週末公開の映画……2021.12.02
『グロリア 永遠の青春』★★★
『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』★★★★
『スティール・レイン』★★★★
『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』★★★★★
『ベロゴリア戦記 第2章:劣等勇者と暗黒の魔術師』★★★★
(満点は★★★★★)


12月になりました。
ここに来て、新たなコロナウイルスの変異株が出現したのは心配ですが、エンタメに多大な影響を及ぼさないことを祈りたいですね…。
中身の濃い作品の公開が続きます。バタバタと忙しい時期ですが、いい映画でひと息つけますように。
さ、今週は5本です。

『グロリア 永遠の青春』は、チリ、スペインの合作映画をハリウッドでリメイクした作品。

ロサンゼルスに暮らす、グロリア・ベル。
離婚もし、子育ても終わり、自由な生活を送る“アラフィフ”の女性です。
それでも正直、心は満ち足りておらず、夜はクラブで踊る日々。
そのクラブで知り合った男性が、アーノルド。彼もまた離婚を経験したという、熟年男性です。
知的好奇心をくすぐる会話に惹かれたグロリアは、彼と付き合うことに。
ところが、グロリアはアーノルドにひとつだけ不満があったのです。
それは、別れた家族から頻繁に連絡があり、特に娘たちは自立が出来ていないからと、グロリアとのことを話していないと言うのです。
大人としての修正をし続けるものの、時を重ねるに連れ、ふたりの心は少しずつすれ違っていくのでした…。

2013年(日本では2014年)公開の映画『グロリアの青春』を、主役も務めたジュリアン・ムーアがリメイクを熱望。
オリジナルのセバスティアン・レリオ監督が、そのままメガホンをとる形で、ハリウッド版として蘇ったという作品です。
「いくつになっても、恋はわたしを輝かせる。」というのがキャッチコピーですが、そこには中高年の男女が抱えるリアルな悩みも描かれていて。
作品としては、リアルだからいいんでしょうけど、人生を知ってしまったがゆえの“我”のぶつかり合いには、なかなか醜いものがあります(笑)。
ボクが恋愛に憧れながらも、一歩踏み出せないのは、そんな理由があるからかな。
オリジナルにかなり忠実なリメイク版。
歳を重ね、自由に生きていると捉えるか、昔のようにはいかないとネガティブに思うのか。リアルに響くぶん、感じ方も人それぞれだと思います。
ま、男はいつまでも子供。それだけは確かなようです(笑)。
あなたはどう感じるか。劇場で試してみてはいかがですか?★3つ。
『グロリア 永遠の青春』公式サイト


『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』は、青春音楽映画。

1987年のコロラド州デンバー。
スーパーのレジ係として働くクレオは、大好きなイギリスのバンド、ザ・スミスの解散をラジオから聞き、茫然自失。ショックを受けるんですね。
レコードショップで働くディーンも、ザ・スミスのファン。駆けつけたクレオと共に、解散を嘆きます。
世界の一大事なのに、何ひとつ変わることのない町の風景を見て、「町のみんなにわからせたい」と訴えるクレオ。
しかし、どうすることも出来ないのが現実。
クレオに好意を抱くディーンは、彼女をデートに誘いますが、パーティーがあるからと断られてしまいます。
ひとり取り残された感のあるディーンは、クレオの言ったことを実行に移そうと決意するんですね。
それは、地元のヘビメタ専門FM局を乗っ取り、ザ・スミスの追悼特集を組ませること。
ディーンは生放送中のDJに銃を突き付け、ザ・スミスの曲を流せと、放送局をジャックしたのです…。

ザ・スミスは、ボーカルのモリッシーとギターのジョニー・マーを中心とした、イギリスのロックバンド。
当時、イギリスは若者を中心に失業者が増え、賃金も下がり、そんな若者の不平不満を歌詞にしたザ・スミスの曲は大ヒット。わずか5年の活動でしたが、彼らは伝説のバンドとなります。
映画の舞台となったデンバーの若者も、将来に希望が持てず、大きな夢を語るものの、実はスーパーでフルタイム働くクレオは、その象徴なのかもしれません。
そんなクレオには、元彼のビリー、マドンナ好きのシーラ、その恋人のパトリックという仲間がいて、その夜はビリーの米国陸軍への入隊祝いのパーティーでした。
彼らもみんな悩んでいて、町中が閉塞感に包まれていたんですね。
そんな中、ディーンが動きます。
方法がいいか悪いかは別にして、とにかく動いた。
それが、この映画の最も伝えたい部分なんじゃないかと思います。
劇中の曲は、もちろんザ・スミス。このバンドを知らなくても、青春ドラマとして十分楽しめる1本です。
ちなみに“ショップリフターズ”とは、万引き犯のことです。★4つ。
『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』公式サイト


『スティール・レイン』は、韓国映画。

朝鮮半島の歴史が変わろうかという、北朝鮮とアメリカの平和協定締結。
その詰めの首脳会談が北朝鮮で開かれ、アメリカからはスムート大統領が、北朝鮮からはチョ委員長が、韓国からはハン大統領が出席します。
米朝の意見が割れ、さらに日本と中国の思惑が交錯する中、なんとクーデターが起こるんですね。
チョ委員長の警備担当にあたる護衛司令部のトップであるパク総局長が、核の放棄と国交正常化に反対し、米韓朝の3首脳を原子力潜水艦“白頭号”に拉致したのです。
搭載された核弾道ミサイルを発射すれば、世界は瞬く間に核戦争へ突入してしまいます。
情報を掴んだ各国が、首脳の救助に動こうとしますが、そこには超大型の台風“スティール・レイン”が接近。行く手を阻んでいたのです…。

ヤン・ウソク監督原作の『鋼鉄の雨』シリーズの第2弾だそう。
実在の各国トップを思わせるキャラクターたちが、陥った窮地をどう乗り越えるのか、国の長としての叡智と度胸、人間の器が試されます。
スマート大統領は、まさにトランプ前大統領だなというキャラで(笑)。
もちろんフィクションですから、人物考証の結果そのままに描かれているわけではないのですが、ユーモアを織り交ぜながら、それでも実際に起きても不思議はないようなストーリーが展開していきます。
今や、戦争が始まったら、間違いなく人類は滅亡しますから。その道を選ぶほど、人間は愚かではないと信じたいですけどね。映画の中の3首脳にも、実際にこうあって欲しいと願うような“良心”があって。
エンターテイメントとして観れば、実に面白い1本だと思いますョ。★4つ。
『スティール・レイン』公式サイト

『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』は、音楽ミステリー。

第2次世界大戦下のロンドン。
裕福な家庭に育つマーティン、9歳。
そこに、ポーランド系ユダヤ人の、同じ9歳の男の子、ドヴィドルが預けられ、部屋を共にすることになります。
ドヴィドルには、天才的なヴァイオリンの才能があり、マーティンの父が惚れ込み、育てようと決めたのです。
信じる神も違い、高飛車な態度のドヴィドルに、初めはケンカばかりのマーティンでしたが、そこは同じ歳の男の子。次第に仲良くなっていきます。
二人が成長し、ドヴィドルの名が世に知られるようになった時、初めてのコンサートが開かれます。客席は各界の大物たちで超満員。
しかし、リハーサルを終えて外出したドヴィドルが、コンサート会場に戻ることはありませんでした。
あれから35年。今もマーティンは、ドヴィドルを探し続けています。
そして、執念が実り、マーティンは遂に彼を見つけ出したのです…。

面白かったです!
マーティンを演じるのは、『海の上のピアニスト』のティム・ロス。
ドヴィドルの家族も、ドヴィドルの才能を信じ、まだ9歳の息子を他人に預けて、離れ離れの生活を選択する。苦渋の決断ですよね。
実の息子のように大切に育ててくれたマーティンの両親や、兄弟のような仲だったマーティンを裏切ることになると知りつつ、なぜドヴィドルは姿を消したのか。
現在と過去を往き来しながら、マーティンがドヴィドルを探す道程で、ボクらはパズルのピースを、ひとつずつ、はめ込んでいきます。
ドヴィドルを見つけ出した後もドラマは続きます。
失踪の原因と真実が明らかになった時、映画の観客は「そうだったのか…」と唸らずにはいられないはず。
それでもパズルは完成せず。
映画の終盤は深い…。
言いたいことがいっぱいあるけど、何を書いてもネタバレになりそうだからなぁ(笑)。
ドヴィドルの心の中はもちろん、エンドロールの直前、マーティンがある行為をしながら映画は終わりますが、「なぜ?一体何に?」の答えが自分なりに見えたなら、パズルは完成するのかも。
お勧めです!満点!★5つ!
『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』公式サイト

『ベロゴリア戦記 第2章:劣等勇者と暗黒の魔術師』は、ディズニー・ロシアが手掛けたシリーズ第2弾。

平和を取り戻したベロゴリア王国。
イワンは魔法の剣の力を使い、人間界とベロゴリア王国とを行ったり来たり。王国の自宅に最新家電を持ち込んだりと、やりたい放題。
ところが、安寧の時は、長くは続きませんでした
ヴァルヴァラは魔法の剣を奪おうと、虎視眈々。
さらに、1000年の眠りから暗黒の魔術師が目覚めたのです。
イワンが魔法の剣で対峙しようとしましたが、魔法の使い過ぎで力が減少してしまっていたのです。
このままでは、王国が闇に飲み込まれてしまいます。
剣の力を取り戻すカギは“死の国”にあり。
イワンと仲間たちは、過酷な旅へと出たのです…。

前回、第1章を紹介した『ベロゴリア戦記』の第2章。
登場人物やキャラクターは、そのまま引き継がれているので、まずはそちらを参照してみて下さい。
前作の最後に意味深なシーンがあり、それが活かされている第2章。それぞれがキャラ立ちしていて、続けて見ると間違いなく引き込まれると思います。
広大なロシアを象徴するかのように、映像のスケールも大きく、今回は巨大なクジラが雪原の空を飛びます。
イワンのチャラさは相変わらずですが(笑)、果たして最強戦士のDNAは目覚めるのか。
ちなみに、本国ではこの12月に、待望の第3弾が公開されるそうです!★4つ。
『ベロゴリア戦記 第2章:劣等勇者と暗黒の魔術師』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.11.25
『昨日より赤く明日より青く CINEMA FIGHTERS project』★★★★
『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』★★★★
『ベロゴリア戦記 第1章:異世界の王国と魔法の剣』★★★★
『水俣曼荼羅』★★★★
(満点は★★★★★)


今週は全部見応えのある作品です。
言ってみれば、実に個性的なラインナップ!
興味を持ったら、劇場に是非(^-^)
さ、今週は4本です!

『昨日より赤く明日より青く CINEMA FIGHTERS project』は、オムニバス作品。

EXILEのHIRO、俳優の別所哲也、作詞家の小竹正人が手掛けるプロジェクトの第4弾となる今作は、6本のショートフィルムからなるオムニバス作品。
GENERATIONSのメンバーが、それぞれに総出演。曲の歌詞から生まれた物語の主人公を演じていきます。
監督は、SABU、新城毅彦、山下敦弘、森義隆、真利子哲也、久保茂昭。
ショートフィルムの弱点というか、時間が短いがゆえに、観念的な内容に終始するものも多い中で、これらのほとんどの作品には起承転結があり、観ている側にきちんと着地させてくれる“安心感”がありました。
その中の1本『水のない海』に、FM NACK5のリポーターとしても活躍している豊田真希ちゃんが出演。怖いおねーさまを熱演してます。
仲良しなので「観たよ」と伝えると、「ちょっとしか出てないのに、テロップ、デカいですよね」と笑ってました。ご注目あれ。
それぞれの曲のファンなら、さらに楽しめると思うし、知らなくても十分に満足出来るはずです。★4つ。
『昨日より赤く明日より青く CINEMA FIGHTERS project』公式サイト


『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』は、ミステリー・ノンフィクションムービー。

レオナルド・ダ・ヴィンチの最後の絵画とされる「サルバトール・ムンディ」。
タイトルは“最後の救世主”を意味し、別名“男性版モナリザ”とも呼ばれ、イエス・キリストの肖像画とされており、1500年頃に描かれ、しばらくその所在は不明となっていました。
ところが、その「サルバトール・ムンディ」が現れたと言うのです。
それも、一般家庭に埋もれていたものが、競売会社のカタログに載り、もしかしたらと思ったNYの美術商が13万円で落札。
著名な修復士に依頼して、作業を進めたところ、原画である可能性が出てきたため、ダ・ヴィンチ研究の権威たちをロンドンのナショナル・ギャラリーに集めて調査した結果、見解は様々ながら、本物のダ・ヴィンチ作品であるという結論に達したのです。
すると、この絵は代わる代わる人の手へと渡り、最後は2017年11月15日のクリスティーズの競売で、なんと約510億円という値で落札されます。
しかし、ダ・ヴィンチの弟子たちによる複製の可能性も拭えないし、真偽のほどは、誰にもわからないんですね。
13万円が510億円に!
魑魅魍魎が跋扈するそのプロセスが面白いし、何よりこの絵が本当にダ・ヴィンチ作品なのかどうか?ドキドキワクワクしながら、謎解きは進んでいきます。
その魑魅魍魎たち、いや失礼、この絵の売買に関わった本人たちが登場し、詳細に渡って語っているのもすごいし、今わかっている限りの、最終的な着地点も明らかにされます。
あ、“明らかに”ではないか。霧がかかってはいます。
「美術品の持つ価値って、何?」というのを考えさせられるかも。
昔の画家は、何百億が欲しくて描いたわけじゃなし。所有者がお気に入りで、眺めていて幸せなら、それがその作品の、一番の価値のような気がするのですが…。★4つ。
『ダ・ヴィンチは誰に微笑む』公式サイト


『ベロゴリア戦記 第1章:異世界の王国と暗黒の魔術師』は、ディズニー・ロシアのアクション・アドベンチャー。

“光の魔術師”として、テレビでも人気のイワン。
魔術が使えるはずもなく、達者な口先だけで立ち回ってきたイワンでしたが、実は孤児院育ち。それこそが、彼が生き延びるための術だったのです。
魔術師の肩書きを使って金を稼いできたイワンは、いわばペテン師。
この日も嘘がバレ、怒る依頼者から逃げる途中で、ウォータースライダーに飛び込んだイワン。
しかし、ぽんと出た出口には見知らぬ世界が広がっていたのです。
そこは、ベロゴリア王国。
実はイワン、ベロゴリア最強の戦士イリアの息子で、陰謀により息子の命が危ないと察したイリアは、イワンを人間界に隠したのです。
そのイワンが、ベロゴリアに引き戻されたのには、訳がありました。
王国が闇に支配されるかもしれない。そう、ベロゴリア王国が、存亡の危機にあったのです…。

生まれ故郷の一大事に呼ばれたイワンですが、エセ魔術師ですから、何の力もなければ、技もない。
伝説の戦士の息子と言われても、剣を扱うことすら出来ず、手にあるのはスマホだけ(笑)。
そんな主人公・イワンの、闘いと冒険のファンタジー・アドベンチャーを、ロシアのディズニーが描いた作品です。
イワンがあまりにもチャラ過ぎるのがどうかというのはありますが、さすが、ディズニー。登場するキャラクターも、VFXを駆使した映像も、見応え十分です。
剣で戦う世界に突如現れた現代人。その手にはスマホですから(笑)、アイデアも秀逸ですよねっ。
この第1章は、2017年に本国ロシアで公開されたもので、第2章(12月3日から日本公開予定)も、オンライン試写で先に見させてもらいましたが、どっちも面白い!
登場人物、登場キャラは継承されます。ディズニー・ファンなら、第1章は必見です。★4つ。
『ベロゴリア戦記 第1章:異世界の王国と魔法の剣』公式サイト

『水俣曼荼羅』は、372分のドキュメンタリー映画。

話題作『ゆきゆきて、神軍』の原一男監督が、20年の歳月をかけて撮影した、水俣病患者のドキュメンタリー。
水俣病は、熊本県の水俣湾周辺に暮らす人々が、チッソの垂れ流した廃液に含まれたメチル水銀化合物により、脳を冒された病。
映画は3部構成で、6時間を超える大作になっています。
あまりいい加減なことは書けないので、逆にざっくりとになりますが、国の患者認定制度の基準に誤りがあったことを認めさせたのは、自分が孤立無援になろうが、患者を思い、また学者としての信念を貫き通した大学病院の教授たち。
その認定がもらえず、補償を受けられない人々が、未だたくさんいる中、カメラはその闘いの歴史を追ってきました。
資料にあった監督のメッセージに、「何が困難だったかといえば、撮られる側の人たちが、必ずしも撮影することに全面的に協力して頂いたわけではないことだ」とありました。
この言葉の真意は、映画を見ればわかります。
あと少しで小さなゴールに辿り着くのに、もう少しのところで撮影を拒む人もいて。
でも、それは仕方のないこと。なぜなら、映像が世に出ることでマイナスが多ければ、その人の人生が立ちゆかなくなってしまう可能性だってあるのだから。
国から、県から、世間から、全方位から注がれる“人の目”を気にされたのでしょう。
映画を撮る側の“志”と、相容れない部分。
向かっている方向が一緒でも、同じ道を歩けないこともあるんだなと、改めて痛切に感じました。
今も続く、水俣病の闘争。日本人として、知っておかなくてはならない現実だと思います。
ちなみに、劇場では休憩が2度入ります。
★を付けていいのか迷いましたが、映画としての率直な評価を示しておきたいと思います。★4つ。
『水俣曼荼羅』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.11.18
『ずっと独身でいるつもり?』★★★
『チャサンオボ』★★★
『ミュジコフィリア』★★★★
『モスル あるSWAT部隊の戦い』★★★
(満点は★★★★★)


昼間は暖かいけど、朝晩はだいぶ冷え込むようになってきました。
ポケットに手を突っ込むように、心も温めたくなったら、映画がオススメですョ。
さ、今週は4本です!

『ずっと独身でいるつもり?』は、田中みな実の映画初主演作。

本田まみ、36歳。
女性の自立をテーマに、10年前に出版した「都会というサバンナで、ひとり咲く花になろう」というエッセイが大ヒット作となり、一躍人気作家になったものの、次のヒット作が出ず、今は配信番組のコメンテーターとして収入を得る日々。
そんなまみには、公平という恋人がいて、36歳のまみは、エッセイとは真逆の“結婚”を考えるようになります。
そして、婚約。
彼を連れて実家に帰ると、父は喜びますが、母は人生に迷う娘の心の奥底を見透かしているかのよう。
その頃、まみのエッセイや、配信番組での言葉を支えに生きてきた女性たちも、日々迷走中。
それぞれの女性が、新たに踏み出す一歩とは…。

フリーアナウンサーとしてのみならず、幅広いジャンルで活躍する、田中みな実の主演作。
原作は、おかざき真里のコミック。でも、「映画は漫画とはかなり内容が違う」と、ご本人。
それもまた、映画の面白いところでもあります。
まみの他に、まみの本に影響を受け、自立した女を無理めに演じる由紀乃。
本当はインフルエンサーとしての才能があるのに、イクメンのふりをする夫に振り回され、子育てと自分の人生の板挟みに悩む彩佳。
パパ活で生計を立てているけど、年齢を重ねて“需要”がなくなる現実に不安を抱いている美穂。
この3人の女性の生活も並行して描かれます。
ボクも年齢に関してはブログに書きましたが、今の時代、生活スタイルや価値観の在りようが変わったとはいえ、やっぱり数字としての年齢や、女性特有の焦りはあるんでしょうね。
でも、人生は人それぞれ。正解なんてないんだから。ただ、大きな後悔は、しないで済むなら、しないほうがいい。
何が幸せだったかは、人生の幕を閉じる時にしかわからないのかも。
男性には、この映画から女性の気持ちを学ぶのと、もうひとつ、「自分も公平や、彩佳の夫みたいになってないかなぁ」と自問自答するといいかもしれませんョ。★3つ。
『ずっと独身でいるつもり?』公式サイト


『チャサンオボ』は、韓国映画。

19世紀初めの朝鮮。
熱心なカトリック教徒だった天才学者のチョン・ヤクチョンは、異教徒として迫害され、流島の刑に処されます。
送られた黒山島には、素朴な島民たちと、何より豊かな海がありました。
立ち居振る舞いも、醸し出す知性も、島民とは全く違うヤクチョンを、温かくもてなす島の人々。その中に、海洋生物に詳しい青年チャンデがいました。
チャンデの家は貧しく、学問を好むものの、学ぶための本がありません。
この環境で、庶民のための海洋生物学書を書きたいと思ったヤクチョンは、学問を教えるのと引き換えに、海の生物の知識を教えて欲しいと、チャンデに申し出ます。
チャンデはこれを受け入れ、身分のまったく異なる師弟が出来上がったのでした…。

『チャサンオボ』は、本当は“○山魚譜”の漢字があるのですが、「じ」と読む○の部分が変換出来ず。“滋”のさんずいがない文字と言っておきましょう。そちらは公式サイトに譲ります。すみません。
1801年からの物語。その演出でしょうか、全編モノクロで描かれています。
身分の差が大きかった時代。実はチャンデには、出生の秘密があり、ヤクチョンとチャンデの関係も、時の流れと共に変化を見せ…。
そのあたりの人間ドラマに、見どころがあります。
『チャサンオボ』の序文に記された史実を基に作られたという、韓国の時代劇。日本の時代劇にも通じる、人情のエッセンスを感じるはずです。★3つ。
『チャサンオポ』公式サイト


『ミュジコフィリア』は、さそうあきらの音楽コミックの実写映画化。

京都の芸術大学に入学した漆原朔。
美術学部に入った朔でしたが、自分の意志とは裏腹に、流れで“現代音楽研究会”に入会することになります。
そこには、いかにも芸大らしく個性的な学生や教授がいっぱい。それに加え、幼なじみで憧れのバイオリニストの小夜と、有名作曲家・貴志野龍の息子・大成もいました。
実は、朔と大成は異母兄弟。
朔の母は、朔を育てるために、自分の音楽の才能を捨てた。そう思っている朔は、亡き父親と、大成に憎悪の念を抱いてきました。そして同時に、音楽をも憎んでいたのです。
しかし、不思議な運命の糸が、朔を、大成と音楽と、再び結びつけたのです…。

さそうあきらが、週刊漫画アクションに連載していた、人気コミックの映画化です。
朔には井之脇海、大成に山崎育三郎、そして朔のピアノに“一聴惚れ”したピアノ科の女子大生・凪に松本穂香が扮しています。
クラシックや、前衛的な音楽がメインなので、数多あるバンドものや、ポップスを題材にしたものとは、ちょっと趣の違った音楽作品。そこに、この映画の個性があると思います。
井之脇海、山崎育三郎、共にピアノの演奏は自身でやっているそう。その上手さにびっくりです。
音楽と、恋愛と、親子の愛憎と。
“ミュジコフィリア”には、“音楽に情熱を注ぐ者たち”という意味があるそうです。
全編、京都ロケの映像も、この時期オススメです。旅行気分でどうぞ!★4つ。
『ミュジコフィリア』公式サイト

『モスル あるSWAT部隊の戦い』は、実話に基づく物語。

イラク北部にある、イラク第二の都市モスル。
紛争で荒れ果てたこの地で働く、21歳の新人警察官のカーワは、ISの襲撃で命を落としそうになったところを、SWAT部隊に助けられます。
すると、部隊のリーダーであるジャーセム少佐は、カーワを仲間に引き入れるんですね。
彼らは、元警察官で編成された特殊部隊。共通するのは、全員身内をISに殺されたということ。
実は、カーワも叔父をISに殺害されていたのです。
しかし、本部の命令に背き、独自の戦闘を行う部隊の任務を、カーワは一向に知らされません。
彼らを強く繋ぐ真の目的とは、一体何なのでしょうか…。

アメリカの雑誌“ザ・ニューヨーカー”に掲載された記事を、『アベンジャーズ』シリーズでおなじみのジョー&アンソニー・ルッソ兄弟が、何としても世界に知らしめなくてはと、プロデュースを買って出たという作品。
出演者は、アラビア語を母国語にする俳優にこだわったと言います。そこにリアリティを求めたのでしょう。
懐疑的な気持ちと、極限状態で行動を共にする信頼感とが、カーワの心を行ったり来たり。
仲間が次々と犠牲になっていく中で、最後の最後に部隊の任務が明らかとなります。
死と隣り合わせの日常なんて、平和ボケした我々日本人には想像も出来ませんよね。
まるで他人事的な発言で申し訳ありませんが、日本に生まれてよかったと、こういう映画を見るたびに思います。
世界の多くの場所で、こういう紛争が今日も起きているんだという現実を、ボクらも知っておく必要はあるはずです。★3つ。
『モスル あるSWAT部隊の戦い』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.11.11
『カオス・ウォーキング』★★★
『SAYONARA ANERICA サヨナラ アメリカ』★★★★
『フォーリング 50年間の想い出』★★★
(満点は★★★★★)


もう11月も半ばになるとはいえ、早くも来年2月公開予定の、映画の試写状が届いています。
競馬もそうですが、先、先を見ていると、時の流れが本当に早いものです(^-^)
さ、今週は3本です!

西暦2257年、汚染された地球を出た人類の一部は、ニュー・ワールドと呼ばれる星に新天地を求めます。
ところが、この星では、すべての女性が死に絶え、男だけが生存。彼らの心の声は“ノイズ”と呼ばれる白い霧のようなものの中に映し出され、頭で考えていることは、すべて他人に知られてしまいます。
そこに、地球から来た宇宙船が墜落。中にはヴァイオラという女性が乗っていました。
トッドはこの町に住む、最年少の住人で、女性を見たことがありません。
そのトッドが、ヴァイオラを発見するんですね。
町の首長であるプレンティスは、ヴァイオラを捕らえ、利用しようとしますが、トッドは彼女に恋心を抱き、彼女を守ろうと決意。
母が遺したという地図にある、別の村なら安全だと、トッドはヴァイオラを連れ、命懸けで町を抜け出すのですが…。

この映画のカギを握る“ノイズ”。なぜ彼らに備わったのかはわかりませんが、おそらく罹患したんだろうなと。
トッドの心の中は、ヴァイオラに丸見え。それがいちいち微笑ましく。
ニューワールドにも、先住生物がいます。女性たちは、このエイリアンに殺されたと首長は説明しています。
ま、先住生物にとっては、人間こそがエイリアンなんですけどね(笑)。
トッドとヴァイオラの逃亡劇の中で、馬が森林を駆け抜けて行くのですが、映画の半分は“宇宙感”が消えていて、そのあたりの映像的なバランス感覚が、正直、どうかなぁと。
ただ、トッドには『スパイダーマン』や『アベンジャーズ』シリーズのトム・ホランドが、ヴァイオラには『スター・ウォーズ』シリーズのデイジー・リドリーが扮しているので、SF好きにはたまらないキャスティングなのかもしれません。
地球の環境悪化で、こんな話が現実にならないようにと願うばかりです。★3つ。
『カオス・ウォーキング』公式サイト


『SAYONARA ANERICA サヨナラ アメリカ』は、細野晴臣のライブ・ドキュメンタリー。

戦後間もない1947年7月、東京都港区に生まれた細野晴臣。
高校時代にバンドを始め、1969年にはエイプリル・フールのベーシストとして、プロ・デビュー。
その後、はっぴいえんど、ティン・パン・アレー、YMOなどのメンバーとして活躍します。
デビュー50周年を迎えた2019年、細野晴臣は自分の音楽のルーツでもあるアメリカン・ミュージックを体現しに、初となるアメリカ単独公演を決行します。
会場はNYのグラマシー・シアターと、LAのマヤン・シアター。
チケットは、どちらも即完売。
開場を待つ客にインタビューをしているんですが、これが彼の音楽にメチャメチャ詳しい人ばかり。こんなにもコアな細野晴臣ファンが、アメリカにたくさんいるのかと、ボクら日本人が、逆に驚かされるほどです。
ライブでは自身の曲はもちろん、影響を受けたアメリカの曲も披露。満員の会場は、多いに盛り上がります。
その後、世界はコロナで一変。国内のライブすら、出来なくなってしまいました。
それに対しても、2021年、今年の夏に、「やっぱり音楽は、自由でいいよなぁ」と、今の心境を語っています。
74歳。凛とした姿でステージに立ち、観衆を魅了し、未来に対してもしっかりと前を向く姿に、勇気と元気をもらう人は多いはず。
小粋でお洒落な大人のライブを、映画館で是非!★4つ。
『SAYONARA ANERICA サヨナラ アメリカ』公式サイト


『フォーリング 50年間の想い出』は、父子の絆の物語。

旅客機の中で、突然席を立ち、大きな声で妻の名を叫ぶ男性がひとり。認知症を患う、75歳のウィリスです。
息子のジョンが、すぐに後を追ってなだめますが、父の認知症はかなり進行しているよう。
ジョンは航空機のパイロットで、パートナーのエリック、養女のモニカとの3人暮らし。
一方、田舎で農場を営むウィリスでしたが、そろそろひとりで暮らすのは難しいからと、ジョンの住むロサンゼルスに、家を探しに向かう途中でした。
ジョンの少年期、保守的で、高圧的だった父に、母は離婚を決意。ジョンと妹のサラは、父と父の新しい恋人と暮らすことになります。
ジョンが大人になった今も、息子の生き方を罵るウィリス。
それでもジョンは、爆発しそうな感情をぐっとこらえていたのです…。

監督は、ジョンを演じた、俳優のヴィゴ・モーテンセン。これが監督デビュー作で、半自伝的なストーリーだとか。
ジョンは、男性パートナーと一緒になり、血の繋がらない女の子を養女に迎え、親子になる。まさに現代を象徴するような生活スタイルを送っています。
しかし、ウィリスには、それが許せない。
認知症が進み、吐かれる暴言もまったく理にかなわぬことが多く、それでも我慢を続けるジョン。
物語も、過去と現在を往き来しますが、それはジョンの回想でもあり、父の今の頭の中でもあり。
ボクも認知症になった父を怒鳴りつけたことがあります。その時は認知症だとわからず、「なんで、みんなの気持ちがわからないんだっ」と。
おそらく、父はなぜ息子に怒られているのか、わからなかったはず。哀しそうな目を思い出すと、今でもツラくなります。謝りたくても、父はもういませんから。
この映画は、そんな心身のぶつかり合いの中から、父なりの優しさのピースを再発見する物語です。
半自伝的ということで、父子の絆が心に響くかどうかは、観る側によるかもしれませんが、重なり合う部分が大きい人には、様々な思いが巡る1本だと思います。★3つ。
『フォーリング 50年間の想い出』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.11.05
『アンテベラム』★★★★★
『花椒(ホアジャオ)の味』★★★
(満点は★★★★★)


火曜日のブログにも書きましたが、コロナ前の日常がだいぶ戻ってきて、急に多忙になってしまいました。
オンラインで観る試写も、たまっていく一方で。
もちろん、すべて拝見しますが、時間のやりくりが難しい…。贅沢な悩みです(^^;)
さ、今週は2本です!

『アンテベラム』は、“パラドックス・スリラー”。

アメリカ南部にある、広大な綿花のプランテーション。
そこには、奴隷制度を支持する南軍の旗が立てられ、たくさんの黒人奴隷が働かされていました。
逃亡を図れば、即射殺。遺体は焼却炉で焼かれてしまいます。
軍のトップであるブレイク将軍は、ひとりの黒人女性をいたく気に入り、自分のお抱えとして部屋に囲い、夜の相手もさせていました。
彼女の名はエデン。
周りの奴隷仲間からの信頼も高いエデンは、何とかここから脱走出来ないかと、機を伺っていたのです。
場面はガラリと変わって、ヴェロニカの物語が始まります。
リベラル派のベストセラー作家であるヴェロニカ・ヘンリー。
女性の権利向上、人種差別の反対を掲げ、テレビでも人気の彼女は、夫と幼い娘との3人暮らし。超の付く多忙な毎日でしたが、豊かで、幸せな生活を送っていました。
ルイジアナに出張し、講演会を終えたヴェロニカは、久々に女友達と食事。翌日の仕事が早いからと、ふたりとは別のタクシーでホテルに戻ろうとしたところ、乗った車の運転手は、出張前に自宅のオンラインで打ち合わせをした、エリザベスという謎の白人女性。
すると、車中に潜んでいたもうひとりの男に、羽交い締めにされたのです。
そう、ヴェロニカは、何者かに拉致されてしまったのです。
エデンは、ヴェロニカは、自身が置かれた極限の状況から、逃げ出すことが出来るのでしょうか…。

あらすじとしては、ほんのさわりもさわり。
重要な登場人物もたくさんいて、エデンの物語も、ヴェロニカの物語も、複雑に、かつハラハラドキドキの展開で進んでいきます。
“パラドックス・スリラー”とは、資料にあった、この映画の宣伝文句。
あちらこちらに散りばめられた、人や出来事をよく記憶に残しながら、映画を見進めて下さい。
ある瞬間に、強烈な衝撃と共に、すべての謎が解けますから。
そこからが、さらにまた面白い!
わかってからも、別の意味で怖い!
あ、あんまり言っちゃいけませんね(笑)。この辺にしておきます。
よく出来た映画だと思います。ジャンルはスリラーですが、今年のベストいくつとかに入る秀作だと、個人的には思っています。是非、ご覧になってみて下さい。満点!★5つ!
『アンテベラム』公式サイト


『花椒(ホアジャオ)の味』は、香港映画。

香港の旅行代理店で働くユーシュー。
彼女の元に、父が倒れたと連絡が入ります。
病院に急ぐユーシューでしたが、到着した時には、父は既に亡くなっていました。
実は、ユーシューは父との関係が上手くいっておらず、疎遠になっていたんですね。こんな形での再会に、ユーシューの心は複雑でした。
父は「一家火鍋」という火鍋の店を経営しており、ユーシューも子どもの頃には楽しく鍋を囲んだ、思い出の店。
久々に店に出向き、遺品の整理をしながら、父の携帯電話を見てビックリ。自分に二人の妹がいることを知ります。
ひとりは中国の重慶で、ビリヤードのプロプレイヤーとして活躍していたルージー。
もうひとりは、台湾の台北で祖母と暮らしながら、ネットショップのオーナーとしてファッション関係の仕事をしているルーグオ。
父の葬儀で、初めて顔を合わせた3姉妹。最初はさすがにぎこちなかったものの、すぐに打ち解け、仲良し姉妹に。
課題は、父の店をどうするか。
3人それぞれが抱えていた問題もありましたが、ひとまずそれは置いておいて。彼女たちの奮闘が幕を開けたのです…。

3人の異母姉妹の物語。
自由気ままに生きてきたかのように思えた父に対する、愛しさと憎しみと。そんな複雑な思いが根底に流れる、家族のお話です。
亡くなった父のことを調べていくと、知らなかったことがたくさん出てきて、ユーシューのわだかまりの心も少しずつ溶けていきます。
火鍋が真ん中にあるように、基本的には“あったかい”作品。また、自立と再生の物語でもありますが、ここにお国柄のようなものが見え隠れ。
鍋の味付け同様、人生の調味料も、やや異なるのかなといった後味を感じるはずです。★3つ。
『花椒(ホアジャオ)の味』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.10.27
『ジョゼと虎と魚たち』★★★★
『場所はいつも旅先だった』★★★
『モーリタニアン 黒塗りの記録』★★★
(満点は★★★★★)


10月25日(月)から、映画館も規制が撤廃されることになりました。
これでレイトショーも可能になります。
ここでも単館ものを多くご紹介しているので、よりたくさんの人に観てもらえるようになるのは、うれしいことですよね!
気になる作品があったなら、積極的に映画館に足を運んでみて下さい。
さ、今週は3本です!

『ジョゼと虎と魚たち』は、日本の人気映画の韓国リメイク版。

大学生のユンソクは、道に倒れた車椅子の女性を発見。故障した車椅子をリヤカーに乗せ、女性を家まで送り届けます。
彼女の名はジョゼ。おばあさんとふたり暮らし。
お礼に夕飯を食べていくように言われ、ご馳走になるユンソク。
ジョゼは足が不自由で、廃品回収で稼ぐ祖母の、わずかな収入で暮らしていました。
実はジョゼに親はなく、養護施設で育ったのですが、逃げ出したところをおばあさんに救われたのでした。
おばあさんは、拾った本をジョゼに与え、そこからたくさんの知識を得たジョゼは、空想の中に生きていました。
そんなジョゼの不思議な感性に惹かれていくユンソク。
バラック小屋のようなジョゼの家を直したいと、ユンソクは大学の後輩、ユギョンのツテを使って、市の補助金を受けるのですが、ジョゼはユギョンのユンソクへの思いを敏感に察知。「もう来ないで」と、ユンソクを頑なに拒んだのです…。

1984年に月刊カドカワに発表され、翌年刊行の同名短編集に収録された、田辺聖子の小説が原作。
日本では2003年、犬童一心監督、妻夫木聡、池脇千鶴の主演で実写映画化。20年にはアニメ化もされた人気作が、今度は韓国で映画化されました。
今回、キム・ジョングァン監督が、オリジナルにリスペクトしつつも、設定に変化を加え、新たな世界観を作り上げています。
いつの時代も、どこの国でも、きっと繰り広げられているであろう、男女のせつない恋のお話。
ジョゼの暮らす街の風景が、1ショット、1ショット、物語にリアリティを持たせます。
20年前の『ジョゼと…』に魅せられた多くの人も、この出来にはきっと満足がいくと思いますョ。
是非、見比べてみて下さい!★4つ。
『ジョゼと虎と魚たち』公式サイト


『場所はいつも旅先だった』は、ドキュメンタリー。

「暮らしの手帳」の元編集長でエッセイスト、翻訳家、ラジオ・パーソナリティに、書店のオーナーと、多彩な肩書きを持つ松浦弥太郎。
そんな彼が、初めて監督を務めた作品です。
2011年に発表したエッセイ集と同名タイトルですが、同じ“旅”がテーマでも、こちらはこの映画のために企画したオリジナル。
サンフランシスコ(アメリカ)、シギリア(スリランカ)、マルセイユ(フランス)、メルボルン(オーストラリア)、台北、台南(台湾)と、世界5ヶ国、6ヶ所を旅し、自らの目線で人々の暮らしを追い、実際に触れ合い、その様子を映像に収めています。
ロケの多くは、早朝と深夜。その理由は「現地の人々の日常の営みを感じられるから」だそう。
全編ナレーションは、小林賢太郎。オリパラで話題になってしまった演出家です。ボクは、そこに興味を持って作品に関心を抱くのでも、正直いいと思っています。
スケジュールを決めない、まさに“自由な旅”。
コロナ禍で、海外渡航にはまだ制限がありますからね。バックパッカー的な旅行気分を味わいたい方は、是非。★3つ。
『場所はいつも旅先だった』公式サイト


『モーリタリアン 黒塗りの記録』は、実話に基づく物語。

1970年、アフリカのモーリタリアに生まれたモハメドゥ・ウルド・スラヒ。
奨学金でドイツに留学し、エンジニアとして働いた後、2000年に帰国。
すると、01年、アメリカで、9.11同時多発テロが勃発。
モハメドゥは首謀者のひとりとして、突然拘束され、ヨルダンで拘禁されたのです。
02年、アメリカがキューバの米軍基地内に建設した、グアンタナモ収容所に移送されたモハメドゥは、無罪を主張。
しかし、執拗な自白強要は続き、目を覆いたくなるような拷問も受けるんですね。
そのことを知った、アメリカの弁護士、ナンシー・ホランダーが、立ち上がります。
裁判を一度も開くことなく、拘束を続けることは不当だとして、闘うナンシーでしたが、そこには強大な力が立ちはだかっていたのでした…。

この試写を観て、まず思い出したのは、再びタリバンの手に渡ったアフガニスタンで、つい先日、幹部らしき兵士が口にしていた言葉。
「私はグアンタナモにいた」
真意はわかりませんが、アメリカに対する憎しみの感情があるのは間違いなく。これもまた負の連鎖…。
サブタイトルの“黒塗りの記録”は、ナンシーが然るべき手段で入手した資料のこと。日本でもよく目にしますが、“のり弁”と呼ばれる、伏せ字だらけ公文書です。
ウサマ・ビンラディンと繋がっていたとの疑惑をかけられていたモハメドゥ。
テロに対する正義の鉄槌と称して、政府はモハメドゥの死刑を望みます。
軍の起訴担当はスチュアート中佐。実は、彼の親友が、テロで犠牲になった旅客機に乗っていたんですね。
人権の観点から、今も批判の的となっているグアンタナモ収容所。
事実、モハメドゥが釈放されたのは、2016年10月16日。15年にも渡る地獄のような日々だったわけです。
その後、モハメドゥは、この体験を本にし、アメリカでベストセラーとなり、今や世界20ヶ国以上で翻訳され、出版されています。
モハメドゥが、ビンラディンと繋がっていたか否かは、結論づけてはいません。釈放されたのですから、無実ということかもしれませんが、この映画が伝えたいのはそこではなく、あくまで人権と正義のあり方なのでしょう。
どこかで断ち切りたい憎しみの連鎖。
しかしそれは、あまりに複雑に絡みあっているんだなと実感します。★3つ。
『モーリタニアン 黒塗りの記録』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.10.21
『Shari』★★★
(満点は★★★★★)


寒さが急に襲ってきました。
気温下がると、おでんや鍋が恋しくなるように、映画にも“旬”というか、観るべき時期があるんじゃないかなと。
そんな意味では、今週紹介する作品にとって、この寒さは願ってもない気象条件かも?
さ、今週は1本です!


世界自然遺産としても知られる、北海道の知床半島。
ざっくり言うと、その左側半分を占めるのが斜里町。
オホーツク海に面し、流氷の町として、観光客にも人気の町です。
この映画の出演者は、その斜里町に住む皆さん。
代々暮らす人から、移住して来た人まで、様々な住人がインタビューに答え、最北の町の魅力と、自然の厳しさについて語ります。
そして、もうひとり、いや、もう一匹?この映画を象徴する“赤いやつ”が登場します。

この映画が誕生したきっかけは、2016年に斜里町で始まった「写真ゼロ番地知床」というプロジェクトで、写真家の石川直樹らが中心となり、毎年写真家を招聘。知床の魅力を、写真を通して知ってもらおうというもの。その4人目のゲストが、この映画の監督、吉開菜央でした。
斜里町を訪れた吉開監督は、多くの人と出会い、町を知っていく中で、まずは絵コンテにナレーションをつけた“紙芝居動画”を作成。そこには既に、謎の“赤いやつ”が登場していました。
“赤いやつ”って、何?
これは、異界からまれに訪れる神的存在の“まれびと”、“獣”、“血と肉”の象徴だそう。
そこに、撮影した2020年が40年振りの小雪だったことから、40年の眠りから目覚めた“熱の神”が加わり、さらに、編集作業を始めようとした時に襲ってきたコロナウイルスの影響から、“災厄を連れてきた元凶”なるイメージも加わったと言います。
この“赤いやつ”の衣装も、劇中に登場するパン屋さんが作ったそうで、極太の羊毛を編み、鹿の血で染めたと言います。
何から何まで“斜里町産”。劇中のサウンドも、斜里町の自然の音、命の声を、ふんだんに使っています。
たくさん説明しちゃいましたが、おそらく知ってから観たほうが、いい意味で視点が定まると思ったので。余計なお節介だったら、すみません。
制限が緩和され、旅行も自由に出来るようになったら、行きたくなるんじゃないですか?斜里町。
今年はちゃんと雪が降って、流氷が流れ着くことを祈ります。変わらないことがいいことだって、世の中にはたくさんあると思います。★3つ。
『Shari』公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.10.15
『アミューズメント・パーク』★★★
『かそけきサンカヨウ』★★★
『THE MOLE(ザ・モール)』★★★
『〈主婦〉の学校』★★★
『ビースト』★★★
(満点は★★★★★)


コロナの新規感染者が、一気に減って。エンタメにとっては朗報です。このまま消滅してくれないかと願います。
科学ですら明かせないことって、ありますよね。
人の心の動きも、きっとそう。
刺激を与えて活性化。それには映画が効果的だと、ボクは常々思っています。
たくさん、ご覧になってみて下さい。
さ、今週は5本です!


『アミューズメント・パーク』は、ジョージ・A・ロメオ監督が1973年に手掛けたという未発表作品。

白いスーツの高齢紳士が、家族連れや若者で賑わう遊園地を訪れます。
しかし、中に一歩足を踏み入れると、無視され、、邪魔者扱いされ、暴力を受け、存在すら否定され、精神が崩壊してしまいます。
血まみれになり、ボロボロになった老人の姿とは…。

約53分の作品。
書いたあらすじも短いですが、資料にあるあらすじは、たった一言。
「遊園地で老人が罵られ、大変な目にあう。」
短い…(笑)。
ジョージ・A・ロメオ監督は、1940年生まれ、2017年没。
ゾンビや吸血鬼を取り上げた作品で知られ、現代ホラーの礎を築いたとも言われています。
この作品は、元々教会の依頼で作られた、高齢者虐待、年齢差別の認識を高めるための企画映像だったそう。
ところが、あまりにストレートに虐待の様子が描かれていたため、お蔵入りになったんだとか。
啓蒙のための映像としては、確かに過激過ぎます。
ブラックユーモアという言葉が正しいかどうかはわかりませんが、そんな感じの“ヒューマン・ホラー”。現代社会にも、十分通じる内容です。
そう考えると、人はさほど成長していないのかもしれませんね。
ちなみに、この『アミューズメント・パーク』は、ロメオ監督の『ザ・クレイジーズ』、『マーティン』と、3作同時ロードショーです。★3つ。
『アミューズメント・パーク』公式サイト


『かそけきサンカヨウ』は、家族と成長の物語。

国木田陽は女子高生。
幼い頃に母が家を出てから、父の直とふたり暮らし。陽は家事を全部こなす、しっかり者でした。
父とふたりの生活も、それなりに楽しかったのですが、ある日突然、「恋人が出来た。その人と結婚しようと思う」と父から伝えられます。
父の再婚相手は美子。
美子には4歳の娘、ひなたがいて、陽は4人での新たな生活をスタートさせることになります。
居場所がなくなったと感じてしまった陽は、同じ高校の美術部に所属する清原陸を誘って、とある絵画の展示会に行くんですね。
実はその展示会、幼い頃に家を出た、母・佐千代の作品展だったのです…。

原作は、窪美澄の2014年の短編集「水やりはいつも深夜だけど」に収められた同名小説。
“かそけき”は“幽き”と書き、かすかであること、微妙で、淡い調子を表す言葉。
サンカヨウは、雨に濡れると花びらが透明になる、メギ科サンカヨウ属の多年草。
柔らかいタッチの言葉を組み合わせたタイトルが示すように、多感な10代の“心の色の変化”を、繊細に、上手に描いた作品に仕上がっています。
実は、陸の家族にも課題らしき点はある。
人はみんな生きていく上で、なにかしらの問題はあるのでしょう。
でも、満たされている部分と不満に思う部分の、どちらに多く重きを置くか、それによって日常の幸福感というのは変わってくるんじゃないかと思います。
いい子に育った陽。いい子に育ったからこそ、我慢も覚えて。
でも、それは“人生の物差し”の目盛りとしてしっかり刻まれたから。真の幸せを判別できる人になれたと思うョ。何も心配はいらないと思うけどな。
なんて、陽ちゃんへの手紙みたいになっちゃいましたね(笑)。★3つ。
『かそけきサンカヨウ』公式サイト


『THE MOLE(ザ・モール)』は、北朝鮮の闇を暴くドキュメンタリー。

ジャーナリストで、ドキュメンタリー映画の監督としても活躍するマッツ・ブリュガー監督の元に、一通の手紙が届きます。
送り主は、コペンハーゲンの郊外に妻子と暮らす、元料理人のウルリク・ラーセンという男性でした。
手紙の内容は、謎に満ちた独裁国家・北朝鮮の真実を暴くためのドキュメンタリーを作って欲しいというもの。
ウルリクは本気でした。コペンハーゲンのデンマーク/北朝鮮友好協会に加入し、そこから潜入スパイとしての活動を始めたのです。
彼はすぐに上層部の信頼を勝ち取り、2012年には北朝鮮の平壌を訪問。北への貢献を称えるメダルを授与され、巨大組織であるKFA(朝鮮親善協会)会長のスペイン人、アレハンドロ・カオ・デ・ベノスを紹介されます。
ウルリクはアレハンドロの覚えめでたく、2013年、新たに立ち上げた、KFAデンマーク支部の代表に任命されるんですね。
さらに2015年、北欧4ヶ国の代表に昇進。するとウルリクは、アレハンドロから北朝鮮とのビジネス、つまり武器や覚醒剤の売買に関心を抱く投資家を見つけるよう命じられます。
ここでブリュガー監督は、フランス外人部隊の元兵士だったジムという男を呼び、偽の石油王“ミスター・ジェームス”に仕立て上げるんですね。裏社会にも精通しているジムには、もってこいの芝居だったと言います。
話はどんどん具体的になっていき、まさかのシーンにまでカメラは潜入。北朝鮮のやり口があからさまに見えてきます。
おそらく観れば、あなたも思うはず。
「ユルくないですか?北朝鮮」
裏を取らないで、契約書を交わしたり、常にそんな感じなんでしょうか。
閉鎖社会で、ビジネスの世界を知らないとこうなっちゃうのかなぁ。
作り物じゃないのかと疑いましたが、10年に渡るスパイ活動の映像は、ホンモノと認定されたそうで、デンマーク政府により、国連にも提出されたとか。
日本でも、今年『国際報道2021』というNHKのBSニュース番組が「潜入10年 北朝鮮・武器ビジネスの闇」と題して報道していました。
だからといって真実かどうかはわかりませんが、“全世界騒然”とのあおり文句も当然でしょう。
興味のある方は、是非ご覧あれ!★3つ。
『THE MOLE(ザ・モール)』公式サイト


『〈主婦〉の学校』は、アイスランドのドキュメンタリー映画。

アイスランドの首都レイキャビクにある、家政学校『The School of Housewives』。
1942年に創立され、一学期3ヶ月、定員24名。全寮制の“主婦の学校”です。
創立当初は、よき主婦を育成することを目標とした、女性ばかりの学校でしたが、90年代に男性にも門戸を開き、今では男女共学となっています。
料理、洗濯、裁縫、マナーはもちろん、消火器の使い方までを教え、資格や肩書きではなく、生活するためのノウハウと、無駄を無くすための術を学ぶ学校です。
そのため、入学するのも、花嫁修行の女性から、仕事を持った男性まで、実に様々。
アイスランドという国は、世界経済フォーラムのジェンダーギャップ指数ランキングで、12年連続の1位!
つまり、世界で最もジェンダー平等が進んでいる国なんですね。
ちなみに、日本は2021年、世界120位…。
派手さやドラマチックな展開はまったくないドキュメンタリー映画ですが、我々日本人が学ぶものが、たくさん詰まった作品じゃないかと思います。★3つ。
『〈主婦〉の学校』公式サイト

『ビースト』は、韓国ノワール。

仁川で起きた猟奇殺人事件。
捜査にあたったのは、ハンス率いる捜査1班と、ミンテ率いる捜査2班。
ハンスとミンテは元相棒。しかし、今では昇進を争うライバル同士。元々のやり方が違うふたりは、常にぶつかっていました。
情報屋の女、チュンベは刑務所から出たばかり。ハンスに事件の有力情報を渡す代わりに、自分を売った男に復讐するから、手を貸せと言います。
待ち伏せしていた車中の男を射殺したチュンベ。しかし、殺害に使ったのは、隙を見て奪い取ったハンスの銃だったのです。
遺体が上がれば、銃創から拳銃の持ち主が判明してしまう。ハンスは、隠蔽工作に手を貸さざるを得なくなるんですね。
チュンベの情報で、犯人のアジトに踏み込み、事件は解決したかに思われましたが、闇はさらに深く。
加えて、ハンスの銃で殺された男の遺体が、車ごと、海から引き揚げられたのでした…。

ご存知かとは思いますが、“ノワール”とは、闇社会をテーマに、暴力的に、人間の悪の部分を描き出した映画や小説のこと。
ざっと、あらすじを書きましたが、あくまで触りの部分ですし、核となる登場人物は他にもたくさんいて、複雑に絡みながら、物語は進んでいきます。
数学では“マイナス×マイナス=プラス”ですが、“悲劇×悲劇=悲劇の2乗”という世界。
「それがノワールだろ」と言ってしまえばそれまでですが…。
何のための捜査なのか、誰のための正義なのか。
フィクションとはいえ、どんよりとした気分で、考えてしまいます。★3つ。
『ビースト』公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.10.8
『ONODA 一万夜を越えて』★★★
『神在月のこども』★★★★
『草の響き』★★★
『Cosmetic DNA』★★
『スターダスト』★★
『人と仕事』★★★
『夢のアンデス』★★★
(満点は★★★★★)


緊急事態宣言等の解除で、街に人が増えました。
まだ映画館の営業時間には制限があるようですが、秋のいい季節。大きなスクリーンで、映画をたくさん観て欲しいものです。
さ、今週は7本です!

『ONODA 一万夜を越えて』は、実在する軍人、小野田寛郎旧陸軍少尉の物語。

小野田寛郎は、1944年、陸軍中野学校の二俣分校で秘密戦の訓練を受け、ゲリラ戦を指揮するため、フィリピンのルバング島に赴任します。
玉砕を禁じられていた小野田少尉は、劣勢の中、援軍部隊を待ちますが、その間に隊員たちは飢えと病気で、次々息絶えてしまいます。
僅かに残った数人の部下と、何とか生き延びる小野田少尉でしたが、遂にひとりになる日がやってきました。
そるから幾日。上官の「貴様たちに死ぬ権利はない」という命令を胸に、ジャングルの中で生き長らえてきた小野田少尉の前に、旅行者だと名乗る、一人の若い日本人が現れたのでした…。

覚えてます。小野田寛郎さん。
小野田さんの2年前に、グアムから横井庄一旧陸軍軍曹が帰国。「恥ずかしながら帰って参りました」が、流行語になりましたもんね。
その2年後の1974年、小野田寛郎さんの帰国のニュースに、日本中が再び沸きました。
約30年の歳月をジャングルで。戦争のもたらした、もうひとつの悲劇です。
この映画のメガホンは、フランス人のアルチュール・アラリ監督。
劇中では、小野田さんをふたりの役者が演じ分けていますが、ここには演出上の狙いがあるそう。
それを書くのは控えますが、約3時間の作品を観る上では、知っておいたほうがいいかも。気になる方は、監督インタビュー等をチェックしてみて下さい。
過酷なロケだったそうですが、それも容易に想像出来ます。
ただ、とにかく映画も長い…。覚悟が必要です。
小野田さんの一万夜を、制作陣も、観客も、体験してということですかね。★3つ。
「ONODA 一万夜を越えて」公式サイト


『神在月のこども』は、“神の国”島根県出雲を目指して走る少女を描いたアニメーション映画。

お母さんと走るのが大好きなカンナは、12歳の女の子。
しかし、母の弥生が病に倒れ、亡くなってしまいます。
学校のマラソン大会に、無理して応援に来たからだと考えたカンナは、走ることが出来なくなってしまうんですね。
翌年のマラソン大会も、ゴール寸前で足が進まなくなり、「お母さんも言ってたろ。順位じゃない、走り切ることだって」という父の言葉に反抗。
雨の中、泣きながら神社へ駆け込むカンナでしたが、滑って転んだポケットから、母の形見の、勾玉の髪留めが転がり落ちるんですね。
慌てて拾い上げ、腕にはめると、何かがおかしい。
学校で飼育しているウサギのシロが現れてしゃべり出し、神社の牛の神様が出て来る。
きょとんとするカンナに、シロが伝えます。
その勾玉はの神具で、母の弥生は走りの神様、韋駄天の末裔だと。
それを持つ者は、国々の神さまから馳走を頂いて、今夜出雲で開かれる“神はかり”に集まる八百万の神様の席に届ける勤めがあるのだと。
よく見ると、雨粒はゆーっくり落ちていて、人間界とは時間の進みが違い、今からでも間に合うというのです。
最初は嫌だと首を横に振っていたカンナでしたが、「お母さんに会えるかも」というシロの言葉に、出雲まで走る決意を固めます。
ところが、先祖代々、韋駄天に恨みを持つ鬼の一族がいて、若き夜叉がその役目を奪い取ろうとしていたのです…。

10月のことを普通は“神無月”と言いますが、出雲だけは“神在月”。
なぜなら、全国の神様が出雲に集まって、来年の縁結びの会議を開くから。それを“神はかり”と言います。
先に伝えておくと、夜叉はカンナとはライバルながら、旅を共にします。
敵はそれ以外にあり、と言ったところですかね。
カンナの冒険旅行ですから、ロードムービー。そこに神様やもののけが絡んでくるファンタジーアニメでもあります。
大人も子どもも楽しめるはず。この秋、家族で映画館に、まず一歩。それには、こういう作品がもってこいじゃないかと思います。★4つ。
「神在月のこども」公式サイト


『草の響き』は、函館出身の作家、佐藤泰志の小説の映画化。

東京の出版社に勤めていた工藤和雄は、妊娠中の妻、純子と共に、生まれ故郷の函館に帰ってきました。
実は、和雄が精神のバランスを崩し、休養も兼ねての移住でした。
精神科医の診断は、自律神経失調症。
運動療法として、毎日のランニングを勧められると、和雄は判で捺したように、それを日課にするんですね。
和雄のランニングコースにある“緑の島”には、いつも3人の若者がいて、スケボーを楽しんでいました。
札幌から函館に引っ越してきた彰と、ひょんなことで仲良くなった弘斗、その姉の恵美です。
彰は学校に馴染めず、弘斗は中学時代のいじめが尾を引き、恵美は尻軽との噂を立てられていましたが、3人は気が合うよう。
そのうち、和雄も3人と言葉を交わすようになり、一緒に走ったりもするようになりました。
最近、彰の姿が見えないと気付いた和雄が、弘斗に尋ねると、思いも寄らぬ答えが返ってきたのでした…。

佐藤泰志は1949年に函館に生まれた小説家。
高校時代から小説を書いていて、その才能は高く評価され、81年の「きみの鳥はうたえる」は芥川賞候補に、89年の「そこのみにて光輝く」は三島賞候補になり、後にどちらも映画化されています。
佐藤泰志は90年に、41歳で自ら命を絶つのですが、自律神経失調症を患っていたといい、それを知って、この映画を観ると、苦悩と再生が見えてくるかも。
知らない土地で、子どもを抱えている純子だって苦しい。マイペースに生きているように見える和雄も苦しい。
交わらなくなったベクトル…。
一度は絶版になった作品が刊行されたり、函館シネマアイリスの代表・菅原和博プロデュースで映画化もされ、函館の文化を推し進めようとする後押しがあるのはもちろんですが、5作品目の映画化ですから、やはり佐藤泰志の世界には、人を惹きつける何かがあるということなんだと思います。★3つ。
「草の響き」公式サイト


『Cosmetic DNA』は、“スプラッター・ミュージカル”。

女子大生のアヤカはコスメが大好き。日課は、YouTubeで自身のメイクをUPすること。
そんなある日、自称・映画監督の柴島に映画出演をエサにナンパされ、薬物入りのドリンクを飲まされ、襲われてしまうんですね。
警察に行ってもひどい応対で、精神的に追い詰められている時、コスメがきっかけで、大学院で生殖工学を学ぶサトミと、アパレルで働くユミと知り合います。
元気を取り戻していくアヤカでしたが、柴島が次にユミを狙っていると知り、アヤカは柴島を殺害。死体を処理する過程で、人間の血液が理想のコスメの材料になると気付いたのでした…。

ハチャメチャな話です。
この3人、アイドルになるんですけど、歌がまた…(笑)。
実際、映画祭で賞も取り、一部熱狂的支持者がいるようなので、ボクが良さをわからないのは、オッサンだからということにしておきましょう。
映像や音楽は、トランス系のリズムに合わせた、カラフルでポップな、確かにキレのあるもの。
こういう映画こそ、自身の目で確かめてみてと言いたいかな。ハマる人にはハマるかも?★2つ。
「Cosmetic DNA」公式サイト


『スターダスト』は、世界的人気アーティスト、デヴィッド・ボウイの1971年を切り取った映画。

1947年、イギリスのロンドンに生まれたデヴィッド・ロバート・ジョーンズは、64年にレコードデビューを果たします。
その後、名前をデヴィッド・ボウイに改め、3枚のアルバムをリリースしますが、話題にならず。
71年、アメリカに渡り、マーキュリー・レコードのプロモーターと全米プロモーションに回るのですが、アメリカでの知名度はほとんどなく、プロモーションとは名ばかりのドサ回り。
そんな彼には、逃れられない悩みがありました。
それは、大好きな兄を始め、親しい人が皆、精神を病んでしまうこと。いつかは自分もという恐怖と、常に闘っていたのです。
しかし、アメリカでの刺激と屈辱の日々が、彼にインスピレーションを与えることになるのでした…。

1972年の名盤『ジギー・スターダスト』が誕生する前年のデヴィッド・ボウイを描いた作品。
キャラクターを次々と変え、個性的なアーティストの中でも異色の存在だったデヴィッド・ボウイ。
ボクらの世代だと、83年の「レッツ・ダンス」の大ヒットですかね。
同じ年に公開となった映画『戦場のメリークリスマス』も話題となり、一気に日本での知名度が上がった感があります。
ガブリエル・レンジ監督は、「伝記映画やベストアルバムのような映画は撮りたくなかった」と語り、知られていない顔を描きたかったようで、大ヒット・アルバムをリリースする前年の苦難の年にスポットを当てたのでしょう。
ただ、“空回り”を描いているので、正直、観る側もプロモーションを受けた人たちと同じ気持ちになっちゃう。つまり、「どこが面白いの?」と。
チャレンジが裏目に出てしまった気もしますが、来年、年明け早々にもう1本、『ジギー・スターダスト』のライブ映画が控えています。知識を蓄えておくには、観ておくといいかも?★2つ。
「スターダスト」公式サイト


『人と仕事』は、有村架純、志尊淳による“新感覚ドキュメンタリー”。

有村架純、志尊淳主演、森ガキ侑大監督、河村光庸プロデュースで撮影されるはずだった、実在の保育士・てぃ先生をモデルにした映画『保育士 T』が、コロナの影響で頓挫してしまいます。
すると、河村プロデューサーから、森ガキ監督に電話があり、「ならば本当のドキュメンタリーにしないか」と。
元々の題材だった保育士に加え、介護施設の職員などのエッセンシャルワーカーはもちろん、ホストクラブの経営者、風俗嬢、1つの部屋に暮らす複数の若者たち、児童養護施設の子どもたちなど、多種多様な人々の、コロナ禍における生の声を、ふたりが、またスタッフが聞き集めるというドキュメンタリー映像です。
そんな中で、改めて役者という仕事について、ふたりも素直な気持ちを吐露しています。
コロナで言われた“分断”という言葉の真の姿や、働くことの意義や意味など、幅広いインタビューから感じることが出来るかも。
また、有村架純ファン、志尊淳ファンにとっては、ふたりの新たな一面が見られる貴重な映画かもしれませんョ。★3つ。
「人と仕事」公式サイト


『夢のアンデス』は、チリのドキュメンタリー映画。

アンデス山脈は、南米大陸の西岸に沿って伸び、7ヶ国にまたがる世界最長の山脈。
その広大な景色に始まり、チリに暮らす、彫刻家、小説家、音楽家、映像作家などが登場。自国の政治について語ります。
この映画は、南米ドキュメンタリーの巨匠と呼ばれるパトリシオ・グスマン監督による、チリ弾圧の歴史3部作の最終章に当たるそう。
おそらく、我々日本人が理解するには、チリの歴史を学ぶ必要がありそうです。
世界史上初の民主的選挙で、70年に樹立した社会主義政権でしたが、アメリカが介入することで、チリの国内は混乱。
73年に軍によるクーデターが起き、立ち上がった政権は、CIAの後ろ盾があったそうで、新自由主義経済を進めた結果、国の主要産業である銅の採鉱等を、諸外国に持って行かれてしまったと。
そのクーデター時に、数千とも数万とも言われる人々が処刑され、弾圧されたと資料にありました。
グスマン監督も逮捕、監禁され、その後、欧州へと脱出します。
祖国にそびえ立つアンデス山脈は、人や政治は変われど、変わらずそこにある本質の象徴のようなものなのでしょう。
チリには帰らぬグスマン監督の思いと、国民が心に刻んでおかなくてはならない暴力の歴史。
ボクには、この映画が一種のプロパガンダかどうかの判断基準すら持ち得ません。それこそ山頂から眺めるように観ていましたが、そんな見方でいいんじゃないかと思います。★3つ。
「夢のアンデス」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.9.29
『人生の運転手(ドライバー)〜明るい未来に進む路〜』★★
『TOVE トーベ』★★★
『光を追いかけて』★★★★★
『リクはよわくない』★★★
(満点は★★★★★)


iPhone 13が話題になってます。
これで映画が撮れるならと、ショートフィルムを撮影する人が増えるかも。
曲作りも、レコーディングも、パソコン出来てしまう音楽制作にも似た流れかなと。
新たな才能の可能性に期待です。
さ、今週は4本です!

『人生の運転手(ドライバー)〜明るい未来に進む路〜』は、ひとりの女性の再生を描いた香港映画。

チリソースの卸売り店“陳三益”は、大量生産はしないけど、丁寧な仕事が評判の店。
経営者のジーコウにはソックという恋人がいて、ソックは彼のために一生懸命。しかし、母親のように振る舞うソックに、ジーコウは少々ウンザリする部分もありました。
そんな時、中国本土の企業から、いい条件で業務提携を申し込まれるんですね。
担当は、ケイケイという才色兼備な女性。
最初は味が落ちるからと断っていたのですが、何度も通うケイケイの熱意と創意工夫に押され、“陳三益”は業務提携を承諾します。
すると、出張が増えたジーコウの雰囲気が、何かおかしい。そう、ジーコウはケイケイと、男女の関係になっていたのです。
遂には、ジーコウはソックを捨て、ケイケイと結婚することに。
しかし、このケイケイという女には、とんでもない過去があったのです…。

ジーコウはケイケイの術中にハマり、会社ごとケイケイのものになってしまうのですが、そこにケイケイの元彼なる人物が現れて、「自分も財産を奪われた。一緒に復讐しよう」とソックを誘います。
今、ソックは転職してバスの運転手に。
さぁ、この人間関係はどうなっていくのかというお話。
残念ながら、いろんな意味で“粗さ”を感じてしまいました。もっと繊細なタッチの作品を想像していたので、そのギャップが…。
いや、もしかすると、ボクが無知なだけで、これも香港映画のひとつの味なのかも。そこは是非、ご自身の目で確かめてみて下さい。★2つ。
『人生の運転手(ドライバー)〜明るい未来に進む路〜』公式サイト


『TOVE トーベ』は、フィンランド人画家で“ムーミン”の作者、トーベ・ヤンソンの半生を描いた物語。

第二次世界大戦の真っ只中にあった、1940年代のフィンランド、ヘルシンキ。
著名で厳格な彫刻家の父を持つトーベ・ヤンソンは、画家として活動をしていたものの、国のための芸術に違和感を覚え、自由な創作に憧れを抱いていたのです。
そんな中、自分の気持ちをぶつけるかのように描き始めたのが、ムーミン谷で繰り広げられる、ムーミントロールの物語でした。
「これがお前の芸術か」と、父に言い捨てられたトーベ。
そんな彼女の運命を変えたのは、女性舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーとの出逢いでした。
魅力的なヴィヴィカに惹かれたトーベ。ふたりは激しい恋に落ちるのですが…。

アニメに、コミックに、文学に、様々なメディアで、世界中を魅了するムーミンと仲間たち。
なんとも不思議で、個性たっぷりなキャラクターたちがどうやって誕生したのかは、確かにあまり考えたことがありませんでした。
作者もしかり。どんな人が描いたのかは、今回この映画で初めて知りました。
フィンランドでは、1894年から1970年まで、同性愛は精神疾患で、最大懲役2年の犯罪だったそう。
つまり、トーベにとっての“運命の女”ヴィヴィカ・バンドラーとの関係は、当時では“禁断の恋”だったんですね。
ムーミンに登場する、トルスランとビフスランは、ふたりの頭文字、ToとViを付けたキャラクターなのだそう。
制約のある環境の中でも、自由に生きたトーベは、アーティストと呼ぶにふさわしい女性だったと言えるでしょう。
ムーミンのファンがこの映画を観たら、改めて、ムーミンの仲間たちを、掘り下げてみたくなるんじゃないかと思いますョ。★3つ。
『TOVE トーベ』公式サイト


『光を追いかけて』は、秋田出身の成田洋一監督が、秋田を舞台に撮影した初監督作品。

両親の離婚で、父親の故郷である秋田の田舎町に引っ越してきた、中学生の彰。
転校した中学校は、過疎化で閉校が決まっていて、クラスの仲間は閉校祭の準備に追われています。
なかなか学校になじめない彰でしたが、イラストが上手いとわかると、閉校祭の重要な役割を任されることになるんですね。
実は、このクラスには、学校に来ていない真希という女子生徒がいました。家庭に問題がある真希は、いつも叔父の家の屋根に登っては、空を眺めていました。
真希の叔父は、彰の父親の先輩でもあります。
そんなある日、上空に緑の光が現れたのです。
直後に、田んぼに出来たミステリーサークル。
彰が近付くと、その中心に真希が寝転んでいました。
彰が「君が作ったの?」と聞くと、首を横に振る真希。すると、上空を見上げて、こう言ったのです。
「ここのことは、誰にも言っちゃだめだからね。約束だよ」と…。

さわりもさわりの部分を簡単に書きました。
これだけ読むと、SFサスペンス・ホラーかと思うでしょうが、違うんですョ。
UFOらしき緑の光は、重要なアイテムだけど、重要じゃない(笑)。観れば、わかってもらえると思います。
過疎化が進む地方の町に暮らす10代の青春と、現状を何とかしたいと考える大人の物語。
脱却の方法はそれぞれにあって、何が正しいとかはわからない。人生だから、正解はないんです、きっと。
ただ、監督が故郷の秋田が大好きだというのは、よーくわかります。それは特にエンドロールに出てるとボクは感じました。
あ、しゃべり過ぎかな(笑)。
共同で脚本も手掛けた成田洋一監督は、実はCM界の巨匠。
ややもすれば主役になってしまうUFOを、こんなに上手く脇に持っていくあたりはさすが。
ボクは好きな映画です。満点!★5つ。
『光を追いかけて』公式サイト


『リクはよわくない』は、坂上忍×くっきー!による同名絵本のアニメ映画化。

ぼくは5歳の男の子。
犬が大好きで、家には4匹の犬がいます。
長男はチワワのツトム。
次男はミニチュア・ダックスフントのヨースケ。
三男はフレンチ・ブルドッグのマルちゃん。
四男はパグのパグゾウ。
みんな仲良く暮らしていました。
そんなある日、新たな兄弟が加わることになります。イタリアン・グレーハウンドの子犬です。
ぼくは、その子犬にリクと名付けました。
リクは体が弱く、怖がりで、やせっぽち。
でも、ぼくは誓います。
みんなで、リクを元気で、強い子にするんだと…。

実生活では、犬14匹、猫4匹と暮らしているという、動物好きの坂上忍。
彼の実体験を基にした文章に、野生爆弾のくっきー!が絵を描いた絵本が『リクはよわくない』。
その絵本の中のお話に、新たなエピソードを加える形で完成させたのが、このアニメーション映画です。
長短の物語が、オムニバス形式で展開していきますが、くっきー!の絵が、実に個性的。あまり見たことのないテイストのアニメ作品ゆえ、逆に強く印象に残るかも。
「今の動物たちとの向き合い方は、リクが教えてくれた」と語る坂上忍。
絵本に魅せられた人は、必見です。★3つ。
『リクはよわくない』公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.9.24
『カラミティ』★★★
『空白』★★★★★
『クーリエ 最高機密の運び屋』★★★★
『殺人鬼から逃げる夜』★★
『ディナー・イン・アメリカ』★★★
(満点は★★★★★)


すっかり秋らしくなってきましたね。
今月末での緊急事態宣言、まん延防止等の解除が言われていますが、それまでの時間は映画で心の旅などいかがですか?
さ、今週は5本です!

『カラミティ』は、アメリカ西部開拓時代の、初の女性ガンマンを描いたアニメ作品。

マーサ・ジェーン・キャナリーは、12歳。家族と共に、幌馬車隊に加わり、西へ西へと移動していました。
ところが、旅の途中で馬が暴れ、父親が大怪我を負ってしまうんですね。
幼い弟や妹を含め、家族を引っ張っていく役目を背負ったマーサは、馬に乗ったことも、馬車を挽いたこともありません。
それでも負けず嫌いのマーサは、髪を切り、スカートを脱ぎ、少年の服を着て、男の子のように、懸命に振る舞ったのです。
いつまで続くのか、終わりの見えない旅でしたが、マーサは道に詳しいサムソン少尉という軍人と出会い、幌馬車隊の先導を任せることに。
すると、このサムソン少尉が、みんなの貴重品を盗んで、逃げてしまったのです。
責任を感じたマーサは、それを取り戻そうと、サムソン少尉を追うのですが…。

フランスとデンマークの、共同制作アニメーション。
輪郭線がなく、パステル調の色使いも印象的な、個性的なタッチが評判になっています。
確かに、シーン、シーンを切り取って、額に入れて飾りたくなるような絵が流れます。
1850年代に生まれたマーサ・ジェーン・キャナリーは、考えてみれば、かなり突き抜けていた女性だったはず。
当時の大人たちは、古い慣習を大事にしていたため、男の子のようなマーサを訝しげに見ていたと言います。
それでも、2021年の今、目指す女性像の最先端を行っているような存在ですよね。
ちなみに、タイトルになっている『カラミティ』は、“平原の女王”と呼ばれた、彼女のニックネームだそう。
いつの時代にも、しっかり自分自身を持って生きる人がいたんだと、勉強になる映画です。★3つ。
「カラミティ」公式サイト


『空白』は、古田新太と松坂桃李が演じるヒューマンサスペンス。

添田花音は中学生の女の子。
両親は離婚し、いつも怒鳴ってばかりの漁師の父、添田充と暮らしていました。
ある日のこと、学校から帰る途中、スーパーアオヤギに寄った花音がマニキュアに手を伸ばすと、店長の青柳直人がその腕を掴み、奥の事務所へ連れて行こうとします。
青柳の手を振りほどいて、店の外へと走り出す花音。
追いかけてくる青柳から逃げようと、車道に飛び出した花音は、乗用車にはねられ、さらにトラックにひかれてしまったのです。
警察の霊安室で、変わり果てた娘の姿を目の当たりにした添田は言葉を失います。
事の流れを聞かされた添田は、娘の万引きは冤罪だと、証拠を出せと青柳に詰め寄ります。
次の日、テレビのワイドショーは「万引きをした女子中学生に、行き過ぎた店側の対応はなかったのか」と青柳を追求し、「娘は無罪」と怒鳴る姿を映された添田の家には、「お前の娘は犯罪者」という貼り紙が貼られ。SNS上では、青柳の、また添田の、あることないことを含めた、誹謗中傷の嵐が吹き荒れます。
一体、何が本当で、何が正義なのか。
モンスターと化した父親が、周りのすべての人を巻き込みながら、真実を解き明かそうと動くのですが…。

見入っちゃいました。
重いし、暗いし、どうなっちゃうんだろうというストーリー展開。いやぁ、考えさせられました。
話がしたくても言葉を遮られ、怒鳴られてお終いの父と娘。家でも学校でも、心にモヤモヤがある花音でしたが、本当に万引き犯なのかはわかりません。
なぜなら、スーパーの防犯カメラは動いていないから。
父の急死でスーパーを継いだ青柳直人。
生き甲斐はボランティアというベテラン女性店員。
花音の学校の担任。
最初に花音をはねてしまった自家用車の運転手の女性と、その母親。
添田の舟に乗る、まだ半人前の若者。
執拗に迫るTVのクルーに、スタジオのコメンテーター。
そして、社会の目、口、何も知らないくせに、思い込みだけでSNSを打つ指…。
現代社会の負の部分を、これでもかと詰め込んで、それでも上手くまとめ上げている、というか、上手く落とし込むことに成功しています。
登場人物の一人一人になって、考えてみて下さい。鑑賞後は、絶対に語り合いたくなる1本です。
ズシリと、たまにはこういう映画もいいよなと思うはずです。満点!★5つ。
「空白」公式サイト


『クーリエ 最高機密の運び屋』は、事実に基づく物語。

第二次世界大戦が終わり、新たな対立はアメリカとソ連の東西冷戦にありました。
1962年、両国の核開発競争が激化し、ふたつの大国の対立は頂点に。第三次世界大戦が始まれば、核の撃ち合いは避けられないと、世界中が不安に陥れられていたのです。
その頃、ソ連の高官の中にも、核戦争の回避を祈り、平和を望む人物がいました。彼の名は、オレグ・ペンコフスキー大佐。
アメリカのCIAは、イギリスのMI6と策を練り、ごくごく普通のビジネスマンをモスクワへ送り込み、ペンコフスキー大佐に接触させる作戦に出ます。
白羽の矢が立ったのは、グレヴィル・ウィンというイギリス人セールスマン。
スパイの経験など一切ない普通の男に、世界の命運が託されたのです…。

“キューバ危機”という言葉を知ってますか?
1962年10月、ソ連が、同じ社会主義国家で、アメリカからほど近いカリブ海の島国、キューバに核ミサイル基地を建設していることが発覚。アメリカは海上封鎖で対抗し、一触即発の状態に。
これを“キューバ危機”と言い、「人類史上、最も第三次世界大戦に近づいた13日間」と言われているそうです。
結果、土壇場で両国は歩み寄って、キューバから核は撤去されるのですが、その陰で大役を果たしたのが、グレヴィル・ウィンでした。
東欧諸国に工業製品を卸すセールスマンだった彼が、モスクワのお偉いさんたちに西の先端技術を売り込むと見せかけて、ペンコフスキー大佐から機密情報を受け取り、持ち帰る。まさに、命懸けの行為を繰り返したわけです。
歴史に翻弄され、過酷な人生を選択してしまった人々の実話です。また、そんな夫であり父親を持った、家族の物語でもあります。★4つ。
「クーリエ 最高機密の運び屋」公式サイト


『殺人鬼から逃げる夜』は、韓国の“逃走サイレントスリラー”。

耳が不自由なギョンミは、同じく聴覚に障がいを持つ母との二人暮らし。
母親と待ち合わせての帰宅途中、ギョンミは血まみれの若い女性を発見します。
助けを呼ぼうと、街角の非常ボタンを押したのですが、管制センターからの声は、ギョンミには聞こえません。
しばらくすると警察がやって来て、ギョンミは筆談で話しますが、なかなか事の真意が伝わらず。血まみれの女性の姿もいつの間にか消えていました。
すると、スーツの若い男性がやってきて、妹を探していると言うのです。
もしかしたら、あの女性かもと、ギョンミは母親とこの男性と共に警察に向かうんですね。
ところが、この男性こそが、女性を刺した連続殺人鬼のドシクだったのです。
調書に書き記したギョンミの住所を覗き見し、暗記したドシク。
殺人鬼の次なるターゲットは、ギョンミになってしまったのです…。

“逃走サイレントスリラー”の意味がわかったかと思います。
血まみれの女性の名はソジョンといい、元海兵隊員の兄ジョンタクと、こちらも二人暮らし。
ソジョンは、その日、合コンに行き、帰り道でドシクに襲われてしまうんですね。
深夜になっても帰らない妹を心配したジョンタクが探しに出て、この物語に加わってきます。
犯人探しの作品ではなく、犯人は最初から明らかになっていて、その残虐な犯行からどう逃れるのかを追う映画。いろんな意味で、斬新な舞台設定と言っていいと思います。
ただ、この手の映画には、完璧なディテールが求められます。観てる側が、「あれ?」と疑問を抱いた瞬間、覚めてしまうというか。
そういう点にいくつか気付いてしまったのが残念だったかなぁ…。
監督の初作品だそう。エールも込めて、採点はちょっと厳しく。★2つ。
「殺人鬼から逃げる夜」公式サイト


『ディナー・イン・アメリカ』は、パンク・ロックが結んだラブ・ストーリー。

パティは地味なメガネ女子。
周りの男の子にからかわれ、バイト先でも疎ましがられ。家に帰れば、あれはダメ、これもダメと、優しいけど過保護な両親にうんざり。
そんなパティの唯一の楽しみは、大好きなパンクバンド“サイオプス”の曲を聞いて、踊り狂うことでした。
パティが、バイトの休憩時間に店の裏で休んでいると、身を隠すように建物の階段を上がっていく、見るからに怪しい男の姿が。
すぐにパトカーがやってきて、パティに尋ねます。
「怪しい男を見ませんでしたか?」
「NO」と答え、パトカーが去ると、男はパティの元へ。
お礼と共に、隠れる場所はないかと聞いてきたのです。
男を自分の家に連れて帰るパティ。匿ってあげるから、両親に反対されているサイオプスのライブに連れて行ってと男に頼むパティ。
実は、この男こそが、サイオプスの覆面を被ったボーカルで、リーダーのジョンQだったのです…。

世の中からはみ出した男女が偶然出会って、パンキッシュに世間に仕返しをしていくという。
痛快ラブ・コメディと言ってもいいですかね。
ちなみに、資料には“アナーキック・ラブストーリー”とありました。
いろんな言葉があるもんだ(笑)。
はみ出し過ぎると、「なんだ、コイツら?」となっちゃうから、そのギリギリのラインを攻めてる感じかな。でも、パティをいじめる連中への反撃は気持ちよかったです!
インディーズ作品ながら、たくさんの映画祭で賞を受賞。ところが、コロナの影響もあって、本国アメリカでは、まだ公開されていないとか。
他国で話題になってからの凱旋上映なんてことになったら、これまたパンキッシュでいいですよねっ。頑張れ!★3つ。
「ディナー・イン・アメリカ」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.9.16
『偽りの隣人 ある諜報員の告白』★★★
『食人雪男』★★
(満点は★★★★★)


私事ですが、網膜剥離の二度目の手術が決まりました。
開いてみないとわからない部分もあるようで、また1週間ほどの安静となる可能性も。
しばらく目を使えなくなる前に、オンラインで拝見出来る試写を積極的に観ておきたいと思っています。
さ、今週は2本です!

『偽りの隣人 ある諜報員の告白』は、韓国の社会派サスペンス。

1985年、韓国の民主化に向け、精力的に活動していた野党総裁のイ・ウィシクは、軍事政権からの弾圧を避けようと、海外に逃れていましたが、大統領選に出馬するために帰国。 ところが、空港に着くや、国家安全政策部に逮捕され、自宅に軟禁されてしまうんですね。
諜報機関は、ウィシクの行動を24時間監視するため、隣家に3人の諜報員を住まわせ、一挙手一投足を報告させるのですが、そのリーダーに選ばれたのが、愛国心の強いユ・デグォンでした。
ところが、仕掛けた盗聴器から聞こえてくるのは、一家団欒の楽しそうな声。そして何より、国を憂い、国の将来を思うウィシクの熱い理念だったのです。
デグォンは、今の政権のやり方に、また自分がとっている行動に、疑問を抱くようになったのです…。

イ・ファンギョン監督は、「あくまでもフィクション」と言っているようですが、歴史を紐解けば、モデルとなる大統領がいるはずです。
韓国映画らしく、コミカルに、ハートウォーミングに、そしてシリアスに、自分たちの過去を振り返ろうとしています。
考えてみれば、1987年の韓国の民主化宣言から、まだ30年余。日本は昭和62年、平成に変わる2年前の出来事。つい最近のことなんですよね。
後戻りしないための備忘録としての意味も、このタイプの作品にはあるのかもしれません。
我々日本人も、平和ボケしていないで、自国の成り立ちを学ばないと。
日本にも、この手の映画が欲しいなと感じたりもしました。★3つ。
「偽りの隣人 ある諜報員の告白」公式サイト


『食人雪男』は、モンスター・パニック映画。

あらゆる病を直すとされる奇跡の薬草。
それが雪深い山奥にあると言われ、多くの人間たちが山深くへと入っていきました。
しかし、みんな息絶えたのです。
その原因は、雪男イエティの存在にありました。
厳しい自然の中に自生する薬草を守るため、踏み入るものは皆、残忍な形でイエティに命を奪われてしまう。
そんな雪山に、また新たな探索隊がやってきたのです…。

このコラムではおなじみ?TOCANAの配給作品です。
ですが、今回はあまりにチープで(笑)。
逆に、「これこそがB級サスペンス・ホラーだ」と言う、熱烈なファンがいるかもしれませんね。
一番醜くて怖いのは、雪男でも何でもなく、人間なんだということなのでしょう。
★の数は少ないけど、もしかするとマニア必見?
ご自身の目で確かめてみて下さい。★2つ。
「偽りの隣人 ある諜報員の告白」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.9.10
『スーパー戦闘 純烈ジャー』★★★★
(満点は★★★★★)


お気づきになった方も多いかと思いますが、先週から、ホームページだけでなく、ブログの方にも各作品の公式サイトを添付。気になったら、すぐに飛べるようにしました(^-^)
遅ればせながらですが、ボクにとっては革新的進歩です(笑)。
文字だけだった映画のブログが、一気に華やかになりました。是非、ご活用下さい!
さ、今週は1本です!

『スーパー戦闘 純烈ジャー』は、純烈の4人が主演のアクション・コメディ。

人気の男性4人組ムードコーラス・グループ、純烈は、今日もスーパー銭湯でライブを行い、お客さんを楽しませていました。
ところが、最近、浴場で若い男性の不審死が多発。事件性はないと警察は判断しますが、“連続イケメン温泉失踪事件”として世間を騒がせていたのです。
純烈のメンバーの中で、後上翔太を除く3人は、秘密の顔を持っていました。
それは、温浴施設を守る正義のヒーロー“純烈ジャー”。
彼らが独自に調査を進めてわかったのは、温泉の向こう側の世界で3000年も生き続ける女王フローデワルサーが、永遠の若さのために、純粋で烈しい心を持ったイケメンのエキスを求めているということでした。
スーパー銭湯の平和と安全を守るため、純烈ジャーは、女王フローデワルサーが送り込む刺客との、壮絶な戦闘に挑むことになるのです…。


NHK紅白歌合戦3年連続出場を始め、今や日本中のマダムのアイドルになった純烈。
実際に純烈のメンバーは、戦隊モノの出身者が多く、現メンバーでは、リーダーの酒井一圭が百獣戦隊ガオレンジャーのガオブラック。
小田井涼平が仮面ライダー龍騎の仮面ライダーゾルダー。
白川裕二郎が忍風戦隊ハリケンジャーのカブトライジャー。
映画のストーリー同様、後上翔太だけ、戦隊モノの出身ではありませんが、彼の「なぜ自分だけ純烈ジャーじゃないんだ…」という苦悩が、物語の核にもなっています。
女王フローデワルサーに“ラスボス”小林幸子。純烈が訪れる銭湯の館長に前川清。大物演歌歌手が脇を固めます。
実は純烈ジャーは、温泉の女神と合体することで、純グリーン、純レッド、純ブルー、純バイオレットに変身出来るのですが、その女神が意外や年配の女性で(笑)。
間違いなく、ファンの層を意識した設定だというのがわかります。さすがの気配りですよねぇ。
バカバカしいことを、徹底的に真面目にやっているところに、面白さがある。
小林さっちゃんも、スゴいです。振り切ってます(笑)。★4つ。
「スーパー戦闘 純烈ジャー」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.9.3
『科捜研の女 劇場版』★★★
『くじらびと』★★★
『ミス・マルクス』★★★
(満点は★★★★★)


9月になりました。
あっという間に過ぎてしまった8月。
「何もなかったなぁ…」と言う人は、2021年の夏を記憶に残すためのツールとして、映画を選んでみてはいかがですか?
さ、今週は3本です!

『科捜研の女 劇場版』は、人気テレビシリーズの映画版。

彼女はウイルスを研究している女性科学者でした。
警察が駆けつけ、聞き込みを始めると、転落する直前に「助けて!殺されるっ」という声が聞こえたという証言が。
しかし、捜査を続けても、犯罪に結び付く物的証拠がなかったことから、自殺として処理されてしまうんですね。
科学捜査研究所=“科捜研”の解剖医である榊マリコは、京都府警捜査一課の土門刑事と共に、事件性を疑います。
土門刑事が調べたところ、亡くなった女性が、共同研究者の男性と一緒に、東京にある帝政大学の微生物学者・加賀野教授の元を訪ねていたことが判明。
男性から話を聞こうとしたところ、なんとその男性科学者も転落死してしまったのです。
さらに、ロンドン、トロントと、世界中で科学者の転落死が相次ぎます。
“ダイエット菌”なるものを研究している加賀野教授が事件のカギを握ってそうでしたが、加賀野教授には確たるアリバイがあります。
それでも榊マリコは、科学には科学でと、事件の真相に近づこうとするのでした…。

99年から、テレビ朝日系列で20年以上に渡って大人気を誇る、科学捜査ミステリー・シリーズ。これまでに、累計254話が放送されたそうです。
ドラマのファンにとっては、オールキャストでの108分ですから、“夢の豪華版”ということになるんでしょうね。
ボクはドラマをあまり見ないので、それぞれの登場人物のキャラクターを知っていたら、さらに面白かったんだろうなというのはありました。
榊マリコと土門刑事の、大人の男女の関係は、ファンにはおなじみのようですが、マリコさん、実はバツイチなんですね。「若い人の中には、知らない人もいるみたい」と資料にありました。
その元夫が、出演しているのも話題のひとつ。シーズン3・第8話以来の登場だそうです。ファン必見です。
放送開始から20年以上ですから、その頃に生まれた子は、もう成人ですもんね…。
変わらぬ沢口靖子さんの美しさを、大きなスクリーンで是非!★3つ。
「科捜研の女 劇場版」公式サイト


『くじらびと』は、インドネシアのレンバタ島ラマレラ村に暮らす人々のドキュメンタリー。

1頭補れれば1500人が2ヶ月暮らせる、と言われる鯨。
その鯨漁の道具は、手作りの舟に、手作りの銛。そこには先祖伝来の捕鯨法があったのです。
ところが、2018年のことでした。
伝統的技法で鯨舟を作る名人、イグナシウスの息子ベンジャミンが、鯨漁の最中に命を落としてしまったのです。
皆が悲しみに暮れる中、新たな一歩を踏み出すために、イグナシウスは、もうひとりの息子で、ベンジャミンの兄のデモと共に、新たな舟を作り始めるんですね。
撮影も務めた石川梵監督は、30年の歳月をかけ、ラマレラの皆さんとの信頼関係を築き、この映画の撮影に成功したと言います。
共に舟に乗り込んでの命懸けのカメラワークに、それが表れている気がしました。
捕鯨に関しては、世界中から賛否の声が上がっていますが、ラマレラの人々は鯨に感謝し、鯨に生かされ、鯨と共に生きています。
その是否論において、ボクらに白黒ハッキリとした答えが出せなくても、見て、聞いて、考えることが大切かなと。
その大いなる参考資料のひとつになることは、間違いありません。
世界は広いです。これもまた“多様性”だと思うのですが。★3つ。
「くじらびと」公式サイト


『ミス・マルクス』は、19世紀を代表する哲学者で、経済学者のカール・マルクスの末娘、エリノア・マルクスの半生を描いた作品。

1883年のイギリス。
偉大なる父、カール・マルクスを亡くしたエリノアは、深い悲しみに暮れていました。
それというのも、81年に母を、83年には姉を亡くしたばかり。繰り返される悲劇に、胸を痛めるのも無理はありませんでした。
1855年、マルクス家の第六子、四女として生まれたエリノアは、16歳で父の秘書となり、父の没後はその意思を継いで、労働者や、女性、子供たちの権利向上を目指し、女性活動家として奔走していました。
そんな中、出会ったのが、社会主義者で劇作家のエドワード・エイヴリングでした。
ふたりは恋に落ちますが、浪費家で不実なエイヴリングにエリノアは振り回され、次第に心をも蝕まれていくんでしね。
入籍こそしていなかったふたりですが、永遠のパートナーだと信じていたエリノア。
しかし、彼女の知らないところで、エイヴリングが年下の女優と極秘結婚していたことが判明したのです…。

43歳の若さで、この世を去ったエリノア・マルクス。
映画の最後に、彼女の功績として、労働条件改善、児童労働禁止、男女平等教育の実現、普通選挙を勝ち取る…などが書かれていました。
今でこそ、当たり前の女性活動家ですが、当時はまさに時代の先端を行く存在。世間の風当たりが強かったであろうことは、想像に難くありません。
そんな時代に、波乱万丈の人生を駆け抜けた、ひとりの女性の伝記映画です。
恋愛にだけは弱かったエリノア。そこもまた彼女の愛すべきキャラクターなのかも。
思想は別にしても、自分自身を貫き通す生き様に、刺激を受ける人も多いのではないでしょうか。★3つ。
「ミス・マルクス」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.8.27
『ショック・ドゥ・フューチャー』★★★
『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』★★★
『白頭山(ペクトゥサン)大噴火』★★★
『ホロコーストの罪人』★★★
『遊星王子2021』★★★
(満点は★★★★★)


網膜剥離のため、今週予定していた試写室での試写は、すべてキャンセルせざるを得ませんでした。
まだ視界がクリアにはならず。ま、術後1週間しか経ってませんからね。
こんな時、オンライン試写はありがたいです。
さ、今週は5本です!

『ショック・ドゥ・フューチャー』は、70年代のフランスが舞台の音楽映画。

1978年のパリ。
アナはミュージシャン。とは言っても、ヒット曲があるわけでもなく、シンセサイザーを持つ友達に、部屋ごと借りて、居候。スタジオ代わりにも使わせてもらっていたのです。
知り合いの業界人からCMソングの依頼を受けていたアナでしたが、遅々として進まず。締め切り前日になっても、曲が完成しません。
さらに悪いことに、機材が壊れてしまいます。
急いで修理を依頼したところ、やってきたエンジニアが持っていたのが、見たことのない電子楽器。
ROLAND CR-78。
日本製のリズムボックスです。
その性能に一発で魅了されたアナは、何とか頼み込んで、それを借り受け、曲作りに没頭します。
そこにCMソングを歌うはずだった、歌手のクララがやってきます。
ふたりで話しながら、曲を組み立てていくと、これまでにない、新しい音楽が生まれたのです…。

78年。ボクが高校生の頃。確かにYMOとか、日本にもエレクトリック・ポップの波が来て、テクノカットなんて髪型も、あの頃生まれたはず。
そんな時代のフランスの音楽映画です。
日本の機材が世界の音楽を変えたなんて、ちょっと誇らしいですよね(笑)。
アナはこの後、音楽業界の有力プロデューサーに曲を聴かせます。評価やいかにといったところですが、何事においても黎明期の新たな一歩には、困難が待ち受けます。そして、それがホンモノなら、少々時間がかかっても、必ずやいい評価が付いてきますから。
ちなみに、ローランドの本社は今は静岡ですが、創業は大阪市。社のホームページで、Companyからヒストリーを見てみて下さい。出てきますョ、CR-78!★3つ。
「ショック・ドゥ・フューチャー」公式サイト


『沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家』は、フランスの“パントマイムの神様”マルセル・マルソーの物語。

1938年のフランス。
アーティストになることを夢見て、昼の仕事とは別に、夜はキャバレーでパントマイムを演じていたマルセル。
第二次世界大戦が拡大の一途を辿る中、ナチスに親を殺された123人もの子どもたちが、フランスへと避難して来ます。
兄のアランや仲間と共に、子どもたちの世話をするマルセル。
何とか笑顔を取り戻して欲しい。マルセルは、お得意のパントマイムで沈んだ空気を払拭。一躍、子どもたちの人気者になるんですね。
しかし、戦争が激化。マルセルの仲間も次々と捕らえられ、迫害され、時には命をも奪われていきます。
このままでは子どもたちが危ない。そう考えたマルセルは、危険を冒してでもアルプスの山を越え、安全なスイスへと、子どもたちを逃がそうとするのですが…。

2007年にこの世を去った、マルセル・マルソー。
1944年、ユダヤ人の父が、アウシュビッツで犠牲になっているそうです。 マルセルが恋心を抱いていた女性がエマ。その友人が、あまりにむごたらしいやり方で命を奪われ、エマは復讐を誓うのですが、そんな彼女にマルセルはこう言います。
「真の抵抗(レジスタンス)は、連中を殺すことじゃない。命を繋ぐことだ」
究極ですよね…。
子どもたちを笑顔にしたい。そんな気持ちが、後に伝説のパントマイマーを育てたのだと思います。
誰に向けて、見せるのか、聞かせるのか。
着地点がハッキリしていない芸(アート)は、宙に浮いたままですから。
戦争は人間最大の罪だと、改めて思います。★3つ。
「沈黙のレジスタンス ユダヤ孤児を救った芸術家」公式サイト


『白頭山(ペクトゥサン)大噴火』は韓国映画。

中国と北朝鮮の国境付近にある白頭山が噴火。
観測至上最大噴火の威力は凄まじく、遠く離れたソウルの街でも、建物が倒壊し、多くの犠牲者が出ました。
しかし、これはまだ初期の噴火で、75時間後の4次爆発では、朝鮮半島が壊滅状態になると言います。
ずっと白頭山を研究してきた、地質学者のカン・ボンネ教授によれば、有効な対策は、ただひとつ。火山から5キロ以内の場所で、600キロトンの人工的爆発を起こし、マグマ溜まりを散らすというものでした。
実現させる唯一の方法は、北朝鮮に潜入し、北朝鮮の核爆弾を、限られた時間の中で、然るべき位置で爆発させること。それしかないと言うのです。
重大な任務の責任者として白羽の矢が立ったのは、韓国軍爆発物処理班の大尉、チョ・インチャンでした。
部隊は北朝鮮に潜入し、まずは北朝鮮の人民武力部の工作員で、スパイ容疑で収容所に入れられているリ・ジュンピョンと接触しなくてはなりません。
ミッションのひとつひとつが命懸けの難題で、しかも限られた時間内に達成しなければ、朝鮮半島は壊滅状態に。
実は、インチャンの妻のお腹には、初めての赤ちゃんがいるのです。
果たして、白頭山の大噴火を止めることは出来るのでしょうか…。

大尉のインチャンにハ・ジョンウ、工作員のジュンピョンにイ・ビョンホン、地質学教授にマ・ドンソク。
ちなみに、ハ・ジョンウとイ・ビョンホンは、初共演だそうです。
日本で言えば、富士山大爆発みたいなものですから、設定のスケールがデカい(笑)。
ただ、北朝鮮の被害のほうが甚大だろうから、ここは中国も交えて、素直に手を組んだほうがいいし、将来的にもこれが契機となって、友好がもたらされるんじゃないの?なんて考えたら、映画にはなりませんから(笑)。
ディザスター・ムービーとか、ブロックバスター・ムービーとか、いろんな表現がありましたが、愛する人のためにと命を懸ける、“滅私”の人情ものでもあります。
豪華韓国スターの共演。韓流ファンは満喫して下さい。★3つ。
「白頭山(ペクトゥサン)大噴火」公式サイト


『ホロコーストの罪人』は、ノルウェー映画。

第二次世界大戦中のノルウェー。
ブラウド家は、両親と3人の息子からなるユダヤ人一家。
ボクサーとして活躍していた息子のチャールズが、ユダヤ人ではない女性と結婚。新たな家族を迎え入れ、一家は幸せな時を過ごしていたのです。
ところが、1940年9月、ドイツがノルウェーに侵攻すると、様相は一変。
まずは男たちが次々と捕らえられ、収容所へと送られます。
容赦なく家から金品を奪われると、女性たちも身の危険を感じ、国外逃亡を企てますが、時すでに遅し。
ノルウェーの政府が、警察が、さらには市民までもが、ナチスの要請に協力する形で、ユダヤ系ノルウェー人たちを、アウシュビッツに向かう輸送船の待つ港へと連行して行ったのです…。

ノンフィクション小説が原作の映画。
ホロコーストは、ナチスだけの蛮行ではなく、ノルウェーにおいては、自国の人間も多くかかわっていたんだという、自省の作品です。
2012年1月に、当時のノルウェーのストルテンベルグ首相が、初めて政府としての公式な謝罪を表明。事件から、70年の時が過ぎていました。 いつも言うことですが、人間という動物が成熟していないというよりも、戦争が人間をおかしくする。絶対にあってはならないことが、まだほんの少し前に、現実にあったんだということを、こういう映画でも学ぶ必要があると思います。★3つ。
「ホロコーストの罪人」公式サイト


『遊星王子2021』は、特撮エンタテインメント映画。

宇宙船に乗ってやってきた、MP5星雲第四遊星の王子は、宇宙船ごと地球に墜落。200年の眠りから覚めた場所が日本でした。
パン屋の娘、君子を助けた遊星王子は、記憶を失くし、行くところもありません。すると、君子が家族に内緒で、自分の部屋の押し入れに住ませてくれたのです。
とはいえ、いつまでも隠し通せるはずもなく、自由気ままに行動する遊星王子の存在は、すぐに家族にバレてしまいます。
その頃、遊星王子を憎む、タルタン人が王子を亡き者にしようと、商店街を襲うんですね。
商店街の、いや、地球の平和は守られるのでしょうか…。

タイトルに“2021”とあるように、この作品にはオリジナルがあって、それは1958年から59年にかけて放映された、テレビドラマ『遊星王子』。
こちらは“和製スーパーマン”とも呼ばれた、真面目なSFドラマ。
令和版は、“特撮コメディの鬼才”と呼ばれる、河崎実監督のメガホンですから、推してしるべしでしょう。
君子が熱を上げているアイドルの舟木康介が、遊星王子と瓜二つだったり、超B級ロボットとの対決があったりと、バカバカしさ満載ですが、妙に惹かれるトーンなんですョ。
おそらく、レトロなヒーローものが、下町の片隅で長く続くおもちゃ屋さんのような雰囲気だからかも。
大人が十分に楽しめる1本だと思いますョ。★3つ。
「遊星王子2021」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.8.18
『祈り 幻に長崎を想う刻(とき)』★★★
『子供はわかってあげない』★★★★
『Summer of 85』★★★
『人肉村』★★★
『スザンヌ、16歳』★★★
『リル・バック ストリートから世界へ』★★★★
(満点は★★★★★)


今週は実に多ジャンルで、盛りだくさん。
メジャーでなくても、少しでも気になる映画があれば、劇場に是非どうぞ!
さ、今週は6本です!

『祈り 幻に長崎を想う刻(とき)』は、現代演劇の金字塔と評される舞台「マリアの首」の映画化。

1945年8月9日、原爆が投下され、一瞬にして7万4千人もの命が奪われた長崎。
東洋一の大聖堂と呼ばれた浦上天主堂も被爆し、聖母マリア像も破壊されてしまったのです。
その破片を少しずつ集め、人知れず修復している女性たちがいました。鹿と忍です。
終戦から12年。日米の国交回復を考えた時、浦上天主堂を壊すべきか、それとも戦争遺構として残すべきか、議論が活発化していた1957年の冬。鹿と忍は、見るも無惨な姿で放り出されているマリア様の首を、いよいよ仲間と共に盗み出そうとするのですが…。

看護師と娼婦の、ふたつの顔を持つ鹿。
保母として働く傍ら、夜は市場で自作の詩集を売り、生計を立てている忍。
共に敬虔なクリスチャンです。
マリア様の無惨な姿に、いてもたってもいられないまま、12年の歳月が過ぎました。
雪の降る冬の夜、遂に訪れた頭部奪回の時。
しかし、噂を聞きつけた警察の警備も厳しくなっていて。果たして、悲願は叶うのか、というお話。
もちろん、根底に流れるのは戦争反対であり、核兵器の根絶です。
“被爆マリア像”と呼ばれた、このマリア像は、平和の象徴として、世界を巡礼したそう。
劇中では、長崎県出身の美輪明宏さんが声の出演をし、同じく、さだまさしさんが主題歌「祈り」を歌います。詞を噛み締めながら、聞いてみて下さい。ズシリと心に響きます。★3つ。
「祈り 幻に長崎を想う刻(とき)」公式サイト


『子供はわかってあげない』は、田島列島の人気コミックの実写映画化。

仲良し家族と暮らす、高校2年生の美波は、水泳部員。
お父さんとの共通の趣味は、TVアニメ『魔法左官少女バッファローKOTEKO』を見ること。
すると、同じ高校の書道部に所属する男子生徒の、もじくんもKOTEKOのファンだと判明。ふたりは急に仲良くなるんですね。
実は、美波の母は再婚で、今の父は実の父ではありません。
幼い頃に別れた父が気になっていた美波は、もじくんに背中を押される形で、父を探そうと決意。美波の特別な夏休みが始まったのです…。

上白石萌歌主演作。
アニメきっかけで仲良くなったもじくんは、書家の家に生まれ、美波が幼い頃に父からもらったという謎のお札は、もじくんの家族が書いたもの。
そのお札は新興宗教の教団のもので、実の父は教団の教祖だったという。なぜ教祖になったかというと、超能力があり、人の心が読めたのだそう。
そんな父の住まいを突き止め、母には水泳部の合宿と嘘をつき、会いに行く美波。
父と娘の、ギクシャクとした時が流れます。
それでも次第に打ち解けていくと、滞在の日も延びていくんですね。
ちょいちょい笑いのエッセンスも挟みつつ、2時を超える作品ですが、一気に観入ってしまいます。
思春期の、ひと夏の冒険と恋。家族って、いったい何?まさに今の季節にぴったりの1本です。
ちなみに、上白石萌歌ちゃんのスクール水着姿が、メチャメチャかわいかったです!★4つ。
「子供はわかってあげない」公式サイト


『Summer of 85』は、フランス映画界の巨匠フランソワ・オゾン監督が、17歳の時に出会った小説の映画化。

1985年のフランス。
友達に借りたヨットで、海に出た16歳のアレックスは、突然の嵐でヨットを転覆させてしまいます。
助けてくれたのは、18歳のダヴィド。家に招き入れ、シャワーはもちろん、着替えまで用意してくれたのです。
ダヴィドの母も、「この子には、ちゃんとした友達が必要なの」と、アレックスを大歓迎。
ダヴィドがアレックスに関心があるのは明らかでしたが、女子との恋愛経験もないアレックス。
ふたりが初めて結ばれた時、アレックスはダヴィドに初めての恋愛感情を抱いたのでした。
ダヴィドの母が営む船具屋でアルバイトを始めたアレックス。ふたりの仲は、どんどん親密になります。
ところが、アレックスが浜辺で知り合ったケイトという女の子が、ダヴィドと関係を持ってしまうんですね。
嫉妬に狂ったアレックスは、怒りながら店を飛び出します。
慌ててバイクで後を追うダヴィド。
しかし、ダヴィドは事故に遭ってしまうのです…。

ボーイズ・ラブの映画と言っていいのでしょうか?今はもう、そんな表現すら使わないのかな?
フランソワ・オゾン監督が多感な10代に読んだというのは、エイダン・チェンバーズの小説「Dance on my Grave(おれの墓で踊れ)」。
ダヴィドとアレックスは、約束をします。
「どちらかが先に死んだら、残された方はその墓の上で踊る」と。
アレックスは、その約束を守ろうと努めることで、ダヴィドを感じようとしていたのかもしれませんね。
正直、ボクにはわからない部分もあり、コメントに少々詰まってしまいますが、わかりやすい映画です。興味のある方は是非。★3つ。
「Summer of 85」公式サイト


『人肉村』は、カナダのバイオレンス・ショッカー。

緑に囲まれた郊外の一軒家。そこに暮らすワトソン一家。
このワトソン兄弟が猟奇的な人物で、人を捕えては、女性は繁殖用に、男性はなんと食用にしていたのです。
そこにドライブでやってきた男女4人組。運悪く、この家の付近で車が故障してしまいます。
助けを求めに近くのガソリンスタンドに向かうのですが、そこはワトソンの兄が経営する店。
4人は捕らわれの身となってしまいます。
なんとか逃げ出そうとする4人でしたが、狂気の魔の手が、容赦なく襲いかかってくるのでした…。

最近よくご紹介する、TOCANAの配給作品。
好きな人はたまらなく好きかもしれません。
昔の東京12チャンネル(現在のテレビ東京)の深夜にやっていたようなテイストの1本。と言っても、若い人にはわからないですよね(笑)。
ま、タイトルでなんとなく想像がつくはず。まさにそのままの映画です。★3つ。
「人肉村」公式サイト


『スザンヌ、16歳』は、20歳のフランス人女性監督が手がけた初の長編作品。

スザンヌは、パリ・モンマルトルに暮らす、16歳の女子高生。
学校は退屈で、友達は男の子も女の子も子供っぽく感じていました。
夏のある日のこと、劇場の前で、スザンヌは年上の舞台俳優ラファエルと出会います。
大人の男性に、知的好奇心をくすぐられたスザンヌ。ラファエルもまた、スザンヌの新鮮な魅力に惹かれていったのです。
プラトニックなふたりの恋でしたが、ラファエルとの時間は刺激的で楽しい毎日でした。
ただ、スザンヌの心の中にはもうひとつ別の感情があったのです。
それは、理由のない“不安”でした…。

20歳の新人、スザンヌ・ランドン監督の15歳時の思いを脚本化。更には自ら主役も演じてしまったという、新たな才能の鮮烈なデビュー作です。
フランスらしく、10代の娘の恋を、両親は詮索しないんですね。さすがのお国柄です(笑)。
男性が一度は年上の女性に魅せられように、女性にも年上の男性に惹かれる時があるのでしょうか?
映画のキャッチコピーは、「スニーカーと生意気な白いシャツ…。夏がはじまる」ですから、なんとなくイメージ出来ますよね。
スザンヌがカフェで注文する、お気に入りのグレナデンソーダのように、甘酸っぱい恋への憧れが、スクリーンから溢れ出るかのような1本です。★3つ。
「スザンヌ、16歳」公式サイト


『リル・バック ストリートから世界へ』は、ドキュメンタリー。

1988年、シカゴに生まれたチャールズ・“リル・バック”・ライリーは、8歳でテネシー州メンフィスに移住します。
キング牧師暗殺の地として知られる、犯罪多発地域でしたが、子どもたちには、ひとつだけ楽しみがありました。
それは、街のローラースケート場“クリスタル・パレス”に集い、メンフィス発祥のストリート・ダンス“メンフィス・ジューキン”を踊ること。
後にリル・バックは、「ダンスがあったから、ギャングにならなくて済んだ」と語っています。
ダンスの才能に溢れていたリル・バックは、奨学金を得て、ニュー・バレエ・アンサンブルで、バレエを学びます。
そこでジューキンとバレエを融合したダンスを考案。それで『白鳥』を踊ったのです。
すると、その映像が世界的チェロ奏者、ヨー・ヨー・マの目にとまり、彼が主催するチャリティ・パーティーに招待され、共演。
今度はその様子を、映画監督のスパイク・ジョーンズが携帯で撮影し、投稿。動画はYouTubeで300万ビュー超を記録するんですね。
そこからは、アーティストのツアーに参加したり、PVへの出演はもちろん、ヴィトンやヴェルサーチ等の有名ブランドとのコラボレーションなど、世界を股にかける活躍を見せます。
そんなリル・バックの半生を追ったドキュメンタリー。
“わらしべ長者”のように、物事は次々好転していきます。
でも、運がいいだけではなく、転がってきたチャンスを確実に掴む実力が、まず必要。
さらにレベルが上がれば、波も大きなものに変わっていく。それを乗り切るための人並み外れた努力が、彼にはありました。
好きなことを極める。オリンピックで話題になった、スケートボードにも似てるかな。
様々なことを教えてくれるドキュメンタリー映画だと思います。★4つ。
「リル・バック ストリートから世界へ」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.8.11
『ジュゼップ 戦場の画家』★★★★
『モロッコ、彼女たちの朝』★★★★
(満点は★★★★★)


“オリンピック・ロス”なる言葉が聞かれます。
その隙間を埋めるには、映画が効果的かも!
さ、今週は2本です!

『ジュゼップ 戦場の画家』は、実在の画家の生涯を描いたアニメーション作品。

1910年、スペインのバルセロナに生まれた、画家のジュゼップ・バルトリ。
1939年、スペインの共和党員たちは、独裁者フランコに追われ、フランスへとやってきます。
政治難民となり、収容所に入れられた中のひとりに、ジュゼップもいました。
衣食住はもちろん、暴力も横行する劣悪な環境下で、ジュゼップの心の救いは、絵を描くこと。
そして、別れ別れになってしまった婚約者マリアの似顔絵を眺めることでした。
そんな中、フランス人憲兵のセルジュは、この現状に疑問を抱き、ジュゼップを気に掛け、紙と鉛筆を手渡すんですね。密かな交流が生まれた瞬間です。
やがてジュゼップは、マリアの似顔絵をセルジュに託し、愛する婚約者の行方を探してもらえないかと頼むのですが…。

水彩画のようなタッチのアニメーション。
これが初の長編映画となるオーレル監督は、フランスの全国紙のイラストや、人気雑誌のグラフィックを手掛けてきた人。独特なタッチが、強く印象に残ります。
その後、ジュゼップはメキシコ亡命に成功し、1945年にはNYへ渡り、画家として成功。95年に亡くなります。
映画では、寝たきりのおじいちゃんのもとを訪れた孫が、おじいちゃんの思い出話を聞くという形で進み、ラストも感動の場面が待っています。
大人のための社会派アニメです。★4つ。
「ジュゼップ 戦場の画家」公式サイト


『モロッコ、彼女たちの朝』は、モロッコ映画。

カサブランカの路地を歩きながら、扉を叩いては職を求める女性がいました。彼女の名はサミア。
サミアは妊娠していて、既に臨月を迎えていたのです。
実は、サミアは未婚の母。イスラムの社会で、未婚での妊娠はタブーとされていて、サミアは職を失い、故郷をあとにしたのです。
すると、2Fの窓から声がします。
その家に住む、幼い娘のワルダです。
娘の声に気付いた母のアブラが扉を開き、一度は追い返すのですが、お腹の大きなサミアに一泊の宿を提供するんですね。
アブラは夫を亡くし、小さなパン屋を営み、娘ワルダを育てていました。
夫の死後、心を閉ざすかのように生きてきたアブラでしたが、サミアとの出会いが、少しずつ人生を変えていくことになるのです…。

北アフリカのモロッコ。
地中海に面し、中東とアフリカの接点としての、独自の文化が息づく国といったイメージでしたが、まさにそんな風景が、ボクらの目に、まずは飛び込んできます。
元は美容師だったサミア。“訳あり”ながら、おしゃれで、パン作りも上手いサミアと出会ったことで、生きることに精一杯だったアブラの生活に、色が付き始めます。
それでもふと冷静になった時、変化を拒むアブラの背中を押すのは、娘のワルダ。この子がいい子なんですョ。
文化や慣習の違う部分も、ボクら日本人には新鮮に映るはず。
海外旅行が難しい今、旅気分も味わえます。
満点でもいいぐらいです。迷って、迷って(笑)、★4つ。
「モロッコ、彼女たちの朝」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.8.4
『カウラは忘れない』★★★
(満点は★★★★★)


Bunkamuraル・シネマで上映される映画は、いい作品が多い。
個人的な感覚です。
試写の案内をもらった時、上映館がここだと、優先してスケジュールを割くぐらいで。
そのBunkamuraル・シネマが、APARTMENTというオンライン映画館をオープン!
作品毎に料金を支払うシステムのよう。
おそらく、いい作品がラインナップされると思います。期待したいですねっ。
さ、今週は1本です!

『カウラは忘れない』は、ドキュメンタリー。

第二次世界大戦中のオーストラリア。
南東部の田舎町、カウラに日本人捕虜の収容所がありました。
我々がイメージする劣悪な環境とは違い、ジュネーブ条約にのっとり、食事はもちろん、娯楽も、ある程度の自治も許されていたと言います。
ところが、日本人兵士には『戦陣訓』というものが叩き込まれていたのです。
それは、東条英機陸軍大臣による教えで、
「生きて虜囚の辱を受けず、死して剤禍の汚名を残すこと勿れ」
つまり、捕らわれの身になるくらいなら、自ら死を選びなさいということです。
今では到底考えられませんが、戦地で追い詰められ、自決した方々の数の多さを思えば、嫌でもそうせざるを得ない時代だったのでしょう。
そんなカウラの捕虜収容所で、1944年8月5日、なんと1104人の捕虜たちが、集団脱走を図ります。
“死ねなかった”日本人兵士たちが、撃たれて“死ぬため”の脱走でもあったのです。
これをカウラ事件と呼び、今でも日豪で当時の日本人捕虜たちの心の研究もされているよう。
映画では、戦中をカウラで生き延びた人たちの記憶をさかのぼります。
また、現代を生きる若者たちが架け橋となって、生存者と犠牲者、日本とオーストラリア、戦時中と今を繋ぎます。
かの戦争について、ボクらは知らないことが、まだまだたくさんあるんだということを痛感させられます。★3つ。
「カウラは忘れない」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.7.29
『アウシュヴィッツ・レポート』★★★
『名もなき歌』★★★
『パンケーキを毒見する』★★★★
『返校 言葉が消えた日』★★★
『都会(まち)のトム&ソーヤ』★★★
『屋敷女 ノーカット完全版』★★★
(満点は★★★★★)


今週も多いですョ。
早速いきましょう。
さ、今週は6本です!

『アウシュヴィッツ・レポート』は、実話を基にした物語。

1944年4月、アウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所。
ある収容棟の前には、寒空の下、長時間立たされている囚人たちの姿がありました。
ここはスロバキア系ユダヤ人の収容棟。
そこから、アルフレートとヴァルターという2人の若い囚人が忽然と姿を消したのです。
全体責任としての責めを受けている囚人たち。
実は、アルフレートとヴァルターは、この非人間的行為を伝えるために脱走を企てていたのです。
奇跡的に脱走に成功したふたりは、赤十字職員にナチスの非道を伝えますが、まさかと信じてもらえません。
するとふたりは、収容所のレイアウトやガス室のこと、毎日たくさんの命が奪われている内情を、こと細かに記した32ページにも渡るレポートを完成させるのでした…。

事実ですから。言葉を失いますよね…。
このレポートは、「ヴルバ=ヴェツラー・レポート」、通称アウシュヴィッツ・レポートと呼ばれ、あまりの説得力に連合軍が動き、12万人以上のハンガリー系ユダヤ人の収容所への強制移送を防いだと言われています。
スロバキア、チェコ、ドイツの合作映画。
以前から言ってますが、海外の映画には、自分たちの過去の過ちに真正面から向き合ったものが多く、「二度と起こしてはいけない」という“負の目盛り”にきちんとマーキングをしています。
東京オリンピックの開会式問題でも話題になった“ホロコースト”。取り上げた作品は、本当にたくさんあります。
これもそんな1本です。
我々日本人も、観て、知っておく必要があるはずです。★3つ。
「アウシュヴィッツ・レポート」公式サイト


『名もなき歌』は、ペルー映画。

1988年の南米ペルー。
先住民女性のヘオルヒナは20歳。お腹の中には、子どもがいました。
有権者番号を持たず、働いてもわずかな収入しか手に出来ない若い夫婦にとって、出産費用は悩みの種。
すると、ラジオから、妊婦に無償で医療を提供するという財団のコマーシャルが流れてきました。
首都リマにある小さなクリニックに足を運ぶヘオルヒナ。何度か検診に訪れ、無事女児を出産。
ところがです。ヘオルヒナは、一度も我が子を手に出来ないまま、クリニックから閉め出されてしまったのです。
警察に訴えても、相手にしてもらえず、新聞社に訴えたヘオルヒナの話を聞いてくれたのは、記者のペドロでした。
どうやら、国際的な乳児売買の組織があるという事実までは突き止めたのですが…。

実際にあった事件を基に作られた映画だそう。
政情不安、貧困と格差、人身売買、民族差別など、当時のペルーの社会問題を描いていますが、資料には、“今の時代においても何ら変わっていない”とあります。
ペルー出身の女性監督、メリーナ・レオン監督の長編デビュー作。
モノクロで作られ、彫りの深いペルー女性の顔の陰影に、我が子を奪われた母の悲哀が、より一層表れているように感じました。
母国の“素顔”を描いた問題作は、世界各国で評価されています。★3つ。
「名もなき歌」公式サイト


『パンケーキを毒見する』は、ドキュメンタリーの政治バラエティー。

2020年9月16日に成立した管義偉内閣。第九十九代の日本国総理大臣です。
お酒はいっさい飲まず、好きな食べ物はパンケーキ。
総理に就任直後、各界代表らと、朝の食事会を積極的に行い、情報収集の際にも食したとされるパンケーキをタイトルに冠しました。
政治バラエティーとあるのは、ブラックユーモアたっぷりに、アニメや寸劇を交えて、管内閣の政治や人物を皮肉っているから。
「プロパガンダ(思想誘導)だ」と言う人もいるかもしれませんが、「お堅いことを言わずに楽しんでみては?」という感じですかね。
TVや新聞の報道も、“切り取り”や、一方通行的な演出があったりと、多角的に見せてはくれない側面もあります。
裏から、斜めから、自身で見て、感じて、考えて。
「あまり政治に興味はないんだよね…」という人にとっては、導入部になるかもしれません。
ご本人を知りませんが、映画に登場する村上誠一郎代議士は、ちょっといいなぁと感じてしまいました。でも、語るにはここから深堀りしないとですね。
管総理はインターネット番組で、「ガースーです」と自己紹介して叩かれ…。たぶん、身近に感じてもらいたかったんでしょう。国民と気さくに接しようとして非難を浴び、「じゃ、どうしろっていうんだっ」ってとこじゃないですか?
FM NACK5の森田健作さんの番組に異例のゲスト出演したのを聴きましたが、ラジオって人が出ます。やっぱり口下手の、“表”が苦手な人なんだろうなと感じました。
天が二物も三物も与えないと、真の頂点には立てないのかなぁ。
面白い映画ですョ。是非、ご覧になってみて下さい。★4つ。
「パンケーキを毒見する」公式サイト


『返校 言葉が消えた日』は、台湾映画。

1962年、蒋介石率いる国民党による、独裁政権下の台湾。
翠華高校に通う女子高生のファン・レイシンは、気付けば放課後の教室の中。しかし、そこはいつもの学校とは違い、人の気配がありません。
不安げに校内をさまよい歩くファンは、彼女に恋心を抱く男子学生のウェイ・ジョンティンと遭遇します。
実はウェイ、一部の先生や校友たちと、自由な言葉が綴られた発禁本を読む、読書会のメンバーでした。
しかし、政府の弾圧は身近な日常にまで及んでおり、読書会の活動も危ういものになっていたのです。
そんな中、ふたりは変わり果ててしまった学校内の扉を、ひとつひとつ開けていくのですが…。

この映画、なんと大ヒットしたホラー・ゲームが原作なんです。
独裁政権が、反体制派に対し、弾圧を行うため、国民の相互監視と密告が横行していた時代。多くの人が処刑され、誰もが疑心暗鬼になっていった台湾。
そんな台湾人にとっての負の歴史を、忘れてはならないと作られたゲームだそうです。
映画にはホラーの要素もありますが、ゲームを知らないボクらでも理解出来るストーリー。
我々日本人も、赤紙一枚で、お国のためにと、命を捨てなくてはならない時代があったのですから。
今の当たり前の自由が、当たり前でなかった時代があったことを、念に記す必要があるということだと思います。★3つ。
「返校 言葉が消えた日」公式サイト


『都会(まち)のトム&ソーヤ』は、人気児童小説シリーズの実写映画化。

際和井中学校2年5組に転校してきた、内藤内人。
実は、内人は以前この街に住んでいて、幼なじみで淡い恋心を抱いていた堀越美晴が同じクラスにいました。
しかし、堀越さんは、クラスメートで大企業・竜王グループ御曹司の竜王創也に首ったけ。
創也とも仲良くなった内人は、創也から世界一のゲーム・クリエーターになりたいという夢を聞かされるんですね。
そんな時、世界的なゲーム・クリエイティブ集団“栗井栄太”が、街中を舞台にロール・プレイング・ゲームを仕掛けたことを発表します。
〈エリアZ〉という、このゲームに参加する創也が、迷わず相棒に選んだのは内人。
すべてが“平均値”という自己評価の内人ですが、内人には自身も気付いていない、究極のサバイバル能力があったのです…。

原作は、シリーズ累計200万部を超える、はやみねかおるの同名人気児童小説シリーズ。
これだけ売れる本には、間違いなく振れ幅があります。つまり、大人層にも支持されているはずで、ざっくりとしたイメージとしては『ハリー・ポッター』の日本版?
魔法は使いませんが、学校の子どもたちが、勇気と友情を持って難題に立ち向かっていくという点は共通ですかね。
映画自体も『ハリー・ポッター』の1作目に似て、本の世界観を、まずは実写化してみましたという感じ。
たぶん、継続していけば、さらに中身の濃いものになるんじゃないかなという気がしています。
いろんな意味で、夏休みの匂いがする1本です(笑)。★3つ。
「都会(まち)のトム&ソーヤ」公式サイト


『屋敷女 ノーカット完全版』は、2007年に公開されたフレンチ・ホラーの“ノーカット完全版”。

4ヶ月前の交通事故で夫を亡くしたサラ。
事故当時、彼女も車に同乗していたのですが、お腹の子どもと共に、命は助かります。
まもなく出産というクリスマス・イブの夜、ひとり家で過ごしていたサラの元を、見知らぬ女性が訪ねてきます。
電話を貸して欲しいというのですが、サラは「夫が寝ているから」と断るんですね。
すると女は、「嘘だ。夫は死んでいる」と言うではありませんか。
恐怖を覚えたサラは、警察に通報。
しかし、黒ずくめの女は、家の中に侵入していたのです…。

2007年に日本で公開になった時は、あまりに残虐なシーンに、大幅な修正とカットを余儀なくされたのですが、その問題作がノーカット完全版での公開となりました。
勤務先の上司であり、今は支えになっている男性が、サラの母が、捜査、パトロールに来た警察官が、恐怖のクリスマス・イブに巻き込まれていきます。
このオンライン試写、観る時間を間違えました。
「これを観たら、夕食にしよう」
うう〜っ。さすがに食欲は、どっかにいっちゃいました(笑)。
振り切れてます。覚悟して、ご覧になって下さい。★3つ。
「屋敷女 ノーカット完全版」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.7.20
『犬部!』★★★★★
『ココ・シャネル 時代と闘った女』★★★
『サイダーのように言葉が湧き上がる』★★★★
『最後にして最初の人類』★★★
『親愛なる君へ』★★★
『復讐者たち』★★★
『夕霧花園』★★★★
(満点は★★★★★)


字数に制限のあるガラ携で打つ文章。今週は本数が多いので、足らなくなる危険性も(笑)。早速いきましょう。
さ、今週は7本です!

『犬部!』は、ボクの中高同級生、篠原哲雄監督最新作。

獣医を目指し、獣医大学に通う、花井颯太。
彼のアパートは保護動物でいっぱいです。
それどころか、ひとつの命も奪いたくないと、保健所から送られてくる犬を使った外科実習もボイコット。
犬も、猫も、命あるものはみんな助けると、仲間と共に“犬部”を立ち上げます。
颯太と同じように、犬が大好きな同級生の柴崎涼介も“犬部”に入るんですね。
大学卒業後、颯太は動物病院へ、涼介は動物愛護センターへと就職します。
“犬部”の創設から16年、颯太が逮捕されたというニュースが流れます。
心配なった昔の仲間が、久々に集まったのですが、そこに涼介の姿だけがなかったのです…。

実話に基づく小説を原案に、映画化された作品。
北里大学獣医学部に通っていた、太田快作さんという獣医師が、実際に“犬部”を立ち上げたそうです。
映画では、颯太と涼介の、命に対する思いは一緒でも、やり方、方法論が違う。
それぞれが、悩んで、壁にぶつかりながらも頑張る様を、対照的に描いています。
篠原監督は、「スイートメモリーになりがちな動物ものの映画とは、一線を画したかった」と。
また、動物たちが見事な演技を見せていることについては、「動物プロの人が現場で懸命にやってくれていたけど、役者がそれぞれの犬や猫と、ちゃんと関わってくれたのが一番大きい。
そして、犬たちが自分らの役割をそれなりに察して動いてくれたことかなぁ」と、メールで教えてくれました。
颯太に林遣都、涼介に中川大志。
動物愛護と、青春モノの、バランスのいい映画に仕上がっていると思います。
ワンちゃんたちの演技にもご注目下さい!満点!★5つ。
「犬部!」公式サイト


『ココ・シャネル 時代と闘った女』は、ドキュメンタリー。

1883年生まれのガブリエル・シャネル。
母の病死、父の失踪で孤児となった彼女は、とにかく這い上がってやろうという気持ちで都会に出て来ます。
ココというのは、ムーランにあった二流のミュージックホールに出演していた頃に付いた、ニックネーム。
そんな中、最初に知り合った男性は、裕福な将校のエティエンヌ・バルサン。
交友関係も広く、乗馬をたしなみ、華やかな生活を送るバルサンの愛人になったココは、自らも馬に跨がり、競馬場に集まった女優や貴婦人のために、自らが手を加えた帽子を販売。好評を得ます。
次に仲が深くなった男性が、ココにパリ行きを勧めると、これぞ千載一遇のチャンスと、パリで事業を始めたのです。これが大成功。
まだ、女性が活躍することの無かった時代。有名な政治家や、王侯貴族など、数々の男性遍歴を経て、第二次世界大戦前には一大モード帝国を築き上げていた、ココ・シャネル。
気性は荒く、時に嘘もつく。それでも、彼女は確かに頂点に立ったのです。
しかし、「退屈が怖い」と、生涯闘い続けたココ・シャネルに、本当の意味での幸せはあったのでしょうか?
幸せとは、自分の人生の物差しにしっかりと“0”の基準を刻めた人だけが感じられるのではないかと、この映画を観て改めて思いました。
あなたは何を感じるでしょうか。★3つ。
「ココ・シャネル 時代と闘った女」公式サイト


『サイダーのように言葉が湧き上がる』は、アニメ映画。

ショッピングモールぐらいしか住民にとっての娯楽施設がない、地方の街。
そこで暮らす17歳の少年チェリーは、人とのコミュニケーションが苦手。着けていれば話しかけられないからと、いつも音楽の流れないヘッドホンをしていました。
一方、同じ街に暮らし、動画配信で人気の少女スマイルも、マスクが外せません。
なぜなら、歯並びを気にして矯正中。口元にコンプレックスを抱いてたから。
そんなふたりがショッピングモールで、アクシデントと共に出会うんですね。
俳句にすれば、気持ちを伝えることが出来るチェリー。
ふたりはSNSを通じて、仲を深めていきます。
チェリーの母が勤めるデイサービスに、アルバイトで入ったスマイル。
そこに通うフジヤマというおじいちゃんは、いつも中身のないレコードジャケットを抱えていました。
聞けば、大切な思い出のレコードらしいのです。
チェリーとスマイルは、仲間の手も借りながら、フジヤマさんのレコード探しを始めます。
その過程で、急速に接近するチェリーとスマイル。
しかし、チェリーには、スマイルにどうしても言い出せない秘密があったのです…。

個性的なアニメーション。
ボクらの世代で言うと、山下達郎『FOR YOU』のアルバムジャケットが動いているような、そんなタッチが逆に新鮮に感じました。
そのポップさが、夏なんですよねぇ。
ボクにもあったティーンの時代(笑)。今ならもっとあざとく恋愛も出来たろうにと、ピュアだった当時を思い返したりもします。
劇中のツールはSNSがメイン。もちろん昔とは違いますが、それでも手書きの俳句とか、アナログのレコード盤とか、懐かしの“小道具”たちが、いい味付けをしてくれています。
甘酸っぱい青春、夏の恋物語は、普遍的なものですから。いくつになっても、こういう映画でキュンと出来るのは、幸せだと思いませんか?★4つ。
「サイダーのように言葉が湧き上がる」公式サイト


『最後にして最初の人類』は、作曲家ヨハン・ヨハンソンの最初で最後の長編監督作。

20億年先の人類から、届いたメッセージ。
そこには、「今、人類は滅亡の危機にある」とありました。
さらに、生き延びるために変化した体の解説や、住んでいる星、置かれている状況についての説明などもあったのです。
20億年先の未来が、我々に語りかける本意とは、いったい何なのでしょうか…。

ヨハン・ヨハンソンは、アイスランド出身の音楽家。48歳の若さでこの世を去った“天才”で、数多くの映画音楽も手掛けてきました。
そんな彼の最初で最後の監督作品が、この映画です。
原作は同名タイトルのSF小説。
旧ユーゴスラビアにある巨大戦争記念碑“スポメニック”の建造物を映し、彼の音楽を乗せ、遠く未来からのメッセージは、アカデミー賞女優のティルダ・スウィントンが詩を詠むかのように語りかけるという。
数多ある幾何学的な碑を様々な角度から捉えて、モノクロで加工。
不思議な映像美は、確かに地球のものとは思えない感覚で、ボクらの目に飛び込んできます。
実に個性的な1本。大きなスクリーンで観ることをお勧めします。★3つ。
「最後にして最初の人類」公式サイト


『親愛なる君へ』は、台湾映画。

祖母シウユーと、まだ幼い孫のヨウユーが暮らす家に、間借り人として同居しているジエンイー。
ジエンイーは、体調の優れないシウユーの面倒を見ながら、ヨウユーに対しても父親のように接しています。
実はジエンイーは、シウユーの息子で、ヨウユーの実の父であるリーウェイの同性パートナーだったのです。
しかし、リーウェイは死去。ジエンイーが家族を守ると誓っていたんですね。
ところが、シウユーが亡くなってしまいます。
家の所有権はヨウユーに。ジエンイーとヨウユーが養子縁組をしたこと、シウユーの死因に不可解な点があったことから、財産狙いではないかと、リーウェイの弟リーガンが警察に訴えます。
収監されるジエンイー。
果たして、真実はどこにあるのでしょうか…。

同性パートナーの家族について描こうとしたと、チェン・ヨウジエ監督。
すると、登場人物のそれぞれに、複雑な思いや立場が浮かび上がってきたと言います。
家族愛の物語から、謎解きミステリーへ。作品の幅も、いい意味で膨らんだのではないでしょうか。
性別とは、家族とは、血の繋がりとは何か。考えさせられる1本かと思います。★3つ。
「親愛なる君へ」公式サイト


『復讐者たち』は、史実に基づく物語。

第二次世界大戦中に、ナチス・ドイツが行ったホロコースト。600万人ものユダヤ人が命を奪われました。
終戦後、なんとか生き延びたマックスは、収容所で離れ離れになった妻子が、ナチスに殺されたことを知り、復讐の念を燃やします。
難民キャンプで、ナチスの残党を密かに処刑しているユダヤ旅団のミハイルと知り合い、行動を共にすることになったマックスは、さらに過激な組織ナカムと出会います。
ユダヤ旅団ですら危険視するナカム。ミハイルに情報提供するためにと、ナカムに潜入したマックスは、“プランA”という計画が進められていることを知るんですね。
これは600万人のドイツ人を狙った、恐るべき復讐のためのシナリオだったのです…。

描かれる憎しみの連鎖。
マックスはユダヤ旅団のスパイとして、ナカムに潜入するのですが、果たして彼の本心はどっちだったのか?
プランAを実行して、愛する妻子の復讐を遂げたかったのか、それとも…。
この作品は、ドイツとイスラエルの合作映画です。
両国が、両国民が、こうして芸術で手を繋げる今を見ると、戦争というものが、いかに狂気であるのかがわかりますよね。
自国民だけでなく、世界中の人が、こういう映画を通して、平和の尊さを知るべきだと感じました。★3つ。
「復讐者たち」公式サイト


『夕霧花園』は、マレーシア映画。

第二次世界大戦中のマレーシア。当時はイギリスの植民地でしたが、日本軍が侵攻。ユンリンとユンホンの姉妹は、日本軍により強制労働へ。
慰安婦にされた妹ユンホンの夢は、日本庭園を作ること。どんなにつらい境遇にあっても、その夢を語る時だけは笑顔だったのです。
日本の敗戦が決まり、あろうことか、日本軍は現地人捕虜と共に収容所を焼き払います。
ユンリンは逃げ出せたものの、ユンホンは犠牲になってしまうんですね。
終戦後の1950年代。妹を見殺しにしたことを悔やみ続けるユンリンは、妹の夢だった日本庭園を造ろうと決意。知人を通じ、庭師として活躍する中村有朋に弟子入りします。
憎むべき日本人の元で、複雑な思いを抱えながら教えを乞うユンリン。
しかし、孤独を抱え、どこか謎めいた中村に、ユンリンは徐々に惹かれていくのでした…。

実は、中村は山下財宝なるものの秘密を知るスパイだったのではないかとの疑義がかけられていて、後に女性としては2人目の裁判官となるユンリンが、彼の潔白を証明しようと、中村との愛の日々を過ごしたキャメロンハイランドに戻ってくるところから、戦中、戦後の回顧が進むという構成になっています。
中村を演じるのは、阿部寛。
アジア映画らしい、独特のタッチの中、雰囲気だけで見せるのではなく、「親愛なる君へ」公式サイトストーリーに起伏があり、最後もきちんと着地しているのが心地良かったです。 見応え十分です!★4つ。
「夕霧花園」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.7.14
『少年の君』★★★★★
『SEOBOK ソボク』★★★
(満点は★★★★★)


緊急事態宣言下の映画館は、観客を減らしての時短要請だそうです。
前回の制限よりマシといえば、マシなんでしょうけどね…。
さ、今週は2本です!

『少年の君』は、中国・香港映画。

高校3年生のチェン・ニェン。
進学校の中でも成績優秀な彼女でしたが、全国統一大学入試を目前に、クラスメートがいじめを苦に、学校で飛び降り自殺をしてしまいます。
好奇の目とスマホのシャッター音。
耐えられなくなったチェン・ニェンは、自殺したクラスメートの遺体に駆け寄り、衣服を掛けてあげたのです。
しかし、この行為が仇となり、いじめグループの標的はチェン・ニェンへと移るんですね。
母はインチキ化粧品の販売で負債を抱え、家を空けることがほとんど。家には借金取りが押し寄せてきます。
学校からの帰り道、集団リンチを目撃したチェン・ニェンは警察に通報。それをきっかけに、襲われていた不良少年のシャオベイと関わりを持つようになります。
母親から捨てられ、学校へも行かず、橋の下で暮らすシャオベイ。
対照的でありながら、孤独という共通点を持つ10代のふたり。時間が経つに連れ、互いが大きな存在になっていることに気付くのですが…。

一気に見入ってしまいました。
この映画の原作に関しては、いろいろな評判や噂がありますが、それはさておき、映画としては素晴らしい作品だと思います。
目にするはずのポスターから受けるイメージとはちょっと違うかなと、個人的には感じていますが、先入観抜きで観て欲しい1本です。
Bunkamuraル・シネマで上映される映画は、やっぱりいいものが多いなと。これもまた個人的な感想ですが(笑)。
現代社会の闇を描きながら、普遍的な青春ドラマの要素もたっぷりと。満点!★5つ。
「少年の君」公式サイト


『SEOBOK ソボク』は、韓国のSFサスペンス・アクション。

巨額の資本を持つ、ソイン・グループ。
その組織の中のひとつ、ソイン研究所が極秘で作ったのが、人類初のクローン人間でした。
ソボクと名付けられたその“作品”は、細胞分裂を抑制する薬を打ち続ければ死ぬことのない、永遠の命の持ち主。
この実験が、国に及ぼす危機感を感じていた韓国情報局のアン部長は、ソボクの抹殺を画策。元情報局員のギホンに、ソボクを無事送り届けるよう、護衛を依頼します。
初めは断るギホンでしたが、実は不治の病に冒されていて、ソボクの細胞で命が助かるからと、交換条件を提示されていたのです。
生きるために仕事を引き受けるギホン。
そばにいることで、ソボクの苦悩と悲しみも徐々にわかり、ふたりの心が通い始めるのですが…。

ソボクは、見た目には人間そのもの。ただ、研究所内でしか生きて来なかったため、世間をまったく知りません。
そんなソボクを手中に収めたい、多くの組織から身を守らなくてはならなくなったソボクとギホン。
永遠の命を持つソボクと、余命宣告を受けたギホン。
まさに正反対のふたりの心と行動が、生きるとは何か、死とは何かについて考えさせてくれます。 死ぬ恐怖と、死ねない恐怖。
確かに死は怖いけど、人生には、限りがあるから美しいのかもしれませんね。★3つ。
「SEOBOK ソボク」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.7.8
『ベルヴィル・ランデブー』★★★★
『ライトハウス』★★★
(満点は★★★★★)


首都圏のコロナ新規感染者数が減りません。東京は、4回目の緊急事態宣言の発出だとか。
劇場への締め付けが厳しくならないことを切に祈ります。
さ、今週は2本です!

『ベルヴィル・ランデブー』は、2002年のフランス・アニメ。

両親を亡くし、おばあちゃんのマダム・スーザと2人っきりで暮らす、内気な少年シャンピオン。
孫をなんとか元気づけようと、おばあちゃんはシャンピオンに、子犬のブルーノと、三輪車をプレゼントするんですね。
すると、シャンピオンは自転車に夢中。明るい笑顔が戻ります。
時は流れ、犬のブルーノも大きくなりました。
シャンピオンはというと、ツール・ド・フランスを目指す自転車レーサーに。
監督、トレーナーは、おばあちゃん。
そして迎えたレースの日、3人の選手がマフィアに誘拐されてしまいます。なんと、その中のひとりがシャンピオンだったんですね。
おばあちゃんとブルーノは、シャンピオンを助け出そうと、連れて行かれたと見られる、大都市ベルヴィルへと乗り込むのでした…。

今から20年前のアニメーション。
ですが、ちっとも古くさくはありません。
例えるなら、ワインが熟成して、さらに味わい深くなった感じでしょうか。
シャンピオンの捜索には、ベルヴィルの伝説のシンガーだった、三つ子の老姉妹にも助けられます。
ボクらが憧れる、お洒落なフランスのいい面が、アニメーションのテイストにはもちろん、軽快な音楽にも表れていて、03年のアカデミー賞では、フランス映画として初の長編アニメーション部門(映画賞、歌曲賞)にノミネート。
世界的に評価が高いのも納得です。
個性たっぷりのフレンチ・アニメ。満喫してみて下さい。★4つ。
「ベルヴィル・ランデブー」公式サイト


『ライトハウス』は、A24制作の全編モノクロ映画。

1890年代。ニューイングランドにある、絶海の孤島にやってきた、ふたりの灯台守。
ひとりは元船乗りで、ベテランのトーマス・ウェイク。もうひとりはカナダの木こりから転職した、新人のイーフレイム・ヴィンズロー。
このコンビで、4週間の任務にあたるのですが、トーマスは何かとイーフレイムにきつくあたります。
特に、灯台のてっぺんにある灯りの部分には、イーフレイムを絶対に入らせなかったのです。
時が経つに連れ、互いの苛立ちは募るばかり。衝突し、殴り合いにまで発展することも。
そうこうしながら4週間が過ぎ、ようやく島を離れられるとなった時、嵐による悪天候で、船が迎えに来られなくなってしまいます。
酒も食料も底を尽き、ふたりの灯台守は、心身共に極限状態にあったのです…。

ちなみにタイトルの『ライトハウス』とは“LIGHTHOUSE”、灯台のことです。恥ずかしながら、ボクはこの英語を知りませんでした(笑)。
『ムーンライト』や『WAVES』の独特の色づかい、『ミッドサマー』の想像を超えた狂気など、独自の映画を提供するA24。
この作品は、ほぼ全編をウィレム・デフォーとロバート・パティンソン、ふたりの俳優のやりとりが占め、モノクロにすることで“絶海”“極限”“絶望”の表現を増幅させた、A24らしいものになっています。
わずか8スクリーンから、興行収入1000万ドル以上の大ヒットを記録したという話題作でもあります。
ウィレム・デフォーの顔のしわと歯並びの悪さが、モノクロにすることでより一層無気味さが増し、灯台の灯り部分の接写が、まるで宗教の御神体のような神々しさを放つあたり、視覚的な見せ方が上手いなぁと改めて。
A24マニアは必見です。★3つ。
「ライトハウス」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.6.30
『ロックダウン・ホテル 死・霊・感・染』★★★
(満点は★★★★★)


先日も書いた“ファスト映画”。
その目的が、映画を推奨するのではなく、広告フィーを稼ぐためというのが許せませんよね。
他人の店から無断で盗んだものを売るのと同じ、卑劣な行為。逮捕者が出たことで、無くなるといいなと思います。
さ、今週は1本です!

『ロックダウン・ホテル 死・霊・感・染』は、カナダのパンデミック・ホラー。

ナオミは、臨月間近の日本人女性。
新たな人生をスタートさせようと、カナダで生きることを決意。大きなお腹を抱えながら、そのホテルに宿をとります。
同じ時、幼い娘ひとりを連れた夫婦も、このホテルにチェックイン。
到着時、些細なトラブルがあった両者は、互いに謝罪の言葉を交わし、それぞれの部屋へと入ります。
実はこの夫婦、夫のDVに悩んでいて、妻はある決意を胸に秘めていたのです。
一方のナオミも、日本の母へ電話をし、生まれてくる子どもとカナダで生活することを伝えるんですね。
TVのニュースは、謎の殺人ウイルスの蔓延を報じていました。
すると、ナオミの体に異変が起きます。
扉を開けて外に出ると、廊下は苦しむ人で溢れかえり、フロアは既に地獄と化していたのです…。

まだコロナウイルスが蔓延する前の、2019年1月にカナダのモントリオールで撮影されたことから、予知映画として一部で話題になっているとか、いないとか。
ナオミには、釈由美子が扮しています。
古い話は本人が嫌がるかもしれませんが、釈ちゃんとは、昔々仲良しでして。
01年の初主演映画『修羅雪姫』を観た時、確かな演技力に感動したのを覚えています。
あれから20年。今回も壮絶な役どころを、見事にこなしています。
作品自体には、突っ込みどころが満載ですが(笑)、彼女の熱演に★を1つプレゼントしたいと思います。★3つ。
「ロックダウン・ホテル 死・霊・感・染」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.6.25
『愛について語るときにイケダの語ること』★★★★
『王の願い ハングルの始まり』★★★
『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』★★★★
『Bittersand』★★★
(満点は★★★★★)


緊急事態宣言から、まん延防止等重点措置へ。
以前から言っているように、映画館でのクラスターはほとんどと言っていいほど発生しておらず、人流を抑えるための施策に協力する形で、要請に応えてきたわけです。
政策の矛盾をあちこちで感じる世の中ですが、ボクらは、自分たちでしっかりと対策をし、まさに“安心、安全な”映画館で、胸を張って素晴らしい映画を楽しみたいですよねっ。
さ、今週は4本です!

『愛について語るときにイケダの語ること』は、ドキュメンタリー。

1974年生まれの池田英彦。
相模原市役所に勤める彼は、四肢軟骨無形成症(通称コビト症)を持って生まれた、身長100cmの男性。
そんな彼が、38歳の時、スキルス性胃ガンのステージ4であると告げられるんですね。
死を意識した彼が「やり残したことがないように」と始めたのは、自らの性交渉をカメラに収める“ハメ撮り”でした。
生きていた証しとして、映画にして遺したい。
そう考えた池田は、親友で、ドラマ『相棒』などで人気の脚本家・真野勝成に映像を依頼します。
それから2年間、60時間分の、虚と実のフィルムは、次に映画監督・佐々木誠に委ねられ、58分の作品となりました。
真野勝成は、「エンディングはイケダの死と決まっていた」と言います。
2015年10月、42歳の若さで、池田英彦はこの世を去ります。
そして約束通り、この映画が劇場公開に至ったということなんですね。
池田さんは、メチャメチャお洒落で、自身の境遇を負に捉えていない(ように見える?)ところが、またお洒落。闘病シーンも含め、決して暗いトーンにはなっていないのです。
そこは真野さんと佐々木監督の手腕なんでしょうね。
“虚”というのは、女優さんを使って、理想のデートなる芝居を撮ってるのですが、“虚”を演じる“実”とでもいうのでしょうか。これもまたドキュメンタリー。
★を付けると、その人の人生を評価していると思われちゃうのが嫌だけど、そうじゃなくて、娯楽としての映画の評価です。
そこに、池田さんの生き様に★を1つ贈る形で(^-^) ご冥福をお祈りします。★4つ。
「愛について語るときにイケダの語ること」公式サイト


『王の願い ハングルの始まり』は、韓国映画。

朝鮮に自国語を書き表す文字がなかった時代。
第4代国王の世宗は、庶民も学べる、独自の言語と文字を作りたいと願っていました。
しかし、それは隣りの大国、中国への敵対行為ともとられること。
臣下として力を持っていた、儒学者たちは猛反対。なぜなら、王が頼ろうとしていたのは、各国の文字に詳しい僧侶たちだったから。
儒教と仏教の対立には激しいものがあり、僧侶は身分の低いものとされていたのです。
世宗王が望むのは、すべての国民に知識を分け与えたいという願い。
しかし、病魔が世宗王を襲ったのです…。

ハングルが出来るまでを描いた物語。
名君・世宗大王の偉業の数々は知っていても、そこにあったであろう、苦心や葛藤を知る人は少ないはずと、王の人となりや苦労にスポットをあてた作品。
自国・韓国の人が見ると、母国語の誕生秘話ですから、より一層心に届くのだと思います。
いつの世も、どこの国でも、変革には高い壁と困難が待ち構えているもの。それをぶち破る最大の力は、やはり人の真っすぐな熱意なんだなというのを感じます。★3つ。
「王の願い ハングルの始まり」公式サイト


『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』は、日本とサウジアラビアの合作アニメ。

古代アラビア半島屈指の貿易都市、メッカを侵略しようとやってきたのは、勢力を拡大し続けるアブラハの軍隊。
戦うことを望まず、平和的に解決しようとしていたメッカの民に対し、アブラハが突きつけたのは、「カアバの神殿と聖なる石を破壊し、信仰を捨て奴隷になれ」という、とても呑めない条件でした。
屈辱と戦うことを決意したメッカの人々の中から、志願兵が集められます。
その中のひとり、青年アウスは、かつて盗みに入った家の主人ジュバイルに身も心も救われ、娘のヒンドと結婚。子も授かっていたのです。
大切なものを守るため、アウスは強大な敵に、立ち向かうのでした…。

日本の東映アニメーションと、サウジアラビアのアニメ制作会社マンガプロダクションズが手を組んで作った、初の合作長編劇場アニメ。
マンガプロダクションズ!いい名前ですよね。
アニメーションのクオリティを語るほどの知識を、ボクは持たないのですが、映像もディテールも美しく、素晴らしいものだと感じました。
日本人がよく知るところの“奇跡”である、“十戒”や“ノアの箱船”などのエピソードを織り交ぜ、日本とサウジアラビアの文化交流の架け橋になるような作品に仕上がっているなと。
技術面や仕事量、どちらの比率が高いのかは定かではありませんが、特に日本語吹き替え版の声優陣は豪華!コアなアニメファンでも楽しめると思いますョ。★4つ。
「ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語」公式サイト


『Bittersand』は、若手俳優たちによる青春ムービー。

吉原暁人は25歳のサラリーマン。
夜の街でチンピラに絡まれ、財布を盗られそうになったのですが、それを更に横取りした女がいました。
あとを追う暁人。チンピラも2人を追いかけます。
恋人同士を装い、ラブホテルに逃げ込んでわかったこと。なんと、その女は暁人の高校時代の同級生で、淡い恋心を抱いていた絵莉子だったのです。
しかし、この偶然の出来事は、“懐かしの再会”という訳にはいかなかったのです。
彼らのクラス、3年1組には“黒板事件”という、クラスを分断する事件があり、そこで誹謗中傷されたのは絵莉子。黒板にそれを書いたのは、暁人だと噂されていたから。
記憶の中では止まっていた時間を、7年前にさかのぼって解決しようと、暁人は努めるのですが…。

映画後半では、暁人の高校時代からの友人で、映画監督を目指す井葉の力も借り、久々に開かれる同窓会の席で、7年前の謎解きが繰り広げられます。
俳優陣のみならず、監督も若手の杉岡知哉監督。これが初の長編映画となります。
高校時代を思い出そうとしても、本当に断片的にしか思い出せない年齢になりましたが(笑)、両極端に振れた出来事ぐらいしか、まず記憶にありません。
つまり、忘れたいほうの思い出も、こびり付くかのように残っていて。
それもまた青春だってことなんですよね…。★3つ。
「Bittersand」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.6.16
『息子のままで、女子になる』★★★★★
『ももいろそらを カラー版』★★★
『RUN ラン』★★★
(満点は★★★★★)


スマホを買ったとはいえ、まだ主はガラ携です。
タブレットは持っているのですが、対応するブラウザの関係で、これまで一部の試写を見ることが出来ませんでした。
ところが、スマホにしたら、それが一気に解決!
今はご案内頂く映画が、ほぼ鑑賞出来る状況になっています。ありがたい(^-^)
なるべく、たくさんの情報を発信出来ればと思っています。
さ、今週は3本です!


『息子のままで、女子になる』は、トランスジェンダー、サリー楓の半生を追ったドキュメンタリー。

1993年、京都生まれ、福岡育ちの、サリー楓。
大学で建築デザインを学び、ファッションモデルとしても活躍する一方で、LGBTQの講演会なども積極的に行っています。
体は男性として生まれたけれど、ずっと違和感を持ち続けていた楓は、大学卒業までの期間に、タイで行われる世界最大のトランスジェンダーによるビューティーコンテスト“ミス・インターナショナル・クイーン”に出場するため、日本代表の選考会に向けたレッスンを積むなど、女性として動き始めます。
そんな彼女の、今と、これまでを追ったドキュメンタリー作品です。
この映画には、実の父親も登場。映像を観て、親としての正直な心情をも吐露しています。
LGBTQに関しては、個人的には“複雑過ぎてわからない”というのが、正直なところです。
というのも、例えばカテゴリー別に分けられるようなものではなく、個々人によって状況はそれぞれに違うし、本人にしかわからない苦悩があるはずだからと思うんですね。
でも、その最大のヒントを、“ミス・インターナショナル・クイーン”の2009年グランプリを獲得し、日本代表選考会の司会を務めた、はるな愛が語ってくれています。
それは、選考会後の楓との対談で。
女性性にこだわりを持つ楓に、「女性になってどうするの?」と質問を投げかけます。
そして、「楓ちゃんは闘い過ぎてる」と。
“ミス・インターナショナル・クイーン”について、
「自分が自分として生きている人がグランプリを穫る。自分という無二の人間が、このステージに存在するっていう自信のコンテストなの」。
さらに続けます。 「トランスジェンダーの平均的なものの代表になろうとしてたら、自分じゃなくなってくると思うよ」。
表面上の浅い知識でものを言って、誤解されて叩かれるのはイヤだからと、逆にLGBTQのことには触れない人は多いはず。ボクもそんなひとりかもしれません。
でも、この愛ちゃんの言葉、特に“自分という無二の人間”という部分が、実はすべての答えなんじゃないかと思うんですよね。
自分が、自分らしく生きればいい。だって、二度とない自分の人生なんだから。
ただ、声を挙げている皆さんは、それにすら障壁があるからと、活動を続けているんでしょうね。
教科書、というより参考書かな。そんな意味でも、多くの人に観てもらえればとボクは感じました。
実は、愛ちゃんとは古い知り合いで。先日、文化放送のエレベーターでバッタリ!
ハスキーボイスで、「うわぁ〜、懐かしい〜」と言われました(^-^)
そんなわけで“ちゃん”付けですが(笑)、今回は、はるな愛ちゃんの言葉に満点!ふたりの対談は必見です。★5つ!
「息子のままで、女子になる」公式サイト


『ももいろそらを カラー版』は、2011年に公開されたモノクロ映画のカラー版。

ごくごく普通な毎日を過ごす、女子高生のいづみ。
彼女の趣味は、新聞の記事に点数を付けること。
そんないづみが、ある日、財布を拾います。中には、なんと30万円もの現金が。
交番に届けようとしたものの、お巡りさんは不在。
すると、いつもの釣り堀で、常連の印刷屋のおっちゃんとバッタリ。経営が苦しいとこぼすおっちゃんに、15万円を貸すことにします。もらった借用書は財布の中に。
その後、いづみが財布を拾ったことを、友達の蓮実と薫が知り、なぜか財布の主導権は蓮実が握ることに。
中のカード類から、落とし主は、地元の有力者の息子、佐藤光輝だとわかり、イケメンの光輝に蓮実は恋の予感。
財布を届けてもらったものの、中の金額が足りないことに気づいた光輝は、借用書からいづみを調べ、バイト先にやって来て、押し問答の末、こう言ったのです。
「入院中の恋人を喜ばせたいから、この街の明るいニュースばかりを載せた新聞を作らないか。そうすれば、15万円は、なかったことにしてやる」。
蓮実と薫はやる気満々。女子高生たちによる新聞作りが始まったのですが…。

10年前の作品は、完全にモノクロ。そこに色を付けたリメイク版です。
ドラマのような出来事が望めない女子高生の日常に、降って沸いたアイテム“30万円入りの財布”。加えて、落とし主はイケメン男子。
クールなつぐみ、自己中キャラの蓮実、陰のありそうな薫と、3人3様のキャラクターが繰り広げる、青春ストーリー。
光輝にも、実はいろいろあるわけで。
女の子の友情って、昔も今も、不思議なものがありますよね。ひとりが抜けると、急にその子の悪口が始まるみたいな(笑)。だから、いびつな友情に見えて、これがリアルなのかなぁと考えたり。
タイトルの意味は最後にわかります。10年前の作品を観た人は、きっとカラーで観たかったんじゃないかなと。
オリジナルをモノクロにしたのが、監督の10年越しの壮大な仕掛けだとしたら、それはそれですごいなと思いますが、真相やいかに?★3つ。
「ももいろそらを カラー版」公式サイト


『RUN ラン』は、母と娘のサイコ・スリラー。

クロエは、喘息、不整脈、筋肉機能不全による下半身麻痺など、多くの障がいを持って生まれてきた女の子。
17歳の今も、車椅子で生活をしています。
それでも、クロエは希望でいっぱい。なぜなら、大学に進学し、初めての寮生活を夢見ていたから。
そんな彼女を献身的に支えてきたのが、母のダイアンでした。
ある日のこと、母が何気なく置いた買い物袋の中から、クロエはトリゴキシンと書かれた緑色の新薬を発見します。
なぜか母ダイアンの名義で処方された薬。
違和感を覚えたクロエは、インターネットで調べようとしたのですが、回線は切断されていて、つながりません。
あちこちに電話で尋ねてわかったこと。それはトリゴキシンが心疾患の薬だということ。しかし、カプセルの色は、緑ではなく、赤だと言うのです。
母への疑いが日に日に強まり、クロエは母を映画に誘うんですね。
そして、トイレに行くふりをして、近くにある薬局へ。
そこで知った、驚愕の事実。なんと緑色のカプセルの中身は、決して人間が飲んではいけない、動物用の薬だったのです…。

母と娘。たったふたりの日常生活。
なんとなく、途中から、そうなんだろうなというのが想像でき、その想像通りの展開になっても、さぁ、そこからどうする、どうなるというのに、ドキドキする映画です。
歪んだ母の愛。
あんまり言うと、ネタバレになるから言わないけど(笑)、ラストも上手いところに着地してますョ。
コロナのアメリカではHuluで配信リリースされ、最初の週末の視聴者数で最高記録を作ったそうです。
TVドラマの要素が強い1本。大スクリーンではどう映るのか、興味があります。★3つ。
「RUN ラン」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.6.10
『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』★★★★
『漁港の肉子ちゃん』★★★★
『クローブヒッチ・キラー』★★★
『ブラックバード 家族が家族であるうちに』★★★
『ブルーヘブンを君に』★★★
『ベル・エポックでもう一度』★★★★★
(満点は★★★★★)


今週は、いろんなジャンルの作品を、たくさんご紹介出来ます。 ガラ携は文字数に制限があるので(笑)、早速いきましょう。 さ、今週は6本です!

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』は、劇場版ガンダム・シリーズの最新作。

第二次ネオ・ジオン戦争(シャアの反乱)から12年。
U.C.0105―。地球連邦政府の腐敗は地球の汚染を加速させ、強制的に民間人を宇宙へと連行する非人道的な政策「人狩り」も行っていた。
そんな連邦政府高官を暗殺するという苛烈な行為で抵抗を開始したのが、反地球連邦政府運動「マフティー」だ。リーダーの名は「マフティー・ナビーユ・エリン」。
その正体は、一年戦争も戦った連邦軍大佐ブライト・ノアの息子「ハサウェイ」であった。
アムロ・レイとシャア・アズナブルの理念と理想、意志を宿した戦士として道を切り拓こうとするハサウェイだが、連邦軍大佐ケネス・スレッグと謎の美少女ギギ・アンダルシアとの出会いがその運命を大きく変えていく…。

今回もあらすじは、資料のままに書かせて頂きました。
なんたって、ガンダムファンに、ボクのにわか知識であれこれ書くのは、失礼ですから(笑)。
戦闘シーンには、モビルスーツなどのガンダムならではのアイテムが登場しますが、例えばそれ意外のストーリー展開が緻密に出来てるからなんでしょうね。ガンダムの知識が浅いボクでも、SFアクション・アニメとして、十分楽しむことが出来ました。
ファンなら、その何倍も満喫出来るってことですもんね。
絵のタッチが、昔のガンダムとは違うのも、逆に魅力なのかな。キレイなアニメーションでした。
コロナの影響で、幾度となく公開延期が繰り返され、ようやくこの日を迎えた作品。ファンの皆さん、存分に楽しんで来て下さい!★4つ。
「機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ」公式サイト


『漁港の肉子ちゃん』は、明石家さんまが企画、プロデュースのアニメ作品。

底抜けに明るくて、子供みたいに純粋で、情が深くて、ダメ男が好きで、男に騙されてばかりの母・肉子ちゃん。
それとは対照的に、しっかり者の、小学校5年生の娘・キクコ。
ふたりは肉子ちゃんの恋が終わると、別の町へ。
そうして、今回辿り着いたのは、北の漁港の町でした。
ふたりを受け入れてくれたのは、焼肉店「うおがし」の店主・サッサン。
丸々と肥えた肉子ちゃんを“肉の神様”だと雇い入れ、サッサンの持つ舟に寝泊まりしながら、母娘の新たな生活が始まったのです。
キクコの周りにも新しい友だちが増え、この町が好きになった頃、肉子ちゃんとキクコの秘密が、明らかになろうとしていたのです…。

西加奈子のベストセラー小説のアニメ化。明石家さんまが惚れ込んだ原作だと言います。
さすがにさんまさんのプロデュース作ということもあって、メディアへの露出も多く、あれこれと説明は不要かと思いますが、肉子ちゃんの声は元妻の大竹しのぶ、キクコの声はキムタク&工藤静香の娘のCocomiが務め、エンデイングテーマはGReeeeNが歌うという。他も豪華メンバーが参加しています。
昭和の下町の匂いというんですかね。東京だろうが、大阪だろうが、北の漁港であろうが、今でもきっとあるはずの、人の優しさ、人の情け。
劇中の小さな出来事にも、実は大切なことが描かれている、温かい作品です。親子でどうぞ!★4つ。
「漁港の肉子ちゃん」公式サイト


『クローブヒッチ・キラー』は、サイコ・サスペンススリラー。

タイラーは静かな田舎町に住む、16歳の少年。
父親のドンはボーイスカウトの団長を務め、町のみんなからの信頼も厚く、家でも善き父で夫でした。
ある日のこと、庭の離れにある小屋にタイラーが忍び込むと、父親のものと思しき、猟奇的なポルノとポラロイド写真を見つけてしまうんですね。
実はこの町では、10年前に、“巻き結び連続殺人事件”が起き、未だ未解決のままだったのです。
タイラーの胸の奥に、もしかすると父親が犯人ではないかという、疑念が湧き始めるのでした…。

面白かったです。
この事件を追いかけているカッシという女の子と協力して、タイラーは真犯人を捜そうとする。
自分の父親は犯人じゃないと信じたい。でも、探れば探るほど、犯人に近付いていくという。
“クローブヒッチ=巻き結び”。ボーイスカウトに紐は付き物なんですよね。
いい意味でB級感のある映画です。この手のものは、そんなB級感こそが味だったりしますから。
ほんの少しだけ、ツッコミどころが残るのが残念ですが、ま、そこをどうこう言わないのも、このタイプの映画の楽しみ方なのかも。
昨今、日本でもニュースを騒がす、人間の“裏”の顔。
いや、聖人君子な振る舞いのほうが、実は“裏”なのかもしれません。★3つ。
「クローブヒッチ・キラー」公式サイト


『ブラックバード 家族が家族であるうちに』は、2014年のデンマーク映画のアメリカ版リメイク。

海辺に佇むオシャレな邸宅。そこは、夫で医師のポールと、妻のリリーが暮らす家。
週末、この家に夫婦に縁の深い人たちが集まります。
長女ジェニファーと夫のマイケル、15歳の息子ジョナサン。
久しく音信不通だった次女のアナは、恋人の女性クリスを連れて。
さらに、リリーの親友リズを加えた6人です。
実は、リリーは難病を患っていて、徐々に体の自由が効かなくなってきていたのです。
そんなリリーが選んだのは、安楽死。
この週末が最後の集いで、週明けには、みんなに看取られながら、自ら命を絶とうと決めていたのです…。

重い話でした。
家族とはいえ、それぞれに、人には言えない秘密がある。
娘たちは、母の最期を前に、それが噴出するんですね。
もちろん、楽しく終わらせたくても終われる会ではないのは最初からわかっていたし、娘たちは、どんな状態になろうとも、母には生きていてもらいたい訳です。ところが、リリーは頑として、意を翻らせない。
死の尊厳の物語。難しいテーマです。★3つ。
「ブラックバード 家族が家族であるうちに」公式サイト


『ブルーヘブンを君に』は、由紀さおり映画初主演作。

作るのは不可能と言われた“青い薔薇”の生みの親として有名な園芸家、鷺坂冬子、63歳。
家族に囲まれて、穏やかに毎日を過ごしていましたが、ガンが再発。ステージ4と診断されます。
自分のこれまでを振り返った時に、やり残したこと。それは女学生時代に、互いに恋心を抱いていた男の子が、いつも話してくれていたハンググライダーでした。
「空を飛ぶから、絶対に見に来て」と手紙をくれたのに、実現させる前に、命を落としてしまった彼が、瞳をキラキラさせながら話してくれた、青く大きな空を飛ぶこと。
体調と相談しながら、孫や、その仲間たちと一緒に訓練を始めた冬子でしたが、みんなは冬子の病状を知らなかったのです…。

1965年の歌謡曲デビュー以来、様々なジャンルにチャレンジしてきた由紀さおりさん。
そんな由紀さん自身の内面を映し出したかのような作品です。
意外や、映画は初主演なんですね。
由紀さんは、「主役については、荷が重くて、本当に私で大丈夫だろうかと不安でした」。また、「いくつになっても、幸せになる努力をしなくちゃって、感じてもらえれば」と語っています。
やりたいことや、夢、目標が出来ると、人生にパッと明るい色が付く。
その色は、薔薇の青のような、まさに“奇跡の色”なのかもしれません。★3つ。
「ブルーヘブンを君に」公式サイト


『ベル・エポックでもう一度』は、フランスの“ロマンチック・コメディ”。

人気イラストレーターだったヴィクトルですが、世間のデジタル化に付いていけず、完全に“ガラパゴス化”。ヴィクトルは、携帯電話すら持っていなかったのです。
一方、精神分析医である妻のマリアンヌは、時代の潮流に乗って、オンラインも活用し、活き活きと働いており、ヴィクトルの存在が鬱陶しくて仕方ありません。
そんな父の姿を息子のマキシムが心配し、友人のアントワーヌが始めた、『時の旅人社』の“タイムトラベルサービス”に招待します。
これは、映画のセットを使い、顧客が要望する時代へと時を戻す、体験型エンターテインメント。
マリアンヌに家を追い出されたヴィクトルは、こなサービスを利用するのですが、戻りたい時を聞かれた時、彼は迷わず、「1974年5月16日のリヨンのカフェ。人生を変えた、運命の女性と出逢った日」と答えたのです…。

上記の“ロマンチック・コメディ”は、資料の文言をそのまま引用しました。広義の“コメディ”だと思って下さい。感動作です。
個人的にフランス映画は苦手なんですが、この作品は本当によかったです。
フランス映画が苦手な理由は、フランス人特有の個人主義と、曖昧な結末が多いことなんですが、若干理解不能な個人主義的寛容さはあるものの、物語はきちんと着地していて、ボクは大好きな作品です。
『時の旅人社』を経営するのはアントワーヌ。ヴィクトルの運命の女性を演じるのは、アントワーヌの恋人で女優のマルゴなんですが、アントワーヌは公私共に我が強く、マルゴも一進一退の恋模様。
ところが、ヴィクトルと関わることで、ふたりの関係にも変化が見えてきます。
最初にヴィクトルを見た時、ボクも自分のことは棚に上げて(笑)、「こりゃ、確かにお荷物だな」と。
マリアンヌに追い出された時も「後悔するぞ」と言うヴィクトルに、「どの口が言ってるの?」と思いましたが、いやいや、いつの間にか、その思いが逆転していました。
時代は確かに変わります。でも、変わらなくてもいいものは、必ずあるということ。
愚直な世のオジサン諸氏は、ちょっぴり自信をもらえるかも(笑)。満点!★5つ。
「ベル・エポックでもう一度」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.6.3
『映画大好きポンポさん』★★★★
『幸せの答え合わせ』★★★
『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』★★★★★
(満点は★★★★★)


世界の映画興行収入が、コロナの影響で変化したと、新聞の記事にありました。
不動の1位だったアメリカが、なんと中国に抜かれてしまったそうです。
アメリカは劇場が閉まり、前年の約2割の低水準だったそうで、やむなしといったところでしょうか。
6月1日からは、日本の映画館も、休業要請から時短要請に変わります。完全ではなくても、ひとまずはホッと前進ですかね。
さ、今週は3本です!


『映画大好きポンポさん』は、杉谷庄吾【人間プラモ】原作漫画のアニメ映画化。

ジョエル・ダヴィドヴィッチ・ポンポネット、通称ポンポさんは、“映画の都”ニャリウッドで活躍する映画プロデューサー。
祖父のペーターゼンも、伝説の映画プロデューサー。幼かったポンポさんは祖父と一緒に観る長い映画が苦痛で、今も作る映画は2時間までと決めています。
そんなポンポさんのアシスタントを務めるジーンは、“超”が付く映画オタクの青年。一度観た映画は、細かいシーンまですべて覚えており、映画愛は人一倍。今はポンポさんの元で、映画作りを学んでいます。
ある日のこと、ジーンはポンポさんから、新作映画の15秒CMを作って欲しいと言われます。
その出来のよさが評価され、ポンポさんは次回作『MEISTER』の監督をジーンに任せたのです。
千載一遇のチャンスとはいえ、ニャリウッド映画の監督なんて、ジーンには重すぎる大仕事。果たして、彼はポンポさんの期待に応えることが出来るのでしょうか…。

原作を知らなかったので、タイトルだけを見た時に、まず「ん?」となりましたが、面白いし、すごくいい映画でした!
『MEISTER』のヒロインに選ばれたのも、俳優を目指しながらアルバイトに明け暮れる女の子、ナタリー。オーディションで落選ばかりの、素人のような彼女が、ポンポさんのお眼鏡にかなったのです。
この映画、ニャカデミー賞!?6度受賞の名優、マーティン・ブラドッグの復帰作でもあり、ジーンとナタリーのプレッシャーは相当なもの。
もちろん、他にも登場人物はたくさんいて、映画業界の裏も表も、かなりデフォルメしながら(笑)、描いています。
フィクションだし、アニメなんですが、でも映画って、こんなにアツい人たちが情熱を傾けて作ってるんだとわかると、おそらくあなたも映画が愛おしくなるはず。
コロナ禍の、今の時代にぴったりの1本だと思いますョ。オススメです!★4つ。
「映画大好きポンポさん」公式サイト


『幸せの答え合わせ』は、家族のリスタートの物語。

グレースとエドワードは、結婚29年目を迎えようという熟年夫婦。
息子のジェイミーも、すでに独立し、家を出ていました。
仕事を引退したグレースは家で詩集を編纂し、夫のエドワードは高校教師として教鞭をとっています。
ふたりの会話も、どこか噛み合わないようでいて、これが日常と思わせる夫婦の在りよう。
ところが、週末、ジェイミーが久々に家に帰ると、エドワードがこう切り出したのです。
「家を出て行こうと思う」。
驚くジェイミーでしたが、エドワードの心は固まっていました。
思いもよらない告白に、グレースは怒り、悲しみ、うろたえるのですが…。

舞台は、イギリス南部にある海辺の町、シーフォード。
原題の『Hope Gap』は、近くに広がる入り江の名称です。
グレースは日頃から、結構キツい言葉をエドワードにぶつけるんですが、グレースに悪意はなく、エドワードの心の中に気付けていない。そのうち、とうとうエドワードの気持ちは、黄信号から赤信号に変わってしまったのです。
自分の失敗をさらけ出すようで、お恥ずかしいのですが、ボクの離婚はまさにこれ。でも逆で、ボクがグレース。元妻との絆はちゃんと繋がっていると信じて疑っていなかったから、離婚を切り出された時は、まさにグレース状態でした。それゆえ、10数年前の自分を見ているようで、メチャメチャ心が痛くなりました。
その後、家族3人の人生がどうなっていくのかは、劇場で確かめてもらいたいと思いますが、原題の『Hope Gap』には、「理想の差違」というWミーニングがあるんじゃないかと推測しています。
余談ですが、グレースを演じたアネット・ベニングを、94年の『めぐり逢い』という作品で初めて知りました。映画の試写を観させて頂くようになった初期の頃の映画。その美しさに感動したのを覚えています。変わらぬ美貌に再びの感動です(*^_^*)。★3つ。
「幸せの答え合わせ」公式サイト


『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』は、香港の歌手であり、活動家でもある女性のドキュメンタリー映画。

1977年生まれの、香港の女性シンガー・ソングライター、デニス・ホー。
9歳の時にコンサートで見たアニタ・ムイに魅せられ、コンテストで優勝したのこときっかけに、歌手の道へ。
憧れだったアニタ・ムイに師事し、01年にシングルデビュー。
その後は香港の音楽シーンを代表するシンガーに成長し、アニタ・ムイが03年に急逝すると、彼女の後継者として、中華圏で大人気を博していきます。
12年には、LGBTのパレードに参加し、同性愛者であることを表明。これは、香港の女性アーティストでは初だそう。
そんな彼女が、香港の民主主義を守ろうと、14年の雨傘運動に参加し、逮捕されると、当局からの規制は厳しくなり、レコード会社との契約は打ち切られ、ツアーのスポンサーも撤退するなど、活動そのものが難しくなっていきます。
それでも、民主主義のアイコンとして、香港で彼女を支持する人々は多く、スポンサーだった世界的化粧品メーカーが撤退するならと、自らがお願いに回り、たくさんの人たちの協力金でコンサートを開くなど、不屈の行動力を持ち合わせるデニス・ホー。
デモにも矢面に立つ形で参加し、国連やアメリカ議会で、自由と民主主義を訴える彼女の、今を映したドキュメンタリーです。
カメラは2018年から回し始め、19年10月の完成予定が、香港の状況が激変し、20年の3月まで延びたそう。
その20年の夏に国家安全法が成立し、この映画は香港での公開がまず叶わないとか。
プロパガンダではなく、香港の現状を、まさに市民の視線で捉えた作品だと思います。
日本が、もしそうなったら。考えられますか?
人気歌手から活動家へ。そして歌い続けるデニス・ホーの姿に、尊敬の拍手です。満点!★5つ。
「デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.5.27
『明日の食卓』★★★★
『アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン』★★★
『女たち』★★★★
『狂猿』★★★★
『のさりの島』★★★
(満点は★★★★★)


『映画 賭ケグルイ 絶対絶命ロシアンルーレット』の公開が再々延期で、6月1日になりました。
前回公開予定のタイミングでご紹介しています。読んでみたいという方は、5月6日のブログ、または同日付のボクのHPのコラムをご参照下さい。
また、『女たち』も公開延期で、6月1日公開ですが、今週紹介しておきたいと思います。
さ、今週は5本です!

『明日の食卓』は、同じ名前の息子を持つ、3人の母親の物語。

石橋留美子、43歳。フリーライター。息子の悠宇は10歳。神奈川県在住。
石橋加奈、30歳。アルバイトをかけ持ちするシングルマザー。息子の勇は10歳。大阪府在住。
石橋あすみ、36歳。専業主婦。息子の優は10歳。静岡県在住。
“石橋ユウ”という、同じ名前の子どもを育てる3人の母親。
留美子の夫はカメラマン。順調に思えた仕事でしたが、ある日突然打ち切りになってしまいます。
留美子は息抜きに書いていたブログが大人気。夫の代わりに家計を支えようとしてから、家族がギクシャクし始めます。
加奈は一生懸命倹約をし、寝る間も惜しんで働いていましたが、不況でバイトをクビになります。
せっせと貯めた虎の子の貯金でしたが、加奈の留守に、加奈の遊び人の弟が通帳と印鑑を持って行ってしまいます。
あすみは夫の実家の隣りに家を建て、夫は静岡から東京への遠距離通勤。
勉強も出来る優等生のはずの優が、悪質なイジメの首謀者だと通報が入ります。夫は「お前の育て方が悪い」とあすみを罵るばかり。
ある日のことでした。
ひとりの“ユウ”が、母親に殺されてしまったのです…。

試写のハガキに、「息子を殺したのは、私ですか―?」と大きく書いてありました。そっちがタイトルかと思ったのは、ボクだけではなかったと、試写の会場に行ってわかりました。
それほどインパクトが強い、映画のキャッチフレーズです。
3組の母の葛藤とユウの葛藤は、それぞれに深刻で、どの母親が自分の子を殺めても不思議はないと思うほどの、背景が描かれています。
留美子に菅野美穂。
加奈に高畑充希。
あすみに尾野真千子。
豪華女優陣の競演です。
「気持ちだけは、わかるかも…」という世のお母さん、多いんじゃないですか?
ある意味、怖い1本かもしれませんね。怖いもの、見たくないですか?★4つ。
「明日の食卓」公式サイト


『アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン』は、“ソウルの女王”アレサ・フランクリンの幻のライブ映画。

2018年8月に、76歳でこの世を去った、アレサ・フランクリン。
メンフィスに生まれ、デトロイトで育ち、著名な牧師を父に、人気のゴスペルシンガーを母に持つアレサ。
両親は幼い頃から別居していましたが、彼女は自然と教会でゴスペルを歌うようになります。
歌手デビューは1961年。
最初のヒットを飛ばすまでには時間がかかりましたが、その実力が認められると、あっという間にスターダムにのし上がり、グラミー賞受賞は20回、女性アーティストとして初の『ロックの殿堂』入りも果たしています。
そんな彼女が29歳の時に行った、ロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会でのゴスペル・ライブの模様を収めたのが、この映画です。
実はこのライブ、アルバムはリリースされていて、3ミリオンの大ヒットを記録。ところが、同時に収録されていたドキュメンタリー映画のほうは、技術上のトラブルで“お蔵入り”。
それがこの度、最新技術を持って、作品として完成、お披露目となりました。
観客にミック・ジャガーらしきがいたんだけど、違うかなぁ。ローリング・ストーンズは、ソウルのエッセンスも取り入れていたし、アレサのアルバムに『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』という、彼らのヒットのカヴァー曲をタイトルにしたものもあるし。
ボクは82年の『ジャンプ・トゥ・イット』で、アレサ・フランクリンを知りました。
あの太い迫力の声と、高音域まで伸びるスキャットのルーツを覗いた気がします。
決して、面白い映画とかではないけれど、ソウル・ファンには、資料映像としての価値もあると思いますョ。★3つ。
「アメイジング・グレイス アレサ・フランクリン」公式サイト


『女たち』は、このコロナの時代に生きる女性たちの生き様の物語。

東京の大学を卒業したものの、就職が叶わず、故郷に戻った“アラフォー女性”の美咲。
実家の母・美津子は、美咲のすべてを否定するような親でした。キツい言葉は、日常茶飯事。
そんな母には障がいがあり、ヘルパーとして自宅を訪れる直樹との逢瀬だけが美咲の楽しみで、直樹との結婚だけが美咲の希望でした。
そんな美咲が心を許せる親友が、幼なじみの香織です。養蜂場でハチミツをとっていた香織も、心に傷を持つ女性。
その香織が、ある日突然、自ら命を絶ってしまったのです…。

暗い。重い。
出口はあるんだろうかと、観ているこちらが不安になります。
コロナの感染対策にマスクをした映画はまだあまり見ないので、そういう意味では、まさに“今”の映画です。
直樹が去り、代わりに新しいヘルパーとしてやってきたのは、外国人女性。偏見も描きながら、すべての登場人物である“女たち”の、ギリギリの精神を描いた映画です。
故郷は、緑に囲まれ、青い空と澄み切った空気いっぱいの田舎町。追い詰められた女性たちの心とは対照的な風景が、また痛々しくて。
“鬼母”美津子を演じる高畑淳子がすごい…。
ラストがどうなるか、気になる人は劇場へ是非!★4つ。
「女たち」公式サイト


『狂猿』は、“デスマッチのカリスマ”葛西純のドキュメンタリー。

北海道帯広市出身の46歳。
プロレスラーに憧れ、高校卒業後に上京したものの、173cmとレスラーになるには小柄な体格で、半ば夢を諦め、就職。
風俗通いが大好きで、体調を崩した時にHIVを疑い、検査を受けます。
結果が出るまでの間に、もし命があったらやりたいことをやるんだと決意。
結果は陰性で、夢だったプロレスラーを目指してトレーニングを開始。大日本プロレスから、見事23歳でデビューを果たします。
その後、小柄な体格でもファンを湧かせるプロレスをと、デスマッチの世界へ足を踏み入れ、その過激さは、日を追うごとに増していきました。
無数の傷が全身を覆い尽くし、それでも数十本も並べたカミソリの上に落とされ、蛍光灯で殴られ、ガラスが刺さり。遂には、2019年の年末、身体が言うことを聞かなくなり、長期の戦線離脱を余儀なくされてしまいます。
トレーニングをするにはするものの、上がらないモチベーションに、引退の2文字も浮かびますが、“クレイジーモンキー”は、リングに帰ってくるのです。
試写をオンラインで観ていて、気が付けば歯を食いしばって、両の下瞼にギュッと力が入っている。そんな状態がずーっと続いたから、顔がメチャメチャ疲れてました(笑)。
プライベートにも密着。子煩悩なパパの一面も見せながら、ボードに貝印?のカミソリを立てて並べていく姿が、どうにもカオス…。
奥さんも、「早くやめて欲しいです。こんな危険な仕事…」と言うのが普通なのに、「やめてどうするんですか?生活出来ないじゃないですか」みたいなことを言っちゃう(笑)。
ライバルのデスマッチ・レスラーたちの闘いぶりやエピソードも、おかしいでしょ、それって感じ。
葛西さん、後楽園ホールのバルコニーから、6m下に飛びますか?
とにかく観てみて下さい。命知らずに見えますが、真のプロフェッショナル・レスラーとは、この人たちのことかもしれません。★4つ。
「狂猿」公式サイト


『のさりの島』は、熊本県の天草を舞台にした人情物語。

オレオレ詐欺で全国を旅する若い男が辿り着いたのは、熊本県の天草にある中央銀天街という、いわゆる“シャッター通り”と化した商店街。
看板を見ながら電話をかけた先は、山西楽器店。電話に出たのは、おばあさん。しめしめと男は孫を装い、仕掛けの餌をまき始めます。
「もしもし、ばあちゃん。俺、オレだけど」
「ああ、将太かい?」
友達を行かせるから金を渡してと、今度は自身が将太の友人に扮して店を訪ねるのですが、ばあちゃんは男を見るなり、「将太、久し振りだねぇ。ほら、早く入りなさい」と、男を招き入れます。
違うと説明しても、将太と信じているかのような、ばあちゃん。
そのうち男は、風呂に入り、ばあちゃんの手料理を美味そうに食べ、酒までねだって、爆睡してしまいます。
その日から、ばあちゃんと“将太”の奇妙な共同生活が始まったのです…。

プロデューサーは、映画『おくりびと』の脚本や、くまモンの生みの親としても知られる、熊本県天草市出身の小山薫堂です。 ばあちゃんが、最初から“オレオレ詐欺”だと気付いているのは観ている側にもわかります。
でも、飄々とした態度で男に接しているうちに、男の心や行動にも変化が見えてくるんですね。
地元のコミュニティーFMでパーソナリティを務める清かや、街の数少ない若者たちとの交流も始まりますが、嘘だから、どうにもどこかぎこちない。
いつまでも続くはずのない、この生活の結末やいかに…というお話。
“のさり”とは、天草の言葉で、「今あるすべての境遇は、天からの授かりもの。目の前にあるものは否定せずに受け入れる」ということだそう。
まさに、ばあちゃんのそれかなと。
商店街の会長さんが言う、「今はみんなインターネットだから。あんたも買い物はインターネットだろ?」という言葉。
便利さの裏に、寂れた個人商店の悲哀が隠れていると思うと、心が苦しくなります。
ばあちゃんを演じた、原知佐子さんの遺作でもあります。是非、ご覧になってみて下さい。★3つ。
「のさりの島」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.5.19
『茜色に焼かれる』★★★★★
『野良人間 獣に育てられた子どもたち』★★★
『ペトルーニャに祝福を』★★★★
(満点は★★★★★)


5月21日に公開予定だった、映画『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』が、緊急事態宣言の影響で、公開が再々再延期となってしまいました。 昨年7月→5月7日→21日。待ち望んでいたファンにとっては、「またか…」という失望感でいっぱいだと思います。 配給も、宣伝も、頭が痛いところでしょうね…。 さ、今週は3本です!

『茜色に焼かれる』は、尾野真千子主演の衝撃作。

ある日、突然、平凡な暮らしは、奪われます。
良子の夫・陽一が、自転車で横断歩道を渡っている時に、猛スピードで突っ込んできた車にはねられて、亡くなったのです。
車を運転していたのは、元政府高官だった高齢者。アルツハイマーを患っていたと言います。
良子は謝罪なしの賠償金は一切受け取らず、女手ひとつで、息子の純平を育て、施設にいる義父の面倒も見てきました。
7年後、事故の加害者が亡くなったと知り、葬儀に参列しようとして、門前払いにあう良子。
彼女の中には、7年経った今も、釈然としないシコリのようなものが残っていました。
息子の純平も、中学生に。
コロナの影響で、経営していた小さなカフェは閉店を余儀なくされ、良子は、スーパーの生花売り場のパート従業員として働き、純平には内緒で風俗の仕事もしながら、生活をまかなっていたのです。
賠償金のことや、母の噂で、イジメを受けるようになる純平。
そんなある日のこと、良子は、理不尽な理由でパートをクビになってしまいます。
「ま、頑張りましょ」。
良子は口癖のようにつぶやくのでした…。

凄まじい映画です。
心がヒリヒリします。
監督は石井裕也。
あらすじは、きっと公式サイトのものを読んだほうが伝わると思います(笑)。ただ、同じように書くのが嫌だったかな…。
風俗店の店長でヤクザの中村、この店で働くワケあり女子のケイ、偶然の再会に良子が心ときめかせる元同級生の直樹。
他にもたくさんの登場人物がいて、おそらくこの人たち、一人一人にスポットをあてても、それぞれに映画が1本出来るんじゃないかというくらい、良くも悪くも“奥行きのある”脇役たちが、時にズシリと、時にサラリと登場します。
尾野真千子という女優の、“覚悟”みたいなものを見せつけられた感じ。
良子がよく口にする、「ま、頑張りましょ」の言葉が、響く人には、猛烈に響くと思いますョ。
生きるって、大変だ。
でも、生きなきゃねっ。
ボクの中では、今年一番の作品であることは間違いありません。
是非、観てみて下さい!満点!★5つ。
「茜色に焼かれる」公式サイト


『野良人間 獣に育てられた子どもたち』は、実話に基づくストーリー。

1987年、メキシコ南西部、オアハカ州の山中で火災が発生します。
火元の一軒家は全焼。焼け跡から、1本のビデオテープが発見されたのですが、いつの間にか、その所在はわからなくなっていました。
ところが、30年振りにビデオテープが発見されます。
再生してみると、そこに映っていたのは、聖職者の男性と共に暮らす、野生化した人間の子どもたちだったのです…。

メキシコ映画。
擬似ドキュメンタリー形式で作られた映画で、確かにメキシコでは誘拐事件は多いそうです。
資料によると、1日300人、年間約10万人。人身売買や臓器販売目的での誘拐も少なくなく、その犠牲者の多くが子どもたちだとか。
山奥に捨てられた子どもが、野生化したということなのでしょう。
聖職者の男性は、最初に見つけたひとりの野生児に、なんとか人間らしさをと教育を施します。
後日、さらに2人の子どもを見つけ、一緒に暮らし始めるのですが、様々な問題が発生します。
その生活の一部始終を、男性が取り付けたカメラは見ていた…という話。
TOCANAという会社の配給作品。「ほんとかな」の“トカナ”だそうで、以前紹介した、映画『イルミナティ/世界を操る闇の秘密結社』もここ。サイトも強烈です(笑)。
好きな人は好きだと思いますョ。★3つ。
「野良人間 獣に育てられた子どもたち」公式サイト


『ペトルーニャに祝福を』は、北マケドニア(旧ユーゴスラビア)の映画。

ペトルーニャは32歳。ぽっちゃり系の独身女性。
大学は卒業したものの、学歴を活かす職には就けず、ウェイトレスとして働いており、恋人の気配すらなく、母親のイヤミを聞きながら過ごす毎日。
その母親が知人のツテでと、ペトルーニャに紹介したのが、縫製工場での仕事。
面接の日、「25歳と言うんだよ」と母に送り出されたペトルーニャ。
面接で年齢を聞かれ「20歳です」と答えると、面接官は言います。
「42歳に見える」。
完全にセクハラな面接を終え、沈んだ気持ちで帰る途中、川に人だかりを発見するんですね。
それは、キリスト教の“神現祭”でした。
司祭が川に投げ込んだ十字架を真っ先に取ると、1年間、幸せでいられるという宗教行事です。
十字架目掛けて、男たちが一斉に川に飛び込みます。
すると、ペトルーニャの目の前に、十字架が流れて来たではありませんか。
迷わず川に飛び込み、十字架を手にするペトルーニャ。
すると、あたりは騒然となります。なぜなら、十字架を取っていいのは、男だけと決まっていたから。
現場の混乱に乗じて、十字架を手に、びしょ濡れのまま家に帰るペトルーニャ。
テレビをつけると、なんとニュース番組が、事の一部始終を報じていたのです…。

世間体を気にして怒鳴る母。「なぜ男だけ?」と司祭に詰め寄る女性リポーター。十字架を渡せと圧力をかける警察署長。ペトルーニャの周りは、大騒ぎになります。
それでも、頑として「十字架は私のもの」と言い張るペトルーニャ。
一体どうなっちゃうの?というお話。
2014年、北マケドニアでは、実際にこの“神現祭”で、女性が十字架を掴み取るという出来事があったそう。
女性は、地元住民や宗教関係者の怒りを買ったものの、テレビ局のインタビューには、「十字架を手に入れるために、これからは女性もどんどん川に飛び込むべき」と言ったそうで、周囲は彼女を“問題を抱えた女性”と評したとか。
この映画の監督も、プロデューサーも、共に旧ユーゴ生まれで、アメリカで映画を学んだ女性です。
女性蔑視に対する社会通念に苛立ちを感じて誕生したのが、ペトルーニャだと語ります。
本来なら、昨年の4月25日に公開予定だったものが、コロナの影響で1年以上先伸ばしに。でも、この昨品に限っては、延期になってよかったはず。
だって、先だってのM氏の女性蔑視ととられる発言から、我が国でもジェンダー意識が高まりましたから。
ユーモアも交えての問題提起。学ぶべきがたくさんありそうです。★4つ。
「ペトルーニャに祝福を」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.5.13
『海辺の家族たち』★★★★
『しあわせのマスカット』★★★
『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』★★★★
(満点は★★★★★)


お芝居などの舞台がよくて、映画館がダメ…。
本当にわかりません。
“生活=命”がかかっているのですから、行政はきちんとその理由を説明して欲しいところです。
頑張れっ!映画界!
さ、今週は3本です!

『海辺の家族たち』は、フランス映画。

マルセイユ近郊の海辺の町。
昔は賑わいを見せていたこの町も、今では住人が減り、高齢化と過疎化が進んでいました。
そんな入江の町に建つ1軒の家に、3人の兄妹が集まります。
家業の小さなレストランを継いだ長兄アルマンの元に、最近失職してしまった次兄のジョセフ、パリで活躍中の女優で妹のアンジェルが戻って来たのです。
3人が集まったのには理由がありました。年老いた父が突然倒れてしまい、家族にとって、思い出の詰まったこの家をどうするか。将来のことを話そうというのでした。
それぞれの心の中にある、家族への思い、つらい過去、厳しい現状、そして葛藤。
本音をぶつければギクシャクするのも当然でしたが、そんな時、入江に隠れた3人の難民の子供を発見するんですね。
彼らを匿い、面倒をみるうちに、兄妹3人の中に、これまでとは違った何かが見えてきたのです…。

話が漠然としていて、すみません(笑)。
タイトル通り、家族の話です。
うちも構成は違えど、ボク、妹、弟の3人。なので、なんとなくわかるなぁって感じ。
大人になって、環境が変わると、それぞれに生活の“核”が出来る。
親はみんなの親だから、重なる部分は平等に大きいけれど、兄弟姉妹のそれは、徐々に小さくなりますからね。
それでも血の繋がりは、決して切れない。切れたら楽なのにと思う時があったとしても(笑)、やはり切れない。切りたくはない。
そんなギクシャクが、この作品の3人にも起こるわけです。
昔馴染みのご近所さんとの久々の交流もあって、懐かしさもよみがえる反面、様々な負の思い出も巡ってくる。
そんな時、親とはぐれた3人の難民の姉弟を発見するわけですョ。この姉弟の絆は、まさに命を守るためのものですから。
その繋がりに触れて、熟年世代にさしかかろうかという3兄妹も、何かを感じたのでしょう。で、それぞれがどんな答えを出すのかってお話。
書かなかったけど、考えさせられるサイドストーリーも、たくさん出てきます。
昔、鉄拳のパラパラ漫画を原作にした『家族のはなし』という邦画があって、そのキャッチフレーズが、「家族は、面倒くさい幸せ」。言い得て妙(笑)。まさにこれだと思います。
フランス映画は正直苦手なんですけど、これはよかったです。
難民に対するリアリティ、フランス人の個人主義的国民性など、自国の人には、さらに響くんだろうなと感じました。★4つ。
「海辺の家族たち」公式サイト


『しあわせのマスカット』は、岡山県を舞台にしたハートフル・シネマ。

修学旅行で岡山を訪れた、女子高生の相馬春奈。
入院中のおばあちゃんへのおみやげに、岡山名産の高級マスカットを買って帰る約束をしていたのですが、財布を落としてしまい、手持ちの小銭をかき集めても、とてもじゃないけど手が届きません。
そこで春奈が見つけたのが、マスカットを使った和菓子の「陸乃宝珠」。この小さな果実菓子におばあちゃんは大喜び。その時、春奈はこのお菓子を作る会社に就職しようと決めたのです。
その会社は、岡山に本社のある“源吉兆庵”。
就職の面接に遅刻した春奈は、もちろん門前払い。ところが、社内で偶然出会った社長の“鶴の一声”で、入社が決まります。
これで自分の考案した和菓子が作れると意気込んだ春奈でしたが、持ち前のドジっこぶりで、どこの研修先でも失敗だらけ。
正式な配属が決まり、同期が華やかな部署で働き始める中、春奈に命じられたのは、偏屈な園主の営む、ぶどう農園の手伝いだったのです…。

2018年の西日本豪雨で被害を受けた岡山県を元気にしようと、オール岡山ロケで作られた映画。
話はフィクションですが、源吉兆庵は実在の会社です。
頑固職人のぶどう農園の園主、秋吉伸介に竹中直人。もう、なんとなく作品をイメージ出来ますよね(笑)。
春奈にも、秋吉にも、乗り越えるべき“過去”があって。閉ざしていた心が、互いに打ち解けるかなぁという時に、映画の中でも豪雨災害が岡山を襲います。設定としては、これが先の西日本豪雨だそうです。
この苦境をどう乗り越えるのか。ハートフル・シネマですから(笑)。劇場でご確認下さい。
ちなみに、相馬春奈には、第8回東宝シンデレラオーディションのグランプリ、福本莉子が扮します。単独では初の主演作になるそうです。マスカットみたいに、可愛らしかったですョ。★3つ。
「しあわせのマスカット」公式サイト


『グンダーマン 優しき裏切り者の歌』は、旧東ドイツの実在の人物を描いた物語。

東西分裂時代の旧東ドイツ。
ゲアハルト・グンダーマンは、露天掘りの炭鉱で、巨大なパワーショベルの運転士として働く労働者。
そして、もうひとつの顔が、シンガー・ソングライター。
日常生活や、夢、理想を歌う彼の歌は多くの人の心を掴み、すでに人気も高かったのですが、労働と歌を両立させることをモットーにしていた彼は、どんなにキツかろうと、決して炭鉱での労働を辞めずにいたのです。
そんなグンダーマンには秘密がありました。
当時の東ドイツには、シュタージという秘密警察があり、グンダーマンは情報員として登録。危険思想を持つ人物や、西側に脱出しようとする人間を密告する、スパイ活動をしていたのです。
ベルリンの壁が崩壊した後、彼はバンド仲間に打ち明けます。
「実は、シュタージのスパイをやっていたことがあるんだ」。
まさかの告白に、バンドのメンバーは、一様に言葉を失ったのでした…。

“東ドイツのボブ・ディラン”と呼ばれた、実在のシンガー・ソングライター、ゲアハルト・グンダーマンの半生を描いた映画。
主演のアレクサンダー・シェーアは、劇中の全18曲も自身で歌い、確かに本人と写真を見比べても、見事なまでに憑依したなという感じ。自国ドイツで高い評価を得たのも納得です。
東西統一後のドイツ国民にとって、シュタージがどういう存在なのか。これもドイツでのリアリティという話になるんだと思いますが、ボクが観て感じたこの作品の魅力は、やはり音楽ですかね。
巨大な掘削機の中で、言葉を紡ぐグンダーマン。翻訳された字幕の歌詞にですら、心打たれますから。
加えて、優しいメロディー、人を魅了する歌声。
実は、スパイの他にも、友人の奥さんを略奪したりと、やってることは「はぁ?」って部分もたくさんあるんだけど(笑)、曲が彼を浄化しちゃうというか、きっと多くの人が「それも含めてグンダーマン」と、許せちゃったんじゃないかと。
この映画の難点は、時系列がパラパラで、わかりづらいところ。奥さんがどの人だか、それすら認識出来ず、試写がオンラインゆえ、巻き戻して顔を確認しちゃったほど(笑)。
パンフレットを買うか、彼について少し調べてから観たほうがわかりやすいかと思います。それらを差し引いても、魅せられる1本です。★4つ。
「グンダーマン 優しき裏切り者の歌」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.5.6
『アニメーションの神様、その美しき世界 Vol.2&3』★★★★★
『映画 賭ケグルイ 絶対絶命ロシアンルーレット』★★★
『ジェントルメン』★★★★
(満点は★★★★★)


緊急事態宣言で、映画の公開も暫定的になっています。
『映画 賭ケグルイ 絶対絶命ロシアンルーレット』も、当初は4月29日の公開予定だったのが、延期になって5月12日の公開に。来週の水曜日ですが、ここでご紹介しておきます。
さ、今週は3本です!

『アニメーションの神様、その美しき世界Vol.2&3』は、川本喜八郎、岡本忠成両監督作品の4K修復版。

優れた国内外のアニメーション作家の作品を、最新の技術で修復・発掘することを目的としたWOWWOWプラスの『アニメーションの神様、その美しき世界』シリーズ第2弾と第3弾。
まず、川本喜八郎は、文楽や能、日本画といった、日本の伝統芸能の様式を人形アニメーションに進化させた世界的巨匠。
ストップモーションアニメの先進国、チェコにも留学し、多くを学んで帰国します。
解説には、川本作品は「人の心の闇を幽玄の美の極地から描く作風」とありますが、今回公開となるのは5作品。『鬼』、『道成寺』、『火宅』などは、まさにそう。ホラーのテイストすら感じさせ、観る側を引き込みます。
コミカルな『花折り』は、計算しつくされた細かい動きが秀逸。
カットアウト(切紙)作品の『詩人の生涯』も貴重な作風の1本です。
一方、岡本忠成は、木彫、和紙、毛糸、皮、粘土などの素材を用い、アニメーションや人形アニメで、幅広い世界観を表現。それを、落語や方言、義太夫、フォークソング、民謡、合唱など、多彩な表現方法で展開します。
解説には、岡本作品は「ユーモアに溢れつつも心に染み入る温もりを感じさせる作風」とありました。
こちらも5作品。『チコタン ぼくのおよめさん』、『サクラより 愛をのせて』、『注文の多い料理店』は、社会風刺が色濃く出たアニメーション。
『虹に向って』、『おこんじょうるり』は人形アニメーション。民話的テイストでほっこりと感動させる、温かい仕上がりになっています。
岡本作品は、庶民の生活に密着した題材が多いようですね。
2020年は、川本喜八郎没後10年、岡本忠成没後30年。しかし、どれを観ても、まったく古く感じさせないのが、素晴らしいところだと思います。
先達の残した見事な作品に触れられる、またとないチャンスです。是非、ご覧あれ。満点!★5つ。
「アニメーションの神様、その美しき世界 Vol.2&3」公式サイト


『映画 賭ケグルイ 絶対絶命ロシアンルーレット』は、人気コミックスの実写版映画の第2弾。

私立百花王学園。
この学校が普通の学校と違うのは、校内勢力がギャンブルの強さで決定するということ。
校内を仕切っていたのは、生徒会長の桃喰綺羅莉(ももばみ きらり)率いる生徒会。
しかし、“最狂の賭け狂い”蛇喰夢子(じゃばみ ゆめこ)の登場で、生徒会は危機感を抱いていたのです。
そんな中、ある事件で2年前に停学になっていた視鬼神真玄(しきがみ まくろ)が復学。
有力な生徒たちを次々打ち負かし、夢子をも罠にはめ、さらには生徒会長の座をも奪わんとしていたのでした…。

ドラマになったり、スピンオフ作品が誕生したりと、絶大な人気を誇る『賭ケグルイ』シリーズ。
ツッコミどころ満載の舞台設定ですが、おそらくそんなことはどうでもいい、些細なことなのでしょう(笑)。
ただ、肝心のギャンブルに穴があっては頂けないと、第1弾の前作では厳しい評価をさせてもらいましたが、今回はそのあたりもかなり改善された感があります。
突き抜けたキャラクターにファンは魅せられているはずで、夢子を演じる浜辺美波の憑依感はさすがだなと。女優としての評価の高さにも納得です。
前作に続き、原作者・河本ほむらの書き下ろしのオリジナルストーリー。
ヒリヒリしたい人は、劇場に是非どうぞ!★3つ。
「映画 賭ケグルイ 絶対絶命ロシアンルーレット」公式サイト


『ジェントルメン』は、ガイ・リッチー監督最新作。

イギリス麻薬界の大物、ミッキー・ピアソン。
大学時代からマリファナ・ビジネスに手を染め、大学を中退。独自のアイデアを駆使し、裏社会でのし上がっていきます。
今や巨万の富を得、最愛の妻ロザリンドと幸せな毎日を送る中、このビジネスをユダヤ人大富豪に売却し、引退しようと決めます。
ところが、その噂を聞きつけチャイニーズマフィアがしつこく絡んできたり、知られるはずのない大麻栽培施設がアマチュア格闘技集団に襲撃されたりと、にわかに周りが騒がしくなるんですね。
加えて、タブロイド版の記者が私立探偵を雇い、ミッキーとイギリス侯爵との怪しい関係を調査。ゲスな探偵のフレッチャーは、逆にこのネタを買わないかと、ミッキーの“右腕”であるレイモンドを揺すります。
当然、それぞれに命も狙い、狙われる事態に発展。果たして、ミッキーは無事に引退することが叶うのでしょうか…。

英米合作の映画。面白かったです。
実は、他にもたくさんのカギを握る登場人物がいるのですが、書き始めるとキリがないし、より話がぐちゃぐちゃになっちゃいそうで、割愛しました。
そう、そんな複雑な人間関係なんですが、実際に映画を観ていると、“交差はすれど、絡まり合わない”という感覚?わかりやすいし、面白い!
私立探偵のフレッチャーに、イギリスを代表するコメディ俳優のヒュー・グラントが扮します。彼が出て来た時点で、クライム・サスペンスなのに、ニヤリとさせる要素が満載なんだろうなと。
ミッキーの妻のロザリンドが、まぁ肝の座った奥さんで。日本でも恐妻家のほうが出世すると言われますが、ミッキーも然り。これは世界共通なのかもしれませんね(笑)。★4つ。
「ジェントルメン」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.4.30
『FUNNY BUNNY』★★★★★
(満点は★★★★★)


緊急事態宣言の発出で、期間中に公開予定だった映画の、公開延期が続出しています。
感染対策をしっかりとしている映画館自体に、クラスター発生の心配は少ないのですが、人流を抑えるという狙いから、劇場に足を運ばないで欲しいということ。映画にとっては残念なことですよね…。
そもそも“ゴールデンウイーク”という言葉は、昭和20年代後半から使われるようになった、映画の宣伝用語。
それが映画館の営業自粛期間となるのですから、皮肉なものです。
頑張れ!映画業界!
さ、今週は1本です!

『FUNNY BUNNY』は、飯塚健監督の小説の映画化。

タクシーに乗り込む、男性2人。剣持聡と漆原聡。向かった先は図書館でした。
剣持と漆原は、うさぎの着ぐるみで、閉館間際の図書館に潜入。目的は“絶対に借りられない本”を探すこと。
図書館の中には、司書の服部茜と客の新見晴がいましたが、うさぎに縛られ、拉致されてしまいます。
そこに別のフロアに隠れていた客の遠藤葵がやってきて、ふたりを救出。すると、たちまち形勢は逆転するんですね。
追い詰められた剣持と漆原は、動機を語り始めます。
高校時代の友人だった田所修が、いじめが原因で自殺。その田所の祖父が亡くなり、遺書を遺したと。そこには、「宝の地図を、図書館の“絶対に借りられない本”の中に隠した」と書かれていたと言うのです。
田所との思い出を話す剣持に、服部も新見も遠藤も共感。“絶対に借りられない本”を、手分けして探し始めるのでした…。

舞台化もされた作品。その舞台の匂いが残る映像に仕上がっています。
うさぎの着ぐるみによる、図書館襲撃とラジオ局の電波ジャック。
書いたあらすじは、前半の物語の導入部分です。
4年後、再び皆が集まり、今度はラジオ局を襲います。ぐっと来るという意味では、後半の電波ジャックのほうが大きいかな。
最初は、ただの賑やかな、おふざけの映画かと思ったのですが、それは見事に裏切られます。
事件の裏に隠された、つらく切ない人生の物語。
中川大志演じる剣持聡の口から溢れ出す言葉のひとつひとつが、一度つまづいた人にも、再び生きる勇気を与えていきます。
大人が言うと説教臭くて、若い世代は耳を傾けてくれなくても、中川くんの言葉なら聞いてくれるんじゃないかって、夢と希望を託したくなります(笑)。
閉塞感でいっぱいの今だからこそ、観て欲しい1本です。
ちなみに、この映画は配信でもご覧になれます。視聴方法は公式サイトでご確認下さい。
劇場でも、配信でも、繰り返し観て、“言葉”を噛みしめて欲しい作品です。満点!★5つ。
「FUNNY BUNNY」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.4.20
『SNS 少女たちの10日間』★★★
(満点は★★★★★)


オンライン試写や新作DVDは、なるべく深夜に観るようにしています。
なんとなくですが、感性のレベルが、いい意味で高ぶっている気がして。
ほら、10代の頃、深夜にラブレターや日記を書いて、翌朝読み返すとメチャメチャ恥ずかしくて破り捨てたなんて経験ありませんか?
きっと、何かが下りて来てるんじゃないかなと(笑)。
さ、今週は1本です!

『SNS 少女たちの10日間』は、チェコのドキュメンタリー映画。

今や、世界中で使われているスマートフォン。
幼い女児も当たり前のように、街中でスマホを操作しています。
2017年の秋、ヴィート・クルサーク監督は、チェコの通信会社から、ある動画の作成を依頼されたと言います。
それは、インターネットで“虐待”されている子供たちが急増していることを、世間に知らしめるための動画でした。
「12歳の少女・ティンカ」として、偽のアカウントを取ったところ、わずか5時間で、23歳から63歳までの83名の男性がアクセス。いわゆる性的なコンタクトをしてきたそう。
これを受けて、監督は長編ドキュメンタリーの制作を決意。
オーディションで幼く見える女優を3名選び、偽のSNSアカウントを取り、それぞれに12歳の少女を演じてもらったのです。
場所は巨大スタジオに作った、3つの子供部屋。
心身両面の安全に配慮をし、7つのルールを定めました。
すると、10日間で、なんと2458名の成人男性からアクセスがあり、そのほとんどが性的な目的での“ともだち”申請。中には、子どもを対象にした仕事をしている人間や、祖父以上の歳の男性もいて…。
逆に笑っちゃうぐらいに滑稽だったりもしますが、自分の娘さん(息子さんも?)が、裸の画像を要求されたり、男性器を見せつけられたり、買春の危険にさらされたりしている現実を、親はどれくらい知っているのでしょう?
万国共通のリスクだと思います。
実際、チェコでは、この映画がきっかけとなって、警察が動いたといいます。
幼いお子さんを持つ親御さんは必見。
加えて言えば、インターネットは必ず残ります。歪んだ性衝動を抑えられないという男性も、観たほうがいいと思います。捕まりますよ。まじで。★3つ。
「SNS 少女たちの10日間」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.4.15
『AVA/エヴァ』★★★
『風が踊る』★★★
(満点は★★★★★)


東京都等に、まん延防止等重点措置が適用され、適用地域の映画館は、また20時までに、営業が制限されました。
エンタメは心のビタミンですからね。たまにはしっかり採らないと。
劇場は感染対策を万全にしているので、利用する側もきちんと意識して足を運びたいところです。
さ、今週は2本です!

『AVA/エヴァ』は、美しき女性暗殺者の物語。

組織の一員として、これまで完璧に任務を遂行してきた、女性暗殺者のエヴァ。
ところが、ターゲットを前に、ある疑問が心に浮かぶようになります。
「あなたは、殺されるような何をしたの?」
能力は認めつつも、エヴァは組織にとって、危険な存在になりつつありました。
ある時、重大な任務を任されますが、組織のミスで情報が漏れ、エヴァは命の危険にさらされることに。
あり得ないミスに、組織への不信感が募るエヴァ。
彼女の予感は的中。組織はエヴァを秘密裏に抹殺しようとしていたのです…。

容姿端麗、戦闘能力抜群、陰があって、自分や家族のことで悩みも抱えている女性暗殺者。作品のイメージも、想像がつくかと思います。
97分の映画。組織はいったいどんな組織で、エヴァがはなぜ組織の一員になったプロセスなど、詳細な説明はありません。
ただ、省くところは省いて、この適度な尺にしたことで、よりスピーディーに、よりスリリングに、観る者を魅了することに成功した感もあります。
ひとりの女性に戻れば弱い部分がある。そんなエヴァが見せる、完全無欠のヒットマンと素顔との対比が、この映画の最大の味付けなのでしょう。
主演はジェシカ・チャステイン。他に、コリン・ファレルやジョン・マルコビッチが脇を固めています。
あたまから引き込まれますョ。★3つ。
「AVA/エヴァ」公式サイト


『風が踊る』は、台湾の巨匠、ホウ・シャオシエン監督の1981年作品のデジタルリマスター版。

女性カメラマンのシンホエは、CM撮影で訪れた島で、事故で視力を失った青年チンタイと出会います。
その後、台北で偶然の再会を果たした、シンホエとチンタイ。
シンホエには結婚を考えている恋人がいます。CM監督のローザイです。
ところが、シンホエは徐々にチンタイに惹かれていくんですね。
角膜移植の手術を受け、視力が回復したチンタイは、シンホエに首ったけ。
この三角関係の結末やいかに…。

ホウ・シャオシエン監督のデビュー40周年を記念して行われる「ホウ・シャオシエン大特集」での公開作品のひとつ。
台湾映画の過渡期に当たる頃の監督2作目で、その後、“台湾ニューシネマ”のムーブメントが起きました。
台湾ニューシネマは、それまでの国策映画色の強い作品群と違い、台湾の日常や、社会の問題点にスポットを当てたものが多く、低迷していた台湾映画に活力を与えたと言われています。
この映画のファンは多いようですが、言ってしまえば、突っ込みどころは満載だし、92分でも長く感じてしまうかも(失礼!)。
ただ、歴史を学ぶ意味でも、触れておいて損はないと思います。★3つ。
「風が踊る」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.4.8
『砕け散るところを見せてあげる』★★★★
『ドリームランド』★★★★
『ハウス・イン・ザ・フィールズ』★★★
(満点は★★★★★)


今週紹介する映画のうち、2本は昨春劇場公開予定だったものが、コロナの影響で約1年延期になってしまったもの。
待っていたファンにとっては、うれしいことですよね。
さ、今週は3本です!

『砕け散るところを見せてあげる』は、竹宮ゆゆこのベストセラー小説の実写映画化。

25年前、濱田清澄は高校3年生でした。
ひとりの女子生徒がいじめにあっているのを目撃し、助けようとすると、その子は叫びながら走り去ってしまいます。
彼女は蔵本玻璃。清澄と同じ高校の1年生です。
いじめは続き、今度は公園のトイレに閉じ込められ、ずぶ濡れになっている玻璃を発見します。
近所のクリーニング店のおばちゃんに頼み、制服を乾かしてもらってる間に、ようやく口を開いた玻璃は思いのほか可愛らしく、「自分も先輩のように強くなりたい」と笑顔を見せます。
帰り道、玻璃は自分の生い立ちや家庭環境について語り始めるんですね。
4年前に母が出て行ってから、父と二人暮らしであること。母の家出を自分のせいだと思っている玻璃に、父が「ぜんぶUFOのせいだ」と話すこと。
清澄は玻璃を守ると誓うのですが…。

昨年5月に公開予定だった、中川大志、石井杏奈主演の話題作が、ようやくの公開となります。
あらすじは、ざっくりもざっくり。
映画は“真っ赤な嵐”という18歳の男の子が、父を思うシーンからスタート。そこから、25年前の清澄と玻璃の話へと転換します。
玻璃の家の闇は深く、ストーリーは、青春恋愛物語から、サスペンスホラーへと変わっていくイメージ。
そもそも、UFOって何?って感じですよね(笑)。
あまり多くを語って、ネタバレしてはいけないので、ほどほどにしますが、意外すぎる展開も興味深かったです。
また、主演のふたりが将来を楽しみにさせる名演。加えて、玻璃の父に堤真一ですから、なんとなく想像つきますでしょうか(笑)。
「お待たせしました!」といった感じで、劇場はあなたの来場を待ってると思いますョ。是非!★4つ。
「砕け散るところを見せてあげる」公式サイト


『ドリームランド』は、1930年代のテキサスを舞台にした作品。

1930年代のテキサスに暮らす、17歳のユージン。
母と、再婚した父と、妹との4人暮らし。
義父とはぎくしゃくし、刺激がほとんどない毎日。
ところが、そんなユージンに突然変化が訪れます。
自宅の敷地にある納屋で、大怪我をした女性を発見したのです。
彼女の名はアリソン。銀行を襲撃し、警察に追われている、美しい強盗犯でした。
ユージンはアリソンを匿おうと決意。危険な香りのする年上の女性に、どんどんと惹かれていくユージン。
アリソンはユージンと一緒に、メキシコに逃げようと誘います。
メキシコ。そこはユージンの実父がいるはずの“ドリームランド”だったのです…。

ハラハラドキドキのサスペンス・ラブストーリー。
まだ青い17歳の男の子と、人も殺していると噂の美人銀行強盗犯。
“設定の妙”ですよね。
町で友人と万引きするぐらいしかスリルがない生活に、突然そんな女性が現れたら。
ユージンは背伸びをしながら、アリソンの期待に応えようと頑張ってしまいます。結果、迎える結末は…。劇場でご確認下さい。
ユージンの甘酸っぱい気持ちが、同じ男として、懐かしくわかるだけに(笑)、アリソンがユージンをどう思っていたのか気になって仕方ない。
ひとりの男性として見てくれた?それとも、やっぱり利用しただけ?
そこが知りたくなります。
男女で見方が違う映画かも。鑑賞後に、一杯やりながら話したくなること、必至です(笑)。★4つ。
「ドリームランド」公式サイト


『ハウス・イン・ザ・フィールズ』は、ドキュメンタリー。

モロッコの山奥で暮らす、アマズィーグ族。
アトラス山脈の自然の恩恵を受けながら、何百年にも渡り、ほとんど変わぬ生活を送って部族のある家庭に、ふたりの姉妹がいました。姉のファティマと妹のカディジャです。
妹のカディジャは弁護士になることを夢見ていて、勉強が大好き。
今日も、国王令で男女同権が約束された話を友達としていたほど。
一方、姉のファティマは、親の決めた結婚のため、学校を辞めることになります。カディジャは自分も勉強が出来なくなる日が来るのではと不安がります。
季節は巡り、夏が来て、姉の挙式が盛大に執り行われます。次の日、いつも一緒にいた、大好きな姉の姿はありません。
秋に畑の作物や森の果実を収穫し、冬の厳しい寒さを乗り切り、春には美しい花が咲き、暑い夏を迎える。
そんなアマズィーグ族の生活を、5年に渡って取材。姉妹を通して映したドキュメンタリーです。
観ると、人間の幸せって何なのかを、きっと考えると思いますョ。★3つ。
「ハウス・イン・ザ・フィールズ」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.3.25
『映画 きかんしゃトーマス おいでよ!未来の発明ショー!』★★★
『狼をさがして』★★
『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』★★★
『ロード・オブ・カオス』★★★★
(満点は★★★★★)


1都3県の緊急事態宣言が解除されましたが、送られてくる試写状の多くが、試写室での試写に加え、オンラインやDVDでの視聴も可というものです。
人気の作品は、通路に補助イスを並べてギッシリ、なんて風景が懐かしく思い出されます。今では絶対にあり得ない…。
もう少し、もう少しの辛抱だと信じて、頑張りましょう。
映画館は感染対策もバッチリですから、心身の“心”は、是非映画で癒やしてあげて下さい!
さ、今週は4本です!

『映画 きかんしゃトーマス おいでよ!未来の発明ショー!』は、人気のキャラクター、きかんしゃトーマスの劇場版最新作。

ソドー島に暮らす、トーマスと仲間たち。
彼らはみんな、人の役に立ちたくて、今日も線路の上を走ります。
そんなソドー島で、未来の発明ショーが開催されることになり、世界中から発明家や列車がやって来ます。
アメリカから来たのは、列車が大好きな、若き発明家のルース。彼女の発明は“空飛ぶ車”です。
「ボクたちは要らなくなってしまうんじゃないか」と心配するきかんしゃたちに、ルースは「きかんしゃは史上サイコーの発明よ」と褒め称えるんですね。
しかし、サニーというきかんしゃに乗って、怪しい二人組が島にやって来て、空飛ぶ車の設計図を盗んでしまったのです。
ルースのためにも、自分たちのためにも、事件を解決しようと、トーマスと仲間たちは、力を合わせるのでした…。

大人気シリーズの『きかんしゃトーマス』。
原作となる絵本は1945年にイギリスで刊行された「3台の機関車」という絵本ですから、生誕75年!
日本でアニメの放映が始まったのも、1990年。もう30年なんですね…。あの頃のちびっ子も、今や立派な社会人になりました。
興味深かったのは、最近ではSDGsの要素も織り交ぜているということ。国連とコラボした2018年のシリーズから、女の子機関車を増やし、その結果、女児ファンが急増。ジェンダー問題にも、こうして作品を通して取り組んでいるそうです。
まだ柔らかアタマの幼少期から、こういうことが当たり前に入ってくると、標題として掲げなくても自然と接する下地が出来るんだろうなと、期待しちゃいますよね。
実はボク、昔、トーマスに似てると言われたことがあって、“トーマス長谷川”なんてニックネームがありました(笑)。
今回は、日本の超特急ケンジも出ます。何かと親近感が湧く?最新作です。★3つ。
「映画 きかんしゃトーマス おいでよ!未来の発明ショー!」公式サイト


『狼をさがして』は、韓国人女性監督によるドキュメンタリー。

韓国と日本の、労働問題や人権問題に焦点を当てたドキュメンタリー映画を撮り続けている、キム・ミレ監督。
大阪・釜ヶ崎を取材している中で知った、東アジア反日武装戦線の存在。
1970年代に起こした連続企業爆破事件など、過激なテロ事件を実行したメンバーや、その周囲へのインタビューで、高度成長期の日本の“裏側”に迫った作品です。
ボクはいわゆるノンポリで、思想を持たない人間ですから、こういう作品を観る時に、まったくニュートラルな視点で入ります。
感じたのは、論拠となるものが、一方通行というか、関係者の証言だというところの“危うさ”ですかね。もちろん入念な取材をしているはずですが、それをもっとつまびらかにしたほうがよかったかなと。
物事は、どちらから見るかで、その形は変わるもの。
いつも言う、三角錐は真横から見れば二等辺三角形、真上から見れば円なんですよ。でも、ちょっとズレると、三角錐だとわかる。ただ、二等辺三角形だと言うのも、円だろうと言うのも、決して間違いじゃない。一方通行とは、そんな感覚でしょうか。
ある意味、★を打つこと自体が違うのかなという作品ですが、映画という括りで評価させてもらいます。★2つ。
「狼をさがして」公式サイト


『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』は、音楽ドキュメンタリー。

ドイツ生まれ、イギリス育ちの、作曲家でミュージシャン、マックス・リヒター。
クラシックにシンセサイザーなどの電子音楽を融合させた“ポスト・クラシカル”を代表するアーティストです。
映像作家でもある妻のユリア・マールが、世界中を飛び回る夫の公演を、「今は家にいながら配信で観られるから、いつも一緒にいる気分だ」と語ります。
ただ、子育てに疲れ、演奏中に寝てしまうこともあると。
そんな時、「夢の中のような空間の境界を漂っていて、目覚めるとその世界が広がっていく。音楽の聴こえ方が一変し、感情を揺さぶられるような全く新しい音楽体験をした」と夫に伝えるんですね。
するとリヒターは笑いながら、「それはボクも前から考えていた」と言ったとか。
リヒターは、睡眠と音楽の関係性について、脳科学者と研究を重ね、睡眠状態に適した音楽を作り上げます。
それが、8時間にも及ぶ楽曲「スリープ」なのです。
映画は、2018年、アメリカ・ロサンゼルスのグランドパークで行われた、初の野外公演の模様を収録したもの。
指定席ならぬ、“指定ベッド”に次々と観客がやって来ます。寝てもいいし、歩いてもいいという、制約が一切ない中で、8時間の演奏がスタート。ミュージシャンも順に休憩を取りながら、演奏を続けます。
興味深いのは、低周波のサウンドは子宮の中にいるのと同じ状態だそうで、「スリープ」は、そんな低周波サウンドで満たされているんですね。
そして終盤、高周波の音が入ってきて、目覚めると、人は皆、もう一度生まれ出た感覚になるのだというのです。
妻のユリアが感じた感覚が、まさにそれなのでしょう。夜明けを迎えた観衆の表情を見ると、なるほどそうなのかなとも思ってしまいます。チケットが即完なのも納得かな。
心配なのは、映画を観ているうちに、観客が眠くなっちゃうんじゃないかということ。でも、それはそれで、成功の証しなのかもしれませんね(笑)。★3つ。
「SLEEP マックス・リヒターからの招待状」公式サイト


『ロード・オブ・カオス』は、ノルウェーに実在するブラック・メタルのバンド、メイヘムの狂気を綴った物語。

1980年代、ノルウェーの首都、オスロ。
19歳の青年、ユーロニモスは、仲間とバンドを結成し、“真のブラック・メタル”を追求するバンド「メイヘム」のギタリストとして活動していました。
スウェーデンからやってきたボーカルのデッドが加入してからは、パフォーマンスに過激さが増します。
デッドがステージで自らの身体に刃物を刺し、切り刻み、血まみれになって絶叫する姿に、ファンは熱狂。しかし、そのデッドがショットガンで頭を撃ち抜き、自殺。
その遺体をユーロニモスはカメラに収め、後にアルバムのジャケットに、その遺体写真を用いたのです。
一連の行動の中で、ユーロニモスがカリスマ化していくと、代わってボーカルとして参加したヴァーグは、次々と教会に火をつけるなど、過激な行動はエスカレート。
こうしたバンド内での主導権争いが、さらなる悲劇を呼び起こすことになったのです…。

実は、深夜寝る前にベッドの中で試写用DVDを観て、眠れなくなってしまった映画。
ブラック・メタルにあまり明るくないので、下手に書くとファンに叱られてしまいますが、ブラック・メタルとは「ヘヴィメタルのサブジャンルのひとつ」とウィキペディアにはありました。
サタニズム(悪魔崇拝)を掲げ、反キリストを謳うバンドも多く“邪悪さ”を美とするよう。
1983年に結成された「メイヘム」も、そんなバンドのひとつ。
ただ、この作品を観ていてわかるのは、メンバーの多くが“普通の青年”だったということ。
事実に基づいていたとしても、完全に事実とは限りませんが、ユーロニモスの小心ぶり、バンドと最初にコンタクトした時のヴァーグの実の姿。“引けなくなってしまった”若者たちの、若さゆえの悲哀があると感じました。
「嘘はつき続けると、嘘でなくなる」と言います。そんな感じで、自分でも境界線を失ってしまったのかもしれませんね。
メガホンをとった、ジョナス・アカーランド監督は、自身もスウェーデンのブラック・メタルバンドでドラマーだったそう。時期を同じくするバンドマン目線ゆえの、リアリティに満ちているはずです。
ただ、とにかく過激です。体を傷つける映像、人を刺す音…。リアル過ぎて、R18+指定となってます。
ちなみに、ユーロニモスには、あのマコーレー・カルキンの弟、ローリー・カロキンが扮しています。★4つ。
「ロード・オブ・カオス」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.3.10
『アウトポスト』★★★
『ワン・モア・ライフ!』★★★
(満点は★★★★★)


先日、中高同級生の篠原哲雄監督に勧められ、岩波ホールで12日(金)まで上映中の『モルエラニの霧の中』(坪川択史監督)を観てきました。
北海道の室蘭を舞台に、7つの章からなる、214分の作品。
撮影開始から7年。大杉漣さん、小松政夫さんらキャストだけじゃなく、たくさん参加してくれた市民エキストラの中にも、スタッフにも、公開を待たずに旅立ってしまった方が何人もいらしたそう。
コロナが憎いですね…。
「それでも時は流れる。人は生きていかなくてはならない」。
観た後に、そんな言葉が心に浮かび上がりました。
まもなく、東京・神保町の岩波ホールでの上映は終了しますが、またどこかで作品の名を見かけたら是非!
ちなみに、モルエラニはアイヌ語で「小さな坂道をおりた所」。室蘭の語源のひとつだそうです。
さ、今週は2本です!

『アウトポスト』は、実話に基づく、アフガニスタンでの戦闘の物語。

アフガニスタンで、タリバンとの戦いを繰り広げていたアメリカ陸軍。
その重要拠点とされていたのが、北東部に位置するキーティング前哨基地でした。
今日も新たな兵力が送り込まれたのですが、到着した兵士たちは、基地の置かれた状況に愕然とします。
四方を山に囲まれた谷底にあり、防御の面では実に脆弱な場所。
部隊は、地元の長老たちに、アメリカがタリバンから住民を守り、生活を良くすると説得し、協力を仰ぐしかなかったのです。
ところが、2009年10月3日、住民の姿が完全に消えると、恐れていた事態が現実となります。
基地が全方位から包囲され、タリバンの精鋭部隊による、一斉攻撃が始まったのです…。

後に“カムデシュの戦い”と呼ばれた、14時間にも及ぶ、アフガニスタン紛争で最も過酷な戦闘を描いた作品。
実話ですから。凄いです。
極限状況に置かれた中で、人は人であることが出来るのか?
自分の命をかえりみず、仲間を助けようとする姿に感動を覚えると共に、戦争の愚かさを感じずにはいられなくなります。
人間という生き物は、争わなくてはいられないらしく、今もどこかで必ず紛争は起こっています。
ボクは人がたくさん死ぬ映画は苦手ですが、こういう作品がより残虐に戦争の実態を描くことで、その恐ろしさや愚かさに気付かせてくれればとも思ってしまいます。★3つ。
「アウトポスト」公式サイト


『ワン・モア・ライフ!』は、イタリアのヒューマン・コメディ。

港の技師として働くパオロ。
彼には妻のアガタと、娘のアウオラ、息子のフィリッポがいましたが、誰かれかまわず浮気はし放題。娘を乗せた車でも、自分勝手な理屈をつけ、迷惑駐車も厭わず、「信じられない。最低っ!」と罵られる始末。
そんなパオロはスクーターで仕事に向かうのですが、楽しみのひとつが、これまた自分勝手な理論ですり抜ける赤信号。これまでは毎日成功してきたのが、この日はそうはいかず。猛然と突っ込んできたバンと激突し、あえなく即死してしまったのです。
天国の入口で、役人のチェックを受けるパオロ。
健康のために生姜入りスムージーを飲んでいたのに、こんなに早く死んでしまったのでは意味がないじゃないかと食ってかかると、役人の表情が曇ります。
スムージーの記載がないと言うのです。
審議の結果、その分、地上に戻って生きていいという採決が下るのですが、与えられた時間は92分。
果たして、パオロはこの僅かな時間で、家族との絆を取り戻すことが出来るのでしょうか…。

いかにもイタリアのコメディといった感じの映画でした。
舞台は、シチリア島のパルレモ。
イタリア人気質というか、国民性がいい味を出していて、もしこれを日本で作ったとしたら、まったくと言っていいほどの別物になってたはず。
ただ、ひとつ思ったのは、人生なんて、いつ突然終わっても、確かに不思議はないんだということ。
でも、現実は映画のようにはいきません。たとえ92分でも、戻ってくることはあり得ないのですから。
悔いのないようにと口では言えても、悔いのない人生なんてあり得ないのも事実。
毎日をいかに納得して生きるか。ツラさもバネ。跳ねる前に終わったとしても、納得のツラさなら、これもまたよしとしなくちゃね…。なんてことを考えちゃいました。
コーヒー好きの役人が、パオロの監視役として付いてくるのですが、カフェでの注文の煩雑さに怒り心頭。わかる、わかるなぁ(笑)。★3つ。
「ワン・モア・ライフ!」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.3.3
『野球少女』★★★★
(満点は★★★★★)


先日観た試写用のDVDで、出演者がコロナ対策のマスクをしているという映画がありました。
これが2020年、2021年のリアルということなんでしょうね。
もし、これがいつまでも続くようだと、ライトなSF映画の世界みたいじゃないですか?
だって、少し前まで、そんな日常は想像も出来なかったのですから。
“新しい生活様式”なんて言葉が生まれても、いつかは外せる日が来るんですよね。なんか心配になってきた…(^^;)
さ、今週は1本です。

『野球少女』は、韓国映画。

小中学生の頃は“天才野球少女”と呼ばれ、男子に混じっても大活躍だったチュ・スイン。
韓国で20年ぶりの高校野球の女子選手となり、一躍、時の人になったのですが、高校卒業を前に、プロ野球から声がかかったのは、チームメイトで幼なじみのイ・ジョンホでした。
スインの父は仕事が見つからず、母が家計を切り盛り。幼い妹もいて、母親からは、早く野球なんか辞めて、就職して欲しいとキツく言われます。
それでもプロ野球選手への夢を諦めきれないスイン。トライアウトを受けたいと、球団に直談判に行っても、門前払いをくらってしまいます。
新たなコーチとして、スインの高校にやってきたジンテも、「女子も男子も関係ない。お前に実力がないだけだ」と突き放します。
それでも懸命に練習に励む姿に、少しずつ考えが変わるジンテコーチ。
二人三脚の練習に、一筋の光明が差すのですが…。

韓国には、女性のプロ野球選手がひとりだけいたそうです。公式試合で先発登板を果たした、アン・ヒャンミ投手。彼女をモデルに物語を作ったそう。
男女を分けている競技には、男子バレーとか、女子サッカーとか、性別が前に付くけれど、野球にはそれがないから、女子に門戸が閉ざされているわけじゃない、という考えもあるみたいですね。なるほどなぁと。
日本でも野球をこよなく愛する女子がたくさんいて、“女子プロ野球”も立ち上がりましたが、現実問題として、運営はなかなか難しかったようです。
ジェンダーイクオリティが言われる今、野球に限らず、いろんなことを考える契機になる1本かもしれません。
ちなみに、スインに扮するのは、韓国のテレビドラマ『梨泰院クラス』で人気を博したイ・ジュヨン。吹き替えなしで頑張ったそうです。★4つ。
「野球少女」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.2.26
『カポネ』★★★★
『三月のライオン』★★★
『ステージ・マザー』★★★★
『ナタ転生』★★★★★
(満点は★★★★★)


新作映画の試写は、オンラインやDVDでの視聴が増え、試写会に足を運ぶことが少なくなって、しばらくが経ちます。
考えてみたら、会場を貸している試写室も、試写会が減って、経営上悲鳴をあげているんじゃないでしょうか。自社の試写室を持たない配給会社は、そういったレンタルの試写室を使ってましたから。
枝葉の先、根っこの先にまで、影響が及んでいるコロナ禍。改めて、早く収束して欲しいものです。
さ、今週は4本です!

『カポネ』は、伝説のギャング、アル・カポネの最晩年を描いた伝記映画。

脱税の罪で連邦刑務所に収監され、11年の刑期を終えて出所した1939年、あの悪名高きギャングのアル・カポネは、梅毒の進行が原因で、初期の認知症を患っていました。
まるで脱け殻のようになったカポネに対し、FBIは仮病を疑っていたのです。なぜなら、1000万ドルはあるとされる隠し財産を守るための演技だと見ていたから。
フロリダの大豪邸に移り、家族や友人に囲まれ、穏やかに過ごしていたカポネでしたが、日に日に病状は悪化。排泄にも不自由になり、オムツを付け、見るものも何が現実で、何が幻なのか。家財道具を売っても生活費が底をつき始めます。
“暗黒街の帝王”と呼ばた頃の、最恐のギャングスタの面影は、消えたかのように思えたのですが…。

禁酒法時代のシカゴで暗躍し、世界で最も有名なギャングとして、これまでにも数多くの映画やドラマで描かれてきた、アル・カポネの生涯。
しかし、彼の最晩年を扱ったものは初めてで、実話に基づいたとされる作品です。
アル・カポネを演じたのは、トム・ハーディ。毎日4時間かけて特殊メイクを施し、象徴とも言える左頬の切り傷を作ったそう。
老いようが、認知症が進もうが、根底にある“狂気”は消えることなく根付いている。それが逆に周りの人々に苦悩を与えるんですね。
この映画の一番の見どころは、トム・ハーディの役者魂。言われなかったら、彼だとはわからないはず。
深く刻まれた額のシワ、鋭い眼光を隠すかのように細めた目。常に葉巻をくわえ、苦みばしった表情の、細部のひとつひとつで、カポネの心の奥底を表現しようとしている様は、職人の技。
プロフェッショナルな仕事に拍手です。★4つ。
「カポネ」公式サイト


『三月のライオン』は、1992年に公開された映画のデジタルリマスター版。

ハルオとナツコは兄妹。ナツコは兄のことが大好き。
ハルオが記憶喪失になって、入院することになった時、ナツコは兄の恋人だと偽り、名前もアイスに変えて、ハルオを病院から連れ出します。
ふたりは同棲生活をスタート。アイスは身体を売り、ハルオは解体の現場で働き始めます。
アイスをひとりの女性として意識し始めたハルオは、アイスと肉体関係を持ってしまうんですね。
ところが、作業中に釘が刺さり、染み出てきた血を舐めると、ハルオの記憶が戻ります。
アイスがナツコだということも思い出し、自分の行動に泣き崩れるのでした…。

同名映画に、将棋マンガを映画化したものもありますが、それとは違い、矢崎仁司監督、92年の作品のデジタルリマスター版です。
タブーとされる近親相姦の映画ですが、海外での評価も高かったよう。
矢崎仁司監督作品では、昨年『さくら』という映画が公開になりました。兄妹3人を中心に、バラバラになった家族の再生の物語でしたが、ここでも小松菜奈演じる妹の美貴は、吉沢亮演じる長男の一を異性として意識していた。
矢崎仁司監督ファンは、ナツコと美貴を重ね合わせて見る向きも多かったとか。
どちらにも共通して感じるのは、繊細というより、あまりに脆すぎるということ。
個人的にはわからない感情ですが、そんな愛の形も、世の中にはあるのかもしれませんね。★3つ。
「三月のライオン」公式サイト


『ステージ・マザー』は、自分らしく生きることを描いたハートウォーミングストーリー。

テキサスの田舎町で暮らすメイベリン。彼女には、疎遠になっている息子のリッキーがいました。
実はリッキー、サンフランシスコのゲイバー“パンドラ・ボックス”の人気ドラァグクイーンで、店の経営者。
保守的なテキサスでは、そのことをつまびらかには出来ず、夫に至っては、息子の存在を恥じるかのようにしていたのです。
そんなある日のこと、リッキーの訃報が届きます。
薬物の過剰摂取で、ショーの最中に倒れ、息を引き取ったと言うのです。
行くなと止める夫の反対を振り切って、葬儀に参列するメイベリン。すると葬儀は華やかなパーティーのよう。
いたたまれなくなって席を立った、敬虔なクリスチャンのメイベリン。
翌日、リッキーのパートナーで、店の共同経営者でもあるネイサンに会いに行くも、冷たくあしらわれてしまいます。
しかし、息子の突然の死で、店の経営権が、親であるメイベリンにあることが判明したのです…。

サンフランシスコのカストロ・ストリートにあるという設定のゲイバー、パンドラ・ボックス。この通りは、世界有数のLGBTQコミュニティの拠点だそう。
そこに、教会の聖歌隊で歌を指導するような、敬虔なクリスチャンのメイベリンが足を踏み入れたのですから、さぁ大変。
リッキーの親友でシングルマザーのシエナと出会い、シエナの家に居候。メイベリンは、ネイサンはもちろん、店のドラァグクイーンたちとも徐々に打ち解けていきます。
夫からは、いつ戻るんだと矢の催促ですが、人気者のリッキーを失った店の売り上げは右肩下がり。大切な息子が遺した店を立て直すため、獅子奮迅のメイベリンは、自分でも気付かなかった、いや、気付いていても封印していた才能を発揮するんですね。
活き活きと立ち回るメイベリンは、店のみんなにとって、寮母さんみたい(笑)。
母の愛情と、いくつになっても頑張れるんだという、温かい勇気をもらえる1本です。★4つ。
「ステージ・マザー」公式サイト

『ナタ転生』は、中国の3DCGアニメーション。

雲祥はバイク好きで、正義感の強い青年。彼の周りには仲間もたくさんいて、厳しい環境であっても、懸命に働いて、毎日を生き抜いていました。
ある日のこと、水の権利を独占し、人々を支配している徳興グループの徳会長の息子、三公子が雲祥のバイクを狙います。
抵抗する間に、後ろに乗っていた幼なじみの少女カーシャが片足を切断する大事故に。
その時でした。怒りに燃える雲祥の体が、真っ赤な炎に包まれたのです。
実は、雲祥は3000年以上前の世界で、ケタ違いの魔力を持っていた少年神・ナタの生まれ変わり。
徳会長はその時も絶大なる権力を持っていた東海龍王の、また三公子は東海龍王の息子である三太子の生まれ変わり。彼らは、その昔も敵対する関係にありました。
因縁はこの時代にも続いていたのですが、雲祥は自分の前世に気づいていません。
徳会長たちは、転生したナタを始末しようと、市民をも巻き込んだ戦いを始めます。
仲間や大切な人を守るためには、ナタの魂を呼び起こす必要があります。雲祥は、ナタとして覚醒することが出来るのでしょうか…。

メチャメチャ面白かったです!
すごく失礼な言い方ですが、資料にあるキャラクターの顔のタッチに、B級CGアニメぐらいの先入観で観たのですが、いやいやとんでもない!建物や風景描写の繊細さ、神や魔界のもののダイナミックさにビックリ!
人物だけ、あえての質感にしたのかもしれませんね。
“謎の仮面男”なるキャラクターが登場しますが、その顔の緻密さを見てもらえば、言っていることがわかってもらえるかと思います。
実は、中国ではこれまでにも映画化や舞台化されている『封神演義』という、中国人なら誰でも知っている、400年前の明の時代に書かれた神話小説を元にした作品で、レトロと近未来、人間と神とが同居する形で描かれた、いかにも中国といった舞台設定。
ナタは、中国ではおなじみの、わんぱくな少年神なんだそう。
この『封神演義』についての解説が、公式サイトにあるので、絶対に読んでから観ることをお勧めします。生まれ変わる前の因果関係、現世でのディテールがわかりますから。
ストーリーも秀逸。『鬼滅の刃』が好きなら、これも絶対に楽しめると思いますが、どうでしょう?
凄まじいスピード感で進む117分。中国アニメ、侮るなかれです。満点!★5つ。
「ナタ転生」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.2.17
『モンテッソーリ 子どもの家』★★★
『藁にもすがる獣たち』★★★★
(満点は★★★★★)


ボクの中高同級生の篠原哲雄監督からメールが来て、岩波ホールで上映中の『モルエラニの霧の中』という作品が必見だと。
調べたら、7話形式で、上映時間が3時間35分。途中休憩を挟む大作でした。
出演者を見ても、大杉漣さん、小松政夫さんなど、近年亡くなった名優を始め、興味深い名前が並びます。
岩波ホールで、1日2回しか上映されていないので、「よし、観るぞ」という感じで観て来たいと思います。
さ、今週は2本です!

『モンテッソーリ 子どもの家』は、フランスのドキュメンタリー。

幼児教育のドキュメンタリー映画。
“GAFA”と呼ばれるアメリカIT大手の各創業者や、イギリスのロイヤルファミリーであるウィリアム王子、ヘンリー王子、日本でも将棋の藤井聡太二冠が受けたという、モンテッソーリ教育。
20世紀初頭に、イタリア出身のマリア・モンテッソーリが考案した教育法で、今では140以上の国に普及しているとか。
映画は、フランス最古のモンテッソーリ学校の幼児クラスに密着。2歳半から6歳までの子どもたちを、2年3ヶ月の間、カメラに収めたものです。
教室の中には、様々な道具が置かれていて、遊具というよりは教具。遊びは“お仕事”と言われ、子どもたちが自由に過ごせる空間に。
ただし、そこには互いを尊重するルールがあり、先生はそれについて助言をしたり、相談に乗ってあげる存在。
ボクらには、幼い頃の記憶は無くても、潜在下に築かれたものがある。まっさらのスポンジのような感性に吸い込まれる教育ですから、人格形成の一端は間違いなく担っているはず。もしかしたら、大部分なのかも?
上のクラスに上がるに従って、子どもたちが確実にお兄ちゃん、お姉ちゃんになっていく成長を、カメラは捕らえています。
“教育”は永遠の課題で、“正解”がないから難しい。というか、何が“正解”なのかという話からかも。“成功”も然りかな。
娯楽映画ではありません。親である、あるいはこれから親になる人にとっては、選択肢のひとつとして観ることをお勧めしたいですね。★3つ。
「モンテッソーリ 子どもの家」公式サイト


『藁にもすがる獣たち』は、日本の犯罪小説を韓国で映画化した作品。

家業が廃業になり、サウナ従業員のアルバイトで生計を立てているジュンマン。彼には、妻と認知症の母親がいました。
ある日のこと、ロッカーの中に、忘れ物のバッグを見つけます。開けてびっくり、中にはなんと10億ウォンもの大金が入っていたのです。
このバッグを倉庫の奥に隠すジュンマン。
ところが、このバッグにはたくさんの因縁がまとわりついていたのです。
株式投資に失敗し、夫のDVに悩む主婦のミラン。
ミランの悩みに乗るクラブ経営者のヨンヒもまた、過去を清算したい、したたかな女性。
恋人が多額の借金を残して失踪し、悪徳金融から追い込まれている出入国審査官のテヨン。
このバッグの中の大金を巡り、それぞれの思惑が複雑に絡まり合って、凄惨な物語は進んで行くのです…。

最近、よく言う言葉ですが、韓国映画は面白い!
原作は、曽根圭介の同名小説です。
簡単に書いたあらすじ以外にも、登場人物はたくさんいて、軸となるキャラクターを中心に、それぞれの物語が展開。それが徐々に交わっていき、最後にはひとつになるという。
予定調和ではない、スリルとサスペンス。まさにタイトルの通り、藁にもすがりたくなる面々。気持ちはわかるけど、因果応報。“不幸のバッグ”の行方やいかに…。
容赦のない、残虐なシーンもまた、この映画のいいスパイスになってます。★4つ。
「藁にもすがる獣たち」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.2.1
『ツナガレラジオ 僕らの雨降Days』★★
『秘密への招待状』★★★★
『マーメイド・イン・パリ』★★★★★
(満点は★★★★★)


先日、NACK5のパーソナリティの大先輩、大野勢太郎さんと映画談義。
大野さんが観たいと言った作品が、ボクが試写用にDVDを借りた映画だったので、「宣伝担当の人にきちんと確認して、OKが出たらお貸ししましょうか?」と言ったら、「いいよ、公開になったら映画館に行くから。ほら、劇場も困ってるからさ」と。
さすがです(^-^)
ボクもオンラインやDVDで拝見したら、気に入った作品は映画で改めて観るぐらいじゃないとなぁと思いました。
先輩、勉強になります!
さ、今週は3本です!

『ツナガレラジオ 僕らの雨降Days』は、ニッポン放送のwebラジオ番組のパーソナリティらによるオリジナルストーリー。

神奈川県伊勢原市の大山。別名、雨降(あふり)山と呼ばれるこの山の登山道には、多くの店が立ち並んでいました。
地元に暮らすニガリは、昔、父がやっていたコミュニティーFMの“あふりラジオ”を復活させたいと立ち上がり、そこに様々な経歴、悩み、志を持つ若者10人が集まります。
地元のためにと、観光協会とタッグを組んで始めたインターネットラジオ版の“あふりラジオ”でしたが、トラブルが続出し、なかなか上手くいきません。 このままでは存続が難しくなる。10人は知恵を絞るのですが…。

ニッポン放送のPodcastの配信番組「おしゃべや」に出演の若手俳優10人がメインの作品。
ボク自身、キャリアのスタートが、1990年にニッポン放送が湘南に作った、期間限定のミニFM局『サーフ90FM』だったので、すごく親近感と期待感を抱いて試写に行ったのですが…。
根本的に何をしてラジオというか。
radikoしかり、インターネットで聴くラジオは否定しませんが、そこに映像が付いたら、それをラジオと言うのかというのは、個人的には疑問です。ラジオにはラジオの良さがあって…と、これについては、また改めてお話しましょう。
この映画で若者がやっているのは、まさに映像の生配信。描かれていたようには、人の心はそんなに簡単に開きません。
同業なので、コメントが厳しくてごめんなさい。ボクが時代遅れなだけかかな(笑)。
番組ファンには喜ばれる作品かもしれません。★2つ。
「ツナガレラジオ 僕らの雨降Days」公式サイト


『秘密への招待状』は、2006年のデンマーク映画をハリウッドリメイクした作品。

イザベルは、高き理想を抱いたアメリカ人女性。
今はインドに渡って、孤児の救済事業に携わり、施設運営のための資金調達に奔走する日々。
そんなイザベルに、ニューヨークのメディア会社の経営で財を成したテレサという女性から、多額の寄付の話が届きます。
条件は、イザベルが直接テレサに会いに来ること。
あまりに急な案件でしたが、イザベルはニューヨークへと飛び立ちます。
テレサには夫と娘、さらにまだ幼い2人の息子がいて、娘のグレイスが結婚式を挙げるので、イザベルにも是非出席して欲しいというのです。
すぐにでもインドの孤児たちの元に戻りたいイザベルでしたが、支援を受けるためにはNOとは言えず、出席を承諾。
しかし、結婚式で見たテレサの夫オスカーはイザベルが18歳の時に別れた恋人で、新婦のグレイスはふたりの間に産まれた女の子だと知るのです…。

面白かったです。
オリジナルとなった、2006年のデンマーク映画「アフター・ウェディング」は、アカデミー賞の外国語映画賞にノミネート。
それを女優のジュリアン・ムーアが気に入って、プロデューサーとしてハリウッド版でリメイク。
オリジナルでは男性ふたりが主人公だったのを女性に替え、主演のひとりを自らが演じ、監督は夫のバート・フレインドリッチが務めました。
薄皮を一枚ずつ剥がしていくように、ストーリーが見えてくる。そこに、ぐいぐいと引き込まれていきます。
大枠の流れは予想通り。
でも、登場人物の個々人が、どんな価値観を持って、自分の人生にどんな選択をするのか。
最終的にはそこに興味と関心が向きます。
ミステリーの要素も含んだヒューマンドラマ。おすすめです。★4つ。
「秘密への招待状」公式サイト


『マーメイド・イン・パリ』は、フランスのファンタジー作品。

セーヌ川に浮かぶ舟で営業している、老舗のバー“フラワーバーガー”。
実は店の奥には扉があって、中ではサプライザーと呼ばれるパフォーマーたちが、素敵なショーを繰り広げていたのです。
ガスパールは、オーナーの息子で、人気のサプライザー。
パリに記録的な雨が降り、街が浸水してしまった後のこと、ガスパールは川のほとりで、傷ついた人魚を発見します。
慌てて彼女を自宅アパートに運び、浴槽に入れるガスパール。
人魚の名はルナ。歌うとみんな彼女に恋をし、心臓が破裂して死んでしまうと言います。人間から自分を守るために身に付けた能力。
警戒したルナは、ガスパールに向かっても歌を歌ったのですが、彼は何ともない様子。なぜならガスパールは大きな失恋を繰り返し、もう恋が出来なくなっていたから。
献身的に介護をするガスパールに、徐々に心を開くルナ。ガスパールもルナに恋心を抱き始めるのですが、同時に心臓に痛みを感じ始めます。
2回太陽が昇る前に、海に帰らないと命を失うというルナのために、面白いサプライズをたくさん見せてあげたいと、ガスパールは行動に出ます。
ところが、夫をルナの歌で失った女医のミレナが、ルナを拘束し、研究材料にしようと狙っていたのです…。

マチアス・マルジウ監督の執筆した小説を、自らが映画化。
まずは、単なるファンタジー作品だと思わないこと。マチアス・マルジウ監督は“フランスのティム・バートン”と呼ばれる奇才。まさにあのイメージです。
劇中にも、奇抜な仕掛けの付いた“飛び出す絵本”が出てきますが、作品全体がまさに“飛び出す絵本”。フラワーバーガーの店内も、ガスパールのアパートの部屋も夢いっぱい!
それでいて、大人のラブストーリーが展開されているのですから、監督の才能の豊かさを感じずにはいられません。
2016年、実際にパリに記録的大雨が降り、洪水で、セーヌ川に魚やカモが打ち上げられていたそう。それにインスピレーションを得て、同名小説を書いたとマルジウ監督は語ります。
また、恋する心をなくしてしまった男女にも、出会いはいつ訪れるかわからないからと。
ね、信じたい…(笑)。
フランス映画は、どちらかというと苦手なボクですが、この映画は最高!様々な免疫力がUPするかもしれません?
満点!★5つ。
「マーメイド・イン・パリ」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.2.3
『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』★★★
(満点は★★★★★)


緊急事態宣言の3月7日までの延長で、再び映画館の困窮が言われてます。
以前も書きましたが、感染の危険性がものすごく低いのが映画館。マスク着用なら、ちょっと笑ったぐらいじゃ、飛沫も飛びませんから。
映画館が感染対策をしてお客さんの来館を待っているなら、行く側もその意識をしっかり持って、劇場で映画を楽しむのは、人間の文化的生活の一部だとは思うのですが。
さ、今週は1本です!

『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』は、ドキュメンタリー。

21世紀の今も存在し、裏で世界の政治や社会、経済を支配しているのではないかという“都市伝説”のある組織、イルミナティ。
1776年に、アダム・ヴァイスハウプトによってドイツで作られた秘密結社で、1785年には禁圧されたとあるイルミナティが、なぜ今も“闇の”とか“影の”と噂になっているのか。これまで一切明らかにされてこなかった儀礼や、階級の詳細、発展のプロセスや歴史を、複数のイルミナティ研究家が解説しています。
ボクはもちろん詳しくないのですが、作品を観て自分なりに理解したところでは、当時はキリスト教の教会勢力が強く、教義以外を自由闊達に語ることが許されていなかったと。そんな中、大学教授だったヴァイスハウプトは、数名の学生と共に組織を作ったのですが、表立って議論が出来なければ、それは“秘密”となるわけで。悪魔崇拝とかではなく、人間が善として昇華するための啓蒙思想の組織だったよう。
さらに、既に巨大勢力だったフリーメイソンに潜伏し、そのメンバーを勧誘するなどして、大きくなっていったイルミナティ。
神に対する考え方や、死生観など、宗教的な部分はもちろんのこと、秘密を守り、組織への忠誠を誓う儀式のイメージが“裏”の印象を植え付けたのか、それとも実際に“闇”の組織なのか…。
宣伝のキャッチフレーズが、「観ると、消される。」ですから、あまり下手なことは書けませんが(笑)、まずは下勉強をしてから観たほうが、面白いと思います。
キーワードは、“イルミナティ”“フリーメイソン”“啓蒙思想”。このあたりかな。インターネットで調べてみて下さい。
つい最近でも、アメリカのトランプ前大統領の支持者の中に、ある団体の陰謀論を真剣に唱える人がいましたもんね。
信じるか、信じないかは、あなた次第です(笑)。★3つ。
「イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.1.28
『天国にちがいない』★★★
(満点は★★★★★)


先日、2020年のお気に入り映画を挙げておきましたが、いかがでしたか?
さかのぼった時、やはり印象に残っている作品というのは、タイトルを見ただけで「あっ」と思い出しますよね。
公開終了でも、今は様々なツールで観られるはず。チャンスがあったら、是非ご覧になってみて下さい!
さ、今週は1本です!

『天国にちがいない』は、パレスチナ系イスラエル人監督のエリア・スレイマン最新作。

映画監督のエリア・スレイマンは、パレスチナのナザレにある自宅で、のんびりと過ごしていました。
彼の家の庭にあるレモンの木から果実をもぎ取る隣人、走り去る物騒な男たちの集団、レストランで食事にクレームをつける客と機転を利かせて解決するウェイター、目隠しをされた女性を乗せて走るパトカー。
彼はそれらの出来事を黙って眺めながら、日常を過ごしていました。
ふと思い立った彼は、旅に出ます。
パリ、ニューヨーク。
異国の日常に身を置き、何かを感じ、そして再び、ナザレの町に戻ってきたのです…。

あらすじを読んでも、まったくピンと来ないと思います。すみません(笑)。
この映画、監督自らが主演し、劇中のエリア・スレイマンとしてのセリフは2つだけ。
ニューヨークでタクシーに乗った時、ドライバーから尋ねられて答えた、「ナザレ」、「パレスチナ人だ!」。
資料にあった監督の言葉を紹介すると、「私の映画が、これまでパレスチナを世界の縮図として描くことを目指していたなら、『天国にちがいない』は世界をパレスチナの縮図として提示しようとしている」。
暴力、パトカーのサイレンの音、検問所などは、何もパレスチナだけに存在するものではないんだ、ということなんですね。
ユダヤ人によるイスラエル建国宣言によって、先住のアラブ人は国外に逃げて難民になるか、残ってイスラエル人になるかの選択を迫られたと。エリア・スレイマン監督は後者の“パレスチナ系イスラエル人”としてナザレに生まれます。
複雑な環境にある故郷で、アイデンティティを考える、また映画でユーモアと皮肉をたっぷり込めて訴える。
それでも、こんな状況は世界中どこに行っても同じなんじゃないかと。
例えば、笑顔で他人の家のレモンを取っていく隣人も、強面クレイマーから平和的に事を解決するウェイターも、何かを何かに置き換えれば、監督が表現したかったであろうことが見えてくるはず。
パリでも、ニューヨークでも、ショートショートの短いストーリーを積み重ねて、エリア・スレイマンの旅は続きます。
タイトルの意味も、なんとなく…ねっ。
エリア・スレイマンが“現代のチャップリン”と評されるのも納得です。★3つ。
「天国にちがいない」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.1.21
『KCIA 南山の部長たち』★★★★
『どん底作家の人生に幸あれ!』★★★
(満点は★★★★★)


緊急事態宣言中に、ボクは“家の大掃除をします宣言”を発出。
今、多くのスペースを取っているもののひとつが、映画の資料なんです。
試写会の際にもらったマスコミ用プレスを、25年前からすべて取ってあるので、これが段ボールや袋に詰まってメチャメチャある。
どうしたらいいと思います?
捨てるのもなぁ…。思案のしどころです(笑)。
さ、今週は2本です!

1979年10月26日、パク・チョンヒ大統領が、射殺されます。
犯人は諜報機関であるKCIA(中央情報部)の部長で、韓国No.2の権力者とも言われた、キム・ジェギュ。
話は、暗殺の40日前にさかのぼります。
軍事クーデターによって最高権力の座に就いたパク・チョンヒ大統領は、いわゆる独裁者。その腐敗を、亡命先のアメリカ
院議会の聴聞会で証言したのが、KCIAの元部長のパク・ヨンガク。さらには回顧録も執筆していると知り、パク大統領
激怒するんですね。
大統領の側近、クァク・サンチョン警護室長は、KCIAに責任があると、キム部長を責め立てます。
キム部長はアメリカに飛び、友人でもあったパク元部長に会って、真意を尋ねます。
「大統領にとって、No.2は要らないんだ」。
パク元部長はそうこぼします。
母国のために奔走するキム部長でしたが、国内では民主化運動の激化など、問題が多発。大統領にとって、国民の声などただの騒音にしか聞こえず、取り巻きはそれを是とする。
そこに権力争いも加わって、キム部長は追い詰められていきます。
韓国映画は相変わらずレベルが高い。面白かったです。
パク・チョンヒ大統領の暗殺も、犯人がKCIAのキム・ジェギュ部長だったことも事実。
ただ、動機については様々な見解があるようで、純粋な愛国心、出世のためのクーデター、あるいは追い詰められたがゆえの突発的行動とも言われています。
あらすじも簡単にしか書きませんでしたが、様々な人物の思惑が複雑に絡みあい、世界中に衝撃を与えた大統領暗殺事件へと進んでいきます。
まだ、40年前の事件。韓国が民主主義国家になるのには、そこからさらに時間が必要でした。
隣国の歴史の一端を、ボクらは映画で知ることが出来る。あくまでフィクションですから、すべてを信じこむのはいかがかなものかとは思いますが、関心を持つきっかけにはなりますよね。
ちなみに、“南山”は「なむさん」と読むそう。キム部長を、イ・ビョンホンが演じています。★4つ。
「KCIA 南山の部長たち」公式サイト


『どん底作家の人生に幸あれ!』は、19世紀のイギリス人作家、チャールズ・ディケンズの半自伝的小説の映画化。

デイヴィッドは、優しい母親と、肝っ玉母さん的な家政婦のペゴディのもとで、幸せな毎日を過ごしていました。
ところが、母の再婚相手が暴力夫。デイヴィッドは家から追い出され、ロンドンの瓶詰め工場で働かされることになります。
数年が経ち、大好きだった母の訃報を聞いたデイヴィッドは、工場から逃げ出し、唯一の肉親である叔母の家に駆け込みます。
資産家の叔母は、デイヴィッドを名門校に進学させるんですね。
子供の頃から空想好きだったデイヴィッドは、“作り話”で学校の人気者になります。
卒業式の日、デイヴィッドはドーラという犬好きの令嬢に恋をします。そして、彼女の父親が経営する法律事務所に就職。ドーラへのプロポーズを決意したその時です。叔母が破産宣告を受けたというのです。
すべてをなくしてしまったデイヴィッド。波乱万丈な彼の人生は、果たしてどうなってしまうのでしょうか…。

イギリスの国民的作家で、2020年が没後150年となる、チャールズ・ディケンズの代表作「デイヴィッド・コパフィールド」の映画化です。
120分で、出産から結婚までを描いているので、大忙し(笑)。
原作となったのが、作家の半自伝的小説ですから、生い立ちはもちろん、なぜ小説家になったのか、才能やそのきっかけも描かれていると思って下さい。
キーワードは“空想”と“変わり者”。
登場人物には変わり者が確かに多い…。
昔、イギリスにモンティ・パイソンというコメディグループがいて、日本でも『空飛ぶモンティ・パイソン』という番組を吹き替えで放送してました。ボクが中学生か高校生の頃のお話。
イギリスのコメディが難解で、背伸びしながら「面白い」と言っていたのを思い出しました。
そんな笑いって言えばわかる人にはわかるかな。たぶん、フィッシュ&チップス的なイギリス独自の笑いの文化。
何言ってるかわからないって?
あ、そんな感じの映画です(笑)。★3つ。
「どん底作家の人生に幸あれ!」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2020.1.13
『ウォーデン 消えた死刑囚』★★★
『キング・オブ・シーヴズ』★★★★
『ジャスト6.5 闘いの証』★★★★
『聖なる犯罪者』★★★★
(満点は★★★★★)


今週の星の数には迷いました。いずれも面白くて、すべて★4つでもいいかなと思ったぐらい。
ちなみに1作目と3作目は、公式サイトが一緒です。どちらかに興味を持った方は、両方観ることをお勧めします!
さ、今週は4本です!

『ウォーデン 消えた死刑囚』は、イラン映画。

1966年、ヤヘド少佐が所長を務めるイラン南部の刑務所は、新空港建設の敷地内にあるため、閉鎖することになりました。
そのため、たくさんの囚人を新たな刑務所に移送しなくてはなりません。
何台かの車に囚人を乗せ、無事移送が完了したかに思えたその時、1本の電話が入ります。
囚人がひとり足りないと言うのです。それも死刑囚。
担当官をすべて呼び戻し、作業行程を確認したのですが、それぞれに落ち度はないと。ならば、その囚人はまだこの建物の中にいるはずだと、一斉捜索を始めますが、一向に見つけられません。
そのまま刑務所を壊そうとした時、家族や村人、その囚人を担当していたソーシャルワーカーまでもが、彼は無実だと訴えるのです。
所長はこのことが公になってキャリアに傷がつくのは御免。でも、未だに隠れているなら、無実かもしれない囚人は、瓦礫の下敷きになってしまいます。
期限は刻一刻と迫っていたのです…。

イラン映画は、さすがになかなか観る機会がなかったのですが、ぐっと見入ってしまいました。
イスラム革命前のイランが舞台。冤罪も多数あったのでしょう。
この所長も人間臭いというか、厳しさの一方で、出世欲もあれば、女性に対する欲もある。
消えた死刑囚の無実を伝えるソーシャルワーカーも美しい女性で、彼女に対する下心もたっぷりあるわけです。
所長のヤヘド少佐にナヴィッド・モハマドザデー、ソーシャルワーカーの女性にパリナーズ・イザドヤール。
イランを代表する人気男性俳優と女優のふたりは、このあと紹介する『ジャスト6.5 闘いの証』にも出演。特にナヴィッド・モハマドザデーは、主役のひとり、あちらでは麻薬捜査官のトップを演じています。
ひとつ、脱獄のカギらしき“靴墨”の意味がよくわからず…。ボクの理解力不足かも?
加えて、所長のラストの行動の理由付けも、もっと欲しかったかな。
その分だと思って下さい。★3つ。
「ウォーデン 消えた死刑囚」公式サイト


『キング・オブ・シーヴズ』は、2015年に実際に起きたロンドンの事件を映画化した作品。

ロンドンの宝飾店が集まる街、ハットンガーデン。そこにある貸金庫には、ケタ外れの財が保管されています。
ブライアンは“泥棒の王”と呼ばれた大泥棒でしたが、今は足を洗い、老後の人生を妻と満喫していました。
ところが、最愛の妻が亡くなってしまうんですね。
葬儀の席に集まった中には、かつての泥棒仲間もいました。
すると、バジルという男が、ハットンガーデンの貸金庫破りを持ち掛けてきます。
妻亡き今、刺激も欲しいブライアンは、計画に参同。他に集まったのは、テリー、ケニー、ダニー、カールの計6人。
バジル以外は、高齢の泥棒ばかり。平均年齢60歳オーバーの、緻密で大胆な金庫破りが始まったのです…。

ほんの数年前の事件。実話だというのがすごい…。
当日イギリスでは、“英国史上、最高額、最高齢の金庫破り”と言われたそうです。
一番若いバジル以外は、既に逮捕されているのですが、逮捕時の年齢が、リーダーのブライアン77歳、テリー67歳、ケニー75歳、カール59歳、ダニー61歳、ビリー60歳。
よくもまぁ…といった感じでしょ(笑)。
彼らは皆、過去の犯罪歴を誇りに、自信満々で行動に移ります。
途中、仲間割れもあるし、警察がいち早く察知もする。“知らぬは老泥棒ばかりなり”ですが、それでもことの一部始終は見てみたい。そんな気持ちで見続ける映画です。
ブライアン役のマイケル・ケインを始め、映画ファンには、知られた顔ばかり。そんな名優たちの懐かしの作品の出演シーンを入れてくるあたり、演出も乙なもの。
まだ捕まっていないバジルも、どこかの劇場で観て、ほくそ笑んでいるかもしれませんョ。★4つ。
「キング・オブ・シーヴズ」公式サイト


『ジャスト6.5 闘いの証』は、こちらもイラン映画。

イラン国内に蔓延する薬物問題。その多くの依存者はホームレスでした。
これをなんとか解決したいと、サマドを中心とした、警察の薬物撲滅特別チームが動きます。
ターゲットは麻薬売人のトップ、ナセル・ハグザド。誰も見たことがなく、実在するのかもわからない大物です。
まずはホームレスに麻薬を売る、小物の売人を吊し上げ、徐々に真のターゲットへと近づいていきます。
そして、遂にナセルの元へ。高級ペントハウスで彼を捕らえたのですが…。

イランの警察vs麻薬組織。緊迫のクライム・サスペンスです。
ナセルの逮捕までもハラハラドキドキ。ただ、思ったよりも順調に?ナセルまで辿り着きます。
ところが物語は、ナセル収監後に、もうひとヤマも、ふたヤマもあるんですね。
なぜ、こんなにも薬物がはびこるのか。酸素が足りないほどに詰め込まれる囚人たち。警察の体質など、おそらく今のイランのリアルであろうことが、多方面の視点から描かれていて、よく131分にまとめたなと感じました。
まだ30歳だというサイード・ルスタイという監督の名前は、確かに覚えておくといいかもしれません。★4つ。
「ジャスト6.5 闘いの証」公式サイト


『聖なる犯罪者』は、ポーランドで実際に起きた事件に基づいて作られた作品。

ダニエルは、少年院に収容されている20歳の男性。
更正のために教義を説く、キリスト教の神父に影響され、聖職者になりたいと願いますが、前科のある者にその道は開かれていないのです。
仮釈放が決まり、就職のため、田舎の村の製材所に向かうダニエル。そこは少年院を出た若者を集めた、村長の営む製材所でした。
途中、教会を見つけ、ダニエルは中へと入ります。
前に座る少女に、自分は司祭だと冗談を言うと、彼女はこの教会の関係者。ダニエルは新任の司祭と勘違いされ、健康面に問題のあった現職の司祭に代わって、教会のあれこれを任されることになります。
実はこの村では、1年前に住人7人の命を奪う、凄惨な事故がありました。
普通の聖職者とは違ったアプローチで、遺族の心を癒やすダニエル。
風変わりながら、村人の気持ちに寄り添っていくダニエルに、人々は信頼を寄せていきます。
ところが、製材所にいた昔の少年院仲間が、司祭の格好をしたダニエルに気付いてしまったのです…。

最後はどうなるんだろうと、ドキドキしながら観てました。
ダニエルは熱心な信者の代表として、少年院では神父の手伝いをしていたので、ミサの流れはわかっていましたが、他のあれこれは“スマホで調べる”というのが、いかにも現代的(笑)。
横道に逸れたがゆえの説得力がダニエルの言葉にはある。でも、偽の聖職者なんですよね。
「人のためになりたいのなら、他のやり方もある」と少年院の神父は言うけれど、簡単にはいかないのが現実。
ダニエルは偽の聖職者に生き甲斐を見つけてしまったのです。
言葉の持つ意味やパワーと、逆に危険性。誰の口からそれが出ると重くなるのか、逆に軽んじられるのかなど、いろいろと自分に置き換えて考えてました。
ラストはかなり衝撃的。これまた「う〜ん」と考えさせられるはず。
あちこちで言われていますが、ダニエル役の俳優、バルトス・ビィエレニアの目力がすごいです!★4つ。
「聖なる犯罪者」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.01.07
『エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット』★★★★
『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』★★
(満点は★★★★★)


2021年、最初の映画コラムです。今年もよろしくお付き合い下さい。
1都3県に非常事態宣言…。
でも、今回は映画館の閉鎖はないので、ホッとしている方も多いのでは?
ただ、それでも街の人出が減少すると、映画の興行収入にも影響しそう。
早く収束に向かって欲しいものです。
さ、今週は2本です!

『エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット』は、ドキュメンタリー。

数々のアーティストのレコードジャケットをデザインしてきた菅谷晋一。
大学で建築を学び、実家の町工場で働いた後、やはりデザインがやりたいと、ひとり独立。手探りで仕事を進めてきたと言います。
彼がジャケットを手掛けるアーティストのひとつが、ザ・クロマニヨンズ。甲本ヒロト、真島昌利を中心とした4人組のパンク・ロックグループです。
その作品作りの工程をメインに据えながら、様々なアーティストや関係者が、菅谷晋一デザインの魅力について語るという内容になっています。
レコードジャケットが、曲の説明をしてはいけない。
そんな考えのもと、絵を描き、時に彫刻やオブジェまで作り、写真に撮る。それらすべてをひとりでやって、デザインを作っていくという。
さらに、「案は1つしか出さない」。これがポリシー。
菅谷晋一は言います。
「100%の力を注いだものじゃないと失礼でしょ?」。
たとえば複数の案を出せと言われた時、そのすべてに100%は不可能だと。ハナから“棄て”の作品を出すのはいかがなものかと言うのです。
出演するアーティストたちが口を揃えるのは、「菅谷さんの作品に間違いはない。何かこうしてくれと言ったことがない」ということ。
柔らかい口調で、優しく笑う彼の表情は、子どもが工作を楽しんでいるかのよう。
特に出来上がった時のうれしそうな顔、「早く見せてあげたいなぁ」という言葉に、ものづくりの根底にあるべき“何か”を感じずにはいられません。
アナログのLP盤の頃は、“ジャケット買い”なるものがありました。懐かしく思い出す人もいるはずです。★4つ。
「エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット」公式サイト

『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』は、カトリーヌ・ドヌーヴ出演のフランス映画。

ジャンとアンドレアの夫婦は、孫娘のエマと、フランス南西部の緑豊かな邸宅で暮らしています。
妻アンドレアの70歳の誕生日。家族みんなで集まることになりました。
長男のヴァンサンは妻とふたりの息子を、次男のロマンは恋人を連れてやってきます。
やがて、バタバタと賑やかに宴の準備が始まります。
すると1本の電話が。3年前に姿を消した、長女のクレールが帰ってきたというのです。
車でクレールを迎えに行くヴァンサン。
しかし、心に傷を持つクレールが、家族の間を掻き回し始めたのです…。

フランス人の個人主義が如実に表れた作品。
たくさんの揉め事が起きるのですが、日本だったら、もう親子の断絶、兄弟の縁切り(笑)。
でも、この映画の中では、揉めに揉めて、暴言を吐かれようが、次の瞬間、皆で食卓を囲むという。
昔、聞いたことがあります。
「俺は原爆を持つことには反対だけど、シラク(当時大統領)がいいって言うなら、いいんじゃないか」。これがフランスの個人主義だと。
裏を返せば、他人の考えを尊重するということなのかもしれません。
この国民性の差が、もしかすると、作品への理解を妨げる壁になるのかなぁと。
「いやいや、うちもこんなだったけど、実は仲良しでね…」なんてご家庭には楽しめるのかもしれませんが。
個人的には、ごめんなさい。★2つ。
「ハッピー・バースデー 家族のいる時間」公式サイト