週末公開の映画……2022.5.12
『グロリアス 世界を動かした女たち』★★★
『劇場版 おいしい給食 卒業』★★★
(満点は★★★★★)


大型連休が終わり、普通の日常が戻ってきました。
この時期、見られるようになるのが“五月病”。
もし、ちょっとツラいなぁと感じたら、映画でも見てみませんか?
今年に入って、いい作品がたくさん公開されています。もしかしたら、心を癒してくれるかも(^-^)
さぁ、今週は2本です!

『グロリアス 世界を動かした女たち』は、実在の女性活動家の物語。

アメリカのオハイオ州トレドに生まれた、グロリア・スタイネム。
父親は安定した生活を望まない“山師”のようなタイプのセールスマンで、引っ越しも多く、彼女が10歳の時に両親は離婚してしまいます。
大学に入ると、2年間インドに留学。その時、男性に虐げられてきた女性の話を聞くボランティアに参加。その経験がグロリアの心に火をつけ、帰国後はジャーナリストとして、働き始めます。
しかし、社会的なテーマを取り扱いたいのに、女性というだけで任されるのはファッションや恋愛の記事ばかり。
グロリアは思いきって、バニーガール姿の女性が接客をする「プレイボーイ・クラブ」に、自らバニーガールとして潜入。女性を性の売り物にしていると内側からの取材を敢行すると、記事としてはこれが大当り。しかし、今度はそのイメージが先行し、なかなか思うような仕事ができずにいたのです。
それでも、TVへの露出も増え、知名度を上げていったグロリアは、40代になると、志を同じくする仲間と共に、女性のための雑誌「MS.」を刊行。
この雑誌の名前にもなった“MS.”は、未婚も既婚も関係のない、あらゆる女性に使える新たな敬称として、全米に広まっていったのです…。

1960年代から70年代にかけて、女性の権利を訴え、女性解放運動に生涯を捧げてきた、フェミニズム活動家のグロリア・スタイネムの伝記映画です。
劇中、幼少期、少女期、青年期、そして壮年期と、それぞれのグロリアを、4人の女優たちが演じます。中でも、青年期はアリシア・ヴィキャンデルが、壮年期はジュリアン・ムーアが担当。
回顧の中で、時に同じ場面に登場し、当時の自分と今の自分が語り合うシーンは、強い意志を持ちながらも、壁にぶつかり悩む、そんな自分自身を表現しているのでしょう。時代を変える。その先頭に立つ人の宿命…。
映画では、グロリアの周りの女性活動家たちも描いています。
グロリア・スタイネム、現在88歳。
世の中の変化には、こんな女性たちの奮闘があったんだというのを学べる1本です。★3つ。
『グロリアス 世界を動かした女たち』公式サイト


『劇場版 おいしい給食 卒業』は、人気ドラマシリーズの劇場版第2弾。

甘利田幸男は、“給食命”の中学校教師。
前の赴任先だった常節(とこぶし)中学には、神野ゴウという、これまた給食をこよなく愛する生徒がいて、ふたりはその日の献立をいかに美味しく食べるかで、バトルを繰り返していたのです。
新たな赴任先となった黍名子(きびなご)中学でも、給食だけが楽しみな甘利田でしたが、1986年の秋、なんと甘利田のクラスに、神野が転校して来るんですね。
再び始まった“給食バトル”。
一方、常節市の教育委員長だった鏑木が、黍名子市教育委員会に、職員としてやってきます。この鏑木、常節時代は給食廃止を唱えた人物。甘利田とはバチバチの仲です。
すると、突然、給食メニューの改革案が決まったという知らせが届きます。
生徒の健康をより重要視するという建前ながら、あまりに味気ない給食メニューへの改悪に、鏑木の影を感じた甘利田。
受験を間近に控えた神野だって、黙ってはいられません。
おいしい給食の存続を賭けた、熱い戦いが始まったのです…。

前作に引き続き、甘利田幸男役には、いかにも熱い男、市原隼人。
宿敵とも言える神野ゴウとの給食バトルが、神野の卒業で終焉を迎えるのですが、すんなりと卒業とはいかず、大人の事情で一悶着。
ふたりの給食愛が、分厚い壁をぶち壊すことが出来るのでしょうか?というお話。
今回もマドンナがいます。それは学年主任の宗方早苗先生。
ある日、駄菓子屋でバッタリ会ったふたりは、店先のベンチで会話。ところが、まったく酒が飲めない甘利田は、ウイスキーボンボンで、ベロベロに酔っ払ってしまうんですね。そして、宗方先生に何かを言ったようなのですが、まったく記憶がない。
しかし、その日から宗方先生の態度が明らかに違う。男として意識している目に変わっていたのです。
これがもうひとつのサイドストーリー(笑)。
バカバカしいけど、どこか懐かしい。ドラマに留まらず、様々な形に発展していく人気の理由は、そんなところにもあるんだと思います。
公開する映画館の売店も、この作品の上映期間だけは、揚げパンとか、給食にちなんだ商品を売ればいいのに。砂糖がこぼれて掃除が大変かな(笑)。★3つ。
『劇場版 おいしい給食 卒業』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.5.6
『オードリー・ヘプバーン』★★★★★
(満点は★★★★★)


GW、いかがお過ごしですか?
先日、知人が「GWは映画をたくさん観る」と言っていたので、お勧めを数本紹介。すると、「じゃ、ネットで観ます」。
いやいや、それはまだ劇場公開中だから(笑)。
「過去の作品なら、ボクの公式サイトのColumnからMovieを選べば、昔の紹介コラムを読めるョ」と伝えておきました。
あなたもよかったら、活用して下さいね!!
映画の鑑賞方法も様々。“時代”ですね(笑)。
さぁ、今週は1本です!

『オードリー・ヘプバーン』は、世界的大女優のドキュメンタリー。

1929年5月4日、ベルギーのブリュッセルに生まれた、オードリー・ヘプバーン。 幼少期は、第二次世界大戦と家庭の事情から、ヨーロッパのあちらこちらを、転々として暮らします。 中でも影響を与えたのが、オランダ時代。 実は父親が家族を捨てて出ていっており、母はドイツの侵略から逃れようと、第一次世界大戦では中立国だったオランダを選んだのですが、そこにもドイツが進攻。オードリーは、家族や親戚の処刑、追放、収監などを経験し、自らも栄養失調に苦しみます。 その時、彼女を助けたのがユニセフの前身となるUNRRAでした。 終戦後、バレエを始めたオードリーは、舞台俳優へと転身し、映画にも出演するようになると、ブロードウェイの『ジジ』の主役に抜擢。 さらにパラマウント映画『ローマの休日』の王女役で、一躍世界中の人気を集めることになります。 以後の華々しい活躍は、衆知の通りですが、そのひとつひとつにエピソードがあり、この映画では、オードリーの息子や孫、映画関係者はもとより、家族ぐるみで親しかった友人たちのインタビューもふんだんに用いられていて、真のオードリーの素顔をうかがい知ることが出来ます。 70年代以降、一時期、一切の仕事を離れ、子どもとの生活を選ぶのですが、そこにあったのは、自身が体験出来なかった“理想の家族像”、つまり、愛に溢れた家庭を作りたいという思いがあったんだと言います。 2度の結婚、そして2度の離婚。これも、ハリウッドの人気スターが、くっついては離れ、離れてはくっつくのとは違って、理想を追い求めた結果の離婚だと映画では語られています。 そんなオードリーが、晩年、人生を捧げたのが、ユニセフでの活動でした。 スクリーンから遠ざかり、ゆっくり休むどころか、貧困に苦しむ子どもたちを救いたいと、紛争地やアフリカの貧しい国を精力的に回る彼女は、今まで以上に多忙になります。 そこには、自身が幼少期に助けてもらった記憶があるから。「今度は自分が助ける番」という思いから、立ち上がらずにはいられなかったんですね。 ずっと欲しかった父親からの愛、温かい家庭。そして、平和、貧困のない世界。 世界中から愛されてきたオードリー・ヘプバーンが、実は最も愛に飢えていた。それを一生追い求め、それでも最後の最後まで、愛を与える側で生き抜いた。彼女の素晴らしい生きざまを知ることの出来る1本です。 1993年1月20日没。 これだけの大スターですから、様々な伝記本が出ていますが、「いい加減なものばかり」なんだそう。そんな中、「この作品は、母が目一杯生きた人生の真実の物語」だと、オードリーの長男がコメントを寄せています。 人は大小にかかわらず、何かしら使命を持って生まれてくるのかなと、そんな運命のようなものすら感じてしまう、オードリー・ヘプバーンの一生。是非、体感してみて下さい。 満点!★5つ!
『オードリー・ヘプバーン』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.4.28
『N号棟』★★★
『ツユクサ』★★★
『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』★★★★★
『不都合な理想の夫婦』★★★
(満点は★★★★★)


いよいよ、ゴールデン・ウィーク。
今年は、5月2日(月)と6日(金)を休むと、最長10連休だとか。
ボクもだいぶイベントの仕事が戻ってきましたが、それでも時間が作れそう。なので、たくさん送って頂いたオンラインの試写をまとめて観たいと思ってます。
あなたも映画館に是非!
さぁ、今週は4本です!

『N号棟』は、実話をモチーフにしたホラー映画。

史織は女子大生。彼女は、死に対して過剰に恐怖を感じる“タナトフォビア”という、心の不安症を抱えていました。
史織の元カレである啓太が、卒業制作にホラー映画を撮ると聞き、準備のロケハンに軽い気持ちで同行する史織。
ロケ地はかつて霊が出ると話題になった、ある地方都市の団地です。
この旅には、啓太の今の恋人で、史織の友だちでもある真帆も一緒でした。
廃墟と聞いて訪れたのに、敷地内に足を踏み入れたら、住人がいることに気づいた3人。
管理人を名乗る男性に、「引っ越したくて、部屋の内見に来た」と咄嗟の嘘をつく史織たち。
すると、快く空き部屋に通してくれて、周りの住人も気持ちよく挨拶をしてくれます。
しかし、この部屋は、明らかに何かがおかしい。
ラップ音、謎のシミ、そして異臭。
その夜、歓迎会を開いてくれた住人たちに、「実は、内見ではなく、ホラー映画を撮るために来た」と真実を語ると、皆の態度と表情が一変したのです…。

なかなか面白かったです。
ホラー映画ですが、監督の死生観が描かれているよう。
ちょっぴり宗教的な表現も借りながら、物語は終末を迎えます。
ネタバレが一番まずいタイプの映画なので、多くは語りませんが、団地の住人のリーダー的な存在として、加奈子という女性がいるんですが、この加奈子が笑って人を刺すようなタイプというか。
これがストーリーの不気味さに加え、背景にある論理の説得力みたいなものを醸し出している気がしました。カルト集団のトップは、意外とこういう人なんじゃないのかなぁと。
ちなみに、モチーフになったのは、岐阜県富加町にある実在の団地で、“幽霊団地事件”として2000年に話題になったそうです。★3つ。
『N号棟』公式サイト


『ツユクサ』は、ささやかな大人の日常を描いた、それでもちょっぴりドラマチックな物語。

五十嵐芙美、49歳。独身。
とある田舎の港町にある、タオル工場で働いています。
実は、芙美は息子を亡くしていて、お酒に溺れた自分に勝とうと、断酒の会に入っていました。
職場には、気の合うふたりの同僚がいます。櫛本直子と菊地妙子。
直子には10歳になる、息子の航平がいるんですが、この航平が芙美の大親友。
ある日のこと、宇宙から隕石が降ってきて、その小さな欠片が芙美の運転する車にぶつかり、転倒してしまうんですね。
幸い、芙美に怪我はなかったのですが、望遠鏡を覗き込むのが大好きな航平は、「すげー。芙美ちゃん、隕石にぶつかる確率は一億分の1なんだぜ!」と大興奮。
そんな出来事があったにもかかわらず、何も変わらぬ日々を過ごしていた芙美でしたが、ある日のこと、行きつけのスナックでソフトドリンクを飲んでいると、ジョギングをしている道でよくすれ違う、工場現場のガードマンの男性とバッタリ。
そこから熟年男女の、ぎこちないやりとりが始まるのです…。

平山秀幸監督最新作。
芙美に小林聡美、恋心を抱く篠田吾郎に松重豊。他にも、そうそうたるバイプレイヤーたちが、脇を固めています。気になるキャストは、公式サイトでチェックしてみて下さい。
登場人物は、航平を除いて、みんな熟年の男女ばかり。これまでの、ひとりひとりの人生に、喜びもあれば傷もある。いや、10歳の航平にも、すでに悩みはいろいろあって(笑)。
でもね、人はまだまだ前を向いて、生きていかなきゃいけない訳ですよ。
映画の冒頭で、隕石の話になるので、SFチックな話かと思いきや、そうじゃない。おそらく、そんなスペシャルに思える偶然も、生きていく上で起こる様々な出来事や出会いも、同じぐらい特別な奇跡なんですよ、ということを表現したかったんじゃないのかなと。
ちなみに、ツユクサは、吾郎が得意な草笛を吹く時に用いる葉っぱです。
今までも、これからも、最後までいろいろあるのが人生。だから人生は面白い。キャッチコピーにあるとおり、“大人のおとぎ話”だと思います。
エンディングに流れるのが、1969年の中山千夏「あなたの心に」。平山監督、ナイスチョイスです!★3つ。
『ツユクサ』公式サイト


『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』は、コロンビア出身の人気芸術家、フェルナンド・ボテロの半生を追った伝記映画。

1932年4月19日、コロンビアに生まれた、フェルナンド・ボテロ・アングーロ、90歳。今も現役の芸術家です。
一度見たら、絶対に忘れることのない、“ぽっちゃり”、“ふくよか”な作風で大人気の世界的画家、彫刻家です。
そんな彼の、これまでの波瀾万丈の人生を追いかけたドキュメンタリー映画が、この作品。
10代半ば、闘牛士の養成学校へ通っていたボテロ少年でしたが、熱中したのは闘牛の絵を描くことでした。
すると、闘牛士は向いていないとイラストレーターになり、なんとか食いつないでいきます。
節約を重ね、お金を貯めてヨーロッパに渡ると、スペインからイタリアへと渡り歩き、著名な画家の絵を見たり、大学で理論を学んだりしながら、絵画への造詣を深めていくんですね。
お金が底をつくと、コロンビアへ戻り、今度はメキシコへと移住。
アトリエで、楽器のマンドリンを描いていた時のこと。丸々と大きなマンドリン描き、開口部を意識的に小さく描いたら、「マンドリンがとてつもなく大きく膨れ上がって、爆発したような感覚を得られた」と言います。
これが、彼の一生の作風を決定づけた出来事でした。
見たことありませんか?ぽっちゃりのモナリザの肖像画。
ぷっと小さく吹き出しちゃうけど、小馬鹿にしているわけじゃなく、幸せな気分になって、つい口から出ちゃう。多くの人が、そんな感じで彼の作品を眺めているはずです。
そんなボテロにも、つらい出来事がありました。
息子をひとり、事故で亡くしているんですね。
それが創作意欲にどう繋がったのか。作品に込められることになった思いとは?
そのあたりを知って、彼の絵画や彫刻を眺めると、また違った発見があるのかも。
ボテロの作風は、その名前から“ボテリズム”と呼ばれていますが、日本語として聞くと、まさにふくよかさを言い表すかのよう(笑)。日本に不思議な縁があるのかもしれませんョ。
実は、映画の公開日と同じ4月29日(金)から、Bunkamura ザ・ミュージアムで、26年ぶりとなる『ボテロ展 ふくよかな魔法』(7月3日まで)が開催されます。
映画はBunkamuraル・シネマでの公開ですから、映画を観てから、ボテロ展に行くのがお薦め!GWに是非!
こういう絵を、笑顔で眺めていられる平和な世の中であることを切望します。
今こそ、フェルナンド・ボテロかも。満点!★5つ!
『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』公式サイト


『不都合な理想の夫婦』は、成功を掴んだはずの夫婦の崩壊を描いた心理スリラー。

時代は1986年。イギリス人のローリーは、ニューヨークに渡り、貿易商として成功。
アメリカ人の妻アリソンと、彼女の連れ子である娘のサマンサと、ふたりの間に出来た息子のベンジャミンとの4人で、裕福な暮らしを送っていました。
しかし、現状に満足しないローリーは、イギリス経済が好況だと知ると、ロンドンへの移住を提案します。
新しい職場は、かつての上司が経営する企業。ローリーは成功者として会社への復帰を歓迎されるんですね。
郊外に豪邸を借り、ベンジャミンを名門校へ通わせ、妻には趣味である乗馬用の土地と馬を用意し。
しかし、意外と早く、ほころびが見え始めます。
馬舎の工事が進まないことを不審に思ったアリソンが、業者を問い詰めたところ、工事代金が支払われていないというのです。
実は、ローリーの資金は底をついていたのです…。

仕事が出来るようで、中身はペラペラなやつ。
成功者のようでいて、見栄を張りたいだけの人。
優しいふりをして、腹の中では自分のことしか考えていない人間。
あなたの周りにも、いませんか?
すべてがあてはまってしまうのが、ジュード・ロウ演じる、このローリー・オハラという男なんですね。
夫婦の崩壊は、すなわち家族の崩壊。“4人家族”ですが、サマンサはアリソンの連れ子です。言わんとしていることは、なんとなく察知してもらえるかと思います。
そんな心の内も、ローリーのある行動に表れていて。
気づかないうちに(気づけよって感じですが)、究極の孤独を自ら作り出してしまったローリーと、そんなパートナーを選んでしまったアリソン。そして、親を選べない子どもたち。
観ているこちらも、どんどん暗い気持ちになっていきます。
じゃ、この先、この家族がどうなっていくのか?
そのヒントは、ラストシーンにあるとボクは見ています。言いたいけど、言わない。言えない(笑)。
そんなあれこれが、劇中のあちらこちらに散りばめられている、パズルのような心理スリラーでもあります。
感情移入しすぎず、謎解きを楽しむように観るのがいいかもしれません。★3つ。
『不都合な理想の夫婦』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.4.22
『KKKをぶっ飛ばせ!』★★
『ZAPPA』★★★
『パリ13区』★★★
『ベルイマン島にて』★★★★
(満点は★★★★★)


GWが近づいてきました。
もう予定は立てましたか?
まだ旅行はちょっと…という方、映画館に足を運んでみてはいかがです?
そもそも“ゴールデンウィーク”という言葉は、映画業界の造語ですからね。
このコラムで興味を持った作品があったら、大きなスクリーンで是非!
意外や映画館って、非日常を与えてくれる場所だと思いますョ。
さぁ、今週は4本です!

『KKKをぶっ飛ばせ!』は、TOCANAの配給作品。

1971年、アメリカのテネシー州。
無実の罪で収監されていた、若き黒人男性のブランドンが、刑務所から脱獄。
兄のクラレンスと姉のアンジェラが、車に弟を乗せ、郊外にある今は廃墟となった牧場に身を潜めさせます。
ところが、そこは白人至上主義の秘密結社、KKKの活動拠点。
その一派は、KKKの中でも異常な集団で、黒人を捕らえては殺害し、その肉を食べていたのです。
白ずくめの男たちに襲われるブランドンたち。兄は命を奪われ、姉は暴行を受けます。
拘束からなんとか抜け出したブランドンは、姉を助け出すことに成功します。
そこから、姉弟ふたりの逆襲が始まったのです…。

TOCANAの映画は最近、人肉喰いばかり(笑)。
タイトルからちょっぴり期待し、ポスター画像からB級感を察知し。
いかにもTOCANAらしい作品だなと。
あ、もちろん、いい意味でですョ。だって、これが独自のカラー、オリジナリティですから。
“リベンジ・バイオレンス巨編”とのキャッチコピーがありましたが、マニア向けの、まさにそんな1本。
★の数は少ないですが、TOCANAの映画には、それが勲章になりつつあるんじゃないかと思い始めた、今日この頃です(笑)。★2つ。
『KKKをぶっ飛ばせ!』公式サイト


『ZAPPA』は、アメリカの世界的人気ロック・アーティスト、フランク・ザッパの生涯を描いたドキュメンタリー。

1940年12月、アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモアで生まれた、フランク・ヴィンセント・ザッパ。
12歳でドラムを始め、17歳でギターを持つと、自らのバンドを組んで演奏活動を始めます。
64年に、ザ・ソウル・ジャイアンツに加入。翌65年、バンド名をザ・マザーズ・オブ・インヴェンションに変え、MGMと契約。66年、アルバム『フリーク・アウト』でデビューを果たします。
68年にアルバム『ランピー・グレイヴィ』でソロ・デビュー。続く69年の『ホット・ラッツ』は、イギリスでヒット。70年に入ると自らのソロ活動に力を入れ始めます。
彼の音楽は、商業的観念とはほど遠く、スマッシュ・ヒットと言えば、娘のムーン・ザッパと共演した「Valley Girl」(82年)ぐらい。
何のために音楽をやるかというと、「自分が作曲した曲を自分で聴きたいからだ」と言います。
そのためには最高のミュージシャンを集め、その演奏を録音する必要がある。「聴きたかったら聴かせてあげるよ」。それがレコードだと言うのです。
ですよね?ファンの皆さん?(笑)。
というのも、ボクは80年代は専らダンス・ミュージック、ディスコ・サウンドを聴いていたので、フランク・ザッパの曲は、正直、あまり耳にしていませんでした。
ただ、印象には残っていて、ロン毛の変なロックをやるオジサンというイメージ(失礼!)。
でも、この伝記映画を観て、彼の深さというか、音楽に対する一貫した思いを知ることが出来ました。
映画の冒頭、彼の最後のライブ・ステージの映像が流れます。
1989年、当時のチェコスロバキアで“ビロード革命”が起き、民主化を勝ち取った記念に開かれたコンサートです。
そこでザッパは言うんですね。
「新しい変化に直面しても、チェコのユニークさは守っていって欲しい。他のものに変えるんじゃなく、他にはない国のままに」と。
まるで、自身の音楽スタイルそのものじゃないですか。
現地に入った時、本人も驚くほどの熱烈な歓迎を受けるのですが、チェコスロバキアの国民曰く、「フランク・ザッパは自由の象徴なんだ」と。
型にとらわれず、好きな音楽を思うがままに作曲し、演奏し、録音する。「評価は人がする」とよく言いますが、まさに自分の手を離れ、音楽が“人間”フランク・ザッパを投影し、遠く欧州の地で高く評価されたのですから、素晴らしいことですよね。
1993年12月4日没。
その生き方に、ファンでなくても感じ入る何かがあると思いますョ。是非、ご覧になってみて下さい。★3つ。
『ZAPPA』公式サイト


『パリ13区』は、モノクロで描かれた男女4人の恋物語。

パリ13区のアパルトメントに暮らす、台湾系フランス人のエミリー。
ルームシェアの相手を募集したところ、アフリカ系フランス人のカミーユがやってきます。
カミーユは高校教師をしている男性で、「さすがに男性は…」と断るエミリーでしたが、カミーユに押されてルームメイトになります。
すぐに身体の関係を持ち、彼に熱くなるエミリーに対し、カミーユはあくまでルームメイトと突き放します。
その頃、もう一度しっかり法律を学びたいと、大学に復学したノラという女性がいました。
年齢差もあって、なかなかクラスメートに馴染めずにいたノラでしたが、学生企画のパーティに、思い切って金のウィッグで参加したところ、ネットのポルノサイトで大人気のアンバー・スウィートというポルノスターと勘違いされ、噂が学内に広まってしまいます。
大学に行きづらくなったノラは、アンバー・スウィートと有料サイトで接触。すると、意外なことに、会話が心地いいではありませんか。それはアンバー・スウィートも同様でした。
エミリー、カミーユ、ノラ、アンバー・スウィート。4人の男女の人生の糸が、パリ13区の街で、絡まりあったり、ほどけたり。ドラマを作りながら、日々が過ぎていくのでした…。

パリの13区は、ヨーロッパらしい街並みがある一方で、中華街があったりと、アジア系の住民も多く、右岸の中では最も庶民的な地域だそう。
そこに暮らすミレニアル世代の若者たち。SNSで簡単に人と繋がることは出来るけれど、リアルの関係はなかなか築きづらいんだというテーマが、根底にあるようです。
あらすじとして、関係が始まる部分だけ書きましたが、カミーユが知人の不動産業を手伝っているところへ、ノラがアルバイトとしてやってきます。そして、ノラとカミーユも体を重ねる関係に。
カミーユが去り、コールセンターで働くエミリーは、刺激が欲しいし、出会いが欲しい。
モノクロで描かれると、日常が特別なものとしてストーリー性を増すんだなぁと。
映画『ベルファスト』もそうでしたもんね。
大胆な性描写があり、映倫区分はR18+です。
国や地域は違えど、若者の悩みは世界共通。いや、若者に限らず、大人だって、出会いは欲しいですもんね(笑)。
ちょっと刺激的な海外旅行気分でどうぞ。★3つ。
『パリ13区』公式サイト


『ベルイマン島にて』は、女性映画監督ミア・ハンセン=ラブの半自伝的恋愛映画。

トニーとクリスは、年の離れたカップル。ふたりとも、映画監督です。
幼い娘がいましたが、パートナーとしての仲は倦怠期。脚本の執筆も進まない中、ふたりが尊敬するイングマール・ベルイマン監督が創作活動をし、終の住処にもした、スウェーデンのフォーレ島へとやって来ます。
ここにはベルイマン亡き後、彼の遺志に従い、世界中のアーティストやクリエイターに開放された“ベルイマン・エステート”という取り組みがあり、トニーとクリスもそれを利用して施設に滞在。フォーレ島は、ベルイマン島と呼ばれていたのです。
創作活動のためにと、少し離れた建物に寝泊まりするふたり。関係を前向きに見直すどころか、すれ違いが如実に露呈していきます。
監督としてのトニーに、畏怖すら感じているクリスは、自分の中に出来上がっている脚本をトニーに話し、結末がどうしても作れないとアドバイスを求めるのですが、トニーは「それはボクの役目じゃない」と突き放します。
風光明媚なベイルマン島は、ふたりにどんな未来の筋書きを授けるのでしょうか…。

バルト海にあるフォーレ島。
北欧の美しい景観が、まずは観る者に旅行気分を与えてくれます。
その一方で、破局を予感させる年の差カップルの物語ですから、心象風景にはどんよりした部分もあって。
途中、クリスの作りかけの脚本が、劇中劇として展開するのですが、これがこの映画のもうひとつの核になっているんですね。
友達の結婚式で再会してしまった、元彼との恋愛物語。
“一度目は早すぎて、二度目は遅すぎた”。そんな出会いのストーリー。
あるなぁという感じ(笑)。
ミア・ハンセン=ラブもベルイマン・エステートでフォーレ島に来たそう。実生活では、ふた回りも年上の男性との間に娘をもうけ、そして別れ…。
虚と実が入り交じる様は、最後の最後まで観る人を惑わせるかも。
でも人生って、そんなもんじゃないですか?ってお話です。
鑑賞後に振り返った時、確かに、映画らしい映画だなと。考えれば考えるほど、場面場面を深く掘り下げることが出来るはず。
ビターなチョコレートのような、大人の1本です。★4つ。
『ベルイマン島にて』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.4.15
『ニワトリ☆フェニックス』★★★
『バーニング・ダウン 爆発都市』★★★
『ミューン 月の守護者の伝説』★★★
(満点は★★★★★)


『ミューン 月の守護者の伝説』は、4月19日(火)の公開ですが、ここでご紹介しておきますね。
さぁ、今週は3本です!

『ニワトリ☆フェニックス』は、男ふたりのロード・ムービー。

幼なじみの草太と楽人。
大人になったふたりでしたが、どちらもなにか“訳あり”な雰囲気を漂わせていました。
そんな草太と楽人が、SNSで見た“火の鳥”を探す旅に出ます。
古いアメ車のオープンカーに乗って、あてもなく走る、男ふたり。
途中で出会う風変わりな人、訪れた奇妙な場所。
しかし、そんな旅路の出来事のひとつひとつが、草太と楽人に、人生を教えてくれたのです…。

2018年公開の映画『ニワトリ★スター』の主要キャストが、再び集まった“再構築ムービー”だそう。
主演は井浦新、成田凌。
妖怪スナック、SMの城、客のいない映画館などに立ち寄り、農業ラッパーや僧侶らと出会い。
並行して、ひとりの花嫁の物語が展開するという。
“火の鳥”がいないことなんてわかっている草太と楽人。
この旅は、束の間の現実逃避。
でも、誰にでも、そんな気分になる時ってあるんじゃないでしょうか。
実は、今年2月に伊勢神宮に参拝に行ったのですが、あちこちの店にこの映画のチラシが貼られていて。
これもなにかのご縁かなと思い、試写会に足を運びました。
インディーズらしい匂いのする作品。好きな人はハマると思いますョ。★3つ。
『ニワトリ☆フェニックス』公式サイト


『バーニング・ダウン 爆発都市』は、香港・中国合作のサスペンス・アクション。

爆弾処理班のエース、フォン。
しかし、ある事件現場で、仕掛けられていた爆弾の爆発に巻き込まれ、左足を失ってしまいます。
義足となったフォンでしたが、不屈の精神と鍛練で、以前と変わらない運動能力を取り戻します。
ところが、警察の上層部は、フォンの現場復帰を
認めません。
怒りと共に、フォンは警察を辞めてしまうんですね。
そんな彼が次に発見されたのは、大きなホテルで起こった爆弾テロの残骸の中。重体となったフォンが、この事件の容疑者として、病院に収容されたのです。
警察の尋問を受けるフォン。しかし、彼は記憶を失っていたのです…。

2017年(日本公開は2018年)の映画『SHOCK WAVE ショック ウェイブ 爆弾処理班』のパート2。
どちらも主演はアンディ・ラウですが、完全なる続編ではなく、設定やストーリーはリセットされています。
記憶を失ったフォンのもとに、なぜかやってくる、テロ組織・復生会のリーダー“ブリザード”。
警察官だった自分と、テロ組織の一員になったかもしれない自分。
記憶を失ったフォンは、正義と悪の間で揺れ動きます。
新たに復生会が企てていたのは、核を使ったテロ事件。起きてしまえば、香港は壊滅状態に。
果たして、フォンはどんな行動を取るのでしょうかというお話。
制作費は44億円だそうですが、本国での興行収入は230億円を突破したそう。やっぱり中国はデカい…(笑)。
迫力満点の映像が流れます。ボクはオンライン試写ゆえ、スマホの画面で観させてもらいましたが、大きなスクリーンのほうが、絶対に楽しめる1本です。★3つ。
『バーニング・ダウン 爆発都市』公式サイト


『ミューン 月の守護者の伝説』は、フランスのアニメーション。

太陽と月が同時に出ている不思議な世界。
太陽と月には、それぞれに“守護者”がいて、互いの役割を守っていました。
先代の守護者が350歳という高齢になり、後継者を決める任命式で、太陽の守護者にはソホーンが、月の守護者にはミューンが指名されます。
これには驚きの声が上がります。
なぜなら、ソホーンは自他共に認める最有力候補でしたが、月の守護者はリユーンが選ばれるだろうという声が大多数だったから。
一方のミューンはといえば、森の中に暮らす、いたずら好きで、細くて、青白い子ども。本人も「なにかの間違いでは?
」と目をパチクリ。
案の定、失敗ばかりを繰り返すミューン。その結果、月を失い、太陽をも盗まれてしまいます。
太陽を奪ったのは、かつて太陽の守護者だったネクロスでした。
彼は守護者の時代に、太陽を我がものにしようとして追放され、冥界に閉じ込められていたのですが、この混乱を好機と見て復活。地上を闇の世界へと変えてしまったのです。
自らの未熟さと責任感の無さで、地上を一変させてしまったミューンは、ソホーンや仲間と共に、月と太陽を奪還しようとネクロスに挑むのでした…。

フランスの長編ファンタジーアニメ。
2014年の作品が、待望の日本公開です。
レベルの高さにびっくり。キャラクターもかわいいし、映像も実にキレイ。クレジットにもありますが、実は3D+2Dアニメーション。描き方にもアイデアがいっぱいです。
ミューンの成長の物語なんですが、そこには仲間もいます。
特に重要な役割を果たすのが、グリムという蝋(ロウ)で出来た女の子。
昼は太陽の熱で溶けちゃうし、夜は寒さで固まってしまうので、行動できる時間は限られているのに、グリムは好奇心旺盛で、自由奔放な女の子。お父さんは、そんな娘が心配でなりません。
そのグリムが、ミューンたちと一緒に、世界を救おうと頑張ります。
性別や環境にかかわらず、自分次第で、いくらでもやれるんだというメッセージの象徴のような存在です。
他にも、まぁ可愛らしいキャラクターがたくさん!
公式サイトでチェックしてみて下さい。きっと、大きなスクリーンで会いたくなるはずです(^-^)
大人も、間違いなく楽しめるアニメです!★4つ。
『ミューン 月の守護者の伝説』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.4.06
『潜水艦クルスクの生存者たち』★★★
(満点は★★★★★)


新年度になり、環境が変わったという人も多いはず。
ちょっぴり行き詰まった時、心の隙間を埋めてくれるのは映画かもしれませんョ。
さぁ、今週は1本です!

『潜水艦クルスクの生存者たち』は、事実に基づくストーリー。

2000年、ロシア。
軍事演習のため、ロシア海軍が集結し、原子力潜水艦クルスク号も参加。
しかし、北極海に潜ったところで、積載している魚雷の温度が急上昇。そして、爆発。クルスク号は、海底へと沈んでしまいます。
118名の乗組員のうち、生き残った23名は艦尾に移り、他の区域と遮断。救助を信じて待つしか手はありません。
しかし、酸素にも限りがあります。司令官のミハイルを中心に、懸命に策を練る乗組員たち。
その頃、地上でもクルスク号の事故が確認され、乗組員の家族にも情報が伝わりますが、司令部は詳細を明かしません。
イギリス海軍も緊急事態を察知。救援を申し出ますが、機密事項を知られたくないとするロシアは、なかなかこれを受け入れようとはしません。
ロシア海軍が救助艦を出すも、メンテナンスの不備で役に立たず。
残りの酸素もあと僅か。艦内に残された23人の命は、どうなってしまうのでしょうか…。

実際に起きてしまった、原子力潜水艦クルスク号の事故。
3月23日のブログ『深夜のひとりごと【49】』にも書いた、“今、観るべき1本”です。
NATOに加盟している、ルクセンブルクの映画で、2018年の作品。多少のプロパガンダを疑ってかかる必要はあるかもしれませんが、そこで語られるロシア経済の窮状は、決して大袈裟なものではないはずです。
象徴的なのは、ロシア海軍の上層部が、船上でボソッと洩らすシーン。
「20年前の演習では3倍の船が出航した。今は半数が錆び果て、潜水艦は3分の2が鉄クズとなった」。
ターニャら、若い妻たちは、何も教えない上官に苛立ちを隠せずにいると、年寄りが「その態度は失礼だ。彼らを信じなさい」と叱責。
イギリスの救護の申し入れに対しても、「そもそもの原因は多国船の衝突だ」と嘘をつく。「NATOの強硬姿勢が事態を悪化させた」とも。
嘘と隠蔽の体質は今も昔も変わらずで、イデオロギーに対する世代間のギャップも今回のウクライナ侵攻で明らかになりましたもんね。この映画では、そのあたりのことも如実に描かれています。
国民は、一部の権力者の“駒”なんかじゃない。
まず真っ先に守るべきは、かけがえのない命だと思いませんか?至極、当たり前のことだと思いますが。★3つ。
『潜水艦クルスクの生存者たち』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.3.31
『アネット』★★
『英雄の証明』★★★
『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』★★★
『シャドウ・イン・クラウド』★★★
『女子高生に殺されたい』★★★
『世の中にたえて桜のなかりせば』★★★★
『私はヴァレンティナ』★★★
(満点は★★★★★)


アカデミー賞が発表され、映画を見ようとする皆さんは、受賞作品に関心が行くと思います。
もちろん素晴らしい映画がいっぱいだから、観てもらいたいけど、それ以外の作品に目を向けることも忘れないで下さいね。
さぁ、今週は7本です!

『アネット』は、ダークファンタジー・ロック・オペラ。

LAで活躍する攻撃的なネタで人気のコメディアンのヘンリーと、国際的人気を誇るオペラ歌手のアン。
ふたりは互いの才能を認め合ったのか、美女と野獣と評されるカップルが誕生しました。
そして、結婚。
ふたりの間に、アネットという子どもが生まれます。
しかし、ヘンリーのステージが荒れ始めます。観客が笑うことなく、互いに罵声を浴びせ合うようになったのです。
こうなるとヘンリーの人気は凋落の一途を辿ることに。
一方で妻のアンは、名声を保ったまま。ヘンリーの中に嫉妬心が芽生えるようになります。
休暇を取り、アネットを連れて、旅行に出ようと決めたヘンリーとアンでしたが、嵐の夜に船を出し、そこで悲劇が起こったのでした…。

独創的な作品を世に送り出してきた、レオス・カラックス監督の最新作。
23歳で長編デビュー。60歳の今作で6作目ですから、作品数は多くないものの、映画通の中では評価が高いようです。
試写会の大きなスクリーンで観たのですが、帰り際、ひとりの人が宣伝会社のスタッフさんに、「全部詰め込まれてましたね。すごい、この映画!」と言ってたのを聞いて、やっぱりわかる人にはわかるんだなと。
ボクにはどうにもピンと来ませんでした。
音楽を担当したスパークスのメンバーに加え、登場人物たちが曲に乗って部屋を飛び出し、夜の街を歌い歩く冒頭のシーンは、めちゃめちゃワクワクさせてくれたんですが、その先がどうにもわからなかったです。
頂いた資料に、ロック・オペラとしての楽曲解説があって、それを読むと「なるほど…」と思う部分もありますが、一度観ただけでそこまで理解するには、ちょっと深すぎるかなと。
自分の理解力の欠如を評価に反映させてしまって、申し訳ない気もしますが、ボクには難解すぎました。★2つ。
『アネット』公式サイト


『英雄の証明』は、カンヌ映画祭でグランプリを獲得したヒューマン・サスペンス。

看板職人だったラヒムは、別れた妻の兄、バーラムに借りた借金が返せず、現在服役中の身。
前妻との間に出来た息子のシアヴァシュは、ラヒムの姉夫婦が面倒を見てくれています。
囚人に与えられた休暇を使って、街に戻ってきたラヒム。借金を返済すれば自由の身になれるのですが、完済以外は認めないと、バーラムは中途半端な金額で示談に応じる気はさらさらないと言います。
ラヒムには、まだ人には言えない、ファルコンデという婚約者がいます。
その彼女が、17枚の金貨を拾うんですね。
それを使えば、借金を返して結ばれると考えましたが、金の価格が下がっていて、これだけでは完済に足りません。
結局、罪悪感もあり、換金を諦めたふたりは、落とし主を探し、金貨を返すことに決めたのです。
すると、これが善行だとして、メディアの知るところとなり、ラヒムは“正直者の囚人”として、国中から英雄視されることに。
さらに、息子のシアヴァシュには吃音症があったのですが、父の釈放を願う健気なスピーチに、全国から寄付がたくさん集まります。
ところが、SNSである噂が広がり始めると、状況は一変することになるのです…。

2021年の第74回カンヌ映画祭のグランプリ受賞作品。監督は、アカデミー賞の外国語映画賞に2度輝いた、イランのアスガー・ファルハディ。
小さな嘘が、大きく人生を変えていく。嘘を塗り替えるには、さらに大きな嘘をつかなくてはなりませんから。
まさに負のスパイラル。
もし最初の嘘自体に悪意がなくても、嘘を選択したのはラヒムです。ただ、それでラヒムの本質が悪だと言い切れますか?
キャッチフレーズにあるのが、“英雄か、詐欺(ペテン)師か”。
映画を観ながら、ラヒムのみならず、周りの人たちの行動にハラハラドキドキ。吸い込まれていくように悪いほうに行っちゃうから…。
あくまで個人的な意見ですが、渋谷のBunkamuraル・シネマでかかる映画は、良質のものが多いと思っています。この映画も、そんな1本です。★3つ。
『英雄の証明』公式サイト


『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』は、ドキュメンタリー。

今でも、秘書や助手と勘違いされることが多いという映画のキャスティング(配役)の仕事。
しかし、このキャスティングこそが、作品の良し悪しを決定する大きなポイントになるという映画関係者もたくさんいるのです。
顔立ちやスタイルの良さだけで役を与えられていた俳優たちは、演技は二の次。一度ハマる役があったら、その役者はずっと同じような役しか回ってこない。
そんな状況を打破したのが、マリオン・ドハティという女性でした。
1923年生まれのマリオンは、TVの配役アシスタントをきっかけに、映画のキャスティングの世界に入っていきます。
舞台を観れば、端役でもチェック。オーディションにやってくる数多くの役者の卵の中から、光る才能を見逃すことなく、とにかくメモをとり、ストックする。
そんな中から、監督や作品が求める俳優たちを、有名無名にかかわらず、提案していったんですね。
マリオンの感性は素晴らしく、キャスティングが映画の成功に直結した例は、数知れず。
また、数多くの人気俳優を世に送り出したのもマリオンで、この映画の中でも、ダスティン・ホフマン、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ロバート・レッドフォード、メル・ギブソン、グレン・クローズ、ジョン・トラボルタをはじめ、とにかく数えきれないほどの俳優や監督が、彼女に感謝のメッセージを寄せています。
その一方で、名前がクレジットされない時代が長くあったり、キャスティングはあくまでスタッフで、“ディレクター(監督)”を付けることには抵抗があるとする映画監督もいて。
アメリカのアカデミー賞では、キャスティング部門の創設が未だ実現していませんから。
マリオン・ドハティは、2011年に88歳で亡くなっていますが、この映画はその翌年に作られたドキュメンタリー。
彼女の情熱と改革は、後進にしっかりと伝わっているようです。
アカデミー賞が話題の今、映画の裏側を垣間見るのも“学び”になると思いますョ。★3つ。
『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』公式サイト


『シャドウ・イン・クラウド』は、女性パイロットのサバイバル・アクション。

第二次世界大戦最中の1943年8月、ニュージーランドのオークランド空軍基地から、B―17大型爆撃機がサモアに向けて飛び立とうとしていました。
そこに必死の形相で乗り込もうとする女性がひとり。モード・ギャレット空軍大尉です。
彼女は、革製の大きな鞄を抱えていて、中には最高機密が入っていると説明。これをサモアに運ぶ任務を命じられたと主張します。
しかし、機内は男だらけ。ハラスメントの言葉と共に、モードは床下の狭い銃座に押し込められてしまうんですね。
高度2500mの上空に達した時のことです。モードは、まさかの光景を目にします。
それは、伝説の“大空の魔物”、鉤爪を持つ凶暴な生き物、グレムリンの姿だったのです…。

率直な感想を先に言うと、「なんだ、こりゃ?」という感じ(笑)。
でも、悪口じゃないんです。それが妙に面白いんです。
初めは、男性社会に入り込んで暴れまわる女性を描いた戦争アクションかと思ったのですが、それはそれで間違いじゃなく。
でも、そこにグレムリンが出てきたら、今度はSFホラーじゃないですか。
さらに、日本の零戦とやり合うシーンもあって。
まぜそば?ビビンバ?ごちゃ混ぜにして食べると美味しい料理みたいでした(笑)。
扉の不具合で、機内に戻れなくなったため、ほとんどが銃座にいるモードの一人芝居。男たちは、声でのやり取りが主になります。
ちなみに、モードを演じたクロエ・グレース・モレッツは、閉所恐怖症だそう。よく頑張りました。
グレムリンの伝説については、公式サイトにありますが、簡単に書いておくと、イギリス発祥の妖精の一種で、原因不明の飛行トラブルが多発した際に、まことしやかに存在が言われるようになったとか。それが映画やドラマで取り上げられるようになり、世間に広がっていったそうです。
モードに託された最高機密とは、いったい何なのか?
トロント国際映画祭で観客賞を受賞したのが、ミッドナイトマッドネス部門(深夜の狂気?)というのも納得です!★3つ。
『シャドウ・イン・クラウド』公式サイト


『女子高生に殺されたい』は、古屋兎丸の同名コミックの実写映画化。

とある高校に、新任教師として赴任してきた東山春人。
その爽やかなルックスから、女子の人気は一気に高まりましたが、彼の目的は女子高生に殺されること。
実は9年もの長きに渡り、綿密に計画を立ててきたのです。
春人の理想は、“完全犯罪であること”、“全力で殺されること”。
そんな中、真帆、あおい、京子、愛佳という4人の女子生徒が、そうとは知らずに、春人の計画に荷担することになります。
計画は順調に進んでいたのですが、誤算が生じることに。
なんと、春人の昔の恋人である深川五月が、学校カウンセラーとして、偶然この高校に赴任してきたのです。
五月は春人の闇に、薄々気づいていたのでした…。

タイトルからして、“インパクトあり”ですよね。
いろんなフェチや癖(へき)はあれど、女子高生に殺されたいとは(笑)。
この高校に赴任したのも、春人の企み通り。9年もの歳月を要したのも、とある少女がこの学校の女子高生になるのを待った結果でもあります。
が、しかし、完璧なはずだった計画が、思いもよらない偶然から崩れていきます。
果たして、春人の野望は叶うのでしょうかというお話。
でも、原作とは設定も結末もちょっと異なるようですね。コミックのファンも、改めて楽しめるかもしれません。
タイトルから下心を持って観ると、そこは肩透かしをくらいます(笑)。特異なサスペンス・スリラーだと思って映画館にどうぞ。★3つ。
『女子高生に殺されたい』公式サイト


『世の中にたえて桜のなかりせば』は、先日急逝した宝田明さん企画、立案。乃木坂46の岩本蓮加とW主演のヒューマンドラマ。

不登校の女子高生、吉岡咲。今は、終活アドバイザーのアルバイトで働いています。
職場の同僚は、70歳も年上の柴田敬三。相談に来るお客さんに寄り添い、出来る限り要望に応えられるよう、ふたりで努めていました。
咲が学校に行かなくなったきっかけのひとつが、国語教師で担任だった南雲という先生。南雲は生徒からの嫌がらせに耐えきれずに教師を辞め、引きこもりの生活を送っています。時間を見つけては先生の家を訪ね、食事を共にする咲。
そんな咲も、自分の生きる意味がわからず、悩む毎日。
そんな時、敬三が、咲に病気の妻を紹介するんですね。そして、昔ふたりで見たという、思い出の桜の木の話を始めたのです…。

3月14日に亡くなられた宝田明さん。
この映画の完成披露の舞台にも、元気な姿を見せていらしたのに、本当に急なことだったようで。まずは、ご冥福をお祈り申し上げます。
遺作となったこの映画は、桜と終活がテーマ。
ボクのブログを読んで下さっている方は、500円玉貯金の写真と共に書いた『深夜のひとりごと【45】』で映画を紹介し、「2月21日のブログを読み返してみて下さいと注釈を付けるつもりです」と書いたのを覚えてますか?
そう、これがその映画です。
タイトルは、平安時代の歌人、在原業平の和歌から。
この映画には、素敵な言葉がたくさん出てきます。
大正時代の詩人、茨木のり子さんの『さくら』という詩の「死こそ常態 生はいとしき蜃気楼と」という一節も素晴らしいし、桜の花がなんで下を向いて咲いているか、知ってますか?
詳しくは、2月21日の『深夜のひとりごと【45】』を読んで下さい(笑)。
惜しかったのは、サイドストーリーでもある、相談者に対する咲たちの仕事に、リアリティが欠けていたことかなぁ。
でも、改めて思えば、宝田明さんの遺言のような作品。★を1つ多く贈りたいと思います。★4つ。
『世の中にたえて桜のなかりせば』公式サイト


『私はヴァレンティナ』は、ブラジルの17歳のトランスジェンダーの物語。

ヴァレンティナは、体は男の子に生まれたけれど、心は女の子の17歳。
両親は離婚していて、今はママと二人暮らし。
この母娘が引っ越すことになり、新しい学校では出世名のラウルではなく、通称のヴァレンティナで通いたいと願っていました。
校長は賛成してくれたものの、規則として、両親の署名が必要だと言います。
実は、ヴァレンティナの父親は音信不通で、どこで何をしているのかわかりません。
さらに、あるパーティーで男に襲われたヴァレンティナ。犯人はどうやら顔見知りのよう。
ところがその日から、ヴァレンティナを中傷する写真がSNSで拡散を始めたのです。
すると、名前を変えて通学するどころか、保護者の間に、ヴァレンティナの転入自体を拒む署名が始まってしまったのでした…。

ブラジル映画です。
テーマがテーマなだけに、ブラジルがLGBTQに関して、どんな風潮なのかというのを調べたら、LGBTQの権利保障に前向きで、同性婚も認められているとありました。
一方で、トランスジェンダーの中途退学率は82%、平均寿命が35歳。
これが何を示しているかは、推して知るべしですよね。
建前と本音。
人の心というのは、法律や施策でどうこうなるものではなく、やはり真の理解が必要なんだなと改めて。
登場人物のひとりひとりに人生がある。ヴァレンティナを支える友だちも、ヴァレンティナのお母さんだってしかり。
そう考えれば、ヴァレンティナだけが特別なんじゃなくて、生きていくのは大変で、みんな何かしらの困難を背負っているんだと気づくはず。
ボクらだってそう。みんな同じなんだと思います。★3つ。
『私はヴァレンティナ』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.3.24
『ダイナソーJr./フリークシーン』★★★
『ナイトメア・アリー』★★★★★
『ベルファスト』★★★★★
(満点は★★★★★)


22日、まん延防止等重点措置が一斉に解除されました。
まだ、気兼ねなく、とはいきませんが、今まで以上にエンタメも楽しめそうです。
それでも専門家が言うように、第6波の終焉ではないので、感染対策はしっかりと。
今週紹介する映画の中の2作品は、アカデミー賞ノミネート作品。
どちらも素晴らしかったです。興味を持ったら、劇場に是非!
さぁ、今週は3本です!

『ダイナソーJr./フリークシーン』は、アメリカの人気オルタナティヴ・ロックバンド、ダイナソーJr.のドキュメンタリー映画。

1984年、J・マスキス(G.&Vo.)、ルー・バーロウ(B.&Vo.)、マーフ(Dr.)の3人によって、アメリカ・マサチューセッツ州ボストン郊外のアマーストで結成されたダイナソーJr.。
爆音のギター・サウンドでありながら、メロディしっかりと。そこに、J・マスキスのけだるいボーカルが融合した、アンダーグラウンドなオルタナティヴ・ロック界の人気バンドです。
部屋にあった恐竜の人形から、バンド名をダイナソーにするも、同じ名前のバンドがあったので“Jr.”を付けたそう。
85年にインディーズ・デビューするも、J・マスキスとの確執で、88年にルー・バーロウが脱退。
91年にメジャー・デビューを果たしますが、93年に今度はマーフも脱退。
バンドはJ・マスキスのソロ色の強いものになり、97年、遂にダイナソーJr.は解散してしまうんですね。
ところが、05年、オリジナルメンバーでバンドは再結成。昨年、5年振り、12枚目のアルバム『スウィープ・イット・イントゥ・スペース』をリリースし、今も活動を続けています。
映画は、そんな彼らの約30年間を振り返り、メンバーのそれぞれが本音を吐露。周りの音楽関係者たちのインタビューからも、ダイナソーJr.の輪郭がはっきりと見えてきます。
解散やメンバーの脱退を繰り返すのは、バンドの必定。だって、個性と感性の塊が、同じ方向性の音楽のもとに集まったのがバンド。
でも、初めはやりたいことが一緒でも、個々に少しずつ変化が訪れるる。そのズレが歳月と共に大きくなっていく。
バンドに婚姻届があるわけでもなく(笑)、「じゃ、別れよう」となるわけですよね。
でも、ダイナソーJr.は、結成当時のメンバーで再結成に至ります。
「やっぱり、おまえじゃなきゃダメだったよ」。
“もとの鞘に収まる”じゃないけど、互いの大切さを確認するための別離期間だったのかもしれませんね。
最近、たくさん作られている音楽系のドキュメンタリー映画。
正直、オルタナティヴ系ロックはあまり聴かずに来たのですが、こういう映画を通して、新たなジャンルの扉を開くのもひとつだなと。
発信元であるメンバーたちの人間性に触れることで、楽曲に対する理解が深まりますから。興味を持ったら、ここからさかのぼって、掘り下げていけばいい。
これからも、積極的に観ていきたいジャンルの映画になりそうです。★3つ。
『ダイナソーJr./フリークシーン』公式サイト


『ナイトメア・アリー』は、本年度アカデミー賞4部門ノミネートのサスペンス・スリラー。

1939年。各地を移動しながらショーを見せる、カーニバルの一座がありました。
最大の見世物は、人か獣か、ギークと呼ばれる“獣人”のショー。
流れ者のスタンは、そのカーニバルに潜入すると、一座のマネージャーから仕事に誘われます。
すぐさま、読心術師のジーナに気に入られ、彼女のショーを手伝うことになり、トリックを学んでいくスタン。
一方、カーニバルには体に電気を流すショーで人気のモリーがいました。彼女の美しさに魅せられたスタンでしたが、恋愛は御法度。
ある日のこと、警察がやって来て、カーニバルを閉鎖しろと命じます。
モリーにも逮捕の手が及びそうになった時、スタンは覚えた読心術で警官を操り、モリーを救うんですね。
ここを出て、ふたりで成功しようと誘うスタン。モリーは彼についていくことを決意します。
スタンはモリーをアシスタントに、都市の一流ホテルなどで読心術を披露。上流階級から人気のエンターテイナーになっていきます。
カーニバルではタブーとされていた“幽霊ショー”と呼ばれる、霊媒師的なものにも踏み込んでいくスタン。
ショーの最中、心理学博士のリリスと知り合います。
この謎めいた女性との出会いが、スタンの運命を大きく変えていったのでした…。

面白かったです!
150分。まったく飽きずに観ることが出来ました。
あらすじは骨格。そこに肉が付いて、映画はさらに豪華な衣装をまとうイメージでしょうか。
メガホンをとったのは、17年の『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞4部門受賞に輝いた、ギレルモ・デル・トロ監督。
出演者もアカデミー賞俳優が名を連ね、実に豪華なキャスティングになっています。
ボクらが子どもの頃、近くの神社のお祭りに、ありませんでした?ギークのショー。
昭和のお祭りですから、ギークなんて言い方はしませんでしたが(笑)、ボクが見たのは“へびおんな”。
ニワトリの首に噛みつき、血まみれになった、おどろおどろしい姿を今でも覚えてます。
そんなちょっぴり妖しげな魅力が、見世物小屋にはありました。この映画も、舞台はカーニバルから。観客の深層心理を鷲づかみにすることに、いきなり成功するはずです。
カーニバルで、スタンはギークの作り方を聞かされるのですが、その根本は人間の弱みを熟知することにありました。
映画の中に、いくつも存在するタブー。これにも興味をそそされます。
書きたいことはいっぱいあるけど、あんまり書いちゃうとネタバレになっちゃうからなぁ(笑)。
全編、独特の暗いトーンに被われた映像。
人間の欲望には切りがないけど、そもそも人には器があって、溢れるほどに詰め込むと、器が割れちゃうのでしょう。
“足るを知る”。すごく大切なことだと、改めて思いました。満点!★5つ。
『ナイトメア・アリー』公式サイト


『ベルファスト』は、本年度アカデミー賞で史上最多の7部門にノミネートされた、北アイルランドの小さな町の物語。

1969年の北アイルランドの町、ベルファスト。
9歳の少年、バディはこの町で生まれ育ちました。
バディがパと呼ぶ父親は、イギリスに出稼ぎに行っていて、月に数回しか戻ってきませんが、マと呼ぶ、しっかりものの母が家を守っています。
さらに、優しくて頼りになる兄のウィル、大好きな祖父母のポップとグラニーがいて、学校帰りは必ずと言っていいぐらい、おじいちゃん、おばあちゃんの家に寄ってから帰宅します。
町全体が家族のような雰囲気で、すべての大人が近所の子どもたちを見守ってくれているから、町の全部がバディたちの遊び場所。バディはこのベルファストが大好きでした。
ところが、悲劇は突然訪れます。
北アイルランドは、プロテスタントとカトリックが混在する町。
ここで、信仰の違いによる住民の衝突が起こり、プロテスタントの武装集団が、カトリック住民たちを攻撃。紛争に発展したのです。
1969年8月15日。
この日を境に、ベルファストは、真っ二つに分断されてしまったのでした…。

俳優としても活躍する、ケネス・ブラナー監督の自伝的作品。自身もベルファストの出身で、プロテスタントの労働者階級の家に生まれており、9歳の少年バディを通して描かれる町の物語です。
映画は特別なものとして観客に印象づけられるようにと、モノクロになっていますが、狙いはズバリ。効果的な演出になっているなと感じました。
試写会の時点では、まだウクライナの戦争前。プレス資料にも、コロナ禍による分断が対比として取り上げられていましたが、不幸な偶然というか、兄弟のようと言われるウクライナとロシアの戦争が始まってしまいました。まさに、紛争による分断の構図。過去と現在です。
映画を観る前に、あまりいろいろなことを知りすぎないほうがいいというのが持論ですが、時に入れておくべき下知識というのもあります。
この映画『ベルファスト』においては、“北アイルランド紛争”と呼ばれるものについては、知っておいたほうがいいと思います。
詳しくは、公式サイトにもある専門家・佐藤泰人さんの解説を参照して欲しいのですが、ここにちょっぴり記しておきますね。
時は16世紀にさかのぼります。
国王ヘンリー8世の離婚問題で、イングランドはキリスト教最大教派のローマ・カトリック協会を離脱。このローマ・カトリックに反する宗派をまとめてプロテスタントというのですが、イングランドが勢力拡大のため、隣りのアイルランド島に入ると、人々から土地を奪っていきます。元々の住民たちはカトリック信者だったので、侵攻も、信仰も、どちらにおいても対立は深まるばかり。
それから泥沼の戦いが始まり、1921年にようやくイギリスとアイルランドが条約を締結。プロテスタントが多数いるアイルランド島の北部6つの州は、北アイルランドとしてイギリス領に残り、他はアイルランド自由国として独立します。
しかし、その後も北アイルランド内では両者の対立が続き、1960年代には、プロテスタントとカトリックによる北アイルランド紛争に突入。1998年の和平までに、数多くの犠牲者を出したそうです。
宗教を含む、イデオロギーの問題で人々が争うのは、昔も今も多くあり、この先もなくなることはないでしょう。
でも、個人個人にスポットライトをあててみれば、それぞれがそこで自分の人生を懸命に生きているわけで。ごく普通の幸せまでをも暴力で奪うのはあまりに理不尽なことだと、バディの姿やベルファストの町から、ボクらは感じとることができるはず。いや、感じなくてはならないのです。
危険と知っていても、祖国や故郷に残る人たちの気持ちも、痛いほど伝わってきます。
一方で、希望の光が消えることのないバディの瞳に、きっと勇気をもらえると思います。
是非、ご覧になってみて下さい。
また、ポップとグラニーがいいんですよ。どちらも素敵なおじいちゃんとおばあちゃん。ボクにはもう叶いませんが、永年連れ添ったごほうびに、神様はこんな素敵なシーンをくれるのかって(#^.^#)。うらやましかったです。
音楽は、こちらもベルファスト出身の世界的シンガー、ヴァン・モリソンが担当。監督にとっては、仕事を共にするのが夢だったそうです。
史上最多のアカデミー賞7部門ノミネートも納得。すごくいい映画です。満点!★5つ。
『ベルファスト』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.3.17
『ガンパウダー・ミルクシェイク』★★★
『ストレイ 犬が見た世界』★★★
『猫は逃げた』★★★
(満点は★★★★★)


1995年3月に日本で公開された映画『フォレストガンプ 一期一会』。
トム・ハンクス主演の感動作が、4Kニューマスター版として、3月18日(金)に公開となります。
実は、ボクが試写会で初めて観た映画がこの作品。
あれから27年かぁ…。
ちょっと感慨深いものがあります。
原点回帰じゃないけど、時間があったら観に行きたいものです。
さぁ、今週は3本です!

『ガンパウダー・ミルクシェイク』は、女性たちが主役のバイオレンス・アクション。

サムは組織に所属する、腕利きの女殺し屋。
あらゆる格闘技に長け、武器に関する知識も豊富に持っている一匹狼です。
今回下された指令は、組織の金を盗んだ会計士の抹殺と金の回収でした。
ターゲットと相対したサムは、彼が命を顧みず、なぜ組織の大金に手を出したのか、その理由を知ります。8歳9ヶ月の娘エミリーを誘拐され、身代金を要求されていたんですね。
幼い少女の命を最優先にと、サムはエミリーを救出に向かいますが、組織の命令に背くことになったサム自身が、今度は命を狙われる側になってしまいます。
エミリーを助け出すことに成功したサム。ふたりは行動を共にします。
実は、サムの母スカーレットも元殺し屋。15年前にサムを残して、忽然と姿を消してしまったのですが、その母と再会を果たします。
スカーレットの指示で、サムが向かったのは図書館。そこで働く3人の女性も、殺し屋の先輩たち。この図書館、その正体は武器のレンタル倉庫だったのです。
こうしてズラリ揃った女戦士たち。襲いかかる男たちとの、激しい戦闘の幕が切って落とされたのでした…。

この映画の予告編に、シスター・ハードボイルド・アクションとありました。いろんなキャッチフレーズを、上手く考えますよね。
まさに言い得て妙で、ポスターにもあるようなカラフルなネオン管のイメージは、今で言う“ばえる”映像。タイトルの“ミルクシェイク”も可愛らしいけど、トッピングはハードボイルドですから(笑)。
母娘2代の殺し屋に、図書館で働くアナ・メイ、フローレンス、マデリンの3人も、それぞれに得意技を持つ凄腕の殺し屋で、全員が力を合わせて野郎どもをぶっ倒していくというお話。
会社の男性上司なんかにイライラしている女性が観たら、スカッとするかも。
銃なんか持たなくても、女性は十分強いんですけどね(笑)。★3つ。
『ガンパウダー・ミルクシェイク』公式サイト


『ストレイ 犬が見た世界』は、犬が主人公のドキュメンタリー映画。

トルコの大都市、イスタンブール。
ここは野良犬と人が共存する街。
実は、トルコでは20世紀初頭に大規模な野犬狩りを行ったのですが、その残虐な行為の反省から、今は野良犬の捕獲や安楽死が違法とされているんですね。
街中のいたる所で、犬が闊歩しているのが当たり前の風景。
そんなトルコのイスタンブールを旅した、愛犬家のエリザベス・ロー監督が、半年をかけ、犬目線でカメラを回し、その映像をまとめたのがこの作品です。
登場するのは、3匹の犬。
凛としたメスの大型犬、ゼイティン。推定2歳。
シリア難民の少年たちと、廃墟となった建設現場で寝泊まりをするナザール。
別の建設現場で飼われている、まだ幼いブチのカルタル。
それぞれの犬たちが、人間といい距離感を持ちながら、自由に生きている様子をカメラが追い続けています。
トルコという国が抱える今の問題も映し出されていて、逆に犬に依存するのは人間のほうだったりもして。
何を考えて、人の行動や街並みを眺めているのか。犬好きの人には、そんなことまで見えてくるのかもしれません。
ほとんど台詞がない映画です。72分という尺も絶妙と言えそうです。★3つ。
『ストレイ 犬が見た世界』公式サイト


『猫は逃げた』は、R15+のラブストーリー“L/R15”の2作目。

漫画家の町田亜子と、雑誌記者の町田広重は、離婚寸前の夫婦。
ふたりとも、それぞれに年下の浮気相手と不倫中で、亜子の相手は編集者の松山俊也、広重の相手は編集部の部下の沢口真実子。
共に離婚は決意していましたが、ひとつ未解決の問題がありました。
それはふたりが飼っている、猫のカンタです。
亜子も、広重も、自分が引き取ると言って譲りません。
そんなある日のこと、カンタが姿を消してしまったのです。
果たして、カンタはどこに行ったのか?4人の男女の恋の行方は、いったいどうなるのでしょうか…。

L/R15のもう1本は、2月25日に公開になった、瀬戸康史主演の『愛なのに』。
ご覧になった方はわかると思いますが、ベッドシーンが結構多いんですよね(*^.^*)。なので、R15+。
『猫は逃げた』は、夫婦を繋ぐ唯一の細い糸だった愛猫のカンタがいなくなり、こんな家の雰囲気だから嫌になって飛び出していったんじゃないかと、亜子は自分を責めます。得意の似顔絵でポスターを作り、捜索を始めるふたり。
ところが、この失踪劇には思わぬ裏があって…というストーリー。
離婚や不倫を扱ってはいますが、ギスギスしたところをさほど感じない作りになっています。
これ、間違いなくカンタ効果。
物語の結末については、観る人によって感じ方は様々だと思いますが、ただひとつ、ペットは人間にとって、大切な相棒なんだなぁと。それを再確認させてくれるはずです。★3つ。
『猫は逃げた』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.3.10
『ウェディング・ハイ』★★★
『ハングリー 湖畔の謝肉祭』★★
(満点は★★★★★)


国内も、国外も、心休まる暇がない2022年。
せめて映画でホッと一息つけるといいですね…。
さぁ、今週は2本です!

『ウェディング・ハイ』は、お笑い芸人バカリズムのオリジナル脚本作品。

石川彰人と新田遥は、結婚を決めたカップル。
式場のウェディングプランナーの中越真帆が、ふたりの結婚式を担当します。
中越のポリシーは、決してNOと言わないこと。
しかし、彰人と遥の式には、予想もしなかった展開が待ち受けていたのです。
新郎の上司の財津は、今回の主賓の挨拶に命を賭けていて、新婦側も“宴会部長”の異名をとる上司の井上が乾杯の発声を務めます。
このふたりのスピーチが、長い、長い、超長い。
さらに新郎の父も叔父も、新婦の父も、余興がやりたくてしかたがない。
彰人の後輩に頼んだ新郎新婦の紹介VTRも、よくわからなくて、これまた長い。
友人の祝辞や出し物を入れたら、予定の時間内になんて、絶対に収まりません。
さらに、遥の元カレが花嫁を奪還しに式場に潜入。
加えて、見知らぬ謎の男が会場をウロウロ。
優秀な仲間を誇る“チーム中越”は、この結婚式を無事、お開きにまでもっていけるのでしょうか…。

ボクも知人の結婚式の司会をよく頼まれたので、裏方さんたちの苦労は本当にわかります。
基本的にタイムキープは司会の役目だったりもして、料理がここまで出たら、ここまでプログラムを進めてとか、結構細かい指示があって、実はいろいろ計算しながらしゃべってるんですョ。
優先順位は、新郎新郎の喜ぶ顔が一番。とはいえ、式場に迷惑がかからないようにすることも大切。
自ずと中越に自分を投影しながら、映画を観ていました。
その映画ですが、それはそれは出演者が豪華!公式サイトをご覧下さい。相関図を眺めているだけで、楽しくなりますから。
想像通りのドタバタコメディ。期待を裏切らないと思いますョ。
昔、ボクの友だちに、結婚式の司会をやる時だけ、名前を変えるというMCの女性がいました。その人のウェディング・ネーム?は、
“縁(えん)ゆかり”。
司会者の自己紹介で、会場にはクスッとひと笑いありそうですよね(笑)。★3つ。
『ウェディング・ハイ』公式サイト


『ハングリー 湖畔の謝肉祭』は、イギリスのカニバル・ホラー。

2002年の夏。
妊婦を含む男女3人組が、休暇を利用して、イングランド南部のアクアパークに遊びに来ていました。
ところが、3人共、行方不明になってしまったのです。
あれから約20年。
6人の若い男女が、秘密のフェスがあると聞き、1台のバンに乗って会場に向かう途中で道に迷ってしまうんですね。
辿り着いたのは、アクアパーク。
すると、仲間がレザーフェイスの連中に次々と捕らえられ、残忍な手口で殺されていきます。
しかし、それだけではありませんでした。なんと彼らは、殺した人間の肉を食べていたのです…。

おなじみ?TOCANAの配給作品。
カニバルとは“人肉喰い”のこと。実際にイギリスで起こった事件を題材にしているそう。
本当にいたんですって、レザーフェイスの食人一家。
レザーフェイスとは、剥いだ人の顔の皮で作ったマスクです。
信じられませんよね。
さらに、この凄惨な映像を撮ったルイーザ・ウォーレン監督は、なんと35歳の女性だというから驚きです。
オチというか、最後にきちんと着地するところはあるのですが、ややストーリーに深みが足りないかなぁ。
「カニバル・ムービーに、ストーリーの深さなんていらねえんだよっ」と、マニアの皆さんには怒られちゃうかも(笑)。★2つ。 『ハングリー 湖畔の謝肉祭』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.3.04
『永遠の1分。』★★
『ポゼッサー』★★★
『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』★★★★
『MEMORIA メモリア』★★★
(満点は★★★★★)


ウクライナとロシアの戦争。
世界中に紛争地域はあれど、開戦直前までウクライナの人々は、「大丈夫。戦争にまではならないから」と、笑顔で普通の生活を送っていたのに…。
報道で流れる映像を見て、心が痛みます。あんな映像は、あくまでバーチャルで作られた映画の中だけて十分です。
とにかく早く戦闘が終わり、平穏が戻るようにと祈るばかりです。
さぁ、今週は4本です!

『永遠の1分。』は、大ヒット映画『カメラを止めるな!』のスタッフが作ったヒューマンドラマ。

アメリカ人映像ディレクターのスティーブは、ボスから、日本に行って東日本大震災のドキュメンタリーを撮ってくるよう命じられます。
コメディが得意なスティーブは、気乗りがしないまま、カメラマンのボブと来日。
雑誌の女性記者のマキと知り合ったスティーブたちは、震災復興の演劇を紹介され、自由に表現してもいいんだと理解するんですね。
ならば震災を題材に、コメディで人を勇気づけるような作品をと意気込むのですが、いざとなると、外国人が3.11をコメディ化なんてとんでもないと、協力者は出てこないどころか、週刊誌にもバッシングの記事が掲載されてしまいます。
頭を抱えるスティーブ。
一方、アメリカでは、歌手になるため、夫と幼い息子を日本に残して渡米。その間に震災で息子を亡くしてしまったレイコが、自分と音楽を責めていたのです。
スティーブたちは、無事に思い通りの映像が撮れるのか。また、レイコは夢を叶え、日本に暮らす夫に会える日がやってくるのでしょうか…。

監督は“カメ止め”の撮影監督だった曽根剛、監督を務めた上田慎一郎が脚本を担当しています。
デリケートな題材をテーマにしている割には、少々設定が粗く…。
例えば、バッシングの記事も、マキの原稿をデスクが勝手に書き換えたり、スティーブたちの映画のテーマソングも、許可なく人の曲を使ったり。いやいや、著作権はどうなってんのって。
重箱の隅を突っつくような話…ではなくて、そういうのって大事だと思うんですよ。
「えっ?」と思ってしまうと、なかなか作品の世界に戻ってくるのは難しいものです。
すみません。あくまで個人の感想です。★2つ。
『永遠の1分。』公式サイト


『ポゼッサー』は、SFサスペンスノワール。

未来社会。暗殺の完全遂行を請け負う企業がありました。
手口は次のよう。
特殊なデバイスを工作員に装着し、ターゲットに近しい第三者の脳に入り込み、人格を乗っ取り、遠隔操作で殺人を敢行します。任務終了後、操られていた人間は自殺し、工作員の意識は自分の身体に戻るというもの。
タシャは、この組織の一員として高い信頼を得ている、ベテランの女性工作員です。
次々と任務をこなしていたタシャでしたが、ある男の脳内に入った時、彼女に異変が起きたのでした…。

ポゼッサーはPOSSESSOR。所有主、占有者の意。
発想がすごいですよね。
ちなみにR18+指定です。性描写に加え、殺戮シーンがあまりに残虐ということなのでしょう。
意識を自分の体に戻す前に「脱出」と口にするのですが、この言葉も、この映画のひとつのキーワード。
ラストは「そう終わるか…」となるはず。
いつかこんな犯罪が、現実のものになる日が来るのでしょうか。
刃物の入り方が、音が、痛い。流れ出る血が、飛び散る肉片が、すごい。
苦手な方はお控え下さい。★3つ。 『ポゼッサー』公式サイト


『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』は、女性を救う、アフリカの医師のドキュメンタリー。

アフリカのコンゴ民主共和国の東部にあるブカブ。
そこでパンジ病院を営む、デニ・ムクウェゲ医師。
彼が診るのは、この地域の女性たち。年間2500〜3000人もの女性が、性暴力によって心身を傷つけられ、この病院に運び込まれてくると言います。
レイプや殺戮といった惨劇が多いのは何故かというと、ブカブにはレアメタルなどの鉱物資源が豊富にあり、それを巡る武装勢力による紛争が、もう30年以上も続いているんだそう。
その兵士たちが、住民を圧倒的恐怖で支配するために、男性は殺害し、女性はレイプするのだそう。
当然、利権で、国や軍とつながりがあるから、罰せられることもなく。
そんな被害者女性を無償で助けているのが、ムクウェゲ医師なんですね。
鉱物資源の恩恵で潤っているはずの国なのに、生活のためのインフラすら整っておらず。富は一部の人間が、独り占めしている状態。
被害女性は20年で40万人以上だとか。
幼い頃に武装勢力に連れ去られたなら、レイプに疑問すら抱かず、行為は“当たり前”になる。
どこかで断ち切らないといけない、負の連鎖。
映画の中で、つらいにも関わらず、悲惨な過去を話してくれた、たくさんの女性たち。
家族を、幼い子どもを、殺され、失った女性が前を向いて「看護師になりたい」と語ります。
その理由は「今度は私が先生を助けたいから」。
2018年にノーベル平和賞を受賞したムクウェゲ医師のドキュメンタリーです。
止められるはずの惨劇は、戦争以外にも世界中で起こっています。まずは知ることが第一歩ではないでしょうか。★4つ。
『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』公式サイト


『MEMORIA メモリア』は、タイの巨匠、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督最新作。

ある朝の出来事です。寝ていたジェシカは、ドンという衝撃音で目が覚めます。
近隣で工事でも始まったのかと思ったけれど、そうではなく、ジェシカの頭の中で、その音は轟いていたのです。
ジェシカはそれを、“地球の核が震えるような音”と表現。その音を再現しようと、知り合いに紹介されたエルナンという音響技術者を訪ねます。
出来上がった音を聞いて、「これだ」と頷くジェシカ。
ところが、ジェシカが再びスタジオに行くと、「エルナンなんて男はいない」と言われてしまいます。
やがてジェシカが小さな村に辿りつくと、川沿いで魚の鱗取りをしている男性に出会います。
記憶についての話をするふたり。ジェシカは次第に、不思議な感覚にとらわれていくのでした…。

すみません。ボクには、あまりに難解でした。
あらすじをどう書いたらいいか、迷いに迷ったぐらいで。
今回の審査員賞で、カンヌ国際映画祭4度目の受賞となった今作。また、監督にとっては、初の自国以外でとなるコロンビアでの制作。加えて、第94回アカデミー賞国際長編映画賞のコロンビア代表に選出されたそうです。
確かに映像はキレイだし、風景の切り取り方へのこだわりは見事だと思います。
ただ、ストーリーが難解すぎて。ある意味、ラストは衝撃でした。
こういう作品を観るたびに、「やっぱり、映画評論家にはなれないな」と(笑)。
ちなみに、監督自身が“頭内爆発音症候群”なる病を患ったことがあり、着想はそこからだそう。
コメントのひとつに、「魅惑的で素晴らしく不可解」とありますが、言い得て妙な言葉だと思います。★3つ。
『MEMORIA メモリア』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.2.24
『愛なのに』★★★
『牛久』★★★
『選ばなかったみち』★★★
『劇場版 DEEMO サクラノオト あなたの奏でた音が、今も響く』★★★
『灰色の壁 大宮ノトーリアス』★★
『ハード・ヒット 発信制限』★★★
『ボブという名の猫2 幸せのギフト』★★★
『ライフ・ウィズ・ミュージック』★★★★
(満点は★★★★★)


今週はたくさんあります。
2つに分けようか、迷いましたが、一気にいっちゃいます(^-^)
最後まで、飽きずにお付き合い頂ければ幸いです(笑)。
さぁ、今週は8本です!

『愛なのに』は、R15+指定のラブストーリー企画「L/R15」の第1弾。

古本屋の店主、多田浩司は30歳。本を読むのが大好きな、どちらかといえば物静かな男性です。
ある日のこと、ひとりの女子高生が、本を万引きするのを目撃。追いかけて、捕まえると、多田のことが大好きで結婚して欲しいと言うではありませんか。
少女の名は岬。戸惑う多田。しかし、彼女は本気のようで、毎日のように店に来てはラブレターを置いていきます。
ところが多田には、忘れられない片思いの女性がいました。バイト仲間だった一花です。
その一花が結婚すると、周りの友だちから教えらされた多田。一花はなぜ知らせてくれないのか、気持ちは落ち込むばかり。
すると、一花から連絡が入ります。
話を聞くと、結婚相手の浮気が発覚し、自分も同じことをしてやりたいと。それでフィフティフィフティになって、彼を許したいと言うのです。
一花は、浮気の相手として、自分に好意を抱いていた多田を指名してきたのでした…。

R15+指定で、ややラブシーンが多いかなという1本。
ちなみに、女子高生はそれらのシーンとは無縁ですから、ご安心を(^-^)
他にも登場人物はたくさんいて、もらったチラシには相関図の矢印があるのですが、そのほとんどが一方通行で。
それがどう変化していくのか、いかないのか。下ネタチックな笑いも散りばめた、ちょっぴりエッチなラブコメディです。
猫が出てくるんですよ。カンタという名前の猫が。
これがまた「人間って、バカだなぁ」と達観してるみたいで。
古本屋さんに猫。ピッタリの相性ですよね。
誰です?可愛い女子高生から求婚されるなんて、うらやましいなぁと思ってるのは(笑)。★3つ。
『愛なのに』公式サイト


『牛久』は、入国管理センターに収容された人々の実態を捉えたドキュメンタリー。

全国に17ある入国管理施設。
その中のひとつが、茨城県牛久市にある東日本入国管理センター、通称“牛久”です。
ここは、在留資格がない外国人や、国外退去を命じられた人を強制的に収容している場所。難民申請をしても、なかなか認可が下りないのが現実で、何年も何年も、施設の中で暮らすことを余儀なくされています。
それも、聞けば非人道的な扱いがすごく、体だけでなく、心も蝕まれていくという。
アメリカ出身のドキュメンタリー映画の監督、トーマス・アッシュ監督が、1年半かけて牛久へ通い、9人の証言を隠し撮りしたもの。
プロパガンダではなく、これが実態なんだと考えざるを得ません。
昨年3月に、スリランカ人女性が、名古屋市の入管施設で収容中に亡くなり、遺族が来日して監視カメラの映像の公開を迫った出来事がありましたよね。入管について、我々日本国民の関心がいった事例でした。
不法滞在者がいるのも事実で、すべての面で悪法だとは言えませんが、映画の公式サイトの言葉を借りれば、「収容者を犯罪者扱いし、長期拘束し、家族を分断し、心を蝕み、死に追いやる構造」とあります。
それが日本で起きているのかと思うと、心が苦しくなります。
テーマと内容を考えたら★をつけることがためらわれましたが、あくまでエンタメとしての観点での★です。
ご覧になって、ご自身で考えてみて下さい。★3つ。
『牛久』公式サイト


『選ばなかったみち』は、認知症の父と介護する娘の24時間を描いた作品。

NYで暮らす作家のレオは、メキシコ移民。
認知症を患っていましたが、症状が進み、今では周りとの意志疎通すら、困難な状態になっていました。
そんな中、娘のモリーが、父を病院に連れて行こうと父の部屋を訪れます。
なんとか外には連れ出せたものの、出先で突然いなくなってしまったりと、とにかく思うように事が進みません。
その時、レオが見ていたのは、記憶の中の世界。初恋の女性ドロレスや、故郷のメキシコのこと、創作活動に行き詰まって旅したギリシャでの日々。
それらは、モリーが見ている現実の風景とは、まったく別のものだったのです…。

認知症の話。
ボクも父が認知症になったこともあり、見終えた時には、かなり重たい気持ちになってしまいました。
メガホンをとった、サリー・ポッター監督の弟が、実は若年性認知症と診断され、監督自らも介護にあたった経験があり、この映画を作るに至ったとか。
認知症の人の行動に、悪気があるわけではないのが、ツラいところですよね。
映画の中では、娘の父への深い愛情が救いかな。
その娘モリーを、ダコタ・ファニングの妹、エル・ファニングが演じています。★3つ。
『選ばなかったみち』公式サイト


『劇場版 DEEMO サクラノオト あなたの奏でた音が、今も響く』は、人気音楽アプリゲームの劇場アニメ化。

城の高い天窓から、ゆっくりと落ちてきた少女がひとり。
彼女は記憶を失っていましたが、真っ黒な出で立ちの紳士がDeemoであることは、何故か知っていたのです。
Deemoがピアノを弾くと、少女は自分がアリスという名前であることを思い出します。
そして、アリスがピアノを弾くと、音の木が伸びていき、この木が天窓にまで届けば、アリスは元の世界に帰れると考えたのです。
アリスを優しく見守る、猫のぬいぐるみのミライ、クルミ割り人形のくるみ割り、女の子の形をした匂い袋は、城にある楽譜を全部集めようと奮闘します。
しかし、この城にはもうひとり、謎多き白い仮面の少女がいました。
彼女はアリスに向かって、こう言い放ったのです。
「あなたなんて、嫌い」と…。

『DEEMO』は、世界で2800万ダウンロードされた、大人気ゲームアプリ。
いい加減なことを書くと、ファンに怒られそうですが(笑)、ゲームに疎いので、そこは優しくご了承下さい。
城の中のアリスのチャレンジと並行して、実はもうひとつの現実世界でも、物語は進行します。
そこの主人公もアリス。音楽学校でピアノを学ぶ少女です。
アリスが奏でるのは、聴く人すべてを魅了するような、美しいピアノの旋律。しかし、アリスはどこか人を遠ざけるようなところがありました。
それでも、同級生のサニアとロザリアが話しかけてくれ、だんだんと仲良しになっていきます。
ふたりのアリスに共通するのは?
城の中のアリスは元の世界に戻れるのか?
というお話。
ですよね、ファンの皆さん(笑)。
ゲームを知らないと、初見だと、ちょっとストーリーにはわかりづらいところがあるかも。
でも、映像はキレイですョ。音楽も素敵で。
感動して、涙が止まらないという感じでは、正直ありませんでしたが、いろんな意味でクオリティは高く。
美しく、不思議な感覚に包まれるファンタジーアニメ。大きなスクリーンで観たい1本です。★3つ。
『劇場版 DEEMO サクラノオト あなたの奏でた音が、今も響く』公式サイト


『灰色の壁 大宮ノトーリアス』は、実話に基づく物語。

今から15年前、1996年の埼玉県大宮。
そこでは暴走族の抗争が多発しており、最も勢力を伸ばしていたのが、吉田正樹率いる桜神會でした。
対抗勢力の魅死巌(みしがん)は、暴力団の青葉会と手を組み、罠を仕掛けて、正樹を少年院へと送り込んだのです。
懲役8年。すでに正樹には妻と娘がいて、とにかく真面目に過ごすことで、できれば模範囚となって、早く外の世界に戻りたいと頑張っていたのですが、塀の中の執拗な嫌がらせと暴力は、そんな正樹の思いを簡単には成し遂げさせてくれなかったのです。
さらに、信じていた仲間たちも手の平を返すように敵に寝返り、正樹の妻のさゆりをも苦しめていると知ったのです。
歯をくいしばって、遂に出所の日を迎えた正樹。そこから人生のリベンジが始まるのでした…。

暴走族というのは、ボクが中学生の頃ですかね、都内でもすごかった。
ただ、ボクらは小学校時代の同級生を次々とバイクの事故で亡くしました。毎月のように、友達の葬儀に参列。涙で目を腫らしたお母さんたちから、「危険なことは、お願いだからやめてね」と言われたのを今でも覚えています。ボクがオートバイに乗らない理由は、そんなところにあります。
バイクが危ないんじゃなくて、危険な運転が危ないのだということは重々承知です。でも、「ボクらの代はバイクをやめよう」と、よくみんなで話したものです。
若気の至りが、後に引けなくなって、人生を台無しにしてしまうことがある。大人になった人は、大なり小なり経験があるはず。この映画は、暴力と義理人情、贖罪と挑戦の映画だとありますが、それらの項目の中から、必要なものと不必要なものの区別ぐらいは出来ないとね。
モデルになった青年のルックスを知らないので何とも言えませんが、主演の奥野壮が暴走族の総長役にはイケメンすぎて(笑)、正直、線の細さが否めなかったかなと。
あえてそこにリアリティを求めなかったとしたら、それはそれで“あり”なのかもと思いつつ。辛口ですみません。★2つ。
『灰色の壁 大宮ノトーリアス』公式サイト


『ハード・ヒット 発信制限』は、韓国のサスペンス・アクション。

ソンギュは大手銀行の支店長。妻と娘と息子の家族4人で、裕福な暮らしを送っていました。
この日の朝も、通勤前に、車で子どもたちを学校に送るソンギュ。
すると、1本の非通知電話が入ります。
声の主は知らない男。車に爆弾を仕掛けたと言います。
イタズラだろうと初めは相手にしなかったのですが、シートの下には確かに爆弾らしきものと、起爆コードがありました。
男は「席を立ったら爆発する」と言います。
すると、副支店長から電話が入り、車に爆弾を仕掛けたという非通知電話があり、大事な会議に出られないと言うのです。
途中、助手席の妻と揉めている副支店長の車と遭遇。妻が制止を振り切って、車を降りたその瞬間、副支店長の車は木っ端微塵に吹き飛んだのでした。
イタズラではないとわかったソンギュ。後部座席には2人の子どもがいます。
犯人は誰で、なぜ自分たちが狙われたのか?
ソンギュたちは、この危機を乗り越えることが出来るのでしょうか…。

なかなか面白かったです。
非通知電話のことを、韓国では“発信番号表示制限電話”と言うようで、タイトルの“発信制限”は、そこから来ているのでしょう。
監督は、韓国映画界トップの編集マンと呼ばれた、キム・チャンジュ。これが長編初監督作品だそうです。
車の中で身動きがとれない状況で、どうやって事態を解決していくのか。何を書いてもネタバレになりそうなので(笑)、これ以上は控えておきます。
ドキドキハラハラの94分を楽しんで下さい!★3つ。
『ハード・ヒット 発信制限』公式サイト


『ボブという名の猫2 幸せのギフト』は、大ヒット映画の第2弾。

かつてのジェームズは、ホームレスのストリート・ミュージシャン。
ドラッグに溺れていたジェームズでしたが、更正プログラム中に与えられた1軒の家に、猫が住みつきます。
飼えないからと、何度追い払っても戻ってくる猫。隣人の言葉もあって、仕方なく飼うことを決意したジェームズは、この猫にボブと名付けて、雑誌“ビッグイシュー”の販売に同行させたのです。
ジェームズの肩の上には、いつもボブがいる。
これがSNSで話題となり、大人気に。
さらに『ボブという名のストリート・キャット』という本を出したら、これが世界中で大ベストセラーになったのです。
ジェームズは、今では人気の作家になりました。
ある年のクリスマス。出版社のパーティからの帰り道でのこと。ホームレスのミュージシャンが、警察官から路上演奏違反だと詰め寄られていたのです。
ジェームズは、機転をきかせて彼を助け、食事をごちそうします。
彼の名はベン。ジェームズにすら反抗的な態度を取るベンに、ジェームズは数年前、路上で過ごした最後のクリスマスの話を聞かせるのでした…。

日本では、2017年8月に公開となった『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』の続編で、全作に続き、今作も事実に基づくストーリーだそう。
紹介したあらすじも、実は前作をなぞったものが大半で、映画は出版社のパーティから始まります。
ジェームズがベンに語るのは、ホームレス最後のクリスマスに起こった、奇跡のような出来事。
ボブとジェームズが引き離されそうになったのですが、それを阻止できた理由とは…。答えは劇場で確かめて下さいね。
サイトによると、2020年にボブは亡くなったそうです。でも、今作でも前作同様、ボブはボブとしてジェームズの肩に乗っています。在りし日のボブに、是非会いに行って下さい。★3つ。
『ボブという名の猫2 幸せのギフト』公式サイト


『ライフ・ウィズ・ミュージック』は、オーストラリア出身の人気シンガー・ソングライターSiaの初監督作品。

アルコール依存症のリハビリテーションプログラムを受けるため、家族と離れて暮らしているズー。
彼女には、自閉症の妹ミュージックがいて、アパートの一室で、祖母と二人暮らし。周囲の助けもあって、毎日を楽しく過ごしていたミュージックでしたが、祖母が急死。急遽、ズーがミュージックの面倒を見ることになったのです。
感受性が強すぎるミュージックの世話は、想像以上に大変で。そんな時、隣りの部屋に住む、黒人男性のエポが助けてくれたのです。
これまでも手を差し伸べてくれていたエポのほうが、ミュージックを理解しているようで、次第に家族のように打ち解けていく3人。
自由奔放な性格で、アルコールのせいで人生につまずき、自暴自棄になっていたズーの心も、だんだんと溶かされていきます。
エポに対しても、好意を抱き始めたズー。
しかし、心優しいエポにも、人には言えない秘密があったのです…。

Siaの自伝的ストーリーに、ミュージシャンらしい味付けを加えた“ポップ・ミュージック・ムービー”。
とにかくカラフルで、書き下ろした12曲もの劇中歌と共に描かれる色鮮やかなシーンは、妹ミュージックが感じている脳内世界を表現したもの。
でも、妹の名前がミュージック=音楽ですから、自身の感性としても描かれているはず。
「もう映画を作る予定もない」とコメントしているSia。推測ですが、映画に関しては、今作ですべてを出しきったんじゃないかなと。
今後、新たな感性の貯蓄が溢れんばかりになったなら、その時はまたメガホンをとるのかもしれませんね。
“顔なきポップスター”の異名をとるSia。その名の如く、ニヤリとさせる形でカメオ出演しています。
そのシーンも、どうぞお楽しみに!★4つ。
『ライフ・ウィズ・ミュージック』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.2.17
『白い牛のバラッド』★★★
『真・事故物件 本当に怖い住民たち』★★★
『MIRRORLIAR FILMS Season2』★★★
『ドリームプラン』★★★★
(満点は★★★★★)


今週は23日(祝・水)公開の映画『ドリームプラン』も、ご紹介しておきます。
普段は五十音順で並べていますが、“ド”で始まる『ドリームプラン』が一番最後にあるのは、そういう訳だとご理解下さい。
さぁ、今週は4本です!

『白い牛のバラッド』は、イランとフランスの合作映画。

ミナはテヘランの牛乳工場で働く、シングルマザー。
夫のババクは、殺人罪で逮捕され、1年前に死刑に処されました。
遺された娘のビタには、聴覚の障がいがあり、しゃべることが出来ません。
それでも、ミナの心の支えは、愛娘ビタの存在にあったのです。
ある日のこと、ミナの元に夫の冤罪の報せが届きます。真犯人が見つかったというのです。
怒りに震えるミナは、裁判所に抗議に行くも、賠償金を払うの一言で門前払いに。担当していたアミニという判事への謝罪を求めても、会うことすら叶いません。
そんな時、ミナを訪ねてきた男性がひとり。ババクの友人だったというレザです。
レザは親身になって、ミナとビタの面倒をみてくれます。
次第に親密になっていく3人。
しかし、レザには、母娘には絶対に言えない秘密があったのです…。

イランとフランスの合作映画ですが、制作陣や役者がイラン人であること、イランの法制度、女性差別的な現状を描いている点からすれば、イラン映画と言っていいかと思います。
勘のいい方なら、レザの持つ秘密は読めちゃうはず。劇中では、早々に明かしているので、書いてもいいんですけどね(笑)。
ミナも夫を亡くし、男手は必要。ビタもなついているとなれば、ミナとレザと男女の関係になるのも自然の成り行き。
でも、実は…。
事実を知ったミナは一体どうするのか。その結末こそが、この映画の見どころになっています。
サスペンス・ミステリーの要素もあり、なかなか面白かったです。
ちなみに、女性の生きづらさを描いているせいか、自国の検閲を通らず、イランでは数回しか上映されていないそう。
ボクらも、イラン映画に触れる機会はそうないでしょう。こういう作品で体験するのはありだと思います。★3つ。
『白い牛のバラッド』公式サイト


『真・事故物件 本当に怖い住民たち』は、ホラー映画。

弱小芸能プロダクションに所属する3人の女性タレントに、仕事のオファーが来ます。
仕事と言っても、自主制作のYouTubeの配信番組で、上手くすれば、それがバズって、そこからチャンスが生まれるという程度のもの。
その番組企画は、郊外のいわゆる事故物件に住んで、怪奇現象をカメラに収めるまで帰らないという内容。
乗り気のしない3人でしたが、タレントと言っても、まだ知名度ゼロの彼女たち。首を縦に振らざるを得ませんでした。
到着したアパートは、確かに異様な雰囲気で、気味の悪い出来事が起こりますが、それはほんの序章に過ぎず。
この先に、本当の恐怖が3人を待っていたのです…。

このブログでも、たびたび紹介するホラー映画の配給会社TOCANAが、自社で作る映画製作第1弾として発表したのがこの作品です。
関連サイトを見ると、やたらと“ゴア表現”という言葉が出てくるので調べてみたら、ゴアとはドロッとした血のことだそうで、ゴア表現とは「血飛沫が飛び散るような残虐なシーン」のことを言うそうです。
この映画を撮った佐々木勝己監督は、“ジャパニーズ・ホラーの暴走王”と呼ばれているそうで、ゴア表現のマニアにはたまらない映像なのかもしれませんね。
確かにエグいです。
正直、B級感は拭えませんが、それもまたホラーにはいい味付け?
血に弱い方にはお勧めしませんが、TOCANAの第1弾ということで、次に繋がりますように。ご祝儀込みの★3つ。
『真・事故物件 本当に怖い住民たち』公式サイト


『MIRRORLIAR FILMS Season2』は、短編映画制作プロジェクトの第2弾。

計36人の監督が、15分以内という時間の縛りの中で、“変化”をテーマに短編映画を作り、それを4回に分けて発表していくプロジェクトの2回目。
実は、昨年9月のSeason1もオンラインで観ていたのですが、あろうことか、紹介を忘れてしまい…。本当に申し訳ない。
という訳で、今回も9人の監督作品がズラリ。シリアスなものからコメディまで、好きも嫌いも含め、いろんなタイプの映画が並んでいます。
ひとつひとつ取り上げることはしませんが、監督の名前だけは挙げておきましょう。
Azumi Hasegawa、阿部進之介、紀里谷和明、駒谷 揚、志尊 淳、柴咲コウ、柴田有磨、三島有紀子、山田佳奈。
「あれっ?」と思った人もいるかと思いますが、そう、志尊 淳、柴咲コウのふたりの俳優が、初メガホンを取っています。
どちらも、現代社会の闇にスポットを当てた意欲作。どんな仕上がりになっているかは、劇場でお確かめ下さい。
短編ならではの個性的な作品が9本。ちょっぴりお得感があるかもしれませんョ。★3つ。
『MIRRORLIAR FILMS Season2』公式サイト


『ドリームプラン』は、世界最強の女子テニスプレイヤー、ビーナスとセリーナのウィリアムズ姉妹を育てた、父親と家族の物語。

ある日のことです。テレビに映るテニスプレーヤーが、優勝賞金として、4万ドルの小切手を受け取るシーンを見たリチャード・ウィリアムズは、自身にテニスの経験がないにも関わらず、独学で「世界王者にする78ページの計画書」を作成。まだ生まれてもいない子どもたちを、プロのテニスプレーヤーにするための“ドリームプラン”を書き上げたのです。
再婚相手のオラシーンとの間に生まれたふたりの娘、ビーナスとセリーナは、家族のサポートを受け、決していいとは言えない環境の中、父の計画通りにテニス漬けの毎日を送ります。
才能の塊のような、ビーナスとセリーナ。
しかし、プロの指導が欠かせないのは明白。とは言っても、一流コーチに頼む余裕など、一家にはありませんでした。
すると、リチャードはジョン・マッケンローのコーチとして有名な、ポール・コーエンのところに二人を連れて行き、粘り腰で直談判。才能を認めさせたのです。
ビーナスとセリーナの腕は、メキメキと上達していきます。
さらに、リック・メイシーのテニスアカデミーに、特待生扱いで入れさせるなど、剛腕振りを発揮。フロリダの豪邸も、アカデミーが面倒を見るまでの待遇を勝ち取ったのです。
ところが、リチャードは自分で何でも決めないとすまないタイプ。育成方針にも口を出すし、10代は学業が優先だと、試合に出さない日々が続きます。
これでは、アカデミーとの軋轢を生むばかりか、妻や娘との間もギクシャクしていくことに。
果たして、リチャードは、“ドリームプラン”を実現させることが出来るのでしょうか…。

実話に基づくストーリー。
リチャードを演じるのは、ウィル・スミスです。
ドリームプランの実現については、皆さんご存じだと思いますが、ビーナスとセリーナで、グランドスラム30回優勝!大坂なおみ選手や、伊達公子さんとも戦ってきた姉妹は、テニス界の偉大なる存在となりました。
実は、リチャード・ウィリアムズ氏に関しては、いろんな噂や、いいとは言えない評判もあるようですが、映画の題材としての面白さ、ユニークさは突出しており、破天荒とも言える夢へのアプローチはまさにアメリカン・ドリーム。その一方で、家族の絆の物語でもあります。
オラシーンと前夫との間に娘が3人。ビーナスとセリーナは5人姉妹の4女と5女ということになります。その姉たちも、映画の制作に力を貸していて、それがウィリアムズ家のリアリティを描くことに寄与したようです。
144分。まったく飽きることなく見入ってしまいました。フィクションの部分もあるのは確かですが、それにしても、世界にはすごい話があるものだと驚かされます。
日本でも、間違いなく話題になるはずです。★4つ。
『ドリームプラン』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.2.9
『ちょっと思い出しただけ』★★★★★
『ブルー・バイユー』★★★★
(満点は★★★★★)


友人に勧められて、先週の映画ブログから、初めてハッシュタグなるものを付けてみました。
「せっかく書いてるんだから、もっとたくさんの人に読んでもらえばいいのに」と言われ、確かにそうだなと(笑)。
“いいね!”を打って下さった方のブログを読んだら、確かにハッシュタグが繋いでくれたかなというのもあって。
映画も、音楽も、自分に寄り添ってくれる作品との出会いが宝物だと思います。これからも率直な感想を書いていきます。大切な出会いの道標になれば幸いです(^-^)
さぁ、今週は2本です!

『ちょっと思い出しただけ』は、時を巻き戻すラブストーリー。

佐伯照生はステージ照明のスタッフ。元々はダンサーでしたが、足を傷めて踊れない体になってしまい、今の職業に就いています。
2021年7月26日。この日は、照生の34歳の誕生日。いつもと同じ時間に目覚ましが鳴り、朝のルーティーンから1日が始まります。
野原葉は、タクシー運転手。この日、彼女はひとりの男性ミュージシャンを車に乗せます。
トイレに行きたいという男性を一旦降ろしたのは、劇場の入った建物の前。
客が戻るのを待つ間に、葉は車を降り、音のする方へ、導かれるように入っていくと、そこには終演後のステージで、ひとり踊る照生の姿がありました。
じっとみつめる葉。
そこから1年、また1年と、ふたりが出会った6年前まで、思い出をさかのぼっていったのです…。

ボクは、基本的に試写を観る前には、何の下知識も入れないようにしています。
でも、たまに「前もって知っていればよかったかな」と思う映画があるのも事実。
この作品も、照生と葉の6年の恋愛をさかのぼる形で、物語が進むんだというのを、わかって観たほうがいいと思います。
だから、なるほど、タイトルは『ちょっと思い出しただけ』。
松居大悟監督の前作『くれなずめ』が、青春の友情の思い出なら、今回は恋愛のそれ。松居監督にとっては、初めてのラブストーリーだそうです。
忘れられそうでいて、忘れられない過去。忘れなくちゃいけないのかもしれないけど、「忘れなくていいんじゃない?」と、優しくささやいてくれるような映画です。
そのことは、公式サイトにある、監督と主演の池松壮亮、伊藤沙莉のコメントを読むと、より一層伝わります。
そう、あの頃があって、今がある。確かに“地続き”なんだよなぁ。
ボクが別れた元妻の思い出を話したり、書いたりするのは、まさにこんな感じ。もちろん本人には迷惑千万だろうけど(笑)。
ごめんね。
これを「未練がましい」と言う人もいるけど、そうじゃないんですョ。ちゃんと吹っ切れてるけど、それでも人生の大きくて、大切な時間だったから。大事に、心の中にしまっておきたいと思っているわけです。
こんな考え方の人には、メチャメチャ刺さる映画です。実は『ちょっと思い出しただけ』じゃなくて、かなり思い出してるはず(笑)。“ちょっと”は照れ隠しだと確信しています。
主演のふたりのやり取りが、本当の恋人同士のように自然で。
車の中で言い争うシーンなんて、どうしても自分のあの頃を思い出しちゃう。「そうだよな、わかる。わかるけど、そこまでにしておきなって。それ以上、言っちゃダメだよ。言ったら壊れるから。壊れるよって。あぁ、言っちゃった…」みたいな(笑)。
正直、心のかさぶたを剥がされるけど、これまで生きてきて、人を真剣に愛してきたんだなと。
松居作品、いいですね。次も期待しちゃいます。満点!★5つ。
『ちょっと思い出しただけ』公式サイト


『ブルー・バイユー』は、養子としてアメリカにやってきた韓国人移民の問題を描いた作品。

韓国生まれのアントニオは、3歳でアメリカ人の家庭に養子にもらわれ、移住。30年以上、アメリカで生活してきました。
今は、シングルマザーのキャシーと、彼女の娘のジェシーと3人で、貧しいながらも幸せに暮らし、キャシーのお腹の中には、アントニオとの子がいます。
過去の犯罪歴と出自が邪魔をして、なかなか新しい職に就けないアントニオ。
そんな時、キャシーの元夫で警察官のエースが、スーパーで買い物中の3人を見つけるんですね。
娘との接見を断り続けられてきたエースは、ここぞとばかりにキャシーに迫ると、アントニオがエースの前に立ちはだかります。
すると、明らかに人種差別主義者の同僚警官が、アントニオに対し、手荒な対応をし、遂には手錠をかけるんですね。
逮捕されたアントニオには、さらなる追い討ちが。それは、養子としてやってきた30年以上前の書類に不備があり、このままだと国外退去を余儀なくされ、二度とアメリカに帰ってこられなくなると言うのです。
移民局に身柄を移されたアントニオ。
弁護士に弁護を依頼すれば、高額な費用がかかります。さらに弁護士は言います。
「この国は、君みたいな人間を狙っているんだ」。
ようやく掴んだ家族の幸せを、アントニオはどう守るのでしょうか…。

主演のジャスティン・チョンが、監督、脚本も務めた作品。
韓国では、1950年に勃発した朝鮮戦争時に、米兵との間に出来た子や、戦災孤児をアメリカに送ったのが始まりと言われる養子移民問題。
ところが、その後は戦争とは関係のない、貧困や望まない出産などが理由で国際養子が広まり、韓国は、“赤ん坊の輸出国”などという、不名誉な言われ方をした時代があったそうです。
そうした頃の影響が、今も根強く残っているのが現実で、この映画も多くの当事者たちに取材をして、脚本を書いたとジャスティン・チョンは語っています。
ジェシーを演じた、シドニー・コワルスケという子役の女の子の演技が素晴らしく、次々と変化していく環境に、その都度、心が揺れ動く様を、見事に表現しています。
特に目がすごい。感情が無になったかと思わせるジェシーの表情には、観ているこちらが凍りつきますから。先々の活躍が楽しみ。名前を覚えておきたいと思います。
このジェシーが、おそらく、この物語の評価を左右する存在になっていきます。彼女の劇中の動向に注目してみて下さい。★4つ。
『ブルー・バイユー』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.2.3
『ギャング・オブ・アメリカ』★★★★
『再会の奈良』★★★
『パイプライン』★★★
『夕方のおともだち』★★★
(満点は★★★★★)


2月になりました。
コロナの影響が大きく出始めたのが2020年の2月の半ば頃ですから、丸2年ですかね。
まだ何が起こるかはわかりませんが、どんな変化にも対応出来るように、心は常に豊かにしておきたいものです。
映画はいいですョ。たくさんご覧になって下さい!
さぁ、今週は4本です!

『ギャング・オブ・アメリカ』は、実在の伝説のマフィアを描いたクライム・サスペンス。

1902年にユダヤ系ロシア人として生まれ、少年期にアメリカに移住してきた、マイヤー・ランスキー。
NYの不良たちを仕切っていた、ラッキー・ルチアーノと仲良くなると、ランスキーは犯罪の世界で頭角を現し、地下賭場の経営、酒の密輸、さらには殺しを生業とするマーダー・インクを設立。その勢力は全米へと広がっていったのです。
アル・カポネらと肩を並べる存在にまで登り詰めたランスキーは、キューバにも事業を拡大。FBIやCIAとの密約があったのか、周囲の仲間が次々と逮捕されても、ランスキーに警察の手は及びませんでした。
マイアミの隠れ家で余生を過ごしていた1981年、作家のデヴィット・ストーンが、ランスキーの伝記本を書きたいと、ランスキーに申し出ます。
ランスキーは、それを受諾。貧乏だった幼少期から、波乱の人生を語り始めたのです…。

1983年1月に肺ガンで亡くなったマイヤー・ランスキー。実在の伝説のマフィアです。
彼の人生は、20世紀アメリカの犯罪史そのものでもあると。ストーンとランスキーのやり取りから、映像は若き日のランスキーへとさかのぼり、当時の緊迫した場面が繰り広げられていきます。
ランスキーは結婚し、子どもを3人授かりますが、長男に障がいがあり、妻との不仲もあって、経済的には裕福でも、決して幸せな家族生活とは言えなかったようです。
一方のストーンも家庭に問題を抱えていて、出版までは、一切、他言は無用としたランスキーとの契約でしたが、ランスキーが隠し持っているとされる3億ドルもの資産をFBIが捜査。ストーンは情報提供を依頼され、心が揺れ動くんですね。
実は、この映画のエタン・ロッカウェイ監督の父が、アメリカ犯罪の歴史家で、実際にランスキーの死の直前に会ってインタビューをしたそう。
ストーンはそんな父親がモデルになっていて、息子であるロッカウェイ監督は、「神話のキャラクターを思わせる、邪悪な力と意志を持っていた」と、突き抜けた裏社会のトップに魅せられていたようです。
決して、暴力賛美の映画ではありませんが、そんな監督思いが伝わる1本に仕上がっています。
レベルの高い、クライム・サスペンス映画だと思います。★4つ。
『ギャング・オブ・アメリカ』公式サイト


『再会の奈良』は、日中合作映画。

奈良で暮らす、中国生まれの清水初美。中国名はシャオザー。
2005年、彼女のもとに、中国に暮らす陳ばあちゃんが来日すると連絡が入ります。
実は、陳ばあちゃん、中国残留孤児を養女にしていたのですが、94年の帰国政策で、養女の麗華を日本に帰すことにしたのです。
しばらくは定期的に手紙が届き、元気な様子が見てとれていたのですが、数年前から便りが途絶え、心配になって、単身、日本に探しに来たというわけです。
血のつながりはないけれど、孫娘のように可愛がっていたシャオザーを頼りに来日した陳ばあちゃん。
奈良に住む中国残留孤児は6人。しかし、日本名がわからないこともネックになって、麗華の所在はなかなか掴めません。
そんな時、ひょんなことから、元警察官だった吉澤一雄と知り合い、3人での麗華探しが始まったのです…。

日中国交正常化50周年記念の映画として制作された作品。
日本側のプロデューサーは河P直美。中国側は中国映画“第六世代”を代表するジャ・ジャンクー。
メガホンをとったのは中国のポンフェイ監督。
中国残留孤児の問題、課題は、今も根深く残っていて、残留日本人と血縁関係があるとして来日しても、それを証明出来ないと国外退去処分を課されたり、ブローカーの存在や、そもそもの生活や文化の違いなどに戸惑い、日本の社会生活に馴染めない人も多いようです。
また、2世や3世が、いわゆる中国マフィアになったりする例も多く、問題点が散見しているのが現実です。
映画も、日本国籍を持ちながら、言葉も少し中国訛りのあるシャオザーこと清水初美と、退官して孤独な初老の元警察官の吉澤一雄が、陳ばあちゃんが育てた日本人の残留孤児を探すという。
物語はすっきりとは終わりませんが、それがこの問題の“現実”ということなのかなと。以前ほど話題に挙がらなくなっていますが、実は進行形であるということを表しているのかなと感じました。
重たい話を音楽が和らげてくれていたり、物怖じしない陳ばあちゃんの行動が笑いを誘ったりと、劇中に“救い”も少々。
奈良・御所の風景もそのひとつになっているのかもしれません。★3つ。
『再会の奈良』公式サイト


『パイプライン』は、韓国のアクション・エンターテイメント。

石油の送油管に穴を開け、別の管をつないで石油を盗むという大胆不敵な犯行を“盗油”と言います。
その犯罪を完遂するには高い技術が必要で、ピンドリは究極の穿孔技術の持ち主。
そんなピンドリのもとに、数千億ウォンもの石油を盗まないかという話が舞い込みます。
持ちかけたのは、若き大企業の2代目、ゴヌ。もちろん、高額な報酬を提示してきたのです。
危険と知りながら、ピンドリは要請を受けるんですね。
チームには他に、溶接のプロ、チョプセ。地中のことは何でも知っているナ課長。“怪力人間掘削機”ビッグショベル。ITを駆使して、内外を監視するカウンターの5人。
限られた期限の中で、綿密に立てた計画通りに作業を進めたいピンドリたちでしたが、ハプニングやアクシデントが連発。思うように事は進みません。
冷徹なゴヌは、容赦なくチームを追い立てます。
遂には警察も事件を嗅ぎ付け、ピンドリたちに捜査の手が伸びてきたのです…。

韓国では実際にあったそうですね。盗油事件。
それを時にコミカルに、時にシリアスに描いた作品です。
これだけの大規模犯罪が、いくらプロ中のプロの集団とはいえ、この少人数で出来るのか。正直、ちょっとリアリティに欠けているんじゃない?と思っちゃいました。
韓国映画のすごいところは、緻密に計算し尽くされたストーリーの構築にあるので、それを期待しちゃうとちょっと…といった感じでしょうか。
でも、キャラの立った登場人物たちが、面白おかしく演じてる様に、コミックの側面が大きいのかと思って観れば、十分に楽しめると思います。★3つ。
『パイプライン』公式サイト


『夕方のおともだち』は、山本直樹の同名コミックの実写映画化。

ヨシダヨシオは、市の水道局に勤める平凡な男性。
父を亡くしてから寝たきりになってしまった、母の面倒を見ながらの二人暮らしでしたが、そんな彼にも、ひとつだけ趣味がありました。
それは、街に一軒だけあるSMクラブに通うこと。
同僚と遊びに行ったその店で、自分が真性のドMであることに気付いてしまったヨシオは、仕事が終わると店に赴き、ミホ女王様のお仕置きを受けることが生き甲斐になっていたのです。
ところが、最近はプレイの最中にも、どうにも気持ちが入らない。
原因を考えるに、ヨシオに初めてSMの快楽を教えたまま、忽然と姿を消してしまった“伝説の女王様”ユキ子のことが忘れられないからじゃなかろうかと。
そんなある日のことです。ユキ子が街に帰ってたという噂がヨシオの耳に入ります。
数日後、ヨシオは意外な形で、ユキ子との再会を果たしたのです…。

SMの女王様と奴隷という、一風変わった男女のヒューマン・ラヴ・ストーリー。
性描写はかなりストレートで、映倫区分はR18+です。
滑稽に見えて、真面目。真面目だからこそ、どこか哀愁漂うヨシオの毎日。
でも、何が正しくて、何が変かなんて、誰にもジャッジ出来ませんから。
世の中には凸と凹があって、ピタリとハマるなら、それはそのふたりにとって、互いが互いの運命の人。
他人に迷惑をかけないなら、どんなプレイも人にとやかく言われる筋合いはないわけで。あ、性行為に限らず、宗教だって、思想、生活習慣だって、そうですよね。
あなたのノーマルが、実はアブノーマルの可能性だって、なきにしもあらず。
ただ、尖った凸と凹は、見つけた相方を大切にしないとね。なかなかハマらないと思うから。
あぁ、幸せになりたい…(笑)。★3つ。
『夕方のおともだち』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.1.28
『クレッシェンド 音楽の架け橋』★★★★
『Pure Japanese』★★
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』★★★
『麻希のいる世界』★★★
(満点は★★★★★)


だいぶ試写室での試写も再開し、案内のハガキには「オンライン試写は実施致しません」等の文章が増えたのも束の間。オミクロン株の蔓延で、狭い試写室での鑑賞には、正直怖さが伴うようになりました。
ハガキの発送時を考えれば、仕方のないこと。こんなタイムラグも、コロナウイルスの特徴なのかも。うんざりしている人が多いのは、安易に想像できますよね…。
それでも映画は元気ですョ!
さぁ、今週は4本です!

『クレッシェンド 音楽の架け橋』は、実話に基づくストーリー。

世界にその名を轟かせるドイツ人名指揮者、エドゥアルト・スポルクの元に、イスラエルとパレスチナから若者を集めて、平和を祈ってのコンサートを開かないかという打診が届きます。
不可能だと一蹴するスポルクでしたが、説得され、オーディションを開くことに。
パレスチナ側からやってきた、バイオリニストのレイラ、クラリネットを吹くオマルは、検問を通ることすら困難で、特にレイラは母親が猛反対。
一方のイスラエル側は、バイオリニストのロンを中心に、経済的にも恵まれた若者たちが多く、オーディションの場から、アラブ人とユダヤ人の、ピリピリした空気が漂っていたのです。
スポルクが選んだのは、20数名の若き音楽家。ところが、何かと揉めるばかりで、練習は遅々として進まず。
そこでスポルクは、全員を連れて、南チロルでの21日間の合宿を敢行します。
憎しみ合う民族同士の共同生活には難題がつきまといます。
この複雑な関係を修復し、無事コンサートを開くことは出来るのでしょうか…。

ドイツ映画です。ドイツにもナチス時代の負の歴史が、今も消えることなく残っています。
紛争が続く、イスラエルとパレスチナ。世界で最も解決が難しいと言われる問題ですが、それでも音楽が垣根を越えて、両者が手を携えている実例があるのです。
それが指揮者のダニエル・バレンボイムと、文学者のエドワード・サイードが1999年に設立した“和平オーケストラ”のウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団。
この楽団には、イスラエル、パレスチナ、アラブ諸国からメンバーが集まり、今も世界中で演奏を続けているといいます。
中東の問題は、キレイ事で済むような話でないのは重々承知ですが、事実として、そういう楽団があるということに、感動と可能性を感じずにはいられません。
とはいえ、映画にも描かれていますが、ひとたび罵り合いが始まると、それはそれは凄まじいものがあり、我々日本人には理解不能な根深さがあるんだなと改めて痛感させられます。
映画の中は、どう揺れて、どう固まって、どう崩れて、最終的にはどうなるのか。それはあなたの目で確かめて欲しいのですが、100:0でなければ価値がないなんてことはないわけで。
個の積み重ねが、いつか憎しみの濃度を希釈してくれる日が来ないかな、なんて、こんな感動作を観てでさえ、難しいと感じるのですから。
悲しく厳しい現実ですが、100のうち、僅かですが、確実に差し込んだ光に触れることは出来ます。きっと、その光を神々しく感じるはずです。★4つ。
『クレッシェンド 音楽の架け橋』公式サイト


『Pure Japanese』は、ディーン・フジオカの企画、プロデュース、主演作。

地方のテーマパークで、忍者ショーのメンバーとして働く立石大輔。
殺陣やアクションのスキルに関しては、素晴らしいものを持っているのですが、過去に撮影現場で、過って人を殺してしまったトラウマから、芝居の途中で体が動かなくなってしまうことがあり、今は音響を担当。それでも日々、鍛練は欠かさずにいたのです。
仲間の送別会で行ったスナックでは、県議の黒崎が、地元のヤクザと酒を酌み交わしていました。
黒崎たちは、このあたりの土地を中国人ブローカーに売却して儲けようという計画を立てていたのですが、頑として立ち退きを拒否する住民がひとり。それが、この店でバイトをしている女子高生のアユミの祖父、隆三でした。
ヤクザたちは、酔って立石らに絡んで、ひと悶着。店の招き猫を壊したお詫びに、後日、店を訪れる立石。運命の糸は、一歩ずつ、立石とアユミたちを近づけていきます。
アユミと隆三に対し、立ち退きを迫る黒崎たちの嫌がらせはエスカレート。ついには隆三が命を落とすことになります。
「あいつら全員殺しちゃって:超びっくりマーク:」
そのアユミの一言が、立石の中の暴力へのリミッターを外したのです…。

ディーン・フジオカの映画です。
彼と彼のファンのための映画ですかね。
Wikipediaで調べてみると、ディーン・フジオカは、父親は中国生まれですが、両親も祖父母も日本人。自身は、アメリカ留学や海外渡航歴も多く、5ヶ国語を話せるとありました。
劇中、日本人の純度を計る試薬“Pキット”なるものが出てきて、立石は100%日本人という結果に高揚するという場面があるのですが、日本的なものにこだわった内容に、自分の何かを確かめたかったのかなと思い、出自を調べたくなりました。
グローバルな活躍や、そんなイメージが、逆にルーツを明確にしたくなったのでしょうか。
繰り返しになりますが、“ディーン・フジオカの映画”だと思います。
裏を返せば、ターゲットが明確で、それもまたエンタメのひとつの在り方だと思います。★2つ。
『Pure Japanese』公式サイト


『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』は、架空の街の、架空の雑誌の最終号のお話。

フランスのとある街にあるフレンチ・ディスパッチ誌の編集部。
この雑誌は、アメリカ出身の名物編集長が、超個性的な記者を集めて、グルメ、アート、ファッションから国際問題まで、幅広いテーマを、斬新な視点で取り扱った人気の1冊。
ところが、編集長が、心臓まひで突然亡くなってしまったのです。
遺書があり、編集長の他界と共に、雑誌は閉刊しなくてはなりません。
編集部としても、雑誌は続けたいけれど、大好きだった編集長の遺志も大切だと。
そこで下した結論は、次の号での廃刊でした。
そして、いよいよ最終号の制作、編集が始まったのです…。

ウェス・アンダーソン監督の記念すべき10作目だそう。
映画、フランス、活字カルチャーに愛をささげると、もらったプレス資料にはありました。
色使い、アングルへのこだわりはもちろん、セットのひとつとして計算されているであろう人ひとりひとりの動きまでもが美しく、観ていて、「ほぅ」と唸らされてしまいました。
映画は最終号に掲載する、1つのリポートと、3本の記事からなるオムニバス形式。
内容も面白いのですが、ボクのようなストーリー重視派向きではなく、散りばめられた仕掛けや、監督の意図を見つけるワクワクが、メインの楽しみ方としてあるんだろうなと。
いわば、通のための、玄人のための映画というか。
料理に例えれば、目で楽しみ、舌で隠し味を探し、その都度ワインを合わせる高級フレンチのような。
正直、ボクには、ちょっぴり高嶺の花(笑)。
とはいえ、あなたの感性には合うかもしれませんョ。どうぞ、お試しあれ!★3つ。
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』公式サイト


『麻希のいる世界』は、ふたりの女子高生の物語。

由希は高校2年生。
実は、重い持病があり、そのせいで常にもやもやしたものを抱えていて、学校にも、世の中にも馴染めずにいました。
そんな由希に好意を持っていたのが、軽音楽部でギターを弾く祐介でした。
ところが、由希の主治医でもある祐介の父親が、由希の母と真剣交際。子どもたちにとっては、あまりに複雑です。
そんな時、由希は同じ学校の“問題児”、麻希と出会うんですね。
何かと悪い噂が絶えない麻希でしたが、由希にはその強さが憧れに映ります。
徐々に仲良くなるふたり。
祐介は「あいつにだけは関わるな」と、しつこく忠告してきます。
ふとしたきっかけで、麻希の音楽の才能に気付いた由希は、祐介を巻き込んで、音楽で世の中を見返してやろうと考えます。
しかし、このことが、後に起こる事件の契機になろうとは、想像も出来なかったのです…。

ボクも大好きな映画『さよならくちびる』の塩田明彦監督の長編最新作。
単なる青春映画じゃないだろうなと思っていましたが、その予感は当たっていました。
10代の持つ“自分”が危ういことは、ボクらが大人になって振り返ればわかるけれど、あの頃はちょっと背伸びもして、当時の物差しでは精一杯の自分に価値を見出だしてましたもんね。
否定してるわけじゃありませんョ。だって、それが青春なんだから。
でも、この映画の登場人物は、みんな幸せじゃない方向へと向かって行ってしまう。
ネタバレだったら、ごめんなさい。
でも、誰か止められなかったのか。大人も含めてです。
もちろん、幸せも人それぞれだから、「何言ってんの?幸せじゃん」という、反論もあるかと思います。でもね。
ブレないって、なに?
世の中に媚びるって、本当にダメなことなの?
そんな議論を巻き起こすとしたら、それもまた映画の持つ意味なんじゃないかなと思います。★3つ。
『麻希のいる世界』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.1.20
『コーダ あいのうた』★★★★★
『さがす』★★★★
『シークレット・マツシタ 怨霊屋敷』★★★
『シルクロード.com 史上最大の闇サイト』★★★
『ブラックボックス 音声分析捜査』★★★★
『ライダーズ・オブ・ジャスティス』★★★
(満点は★★★★★)


首都圏の1都3県に、まん延防止等重点措置が発出されました。
感染のヤマは高いけれど、短いという、オミクロン株の海外サンプルが日本にも、ある意味、当てはまってくれるといいなぁと。短期決戦を願うばかりです。
加えて、これがコロナウイルスにとっての“終わりの始まり”であることを、エンタメに携わっているひとりとして、祈るばかりです。
さぁ、今週は6本です!

『コーダ あいのうた』は、2014年のフランス映画『エール!』のリメイク作品。

ルビーは、歌が大好きな女子高生。
明るい両親と、優しい兄との4人暮らしで、一家は漁で生計を立てていました。
実は、家族の中で健聴者は、ルビーただひとり。他のみんなは聴力に障がいがあり、漁の船にもルビーが乗船。家族の耳になっていたのです。
新学期になって、気になる男子のマイルズが合唱クラブに入ると知り、ルビーもあとを追うように入部するんですね。
すると、顧問の先生がルビーの才能に気付き、都会の名門音楽大学への入学を薦めます。
しかし、ルビーには、放ってはおけない家族の存在があったのです。
大好きな音楽と、家族の間で悩むルビー。彼女と彼女の家族が出した結論とは…。

いやぁ、泣けました。
笑って、泣けました。
実際に、耳の不自由な俳優さんを使って、キャスティングにもこだわった作品。
家族の明るさに救われながら、それゆえ自分に課せられた役割の重圧がルビーに重くのしかかります。
言い訳をしないルビーですが、体はひとつ、時間は1日24時間。次第に無理がたたっていきます。
“コーダ”というのは、耳が不自由な親に育てられた子どものことを言うそうです。
でも、そこには家族の愛があって、マイルズとの恋があって、何より音楽があります。
最後は、本当に涙、涙。ハンカチを2枚ぐらい持って、劇場にどうぞ!満点!★5つ。
『コーダ あいのうた』公式サイト


『さがす』は、佐藤二朗主演のサスペンス・スリラー。

大阪の下町に暮らす、智と楓は父と娘。
智は卓球センターを営んでいましたが、経営難で今は手放している状態。
それでも、ふたりは手を携え、懸命に生きていたのです。
そんなある日のこと、智がこんなことを言ったのです。
「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。警察に突き出したら300万やで」
すると、次の朝、智は忽然と姿を消してしまいます。
楓に好意を持つ同級生の豊と一緒に、父を探し始めますが、土地柄か、子どもだからか、警察はまったく相手にしてくれません。
そんな中、日雇い労働者の名簿に、父の名前があることを知った楓は、現場に駆けつけます。
ところが、父の名前で働いていたのは、父ではなく、まったく見ず知らずの若い男性でした。
父親探しが振り出しに戻ってしまった楓が、ふと町に貼られた指名手配犯のチラシに目をやると、そこにあったのは、山内照巳という、さっき父の名前で働いていた若い男の写真だったのです…。

メガホンをとった片山慎三監督が、大阪に住む父親から、「指名手配犯を見かけた」と言われた実体験からインスピレーションを得、ストーリーを紡いでいったという1本。
昨今、実際に起こった事件を彷彿とさせる内容で、人間の深い心の闇に踏み込んでいくストーリーは、確かに秀逸でした。
監督にとっては、問題作『岬の兄妹』に続く、2作目の長編映画。
40歳。これからが楽しみな才能に、今から触れておくことをオススメします!
大丈夫だョ。楓ちゃん、君の正義が、必ず君を幸せにしてくれるから!★4つ。
『さがす』公式サイト


『シークレット・マツシタ 怨霊屋敷』は、ペルーのホラー映画。

日本と関係の深い南米の国、ペルー共和国。
首都リマに、マツシタ邸という幽霊屋敷がありました。
旧くは日系人が住んでいたのですが、凄惨な殺人事件の現場となり、今は警備員が立ってはいるものの、人が住めない廃墟と化していたのです。
超常現象が多発すると噂のこの屋敷に、2013年、3人の若者が撮影チームを結成、霊媒師を呼び、4人で侵入。カメラを回します。
すると、遊び心と好奇心とでマツシタ邸に入った彼らを、想像を絶する恐怖が待ち受けていたのです…。

映像は撮影チームが消息を絶った6ケ月後に発見されたビデオデータで、映画のサイトではこれを事実だとしています。もちろん、アナログのボクには、マツシタ邸の存在を確かめようがなく、真実かどうかはあなた自身で判断して下さい。
2014年のペルー映画。ドキュメンタリータッチのホラー作品です。
自国では初登場1位になったそうで、“死”という文字が何度も浮かび上がってくるように、日本への神秘的なイメージも手伝ってのヒットだったのでしょうか。
ホラー好きの皆さんの感想が、逆に気になります。★3つ。
『シチリアを征服したクマ王国の物語』公式サイト


『シルクロード.com 史上最大の闇サイト』は、実話をもとにした”サイバー・ダーク・サスペンス“。

天才的頭脳を持つ若者、ロス・ウルブリヒト。
「何者かになりたい」。
しかし、ロスには明確な目標が立てられず、悶々としていたのです。
そんな時、ふと思いついたのが、絶対に足のつかない闇サイトの立ち上げでした。
検索エンジンではヒットせず、表では買えない違法ドラッグや、武器、さらには殺人の依頼まで、完全に匿名で売買し、暗号通貨のビットコインで取り引きをする、”シルクロード“というサイトを作ったのです。
これが瞬く間に大ヒット。1日の売上高が軽く1億円を超えるようになります。
当然、警察やFBIもサイトの存在は把握しますが、鉄壁の防御に、サイバー捜査班ですら歯が立たないんですね。
そんな時、麻薬捜査班で問題を起こし、サイバー犯罪課に左遷された、リック・ボーデンという刑事がいました。
すると、パソコンなんて使ったこともないアナログ人間が、思いもしない方法で、ロスを追い詰めていくことになるのです…。

事実に基づくということですが、”闇のAmazon“と言われた闇サイトが、2011年、実際に立ち上がったようです。
”シルクロード“は2013年に閉鎖されるまでに、約120万件もの違法取引があり、アメリカ・テキサス州に住むロス・ウィリアム・ウルブリヒトは、終身刑で、現在も監獄の中にいるそうです。
システムについてはまったくわかりませんが、”シルクロード“は、騙しのない安心、安全のサイトだったとか。何が安心、安全なんだか…(笑)。
それをアナログ刑事が、コツコツと証拠を積み上げて、追い詰めていくという。
個人的には、頑張れアナログですが(笑)、巨万の富を得るにも”器“があるのかなと。ロスにはそれがなかったということですかね。
壊れていく姿は、あまりに憐れ。やっぱり、ほどほどが一番かもしれません。★3つ。
『シルクロード.com 史上最大の闇サイト』公式サイト


『ブラックボックス 音声分析捜査』は、航空業界の闇を描いたサスペンス・スリラー。

航空事故調査局に勤める、音声分析官のマチューは、些細な音から、故障の箇所や、接触したものを判別する天才的な耳の持ち主。
しかし、それゆえに妥協を一切せず、孤立することも多かったのです。
そんなある日のこと、ヨーロピアン航空の最新型機がアルプスで墜落し、乗員、乗客316人全員の死亡が確認されたのです。
責任者のボロックは、なぜかこの事故の調査にマチューを同行させませんでした。
妻のノエミに「外された」とこぼすマチューでしたが、ブラックボックスを開けたボロックが、まもなくして姿を消してしまったのです。
代わりを任されたマチューは、ブラックボックスの音声を解析、テロの可能性が高いと結論づけます。
ところが、被害者のひとりの女性が、夫に遺した留守番電話のメッセージを聞いて、マチューは愕然とします。
事実はまったく違うと確信したマチュー。
しかし、真実を追求しようとすればするほど、そこには高い壁が立ちはだかり、深い闇が横たわっていたのでした…。

面白かったです。
事故の原因が何なのか、一件落着かと思いきや、次々と新たなる真実が出てきて、マチューの見解は上書きされていきます。
謎解きの映画ですから、あまりしゃべっちゃうとネタバレになるので、やめておきますが(笑)、頑なな正義がマチューにはある。それこそが音声分析捜査官のプライドで、そのプライドが彼を突き動かします。
絶対音感を持つ人が、街中の不協和音に不快になるように、マチューの耳も大変なんだろうなと。
この映画を観て、凡人でよかったと思うのは、ボクだけじゃないと思います(笑)。★4つ。

『ブラックボックス 音声分析捜査』公式サイト


『ライダーズ・オブ・ジャスティス』は、デンマークの”リベンジ・アクション・エンターテインメント“。

アフガニスタンで軍人としての任務に就いていたマークスのもとに、妻が列車の事故で亡くなったという報せが届きます。
同じ列車に乗っていた、娘のマチルデは放心状態。しかし、マークスは家族のことを何も知らず、どう接したらいいのか、わかりませんでした。
悲しみと後悔でいっぱいのマークスを、ふたりの男性が訪ねてきます。数学者のオットーとラースです。
オットーによれば、彼もまた妻や娘と同じ列車に乗っていて、今回の事故は事故じゃない。ライダーズ・オブ・ジャスティスという犯罪組織が、殺人事件の重要参考人を消すために、巧妙に計算した事件だと言うのです。
その証拠を並べるオットーの見解に、マークスの怒りは頂点に達し、犯罪組織への復讐を誓います。
さらに、もうひとりのパソコン・オタク、ニコラスが加わり、奇妙なリベンジ集団が立ち上がります。
ところがです。事は思わぬ方向へと進んで行ったのです…。

不思議な運命の糸が絡まって始まる悲劇。
発端は、マチルデの自転車が盗まれ、仕方なく、車で母に学校まで送ってもらうはずが、車が不調。落ち込んでいるマチルデに、母は学校をサボることを提案。母娘で楽しい時を過ごし、帰宅の列車に乗り込みます。すると、オットーが席を譲り、座席に座った母が命を落とすという。
あれがなければ、こうしていたら。そんな”たら“、”れば“に、マチルデは悩み続けるんですね。
口より先に手が出るような父と、数学オタクたち。警察が取り扱ってくれないなら、自分たちでやってやろうじゃないかと、数学的理論で周りを固め、復讐劇は始まるのです。
ところが、「へっ?」という方向に話は進みます。それをどう受け止めるかは、あなた次第。
ただ、スピーディーな展開は、飽きさせることなく、観ている人を楽しませてくれます。
時にプッと笑える、北欧のアクション映画。ご覧になってみて下さい。★3つ。
『ライダーズ・オブ・ジャスティス』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.1.13
『安魂』★★★
『エル プラネタ』★★★
『シチリアを征服したクマ王国の物語』★★★
『なん・なんだ』★★★
(満点は★★★★★)


新年最初の映画紹介です。
昨年は、150本の新作映画を観させてもらいました。
12月30日にオンラインで2本、大晦日に2本。きっちり追い込んで、ノルマ達成です(笑)。
2022年も、できるだけたくさんの映画を観て、ご紹介していけたらと思っています。
今年も、ご愛読よろしくお願い致します。
さぁ、今週は5本です!

『安魂』は、日中合作映画。

著名な作家である唐大道。彼には、英健というひとり息子がいました。
英健は、父の望む息子になろうと、真面目に働き、父の言うことをすべて受け入れてきました。
しかし、恋人の張爽は農村の出身。
結婚したいと両親に合わせたところ、「お前には相応しくない」と、大道は結婚を許してはくれません。
激しく食い下がる英健でしたが、自分が正しいと頑なな大道が、首を縦に振ることはありませんでした。
過労と心労が祟り、倒れてしまう英健。29歳の若さで、この世を去ってしまいます。
死の間際に、「父さんが好きなのは、自分の心の中の僕なんだ」と言われ、大道は愕然とします。
どんなに悔やんでも、息子はもういない。
しかし、死後の世界を描いた本を読み漁ると、まだ息子の魂は近くにあると。
そんな時、英健と瓜二つの若者を街で見つけるんですね。
あとを追うと、路地奥の家の中へ入っていくではありませんか。
そこは、心霊治療所なる怪しげな場所で、息子に似た若者は劉力宏という、その施設のスタッフでした。
あまりに息子に似ている彼をどうしても他人とは思えず、死者と繋がるという心療治療に多額の金を費やす大道。詐欺に決まってるという妻の反対には耳を貸さず、ついには妻も家を出て行ってしまいます。
さまよい続ける大道の心が、安寧を取り戻すことは出来るのでしょうか…。

監督、脚本は日本人が、キャストとロケ地は中国で、という日中合作映画。
日本からは、北原里英が星崎沙紀という日本人留学生の役で出ていて、英健が倒れた時に近くにいたことから、この件に関わっていく大切な役どころを演じています。
スピリチュアルな要素がたっぷりのサスペンス・スリラーでありながら、家族の愛も描いているという今作。
人生は後悔の連続だし、個人的に、ボクも父を亡くしていて、ああしておけばよかった、この言葉を伝えておけばよかったと、未だに思い出すとツラくなることばかり。
恋愛や結婚においても、ちょっと大道的な部分があっただけに、観ていてツラいところもありました。
でも、生きているのだから、前を向かなきゃ。そんな勇気を与えてくれる1本でもあります。
ちなみにこの映画が、東京では、岩波ホールでの上映(1月15日土曜日から2週間の特別先行ロードショー)となります。
名館のスクリーンで是非!★3つ。
『安魂』公式サイト


『エル プラネタ』は、ミレニアル世代を代表するアーティスト、アマリア・ウルマンの初長編監督作品。

レオは、ロンドンの学校でファッションを学んだ、駆け出しのスタイリスト。
母親が暮らす故郷、スペインの町、ヒホンに帰ると、アパートは家賃滞納で、電気も止められる寸前。
それでも母と娘は似たもの同士。まだカードが使えるからと、街に繰り出しては買い物をし、話す会話は虚勢にまみれたハッタリばかり。そうして、“映える”映像をSNSにUPし続けます。
レオが「ようやく出会えた」と思った男も、体を重ねたあとに妻子持ちだと発覚。
「私の人生って何?」と嘆いている時に、結末は突然やってきたのです…。

ミレニアル世代とは、“デジタル・ネイティヴ”とも言われ、2000年初頭に成人を迎えた世代。
次に控えし、Z世代とは、価値観の点で違うと言われます。
ミレニアル世代は好景気を知っていて、Z世代は不況の中で育ったと。
キャッチフレーズにもなっている、「みんな、飾って生きている」。
確かに、この映画を観ていると、母娘の見栄はミレニアル世代の一現象なのかなと思ってしまいます。
監督のアマリア・ウルマンは、1989年にアルゼンチンで生まれ、スペインで育った32歳。
SNSを駆使して、世界中で人気の彼女が、自ら主演、脚本、プロデュース、衣装デザインを務め、さらに母親役には実の母を起用。
自身の故郷で、自分の貧困生活を反映させた、リアリティもたっぷりな内容になっているそうです。
“パパ活”の交渉から始まる、この映画。観れば、どこまでがリアルなのか、知りたくなるはず(笑)。
逆に、これぐらい突き抜けてないと、世界を魅了するような人気のアーティストにはなれなのかなと。
平凡でも、穏やかな幸せがいいと感じるのは、“何世代”でしょう(笑)。★3つ。
『エル プラネタ』公式サイト


『シチリアを征服したクマ王国の物語』は、イタリアの童話を映画化したアニメ作品。

旅芸人のジュデオンとアルメリーナが、旅の途中で吹雪に見舞われ、洞窟に避難すると、中から冬眠を妨げられた老クマが現れます。
ふたりは食べられては困ると、『シチリアを征服したクマ王国の物語』を語り始めます。
その物語は、次のよう。
昔むかし、シチリアの山奥で平和に暮らす、クマの王国がありました。
王のレオンスが、川で息子のトニオに魚の捕り方を教えていると、トニオの姿が見えなくなってしまったのです。
悲しみに動けなくなったレオンスに、長老のテオフィルが、人間の暮らすシチリアに行けば、トニオが見つかるのではと進言。クマたちは一斉に山を下り、シチリアの街へ向かいます。
シチリアを治めていた大公は、魔術師デ・アンブロジスからクマの大群がやってくることを聞くと、友好的に接近してきたテオフィルをいきなり射殺してしまいます。
ここから人間とクマの戦いが始まったのです。
ことごとく大公側の作戦を打ち破ったクマたちは、サーカスを楽しんでいる大公の元を急襲。
するとそこに、綱渡りをするトニオの姿がありました。
再会を喜んだその時でした。大公の銃弾が、トニオの命を奪ったのです。
これには観客の人間たちも怒りをあらわにし、デ・アンブロジスは魔術でトニオを生き返らせます。
暴君の大公は処刑され、レオンスがシチリアの王になると、クマと人間の平和な暮らしが訪れたのでした。
ふたりの話がここで終わると、老クマが言いました。
「実は、その話には、続きがあるんだよ」と…。

イタリアとフランスの合作アニメ。
原作は、1945年に発表された、イタリア人作家の児童書です。
アニメーション先進国の作品ではない、個性的なタッチが光る映像で、色使いや、影の活かし方、大量のクマや人があえて機械的に一糸乱れず動く様など、確かに日本やアメリカのアニメーションとは一線を画していると感じます。
原作も、1945年発表の作品ですから、第二次世界大戦の真っ只中に作られたもの。
クマと人間ですから、本来は相容れない存在。それが一時は手を取り合えたのに、ほころびが見え始めると、関係が崩れていく。
それぞれの生き方、幸せの在りようは違うのに、同じ価値観の器に押し込めようとすること自体が間違いなんじゃないかと教えているようで。
寓話としての教訓も散りばめられた、大人向けのアニメーション作品。
原作は男(オス)ばかりの話だそうで、その原作にはなかった勇気を持つ少女が登場します。時代に合わせた変化が、物語をさらに膨らませているはずです。★3つ。
『シチリアを征服したクマ王国の物語』公式サイト


『なん・なんだ』は、結婚40年になる夫婦の物語。

横須賀の団地に暮らす、三郎と美智子は、結婚して40年になろうかという夫婦。
三郎は元大工。仕事を引退してしばらく経ちますが、これといってやることもなく。
ふたりには娘の知美がいて、結婚し、孫娘がひとり。
ある日のこと。妻の美智子が、入念に化粧をして外出しようとしていました。
「どこに行くんだ?」
「文学講座」
「まだ続けてたのか。化粧が濃いんじゃないか」
美智子は聞き流すかのように、「知美のところに持って行って下さい」と、届け物を頼みます。
美智子が外出し、三郎も頼まれた食料品を届けようと外に出たのですが、どこに持っていったらいいのか、わからなくなってしまうんですね。
仕方なく帰宅した三郎。
すると、携帯電話が鳴ります。美智子がひき逃げに遭い、意識不明で病院に運ばれたというのです。
しかし、美智子が入院したのは京都の病院でした。
「京都?なぜ」
娘の知美も駆けつけ、京都に行くと、ベッドで眠る美智子の姿が。荷物を確かめると、バッグの中には、古いアルバムとカメラがありました。
事故から1週間が経ちましたが、意識が戻らない美智子。
何があったのかを知ろうと、三郎が現像を頼んだ写真を受け取りに行くと、なんとその写真には見知らぬ男の姿が映っていたのです…。

三郎と知美が疎遠になっていた奈良の美智子の実家を訪れ、数珠繋ぎに糸を辿って行くのですが、知らなかった妻の、娘にとっては母の、知らなかった真実に触れることになります。
三郎は典型的な昭和の亭主関白。仕事一本に生きてきて、妻は夫に食わせてもらっているという考えの持ち主で、高圧的な態度がそこここに現れています。
意識が戻った美智子は、この状況を家族にどう説明するのか。夫婦の関係はどうなるのか。
メガホンをとった山嵜晋平監督は41歳。果たして、どんな着地点を設定したのか。ご覧になる方は、どうぞお楽しみに。★3つ。
『なん・なんだ』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.1.5
『弟とアンドロイドと僕』★★★
『こんにちは、私のお母さん』★★★★★
『ジギー・スターダスト』★★★
『truth〜姦しき弔いの果て〜』★★★
『マークスマン』★★★
(満点は★★★★★)


新年最初の映画紹介です。
昨年は、150本の新作映画を観させてもらいました。
12月30日にオンラインで2本、大晦日に2本。きっちり追い込んで、ノルマ達成です(笑)。
2022年も、できるだけたくさんの映画を観て、ご紹介していけたらと思っています。
今年も、ご愛読よろしくお願い致します。
さぁ、今週は5本です!

『弟とアンドロイドと僕』は、阪本順治監督、豊川悦司主演作品。

工科大学でロボット工学を教える、准教授の桐生薫。
天才的IQの持ち主でしたが、かなりの変人で、講義は難解な数式をひたすら黒板に書き殴り、時にケンケンをしながら教室に入ってくるという。これには、学科長も頭を抱えていました。
薫が住むのは、高台にある古い洋館。そこはかつて、薫の母の両親が経営していた病院でした。
ところが、婿養子としてやってきた薫の父が、母子を置いて看護師と駆け落ちをし、それからというもの、病院は信用を失い、母は暖炉の前で、自ら命を絶ったのです。
薫には、ずーっと抱えている悩みがありました。
それは、自分が存在していることを確信できないということ。
特に右足が自分の身体の一部だと思えず、鏡にすら自分の姿が写らないのです。
そんな薫は、自分の分身とも言える、機械仕掛けのヒト型アンドロイドを作っていました。
これこそが自身の存在を確かめられる唯一のものだと。
そんな時です。腹違いの弟、求が血まみれになって、家の扉を開けて入ってきたのです…。

雨が降り続く映画です。
トーンは暗く、登場人物のすべてが闇を抱えている感じ。
薫の父は、今は寝たきりで、病院のベッドの上。看病するのは駆け落ちした看護師の女性。その息子である求は、父の入院費と称して、金をせびりに、薫の大学にもちょくちょくやってきていました。
この求を始めとする、希薄でありながら、ある意味、深い関連性の家族の存在が、薫の人生に絡んでいるのです。
この映画は、阪本順治監督の人生観や内面を映し出したものだそう。
極めて、私小説ふうですが、描かれているのは“究極の孤独”。これには世の中に共通するリアリティが残されているはず。
観る側が、そこまで辿り着ければ、感じ入るものがあるんじゃないかと思います。★3つ。
『弟とアンドロイドと僕』公式サイト


『こんにちは、私のお母さん』は、中国映画。

元気と明るさだけが取り柄の女子高生、ジア・シャオリン。
大好きなお母さんを喜ばせようと、ジアは演劇を学ぶ名門大学の本科に合格したと嘘をつきます。受かったのは二部なのに。
盛大に開いた合格祝賀会で恥をかいた母娘は、自転車に乗って帰途へ。それでも優しい母と話が弾んでいたその時です。交通事故に遭ってしまうんですね。
気づけば、病院のベッドの上。自身は助かり、母は瀕死の状態。
自分の存在が本当に嫌になったジアが廊下に飛び出すと、白黒テレビが懐かしい中国を映し出していたました。
なぜかジーっと魅せられるジア。
すると、ジアは画面の中に引き込まれてしまいます。
空から降った先は、なんと今から20年前、1981年の中国。そこには若き日の母の姿があったのです…。

監督、脚本、主演は、中国の人気喜劇女優、ジア・リン。
実際に、若くして交通事故で亡くなった母をモデルに、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』よろしく、タイムスリップして親子が出会う物語を描きました。
当時の中国は、言ってみれば昭和の日本。そこへ、未来からやってきたジアが、自らの存在はなくなってもいいからと、なんとか母を父ではなく、お金持ちと結婚させようと奮闘します。
中国映画とは言っても、香港映画と違って、どこか垢抜けない感じで、最初はただのおふざけの作品かと思って観ていたら、いやいやいやいや。最後に超絶感動の仕掛けが待っていました。
もう、大号泣…。
ボクも、母が入院していて、思えば親孝行な息子じゃなかったからなぁ。そんな自分自身とジアを重ねたのかもしれません。
誰にとっても、母の存在は特別ですからね。
なんと興行収入900億円を獲得したという話題作。
人口の多い自国での大ヒットが大きいようですが、テーマは国に関係なく、普遍的な親子愛。日本でも、多くの人に観てもらいたい感動の1本です。
ハンカチを2枚持っていって下さい(笑)。満点!★5つ!
『こんにちは、私のお母さん』公式サイト


『ジギー・スターダスト』は、デヴィッド・ボウイのライブ・ドキュメンタリー。

1947年1月、イギリス・ロンドンに生まれたデヴィッド・ロバート・ジョーンズ、後のデヴィッド・ボウイは、個性的なルックスとサウンドで、世界中にファンを持つロック・アーティスト。
1964年にデビュー。
しばらくはヒットが出なかったのですが、1969年に発売したアルバム『スペイス・オディティ』からのリード・シングル「スペイス・オディティ」が、スマッシュ・ヒットに。これで、人気アーティストの仲間入りを果たします。
その後、アメリカに渡ったデヴィッドですが、その時の苦労の物語は、昨年10月に公開された映画『スターダスト』に描かれています。ちなみに、こちらはドキュメンタリーではありませんが、興味があれば、併せて観てみて下さい。
デヴィッド・ボウイは、名前やバンド名を変えたり、コンセプト・アルバムを発表することも多く、今作のタイトルも、1972年のアルバム『ジギー・スターダスト』から。
“5年後に滅びようとする地球に異星からやってきたスーパースター、ジギー・スターダスト”をテーマに、17曲を収めたこのアルバムが、世界中で大ヒット。
この作品をひっさげて、ワールドツアーを敢行。来日も果たした後、1973年のロンドン、ハマースミス・オデオンで、ツアーの最終日を迎えることになります。
すると、突然、このステージでジギー・スターダストを封印すると発表。ファンを驚かせました。
この映画は、その最後のステージを収録したものです。
そのアルバムから、今年で50年。
2016年に、この世を去ったデヴィッド・ボウイですが、親日家であることはつとに知られていて、『ジギー・スターダスト』のツアーでも、若き日の山本寛斎を衣装に起用。大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』への出演でも広く知られています。
ちなみに、今作は日本でも1984年12月に一度公開されていて、その“2002年サウンドリミックス・デジタルレストア版”。
伝説のスーパースターのライブドキュメンタリーです。当時の熱狂を、ご自身の目で確かめてみて下さい。★3つ。
『ギー・スターダスト』公式サイト


『truth〜姦しき弔いの果て〜』は、堤 幸彦監督50本目の記念作。

とある男が、交通事故で亡くなります。
葬儀が終わった後、恋人とおぼしき女性がひとり、男性のアトリエを訪れ、思い出に浸りながら哀しみに暮れていました。
体を重ねたベッドに入ろうとしたその時です。なんと布団の中から、もうひとり喪服の女性が現れたではありませんか。
「あんた、誰?」
「あんたこそ、誰よ?」
すると、扉が開いて、さらにもうひとりの女性が。
「あんたたち、誰?」
全員が、自分こそ、彼の本命だと言い張ります。
その根拠は、事故の直前に残された、彼からの留守電でした。
「帰ったら、大事な話があるんだ」
しかし、この留守電も、3人に、それもほぼ同時刻に届いていたのです。
髪をつかんでの大乱闘。そして、罵り合い。
さぁ、このドタバタ劇の結末やいかに…。

コロナ禍で仕事がなくなった3人の女優が、自ら企画を立て、プロデューサー兼トリプル主役を務めたという作品。
それに、堤 幸彦監督が乗り、50本目の記念作品が自主映画に。監督にとっては“原点回帰”の意味があるとか。
劇中の3人の女性は、それぞれ、元ヤンのシングルマザーのマロン、受付嬢の真弓、女医のさな。タイプも価値観も違う女性たちの自己主張の中に、現代の男女の問題点が詰まっているかのよう。
女性3人による会話劇ですが、カメラワークからして、かなりの長回しに見えます。舞台の演劇をそのまま映画にしたような1本です。
どう着地するのかと思って観てましたが、きちんとオチるので、ご安心を。あ、これはネタバレにはなりませんよね(笑)。
71分。時間的にも、ちょうどいいかも。
やる気というか、本気が人を動かすんだなぁと。こうして、映画という形になったことに敬意を表します。★3つ。
『truth〜姦しき弔いの果て〜』公式サイト


『マークスマン』は、メキシコの凶悪麻薬カルテルと戦う、元海兵隊員とメキシコ人少年の物語。

メキシコとの国境付近で牧場を営む、ジム・ハンソンは元海兵隊員で、腕利きの狙撃兵。
妻に先立たれ、今は愛犬と暮らすジムでしたが、密入国者を見つけたら、国境警備隊に知らせるのも彼の役目のひとつ。
ある日のこと、母親とひとりの少年が、国境の柵を越え、アメリカへと入ってきます。
すると、ふたりを追いかけてきた車が1台。麻薬カルテルです。
母子を保護したジムでしたが、柵を挟んで、カルテルは引き渡しを要求。ジムが拒むと銃撃戦になり、母親が撃たれてしまうんですね。
逃亡のための資金をすべてジムに渡し、シカゴに親戚がいるからと、息子をジムに託して息を引き取った母親。
「巻き込みやがって」と、最初は憤っていたジムでしたが、亡くなった母親のため、そして金のために、少年をシカゴまで送り届けることを決意します。
しかし、銃撃戦で命を落としたのは、カルテル側も同じ。リーダーの弟がジムの弾丸で亡くなっていたのです。
復讐に燃えるカルテルは、難なくアメリカに潜入。ふたりを執拗に追いかけます。
1400マイルに渡る逃亡劇。果たして、ジムたちは、無事シカゴにたどり着けるのでしょうか…。

メキシコ人少年の名前はミゲル、11歳。
祖父と孫ほど、年の離れたふたりですが、共通するのは、家族を失い、孤独だということ。
そんなふたりだからこそ、通じる部分があったのでしょう。次第に心通わせるようになります。
しかし、この麻薬カルテルが、あまりにも残忍で。いとも簡単に人を殺しちゃうんですね。
そんな凶悪な追っ手が、あらゆる手段を使ってふたりを追い詰めます。
物語に斬新さはありませんが、古い車と銃、そして正義。アメリカの安定のヒーロー像です。
ジムを演じるのは、リーアム・ニーソン。好きな人は好きなタイプの映画だと思います。★3つ。
『マークスマン』公式サイト