと、
ようやく自分自身と向き合うことが出来るようになったのです…。

地元の新聞に送った風刺漫画が評判となり、
アメリカの50紙以上で掲載されたジョン・キャラハン。
不自由な手で描く、過激なユーモアに溢れた作品は、その線にも味があり、
賛否両論を巻き起こしながら、全米に広がっていきます。
その作品たちは、劇中に見ることが出来ます。
自分自身と向き合えるようになると、キャラハンは、母親を始め、
自分が憎んでいた人物とも、もう一度会って話してみようと決意するんですね。
電動車椅子を猛スピードで飛ばしていたというキャラハン。
セラピストだった女性と恋にも落ちるのですが、2010年に59歳で亡くなっています。
そんなジョン・キャラハンの生涯を映画化したいと、
あのロビン・ウィリアムズが熱望したとか。
それを託されたガス・ヴァン・サント監督が、メガホンを取った作品です。
監督の色を根底に見ます。
当たり前のようで、不思議なものだと感じます。☆3つ。
「誰がために憲法はある」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.4.27

『誰がために憲法はある』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


まもなく平成が終わり、来週の木曜日には、新たに令和の時代が始まります。
GWの真っ只中に元号が替わる。
正直、まだまったくピンと来ないです(笑)。
そんな人、意外と多いのではないでしょうか?
さ、今週は1本です!



『誰がために憲法はある』は、ドキュメンタリー映画。

お笑い芸人の松元ヒロが、日本国憲法の大切さを、ユーモアを交えて伝えようと、
20年以上も語り続けている『憲法くん』。
この映画では、その『憲法くん』を、87歳のベテラン女優、渡辺美佐子が演じます。
彼女は戦後35年経った1980年、初恋の人が広島の原爆で亡くなったことを知るんですね。
それから、戦前、戦中に生まれた女優仲間に声を掛け、鎮魂の思いを胸に、
原爆朗読劇を33年間に渡り上演。日本全国を回ってきたのです。
でも、年齢や体力的な理由から、公演は今年で終わってしまいます。
この映画のメガホンをとった井上淳一監督は、「これを撮らない手はない。」
そう考えたと言います。
何も難しい話ではなく、「二度と悲惨な戦争を起こしてはならない」。
戦争体験者が伝えたいのは、皆ここなんですよね。
憲法改正が言われる今、国民の間で、本当に論議が尽くされているのか。
正直、ボクも時折ニュースやワイドショーで取り上げられているのを見るぐらいです。
改正の是非には、様々な意見があると思います。
どちらが正しくて、どちらが間違いなのかは、ボクにはわかりません。
ただ、「これが“憲法を考える”“平和を考える”契機になれば…」
という思いで作られた作品なんじゃないかなと。
渡辺美佐子さんたちの33年間が報われる、そんな日本になるといいですね。☆3つ。
「誰がために憲法はある」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.4.20

『愛がなんだ』☆☆☆
『幸福なラザロ』☆☆☆
『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


今年のGWは最長で10連休。
その間は試写会もないので、試写の日程が結構タイトになりそう。
日に3本見ないと追いつかないなんてこともあるかも?
「そんなに休んでどうするの?」と、
カレンダーとは無縁の仕事のボクなんかは思ってしまいますが(笑)。
長期休暇のしわ寄せは、こんなところにもあるんですョ。
さ、今週は3本です!



『愛がなんだ』は、角田光代の人気小説の映画化。

テルコとマモルは、結婚式の2次会で、なんとなく知り合った男女。
それでも、いつしかテルコはマモルのことが大好きになっていて、
マモルが生活の真ん中に。
ところが、マモルはそうでもない。テルコは“都合のいい女”になっていたのです。
親友の葉子からは「そんな男、やめときな」と言われますが、
会えば優しいマモルを、テルコは切り離すことができませんでした。
身体の関係も持ち、マモルのことで仕事が身につかず、
会社をクビになってもマモルを思うテルコ。
ところが、久々に会ったマモルには好きな女性が出来たようで、
紹介されたのは、ヘビースモーカーで、奇抜なファッションに身を包んだ、
すみれという年上の女性でした…。

見ていて、正直イライラします(笑)。主な登場人物のすべてにイラッとしちゃう。
“俺様”なマモルに、痛いくらい尽くすテルコでしたが、
すみれに対するマモルの姿勢がテルコそのもので。
マモルがテルコを好きになれないのは、
テルコに自分自身を見ちゃってるからなのかもしれませんね。
親友の葉子にも、ナカハラというボーイフレンドがいて。
彼もまた尽くすんですよ、葉子に。
すみれはテルコを気に入り、マモルよりテルコを誘う。
するとテルコはマモルに会いたいから、
「すみれさんに誘われたから一緒に来ない?」とマモルに連絡する。
この歪んだ“愛情のベクトル”にイラッとするのかなぁ。
あ、ボクも意外と尽くすタイプだから、自分を見るようで嫌なのかも。
って、ここまで極端じゃありませんけどね(笑)。
それでも、ラストシーンで、きっと思うはずです。
「ここまで貫き通すなら、テルコさん、あなたの勝ちです」とね。☆3つ。
「愛がなんだ」公式サイト



『幸福なラザロ』は、イタリア映画。

深い渓谷で隔てられた、イタリアの小さな村、インヴィオラータ。
この村に暮らす人々は、外の世界をまったく知らず、伯爵夫人の小作人としてタバコの葉を作り、
監督官ニコラの指示に忠実に従っていました。
その村に、寡黙で真面目な、働き者のラザロという青年がいました。
何を頼まれてもノーと言わないラザロは、村人からいいように扱われていたのです。
ある日のこと、村に伯爵夫人と、息子のタンクレディがやってきます。
彼のことが気になって仕方ないニコラの娘、テレーザも一緒です。
暇を持て余したタンクレディは、ラザロを仲間に引っ張り込み、
自分の誘拐事件をでっち上げるんですね。
伯爵夫人は「またか」と鼻にもかけませんでしたが、
心配したテレーザが警察に通報したことで、この村の全容が外に知れてしまいます。
実は小作制度は何年も前に廃止され、伯爵夫人が違法な労働搾取をしていたのです。
村人は初めてそのことを知り、怒りと共に村を捨て、町へと出て行きます。
その頃、ラザロはというと、「俺たちは兄弟だ」というタンクレディの言葉を信じ、
毎日隠れ家まで食事を運んでいたのですが、
高熱が出た日も食事を届けようとして足を滑らせ、崖から転落してしまうんですね。
気を失ったラザロが目覚めた時、村はもぬけの殻だったのです…。

ちょっと長くなりました。
でも、話はここからまた展開します。次は町へ向かったラザロの物語。
昔の村の仲間と再会するんですが、それは劇場で見てみて下さい。
ラザロというのは、ヨハネ福音書に登場する人物で、
病気で死んだ4日後にキリストによって蘇った聖人。
崖から転落したラザロが目を覚ますのも、キリストの奇跡になぞらえてのよう。
真の善人というのは、自分が善い行いをしているという意識がないと。
劇中のラザロのように、愚直なまでに人を信じて生きていると。
大規模な労働搾取は、実際にイタリアで起きた事件だそうです。
宗教観も含め、自国イタリアでは見る人の心に響いた映画なのかもしれませんね。☆3つ。
「幸福なラザロ」公式サイト



『ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ』は、ドキュメンタリー。

ナチスの総統、アドルフ・ヒトラー。
画家になる夢を持っていたというヒトラーは、1933年から45年にかけて、
ヨーロッパ各地から60万点にも上る芸術品を略奪します。
ユダヤ人富裕層の持つ古典美術や、
パリのルーヴル美術館からも次々と名品を奪い取っていったのです。
その目的は、故郷近くのリンツに、ルーヴル美術館に匹敵する“総統美術館”を作ること。
その一方で、ピカソやゴッホ、ゴーギャン、シャガールなどの作品は、
退廃芸術としてダメの烙印を押し、
さらしものとしての“退廃芸術展”を開いたところ、連日長蛇の列が。
ナチスが推奨した、純粋なアーリア人による写実的で古典主義的な作品を集めた
“大ドイツ芸術展”以上に人気がありました。
実は、国家元帥のヘルマン・ゲーリングも芸術品には目がなく、
略奪した芸術品をヒトラーと奪い合うほど。
いまだに10万点が行方不明と言われる、ナチスによって強奪された美術品の数々。
その全容に迫ったドキュメンタリー映画です。
ちなみに、返還の訴訟は今でもたくさん行われていますが、難航しているそうです。
きちんと元の持ち主に帰るといいけど。
劇中、著名な絵画がたくさん出てくるので、そちらについ目が奪われてしまい、
字幕を読むのを忘れてしまったほど(笑)。華やかで、ゴージャスな1本です。
だから逆に、奪われた側の哀しみも浮き彫りになるのかも。
ボクは、改めてもう一度見てみたいと思いました。☆4つ。
「ヒトラーVS.ピカソ 奪われた名画のゆくえ」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.4.13

『荒野にて』☆☆
『多十郎殉愛記』☆☆☆
『魂のゆくえ』☆☆☆☆
『芳華 Youth』☆☆☆☆
『マローボーン家の掟』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


3月はたくさん試写を見ました。その数、22本。
本業の映画評論家の方とは比べものにならない程度の数字ですが、ボクにしてはかなりの数です。
GWが10連休。ちょうどそのあたりでまた、たくさん紹介できればいいんですけどね。
さ、今週は5本です!



『荒野にて』は、居場所を探す少年と競走馬の物語。

15歳の少年、チャーリー。
母はチャーリーが幼い頃に家を出てしまい、今は父と二人暮らし。
職を転々とする父との生活は決して楽ではなく、チャーリーは近くの競馬場のアルバイトとして、
リーン・オン・ピートという競走馬の世話をすることになります。
ある日のこと、父の浮気相手の夫が家に殴り込んできて、父はガラス窓を突き破り、
大ケガを負い、数日後に亡くなってしまうんですね。
ひとりぼっちになってしまったチャーリー。
一方、ピートも競走馬としての限界が来ていて、引退、売却の時を迎えていました。
それはすなわち“処分”を意味していたのです。
チャーリーは決意します。ピートを連れて、唯一の肉親である叔母を探す旅に出ることを…。

“天涯孤独の少年と走れなくなった競走馬の物語”とあったので、
これは見なくちゃと意気込んで行ったのですが。
逆に競馬ファンにはお勧め出来ないかも。ごめんなさい。
ただ、チャーリーの孤独に向きあってくれたのは間違いなくピートだし、
ピートもチャーリーを頼っていたはず。馬って、そういう動物ですから。
でも、育ってきた環境によっては、
チャーリーの気持ちが痛いほどわかるという人もいるようで、
もらったプレス資料には、「ずっと、家の子供になりたかった。」
そんなコラムがありました。
ご覧になってみて下さい。あなたの心には響くかもしれないし、
ボクの☆がなぜ少ないのかもわかってもらえると思います。☆2つ。
「荒野にて」公式サイト



『多十郎殉愛記』は、“84歳の巨匠”中島貞夫監督の20年振りとなる新作映画。

幕末の京都。長州藩では有名な剣士だった清川多十郎ですが、
今は脱藩し、貧乏長屋に住む浪人になっていました。
小料理屋の女将・おとよは、そんな多十郎が気になって仕方ありません。
それでも、何かと身の回りの世話を焼く、
おとよの気持ちを知りながら、知らん顔の多十郎。
そんな時、腹違いの弟・数馬が京都へやって来ます。
京都の街は見廻り組の警備が厳しくなっていて、勤皇派の数馬には危険な場所。
すると、見廻り組が多十郎の長屋を襲います。
目を斬られた数馬をおとよに託し、ふたりが京都を離れるまで、
多十郎は、ひとりで多勢に立ち向かうのでした…。

『木枯らし紋次郎』『極道の妻たち』で知られる、
中島貞夫監督が描いた“チャンバラ”の世界。
資料には“京都時代劇映画”とありましたが、
なるほど、やや懐かしい匂いのする映画です。
殺陣が見どころの1本。それまでのストーリーのあれやこれやは、
ラスト30分の斬り合いのための序章に過ぎないのかも。
時代劇ファンは是非。大ベテラン監督に敬意を表して、☆3つ。
「多十郎殉愛記」公式サイト



『魂のゆくえ』は、『タクシードライバー』のポール・シュレイダー監督・脚本作品。

トラーは、NYにあるファースト・リフォームド教会の牧師。
ある日のこと、礼拝に来ていたメアリーから、
「夫マイケルと話をして欲しい」と頼まれます。
マイケルは環境活動家。
メアリーは妊娠していましたが、マイケルは出産に反対していたのです。
「子供が大人になった時、地球はどうなってると思う?
『パパは全部知ってたんでしょ?』と聞かれたら、ボクは何と答えたらいい?」。
トラーは自分の半生を語ります。
「父も自分も従軍牧師で、妻の反対を押し切って息子を軍隊に入隊させた。
結果、理由なき戦争により、イラクで戦死。
妻は自分のもとを去り、自分は軍を辞職した。
そんな時、アバンダント・ライフ教会が声を掛けてくれて、
今の教会の牧師を任せてくれた。この世に産み落とす絶望より、
子供をこの世から奪い去られる絶望は比べものにならない」と、説いたのです。
翌日、メアリーから電話があり、家に行くと、倉庫から自爆装置が見つかります。
警察に届けることなく、それを預かるトラー。
さらに次の日、ライフルで自殺したマイケルの死体を発見したのでした。
マイケルが企てていたであろうテロ計画が警察に漏れないよう、
マイケルのパソコンを処分しようとしたその時、トラー宛ての遺書を見つけます。
環境汚染の上位にランクしている企業が、アバンダント・ライフ教会に多額の寄付をし、
社会貢献を隠れみのにしているというのです。
衝撃を受けるトラー。
さらに、トラーは自身がガンに侵されていることを知るのでした…。

深い…。 あらすじとしては書き過ぎかなと思いつつ、逆にこれでも足りないんじゃないかと思うほどで。
ジャンルは“スピリチュアル映画”になるそうです。
神と地球、人間の在りようについての内容ですから、そんな括りになるんですかね。
淡々と物語が進む中で、立ち止まって考えてしまうと、追いつかないかも。
まずは全部見てから、後であれこれ考えることをお勧めしたい、そんなタイプの映画です。
ボクの“世直しブログ”“お節介ブログ”が好きだと言って下さる方には、間違いなくお勧めです。
キリスト教の宗教観に関係なく、いろいろと考えさせられると思います。☆4つ。
「魂のゆくえ」公式サイト



『芳華 Youth』は、中国映画。

1970年代の中国。
軍の部隊のひとつに、人民解放軍の士気を高めるための歌唱や舞踊、
演劇を専門とする“文芸工作団(文工団)”がありました。
ダンスのスイツ、歌手のディンディン、司会でリーダーのシューウェンら女性メンバーと、
トランペット奏者のツァン、文工団の模範兵リウ・フォンなどの男性メンバーらがいて、
厳しい訓練を共にし、各隊を回っていたのです。
1976年、ここに17歳のシャオピンが舞踊班のメンバーとして入ってきます。
年頃の若者ばかりですから、様々な思いも交錯します。
しかし、毛沢東が死去し、四人組の逮捕によって文化大革命が終焉。
79年には中国がベトナムへと侵攻を始めるなど、時代の大きな波に、
シャオピンらも飲み込まれていくのでした…。

中国における激動の時代の青春群像。
70年代の物語ですから、まだ存命の人がたくさんいて。
監督のフォン・シャオガンも、原作のゲリン・ヤンも、文工団に所属していたそう。
文工団の華やかさと、戦争の悲惨さとのコントラストもスパイスになっています。
その時代を生きた人にとっては、リアリティを持って懐かしさが響いてくるんでしょうね。
79年に文工団は解散。
90年代になり、当時のメンバーが再会しますが、
新たな時代の波に乗れた人もいれば、そうでない人もいる。
ここにもまたリアリティがある。
でも“幸せって何?”というのを、国は違えど、
人として共通する“幸せの本質”を教えてくれると思います。☆4つ。
「芳華 Youth」公式サイト



『マローボーン家の掟』は、スパニッシュ・ホラー。

イギリスから、アメリカ・メイン州の古い屋敷に引っ越してきた、ある家族がいました。
母親のローズと4人の子供たちです。
長男のジャック、長女のジェーン、次男のビリー、そしてまだ幼い末っ子のサム。
実は、彼らの父親が凶悪な殺人犯で、祖国での悲惨な過去をすべて忘れて暮らそうと、
アメリカへと渡って来たのでした。
ところが、母が病に倒れて亡くなってしまいます。
さらに父親が脱獄。執拗に家族を追ってきたのです。
ジャックは妹弟を守るために父親を殺害し、屋根裏部屋に死体を隠します。
そして、妹弟に5つの掟を守らせるんですね。
「成人になるまで屋敷を離れてはならない」
「鏡を覗いてはならない」
「屋根裏部屋に近づいてはならない」
「血で汚された箱に触れてはならない」
「“何か”に見つかったら砦に避難しなくてはならない」。
しかし、この屋敷は何かがおかしかったのです…。

スパニッシュ・ホラーと書きましたが、舞台はアメリカ、言葉は英語。
監督を始めとする制作陣がスペイン人ということなんですね。
ホラー系の映画であることは間違いないのですが、
見方によっては、別ジャンルの映画と捉えることが出来るかも。
この手の作品は、ネタバレも含め、あまり語らないほうがいいことが多く。
この辺で黙るとしましょう(笑)。☆3つ。
「マローボーン家の掟」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.4.6

『4月の君、スピカ』☆☆☆
『12か月の未来図』☆☆☆
『バイス』☆☆☆☆
『Be With You いま、会いにゆきます』☆☆☆
『ホフマニアダ ホフマンの物語』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


新年度を迎えました。
新しい元号も発表され、世の中が、新しい風にサーッと浄化されたような雰囲気になってませんか?
まっさらになった感性に、映画で新たな刺激を入れてみて下さい!
さ、今週は5本です!



『4月の君、スピカ』は、杉山美和子原作の、人気コミックの実写映画化。

東京から長野の高校へ転校してきた早乙女 星(せい)。
初日の自己紹介で失言し、落ち込む星でしたが、天文好きの大高深月(みづき)が、
「乙女座の星…。スピカ」と話しかけてくれたことで、救われるんですね。
実は深月、親友で見た目はチャラい宇田川泰陽(たいよう)と共に、
学内でツートップの人気を誇る男子生徒。
深月、泰陽と仲良くなった星への風当たりはますます強まりますが、
星は深月に誘われ、泰陽も所属する天文部に入部します。
星は深月に恋心を抱き、泰陽は星を好きになる。
深月の気持ちは果たして?そんな三角関係が出来上がりつつあった時、
泰陽の元カノだった天川 咲が転校してきたのです…。

登場人物の名前からもわかるように、
原作コミックには“天体観測ロマンチック・ラブストーリー”という呼び名が付いているよう。
いかにも少女マンガです。ボクが妹の部屋から借りて読んでた少女マンガの世界…(笑)。
なんか昭和の懐かしさすら、感じます。
そんな訳で、登場人物は今ふうのイケメンくんたちですが、王道を行く、安心、安定の内容。
こういう作品が、今の若い子に受け入れられてるんだと知るだけで、
なんかホッとするのは、オジサンになった証拠なんでしょうね(笑)。☆3つ。
「4月の君、スピカ」公式サイト



『12か月の未来図』は、フランス映画。

パリの名門高校で国語を教える、ベテラン教師のフランソワ。
父親は国民的作家で、父の新刊本のサイン会に出席したフランソワは、
パリとパリ郊外の教育格差の是正について、自論を語ります。
「ベテラン教師が行って、新米教師を支援すべきだ」。
それ聞いていたひとりの美女が、フランソワをランチに誘うんですね。
浮き足立って行ってみると、そこは国民教育省。
彼女の上司からも、素晴らしいアイデアだと誉められ、「早速あなたがモデルケースで」と、
フランソワは教育困難校であるバルバラ中学へと派遣されてしまいます。
通う生徒は超のつく問題児ばかり。教師も無気力で、ことなかれ主義の面々。
初めは1年だからとやり過ごすつもりだったフランソワですが、
一番の問題児であるセドゥと接していく中で、考え方が変わっていきます。
「ここで彼が退学になったら、一生社会から落ちこぼれて、二度と這い上がれない」。
フランソワは意を決したのでした…。

移民、貧困、無関心。今のフランスが抱える問題を描いた作品です。
フランソワは、生粋のフランス人のエリートばかりを教えてきた、ベテラン国語教師。
それが様々なルーツを持ち、
決して恵まれたとは言えない環境下で育ってきた子供たちと向き合うことになるわけです。
腹をくくったフランソワは、自身の意識改革をし、子供たちと真正面から対峙するんですが、
それがいつしか子供たちの心を開かせ、周りの大人たちをも変えていきます。
面白いのは、日本のものとは違い、やっぱりフランス映画だなと思わせるところ。
つまり“お涙ちょうだい”ではないんですね。
“個人主義の国”フランスらしく、子供たちにもしっかりと人権を持たせ、
大人と同じレベルで描くことで、日本の作品とは違う、
言ってみれば“サッパリとした感動”を与えてくれます。
いい映画です。その上で、違いを楽しんでみてはいかがですか?☆3つ。
「12か月の未来図」公式サイト



『バイス』は、まだ存命の政治家、ディック・チェイニー元副大統領を描いた実話。

2001年9月11日の同時多発テロで、陣頭指揮に当たったのが、ディック・チェイニー副大統領。
ジョージ・W・ブッシュ大統領不在のホワイトハウスで、次々と重大な決定を下していきます。
その姿は、まさに“影の大統領”でした。
このテロを受けて、イラク強硬派のチェイニーは、憲法や国際法を拡大解釈。
愛国心を武器に、大量破壊兵器を持っているとしてイラク侵攻へと舵を切るのですが、
実際に大量破壊兵器は見つからず。
イラクの石油の利権を狙った戦争だったのでは?との批判が絶えないのは、
チェイニーが世界有数の石油企業の元CEOで大株主だったから。
そんなこともあり、チェイニーはアメリカ史上、最強で最凶の副大統領と呼ばれたのです…。

ディック・チェイニーの半生を描いた映画ですが、ドキュメンタリーではありません。
俳優たちが演じています。
しかし、みんなよく似てる(笑)。昔、TVのニュースで見たような顔が、見事に並びます。
酒に溺れ、大学を退学。電気工として働くも、また酒でトラブル。
ところが、恋人だったリン(現在の妻)が尻を叩く。すると一念発起。
ワシントンDCの連邦議会のインターンシップに参加し、
共和党のラムズフェルド下院議員の演説に魅せられ、
彼の元で働き始めたことで、政界への足掛かりを作ったチェイニー。
そこからの波瀾万丈、奇想天外の人生は、是非映画館でご覧になってみて下さい。
世界規模でやりたいようにやるって、アメリカって国は、やっぱりすげーなと思ってしまいます。
敵に回すと怖い国だ。仲良くしとかなきゃ(笑)。☆4つ。
「バイス」公式サイト



『Be With You いま、会いにゆきます』は、
04年の日本映画『いま、会いにゆきます』の韓国版。

妻スアが、この世を去りました。雨の季節に戻るからと、約束を残して。
遺された夫ウジンは、一人息子のジホと、
シングルファーザーとしての生活を続けていましたが、妻の死から1年。
幼いジホは、いまだ母親が忘れられずにいたのです。
「まだ雨は降らないの?」。
梅雨になれば、母親が帰ってくると信じているジホの姿に、心を傷めるウジン。
そして迎えた梅雨の季節。なんと、約束通り、スアがふたりの前に戻ってきたのです。
ところが、スアにはすべての記憶がなかったのです…。

原作は市川拓司のベストセラー小説。
04年の日本版では、竹内結子と中村獅童が主役を演じました。
ウジンとジホの元に戻ったスアは、家に貼られた写真を見て、
自分がこのふたりの妻であり、母なんだと認識していきます。
ウジンが話す高校時代のふたりの出会い、
結婚に至ったエピソードに、スアはまたウジンへの愛を確かめていくんですね。
でも、この幸せには限りがあるのです。それがまた切ない…。
韓国映画は、第2波、第3波と、感情を揺さぶってきます。
ハンカチの準備をして、スクリーンと向き合って下さいね。☆3つ。
「Be With You いま、会いにゆきます」公式サイト



『ホフマニアダ ホフマンの物語』は、ロシアのパペット・アニメーション。

エルンストは著名な作家で、作曲家。
そんな彼が、まだ若かりし頃の自分に思いを馳せます。
屋根裏部屋を借り、昼は裁判官見習いとして働き、
夜は音楽家を目指し創作活動をしていた頃の自分。
さらに空想の世界へと入り、学生アンゼルムスに変身した彼は、
ヘビ娘のゼルペンティーナに恋をします。
ところが、上流階級の娘で自分のオペラの主役を依頼するヴェロニカ、
機械仕掛けの美人人形オリンピアにも、気持ちが移ってしまうのでした…。

すみません、ストーリーをうまく説明できませんでした。
いくつかの原題、原作が混ざっているようです。
あの『チェブラーシカ』を作った、モスクワのソユーズムリトスタジオが、
15年の歳月をかけて作った作品。
パペット・アニメーションは、人形を少しずつ動かして撮影するのですが、
1分の上映時間に1ヶ月、5秒に1日をかけるそう。
圧巻なのは、終盤の、劇場でのコーラスシーン。
なんと50体のパペットが1シーンにいる。気が遠くなる作業ですよね…。
美しく、幻想的な映像です。それを見るだけで価値があると言えそうです。☆3つ。
「ホフマニアダ ホフマンの物語」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.3.30

『映画 少年たち』☆☆☆
『ナイトクルージング』☆☆☆
『リヴァプール、最後の恋』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


先日、とある試写会で、宣伝会社のプロモーターが上映前に挨拶。
普通は公開日と上映時間、監督や出演者の取材稼働日などを告げるのですが、
その女性は作品に対する個人的な思いを話し始めました。
「えっとー、わたし、実は春が大嫌いなんです…」。
推理小説の犯人を話しちゃうような話ならまずいけど、概念的な話なら、
そういうのもありかなと、微笑ましく聞いてました。
「えっとー」が多かったけど、それもまたご愛嬌かな(笑)。
さ、今週は3本です!



『映画 少年たち』は、ジャニー喜多川製作総指揮による
1969年初演の舞台『少年たち』シリーズの映画化。

犯罪を犯した少年が収監されている少年刑務所。
彼らは赤房、青房、黒房に分けられていて、それぞれのチームが他のチームをライバル視。
所内では揉め事が絶えませんでした。
そこにひとりの新入りがやってきます。
身寄りもなく、孤独に慣れてしまっている彼は周りに心を開かず、ひとり日記を書く毎日。
ある日のこと、新しい看守長がやってきて、暴力で少年たちを支配し始めます。
自分をかばい、懲罰房に入れられた同房の少年を気遣うと、
ふたりは心を通わせるようになり、次第に仲間も増えていったのです。
夢を語り合っても、ここではどうにもならない。
地獄のような毎日から逃れたい。少年たちは、密かにある計画を立てたのです…。

ジャニーズJr.が大挙出演者したこの映画。
SixTONES、Snow Man、なにわ男子、関西ジャニーズJr.に加え、
Travis Japan、7 MEN 侍、5忍者、HiHi Jets、
美 少年、Jr.SPなどからもメンバーが出演。
冷酷な看守には関ジャニ∞の横山裕、さらにA.B.C―Zの戸塚祥太も参加しています。
なんて書いてると、ジャニーズに詳しそうですが、
SixTONESを“ストーンズ”と読むなんて、全然知りませんでした(笑)。
明治41年に建てられ、放射線状に収容棟が伸びた旧奈良監獄が舞台。
この趣きある建物もまた、重要なキャストのひとり(ひとつ?)と言ってよさそうです。
圧巻はオープニングのダンスシーン。1カメラ、1カットで8分ノンストップで撮影されたそう。
ただ、ジャニーズはこの路線じゃないんじゃない?と感じたのも事実。
こっちのジャンルには、それこそ強力なライバルが地位を確立していますから。
ジャッジはオジサンではなく、若い人たちに委ねますか(笑)。☆3つ。
「映画 少年たち」公式サイト



『ナイトクルージング』は、全盲の男性が映画作りに挑んだ姿を追ったドキュメンタリー。

生まれつき視覚がなく、光すら感じたことのない加藤秀幸。
見えない彼が、映画を作るとはどういうことなのか。
友人で映画監督の佐々木誠が、その一部始終をカメラに収めていきます。
佐々木監督は言います。「今まで見たことがない、
想像もできない生まれつき全盲の人の世界観を映像として見られることを
楽しみにしているというようなご期待の言葉をいくつか頂きましたが、
視覚障害者の内面世界を映像化して、
見たことのないものを見てみたいという目的で企画を立てたわけではありません」と。
作品はSFアクションで、全盲の男が、相棒と一緒に“ゴースト”と呼ばれる存在を追うもの。
様々な映像技術を持つ、いわゆる“見える”一流の人々が、
加藤秀幸監督に“見える”側のレクチャーをしていくのですが、
それが果たして必要なのか、正しい行為なのか。
見えない人の世界を、見える人の世界観にあてはめようとしているだけじゃないかというようなコラムが、
この映画のプレス資料に寄せられた、ある映像作家の文章としてありました。
資料を前から読んでいくと、賛辞や苦労をねぎらう言葉が並ぶ中、
最後にあった真逆の論点に立ったコラムに、
「うわっ。確かにそうだよなぁ…」と衝撃すら覚えたものです。
加藤秀幸監督のSF短編映画『ゴーストヴィジョン』も、もちろん見ることが出来ます。
これをご覧になって、あなたは何を感じるでしょう?☆3つ。
「ナイトクルージング」公式サイト



『リヴァプール、最後の恋』は、実話に基づくストーリー。

売れない舞台俳優のピーターが、
ハリウッド女優のグロリア・グレアムと出会ったのは、数年前のこと。
同じゲストハウスの住人だった二人は意気投合。その時、ピーターは20代。グロリアは50代。
グロリアがモノクロ映画時代に、アカデミー賞助演女優賞に輝いた大女優だなんて、
知るよしもありませんでした。
役者としての格差や、年齢差をものともせず、二人は恋に落ちます。
そして、グロリアの拠点であるNYに移って生活を始めるんですね。
ピーターはその毎日を壊したくないと、母国イギリスからの仕事のオファーも断っていたのですが、
なんだかグロリアの態度がおかしい。
仲違いの末、二人は別れを決め、ピーターはイギリスへ戻ります。
それから数年後、ピーターの元に連絡が入ります。
グロリアがイギリスのホテルで倒れたというのです…。

LA出身の女優、グロリア・グレアムの物語。
4度の結婚歴があり、なんと離婚した男性の義理の息子と再婚したこともあるという、
波瀾万丈の人生を送った女性です。
二度目のガンの宣告を受け、イギリス・ランカスターのホテルで倒れたグロリア。
リヴァプールはピーターと、その家族が住む街。
病院への入院は望まず、ピーターの家での療養を懇願するんですね。
最後の恋こそが、本物の恋。
ピーターは、知らなかったグロリアの本当の気持ちを知ることになります。
グロリアを演じるアネット・ベニングは、ボクが試写を見に行き出して間もない頃、
『めぐり逢い』(94年)という映画で「メチャメチャ綺麗だなぁ…」と思った女優さん。
あれから25年ですか。早いものです。
でも、今でもホントに綺麗。ラブシーンではドキドキしちゃいましたから(笑)。
恋愛も、人生も、いろんな形があって、お決まりの正解なんてない。
そんな大人の恋物語です。☆3つ。
「リヴァプール、最後の恋」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.3.22

『エマの瞳』☆☆☆
『こどもしょくどう』☆☆☆
『コンジアム』☆☆☆
『美人が婚活してみたら』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


先週は試写で見た作品が、1本もありませんでした。
今週はたっぷりとご紹介します。
あなたの好みに合う作品があったら、是非劇場に足を運んでみて下さい。
さ、今週は4本です!



『エマの瞳』は、イタリア映画。

ローマの広告代理店に勤めるテオは、ステディと呼べる女性がいながら、
あちこちで遊んでいるプレイボーイ。
ある日のこと、暗闇で視覚以外の感覚を使って日常生活を知感する“DID”、
ダイアログ・イン・ザ・ダークに参加したテオは、
そのアテンド・スタッフだった全盲の女性、エマと出会います。
思春期に視力を失い、結婚生活に一度失敗しながらも、
しっかりと自立しているエマに、テオは惹かれていくんですね。
ふたりは身体の関係も持つようになりますが、
テオはエマに恋人グレタの存在を知らせてはいませんでした。
ところが、テオとエマが買い物をしていたスーパーで、グレタと鉢合わせしてしまいます。
「ボランティアなんだ」。
その場を取り繕ったテオの言葉に、エマは傷付き、
テオの前から姿を消してしまったのです…。

施術師として自立している全盲の女性エマ。
結婚に失敗したことで、独りで生きて行くと決めていたのですが、そこにテオが現れる。
テオはプレイボーイですから、女性の扱いは上手いけれど、真実の愛を知らない。
そんなふたりの恋物語。
見えているほうが見えていなくて、見えないほうが見えているのかも。
世の中や、人の心、物の真(まこと)を見ることと、
視力は別ものなんだなというのを思い知らされるかもしれませんね。
ラストはムフフな感じです。
この結末、ボクにはちょっと読めてましたけどね(笑)。☆3つ。
「エマの瞳」公式サイト



『こどもしょくどう』は、実話を元にしたストーリー。

ユウトは小学5年生。
幼なじみのタカシの家は、育児放棄の母子家庭。
食堂を営むユウトの両親は、タカシによくご飯を食べさせてあげていたのです。
ある日のこと、河原に停めた車の中で父親と暮らす、ふたりの姉妹を見つけます。
ユウトはこのふたりを連れて家に帰り、
ご飯を食べさせてあげるよう、両親に頼むんですね。
事情がわからず、警察か施設に連絡をすべきか悩む両親でしたが、
ユウトの気持ちを酌んで、姉妹を歓待します。
ところが、姉妹の父親が、ふたりと車だけを残して、失踪してしまったのです…。

全国に2300ヶ所近くあると言われる『こども食堂』。
子どもの貧困対策の取り組みとして、地域の人々が尽力している支援の輪です。
“豊かな国・日本”と言われながら、
日々の食事すらとれない子どもがたくさん存在するという、
歪みのある国でもあります。
この映画で描かれているのは、こども食堂の在りようではなく、こんな経緯で、
手を差し伸べる大人が出てきたというプロセスなんですね。
人の優しさと、残酷な言い方をすれば、対極にある優越感。
いじめられっ子のタカシは、姉妹より上だと、自分のことを思っているふしもありますから。
様々なことを考えさせられる1本です。☆3つ。
「こどもしょくどう」公式サイト



『コンジアム』は、韓国のホラー映画。

京畿道広州市にあるコンジアム精神病院。
今は廃墟と化したこの建物は、かつて多くの患者が不可解な死を遂げ、
院長も謎の失踪や自殺の噂があった病院。
“402号室の呪い”など、心霊スポットとして有名なこの場所に、
YouTubeで人気の動画配信チャンネル「ホラータイムズ」が乗り込もうというのです。
一般視聴者からの参加を募り、集まった7人が、コンジアム精神病院へと潜入します。
100万ページビューが稼げれば、大金が舞い込む。
主宰者のハジュンの目論見が、とんでもない恐怖と悲劇を生むことになるとは、
思ってもいなかったのです…。

コンジアム精神病院は実在の廃病院。“世界7大心霊スポット”のひとつに選出されているそうです。
キャストはそれぞれがGoProという小型アクションカメラを付け、
俳優の顔と、前方の景色を同時に撮影。
体感型のホラー映画の中に、観客を引きずり込みます。
自国では大ヒットとなったこの作品。
韓国ホラーは当たらないというジンクスを打ち破ったのも、なるほど納得。
臨場感とリアリティ抜群のホラー映画です。
ただよく言われることですが、一番怖いのは、人間の欲と、傲慢さかも。☆3つ。
「コンジアム」公式サイト



『美人が婚活してみたら』は、お笑いコンビ、シソンヌのじろうが脚本を手掛けた作品。

WEBデザイナーのタカコ、32歳。
美人だけど、付き合ってきた男は、みんな妻帯者。
それもみんな独身のフリをする、ろくでもない男ばかり。
親友のケイコは既婚者。タカコの愚痴を嫌がらずに聞いてくれます。
ふたりでタカコの男性遍歴を振り返った結果、恋愛を飛ばして、
とにかく結婚しちゃうべきだと、婚活サイトに登録することを決意。
そこでも数多の失望を繰り返し、ようやくマッチングしたのが、園木という男性でした。
地味ながら、優しく真面目な園木に心の安らぎを感じるタカコでしたが、
一方で“男性は医師限定デー”の婚活パーティーで知り合った、
歯科医・矢田部の危険な匂いにもタカコは惹かれていくのでした…。

女性監督の大九明子がメガホンを取った作品。
原作は、まんがアプリで人気を博した、同タイトルのVコミです。
美人の定義がどこにあるかは、個人の趣味趣向にもよるので、
タカコがそれほどの美人かどうかは何とも…。
なんて言うと、主演の黒川芽以さんを否定してるように聞こえちゃうかな(笑)。
純朴な園木の行動に、場内からはクスクスと笑い声が漏れていたけど、
いやいや、男性は女性が思ってる以上にピュアなんですって。
親友のケイコにも人知れず悩みはある。
既婚男性はそれを見て、自身の結婚生活を省みる必要があるかも?
そんな感じで、この映画が、男性、女性のどちらを向いているのかは明確にわかりませんが、
互いに異性のことはわからないからこそ、
ツラく、また面白いのかもしれませんね。☆3つ。
「美人が婚活してみたら」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.3.9

『きばいやんせ!私』☆☆
『シンプル・フェイバー』☆☆☆☆
『スパイダーマン:スパイダーバース』☆☆☆☆
『たちあがる女』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


ボクらに届く試写の案内は、複数ある試写日程から、都合のいい日時を選べるシステム。
ところが、優先しないといけないスケジュールが入ると、試写を先送りにせざるをえなくなり、
だんだんと回数が少なくなる。ギリギリで最終試写に間に合うなんてこともしばしば。
それがいい作品だと、「あぁ、見られてよかった…」となるわけです。
最近、ボクの手帳には、試写のタイトルの横に“ラスト”の文字が多く(笑)。
時間のやりくりもひと苦労です。
さ、今週は4本です!



『きばいやんせ!私』は、九州本島最南端の町、南大隅町を舞台にした物語。

不倫騒動で窓際に追いやられた女子アナの児島貴子。
ニュースワイドのメインキャスターだった栄光は過去のものになり、
今度の仕事は“日本の奇祭47選”のリポーター。
やる気のまったく出ない貴子でしたが、小学生の時に1年だけ住んだ、
鹿児島県の南大隅町の“御崎祭り”を、試しにと取材に行くことにします。
南大隅町に着くと、貴子を待っていたのは、歓迎と好奇の目でした。
町の案内役は同級生の太郎。太郎は今、畜産で町の期待を担う若者に成長していたのです。
1300年続く伝統の祭りだけに、担当者はかなりの頑固者。
一方の貴子は、やる気はないくせに、プライドだけは高い。
果たして、この取材は上手くいくのでしょうか…。

ボク自身がしゃべりの仕事に就いているせいもあって、貴子の在りようが、
もうハナから許せない(笑)。
映画なんだから、作り物なんだから、デフォルメしないと面白くならないでしょ?
と言われるだろうけど、ダメなんですよね…。
何のためにアナウンサーを目指したんだと、問いただしたくなっちゃう。
たぶん、普通の人はそんな見方をしないので(笑)、ボクの評価は低いけど、
楽しめるという方も多いのでは?町おこしの意味もあると思うので、是非、見に行ってみて下さい。
主演の夏帆ちゃんは可愛いけど、そんな訳でごめんなさい。☆2つ。
「きばいやんせ!私」公式サイト


『シンプル・フェイバー』は、スタイリッシュなサスペンス・スリラー。

NY郊外に住む、シングルマザーのステファニー。
亡くなった夫の保険金と、育児と料理の動画配信で得たお金で、
慎ましやかに生活をしていました。
そんなステファニーが、息子のクラスメートの母親で、
NYのファッション業界で働くエミリーと意気投合。
エミリーはベストセラー作家の夫ショーンと豪邸に暮らしていて、
華やかで、ステファニーとは対照的な女性でしたが、互いの秘密を語り合うほどの仲になり、
ステファニーは多忙なエミリーを度々サポートするようになります。
ある日のこと、エミリーから息子を迎えに行って欲しいと頼まれるのですが、
エミリーはその電話を最後に姿を消してしまいます。
その数日後、エミリーがミシガンの湖から遺体で見つかったのです…。

面白かったです。
ステファニーには『ピッチ・パーフェクト』シリーズのアナ・ケンドリックが扮するのですが、
美人だけど、ちょっと垢抜けないというか、そのキャラクターがステファニーにピッタリで。
背伸びをしながら、エミリーのようなセレブリティに憧れるステファニー。
でも、根っからの善人であるかのようなステファニーにも過去がある。
それを映画の冒頭で、上手く散りばめてるから、
このミステリーがミステリーとして深みを持たせることに成功しているんですね。
ステファニー、エミリー、ショーン。主軸はこの3人で、この中に“悪”がいる。
いや、誰かひとりとは限りません。おっと、しゃべり過ぎちゃいそうだ(笑)。
スタイリッシュで、ユーモアもあり、ドンデン返しも見事。
よく出来た映画だと思いますョ!☆4つ。
「シンプル・フェイバー」公式サイト


『スパイダーマン:スパイダーバース』は、スパイダーマンのアニメーション作品。

闇の帝王・キングピンが時空を歪め、スパイダーマンことピーター・パーカーが亡くなります。
悲しみに暮れるNYの街。
それを13歳のマイルス・モラレスは、複雑な思いで見つめていました。
そう、彼こそがピーターの後を継ぐ、新生スパイダーマンだったのです。
ところが、マイルスにはまだ自身の能力がわかっていません。
キングピンの更なる野望を止めることなんて出来ないと、不安になるマイルス。
すると、マイルスの前に死んだはずのピーターが現れるんですね。
でも、ちょっと様子が違う。ピーターだけど、ピーターじゃない?
実は、このピーター、キングピンが時空を歪めたことで、
別次元のユニバースからマイルスの住むこの世界にやって来た、
別次元のスパイダーマンだったのです。
すると次々と集結するスパイダーマンたち。
スパイダー・グウェン、スパイダーマン・ノワール、スパイダー・ハム、
ペニー・パーカーとパワードスーツSP//dr。
彼ら全員が力を合わせ、キングピンの野望を止め、
全てのユニバースを元に戻そうという戦いが始まるのでした…。

今年度アカデミー賞の長編アニメーション賞を獲得した作品。
『スパイダーマン』シリーズでは、
視覚効果や音響等のノミネートはあれど、作品部門では初のノミネート。
さらにそれが受賞となった訳ですから、いかに面白いかは推して知るべしですよね。
最初はアニメだと知らずに試写会に足を運び、正直「なんだ、アニメか…」と思っていたのですが、
アニメーションだからこそ描けるものが、最大限の効果を発揮していて。
ぐいぐいとスクリーンに引き込まれていきました。
スパイダーマン・ファンも、そうでない人も楽しめる1本です。☆4つ。
「スパイダーマン:スパイダーバース」公式サイト


『たちあがる女』は、アイスランド映画。

セミプロ合唱団の講師、ハットラ。
実は、彼女にはもうひとつの顔がありました。それは、謎の環境活動家“山女”
風光明媚なアイスランドの田舎町に建つ、
リオ・ティント社のアルミニウム製錬所が環境破壊を生むと、
ハットラは送電線を切る行為を繰り返していたのです。
ヨガの先生で、平和主義者の双子の姉・アウサは、そんな妹と折り合わず。
何とか警察の捜査をくぐり抜けてきたハットラでしたが、遂に年貢の納め時かと思った時、
優しい牧場主のスヴェインビヨルンが、救いの手を差し伸べてくれます。
ハットラには夢がありました。それは、ウクライナから養子をもらうこと。
その夢がいざ叶うとなった時、ハットラは逮捕されてしまうのでした…。

北欧の小国アイスランド映画。正しくは、フランス、ウクライナとの合作です。
十年連続で男女平等度が世界一という、アイスランドならではの作品。
たったひとりの女性が、強大な権力に立ち向かっていくお話です。
ただ、ユーモアもあって、ハットラの節目節目に、
存在しない合唱団とブラスバンドが現れ、彼女の心境や今の状況を音楽で表します。
このストーリーの結末は、どんなふうに落ち着くんだろうと、
やや心配しながら見てると、ちゃんと着地すべきところに着地してくれました。
「シリアスな内容を笑顔で語るおとぎ話」と、ベネディクト・エルリングソン監督。
なるほど言い得て妙な表現です。☆3つ。
「たちあがる女」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.3.1

『グリーンブック』☆☆☆☆☆
『岬の兄妹』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


第91回アカデミー賞が発表になりました。
作品賞は今週ご紹介する『グリーンブック』。
助演男優賞もこの作品のマハーラジャ・アリ。
また、話題の『ボヘミアン・ラプソディ』はラミ・マレックの主演男優賞を含む4部門に輝きました。
どちらもアメリカの“今”に一石を投じる作品。“多様性”や“差別”がキーワードにもなっています。
授賞式もメッセージ色の強いものになったようで。
芸術が、世の中を、また政治を、動かすことが出来るのか?関心を持って見守りたいと思います。
さ、今週は2本です!



『グリーンブック』は、1960年代のアメリカ南部を舞台にした映画。

NYの人気クラブ、コパカバーナで用心棒を務めていたトニー。
ところが、店が改装のため、2ヶ月閉店に。
トニーはこの間、無職になってしまいます。
家族のために働き口を見つけなければならないトニーの元に、
「ドクターが運転手を探している」との情報が届きます。
行ってみると、ドクターはドクターでも医者ではなく、
ドクター・ドナルド・シャーリーという黒人ピアニストでした。 ドクター・シャーリーが、南部を回る2ヶ月間のツアーで、運転手を勤めて欲しいというのです。
自らもイタリアからの移民の子で、黒人に偏見を持つ環境で育ったトニーは、
口では黒人との仕事に抵抗はないと言いながら、
身の回りの世話もしなければならないというオファーに、
「俺は召使いじゃない」とキッパリ断りを入れます。
でも、黒人差別が強い南部でのツアーに、トニーの“腕”は必要不可欠と、
ドクター・シャーリーはトニーの出す条件を飲み、契約が成立します。
出発の日、レコード会社から渡された1冊の本、それは“グリーンブック”。
黒人が泊まることの出来る宿が書かれた本でした…。

本年度アカデミー賞作品賞、助演男優賞を獲得した作品です。
粗野で荒くれ者のトニーと、気高き天才ピアニストのドクター・シャーリー。
初めはまったく噛み合わず、揉め事ばかり。
それでも覗き見たステージの素晴らしさにトニーは感動し、一方で、
トニーの人間味溢れる深い情にドクター・シャーリーは信頼を置くようになります。
あまりにひどい差別の現実を目の当たりにしたトニーは、
天才であるがゆえに孤独なドクター・シャーリーを守ってやりたいと思うようになるんですね。
いわゆる“ロードムービー”でもあります。
ツアーを無事終えることが出来るのか、
何故ドクター・シャーリーは困難が待ち受ける南部のツアーに出たのか?
あまりに腹立たしくもあり、それゆえに痛快!と溜飲を下げ。
ふたりの絆が深まっていくのを、温かい気持ちで見つめてみて下さい。
賞を取った、取らないじゃなく、文句なしの満点!☆5つ。
「グリーンブック」公式サイト


『岬の兄妹』は、片山慎三監督の初長編作品。

港町のあばら屋に二人きりで暮らす兄妹、良夫と真理子。
真理子には自閉症があり、度々家を出ては徘徊し、良夫を悩ませていました。
ある日のこと、また真理子の姿が見えなくなりました。
夜遅く、ようやく帰ってきた真理子。実は、町の男に抱かれ、お金をもらっていたのです。
その頃、良夫はリストラで職を失い、家賃どころか、その日の食べ物にも困る始末。
悪いと知りながら、良夫は真理子に売春をさせるのでした…。

結構、強烈な映画です。
監督もコメントで、
「貧困、障害、性、犯罪、暴力…そういったものを包み隠さず描きました」と言っています。
生きていくために選ばざるをえない道。
でも、真理子にとって、すべてが不幸ではない部分もあって。
何が正しくて、何が悪いことなのか。考えさせられると思います。
かなり、エグいというか、グロいシーンもあります。
出演者が“人情喜劇”と評するのも、皮肉を込めて、なるほどなと。
覚悟して?ご覧下さい。☆3つ。
「岬の兄妹」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.2.22

『あなたはまだ帰ってこない』☆☆☆
『あの日のオルガン』☆☆☆
『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』☆☆
『ビール・ストリートの恋人たち』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


今週は話題の1本、『翔んで埼玉』が公開になります。
FM NACK5もフィーチャーされているのに、ボクは試写を見ていないんですよ…。
しばらくしてから、劇場で見ようかと思います。もちろん、都内ではなく、埼玉で(笑)。
さ、今週は4本です!


『あなたはまだ帰ってこない』は、フランスの小説家、
マルグリット・デュラスの自伝的小説「苦悩」を映画化した作品。

第二次世界大戦中の1944年6月。パリはナチスの占領下にありました。
ジャーナリストで作家のマルグリットは、夫と共にレジスタンスの一員として活動。
しかし、夫はゲシュタポに捕らえられ、連行されてしまうんですね。
マルグリットは夫の情報を得ようと、パリのナチスの本拠地に出向きます。
すると、マルグリットに近寄ってきたひとりの男が。
夫を逮捕したというゲシュタポの手先、ラビエです。
ラビエは作家としてのマルグリットのファンでもあり、
夫の情報を小出しに伝え、悪くはしないからと、マルグリットを度々誘ったのです。
次第に戦況は連合国側に優勢となり、ラビエからの連絡は絶え、遂にはパリが解放されて、
囚人となった多くの人々が帰ってきたのですが、そこに夫の姿はありませんでした。
知らされるナチスの残虐な行為。
不安と落胆の中にいたマルグリットに、夫が生きているという報せが届いたのです…。

マルグリット・デュラスの私小説が原作。
正直、女性のある意味でのたくましさを感じました。
「苦悩」というタイトルにも表れているように、何が正しいのか、
道徳や倫理観だけでは語れない、壮絶な生と愛への思いがある。
これを観る人が、マルグリットの生き方をどう思うのかは、人それぞれでしょう。
決して綺麗ごとだけでは済まされない物語。
Bunkamuraル・シネマで上映される作品は率先して観るのですが、
“らしい”1本だと思います。☆3つ。
「あなたはまだ帰ってこない」公式サイト



『あの日のオルガン』は、実話に基づく戦時中の物語。

太平洋戦争末期の1944年。
東京にも頻繁に空襲警報が鳴り響くようになっていた頃、
国民学校の生徒たちは安全な田舎へ集団疎開。
ところが、保育所の幼い子供たちは親のそばで暮らすべきと、
幼児の集団疎開は講じられませんでした。
そんな中、戸越保育所の主任保母の板倉楓は、疎開保育所を作ろうと提案。
検討会を開いたところ、親たちの意見は真っ二つに割れます。
それでも日に日に戦況は悪化。
親たちは泣く泣く、子供を疎開させることを選ぶのでした。
疎開先は、埼玉県のお世辞にも立派とは言えない古い寺。
保母たちは何とか生活が出来るようにと修繕に力を尽くします。
近隣住民の手助けも借りながらの疎開保育所。中には反対派もいて。
簡単に言うことを聞いてはくれない幼児たちとの共同生活は、困難を極めたのです…。

板倉楓のモデルになったのは、戸越保育所の職員だった畑谷光代という人物で、
25歳の若さで主任保母になり、所長に幼児疎開を進言。
公立の保育所よりも半年以上も早く、単独で幼児集団疎開を決行します。
その判断は正しく、多くの未来ある命を救うことになったのです。
が、その一方で、貴重な命が戦争の犠牲となってもいく。
ボクらは終戦が1945年の8月15日と知っているけれど、
当時戦火の中に生きた人たちには、いつこの悲惨な戦争が終わるかなんてわからない訳で。
不安でいっぱいの時を過ごしていたのだと思います。
ぶきっちょな、みっちゃん先生が弾くオルガンに合わせ歌う子供たちの声が、
未来と希望の象徴だったあの頃。
戦争の悲惨さはもちろん、ボクらは何のために働くのか。
保母さんたちの“志”を感じて、
今の自分の職務を確かめる契機になればと願います。☆3つ。
「あの日のオルガン」公式サイト



『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』は、
LGBTの若者たちをミュージカル仕立てで描いた作品。

NYのブロンクスに暮らす高校生のユリシーズには、
女性のように美しくなりたいという願望がありました。
心の中にモヤモヤしたものを抱いていたユリシーズは、
LGBTの人々が多く行き交うクリストファー・ストリートで、
トランスジェンダーのエボニーたちに声を掛けられます。
「サタデー・チャーチに行ってみない?」。
そこではLGBTの人たちを支援するプログラムが行われていて、
ユリシーズは初めて自分と同じ葛藤を抱く仲間と出会ったのです。
そんな中、美しく着飾ってダンスを競い合う“ヴォーグ・ナイト”に出たいと思ったユリシーズは、
お小遣いをはたいてハイヒールを買うのですが、それを家族に見つかり、叱責されるんですね。
ユリシーズは家を飛び出し、クリストファー・ストリートの仲間の元へと駆け込んだのです…。

実話に基づくストーリー。
今、ジェンダーの問題は、多くの場面で公に語られ、昔と比べたら皆の知るところになったように思います。
それでも家族の問題となった時、現実を受け入れるのには、時間と、ある種の勇気がいるのかもしれませんね。
そのテーマはさて置き、感じたのは、ミュージカル風にする意味があったのかという部分…。
個人的にはちょっと違和感があったかなぁと。
主人公の思い描く理想の将来像に、歌とダンスがあるからなのかなとは思いますが。
デリケートな映画でも、ちょっぴり辛口で。☆2つ。
「サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所」公式サイト



『ビール・ストリートの恋人たち』は、『ムーンライト』のバリー・ジェンキンス監督最新作。

1970年代のNY。幼い頃から共にハーレムで生まれ育った、
アフリカ系アメリカ人のファニーとティッシュ。
ふたりは恋人同士。ファニーは22歳、ティッシュは19歳。
ティッシュのお腹の中に新しい生命が宿ったことをファニーに知らせたのは、刑務所の面会室でした。
ファニーは些細ないざこざから白人警察官に目をつけられ、
ひとりの女性を強姦したという無実の罪で収監されていたのです。
地獄のような刑務所の中。ティッシュとティッシュの家族は、
「必ずあなたの無実を証明するから」とファニーを励まし、奔走するのですが…。

今もなお残る人種差別に一石を投じつつ、生きることの尊厳と多様性にスポットを当てた作品。
ファニーとティッシュは成長するに連れ、互いが特別な存在になっていきます。
ファニーは愛が集うテーブルを作りたいと家具職人を目指し、ふたりで暮らせる部屋を見つけ、
幸せな未来を掴んだかに思えたその瞬間、無実の罪により、すべてが壊されてしまいます。
それでも、若いふたりに手を差し伸べたのは、黒人コミュニティーだけではなく、
ユダヤ、イタリア、ラテン系の人々だったり、
白人の駆け出しの弁護士もファニーの釈放のために力を尽くします。
70年代が過去のものではなく、まさに現代アメリカそのものだと、
今に照らし合わせて描かれた作品。
アカデミー賞の有力候補との声にも納得の1本です。☆4つ。
「ビール・ストリートの恋人たち」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.2.15

『金子文子と朴列(パクヨル)』☆☆☆☆
『トラさん 僕が猫になったワケ』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


映画の最中、あくびが出そうになることって、ありますよね。作品の良し悪しには関係なく。
でも、その場合、あくびは普通かみ殺します。
ところが、たまにいるんですよ。「ふわぁ〜っ」と音に出す人が。
それを聞くと、物語の世界から、一気に現実へと引き戻されてしまいます。
あくび禁止なんてルールはないけれど、マナーはある。周りに気遣って欲しいものです。
さ、今週は2本です!



『金子文子と朴列(パクヨル)』は、韓国映画。

1923年の東京。
朝鮮人アナキストの朴列は、日本人女性の金子文子と出会います。
ふたりを結びつけたのは、朴列が書いた『犬ころ』という一遍の詩でした。
文子はこの詩に、作者の強靭な意志を感じたのでした。
朴列は“不逞社”なるアナキスト結社を作り、ふたりは同志として活動。
また恋人として、一緒に暮らし始めます。
そんな時、関東大震災が列島を襲います。
同時に、「朝鮮人が井戸に毒を入れ、暴動を起こしている」とのデマが広がるんですね。
政府は戒厳令を発しますが、軍や自警団は多くの朝鮮人を虐殺。
大混乱の中、朴列も文子も、警察に逮捕されてしまいます。
それでもふたりは、獄中から闘おうと誓い合うのでした…。

この映画を見る側がどう捉えるかだと思いますが、巨大権力に立ち向かう一組の男女の、
青春と人生を懸けた闘いの物語として見た時、
我々日本人にとっても感じ入る作品になるのではないかと思います。
この映画のいいところは、すべての日本人を“悪”として描いていないところにもあります。
今、日韓関係はこれまでにないほどにギクシャクしていて、
「いくらなんでも、そりゃないだろう」と思うことも多々ありますが、
これですべてを一括りにして見たらおかしくなる。
反日の旗を降る人ばかりじゃないはずで、そこに目をやることも大事なんじゃないかなと。
デフォルメも含め、描き方ひとつで史実のディテイルは変わってくるでしょうから、
そこを云々言うつもりはありません。
ただ、普段とは違う視点を持たせてくれる力も、映画にはあるはず。
この映画を見終えて、そんなことを思ってました。
韓国では235万人の観客を動員したそう。
向こうからの目は、この映画をどう捉えたんでしょうね。気になるところです。☆4つ。
「金子文子と朴列(パクヨル)」公式サイト



『トラさん 僕が猫になったワケ』は、Kis-My-Ft2の北山宏光の映画初主演作。

猫が大嫌いなのに、猫が主人公の漫画『ネコマン』で人気を博した、漫画家の高畑寿々男。
その最終回を描くことなく連載を中止した寿々男は、
新作を売り込みますが、担当からは一蹴されてしまいます。
「『ネコマン』の続きを描いたほうがいいんじゃないですか?」。
その言葉が寿々男のヘソを、ますます曲げさせていたのです。
寿々男には妻と愛娘がいましたが、
妻がパートで稼いだ給料をギャンブルで使ってしまうようなダメ夫。
そんな寿々男が競輪で大儲け。
意気揚々と帰宅する途中、交通事故に遭い、あっけなく死んでしまいます。
気がつけば、そこは“あの世の関所”。裁判長は寿々男に言います。
「執行猶予1ヶ月。これまでの愚かな人生を挽回して下さい。ただし、猫の姿で」。
寿々男は猫になって、家族の前に戻されたのでした…。

2013年から集英社の月刊YOUに連載された、人気コミックの実写映画化。
この後、寿々男は自分の葬式で猫好きの娘に拾われ、
“トラさん”と名付けられて、また家族と暮らし始めます。
ところが、もちろん言葉は通じないし、
トラさんが寿々男であることに、誰も気づくはずもなく。
寿々男が自堕落な生活を反省するのかと思いきや、いやいややんちゃなままで(笑)。
たぶん、北山宏光の魅力を最大限に描いたんだろうなと。
個人的には、もうちょっとぐっと来るものがあるかなと期待していたものですから…(笑)。
でも、ファンにとっては『Cats』みたいで、楽しい1本だと思いますョ。☆3つ。
「トラさん 僕が猫になったワケ」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.2.8

『アクアマン』☆☆☆
『コードギアス 復活のルルーシュ』☆☆☆
『洗骨』☆☆☆
『小さな独裁者』☆☆☆
『山(モンテ)』☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


2月になりました。
1月の試写は13本。本数的には、まずまずのスタートを切ったかなと(^-^)
2月も時間が許す限り、試写会に足を運ぼうと思います。
さ、今週は5本です!



『アクアマン』は、『ワイルド・スピード SKY MISSION』の
ジェームズ・ワン監督が、舞台を海中に移したバトル・エンターテイメント。

灯台守のトムは、嵐の夜、入り江に打ち上げられたひとりの女性を発見し、救護します。
実は彼女、海底にあるアトランティス帝国の女王・アトランナ。
政略結婚を拒み、逃げ出して遭難したのです。
ふたりは愛を育み、男の子をもうけます。彼の名はアーサー。
しかし、幸せな日々は長くは続きませんでした。海の底から追っ手がやってきたのです。
このままでは家族が危険に晒される。
いつか必ず帰ると誓い、幼いアーサーを残し、海中へと戻るアトランナ。
月日は流れ、大人になったアーサーの元に、メラという海底国ゼベルの王女がやってきます。
メラが言うには、アーサーの異父弟のオームがアトランティス帝国の王位に就いたと。
そのオームが、海を汚す人間を憎み、地上をも統治しようと企んでいると言うのです。
人間と海底人の両方の血を持つ“アクアマン”であるアーサーは、
オームの野望を打ち砕き、地上と海底の平和を保ち、
さらに母との再会を果たすことが出来るのでしょうか…。

いわゆる“ジェットコースター・ムービー”。
スピード感たっぷりに、海の中で、激しいバトルが繰り広げられます。
海底にはいくつもの国があり、考え方も多種多様。
ところが、オームはそれを力で屈服させていくんですね。
アーサー自身が“混血”で、舞台設定しかり、こういうヒーローの活躍に、
現代アメリカが自国の在りようを求めている気がします。
なんて、ややこしいことは抜きにしても、エンターテイメント作品として十分楽しめる1本です。
宇宙に目を向けるのと同様、いや、もっと深い神秘が、
身近な海の奥深くには眠ってるといいます。ある意味、逆転の発想も面白い映画です。☆3つ。
「アクアマン」公式サイト



『コードギアス 復活のルルーシュ』は、大人気アニメシリーズの完全新作映画。

光和2年。世界は再編成された超合衆国を中心にまとまり、平和な日々を謳歌していた。
しかし、平和は突如として終わりを告げる。仮面の男・ゼロとして、
ナナリーの難民キャンプ慰問に同行したスザクが謎のナイトメアフレームに敗れ、
2人は連れ去られてしまった。
シュナイゼルの密命を受け、戦士の国・ジルクスタン王国に潜入したカレン、ロイド、
咲世子はそこで、謎のギアスユーザーに襲われる。
そして、その場には襲撃者にC.C.が居た。
かつて神聖ブリタニア帝国の大軍すらも打ち破った無敵の王国を舞台に、
人々が描く願いは、希望か絶望か。
果たして、ギアスのことを知るジルクスタン王宮の面々と、C.C.の思惑とは…。

2006年から放送が始まったTVアニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』。
08年に続編が出来、その後も様々な作品が作られていったコードギアス・シリーズですが、
この完全新作劇場版映画は、その08年の続編を受けての物語だそう。
ボクはまったく見たことがないのですが(失礼!)、
友人が「このシリーズは素晴らしい!」と絶賛していたのを聞き、試写に行ってきました。
シリーズの“これまで”を知らない人間がとやかく言うと、ファンに怒られそうなのと(笑)、
ネタバレ禁止の注意書きがたくさんあったので、
上記のあらすじは、資料にあったものをそのまま書き記しました。
あ、C.C.の肩書きが読めず、漢字も探せずで省いたのはご容赦下さい。
ボクのようなシリーズ初心者でも楽しめたので、ファンにはたまらないと思いますョ。
期待して劇場へどうぞ!☆3つ。
「コードギアス 復活のルルーシュ」公式サイト



『洗骨』は、ガレッジセール・ゴリこと、照屋年之監督作品。

沖縄の離島、粟国島。
新城家の母・恵美子が亡くなって4年。
父・信綱の元に、長男・剛と長女の優子が帰ってきます。
粟国島には、一度土葬(風葬)した遺体が骨になった後、その亡骸を一旦掘り起こし、
海水や酒で洗い、再度埋葬する“洗骨”という独特の葬制がありました。
断酒を誓いながら、妻を亡くした悲しみから抜け出せず、酒に溺れる信綱。
既に離婚しているのに、それを言い出せない剛。
勤務先の美容室の店長の子を宿し、シングルマザーとして生きることを決めた優子。
いつしかバラバラになってしまった家族が、ギクシャクしながら、
大好きだった母の洗骨に臨むのですが…。

ミイラ化した肉親の遺体を洗う。怖いくらいの風習ですが、
二度の別れを経験することで、命の継承に感謝し、弔うことの本来の意味を知ると言います。
衛生的観点からも、洗骨が残っているのは、離島でもわずかな地域だけだそうですが、
ガレッジセールのゴリが、本名で、真面目に、時にユーモラスに、家族の再生を描いています。
彼にこんな才能があったのかと、新たな魅力も感じてみて下さい。☆3つ。
「洗骨」公式サイト



『小さな独裁者』は、実話に基づくストーリー。

1945年、敗戦濃厚のドイツ。
脱走兵のヴィリーは、乗り捨てられた軍用車両を発見。
スーツケースの中からナチスの将校の軍服を見つけます。
ヴィリーが軍服に袖を通すと、そこに部隊とはぐれたと言う上等兵が近づき、
「お供させて下さい」と申し出るんですね。
すっかり大尉になりすましたヴィリーは、次々と部下を増やし、
自らの名前を冠した“ヘロルト親衛隊”を結成。
架空の任務を作り、堂々と進軍を始めます。
荒野に建てられた粗末な戦犯収容所に着いた時、ヴィリーの行動はいよいよエスカレート。
独断で、残忍な処刑を推し進めたのでした…。

ヴィリー・ヘロルトは実在の人物。
実際に80人もの兵士を従えていたというヴィリーは、
巧みな嘘と、堂々たる態度で大尉になりすましていたと言います。
ロベルト・シュヴェンケ監督は、「彼らは私たちだ。私たちは彼らだ。過去は現在なのだ。」と。
権力とは何か、人間の残虐性、嘘と真実など、様々な要素が入り組んでいて、
形こそ違えど、現代社会でも起こり得ることだと警鐘を鳴らします。
ドイツの“ネオナチ”然り、日本の“なりすまし詐欺”なども、視点を変えればそうかもしれません。
エンドロールまで、席が立てない1本です。☆3つ。
「小さな独裁者」公式サイト



『山(モンテ)』は、イランの巨匠、アミール・ナデリ監督作品。

南アルプスの麓にある小さな村に、アゴスティーノは、妻と息子と3人で暮らしていました。
ところが、この村では、太陽を大きな山が遮り、農作物が育ちづらかったのです。
人々は次々と土地を捨てて、村を出て行きます。
それでもアゴスティーノは、この村から離れようとしませんでした。
なぜなら、先祖はもちろん、亡くなった娘の墓があるから。
周囲の村に住む人からも異端児扱いされるアゴスティーノ。
遂には、家族まで離れ離れに引き離されてしまいます。
アゴスティーノは決意します。山に戦いを挑むことを…。

「肉体を過剰に酷使しながら、孤立無援の人間の限界突破を描く」
のがアミール・ナデリ監督のスタイルだそう。
そう聞くと、なるほどそのスタイルを貫いた作品だなと。
山はこの世で最も力強いもののシンボル。
そこに、神にも自然にも、人からも見放されたひとりの男が挑むという、哲学的な作品です。
イラン映画はあまり見ませんが、特にこの作品は、商業的目線で評価するものではないのかもしれません。
ただ、巨匠の作品と言えども、感想は自分の心に忠実に。☆2つ。
「フロントランナー」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.2.1

『七つの会議』☆☆☆☆
『バーニング 劇場版』☆☆☆☆
『フロントランナー』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


今、試写の会場での咳がすごく…。
風邪やインフルエンザをもらわないためには、自己防衛しかないですよね。
普段マスクはしないのですが、さすがに無防備ではダメだなと。
まだまだ寒さと乾燥は続きます。お互い、気をつけましょう。
さ、今週は3本です!


『七つの会議』は、池井戸潤原作の企業サスペンス。

巨大企業ゼノックスの子会社である東京建電。
営業部長の北川は、社内の絶対権力者。
課長の坂戸率いる営業一課がノルマを達成し続けているのに対し、
原島課長の営業二課は一向に成績が上がらず。
今日も北川から厳しい叱責を受けていました。
そんな中、一課の万年ぐうたら社員の八角は、あくまでマイペース。
昔は敏腕営業マンだったのが、今では課のお荷物社員となっていました。
坂戸からキツい言葉をぶつけられる八角。
「いくらなんでも、それはパワハラだろう」と、八角は坂戸のハラスメントを訴えます。
デキる課長とぐうたら社員のどちらの主張を取るかは、火を見るより明らか。
なのに会社は、坂戸を左遷したのです。
騒然となる社内。
坂戸の後任として一課の課長に就いたのは、なんとダメ課長だった原島でした。
「八角さんは一体何者なんだ。この会社は何かを隠している」。
原島は、寿退社を控えた一課のOLの浜本と共に、東京建電の謎を探り始めるのですが…。

ボクが中山競馬場のイベントで、この映画の出演者のひとり、
木下ほうかさんとトークショーを行った作品です。主演は野村萬斎。
『半沢直樹』、『陸王』、『下町ロケット』などに出演した
“池井戸潤ファミリー”が総出で脇を固めます。
つまり、紹介したあらすじは、ほんの触りの部分だということ。
その豪華出演陣が小出しで出てくる豪華さ。TBS制作ですからね。
『オールスター感謝祭』的なイメージで見るといいかもしれません(笑)。
エンドロールで、最後に八角が語ること。ここに作者の言いたかったすべてがある。
ボクは「なるほど…」と、ストンと腑に落ちました。
池井戸作品、お得意のパターンではありますが、そこにはTBSの『水戸黄門』にも似た、
安定の面白さがあるのです。☆4つ。
「七つの会議」公式サイト



『バーニング 劇場版』は、
村上春樹の1983年の短編小説「納屋を焼く」を現代韓国風にアレンジした映画。

運送会社のアルバイトをしているジョンス。
ある日のこと、デパートの店頭で売り子をしている女性に声を掛けられます。
彼女はヘミ。実はジョンスの幼なじみでした。
昔話に花が咲き、仲良くなるふたり。
ヘミは夢だったアフリカ旅行に行く間、飼い猫の世話をジョンスに依頼します。
快く引き受けたジョンスは、餌やりのため、毎日ヘミの部屋を訪れるのですが、
一度もその猫を見たことがありません。
見知らぬ男性と一緒に帰国したヘミ。彼の名はベン。
ケニアのナイロビ空港で知り合ったというふたりの親密さに、心がざわつくジョンス。
ベンは高級車に乗り、オシャレな部屋に住むセレブな男性。
両親が不在となり、牛舎で牛の世話をしながら小説家を目指すジョンスとは、
生きる世界が違う気がしていましたが、ヘミを介し、よく3人で会うことに。
ところが、ある日を境に、ヘミが忽然と姿を消してしまったのです…。

見ている間、ずーっとモヤモヤしたものが覆っているような空気感。
ミステリー映画のような、青春映画のような。
いい意味でわかりづらいんです。
例えば、猫。本当にいるのか、本当はいないのか。
ヘミに起こっているはずの出来事も然り。
何が起きているのかを、ジョンスと同じぐらい知りたくなります。
その真相を探し、暴こうとするジョンス。
この映画には、韓国の今の若者の経済格差もひとつの要素として描かれているそう。
日本も同様と言えば同様なんですけどね。
2時間23分の作品。モヤモヤした霧のようなものが晴れるか、否かは、
散りばめられたヒントをもとに、時間内にパズルを組み立てられるかどうかでしょう。☆4つ。
「バーニング 劇場版」公式サイト



『フロントランナー』は、実在の元政治家を描いたストーリー。

コロラド州選出の上院議員、ゲイリー・ハート。
彼は若き天才政治家として、“ジョン・F・ケネディ”の再来とまで言われ、
1988年、史上最年少の46歳で、民主党の大統領候補となります。
大統領予備選の最有力候補に躍り出たハート議員でしたが、
マイアミ・ヘラルド紙のスクープで、情勢は一変してしまうんですね。
それは政治部記者への1本の電話からでした。
「ハート議員が私の友達と浮気をしていて、週末にはワシントンで密会する」と言うのです。
記者が把握していたハート議員の週末のスケジュールは、ケンタッキーでのダービー観戦。
ところが、直前で予定を変更し、ワシントンへと向かうことを知ります。
ハート議員を追って撮ったスキャンダル写真。
これがアメリカの歴史をも変えてしまうことになるのでした…。

タイトルの『フロントランナー』というのは、“最有力候補”という意味なんですね。
実在の、それも存命の人物のスキャンダルを映画化するとは、アメリカって凄いなと。
大統領選挙から撤退し、議員を辞めて以降も、
ゲイリー・ハート氏はアメリカの国防や国際関係における最重要人物として、
様々な要職に就いているんですね。
この天才政治家が大統領になっていたら、アメリカは変わっていた。
そう言われるほどの人物だそう。
政治家に求められるのは、政治の能力なのか、パーソナルな人格なのか。
もちろん両方備わっていればいいのでしょうが、マスコミのあら探しが、
真の政治家を潰してしまっているという声もあるようで。
ジャーナリストの在り方や、政治家評にも一石を投じた作品。
ヒュー・ジャックマン主演作ですが、商業的な映画ではないというか
、正直、ドメスティックなアメリカ国内向けの1本だと感じました。
ただ、アメリカは、日本の最も大事な友好国ですから、
知っておいて損はないと思いますけど。☆3つ。
「フロントランナー」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.1.24

『あした世界が終わるとしても』☆☆☆
『がっこうぐらし!』☆☆☆
『二階堂家物語』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


遅ればせながら、映画『ボヘミアン・ラプソディ』を見てきました。
ボクはラジオ・パーソナリティですから、
「RADIO GA GA」が流れて来た時には、ぐっと来ちゃいました。
大ヒットするのも納得です。素晴らしい作品でした。
でも、同じぐらい感動を与えてくれる映画は、世の中にたくさんあります。
ただ話題にならず、あまり人目につかないまま、ひっそりと上映が終わってしまうだけ。
そんな作品に、このコラムで光を当てられたらいいなと、改めて感じました。
微力ながら、頑張ります。
さ、今週は3本です!



『あした世界が終わるとしても』は、オリジナルストーリーのアニメ映画。

狭間 真は高校生。幼い頃に母を突然死で亡くし、父は研究所勤めでほとんど家に帰らず。
そんな孤独な真を、幼なじみの琴莉はずっと気にかけ、見守ってきたのです。
高校三年生の秋、初めて琴莉をデートに誘った真。「好きだ」と告げようとしたその瞬間、
琴莉の携帯が鳴ります。真の父が亡くなったという知らせでした。
死因は母と同じ突然死。社会問題化するほど、突然死は増えていたのです。
すると、そこに真にそっくりなジンという男子が突然現れて、こう言ったのです。
「俺はお前だ。お前は俺が守る」。
実は、この世界と相対するもうひとつの世界があって、そこに相対する人物がいると。
どちらかが死ぬと、もう一方の世界の自分も命を落とすと言うのです。
ジンが生きるのは日本公民共和国。コトコという絶対的独裁者が君臨し、真の母も父も、
相対する人物がコトコによって処刑されたから死んだと話すジン。
逆にジンはこちらの世界に来て、コトコと相対する人物を抹殺することによって、
絶対君主のコトコを消すことができると考えたのです。
そのコトコと相対する人物こそ、琴莉だったのです…。

監督、脚本は櫻木優平。
発想が面白いですよね。相対する自分から琴莉を守ろうとする真。
つまり、ある種の矛盾を抱えているわけです。
ちょっと変わったSF恋愛映画かと思って見ていたら、戦闘アニメの要素も出てきて。
資料に“アクション・ラブストーリー”とあった意味がわかったけど、
戦闘シーンが出てきた途端に「んっ?」と。
どっちがメインなんだかわからなくなっちゃったというのが正直な感想です。
アニメファンにはWで楽しめるという感覚なのでしょうか?
感想を聞きたいところです。☆3つ。
「あした世界が終わるとしても」公式サイト



『がっこうぐらし!』は、人気コミックの実写映画化。

私立巡ヶ丘学院高等学校には、学園生活部というクラブがありました。
屋上菜園で自給自足しながら、学校で24時間共同生活を送るという、
女子ばかりのクラブで、部長はりーさん。
他にくるみとゆきがいて、この3人は3年生。さらに2年生のみーくんがいます。
顧問は保健のめぐねえ先生。
一見、普通の高校生活を満喫している女子高生たちですが、この学校、何かが違います。
割れたガラスの破片、血塗られた黒板、そして中庭には“やつら”がいたのです…。

原作は単行本が10巻まで出ていて、250万部を超える人気作だそう。
TVアニメ化もされ、今回、実写映画化と相成りました。
女子高生たちを演じるのは、秋元康プロデュースの“ラストアイドル”たち。
メンバー内オーディションで、4名が選ばれました。
アニメ+アイドルの学園サバイバル映画。こちらもターゲットは絞られている気がします。
原作があるので、言ってもネタバレにはならないでしょう(笑)。
いわゆる“ゾンビもの”です。お好きな人は是非どうぞ!☆3つ。
「がっこうぐらし!」公式サイト



『二階堂家物語』は、イラン人の女性監督作品。

奈良県天理市にある父の種苗会社を継いだ、二階堂辰也。大きな旧家に暮らす、町の名士です。
病気の母ハルと、年頃の娘由子との3人暮らしですが、実は幼い息子を亡くしていました。
それが原因で妻とは離婚。二階堂家には跡取りがいません。
ハルはそれを憂慮し、自分の推す女性と辰也を再婚させようと画策するのですが、
辰也には別に気になる女性がいました。秘書の沙羅です。
沙羅はシングルマザー。
社長の辰也に好意を寄せてはいましたが、もう子供が産めない体であることを告げると、
会社を辞めてしまいます。
由子に婿を取るしかないと考えたハルでしたが、由子には既に意中の恋人が。
その男性が婿養子として二階堂家に入ってくれるかと期待したのですが、
由子が連れてきたのは意外な人物だったのです…。

監督はアイダ・パナハンデ。イラン人女性です。
また、エグゼクティブ・プロデューサーとして河瀬直美の名前があります。
代々続く、名家の家系が途切れそうになる。さぁ、どうする?という話なんですが、
パナハンデ監督が日本の“婿養子”という言葉に着想を得たと言います。
辰也と由子、そしてハル。恋愛も思惑も、みんなバラバラな訳で。
本当なら自分の好きなように生きたいけれど、“二階堂の家”があるから、そうはいかない葛藤がある。
ご近所さんをも巻き込んだ、日本の家の問題を、
イラン人女性監督が描いているというのが興味深いところ。
“選択”はあっても、“正解”はないのかも。
もし自分ならどうする?という目線で見ると面白いかもしれませんね。☆3つ。
「二階堂家物語」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.1.18

『映画めんたいぴりり』☆☆☆☆☆
『バハールの涙』☆☆☆☆☆
『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


先日試写会で、映画が始まるや、隣りの人が睡眠開始。
終わる少し前に起きたようでしたが、上映後に宣伝マンに感想を聞かれて、
「いやぁ、ラストがホント」って、そこしか見てなかったじゃん!
と思ったらおかしくておかしくて(笑)。
ま、たま〜にボクもありますからね。ミントを口に入れても、
太ももをツネっても、どうにも睡魔から逃れられないこと。
著名な評論家さんは、必ず感想を聞かれるから大変です。
さ、今週は3本です!


『映画めんたいぴりり』は、日本で初めて明太子を製造、販売した
「ふくや」の創業者をモデルにした感動物語。

博多の中洲で小さな食料品店「ふくのや」を経営する海野俊之。
妻と2人の子どもを持つ俊之でしたが、バカが付くほどのお人好しで、お節介焼き。
そんな俊之は、戦前日本の統治下にあった、韓国・釜山の生まれ。
“明卵漬”という思い出の味にヒントを得て、
自ら考案した明太子作りに精を出していたのですが、
なかなか満足のいく味が出せません。
まだ貧しかった町には、いろんな境遇の人が暮らしていました。
両親を亡くし、親戚と暮らす、息子の小学校の同級生の英子。
無断で「ふくのや」の真似をして、明太子を作って売っていた石毛。
遠足のリュックと靴が買えずにいた英子には、
名乗ることなく“あしながおじさん”としてそれらを買い与え、
石毛には「明太子はただの惣菜。一緒に明太子を広めていこう」とレシピを教え。
「うちの明太子を食べる人は、みんな幸せになる」と、胸を張っていた俊之でしたが、
あまりに厳しい現実の連続に、心が折れそうになるのでした…。

「ふくや」の創業者、川原俊夫をモデルにした作品で、
テレビ西日本制作の連続ドラマとしてスタート。
好評につき、続編なども作られ、遂に待望の映画化となりました。
俊之には博多華丸、妻の千代子には富田靖子。
どちらも福岡出身で、監督も福岡を拠点とする江口カン。
俊之は本当にお人好しで、困ってる人を見ると放っておけないタチ。
家に上げて食事をふるまうなんて序の口で、“博多祇園山笠”の運営がピンチと知るや、
店の儲けのすべてを寄付しちゃうほど。でも言うんですよ。
「引き揚げ者だった自分たちを優しく受け入れてくれた福岡の人たちへの恩返したい」と。
もちろん、フィクションの部分も多々あります。
でも、ボロボロの服を着て、ボロボロの靴を履く英子への接し方とか、
もうちょっとした場面で泣けてきちゃいます。昭和って、そんな時代だったんだよなぁ。
ボクはお付き合いもあって、正直明太子は『やまや』さんなんですが(笑)、
俊夫さん(劇中は俊之)の考え方で言えば、明太子が食卓を賑わすなら、
メーカーはどこでもOKですよね(笑)。
その代わりと言っちゃなんですが、☆は満点で!☆5つ。
「映画めんたいぴりり」公式サイト



『バハールの涙』は、事実に基づくストーリー。

夫と息子と幸せに暮らしていた、女性弁護士のバハールでしたが、
クルド人自治区に住む家族のもとに帰省した時に、
IS(イスラミックステート)の襲撃を受けます。
男性は殺され、女性と少女は“性奴隷”に。
少年は戦闘員養成の施設に入れられてしまいます。
バハールも夫を殺害され、息子と引き離されましたが、
再会を誓うことで、屈辱の日々を生き抜きます。
ある日のこと、TVでクルド人自治区の女性代議士、
ダリア・サイードのインタビューを目にしたバハール。
「必ず助け出すから、なんとか私に電話して」と、ダリアは強く訴えていました。
バハールは命がけでダリアに電話をかけ、ISの施設からの脱走に成功します。
バハールは、息子を救い出したい一心で、戦うことを決意。
女性戦闘員で構成された“太陽の女たち”に参加するのでした…。

2018年のノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラドが、自らも性暴力の被害者として、
女性の救済を訴え続けていたのも、記憶に新しいと思います。
この映画も実際に起きたISによる大量虐殺に着想を得た作品。
実はこの映画にはもうひとりの主役が。片眼の女性ジャーナリスト、マチルドです。
彼女もまたジャーナリストの夫を紛争地で亡くし、自身も片眼を失ない、
愛する娘を国に残しての戦争取材。
強い信念と使命感が、マチルドを戦地へと赴かせていたのです。
そんなマチルドがバハールと出会う。立場は違えど、似た境遇に心を通わせるふたり。
バハールは部隊の隊長になり、女性戦士を率います。
実際にたくさん組織されている女性戦闘員部隊。
イスラムの教えには「女性に殺されたら天国には行けない」
という定義があるようで、これが強い武器にもなっているそう。
バハールの人物像は、エヴァ・ウッソン監督が自ら取材した
クルド人自治区の女性戦闘員たちの実体験から出来上がったそう。
マチルドのモデルは、実在の片眼の女性ジャーナリスト、メリー・コルヴィンと、
ヘミングウェイの3番目の妻で従軍記者だったマーサ・ゲルホーン。
平和な日本にいると、まったくわからない過酷な現実が、
世界にはあるんだというのを知る1本です。☆5つ。
「バハールの涙」公式サイト



『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』は、
ラブホテルを舞台にした密室群像劇。

歌舞伎町のラブホテル。
刑事の間宮は、勤務中にもかかわらず、デリヘル嬢の麗華を指名。
その行為を録画しようと、こっそりビデオカメラをセットします。
間宮は麗華に弱みを握られていて、横領した金を貢いでいました。
そこに、間宮の妻で、婦人警官の詩織が突然の乱入。
デリヘル嬢そっちのけで始まる夫婦喧嘩。
すると、ヤケになった間宮が麗華を銃で射殺してしまいます。
死体の処理に呼ばれたのは、間宮が弱みを握っているヤクの売人ウォン。
遂には、麗華が時間になっても戻らないのを不審に思った
デリヘルのマネージャー小宮がやってきたのです…。

監督、脚本は自らも俳優の宅間孝行。まるで舞台を見ているような映画で、
設定が設定だけによく考えたなぁと思うストーリーです。
次から次へと、関係性と優位性が変わるので、着いていくのが少々大変(笑)。
前に戻って整理しようとすると、逆に置いていかれちゃうからご注意を。
騙し、騙され。それは見ている観客も然り。
映画館の灯りがつくまで、席を立たずにスクリーンに注目していて下さい。
絶対ですョ!☆3つ。
「LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.1.11

『君から目が離せない〜Eyes on you〜』☆☆☆☆
『緊急検証!THE MOVIE ネッシーvsノストラダムスvsユリ・ゲラー』☆☆
『蜘蛛の巣を払う女』☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


年が明けてすぐに来る3連休。休みボケが抜けたと思ったら、またですもんね(笑)。
感性が鈍らないよう、映画で刺激をいっぱいもらってはいかがですか?
さ、今週は3本です!



『君から目が離せない〜Eyes on you〜』は、
山崎まさよし初主演作『月とキャベツ』の続編的映画。

売れない劇団員の健太。
ヨガ教室のティッシュ配りのアルバイトをしていたのですが、その教室の、年上の女性講師に一目惚れ。
健太はヨガ教室に入会します。
彼女の名前は麻耶。思い切ってデートに誘うと、一緒に食事には来てくれるものの、そこから先には進めず。
実は、麻耶にはある事情があったのです。
劇団から人気俳優になった廣畑が、麻耶が女優だったことを知っていて、
健太に彼女の出演作、『惑星とレタス』を見せるんですね。
麻耶を劇団の次回作に出演するように誘う健太。
了承し、舞台に上がった麻耶でしたが、突然「ふたりで会うのはもう辞めよう」と健太に告げます。
千秋楽の舞台で、よろけた麻耶を助けようと、自らが怪我を負ってしまう健太。
入院先の病院で、眠り続ける健太の脇にずっと付き添っていた麻耶でしたが、
健太が目覚めると麻耶の姿はありませんでした。
健太は麻耶を探しに、麻耶の故郷へと向かったのでした…。

篠原哲雄監督、山崎まさよし主演作の『月とキャベツ』。
1996年の公開ですから、もう22年も前の作品。
でも、今も群馬県の中之条町で行われている“伊参映画祭”では第1回から上映されていて、
昨年秋で18年連続上映という人気作なんです。
ちなみにボクも出てるんですョ。冒頭のカーステレオから流れてくるDJの声。
篠原哲雄監督がボクに出番を作ってくれました。
エンドロールに名前を見つけた時は、メチャメチャうれしかったです!
その『月とキャベツ』のスタッフが集結。
主演は当時のヒロイン役だった真田麻垂美と、新人の秋沢健太朗。監督はもちろん、篠原哲雄。
さらにすごいのが、何と、あの山崎まさよしがこの映画のために新曲を書き下ろしてくれたという!
きっと彼にとっても特別な映画だったということなのでしょう。
“続編的”とは言いましたが、ストーリーが完璧に繋がってる訳ではなく。
ただ、『月とキャベツ』を知っていると、「ん?もしかして…」と遊び心を感じることが出来るかも。
なんたって、『惑星とレタス』ですから(笑)。
1月12日からシネマート新宿にて、2週間限定のロードショーです。お見逃しなく!☆4つ。
「君から目が離せない〜Eyes on you〜」公式サイト



『緊急検証!THE MOVIE ネッシーvsノストラダムスvsユリ・ゲラー』は、
CS放送で人気のオカルト番組の映画版。

昭和から平成にかけて、様々なオカルトが世間を駆け巡りました。
中でも、代表的な3つのテーマについて、それぞれを得意分野とするオカルト研究家が、
これまで以上の情報を収集して、披露。
ネッシーはいるのか?ノストラダムスの大予言とは一体?
スプーン曲げにトリックはなかったのか?ユリ・ゲラーを超える超能力者は存在するのか?
あまり語っちゃうと、ネタバレになっちゃうから、こんなところで止めておきますが、
ごめんなさい、あまり真新しい感じはしなかったかなぁ…。
ただ、試写会場の映写機が壊れて、開始時刻が大幅に遅れたのですが、
別の試写会でもトラブル続発だったとか。
宣伝の担当氏は「きっと何かの陰謀だと…」。うまいっ。
ボクの☆の数が少ないのも、もしかすると何かの陰謀かも(笑)。☆2つ。
「緊急検証!THE MOVIE ネッシーvsノストラダムスvsユリ・ゲラー」公式サイト



『蜘蛛の巣を払う女』は、『ドラゴン・タトゥーの女』シリーズ最新作。

背中にドラゴンのタトゥーを入れた天才ハッカー、リスベット・サランデル。
新たな仕事は、世界的権威である科学者からの依頼。
彼が開発した、世界中の防衛システムにアクセスし、
核攻撃プログラムを操れるソフトウェア“ファイヤーフォール”を自ら破壊するため、
アメリカの国家安全保障局(NSA)から取り戻したいというものでした。
リスベットはNSAのシステムに侵入し、暗号を盗み出すことに成功するのですが、
一連の行動を事前に察知していた闇の組織“スパイダーズ”に襲われ、
リスベットは暗号データを盗まれてしまうんですね。
そして彼女は衝撃の事実を知ることになります。
“スパイダーズ”の首領は、なんとリスベットの双子の妹、カミラだったのです…。

デヴィッド・フィンチャー監督の『ドラゴン・タトゥーの女』から3年後のストーリー。
それが『蜘蛛の巣を払う女』。
今回、デヴィッド・フィンチャーは製作総指揮に回り、フェデ・アルバレス監督がメガホンを取りました。
主演女優もクレア・フォイに代わり、物語はリスベットの少女時代から始まります。
忌まわしい過去。父親の裏の顔。双子の妹は死んだと話すリスベット。
今作では、なぜこんなクールなキャラクターが出来上がったのかという背景を知ることが出来ます。
残忍なのにスタイリッシュ。
現代社会に実在したら、間違いなく女性の心強い味方になっていることでしょうね。
リスベットの黒に対し、妹カミラの鮮烈な赤が脳裏に突き刺さります。
楽しめると思います!☆4つ。
「蜘蛛の巣を払う女」公式サイト

 
 



 
 
週末公開の映画……2019.1.4

『迫り来る嵐』☆☆☆☆
『ホイットニー〜オールウェイズ・ラヴ・ユー〜』☆☆☆☆☆
(満点は☆☆☆☆☆)


新年あけましておめでとうございます。
年始にあたり、昨年2018年の、個人的なベスト3作品を発表したいと思います。

『さよならの朝に約束の花を飾ろう』
『ゆずりは』
『あいあい傘』

順不同です。アニメもありますが、どれも家族の物語。すっごく泣ける映画たちです。
たぶん、父の入院、高齢の母の姿など、自分の日常に重なる部分が大きいのかなとも思います。
でも、映画の見方って、ボクはそれでいいと思ってるんですね。
かけられたお金や、人の評価に惑わされることなく、自分がいいと思ったら、
胸を張って「いい映画だったなぁ」と。
このコラムも、そんな映画との出逢いのきっかけになればと思ってます。
今年もご愛読よろしくお願いします!
さ、今週は2本です!



『迫り来る嵐』は、中国映画。

とある地方の町に立ち並ぶ、古い国営製鋼所。
ユィはこの製鋼所の保安部の警備員として働いていました。
実は最近、このあたりで若い女性の連続殺人事件が起きていて、
ユィは自分が犯人を捕まえてやろうと、刑事でもないのに捜査に首を突っ込むんですね。
土砂降りの雨の日のこと。張り込み中のユィは、犯人と思しき不審な男を発見し、
追いかけるのですが、あと一歩のところで男を取り逃がしてしまいます。
その際、ユィを師匠と慕っていた部下を亡くしてしまいます。自責の念にかられるユィ。
しかし、その後も続く殺人事件。
ユィは自分の恋人をも巻き込み、取り憑かれたように捜査を続けるのでした…。

独特の、暗く、じめっとしたトーンに覆われた作品です。
舞台は1997年。香港の返還も近づき、国全体が経済発展に舵を切り始めた中国。
ここでは、置いていかれそうな地方都市の閉塞感が全体を覆っていて、
それがずーっと降り続く雨にも表れていると。
そんな中、ひとりの警備員が刑事気取りで連続猟奇殺人の犯人探しに躍起になる。
その行動はエスカレートしていき、様々な悲劇を巻き起こしてしまいます。
ユィが追いかけていたのは何だったのか。
最後まで気持ちの晴れない映画ですが、それこそがこの映画の“答え”なのかもしれません。
監督は、これが長編デビューとなるドン・ユエ。
ま、見てみて下さい。言葉ではその良さを言い表しづらいのですが、
あちこちに散りばめられた伏線や仕掛けに気付くと面白さが増す、
社会派のサスペンス映画と言ってもいいでしょう。☆4つ。
「迫り来る嵐」公式サイト



『ホイットニー〜オールウェイズ・ラヴ・ユー〜』は、
一時代を築いた歌姫の生涯を追った、ドキュメンタリー映画。

1963年、ニュージャージー州ニューアークに生まれたホイットニー・ヒューストン。
母はソウル・シンガーのシシー・ヒューストン、
叔母も人気歌手だったディオンヌ・ワーウィック、ディー・ディー・ワーウィック。
そんな環境に生まれ育ったホイットニーが歌に親しんでいくのは当然のことで、
11歳の時に聖歌隊に入隊。
神に与えられたその声は、1985年のデビュー・アルバム『そよ風の贈りもの』で
世界中から絶賛を浴び、シングルは7曲連続で全米チャートの1位に。
一躍トップスターの座に登り詰めたホイットニーは、その後もヒット曲を連発。
1992年には、当時人気歌手だったボビー・ブラウンと結婚。
愛娘も誕生し、幸せの絶頂にいたのですが…。
夫婦の間にできた深い溝、そして離婚。実父との訴訟問題。
深刻な薬物依存。娘の死。
そしてホイットニー自身も、2012年2月11日にホテルの浴槽で、遺体となって発見されます。
48歳の若さでした。
大量の資料を集め、入念な取材を積み重ねたことがよくわかる内容で、
ファンにとってはショッキングな事実を知ることにもなります。
一方で、彼女の人柄や優しい素顔も垣間見え、
スキャンダラスな部分だけがクローズアップされた晩年を、きっと理解することができると思います。
“運命のいたずら”とでも言うのでしょうか。
良かれと思った行動が、裏目、裏目に出る。人生のプラスとマイナスの振れ幅が一緒だとしたら、
成功もほどほどでいいかなとも思ってしまうほど、
スーパースターならではの逃れられない苦しみが、
彼女を追い詰めていたのは間違いありません。
肉親や元夫など、身近な人々も登場し、よく出来たドキュメンタリー映画です。満点!☆5つ。
「ホイットニー〜オールウェイズ・ラヴ・ユー〜」公式サイト