週末公開の映画……2021.4.20
『SNS 少女たちの10日間』★★★
(満点は★★★★★)


オンライン試写や新作DVDは、なるべく深夜に観るようにしています。
なんとなくですが、感性のレベルが、いい意味で高ぶっている気がして。
ほら、10代の頃、深夜にラブレターや日記を書いて、翌朝読み返すとメチャメチャ恥ずかしくて破り捨てたなんて経験ありませんか?
きっと、何かが下りて来てるんじゃないかなと(笑)。
さ、今週は1本です!

『SNS 少女たちの10日間』は、チェコのドキュメンタリー映画。

今や、世界中で使われているスマートフォン。
幼い女児も当たり前のように、街中でスマホを操作しています。
2017年の秋、ヴィート・クルサーク監督は、チェコの通信会社から、ある動画の作成を依頼されたと言います。
それは、インターネットで“虐待”されている子供たちが急増していることを、世間に知らしめるための動画でした。
「12歳の少女・ティンカ」として、偽のアカウントを取ったところ、わずか5時間で、23歳から63歳までの83名の男性がアクセス。いわゆる性的なコンタクトをしてきたそう。
これを受けて、監督は長編ドキュメンタリーの制作を決意。
オーディションで幼く見える女優を3名選び、偽のSNSアカウントを取り、それぞれに12歳の少女を演じてもらったのです。
場所は巨大スタジオに作った、3つの子供部屋。
心身両面の安全に配慮をし、7つのルールを定めました。
すると、10日間で、なんと2458名の成人男性からアクセスがあり、そのほとんどが性的な目的での“ともだち”申請。中には、子どもを対象にした仕事をしている人間や、祖父以上の歳の男性もいて…。
逆に笑っちゃうぐらいに滑稽だったりもしますが、自分の娘さん(息子さんも?)が、裸の画像を要求されたり、男性器を見せつけられたり、買春の危険にさらされたりしている現実を、親はどれくらい知っているのでしょう?
万国共通のリスクだと思います。
実際、チェコでは、この映画がきっかけとなって、警察が動いたといいます。
幼いお子さんを持つ親御さんは必見。
加えて言えば、インターネットは必ず残ります。歪んだ性衝動を抑えられないという男性も、観たほうがいいと思います。捕まりますよ。まじで。★3つ。
「SNS 少女たちの10日間」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.4.15
『AVA/エヴァ』★★★
『風が踊る』★★★
(満点は★★★★★)


東京都等に、まん延防止等重点措置が適用され、適用地域の映画館は、また20時までに、営業が制限されました。
エンタメは心のビタミンですからね。たまにはしっかり採らないと。
劇場は感染対策を万全にしているので、利用する側もきちんと意識して足を運びたいところです。
さ、今週は2本です!

『AVA/エヴァ』は、美しき女性暗殺者の物語。

組織の一員として、これまで完璧に任務を遂行してきた、女性暗殺者のエヴァ。
ところが、ターゲットを前に、ある疑問が心に浮かぶようになります。
「あなたは、殺されるような何をしたの?」
能力は認めつつも、エヴァは組織にとって、危険な存在になりつつありました。
ある時、重大な任務を任されますが、組織のミスで情報が漏れ、エヴァは命の危険にさらされることに。
あり得ないミスに、組織への不信感が募るエヴァ。
彼女の予感は的中。組織はエヴァを秘密裏に抹殺しようとしていたのです…。

容姿端麗、戦闘能力抜群、陰があって、自分や家族のことで悩みも抱えている女性暗殺者。作品のイメージも、想像がつくかと思います。
97分の映画。組織はいったいどんな組織で、エヴァがはなぜ組織の一員になったプロセスなど、詳細な説明はありません。
ただ、省くところは省いて、この適度な尺にしたことで、よりスピーディーに、よりスリリングに、観る者を魅了することに成功した感もあります。
ひとりの女性に戻れば弱い部分がある。そんなエヴァが見せる、完全無欠のヒットマンと素顔との対比が、この映画の最大の味付けなのでしょう。
主演はジェシカ・チャステイン。他に、コリン・ファレルやジョン・マルコビッチが脇を固めています。
あたまから引き込まれますョ。★3つ。
「AVA/エヴァ」公式サイト


『風が踊る』は、台湾の巨匠、ホウ・シャオシエン監督の1981年作品のデジタルリマスター版。

女性カメラマンのシンホエは、CM撮影で訪れた島で、事故で視力を失った青年チンタイと出会います。
その後、台北で偶然の再会を果たした、シンホエとチンタイ。
シンホエには結婚を考えている恋人がいます。CM監督のローザイです。
ところが、シンホエは徐々にチンタイに惹かれていくんですね。
角膜移植の手術を受け、視力が回復したチンタイは、シンホエに首ったけ。
この三角関係の結末やいかに…。

ホウ・シャオシエン監督のデビュー40周年を記念して行われる「ホウ・シャオシエン大特集」での公開作品のひとつ。
台湾映画の過渡期に当たる頃の監督2作目で、その後、“台湾ニューシネマ”のムーブメントが起きました。
台湾ニューシネマは、それまでの国策映画色の強い作品群と違い、台湾の日常や、社会の問題点にスポットを当てたものが多く、低迷していた台湾映画に活力を与えたと言われています。
この映画のファンは多いようですが、言ってしまえば、突っ込みどころは満載だし、92分でも長く感じてしまうかも(失礼!)。
ただ、歴史を学ぶ意味でも、触れておいて損はないと思います。★3つ。
「風が踊る」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.4.8
『砕け散るところを見せてあげる』★★★★
『ドリームランド』★★★★
『ハウス・イン・ザ・フィールズ』★★★
(満点は★★★★★)


今週紹介する映画のうち、2本は昨春劇場公開予定だったものが、コロナの影響で約1年延期になってしまったもの。
待っていたファンにとっては、うれしいことですよね。
さ、今週は3本です!

『砕け散るところを見せてあげる』は、竹宮ゆゆこのベストセラー小説の実写映画化。

25年前、濱田清澄は高校3年生でした。
ひとりの女子生徒がいじめにあっているのを目撃し、助けようとすると、その子は叫びながら走り去ってしまいます。
彼女は蔵本玻璃。清澄と同じ高校の1年生です。
いじめは続き、今度は公園のトイレに閉じ込められ、ずぶ濡れになっている玻璃を発見します。
近所のクリーニング店のおばちゃんに頼み、制服を乾かしてもらってる間に、ようやく口を開いた玻璃は思いのほか可愛らしく、「自分も先輩のように強くなりたい」と笑顔を見せます。
帰り道、玻璃は自分の生い立ちや家庭環境について語り始めるんですね。
4年前に母が出て行ってから、父と二人暮らしであること。母の家出を自分のせいだと思っている玻璃に、父が「ぜんぶUFOのせいだ」と話すこと。
清澄は玻璃を守ると誓うのですが…。

昨年5月に公開予定だった、中川大志、石井杏奈主演の話題作が、ようやくの公開となります。
あらすじは、ざっくりもざっくり。
映画は“真っ赤な嵐”という18歳の男の子が、父を思うシーンからスタート。そこから、25年前の清澄と玻璃の話へと転換します。
玻璃の家の闇は深く、ストーリーは、青春恋愛物語から、サスペンスホラーへと変わっていくイメージ。
そもそも、UFOって何?って感じですよね(笑)。
あまり多くを語って、ネタバレしてはいけないので、ほどほどにしますが、意外すぎる展開も興味深かったです。
また、主演のふたりが将来を楽しみにさせる名演。加えて、玻璃の父に堤真一ですから、なんとなく想像つきますでしょうか(笑)。
「お待たせしました!」といった感じで、劇場はあなたの来場を待ってると思いますョ。是非!★4つ。
「砕け散るところを見せてあげる」公式サイト


『ドリームランド』は、1930年代のテキサスを舞台にした作品。

1930年代のテキサスに暮らす、17歳のユージン。
母と、再婚した父と、妹との4人暮らし。
義父とはぎくしゃくし、刺激がほとんどない毎日。
ところが、そんなユージンに突然変化が訪れます。
自宅の敷地にある納屋で、大怪我をした女性を発見したのです。
彼女の名はアリソン。銀行を襲撃し、警察に追われている、美しい強盗犯でした。
ユージンはアリソンを匿おうと決意。危険な香りのする年上の女性に、どんどんと惹かれていくユージン。
アリソンはユージンと一緒に、メキシコに逃げようと誘います。
メキシコ。そこはユージンの実父がいるはずの“ドリームランド”だったのです…。

ハラハラドキドキのサスペンス・ラブストーリー。
まだ青い17歳の男の子と、人も殺していると噂の美人銀行強盗犯。
“設定の妙”ですよね。
町で友人と万引きするぐらいしかスリルがない生活に、突然そんな女性が現れたら。
ユージンは背伸びをしながら、アリソンの期待に応えようと頑張ってしまいます。結果、迎える結末は…。劇場でご確認下さい。
ユージンの甘酸っぱい気持ちが、同じ男として、懐かしくわかるだけに(笑)、アリソンがユージンをどう思っていたのか気になって仕方ない。
ひとりの男性として見てくれた?それとも、やっぱり利用しただけ?
そこが知りたくなります。
男女で見方が違う映画かも。鑑賞後に、一杯やりながら話したくなること、必至です(笑)。★4つ。
「ドリームランド」公式サイト


『ハウス・イン・ザ・フィールズ』は、ドキュメンタリー。

モロッコの山奥で暮らす、アマズィーグ族。
アトラス山脈の自然の恩恵を受けながら、何百年にも渡り、ほとんど変わぬ生活を送って部族のある家庭に、ふたりの姉妹がいました。姉のファティマと妹のカディジャです。
妹のカディジャは弁護士になることを夢見ていて、勉強が大好き。
今日も、国王令で男女同権が約束された話を友達としていたほど。
一方、姉のファティマは、親の決めた結婚のため、学校を辞めることになります。カディジャは自分も勉強が出来なくなる日が来るのではと不安がります。
季節は巡り、夏が来て、姉の挙式が盛大に執り行われます。次の日、いつも一緒にいた、大好きな姉の姿はありません。
秋に畑の作物や森の果実を収穫し、冬の厳しい寒さを乗り切り、春には美しい花が咲き、暑い夏を迎える。
そんなアマズィーグ族の生活を、5年に渡って取材。姉妹を通して映したドキュメンタリーです。
観ると、人間の幸せって何なのかを、きっと考えると思いますョ。★3つ。
「ハウス・イン・ザ・フィールズ」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.3.25
『映画 きかんしゃトーマス おいでよ!未来の発明ショー!』★★★
『狼をさがして』★★
『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』★★★
『ロード・オブ・カオス』★★★★
(満点は★★★★★)


1都3県の緊急事態宣言が解除されましたが、送られてくる試写状の多くが、試写室での試写に加え、オンラインやDVDでの視聴も可というものです。
人気の作品は、通路に補助イスを並べてギッシリ、なんて風景が懐かしく思い出されます。今では絶対にあり得ない…。
もう少し、もう少しの辛抱だと信じて、頑張りましょう。
映画館は感染対策もバッチリですから、心身の“心”は、是非映画で癒やしてあげて下さい!
さ、今週は4本です!

『映画 きかんしゃトーマス おいでよ!未来の発明ショー!』は、人気のキャラクター、きかんしゃトーマスの劇場版最新作。

ソドー島に暮らす、トーマスと仲間たち。
彼らはみんな、人の役に立ちたくて、今日も線路の上を走ります。
そんなソドー島で、未来の発明ショーが開催されることになり、世界中から発明家や列車がやって来ます。
アメリカから来たのは、列車が大好きな、若き発明家のルース。彼女の発明は“空飛ぶ車”です。
「ボクたちは要らなくなってしまうんじゃないか」と心配するきかんしゃたちに、ルースは「きかんしゃは史上サイコーの発明よ」と褒め称えるんですね。
しかし、サニーというきかんしゃに乗って、怪しい二人組が島にやって来て、空飛ぶ車の設計図を盗んでしまったのです。
ルースのためにも、自分たちのためにも、事件を解決しようと、トーマスと仲間たちは、力を合わせるのでした…。

大人気シリーズの『きかんしゃトーマス』。
原作となる絵本は1945年にイギリスで刊行された「3台の機関車」という絵本ですから、生誕75年!
日本でアニメの放映が始まったのも、1990年。もう30年なんですね…。あの頃のちびっ子も、今や立派な社会人になりました。
興味深かったのは、最近ではSDGsの要素も織り交ぜているということ。国連とコラボした2018年のシリーズから、女の子機関車を増やし、その結果、女児ファンが急増。ジェンダー問題にも、こうして作品を通して取り組んでいるそうです。
まだ柔らかアタマの幼少期から、こういうことが当たり前に入ってくると、標題として掲げなくても自然と接する下地が出来るんだろうなと、期待しちゃいますよね。
実はボク、昔、トーマスに似てると言われたことがあって、“トーマス長谷川”なんてニックネームがありました(笑)。
今回は、日本の超特急ケンジも出ます。何かと親近感が湧く?最新作です。★3つ。
「映画 きかんしゃトーマス おいでよ!未来の発明ショー!」公式サイト


『狼をさがして』は、韓国人女性監督によるドキュメンタリー。

韓国と日本の、労働問題や人権問題に焦点を当てたドキュメンタリー映画を撮り続けている、キム・ミレ監督。
大阪・釜ヶ崎を取材している中で知った、東アジア反日武装戦線の存在。
1970年代に起こした連続企業爆破事件など、過激なテロ事件を実行したメンバーや、その周囲へのインタビューで、高度成長期の日本の“裏側”に迫った作品です。
ボクはいわゆるノンポリで、思想を持たない人間ですから、こういう作品を観る時に、まったくニュートラルな視点で入ります。
感じたのは、論拠となるものが、一方通行というか、関係者の証言だというところの“危うさ”ですかね。もちろん入念な取材をしているはずですが、それをもっとつまびらかにしたほうがよかったかなと。
物事は、どちらから見るかで、その形は変わるもの。
いつも言う、三角錐は真横から見れば二等辺三角形、真上から見れば円なんですよ。でも、ちょっとズレると、三角錐だとわかる。ただ、二等辺三角形だと言うのも、円だろうと言うのも、決して間違いじゃない。一方通行とは、そんな感覚でしょうか。
ある意味、★を打つこと自体が違うのかなという作品ですが、映画という括りで評価させてもらいます。★2つ。
「狼をさがして」公式サイト


『SLEEP マックス・リヒターからの招待状』は、音楽ドキュメンタリー。

ドイツ生まれ、イギリス育ちの、作曲家でミュージシャン、マックス・リヒター。
クラシックにシンセサイザーなどの電子音楽を融合させた“ポスト・クラシカル”を代表するアーティストです。
映像作家でもある妻のユリア・マールが、世界中を飛び回る夫の公演を、「今は家にいながら配信で観られるから、いつも一緒にいる気分だ」と語ります。
ただ、子育てに疲れ、演奏中に寝てしまうこともあると。
そんな時、「夢の中のような空間の境界を漂っていて、目覚めるとその世界が広がっていく。音楽の聴こえ方が一変し、感情を揺さぶられるような全く新しい音楽体験をした」と夫に伝えるんですね。
するとリヒターは笑いながら、「それはボクも前から考えていた」と言ったとか。
リヒターは、睡眠と音楽の関係性について、脳科学者と研究を重ね、睡眠状態に適した音楽を作り上げます。
それが、8時間にも及ぶ楽曲「スリープ」なのです。
映画は、2018年、アメリカ・ロサンゼルスのグランドパークで行われた、初の野外公演の模様を収録したもの。
指定席ならぬ、“指定ベッド”に次々と観客がやって来ます。寝てもいいし、歩いてもいいという、制約が一切ない中で、8時間の演奏がスタート。ミュージシャンも順に休憩を取りながら、演奏を続けます。
興味深いのは、低周波のサウンドは子宮の中にいるのと同じ状態だそうで、「スリープ」は、そんな低周波サウンドで満たされているんですね。
そして終盤、高周波の音が入ってきて、目覚めると、人は皆、もう一度生まれ出た感覚になるのだというのです。
妻のユリアが感じた感覚が、まさにそれなのでしょう。夜明けを迎えた観衆の表情を見ると、なるほどそうなのかなとも思ってしまいます。チケットが即完なのも納得かな。
心配なのは、映画を観ているうちに、観客が眠くなっちゃうんじゃないかということ。でも、それはそれで、成功の証しなのかもしれませんね(笑)。★3つ。
「SLEEP マックス・リヒターからの招待状」公式サイト


『ロード・オブ・カオス』は、ノルウェーに実在するブラック・メタルのバンド、メイヘムの狂気を綴った物語。

1980年代、ノルウェーの首都、オスロ。
19歳の青年、ユーロニモスは、仲間とバンドを結成し、“真のブラック・メタル”を追求するバンド「メイヘム」のギタリストとして活動していました。
スウェーデンからやってきたボーカルのデッドが加入してからは、パフォーマンスに過激さが増します。
デッドがステージで自らの身体に刃物を刺し、切り刻み、血まみれになって絶叫する姿に、ファンは熱狂。しかし、そのデッドがショットガンで頭を撃ち抜き、自殺。
その遺体をユーロニモスはカメラに収め、後にアルバムのジャケットに、その遺体写真を用いたのです。
一連の行動の中で、ユーロニモスがカリスマ化していくと、代わってボーカルとして参加したヴァーグは、次々と教会に火をつけるなど、過激な行動はエスカレート。
こうしたバンド内での主導権争いが、さらなる悲劇を呼び起こすことになったのです…。

実は、深夜寝る前にベッドの中で試写用DVDを観て、眠れなくなってしまった映画。
ブラック・メタルにあまり明るくないので、下手に書くとファンに叱られてしまいますが、ブラック・メタルとは「ヘヴィメタルのサブジャンルのひとつ」とウィキペディアにはありました。
サタニズム(悪魔崇拝)を掲げ、反キリストを謳うバンドも多く“邪悪さ”を美とするよう。
1983年に結成された「メイヘム」も、そんなバンドのひとつ。
ただ、この作品を観ていてわかるのは、メンバーの多くが“普通の青年”だったということ。
事実に基づいていたとしても、完全に事実とは限りませんが、ユーロニモスの小心ぶり、バンドと最初にコンタクトした時のヴァーグの実の姿。“引けなくなってしまった”若者たちの、若さゆえの悲哀があると感じました。
「嘘はつき続けると、嘘でなくなる」と言います。そんな感じで、自分でも境界線を失ってしまったのかもしれませんね。
メガホンをとった、ジョナス・アカーランド監督は、自身もスウェーデンのブラック・メタルバンドでドラマーだったそう。時期を同じくするバンドマン目線ゆえの、リアリティに満ちているはずです。
ただ、とにかく過激です。体を傷つける映像、人を刺す音…。リアル過ぎて、R18+指定となってます。
ちなみに、ユーロニモスには、あのマコーレー・カルキンの弟、ローリー・カロキンが扮しています。★4つ。
「ロード・オブ・カオス」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.3.10
『アウトポスト』★★★
『ワン・モア・ライフ!』★★★
(満点は★★★★★)


先日、中高同級生の篠原哲雄監督に勧められ、岩波ホールで12日(金)まで上映中の『モルエラニの霧の中』(坪川択史監督)を観てきました。
北海道の室蘭を舞台に、7つの章からなる、214分の作品。
撮影開始から7年。大杉漣さん、小松政夫さんらキャストだけじゃなく、たくさん参加してくれた市民エキストラの中にも、スタッフにも、公開を待たずに旅立ってしまった方が何人もいらしたそう。
コロナが憎いですね…。
「それでも時は流れる。人は生きていかなくてはならない」。
観た後に、そんな言葉が心に浮かび上がりました。
まもなく、東京・神保町の岩波ホールでの上映は終了しますが、またどこかで作品の名を見かけたら是非!
ちなみに、モルエラニはアイヌ語で「小さな坂道をおりた所」。室蘭の語源のひとつだそうです。
さ、今週は2本です!

『アウトポスト』は、実話に基づく、アフガニスタンでの戦闘の物語。

アフガニスタンで、タリバンとの戦いを繰り広げていたアメリカ陸軍。
その重要拠点とされていたのが、北東部に位置するキーティング前哨基地でした。
今日も新たな兵力が送り込まれたのですが、到着した兵士たちは、基地の置かれた状況に愕然とします。
四方を山に囲まれた谷底にあり、防御の面では実に脆弱な場所。
部隊は、地元の長老たちに、アメリカがタリバンから住民を守り、生活を良くすると説得し、協力を仰ぐしかなかったのです。
ところが、2009年10月3日、住民の姿が完全に消えると、恐れていた事態が現実となります。
基地が全方位から包囲され、タリバンの精鋭部隊による、一斉攻撃が始まったのです…。

後に“カムデシュの戦い”と呼ばれた、14時間にも及ぶ、アフガニスタン紛争で最も過酷な戦闘を描いた作品。
実話ですから。凄いです。
極限状況に置かれた中で、人は人であることが出来るのか?
自分の命をかえりみず、仲間を助けようとする姿に感動を覚えると共に、戦争の愚かさを感じずにはいられなくなります。
人間という生き物は、争わなくてはいられないらしく、今もどこかで必ず紛争は起こっています。
ボクは人がたくさん死ぬ映画は苦手ですが、こういう作品がより残虐に戦争の実態を描くことで、その恐ろしさや愚かさに気付かせてくれればとも思ってしまいます。★3つ。
「アウトポスト」公式サイト


『ワン・モア・ライフ!』は、イタリアのヒューマン・コメディ。

港の技師として働くパオロ。
彼には妻のアガタと、娘のアウオラ、息子のフィリッポがいましたが、誰かれかまわず浮気はし放題。娘を乗せた車でも、自分勝手な理屈をつけ、迷惑駐車も厭わず、「信じられない。最低っ!」と罵られる始末。
そんなパオロはスクーターで仕事に向かうのですが、楽しみのひとつが、これまた自分勝手な理論ですり抜ける赤信号。これまでは毎日成功してきたのが、この日はそうはいかず。猛然と突っ込んできたバンと激突し、あえなく即死してしまったのです。
天国の入口で、役人のチェックを受けるパオロ。
健康のために生姜入りスムージーを飲んでいたのに、こんなに早く死んでしまったのでは意味がないじゃないかと食ってかかると、役人の表情が曇ります。
スムージーの記載がないと言うのです。
審議の結果、その分、地上に戻って生きていいという採決が下るのですが、与えられた時間は92分。
果たして、パオロはこの僅かな時間で、家族との絆を取り戻すことが出来るのでしょうか…。

いかにもイタリアのコメディといった感じの映画でした。
舞台は、シチリア島のパルレモ。
イタリア人気質というか、国民性がいい味を出していて、もしこれを日本で作ったとしたら、まったくと言っていいほどの別物になってたはず。
ただ、ひとつ思ったのは、人生なんて、いつ突然終わっても、確かに不思議はないんだということ。
でも、現実は映画のようにはいきません。たとえ92分でも、戻ってくることはあり得ないのですから。
悔いのないようにと口では言えても、悔いのない人生なんてあり得ないのも事実。
毎日をいかに納得して生きるか。ツラさもバネ。跳ねる前に終わったとしても、納得のツラさなら、これもまたよしとしなくちゃね…。なんてことを考えちゃいました。
コーヒー好きの役人が、パオロの監視役として付いてくるのですが、カフェでの注文の煩雑さに怒り心頭。わかる、わかるなぁ(笑)。★3つ。
「ワン・モア・ライフ!」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.3.3
『野球少女』★★★★
(満点は★★★★★)


先日観た試写用のDVDで、出演者がコロナ対策のマスクをしているという映画がありました。
これが2020年、2021年のリアルということなんでしょうね。
もし、これがいつまでも続くようだと、ライトなSF映画の世界みたいじゃないですか?
だって、少し前まで、そんな日常は想像も出来なかったのですから。
“新しい生活様式”なんて言葉が生まれても、いつかは外せる日が来るんですよね。なんか心配になってきた…(^^;)
さ、今週は1本です。

『野球少女』は、韓国映画。

小中学生の頃は“天才野球少女”と呼ばれ、男子に混じっても大活躍だったチュ・スイン。
韓国で20年ぶりの高校野球の女子選手となり、一躍、時の人になったのですが、高校卒業を前に、プロ野球から声がかかったのは、チームメイトで幼なじみのイ・ジョンホでした。
スインの父は仕事が見つからず、母が家計を切り盛り。幼い妹もいて、母親からは、早く野球なんか辞めて、就職して欲しいとキツく言われます。
それでもプロ野球選手への夢を諦めきれないスイン。トライアウトを受けたいと、球団に直談判に行っても、門前払いをくらってしまいます。
新たなコーチとして、スインの高校にやってきたジンテも、「女子も男子も関係ない。お前に実力がないだけだ」と突き放します。
それでも懸命に練習に励む姿に、少しずつ考えが変わるジンテコーチ。
二人三脚の練習に、一筋の光明が差すのですが…。

韓国には、女性のプロ野球選手がひとりだけいたそうです。公式試合で先発登板を果たした、アン・ヒャンミ投手。彼女をモデルに物語を作ったそう。
男女を分けている競技には、男子バレーとか、女子サッカーとか、性別が前に付くけれど、野球にはそれがないから、女子に門戸が閉ざされているわけじゃない、という考えもあるみたいですね。なるほどなぁと。
日本でも野球をこよなく愛する女子がたくさんいて、“女子プロ野球”も立ち上がりましたが、現実問題として、運営はなかなか難しかったようです。
ジェンダーイクオリティが言われる今、野球に限らず、いろんなことを考える契機になる1本かもしれません。
ちなみに、スインに扮するのは、韓国のテレビドラマ『梨泰院クラス』で人気を博したイ・ジュヨン。吹き替えなしで頑張ったそうです。★4つ。
「野球少女」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.2.26
『カポネ』★★★★
『三月のライオン』★★★
『ステージ・マザー』★★★★
『ナタ転生』★★★★★
(満点は★★★★★)


新作映画の試写は、オンラインやDVDでの視聴が増え、試写会に足を運ぶことが少なくなって、しばらくが経ちます。
考えてみたら、会場を貸している試写室も、試写会が減って、経営上悲鳴をあげているんじゃないでしょうか。自社の試写室を持たない配給会社は、そういったレンタルの試写室を使ってましたから。
枝葉の先、根っこの先にまで、影響が及んでいるコロナ禍。改めて、早く収束して欲しいものです。
さ、今週は4本です!

『カポネ』は、伝説のギャング、アル・カポネの最晩年を描いた伝記映画。

脱税の罪で連邦刑務所に収監され、11年の刑期を終えて出所した1939年、あの悪名高きギャングのアル・カポネは、梅毒の進行が原因で、初期の認知症を患っていました。
まるで脱け殻のようになったカポネに対し、FBIは仮病を疑っていたのです。なぜなら、1000万ドルはあるとされる隠し財産を守るための演技だと見ていたから。
フロリダの大豪邸に移り、家族や友人に囲まれ、穏やかに過ごしていたカポネでしたが、日に日に病状は悪化。排泄にも不自由になり、オムツを付け、見るものも何が現実で、何が幻なのか。家財道具を売っても生活費が底をつき始めます。
“暗黒街の帝王”と呼ばた頃の、最恐のギャングスタの面影は、消えたかのように思えたのですが…。

禁酒法時代のシカゴで暗躍し、世界で最も有名なギャングとして、これまでにも数多くの映画やドラマで描かれてきた、アル・カポネの生涯。
しかし、彼の最晩年を扱ったものは初めてで、実話に基づいたとされる作品です。
アル・カポネを演じたのは、トム・ハーディ。毎日4時間かけて特殊メイクを施し、象徴とも言える左頬の切り傷を作ったそう。
老いようが、認知症が進もうが、根底にある“狂気”は消えることなく根付いている。それが逆に周りの人々に苦悩を与えるんですね。
この映画の一番の見どころは、トム・ハーディの役者魂。言われなかったら、彼だとはわからないはず。
深く刻まれた額のシワ、鋭い眼光を隠すかのように細めた目。常に葉巻をくわえ、苦みばしった表情の、細部のひとつひとつで、カポネの心の奥底を表現しようとしている様は、職人の技。
プロフェッショナルな仕事に拍手です。★4つ。
「カポネ」公式サイト


『三月のライオン』は、1992年に公開された映画のデジタルリマスター版。

ハルオとナツコは兄妹。ナツコは兄のことが大好き。
ハルオが記憶喪失になって、入院することになった時、ナツコは兄の恋人だと偽り、名前もアイスに変えて、ハルオを病院から連れ出します。
ふたりは同棲生活をスタート。アイスは身体を売り、ハルオは解体の現場で働き始めます。
アイスをひとりの女性として意識し始めたハルオは、アイスと肉体関係を持ってしまうんですね。
ところが、作業中に釘が刺さり、染み出てきた血を舐めると、ハルオの記憶が戻ります。
アイスがナツコだということも思い出し、自分の行動に泣き崩れるのでした…。

同名映画に、将棋マンガを映画化したものもありますが、それとは違い、矢崎仁司監督、92年の作品のデジタルリマスター版です。
タブーとされる近親相姦の映画ですが、海外での評価も高かったよう。
矢崎仁司監督作品では、昨年『さくら』という映画が公開になりました。兄妹3人を中心に、バラバラになった家族の再生の物語でしたが、ここでも小松菜奈演じる妹の美貴は、吉沢亮演じる長男の一を異性として意識していた。
矢崎仁司監督ファンは、ナツコと美貴を重ね合わせて見る向きも多かったとか。
どちらにも共通して感じるのは、繊細というより、あまりに脆すぎるということ。
個人的にはわからない感情ですが、そんな愛の形も、世の中にはあるのかもしれませんね。★3つ。
「三月のライオン」公式サイト


『ステージ・マザー』は、自分らしく生きることを描いたハートウォーミングストーリー。

テキサスの田舎町で暮らすメイベリン。彼女には、疎遠になっている息子のリッキーがいました。
実はリッキー、サンフランシスコのゲイバー“パンドラ・ボックス”の人気ドラァグクイーンで、店の経営者。
保守的なテキサスでは、そのことをつまびらかには出来ず、夫に至っては、息子の存在を恥じるかのようにしていたのです。
そんなある日のこと、リッキーの訃報が届きます。
薬物の過剰摂取で、ショーの最中に倒れ、息を引き取ったと言うのです。
行くなと止める夫の反対を振り切って、葬儀に参列するメイベリン。すると葬儀は華やかなパーティーのよう。
いたたまれなくなって席を立った、敬虔なクリスチャンのメイベリン。
翌日、リッキーのパートナーで、店の共同経営者でもあるネイサンに会いに行くも、冷たくあしらわれてしまいます。
しかし、息子の突然の死で、店の経営権が、親であるメイベリンにあることが判明したのです…。

サンフランシスコのカストロ・ストリートにあるという設定のゲイバー、パンドラ・ボックス。この通りは、世界有数のLGBTQコミュニティの拠点だそう。
そこに、教会の聖歌隊で歌を指導するような、敬虔なクリスチャンのメイベリンが足を踏み入れたのですから、さぁ大変。
リッキーの親友でシングルマザーのシエナと出会い、シエナの家に居候。メイベリンは、ネイサンはもちろん、店のドラァグクイーンたちとも徐々に打ち解けていきます。
夫からは、いつ戻るんだと矢の催促ですが、人気者のリッキーを失った店の売り上げは右肩下がり。大切な息子が遺した店を立て直すため、獅子奮迅のメイベリンは、自分でも気付かなかった、いや、気付いていても封印していた才能を発揮するんですね。
活き活きと立ち回るメイベリンは、店のみんなにとって、寮母さんみたい(笑)。
母の愛情と、いくつになっても頑張れるんだという、温かい勇気をもらえる1本です。★4つ。
「ステージ・マザー」公式サイト

『ナタ転生』は、中国の3DCGアニメーション。

雲祥はバイク好きで、正義感の強い青年。彼の周りには仲間もたくさんいて、厳しい環境であっても、懸命に働いて、毎日を生き抜いていました。
ある日のこと、水の権利を独占し、人々を支配している徳興グループの徳会長の息子、三公子が雲祥のバイクを狙います。
抵抗する間に、後ろに乗っていた幼なじみの少女カーシャが片足を切断する大事故に。
その時でした。怒りに燃える雲祥の体が、真っ赤な炎に包まれたのです。
実は、雲祥は3000年以上前の世界で、ケタ違いの魔力を持っていた少年神・ナタの生まれ変わり。
徳会長はその時も絶大なる権力を持っていた東海龍王の、また三公子は東海龍王の息子である三太子の生まれ変わり。彼らは、その昔も敵対する関係にありました。
因縁はこの時代にも続いていたのですが、雲祥は自分の前世に気づいていません。
徳会長たちは、転生したナタを始末しようと、市民をも巻き込んだ戦いを始めます。
仲間や大切な人を守るためには、ナタの魂を呼び起こす必要があります。雲祥は、ナタとして覚醒することが出来るのでしょうか…。

メチャメチャ面白かったです!
すごく失礼な言い方ですが、資料にあるキャラクターの顔のタッチに、B級CGアニメぐらいの先入観で観たのですが、いやいやとんでもない!建物や風景描写の繊細さ、神や魔界のもののダイナミックさにビックリ!
人物だけ、あえての質感にしたのかもしれませんね。
“謎の仮面男”なるキャラクターが登場しますが、その顔の緻密さを見てもらえば、言っていることがわかってもらえるかと思います。
実は、中国ではこれまでにも映画化や舞台化されている『封神演義』という、中国人なら誰でも知っている、400年前の明の時代に書かれた神話小説を元にした作品で、レトロと近未来、人間と神とが同居する形で描かれた、いかにも中国といった舞台設定。
ナタは、中国ではおなじみの、わんぱくな少年神なんだそう。
この『封神演義』についての解説が、公式サイトにあるので、絶対に読んでから観ることをお勧めします。生まれ変わる前の因果関係、現世でのディテールがわかりますから。
ストーリーも秀逸。『鬼滅の刃』が好きなら、これも絶対に楽しめると思いますが、どうでしょう?
凄まじいスピード感で進む117分。中国アニメ、侮るなかれです。満点!★5つ。
「ナタ転生」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.2.17
『モンテッソーリ 子どもの家』★★★
『藁にもすがる獣たち』★★★★
(満点は★★★★★)


ボクの中高同級生の篠原哲雄監督からメールが来て、岩波ホールで上映中の『モルエラニの霧の中』という作品が必見だと。
調べたら、7話形式で、上映時間が3時間35分。途中休憩を挟む大作でした。
出演者を見ても、大杉漣さん、小松政夫さんなど、近年亡くなった名優を始め、興味深い名前が並びます。
岩波ホールで、1日2回しか上映されていないので、「よし、観るぞ」という感じで観て来たいと思います。
さ、今週は2本です!

『モンテッソーリ 子どもの家』は、フランスのドキュメンタリー。

幼児教育のドキュメンタリー映画。
“GAFA”と呼ばれるアメリカIT大手の各創業者や、イギリスのロイヤルファミリーであるウィリアム王子、ヘンリー王子、日本でも将棋の藤井聡太二冠が受けたという、モンテッソーリ教育。
20世紀初頭に、イタリア出身のマリア・モンテッソーリが考案した教育法で、今では140以上の国に普及しているとか。
映画は、フランス最古のモンテッソーリ学校の幼児クラスに密着。2歳半から6歳までの子どもたちを、2年3ヶ月の間、カメラに収めたものです。
教室の中には、様々な道具が置かれていて、遊具というよりは教具。遊びは“お仕事”と言われ、子どもたちが自由に過ごせる空間に。
ただし、そこには互いを尊重するルールがあり、先生はそれについて助言をしたり、相談に乗ってあげる存在。
ボクらには、幼い頃の記憶は無くても、潜在下に築かれたものがある。まっさらのスポンジのような感性に吸い込まれる教育ですから、人格形成の一端は間違いなく担っているはず。もしかしたら、大部分なのかも?
上のクラスに上がるに従って、子どもたちが確実にお兄ちゃん、お姉ちゃんになっていく成長を、カメラは捕らえています。
“教育”は永遠の課題で、“正解”がないから難しい。というか、何が“正解”なのかという話からかも。“成功”も然りかな。
娯楽映画ではありません。親である、あるいはこれから親になる人にとっては、選択肢のひとつとして観ることをお勧めしたいですね。★3つ。
「モンテッソーリ 子どもの家」公式サイト


『藁にもすがる獣たち』は、日本の犯罪小説を韓国で映画化した作品。

家業が廃業になり、サウナ従業員のアルバイトで生計を立てているジュンマン。彼には、妻と認知症の母親がいました。
ある日のこと、ロッカーの中に、忘れ物のバッグを見つけます。開けてびっくり、中にはなんと10億ウォンもの大金が入っていたのです。
このバッグを倉庫の奥に隠すジュンマン。
ところが、このバッグにはたくさんの因縁がまとわりついていたのです。
株式投資に失敗し、夫のDVに悩む主婦のミラン。
ミランの悩みに乗るクラブ経営者のヨンヒもまた、過去を清算したい、したたかな女性。
恋人が多額の借金を残して失踪し、悪徳金融から追い込まれている出入国審査官のテヨン。
このバッグの中の大金を巡り、それぞれの思惑が複雑に絡まり合って、凄惨な物語は進んで行くのです…。

最近、よく言う言葉ですが、韓国映画は面白い!
原作は、曽根圭介の同名小説です。
簡単に書いたあらすじ以外にも、登場人物はたくさんいて、軸となるキャラクターを中心に、それぞれの物語が展開。それが徐々に交わっていき、最後にはひとつになるという。
予定調和ではない、スリルとサスペンス。まさにタイトルの通り、藁にもすがりたくなる面々。気持ちはわかるけど、因果応報。“不幸のバッグ”の行方やいかに…。
容赦のない、残虐なシーンもまた、この映画のいいスパイスになってます。★4つ。
「藁にもすがる獣たち」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2021.2.1
『ツナガレラジオ 僕らの雨降Days』★★
『秘密への招待状』★★★★
『マーメイド・イン・パリ』★★★★★
(満点は★★★★★)


先日、NACK5のパーソナリティの大先輩、大野勢太郎さんと映画談義。
大野さんが観たいと言った作品が、ボクが試写用にDVDを借りた映画だったので、「宣伝担当の人にきちんと確認して、OKが出たらお貸ししましょうか?」と言ったら、「いいよ、公開になったら映画館に行くから。ほら、劇場も困ってるからさ」と。
さすがです(^-^)
ボクもオンラインやDVDで拝見したら、気に入った作品は映画で改めて観るぐらいじゃないとなぁと思いました。
先輩、勉強になります!
さ、今週は3本です!

『ツナガレラジオ 僕らの雨降Days』は、ニッポン放送のwebラジオ番組のパーソナリティらによるオリジナルストーリー。

神奈川県伊勢原市の大山。別名、雨降(あふり)山と呼ばれるこの山の登山道には、多くの店が立ち並んでいました。
地元に暮らすニガリは、昔、父がやっていたコミュニティーFMの“あふりラジオ”を復活させたいと立ち上がり、そこに様々な経歴、悩み、志を持つ若者10人が集まります。
地元のためにと、観光協会とタッグを組んで始めたインターネットラジオ版の“あふりラジオ”でしたが、トラブルが続出し、なかなか上手くいきません。 このままでは存続が難しくなる。10人は知恵を絞るのですが…。

ニッポン放送のPodcastの配信番組「おしゃべや」に出演の若手俳優10人がメインの作品。
ボク自身、キャリアのスタートが、1990年にニッポン放送が湘南に作った、期間限定のミニFM局『サーフ90FM』だったので、すごく親近感と期待感を抱いて試写に行ったのですが…。
根本的に何をしてラジオというか。
radikoしかり、インターネットで聴くラジオは否定しませんが、そこに映像が付いたら、それをラジオと言うのかというのは、個人的には疑問です。ラジオにはラジオの良さがあって…と、これについては、また改めてお話しましょう。
この映画で若者がやっているのは、まさに映像の生配信。描かれていたようには、人の心はそんなに簡単に開きません。
同業なので、コメントが厳しくてごめんなさい。ボクが時代遅れなだけかかな(笑)。
番組ファンには喜ばれる作品かもしれません。★2つ。
「ツナガレラジオ 僕らの雨降Days」公式サイト


『秘密への招待状』は、2006年のデンマーク映画をハリウッドリメイクした作品。

イザベルは、高き理想を抱いたアメリカ人女性。
今はインドに渡って、孤児の救済事業に携わり、施設運営のための資金調達に奔走する日々。
そんなイザベルに、ニューヨークのメディア会社の経営で財を成したテレサという女性から、多額の寄付の話が届きます。
条件は、イザベルが直接テレサに会いに来ること。
あまりに急な案件でしたが、イザベルはニューヨークへと飛び立ちます。
テレサには夫と娘、さらにまだ幼い2人の息子がいて、娘のグレイスが結婚式を挙げるので、イザベルにも是非出席して欲しいというのです。
すぐにでもインドの孤児たちの元に戻りたいイザベルでしたが、支援を受けるためにはNOとは言えず、出席を承諾。
しかし、結婚式で見たテレサの夫オスカーはイザベルが18歳の時に別れた恋人で、新婦のグレイスはふたりの間に産まれた女の子だと知るのです…。

面白かったです。
オリジナルとなった、2006年のデンマーク映画「アフター・ウェディング」は、アカデミー賞の外国語映画賞にノミネート。
それを女優のジュリアン・ムーアが気に入って、プロデューサーとしてハリウッド版でリメイク。
オリジナルでは男性ふたりが主人公だったのを女性に替え、主演のひとりを自らが演じ、監督は夫のバート・フレインドリッチが務めました。
薄皮を一枚ずつ剥がしていくように、ストーリーが見えてくる。そこに、ぐいぐいと引き込まれていきます。
大枠の流れは予想通り。
でも、登場人物の個々人が、どんな価値観を持って、自分の人生にどんな選択をするのか。
最終的にはそこに興味と関心が向きます。
ミステリーの要素も含んだヒューマンドラマ。おすすめです。★4つ。
「秘密への招待状」公式サイト


『マーメイド・イン・パリ』は、フランスのファンタジー作品。

セーヌ川に浮かぶ舟で営業している、老舗のバー“フラワーバーガー”。
実は店の奥には扉があって、中ではサプライザーと呼ばれるパフォーマーたちが、素敵なショーを繰り広げていたのです。
ガスパールは、オーナーの息子で、人気のサプライザー。
パリに記録的な雨が降り、街が浸水してしまった後のこと、ガスパールは川のほとりで、傷ついた人魚を発見します。
慌てて彼女を自宅アパートに運び、浴槽に入れるガスパール。
人魚の名はルナ。歌うとみんな彼女に恋をし、心臓が破裂して死んでしまうと言います。人間から自分を守るために身に付けた能力。
警戒したルナは、ガスパールに向かっても歌を歌ったのですが、彼は何ともない様子。なぜならガスパールは大きな失恋を繰り返し、もう恋が出来なくなっていたから。
献身的に介護をするガスパールに、徐々に心を開くルナ。ガスパールもルナに恋心を抱き始めるのですが、同時に心臓に痛みを感じ始めます。
2回太陽が昇る前に、海に帰らないと命を失うというルナのために、面白いサプライズをたくさん見せてあげたいと、ガスパールは行動に出ます。
ところが、夫をルナの歌で失った女医のミレナが、ルナを拘束し、研究材料にしようと狙っていたのです…。

マチアス・マルジウ監督の執筆した小説を、自らが映画化。
まずは、単なるファンタジー作品だと思わないこと。マチアス・マルジウ監督は“フランスのティム・バートン”と呼ばれる奇才。まさにあのイメージです。
劇中にも、奇抜な仕掛けの付いた“飛び出す絵本”が出てきますが、作品全体がまさに“飛び出す絵本”。フラワーバーガーの店内も、ガスパールのアパートの部屋も夢いっぱい!
それでいて、大人のラブストーリーが展開されているのですから、監督の才能の豊かさを感じずにはいられません。
2016年、実際にパリに記録的大雨が降り、洪水で、セーヌ川に魚やカモが打ち上げられていたそう。それにインスピレーションを得て、同名小説を書いたとマルジウ監督は語ります。
また、恋する心をなくしてしまった男女にも、出会いはいつ訪れるかわからないからと。
ね、信じたい…(笑)。
フランス映画は、どちらかというと苦手なボクですが、この映画は最高!様々な免疫力がUPするかもしれません?
満点!★5つ。
「マーメイド・イン・パリ」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.2.3
『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』★★★
(満点は★★★★★)


緊急事態宣言の3月7日までの延長で、再び映画館の困窮が言われてます。
以前も書きましたが、感染の危険性がものすごく低いのが映画館。マスク着用なら、ちょっと笑ったぐらいじゃ、飛沫も飛びませんから。
映画館が感染対策をしてお客さんの来館を待っているなら、行く側もその意識をしっかり持って、劇場で映画を楽しむのは、人間の文化的生活の一部だとは思うのですが。
さ、今週は1本です!

『イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社』は、ドキュメンタリー。

21世紀の今も存在し、裏で世界の政治や社会、経済を支配しているのではないかという“都市伝説”のある組織、イルミナティ。
1776年に、アダム・ヴァイスハウプトによってドイツで作られた秘密結社で、1785年には禁圧されたとあるイルミナティが、なぜ今も“闇の”とか“影の”と噂になっているのか。これまで一切明らかにされてこなかった儀礼や、階級の詳細、発展のプロセスや歴史を、複数のイルミナティ研究家が解説しています。
ボクはもちろん詳しくないのですが、作品を観て自分なりに理解したところでは、当時はキリスト教の教会勢力が強く、教義以外を自由闊達に語ることが許されていなかったと。そんな中、大学教授だったヴァイスハウプトは、数名の学生と共に組織を作ったのですが、表立って議論が出来なければ、それは“秘密”となるわけで。悪魔崇拝とかではなく、人間が善として昇華するための啓蒙思想の組織だったよう。
さらに、既に巨大勢力だったフリーメイソンに潜伏し、そのメンバーを勧誘するなどして、大きくなっていったイルミナティ。
神に対する考え方や、死生観など、宗教的な部分はもちろんのこと、秘密を守り、組織への忠誠を誓う儀式のイメージが“裏”の印象を植え付けたのか、それとも実際に“闇”の組織なのか…。
宣伝のキャッチフレーズが、「観ると、消される。」ですから、あまり下手なことは書けませんが(笑)、まずは下勉強をしてから観たほうが、面白いと思います。
キーワードは、“イルミナティ”“フリーメイソン”“啓蒙思想”。このあたりかな。インターネットで調べてみて下さい。
つい最近でも、アメリカのトランプ前大統領の支持者の中に、ある団体の陰謀論を真剣に唱える人がいましたもんね。
信じるか、信じないかは、あなた次第です(笑)。★3つ。
「イルミナティ 世界を操る闇の秘密結社」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.1.28
『天国にちがいない』★★★
(満点は★★★★★)


先日、2020年のお気に入り映画を挙げておきましたが、いかがでしたか?
さかのぼった時、やはり印象に残っている作品というのは、タイトルを見ただけで「あっ」と思い出しますよね。
公開終了でも、今は様々なツールで観られるはず。チャンスがあったら、是非ご覧になってみて下さい!
さ、今週は1本です!

『天国にちがいない』は、パレスチナ系イスラエル人監督のエリア・スレイマン最新作。

映画監督のエリア・スレイマンは、パレスチナのナザレにある自宅で、のんびりと過ごしていました。
彼の家の庭にあるレモンの木から果実をもぎ取る隣人、走り去る物騒な男たちの集団、レストランで食事にクレームをつける客と機転を利かせて解決するウェイター、目隠しをされた女性を乗せて走るパトカー。
彼はそれらの出来事を黙って眺めながら、日常を過ごしていました。
ふと思い立った彼は、旅に出ます。
パリ、ニューヨーク。
異国の日常に身を置き、何かを感じ、そして再び、ナザレの町に戻ってきたのです…。

あらすじを読んでも、まったくピンと来ないと思います。すみません(笑)。
この映画、監督自らが主演し、劇中のエリア・スレイマンとしてのセリフは2つだけ。
ニューヨークでタクシーに乗った時、ドライバーから尋ねられて答えた、「ナザレ」、「パレスチナ人だ!」。
資料にあった監督の言葉を紹介すると、「私の映画が、これまでパレスチナを世界の縮図として描くことを目指していたなら、『天国にちがいない』は世界をパレスチナの縮図として提示しようとしている」。
暴力、パトカーのサイレンの音、検問所などは、何もパレスチナだけに存在するものではないんだ、ということなんですね。
ユダヤ人によるイスラエル建国宣言によって、先住のアラブ人は国外に逃げて難民になるか、残ってイスラエル人になるかの選択を迫られたと。エリア・スレイマン監督は後者の“パレスチナ系イスラエル人”としてナザレに生まれます。
複雑な環境にある故郷で、アイデンティティを考える、また映画でユーモアと皮肉をたっぷり込めて訴える。
それでも、こんな状況は世界中どこに行っても同じなんじゃないかと。
例えば、笑顔で他人の家のレモンを取っていく隣人も、強面クレイマーから平和的に事を解決するウェイターも、何かを何かに置き換えれば、監督が表現したかったであろうことが見えてくるはず。
パリでも、ニューヨークでも、ショートショートの短いストーリーを積み重ねて、エリア・スレイマンの旅は続きます。
タイトルの意味も、なんとなく…ねっ。
エリア・スレイマンが“現代のチャップリン”と評されるのも納得です。★3つ。
「天国にちがいない」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2020.1.21
『KCIA 南山の部長たち』★★★★
『どん底作家の人生に幸あれ!』★★★
(満点は★★★★★)


緊急事態宣言中に、ボクは“家の大掃除をします宣言”を発出。
今、多くのスペースを取っているもののひとつが、映画の資料なんです。
試写会の際にもらったマスコミ用プレスを、25年前からすべて取ってあるので、これが段ボールや袋に詰まってメチャメチャある。
どうしたらいいと思います?
捨てるのもなぁ…。思案のしどころです(笑)。
さ、今週は2本です!

1979年10月26日、パク・チョンヒ大統領が、射殺されます。
犯人は諜報機関であるKCIA(中央情報部)の部長で、韓国No.2の権力者とも言われた、キム・ジェギュ。
話は、暗殺の40日前にさかのぼります。
軍事クーデターによって最高権力の座に就いたパク・チョンヒ大統領は、いわゆる独裁者。その腐敗を、亡命先のアメリカ
院議会の聴聞会で証言したのが、KCIAの元部長のパク・ヨンガク。さらには回顧録も執筆していると知り、パク大統領
激怒するんですね。
大統領の側近、クァク・サンチョン警護室長は、KCIAに責任があると、キム部長を責め立てます。
キム部長はアメリカに飛び、友人でもあったパク元部長に会って、真意を尋ねます。
「大統領にとって、No.2は要らないんだ」。
パク元部長はそうこぼします。
母国のために奔走するキム部長でしたが、国内では民主化運動の激化など、問題が多発。大統領にとって、国民の声などただの騒音にしか聞こえず、取り巻きはそれを是とする。
そこに権力争いも加わって、キム部長は追い詰められていきます。
韓国映画は相変わらずレベルが高い。面白かったです。
パク・チョンヒ大統領の暗殺も、犯人がKCIAのキム・ジェギュ部長だったことも事実。
ただ、動機については様々な見解があるようで、純粋な愛国心、出世のためのクーデター、あるいは追い詰められたがゆえの突発的行動とも言われています。
あらすじも簡単にしか書きませんでしたが、様々な人物の思惑が複雑に絡みあい、世界中に衝撃を与えた大統領暗殺事件へと進んでいきます。
まだ、40年前の事件。韓国が民主主義国家になるのには、そこからさらに時間が必要でした。
隣国の歴史の一端を、ボクらは映画で知ることが出来る。あくまでフィクションですから、すべてを信じこむのはいかがかなものかとは思いますが、関心を持つきっかけにはなりますよね。
ちなみに、“南山”は「なむさん」と読むそう。キム部長を、イ・ビョンホンが演じています。★4つ。
「KCIA 南山の部長たち」公式サイト


『どん底作家の人生に幸あれ!』は、19世紀のイギリス人作家、チャールズ・ディケンズの半自伝的小説の映画化。

デイヴィッドは、優しい母親と、肝っ玉母さん的な家政婦のペゴディのもとで、幸せな毎日を過ごしていました。
ところが、母の再婚相手が暴力夫。デイヴィッドは家から追い出され、ロンドンの瓶詰め工場で働かされることになります。
数年が経ち、大好きだった母の訃報を聞いたデイヴィッドは、工場から逃げ出し、唯一の肉親である叔母の家に駆け込みます。
資産家の叔母は、デイヴィッドを名門校に進学させるんですね。
子供の頃から空想好きだったデイヴィッドは、“作り話”で学校の人気者になります。
卒業式の日、デイヴィッドはドーラという犬好きの令嬢に恋をします。そして、彼女の父親が経営する法律事務所に就職。ドーラへのプロポーズを決意したその時です。叔母が破産宣告を受けたというのです。
すべてをなくしてしまったデイヴィッド。波乱万丈な彼の人生は、果たしてどうなってしまうのでしょうか…。

イギリスの国民的作家で、2020年が没後150年となる、チャールズ・ディケンズの代表作「デイヴィッド・コパフィールド」の映画化です。
120分で、出産から結婚までを描いているので、大忙し(笑)。
原作となったのが、作家の半自伝的小説ですから、生い立ちはもちろん、なぜ小説家になったのか、才能やそのきっかけも描かれていると思って下さい。
キーワードは“空想”と“変わり者”。
登場人物には変わり者が確かに多い…。
昔、イギリスにモンティ・パイソンというコメディグループがいて、日本でも『空飛ぶモンティ・パイソン』という番組を吹き替えで放送してました。ボクが中学生か高校生の頃のお話。
イギリスのコメディが難解で、背伸びしながら「面白い」と言っていたのを思い出しました。
そんな笑いって言えばわかる人にはわかるかな。たぶん、フィッシュ&チップス的なイギリス独自の笑いの文化。
何言ってるかわからないって?
あ、そんな感じの映画です(笑)。★3つ。
「どん底作家の人生に幸あれ!」公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2020.1.13
『ウォーデン 消えた死刑囚』★★★
『キング・オブ・シーヴズ』★★★★
『ジャスト6.5 闘いの証』★★★★
『聖なる犯罪者』★★★★
(満点は★★★★★)


今週の星の数には迷いました。いずれも面白くて、すべて★4つでもいいかなと思ったぐらい。
ちなみに1作目と3作目は、公式サイトが一緒です。どちらかに興味を持った方は、両方観ることをお勧めします!
さ、今週は4本です!

『ウォーデン 消えた死刑囚』は、イラン映画。

1966年、ヤヘド少佐が所長を務めるイラン南部の刑務所は、新空港建設の敷地内にあるため、閉鎖することになりました。
そのため、たくさんの囚人を新たな刑務所に移送しなくてはなりません。
何台かの車に囚人を乗せ、無事移送が完了したかに思えたその時、1本の電話が入ります。
囚人がひとり足りないと言うのです。それも死刑囚。
担当官をすべて呼び戻し、作業行程を確認したのですが、それぞれに落ち度はないと。ならば、その囚人はまだこの建物の中にいるはずだと、一斉捜索を始めますが、一向に見つけられません。
そのまま刑務所を壊そうとした時、家族や村人、その囚人を担当していたソーシャルワーカーまでもが、彼は無実だと訴えるのです。
所長はこのことが公になってキャリアに傷がつくのは御免。でも、未だに隠れているなら、無実かもしれない囚人は、瓦礫の下敷きになってしまいます。
期限は刻一刻と迫っていたのです…。

イラン映画は、さすがになかなか観る機会がなかったのですが、ぐっと見入ってしまいました。
イスラム革命前のイランが舞台。冤罪も多数あったのでしょう。
この所長も人間臭いというか、厳しさの一方で、出世欲もあれば、女性に対する欲もある。
消えた死刑囚の無実を伝えるソーシャルワーカーも美しい女性で、彼女に対する下心もたっぷりあるわけです。
所長のヤヘド少佐にナヴィッド・モハマドザデー、ソーシャルワーカーの女性にパリナーズ・イザドヤール。
イランを代表する人気男性俳優と女優のふたりは、このあと紹介する『ジャスト6.5 闘いの証』にも出演。特にナヴィッド・モハマドザデーは、主役のひとり、あちらでは麻薬捜査官のトップを演じています。
ひとつ、脱獄のカギらしき“靴墨”の意味がよくわからず…。ボクの理解力不足かも?
加えて、所長のラストの行動の理由付けも、もっと欲しかったかな。
その分だと思って下さい。★3つ。
「ウォーデン 消えた死刑囚」公式サイト


『キング・オブ・シーヴズ』は、2015年に実際に起きたロンドンの事件を映画化した作品。

ロンドンの宝飾店が集まる街、ハットンガーデン。そこにある貸金庫には、ケタ外れの財が保管されています。
ブライアンは“泥棒の王”と呼ばれた大泥棒でしたが、今は足を洗い、老後の人生を妻と満喫していました。
ところが、最愛の妻が亡くなってしまうんですね。
葬儀の席に集まった中には、かつての泥棒仲間もいました。
すると、バジルという男が、ハットンガーデンの貸金庫破りを持ち掛けてきます。
妻亡き今、刺激も欲しいブライアンは、計画に参同。他に集まったのは、テリー、ケニー、ダニー、カールの計6人。
バジル以外は、高齢の泥棒ばかり。平均年齢60歳オーバーの、緻密で大胆な金庫破りが始まったのです…。

ほんの数年前の事件。実話だというのがすごい…。
当日イギリスでは、“英国史上、最高額、最高齢の金庫破り”と言われたそうです。
一番若いバジル以外は、既に逮捕されているのですが、逮捕時の年齢が、リーダーのブライアン77歳、テリー67歳、ケニー75歳、カール59歳、ダニー61歳、ビリー60歳。
よくもまぁ…といった感じでしょ(笑)。
彼らは皆、過去の犯罪歴を誇りに、自信満々で行動に移ります。
途中、仲間割れもあるし、警察がいち早く察知もする。“知らぬは老泥棒ばかりなり”ですが、それでもことの一部始終は見てみたい。そんな気持ちで見続ける映画です。
ブライアン役のマイケル・ケインを始め、映画ファンには、知られた顔ばかり。そんな名優たちの懐かしの作品の出演シーンを入れてくるあたり、演出も乙なもの。
まだ捕まっていないバジルも、どこかの劇場で観て、ほくそ笑んでいるかもしれませんョ。★4つ。
「キング・オブ・シーヴズ」公式サイト


『ジャスト6.5 闘いの証』は、こちらもイラン映画。

イラン国内に蔓延する薬物問題。その多くの依存者はホームレスでした。
これをなんとか解決したいと、サマドを中心とした、警察の薬物撲滅特別チームが動きます。
ターゲットは麻薬売人のトップ、ナセル・ハグザド。誰も見たことがなく、実在するのかもわからない大物です。
まずはホームレスに麻薬を売る、小物の売人を吊し上げ、徐々に真のターゲットへと近づいていきます。
そして、遂にナセルの元へ。高級ペントハウスで彼を捕らえたのですが…。

イランの警察vs麻薬組織。緊迫のクライム・サスペンスです。
ナセルの逮捕までもハラハラドキドキ。ただ、思ったよりも順調に?ナセルまで辿り着きます。
ところが物語は、ナセル収監後に、もうひとヤマも、ふたヤマもあるんですね。
なぜ、こんなにも薬物がはびこるのか。酸素が足りないほどに詰め込まれる囚人たち。警察の体質など、おそらく今のイランのリアルであろうことが、多方面の視点から描かれていて、よく131分にまとめたなと感じました。
まだ30歳だというサイード・ルスタイという監督の名前は、確かに覚えておくといいかもしれません。★4つ。
「ジャスト6.5 闘いの証」公式サイト


『聖なる犯罪者』は、ポーランドで実際に起きた事件に基づいて作られた作品。

ダニエルは、少年院に収容されている20歳の男性。
更正のために教義を説く、キリスト教の神父に影響され、聖職者になりたいと願いますが、前科のある者にその道は開かれていないのです。
仮釈放が決まり、就職のため、田舎の村の製材所に向かうダニエル。そこは少年院を出た若者を集めた、村長の営む製材所でした。
途中、教会を見つけ、ダニエルは中へと入ります。
前に座る少女に、自分は司祭だと冗談を言うと、彼女はこの教会の関係者。ダニエルは新任の司祭と勘違いされ、健康面に問題のあった現職の司祭に代わって、教会のあれこれを任されることになります。
実はこの村では、1年前に住人7人の命を奪う、凄惨な事故がありました。
普通の聖職者とは違ったアプローチで、遺族の心を癒やすダニエル。
風変わりながら、村人の気持ちに寄り添っていくダニエルに、人々は信頼を寄せていきます。
ところが、製材所にいた昔の少年院仲間が、司祭の格好をしたダニエルに気付いてしまったのです…。

最後はどうなるんだろうと、ドキドキしながら観てました。
ダニエルは熱心な信者の代表として、少年院では神父の手伝いをしていたので、ミサの流れはわかっていましたが、他のあれこれは“スマホで調べる”というのが、いかにも現代的(笑)。
横道に逸れたがゆえの説得力がダニエルの言葉にはある。でも、偽の聖職者なんですよね。
「人のためになりたいのなら、他のやり方もある」と少年院の神父は言うけれど、簡単にはいかないのが現実。
ダニエルは偽の聖職者に生き甲斐を見つけてしまったのです。
言葉の持つ意味やパワーと、逆に危険性。誰の口からそれが出ると重くなるのか、逆に軽んじられるのかなど、いろいろと自分に置き換えて考えてました。
ラストはかなり衝撃的。これまた「う〜ん」と考えさせられるはず。
あちこちで言われていますが、ダニエル役の俳優、バルトス・ビィエレニアの目力がすごいです!★4つ。
「聖なる犯罪者」公式サイト

 
 
 
 
週末公開の映画……2021.01.07
『エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット』★★★★
『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』★★
(満点は★★★★★)


2021年、最初の映画コラムです。今年もよろしくお付き合い下さい。
1都3県に非常事態宣言…。
でも、今回は映画館の閉鎖はないので、ホッとしている方も多いのでは?
ただ、それでも街の人出が減少すると、映画の興行収入にも影響しそう。
早く収束に向かって欲しいものです。
さ、今週は2本です!

『エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット』は、ドキュメンタリー。

数々のアーティストのレコードジャケットをデザインしてきた菅谷晋一。
大学で建築を学び、実家の町工場で働いた後、やはりデザインがやりたいと、ひとり独立。手探りで仕事を進めてきたと言います。
彼がジャケットを手掛けるアーティストのひとつが、ザ・クロマニヨンズ。甲本ヒロト、真島昌利を中心とした4人組のパンク・ロックグループです。
その作品作りの工程をメインに据えながら、様々なアーティストや関係者が、菅谷晋一デザインの魅力について語るという内容になっています。
レコードジャケットが、曲の説明をしてはいけない。
そんな考えのもと、絵を描き、時に彫刻やオブジェまで作り、写真に撮る。それらすべてをひとりでやって、デザインを作っていくという。
さらに、「案は1つしか出さない」。これがポリシー。
菅谷晋一は言います。
「100%の力を注いだものじゃないと失礼でしょ?」。
たとえば複数の案を出せと言われた時、そのすべてに100%は不可能だと。ハナから“棄て”の作品を出すのはいかがなものかと言うのです。
出演するアーティストたちが口を揃えるのは、「菅谷さんの作品に間違いはない。何かこうしてくれと言ったことがない」ということ。
柔らかい口調で、優しく笑う彼の表情は、子どもが工作を楽しんでいるかのよう。
特に出来上がった時のうれしそうな顔、「早く見せてあげたいなぁ」という言葉に、ものづくりの根底にあるべき“何か”を感じずにはいられません。
アナログのLP盤の頃は、“ジャケット買い”なるものがありました。懐かしく思い出す人もいるはずです。★4つ。
「エポックのアトリエ 菅谷晋一がつくるレコードジャケット」公式サイト

『ハッピー・バースデー 家族のいる時間』は、カトリーヌ・ドヌーヴ出演のフランス映画。

ジャンとアンドレアの夫婦は、孫娘のエマと、フランス南西部の緑豊かな邸宅で暮らしています。
妻アンドレアの70歳の誕生日。家族みんなで集まることになりました。
長男のヴァンサンは妻とふたりの息子を、次男のロマンは恋人を連れてやってきます。
やがて、バタバタと賑やかに宴の準備が始まります。
すると1本の電話が。3年前に姿を消した、長女のクレールが帰ってきたというのです。
車でクレールを迎えに行くヴァンサン。
しかし、心に傷を持つクレールが、家族の間を掻き回し始めたのです…。

フランス人の個人主義が如実に表れた作品。
たくさんの揉め事が起きるのですが、日本だったら、もう親子の断絶、兄弟の縁切り(笑)。
でも、この映画の中では、揉めに揉めて、暴言を吐かれようが、次の瞬間、皆で食卓を囲むという。
昔、聞いたことがあります。
「俺は原爆を持つことには反対だけど、シラク(当時大統領)がいいって言うなら、いいんじゃないか」。これがフランスの個人主義だと。
裏を返せば、他人の考えを尊重するということなのかもしれません。
この国民性の差が、もしかすると、作品への理解を妨げる壁になるのかなぁと。
「いやいや、うちもこんなだったけど、実は仲良しでね…」なんてご家庭には楽しめるのかもしれませんが。
個人的には、ごめんなさい。★2つ。
「ハッピー・バースデー 家族のいる時間」公式サイト