Pick Up Movie!……2023.3.24
『雑魚どもよ、大志を抱け』★★★
『マッシブ・タレント』★★★
(満点は★★★★★)


来週末公開の映画で、観た試写は1本もなく。
従いまして、次回更新は1週空いて、4月5、6日あたりになります。
先にお知らせしておきますね。
さぁ、今週は2本です!


『雑魚どもよ、大志を抱け』は、7人の小学生が織り成す友情物語。

とある地方の町に暮らす小学生の瞬は、両親と妹との4人暮らし。
中学受験のために塾に入れられるのが今の最大の悩みでしたが、それでも親の目を盗み、今日もリーダー格の隆造と、仲良しの元太と太郎と、自転車を飛ばして遊びに行ってしまいます。
そんな彼らの小学校には、明が率いるもうひとつの派閥があり、隆造グループとはバチバチの関係に。
結局、塾に行かされることになった瞬は、そこで聡という同級生と仲良くなります。
聡の夢は映画監督。ところが、聡は明のグループからイジメにあっていて、お金を巻き上げられていたのです。
その現場を見てしまった瞬と元太。
「誰にも言わないで」と言う聡の言葉に、瞬の心は揺れるのですが…。

この映画には『弱虫日記』という原作小説があります。瞬も決して強くなんかない男の子。
7人の小学生たちは、みんな様々な問題を抱えて生きています。
隆造の父は人を殺した過去があるヤクザで、母とは別居。
元太の母は新興宗教にはまっていて、太郎の家族は母も姉もヤンキー。
聡はいじめられていますが、いじめる側の明にも中学生のヤバい先輩がいて、恐喝したお金はその先輩への上納金です。
瞬の母親にも、乳がんが見つかります。
小さな心は、それぞれの悩みでパンパンになっていますが、やんちゃで無邪気な仲間との友情が、それを忘れさせてくれていたんですね。
あの頃はそうだったなぁ。
でも、大人になると、人生“忘れる”だけじゃ済まなくなってくるからね。
あなたもきっと、自分の小学生時代を思い出すはず。駄菓子屋のおばちゃんって、子ども相手の商売なのに、なんであんなに怖かったんだろとかね(笑)。
映画『スタンド・バイ・ミー』よろしく、線路が出てきます。そう、人生は続くのさ。
長回しの撮影に頑張った、役者くんたちに拍手です。★3つ。
『雑魚どもよ、大志を抱け』公式サイト


『マッシブ・タレント』は、ニコラス・ケイジ主演のアクション・コメディ。

ニック・ケイジは、落ち目のハリウッド・スター。
望む役などやれるはずもなく、とはいえビッグネーム。関係者にとっても扱いづらい存在です。
プライベートでは妻子とも別れ、借金まで抱え、悲嘆に暮れる日々を送っていました。
そんな時、エージェントから仕事のオファーが舞い込みます。
それは、スペインに住む大富豪の誕生日パーティーに出席すれば、それだけで100万ドルのギャラが出るというもの。
プライドが許さず、気乗りはしなかったものの、背に腹は変えられないと受諾し、スペインに向かうニック。
迎えたのはハピという男で、ニックの大ファンだというハピは、彼の来訪に大興奮の様子。
初めは心を開かなかったニックでしたが、自身の映画の話で盛り上がると、次第にふたりの距離は縮まっていきます。
そんな時、CIAの捜査官がニックに接近。ハピは国際的犯罪組織を束ねるトップで、逮捕のための潜入捜査に力を貸してくれないかと言うのです…。

ネタバレにつながりそうだから詳しくは書けないのですが、若干ややこしいのは、フィクションは当然ですが、ニック・ケイジはニコラス・ケイジなのかというところ。
設定は、ほぼほぼ等身大のニコラスみたいで、事実、ハリウッドでは興行的失敗が続いたためにオファーは無くなり、多額の借金も抱えていたと。それでも精力的に頑張って借金を完済したところに、この作品の話が来たと解説にはありました。
なんて自虐的…(笑)。
それでもこの映画は評論家やファンに絶賛され、世界中でスマッシュ・ヒットを記録しているそうです。
ハピの豪邸には、ニックの資料館みたいなものがあって、買い集めたニック・グッズがズラリ。細部に渡り、“ニコラス愛”に包まれているあたり、製作陣もニコラス好きなんだろうなと。
ストーリーの軸が二転三転。ファンは必見の1本ですが、詳しくなくても十分楽しめますョ。★3つ。
『マッシブ・タレント』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.3.17
『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』★★★★
『The Son 息子』★★★★★
『死体の人』★★★
『ハンサン 龍の出現』★★★
『赦し』★★★★
『妖怪の孫』★★★★★
『零落』★★★★
(満点は★★★★★)


今週は面白い映画が目白押し。★4つは、すべて満点でもいいくらい。さらに、★3つでも見応え十分の作品ばかり。
期待して、映画館にどうぞ!
ご存知の方もいると思いますが、ボクはこの文章をガラ携で打って、スマホに送って、ブログとしてUPする。今回は6時間ぐらいを費やしました。
その作業に、ボクのHPを管理してくれている友人は、「ホント尊敬します」と。あまりのアナログさに半ば呆れ顔(^^;
頑張って打ったので、読んでみて下さいね(笑)。
さぁ、今週は7本です!


『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』は、伝説のファッション・ジャーナリストの生涯を追ったドキュメンタリー。

1948年、まだ人種差別が残るアメリカ南部で幼少期を過ごした、アンドレ・レオン・タリー。
大柄で、“ゲイの猿(キングコング)”と揶揄されたこともあるけれど、「中傷には慣れっこ」と語る彼は、アフリカ系アメリカ人として初めてVOGUEのクリエイティブ・ディレクターに就任した、ファッション界のレジェンドです。
誇りと品格を持って生きることを祖母から教わり、それを実践したアンドレ。作年2022年1月18日に逝去した彼の73年の人生を、映像とインタビューで綴った伝記映画です。
ウーピー・ゴールドバーグをして、「黒人のイメージと違いすぎる」と言わしめたアンドレは、みんなに愛されたであろうことが容易く想像できるキャラクター。変な言い方ですが、こんな人が近くにいたら、友達になりたいと思っちゃうよねって感じ(笑)。
数々の著名人がアンドレの死を惜しみ、今年のNFLのハーフタイムショーでは、ゲストのリアーナが、アンドレのトレードマークでもあるケープを身にまとってパフォーマンスを披露しています。
VOGUEの編集長、アナ・ウィンターは語ります。「アンドレは皆に冒険する勇気を与えた」と。それはこの映画からも、十分に伝わってきます。
ファッションに疎いボクは、彼の存在を知りませんでした。世界には、魅力的ですごい人がたくさんいるんだと、改めて教えてもらった気がします。★4つ。
『アンドレ・レオン・タリー 美学の追求者』公式サイト


『The Son 息子』は、ある家族の在り方を描いた衝撃作。

ピーターはNYで活動する敏腕弁護士。
前妻のケイトとは離婚していますが、ふたりの間には17歳になる息子のニコラスがいます。
今は、再婚した妻ベスとの間に娘が誕生。仕事に、プライベートに、充実した毎日を送っていました。
そんなある日のこと、別れた妻のベスがやってきて、ニコラスの様子がおかしくて、自分には手に負えないと言うのです。
ニコラスに会いにいくと、息子は「父さんといたい」と言います。しかし、家には生まれたばかりの娘がいて。産後間もないベスに、17歳の少年との同居は重荷すぎます。
それでも、ベスを説得し、ニコラスを受け入れたピーターでしたが、上手くいっていたのは初めのうちだけ。転校したはずの高校にニコラスは通っておらず、ピーターはニコラスを叱りつけます。
ピーターは、ニコラスの発信していたSOSに、気づけずにいたのです…。

監督はフランスの作家で脚本家でもある、フロリアン・ゼレール。初メガホンでもある前作『ファーザー』では、主演のアンソニー・ホプキンスがアカデミー主演男優賞を受賞。脚本賞との2冠に輝いています。
彼の“家族3部作”の第2弾となるのが本作で、主演はヒュー・ジャックマン。
離婚した親を持つ子どもの精神的苦悩、逆に親の子どもに対する接し方、問題に直面した際の対応など、正解がないがゆえに難しい、そんなテーマに挑んだ作品です。
ピーターは、キャリアとしては大成功を収め、富も名誉も手にしていますが、自分中心の性格は、まさに大嫌いだった父そのもの。実は、ピーターもそれを自覚していました。そんな父の役を、アンソニー・ホプキンスが演じるのですが、いやいや、鳥肌が立つほどの、さすがの存在感でした。
観ていて痛々しかったのは、ボクも結婚生活を続けていたら、こんな夫、こんな父親になっていたんじゃないかと、自己分析をしてしまったことですかね。
“父”、“息子”ときて、フロリアン・ゼレール監督には、3部作最後の“母”が控えています。怖いもの見たさに近い、複雑な待ち遠しさがあります。
衝撃のラストシーンが待っています。覚悟して劇場に足を運んで下さい。満点。★5つ。
『The Son 息子』公式サイト


『死体の人』は、ユーモアとペーソスのヒューマン・ドラマ。

売れない役者の吉田広志。
若い頃は、自らが主宰した劇団の中心人物でしたが、演技のリアリティを追求しすぎて役の幅が狭まり、今では死体の役ばかり。
とはいえ、監督にとっては面倒くさいタイプの役者ゆえ、スケジュールはガラ空きだったのです。
ある日のこと、デリヘル嬢を部屋に呼んだ広志。やって来たのは、加奈という若い女性で、加奈もまた人生に問題を抱えていました。
そんな時、広志の父親から連絡が入ります。母が倒れたと言うのです…。

帰宅して発泡酒を飲んでは毒殺の演技を練習し、風呂に入れば溺死の真似をする。
このクソ真面目な性格が、広志の手かせ足かせになっているようで。
そんな広志の人生を変えるような、エポックメイキングな出来事が、加奈との出会いでした。
加奈には、売れないミュージシャンの恋人がいます。金をせびっては酒を飲み、雀荘に入り浸るような男。それでも輝いていた頃の姿が忘れられず、加奈は風俗で働いて、尽くしているのです。
と、書きながら、実はオンラインの不具合で、試写が音声なしでしか観られなかったんですよ。すみません。
最初は実験的な無声映画かと思いました。タイトルが『死体の人』だから、声が出ないのかとも。いや、まじで(笑)。だから、ちゃんと音声のあるもので見直したいですね。
加奈を演じる唐田えりかが、本当に可愛い。音がないのでルックスだけで。下衆な発言ですみません(^^;
「生きることが下手です。死んだふりは上手です」というキャッチフレーズが沁みてくるであろう1本です。★3つ。
『死体の人』公式サイト


『ハンサン 龍の出現』は、韓国映画。

1592年、日本の天下統一を成し遂げた豊臣秀吉が狙うのは、大陸、明への侵攻でした。
日本軍は、まず朝鮮を支配下に置こうと、朝鮮半島に攻め入ると、わずか20日で首都である漢陽を陥落し、王のソンジョを追放すると、反撃に出ようとする5万の朝鮮勤王軍をたった2千の兵力で奇襲。いとも簡単に打ち破ったのです。
そんな破竹の勢いの日本軍の前に立ちはだかったのが、全羅左道水軍の将軍、イ・スンシンでした。
脇坂安治を将とし、釜山浦に拠点を置く日本水軍は、日に日に勢力を増していきます。この侵攻をなんとしても食い止めなければならない。イ・スンシンは策を練るのですが…。

いわゆる、文禄・慶長の役を、今の韓国側から描いた時代劇。
一大バトルエンタテインメントとあるように、史実をどうこうというよりも、艦隊による合戦を、愛国、忠誠はもとより、政治的思惑や互いの間者(スパイ)などの暗躍も絡めて楽しむ娯楽映画になっていると言ってもいいかもしれません。
大ヒットした“VS日本”ものということで、また反日感情が高まったりはしないかと心配するのは、考えすぎでしょうか(笑)。
そんな意味では、日韓武将同士のリスペクトのような部分が、チラッとでも見て取れたのはよかったかなと。
砲弾の射程飛距離が限られているからこその戦術があったり、当時の個性的な戦艦がスクリーン上に再現されたりと、時代を感じさせる海戦もの。そんなアナログ感が、逆に観る人を新鮮に楽しませてくれるかもしれません。★3つ。
『ハンサン 龍の出現』公式サイト


『赦し』は、少年犯罪をテーマにした裁判劇。

7年前、高校生だった福田夏奈は、同級生の樋口恵未を殺害。懲役20年の刑を言い渡され、服役しています。
被害者の父・樋口克は事件以来、アルコールに依存。妻の澄子とは離婚。澄子は、同じく子どもを亡くした親のグループセラピーで知り合った岡崎直樹と新しい暮らしを始めていました。
そんなふたりの元に届いた福田夏奈の再審の通知。
克と澄子は、再び顔を合わせることになります。
少年法を基に、刑の軽減と、それに伴う賠償金を求める弁護士に対し、福田夏奈の真意は別のところにありました。
克と澄子の間にも、考え方の相違がある。
果たして、この裁判の行方とは…。

なかなか強烈でした。
早い段階で、福田夏奈の殺意がなぜ沸き起こったのかが描かれますが、樋口恵未の両親はそのことを知りません。つまり、最初の裁判で、夏奈は動機を話さなかったのでしょう。
絶対に許さないと、復讐の念だけで生きてきた克。一方で、出来ることなら過去を忘れたいと、既に新たな一歩を踏み出している澄子。
亡き娘への愛情は変わらなくても、再審に向かうふたりの思いには大きな違いがありました。
また、獄中で7年を過ごしてきた夏奈も、自分のやってしまったことを省みて、自分の将来についても冷静に捉えていたのです。
殺人に、成人も少年もないとは思いますが、法の解釈は違います。その是非論は避けますが、これも自分事ならどうでしょう。本音と建前は異なりませんか?
本音が克で、建前が澄子。なんて書き方をすると、「いや、澄子も本音だ」と言う人からは違うと叱られてしまうかもしれませんね。正解のない、難しいテーマです。
メガホンをとったのは、日本在住のインド人監督、アンシュル・チョウハン。
重い中にも一筋の光が差すかな…。どうでしょう。夏奈を演じた松浦りょうの演技が光ります。★4つ。
『赦し』公式サイト


『妖怪の孫』は、政治ドキュメンタリー。

凶弾に倒れ、非業の死を遂げた、故安倍晋三元内閣総理大臣。
これは、歴代最長在任期間を誇った、安倍内閣の功罪を描いたドキュメンタリー映画です。
いや、描かれているのは、ほとんどが“罪”のほうですかね。
「安倍自民党は、なぜ選挙に強かったのか」
「アメリカは安倍総理をどう見ていたのか」
「アベノミクスとは」
「安倍晋三氏の生い立ち」
「安倍総理と官僚の関係とは」
「地元選挙区の様子」
「元統一協会との関係」
「憲法をどう思っているのか」
主に、この8つの項目について取材を重ね、闇の部分を明らかにしようとしています。
安倍氏の国葬に並ぶ国民の姿と、それに反対する人々のシュプレヒコールから始まるこの映画、反対が6割ですから、スタートからして日本分断の象徴です。
いつも言いますが、ボクは無思想、無宗教。この手の映画は、プロパガンダとまでは言わないまでも、片側からの主張で描かれることが多く、すべてを鵜呑みにするのは危険です。
ただ、ボクの“人生の師”でもある、音楽評論家の富澤一誠さんがおっしゃっていた「事実はひとつ。でも、真実はひとつではない」。その言葉がまさに当てはまるというか。つまり、起こった事例は事実としてあっても、それをどちらから見るかで、見る人によって“真実”はいくつもあるということなんです。
この映画は、その“真実”のひとつを提示していると思います。それも、なかなか見ることの出来ない側からの提示です。
タイトルの『妖怪の孫』は、安倍晋三氏の母方の祖父、岸信介氏が“昭和の妖怪”と呼ばれたことから。岸氏も相当の人物だったようですね。
地元の人が、安倍晋三氏の父、安倍晋太郎氏は称えますが、晋三氏については「あのバカ息子が」と言う。安倍晋太郎氏の父は反骨の政治家、安倍寛。晋太郎氏は「私は岸信介の娘婿じゃない。安倍寛の息子だ」が口グセだったとか。
実は、岸信介氏も暴漢に刺されているんです。“因果は巡る”、“歴史は繰り返す”。いろんな言葉が浮かびます。
今、高市早苗経済安全保障担当大臣の、総務大臣時代の行政文書問題が取り上げられていますが、映画の中でも、まさに当時の国会答弁があったり、実にタイムリー。
この映画がすごいのは、ラストで監督の決意が示されているところ。身の危険を顧みず、自身のみならず、最愛の娘の顔写真まで出して、日本の将来を憂います。その姿勢に敬意を表さないと。
繰り返しになりますが、盲目的に信じ込むのではなく、ボクらも自身で知って、考えて。自分の“真実”を見つける必要があるんじゃないでしょうか。満点。★5つ。
『妖怪の孫』公式サイト


『零落』は、竹中直人監督、斎藤工主演作品。

深澤薫は漫画家。8年に渡る連載が終了し、今は脱け殻のような状態です。
エゴサーチをすると、連載終盤の内容に対する酷評の数々が。
次回作について打ち合わせをしたいと申し出ても、冷たい対応の担当編集者。
アシスタントに解雇を告げると、溢れ出す不満、そしてパワハラの言いがかり。
売れっ子漫画家の牧浦かりんを担当する、編集者の妻・のぞみはとはすれ違いの毎日。そして離婚の危機。
そんな深澤が、猫のような目をした風俗嬢のちふゆと出会います。
繰り返す逢瀬。どこかクールな彼女との割り切った時間に、深澤は心の安堵を求めるようになるのですが…。

原作は、数多くのヒット作を持つ人気漫画家、浅野いにおの同名漫画。
深澤は、自身の描くものに高い理想と志を抱いています。でも、それは今の世の中が求めているものとは乖離がある。
“元”人気漫画家になってしまったがゆえの苦しさ、葛藤と闘う深澤の姿を描いた作品で、中年と呼ばれる年齢以上になれば、職種の違いこそあれ、誰もが一度は感じる閉塞感なんだろうと。
ボクなんか、まさにそうで、世代交代を痛烈に感じていて、今はもう達観したところがありますが、「違う。違うんだ」とか「なんでわかってくれない」とか、昔の心の叫びが甦ります。
ちふゆだって違うんだよね、深澤さん。
いろんな感情が出ては消え、淡々と進みながら、それでも心を揺さぶられる、そんな映画。ところどころに、監督・竹中直人のカラーをちゃんと感じます。★4つ。
『零落』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.3.10
『有り、触れた、未来』★★★★
『書かれた顔』★★★
『デスNS インフルエンサー監禁事件』★★★
(満点は★★★★★)


日が長くなりました。
なんだか1日そのものが長くなった気になりませんか?
2時間あれば映画が1本観られます。積極的インドア?(笑)。春の感性に刺激を与えましょう!
さぁ、今週は3本です!

『有り、触れた、未来』は、東日本大震災から10年後の宮城県を舞台にした作品。

保育士として働く愛実は、昔、音楽活動をしていたのですが、バンド仲間で恋人の和樹を事故で亡くし、バンドは解散。今は中学校教師の悠二と交際。結婚もあと僅かに迫っていました。
悠二の勤める中学校に通う結莉は、10年前の震災で母と弟を亡くし、漁師だった父の健昭は、それ以来、酒浸りの日々。結莉は父の姿を見るたびに、自分が死ねばよかったと思い詰め、学校にも行かなくなってしまいます。
そんな二人を優しく見守るのが、祖母の文子でした。結莉の三者面談に、父親の代わりとして出席した文子は、県外から来た学年主任の型通りの進言に対し、こう言ったのです。
「みんな、生きてるだけで、十分頑張っているんじゃないでしょうか」…。

このあらすじは、ほんの一部でしかありません。
他にも、健昭が働く工場の同僚で、悠二の兄でもあるボクサーの光一と、支える妻の若菜。
愛実の友だちで劇団員の蒼衣と、リーダーの翔。
蒼衣の劇団が打ち上げで使う居酒屋の店主真治は、愛実の実の父。離婚している母の有美子は、がんを患い余命宣告をされていますが、娘の花嫁姿を見たいと懸命に治療を受けている…。
それ以外にも、たくさんの登場人物がいて、みんな一生懸命に生きています。
監督の言葉に、「人間は支え合い、繋がって生きていく」というのがあります。確かにそれを強く感じる内容です。
原案は、震災の語り部としても活躍している齋藤幸男の著書「生かされて生きる―震災を語り継ぐ―」。
132分の作品。造語である映画のタイトルや、ポスターの印象などから、重い映画なんだろうなとの先入観がありましたが、軽くはないものの、素敵なヒューマンドラマに仕上がっているなと感じました。
3月11日で、東日本大震災から12年。コロナ禍で命を失った人も多い中、すべての今を生きる人たちへの応援歌のような作品です。★4つ。
『有り、触れた、未来』公式サイト


『書かれた顔』は、1990年に作られた映画の4Kレストア版。

日本では1996年に公開された本作は、スイスの映画監督ダニエル・シュミットが、歌舞伎の女形スターの坂東玉三郎を主軸に、女優の杉村春子、日本舞踊の武原はん、舞踏家の大野一雄、日本最高齢芸者の蔦清小松朝じの姿を収めたドキュメンタリー映像集。
原題の『WRITTENFACE』は、坂東玉三郎の化粧を意味するのではないかと推察します。
当時はジェンダーの意識も薄かった日本において、監督にとっても女形という存在は興味深く映ったのでしょう。
日本人がイメージしていた、あるいは求めていた“女性らしさ”を、男性が演じるわけですもんね。
「なぜ、今再び?」と問われれば、「時代が求めた」または「今だからこそ」との答えが返ってきそう。
外国人の目というフィルターを通して客観的に見える何かに、新たな発見があるのかもしれません。★3つ。
『書かれた顔』公式サイト


『デスNS インフルエンサー監禁事件』は、カナダ映画。

チアリーダーのケリーは、50万人近いSNSのフォロワーを持つ、超人気インフルエンサー。
ケリーが目覚めると、椅子に縛りつけられ、身動きが取れない状態に。そう、彼女は何者かに拉致され、監禁されていたのです。
恐怖におののくケリーの前に、不気味なマスクを被った男が現れます。男は、チャールズだと名乗ります。
男は言います。「今から1時間以内に“いいね!”を1000集めろ」と。さらに「達成すれば、無傷で解放してやる」とも。
ところが、強気なケリーは「命乞いはしない」とそれを拒むんですね。
その途端、再び気を失うケリー。気がつくと、今度はサブリナという女性が椅子に縛られていました。
チャールズは言います。「自分のためじゃなく、人のためならどうだ」。
サブリナの身の危険を回避するため、ケリーは写真を撮影し、それをSNSにUPするのですが…。

「バズるか、死か。」のキャッチフレーズが付いたこの映画。タイトルの“デスNS”は、“エスNS”と掛けたんだと、映画の途中で気付きました(笑)。配給会社は、上手い邦題を考えましたねっ。
ケリーへの要求は次々にエスカレートし、2時間で5000の、さらには6時間で5万の“いいね!”を集めろと言われます。
謎の男チャールズの狙いは、いったい何なのか?ケリーは無事に逃げ出すことができるのか?というサスペンス・スリラーです。
ネタバレになっちゃったらすみません。でも、ボクら昭和のオジサンたちが感じていながらも、口に出すと、時代錯誤も甚だしいと批判されそうなことを代弁してくれているような映画でもあります。
それゆえ、世代によって感じ方が変わりそう。若い人は「説教くせえ映画だ」となるんじゃないかなぁ(笑)。
それぞれの感想が聞きたくなる1本でもあります。★3つ。
『デスNS インフルエンサー監禁事件』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.3.2
『エッフェル塔 創造者の愛』★★★
『丘の上の本屋さん』★★★
『KG200 ナチス爆撃航空団』★★★
『ホーリー・トイレット』★★
(満点は★★★★★)


3月になりました。
花粉の大量飛散の頃になり、以前なら、試写会でのくしゃみが大変などと書いたりもしていました。しかし、今はオンラインでの試写が主流。それを感じることはなくなっています。
これもまた時代の変化なんだなぁと、つくづく思ったりもします。
さぁ、今週は4本です!

『エッフェル塔 創造者の愛』は、史実を基にした愛の物語。

ギュスターヴ・エッフェルは、今や押しも押されもせぬパリの人気設計士。彼を一躍有名にしたのは、アメリカの自由の女神像建造への協力でした。
そんなエッフェルに、1989年に開催されるパリ万博のシンボルとなるモニュメントの制作依頼がきます。
しかし、エッフェルの頭の中は、パリで走らせる地下鉄のことでいっぱいで、この案件にはまったく気乗りがしていませんでした。
友人で記者のアントワーヌ・ド・レスタックは、エッフェルのよき理解者。アントワーヌは、政府主催のパーティにエッフェルを誘い、その席で初めて妻のアドリエンヌを紹介します。
衝撃が走るエッフェル。
実は、エッフェルとアドリエンヌは、エッフェルが20代の頃に恋人同士の関係にあったのです。
ボルドーで鉄橋建築を指揮していたエッフェル。過酷な現場環境を仕切るエッフェルを見たアドリエンヌは、恋に落ちます。しかし、ブルジョワのお嬢様と労働階級の男。周りがこの恋を許すはずがありませんでした。
20年ぶりの再会は、友人の妻という残酷なものでしたが、アドリエンヌの野心的な性格を知るエッフェルは、彼女の愛を満たすために、パリのど真ん中に、高さ300mの鉄の塔を立てるとぶち上げたのです…。

ギュスターヴ・エッフェルは実在の人物ですから、その伝記的な部分に、想像と創造を加えて紡いでいったラヴ・ロマンスといった感じでしょうか。
エッフェルも他の女性と結婚し、子どもにも恵まれるのですが、妻とは死別。そこに、大恋愛の末、向こうの両親に関係を引き裂かれた元カノが現れる。それも友人の妻としてですから、運命とは残酷で。
あ、この部分が事実なのかフィクションなのかはわからず。
エッフェルのみならず、アドリエンヌは相当悩みますよね。
彼女の身の振り方、反対の声が上がりながらも進めたエッフェル塔の建設。このあたりが見どころとなる映画です。
最後に「なるほど…」とニヤリ。これも事実か、フィクションか。都市伝説レベルのラストを、どうぞお楽しみに。★3つ。
『エッフェル塔 創造者の愛』公式サイト


『丘の上の本屋さん』は、イタリアとユニセフの共同製作作品。

丘の上にある小さな古書店。店主のリベロは、長い歳月、ここで個性的な客の相手をしてきました。
隣のカフェで働く二コラ
もそのひとり。二コラは、高齢のリベロを気にかけ、ちょくちょく店に顔を出していました。
ある日のこと、店の前で興味深そうに本を手にとる少年がいました。彼の名はエシエン。西アフリカのブルキナ・ファソからの移民であるエシエンは、イタリアに来て6年になると言います。
ところが、経済的に貧しくて本など買えないエシエンに、リベロは本を貸してあげるんですね。初めはコミックから、そして段階を上げ、長編ものまで。
いつしか、ふたりの間には、年齢を超えた友情が芽生えていたのです…。
イタリアで最も美しい村のひとつと言われる、チヴィテッラ・デル・トロントを舞台に繰り広げられる、ハートウォーミングな物語。
ユニセフが共同製作ですから、まったくのお堅い映画かといえばそうでもなく。
客の中にはSM嬢がいたり、極右の思想を持つ男性がいたり、また二コラの恋愛が描かれていたりと、これもまたお国柄?それとも多様性の表れ?
根底には、“自由”を意味する名前の店主リベロと、移民の少年エシエンとの、国も人種も年齢も超えた友情物語があり、さらに本というものの素晴らしさが描かれているのですから、ユニセフらしいといえば、らしいのだと思います。
リベロは、エシエンから本の感想を聞くのが、楽しみで仕方ない。そう、人生は生き甲斐が大切なんですよね。互いに互いを支え合う出逢い。それが幸せなんだと感じます。★3つ。
『丘の上の本屋さん』公式サイト


『KG200 ナチス爆撃航空団』は、戦闘機アクション映画。

第二次世界対戦中の、ナチス占領下のフランス。
連合国軍であるアメリカ空軍のB―17爆撃機“ヤンキー・レディ”が、護衛の2機を引き連れて、ナチスの基地を殲滅すべく飛行していました。
すると2機のイギリス機が近づいてきます。味方であることに安堵したのも束の間、なんとこの2機が攻撃を仕掛けてくるではありませんか。
実はこの戦闘機、ナチスが撃墜し、修理したイギリス空軍のもの。これはコード・ネーム「ウルフ・ハウンド」という、敵の目を欺く作戦だったのです。
奇襲を受け、3機は墜落。生き残ったB―17のクルーたちは、ナチスの捕虜になってしまいます。
一方、不時着した護衛機のホールデン大尉は、敵の目をかいくぐりながら、なんとか仲間を探し出そうとします。
B―17は「ウルフ・ハウンド」の格好の餌食に。大都市を一発で壊滅状態にする爆弾を積み、どうやら標的はロンドンだと知るホールデン大尉。
仲間を助け、ナチスの謀略を止めることはできるのでしょうか…。

ナチスの第200爆撃航空団というのは実在したみたいですね。
「極限のドッグファイト・エンターテインメント」とキャッチフレーズにあるように、冒頭から戦闘機による、手に汗握る戦いが見られます。
捕虜が収容されている施設あたりから、ちょっぴりリアリティが欠け始めたのが残念でしたが、エンターテインメントとして観れば楽しめる作品だと思います。
劇中では、本物のヴィンテージ機が使われ、破壊シーンもCGではなく、精密なスケールモデルを使うほどのこだわりよう。確かに、“ヤンキー・レディ”は美しかったです。
戦闘機マニアには、垂涎の1本かもしれません。★3つ。
『KG200 ナチス爆撃航空団』公式サイト


『ホーリー・トイレット』は、仮設トイレに閉じ込められた男の脱出劇。

建築家のフランクが目覚めたのは仮設トイレの中。
どうやら意識を失っていたようで、どうしてこうなったのかがわかりません。
その時、右腕に激痛が走ります。なんと、長い鉄筋が右腕を貫いていたのです。
必死に記憶を甦らせるフランク。思い出したのは、友人でもある市長ホルストのこと。
ここは新たなリゾート開発地。この新規事業をなんとしてもやり遂げたいホルストに対し、貴重なふくろうの生息地であると環境団体は猛反対。フランクも再考を促したのですが、邪魔者は消せとばかりのホルストの手にかかり、まもなくダイナマイトで木っ端微塵になる敷地内に突き落とされたのでした。
大規模な破壊をひと目見ようと、市民が大勢集まり、爆破へのカウントダウンが企画されていました。アナウンスによれば、残された時間は34分。スマートフォンは便器の中。
果たしてこの絶望的な状況から、フランクは脱出することができるのでしょうか…。

解説によると、状況設定を極端に限定することで緊迫感を高めるスリラー映画を“シチュエーション・スリラー”と呼ぶそうです。
仮設トイレの中で身動きがとれないのですから、まさに悲惨な“シチュエーション・スリラー”です。
ちなみに、試写の案内メールに赤字で「本作は、お好きな方だけご覧下さい」とありましたが、観たからと言って、ボクは別にトイレ好きじゃありませんからね(笑)。
友人だと思っていた市長から命を狙われる。それどころか、フランク亡き後はフランクの妻マリーをも寝とろうとしている、ホルストとはとんでもない輩なんです。
こんなヤツの末路は、大抵が“ウンの尽き”。
おあとがよろしいようで…(笑)。★3つ。
『ホーリー・トイレット』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.2.24
『アラビアンナイト 三千年の願い』★★★★
『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』★★★★
『日の丸 寺山修司40年目の挑発』★★★
『ワース 命の値段』★★★★
(満点は★★★★★)


2月2日に紹介した映画『茶飲友達』が、かなりの注目を集めているそうです。1館だけの上映だったのが、名古屋、大阪、福岡、京都、横浜など、25館に広がったとニュースにありました。
高齢化社会の抱える問題に、若者の生きづらさも併せて描くことで、幅広い層に問題提起ができたのでしょう。
あの作品紹介のまとめに、「こういう作品が注目され、世間の話題に上がってほしいと思います」としましたが、そうなってよかったです。映画の持つ役割、力のひとつですから。
さぁ、今週は4本です!

『アラビアンナイト 三千年の願い』は、現代のおとぎ話。

世界中の物語や神話研究を専門とするアリシア。
彼女自身の物語はといえば“孤独”。しかし、それもよかれと物語を人生の相棒としてそばに置いてきました。
そんな彼女が、トルコのイスタンブールを講演で訪れます。
街を散策中に綺麗なガラスの小瓶を気に入り、購入。ホテルの部屋に帰って、汚れを落とそうとこすっていると、瓶のふたが取れ、なんと中から魔人が現れます。
彼の名はジン。出してくれたお礼に、3つの願い事を叶えてくれると言います。
しかし、アリシアは知っています。願い事がすべてハッピーエンドにならないことを。
ジンは焦ります。願い事を3つ叶えないと、自由の身にはなれないから。
すると、ジンは、これまでの自分の3000年の出来事を話し始めたのです…。

ジョージ・ミラー最新作。面白かったです!
この手のファンタジーは、舞台ごとすべて“a long long ago…”だったりしますが、この作品は、現代が舞台。もちろん、ジンが語る数千年前は“昔”ですョ。
でも、映像テクノロジーの進化というか、魔人が小瓶から現れるシーンなんて、すごいです。ホテルの天井に頭がつかえた巨大な魔人が煙をシューシュー言わせながら、ベッドに腰かけている(笑)。ここで一気に魅せられてしまいます。古代は古代で、まさにファンタジー。
そこに加わるエッセンスが、アリシアの存在。孤独に生きる女性の本心、欲望、理性、知的好奇心が、ジンとのやり取りに絶妙なスパイスを振りかけます。
現代版大人のおとぎ話。今のあなたなら、願い事3つ、どうします?
深く考えても、考えなくても楽しめます。実によく出来た映画だと思います。★4つ。
『アラビアンナイト 三千年の願い』公式サイト


『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』は、全町避難の福島県富岡町に暮らす男性のドキュメンタリー。

福島県富岡町。
2011年3月、東日本大震災で、福島第一原発が事故を起こし、原発から12キロにあるこの町は、警戒区域となり、全町避難を余儀なくされました。
家畜はすべて殺処分が命じられますが、それに納得しなかったナオトは、牛、馬、ダチョウ、猫など、動物の世話をするため、この町に残ったのです。
そんなナオトの生活を追った、10年の記録。
ちなみに、2015年には『ナオトひとりっきり Alone in Fukushima』というドキュメンタリーが公開されていて、今作はその続編にあたるそう。
同じ町の同じ場所で映像を撮ると、その変化は目に見えてわかる。それが“復興”の進み具合だと信じたいけど、中身はそうじゃない。
さらに、この映画で驚かされたのはふたつ。
ひとつは、ナオトの自然や動物に対する知識の豊かさ。桜の木に蜜蜂が戻ってきたのが、こんなにも大切なことなのかと。些細な変化に気づくナオトの感性は、現代人?都会人?が忘れてしまった、いや、捨ててしまったものなのでしょう。
もうひとつは、原発についての考え方です。それを書こうと思いましたが、公式サイトの監督のコメントに「彼らから驚愕の答えを聞いた。それはこの映画の中で、観客の皆さんに確かめてもらい、考えて欲しい」とありました。
そう、それを明らかにするのはネタバラシなんだなと。なので控えますが、確かに驚愕でした。ボクも「えっ?」って声が出ましたから。あなたも、ぜひ劇場で確かめてみて下さい。
ナオトは、松村直登さん。たくましく、優しく、本来、人はこうあるべきと思わせてくれる人です。
生活自体が“汚染”されてしまっているボクには、絶対になれない理想像かもしれません。★4つ。
『劇場版 ナオト、いまもひとりっきり』公式サイト


『日の丸 寺山修司40年目の挑発』は、TBS制作のドキュメンタリー。

劇団「天井桟敷」の主宰者で、歌人や劇作家、作詞家、映画監督としても知られる寺山修司。
彼が構成を務めたドキュメンタリー番組『日の丸』が、今から56年前の1967年2月9日にTBSで放送されました。
内容は、街行く人へのインタビュー。女性インタビュアーが、無機質に、ただただ質問だけをぶつけていきます。
「あなたは日の丸を掲げたことがありますか」
「それはなぜですか」
「あなたに外国人の友だちはいますか」
「戦争になったら、その人と戦えますか」
1967年(昭和42年)と言えば、ラジオの深夜放送「オールナイトニッポン」が始まり、映画ではゴジラが大暴れ、グループ・サウンズブームのまっただ中で、ザ・フォーククスセダーズの「帰ってきたヨッパライ」が大ヒットした年。
「もはや戦後ではない」と政府が宣言した1956年から11年、73年まで続く日本の高度経済成長期において、人々の生活が確実に変わり始めた頃。
その一方で、富山のイタイイタイ病、熊本の水俣病、四日市ぜんそくなどの公害の問題が表面化したのも、この年です。
寺山修司は「国家とは何か」を追い続けていたと言います。そして、テレビのタブーにふれるような番組を作ったと。実際、視聴者からの抗議が殺到し、閣議でも問題視されたと公式サイトにありました。
あれから55年が過ぎた今、28歳の若手ディレクター佐井大紀が、あの『日の丸』を再現しようと試みたのがこの映画です。
同じやり方でインタビューをし、同じ質問への返答の差異に、現代人の心を見ようという実験的映像です。
テーマがテーマだけに、決して商業的ではないし、エポックメイキングな言葉が聞かれるかと言えば、そうでもない。
このキナ臭い時代に、“そうでもない”のが現代人なんだと言われれば、そうなのでしょうけど…。

2023年は、寺山修司の没後40年。大の馬好きとしても知られています。
ボクの周りに、「『日の丸』という寺山修司の映画があるみたいだけど観ましたか?」と尋ねてきた人が数人いて。今もなお生き続ける、寺山修司の影響力の大きさに、正直、驚いたものです。★3つ。
『日の丸 寺山修司40年目の挑発』公式サイト


『ワース 命の値段』は、実話に基づくストーリー。

大学で講師も務める、ワシントンD.C.の弁護士、ケン・ファインバーグ。彼は調停のプロフェッショナルとして、独自の計算式を編み出し、補償金額の算出に確固たる自信を持っていました。
そんな時、同時多発テロが勃発します。2001年9月11日のことです。
22日、政府は被害者補償基金を設立することを発表。遺族や直接の被害者、瓦礫解体などで身体的被害を受けた人たちが、納得のいくような分配をしなければなりません。
その特別管理人に、ファインバーグは自ら手を挙げたのです。
7000人にも及ぶ、テロ被害者の80%を賛同させることを課せられたファインバーグでしたが、職業や肩書きによって補償金にあまりに大きな差が出るその計算式に、「人の命を平等に扱え」と、初めての説明会から、多くの反発を受けます。
反対派の代表的存在になったチャールズ・ウルフは、ファインバーグの計算式の欠点に加え、血の通わないやり方への間違いを指摘します。
プログラム申請期限の2003年12月22日を直前にしても、目標には程遠い賛同者の数に、ファインバーグはある決断をするのでした…。

実在の弁護士と事例を描いた物語。当然、ファインバーグひとりではなく、彼の法律事務所のスタッフたちが、チームとして取り組んでいきます。
遺族たちが一斉に大手航空会社を訴えれば潰れてしまうのを怖れた政府は、基金を立ち上げて、その多くに納得してもらうことで訴訟を回避したい。救済プログラムの第一義は(あくまで劇中では)そこですから。
ファインバーグも、始めは自慢の計算式で何とかなるとたかをくくっていたのですが、“人の命”はそう簡単ではありませんでした。皿洗いをしている人の命は安くて、大企業の重役なら高いのかと。
数組の遺族がクローズアップされますが、個別に話を聞けば聞くほど、皆それぞれに抱えているものが違う。ただ、かけがえのない大切な存在を失ったことだけは、共通の事実で。
ギリギリのところでファインバーグの下した決断こそ正義。そう強く感じました。それは劇場でお確かめ下さい。
主演は、30年振りのバットマン役でも話題のマイケル・キートン。正義の味方が似合います(笑)。★4つ。
『ワース 命の値段』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.2.17
『ICE ふたりのプログラム』★★★
『いつかの君にもわかること』★★★
『劇場版 センキョナンデス』★★★★
『呪餐 悪魔の奴隷』★★★
(満点は★★★★★)


2023年に入ってからも、たくさんの試写の案内を頂いていますが、そのほとんどが“オンラインも可”。
これがコロナ以降のスタイルとして、定着するんだろうなと思っています。
ただ、映画をスマホの小さな画面で観ることに慣れ過ぎてしまうと、映画本来の良さを忘れてしまう怖さもあって…。
たまに劇場に足を運ぶことは、積極的に続けないといけないなと改めて感じています。
さぁ、今週は4本です!


『ICE ふたりのプログラム』は、ロシアの恋愛映画。

母と二人暮らしのナージャ。
ナージャの夢は、フィギュアスケートの選手になること。母はナージャの夢を叶えようと、決して楽ではない生活でも、決して後ろ向きな言葉を口にしませんでした。
ところが、無理が祟り、母は早逝してしまいます。
ナージャは母の言葉を胸に、コーチのイリーナに直談判。クラブに入れてもらうことになります。
すると、努力で腕を上げてきたナージャが、国を代表するトップスケーターのレオーノフの相手に選ばれたことで、彼女のスケート人生が一変するんですね。
しかし、好事魔多し。演技中に無理を強いられ、ナージャは大ケガを負ってしまいます。
選手生命の危機と共に、地元に戻ったナージャ。元のコーチのイリーナを訪ねると、ひとりの男性を紹介されます。
それはアイスホッケー選手のサーシャ。イリーナに対する粗暴な行動で出場停止になっていたサーシャに、イリーナはナージャの面倒を見るように命じたのです。
凸凹コンビが誕生した瞬間でした…。

2018年に作られたロシア映画。まだ平和だった頃です。
自国ロシアでは大ヒットし、続編がすでに公開され、そちらもヒットしたそうです。
映画の登場人物もそうですが、人単体で見れば、優しさに満ち溢れた人はたくさんいます。これが国となると、変わってきちゃう。今のような状況だと特にですよね。
だから、ボクらは見方に気をつけないといけない。小さくも、大きくも、どちらからも見る必要があります。
戦争が悪い。面子のために人を駒のように使う政治のトップが悪い。
皆、普通に生きて、喜んで、悲しんで。“普通”を奪うなと、声を大にして言いたくなります。
作品の評論になってないけど、そう感じさせるのもまた、映画の持つひとつの力ではないでしょうか。★3つ。
『ICE ふたりのプログラム』公式サイト


『いつかの君にもわかること』は、実話から生まれた父と子のストーリー。

ジョンは33歳のシングルファーザー。窓拭き清掃員として生計を立てている彼には、幼いひとり息子のマイケルがいます。
しかし、ジョンは不治の病に冒されていて、余命宣告を受けていたのです。
自分が死んだ後、マイケルは天涯孤独の身になってしまう。そこでジョンは、マイケルを養子に出すことを決意。手を挙げてくれた家庭を、マイケルと共に、いくつも訪問します。
ところが、回れば回るほど、何がマイケルの将来にいいのかが、わからなくなっていくんですね。
そんな時、マイケルがジョンに聞きます。
「ねぇパパ、“ようし”ってなぁに?」…。

切ない映画でした。
安楽死をテーマにした映画なんかもそうですが、正解がないから。
ジョンはマイケルにとっての完璧を求める。
でも、それは存在しないわけですよね。もし自分が親を続けていったとしても、未来は未知なわけで。
ただ、ジョンの気持ちはわかる。子どもがいないボクにもわかります。
原題は「Nowhere Special」。“どこも特別な場所なんてない”といったところでしょうか。
自分が親を思う時、人生の大半を子どもにかけてくれたことへの感謝しかありません。じゃ、親孝行が出来たかといえば、これまた完璧にはほど遠く。特に、亡くなった父に対しては、後悔ばかりです。でも、親子の愛情は、“作用・反作用”だと信じたい。自分に言い訳でしょうか(笑)。
ジョンとマイケルで幸いなのは、ふたりで話す時間が比較的あるということかな。
いつかの君にもきっとわかりますように…。★3つ。
『いつかの君にもわかること』公式サイト


『劇場版 センキョナンデス』は、選挙ドキュメンタリー。

時事芸人のプチ鹿島と、ラッパーのダースレイダーが配信しているYouTube番組「ヒルカラナンデス」。
この番組で取り上げているのが時事ネタで、今回はこのふたりが選挙取材企画を立ち上げ、2021年10月の衆院選における香川1区と、22年7月の参議院選における大阪選挙区を突撃取材。その模様をまとめたのが、この映画です。
香川1区は、初代デジタル大臣でもあった自民・平井卓也氏の保守地盤。対抗馬は立憲の小川淳也氏。
このふたりの選挙戦、面白いぐらいに“熱量”が違うんですよね。
選挙事務所のスタッフの対応も、支援者の熱さも。勝ちを確信したかのような落ち着きと、巨人に挑む挑戦者の勢いとでもいうか。
撮影が偏向してるようには感じませんでした。あくまで客観的に、おかしいことはおかしいと。それは例えば、平井氏一族の会社である四国新聞社の報道の在りようもしかりで、ふたりは社に乗り込んで、真正面から質問をぶつけます。その対応も、今の日本の政治を象徴するかのようで。ギャグかと思いました。
また、参院選の方はと言えば、選挙中に安倍晋三元総理の銃撃事件がありましたよね…。まさにリアルタイムで、各陣営の動きが収められています。
この映画を観て感じるのは、本当はこれぐらい各候補者に密着して、選挙事務所の対応や、本人の素顔を知ってから1票を投じたいなということでした。
それでもわからないことは多いし、現実的には難しいことだらけなんですけどね。
でも、そう思わせるぐらい、面白い映画でしたョ。
政治家は国民によって選ばれる。でも決して“選ばれし民”ではない。“頼まれし人”なのですよ。なのに、そこを先生方は勘違いしちゃうんでしょうねぇ。権力を持っちゃうと自分は特別な存在なんだとね。
プチ鹿島、ダースレイダーのふたりはいいところに目をつけましたよね。だって、話のネタは向こうからやって来るんだもの。それも、半永久的に(笑)。★4つ。
『劇場版 センキョナンデス』公式サイト


『呪餐 悪魔の奴隷』は、インドネシアのホラー映画。

4年前、田舎の一軒家に暮らしていたリニは、そこで母と祖母、末の弟を亡くし、今はジャカルタ北部に建つ高層アパートに引っ越して、父とふたりの弟と暮らしていました。
ある嵐の夜、猛烈な雨により、アパートは陸の孤島と化してしまいます。
さらに、不幸は続きます。アパートのエレベーターが落下し、乗っていた住人たちが命を落としてしまったのです。
大事故が起きたにもかかわらず、救助には誰も来られず、遺体はそれぞれの部屋に安置するしかありませんでした。
リニは気付いていたのです。「このアパートはおかしい。何かがいる」と…。

2017年のインドネシア映画『悪魔の奴隷』の続編です。
リニたち一家が中心ではありますが、登場人物は他にもたくさんいて、その前作をボクも知りませんが、観ていなかったとしても大丈夫。終盤、「あ、4年前、リニたちには、きっとこんなことがあったんだろうな…」と想像がつきますから。
イスラム教圏のホラー映画。日本だと怪奇映画は主に霊で、悪魔はキリスト教だけかと思っていたら、違うんですね。
『悪魔の奴隷』自体が、“1980年代にイスラム教圏で最も怖いホラー映画”と呼ばれた『夜霧のジョギジョギモンスター』の現代版リメイクだそう。ゆえに、自国では大ヒット。きっと、“恐怖の連鎖”という名の、人々の期待が作品に乗り移っているのでしょう。
怖さのスパイスというか、多少のお国柄による差異は感じますが、インドネシア産が気になる人は、是非チェックしてみて下さい。★3つ。
『呪餐 悪魔の奴隷』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.2.9
『崖上のスパイ』★★★
『コンパートメントNo.6』★★★
『呪呪呪 死者をあやつるもの』★★★
『二十歳の息子』★★★
(満点は★★★★★)


観てきました。ヨネスケさん主演『突撃!隣のUFO』。
馬鹿馬鹿しいのが売りでしょうが、途中で、UFO・超常現象研究家の矢追純一さん、雑誌『ムー』の編集長らのインタビューが入り、UFOの話題で盛り上がります。
エクストリームの配給作品。★は…う〜ん、やっぱり2つ(笑)。でも、それが誉め言葉だと思って頂ければ(^-^)
さぁ、今週は4本です!


『崖上のスパイ』は、中国映画。

1934年、日本の統治下にあった満州国。
この年の冬、“ウートラ作戦”という極秘の任務を遂行するために、ソ連で特殊訓練を受けた共産党スパイチームの男女4名が、ハルビンに潜入します。
仲間を助け、日本の蛮行を世界に知らしめること。それが今回のミッションです。
リーダーはチャン・シエンチェン、妻のワン・ユー。チュー・リャンとシャオランは恋人同士。ですが、互いに別れてコンビを組み、1班と2班となって行動します。
周りは特務警察だらけ。
加えて、過去に捕まった共産党スパイの中には処刑寸前に寝返った者もいて、ウートラ作戦の中身が明らかにされてしまいます。
すると、特務警察の手が次第に4人に伸びていき、遂にはシャン・シエンチェンが捕らえられてしまったのでした…。

チャン・イーモウ監督作品。
諜報戦の物語として観れば楽しめますが、やはり日本人には耳の痛い内容です。
全編を覆う雪、暗い空、重い空気感。そんな中、ヒリヒリするような神経戦が繰り広げられていく。
特務警察の中にも、逆に共産党のスパイがいて、特務課トップのガオ科長も、その存在に気づいてはいるけれど、誰なのかは特定できておらず。
皆が疑心暗鬼の中で、両者の仕掛けや、明かされる騙しのトリック。
目を覆いたくなるシーンもあり、これでまた反日感情が高まらないといいなと、正直、心配になってしまうほどで。
日本人のボクが、他人事のように語ると叱られるかもしれませんが、戦争はこうして憎しみを、消えないタトゥーのように後世にまで残していきます。戦争だけは、絶対にしないよう、そこに人間の知恵が必要なのだと思います。★3つ。
『崖上のスパイ』公式サイト


『コンパートメントNo.6』は、カンヌ国際映画祭のグランプリ受賞作。

ラウラは、フィンランドからモスクワにやって来た留学生。
彼女には、モスクワで知り合ったイリーナという年上の女性の恋人がいますが、どうやら恋多き人のよう。一緒に行こうと計画していた旅行をドタキャンされ、ラウラはひとり寝台列車に乗ります。
モスクワから、世界最北端の駅・ムルマンスクに向かう旅。その目的は、古代の岩面彫刻・ペトログリフを見に行くこと。
しかし、その寝台列車の6号室で同室になったのは、ロシア人炭鉱労働者の男・リョーハ。酒を飲み散らかし、失礼極まりない振る舞いのこの男も行き先はムルマンスク。
逃げ場のない寝台列車。
気が滅入るような旅は、まだ始まったばかりでした…。

メガホンをとったのは、フィンランド人のユホ・クオスマネン監督。2021年の第74回カンヌ国際映画祭グランプリ作品です。
無礼なリョーハが、フィンランド語で「愛してる」は何て言うかを尋ねると、ラウラは「くたばれ」を教えます。うれしそうにその言葉を繰り返すリョーハ。
しかし、寒く、長い旅で起こる様々なことが、ふたりの心に変化を生み出していくんですね。
ロードムービーでもあり、恋愛映画でもある。
ハリウッドにはない、カンヌが好きそうなテイストの作品かなといったイメージ。「恋愛は加点式。出会いは低いほうがいい」なんて言葉がぴったりの1本です。
とはいえ、カンヌのみならず、世界中で高い評価だそうです。寒い季節の今こそ、お試しあれ。★3つ。
『コンパートメントNo.6』公式サイト


『呪呪呪 死者をあやつるもの』は、韓国ホラー。

閑静な住宅街で起きた殺人事件。
警察が踏み込むと、被害者の脇にあったのは容疑者らしき遺体。しかし、鑑定の結果、その遺体は死後3ヶ月が経過していたのです。
オカルト系に強いジャーナリストのジニが、ラジオの生放送に出演中、リスナーと繋いだ電話に出たのは自分が犯人だと名乗る男。彼は、直接取材を受けたいとジニに申し出ます。
受諾したジニは、多くのマスコミと警察が見守る中、インタビューを敢行。男によれば、自分が死者を操って殺人事件を起こしたと。そして男は新たな殺人事件を予告すると、体が砂像のように崩れ落ちて死んでいったのです。
チョン刑事らと事件を追うジニ。命を狙われているのは大手製薬会社のトップの役員たち。この会社は、過去に治験などで多くの健康被害者を出していたのです…。

ストーリーのさわりの部分です。
この映画のキャッチコピーのひとつが、「呪術師vsKゾンビ」。グレーのパーカー?ポンチョ?に身を包んだ、大量のゾンビが大暴れ。
通常のゾンビは動きが緩慢ですが、Kゾンビはメチャメチャ速い(笑)。
それを美少女呪術師のソジンが退治しようとする。
ジャーナリストとしてのジニは、巨大企業の内幕を暴露し、チョン刑事らと事件の全容解明に努める、というお話。
ホラーなんだけど、ボクらがイメージするホラーとはちょっと違った感じ。そんなジャンルが、既に確立しているのでしょうか。勉強不足ですみません。
アニメの実写化みたいな感覚で臨むといい1本かなと思います。★3つ。
『呪呪呪 死者をあやつるもの』公式サイト


『二十歳の息子』は、ドキュメンタリー。

引っ越しのシーンから始まるこの映画は、ゲイの男性である当時40歳の網谷勇気と、児童養護施設で育った当時20歳の渉が、養子縁組をし、新たに父子として生活を始めた姿を追ったドキュメンタリー作品。
敬称略で書かせてもらいますが、網谷は子どもたちへの支援団体で働いていて、渉とは高校生の頃から関わっていたものの、彼が事件を起こして起訴されてしまったことをきっかけに、職員としてではなく、家族として支えられないかと養子縁組を提案。渉がそれを受け入れて、アパートでの共同生活が始まったのです。
渉は幼少期に里親からの虐待や、施設でのいじめに遭ったと。それでもそんな経験を逆に武器にしたいと、明るく夢を語ります。
でも、公式サイトの監督の言葉にもありますが、渉は人懐っこいけれど、他人を寄せ付けない鋭い視線も併せ持つと。確かに、それが伝わってきます。
以前から家族を持ちたいと望んでいたわけでもなかった網谷。手探りで渉との新たな関係を進めていくのですが…。

フィクションなら、あれこれ自分の考えを書けますけど、ドキュメンタリーですからね。
今はどうかわかりませんが、撮影当時、芸能関係に行きたいと話していた渉にひとつだけ言うとしたら、「その世界はそんなに甘くないし、君が思ってる武器は武器にはならないよ」ということぐらいですかね。でも、撮影は5年前。もう、そんな言葉は期限切れかな(笑)。
LGBTQに関する、岸田総理や、その周りの人たちの発言が問題視されていますが、みんな一生懸命生きているわけで。道は違えど、それはボクも一緒です。
自分の人生は、自分が脚本家で、かつ自分が監督。自分が描く物語を、時につまづきながらも歩いていけるのは幸せなこと。それだけに、逆を考えればわかることがたくさんあると思うのですが。★3つ。
『二十歳の息子』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.2.2
『仕掛人・藤枝梅安』★★★★★
『スクロール』★★★
『すべてうまくいきますように』★★★
『茶飲友達』★★★★
(満点は★★★★★)


実は、タレントのヨネスケさん(落語の時は桂米助師匠)とご縁がありまして。
映画初主演作『突撃!隣のUFO』という作品が、2月3日(金)に公開となります。
四半世紀以上に渡り、日本テレビ系のワイドショーで放送されていたヨネスケさんの看板コーナー、『突撃!隣の晩ごはん』をもじったタイトル。
試写を観ることができなかったので、劇場に行くつもりです。感想はまたここに書きますね。楽しみにお待ち下さい。
さぁ、今週は4本です!


『仕掛人・藤枝梅安』は、池波正太郎の人気時代小説シリーズの映画化。

鍼の名医として、町で評判の藤枝梅安。しかし彼には、もうひとつの裏の顔がありました。
それは、悪を葬る“仕掛人”。蔓(つる)と呼ばれる元締めから金をもらって、仕掛をする。受けたからには詳細を尋ねることはご法度の、闇の仕事です。
梅安には仕掛人の仲間がいます。楊枝職人の彦次郎です。互いに素性こそ深く知らねども、心を交わせる貴重な存在でした。
ある日、梅安は蔓である羽沢の嘉兵衛から仕掛の打診を受けます。
料理屋『万七』のおかみ・おみのを仕掛けてほしいと言うのです。
おみのは先代のおかみが亡くなったあと、その美貌で旦那をそそのかし、新しいおかみの座に就いたのですが、実は先代のおかみを仕掛けたのは梅安。『万七』の女中・おもんに聞けば、おみのが来てから店は変わり、何やらよからぬことで利益を上げているよう。
先代のおかみの仕掛を依頼したのは、おみのだったのか?
梅安はこの仕掛を受けるのですが…。

あらすじを書いていて、自分の表現力のなさにがっかりしますが(笑)、短くまとめられない深みが、この映画にはあります。そりゃそうですよね。池波正太郎作品ですから。
表の顔と裏の顔。言ってみれば、陽と陰。梅安にも彦次郎にも、生い立ちに陰があるから、キャラクターとしての魅力が立つ。
添付の公式サイトで相関図を見てもらえばわかるように、様々な登場人物が、それぞれに重要な役どころとして存在しています。
藤枝梅安に豊川悦司、彦次郎に片岡愛之助。おみのには天海祐希。
菅野美穂扮する『万七』の女中のおもんは、梅安と恋仲になる。
梅安の身の回りの世話を焼くおせきは、梅安の裏の顔を知らない。このおせき役の高畑淳子の演技が素晴らしい!
よく出来たストーリーを、豪華な出演陣が彩る。池波正太郎生誕100年企画にふさわしい作品です。
時代劇は面白い。勧善懲悪だけど、ヒーローにもちょっぴりダークな側面もあるからこそ、人間くさい魅力が増すわけで。
実は、これが第一作。もうニ作目も出来ていて、こちらの試写も拝見しました。面白かったです!
ニ作目は4月7日公開予定。そこに続く導入の映像が、エンドロールの最後に流れます。劇場内が明るくなるまで席を立たないようにして下さいね。満点!★5つ。
『仕掛人・藤枝梅安』公式サイト


『スクロール』は、4人の若者を中心に描かれた群像劇。

“僕”とユウスケは大学時代の友だち。
ある日のこと、同じく友人だった森が自殺したのをきっかけに、ユウスケは“僕”に久々に電話をします。そして、再会。
今のふたりはというと、“僕”もユウスケも就職はしたものの、“僕”は上司のパワハラにあっていて、その不満をSNSにぶちまけることで、なんとか精神を保っている状態。
一方のユウスケは、女性にだらしないというか、それを悪いことだとは思っておらず。イケメンで、業界の人間で、今日が楽しければいいと考えていました。
“僕”のSNSには、いつも「いいね!」がひとつ。実はこれ、同僚の“私”がこっそり見つけて反応していたのです。
ユウスケは、今日も行きつけのバーで、女性をナンパ。彼女の名は菜穂。地味めの女性である菜穂は、酔って結婚を口にしたユウスケの言葉を信じて、重たい女になっていきます。
“私”はパワハラ上司にくってかかって、自ら退社。その後、“私”と“僕”は急接近。“僕”も上司に暴言を吐くと揉め事になり、上司は“僕”への暴力で会社をクビになってしまいます。
すると、逆恨みした上司が、“僕”に対して「殺してやる」と脅迫してきたのです…。

橋爪駿輝のデビュー小説の映画化。
“僕”に北村匠海、ユウスケに中川大志、“私”に古川琴音、菜穂に松岡茉優。今をときめく、若き俳優陣の共演です。
これが20代のリアルなのかもしれませんが、正直、時代が変わったなぁという印象です。
群像劇の場合、登場人物の少なくともひとりは、自身を投影したかのようなキャラクターを発見できるものですが、年の差を考慮しても、それがいない。
強いて言えば、重い恋愛の菜穂でしょうか(笑)。
物語はサスペンスやスリラーの要素を含みつつ、展開。結末が気になったおかげで、ドキドキしながら観終えることができました。
橋爪駿輝と聞いて、ピンと来る世代にはお勧めかも。小説を題材に曲にするYOASOBIの大ヒット曲の、元になるものを書いた作家です。この時点でピンと来なければ、同じ感想を抱くかもしれません。ご同輩はお試しあれ(笑)。★3つ。
『スクロール』公式サイト


『すべてうまくいきますように』は、安楽死がテーマの父と娘のドラマ。

小説家のエマニュエルと、パスカルの姉妹。ふたりには自由奔放な父アンドレと、彫刻家の母・クロードがいます。
しかし、両親は長いこと別居状態。それが原因なのか、母は心を病んでしまっているよう。
ある日、エマニュエルのもとに、父が倒れたとの連絡が入ります。85歳の高齢での脳卒中。命は助かりますが、右半身不随の後遺症が残ります。
自由に体を動かせないもどかしさから、アンドレは「終わらせてほしい」と訴えます。
安楽死が許されないフランス。姉妹は葛藤しますが、父の望みを叶えるならと、スイスでの安楽死を手助けする協会を訪ねます。
その後、リハビリをし、孫の楽器の演奏会を見、かつての行きつけだったレストランに足を運び。生きる希望を見出だしたかに思えたアンドレの口から出たのは、「3月はどうだ?」。
父の死の決意は変わってはいなかったのです…。

この映画、実話に基づく物語だそうで、実在の脚本家の女性をモデルにエマニュエルは描かれています。従って、劇中のエピソードも実際に起こったことだと言います。
いかにもフランスだなと思うのは、フランスは個人主義の国。「私はこう思うけれど、あの人がそう思うなら仕方ない」という個人主義。だから、娘としては生きていてほしいと思っても、父の死にたいという願望は尊重するという。
重いテーマですが、ユーモアも散りばめて。それもリアルなエピソードだと言うからなんとも…。
予告編で出てくるから書くと、バイセクシュアルでもあるアンドレ。それを知ってもアンドレと離婚はしなかった妻クロードの心中を察すると、ちょっとぐっとくるものがありました。ふたりの共演という人生のドラマの幕は、もうすぐ閉じてしまうのだから。
タイトル通り、“すべてうまくいく”かどうか。これは、正解のない問いだなと感じました。★3つ。
『すべてうまくいきますように』公式サイト


『茶飲友達』は、高齢化社会に一石を投じる物語。

新聞の三行広告にある「茶飲友達、募集。」。
それは、高齢者専門の売春クラブ“ティー・フレンド”の広告でした。
仕切っているのは、若い女性の佐々木マナ。所属するのは65歳以上の女性たち。様々な事情を抱えた彼女たちが、同じく年老いた男性の相手をしているのです。
働くスタッフも、今の社会に夢を見出だせない若者たち。
マナはすべてのメンバーを“ファミリー”と呼んで、その繋がりを、まるで家族のように感じていたのです。
事業は順調に右肩上がり。新メンバーも入り、さぁこれからという時に事件は起こります。
堅いと思っていた“ファミリー”の絆が、ほころび始めた瞬間でした…。

外山文治監督は、2013年に実際に起きた、高齢者売春クラブの摘発に着想を得たと語っています。ボクも、そのニュースは複雑な思いと共に覚えています。
善悪で言えば“悪”なのでしょうが、触れあうことの希薄な世の中で、さらに触れあいの機会が少ない高齢者が、それを求めていた構図。“必要悪”と言っても誤解されてしまいそうですが、高齢者のその後を想像すると、とにかく複雑な感情が沸いてきたものです。
この映画は、そこに加えて、若者の閉塞感も描いています。どの世代にとっても、今は生きづらい世の中なんですよね。
佐々木マナも、親との関係がギクシャクしていて、自身も風俗で働いていた経験があります。
偽りではないけれど、脆弱な関係性を信じていたマナ。最後は、物事の道理というか、真理というか、本当に大切なものが提示されるけど、彼女は気付くかなぁ。
あ、あんまり言うとネタバレになりますね(笑)。
老いも、若きも、考えさせられる1本。こういう映画が注目され、世間の話題に上がってほしいと思います。★4つ。
『茶飲友達』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.1.25
『あつい胸さわぎ』★★★★★
『ピンク・クラウド』★★★
(満点は★★★★★)


先週、小倉競馬場に出張した際、宿泊先が旦過市場の並びのホテルで。
昨年夏の2度目の火災により、老舗の映画である昭和館が焼失してしまったのは映画ファンでなくてもご存知かと思います。
跡地はすでに更地になっていましたが、表通りにある案内板はそのままなんですね…。
ちょっぴり寂しい気持ちになりましたが、でも、きっとここに昭和館を再建するからという意思の表れにも見えて。
被災された皆さんの1日も早い復興を、心よりお祈り申し上げます。
さぁ、今週は2本です!


『あつい胸さわぎ』は、若年性乳がんを患った娘と、その母の物語。

小さな港町に暮らす母と娘。母の昭子は繊維工場に勤め、小説家を夢見る娘の千夏は芸大に合格。
ふたりは仲睦まじく暮らしていました。
千夏には好きな男の子がいます。初恋の相手、光輝です。同じ芸大に通う光輝と再会し、心ときめく千夏でしたが、実は昔、彼から言われた何気ないひとことが、今も小さなトゲのように、胸に刺さったままで。
一方の昭子は、新たに職場にやってきた、いかにも不器用そうな木村という男性のことが気になり始めます。
昭子の同僚で、千夏にとってはお姉さんのような存在の透子には、昭子の気持ちはバレているよう。久々の恋心に昭子の心も弾みます。
ところが、千夏の部屋を掃除していた昭子が、1枚の紙を見つけてしまいます。それは、千夏の乳がん検診の診断書。そこには“要再検査”とあったのです…。

演劇ユニットiakuの舞台の映画化。作品のファンも多いそうですが、その期待を裏切らないデキだと、前評判も高いようです。
上記の5人の他に、知的障がいを持つ崇と、その母・麻美が登場します。主な登場人物はそれくらい。原作が舞台だからか、コンパクトにまとまってはいるものの、中身はかなり濃く。
とはいえ、それを自然な日常生活の中で描いているから、違和感もなければ、押しつけがましさも、説教臭さもない。
病気のこと、恋愛について、人の優しさ、生きることの難しさ、幸せとは何か。病気ですら、日常のひとコマというか。
うまく表現できなくてすみません(笑)。
とにかく、さりげないやり取りの中に、いい場面がたくさんあって。ボクの感性は、すごくいい映画だなぁと感じていました。
昭子を演じる常盤貴子、ハマリ役です!
素敵な人間ドラマです。お勧めです!満点!★5つ。
『あつい胸さわぎ』公式サイト


『ピンク・クラウド』は、ブラジルのSFスリラー。

ある日の朝、街に激しく警報が鳴り響きます。
聞けば、正体不明のピンク色の雲が発生したと。触れると10秒で命を落とす猛毒性のものなので、すぐに建物の中に入り、厳重に外気を遮断しろと言うのです。
実は、ジョヴァナはヤーゴという見知らぬ男性と自宅で一夜を過ごし、朝を迎えたらこの事態に。
ふたりで窓の隙間にも目貼りをし、ひとまず安全は保てましたが、外出が不可能になったため、街からは人が消え、完全なるロックダウン状態。
ジョヴァナは、よくは知らない男性との共同生活を余儀なくされることになります。
人との交流はパソコンの中の画面のみ。ニュースや世間の情報もインターネットだより。
月日は流れ、いつしかヤーゴとの間に男の子が誕生し、リノと名付けられます。
しかし、徐々にジョヴァナとヤーゴの関係にも亀裂が入り始め、遂には家庭内離婚になるんですね。
いつまでこの不自由な生活が続くのか?まったく目処も立たないまま、時だけが過ぎていくのでした…。

2017年に脚本が書かれて、2019年に撮影された作品。
つまり、コロナウイルスの感染爆発前に作られた映画なのですが、まるでコロナ禍を予見したかのようだと話題になっている1本です。
食料等の生活必需品に関しては、窓に特殊なハッチを取り付け、政府がドローンで送ってくれる。いやいや、ハッチを付ける時に外気に触れるでしょとか、国が食料をどう調達してるのかとか、突っ込みどころは満載です。
それは置いておいて(笑)、完全に自由を制限された環境で、人間の心身はどうなっていくのか?
でも、息子リノには、それが生まれつきの環境。まったく不自由を感じていないのです。
「井の中の蛙、大海を知らず」という諺がありますよね。世界が狭いことを憐れむ喩えで使われます。
でも、ボクはいつも思うんです。一生、井の中なら、蛙は可哀想でもなんでもない。だって、そこしか知らないのだから。
ところが一度大海を知ってしまった後に、再び井の中に戻されたとしたら…。それは悲劇でしょう。
そんな映画です。
ピンクの雲は消える気配もなく、なるほどと思わせるラストシーンが待っています。劇場で確かめて下さい。
前述の突っ込みどころが、気になり出すと気になっちゃう(笑)。フィクションだと割り切ってご覧あれ。★3つ。
『ピンク・クラウド』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.1.19
『キラーカブトガニ』★★
『シャドウプレイ 完全版』★★★
『母の聖戦』★★★
『まくをおろすな!』★★★★
『野獣の血』★★★
(満点は★★★★★)


今週紹介する作品の中に、ノワールとか、クライムという言葉が多く出てきます。
ノワールはフランス語で、闇社会や犯罪者の目線から、人間の悪意、差別、暴力を描き出したものを指し、一方のクライムは英語で、犯罪や罪の意味。
どちらも、裏社会の欲望渦巻くストーリーを描いた作品に用いられる言葉です。頭の中に置いておいて下さいね。
さぁ、今週は5本です!


『キラーカブトガニ』は、カナダ製作のパニックムービー。

カリフォルニアの、とある海辺の町。
廃炉となった原発の爆破処理が行われると、その後、たくさんの人が行方不明となり、その行方不明者と見られる白骨化した遺体が、数多く発見されるようになります。
最初はサメの仕業かと思ったのですが、クジラが襲われたりもしたので、サメではないと。では、何が暴れまわっているのか、地元警察も頭を抱えます。
しかし、犯人の正体がわかるのに、さほど時間はかかりませんでした。
なんと、放射能を浴びたカブトガニが突然変異。狂暴性を持って、次々と人間を襲っていたのです。
中には、ゴジラ並みの大きさのカブトガニまで現れ、このままでは町が壊滅してしまいます。
果たして、このピンチを救うことはできるのでしょうか…。

ご存じ、エクストリームの配給作品。
馬鹿馬鹿しさ満載ですが、それもこのレーベルの魅力のひとつですもんね。
あまり多くは語りません(笑)。マニアの方は是非!★2つ。
『キラーカブトガニ』公式サイト


『シャドウプレイ 完全版』は、2019年に公開された中国映画の完全版。

2013年、広州の再開発を巡り、賠償に不満を持つ住民が蜂起。説得に入った開発責任者のタンが、建物の屋上から転落死してしまいます。
自殺と他殺の両面から捜査が始まり、担当するのはヤンという若い刑事。調べていくと、不動産開発会社の社長ジャンは、タンとタンの妻のリンとは大学時代からの友人で、その頃、ジャンはリンと恋人関係にありました。
しかし、リンはジャンではなく、タンと結婚。ふたりの間には、ヌオという娘がいたのです。
一方のジャンは、台湾のキャバレーの歌手だったアユンと知り合い、ビジネスパートナーにするのですが、今ではアユンは失踪、行方不明になっています。
この人間たちが、事件のカギを握っているとヤンは確信するんですね。
ところが、ヤンは何者かにハメられ、逆に追われる立場になってしまったのです。
タンの死は、自殺か他殺か。殺されたとしたら、犯人は一体誰なのか。事件の発端は1989年にまでさかのぼるのでした…。

2017年春に完成したものの、検閲で何度も修正を命じられ、多くの部分をカット。それでも、自国中国で大ヒットとなったノワールサスペンス。
今回はそれを129分の完全版として、新たに公開の運びとなりました。
中国の市場経済が発展した90年代。続く2000年から中国バブルが始まりますが、その光と闇。人としての大切な部分より、金や物への欲望が勝っていた時代の人間模様を描いた作品です。
哀しみがスクリーンを覆う。そんな1本だと思います。★3つ。
『シャドウプレイ 完全版』公式サイト


『母の聖戦』は、メキシコの誘拐犯罪の現実を描いたクライムミステリー。

メキシコの北部の町に暮らすシエロはシングルマザー。10代の一人娘、ラウラとのふたり暮らしです。
年頃のラウラはメイクに余念がなく、今日は彼氏とデートだと言います。家を出る娘に、気をつけてと声を掛けるシエロ。それがラウラとの最後の会話になるとは、想像もしていませんでした。
帰宅しない娘を心配するシエロは、ラウラの恋人に電話。すると、今日はキャンセルしたとの返事。嫌な予感に怯えるシエロに、脅迫の電話が入ります。ラウラを誘拐したと言うのです。
愕然としたシエロは、別れた夫の元へ急ぎ、身代金を用意して欲しいと頼むのですが、満額用意せずに犯行グループと接触。怒りに火をつけたのか、要求はエスカレートします。
とにかく娘の命だけはと願うシエロ。警察に届け出ても、何もしてはくれません。
ならば自分で娘を助けようと、シエロは自ら犯罪組織と戦うことを決意するのですが…。

メキシコの誘拐件数は、推定で年間6万件だとか。
このうち、警察に届け出たりして表沙汰になったのは数%。そのほとんどが、報復を恐れての泣き寝入りだと言います。
実はこの作品、実話に基づくストーリー。監督のテオドラ・アナ・ミハイは、ドキュメンタリー出身で、劇映画はこれがデビュー作。
当初はドキュメンタリー映画として作ろうとしましたが、あまりに危険すぎると断念。フィクションにしたものの、ミハイ監督に話をしてくれたシエロのモデルの女性は後日、自宅の玄関前で殺害されていたそうです…。
ドキュメンタリー出身だけに、映像も実にリアルで。
貧困ゆえの犯罪と、子を思う母の心。どちらからも“壮絶”の二文字が浮かんでくる作品です。★3つ。
『母の聖戦』公式サイト


『まくをおろすな!』は、ミュージカル時代活劇。

五代将軍・徳川綱吉が治める江戸の町。
この日も、吉原の遊廓で心中騒ぎがありました。
ブン太(紀伊国屋文左衛門)とモン太(近松門左衛門)は、客と遊女の亡骸をさっさと運び出し、店主に手際のよさを驚かれます。
それもそのはず。実はこの心中、ふたりが仕組んだ芝居で、運び出された客と遊女は、そこから新たな生活に踏み出すという、“心中コーディネート”だったのです。
モン太は自身が書いた“心中もの”が大ヒット。実際の心中を焚き付けたとされ、大阪を出て東京へ。罪滅ぼしじゃないけれど、この心中劇の台本はモン太が書いていたのです。
ひと仕事を終え、仲間の溜まり場であるどっぐかふぇ「いずもや」に行くと、そこには堀部安兵衛がいて、吉良邸に仇討ちに行くために赤穂浪士が集結すると。ブン太とモン太のふたりは、誰も血を流さない討ち入りの台本を書くからと、安兵衛を説得。計画はうまくいくかに思われたのですが…。

劇団ユニット30―DELUXの舞台を原案に映画化。監督も劇団主宰の清水順二で、これが初の映画監督作品となります。
ブン太にはジャニーズのアイドルグループ、ふぉ〜ゆ〜の諸岡裕貴、モン太にはグラビアアイドルとしても活躍する工藤美桜。
アイドル主演の映画は、そのファンがターゲットゆえ、中身の薄いものも多く、あまり気乗りせずに観たのですが、意外と言っては失礼ですが、よく出来ていて面白かったです。
歴史上の人物が史実の部分も持ちながら、オリジナルストーリーの中で、別のキャラクターを生きる。もちろん、他にも登場人物はたくさんいます。ボクらが知った名前ばかりです。
タイトルは、ブン太のモットーである、「人生の幕は自分でおろすな!」から。
舞台の匂いがプンプンするあたり、これも監督のオリジナリティーだと思います。楽しませてもらいました。★4つ。
『まくをおろすな!』公式サイト


『野獣の血』は、韓国のノワールサスペンス。

1993年、韓国最大の港湾都市・釜山の片隅にある小さな港町クアム。
養護施設育ちで、札付きのワルだったヒスは、クアムの街の裏稼業を仕切るソンに拾われ、ぐんぐんと頭角を現します。
しかし、ヒスの夢はヤクザで出世することではなく、施設時代からの恋人インスクと、島でペンションを経営すること。
「オレとここを出ないか」と言うヒスに対し、「夢は叶わない。ここは世界のドン底だから」と、冷めた口調で答えるインスク。
そんな中、クアムの街の利権に目をつけたのが、ヨンド派と呼ばれる一派で、そこにはヒスの施設からの親友チョルジンがいました。
ヨンドはチョルジンを使って、ヒスを寝返らせようと画策しますが、ヒスが応えるはずもなく。
堅気になるため組織を抜けたいとソンに伝えるヒスでしたが、過酷な運命はそれを許さなかったのです…。

解説によると、1990年に、当時の政権が犯罪組織を一掃する政策を打ち出したと。まさに生き残りを賭けた時代のアウトローたちを描いた作品なんですね。韓国では初登場1位に輝いたそうです。
多くが命を落とすのは百も承知。この人が殺られるんだろうなというのは予測がつくけれど、それがちょっぴり人間くさいキャラクターだったりすると切なくなる。今回も例外ではありませんでした。
でも、この手の映画はそんな人たちが流すおびただしい量の血で成り立っているんですもんね。
観賞後は少々重たい気持ちになってしまいますが、それでもさすがのコリアンノワールだと感じるはずです。★3つ。
『野獣の血』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.1.13
『そして僕は途方に暮れる』★★★
『ひみつのなっちゃん』★★★
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』★★★★★
(満点は★★★★★)


先週紹介した『恋のいばら』ですが、chilldspotが歌う主題歌の「get high」は、お勧めの楽曲です。
実は、この曲の発売前に聴かせてもらう機会があり、ダークでアンビエントな歌世界に「おおっ」と。ボクら世代だと、Coccoとか鬼束ちひろが好きな人なら同じ反応をするんじゃないですかね。若い世代から「違う」と言われないことを祈ります(笑)。
映画と共に、曲にも関心を抱いてみて下さい。今週はそんな映画が、今年最初の満点★5つ。
さぁ、今週は3本です!


『そして僕は途方に暮れる』は、オリジナル脚本の舞台を映画化した“逃避劇”。

菅原裕一はフリーター。
恋人の里美と5年間も同棲していましたが、彼女の話も上の空で、見るのはスマホの画面ばかり。
その裕一のスマホの見方に、里美は他の女の気配を感じ取るんですね。
慌てふためく裕一は、荷物を持って、部屋を飛び出します。逃避劇の始まりです。
おさななじみで親友の伸二のもとに転がり込むも、あまりに身勝手な裕一の態度に堪忍袋の尾が切れた伸二が怒鳴りつけると、裕一は伸二の部屋をも逃げるように飛び出し、バイト先の先輩、学校の後輩など、スマホの中の頼れる人には片っ端から電話をしては、また逃げていく裕一。
遂には、姉に、そして北海道の苫小牧に住む母にも頼りますが、これまた気まずくなって飛び出す始末。
すると、家族の前から逃げていった父親と、10年ぶりに再会します。
「うちに来るか?」
裕一は、父親の言葉を受け入れるのですが…。

2018年に、三浦大輔の作、演出、Kis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔の主演で行われた、同名舞台を映画化。監督、主演を始め、主要メンバーの何人かは、舞台と同じキャスティングだそうです。
公式サイトにも“クズ男”という表現がありますが、本当にどうしようもないのが裕一という男のキャラクターで。
「共感と反感が渦巻く《現実逃避型》エンタテインメント」というキャッチフレーズにも、「反感しかないだろ」と思わせるほど。
ただ、家族の前から逃げた父親のDNAだから、息子も逃げるんだろうなというのは、ある種の“あるある”かもしれません。自分で考えても、思い当たる節は無きにしもあらず。あ、ボクら父子は逃げたりはしませんけど(笑)。
「で、どうなっちゃうのさ?」と結末が気になる方は劇場へどうぞ。衝撃の?ラストが待っています。★3つ。
『そして僕は途方に暮れる』公式サイト


『ひみつのなっちゃん』は、滝藤賢一主演によるドラァグクイーンたちのヒューマンコメディ。

新宿二丁目の店のママ、なっちゃんが亡くなります。
バージンがそれを知ったのは、なっちゃんの店で働くモリリンからの電話でした。
バージンは、今やTVで人気者になっている仲間のスブ子に連絡。3人は突然の出来事に、どうしたものかと頭を抱えることになります。
というのも、なっちゃんは実家の家族にはオネエであることをカミングアウトしていなかったから。
そこで3人はなっちゃんの自宅に侵入。証拠を隠そうと慌てているところに、訃報を聞いて上京したなっちゃんの母、恵子と鉢合わせしてしまうんですね。
「ルームシェアをしている仲間です」とごまかしたものの、「でしたら葬儀にはいらして下さい」と言われ、岐阜の郡上八幡にある、なっちゃんの実家に行かざるを得なくなる3人。
自分たちのオネエを隠し通し、なっちゃんの素性をバラすことなく、無事葬儀を終えることができるのでしょうか…。

意外や、滝藤賢一にとっては、これが劇場用長編映画としての初主演作になるそうです。
その滝藤賢一がバージンを、渡部秀がモリリンを、前野朋哉がスブ子を演じ、カンニング竹山がなっちゃんに扮します。
郡上八幡までは車で行くのですが、途中、トラック運転手に色目を使われたり、立ち寄ったスーパーの若い男の子の店員が気になって仕方なかったりと、まさに“チン道中”のロードムービー。
タイトルにあるなっちゃんが、映画の中で主役を張らないのが、逆に面白いなぁと。
華やかさの裏に、少しの悲哀がある世界。だからこそ、人の情や優しさを描きやすいテーマなのかもしれません。ポッと心が温かくなる作品です。★3つ。
『ひみつのなっちゃん』公式サイト


『モリコーネ 映画が恋した音楽家』は、イタリアの映画音楽の至宝、エンリオ・モリコーネのドキュメンタリー。

2020年7月、91歳でこの世を去った、映画音楽の巨匠、エンリオ・モリコーネ。
『荒野の用心棒』、『夕陽のガンマン』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』、『ミッション』、『ニュー・シネマ・パラダイス』、『海の上のピアニスト』。これらはほんの一部で、手掛けた映画は数知れず。
そんなマエストロの生涯を、本人の語りと、数々の著名な映画人へのインタビューで構成したドキュメンタリー映画です。
監督は『ニュー・シネマ・パラダイス』(88年)のジュゼッペ・トルナトーレ。
『ニュー・シネマ・パラダイス』については、一度映画音楽から離れようと決めたモリコーネが脚本を読んで感動し、是非音楽を書かせて欲しいと、まだまったくの無名だったトルナトーレ監督に自ら申し出たということで、それからは友人として長年の付き合いになったそう。
カメラの前で心を開いて話しているのも、ふたりの関係性があればこそなのでしょう。お茶目で人間くさい、モリコーネの素顔を知ることができます。
トランペッターの父を持つモリコーネは、父の指示のもと、クラシックを学ぶための音楽院に進学しますが、オーケストラの道へは進まず。選んだのは作曲、編曲の面白さ。それをいかんなく発揮できたのが映画音楽でした。
偶然にも、『荒野の用心棒』(64年)は、小学校の同級生だったセルジオ・レオーネが監督した映画で、それからふたりは数多くの作品で“共演”することになります。
しかし、モリコーネの心の奥底には葛藤があったと言います。
当時、映画音楽は、モリコーネが学んできた音楽の世界においては亜流であり、それはモリコーネ自身もわかっていたから。
それでも、映画の持つ何かが、彼を突き動かしたのでしょう。モリコーネの才能は高い評価を得、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(84年)では、「商業音楽に魂を売った」と酷評していた昔の学友が、モリコーネの素晴らしい音楽に心を打たれ、素直に謝罪をしたというエピソードもあるぐらいで。
一方、アカデミー賞に何度もノミネートされながら、その度に受賞を逃してきたモリコーネは、自分の音楽を理解してもらえないならと、映画音楽から離れようとしたこともあったと言います。
それでも作品のラッシュ(音声の入っていない未編集のもの)を観て素晴らしいと感じると、音楽を書きたくなる。「映画音楽は“現代音楽”だ」と言わしめるほどに、映画音楽を芸術として昇華させたのは、間違いなくモリコーネの偉業によるものでしょう。
後進のハンス・ジマーは語ります。
「モリコーネの音楽は、人々の人生を彩るサウンド・トラックだ」と。
まさに、その通りだと感じます。
ベートーベンやショパンといったクラシックの大家の音楽がいつまでも聴き継がれるように、エンリオ・モリコーネの音楽も、時代を超えて、永遠に人々の心に残ると確信します。
この映画を観たら、改めて彼の手掛けた作品を、音楽を意識しながら見直してみたくなること受け合いです。
新年早々、素晴らしい作品に出会えました。
ここに書き切れない魅力がたっぷり。人生の勉強になることもいっぱい詰まった1本です。もちろん満点!★5つ!
『モリコーネ 映画が恋した音楽家』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2023.1.5
『カンフースタントマン 龍虎武師』★★★★
『恋のいばら』★★★
『ドリーム・ホース』★★★★
『非常宣言』★★★
『ファミリア』★★★
(満点は★★★★★)


2023年最初の映画紹介です。
昨年は198本。残念ながら、200本の大台には届かずでしたが、それでも自己最多は更新したので、映画的には満足の1年でした。
今年も心揺さぶる作品に出会えるのを楽しみに!
さぁ、今週は5本です!


『カンフースタントマン 龍虎武師』は、ドキュメンタリー。

ブルース・リーのカンフー映画が世界中で大ヒット。香港のアクション映画が注目の的になった1970年代。
その後も、ジャッキー・チェンやジェット・リーなど、ハリウッドでも人気の俳優を輩出しますが、そのアクション大作の裏には、身の危険をも顧みない数々のスタントマンがいたというお話。
そんな香港映画のスタントマンたちにスポットライトを当てたのがこの映画で、「龍虎武師」の“武師”はスタントマンのこと。つまり、直訳すると“ドラゴン・タイガー・スタントマン”。それほどに勇猛果敢なスタントマンがいたということなんです。
京劇にルーツを持つ、香港のスタントマンは、京劇のブームが下火になったことで、活躍の場をスタントに移行。激しい競争を勝ち抜いてこそ仕事にありつける世界ゆえ、彼らは決してNOと言わない、強い精神力を身につけるようになるんですね。
とはいえ、体の強さには限界が…。
伝説のスタントマンたちが自身のスタントを語るのですが、その映像のすさまじいこと!死んじゃいますって。
実際、大怪我を負ったことも数知れず。それをケロッと笑いながら話すのですから、驚きです。
正月のTVで「衝撃の映像スペシャル!」みたいなのをやってましたが、その手が好きな人には、こっちのほうがオススメです。ビルの8階から飛び降りるんですよ。“衝撃”は何倍も、何十倍もありますから。
『燃えよデブゴン』で知られるサモ・ハン・キンポーは、監督としては厳しいんですね。でも、そんなサモ・ハン監督に声を掛けられることを誇りに思うスタントマンたち。
出演者や取り上げる作品等、詳細は添付の公式サイトに委ねます。覗いて興味を持ったら、ぜひ劇場へ!★4つ。
『カンフースタントマン 龍虎武師』公式サイト


『恋のいばら』は、奇妙な男女の三角関係の物語。

図書館で働く桃は24歳。
カメラマンの健太朗という恋人がいましたが、最近フラれたばかり。
それでも彼のことが気になる桃が、インスタで健太朗をチェックしていると、どうやら新しい彼女ができたよう。
その子の名前は莉子。ダンサー志望の今ドキ女子で、あか抜けない桃とは正反対。
すると桃は、莉子のインスタからよく行く場所を導きだし、莉子に直接会いに行ったのです。
健太朗の元カノだと自己紹介をする桃。いぶかしげな対応をする莉子に、桃は言います。
「リベンジポルノって、知ってます?」
桃は、健太朗のパソコンに残っているだろう、自分のあられもない写真を消したいだけだと莉子に話します。
初めは相手にしなかった莉子でしたが、自分も思うふしがないわけではなく。次第に健太朗の女性関係のだらしなさにも気付いた莉子は、パソコンのパスワードを盗み見ることに成功。遂には、桃と一緒に健太朗の部屋に忍び込み、パソコンを開こうとするのですが…。

ピンク映画出身の城定秀夫監督が、桃役の松本穂香、莉子役の玉城ティナのW主演で撮った、ちょっぴりアブノーマルな恋愛映画。興味津々で観ちゃいました。
期待したほどの過激さはなかったのですが(笑)、あとで公式サイトを見てみたら、オリジナル作品があると。それは2004年の香港映画『ビヨンド・アワ・ケン』。
その映画は観たことはありませんが、やはりリベンジポルノを巡るストーリーだったよう。
ある種のジェラシーと、こらしめの行動ですよね。
ボクも自分で認める相当な焼きモチ妬きですが(笑)、彼女の携帯は一度も見たことがありません。だって、見たっていいことなんて、ひとつもないでしょ。
だから、彼氏のパソコンは開いちゃダメなんだって。なんて言ったら映画にならないか(笑)。
「恋人同士では観ないでください」が、この映画のキャッチコピー。いやいや、恋人同士で観て語り合ってみてはいかがです?★3つ。
『恋のいばら』公式サイト


『ドリーム・ホース』は、イギリスの実話に基づく競走馬のお話。

イギリス、ウェールズ地方の小さな村。昔は炭鉱の町として栄えていましたが、閉山した今はさびれる一方。
ジャンは夫のブライアンと、この村で二人暮らし。
今では夫に何を言っても空返事。ジャンは、昼はスーパーでレジを打ち、夜は労働者向けのバーで働き、さらには高齢の両親の面倒を看て過ごす毎日。何も変わらず、何の刺激もなく。出るのはタメ息しかありませんでした。
そんなある日のこと、バーにいた税理士のハワードが、競走馬で稼いだ話をしていました。
それを聞いて、ジャンが閃いたのは共同馬主。ひとりじゃ無理でも、たくさんで持てばなんとかなる。
競馬について徹底的に調べたジャンは、村人たちを誘って繁殖牝馬を購入します。
参加したのは、22人の村人たち。種牡馬を選び、種付けをして、産まれた馬にドリームアライアンス(夢の同盟)という名前をつけるんですね。
ジャンは持ち前の行動力で調教師も見つけ、預託先を確保。
そうして調教を積まれたドリームアライアンスが、いよいよデビューの日を迎えたのです…。

このドリームアライアンスは、実在した障害レースの馬。
2009年に、ウェルシュ・グランドナショナルというGVのレースを勝って、ドキュメンタリー映画にもなり、2015年のサンダンス映画祭では観客賞も受賞しています。
実話ですから何もケチはつけられないのですが、これは稀に見る成功例。
極端な言い方をすれば、宝くじに当たったようなもの。一口馬主歴、ン十年のボクが言うのですから、間違いない。これもまた“実話に基づく”です(笑)。
ただ、もうひとつ間違いないのは、この映画のキャッチフレーズにもある「欲しいのは儲けじゃない。胸の高鳴り」という言葉。
あ、いや、ボクは儲けも欲しいかな(笑)。
事実、中央競馬の馬主で、黒字は僅かに4%と言われます。
「じゃ、何で馬主なんてやってるの?」
競馬を単なるギャンブルだと考えている人は、みなさん、そう言います。
その答えがこの映画にある…かな(笑)。
日本と違って、レースの賞金がさほど高くないヨーロッパの競馬。ドリームアライアンスが稼いだ賞金も、総額で137000ポンド。週に10ポンドの出資金で、出資者ひとりあたり1430ポンドの配当だったそう。これは映画のラストにテロップで出てきます。1ポンドが157円だとして、手にした配当は22万4510円。計算してみれば、預託料等は差し引いた金額だと思われますが、それでも人生が変わるような大金を手にしたわけではない。そう、やっぱり得たのは「胸の高鳴り」なんですョ。わかるなぁ(笑)。
夢や楽しみ、打ち込めることを見つけることが、人生において、どれほど大切なのかを教えてくれると思います。
もし、この映画を観て、競馬に興味を持ったなら、まずはこの1冊。拙著『究極の競馬ガイドブック』をお勧めします!
って、宣伝かいっ(笑)。★4つ。
『ドリーム・ホース』公式サイト


『非常宣言』は、韓国のパニック映画。

韓国・仁川空港からハワイのホノルルに向かう、スカイコリア501便。
空港には、この飛行機に騎乗予定の父と幼い娘がいました。パク・ジェヒョクとスミンです。
ジェヒョクは極度の飛行機恐怖症でしたが、スミンのアトピーを考えてのハワイ行きです。
一方、ベテラン刑事のク・イノは、妻から旅行に誘われるも、仕事を理由に断ると、皮肉たっぷりに責められる始末。実は、イノ刑事の妻も、この便でハワイに向かう予定でいました。
空港のロビーで、ジェヒョクとスミンに執拗に絡んでくる男がいます。男の名はリュ・ジンソク。その場はなんとかやり過ごしましたが、なんと同じ便にジンソクが乗り込んできたではありませんか。見つからないように身を屈めるジェヒョクとスミン。
その頃、韓国国内では、1本の動画が話題になっていました。それは航空機へのバイオ・テロの予告動画です。
ここに映っている男を知っていると通報を受け、イノ刑事たちが向かった先で発見したのは、ビニールでグルグル巻きにされた遺体と、モルモットを使ったウイルスの実験ビデオでした。犯人の名は、リュ・ジンソク。そう、機内にいるあの男です。
バイオ・テロが嘘ではないと確信したイノ刑事は、狙われた旅客機に妻が乗っていると知り愕然とします。
離陸から30分後、ひとりの男性客が変死すると、体調の悪化を訴える乗客やCAが続出。
異変に気付いた乗客がスマホを操作。するとSNSでは国内が騒然となっていて、バイオ・テロの標的がこの便であることを知り、機内は瞬く間にパニックに陥ったのでした…。

航空機が緊急事態を宣言した場合、着陸に対して何よりも優先権があるそうで、空港のみならず、基地などへの着陸も認められる場合があると。タイトルの『非常宣言』は、それを表しています。
ところが、未知のウイルスに感染した航空機ですから、そう簡単に「どうぞ、降りて下さい」とはいかないわけで。
ましてや、操縦竿を握る機長や副機長にも、感染の可能性がある。操縦不能になれば、墜落の危険性だってあります。
殺人ウイルスを撒き散らすリュ・ジンソクという男は何者なのか?なぜそんなことをするのか?
それは意外とすぐに明らかにされます。
実は過去のあるジェヒョクにイ・ビョンホン。ク・イノ刑事にソン・ガンホ。韓国の人気俳優が共演したこの映画、パニックになった時に出る人間の本性もまた恐ろしいと描きます。とはいえ、自分だったら冷静でいられるかと言えば、自信はまったくありません。
どこかコロナウイルスの
蔓延初期を思わせる1本。あの頃、人を変な目で見ていませんでしたか?
高度28000フィートのパニック映画。ハラハラドキドキの141分です。★3つ。
『非常宣言』公式サイト


『ファミリア』は、在日ブラジル人と日本人家族の物語。

陶芸を生業とする神谷誠治。
児童養護施設に育ち、若い頃はやんちゃだった誠治でしたが、そんな彼を変えたのは妻の晶子でした。
しかし、晶子はもうこの世にいません。それでも、一人息子の学は立派に育ち、今では一流企業に勤め、アルジェリアにプラント建設の責任者として赴任していました。
そんな学が、現地で結婚した難民出身のナディアを連れて帰国。幸せそうな二人を見て、誠治は頬を緩めるのでした。
学は誠治に言います。「3ヶ月後に建設は完了する。そうしたら、父さんの跡を継いで、ここで焼き物をやる」。
自身の経験から反対する誠治でしたが、学の決意は堅いよう。
そんな時、怪我を負ったひとりのブラジル人青年が、誠治の家に迷い混んできます。彼の名はマルコス。トラブルを起こし、半グレのグループに追われていたのです。
手当てをするも、礼も言わずに逃げ去るマルコス。
この出来事が、誠治たちがブラジル人コミュニティーと繋がりを持つきっかけとなったのです…。

物語のさわりの部分だけを書いてみました。
この映画の試写は、オンラインではなく映画会社の試写室で観させてもらったので、マスコミ用のプレス資料も、公式サイトの解説よりは深く記されています。
その中で、ノンフィクションライターの安田浩一氏が、在日ブラジル人の歴史と現状を書いていました。
それによると、昔、日本人がブラジルに渡り、日系ブラジル人のコミュニティーができると、今度は日本が労働力を欲しがった。政府が“日系”に特例を出したことで、多くの日系ブラジル人が日本にやってきたと。
彼らは祖先に日本人を持つから、日本に対し親近感を抱いて移住を決めるも、日本人は“ガイジン”としてしか見ず、差別の対象として扱われてきた負の歴史がある。
今でこそ、環境は少しずつ変わりつつあるけれど、この映画に出演しているシマダアランは、ほとんどが在日南米人のラップグループ、GREEN KIDSのメンバーで、ラッパーとしての名はFlight-A。彼はルイという若者の役を演じますが、そのほとんどが自分たちのリアルだと語ります。
人種間の偏見やトラブルを他人事だと考えていると、自らにも降りかかってくることがあります。それは時に直接、時に間接的に。
新年からズシリと重い1本ですが、役所広司、吉沢亮、佐藤浩市といった顔なじみの俳優陣が身近なものとして見せてくれます。知って、考えてみてるには、いい契機になるかもしれません。★3つ。
『ファミリア』公式サイト