Pick Up Movie!……2022.12.2
『マッドゴッド』★★★
『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』★★★★
『ワイルド・ロード』★★★
(満点は★★★★★)


12月になりました。
2022年も、いよいよ最後の1ヶ月です。
何かとせわしない時期ですが、ふと息抜きがしたくなったら映画でも。
心の休息も大事ですからねっ。
さぁ、今週は3本です!


『マッドゴッド』は、制作期間30年というストップモーションアニメ。

ガスマスクを着けた“アサシン”と呼ばれる男が、地下の世界へと降りて行きます。
そこには有象無象の生き物たちがいました。
アサシンは地図を取り出し、場所を移動。さらに下へ下へと下って行くアサシン。
どこまで降りるのか。そしてその目的は何なのか。
アサシンはさらに地の底へと進んで行くのでした…。

すみません。
輪廻?繰り返しの物語?
ストーリーは、よくわかりませんでした(苦笑)。
でも、これ、すごいです。30年かかったのが、わかる気がします。
数々のSF映画の特殊効果を手掛けた巨匠フィル・ティペットが、90年に制作を開始。ところが、93年の『ジュラシック・パーク』で映画業界がCG映像へと移行したことで、自分の仕事は終わったと嘆いたティペットは、『マッドゴッド』も中断。
しかし、スタジオの若き継承者たちが、人形やセットを発見し、それからさらに20年かけて作り上げたのが、この映画だとか。
果てしない、気が遠くなるような行程…。
でも、公式サイトのメイキング映像を見ると、大人が楽しんでそうだなと(笑)。
ひとつひとつに、あえて意味を見出ださなくてもいいんじゃないかと思わせる作品です。
クリエイターたちの遊び心と、プロとしての職人技と。
30年が84分に凝縮されています。
その凝縮がいつかまた、アートとしてのビッグバンを起こすのかもしれませんよね。マニア必見です!★3つ。
『マッドゴッド』公式サイト


『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』は、人気のイギリス人画家の伝記映画。

19世紀末、イギリスの上流階級の家に、長男として生まれたルイス・ウェイン。
父親が早くに亡くなったため、ルイスは母親と5人の姉妹の生活を一手に引き受けていました。
ルイスの仕事は、新聞社のイラストレーター。
しかし、彼にはやりたいことが他にもたくさんあって、仕事はあくまでもパートタイム。特に電気の持つ力に魅了されていたルイスは、ちょっぴり変わった性格の持ち主でもあったのです。
ある日のこと、長女で姉のキャロラインが、妹たちに家庭教師を付けたいと。経済的にも無理だと、最初は反対していたルイスでしたが、家庭教師のエミリーを見て、まさに電気に打たれたかの如く、一目惚れ。
エミリーはルイスより10歳も年上で、身分の差も。
それでも身内や世間の反対を押し切り、ふたりは結婚します。
幸せに暮らし始めたエミリーとルイスでしたが、結婚からわずか半年ほどで、エミリーに末期の乳ガンが見つかります。
悲しみのさなかに、家の庭に迷い混んできた一匹の子猫。ふたりはこの猫にピーターと名付け、ペットとして飼い始めたのです…。

ルイス・ウェイン。
19世紀末から20世紀にかけて人気を博したイラストレーターで画家。擬人化した猫の絵で有名です。
当時、まだ猫は人々にとってペットという存在ではなかったのですが、ルイスのイラストが新聞に載り、猫独自の性格がデフォルメされてから、猫がペットとして可愛がられるようになったと言います。
映画は、エミリーが亡くなった後も続きます。
著作権の概念を知らなかったルイスは、絵が売れて、自身が人気者になっても、収入は決して多くなく。自分より先に、大切な人や相棒の猫がこの世を去ると、悲しみからか、奇行が増えていきます。
そのあたりは見ていてツラかったのですが、ルイス・ウェインという人物を知るには、避けては通れない部分なのでしょう。
伝記映画ではありますが、お堅い内容ではありません。笑って、泣いて。
タイトルにあるように、特に猫好きにはたまらない映画かもしれません。★4つ。
『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』公式サイト


『ワイルド・ロード』は、ノンストップ・クライムアクション。

組織から金とコカインを盗み、逃亡を謀るフレディ。しかし、彼の腹には銃弾が撃ち込まれていました。
かろうじて長距離バスに乗り込んだフレディでしたが、腹部からはおびただしい血が流れています。
冷酷な女ボスのヴィックは、フレディの手下を捕まえてはフレディの居場所を吐かせ、次々と殺害していきます。
実はフレディには娘がいて、父親らしいことを何もしてやれなかったからと、娘のために死を覚悟で金を奪ったんですね。
すると、バスの前列に座る若い黒人の女の子が、フレディに携帯を貸して欲しいと頼んできます。
大人っぽく見せてはいますが、まだ10代半ばぐらいの少女の名はレイチェル。ネットで知り合った男に会いに行くと言います。
バスは進み、意識が朦朧とする中、フレディは最後の頼みの綱として、ある男に電話をするんですね。
絶対に頭を下げたくなかった男。それはフレディの実の父親だったのです…。

長距離バスの中で繰り広げられるクライムアクション。
バス停を次々と乗り越しては、逃げ場を探すフレディでしたが、どこまで行こうが安息の地はやってきません。そもそも、そんな場所はないわけで。
レイチェルのことが心配になるフレディ。なぜなら、娘と同じぐらいの年頃だから。
フレディの父親はクソだし、他にもサイコパスなキャラが登場。バスの中は犯罪の吹きだまりと化していきます。
フレディを演じるのは、2020年のアルバム「Tickets to My Downfall」が全米1位を記録した、白人ラッパーのマシン・ガン・ケリー。
最近のヒップホップシーンには、とんと疎くなったけど、Bad Boy Recordsと契約する白人はなかなかだと思います。
歌手としても、俳優としても注目です。★3つ。
『ワイルド・ロード』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2022.11.24
『川のながれに』★★★
『シスター 夏のわかれ道』★★★
『の方へ、流れる』★★★
(満点は★★★★★)


先週も書いた、オンライン試写。先週は月、火で7本。月曜に4本、火曜に3本。
スマホで観るのですが、いくら大きめサイズのスマホだと言っても、目にしてみれば“一点集中”。
1日に約2時間を4本観ると、8時間近くは画面を見つめていることに。
合間には窓を開けて、遠くを眺めないといけませんね(^^;
さぁ、今週は3本です!


『川のながれに』は、栃木県の那須塩原を舞台にしたヒューマンドラマ。

豊かな自然に囲まれた那須塩原に生まれ育った賢司は、山あいを流れる箒川で、スタンドアップパドルのインストラクター兼ガイドとして働いていました。
実は最近、母を病気で亡くした賢司。父親は賢司が幼い頃、川の水難事故で亡くなっていたため、天涯孤独の身になってしまったのです。
母が亡くなる直前に遺した言葉が、「自由に生きなさい」。
周りの人たちも、「これからは自分らしく生きていいんだから」と声を掛けてくれます。
しかし、賢司には違和感がありました。なぜなら、これまでも不自由は感じなかったし、自分の好きなように生きてきたから。
その頃、世界中を旅して帰国した、音葉というイラストレーターの女性が那須塩原に移住してきます。
日本を飛び出し、積極的に世界を訪ね歩いてきた音葉に自分にはない生き方を感じ、賢司は自分のこれまでの人生に疑問を抱きます。
そんな時、死んだはずの父親が、突然賢司の前に現れたのです…。

まっすぐな好青年の賢司は、町のみんなに好かれていて、旅館の若女将の梓は賢司に振り向いてもらいたいと思っています。
ところが賢司の元カノのカリンが帰郷。ふたりはバチバチの関係に。
人生の先輩としての音葉や、親友の陵介、賢司を信頼して仕事を任せてくれている秋央など、登場人物も多彩です。
物語の核となるのは、人生訓。
地域の特性を活かし、人を描く映画は、その多くが説教くさいか、町のPRムービーのようになりがちです。でも、この作品はそうじゃないのが素晴らしい。見せ方が上手いんだと思います。
スクリーンからマイナスイオンを感じることができるかも?癒されに行ってみて下さい。★3つ。
『川のながれに』公式サイト


『シスター 夏のわかれ道』は、中国映画。

アン・ランは、看護師として働きながら、医者になるため、北京の大学院で学び直そうと頑張っている若い女性。
そんなアン・ランのもとに、悲報が届きます。疎遠になっていた両親が、交通事故で亡くなったというのです。
愕然としている彼女の前に、見知らぬ男の子が現れます。アン・ランの弟だという、6歳のズーハンです。
両親は男の子が欲しかったものの、生まれてきたのは女の子。一人っ子政策の中国では、障がいがあるなどの理由が無ければ、二人目の子どもは作れません。
両親は、アン・ランに関して虚偽の申告をし、第2子を産んだ。それがズーハンだったのです。
待望の男の子として、両親の愛情をいっぱいに育ったズーハン。
一方のアン・ランは、虚偽の申請のせいもあり、成績優秀でも看護師資格までしか取れませんでした。
悔しさを乗り越え、改めて自分の夢を叶えようとしていた時に現れた弟という存在。
親戚は、「姉なんだからお前が育てろ」と言います。
アン・ランは、自分の人生か、血の繋がりか、選択を迫られるのでした…。

中国では、1979年から2015年まで、人口爆発を避けるために「一人っ子政策」をとっていました。その弊害に、真正面から挑んだ映画。政府批判と受け取られなかったか、心配になる内容でもあります。
ズーハンは親の死を理解していないのか、わがまま放題。北京にはズーハンを連れて行けず、親戚にも受け入れる余裕がないなら、養子に出すしかありません。
ぶつかりながら、初めて一緒に暮らす姉と弟。
ふたりの気持ちに変化が起きようとも、現実は現実。アン・ランも、自分の人生を生きていかなくてはなりません。
公開されるや、アン・ランの、またズーハンの選択や行動に、中国全土で論争が巻き起こったそうですが、そうなるであろうことは想像に難くありません。
結末はあなた自身の目で確かめて下さい。★3つ。
『シスター 夏のわかれ道』公式サイト


『の方へ、流れる』は、唐田えりか主演作。

里美は、姉が経営する雑貨店「ストリングス」の手伝いに行くため、バスに乗ります。
車中で隣りに立つ男性が読んでいる小説を、興味深そうに覗き込む里美。
手前のバス停で男性が降りる際、その本からステンレスの栞が落ちます。
男性は気付かず、里美はそれを拾います。
店に着くと、向かいの公園に先程の男性がやってきて、誰かを待っているかのようにソワソワと。
しばらくすると店内に男性が入ってきて、里美に尋ねます。
「この栞、いくらですか?同じものを持っているのですが、値段を知りたくて」。
すると里美が答えます。
「持っている?今も?」。
そんな会話が、ふたりのファーストコンタクトでした…。

しばらく役者としての仕事を休んでいた唐田えりかの、これが復帰作。自らオーディションで勝ち取った、主役の座だそうです。
どこか物憂げで、可愛い顔をしているのに、発する短い言葉にトゲがある。そんな里美が、ふとしたきっかけで智徳という男性と出会います。
智徳は微妙な関係になってしまった恋人と待ち合わせているようですが、彼女は現れず。
里美は姉が旅行に出掛けている時だけ店を手伝うので、この辺りをよく知らないと。智徳は近くでエンジニアとして働いているから、街を案内してあげると里美を誘います。
会話の中の、何が真実で、何が虚なのか。
半日だけの男女の時間が進みます。
里美と智徳の、言葉や行動の裏読みが面白い1本。
一度観ただけでは、なかなかわからないかもしれませんが、これを読んでから観る方は、そのあたりに留意してみると、きっとこの映画の魅力に気付くはずです。★3つ。
『の方へ、流れる』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2022.11.17
『擬音 A FOLEY ARTIST』★★★
『サイレント・ナイト』★★★
『ナイトライド 時間は嗤う』★★★
『ファイブ・デビルズ』★★★
(満点は★★★★★)


試写をオンラインで見せて頂くようになり、案内をもらった作品の80〜90%を拝見できるようになりました。
試写室だと時間が決まってるので、合わないと断念しないといけませんが、オンラインなら深夜の空き時間でも観ることができますからね。
2022年は自分史上最多本数を更新しそうです。
さぁ、今週は4本です!


『擬音 A FOLEY ARTIST』は、台湾映画の音響効果技師に迫ったドキュメンタリー。

フォーリーサウンドとは、映画やドラマにおいて、あとから付ける音や効果音のこと。フォーリーアーティストとは、音響効果技師のことを指します。
映画は、台湾の“国宝級”音響効果技師のフー・ディンイー氏の半生を中心に、台湾と中国の映画史を掘り下げていくドキュメンタリー。
雑然としたスタジオには、あらゆる物が置いてあり、一見ガラクタやゴミに見えるものが、実は“音”を生む貴重な資源だったりもするわけで。
40年以上のキャリアを持つフー・ディンイー氏の作業風景はもちろん、吹き替え時代の中国、台湾映画の裏話も知ることができます。昔は演じた俳優ではなく、声優さんが声をあてていたんですね。
また、日本の「本番」という言葉は、そのまま台湾映画には残っていて、スタジオの赤ランプは“ホンバン”を示す、とか、高倉健さんも中国映画の吹き替えに携わっていたなど、意外な発見があったりもします。
現代の映画における音響効果技師の必要性、将来性についても語られており、アナログとデジタルの在り方などについても考えさせられるはずです。
すごいマニアックな映画かと思いましたが、いや、マニアックはマニアックですョ(笑)、でも少しでも映画が好きな人なら楽しめるはず。
また、当時の人気声優たちの吹き替えの体験談などは、声優を目指す日本の若者にもすごく勉強になる話。技を教えてくれてますから。
何でもそう。裏を知るって、面白いです。そんな1本だと思います。★3つ。
『擬音 A FOLEY ARTIST』公式サイト


『サイレント・ナイト』は、ブラックなクリスマス狂騒曲。

イギリスの、とある田舎の屋敷で企画されたクリスマスパーティ。
主催したのは、屋敷の持ち主であるネルとサイモン夫妻。ふたりにはアートと、双子の兄弟バーディーとトーマスという3人の息子がいます。
招かれたのは、ネルとサイモンの学生時代の親友とその家族たち。総勢4組12名の男女が、クリスマスを祝おうと集まったのです。
ところが、この日はあまりにも特別な日。
実は、地球上のありとあらゆる生き物を死滅させる毒ガスが発生していて、間もなくイギリス全土を通過するのです。
助かる術は見つけられず、政府は安楽死のための薬“EXITピル”を、全国民に配っていました。
愛と友情を確かめ合いながら人生の終焉を迎えたい。こうして最期のクリスマスパーティが、幕を開けたのです…。

すごい発想ですよね。
そんなガスがやって来るなら、そもそもパニックになって、パーティどころじゃないと思うのですが(笑)。
集まった面々は、子どもも含め、時が来たら、ピルを飲んで死ぬことがわかっています。
大人たちは昔話に花を咲かせ、実はああだった、こうだったと、知らなくてよかったことまで暴露し始める始末。“墓場まで持って行く”べきこともしゃべっちゃう。“墓場”はすぐそこなのにね。
このあたりに、ブラックなコメディの要素が散りばめられていて、この作品のひとつの方向性を形作っています。
世界的コロナ禍以前に撮った映画。観賞後に監督のコメントを読むと、「なるほど、そう捉える人も、少しはいるかもね」と。
ある意味、意図せず時代に即してしまった1本かもしれません。★3つ。
『サイレント・ナイト』公式サイト


『ナイトライド 時間は嗤う』は、94分のワンショット・ムービー。

裏社会で、麻薬の密売人を続けてきたバッジ。
この稼業もそろそろ潮時かと、恋人のソフィアと共に足を洗うことを決め、友人のグレアムと自動車のカスタムショップを始める計画を立てていたのです。
しかし、その事業資金を手に入れようと、最後の賭けに出ます。
ソフィアのコネで50キロもの麻薬を手に入れ、倍の金額で売り抜けば、多額の差益が手に入るというものです。
そのためには、まず資金を作る必要があり、ジョーという男の闇金融から多額の融資を受けることに。
ジョーは恐ろしい男で、
約束を守らなければ、もちろん命はありません。
ところがです。バッジの部下がヘマをします。
ブツを積んだバンを、何者かに盗まれてしまったのです。
買い手は約束の時間に間に合わないならと、契約をキャンセル。金が入らなければ、借金は返せない。
絶体絶命の危機を、バッジは乗り越えることができるのでしょうか…。

舞台は北アイルランドのベルファスト。
バッジにはふたつの問題が、のしかかっているわけです。
ひとつは、バンを見つけること。もうひとつは、バンが見つかったとして、大量の麻薬を買ってくれる新たな客を見つけること。
それも、わずかな時間内にです。
ほぼ車の中で進む、94分というリアルタイムを、観客は一緒に注視することになります。
公式サイトには、11時間のリハを1週間続け、6晩で全6テイクを撮ったとあります。集中力との闘いだったはず。お疲れさまでした。
携帯電話のやり取りが主ですから、ヘマをやらかした手下の顔も、ジョーの顔もわからず、声だけで想像しなくてはならなかったのも逆に新鮮だったかも。★3つ。
『ナイトライド 時間は嗤う』公式サイト


『ファイブ・デビルズ』は、タイムリープ・スリラー。

フランスの小さな村に住む親子。父は消防団員のジミー。母はプールで高齢者に水中エアロビクスを教えているジョアンヌ。ふたりの間には、ひとり娘のヴィッキーがいました。
ヴィッキーはジョアンヌが大好き。プールにも、寒中水泳をする湖にも、学校以外はいつも一緒にいたいほど母が好き。
そんなヴィッキーには不思議な能力がありました。それは嗅覚が鋭いこと。
ヴィッキーに目隠しをして、ジョアンヌが離れたところに隠れても、いとも簡単に見つけ出したのです。
ヴィッキーは、様々な匂いを瓶に詰めて収集するのが趣味。もちろん、母の匂いの瓶もあります。
ある日のこと、ジュリアという女性が突然家にやって来て、しばらく滞在するといいます。
父から叔母だと説明されますが、ヴィッキーは合点がいかず。特に母の動揺が気になってしかたありません。
ジュリアの持ち物をそっと取り出し、瓶に詰めるヴィッキー。あるものを混ぜて匂いを嗅いだ時、ヴィッキーは時間をさかのぼり、母の若かりし頃へとタイムリープしてしまうんですね。
そこはヴィッキーが生まれる前。母の隠された真実を知ることになるのです…。

学校ではいじめられっ子のヴィッキー。母のジョアンヌだけが支えなのに、謎の女性ジュリアの出現で、ヴィッキーの平穏は崩れていきます。
この先は、何を書いてもネタバレになりそうなので控えますが、タイトルの『ファイブ・デビルズ』は、架空の村の名前だそう。“悪魔憑き”のような映画でないことは伝えておきます。
ちなみに、タイムリープは“時間跳躍”を意味する和製英語。『時をかける少女』の中で作られた造語だそうです。★3つ。
『ファイブ・デビルズ』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2022.11.11
『あなたの微笑み』★★★
『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』★★★
『ランディ・ローズ』★★★
『ゆめのまにまに』★★★
(満点は★★★★★)


11月7日(月)、8日(火)と、銀座のヤマハホールで、35周年記念のライブを行ったピアニストの国府弘子さん。
ボクは2日目のステージを拝見しましたが、この日のゲストは岡本真夜さん、露崎春女さん、ウィリアムス浩子さんと、豪華3人の歌姫!
素敵なピアノとボーカルを堪能させて頂きました。
写真はあえて作ってくれた撮影タイムにパシャ。
音楽にも、映画にも、いい季節ですよねっ。
さぁ、今週は4本です!


『あなたの微笑み』は、映画監督の渡辺紘文を主演に迎えたリム・カーワイ監督作品。

北関東の栃木県で、映画製作団体「大田原愚豚舎」を主宰し、東京国際映画祭での受賞歴を誇る、映画監督の渡辺紘文。
しかし、今ではまったく仕事がなく、周りからも煙たがられている存在に。
そんな時、沖縄で映画を撮らないかと声を掛けられます。
久々の仕事に意気揚々と現場に向かった渡辺でしたが、実は金持ちの道楽で、自分と恋人を主人公にレッドカーペットを歩けるようなヒット作をと言われます。
脚本を書こうにも、まったく筆が進まない渡辺。最後は痛い目に遭わされて、沖縄を追い出されるハメに。
さて、どうするかとなった時、渡辺は各地のミニシアターを回り、自分の過去の作品を上映してもらえないかとお願いをする、“直談判の旅”を始めたのでした…。

半分実話?あ、4分の1ぐらいかな。
とはいえ、主演の渡辺紘文が素人ではないにしろ、本業は映画監督ですから、お世辞にも演技が上手いとは言えず。
沖縄の下りは、正直、キツかったです(^^;
ただ、後半になって、各地のミニシアターを回る部分では、実際の劇場と、支配人さんたちが出演。味のあるホールの姿を見ているだけで、ちょっとした旅気分を感じられたのと、大切な文化財の特集を観ているようで。
先日の火災で焼失してしまった、小倉の昭和館も登場します。今となっては貴重な映像です。
沖縄の首里劇場から、北海道の大黒座まで。これが無かったら、★1つだったかも(笑)。
映画を愛する人のための映画かも。★3つ。
『あなたの微笑み』公式サイト


『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』は、実話を題材にした物語。

1942年のフランス。
ユダヤの人たちがナチス・ドイツによって捕らえられ、移送される車の中、ユダヤ人青年のジルは横にいた若者から食料をねだられ、代わりに主人の家から盗んだというペルシャ語の本を渡されます。
車が止まり、降りるように命じられ、一列に並ぶと、みんな銃で撃ち殺されてしまいます。
「次!」の声に立ちすくむジル。
銃声より早く倒れたのを見抜かれ、改めて銃口が向けられたその時、ジルは、自分はユダヤ人ではなく、ペルシャ人だと主張。その証拠にと出したのが、さっき交換したペルシャ語の本でした。
するとひとりの兵士が、こう言います。
「コッホ大尉がペルシャ人を探している。連れて帰れば、ご褒美に肉の缶詰がもらえるぞ」。
嘘でなんとか命を繋いだジルは、収容所でコッホ大尉と対面します。除隊後に、テヘランで料理店を開くのが夢だという大尉は、収容所にいる間に、ペルシャ語を覚えたかったのです。
ジルはペルシャ語など知るよしもありません。
デタラメな言葉を作っては、大尉に教えるジル。
危険な綱渡りの毎日を過ごさなければなりませんでした…。

“実話を題材にした物語”とは、映画の始めに出てくる言葉。
公式サイトには“短編小説から着想を得て映画化”とあり、その短編小説が実話を基にしているのかもしれませんね。
不可能だろうと思う造語の数々。一度は口に出せるかもしれませんが、同じ言葉を二度、三度と言うのは至難の業。
それでもジルは、なんとかそれをやってのけるのでした。
もちろん、危険はやってきます。兵士の中には偽ペルシャ人であることに気付いている者もいれば、収容所にペルシャ出身の捕虜が連れて来られたり。
昔、受験前に英単語を数百覚えました。ボクの時代は『試験に出る英単語』略して“出る単”と、『試験に出る英熟語』略して“出る熟”という参考書でしたが、あれだってかなりの日数をかけて覚え、どうしても覚えられないものは何度も反復学習をして。
ジルには筆記用具は与えられません。すごい創造力と記憶力。映画だと言ってしまえばそれまでですが。
でも、最後にいろんな事が、きちんと着地します。よく出来たストーリーだと思います。★3つ。
『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』公式サイト


『ランディ・ローズ』は、25歳で亡くなった天才ギタリストの生涯を描いたドキュメンタリー映画。

1956年、カリフォルニア州サンタモニカに生まれたランディ・ローズ。
6歳の誕生日に祖父からアコースティックギターをプレゼントされると、8歳でエレキギターに目覚め、あっという間に才能が開花。
10代になると、兄とバンドを組むなど、いくつかのバンド活動を経て、1975年にクワイエット・ライオットを結成します。
ライブはメチャメチャ盛り上がるのに、なぜかレコード会社の契約は取れず。彼らがプロとしてデビューできたのは、日本でだけでした。
クワイエット・ライオットの名前を知ってはいましたが、まさか日本でしかアルバムを出していなかったとは…。この映画で初めて知った事実です。
その後、1979年に、オジー・オズボーン・バンドにギタリストとして加入。これにより、クワイエット・ライオットは自然消滅となってしまいます。
一方、ランディの評価はうなぎ登り。バンドになくてはならない存在として、オジー・オズボーンを支えていたのです。
ところが、1982年、事故は起こります。
気乗りがしないまま、遊びで乗った小型飛行機が墜落。操縦士の悪ふざけが原因の事故で、ランディは帰らぬ人になってしまいました。
わずか25年の人生で、ギタリストとしての活躍も短かったのに、ロック史に名を残すほどの人気を誇った、ランディ・ローズ。
没後40年の今年、特に日本のロック好きには、クワイエット・ライオットのランディを覚えているというファンも多いはず。
懐かしの映像に、もう一度、心ときめかせてみてはいかがですか?★3つ。
『ランディ・ローズ』公式サイト


『ゆめのまにまに』は、芸能プロダクション、ディケイドの設立30周年記念映画。

自分の恋に区切りをつけようと、ひとりの女性が上京します。彼女の名は真悠子。
「一度も会えなかったら、彼のことを思い出すのをやめよう。一度でも会えたら、彼のことを忘れよう。それで終わり」。
そんな真悠子が思いを寄せる男性は、浅草にあるアンティークショップ“東京蛍堂”の店主・和郎です。
ところが、彼はほとんど店を留守にしていて、店を任されているのはアルバイトのマコトでした。
この店には、いろんな客が訪れ、客の数だけ人生がある。
そんなアンティークショップに、真悠子がやってきたのです…。

浅草六区に実在するアンティークショップ“東京蛍堂”。
その店を舞台に撮られた映画で、大正ロマンのレトロな店内の雰囲気が、何より映画のいい味付けになっています。
真悠子は毎日店に顔を出しますが、和郎にはなかなか会えず。滞在期間中に再会は叶うのか、否か?
日常なんだけど、非日常を感じさせます。それもこれも、東京蛍堂と浅草の町がそうさせているんだと思います。
登場する食堂にも行ってみたくなります。これも“聖地巡礼”になるのでしょうか(笑)。
個性的な空気感のある1本です。★3つ。
『ゆめのまにまに』公式サイト


 
 
 
 
Pick Up Movie!……2022.11.04
『パラレル・マザーズ』★★★
『犯罪都市 THE ROUNDUP』★★★
『ヒューマン・ボイス』★★★
『窓辺にて』★★★★
(満点は★★★★★)


11月になりました。
今年、ここまで観させてもらった映画の試写は、162本。
あと2ヶ月。何本まで伸ばせるか(^-^)。時間との戦いでもあります。
さぁ、今週は4本です!


『パラレル・マザーズ』は、ペネロペ・クルス主演のスペイン・フランス合作映画。

40歳を目前に控えた、女性フォトグラファーのジャニス。
考古学者のアルトゥロとの写真撮影が縁で、ジャニスはスペイン内戦の犠牲となり、無造作に埋められた先祖の遺体を掘り起こすのに、彼の基金を使わせてもらうことになります。
これがきっかけとなり、ふたりは急接近。アルトゥロは既婚者でしたが、ジャニスと男女の仲になってしまうんですね。
そして、妊娠。
ジャニスはシングルマザーとしての出産を決意します。
入院した病院で出会ったアナは、望まない妊娠でしたが、同じく母になることを決めた17歳。
ジャニスとアナは意気投合。すると、なんと同じ日に、共に女の子を出産します。
赤ちゃんは集中治療室で過ごしたあと、それぞれのもとに戻され、退院。
母娘のことが気になっていたアルトゥロがジャニスの家を訪れ、娘の顔を見たのですが、肌の色が違うと。ジャニスにDNA検査を勧めるんですね。
その時は腹を立てたジャニスでしたが、自身でも気になり、後日、恐る恐る検査をしたところ、結果は「血縁関係なし」。
病院が、アナの子と取り違えたのでした。
アナとは連絡を断ち、この事実を自分の中に封印して過ごしていたジャニス。
ところが街で偶然、アナと再会します。
平静を装い、「赤ちゃんは元気?」と尋ねるジャニス。すると、アナはこう答えたのです。
「亡くなってしまったんです」と…。

この映画には2つの大きな柱があります。赤ちゃんの取り違えと、スペイン内戦時代の負の遺産。
ふたりの母親、取り違えられた赤ちゃん、生まれくる新たな命と内戦の犠牲者など、いろんな点で“パラレル”なのかもしれませんね。
DNA鑑定の結果を知った時、自分だったらどうするか?他の選択肢はなかったのだろうかとも思います。
また、スペインの内戦については勉強不足で…。
日本人が観るのと、自国スペインの人が観るのとでも、感じ方には大きな違いがあるはず。これもまた“パラレル”なのかもしれません。
どこを自分事にして観るか。それによって評価が変わりそうな1本です。★3つ。
『パラレル・マザーズ』公式サイト


『犯罪都市 THE ROUNDUP』は、マ・ドンソク主演の韓国クライムアクション。

韓国警察のクムチョン署に勤務する、マ・ソクト。
規格外の強さで、その捜査も、強引かつ乱暴。署の内外から賛否両論渦巻く、何かと問題の刑事です。
そんなマ・ソクトが、ベトナムに逃亡していた韓国人凶悪犯の引き渡しのため、上司のチョン・イルマンと共にベトナムに飛びます。
現地に渡って知ったこと、それは韓国の捜査権限が及ばないこの国に韓国人凶悪犯たちが多数逃げ込み、ここを拠点に多くの犯罪に手を染めているということ。
中でも増えていたのは、誘拐殺人。
今この時も、韓国の金融トップの息子が誘拐され、多額の身代金が請求されていたのです。
犯人は、カン・ヘサン
。犯罪者も怖れる冷酷非道の極悪人です。
マ・ソクトは、地元警察の制止を振りきり、カン・ヘサンの行方を捜すのですが…。

キャッチフレーズは、“最強vs最狂”。
この映画には、いわゆる“水戸黄門的”な安心感があります。つまり、ラストはスカッと終わる、というのを観る側も知っているということ。
ゆえに、闘う相手は強ければ強いほどいい。印籠が出た時のギャップにワクワクしますもんね(笑)。
マ・ソクトにとっての印籠は、自らの拳。ウルトラマンならスペシウム光線、ウルトラセブンならアイスラッガー、仮面ライダーならライダーキック。
って、若い世代にはわからないか…(笑)。
マ・ドンソクはマブリーと呼ばれているんですね。そんな愛称が象徴するように、お茶目で、どこか隙がありそうで、その実、完全無欠なキャラクター。
ドキドキハラハラはしますが、大船に乗ったつもりでご覧あれ。★3つ。
『犯罪都市 THE ROUNDUP』公式サイト


『ヒューマン・ボイス』は、30分の一人芝居。

女の部屋には、スーツケースが置かれています。別れた恋人のものです。
取りに来ると約束したのに、彼は現れません。
傍らには、捨てられた彼の愛犬が。
3日も待ち続けた女。
絶望感が彼女を襲います。
そんな時、男からの電話が鳴ったのです…。

フランスの作家ジャン・コクトーが、1930年に発表した戯曲「人間の声」を、上記『パラレル・マザーズ』のペドロ・アルモドバル監督が、独自の解釈で英語劇にしたもの。
「人間の声」も、オペラとしては、ソプラノひとりで演じる全一幕の“モノ・オペラ”だそう。それに倣って、ティルダ・スウィントンの一人芝居となっています。
ドロドロとした愛憎劇ですが、導入のタイトル部分から、オシャレでスタイリッシュに。
大きな波形で揺れ動く女性の感情を、見事に演じています。芸術寄りの仕上がりと言ってもいいぐらいかと。
『パラレル・マザーズ』と同時上映で、サイトも併記ですが、別作品で、別料金。せっかくなら、一緒にご覧になってみて下さい。★3つ。
『ヒューマン・ボイス』公式サイト


『窓辺にて』は、稲垣吾郎主演の大人のラブストーリー。

市川茂巳はフリーライター。妻の紗衣は編集の仕事をしています。
その日、茂巳は、文学賞を取った女子高校生作家、久保留亜の受賞記者会見に行き、挙手をして質問。すると会見の終了後に、留亜から直接会いたいと、控え室に呼ばれます。
留亜は、自分の過去の作品をじっくり読んでくれていた茂巳の、本質を突いた問いかけに感激していたのです。
留亜も、素顔は今ふうの女子高校生。小説にはモデルがいると聞かされ、後日ふたりで会いに行く約束をします。
一方、妻の紗衣が担当しているのは、若手の売れっ子作家、荒川円。
なんと紗衣は、荒川と肉体関係にありました。作家と編集者の許されざる関係。
実は、茂巳はそのことに気づいていたのです。
しかし、妻の不倫を知っても、なんの感情も沸き上がりません。
茂巳は、そんな自分自身の心が、わからずにいたのです…。

本来なら、大きな波風が立つ話なのに、不思議なほど、穏やかに物語は進んで行きます。
おそらくこれは茂巳の性格の表れで、かと言ってすべてを容認しているわけではなく、心の奥の奥では、様々な感情が悶々と渦を巻いている様が読み取れます。
茂巳の友人で、プロスポーツ選手の有坂正嗣という男性が登場するのですが、彼も女性タレントと浮気中。この夫婦が、茂巳と紗衣とのいい対比となっていて。
夫婦の在り方はもちろん、幸せ、強さ、弱さというのは、ホント人それぞれなんだなと、改めて感じさせられます。だから、観た後の感想も、きっと人それぞれなんだろうと思います。
茂巳が人との会話の中で、よく「えっ?」と発するんです。ここに茂巳という人物を読み解くカギがあるんじゃないかと、ボクは感じました。
今泉力哉監督のオリジナル脚本。面白かったです。★4つ。
『窓辺にて』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.10.28
『ウンチク うんこが地球を救う』★★
『君だけが知らない』★★★★
『ソングス・フォー・ドレラ』★★★★★
『ノベンバー』★★★
(満点は★★★★★)


10月最後の週末を迎えます。
来週11月3日(木)は“文化の日”。カルチャーも多様化していますが、TVでもYouTubeでもなく、やっぱり映画は映画なんですよね。
休日を利用して、改めてその良さに触れてみてはいかがですか?
さぁ、今週は4本です!


『ウンチク うんこが地球を救う』は、環境ドキュメンタリー。

テーマがテーマですから(笑)、ちょっぴりユーモラスに、一方で真正面から環境問題を考えた作品。
地球上には77億人もの人が暮らしていて、870万種類もの生物が存在し、排泄は必ずあると。その量は天文学的な数字になるけれど、実はそれが大切な資源になり得るんだというのを、真面目に語っています。
取材は世界各国を回り、それぞれの排泄事情や再利用、またその研究を紹介。
確かに、昔から人糞は畑の肥やしだし、馬の世界でも、馬糞を堆肥にしたマッシュルームの栽培が岩手県の八幡平で行われています。
なるほどと思いつつ、正直、画面を正視したくないシーンが多くあるのも事実…。
エクストリームの配給作品なので、★はいつもの数にしておきましょう(笑)。★2つ。
『ウンチク うんこが地球を救う』公式サイト


『君だけが知らない』は、韓国のサスペンス映画。

ある日突然、事故で記憶を失ってしまったキム・スジン。
そんな妻を献身的に支えているのが、夫のキム・ガンウでした。彼は以前から計画していた夫婦でのカナダへの移住を、できるだけ早く進めようと奔走します。
退院後、自宅に戻ったスジンは、自身の手帳や知人の話から、肉親はなく天涯孤独で、ガンウだけが身内であること、事故の前は絵画教室に勤めていたことなどを知っていくんですね。
ところが、スジンに不思議なことが起こるようになります。未来が映像として見えるのです。
事故の後遺症なのか、妄想なのか。
そんな中、殺人現場を目撃したスジン。回りは幻覚だと言いますが、実際に死体が発見され、スジンの頭の中はパニックになってしまいます。
何かがおかしい。私は誰?あなたは誰?
そこには衝撃の事実が隠されていたのです…。

さすが韓国エンタメ。面白かったです。
謎解きのサスペンスですから、あらすじの紹介もこれぐらいで。
「なるほど、そういうことだったのか」。
ストンと腑に落ちるとスカッとします(笑)。
ソ・ユミン監督は女性監督で、これが長編デビュー作。
バイオレンスたっぷりのサスペンス映画でありながら、どことなく柔らかく、スタイリッシュな仕上がりになっているのは、女性監督ならではの手腕かもしれません。
また、新たな才能の誕生と言えそうです。★4つ。
『君だけが知らない』公式サイト


『ソングス・フォー・ドレラ』は、ライブ・ドキュメンタリー。

伝説のロックバンド、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド。
その中心人物が、ルー・リードとジョン・ケイル。
1967年、“ポップアートの旗手”と呼ばれ、日本でもファンの多い、アンディ・ウォーホルのプロデュースでデビュー。
当時タブーとされていた同性愛やドラッグ、暴力や狂気などを歌詞にし、美しいメロディとリードの個性的なボーカルで、まさにアンダーグラウンドな人気を博します。
しかし、3人の関係が悪化。ウォーホルは制作から離れ、68年にはケイルが脱退してしまいます。
ウォーホルが亡くなったのが1987年。
リードとケイルは、それから3年近くが経った1989年、ウォーホルの死を悼む、無観客ライブを開催します。なんと、21年ぶりの共演。
歌われたのは全15曲。その模様を収めたのが今作で、4Kで復元された55分の映像となっています。
ドレラは、ドラキュラ+シンデレラ。アンディ・ウォーホルのニックネームだそう。
もちろん訳詞が付いていますが、それを見ながら曲を聴いていると、21年もの空白はあれど、3人の堅い絆を感じると共に、彼らにしかわからない複雑な心境が、その時も拭えずに存在していたことがわかります。
シンプルな構成で、至って私的なライブでありながら、ものすごく刺さってくるものがある。これが音楽の持つ凄みかなと。是非、ご覧になってみて下さい。
ちなみに、ルー・リードも2013年に、この世を去っています。
満点です。★5つ!
『ソングス・フォー・ドレラ』公式サイト


『ノベンバー』は、エストニア映画。

エストニアの貧しい村に暮らすリーナ。
リーナは若くて美しい娘で、ハンスという若者に恋をしていましたが、ハンスはドイツ男爵の娘に首ったけ。リーナの思いは届かずにいたのです。
11月1日は“諸聖人の日”。先祖が蘇り、家族と一緒に食事をし、サウナに入る日です。
リーナも、亡くなった母
と会話を交わし、悩みを打ち明けるんですね。
村人たちが、生活のための使役として使っていたのが“使い魔クラット”。農作業の道具などを組み立てて、悪魔と契約をし、それに魂を宿すものです。
ハンスの思いは日に日に募り、何とか男爵の娘を自分のものにしたい欲求から、悪魔と契約を結んでしまうのですが…。

このあらすじだけでは、なんのことやら、といった感じですよね(笑)。 モノクロの映画で、死者は蘇るし、道具は意思を持って動く。精霊も疫病神もいて、いわゆるダークファンタジーな1本。原作はエストニアのベストセラー小説です。 物語の根幹を貫くのは、3人の若者の恋。 リーナの父は、金目当てにリーナを農夫の嫁にやると約束してしまい、ハンスはハンスで男爵の娘とは埋められない身分の差がある。その男爵の娘は心を病んでいて。 思うようにいかないのが恋愛。それはいつの世でも、どこの国でも同じだということなのでしょう。 ノベンバー=11月。 まさにこの時期、なかなか触れることのないエストニア映画の世界を体験してみてはいかがですか?★3つ。
『ノベンバー』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.10.20
『アフター・ヤン』★★★★
『All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987―1997)ヒップホップとスケートボードの融合』★★★
『クリエイション・ストーリーズ 世界の音楽シーンを塗り替えた男』★★★★★
(満点は★★★★★)


今週は少し時間が出来たので、精力的に申し込んだ試写をオンラインで観ています。
面白い映画に出会うと、見逃さないでよかったと、ホッと胸を撫で下ろしたりもするものです。
さぁ、今週は3本です!


『アフター・ヤン』は、近未来のSFヒューマン・ドラマ。

茶葉の店を営むジェイクは、妻のカイラ、中国系の養女ミカ、そして、高性能ベビーシッター・ロボットのヤンとの4人家族。
“テクノ”と呼ばれるヤンは、人間とまったく変わらない姿形をしていて、高度なAIで知的会話もできるため、ミカはヤンを兄のように慕っていました。
ところが、ある日の朝、ヤンが突然動かなくなってしまいます。
修理を急ぐジェイクでしたが、ヤンが中古品だったこともあり、正規店では直せず、下取りに出して新しいテクノを購入することを薦められます。
ヤンでなければダメだと考えたジェイクは、闇業者に修理を依頼。
触ると違法になる中枢のパーツを調べたところ、そこには1日数秒間の映像を録画できる特殊なメモリバンクが取り付けられていたのです。
それを受け取ったジェイクが再生して見たのは、家族への温かいヤンの眼差しと、見たことのない若い女性の姿だったのです…。

独特の映像美で知られるA24スタジオの作品。今回も美しい映像世界が広がります。
白人男性のジェイクに、黒人女性の妻カイラ、中国系の娘ミカと、AIロボットのヤン。設定がまさに“MIX”で、これが当たり前の近未来だということなのでしょう。
テクノ以外にも、クローンの技術も確立していて、ジェイクの隣人の娘はクローンだったりもします。
そんな世界における家族の絆とは、またロボットに感情はあるのか、韓国系アメリカ人のコゴナダ監督が、未来の可能性を描いた作品です。
実は、音楽を日本人が担当。オリジナル・テーマはあの坂本龍一、全体の音楽をAska Matsumiyaが制作。
さらにエンドロールで流れるのが、映画『リリイ・シュシュのすべて』の「グライド」のカヴァーなんです。今回は、Mitskiが歌っています。
それもあるのか、日本人にとって親しみやすい仕上がりになっているように思います。
すごく個性の光る1本。SFなのに温もりを感じる不思議な感覚…。あなたも浸ってみて下さい。★4つ。
『アフター・ヤン』公式サイト


『All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987―1997)ヒップホップとスケートボードの融合』は、時代と地域を切り取ったドキュメンタリー。

90年代に誕生したニューヨークのストリート・カルチャーを、その黎明期から描いたドキュメンタリー映画。
80年代後半、ニューヨークの若者の間で流行っていたのが、ヒップ・ホップとスケートボード。しかし、前者は黒人のもの、後者は白人のものという棲み分けがありました。
そんな中、88年の大晦日、当時ダウンタウンの中でも劣悪な環境にあった場所に、日本人のユウキ・ワタナベがクラブ・マーズを創ると、フロア別にカラーを出すという斬新アイデアから、それぞれが好きなジャンルの曲で踊れるため、人種を問わず若者が集結。そこに数多くの未開の才能たちが集まり、次第にジャンルの壁も崩れていきます。
才能の発掘は、ラジオでも。DJのボビート・ガルシアが、90年10月、コロンビア大学のWKCRというFM局から、木曜の深夜にストレッチ・アームストロングと組んで、クラブの要素をラジオからと始めた番組が大ブレイク。
書ききれないほどの、今ではビッグネームたちが、そこでラップを披露。ミュージック・シーンへと羽ばたいていきました。
スケートボードも、ズーヨークやシュプリームといったブランドが立ち上がり、ファッションとしてのカルチャーを確立していきます。
どちらの若者も、根っこは一緒。「思いっきりバカをやって楽しみたい」。
そこに、ヒップ・ホップとスケートボードが完全に融合したわけです。
その後、殺人事件にまで発展してしまう、ラッパー間による“東西抗争”に象徴されるように、西海岸のムーブメントとは違った、ニューヨーク独自のストリート・カルチャーを知ることができます。
ヒップ・ホップは世界一の売り上げを誇る音楽ジャンルになり、スケートボードは今やオリンピック種目ですから。
何より、よく撮っていたなぁと。貴重な映像の数々です。是非、ご覧になってみて下さい。★3つ。
『All the Streets Are Silent:ニューヨーク(1987―1997)ヒップホップとスケートボードの融合』公式サイト


『クリエイション・ストーリーズ 世界の音楽シーンを塗り替えた男』は、実話に基づくストーリー。

90年代のイギリスのミュージックシーンを代表する音楽レーベル、クリエイション・レコーズ。
“世界で最も成功したインディーズ・レーベル”とも評される、このレーベルの代表がアラン・マッギー。
1960年、スコットランドのグラスゴーに生まれた彼は、ロック・スターになるのが夢。
ところが、堅物の父親はデヴィド・ボウイを真似てメイクをする息子に怒り心頭。「男女の写真なんか貼りやがって」と、部屋のポスターを破り捨てられてしまいます。
一度は父の言うことを聞いて、電気工として働きますが、我慢ならず、地元の音楽仲間と、遂にロンドンへ。国鉄で働きながら、クラブを始め、自身のバンドのレコード制作を理由に銀行から融資を受け、立ち上げたのがクリエイション・レコーズでした。
ジーザス&メリーチェインやプライマル・スクリームのデビュー・シングルを手掛け、レーベルは上々の滑り出しを見せるのですが、その未来には波瀾万丈の出来事が待っていたのです…。

映画の冒頭に「ほとんど実話。犯罪者保護のため変えた人名もある」とのクレジットが出ます。いかにも音楽業界の偉人の伝記映画だなと(笑)。
プライマル・スクリームのボビー・ギレスピーとは10代からの地元の友人で、他にもデビュー前のオアシスを見出だしたり、“運と嗅覚の男”、それがアラン・マッギーなんですね。
そんな彼の成功と失墜、そこから再び、三度と這い上がる底力を描いた映画です。
彼の反骨精神の根底に流れていたのは、意外なものだったのかもしれません。
どこを紹介してもネタバレと言われそうで(笑)、あえてここで多くを語りませんが、パンクやブリティッシュ・ポップを聴かない人でも、間違いなく楽しめる作品です。
人生、満喫してます!満点!★5つ!
『クリエイション・ストーリーズ 世界の音楽シーンを塗り替えた男』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.10.14
『いつか、いつも……いつまでも。』★★★★
『オカムロさん』★★
『木樵』★★★
『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』★★★★
『耳をすませば』★★★★★
『百合の雨音』★★★
(満点は★★★★★)


先々週だったか、週末にブログのアクセス数をチェックしたら、思わぬところで公式ハッシュタグが1位になってました(笑)。
#地下アイドルで、このコラムが1位とは!
どんなことでも全国1位はうれしいですね(^-^)
さぁ、今週は6本です!


『いつか、いつも……いつまでも。』は、ハートウォーミング・ラブストーリー。

海辺の小さな町にある診療所。
祖父の“じいさん”が院長を務め、若先生は孫の俊英。加えて、家政婦のきよさんと、市川家は3人暮らし。
そこに亜子という女性がやってきます。
その姿を見て固まる俊英。なぜなら、憧れの女性と瓜二つだったから。
ところが、亜子は強烈な性格の持ち主。俊英の理想の女性像は、音を立てて崩れていきます。
しかし、亜子の様子を見て心配したじいさんが、「医者として、帰すわけにはいかん」と、亜子をしばらくこの家に泊めることに。
すると、“こじらせ女子”の亜子に、市川家のみんなは引っ掻き回されるハメになります。
それでも、次第に互いのことを知るようになると、亜子は自ずと家族の一員のように溶け込んでいくんですね。
冷たい接し方に見えて、実は裏に優しさが隠れている俊英。
自分に自信を失くし、親の言うままに結婚したけれど、本当は別の人生を歩きたかった亜子。
ふたりの気持ちが急接近した時、俊英の元婚約者が、医療研修先のドイツから帰国したのです…。

いい映画でした。
長崎俊一監督最新作。ボクが大好きな1本、『西の魔女が死んだ』(2008年)の監督です。家族の機微を撮らせたら抜群ですよね。
ベテラン俳優さんたちの演技の奥深さもあり、細に入り、魅力がいっぱいの映画です。
俊英は、今の時代じゃ叩かれるんじゃないかと思うくらいの“上から男子”。
こういう恋愛を今の女子はどう感じるのかなぁ。
あ、「高杉真宙くんならいい!」みたいなのは無しですョ(笑)。
男が強く出る。昭和なんですよね、愛情表現が。
“草食男子”なるものが出現してしばらく経つので、その反動で、強気で来る男性に魅力を感じるのでしょうか?教えてほしいものです。
マイナスからプラスに転じる、一途な恋の物語。ボクは大好きです。★4つ。
『いつか、いつも……いつまでも。』公式サイト


『オカムロさん』は、都市伝説を題材にしたホラー映画。

キャンプ場にやってきた、大学生の男女6人。夜になると、キャンプ恒例の怖い話が始まります。
「オカムロの名前を出すと、オカムロがやってきて首を狩られる。助かる方法はただひとつ。オカムロ、オカムロ、オカムロと3回唱えれば帰っていく…」。
そして6人が、スマホで同時にオカムロを検索すると、その夜、6人のうち5人が首を切られて殺されるという、凄惨な事件が起こってしまいます。
ひとり生き残ったのは、すず。
すずは何者かがドアがノックした時、怖くてオカムロを3回唱えたことが幸いしたのです。
亡くなった仲間の供養に通っていたお寺で、すずは武道の達人とおぼしき若い女性と出会います。
彼女の名は綾子。綾子もまた、家族をオカムロに殺されていました。
すずは、綾子から武術を学び、一緒にオカムロを倒そうと力を合わせるのですが…。

おなじみエクストリームの作品。
ホラーはホラーですが、コミック的な部分も多分にあり。「オカムロはただの風邪!」とか、「これからはwithオカムロの時代」なんて、まさにコロナウイルスのパロディですから。さらに、物語の整合性についても突っ込みどころ満載で(^^;
それでも、そういうのを求めちゃいけないのが、一連のこの作品群。コアなファンにはたまらないはずです。★2つ。
『オカムロさん』公式サイト


『木樵』は、林業に従事する人々の日常を追ったドキュメンタリー。

9割を山林に覆われているという、岐阜県飛騨地方。
この地で半世紀に渡り、木樵(きこり)として働く、高山市の面家一男さんと、弟の瀧根清司さん。
そのふたりの兄弟と家族、さらに弟子たちによる森の中での仕事を、1年に渡って追いかけたドキュメンタリー映画です。
メガホンをとった宮ア政記監督は、父親が木樵でしたが、林業不況から跡を継がなかったものの、この伝統を後世に残したいとカメラを回したそう。
切り倒した木を、滑車を使って移動させる。その行程はまるで難解なパズルのよう。ロープがあちこちに張り巡らされ、「ここをこう通せば、あそこがああなるだろ?」。説明を受ける弟子たちにとって、大切なのは場数なんでしょうね。
ワナにかかった猪の親子を殺める時は、ちょっと目をそむけたくなりましたが、それも山の日常。
食卓に並ぶ、山の幸。いつもと変わらぬ、奥さんの手作り弁当。変わらないこともまた、伝承なのかなと思いました。
切ったら植えて、次の世代へ。若い後継者の存在が心強かったです。★3つ。
『木樵』公式サイト


『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』は、伝記映画。

1867年、ポーランドのワルシャワに生まれた、マリア・スクウォドフスカ。
科学者の父と、教育者の母の間に生まれたマリアは、幼い頃から聡明な子でした。しかし、当時、女性に学問への道は開かれていなかったんですね。
それでも学ぶことへの情熱を捨てなかった彼女は、1891年、フランスのパリに移り住み、ソルボンヌ大学で科学を学びます。
ところが、女性だというだけで差別を受け、思うような研究が出来ずにいたところ、後に夫となる同僚の科学者、ピエール・キュリーと運命的な出会いを果たします。
結婚し、キュリー夫人となった彼女は、夫の支援で研究に没頭。遂には、ラジウムとポロニウムという新しい元素を発見するんですね。
この快挙で、1903年にノーベル物理学賞を受賞しますが、禍福はあざなえる縄のごとし。なんと不慮の事故で、ピエールが亡くなってしまったのです…。

誰もが知っている名前ですよね、キュリー夫人。
気丈というか、頑固というか、頑なまでの自分を持っていた女性科学者の伝記映画です。
ガン治療の役に立つなど、人類への功績も大きい反面、核兵器に使用されるなど、負の側面も持つ新元素を発見したキュリー夫妻。
1903年のノーベル物理学賞に続き、1911年にはノーベル科学賞を受賞。これまでにノーベル賞を2度受賞した女性は彼女だけで、今も唯一無二の存在なんですが、女性であること、移民であることで、当時は想像以上に逆風が吹いていたんですね。知りませんでした。
そんな彼女の、女性としての、また母としての生きざまに、スポットライトをあてた作品。
教科書には載っていない、キュリー夫人の側面が見られるはずです。★4つ。
『キュリー夫人 天才科学者の愛と情熱』公式サイト


『耳をすませば』は、1989年に雑誌「りぼん」で連載されていた少女コミックの実写版。

読書が大好きな女子中学生、月島雫。
学校の図書室で本を借りるのですが、いつも自分より先にその本を読んでいる男子がいました。
貸出カードにあった名前は、天沢聖司。
雫はこの男子のことが気になり始めます。
出会いは意外と早くに訪れますが、聖司の意地悪な態度に、雫は怒り心頭。
しかし、猫に導かれて訪れた“地球屋”という骨董品店が、聖司のおじいさんの店。雫はそこにあったバロンという猫の置物に魅せられてしまいます。
そのことがきっかけで、徐々に聖司との距離を詰める雫。初めに意地悪な態度をとったのも、聖司の照れだったと知ります。
チェロが大好きな聖司には、大きな夢がありました。
その夢を叶えるため、イタリアに留学した聖司。
あれから10年の歳月が流れたのでした…。

原作は、柊あおいの同名少女コミック。
1995年には、スタジオジブリの製作で、アニメ化もされています。
今回は、10年後のオリジナルストーリーを加えた“意欲作”で、西麻美プロデューサーには、相当なプレッシャーだったはず。
だって、ファンがたくさんいる不朽の名作なのですから。
でも、小学生の時に天沢聖司に恋をしたという麻美少女が、映画の世界に足を踏み入れ、「自分の思う『耳をすませば』を形にしてみたい。その一心でここまできました」ということなら、間違えるはずはなく(^-^)。
中学から男子校に通ったボクが、女子を知るための参考書は、妹の部屋に並んだ少女コミック。
昭和の少女まんがの女の子は、一途で、繊細で、一生懸命で。「えっ?違う…じゃん」とボクが現実を知るのは、もう少し先のこと(笑)。
やっぱりボクは一途な恋が好きです。これまで、一度も浮気をしなかったのは、この頃の少女まんがのせいかも。
あ、ホントなんですって。
恋愛にはツラいことが付き物だけど、だからこそ幸せな時は、ボクらの気持ちをあんな高みに引き上げてくれるんだと思います。
いくつになっても、人を好きになるっていいなと思います。
オススメです。満点!★5つ。
『耳をすませば』公式サイト


『百合の雨音』は、日活ロマンポルノ50周年記念プロジェクトの第3弾。

文藝出版社に勤める君原葉月。
葉月は、高校時代のトラウマから、恋愛に臆病になっていました。
そんな葉月の上司は、編集長の妻で、コネで室長になったと陰口を叩かれている澤田栞。
一方の編集長はといえば、部下で葉月の同僚の水島華と社内不倫。子どもを欲しがる栞のことは、そっちのけだったのです。
ある日のこと、原稿を依頼していた人気インフルエンサーが失踪してしまいます。
本人がやりたがらなかった原稿を無理矢理書かせたのが原因だと、所属事務所に詰められる栞。
葉月は、落ち込む栞を慰めようとしているうちに、禁断の一線を越えてしまうのでした…。

9月16日公開の『手』、9月30日公開の『愛してる!』、そして今作と、日活ロマンポルノ50周年記念プロジェクト「ROMAN PORNO NOW」3部作の完結編。
トリは『ガメラ』などの怪獣シリーズや、『デスノート』などで知られる、金子修介監督作品です。
その金子監督も、初めは日活に入社して、ロマンポルノの助監督、監督から始めており、今回は“原点に立ち返って”のプロジェクト参加だったとか。
そんなこともあってか、3作品の中では、一番ロマンポルノらしい作品に仕上がってるなと感じました。
心と体のせめぎあいというか、そこはかとない感情の揺れを肉体的な繋がりで表現しているというか。AVとは明らかに違う性描写。
R+18です。向学のために観るのもありだと思いますョ。★3つ。
『百合の雨音』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.10.07
『アメリカから来た少女』★★★
『七人樂隊』★★★
『ソングバード』★★★
『バッドガイズ』★★★
『42―50 火光(かぎろい)』★★★
(満点は★★★★★)


オンライン試写は、送られてきたパスワードを入力して観るのですが、公開日が近い順に拝見してると、そのパスワードの期限が切れちゃうことがあって。
今週公開の作品の中でも、2本観ることができませんでした。
時間がないほどに忙しいのは、幸せなことなんですけど…。観られなかった映画には申し訳ないです。
さぁ、今週は5本です!


『アメリカから来た少女』は、台湾映画。

2003年、冬。
SARSウイルスが広がり始めていた台湾に、アメリカから母娘が帰ってきます。リリーとふたりの娘、13歳のファンイー、4歳のファンアンです。
実はリリーの乳ガンがわかり、台湾で治療をすると共に、5年もの間、離れて暮らしていた夫フェイと、家族全員で生活したいとリリーが願っての帰郷でした。
しかし、アメリカとはまったくと違う台北での生活。姉妹にとっては、古くからの慣習も価値観も、異世界のもの。特に、ファンイーにとって、新たな学校は苦痛でしかなかったのです。
母は死の恐怖と闘い、夫は現実から逃げるかのように中国本土への出張を選ぶ。娘は反抗的になり、社会はSARSの脅威にさらされている。
日々、亀裂が大きくなっていくこの家族は、一体どうなってしまうのでしょうか…。

ロアン・フォンイー監督の長編デビュー作。半自伝的映画だそうです。
国は変われど、いつの時代でも、子どもの多感な頃に反抗期があり、夫婦は揉め、家族とはこういうものだなと。
親子の関係って、時に残酷な態度もとるけど、最終的には注いだ愛情の量に比例すると思うんですョ。お互い、わかってるから。心の奥底にある思いはね。
フォンイーも、お母さんの病気は心配で仕方ない。でも、自分の置かれた現状は、病気と同じか、それ以上に苦しい。
それを、わがままと言っていいものか。
ぶつける相手が家族しかいないんだもの。難しいところでしょ?
父も母も、たまに娘ふたりの機嫌をとるような行動に出る。その裏を思えば、ちゃんと子どものことを考えてるってこと。
みんな初めての子育て。マニュアルはないし、正解なんてわからないんだから。
うちの両親は、ボクを育てるの、大変だったと思います。でも、ボクの感謝も伝わってると信じたい。それほどまでに愛情を注いでもらいましたからね。
なんてことを考えさせる1本です。★3つ。
『アメリカから来た少女』公式サイト


『七人樂隊』は、古き良き香港を描いた、7本のオムニバス映画。

カンフー俳優としても知られるサモ・ハンが、自身の修行時代のエピソードを基にした『稽古』。
教師と生徒の絆を描いた『校長先生』。
香港を離れる彼女と、香港に残る彼の『別れの夜』。
おじいちゃんと孫娘のやり取り『回帰』。
バブル期に投資に熱中する若者を描いた『ぼろ儲け』。
街並みが変わってしまった香港で、家族との待ち合わせ場所に向かう男性の『道に迷う』。
精神科医と患者の『深い会話』。
香港で活躍する映画監督が、全編35mmフィルムで撮った、7本のオムニバス作品集です。
表現の自由が制限される香港で作られた“温故知新”の作品には、複雑な思いが込められているはず。
それはそうですよね。
「昔はよかった」。
それが偽らざる本心だと思います。
たぶん、この映画は、香港人にとっての備忘録。
香港人としての誇りと優しさが垣間見えますから。
そこには、ボクら日本人
が無くしてしまったものもあります。隣国の話ではなく、自分事として観て欲しい短編たちです。★3つ。
『七人樂隊』公式サイト


『ソングバード』は、パンデミック・スリラー。

2024年、COVID―23が猛威を奮い、致死率56%という、人類史上最悪のウイルスへと変異していたのです。
L.A.では、4年以上、都市封鎖が続いており、外出が許されるのは、数%しかいない“免疫者”のみ。
毎日の義務として課された検査で陽性がわかると、“Qゾーン”と呼ばれる隔離施設に強制連行され、帰ってきた人は皆無だったのです。
ニコは免疫者のひとり。それを証明するリストバンドをはめ、バイクに乗って、宅配便業者として街を走り回っていました。
ニコには愛する女性がいました。サラです。
ところが、同居しているサラの祖母の感染が発覚。このままでは、濃厚接触者のサラも、Qゾーンに連行されてしまいます。
なんとかサラを救い出したいニコは、仲間の力を借りて、ある計画を実行するのですが…。

2020年7月、COVID―19の影響で、実際にロックダウン中のL.A.でロケを行ったという、近未来パンデミック・スリラー。
あり得ないとは言えないお話でもあります。
ほんのひと握りの免疫者の中に権力者が出る。彼らは自らを“神”だと言い始める。一方で、大多数の市民は、人としての尊厳を失っていく。
そんなウイルスによるパニックも、武力による戦争も、同じように人を変えていくんだろうなと。
ますますキナ臭くなってきた昨今。人類の知で、押さえられるなら押さえてほしい。そう祈るばかりです。★3つ。
『ソングバード』公式サイト


『バッドガイズ』は、ドリームワークスのアニメ映画。

怪盗集団のバッドガイズ。
メンバーは、リーダーでスリの天才ウルフ、金庫破りのスネーク、変装の達人シャーク、派手に暴れまわるピラニア、そして天才ハッカーのタランチュラ。
彼らは周りの人々たちから恐れられていましたが、それぞれに寂しがり屋で優しい心を持っていたのです。しかし、そんな部分はおくびにも出さず、今日も悪事に手を染めるのでした。
次なる狙いは、伝説のお宝“黄金のイルカ”。
ところが、ウルフのまさかの失態で、全員が逮捕されてしまいます。
ダイアン知事の提案で、彼らはマーマレード教授のもとで、更生プログラムを受けることに。
ところがです。この騒動の裏で、さらなる巨悪が動いていたのです…。

原作はオーストラリアの児童書。
世界30ヶ国で翻訳され、1000万部を超える大ヒットになっているそう。
原作の絵と比べると、さすがにハリウッド。キャラが立ち、ゴージャスな作りとなっています。
ツッコミどころも満載ですが、スピード感溢れる展開や、動物ならではのかわいらしいおマヌケさがチャーミングで。
裏キャラを併せ持つ登場人物(動物?)だらけなので、そこが物語のどんでん返しに繋がっています。肩の力を抜いて楽しめるはずです。★3つ。
『バッドガイズ』公式サイト


『42―50 火光(かぎろい)』は、深川栄洋監督のreturn to mY selFプロジェクト第2弾。

脚本家の祐司は50歳。離婚歴のある彼が、42歳の女優、佳奈と結婚したのは2年前。
今は、母親と同居する形で、東京に暮らしていました。
年齢的に母親役が回ってくる佳奈でしたが、実生活で子どもがいないせいか、どうも上手く母親を演じられないと。それがきっかけとなり、夫婦は不妊治療を始め、子どもを作ることを目指します。
ただ、悪気はないとはいえ、姑との同居が何かとストレスになる佳奈。
加えて、佳奈の父が難病のALSだと判明。祐司は、またひとつ家族の問題を抱えることになります。
仕事、妊活、嫁と姑・小姑、義父の病。祐司は心身ともに、いっぱいいっぱいになってしまうのですが…。

05年に長編映画デビューを果たした深川栄洋監督が、妻である宮澤美保を起用して「個人的な思考を映画にして発表する」というのが、return to mY selFプロジェクト。
その思いは公式サイトに譲りますが、ちなみに第1弾は『光復』。12月9日公開予定です。
「あくまでフィクション」としながら、「私小説のような映画」だとも。
離婚後、ずっと独り身のボクは、このまま独居老人になるのも淋しいなぁと思いつつ、一方でこの楽チンな状況を手離したくもない。わがままですよねぇ。
というか、誰かと暮らし始めたら、その人に付随する、ありとあらゆるものまで背負わなくてはならないわけですから。
その覚悟を持たせるぐらいの素敵な女性が現れたらなぁとは思いますが(笑)。
こういう映画を観ると、確かに誰かと暮らすって幸せかなと。でも作用と反作用。その反対に“負”のベクトルが伸びていくわけで。
なんて、いくつになっても恋はするし、しちゃえば理屈では考えないものであることも、経験値でわかっているんですけどね。
なんてことを、ボクに書かせる映画です(笑)。★3つ。
『42―50 火光(かぎろい)』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.9.28
『愛してる!』★★★
(満点は★★★★★)


今週末から10月。秋も深まる頃。
雨が多かった9月と違って、すっきり秋晴れの空が増えるといいですね。
心が曇った時も、映画で晴れやかにといきたいです!
さぁ、今週は1本です!


『愛してる!』は、日活ロマンポルノ50周年記念プロジェクト作品の第2弾。

女子プロレスラー志望だったミサ★ザ・キラー。
しかし、今はその夢を諦め、プロレスのコスチュームに身を包んだ地下アイドルとして活動しています。
とはいっても、キワモノ扱いで人気は皆無。この日のライブでは共演者とトラブルを起こし、ライブハウスを出入り禁止となってしまいます。
落ち込むミサに、出口で声を掛けてきたのが、謎のマダム。
大きく“H”のロゴが書かれた名刺には、代表の椿とありました。
「うちに来てくれたら、最強のアイドルになるよ」。
約束の土曜日。何も考えず、“H”を訪れたミサ。そこは会員制のSMクラブだったのです。
戸惑うミサでしたが、女王様のカノンが教育係に指名され、調教が始まると、ミサの中で、何かが目覚めていくのでした…。

9月16日公開の『手』に続く、「ROMAN PORNO NOW」の第2弾作品。
ポスターもかなりポップで、昔の日活ロマンポルノとはイメージがまったく違い、隔世の感があります。
白石晃士監督は、ホラー映画で著名な監督。
今回はSMがテーマで、俳優の高嶋政宏が企画監修で参加、出演もしていますが、彼は『変態紳士』なる本を出版したSMマニアなんですね。
生き生きと演じている様子が、ちょっぴりホラーかも(失礼!)。
エンタメ色が強く、ポルノ映画のハードルを下げることに成功したと言える1本。とはいっても、R+18なので、年齢制限にはご注意を。★3つ。
『愛してる!』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.9.26
『スーパー30 アーナンド先生の教室』★★★★
『秘密の森の、その向こう』★★★
『暴力をめぐる対話』★★★
(満点は★★★★★)


更新が遅くなりました。
まったく時間がなくて…。
申し訳ありません。
今週も、興味深い作品がいっぱいです。是非、劇場に足を運んでみて下さい!!
さぁ、今週は3本です!


『スーパー30 アーナンド先生の教室』は、事実に基づいて描かれたインド映画。

1973年、インドのビハール州に生まれた、アーナンド・クマール。
父は郵便配達員として家族を養っていましたが、貧しい家庭だったため、学校の図書館すら使わせてもらえず。
それを見ていた司書の男性から、「この本が読みたいなら、論文を書けばいい。掲載されれば、向こうからずっと本を送ってくる」と教えてもらうんですね。
一念発起、誰も解けなかった数学の答えを出し、その論文が学術誌に掲載されると、なんとイギリスのケンブリッジ大学から、入学許可が下ります。
しかし、どうしてもお金の工面が出来ないアーナンド。志高く彼を応援してくれていた父も突然倒れ、他界。
断腸の思いでイギリス留学を諦めたアーナンドは、母が焼いたパーパルという豆せんべいを売って生計を立てることに。
そんな時、偶然アーナンドを知る人物と遭遇します。以前、数学コンテストで大臣のアテンドをしていたラッランです。
彼は今、エリート向けの塾を経営していて、アーナンドを講師として招聘すると、たちまち大人気の看板講師となり、アーナンドの収入はケタ違いに上がっていったのです。
綺麗に着飾って、塾に向かうアーナンド。
そこに、お金はないけれど学ばせてもらえないかとやってきた父子がいました。
「そんな制度はない」と突っぱねるアーナンド。
哀しそうに見つめるふたりの目の中に、ふと昔の自分を見つけるんですね。
アーナンドは立ち上がります。貧しい人のために、無償で、寮も備えた私塾を作ろうと。
彼は今の暮らしを捨て、私財をすべて投げ出し、“スーパー30”という塾を作ったのです…。

実在しない人物についてはフィクションだ、と注意書きがついて始まる映画。
つまり、実話に基づいてはいるけれど、エンタメとしての脚色はありますョということなのでしょう。
いやぁ、感動しました。
スーパー30は、定員数30人の予備校。目指すは超難関のインド工科大学。
ラッランとつながる無能な大臣や、塾の売上が減ったラッランから命を狙われたり、愛し合っていた彼女のスプリヤーとも別れる道を選ばねばならない。
それでもアーナンドは信念を貫き通します。
長くインド社会に根付いてきたカースト制度。差別の撤廃が言われようとも、そう簡単にはなくなりません。
今も、その高い壁に挑み続けているアーナンドの物語です。
インド映画は長く、なぜか皆が踊り出すシーンが必ず挿入されているイメージ。
確かに、この映画も154分です。ただ、上手いのは、ダンスのシーンに必然性を持たせたこと。これならボクらもすんなり観られます(笑)。
心洗われる1本です。頑張る勇気をくれるはず。劇場へ是非どうぞ!★4つ。
『スーパー30 アーナンド先生の教室』公式サイト


『秘密の森の、その向こう』は、フランスのファンタジック・ミステリー。

ネリーは8歳の女の子。
大好きだった母方のおばあちゃんが亡くなって、森の中にある家を片付けなくてはならなくなります。
両親と共におばあちゃんの家へと向かうネリー。
整理を始め、幼い頃の思い出を語り出す、母マリオン。
ネリーは言います。「子どもの頃、秘密の小屋を作ったんでしょ?一緒に行こうよ」。しかし、母は寂しそうに微笑むだけでした。
翌日、母は出ていってしまいます。おばあちゃんのことを思い出すのがつらすぎて、この家にはいられなかったと父は話します。
ネリーがひとりで森の奥へと入っていくと、木で組まれた小さな小屋を見つけるんですね。
そこに、自分によく似た、同じ年頃の女の子が立っていました。
名前を聞くと、マリオンだと。「家に遊びに来ない?」と誘われてついていくと、そこにあったのは、間違いなくおばあちゃんの家だったのです…。

ちょっぴり不思議な感覚に陥る、ミステリアスなファンタジー映画。
ネリーとマリオンはすぐに意気投合。マリオンの家ではマリオンのお母さんとも仲良くなります。
ふたりの目を盗んで、家の中をこっそり覗き見たネリーは確信します。
そして、「私はあなたの娘なの」とマリオンに告げるのです。
宣伝コピーにある、“娘・母・祖母 三世代をつなぐ癒しの物語”。
セリーヌ・シアマ監督は、「迷った時は、宮崎駿監督ならどうする?と自分自身に問いかけた」そう。さらに、「細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』にも大いにインスパイアされた」と語っています。
是非、添付の公式サイトを読んでみて下さい。ボクら日本人の感性にも合った作品になっていると思いますョ。★3つ。
『秘密の森の、その向こう』公式サイト


『暴力をめぐる対話』は、フランスのドキュメンタリー。

フランスのマクロン政権に対する抗議運動、“黄色いベスト運動”。
2018年11月に地方都市で火がつくと、瞬く間にフランス全土に広がります。
なぜ黄色いベストかというと、フランスで車を運転する際には、蛍光色のベストを車内に常備しなくてはならないそうで、富裕層にばかり有益な政府の政策に対する抗議運動。燃料価格の高騰、自動車税、燃料税の高額化など、トラックドライバーの不満も大きな要因のひとつゆえ、この黄色いベストが運動のシンボルになったそうです。
市民のフラストレーションが溜まっていたせいか破壊行動も起き、それを制止しようとする警察との間で激しい衝突が起きる。その際の警察側の過剰な暴力を、たくさんのスマホのカメラが動画に収めていて。
手首から先を失った配管工、片目を失明したトラックドライバー、社会学者、歴史家、作家、警察関係者、それぞれがそれぞれの立場で、衝突の映像を見ながら主張をぶつけ合うといった内容になっています。
確かに警察の対応はあまりに暴力的。でも、この頃、市民の側もかなり挑発的なんですよね。
ボクはこのデモについて何の知識もなかったし、上っ面だけを見て何かを語れるはずもありません。
ただ、暴力はいけない。映像にもあるような、悲劇しか生みませんから。
暴力の応酬になってしまった根源は何なのか、どうしたら負の連鎖から抜け出せるのか。それを考えるのが政治の使命だと思いますが、簡単ではないんでしょうね。
映画はどちらかと言うと市民寄りで、警察の暴力を暴くといった色合いが濃くなっています。
でも、それを鵜呑みにせず、こういった暴力がフランスには存在するんだという事実を客観的に見る。そんな目を持ちたいなと感じました。★3つ。
『暴力をめぐる対話』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.9.16
『川っぺりムコリッタ』★★★
『クリーン ある殺し屋の献身』★★★★
『ザ・ディープ・ハウス』★★★
『手』★★★
(満点は★★★★★)


今週末から3連休。その後、3日働くとまた3連休。
シルバーウィークは5連休を満たさないと、この呼称にはならないそうですが、“ブロンズウィーク”ぐらいの休み(笑)。映画を観る時間を作れそうという方も多いのでは?
さぁ、今週は4本です!


『川っぺりムコリッタ』は、荻上直子の小説を自ら監督、映画化した作品。

北陸のとある小さな町。
山田は縁あって、この町の小さな塩辛工場で働き始めます。
住まいは社長に紹介された“ハイツ ムコリッタ”。
このアパートの住人は、みんな訳ありな感じの人たち。
美人の大家の南さんと娘のカヨコ。いつも黒いスーツで、息子の洋一と墓石を売りに回っている溝口さん。そして、山田のとなりの部屋に住む島田さん。
ある日のこと、ごはんを食べようと、炊きたての白米に塩辛を乗せたその瞬間、玄関の扉をノックする音が。
開けると男がひとり。隣人の島田さんでした。
すると、「お風呂を貸して」と、部屋にズカズカと入ってくるではありませんか。
その日から、島田さんは、山田の部屋を頻繁に訪れるようになります。
人との付き合いをなるべく避けたくて、海辺の小さな町を選んだのに。
山田の日常は、思い描いていたものとは、別の生活になっていったのです…。

自身の小説を自ら映画化ですから、描きたいものが描けたんでしょうね。
ムコリッタとは、仏教用語で1/30日を表すんだとか。1日が30ムコリッタ。つまり、48分。
なぜムコリッタなのかは公式サイトのintroductionにある監督のコメントを読んでみて下さい。死生観というか、生死観というか、幸せって何だろうみたいな、荻上さんのこの作品への思いがわかります。
山田のこれまでの人生は、決して順風満帆ではありませんでした。物心つく前に父とは生き別れ、多感な10代の時、母にも捨てられ、誰にも知られたくない過去も作ってしまい。
山田は他人から距離を置きたかったけど、そうはさせてもらえない環境に身を置くことになる。でも、それがいろんなことに気づかせてくれるから、人生って面白いなぁと。
実は、昨年の11月3日に公開予定だったのが、コロナウイルス感染拡大の影響で延期。待望の作品公開となります。
ちょいちょい散りばめられている、「そ。そういうこと」というシーンをお見逃しなく。★3つ。
『川っぺりムコリッタ』公式サイト


『クリーン ある殺し屋の献身』は、“キリング・ハード・アクション”。

夜の街をゴミ収集車に乗って走る、清掃員の男がいました。彼の名はクリーン。
仕事以外でも落書きを見つけると、無償で消している彼の姿は、どこか償いのようでもありました。
隣りの家は、祖母と孫娘のふたり暮らし。その孫娘のディアンダのことが、クリーンには気になって仕方ありません。なぜならクリーンは、自分の娘を亡くしていたから。
食事を届け、自転車をプレゼントし。
そんなクリーンに祖母は言います。「あなたはいい人だけど、家族じゃない。もうこれ以上は受け取れない」。
すると、クリーンは寂しそうな笑みをたたえながら、「これは俺自身の救いなんだ」と答えたのです。
ある日のこと、ディアンダが街の不良グループとつるんでいるのを見つけたクリーン。別の日には、大音量のパーティの中に消えていくディアンダ。
嫌な予感がしたクリーンは、家の中に飛び込むと連中を片っ端から殴り倒し、乱暴されそうになっていたディアンダを助け出します。
ところが、顔の形が変わるほどに痛めつけたのは、残忍な性格で知られる麻薬ギャングのボスの息子だったのです。
ボスは怒りに震え、手下に復讐を命じるのでした…。

面白かったです。
陰のあるクリーンを演じたのは、映画『戦場のピアニスト』でアカデミー主演男優賞を受賞した、エイドリアン・ブロディ。
自らの悪行が原因で、娘が命を落とすことになったクリーンは、その事故から、ずっと自分を責める毎日。
そんなクリーンの実の顔とは?
元悪vs現巨悪。本領発揮のダークヒーロー。いつの時代も溜飲が下がります。あ、もちろんバイオレンスはフィクションの中だけで。★4つ。
『クリーン ある殺し屋の献身』公式サイト


『ザ・ディープ・ハウス』は、ホラー映画。

世界中の廃墟を巡り、動画をUPしているYouTuberカップルのティナとベン。
NYに暮らし、最新鋭の機材を使って撮影しているものの、最近は視聴数も伸び悩んでいました。
フランス郊外の屋敷を撮影しに来たティナとベン。海辺で気分転換していると、ベンがひとりの地元男性と知り合います。
ピエールというその男性によると、湖の底に1軒の家が沈んでいるそうで、ピエールが案内役を買って出たのです。
ピエールを乗せ、車を走らせると、地図にはない場所に、確かに湖がありました。
ティナとベンは潜水服に着替え、ドローンと共に湖底へと向かいます。
ピエールの言う通り、不気味な家が沈んでいたのです。
何とか中に侵入したふたり。水中の廃墟なんて、これは視聴数が稼げるとベンは大興奮。
しかし、この家はただの廃墟ではなかったのです…。

“酸欠ホラー・ムービー”とは上手く言ったもので、呪いの怨念に、水中ゆえのパニックによる恐怖が加わります。
相棒の姿が見えなくなる。ハイテク機器が動かない。開いていたはずの入り口が塞がれている。何者かが襲ってくる。酸素の残はあと僅か…。
怖いですよねぇ。
すごく斬新かと言えば、そうではありませんが、切り口は新しく、設定も今の時代ならでは。尺も85分と、ちょうどいい長さかなと。
ちなみに、ベンを演じたのは、ミック・ジャガーの息子、ジェームズ・ジャガー。
エンドロールの最後まで席を立たないようにご注意下さい。★3つ。
『ザ・ディープ・ハウス』公式サイト


『手』は、日活ロマンポルノ50周年記念プロジェクトの第1弾作品。

両親と妹と実家に暮らすさわ子。
さわ子はおじさんが好き。街でおじさんを見つけては写真を撮り、「ハッピーおじさんコレクション」なる写真の切り抜きを集め、開いて眺めては悦に入っていました。
勤務先の上司、冴えないおじさんの大河内とも、体の関係はないけれど、デートはする仲。
そんな中、さわ子に好意を寄せていた同僚の森が会社を辞めると言います。
「もう同じ会社じゃなくなるんだから」と、積極的に迫る森。さわ子は森と体の関係を持つようになります。
久しぶりに同年代の男性にときめいたさわ子でしたが、森には別の恋人がいたのです…。

日活ロマンポルノ。
ボクらの世代には、一種独特の輝きを持つ言葉です(笑)。
日活に、1971年に生まれた成人映画のレーベルで、「10分に1回絡みのシーンを作り、上映時間は70分程度」。これが一応のルール。1988年の製作終了までに、約1100本の作品が誕生したそう。
小さなテーブルの上に置かれた花瓶が男女の結合部分を隠していたり、カメラアングルにも独特の様式美がありました。
その日活ロマンポルノの50周年を記念して、3人の監督が3本の新作を発表。そのプロジェクトが「ROMAN PORNO NOW」です。
第1弾の『手』は、ボクのお気に入りの映画『ちょっと思い出しただけ』の松居大悟監督作品。
さわ子との間に少し年の差がある妹のリカが生まれたことで、父の愛がリカに全部持っていかれたと思ったさわ子は、父との関係がギクシャク。
おじさん好きは、その反動かも。
山崎ナオコーラの同名小説を、松居大悟監督が“ロマンポルノ”としてどう見せるのか。
家族、職場、恋人…。20代女性のよくある悩みを描いた作品。ちょっとだけ、セクシーな描写が増えたぐらいのイメージでしたョ。
気になる方は、劇場にどうぞ。あ、R+18です。念のため。★3つ。
『手』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.9.9
『AKAI』★★★
『ザ・ミソジニー』★★★
『人質 韓国トップスター誘拐事件』★★★
『LOVE LIFE』★★★★
『私を判ってくれない』★★★
(満点は★★★★★)


コロナによる規制が緩和されてきたこともあって、オンラインではないリアルの試写会も、だいぶ増えてきました。
スマホの小さな画面で見るより、大きなスクリーンで鑑賞すると、やっぱりスケールが違う。
劇場に足を運ぶと、スマホと違って、非日常を感じるはず。これもまた映画の魅力なんでしょうね。
さぁ、今週は5本です!


『AKAI』は、元プロボクサーで俳優の、赤井英和のドキュメンタリー。

1959年8月17日、大阪市西成区に生まれた赤井英和。
やんちゃな10代でしたが、浪速高校に進学するや、先輩に呼ばれ、何もわからないままにボクシング部に入部。30勝9敗の成績を残し、近畿大学に進学します。
大学在学中に、モスクワオリンピックの代表候補になるも、日本のボイコットで参加が叶わず、学生のまま、プロに転向。
破竹のデビュー12連続KO勝ち。それも要した時間は72分という衝撃的な強さで、赤井は一躍人気のボクサーとなります。
ついたニックネームは“浪速のロッキー”。
しかし、あとひと息で世界タイトルには手が届かず、1985年、大和田正春との試合でまさかのKO負け。そして意識不明となり、生死の境をさまよいます。
生存率が50%と言われた開頭手術は成功。生命力の強さで回復した赤井でしたが、もうボクシングはできません。
21戦19勝2敗(16KO)の記録を残し、引退。
そんな時、阪本順治監督に声をかけられ、自伝をもとにした映画『どついたるねん』で、俳優デビューを飾ります。1989年のことでした。
そんな赤井英和のボクシング・サイドの人生にスポットライトを当てた、ドキュメンタリー映画。
メガホンをとったのは、長男で、自身も現役プロボクサーの赤井英五郎。
世界チャンピオンになれなかったのに、日本中を沸かしたボクサーは赤井英和ぐらいですもんね。
その優しい人柄や、ユーモア溢れる受け答えなど、当時の高い人気の秘密がわかるはず。
昭和の懐かしい熱気と共に、楽しんで下さい。★3つ。
『AKAI』公式サイト


『ザ・ミソジニー』は、ホラー映画。

ナオミは、女優で劇作家。今、新たな芝居を作っていました。
それは、昔起こった事件を題材にしたもの。
その事件とは、母と娘が暮らす屋敷の庭で、母が突然消えたのを娘が目撃していたというもの。その場所には黒い焦げ跡が残ったそう。そして、数年後の同じ日に、今度は娘が何者かに殺害されてしまったのです。
ナオミは夏の間だけ、山奥にある古びた洋館を借り、創作活動に入ります。
自身が母の役を、娘役には、かつてナオミの夫を奪った女優のミズキを指名します。
マネージャーの大牟田とやってきたミズキは、この洋館にただならぬ気配を感じ取ります。
事件の背景や謎を推理し、母娘の心を推察するうちに、3人はまるで事件の当事者のように変わっていったのです…。

『リング』シリーズの脚本も手掛けた高橋洋監督の、4年振りとなる長編作品。
ほぼ全編が3人芝居で、ひとりひとりの役者に、まるでいくつものキャラクターが憑依しているかのよう。
ストーリーも哲学的というか、劇中、屋敷のスクリーンに、歴史上の業が深いとされる女性たちがスライドで映し出されるのですが、それもまた脳の深い部分で怖さを感じさせるかのようで。
ロケの舞台となった古い洋館も、出演者が纏う衣装も含め、陳腐な言い方ですが、“大人のホラー”といった感じ。
晩夏に、あるいは初秋に観るには、いい恐怖映画だと思います。
やや難解なので、公式サイトで予習をしてから、劇場にどうぞ。★3つ。
『ザ・ミソジニー』公式サイト


『人質 韓国トップスター誘拐事件』は、韓国のクライム・サスペンス。

韓国のスター俳優、ファン・ジョンミン。
新作映画の記者会見の帰り、自宅近くで無礼な若い連中に絡まれます。
その場はなんとかやり過ごしたジョンミンでしたが、なんと同じグループに自宅前で監禁されてしまうんですね。
気付いたら、倉庫の中。パイプ椅子に、後ろ手に縛られていたのです。
誘拐犯は、リーダーのギワンを含む、5人組。
実はこのグループ、今、あまりにも残忍な手口で韓国中を震撼させている、もうひとつの誘拐殺人事件の犯人でした。
目の前には、その事件で生き残った少女ソヨンが、傷だらけの姿で縛られています。
身代金は5億ウォン。
果たして、ジョンミンはこの窮地を脱出することができるのでしょうか…。

ファン・ジョンミンが、本人役で主役を演じた作品。
誘拐されたのが俳優だというのがミソで、その姿が真実なのか、それとも演技なのか。
ここには書きませんが、ジョンミンの唯一の“武器”は、演じることですから。まさに「芸は身を助く」となるのか否かが、見処のひとつです。
さらに、誘拐グループの5人にもそれぞれに特徴があって、上手くキャラクターの違いを使いながら、物語は進んでいきます。
エンディングもニヤリとさせる演出。韓国エンタメのレベルの高さを感じさせる1本だと思います。★3つ。
『人質 韓国トップスター誘拐事件』公式サイト


『LOVE LIFE』は、矢野顕子の同名楽曲にインスパイアされた、夫婦の物語。

妙子は、ホームレスを支援するNPOで働く女性。バツイチで、敬太というひとり息子がいました。
そんな妙子が、市役所の福祉課で働く二郎と知り合い、再婚。
今は集合団地で生活。向かいの棟には二郎の両親が暮らす部屋があります。しかし、二郎の父親は、ふたりの結婚を快く思っていなかったのです。
そんなある日、一家に悲劇が起こります。
悲しみに暮れる妙子の前に、ろう者で韓国籍の前夫、パク・シンジが現れます。
妙子の心に、さざ波が立ったのです…。

究極の“自己中”たちのお話。
一言で言えば、そんな感じ。
裏切って、裏切られて、赦して、赦される。
誰もがそんな人生だと思います。
みんな誰かを傷つけて、自分も傷つけられて、二度と会うものかと縁を切ることもあれば、何もなかったかのように関係を修復、再開する人もいて。
この映画は、それぞれの登場人物の、表と裏、本音と建前を浮かび上がらせているところに妙がある。まぁ、両面合わせてその人、なんでしょうけど。
ボクはまったく共感できませんでしたが、これが映画の面白いところで、「わかる〜っ」という人にはわかるはず。
これ、ボクはコメディ映画だと思ってます。皮肉たっぷりのヒューマン・コメディ。
だとしたら、なかなかです。★4つ。
『LOVE LIFE』公式サイト


『私を判ってくれない』は、ふたりの監督によって描かれた人間ドラマ。

鹿児島県出水郡長島町。
女優になりたいと上京した城子が、島に帰ってきました。
移住希望者には町が家をプレゼントするぐらいですから、大歓迎かと思いきや、そうではなく。
実は城子、3年前に島を舞台にした映画を作るからと町民から寄付を集めたものの、計画は頓挫。返金はされておらず、出資者の中には「詐欺じゃないか」と怒りがおさまらない人もいたのです。
この城子がとにかく自分勝手。同級生の由記乃の父が町役場に勤めていることもあり、住居が見つかるまではと、泊めてもらうことになるのですが、その振る舞いたるや非礼の極み。
さらに、また映画を作ると言い出す始末。
静かな長島町に、急に降って湧いた嵐の予感です…。

長島町を舞台にした映画の第2弾。この町の皆さんは、映画が大好きみたいで(^-^) 近藤有希と水落拓平、ふたりの監督が、ふたつの視点で物語を描く。 どういうことかと言うと、途中で時間が巻き戻り、今度は由記乃サイドでのストーリーが始まります。 由記乃は、どちらかと言えば、地味で優柔不断。清掃の仕事に誇りとやり甲斐を持っていますが、結婚願望もない。町のお節介なおばちゃんが見合いの話を持ってきてもノーとは言えず、会うには会うけど、その気はまったくなく。 その生き方は、城子と正反対。由記乃もまた“私を判ってくれない”なわけです。 半ば、ネタバレですね(笑)。すみません。 でも、この映画に足を運んでもらうには、ここまで説明しておいたほうがいいんじゃないかなと感じました。 城子と由記乃のどちらに共感するか、両方わかるか、どちらにも共感しないか。あなたが観て確かめてみて下さい。 ボクは城子があまりにひどくて無理(笑)。途中で観るのをやめようかと思ったぐらい。 ここまでひどいと、ちょっといいところがあっても「だから、なに?」ってなっちゃう。 ハリウッド映画にもよくあるけど、デフォルメして、大袈裟に描かないとドラマにならないのはわかるけど、ちょっとなぁ…。 実験的アプローチが面白かったけど、個人的には、そこがいただけませんでした。★3つ。
『私を判ってくれない』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.9.2
『ギャング・カルテット 世紀の怪盗アンサンブル』★★★
『スーパー戦闘 純烈ジャー 追い焚き☆御免』★★★
『地下室のヘンな穴』★★★
『デリシュ!』★★★★
(満点は★★★★★)
(満点は★★★★★)


9月になりました。
残暑はまだ厳しいとはいえ、吹く風にはどこか秋の気配を感じますよね。
ボクたちの感性も、徐々に敏感になるのかなと。
そんなこの時期、お気に入りの映画が見つかるといいですねっ。
さぁ、今週は4本です!


『ギャング・カルテット 世紀の怪盗アンサンブル』は、スウェーデン映画。

シッカンは、スウェーデンでNo.1の金庫破り。
ある日のこと。仲間と共に、綿密な計画を立てて仕事に取りかかったものの、失敗。シッカンは刑務所に入ることに。
出所すると、仲間たちが一斉に足を洗うと言い出すではありませんか。
次のお宝は“フィンランドの王冠”。シッカンはひとりで挑むことになります。
ところが、この王冠にはあるはずの石が無く、その石の存在がフィンランドの今後をも左右することに。
見つかった石は、たくさんの人間の思惑が絡み、所在が転々と変わっていきます。
シッカンは再び仲間を集め、お宝を奪おうとするのですが…。

あらすじだけ読んでも、正直、面白味は伝わらないなと(笑)。
この映画は、スウェーデンの国民的コメディシリーズ「イェンソン一味」という、怪盗団シリーズのいわば最新作。
音楽のリズムに乗せて、盗みを進めていくあたりに、ギャグの様式美を感じてしまいます。
80年代から、スウェーデンの老若男女を魅了してきた作品ですから、日本で言えば、ドリフの泥棒コントの映画化みたいな感じですかね。
ただ、「だっふんだぁ」で終わる志村けんさんの“ヘンなおじさん”を海外の人が見て、腹を抱えて笑うかと言えば、疑問ですよね。
あのギャグには、日本のお茶の間における“偉大なるマンネリ”がある。そこが、実は大切なわけで。
だからといって、楽しめない映画じゃありませんョ。誤解なく。
スウェーデンのお茶の間は、こんな感じなのかと想像しながら観るのも一興かと思います。★3つ。
『ギャング・カルテット 世紀の怪盗アンサンブル』公式サイト


『スーパー戦隊 純烈ジャー 追い炊き☆御免』は、人気男性4人組グループ・純烈主演の特撮ヒーローアクション第2弾。

スーパー銭湯アイドル、純烈。
メンバーの4人は、それぞれの温泉の女神と契りを交わすことで、純烈ジャーに変身。温泉の平和を守ってきました。
ところが、全国の温泉が水風呂になってしまうという事例が多発。
これには、「何もかも凍結だ!」が口ぐせの、マイナスカンパニーCEO哀須永仁の私怨が関わっていたのです。
その頃、赤の純烈ジャー・白川裕二郎は悩んでいました。実は、赤の女神が置き手紙をし、白川の元から立ち去ってしまったのです。
新たな赤の女神を見つけはしましたが、前の彼女が忘れられない白川。
そんな時、哀須の最終兵器“シロクマジン”が動き始めたのでした…。

後上翔太、白川裕二郎、小田井涼平、酒井一圭からなる純烈。後上翔太を除く3人は、元々戦隊ヒーロー出身。
そこで作られたのが、“スーパー戦闘”シリーズです。
今作は、その第2弾となります。
前作では敵のラスボスに小林幸子が扮して話題になりましたが、今回は八代亜紀が物語のカギを握る存在に。
純烈ファンのための映画ではありますが、演歌・歌謡曲好きの人も楽しめるラインナップ。
スーパー銭湯に立ち寄ることもプランに組み込んで(笑)、楽しんでみて下さい。★3つ。
『スーパー戦闘 純烈ジャー 追い焚き☆御免』公式サイト


『地下室のヘンな穴』は、フランスのヒューマン・コメディ。

アランとマリーは仲のいい中年の夫婦。
いよいよ一軒家を持とうかということになり、物件を探していたところ、ひとりの不動産業者の男から、郊外の家を紹介されます。
可もなく不可もなく。迷っている夫婦に業者の男が言います。
「この家のすごいところは、地下室にあるんです」。
ついていくと、地下室の床に蓋がひとつ。開けると穴が空いていました。
男は、「この穴に入ると、時間は12時間進むが、3日若返る」と言うのです。
試しに入ってみると、確かにそのようで。
購入を決めたふたりでしたが、若くなりたいマリーは、次第にアランのことなどそっちのけ。毎日、穴に入っては鏡を確める始末。
究極のすれ違い生活が始まってしまったのでした…。

これまでも、数々の異色の作品を発表してきた、“奇才”カンタン・デュピュー監督作品。
半日過ぎてしまうけど、3日若返る。
冷静に計算すると、1歳戻るには約120回穴に入らないといけない。60日として、約2ヶ月進んでしまうわけですよね。
6歳若返るのに1年進む。差し引き5歳。
マリーはとりつかれたように穴に入り、アランが止めても聞く耳を持ちません。
アランの勤める会社の社長、ジェラールがまた変わった人で、男性器をスマホひとつで自由自在に操れる闇手術を受けている。そんな笑えるサイドストーリーもあります。
果たして、夫婦に待つ未来とは?
気になる方は、劇場でお確かめ下さい。★3つ。
『地下室のヘンな穴』公式サイト


『デリシュ!』は、18世紀末のフランスを舞台にしたグルメ映画。

マンスロンは、シャンフォール公爵の宮殿で働く、宮廷料理人のチーフ。
その腕は抜群で、公爵もお気に入りだったのですが、創作意欲も高いマンスロンが、大切な客人をもてなす宴席で、じゃがいもとトリュフの重ね包み焼き“デリシュ”を提供。
すると、客のひとりが、「地の中のものを食べさせるとは何事だ」と激怒。「メンツを潰しおって」と公爵の逆鱗にも触れて、クビになってしまうんですね。
息子とふたりで郊外の実家に戻ったマンスロンは、もう二度と料理は作らないと誓います。
ところが、そこにルイーズという女性がやってきて、マンスロンのもとで料理を勉強したいと言うのです。
何度断っても諦めないルイーズ。ついに根負けしたマンスロンは、ルイーズを弟子にすることを認めたのですが…。

フランスで初めてレストランを開いたとされる、実在の人物をモデルに作られた映画。
時は1789年。革命前夜のフランスです。
美食の国と言われるフランスですが、当時は天国の食べ物と悪魔の産物があると信じられていて、根菜、つまり地の中のものは悪魔の食材とされていたんだとか。
でも、マンスロンは美味だからとじゃがいもとトリュフの包み焼きを出す。美味しいに決まっているわけで。
プライドが高く、高慢な公爵も、実は泣く泣く彼をクビにしているのです。
そんな中、ルイーズが現れる。どこか謎めいた彼女が、マンスロンの未来と、フランスの食の在り方を変えて行くというお話。
面白かったです。
まだ、庶民と貴族が同じ空間で食事をするなんて考えられなかった時代。
美味しい食事は人を幸せにするんだなと改めて。
これから“食欲の秋”。ひと足先に、目で、心で味わってみてはいかがです?★4つ。
『デリシュ!』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.8.25
『グリーンバレット』★★
『激怒』★★
『スワンソング』★★★★
『Zola ゾラ』★★★
(満点は★★★★★)
(満点は★★★★★)


8月もあとわずか。
今週公開の映画が8月最後の新作となります。
暑い夏でしたが、心は熱くなりましたか?
まだだという人は、残りの数日で、この夏の記憶に残るような映画を探してみて下さい。
さぁ、今週は4本です!


『グリーンバレット』は、ミスマガジン2021各賞受賞者たちによるアクション・エンタテインメント。

プロの殺し屋になりたいという若い女子たちが、新たに立ち上げた殺人請け負い会社のオーディションを受けることに。
山田ふみか、今井美香、神里はるか、東雪唯、鹿目梨紗、沖田響の6人は、京都最強の殺し屋、田岡昌幸らの指導のもと、山中で合宿に入ります。
一方、世間では、フォックスハンターという名の殺人集団が、享楽で人殺しを続けていました。
そんな中、彼女たちが合宿のワンシーンを、SNSに上げてしまったから、さぁ大変。フォックスハンターたちの標的になってしまいます。
合宿が一転、実戦の場に。彼女たちは生き残ることができるのでしょうか…。

『最強殺し屋伝説田岡〔完全版〕』という映画が昨年秋に公開。殺し屋の日常を追うというドキュメンタリータッチのフィクション映画だったよう。
また、若い女の子の殺し屋を描いた『ベイビーわるきゅーれ』という映画もあり、今作はこのふたつが合体。どちらにとっても、続編といった立ち位置のようです。
映画は観客のターゲットを絞ることも大切で、作品が良ければ、振れ幅として広がっていく。その結果がヒットですからね。
この映画が大きく振れるかは別にして、ミスマガジンのファンには楽しんでもらえる。そんな、ターゲットがはっきりした映画だと思いました。★2つ。
『グリーンバレット』公式サイト


『激怒』は、架空の街を舞台にしたバイオレンス・アクション。

ごく普通の町、富士見町で刑事として働く深間。
彼には怒りを止められないという悪癖があり、功罪相半ば。事件解決のためとはいえ、人を殺めてしまい、海外の医療機関に送られ、アンガーマネージメントの治療を受けることになります。
数年後、帰国した深間が見たのは、まったくと言っていいほど、変わってしまった富士見町の姿でした。
警察所長も代わり、怪しげな町長が実権を握っていて、”犯罪ゼロの町、富士見町”をスローガンに、自警団が町をパトロール。住民はすべて監視され、プライバシーは皆無。深間の昔の仲間たちは虐げられ、人間らしい生活を送れなくなっていたのです。
沸き上がる怒りの感情を、押さえきれなくなる深間。爆発するのは時間の問題でした…。

社会派の映画として期待すると、まさにフィクションですから、ちょっと肩透かしをくらうかも。
SF映画と言ったら、関係者の皆さんからはお叱りを受けるかもしれませんが、どちらかというと、観賞後の捉え方はそっちかなぁ。
娯楽作品としてご覧になることをおすすめします。★2つ。
『激怒』公式サイト


『スワンソング』は、実在した伝説のヘアメイクドレッサー“ミスター・パット”の物語。

パトリック・ピッツェンバーガー、通称“ミスター・パット”は、ヘアメイクドレッサー。
オハイオ州の小さな町、サンダスキーに住み、10代の頃から地元のゲイバーで踊るなどした、町の有名人。オープンさせた彼のサロンは、大人気でした。
恋人のデビッドと一緒に暮らし、公私共に幸せな毎日を送っていたパットでしたが、デビッドが若くしてエイズで他界。すると、すべてを捨て、パットは早々に老人ホームに引きこもってしまいます。
そんなパットのもとに、弁護士が訪ねてくるんですね。曰く、「リタが亡くなった。死化粧はあなたに頼みたいと、遺書に書かれていた」と。
リタは町一番のお金持ちで、当初はパットの大事な顧客であり、親友だったのですが、ある事がきっかけで不仲になり、それからは疎遠になっていたのです。
初めは申し出を断ったパットでしたが、ホームを飛び出し、何かに突き動かされるように、サンダスキーの町を歩くパット。そこはすっかり姿を変えたサンダスキーの町でした。
でも、パットの心の中には、あの頃のサンダスキーが、次々とよみがえって来たのです…。

すごくいい映画だと思います。
パットは、最愛のパートナーの死をきっかけに、老人ホームに入るのですが、それによって、サンダスキーの町が“近くて遠い”存在になる。
あえてそうしないと、心の平穏が保てなかったのかもしれませんよね。
介護職員に止められているタバコぐらいしか楽しみがないパットのもとに届いた、リタの訃報。これが契機となってサンダスキーを歩くパットの、人生のロード・ムービー。
ボクは当事者じゃありませんが、そんなボクが感じたのは、LGBTQ+の話をする時に、おそらくこういう映画が一番わかりやすいんじゃないかということ。
何か特別なことじゃなく、ひとりの人として、素敵な生き方だと感じたなら、その当たり前を大事にすればいい。
何かと大上段に構えて語ると、時に話はややこしくなるけれど、人が人らしく生きることが最優先なんだと考えれば、もっと見えてくる本質があるのに。
あくまで個人な感想ですが、そう気付かせてくれる1本だと思います。★4つ。
『スワンソング』公式サイト


『Zola ゾラ』は、実話に基づくストーリー。

デトロイトの街で、昼はウェイトレス、夜はポールダンサーとして働いているゾラ。
ある日のこと、ウェイトレスとして働く店にひとりの女性客が来て、自分もダンサーだ話します。彼女の名はステファニー。
ふたりは互いに「私たち似てるわね」と、意気投合。連絡先を交換します。
すると次の日、ステファニーからゾラに連絡が入ります。フロリダに、あっという間に大金を稼げるクラブがあるから、一緒に行かないかという誘いでした。
気軽にOKを出し、迎えに来た車に乗ったゾラ。その車には、ステファニーの他に、ステファニーの恋人デレクと、ルームメートだという怪しげな男性Xが同乗していたのです。
車は一路フロリダへ。
しかし、ゾラの抱いた嫌な予感が、この後的中してしまうのでした…。

2015年10月に、アザイア・“ゾラ”・キングがツイッターに投稿した148のツイートがバズり、それを取材したローリングストーン誌の記事と、関係者へのインタビューをもとに作られた映画。
フロリダへの旅は、いわば売春ツアー。Xはステファニーのポン引きで、そこにゾラはまんまと乗せられてしまったということなんですが、ゾラは売春を頑なに拒みます。
その一方で、売り方が下手だと、SNSを上手く駆使して料金を上げ、ステファニーに一晩で何倍もの売り上げを作っちゃったものだから、Xがその商才を手放すはずがなく。
さらに、こんなことが起きる?という事件に巻き込まれていくという、アメリカらしいお話。
スタジオA24の製作。色彩が鮮やかで、白昼夢のような、ダークな大人のお伽噺。
実在するゾラにも、映画化にあたっては多額の契約金が入ったでしょうから、そっちもいわば“アメリカン・ドリーム”。そのお金を巡って、またトラブルになっていないか、心配です(笑)。
ちなみに映倫区分はR+18です。★3つ。
『Zola ゾラ』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.8.18
『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』★★★★
(満点は★★★★★)
(満点は★★★★★)


お盆休みも終わって、外出も近場へと変わる頃。
今週の作品は、それこそ日本にいながら、海外旅行気分が味わえるかも?
さぁ、今週は1本です!


『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』は、ドキュメンタリー。

世界三大劇場のひとつで、350年もの歴史をもつパリ・オペラ座。
所属しているダンサーは150名以上。最高位であるエトワールを頂点に、5段階の階級制となっていて、年間180以上もの公演を開催。彼らは1日のうち、6〜10時間は踊っていると言います。
そんな世界最高峰のバレエの殿堂が、史上初となる閉鎖に追い込まれたのが、2020年3月のこと。
コロナウィルスの蔓延という、世界的パンデミック禍によってでした。
自宅待機が3ヶ月。
ようやく練習が解禁となり、年末公演に向けて稽古ができるようにはなりましたが、バレエというのは1日休んだだけでも、その感覚を取り戻すのに相当の時間を要すると言います。
それが3ヶ月ものブランクですから、個々に練習を積み重ねていたとはいえ、ダンサーたちの不安は拭えません。
演目はヌレイエフの「ラ・バヤデール」。超大作です。
誰もが複雑な心境で稽古を積み重ね、準備をし、いざ開幕という時、なんと再び閉鎖を余儀なくされてしまうんですね。
劇場側の出した結論は、無観客での配信公演でした。
一度きりのステージゆえ、初日が千秋楽。加えて、目の前には満員のはずのお客さんがいない。
あまりに特殊な環境の中、果たして舞台は成功するのか?
そのすべてを追ったドキュメンタリーです。
プロ野球選手の友人が言ってました。「キャンプで風邪を引いて1日休むと、取り戻すのに1週間掛かる」と。
肉体を駆使するプロフェッショナルは、みんな厳しいフィジカル面の中で頑張っているんですよね。
オペラ座のダンサー契約には、42歳までという年齢制限があるそうです。
時間との闘いでもあるダンサーたち。
心身の葛藤と、そして達成感と。
人間って強いなと、勇気をもらえる1本です。是非、ご覧になってみて下さい!★4つ。
『新章パリ・オペラ座 特別なシーズンの始まり』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.8.12
『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』★★★
『時代革命』★★★★★
『ぜんぶ、ボクのせい』★★★
『ブライアン・ウィルソン 約束の旅路』★★★★
『野球部に花束を』★★★
(満点は★★★★★)


すみません。
先週紹介すべき映画が、1本もれてました。
8月5日(金)公開の『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』です。
今週、紹介させてもらいます。よろしくご了承下さい。
さぁ、今週は5本です!


『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』は、ナチス・ドイツの“加害者”側のインタビューを集めたドキュメンタリー。

この映画のルーク・ホランド監督は、イギリス出身。
母がユダヤ人難民で、祖父母がユダヤ人大量虐殺の”ホロコースト“により殺害されたという事実を知ったのは、10代の頃。
大人になって、祖父母を殺した人間を探そうと、プロジェクトを立ち上げるも挫折。しかし、ホロコーストに実際に携わったり、その事実を見てきた人間には、まだ出会えることを知ります。
そこでホランド監督は、10年間で250人以上の人物に、インタビューを敢行。それをまとめたのが、この作品です。
親衛隊の幹部から、親衛隊の家のベビーシッター、収容所の石工まで、証言者は多数。
親衛隊員だったことを今だに誇りに思っている人もいれば、知らなかったと言い逃れをする人もいて、それはかなり生々しい言葉たちが聞かれます。
日本の原爆被害者で存命の方が少なくなっているのと同様、”ナチス・チルドレン“と呼ばれる世代が少なくなっている今、これは貴重な証言集だと思います。
自身の行為を謝罪し、恥だと語るひとりの証言者が、大学生の若者たちとディスカッションをするシーンがありますが、若者の中には、ホロコーストを、ある意味、正当化する者もいて。
世界で唯一の原爆被爆国である日本でも、「喉元過ぎれば熱さ忘れる」どころか、熱さを知らないがゆえに、これから一気に熱湯を飲もうじゃないかと声を上げるのにも似て。世界共通というか、人間という生き物の“性(さが)”なんですかね。
世界中がキナ臭い今だからこそ、周りに流されないための、自分自身の物差し作りが重要。その目盛りを打つために、参考となる映画がたくさんあります。これもそんな1本でしょう。
ちなみに、ホランド監督は、映画完成直後の2020年6月に、ガンのため亡くなっています。人生を賭した作品だと思います。★3つ。
『ファイナル アカウント 第三帝国最後の証言』公式サイト


『時代革命』は、2019年の香港の民主化運動を追ったドキュメンタリー。

1997年7月1日、英中共同声明により、イギリスから中華人民共和国に返還された香港。
50年間は一国二制度による高度な自治が保障されるはずだったのですが、2020年、香港国家安全維持法の施行で、それは崩壊してしまいます。
この映画は、2019年に起きた、香港の民主化を求める大規模デモの様子を収めたもの。
これまでにも、『乱世備忘 僕らの雨傘運動』(日本公開2018年7月)、『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』(2021年6月)、『Blue Island 憂鬱之島』(2022年7月)など、香港の民主化運動を題材にしたドキュメンタリー映画を紹介してきましたが、この158分で、すべてが繋がった気がしました。
もし、今の我々の生活が、急に共産主義のもとで制限されるとなったら、どうします?闘いませんか?
10代から、70歳を超えるお年寄りまで。自分たちの将来のために、逆に、未来ある子どもたちのためにと闘う市民の姿が映し出されています。
もちろん、この手の映画は、プロパガンダを疑う必要もありますが、よくこれだけの映像を撮り残していたなと。
ドローンによる空撮は圧巻。人口700万人のうち、約1/3にあたる200万人がデモに参加したという。その規模が実感としてわかる映像です。
これをCGだと言ってしまえばそれまでですが…。

全部で9つの章からなる作品。
多くの若者が、自ら、あるいは警察の発砲で命を落とす。警察と言いながら、市民の側には立たない“黒い存在”も囁かれます。裏には、報道されなかった暗部がたくさんあるんだなぁと。
一方で、経済を止めてしまうデモを疎ましく思う人がいるのも事実。
「この時代の、この香港という絶望の中に、生まれてきてしまったのが運命。だから、闘うしかない」というようなことを語る人もいて。
我々も、今は平和な日本に暮らしていますが、わずか77年前は…。
いろんなことを感じる映画です。
戦争とはまた違った観点から、平和の、安寧の、脆く危うい上に立つ幸せを、大切に思えるはずです。満点!★5つ。
『時代革命』公式サイト


『ぜんぶ、ボクのせい』は、ヒューマン・ドラマ。

優太は13歳の中学生。
訳あって、児童養護施設で暮らしていました。
学校でも、施設でもいじめられていた優太の心の支えは、母親の存在。いつか迎えに来てくれると信じていたのです。
ある日のこと、施設の職員の目を盗み、自分の資料ファイルを覗き見た優太は、母親の住所を入手。施設を飛び出し、母のもとへと向かいます。
しかし、そこにいたのは、自分を必要としない母親の、まさかの姿でした。
絶望に打ちひしがれた優太でしたが、ひとりの男から声を掛けられるんですね。軽トラで暮らすホームレス、坂本健二です。
詐欺まがいの行為で日銭を稼ぎ、好きな絵を書き。少年とホームレス男性の、ふたりの奇妙な共同生活が始まったのです…。

物語には、もうひとり重要な登場人物がいます。
それは、坂本を“おっちゃん”と慕う、女子高生の詩織です。
裕福な家庭に育ちながら、居場所が見つけられず、援助交際に手を染めている詩織。優太は詩織に対し、次第に恋心を抱いていくんですね。
そんな3人の葛藤のストーリー。
「生まれてきてよかったの?」
「生きている意味は?」
それがすべてタイトルに表れているのかなと。
出口を見つけたいというより、未だ、入口すら見つかっていない人も、世の中にはたくさんいるということでしょう。
惜しむらくは、ディテイルのリアリティ。
ボクは、よくここにこだわりますが、「あれ?」と違和感を感じた時点で、スクリーンの中から現実の世界に引き戻されちゃう。
ちょっとそれを感じるシーンが多かったのが残念です。★3つ。
『ぜんぶ、ボクのせい』公式サイト


『ブライアン・ウィルソン 約束の旅路』は、ザ・ビーチ・ボーイズの中心メンバーだったブライアン・ウィルソンの半生を描いたドキュメンタリー。

1942年、カリフォルニア州イングルウッドに生まれた、ブライアン・ウィルソン。
ふたりの弟、デニス、カールに、いとこのマイク・ラヴ、高校の友人のアル・ジャーディンを加えた5人で、1961年にザ・ビーチ・ボーイズを結成。「サーフィン・U.S.A.」や「グッド・ヴァイブレーション」などのヒットを飛ばし、カリフォルニア・サウンドを代表するグループへと成長していきます。
3作目のオリジナルアルバム『サーファー・ガール』からは、ブライアン自身がプロデュースを担当。当時まだ珍しかったセルフ・プロデュースというスタイルですが、これによって、彼の類い希なる音楽の才能が開花していきます。
スタジオミュージシャンの多用や、多彩なコーラス・アレンジ、民族楽器の使用など、ザ・ビートルズはもとより、日本でも桑田佳祐、山下達郎、坂本龍一など、世界中の多くのアーティストに、今なお多大な影響を与えていると言われます。
ところが、ブライアンは心を病んでしまうんですね。その後も、弟デニスの溺死、カールの病死と、不幸が彼を襲います。
さらなるエピソードや、立ち直りの原動力などは、映画で確かめてみて下さい。
インタビューが大嫌いなブライアン・ウィルソン。
この映画は、心を許した数少ない友人でもある、元ローリング・ストーン誌の編集者ジェイソン・ファインとの車中での普通のやり取りを、3年で70時間ほど撮影、収集。貴重なプライベート映像などを交え、9ヶ月をかけて再構成していったもの。
そこには、まさに素顔のブライアン・ウィルソンが映っています。
コメントを寄せたアーティストも、エルトン・ジョン、ブルース・スプリングスティーンを始め、豪華なメンバーがズラリ!
60年代、70年代を代表する夏の音楽と言えば、ザ・ビーチ・ボーイズ。
古きを知って、新しきを知る。是非、ご覧になってみて下さい!★4つ。
『ブライアン・ウィルソン 約束の旅路』公式サイト


『野球部に花束を』は、青春スポーツコメディ。

都立三鷹東高校に入学した黒田鉄平。
中学時代は野球部で頑張ってきたけれど、高校では青春を謳歌しようと、“高校デビュー”よろしく、髪を茶色に染めてきた鉄平。
ところが、クラスメイトには野球部志望が多く、噂を聞きつけた優しい野球部の2年生たちが教室にやってきて、「じゃあ、君たち、放課後を練習を見学においでよ」と、笑顔で勧誘。
言われた通り、グラウンドに行ったのが、悪夢の始まり。
ほぼほぼ有無を言わさず、入部確定。優しかった先輩はどこへやら。態度は一変し、あっという間に鉄平の茶髪は、中学時代と同じ、坊主頭へと戻っていたのです。
強豪校でもないのに、練習はキツい、上下関係はメチャメチャ厳しい。
ましてや監督は鬼のよう。
鉄平たちの高校生活やいかに…。

月刊少年チャンピオンに連載されていた、同名コミックの実写映画化。作者はクロマツテツロウ。
2つしか違わない3年生のあまりの怖さに、“顔面凶器”の異名をとる小沢仁志にしか見えないからと、小沢仁志がユニホーム姿で高校球児に扮したり、元千葉ロッテマリーンズの里崎智也が“野球部あるある”を伝えに何度も登場したり。いろんな仕掛けも効いています。
そんなこの映画を、ボクらは当たり前のように観て笑ってましたが、よくよく考えると、今はそんなことが許される時代じゃないんですよねぇ。
高嶋政宏演じる原田監督なんて、暴力行為で即アウトだし(笑)。
実際にはどうなんでしょ?今の高校野球部の実態も知りたくなりました。
現代の野球少年は、目を白黒させちゃうかも(笑)。
明るく、楽しい、青春コメディです。★3つ。
『野球部に花束を』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.8.05
『L.A.コールドケース』★★★★
『きっと地上には満天の星』★★★
『劇場版 ねこ物件』★★★
『コンビニエンス・ストーリー』★★★★
『チャーリー・イズ・マイ・ダーリン』★★★★
『長崎の郵便配達』★★★
『ロックン・ロール・サーカス』★★★★
(満点は★★★★★)


8月になりました。
コロナが増え、暑さも厳しくなり。体調管理には、ますます気をつけたいところ。
映画館は感染対策をしっかりと。もちろん冷房も効いてます。加えて、ほとんど声も出さないですもんね。
今、一番安全なレジャーかもしれませんョ。
さぁ、今週は7本です!


『L.A.コールドケース』は、90年代に勃発した東西人気ラッパーの殺人事件を追う、刑事と記者のクライムサスペンス。

HIP HOP全盛の90年代。
主流はギャングスタ・ラップになり、リアルに人を撃ったことがないと、いっぱしのラッパーにはなれなかった時代。
そんな中で、東西抗争なるものが勃発します。
まずはアメリカ西海岸で火が着いたギャングスタ・ラップ。リードしたレーベルはデス・ロウ。
それに対して東海岸では、バッド・ボーイというレーベルが立ち上がり、互いが互いを激しく罵り合うという構図が出来上がってしまいます。
96年9月に西の大物ラッパー、2PACが何者かに暗殺されてしまいます。
すると翌97年3月、今度は東の顔、ノトーリアス・B.I.G.が凶弾に倒れたのです。
互いの報復がささやかれたものの、時は流れ、あれから18年。
未だ解決されない両者の暗殺事件を追っていた執念の刑事ラッセル・プールは、同様に独自の取材を重ねていた記者のジャック・ジャクソンと共に、事件の真相に迫ろうとするのですが…。

あらすじというより、抗争の説明になってしまいましたが、プールもジャックも、すべてを捨て、何かに憑りつかれたかのようにこの事件を追ってきたふたり。
ラッセル・プールは実在の人物で、映画もおそらく事件の核心に迫っていると考えてよさそう。
当時、ブラック・ミュージック好きだったボクにとっても、事件の衝撃は大きく、映画はフィクションとはいえ、今、その詳細を知ることが出来たことには、ちょっと感じ入るものがあります。
ストリートの定義も日本とは違っていて、当時、日本でも“腰パン”なるものが流行ったのを覚えてますか?デニム等のパンツを、わざと下のほうで履くスタイル。
あれは、アメリカではあまりに犯罪者が多く、“大は小を兼ねる”で、囚人服はみんな大きく作られていたと。だから、身体が大きくない囚人は、紐をぎゅっと絞めても下がってきちゃう。
その名残りというか、「俺は塀の中にいたんだぜ」と、収監されていたことをアピールするギャングのスタイル。ファッションひとつとっても、真似事の日本とは意味が違うんだと教えてもらったことがあります。
黒人が、貧困から抜け出すためのひとつの手段がラッパーになること。でも、その裏にはこうした命のやり取りもあったということですよね。
ラッセル・プールにはジョニー・デップ、ジャック・ジャクソンにはフォレスト・ウィテカー。見応え十分です。★4つ。
『L.A.コールドケース』公式サイト


『きっと地上には満天の星』は、NYの廃トンネルで暮らす母と娘の物語。

ニッキーと5歳の娘リトル。
ふたりが生活していたのは、NY地下鉄のさらに下に広がる廃トンネル。ここに貧しい人たちのコミュニティが出来上がっていたのです。
ニッキーは日銭を稼ぎに地上へと上がりますが、リトルはまだ外の世界を知りません。
ニッキーは言います。
「地上へ上がるのは、背中に翼が生えてから。それまではここが安全」。
しかし、不法居住者である彼らを退去させようと、当局の職員が何度もやってきます。
いよいよ無理だと悟った時、ニッキーはリトルを連れて地上へと上がります。
まばゆい光、耳をつんざくような騒音、見たこともない数の人、人、人。
リトルとっては、すべてが衝撃だったのです。
ふたりが落ち着ける場所を探すニッキーでしたが、一文無しの母娘に、安息の場所は見つかりません。
無賃乗車の地下鉄車両。ふと見ると、リトルがいません。ホームにリトルを残したまま、電車は無情にも動き出してしまったのです…。

実在した地下コミュニティへの潜入記「モグラびと ニューヨーク地下生活者たち」を原案とし、セリーヌ・ヘルド&ローガン・ジョージが監督を手掛けた作品。
ヘルド監督自身が、ニッキーを演じています。
ニッキーは薬物におぼれるシングルマザー。収入を得ても、同じ地下に暮らす売人のジョンから薬を買ってしまいます。
それでも人一倍、娘のリトルを愛していて、何とかしなくちゃと思っているけれど、抜けられない貧困という現実。
リトルと一緒に地上に逃げ上がった後、コールガールの元締めのレスを頼るのですが、なんとリトルが巻き込まれそうになり、慌ててそこを飛び出します。
母と娘の行く末は、どうぞ、あなた自身で確かめて下さい。
とはいえ、これもまだ人生の通過点。その先に続く物語の結末は、誰にもわかりません。★3つ。
『アドレノクロム』公式サイト


『劇場版 ねこ物件』は、テレビドラマの劇場版。

クロとチャー、2匹の猫と暮らす二星優斗は30歳。
幼い頃に両親を亡くし、育ての親となった祖父も他界。優斗の家は、猫付きのシェアハウスになっていました。
優斗以外に、この“二星ハイツ”に暮らしていたのは、4人の猫好き男子。ところが、みんな夢を叶えるため、それぞれに旅立って行ったため、優斗はひとり暮らしに。
今のままでもいいかなと思っていた優斗でしたが、ふと“二星ハイツ”を再びシェアハウスにしようと決意。全国に宣伝するため、苦手なSNSに悪戦苦闘していると、昔の仲間が戻ってきます。
司法試験合格を目指している修、プロボクサーになった丈、役者の夢を叶えた毅、そして台湾で人気インフルエンサーになったファン。
みんなが優斗のために、力を貸しに来てくれたのです。
でも、なんでまたシェアハウスを始めようとしたのか?
そこには優斗のある狙いがあったのでした…。

テレビドラマのメンバーが再集結したそうで、そちらを楽しんでいた人にはうれしい映画かもしれませんね。
もうひとり、このシェアハウスを管理する不動産屋に勤める有美という女性も、この物語の大切な登場人物。
SNSが話題となり、入居希望者が殺到。かなりの数の人の面接をやるのですが、そのあたりにリアリティがない。
身近なテーマなんだから、あまり作り込まずに日常を描いたほうがよかったんじゃない?というのが、個人的な感想です。
正直、★は2つにしようかなと思ったのですが、猫がかわいくて(*^.^*)。
猫ちゃんたちに1つプレゼントして、★3つ。
『劇場版 ねこ物件』公式サイト


『コンビニエンス・ストーリー』は、“異世界アドベンチャー”。

売れない脚本家の加藤と女優のジグザグは恋人同士。
ふたりが暮らす部屋には、ジグザグの愛犬ケルベロスがいます。
加藤は、映画プロデューサーから久々に依頼を受け、パソコンに向かっていましたが、コンビニに買い物に出ている間に、ケルベロスが打った原稿をすべて消してしまったんですね。
トラックをレンタルして、ケルベロスを山奥に捨ててしまう加藤。
しかし、冷静になった加藤が、ケルベロスを探しに再び山奥に向かうと、車が故障してしまいます。
ふと見ると、目の前に1軒のコンビニエンスストアがありました。
店の名は“リソーマート”。
怪しげなこのコンビニ、実は異世界への入口だったのです…。

面白かったですョ。
最初から不思議な感覚の映像で、サイケな色彩が印象的。例えば、コンビニに買いに行くドッグフードの銘柄が“犬人間”。何それ?って感じでしょ(笑)。
山奥でトラックが動かなくなる。すると、“リソーマート”のオーナー夫婦が「泊まっていきなさい」と手を差し伸べてくれるのですが、オーナーの妖艶な妻の恵子が加藤を誘惑してきます。
一方、旦那の南雲は、猟奇的な雰囲気の男。恵子に手を出したのがバレたら、何をされるかわかったものじゃない。
さぁ、この先、加藤はどうなるのでしょう?というお話。
とっ散らかりそうで、きちんと着地するから、構成は見事だなと。
加藤に成田凌、恵子に前田敦子、南雲に六角精児。ちょっと映像が浮かぶ顔ぶれですよね(笑)。
ホラー的要素も見え隠れ。この夏、密かにオススメの1本です。★4つ。
『コンビニエンス・ストーリー』公式サイト


『チャーリー・イズ・マイ・ダーリン』は、ザ・ローリング・ストーンズ、1965年のアイルランド・ツアーを記録した音楽ドキュメンタリー。

62年にロンドンで結成し、63年にシングル「カム・オン」でデビューした、ザ・ローリング・ストーンズ。
65年といえば、5月にリリースしたシングル「サティスファクション」が、7月、初の全米No.1に輝いた年。
このアイルランド・ツアーは、その年の9月3日と4日ですから、乗りに乗っていた時期ということになりますか。
それでもデビューからまだ数年。初々しさも垣間見え、メンバー同士の仲の良さや、曲作りのプロセス、現状に対し本音を語るシーンなど、実に貴重な映像となっています。
ストーンズ初の公式フィルムとして、2012年にイギリスで公開になったのですが、その2Kレストア版としての劇場公開。
昨年8月24日にドラムのチャーリー・ワッツが亡くなり、今年7月12日に結成60周年を迎えたストーンズの、記念碑的2作品の同時公開。
ちなみに、あとで紹介する『ロックン・ロール・サーカス』と続けての鑑賞は可能なようですが、チケットはそれぞれ別々に必要なようです。
詳しくは添付の公式サイトで、ご確認下さい。★4つ。
『チャーリー・イズ・マイ・ダーリン』公式サイト


『長崎の郵便配達』は、ドキュメンタリー。

イギリス空軍のエースパイロットで、退官後はイギリス王室に仕えた、ピーター・タウンゼンド大佐。
マーガレット王女と恋に落ちるも、周囲の猛烈な反対で断念。あの『ローマの休日』のモデルになったと言われている男性です。
その後、ジャーナリストとなり、世界中を飛び回っていたタウンゼンド氏が来日。長崎で出会ったのが谷口稜曄(すみてる)さん。
谷口さんは、郵便配達の途中で被爆。16歳でした。
背中は焼けただれ、1年9ヶ月もの間、うつぶせの状態で、併せて3年7ヶ月もの入院生活を余儀なくされます。退院後は、核廃絶運動に尽力した谷口さん。
タウンゼンド氏は谷口さんを取材。「私は戦争で人々を殺した。物書きとして伝えなくちゃいけないことがある」と、1984年に一冊の本を出版します。
それが「THE POSTMAN OF NAGASAKI(長崎の郵便配達)」。
この映画は、タウンゼンド氏の娘イザベルさんが、2018年の夏に来日した際、長崎を訪れ、父の足跡を辿ったドキュメンタリー映画。
娘の知らなかった父のこと、核の恐ろしさ、戦争の愚かさを改めて感じながら、イザベルさんの心の中に、今までとは違った感情が沸き上がったと語ります。
加害者も被害者もない。実は、すべてが被害者。
それが戦争だと思いませんか?★3つ。
『長崎の郵便配達』公式サイト


『ロックン・ロール・サーカス』は、ザ・ローリング・ストーンズがホスト役を務めた、1968年撮影の音楽映画。

1968年12月10日、11日の2日間、ロンドン北部のTVスタジオにサーカス小屋のセットが組まれ、ロックとサーカスの融合という、前代未聞のショーが行われました。
ホスト役は、ザ・ローリング・ストーンズ。
ゲストが豪華で、中でも注目なのが、ザ・ダーティ・マックというバンド。
聞いたことがないという人も多いかと思いますが、これはまだザ・ビートルズのメンバーだったジョン・レノンを中心に、この『ロックン・ロール・サーカス』のためだけに作られたスーパーバンド。メンバーは他に、エリック・クラプトン、ミッチ・ミッチェル、キース・リチャーズ!
夢のようなバンドの、最初で最後のパフォーマンスを見ることが出来ます。
ストーンズも6曲を披露。しかし、この映画は長きに渡りお蔵入りしていたのです。
「諸事情で」と資料にはありますが、マスコミ用に添付されている別の資料には、「ストーンズのメンバーが自分たちの演奏に満足していなかったため」とありました。
結果、28年間封印は続き、1996年に公開。その4Kレストア版が今作で、日本の劇場公開としては初となります。
この撮影の半年後に、リーダーだったブライアン・ジョーンズが急逝。これがストーンズのギタリストとして最後のパフォーマンスとなりました。
ジョン・レノンとミック・ジャガーのユーモアたっぷりのやり取りや、6テイクも重ねたという「悪魔を憐れむ歌」など、貴重で観るべき映像が満載。こちらも、ファン必見です。
公式サイトは『チャーリー・イズ・マイ・ダーリン』と同じですが、改めて添付しておきますね。★4つ。
『ロックン・ロール・サーカス』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.7.29
『愛ちゃん物語』★★★
『アドレノクロム』★★★
『1640日の家族』★★★
『女神の継承』★★★
(満点は★★★★★)


ありがたいことに、たくさんの映画試写のご案内を頂戴しています。
出来る限り拝見して、紹介したいなと。
ボクが紹介する作品群は、お気づきの方もいらっしゃると思いますが、メジャーじゃないものが多いんですよね。
でも、そこに“宝探し”の楽しさがあります。“原石”と言い換えてもいいかな。
関心を抱いたら、是非ご覧になってみて下さい!
さぁ、今週は4本です!


『愛ちゃん物語』は、ポップなヒューマン・コメディ。

清水愛、16歳。
仕事人間で厳格な父、鉄男との2人暮らしで、門限は18時。必ず写メ付きLINEで、帰宅を伝えなければなりません。
学校の友だちと遊ぶこともなければ、おしゃれにも無関心。
そんな愛ちゃんが、不注意から、道で人に激突してしまいます。
ぶつかった相手は、トランスジェンダーの聖子さん。
災い転じてなんとやら。仲良くなった聖子さんが、おしゃれも、お化粧も、ショッピングの楽しさも、愛ちゃんにたくさんの刺激を与えてくれるんですね。
門限になると一旦帰宅して、LINEを送ってまた外出。
「自分がこれだと思ったら、人からどう思われてもやるべきなのよ」
聖子さんは言います。
しかし、そんな聖子さんには、隠された秘密があったのです…。

ポップでカラフルな映画です。
聖子さんの他にも、何かと愛ちゃんにちょっかいを出してくる永井結という転校生の男の子もいて。
モノクロだった愛ちゃんの日常に、パッと明るい色が差し込み、充実した毎日を送るようになるのですが、聖子さんの秘密を知り、父・鉄男にも気付かれ。
せっかく手にした愛ちゃんの“リア充”はどうなってしまうのでしょうか…というお話。
正直、かなりのB級感は否めませんが、これをターゲットである若い層が観たら「エモ〜い」となるのかもしれません。
なんて、流行りの言葉を打ってるだけで赤面しそうなオジサン層に響かなくても、ねっ(笑)。
愛ちゃん役の坂ノ上茜は、ボクの大好きなBS―TBS『町中華で飲ろうぜ』にレギュラー出演。気取らず、身近に感じることができる、今どき珍しいタイプのタレントさんです。
そんな彼女の映画初主演作。応援してあげたくなります。★3つ。
『愛ちゃん物語』公式サイト


『アドレノクロム』は、エクストリームの配給作品。

イラク戦争から帰還した元兵士のウエスト・ウォーカー。
一攫千金を夢見て、カリフォルニア州のヴェニスにやってきます。
すぐさまビキニの女性に
誘われて、40ドルで強烈なドラッグ入りのドリンクを飲まされて、ブッ飛ぶウエスト。
彼女たちは、地元のギャング団“ヴェニスビーチ・ギャング”のリーダー、チャーリーの下で働く女性たちでした。
ウエストがバイクで走っていると、トラブルに巻き込まれている女性を発見、助けてあげるんですね。彼女の名はペニー。
ペニーもまた、チャーリーの息のかかった女性でした。
ペニーと恋仲になり、チャーリーとの距離が近づくウエストでしたが、同時に彼らの扱うドラッグのヤバさを知ることになります。
それはアドレノクロムといい、原材料は人の臓器や血液。
ヴェニスビーチ・ギャングは、アドレノクロムを製造するために、ビーチに来る人々を次々と殺していたのです…。

“伝説の内臓ドラッグ”と呼ばれるアドレノクロム。
世界の一部セレブが、不老不死のサプリメントとして使用し、中には幼い子どものそれが使われている、なんて都市伝説があるそう。
いかにもエクストリームが扱いそうなテーマですよね(笑)。
それを映画の題材として使い、映像にもかなりの加工を加えて、観ている人もトリップしているかのごとき、バーチャルドラッグ・ムービーになっています。
意外や、戦争や政治に対するアンチテーゼも隠れたスパイスに。エンドロールに被される言葉たちが、社会を皮肉ってます。
82分もちょうどいい長さかな。最後まで席を立たないようにして下さい。★3つ。
『アドレノクロム』公式サイト


『1640日の家族』は、実話に基づく、フランスのヒューマンドラマ。

アンナとドリスは仲のいい夫婦。
ふたりにはアドリとジュールという、2人の男の子がいましたが、あえて里子のシモンを家族として受け入れることを決めるんですね。
18ヶ月でやってきたシモンは、アドリやジュールと、実の兄弟のように仲良く遊んで育ちます。
それから4年半。
月に1度、面会交流という形でシモンに会っていた実父のエディが、シモンとの生活を再開したいと、センターに申し出たのです。
里子制度の本来の主旨は、いつかそんな日が来るまで、預かった子を健やかに育てること。
ママと呼んでくれていた、あの小さなシモンがいなくなる。
アンナの心は大きく揺れ動くのでした…。

1640日。それは、シモンがみんなと共に暮らした日数。
エディがシモンと暮らしたいと言ってから、センターはアンナに徐々に距離を置くように指導をします。
「もう、ママと呼んじゃいけないのよ」。
シモンには、当然理解できません。
お兄ちゃんたちとも別行動を取らされ、エディとの時間が長くなるシモン。
シモンにとって、何が幸せなのか。何が今、本当に必要なのか。
正解なんて、あるはずがない。
でも、映画では、一応の答えを提示しています。
それはファビアン・ゴルジュアール監督の両親が
、監督が子どもの頃、生後18ヶ月の里子をとった経験があるから。
もうひとつ、福祉関係者へのインタビューで聞いた父子の話も、この映画の核になっていると言います。
だからと言って、答え=正解ではないので、誤解のないように。
おそらく、それぞれの登場人物の立ち位置で見たら、すべて感じ方は違うはず。
結末はあるのに、ストンと腑には落ちない。
そんな不思議な感覚の残る作品だと思います。★3つ。
『1640日の家族』公式サイト


『女神の継承』は、タイ・韓国合作映画。

タイ東北部の、とある村。
村人たちは、この村には聖霊がいると信じていて、代々、霊媒師の職を担う一族がいたのです。
現在の霊媒師はニムという女性。TVクルーが彼女のドキュメンタリーを撮りたいと、現地に向かいます。
ニムにはバヤンという聖霊が憑依しているというのですが、本当はバヤンが憑依するはずだったのはニムではなく、姉のノイ。しかし、ノイは、それを頑なにを拒み、キリスト教徒になっていたのです。
そのノイには子どもがふたりいましたが、息子はバイク事故で死亡。つい最近、夫も亡くし、若く美しい娘のミンだけが残ります。
そんなミンに異変が起こるんですね。
まるで人格が変わったかのように凶暴になったミン。バヤンが次の憑依先を決めた時に起きる現象だと言います。
カメラはミンを追いかけ始めます。
ミンも母同様、霊媒師にはなりたくないのですが、奇怪な出来事が次々とミンを襲います。
ニムはミンを助けようとするのですが、強大な力の前に、為す術もなかったのです…。

韓国の映画監督で脚本家のナ・ホンジンが原案とプロデュースを、タイのバンジョン・ピサンタナクーンが監督と脚本を務めた、韓国とタイの合作映画。
まるでドキュメンタリーのように物語は進み、タイの自然の風景が逆に不気味で、実話なんじゃないかと錯覚させるほど。
憑依の物語ですから、いわゆるエクソシストのアジア版。そこには様々な怨念が渦を巻き、関わる人すべてを飲み込んでいくのです。
タイの村という設定が、今までになかった恐怖を生み出します。
実はこれ、R18+。
暑い夏にピッタリの1本かもしれません。★3つ。
『女神の継承』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.7.21
『あなたがここにいてほしい』★★★
『島守の塔』★★★★
『セルビアン・フィルム』★★★
(満点は★★★★★)


トム・クルーズ主演の映画『トップガン マーヴェリック』が、大ヒット。
何度も観に行くことを“追いトップガン”というそうですね(笑)。
今はいろんなタイプの劇場があって、270度シアターとか、座席が動いたり、風が吹いたりする演出もある。劇場を変えるだけで、また新たな発見や感動があると言います。
いずれにしても、大きなスクリーンで観る映画のよさを再認識してもらって、これまで以上に映画館に足を運んでもらえるようになるといいですね!
さぁ、今週は3本です!


『あなたがここにいてほしい』は、実話に基づいた中国の恋愛映画。

リュー・チンヤンは、同じ高校に通うリン・イーヤオに一目惚れ。
リューはリンにラブレターを渡すのですが、それが先生にバレてしまいます。
校内放送で反省の弁を述べれば許してもらえるはずでしたが、リューはこれを好機とリンに告白。それが理由で、リューは退学に。しかし彼の思いは、しっかりとリンに届いたのでした。
その後、リューは専門学校へ、リンは大学に進学。その間も、ふたりは愛を育みます。
結婚し、家を持つため、リューは大型ブルドーザーのオペレーターとして、またマンション建設の現場監督として、休むことなく働き続けます。
ところが、まっすぐ過ぎる性格のリューは、手抜きや不法行為を一切受け入れなかったため、上層部とぶつかり、仕事を失ってしまいます。
そんな時、高校時代からの親友、ダーチャオから大きな仕事の話が舞い込みます。職人たちを集めたリューでしたが、なんとダーチャオがお金を持ち逃げしてしまうんですね。
マイホームを持つどころか、多額の借金を背負うことになったリュー。
リューは建設業を営む叔父に相談し、借金の肩代わりをしてもらう代わりに、新疆で開発中の風力発電所に向かうことになります。しかしこれは、過酷で、果てしのない激務だったのです…。

10年間、3650日に渡る愛の物語。
中国の“ドウバン”というSNSサイトに投稿された実話をもとに作られたそう。
まさに愚直という言葉がピッタリのリュー。
一方のリンも、一度誓った愛は貫き通すタイプ。母に反対され、事業を成功させたイケメンの幼馴染みが現れても、リューへの思いは変わりません。
しかし、あまりにもスレ違いが多過ぎる。運命のイタズラと呼ぶには、ツラく厳しい出来事が、何度も何度もふたりに降りかかります。
突然ですが、ボクはこういう女性がいいなぁ(笑)。素敵じゃないですか、一途って。
言ってみれば、“昭和のラブストーリー”。今の日本の若者たちが観たら、どう感じるのでしょう。興味があります。
中国では興行収入65億円を突破。中国でマイホームを持つのは大変なことらしく、そのあたりも中国の若い人たちには、リアルに響いたようです。
絶対に幸せになって欲しいと思って観てました。結末は、ご自身の目で確かめて下さい。
エンディングの曲が、物語の締め。席を立たず、歌詞をちゃんと追って下さいね。★3つ。
『あなたがここにいてほしい』公式サイト


『島守の塔』は、太平洋戦争末期の沖縄戦を描いた作品。

1945年の沖縄。
太平洋戦争は熾烈を極め、遂に沖縄にアメリカ軍が攻め込んでくるとの噂が広まります。
それでも、人々の多くは、日本の精鋭部隊が米軍の沖縄上陸を阻止し、神風が吹いて、自分たちが勝つと信じていたのです。
県の職員である比嘉凛も、そんなひとり。女学生の妹・由紀も、大好きなお姉ちゃんの言うことを素直に聞き入れていました。
しかし、ある日のことです。突然、飛行機の轟音がするや、爆撃音が響きます。凛と由紀が慌てて外に出ると、家族が皆、血まみれになって、息絶えていたのです。
緊迫した空気の中、司令官は自分の知り合いで、気骨ある男を新たな沖縄の県知事として迎えるんですね。
彼の名は、島田叡。妻と娘ふたりを兵庫県の神戸に残し、命を受けて沖縄に赴任します。
凛は島田付きの任を拝します。
警察官僚で、沖縄県警察部長の荒井退造も、信念の人。栃木県宇都宮の出身で、島田とは共に野球で繋がっていました。
戦況がさらに悪化し、若き男性は鉄血勤皇隊として、女学生はひめゆり学徒隊として徴用されるようになります。
島田と荒井は、少しでも県民の命を救おうと、女性と子どもを中心に疎開させようと試みますが、船は魚雷により撃沈。
食糧は底を尽き、沖縄は“行くも地獄、残るも地獄”の地になってしまったのです。
捕虜になるぐらいなら、自決せよ。
そんな教育を受けて育った凛に、島田は言います。
「命(ぬち)どぅ宝、生き抜け!」と…。

8月15日、終戦の日が
今年ももうすぐやってきます。
激しい地上戦となり、12万2278人もの犠牲者を出した沖縄の終戦は、6月23日と言われています。そのうち9万4000人が一般の住民だったそうです。
「自分が受けなければ、誰かが行かねばならぬ」と沖縄県知事を拝命した島田叡。荒井退造も、国の官僚でありながら、「御国に命を捧げてこそ日本国民」という当時の風潮とは真逆の主張をし、軍とぶつかります。
「生き抜け」と民衆を導いたふたりの物語。
映画のタイトルにもなっている島守の塔は、糸満市摩文仁の平和祈念公園にあるそうです。
いつの世も、戦争は悲惨です。人間は争わずにはいられない生き物なのでしょうか。
今のこの平和が、たくさんの方々の犠牲の上に成り立っていることを忘れず、危うくても、壊すことなく、平和な世の中を継続できるよう努めることが、先人への恩返しのような気がしてなりません。★4つ。
『島守の塔』公式サイト


『セルビアン・フィルム』は、2010年のセルビア映画の4Kリマスター無修正完全版。

ミロシュは、引退したポルノ映画のスター俳優。
今は妻のマリアと、幼い息子のペタルとの3人で、静かに暮らしていました。
しかし、蓄えも減り、お金が必要になってきた時、かつての共演女優だったレイラから連絡が入ります。
芸術としてのポルノを撮影したい人がいて、撮影はセルビアだが、マーケットは世界。報酬はとんでもなく高額だと言うのです。
マリアにも相談し、悩んだ末、仕事を受けることにしたミロシュ。
しかし、それは拷問も殺人もある、ブラックマーケット向けのとんでもないフィルム。
気づいたミロシュでしたが、時すでに遅し。彼は悪夢の扉を開いてしまったのでした…。

「あらゆる“鬼畜映画”を凌駕し、映画史上最も卑劣で残酷な描写の連続で、人でなし映画の金字塔とも呼ばれる悪名高き傑作にして超問題作!」
これが、公式サイトにある、この映画の謳い文句です。
ふぅ…(笑)。
2010年のセルビア映画。日本でも2012年に一度公開になっていますが、今回は無修正の完全版。
ただ、ストーリーはきちんと出来ていて、その描写に情け容赦がないというか。映画が進むに連れ、目を覆いたくなるシーンが増えていきます。
陳腐な映画ではないので、★はそれなりに打ちますが、お薦めするかと聞かれたら、う〜ん…(笑)。
映倫区分はR18+。
言うまでもありませんが、あくまで映画の世界です。現実社会では、決してあってはならない話だとわかってご覧になって下さい。★3つ。
『セルビアン・フィルム』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.7.15
『バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー』★★★★
『Blue Island 憂鬱之島』★★★
『ボイリング・ポイント 沸騰』★★★
『ほとぼりメルトサウンズ』★★★★
『炎のデス・ポリス』★★★★
(満点は★★★★★)


どうでもいい話ですが、タイトルのあたまが、不思議と同じ行になることが多く。
例えば、先々週は『マーベラス』、『マルケータ・ラザロヴァー』、『モガディシュ 脱出までの14日間』で“マ行”でしたが、今週は“ハ行”。何故だか重なることが多い。
50音順に並べる時に、一瞬迷うんですよねぇ(^^;
とってもちっちゃな、個人的“あるある”でした(笑)。
さぁ、今週は5本です!

『バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー』は、フランスのコメディ・アクション。

セドリックは売れない役者。
父親は厳格な警察署長で、いつまでも夢を見ているんじゃないと、セドリックの仕事に大反対。
そんなセドリックが、ひょんなことから映画の主役を得ます。
タイトルは『バットマン』ならぬ『バッドマン』。
バッドスーツに身を包み、バッドモービルに乗ってを悪の権化“ピエロ”を倒す、勧善懲悪のヒーローもの。
セドリックは体を鍛え抜き、武道も身につけ、クランクインを待ちます。
撮影が始まったある日のこと、妹のエレオノールから、父親が倒れたと連絡が入り、気が動転したセドリックは、バッドスーツのまま、バッドモービルを借りて、病院に一目散。
すると途中で事故を起こし、記憶を一切なくしてしまうんですね。
周りの状況から、自分が本当のスーパーヒーローだと勘違いするセドリック。ドタバタ劇の幕開けです…。

いやぁ、面白かったです!久々に声を上げて笑っちゃいました(笑)。
セドリックの親友のアダムとセブが、これがまた変なヤツらで。
アダムはセブのお母さんと付き合っていて、セブの前でイチャイチャする。そんな気持ち悪い場面は見たくないセブ。
でも、セブはセブで、新薬の治験のアルバイトの副反応なのか、幻覚をよく見る。
彼らの珍妙な行動が、おかしくて、おかしくて。
フランス映画でこんなに笑えるとは思ってもいませんでした。
笑いのツボは人それぞれでしょうが、この映画、相当バカバカしいので、きっとあなたも笑えるはず。
笑う門にはなんとやら。とにかくご覧になってみて下さい!★4つ。
『バッドマン 史上最低のスーパーヒーロー』公式サイト


『Blue Island 憂鬱之島』は、香港の自由を守ろうと闘う人々の姿を追った作品。

中国本土で生まれ、自由を求め、ふたりで海を泳ぎ、命懸けで香港に辿り着いた、現在74歳のチャン・ハックジーとその妻。
1989年、中国本土の学生たちの抗議運動を支援しようと北京に渡るも、天安門事件の惨劇を目の当たりにし、茫然自失として香港に戻ったケネス・ラム、54歳。
16歳の時、まだイギリスの植民地だった香港で、共産主義寄りの文芸誌を配布し投獄された、71歳のレイモンド・ヤン。中国を愛していたはずの彼が、今では「国を愛するには、まず国があなたを愛さなければならない。国があなたを愛さないのならば、どうして愛し返すことができるだろう」と語るようになっていました。
そんな3組の激動の人生を振り返りながら、自由の大切さを考えます。
本人たちの今に加え、若き日の彼らを香港の若者が演じるという、ドキュメンタリーとフィクションが混合した作品。
ただ、演劇の部分にも決められた台詞のない場面が多く、出演者が本音で語り、時には本人と本人役の若者が意見を交わすシーンもあります。
実は撮影後、民主化運動により、当局に拘束されている出演者もたくさんいるそうです。
“Blue Island”と聞けば、青くキレイな海に囲まれた島をイメージするかもしれませんが、この“Blue”は、サブタイトルにもあるように“憂鬱”の意。
我が国でも、安倍元総理が凶弾に倒れるという、民主主義の根幹を揺るがすような事件が起きてしまいました。
国や国民、政治の在りようについて、しっかりと考えなくてはならなくなった昨今。こういう映画から、自由のありがたさを学ぶ必要があるかもしれませんね。★3つ。
『Blue Island 憂鬱之島』公式サイト


『ボイリング・ポイント 沸騰』は、ロンドンの人気レストランの一夜を切り取ったワンショット・ムービー。

アンディ・ジョーンズは、ロンドンにある人気レストランのオーナーシェフ。
ところが、彼には問題が山積みでした。あまりの忙しさに心身は疲弊、妻子とは別居中で、アルコールに頼る毎日だったのです。
1年で最も忙しいとされる、クリスマス前の金曜日だというのに、開店前の店内は衛生管理検査の真っ最中。
遅刻してやって来たアンディは、評価が下がったことを知り、原因を作ったスタッフを怒鳴り散らします。
副料理長のカーリーになだめられ、気を取り直して店を開けるアンディ。
しかし、予約なしにやってきたのが、タレントでライバル・シェフのアリステア・スカイ。それも、有名なグルメ評論家のサラを連れてきたのです。
食材の手配がままならず、準備が十分とは言えないまま店を開けたのに、これじゃサラの酷評は確定で、店の評判が下がってしまうとアンディはまたもイラつきます。
呑気な一部のホールスタッフを除き、キッチンのピリピリした雰囲気は、まさに沸騰直前だったのです…。


95分の作品なんですが、なんと、編集もなく、CGも不使用。カメラを回しっぱなしの、“驚異の”ワンショット映画です。
料理人も、パティシエも、ソムリエも、バーテンダーも、レセプションも、ホールスタッフも、皿洗いも、みんなそれぞれに抱えているものがある。
来店した客もしかり。
あからさまに人種差別の白人男性もいれば、薄っぺらいSNSのインフルエンサーもいる。一方で、今日この場でプロポーズを考えているカップルもいる。
一種の“戦場”で起こる人間ドラマを、一気に見せていきます。
次にどうなるのか、今度は誰をカメラが追うのか。
料理は美味しそうですが、食欲は湧かないかもね(笑)。
あっという間の1時間半。スパイスの効きすぎた、人生のスペシャルコースをご堪能あれ。★3つ。
『ボイリング・ポイント 沸騰』公式サイト


『ほとぼりメルトサウンズ』は、4人の男女の奇妙な共同生活のお話。

23歳のコト。冬休みを使って、今は空き家になっている祖母の家を訪れると、庭に段ボールハウスが建っているではありませんか。
住みついていたのは、年老いた男性。
タケと名乗るその老人は、ここを拠点に生活の音を集めていると言います。
集音マイクにヘッドホンという出で立ちで、町の音を集めては、カセットテープを土の中に埋めるタケ。
コトが何をしているのか尋ねると、「これは音の墓だ」と言います。
タケの奇妙な行動に興味を抱いたコトは、寒空に段ボールではと、タケを家に上げ、作業を手伝い、一緒に暮らし始めるんですね。
そこに地上げの不動産屋がやってきます。
このあたりを再開発するからと、コトに立ち退きを迫ってきたのです…。

あったかい映画でした(*^^*)
これが長編デビューとなる東かほり監督は、「このご時世で、生きること、死ぬことについて考えることが多くなりました」と。確かに、そんなお話です。
ムーンライダーズの鈴木慶一がタケの役。いい意味で枯れていて、妙なこだわりを持ち、かつ、ちょっぴりアーティスティックな老人像にぴったり。
コトには、ミュージシャンでもあるxiangyu(シャンユー)が扮しています。
ネタバレにならない程度に話すと、不動産屋の若手社員の山田と浩子が、何度もコトの家に足を運ぶうちに、彼らもまた居ついちゃうんですョ。
ひと冬の、まるで疑似家族の物語。
生きづらい今の世の中、何が人を繋ぐのか、人は何を求めているのか。本当の幸せとは?癒しとは?
答えまでは見つからないかもしれないけれど、頭の片隅に、小さな電球はパッと灯ると思いますョ。
いい映画でした。ボクは好きです。★4つ。
『ほとぼりメルトサウンズ』公式サイト


『炎のデス・ポリス』は、砂漠の警察署で繰り広げられるバイオレンス・アクション。

アメリカ・ネバダ州の砂漠地帯にポツンとある、ガンクリーク警察署。
ある夜のこと、暴力事件を起こした男が連行されてきます。
この男、実はテディ・マレットという詐欺師で、マフィアのボスの怒りを買い、その身を隠すためにわざと騒ぎを起こし、収監されたのです。
ところが、テディを狙うボブ・ヴィディックという凄腕の殺し屋が、泥酔したふりをして、同じ留置場にやってきます。
彼らを牢屋にぶちこんだヴァレリー・ヤングは、新人ながら心身共にタフな女性警官。ふたりの争いに巻き込まれそうになりますが、そこは機転を利かせてなんとか回避。
ところがです。マフィアのボスは、とんでもないサイコパスの、アンソニー・ラムという殺人鬼を送り込んできたのです。
ガンクリーク警察署は、警官たちの血で真っ赤に染まってしまいます。
そして、アンソニーの狂気が、ヴァレリーのすぐ近くにまで迫っていたのです…。

面白かったです。
警察署の中だけという、いわゆるワンシチュエーションものですが、いろんな要素がふんだんに散りばめられていて、よく練り上げられたストーリーだと感心しちゃいました。
署内の人間関係とか、汚職警官とか、いろいろあるわけですよ。
テディもボブもアンソニーも、なんならヴァレリーまでもが、メーターが振り切っちゃってる感じ。
公式サイトの画像を見てもらえば、なんともB級感満載ですが(笑)、いやいや、最後の最後までハラハラドキドキ楽しめます。
暑さにイライラしてる人は是非!★4つ。
『WANDA ワンダ』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.7.7
『神々の山嶺(いただき)』★★★
『こちらあみ子』★★★
『TELL ME hideと見た景色』★★★
『ビリーバーズ』★★★
『WANDA ワンダ』★★★
(満点は★★★★★)


6月末までに観させてもらった映画は97本。
このペースで行くと、自分史上最高の年間視聴本数を更新するかも?
ありがたいことです(^-^)
オンラインで、時間を選ばずに観られるのが一因でしょうか。試写室での試写会だと、都合がつかずに諦めたものも、少なからずありましたからね。
その分、しっかりと伝えないとですね!
さぁ、今週は5本です!

『神々の山嶺(いただき)』は、フランス制作のアニメ映画。

雑誌カメラマンの深町誠。
彼がエベレストの取材で、カトマンズを訪れた際、地元の男性から、「登山家マロリーのカメラ。ホンモノだぜ」と声を掛けられます。
ニセモノに決まってるだろと相手にしなかった深町でしたが、外に出ると、そのカメラを強引に奪い取ろうとしていた日本人がいました。
深町は彼を見て驚きます。なぜなら、その日本人は、“孤高のクライマー”として知られる羽生丈二だったから。
消息を断って、何年にもなる羽生がこの町にいた。そして、彼がこだわるのなら、あのカメラはホンモノなのかもしれないと深町は考えるようになります。
登山家ジョージ・マロリーとは、1942年にエベレストにアタックしたイギリス人。そこで行方不明となり、登頂の成否はいまだに謎のままなんですね。
エベレストの登頂に初めて成功したのは、1953年5月29日とされていますが、あのカメラが、もし本当にマロリーのものだとしたら、そこにはすべてが写っているはずで、フィルムを現像すれば、エベレスト登山の歴史が変わるかもしれないのです。
帰国した深町は、再び姿を消した羽生を探し出そうと、決意を固めたのでした…。

小説家・夢枕獏のベストセラー小説を、漫画家・谷口ジローが漫画化。
それをフランス映画界が長編アニメ化したという1本。フランスでは、絶大な人気を誇るコミックだそうです。
ジョージ・マロリーは実在の人物。1924年、エベレスト北東稜の頂上付近で行方不明となり、1999年に遺体が発見されますが、カメラが見つかったという事実はなく、そこはフィクションなんだとか。
ただ、マロリーが登頂に成功したか否かは、確かに登山界の大きな謎なんだそう。
「なぜ山に登るのか」
「そこに山があるからだ」
この有名なやり取りは、ジョージ・マロリー語録の誤訳だそうです。
彼の名前は知らなくても、この言葉は知ってる人は多いはずですよね。
羽生の登山家魂と、深町のジャーナリストとしての執念、そして山のロマンと、ジョージ・マロリーの謎。これらが渾然一体となってストーリーが進んでいく、冒険ミステリーです。
実は、このプロジェクトが進んでいる最中に、谷口ジローさんは亡くなったそう。
「谷口ジローにこれを観せたかった」とは、夢枕獏さんの言葉です。★3つ。
『神々の山嶺(いただき)』公式サイト


『こちらあみ子』は、芥川賞作家である今村夏子のデビュー小説の映画化。

あみ子は、広島に暮らす小学5年生。
彼女の行動はちょっと風変わり。
それでも家族や友だちは、あみ子のことをちゃんと見守っていてくれました。
あみ子の家族は、優しいお父さんとお兄ちゃん、お腹の中に赤ちゃんがいるお母さん。お母さんは家で書道の先生もしています。
加えて、あみ子が憧れている、同級生ののりくん。彼もまた、ちょっぴり面倒くさそうに、それでもきちんと、あみ子の話に付き合ってくれるのでした。
あみ子の家族に、大事件が起こります。お母さんが、流産してしまうんですね。
退院後、悲しみに暮れながらも、気丈に努めていたお母さんでしたが、あみ子のふとした行動が、心にさらなる傷を負わせてしまいます。
それからでした、家族の間がギクシャクし始めたのは…。

正直、感想を書くのが難しい作品です。
“風変わりな”という表現ですが、おそらくあみ子には発達障害のようなものがあって。自由奔放な行動はその表れなのかなと。
お母さん、実は再婚なんですね。
だから、お腹の赤ちゃんは、お父さんとの愛の結晶。お母さんにとって、家族の絆をさらに深めるための、大切な存在だったのかもしれません。
この映画、誰に自分を投影したらいいのか、誰の立場に立って観たらいいのか、本当にわかりませんでした。
タイトルの「こちらあみ子」は、お父さんが買ってくれた誕生日プレゼントのおもちゃのトランシーバーに向かって話す、あみ子の言葉。
でもね、繋がらないんですよ。いくら「応答せよ」と言っても。
もし、ある意味、天真爛漫に見えるあみ子が、そんな一方通行の哀しさを感じていたんだとしたら、それを表すタイトルだとしたら…。観ているこちらも、心が苦しくなります。
重かったです。★3つ。
『こちらあみ子』公式サイト


『TELL ME hideと見た景色』は、1998年に亡くなった超人気ギタリストhideの物語。

X JAPANのギタリストHIDEとして、またソロ・プロジェクトhide with Spread Beaverの中心メンバーとして大人気を博していたhide。
アルバムの制作中で、全国ツアーを控えていたにもかかわらず、1998年5月2日、自宅で亡くなってしまいます。
自殺とも事故ともわからぬまま、hideがこの世を去った事実だけが残ったのです。
葬儀には約5万人のファンが参列。慟哭が響き渡っていました。
hideには弟の裕士がいて、途中からhideのパーソナルマネージャーになります。兄弟といえども「hideさん」と呼ばせ、敬語を使わせるなど、仕事の礼節には厳しい線引きをしていました。
hideの死の前日、家まで送っていったのは裕士。
「なんで家の中まで入っていかなかったんだろう」と後悔の念にさいなまれる裕士。
しかし、彼は信じていました。
「hideさんの死は、自殺なんかじゃない」。
法的な契約から、hideの亡き後、事務所を継ぐのは弟の裕士でした。
風当たりも強い中、hideがやり残したアルバム制作を、ファンに見せたかったであろうツアーを、なんとか実現できないかと、裕士は奔走するのですが…。

実弟である松本裕士による著作『兄弟 追憶のhide』をもとにした、hideの伝記映画。
あれから24年が過ぎたんですね…。
極度の肩凝りで、首を牽引するために、ドアノブに紐をかけたのではないかと、裕士さんは信じています。
主役がいなくなったバンドに亀裂が入る過程や、亡くなってまもなくリリースした作品に届く辛辣な批判。
フィクションですから、すべてがそのまま真実ではないでしょうが、苦悩と達成の数年間を、当時のニュース映像などを挿入することで、リアルに描かくことに成功している気がします。
hideの動画を使って、全国ツアーを完遂できたというのは既知の事実。そのシーンには、やはり大きな感動がありました。そこには実際のライブ映像も使われています。
映画を観た、hideファンの評価が気になるところ。是非、感想を聞いてみたいものです。★3つ。
『TELL ME hideと見た景色』公式サイト


『ビリーバーズ』は、山本直樹による人気コミックの実写映画化。

ニコニコ人生センターという新興宗教団体に所属する3人の若者がいました。
彼らは互いを、議長、副議長、オペレーターと呼び、団体の精神修行実験である“孤島のプログラム”を実践するため、無人島に上陸しています。
これは、修行によって精神を浄化し、安住の地なる場所で、幸せに暮らすことを目的とするもの。
男性2人と、女性が1人。煩悩を押さえつつの共同生活でしたが、ある日のこと、偶然流れ着いたやんちゃな若い男たちが、唯一の女性である副議長に襲いかかったのです。
この侵入者たちを殺害し、なんとか副議長を守った議長とオペレーター。
しかし、その事件の後、互いを異性として意識するようになってしまいます。
欲望を抑えきれなくなった3人。
遂に、島の秩序が崩壊したのでした…。

かなり、エロいです(笑)。
これが山本直樹作品の特徴でもあり、魅力でもあります。
新興宗教に救いを求めるほど、おそらく生きることに悩んでいたであろう3人が、修行の名のもと、自分の欲望を抑え込んでいたわけですよね。
それがチョロチョロと漏れ始め、ついには決壊に至る。
そのプロセスにおける性衝動を想像すると、この映画の輪郭(根っこ?)が見えてくるかも。
新興宗教ならずとも、聖なる人々の性的スキャンダルは、山のように出てきますもんね。人間なんて、煩悩の塊ですから(笑)。
教祖役で、山本直樹がカメオ出演。ファンにはお楽しみのひとつになりそうです。
映倫はR+15。高校生には、ちょっと刺激が強いと思いますョ。★3つ。
『ビリーバーズ』公式サイト


『WANDA ワンダ』は、1970年のアメリカ映画。

ペンシルベニアの炭鉱町。ここに暮らすワンダは、夫と幼い子どもがいるにもかかわらず、自堕落な生活ぶり。
夫からは離婚を求められていますが、その裁判にすら、頭にカーラーを巻いたままの姿で、遅刻してやってきます。そして、あっさり離婚を認めたのです。
その足で、行く宛もなく町をさまようワンダは、ビールをおごってくれた男とモーテルへ。
ことが終わると、車で町はずれに放置されたワンダ。
再び歩き始めた彼女が辿り着いたのは、一軒のバーでした。
もう閉店だと、語気も荒めに伝える店のマスターらしき男に、トイレと一杯のドリンクだけ許してもらったのですが、何か様子がおかしい。実はカウンターの裏に人が倒れていたのですが、ワンダは気づきません。
男と一緒に店を出たワンダ。
実はこの男、デニスという名の小悪党。ワンダはデニスと行動を共にすることで、知らず知らずのうちに、共犯者になっていくのでした…。

監督、脚本、主演とも、バーバラ・ローデン。
80年に48歳の若さで亡くなっていて、これが長編デビュー作にして遺作となりました。
夢が描けないワンダにとって、先の未来より、目の前のビールが幸せ。今ならDV(行きずりの関係だからドメスティックではない?)のデニスについていくのも、もしかしたら生きている実感が得られるからかなと。
今から52年前の作品で、“忘れられた小さな傑作”と呼ばれ、この映画を好きだと語る人の中には、マーティン・スコセッシ、ソフィア・コッポラ、ジョン・レノン&オノ・ヨーコを始め、たくさんの著名人がいると言います。
ここに来て、高く再評価されている1本。あなた自身の目で確かめてみて下さい。★3つ。
『WANDA ワンダ』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.7.1
『マーベラス』★★★★
『マルケータ・ラザロヴァー』★★★
『モガディシュ 脱出までの14日間』★★★
(満点は★★★★★)


7月です。今年も半分が終わったことになります。
ここまで振り返ってみると、満点の★5つは8本。
そのうち3本がドキュメンタリー。“事実は小説より奇なり”ということでしょうか?
もちろん、ボクが見せて頂いた作品の中だけの話です。
下半期に、どれだけのいい映画に出会えるか。引き続き、楽しみにしたいと思います!
さぁ、今週は3本です!

『マーベラス』は、スタイリッシュに描かれたキリングアクション。

裏社会の暗殺請負人、アンナとムーディ。
ふたりは衝撃的な出会いをし、共に腕利きのスナイパーでありながら、親娘のような絆で結ばれていました。
アンナは古書を扱う書店の店主としての顔も持っていて、そこにひとりの男性客がやってきます。
詩集について、奥の深い会話を交わすふたり。男性の誘いを、これまた絶妙のセンスで透かすアンナ。
すると、ムーディが何者かに殺害されてしまいます。
悲しみにくれながらも、復讐に乗り出すアンナでしたが、そこに立ちはだかったのが、先日書店を訪れた男性客。
彼こそが、プロ中のプロのセキュリティ、完璧なる護衛者のレンブラントだったのです…。

面白かったです!
監督は『007』シリーズでもメガホンをとったマーティン・キャンベル。
血が流れ、命が奪われていく一方で、細部に渡り、おしゃれでスタイリッシュな映像美が対照的で。
インテリジェンスのぶつかり合いもまた、この映画の魅力です。
アンナ役のマギー・Qが、日本の高島礼子に似て。彼女にベトナム人の血が流れているからか、イギリス、ルーマニアに加え、ベトナムも重要な舞台となっています。
導入のストーリーから抜群で、なかなかこの手の映画に満点は打たないけど、満点でもいいかなと思ったぐらいです。
そんな意味では高評価だと思って下さい。お勧めです!★4つ。
『マーベラス』公式サイト


『マルケータ・ラザロヴァー』は、1966年のチェコスロバキア映画。

13世紀半ばのボヘミア王国。
ロハーチェックの領主コズリークには、子どもが3人。長男のミコラーシュ、次男のアダム、そして娘のアレクサンドラです。
ミコラーシュとアダムが遠征中の伯爵たちを襲い、荷物を奪うと、伯爵の息子のクリスティアンを捕虜にとります。
蛮行を知った王は、クリスティアンの救出とロハーチェック討伐のため、精鋭部隊を送るんですね。
そこで、コズリークたちは、オポジシュテェの領主ラザルに同盟を組まないかと提案。しかし、ラザルはこれを拒み、王の側に付くと言います。
ミコラーシュは、ラザルに痛め付けられた報復にと、ラザルの娘で修道女になるはずだったマルケータを拉致し、凌辱したのです。
一方で、コズリークの娘アレクサンドラは、捕虜のクリスティアンを愛し、彼の子をお腹に宿します。
宗教、部族、個の感情、さまざまなものが交錯する中で、物語は進んでいくのでした…。

監督は、1924年生まれのフランチシェク・ヴラーチル。1999年に亡くなっています。
チェコの人なら誰でも知っているけれど、映像化は不可能だろうと言われてきた同名小説を、極寒の山奥で548日に渡り、撮影。衣装も武器も、当時の素材、作り方で製作し、中世を忠実に再現したと言います。
マルケータがミコラーシュを憎みながらも、次第に愛情を抱いてしまったり、アダムがアレクサンドラと肉体関係を持ったことで、罰として片腕を切り落とされていたり、クリスティアンが正気を失うさまなども、時代を感じさせる“エグさ”ではあります。
166分のモノクロ超大作。黒澤明作品と並び称されるというのも納得でしょうか。
55年の時を経ての、日本初公開。芸術としての映画に触れる、いい機会かもしれません。★3つ。
『マルケータ・ラザロヴァー』公式サイト


『モガディシュ 脱出までの14日間』は、韓国映画。

1987年、軍事独裁政権から民主化への移行を成し遂げ、88年のソウルオリンピックを成功させた韓国。
次なる目標は国連に加盟すること。そのカギを握るのが、多くの票を持つアフリカでした。
1990年、ロビー活動のためにソマリアの首都モガディシュの韓国大使館に着任したのが、大使のハン・シンソン。書記官のコン・スチョル、若手の参事官カン・テジンらと共に駐在していました。
実は、この頃の外交は北朝鮮のほうが進んでいて、20年先んじて、アフリカとの関係を深めていました。ソマリアにも、リム・ヨンスが北朝鮮大使として幅を利かせいたのです。
政情が安定しないソマリア。今の政権に不満を抱く国民がデモを起こすと、それが次第に激化。反乱軍の軍事勃発によるドロ沼の内戦へと突入していきます。
大使館がパイプを築いてきた地元の若者たちも暴徒と化し、手のひらをかえすが如く、大使館も略奪の場に。物品どころか、命の危険にさらされることになるんですね。
そんな時、敵対している北朝鮮のリム大使たちが、韓国大使館に助けを求めてやって来たのです…。

“韓国のタランティーノ”と呼ばれる、リュ・スンワン監督が、綿密なリサーチを重ねた、実話に基づく物語だそうです。
韓国のこうした作品は、フィクションでありながら、事実に近いものが多いので、自国ではそれがヒットに繋がるのかもしれませんね。この映画も2021年の韓国No.1ヒットになったとのこと。
国の歴史からも、軍が力を持った背景は推察できますが、民衆の運動に端を発した韓国の民主化から、まだ30数年。
モガディシュでの出来事は、当時絶対に相容れることのなかった北と南の関係者が、手を取り合って、なんとか生き延びようとした事象。そこに2022年の今、両国間に現状打破の糸口を探ってほしいとのメッセージを提示しているようにも感じます。
渡航禁止国であるソマリアに代わり、モロッコにモガディシュの町を再現。重いテーマを扱いながらも、コメディタッチで進む場面もあり、映画館で楽しんでもらいたいという監督のこだわりを感じる1本。
自国では、多くの国民の関心事なんだなと感じました。★3つ。
『モガディシュ 脱出までの14日間』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.6.24
『あなたの顔の前に』★★★
『イントロダクション』★★★
『彼女たちの革命前夜』★★★
『どうしようもない僕のちっぽけな世界は、』★★
『母へ捧げる僕たちのアリア』★★★
『ルッツ 海に生きる』★★★
(満点は★★★★★)


今週紹介するのは6作品ですが、最初の2本は共に韓国のホン・サンス監督作品。
公式サイトはまとめて作られていますが、映画館に問い合わせたところ、別作品扱い。どちらも観たい場合は、それぞれのチケットが必要だそうです。念のため。
公式サイトも、同じものをそれぞれに貼り付けておきますね。
さぁ、今週は6本です!

『あなたの顔の前に』は、韓国のホン・サンス監督、26本目の長編作品。

母国の韓国を出て、アメリカに渡ったサンオクは元女優。
そのサンオクが帰国し、妹ジョンオクのもとを訪ねます。
長年、音信不通だった姉との久々の再会を喜ぶジョンオク。大人になった甥っ子に会ったり、思い出話に花を咲かせたりしますが、サンオクがなぜ突然の帰国を果たしたのかは語られません。
サンオクには人と会う約束があるようで、妹と別れた後、待ち合わせの場所へと向かうのですが、もう少し時間があるからと、幼少期を過ごした懐かしい場所を巡ります。
サンオクに会いたがっていたのは、映画監督のソン・ジェウォン。このアポイントメントは、サンオク主演の映画を撮りたいというオファーのためだったのですが…。

1961年生まれのホン・サンス監督は、1996年に『豚が井戸に落ちた日』で長編監督デビュー。
この『あなたの顔の前に』が26作品目ですから、1年に1本のペースで映画を“量産”していることになります。
劇中、お酒を酌み交わしながら、サンオクと映画監督が会話をする長回しのシーンがありましたが、これがホン・サンス監督独特のスタイルだそう。
物語は、サンオクの1日を切り取ったもの。なぜ韓国に戻ったのかも、明らかになります。
今、目の前に起こっていることこそが幸せ。
人の1日って、こうやって映画になってしまうぐらい、実はドラマチックな要素が隠れているんだなぁと思ったりもして。
小説を読んでいるかのようなタッチの作品です。★3つ。
『あなたの顔の前に』公式サイト


『イントロダクション』は、ホン・サンス監督の25作品目。

将来の目標が定まらない、青年ヨンホ。
ソウルの町で韓方病院の院長を務めている父に呼び出されてやってきたのですが、互いに気まずくて気乗りがしない様子。
父は突然来院した大物俳優への応対が忙しいらしく、なかなか顔を合わせることが出来ません。
場面は変わって、ドイツのベルリン。
衣装のデザインを学びに来ていたのは、ヨンホの恋人ジュウォンでした。
母の旧友の家に居候することになったジュウォンの元を、なんとヨンホが訪ねます。
「僕もここに来ようか?」
ふたりは抱き合います。
さらに場面は変わって、海辺の食堂。
そこにいたのはヨンホの母と、昔ヨンホに役者になったらいいと言った大物俳優でした。
息子の将来に不安を感じていた母が相談をし、改めてアドバイスをして欲しいと一席を設けたのです。
そこに、友人とやってきたヨンホ。すると、一度は役者の道を志したのに辞めてしまった理由を語り始めるのでした…。

3つの章からなる映画。でも時系列はバラバラで。
将来が見えない、今の韓国社会を生きる若者たちに向けた作品だと言います。
先日、ニュース番組で、20歳の政治家が当選。若者の投票率が日本の倍近くあり、この国を変えなくてはという意識が若者に高いという報道がありました。
K―POPや、韓国映画など、エンターテイメントは世界的に成功していても、他の産業ではあまり景気のよさを聞かない韓国。日本にも、隣国の閉塞感が伝わってくる気がします。
じゃ、日本はどうなんだろうと考えた時、似たような部分があるのは否めず、自分の青年期を振り返っても実はそうだったんじゃないかと。
意外と、今に限ったことではないのかもしれませんよね。
居酒屋の場面で、酒を飲み、長く語り合うシーンが出てきます。これもホン・サンス監督のこだわりの演出なのでしょう。
もやもやしたものが晴れるわけでもなく、タイトルのように、いつであっても、どこであっても、ここが人生の“イントロダクション”。若者へのそんなメッセージなのかもしれません。★3つ。
『イントロダクション』公式サイト


『彼女たちの革命前夜』は、1970年にロンドンで起こった実際の出来事を映画化したもの。

1970年のイギリス、ロンドン。
1児の母でもあるサリーは、学問をしなおそうと大学に入学。そこで女性解放運動の活動家たちと出会います。
今、彼女たちが注視していたのが、世界三大ミスコンテストのひとつ「ミス・ワールド」のロンドン大会でした。
女性を見せ物のように品定めするこのイベントをブッ潰そうと、彼女たちは計画を練ります。
この大会には、カリブ海の島国グレナダから、黒人の代表であるジェニファーがエントリー。
さらに、南アフリカからもう1枠、黒人代表を招くなど、社会の目を意識し始めた大会でもありました。
しかし中身はといえば、男性による女性蔑視の品のないイベント。
サリーたちは、客として会場に潜入し、本番中に妨害工作にうって出ようと企てたのです…。

実話に基づくストーリー。
時代は1970年。この映画の自国イギリスでの公開が2019年ですから、約50年前の出来事です。
サリーの娘の面倒は、新しい夫が“主夫”として見てくれています。
そんなサリーのことを、サリーの母は快く思っていません。仕方ないですよね、50年前の価値観ですから。
言ってみれば、サリーは今の世の中の先陣を切っていたことになります。
でも、この映画の素晴らしいところは、逆の見方もきちんと提示していること。
グレナダ代表のジェニファーは言います。
「私のこの姿を見て、夢を見られる少女たちだっているのよ」。
自分のジェニファーのようになれるかもしれない。貧しい国の現実としては、夢を見ることさえ、ままならないことも。
あれから50年経った今でさえも、女性解放運動は続けられています。改善されつつあるとはいえ、いまだに問題としてあがるのですから、根深いものがあるのでしょう。
「今、観るべき」というキャッチフレーズがいつまでつきまとうのか。
こういう映画の必要性を感じつつも、減っていって、遂には無くなることが理想なのかもしれませんね。★3つ。
『彼女たちの革命前夜』公式サイト


『どうしようもない僕のちっぽけな世界は、』は、問題を抱えた家族のありようを描いたヒューマンドラマ。

とある1組の夫婦がいました。
彼らは幼い娘への虐待を疑われ、児童相談所によって、娘は養護施設に預けられてしまいます。
しばらくして、条件付きで娘を引き取ることができたのですが、夫は仕事が続かず、母親から金を借りる形でなんとか生活をしていて、妻はといえば完全なる育児放棄。親としての自覚など、欠片もありません。
そんな環境に戻された娘のひいろ。
社会への不平不満をぶちまけるだけで、何も行動に移さない彼が、果たして父親としての責任を果たすことができるのでしょうか…。

「この作品が出来た時、生まれて初めてこれは僕だと思いました」。
これは、この映画の公式サイトの“イントロダクション”に、最初に出てくる倉本朋幸監督の言葉です。
ディテイルまでもが監督の実体験という意味ではないようですが、事象として、シンクロしている部分が多いみたいです。
現代社会の闇を描いた作品。
ただ、正直、この自堕落な夫婦のどうしようもない生活を、ずーっと見せられているのは苦痛でしかありませんでした。
「絶対絶対生きて生きて生きていいんだ」。
これも赤文字で公式サイトに書かれた一文です。
その通り。いや、生きていいどころか、生きなきゃいけない。
それは、主人公の男性以上に、娘のひいろちゃんに当てはまってしまう言葉のように感じてしまいました。
頑張ろうにも頑張れない人の気持ちがわからないのかと、お叱りの言葉を受けるかもしれませんが、この87分はボクにはどうにも苦痛でした。共感できずにごめんなさい。★2つ。
『どうしようもない僕のちっぽけな世界は』公式サイト


『母へ捧げる僕たちのアリア』は、フランス映画。

南フランスの海沿いの町。
公営団地に暮らす、14歳のヌールは、4兄弟の末っ子。父はおらず、母は意識がないまま寝たきりの状態。生活は苦しく、母の薬代を工面するのがやっとの毎日。
兄たちの“仕事”を手伝うヌールでしたが、一番の勤めは、毎夕に母が大好きなオペラを流してあげること。
「うるせえなっ。どうせ聴こえてねぇよっ」と兄たちに怒鳴られても、昔、父がよく歌っていたオペラをパソコンから流し、母に聴かせるのがヌールの親孝行だったのです。
夏のある日のこと、教育奉仕作業で学校の清掃をしていたヌールの耳に、楽しそうな歌声が聴こえてきます。
それは、オペラ歌手のサラが、夏休みの間、歌のレッスンをしてくれる特別講義でした。
教室に招かれるヌール。
ヌールの歌を聴いたサラは、レッスンに参加したらとヌールを誘うのですが…。

ひとりの少年が、芸術と出会うことで、厳しい環境から抜け出すための術を得る。
ヨアン・マンカ監督自身の体験が反映されていると言います。
いかんともしがたい貧富の差。そんなことをやるぐらいなら、ピザの配達をしろと、兄弟はヌールが歌を学ぶことを認めようとはしません。
ヌールも諦めかけたその時、先生のサラが、身の危険も顧みず、ヌールを音楽の世界に引き戻そうと動くんですね。
いい大人との出会いが、人生を変えたという話、よくあります。ボクもそんな大人になりたかったなぁと思うこともしばしば。
うちの父が入院して、息を引き取る少し前に、「聴覚は一番最後まで生きているから」と、看護師さんが言っていたのを覚えています。きっと、お母さんの耳に、ヌールが流す音楽は届いていたと思います。
ヌールが驚いて、大きな声で兄たちを呼んだけど、みんなは信じてくれなかったある出来事。ボクは起こったと信じてるからね、ヌールくん!★3つ。
『母へ捧げる僕たちのアリア』公式サイト


『ルッツ 海に生きる』は、マルタ映画。

26歳のジェスマークは、マルタ島の伝統的な漁である、ルッツという船を使って魚を獲る漁師。
妻デニスとの間に、ひとり息子を授かったばかりです。
ルッツとは、漁師の家に代々続く木造の漁船のこと。どの船にも、鮮やかな色の装飾が施されていました。
ところが、ジェスマークのルッツに破損が見つかり、修理しないと船がダメになってしまうといいます。しかし、不漁でその費用を捻出できません。
さらに、愛息に発育不全が見つかり、その治療にもお金がかかると言います。
実は、妻デニスの実家は裕福な家庭なのですが、ジェスマークはそこに頼ることを是としません。
EUが定めたルールや、市場の上下関係に翻弄され、大型トロール船が海底を傷つけながら、生きものを根こそぎさらっていく。
伝統漁法で稼いだお金で、家族3人でのつつましやかな暮らしを望むだけのジェスマークでしたが、そんな幸せすら難しい現実に、ジェスマークはとある決意をするのでした…。

地中海の島国マルタ。
アレックス・カミレーリ監督は、ここマルタ出身のアメリカ人だそう。
また、マルタ製作の映画としては、これが日本の劇場で公開となる初めての作品になるそうです。
地球温暖化で生態系が変わり、魚自体がいなくなってしまい、ルッツでの漁に未来がない。
自分の仕事に誇りを持って頑張ってきたからこそ、妻の実家にも頼ることなく踏ん張ってきたジェスマークですが、妻との間に意見の相違が生まれ、亀裂が生じてしまいます。
理想や誇りと現実の間で揺れ悩むジェスマークが出した結論とは?
主演のジェスマーク・シクルーナは、俳優ではなく、実際にマルタでルッツに乗っている漁師なんですって。怒りのリアリティは、素顔の部分から滲み出ているのかもしれませんね。
生きるって、本当に大変です。★3つ。
『ルッツ 海に生きる』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.6.17
『鬼が笑う』★★★
『クリーチャーズ 宇宙から来た食人族』★★
『百年と希望』★★★
『ポーランドへ行った子どもたち』★★★
(満点は★★★★★)


梅雨の季節になり、日本中がじめじめした天気に。
この雨が必要なものだというのはわかっていても、なんとなく気持ちも空のように、どんよりしちゃいますよね。
そんな時は映画館で非日常体験がいいかも。大きなスクリーンで、別世界に飛んでみませんか?
さぁ、今週は4本です!

『鬼が笑う』は、現代社会の闇を描いた人間ドラマ。

石川一馬は、大学を目指す高校生。
両親と妹との4人暮らしでしたが、父親のDVで、家庭は崩壊寸前。
暴力に泣く母と妹を助けようと、一馬は父を金属バットで殴り殺してしまうんですね。
それから数年。罪をつぐない、施設で生活をしながら、委託先のスクラップ工場で働く一馬でしたが、職場の環境は劣悪。犯罪歴を持つ者以外にも、外国人実習生を受け入れてはいますが、実態は暴力と脅しで人を管理するブラック企業だったのです。
そんな時、劉という中国人労働者が工場にやってきます。
正しいことは正しい、間違ったことは間違えているとハッキリ言う劉の姿に、ただ見てやり過ごすだけだった一馬は、何かハッとするものを感じたのです。
しかし、善の皮を被った悪の企業。事件は、起きるべくして起こってしまったのでした…。

「大丈夫。お兄ちゃんが助けてやるから」。
そう言って、父を殴り殺した時から、一馬の人生の歯車は、当然のごとく、狂っていきます。
助けたはずの母と妹からは、蔑まれ、「もう顔を出さないで」とまで言われ。“人殺し”のレッテルは、何をしようにも付いて回り。負のスパイラルは、果てしなく続いていきます。
この映画は、兄が監督、弟が脚本を担当する三野龍一、和比古兄弟の「Mino Bros.」による作品。
資料のコメントを読むと、自身の家庭環境によって養われたものが、映画の中に生きているとありました。
それぞれの登場人物に、これまでの人生の背景があるように、実際の事件を起こした加害者、被害者にも人生の物語がある。それを想像する幅を広げること、彼らは「想像の羽根をもう少しのばしてみて」と表現していましたが、その契機になればと、“共感できない映画”を作っているとのこと。
ツラい内容なので、正直、124分はキツかったです。裏を返せば、描き過ぎたり、逆に描き足りない部分もあったような気がします。
描き足りないところは、監督たちの言う“想像力の羽根”に任せるとしても、過ぎたほうは、もう少し引き算が出来たんじゃないかなと感じました。その“表現の隙間”こそが、観る者に想像をさせるんじゃないでしょうか。
役者さんたちの演技には、確かに熱いものがありました。製作者の思いに敬意を表して。★3つ。
『鬼が笑う』公式サイト


『クリーチャーズ 宇宙から来た食人族』は、エイリアン+ゾンビのSFパニック映画。

イギリスの田舎町にある天文台を訪れるため、研究旅行のバスツアーを組んだ大学生たち。
途中、目的地の近くに、謎の飛行物体が落下。教授と学生たちが恐る恐る近づいていくと、そこには宇宙船のものとみられる破片が転がっていました。
さらに、そばには一匹の小さな生命体が。
彼らはそれを抱き上げ、マンピーと名付けるんですね。
時を同じくして、マンピーを追いかけるかのように、巨大円盤型UFOに乗った強悪な肉食エイリアンも飛来。彼らに噛まれると、人間はゾンビ化してしまいます。
すると、肉食エイリアンたちが、次々と学生たちを襲います。
ひとり、またひとりと、仲間を失う学生たち。
町の民家に逃げ込むも、すぐに発見されてしまいます。
ゾンビと肉食エイリアン。究極の敵と戦う学生たち。
戦闘の途中で気付いたのですが、どうやら生存のカギは、マンピーが握っているよう。
果たして、この窮地を脱出することが出来るのでしょうか…。

おなじみTOCANAの新たな映画配給会社、エクストリームの配給作品。これが洋式美にさえ思えてしまいます(笑)。
ボクが北海道の自然の中でキタキツネに出会った時、あまりに可愛くて撫でようと近付いたら、「触っちゃダメ!野生はどんな菌を持っているか、わからないから」と注意されました。なのに、宇宙生物のマンピーを安易に抱き上げて、撫で撫で(^^;
人類の一大事が、田舎の小さな町で完結してしまう不思議…。
突っ込みどころは満載です(笑)。
B級映画の“B”とは、ランクがAより劣るということではなく、あまりお金をかけていないという意味で、B級グルメも、高い食材を使わない、美味な食のことを言います。
お好きな方は、そんなB級映画のコレクションに是非!
今回も、これが賛辞と言える★の数にしておきましょ(笑)。★2つ。
『クリーチャーズ 宇宙から来た食人族』公式サイト


『百年と希望』は、創立100周年を迎える日本共産党の今の姿を映し出したドキュメンタリー。

1922年7月15日に誕生した左派政党の日本共産党。
映画では、2021年夏の東京都議会議員選挙と、秋の衆議院総選挙に立候補した党員の活動や、機関紙「しんぶん赤旗」の編集部などにカメラが入ります。
まだ記憶に新しいと思いますが、2021年は、東京オリンピック・パラリンピックが、賛否両論ある中で開催された年。さらに、コロナ禍で人々の暮らしが一変。あまりに多くの出来事が、日本中を駆け抜けた年でもありました。
そんな中、4児の父で、子どもの権利のために奔走する現職都議会議員。
ジェンダー平等やLGBTQなどの人権問題に取り組み、議席復活に挑む元衆議院議員。
そのふたりの選挙活動を
中心に、カメラが追いかけます。
いつも言うように、ボクは無思想無宗教。自分の考えや、神社仏閣を巡る宗教観?はありますが、特定のポリシーはありません。
だから、この映画に登場するふたりの候補者の言ってることは、至極まっとうで、当たり前だなと。なのに、なぜか共産党と聞くと一歩引いちゃうのは、党の持つマイナスのイメージが大きいから。
じゃ、それって具体的に何?って考えると、やはり民主主義の対極にある共産主義が、中国やロシア、北朝鮮といった独裁に近い政治を思い浮かばせるからなんじゃないかなと。
奇しくも終盤に出てくる、宮城県の地区の副委員長が言うんですよ。
「演説の主語が“共産党”なんだよね。自分の名前を主語にしたことがない」と。
そう。なんか、個人を応援したくても、党という組織に飲み込まれていくというか、巻き込まれていくイメージ…。
そこを脱却することじゃないかと、ノンポリのボクは感じた次第です。
出来るのか、出来ないのか、するべきか、必要ないのかは、ボクにはわかりませんけどね(笑)。
せっかくこういう映画を観たのだから、本音を書かせてもらいました。
選挙権を持つ我々にとって、選択肢のひとつについて、客観的に観ながらも、こうして深く考えるのは大切な機会。そこに意味がある映画だと思いました。★3つ。
『百年と希望』公式サイト


『ポーランドへ行った子どもたち』は、ドキュメンタリー。

韓国の俳優で、映画監督のチュ・サンミ。
40歳で子どもを授かり、あまりに可愛くて、逆にそれが産後うつに繋がるほど、我が子を愛したと言います。
そんな彼女が、朝鮮戦争時代に、東欧に送られた北朝鮮の戦争孤児の存在を知ります。つい最近まで、報じられることのなかった事実。
チュ・サンミは、彼女の映画に出演するためのオーディションを受けに来た、脱北者でもある女子大生のイ・ソンと共にポーランドに渡り、当時、子どもたちの面倒を見ていた教師たちを訪るんですね。
1950年6月25日に勃発した朝鮮戦争は、1953年7月27日に休戦協定が結ばれるまで続き、南北で戦死者が500万人を超え、10万人以上の戦争孤児が生まれたといいます。
そんな中、北朝鮮の金日成は、ロシア、ハンガリー、ルーマニア、チェコなど、東欧の社会主義国に、戦争を続けられるよう孤児たちを引き受けて欲しいと依頼。ポーランドは、約1500人の子どもたちを受け入れます。
映画では、当時のポーランド人教師たちが、インタビューに答えながら涙を流すのですが、その涙は達成感からではないと言います。
自分たちをパパ、ママと呼ぶほど親しくなったけれど、数年後に自国に呼び戻された子どもたち。
しばらくは、手紙のやり取りもしていましたが、ポーランドに戻りたいという文章を見つけた時、検閲で罰せられないかと不安になり、あえて返事を一切書かず、苦渋の決断で音信不通にした先生も。
「あの子たちが、ただただ幸せでいてくれたら…」と口を揃えます。
監督に同行したイ・ソンも、脱北のつらさをポツリポツリと語りますが、完全には心を開くことはありません。
共通するのは、戦争の犠牲になった子どもだということ。
それは、今もウクライナで、また世界の数多ある紛争地で、生まれてしまっているのです。
無邪気な笑顔を見ていると、子どもには国家もイデオロギーもない訳で。不幸も、幸せも、環境はすべて大人が作る。すべてが大人の責任だと感じます。
知らない人が知らない人を殺すのが戦争です。個を知れば、本当は優しくて、ものすごくいい人かもしれないのに。それでも無差別に標的にする、標的になる。狂ってますよね。
2018年の韓国映画ですが、今改めて、いろいろ考えさせられる映画であることは間違いありません。★3つ。
『ポーランドへ行った子どもたち』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.6.9
『ALIVEHOON アライブフーン』★★★
『ぼくの歌が聴こえたら』★★★
(満点は★★★★★)


今週は、三木ホースランドパークで行われる、JRA職員の馬術大会『理事長杯』のアナウンスで、兵庫県三木市まで。
新幹線はもちろん、新神戸―三木間も、結構な時間がかかります。
この時間を有効利用しようと、オンライン試写を見ることにしました。
1日はみんなに24時間。上手く活用したいですもんねっ。
さぁ、今週は2本です!

『ALIVEHOON アライブフーン』は、実写映像で描いたドリフトカーレースの映画。

自動車のスクラップ工場で働く青年、大羽紘一。
口数も少なく、訳ありの過去がありそうな紘一は、社長の檜山三郎の厚意で、工場の2Fに住んでいます。
紘一の部屋にあったのは、ゲーム用の本格的レース機器。
実は紘一、eスポーツでは日本一のレースドライバーなのでした。
一方、車の修理工場を営む、武藤商会の武藤亮介率いるレーシングチーム「アライブフーン」は、ドリフトレースで久々の快進撃。決勝に進んだ亮介でしたが、ゴール直前で接触。そしてクラッシュ。亮介は足に大ケガを負ってしまいます。
そんな時、亮介の娘、夏実が紘一のもとを訪れます。社長の檜山と武藤亮介は昔からの仲間だったのです。
夏実は紘一に言うんですね。
「自分のプロチームに入らない?テストを受けてみて」と。
てっきりeスポーツのプロチームだと勘違いした紘一はテストを受諾。
しかし、それは実車のレースドライバーのテストだったのです…。

CGを使わず、実際のレーシングドライバーたちによる実技を使って描いた、ドリフトレースの実写映画。
eスポーツのレースドライバーが、実車のドライバーに転向する例もあるようで、この作品もそんなところにヒントを得た、オリジナルストーリーだとか。
紘一の前に、チームから声がかかるも、報酬が低いと断る柴崎快。
「ゲーマーがレースをなめるな」と、プロの実力を見せつけるために、亮介がテストに呼んだ小林総一郎など、ライバルも多数存在します。
しかし、紘一の才能はずば抜けていて、一度見ただけで、まるでゲームの画面のように、課題をクリアしていくんですね。
そして迎えた大一番。紘一は、チーム・アライブフーンは、頂点に立つことが出来るのでしょうか?というお話。
個人的に仲良くさせて頂いている、陣内孝則さんが武藤亮介役。カッコよかったです。あんな年の重ね方をしたいよなぁと、いつも思ってしまいます(^-^)
実写ということで、カメラワークにも注目。迫力のレースシーンの撮影は、決して簡単じゃなかったと思いますョ。★3つ。
『ALIVEHOON アライブフーン』公式サイト


『ぼくの歌が聴こえたら』は、韓国映画。

才能ある新人を見出だす目は確かなのに、人間関係に恵まれず、今では借金まみれの音楽プロデューサー、ミンス。
ある日のこと、たまたま車を停めた駐車場で、管理人の詰所から、若い男性の歌声が聴こえてくるではありませんか。
その素晴らしい声の持ち主はチフン。
ミンスはすぐさま契約書を交わそうとしますが、チフンにはひとつ大きな問題がありました。幼い頃の出来事がトラウマになっていて、人前で歌うことが出来ないのです。
すると、ミンスは考えます。大きな冷蔵庫用のダンボールを用意。チフンもその中なら、歌うことが出来るだろうというもの。
苦心惨憺。トラブルもあれば、いいこともある。
ミンスのコネで、歌える場所は韓国中に10ヶ所あると言います。
問題を抱えた男ふたりの音楽旅が、こうして始まったのでした…。

チフン役には、韓国の人気ダンス・ボーカルグループ「EXO」のチャンヨル。これまでにも俳優として活躍していましたが、これが映画初主演だそう。
人前で歌えないミュージシャンが、箱の中で歌うというアイデアが面白いですよね。
また、韓国の主要な10都市を回るロードムービーという側面で言えば、街並みはもちろん、その土地の代表的なグルメ(B級?)も登場。観光気分にもさせてくれます。
旅の途中で出会う人たちや出来事に、チフンのみならず、ミンスも成長していくというストーリー。
韓国映画によくある、“お涙ちょうだい”的要素は少なく、正直、泣けるシーンを期待していので、そこはちょっぴり肩透かし(笑)。
昨年3月、チャンヨルが徴兵で陸軍に入隊する直前の公開で、自国韓国では初登場1位を記録したこの作品。チャンヨルファンはもちろん、そうじゃない人でも、十分に楽しめるミュージック・ロードムービーです。★3つ。
『ぼくの歌が聴こえたら』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.6.3
『オフィサー・アンド・スパイ』★★★
『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』★★★
『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』★★★★★
『冬薔薇』★★★
(満点は★★★★★)


6月です。
もちろん完全にとはいきませんが、コロナ前の生活に戻りつつある今日この頃。やること、やらなくちゃいけないことが多くなり、時間が足りなくて困ってます(^^;
自分で振り返っても、そんなことをコロナ前にはよく言ってたなぁと。
忙しさが戻ってきたありがたさを感じつつ、映画を観る時間もちゃんと作れるよう、頑張らないとですねっ。
さぁ、今週は4本です!

『オフィサー・アンド・スパイ』は、19世紀のフランスで起きた実際の冤罪事件を映画化したもの。

1984年のフランス。
陸軍大尉だったアルフレッド・ドレフュスが、パリ陸軍の軍法会議にかけられ、終身刑を言い渡されます。
罪状はスパイ容疑での反逆罪。ドイツに軍事機密を流したというのです。
実はドレフュスは、ユダヤ人。無実だと叫ぶドレフュス。しかし、群衆は「売国奴!」と罵声を浴びせます。それどころか、同僚たちですら冷ややかな視線を送っていました。
そんな中、新たに、対敵情報活動にあたる部署のトップに赴任してきたピカール中佐は、ドレフュスの無実を明かす、重大な証拠を入手してしまいます。
すると、周りの人間たちは、ありとあらゆる手段を使って、情報を改ざん。罪をそのまま、ドレフュスになすりつけようとしていたのです。
ピカールは、自身の信念のもと、正義と真実のため、強大な国家権力に立ち向かうのでした…。

2002年の映画『戦場のピアニスト』で知られる、ロマン・ポランスキー監督作品。
映画は、1984年にフランスで実際に起こった、”ドレフュス事件“と呼ばれる冤罪事件を再現。原作はイギリス出身のジャーナリスト、ロバート・ハリスが2013年に発表した「An Officer and a Spy」。
そのロバート・ハリスが脚本を手掛け、壮大な歴史的逆転劇が描かれました。
監督自身も、ユダヤ教徒の両親を持ち、迫害を受けたと言います。これまでの作品群を見ても、おそらく監督自身の正義と真実をもって、歴史や現代社会と戦っているんだろうなと思います。
自国フランスでは、第45回セザール賞3部門受賞など、数々の賞に輝いている作品。
娯楽の側面としては、謎解きのサスペンス映画としても楽しめるかと思います。★3つ。
『オフィサー・アンド・スパイ』公式サイト


『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』は、ガンダム・シリーズのアニメ映画。

ジオン公国と地球連邦による一年戦争が繰り広げられていた、宇宙世紀0079年。
地球連邦軍は、ジオン公国軍の地球侵攻の軍事拠点であるオデッサを攻略。途中、アムロが所属するホワイトベース隊は、新たな任務を命じられます。
それは「帰らずの島」という無人島で、敵地に残って破壊諜報活動等を行う兵士を掃討せよというものでした。
任務にあたったアムロは、島で1機のザクと遭遇。戦闘を余儀なくされます。
そして敗戦。
気付けばガンダムを失い、助けられたアムロは、なぜか大勢の子どもたちに囲まれていたのです。
彼らは親を失くした孤児たちで、面倒をみていたのは、元ジオン公国軍のモビルスーツパイロット、ククルス・ドアン。
実は、彼らを孤児にしてしまったのは自分だと、戦争に加担してしまったことを後悔し、贖罪のために、この無人島で子どもたちと平和に暮らしていたのです。
その一方で、近寄るものはすべて駆逐。ククルス・ドアンは、伝説とも言える凄腕のパイロットだったのです。
しかし、彼の思いとは裏腹に、敵軍はもちろん、元仲間の軍までもが、裏切り者を消せと「帰らずの島」へ攻め入って来るのでした…。

1979年7月に放映された、TVシリーズの第15話「ククルス・ドアンの島」が、劇場版として公開。
ボクのガンダム・ファンの友人は、「ファースト・シリーズのガンダムが、このクオリティで映画化されるのは、たまらなくうれしい!」と、興奮ぎみに話してましたから、ファン待望のと言ってもいい作品なのでしょう。
ガンダムは、どちらが正義で、どちらが悪という設定がありません。だから、アムロファンもいれば、シャアファンもいる。
その象徴的な物語が、この「ククルス・ドアンの島」なんじゃないかなと感じました。コアなガンダム・ファンの皆さん、違ってたらごめんなさい(笑)。
オデッサなんて、まさに今のウクライナの戦争地域です。TVアニメは今から33年前の放映。アイルランドのベルファストも出てきますが、哀しいかな、逆に要衝だからこそ、昔から紛争が起きる地域になってしまうのかなぁと。
今だからこそ、この映画から学ぶべきは、たくさんあるように思います。
ちなみに主題歌の「Ubugoe」を歌うのは、今では“ガンダムの女神”と称される森口博子。
デビューの頃から知っている博子ちゃん。すっかり大人の女性になりました。主題歌にも、是非ご注目下さい!
添付の公式サイトには、63秒でわかるという解説動画があります。ガンダムは詳しくないという人も安心あれ。★3つ。
『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』公式サイト


『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』は、イギリスのバンド「ザ・ポーグス」のボーカル、シェイン・マガウアンの伝記映画。

82年に結成された、イギリスのロック・バンド、The Pogues。
フロント・マンであるシェイン・マガウアンが紡ぎ出すサウンドはヨーロッパ中を席巻。特に、87年のシングル「ニューヨークの夢」は、その後もクリスマスになるとイギリスのチャートを駆け上がる、大ヒット曲となります。
彼らの音楽はアイリッシュ・パンク、またはケルティック・パンクと呼ばれ、アイルランドの伝統的なケルト音楽とパンクの融合という、今までになかったジャンルのサウンドを作り出しました。
1957年12月25日、キリストの誕生日であるクリスマスに、イギリスのケント州に生まれた、シェイン・マガウアン。
幼い頃は、ティプレーリーの農場で、母方の親戚に囲まれて育ちます。
この叔父や叔母が豪快で、皆、気高きアイルランド男とアイルランド女。
その中のひとり、ノーラ叔母さんが、キリスト教の子供用教材と一緒に、シェインにタバコや酒も与えたそうで、5歳で酒の味を覚え、タバコを吸いながら競馬もやるという(^^;
10代でロンドンに移住すると、高校生の時にはドラッグ中毒になり、地獄を見たシェインは、そこからバンドを始め、音楽の道へと進むんですね。
50歳ですべての歯を失い、生きているのが不思議なくらいなシェインのこれまでを、30年来の親友だというジョニー・デップが尽力し、ドキュメンタリー映画化。ちなみに、ジョニー・デップもインタビュアーとして登場しています。
もう、なんでしょ、酒と薬で、ドロドロに溶けちゃってる感じ(笑)。
でも、なんとも言えない味があるんですよねぇ。
まぁ、そうじゃないと、世界中の人をこれだけ魅了することは出来ないか。
加えて、シェインの書く詞が実に素晴らしいのですが、シェインは“詩人”と呼ばれることを嫌います。
ピーター・バラカンが日本語字幕を監修したそうで、曲の訳詞も彼だとしたら、ピーターの才能も実に素晴らしい!作り手の思いを、言語を換えて伝えるのって、めちゃめちゃ難しいことですから。
劇中で流れる曲を聴きながら、“天才詩人”の詞を読むだけでも価値ありだと思いますョ。
よく“幸せのあり方”なんて話をしますが、これはこれでまたちょっと違った、いやかなり違った幸せの在りようなんじゃないかなと(笑)。
「ケーッ」と笑うシェインに、是非会いに行ってみて下さい。満点!★5つ!
『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』公式サイト


『冬薔薇』は、伊藤健太郎主演作。

渡口淳は、25歳。
デザイナーになりたいと専門学校に籍を置いてはいますが、学校にはほとんど通うことなく、地元の不良グループの一員として、仲間とつるんでいました。
父・義一の仕事は、ガット船と呼ばれる特殊な船を操業する船会社の経営。船体の真ん中に大きなスペースがあり、そこに土や砂利を積んで、港と埋め立て地を往復していましたが、バブルの頃とは違い、経営は火の車。従業員の高齢化もあって、廃業も現実的なものになっていました。
母・道子は会社の経理を担当。なんとかやりくりしながら、家族を支えています。
しかし、淳が幼い頃に起きたある出来事をきっかけに、家族の間には、ぽっかりと隙間が出来ていたのです。
ある日のこと、不良グループ同士の揉め事で、淳は足に大怪我を負ってしまいます。警察からの知らせで、義一は病院に駆けつけますが、その足取りは重く。
そんな時、母方の叔父の裕治が、中学教師の息子・貴史と共に、山梨から出てきます。裕治が仕事を失ったので、父の船会社で働くというのです。こんな不景気な時にと、露骨に嫌な態度を表す淳。
実はこの時、運命の歯車が、さらなる負の方向へと回り始めていることに、今はまだ誰も気付いていなかったのです…。

阪本順治監督作品。監督の映画では、一貫して、心に“欠損”のある人物を描いてきたとあります。
淳は、実は臆病者。自分を大きく見せたいだけの、空っぽの若者です。
そんな息子に育ててしまった両親もそう。ガット船「渡口丸」のベテラン乗船員たちも、山梨から来た叔父といとこも、不良グループの面々も、みんなそう。何かが欠けているのです。
物語も、とにかく悪い方、悪い方へと転がっていきます。
そんな中で、母・道子が買ってきた花が、冬薔薇。“ふゆそうび”と読む、寒くても花開く品種の薔薇。
空っぽなら入れることも出来るのですが、それは本人の気持ちひとつ。
彼らは果たして、人生の冬に、花を咲かせることが出来るのでしょうか?という映画です。
主演の伊藤健太郎は、交通事故を起こし、そのあとの対応が拙く、逮捕された過去があります。いわば、俳優復帰作。
そのリアルと、彼や監督の覚悟を感じることが出来れば、この映画は“成功”なのかもしれませんね。★3つ。
『冬薔薇』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.5.27
『ウォーハント 魔界戦線』★★★
『帰らない日曜日』★★★
『瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと』★★★
『私だけ聴こえる』★★★
(満点は★★★★★)


4月に先行公開作品として紹介した、映画『ミューン 月の守護者の伝説』ですが、5月20日(金)から劇場を増やしての上映となりました。
かわいらしいフランスのアニメ(^-^)。あらすじ等は、4月13日のボクのブログをチェックしてみて下さい!
さぁ、今週は4本です!

『ウォーハント 魔界戦線』は、戦争アクション・ホラー。

1945年、第2次世界大戦の終戦間近、アメリカの輸送機が、ドイツ南部の森の中に墜落します。
捜索隊が派遣されるのですが、その機には極秘文書が積まれていたため、それを回収するよう、ウォルシュという特務兵が同行します。
墜落機の残骸を発見するのは、さほど難しくなかったのですが、何かがおかしい。兵士の死体がひとつもなかったのです。
潜んでいたドイツ部隊とも交戦。ところが、倒したドイツ兵の体には、不気味な手術痕や記号が遺されていたのです。
次第にアメリカ軍の兵士も、精神に変調をきたすようになります。
「この森は何かおかしい」。
それはウォルシュが回収を命じられた、機密文書に関係があったのです…。

戦争ものとホラーの組み合わせ。
いったいどんなテイストになるんだろうと思いながら観ていましたが、予想以上に面白かったです。
その要因は、戦闘のシーンも、ホラーのおどろおどろしさも、どちらも高いレベルで描かれているから。
正直、ストーリーに目新しさはありません。ラストも…。あっ、口が滑りそうになりました(笑)。
でも、これはこれで立派なひとつのジャンル。大好きな人がいるはずです。★3つ。
『ウォーハント 魔界戦線』公式サイト


『帰らない日曜日』は、イギリス映画。

イギリスにも“母の日”があります。イースター(復活祭)の3週前、3月の日曜日です。
イギリス中のメイドが、年に一度の里帰りを許される日ですが、ニヴン家で働くジェーンは孤児。帰る家はありません。
ニヴン家には、ふたりの息子がいましたが、共に戦死。主人のゴドフリーは気丈に振る舞うも、妻のクラリーは、戦争の不条理に怒りをあらわにします。
ニヴン家は、仲のいいシェリンガム家とホブデイ家と、川縁でしばしば食事会を催します。
シェリンガム家の息子ポールとホブデイ家のエマは、結婚の約束を交わしているのですが、ポールは買い物途中のジェーンと知り合い、誰にも言えない秘密の恋に落ちるんですね。
1924年の母の日。
この日はポールとエマの婚約を祝う食事会の日。
しかし、ポールはジェーンを誰もいない邸宅に呼び、体を重ね、互いを求め合います。
遅刻は確信犯。ジェーンに別れを告げたポールは、食事会へと車を走らせるのですが…。

原作は、グレアム・スウィフト、2016年の小説「マザリング・サンデー」。
原作自体がもう少し古いものかと思うくらいの重厚さと、イギリスならではの貴族社会の在りように加え、戦争の悲惨さも描かれた作品。
ニヴン家のみならず、シェリンガム家もポールの兄2人を戦争で失っていたのです。
孤児院で育ったジェーンに、ニヴン家のクラリーが言います。
「あなたには失うものがない。それが強みよ」。
一見、見下げたように聞こえる言葉ですが、それは真理でもあって。
物語は、ジェーンのその後をも描いていきます。
人生を変えた、たったひとつの日曜日。
あなたにも訪れるかもしれませんョ。★3つ。
『帰らない日曜日』公式サイト


『瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと』は、ドキュメンタリー。

昨年の11月9日に、99歳で亡くなった、瀬戸内寂聴さん。
20歳で結婚し、娘を授かるも、6年後、家族を捨てて家を出ます。夫の教え子との不倫が原因でした。
1950年に正式に離婚すると、小説家を目指し、上京。不倫、三角関係、駆け落ち等を題材にした小説で人気作家になりますが、恋多き私生活も影響し、その作風を揶揄する声があったのも事実。
すると、1973年、51歳の時に出家。瀬戸内寂聴の名で、尼僧になります。
執筆業だけでなく、月に1度、京都の寂庵で行っていた法話には参加希望者が絶えず、生涯その人気が衰えることはありませんでした。
映画は、瀬戸内寂聴さんが心を許し、密着取材を許可したドキュメンタリーディレクターの中村裕監督がカメラを回した、17年間の記録。
寂聴さんから「裕さん」と慕われた関係だからこそ、見ることの出来る素顔、聞くことの出来る本音がたくさん。実にチャーミングな女性であることが、よく伝わります。
寂聴さんは言います。
「小説家は嘘つきだ」と。
フィクションで人を感動させる。つまるところ、嘘で人を喜ばせるということなのでしょう。
でも、法話の席で、長年連れ添った夫の死が悲しくて仕方ないと、涙ながらに相談する女性に、寂聴さんは言います。
「ご主人の魂は、あなたのそばにいるわよ。今もそこにいるの。あなたが毎日悲しんでたら、ご主人は心配で心配で…」
本当かもしれませんが、
嘘かもしれません(笑)。
書くことと、話すこと。形こそ違えど、やられていることは一緒。こんなにも求められるって、すごい…。
映画を観ながら、強く感じたのが、寂聴さん、晩年までよく肉を食らい、よく酒を飲む。大いに笑い、仕事も欠かさない。
これが健康と長寿の秘訣じゃないのかなと。
ならば、ボクも今のままでいいってこと?なんてね(笑)。
裕さんが親しいのはよくわかりますが、その親しさに、寂聴さんファンが観ると、ちょっとヤキモチ妬いちゃうんじゃないかなぁと。そこだけ、ちょっと心配です。
もしかしたら、プラトニックな二人の恋物語を描きたかったのかも。
オンラインで試写を観てからしばらく経って、最近そう思うようになりました。★3つ。
『瀬戸内寂聴 99年生きて思うこと』公式サイト


『私だけ聴こえる』は、ドキュメンタリー。

“CODA(コーダ)”は、Children Of Deaf Adultsの略。
意味は、“耳の聴こえない親から生まれた、耳の聴こえる子どもたち”。
耳が不自由な人たちからは耳が聴こえる存在として扱われ、学校では障がい者の子とされ。どちらにも居場所がないと語ります。
アメリカには年に一度、CODAだけが参加できるサマーキャンプがあり、15歳のMJは、それに初参加。すると、初めて自分と同じ悩みや価値観を抱く仲間がいることに気付くんですね。
学校では、自分を押し殺して、ただただ時間をやり過ごすだけだった彼女が、ありのままでいられる世界。楽しくて、楽しくて、仕方ありません。しかし、キャンプは永遠には続きません。
一方、手話通訳者のアシュリーは、日本在住者。東日本大震災で津波から難を逃れた聴覚障がい者を訪ねます。
そこで、災害時に、CODAが親に避難を伝えることの難しさを改めて知るんですね。
そんなアシュリーのお腹の中には赤ちゃんがいます。その子が健聴者かどうかは、産まれてくるまでわかりません。
自分はどちらを望んでいるのだろう。心は大きく揺れ動くのでした。
他にも、多感な年頃のCODAの若者たちが登場し、本音を語ります。
CODAをテーマにした映画『コーダ あいのうた』が、アカデミー賞作品賞を受賞。ボクも感動の物語に涙したひとりです。
でも、さらなる深淵というか、複雑な奥底を知ると、うわべだけで語れるものではないなと痛切に感じてしまいます。
あの感動は大事です。一方で、フィクションではないCODAの声を聞くことは、もっと大切かもしれません。★3つ。
『私だけ聴こえる』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.5.19
『a―ha THE MOVIE』★★★★
『シング・ア・ソング! 笑顔を咲かす歌声』★★★
『人生ドライブ』★★★
『辻占恋慕』★★★
(満点は★★★★★)


音楽を題材にした映画がメチャメチャ増えてます。
最近届いた試写状の多くが、“音楽モノ”。
今週紹介する4本のうち、3本もそうですからね。
ドキュメンタリーもあれば、フィクションもある。
世界中がコロナ禍で疲弊。戦時下のウクライナでも、戦う父を思って歌う少女の姿や、瓦礫と化した町をバックに演奏する楽団の映像などが感動を与えているように、心の安寧が失われた時代には、音楽が求められるのかもしれませんね。
★の数は、あくまで個人的嗜好です。あなたが気になる作品を見つけたら、是非チェックしてみて下さい。
さぁ、今週は4本です!

『a―ha THE MOVIE』は、80年代半ばに世界を席巻した人気バンドのドキュメンタリー。

1982年、ノルウェーのオスロで結成した3人組バンド、a―ha。
メンバーは、ボーカルでギターのモートン・ハルケット、ギターのポール・ワークター=サヴォイ、キーボードでギターのマグネ・フルホルメン。
結成後、あまり時を置かず、1983年に渡英。
84年に「テイク・オン・ミー」をリリースすると、自国ではヒットチャート3位を記録するも、あくまでローカルヒットにとどまります。
翌85年、アレンジを変えて再び同曲をリリースすると、軽快なシンセ・アレンジが世界中で受け入れられ、全米1位、全英2位の大ヒットを記録。一躍、ワールドワイドでの人気アーティストになります。
この時期、彼らに追い風だったのが、“ブリティッシュ・インベージョン”という流れ。
これは、MTV(ミュージック・テレビジョン)の出現で、ルックスのいいイギリスのバンドが、ミュージック・ビデオを武器に、アメリカのチャートを“侵略”したムーブメントのこと。
カルチャー・クラブ、デュラン・デュラン、カジャ・グー・グー、トンプソン・ツインズ…etc、枚挙にいとまがありません。
イケメンのボーカル、モートンを前面に押し出し、a―haもそれに乗る形で「テイク・オン・ミー」の大ヒットに繋げたのです。
商業的には大成功でしたが、彼らが求めていた売れ方とは差違があったのも確か。
メンバーの中に亀裂が生じたままバンドを継続するも、2010年に解散してしまいます。
しかし、2015年に再集結。地元オスロでの結成から40年経った今も、人気のライブバンドとして活躍しているのです。
「テイク・オン・ミー」のサビの部分を思い出してみて下さい。モートンの声域の一番低い部分に始まり、一番高い音まで一気に駆け上るメロディー。あのサビの部分こそが、モートンのボーカルの真骨頂なんですね。
コールドプレイのボーカル、クリス・マーティンやU2がリスペクトを表明し、オアシスもカニエ・ウエストもa―haの大ファンだと公言。後進に多大な影響を与えている存在なのです。
ボクらが抱いているイメージ以上に、a―haの音楽性は高尚なもの。だからこそ、今もトップクラスに君臨していられるのでしょう。
観てもらうとわかりますが、メンバー3人の確執はかなりのもの(苦笑)。でも、「この3人でないと音楽はやれない」と口を揃えます。
プロというか、職人の集団がバンドだとしたら、ステージの上で最高傑作を創るのが仕事。「それでいいんじゃない?」とも思ってしまいます。
音楽で結ばれた3人の絆。そして苦悩。あの頃が青春だった世代は是非!★4つ。
『a-ha THE MOVIE』公式サイト


『シング・ア・ソング! 笑顔を咲かす歌声』は、実話に基づくストーリー。

2009年のアフガン戦争時、イギリスは戦地に数多くの兵力を投入していました。
軍人を夫やパートナーに持つ女性たちは、基地の中で、ただただ愛する人の無事の帰還を待つしかありません。
そんな中、女性たちは互いに支え合うための活動を行ってきました。
新たなリーダーはリサ。
ところが、リサはあまりこの活動に積極的ではありません。すると、大佐の妻のケイトが手伝いたいと名乗り出るんですね。
実はケイト、息子のジェイミーを戦争で失い、夫のリチャードが再び戦場に向かった今、打ち込むことが欲しかったのです。
大佐の妻として毅然な態度のケイトと、フレンドリーなリサの意見は、何かにつけて対立します。
メンバーから、合唱をやろうという声があがったのですが、選曲ひとつにしてもぶつかり合う始末。
しかし、その練習を見に来ていた軍の上層部が、彼女たちを大きなイベントに推挙してしまいます。
それは、ロイヤル・アルバート・ホールで行われ、毎年イギリス中にTV放映もされる、戦没者追悼イベントで歌うことでした。
舞い上がる夫人たち。
しかし、メンバーのひとりで、結婚したばかりの、サラの夫が戦死したとの報せが届いたのです…。

映画『フル・モンティ』の、ピーター・カッタネオ監督作品。
『フル・モンティ』は、閉鎖になってしまう鉄工所の従業員たちが男性ストリッパーに転身しようと悪戦苦闘するコメディ。
ラストは「やったぁ!」という感じですが、「ちょっと待てよ。でも鉄工所は閉鎖なんだよな」と(笑)。
つまり、大きな問題をも凌駕する、小さな幸せというんですかね。それを描くのが、いかにもイギリス映画的。
そんなテイストがボクは大好きなんですが、この作品も、まさにそんな感じ。
夫の階級がそのまま妻の立ち位置になるようで、ケイトは品行方正でいようとするけれど、実は苦しくて仕方がない。
終盤、リサがケイトと同じように振る舞うようになる場面があるのですが、愛する人のことが心配で、不安で、押し潰されそうなのは皆同じなんだなと。
今のウクライナやロシアの、兵士の家族たちの気持ちを考えると、やはり苦しくなりますよね。
実話に基づくストーリー。キャタリック駐屯地に住む軍人の妻たちが始めたというこの合唱団は、今ではイギリス国内と海外で、75のグループが出来、2300人以上のメンバーが所属しているそうです。
平和を祈りつつ、クスッと笑い、ホロリと涙をこぼして下さい。★3つ。
『シング・ア・ソング! 笑顔を咲かす歌声』公式サイト


『人生ドライブ』は、熊本県に住む大家族の21年を追ったドキュメンタリー。

熊本県宇土市に住む、岸英治さん、信子さん夫妻。
60歳を過ぎても、本当に仲良し。まるで出逢ったばかりの恋人同士のような会話を、車の中で繰り広げます。
実はこのふたり、7男3女の子どもを持つ、大家族の父さん母さん。
英治さんはいくつもの仕事を掛け持ちしながら、朝から晩まで働きづめ。信子さんは、家の切り盛りで精一杯。
それでも子どもたちは、優しくすくすくと育ち、弟や妹が産まれると責任感は一段と増すようで、しっかり自分の役割を果たすようになっていきます。
岸家の子どもには、月に一度のお楽しみがあります。それは、自分の日というのがあって、この日はお父さんかお母さんの好きなほうを独り占め出来るんですね。外食しながら、二人きりでゆっくり話をする。貴重な時間でした。
母の病気、熊本の大震災、火災にも見舞われた岸家。
思春期のお兄ちゃんたちの髪型を見ても、ひねくれることなく育ったわけじゃないなと(笑)。そりゃ、反抗期もありますから。
ただ、本当にみんな優しい。映像の端々から見てとれると思います。
それはね、父の頑張りと、母の絶やすことのない笑顔を、10人の子どもたちがしっかり見てきたから。
熊本県民テレビが、日本テレビ系29局が制作する「NNNドキュメント」で放送した番組を、劇場用に再編集した1本。21年、よくカメラを回し続けました。スタッフにも拍手です。
幸せって何だろうと探している人がいたら、ヒントが見つかるかもしれませんョ。★3つ。
『人生ドライブ』公式サイト


『辻占恋慕』は、売れないミュージシャンとマネージャーの物語。

ある日の、とあるライブハウス。
出番が近づいていたロックデュオ、チカチーロンズの、ギターの直也が来ません。ボーカル信太の電話にも出ず、困り果てていると、次に出演するシンガーソングライターの月見ゆべしが、「よかったら、ギターを弾きましょうか?」と声をかけるんですね。
信太とゆべし。共に三十路の売れないミュージシャン。
ふたりは似た境遇に惹かれ合ったのか、恋人として付き合い始めます。
すると、信太はミュージシャンをあきらめ、ゆべしを売り出すために、マネージャーに転身します。
ところが、何とかメジャーで勝負したい信太と、自分のスタイルを貫きたいゆべしの間に、当たり前のように方向性の違いが生じてきます。
果たして、ふたりは夢を叶えることが出来るのでしょうか…。

この業界に長くいると、よく見るシーンというか、確かにあるよなというお話。
初めはみんなアマチュアで、その中から、ほんのひと握りの才能がメジャーデビューを果たします。
でも、そこはゴールじゃない。あくまでスタートラインに立っただけ。音楽で食っていこうとしたならば、そこからがさらに大変なわけです。売れなきゃいけないんだから。
昔、ボクの番組にゲストで来た、デビューしたての新人くんが、リスナーへのメッセージとして、「諦めなければ夢は叶いますから」と言うのを聞いて、腹の中で「君の夢はメジャーデビューでおしまい?」と思ったことが何度もあります。
一生“自称ミュージシャン”でもいいんですよ。その人の人生だから。でもね、どうなんだろ。
音楽業界は、本当に厳しい世界です。いい曲が売れるとは限らないから。
なんて、夢のない話をしてますかね(笑)。
大切なのは、本気でやり切ること。やり切った人だけが、その先に道を見つけられるから。それは、同じ道の延長かもしれないし、これまでとは違う道かもしれません。
でも、やり切らないと霧の中なんですよ。
区切りをつけるための目安は、年齢じゃない。やり切った感だと思います。
なんて、人生を語りたくなる映画かな(笑)。★3つ。
『辻占恋慕』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.5.12
『グロリアス 世界を動かした女たち』★★★
『劇場版 おいしい給食 卒業』★★★
(満点は★★★★★)


大型連休が終わり、普通の日常が戻ってきました。
この時期、見られるようになるのが“五月病”。
もし、ちょっとツラいなぁと感じたら、映画でも見てみませんか?
今年に入って、いい作品がたくさん公開されています。もしかしたら、心を癒してくれるかも(^-^)
さぁ、今週は2本です!

『グロリアス 世界を動かした女たち』は、実在の女性活動家の物語。

アメリカのオハイオ州トレドに生まれた、グロリア・スタイネム。
父親は安定した生活を望まない“山師”のようなタイプのセールスマンで、引っ越しも多く、彼女が10歳の時に両親は離婚してしまいます。
大学に入ると、2年間インドに留学。その時、男性に虐げられてきた女性の話を聞くボランティアに参加。その経験がグロリアの心に火をつけ、帰国後はジャーナリストとして、働き始めます。
しかし、社会的なテーマを取り扱いたいのに、女性というだけで任されるのはファッションや恋愛の記事ばかり。
グロリアは思いきって、バニーガール姿の女性が接客をする「プレイボーイ・クラブ」に、自らバニーガールとして潜入。女性を性の売り物にしていると内側からの取材を敢行すると、記事としてはこれが大当り。しかし、今度はそのイメージが先行し、なかなか思うような仕事ができずにいたのです。
それでも、TVへの露出も増え、知名度を上げていったグロリアは、40代になると、志を同じくする仲間と共に、女性のための雑誌「MS.」を刊行。
この雑誌の名前にもなった“MS.”は、未婚も既婚も関係のない、あらゆる女性に使える新たな敬称として、全米に広まっていったのです…。

1960年代から70年代にかけて、女性の権利を訴え、女性解放運動に生涯を捧げてきた、フェミニズム活動家のグロリア・スタイネムの伝記映画です。
劇中、幼少期、少女期、青年期、そして壮年期と、それぞれのグロリアを、4人の女優たちが演じます。中でも、青年期はアリシア・ヴィキャンデルが、壮年期はジュリアン・ムーアが担当。
回顧の中で、時に同じ場面に登場し、当時の自分と今の自分が語り合うシーンは、強い意志を持ちながらも、壁にぶつかり悩む、そんな自分自身を表現しているのでしょう。時代を変える。その先頭に立つ人の宿命…。
映画では、グロリアの周りの女性活動家たちも描いています。
グロリア・スタイネム、現在88歳。
世の中の変化には、こんな女性たちの奮闘があったんだというのを学べる1本です。★3つ。
『グロリアス 世界を動かした女たち』公式サイト


『劇場版 おいしい給食 卒業』は、人気ドラマシリーズの劇場版第2弾。

甘利田幸男は、“給食命”の中学校教師。
前の赴任先だった常節(とこぶし)中学には、神野ゴウという、これまた給食をこよなく愛する生徒がいて、ふたりはその日の献立をいかに美味しく食べるかで、バトルを繰り返していたのです。
新たな赴任先となった黍名子(きびなご)中学でも、給食だけが楽しみな甘利田でしたが、1986年の秋、なんと甘利田のクラスに、神野が転校して来るんですね。
再び始まった“給食バトル”。
一方、常節市の教育委員長だった鏑木が、黍名子市教育委員会に、職員としてやってきます。この鏑木、常節時代は給食廃止を唱えた人物。甘利田とはバチバチの仲です。
すると、突然、給食メニューの改革案が決まったという知らせが届きます。
生徒の健康をより重要視するという建前ながら、あまりに味気ない給食メニューへの改悪に、鏑木の影を感じた甘利田。
受験を間近に控えた神野だって、黙ってはいられません。
おいしい給食の存続を賭けた、熱い戦いが始まったのです…。

前作に引き続き、甘利田幸男役には、いかにも熱い男、市原隼人。
宿敵とも言える神野ゴウとの給食バトルが、神野の卒業で終焉を迎えるのですが、すんなりと卒業とはいかず、大人の事情で一悶着。
ふたりの給食愛が、分厚い壁をぶち壊すことが出来るのでしょうか?というお話。
今回もマドンナがいます。それは学年主任の宗方早苗先生。
ある日、駄菓子屋でバッタリ会ったふたりは、店先のベンチで会話。ところが、まったく酒が飲めない甘利田は、ウイスキーボンボンで、ベロベロに酔っ払ってしまうんですね。そして、宗方先生に何かを言ったようなのですが、まったく記憶がない。
しかし、その日から宗方先生の態度が明らかに違う。男として意識している目に変わっていたのです。
これがもうひとつのサイドストーリー(笑)。
バカバカしいけど、どこか懐かしい。ドラマに留まらず、様々な形に発展していく人気の理由は、そんなところにもあるんだと思います。
公開する映画館の売店も、この作品の上映期間だけは、揚げパンとか、給食にちなんだ商品を売ればいいのに。砂糖がこぼれて掃除が大変かな(笑)。★3つ。
『劇場版 おいしい給食 卒業』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.5.6
『オードリー・ヘプバーン』★★★★★
(満点は★★★★★)


GW、いかがお過ごしですか?
先日、知人が「GWは映画をたくさん観る」と言っていたので、お勧めを数本紹介。すると、「じゃ、ネットで観ます」。
いやいや、それはまだ劇場公開中だから(笑)。
「過去の作品なら、ボクの公式サイトのColumnからMovieを選べば、昔の紹介コラムを読めるョ」と伝えておきました。
あなたもよかったら、活用して下さいね!!
映画の鑑賞方法も様々。“時代”ですね(笑)。
さぁ、今週は1本です!

『オードリー・ヘプバーン』は、世界的大女優のドキュメンタリー。

1929年5月4日、ベルギーのブリュッセルに生まれた、オードリー・ヘプバーン。 幼少期は、第二次世界大戦と家庭の事情から、ヨーロッパのあちらこちらを、転々として暮らします。 中でも影響を与えたのが、オランダ時代。 実は父親が家族を捨てて出ていっており、母はドイツの侵略から逃れようと、第一次世界大戦では中立国だったオランダを選んだのですが、そこにもドイツが進攻。オードリーは、家族や親戚の処刑、追放、収監などを経験し、自らも栄養失調に苦しみます。 その時、彼女を助けたのがユニセフの前身となるUNRRAでした。 終戦後、バレエを始めたオードリーは、舞台俳優へと転身し、映画にも出演するようになると、ブロードウェイの『ジジ』の主役に抜擢。 さらにパラマウント映画『ローマの休日』の王女役で、一躍世界中の人気を集めることになります。 以後の華々しい活躍は、衆知の通りですが、そのひとつひとつにエピソードがあり、この映画では、オードリーの息子や孫、映画関係者はもとより、家族ぐるみで親しかった友人たちのインタビューもふんだんに用いられていて、真のオードリーの素顔をうかがい知ることが出来ます。 70年代以降、一時期、一切の仕事を離れ、子どもとの生活を選ぶのですが、そこにあったのは、自身が体験出来なかった“理想の家族像”、つまり、愛に溢れた家庭を作りたいという思いがあったんだと言います。 2度の結婚、そして2度の離婚。これも、ハリウッドの人気スターが、くっついては離れ、離れてはくっつくのとは違って、理想を追い求めた結果の離婚だと映画では語られています。 そんなオードリーが、晩年、人生を捧げたのが、ユニセフでの活動でした。 スクリーンから遠ざかり、ゆっくり休むどころか、貧困に苦しむ子どもたちを救いたいと、紛争地やアフリカの貧しい国を精力的に回る彼女は、今まで以上に多忙になります。 そこには、自身が幼少期に助けてもらった記憶があるから。「今度は自分が助ける番」という思いから、立ち上がらずにはいられなかったんですね。 ずっと欲しかった父親からの愛、温かい家庭。そして、平和、貧困のない世界。 世界中から愛されてきたオードリー・ヘプバーンが、実は最も愛に飢えていた。それを一生追い求め、それでも最後の最後まで、愛を与える側で生き抜いた。彼女の素晴らしい生きざまを知ることの出来る1本です。 1993年1月20日没。 これだけの大スターですから、様々な伝記本が出ていますが、「いい加減なものばかり」なんだそう。そんな中、「この作品は、母が目一杯生きた人生の真実の物語」だと、オードリーの長男がコメントを寄せています。 人は大小にかかわらず、何かしら使命を持って生まれてくるのかなと、そんな運命のようなものすら感じてしまう、オードリー・ヘプバーンの一生。是非、体感してみて下さい。 満点!★5つ!
『オードリー・ヘプバーン』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.4.28
『N号棟』★★★
『ツユクサ』★★★
『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』★★★★★
『不都合な理想の夫婦』★★★
(満点は★★★★★)


いよいよ、ゴールデン・ウィーク。
今年は、5月2日(月)と6日(金)を休むと、最長10連休だとか。
ボクもだいぶイベントの仕事が戻ってきましたが、それでも時間が作れそう。なので、たくさん送って頂いたオンラインの試写をまとめて観たいと思ってます。
あなたも映画館に是非!
さぁ、今週は4本です!

『N号棟』は、実話をモチーフにしたホラー映画。

史織は女子大生。彼女は、死に対して過剰に恐怖を感じる“タナトフォビア”という、心の不安症を抱えていました。
史織の元カレである啓太が、卒業制作にホラー映画を撮ると聞き、準備のロケハンに軽い気持ちで同行する史織。
ロケ地はかつて霊が出ると話題になった、ある地方都市の団地です。
この旅には、啓太の今の恋人で、史織の友だちでもある真帆も一緒でした。
廃墟と聞いて訪れたのに、敷地内に足を踏み入れたら、住人がいることに気づいた3人。
管理人を名乗る男性に、「引っ越したくて、部屋の内見に来た」と咄嗟の嘘をつく史織たち。
すると、快く空き部屋に通してくれて、周りの住人も気持ちよく挨拶をしてくれます。
しかし、この部屋は、明らかに何かがおかしい。
ラップ音、謎のシミ、そして異臭。
その夜、歓迎会を開いてくれた住人たちに、「実は、内見ではなく、ホラー映画を撮るために来た」と真実を語ると、皆の態度と表情が一変したのです…。

なかなか面白かったです。
ホラー映画ですが、監督の死生観が描かれているよう。
ちょっぴり宗教的な表現も借りながら、物語は終末を迎えます。
ネタバレが一番まずいタイプの映画なので、多くは語りませんが、団地の住人のリーダー的な存在として、加奈子という女性がいるんですが、この加奈子が笑って人を刺すようなタイプというか。
これがストーリーの不気味さに加え、背景にある論理の説得力みたいなものを醸し出している気がしました。カルト集団のトップは、意外とこういう人なんじゃないのかなぁと。
ちなみに、モチーフになったのは、岐阜県富加町にある実在の団地で、“幽霊団地事件”として2000年に話題になったそうです。★3つ。
『N号棟』公式サイト


『ツユクサ』は、ささやかな大人の日常を描いた、それでもちょっぴりドラマチックな物語。

五十嵐芙美、49歳。独身。
とある田舎の港町にある、タオル工場で働いています。
実は、芙美は息子を亡くしていて、お酒に溺れた自分に勝とうと、断酒の会に入っていました。
職場には、気の合うふたりの同僚がいます。櫛本直子と菊地妙子。
直子には10歳になる、息子の航平がいるんですが、この航平が芙美の大親友。
ある日のこと、宇宙から隕石が降ってきて、その小さな欠片が芙美の運転する車にぶつかり、転倒してしまうんですね。
幸い、芙美に怪我はなかったのですが、望遠鏡を覗き込むのが大好きな航平は、「すげー。芙美ちゃん、隕石にぶつかる確率は一億分の1なんだぜ!」と大興奮。
そんな出来事があったにもかかわらず、何も変わらぬ日々を過ごしていた芙美でしたが、ある日のこと、行きつけのスナックでソフトドリンクを飲んでいると、ジョギングをしている道でよくすれ違う、工場現場のガードマンの男性とバッタリ。
そこから熟年男女の、ぎこちないやりとりが始まるのです…。

平山秀幸監督最新作。
芙美に小林聡美、恋心を抱く篠田吾郎に松重豊。他にも、そうそうたるバイプレイヤーたちが、脇を固めています。気になるキャストは、公式サイトでチェックしてみて下さい。
登場人物は、航平を除いて、みんな熟年の男女ばかり。これまでの、ひとりひとりの人生に、喜びもあれば傷もある。いや、10歳の航平にも、すでに悩みはいろいろあって(笑)。
でもね、人はまだまだ前を向いて、生きていかなきゃいけない訳ですよ。
映画の冒頭で、隕石の話になるので、SFチックな話かと思いきや、そうじゃない。おそらく、そんなスペシャルに思える偶然も、生きていく上で起こる様々な出来事や出会いも、同じぐらい特別な奇跡なんですよ、ということを表現したかったんじゃないのかなと。
ちなみに、ツユクサは、吾郎が得意な草笛を吹く時に用いる葉っぱです。
今までも、これからも、最後までいろいろあるのが人生。だから人生は面白い。キャッチコピーにあるとおり、“大人のおとぎ話”だと思います。
エンディングに流れるのが、1969年の中山千夏「あなたの心に」。平山監督、ナイスチョイスです!★3つ。
『ツユクサ』公式サイト


『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』は、コロンビア出身の人気芸術家、フェルナンド・ボテロの半生を追った伝記映画。

1932年4月19日、コロンビアに生まれた、フェルナンド・ボテロ・アングーロ、90歳。今も現役の芸術家です。
一度見たら、絶対に忘れることのない、“ぽっちゃり”、“ふくよか”な作風で大人気の世界的画家、彫刻家です。
そんな彼の、これまでの波瀾万丈の人生を追いかけたドキュメンタリー映画が、この作品。
10代半ば、闘牛士の養成学校へ通っていたボテロ少年でしたが、熱中したのは闘牛の絵を描くことでした。
すると、闘牛士は向いていないとイラストレーターになり、なんとか食いつないでいきます。
節約を重ね、お金を貯めてヨーロッパに渡ると、スペインからイタリアへと渡り歩き、著名な画家の絵を見たり、大学で理論を学んだりしながら、絵画への造詣を深めていくんですね。
お金が底をつくと、コロンビアへ戻り、今度はメキシコへと移住。
アトリエで、楽器のマンドリンを描いていた時のこと。丸々と大きなマンドリン描き、開口部を意識的に小さく描いたら、「マンドリンがとてつもなく大きく膨れ上がって、爆発したような感覚を得られた」と言います。
これが、彼の一生の作風を決定づけた出来事でした。
見たことありませんか?ぽっちゃりのモナリザの肖像画。
ぷっと小さく吹き出しちゃうけど、小馬鹿にしているわけじゃなく、幸せな気分になって、つい口から出ちゃう。多くの人が、そんな感じで彼の作品を眺めているはずです。
そんなボテロにも、つらい出来事がありました。
息子をひとり、事故で亡くしているんですね。
それが創作意欲にどう繋がったのか。作品に込められることになった思いとは?
そのあたりを知って、彼の絵画や彫刻を眺めると、また違った発見があるのかも。
ボテロの作風は、その名前から“ボテリズム”と呼ばれていますが、日本語として聞くと、まさにふくよかさを言い表すかのよう(笑)。日本に不思議な縁があるのかもしれませんョ。
実は、映画の公開日と同じ4月29日(金)から、Bunkamura ザ・ミュージアムで、26年ぶりとなる『ボテロ展 ふくよかな魔法』(7月3日まで)が開催されます。
映画はBunkamuraル・シネマでの公開ですから、映画を観てから、ボテロ展に行くのがお薦め!GWに是非!
こういう絵を、笑顔で眺めていられる平和な世の中であることを切望します。
今こそ、フェルナンド・ボテロかも。満点!★5つ!
『フェルナンド・ボテロ 豊満な人生』公式サイト


『不都合な理想の夫婦』は、成功を掴んだはずの夫婦の崩壊を描いた心理スリラー。

時代は1986年。イギリス人のローリーは、ニューヨークに渡り、貿易商として成功。
アメリカ人の妻アリソンと、彼女の連れ子である娘のサマンサと、ふたりの間に出来た息子のベンジャミンとの4人で、裕福な暮らしを送っていました。
しかし、現状に満足しないローリーは、イギリス経済が好況だと知ると、ロンドンへの移住を提案します。
新しい職場は、かつての上司が経営する企業。ローリーは成功者として会社への復帰を歓迎されるんですね。
郊外に豪邸を借り、ベンジャミンを名門校へ通わせ、妻には趣味である乗馬用の土地と馬を用意し。
しかし、意外と早く、ほころびが見え始めます。
馬舎の工事が進まないことを不審に思ったアリソンが、業者を問い詰めたところ、工事代金が支払われていないというのです。
実は、ローリーの資金は底をついていたのです…。

仕事が出来るようで、中身はペラペラなやつ。
成功者のようでいて、見栄を張りたいだけの人。
優しいふりをして、腹の中では自分のことしか考えていない人間。
あなたの周りにも、いませんか?
すべてがあてはまってしまうのが、ジュード・ロウ演じる、このローリー・オハラという男なんですね。
夫婦の崩壊は、すなわち家族の崩壊。“4人家族”ですが、サマンサはアリソンの連れ子です。言わんとしていることは、なんとなく察知してもらえるかと思います。
そんな心の内も、ローリーのある行動に表れていて。
気づかないうちに(気づけよって感じですが)、究極の孤独を自ら作り出してしまったローリーと、そんなパートナーを選んでしまったアリソン。そして、親を選べない子どもたち。
観ているこちらも、どんどん暗い気持ちになっていきます。
じゃ、この先、この家族がどうなっていくのか?
そのヒントは、ラストシーンにあるとボクは見ています。言いたいけど、言わない。言えない(笑)。
そんなあれこれが、劇中のあちらこちらに散りばめられている、パズルのような心理スリラーでもあります。
感情移入しすぎず、謎解きを楽しむように観るのがいいかもしれません。★3つ。
『不都合な理想の夫婦』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.4.22
『KKKをぶっ飛ばせ!』★★
『ZAPPA』★★★
『パリ13区』★★★
『ベルイマン島にて』★★★★
(満点は★★★★★)


GWが近づいてきました。
もう予定は立てましたか?
まだ旅行はちょっと…という方、映画館に足を運んでみてはいかがです?
そもそも“ゴールデンウィーク”という言葉は、映画業界の造語ですからね。
このコラムで興味を持った作品があったら、大きなスクリーンで是非!
意外や映画館って、非日常を与えてくれる場所だと思いますョ。
さぁ、今週は4本です!

『KKKをぶっ飛ばせ!』は、TOCANAの配給作品。

1971年、アメリカのテネシー州。
無実の罪で収監されていた、若き黒人男性のブランドンが、刑務所から脱獄。
兄のクラレンスと姉のアンジェラが、車に弟を乗せ、郊外にある今は廃墟となった牧場に身を潜めさせます。
ところが、そこは白人至上主義の秘密結社、KKKの活動拠点。
その一派は、KKKの中でも異常な集団で、黒人を捕らえては殺害し、その肉を食べていたのです。
白ずくめの男たちに襲われるブランドンたち。兄は命を奪われ、姉は暴行を受けます。
拘束からなんとか抜け出したブランドンは、姉を助け出すことに成功します。
そこから、姉弟ふたりの逆襲が始まったのです…。

TOCANAの映画は最近、人肉喰いばかり(笑)。
タイトルからちょっぴり期待し、ポスター画像からB級感を察知し。
いかにもTOCANAらしい作品だなと。
あ、もちろん、いい意味でですョ。だって、これが独自のカラー、オリジナリティですから。
“リベンジ・バイオレンス巨編”とのキャッチコピーがありましたが、マニア向けの、まさにそんな1本。
★の数は少ないですが、TOCANAの映画には、それが勲章になりつつあるんじゃないかと思い始めた、今日この頃です(笑)。★2つ。
『KKKをぶっ飛ばせ!』公式サイト


『ZAPPA』は、アメリカの世界的人気ロック・アーティスト、フランク・ザッパの生涯を描いたドキュメンタリー。

1940年12月、アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモアで生まれた、フランク・ヴィンセント・ザッパ。
12歳でドラムを始め、17歳でギターを持つと、自らのバンドを組んで演奏活動を始めます。
64年に、ザ・ソウル・ジャイアンツに加入。翌65年、バンド名をザ・マザーズ・オブ・インヴェンションに変え、MGMと契約。66年、アルバム『フリーク・アウト』でデビューを果たします。
68年にアルバム『ランピー・グレイヴィ』でソロ・デビュー。続く69年の『ホット・ラッツ』は、イギリスでヒット。70年に入ると自らのソロ活動に力を入れ始めます。
彼の音楽は、商業的観念とはほど遠く、スマッシュ・ヒットと言えば、娘のムーン・ザッパと共演した「Valley Girl」(82年)ぐらい。
何のために音楽をやるかというと、「自分が作曲した曲を自分で聴きたいからだ」と言います。
そのためには最高のミュージシャンを集め、その演奏を録音する必要がある。「聴きたかったら聴かせてあげるよ」。それがレコードだと言うのです。
ですよね?ファンの皆さん?(笑)。
というのも、ボクは80年代は専らダンス・ミュージック、ディスコ・サウンドを聴いていたので、フランク・ザッパの曲は、正直、あまり耳にしていませんでした。
ただ、印象には残っていて、ロン毛の変なロックをやるオジサンというイメージ(失礼!)。
でも、この伝記映画を観て、彼の深さというか、音楽に対する一貫した思いを知ることが出来ました。
映画の冒頭、彼の最後のライブ・ステージの映像が流れます。
1989年、当時のチェコスロバキアで“ビロード革命”が起き、民主化を勝ち取った記念に開かれたコンサートです。
そこでザッパは言うんですね。
「新しい変化に直面しても、チェコのユニークさは守っていって欲しい。他のものに変えるんじゃなく、他にはない国のままに」と。
まるで、自身の音楽スタイルそのものじゃないですか。
現地に入った時、本人も驚くほどの熱烈な歓迎を受けるのですが、チェコスロバキアの国民曰く、「フランク・ザッパは自由の象徴なんだ」と。
型にとらわれず、好きな音楽を思うがままに作曲し、演奏し、録音する。「評価は人がする」とよく言いますが、まさに自分の手を離れ、音楽が“人間”フランク・ザッパを投影し、遠く欧州の地で高く評価されたのですから、素晴らしいことですよね。
1993年12月4日没。
その生き方に、ファンでなくても感じ入る何かがあると思いますョ。是非、ご覧になってみて下さい。★3つ。
『ZAPPA』公式サイト


『パリ13区』は、モノクロで描かれた男女4人の恋物語。

パリ13区のアパルトメントに暮らす、台湾系フランス人のエミリー。
ルームシェアの相手を募集したところ、アフリカ系フランス人のカミーユがやってきます。
カミーユは高校教師をしている男性で、「さすがに男性は…」と断るエミリーでしたが、カミーユに押されてルームメイトになります。
すぐに身体の関係を持ち、彼に熱くなるエミリーに対し、カミーユはあくまでルームメイトと突き放します。
その頃、もう一度しっかり法律を学びたいと、大学に復学したノラという女性がいました。
年齢差もあって、なかなかクラスメートに馴染めずにいたノラでしたが、学生企画のパーティに、思い切って金のウィッグで参加したところ、ネットのポルノサイトで大人気のアンバー・スウィートというポルノスターと勘違いされ、噂が学内に広まってしまいます。
大学に行きづらくなったノラは、アンバー・スウィートと有料サイトで接触。すると、意外なことに、会話が心地いいではありませんか。それはアンバー・スウィートも同様でした。
エミリー、カミーユ、ノラ、アンバー・スウィート。4人の男女の人生の糸が、パリ13区の街で、絡まりあったり、ほどけたり。ドラマを作りながら、日々が過ぎていくのでした…。

パリの13区は、ヨーロッパらしい街並みがある一方で、中華街があったりと、アジア系の住民も多く、右岸の中では最も庶民的な地域だそう。
そこに暮らすミレニアル世代の若者たち。SNSで簡単に人と繋がることは出来るけれど、リアルの関係はなかなか築きづらいんだというテーマが、根底にあるようです。
あらすじとして、関係が始まる部分だけ書きましたが、カミーユが知人の不動産業を手伝っているところへ、ノラがアルバイトとしてやってきます。そして、ノラとカミーユも体を重ねる関係に。
カミーユが去り、コールセンターで働くエミリーは、刺激が欲しいし、出会いが欲しい。
モノクロで描かれると、日常が特別なものとしてストーリー性を増すんだなぁと。
映画『ベルファスト』もそうでしたもんね。
大胆な性描写があり、映倫区分はR18+です。
国や地域は違えど、若者の悩みは世界共通。いや、若者に限らず、大人だって、出会いは欲しいですもんね(笑)。
ちょっと刺激的な海外旅行気分でどうぞ。★3つ。
『パリ13区』公式サイト


『ベルイマン島にて』は、女性映画監督ミア・ハンセン=ラブの半自伝的恋愛映画。

トニーとクリスは、年の離れたカップル。ふたりとも、映画監督です。
幼い娘がいましたが、パートナーとしての仲は倦怠期。脚本の執筆も進まない中、ふたりが尊敬するイングマール・ベルイマン監督が創作活動をし、終の住処にもした、スウェーデンのフォーレ島へとやって来ます。
ここにはベルイマン亡き後、彼の遺志に従い、世界中のアーティストやクリエイターに開放された“ベルイマン・エステート”という取り組みがあり、トニーとクリスもそれを利用して施設に滞在。フォーレ島は、ベルイマン島と呼ばれていたのです。
創作活動のためにと、少し離れた建物に寝泊まりするふたり。関係を前向きに見直すどころか、すれ違いが如実に露呈していきます。
監督としてのトニーに、畏怖すら感じているクリスは、自分の中に出来上がっている脚本をトニーに話し、結末がどうしても作れないとアドバイスを求めるのですが、トニーは「それはボクの役目じゃない」と突き放します。
風光明媚なベイルマン島は、ふたりにどんな未来の筋書きを授けるのでしょうか…。

バルト海にあるフォーレ島。
北欧の美しい景観が、まずは観る者に旅行気分を与えてくれます。
その一方で、破局を予感させる年の差カップルの物語ですから、心象風景にはどんよりした部分もあって。
途中、クリスの作りかけの脚本が、劇中劇として展開するのですが、これがこの映画のもうひとつの核になっているんですね。
友達の結婚式で再会してしまった、元彼との恋愛物語。
“一度目は早すぎて、二度目は遅すぎた”。そんな出会いのストーリー。
あるなぁという感じ(笑)。
ミア・ハンセン=ラブもベルイマン・エステートでフォーレ島に来たそう。実生活では、ふた回りも年上の男性との間に娘をもうけ、そして別れ…。
虚と実が入り交じる様は、最後の最後まで観る人を惑わせるかも。
でも人生って、そんなもんじゃないですか?ってお話です。
鑑賞後に振り返った時、確かに、映画らしい映画だなと。考えれば考えるほど、場面場面を深く掘り下げることが出来るはず。
ビターなチョコレートのような、大人の1本です。★4つ。
『ベルイマン島にて』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.4.15
『ニワトリ☆フェニックス』★★★
『バーニング・ダウン 爆発都市』★★★
『ミューン 月の守護者の伝説』★★★
(満点は★★★★★)


『ミューン 月の守護者の伝説』は、4月19日(火)の公開ですが、ここでご紹介しておきますね。
さぁ、今週は3本です!

『ニワトリ☆フェニックス』は、男ふたりのロード・ムービー。

幼なじみの草太と楽人。
大人になったふたりでしたが、どちらもなにか“訳あり”な雰囲気を漂わせていました。
そんな草太と楽人が、SNSで見た“火の鳥”を探す旅に出ます。
古いアメ車のオープンカーに乗って、あてもなく走る、男ふたり。
途中で出会う風変わりな人、訪れた奇妙な場所。
しかし、そんな旅路の出来事のひとつひとつが、草太と楽人に、人生を教えてくれたのです…。

2018年公開の映画『ニワトリ★スター』の主要キャストが、再び集まった“再構築ムービー”だそう。
主演は井浦新、成田凌。
妖怪スナック、SMの城、客のいない映画館などに立ち寄り、農業ラッパーや僧侶らと出会い。
並行して、ひとりの花嫁の物語が展開するという。
“火の鳥”がいないことなんてわかっている草太と楽人。
この旅は、束の間の現実逃避。
でも、誰にでも、そんな気分になる時ってあるんじゃないでしょうか。
実は、今年2月に伊勢神宮に参拝に行ったのですが、あちこちの店にこの映画のチラシが貼られていて。
これもなにかのご縁かなと思い、試写会に足を運びました。
インディーズらしい匂いのする作品。好きな人はハマると思いますョ。★3つ。
『ニワトリ☆フェニックス』公式サイト


『バーニング・ダウン 爆発都市』は、香港・中国合作のサスペンス・アクション。

爆弾処理班のエース、フォン。
しかし、ある事件現場で、仕掛けられていた爆弾の爆発に巻き込まれ、左足を失ってしまいます。
義足となったフォンでしたが、不屈の精神と鍛練で、以前と変わらない運動能力を取り戻します。
ところが、警察の上層部は、フォンの現場復帰を
認めません。
怒りと共に、フォンは警察を辞めてしまうんですね。
そんな彼が次に発見されたのは、大きなホテルで起こった爆弾テロの残骸の中。重体となったフォンが、この事件の容疑者として、病院に収容されたのです。
警察の尋問を受けるフォン。しかし、彼は記憶を失っていたのです…。

2017年(日本公開は2018年)の映画『SHOCK WAVE ショック ウェイブ 爆弾処理班』のパート2。
どちらも主演はアンディ・ラウですが、完全なる続編ではなく、設定やストーリーはリセットされています。
記憶を失ったフォンのもとに、なぜかやってくる、テロ組織・復生会のリーダー“ブリザード”。
警察官だった自分と、テロ組織の一員になったかもしれない自分。
記憶を失ったフォンは、正義と悪の間で揺れ動きます。
新たに復生会が企てていたのは、核を使ったテロ事件。起きてしまえば、香港は壊滅状態に。
果たして、フォンはどんな行動を取るのでしょうかというお話。
制作費は44億円だそうですが、本国での興行収入は230億円を突破したそう。やっぱり中国はデカい…(笑)。
迫力満点の映像が流れます。ボクはオンライン試写ゆえ、スマホの画面で観させてもらいましたが、大きなスクリーンのほうが、絶対に楽しめる1本です。★3つ。
『バーニング・ダウン 爆発都市』公式サイト


『ミューン 月の守護者の伝説』は、フランスのアニメーション。

太陽と月が同時に出ている不思議な世界。
太陽と月には、それぞれに“守護者”がいて、互いの役割を守っていました。
先代の守護者が350歳という高齢になり、後継者を決める任命式で、太陽の守護者にはソホーンが、月の守護者にはミューンが指名されます。
これには驚きの声が上がります。
なぜなら、ソホーンは自他共に認める最有力候補でしたが、月の守護者はリユーンが選ばれるだろうという声が大多数だったから。
一方のミューンはといえば、森の中に暮らす、いたずら好きで、細くて、青白い子ども。本人も「なにかの間違いでは?
」と目をパチクリ。
案の定、失敗ばかりを繰り返すミューン。その結果、月を失い、太陽をも盗まれてしまいます。
太陽を奪ったのは、かつて太陽の守護者だったネクロスでした。
彼は守護者の時代に、太陽を我がものにしようとして追放され、冥界に閉じ込められていたのですが、この混乱を好機と見て復活。地上を闇の世界へと変えてしまったのです。
自らの未熟さと責任感の無さで、地上を一変させてしまったミューンは、ソホーンや仲間と共に、月と太陽を奪還しようとネクロスに挑むのでした…。

フランスの長編ファンタジーアニメ。
2014年の作品が、待望の日本公開です。
レベルの高さにびっくり。キャラクターもかわいいし、映像も実にキレイ。クレジットにもありますが、実は3D+2Dアニメーション。描き方にもアイデアがいっぱいです。
ミューンの成長の物語なんですが、そこには仲間もいます。
特に重要な役割を果たすのが、グリムという蝋(ロウ)で出来た女の子。
昼は太陽の熱で溶けちゃうし、夜は寒さで固まってしまうので、行動できる時間は限られているのに、グリムは好奇心旺盛で、自由奔放な女の子。お父さんは、そんな娘が心配でなりません。
そのグリムが、ミューンたちと一緒に、世界を救おうと頑張ります。
性別や環境にかかわらず、自分次第で、いくらでもやれるんだというメッセージの象徴のような存在です。
他にも、まぁ可愛らしいキャラクターがたくさん!
公式サイトでチェックしてみて下さい。きっと、大きなスクリーンで会いたくなるはずです(^-^)
大人も、間違いなく楽しめるアニメです!★4つ。
『ミューン 月の守護者の伝説』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.4.06
『潜水艦クルスクの生存者たち』★★★
(満点は★★★★★)


新年度になり、環境が変わったという人も多いはず。
ちょっぴり行き詰まった時、心の隙間を埋めてくれるのは映画かもしれませんョ。
さぁ、今週は1本です!

『潜水艦クルスクの生存者たち』は、事実に基づくストーリー。

2000年、ロシア。
軍事演習のため、ロシア海軍が集結し、原子力潜水艦クルスク号も参加。
しかし、北極海に潜ったところで、積載している魚雷の温度が急上昇。そして、爆発。クルスク号は、海底へと沈んでしまいます。
118名の乗組員のうち、生き残った23名は艦尾に移り、他の区域と遮断。救助を信じて待つしか手はありません。
しかし、酸素にも限りがあります。司令官のミハイルを中心に、懸命に策を練る乗組員たち。
その頃、地上でもクルスク号の事故が確認され、乗組員の家族にも情報が伝わりますが、司令部は詳細を明かしません。
イギリス海軍も緊急事態を察知。救援を申し出ますが、機密事項を知られたくないとするロシアは、なかなかこれを受け入れようとはしません。
ロシア海軍が救助艦を出すも、メンテナンスの不備で役に立たず。
残りの酸素もあと僅か。艦内に残された23人の命は、どうなってしまうのでしょうか…。

実際に起きてしまった、原子力潜水艦クルスク号の事故。
3月23日のブログ『深夜のひとりごと【49】』にも書いた、“今、観るべき1本”です。
NATOに加盟している、ルクセンブルクの映画で、2018年の作品。多少のプロパガンダを疑ってかかる必要はあるかもしれませんが、そこで語られるロシア経済の窮状は、決して大袈裟なものではないはずです。
象徴的なのは、ロシア海軍の上層部が、船上でボソッと洩らすシーン。
「20年前の演習では3倍の船が出航した。今は半数が錆び果て、潜水艦は3分の2が鉄クズとなった」。
ターニャら、若い妻たちは、何も教えない上官に苛立ちを隠せずにいると、年寄りが「その態度は失礼だ。彼らを信じなさい」と叱責。
イギリスの救護の申し入れに対しても、「そもそもの原因は多国船の衝突だ」と嘘をつく。「NATOの強硬姿勢が事態を悪化させた」とも。
嘘と隠蔽の体質は今も昔も変わらずで、イデオロギーに対する世代間のギャップも今回のウクライナ侵攻で明らかになりましたもんね。この映画では、そのあたりのことも如実に描かれています。
国民は、一部の権力者の“駒”なんかじゃない。
まず真っ先に守るべきは、かけがえのない命だと思いませんか?至極、当たり前のことだと思いますが。★3つ。
『潜水艦クルスクの生存者たち』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.3.31
『アネット』★★
『英雄の証明』★★★
『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』★★★
『シャドウ・イン・クラウド』★★★
『女子高生に殺されたい』★★★
『世の中にたえて桜のなかりせば』★★★★
『私はヴァレンティナ』★★★
(満点は★★★★★)


アカデミー賞が発表され、映画を見ようとする皆さんは、受賞作品に関心が行くと思います。
もちろん素晴らしい映画がいっぱいだから、観てもらいたいけど、それ以外の作品に目を向けることも忘れないで下さいね。
さぁ、今週は7本です!

『アネット』は、ダークファンタジー・ロック・オペラ。

LAで活躍する攻撃的なネタで人気のコメディアンのヘンリーと、国際的人気を誇るオペラ歌手のアン。
ふたりは互いの才能を認め合ったのか、美女と野獣と評されるカップルが誕生しました。
そして、結婚。
ふたりの間に、アネットという子どもが生まれます。
しかし、ヘンリーのステージが荒れ始めます。観客が笑うことなく、互いに罵声を浴びせ合うようになったのです。
こうなるとヘンリーの人気は凋落の一途を辿ることに。
一方で妻のアンは、名声を保ったまま。ヘンリーの中に嫉妬心が芽生えるようになります。
休暇を取り、アネットを連れて、旅行に出ようと決めたヘンリーとアンでしたが、嵐の夜に船を出し、そこで悲劇が起こったのでした…。

独創的な作品を世に送り出してきた、レオス・カラックス監督の最新作。
23歳で長編デビュー。60歳の今作で6作目ですから、作品数は多くないものの、映画通の中では評価が高いようです。
試写会の大きなスクリーンで観たのですが、帰り際、ひとりの人が宣伝会社のスタッフさんに、「全部詰め込まれてましたね。すごい、この映画!」と言ってたのを聞いて、やっぱりわかる人にはわかるんだなと。
ボクにはどうにもピンと来ませんでした。
音楽を担当したスパークスのメンバーに加え、登場人物たちが曲に乗って部屋を飛び出し、夜の街を歌い歩く冒頭のシーンは、めちゃめちゃワクワクさせてくれたんですが、その先がどうにもわからなかったです。
頂いた資料に、ロック・オペラとしての楽曲解説があって、それを読むと「なるほど…」と思う部分もありますが、一度観ただけでそこまで理解するには、ちょっと深すぎるかなと。
自分の理解力の欠如を評価に反映させてしまって、申し訳ない気もしますが、ボクには難解すぎました。★2つ。
『アネット』公式サイト


『英雄の証明』は、カンヌ映画祭でグランプリを獲得したヒューマン・サスペンス。

看板職人だったラヒムは、別れた妻の兄、バーラムに借りた借金が返せず、現在服役中の身。
前妻との間に出来た息子のシアヴァシュは、ラヒムの姉夫婦が面倒を見てくれています。
囚人に与えられた休暇を使って、街に戻ってきたラヒム。借金を返済すれば自由の身になれるのですが、完済以外は認めないと、バーラムは中途半端な金額で示談に応じる気はさらさらないと言います。
ラヒムには、まだ人には言えない、ファルコンデという婚約者がいます。
その彼女が、17枚の金貨を拾うんですね。
それを使えば、借金を返して結ばれると考えましたが、金の価格が下がっていて、これだけでは完済に足りません。
結局、罪悪感もあり、換金を諦めたふたりは、落とし主を探し、金貨を返すことに決めたのです。
すると、これが善行だとして、メディアの知るところとなり、ラヒムは“正直者の囚人”として、国中から英雄視されることに。
さらに、息子のシアヴァシュには吃音症があったのですが、父の釈放を願う健気なスピーチに、全国から寄付がたくさん集まります。
ところが、SNSである噂が広がり始めると、状況は一変することになるのです…。

2021年の第74回カンヌ映画祭のグランプリ受賞作品。監督は、アカデミー賞の外国語映画賞に2度輝いた、イランのアスガー・ファルハディ。
小さな嘘が、大きく人生を変えていく。嘘を塗り替えるには、さらに大きな嘘をつかなくてはなりませんから。
まさに負のスパイラル。
もし最初の嘘自体に悪意がなくても、嘘を選択したのはラヒムです。ただ、それでラヒムの本質が悪だと言い切れますか?
キャッチフレーズにあるのが、“英雄か、詐欺(ペテン)師か”。
映画を観ながら、ラヒムのみならず、周りの人たちの行動にハラハラドキドキ。吸い込まれていくように悪いほうに行っちゃうから…。
あくまで個人的な意見ですが、渋谷のBunkamuraル・シネマでかかる映画は、良質のものが多いと思っています。この映画も、そんな1本です。★3つ。
『英雄の証明』公式サイト


『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』は、ドキュメンタリー。

今でも、秘書や助手と勘違いされることが多いという映画のキャスティング(配役)の仕事。
しかし、このキャスティングこそが、作品の良し悪しを決定する大きなポイントになるという映画関係者もたくさんいるのです。
顔立ちやスタイルの良さだけで役を与えられていた俳優たちは、演技は二の次。一度ハマる役があったら、その役者はずっと同じような役しか回ってこない。
そんな状況を打破したのが、マリオン・ドハティという女性でした。
1923年生まれのマリオンは、TVの配役アシスタントをきっかけに、映画のキャスティングの世界に入っていきます。
舞台を観れば、端役でもチェック。オーディションにやってくる数多くの役者の卵の中から、光る才能を見逃すことなく、とにかくメモをとり、ストックする。
そんな中から、監督や作品が求める俳優たちを、有名無名にかかわらず、提案していったんですね。
マリオンの感性は素晴らしく、キャスティングが映画の成功に直結した例は、数知れず。
また、数多くの人気俳優を世に送り出したのもマリオンで、この映画の中でも、ダスティン・ホフマン、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ロバート・レッドフォード、メル・ギブソン、グレン・クローズ、ジョン・トラボルタをはじめ、とにかく数えきれないほどの俳優や監督が、彼女に感謝のメッセージを寄せています。
その一方で、名前がクレジットされない時代が長くあったり、キャスティングはあくまでスタッフで、“ディレクター(監督)”を付けることには抵抗があるとする映画監督もいて。
アメリカのアカデミー賞では、キャスティング部門の創設が未だ実現していませんから。
マリオン・ドハティは、2011年に88歳で亡くなっていますが、この映画はその翌年に作られたドキュメンタリー。
彼女の情熱と改革は、後進にしっかりと伝わっているようです。
アカデミー賞が話題の今、映画の裏側を垣間見るのも“学び”になると思いますョ。★3つ。
『キャスティング・ディレクター ハリウッドの顔を変えた女性』公式サイト


『シャドウ・イン・クラウド』は、女性パイロットのサバイバル・アクション。

第二次世界大戦最中の1943年8月、ニュージーランドのオークランド空軍基地から、B―17大型爆撃機がサモアに向けて飛び立とうとしていました。
そこに必死の形相で乗り込もうとする女性がひとり。モード・ギャレット空軍大尉です。
彼女は、革製の大きな鞄を抱えていて、中には最高機密が入っていると説明。これをサモアに運ぶ任務を命じられたと主張します。
しかし、機内は男だらけ。ハラスメントの言葉と共に、モードは床下の狭い銃座に押し込められてしまうんですね。
高度2500mの上空に達した時のことです。モードは、まさかの光景を目にします。
それは、伝説の“大空の魔物”、鉤爪を持つ凶暴な生き物、グレムリンの姿だったのです…。

率直な感想を先に言うと、「なんだ、こりゃ?」という感じ(笑)。
でも、悪口じゃないんです。それが妙に面白いんです。
初めは、男性社会に入り込んで暴れまわる女性を描いた戦争アクションかと思ったのですが、それはそれで間違いじゃなく。
でも、そこにグレムリンが出てきたら、今度はSFホラーじゃないですか。
さらに、日本の零戦とやり合うシーンもあって。
まぜそば?ビビンバ?ごちゃ混ぜにして食べると美味しい料理みたいでした(笑)。
扉の不具合で、機内に戻れなくなったため、ほとんどが銃座にいるモードの一人芝居。男たちは、声でのやり取りが主になります。
ちなみに、モードを演じたクロエ・グレース・モレッツは、閉所恐怖症だそう。よく頑張りました。
グレムリンの伝説については、公式サイトにありますが、簡単に書いておくと、イギリス発祥の妖精の一種で、原因不明の飛行トラブルが多発した際に、まことしやかに存在が言われるようになったとか。それが映画やドラマで取り上げられるようになり、世間に広がっていったそうです。
モードに託された最高機密とは、いったい何なのか?
トロント国際映画祭で観客賞を受賞したのが、ミッドナイトマッドネス部門(深夜の狂気?)というのも納得です!★3つ。
『シャドウ・イン・クラウド』公式サイト


『女子高生に殺されたい』は、古屋兎丸の同名コミックの実写映画化。

とある高校に、新任教師として赴任してきた東山春人。
その爽やかなルックスから、女子の人気は一気に高まりましたが、彼の目的は女子高生に殺されること。
実は9年もの長きに渡り、綿密に計画を立ててきたのです。
春人の理想は、“完全犯罪であること”、“全力で殺されること”。
そんな中、真帆、あおい、京子、愛佳という4人の女子生徒が、そうとは知らずに、春人の計画に荷担することになります。
計画は順調に進んでいたのですが、誤算が生じることに。
なんと、春人の昔の恋人である深川五月が、学校カウンセラーとして、偶然この高校に赴任してきたのです。
五月は春人の闇に、薄々気づいていたのでした…。

タイトルからして、“インパクトあり”ですよね。
いろんなフェチや癖(へき)はあれど、女子高生に殺されたいとは(笑)。
この高校に赴任したのも、春人の企み通り。9年もの歳月を要したのも、とある少女がこの学校の女子高生になるのを待った結果でもあります。
が、しかし、完璧なはずだった計画が、思いもよらない偶然から崩れていきます。
果たして、春人の野望は叶うのでしょうかというお話。
でも、原作とは設定も結末もちょっと異なるようですね。コミックのファンも、改めて楽しめるかもしれません。
タイトルから下心を持って観ると、そこは肩透かしをくらいます(笑)。特異なサスペンス・スリラーだと思って映画館にどうぞ。★3つ。
『女子高生に殺されたい』公式サイト


『世の中にたえて桜のなかりせば』は、先日急逝した宝田明さん企画、立案。乃木坂46の岩本蓮加とW主演のヒューマンドラマ。

不登校の女子高生、吉岡咲。今は、終活アドバイザーのアルバイトで働いています。
職場の同僚は、70歳も年上の柴田敬三。相談に来るお客さんに寄り添い、出来る限り要望に応えられるよう、ふたりで努めていました。
咲が学校に行かなくなったきっかけのひとつが、国語教師で担任だった南雲という先生。南雲は生徒からの嫌がらせに耐えきれずに教師を辞め、引きこもりの生活を送っています。時間を見つけては先生の家を訪ね、食事を共にする咲。
そんな咲も、自分の生きる意味がわからず、悩む毎日。
そんな時、敬三が、咲に病気の妻を紹介するんですね。そして、昔ふたりで見たという、思い出の桜の木の話を始めたのです…。

3月14日に亡くなられた宝田明さん。
この映画の完成披露の舞台にも、元気な姿を見せていらしたのに、本当に急なことだったようで。まずは、ご冥福をお祈り申し上げます。
遺作となったこの映画は、桜と終活がテーマ。
ボクのブログを読んで下さっている方は、500円玉貯金の写真と共に書いた『深夜のひとりごと【45】』で映画を紹介し、「2月21日のブログを読み返してみて下さいと注釈を付けるつもりです」と書いたのを覚えてますか?
そう、これがその映画です。
タイトルは、平安時代の歌人、在原業平の和歌から。
この映画には、素敵な言葉がたくさん出てきます。
大正時代の詩人、茨木のり子さんの『さくら』という詩の「死こそ常態 生はいとしき蜃気楼と」という一節も素晴らしいし、桜の花がなんで下を向いて咲いているか、知ってますか?
詳しくは、2月21日の『深夜のひとりごと【45】』を読んで下さい(笑)。
惜しかったのは、サイドストーリーでもある、相談者に対する咲たちの仕事に、リアリティが欠けていたことかなぁ。
でも、改めて思えば、宝田明さんの遺言のような作品。★を1つ多く贈りたいと思います。★4つ。
『世の中にたえて桜のなかりせば』公式サイト


『私はヴァレンティナ』は、ブラジルの17歳のトランスジェンダーの物語。

ヴァレンティナは、体は男の子に生まれたけれど、心は女の子の17歳。
両親は離婚していて、今はママと二人暮らし。
この母娘が引っ越すことになり、新しい学校では出世名のラウルではなく、通称のヴァレンティナで通いたいと願っていました。
校長は賛成してくれたものの、規則として、両親の署名が必要だと言います。
実は、ヴァレンティナの父親は音信不通で、どこで何をしているのかわかりません。
さらに、あるパーティーで男に襲われたヴァレンティナ。犯人はどうやら顔見知りのよう。
ところがその日から、ヴァレンティナを中傷する写真がSNSで拡散を始めたのです。
すると、名前を変えて通学するどころか、保護者の間に、ヴァレンティナの転入自体を拒む署名が始まってしまったのでした…。

ブラジル映画です。
テーマがテーマなだけに、ブラジルがLGBTQに関して、どんな風潮なのかというのを調べたら、LGBTQの権利保障に前向きで、同性婚も認められているとありました。
一方で、トランスジェンダーの中途退学率は82%、平均寿命が35歳。
これが何を示しているかは、推して知るべしですよね。
建前と本音。
人の心というのは、法律や施策でどうこうなるものではなく、やはり真の理解が必要なんだなと改めて。
登場人物のひとりひとりに人生がある。ヴァレンティナを支える友だちも、ヴァレンティナのお母さんだってしかり。
そう考えれば、ヴァレンティナだけが特別なんじゃなくて、生きていくのは大変で、みんな何かしらの困難を背負っているんだと気づくはず。
ボクらだってそう。みんな同じなんだと思います。★3つ。
『私はヴァレンティナ』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.3.24
『ダイナソーJr./フリークシーン』★★★
『ナイトメア・アリー』★★★★★
『ベルファスト』★★★★★
(満点は★★★★★)


22日、まん延防止等重点措置が一斉に解除されました。
まだ、気兼ねなく、とはいきませんが、今まで以上にエンタメも楽しめそうです。
それでも専門家が言うように、第6波の終焉ではないので、感染対策はしっかりと。
今週紹介する映画の中の2作品は、アカデミー賞ノミネート作品。
どちらも素晴らしかったです。興味を持ったら、劇場に是非!
さぁ、今週は3本です!

『ダイナソーJr./フリークシーン』は、アメリカの人気オルタナティヴ・ロックバンド、ダイナソーJr.のドキュメンタリー映画。

1984年、J・マスキス(G.&Vo.)、ルー・バーロウ(B.&Vo.)、マーフ(Dr.)の3人によって、アメリカ・マサチューセッツ州ボストン郊外のアマーストで結成されたダイナソーJr.。
爆音のギター・サウンドでありながら、メロディしっかりと。そこに、J・マスキスのけだるいボーカルが融合した、アンダーグラウンドなオルタナティヴ・ロック界の人気バンドです。
部屋にあった恐竜の人形から、バンド名をダイナソーにするも、同じ名前のバンドがあったので“Jr.”を付けたそう。
85年にインディーズ・デビューするも、J・マスキスとの確執で、88年にルー・バーロウが脱退。
91年にメジャー・デビューを果たしますが、93年に今度はマーフも脱退。
バンドはJ・マスキスのソロ色の強いものになり、97年、遂にダイナソーJr.は解散してしまうんですね。
ところが、05年、オリジナルメンバーでバンドは再結成。昨年、5年振り、12枚目のアルバム『スウィープ・イット・イントゥ・スペース』をリリースし、今も活動を続けています。
映画は、そんな彼らの約30年間を振り返り、メンバーのそれぞれが本音を吐露。周りの音楽関係者たちのインタビューからも、ダイナソーJr.の輪郭がはっきりと見えてきます。
解散やメンバーの脱退を繰り返すのは、バンドの必定。だって、個性と感性の塊が、同じ方向性の音楽のもとに集まったのがバンド。
でも、初めはやりたいことが一緒でも、個々に少しずつ変化が訪れるる。そのズレが歳月と共に大きくなっていく。
バンドに婚姻届があるわけでもなく(笑)、「じゃ、別れよう」となるわけですよね。
でも、ダイナソーJr.は、結成当時のメンバーで再結成に至ります。
「やっぱり、おまえじゃなきゃダメだったよ」。
“もとの鞘に収まる”じゃないけど、互いの大切さを確認するための別離期間だったのかもしれませんね。
最近、たくさん作られている音楽系のドキュメンタリー映画。
正直、オルタナティヴ系ロックはあまり聴かずに来たのですが、こういう映画を通して、新たなジャンルの扉を開くのもひとつだなと。
発信元であるメンバーたちの人間性に触れることで、楽曲に対する理解が深まりますから。興味を持ったら、ここからさかのぼって、掘り下げていけばいい。
これからも、積極的に観ていきたいジャンルの映画になりそうです。★3つ。
『ダイナソーJr./フリークシーン』公式サイト


『ナイトメア・アリー』は、本年度アカデミー賞4部門ノミネートのサスペンス・スリラー。

1939年。各地を移動しながらショーを見せる、カーニバルの一座がありました。
最大の見世物は、人か獣か、ギークと呼ばれる“獣人”のショー。
流れ者のスタンは、そのカーニバルに潜入すると、一座のマネージャーから仕事に誘われます。
すぐさま、読心術師のジーナに気に入られ、彼女のショーを手伝うことになり、トリックを学んでいくスタン。
一方、カーニバルには体に電気を流すショーで人気のモリーがいました。彼女の美しさに魅せられたスタンでしたが、恋愛は御法度。
ある日のこと、警察がやって来て、カーニバルを閉鎖しろと命じます。
モリーにも逮捕の手が及びそうになった時、スタンは覚えた読心術で警官を操り、モリーを救うんですね。
ここを出て、ふたりで成功しようと誘うスタン。モリーは彼についていくことを決意します。
スタンはモリーをアシスタントに、都市の一流ホテルなどで読心術を披露。上流階級から人気のエンターテイナーになっていきます。
カーニバルではタブーとされていた“幽霊ショー”と呼ばれる、霊媒師的なものにも踏み込んでいくスタン。
ショーの最中、心理学博士のリリスと知り合います。
この謎めいた女性との出会いが、スタンの運命を大きく変えていったのでした…。

面白かったです!
150分。まったく飽きずに観ることが出来ました。
あらすじは骨格。そこに肉が付いて、映画はさらに豪華な衣装をまとうイメージでしょうか。
メガホンをとったのは、17年の『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー賞4部門受賞に輝いた、ギレルモ・デル・トロ監督。
出演者もアカデミー賞俳優が名を連ね、実に豪華なキャスティングになっています。
ボクらが子どもの頃、近くの神社のお祭りに、ありませんでした?ギークのショー。
昭和のお祭りですから、ギークなんて言い方はしませんでしたが(笑)、ボクが見たのは“へびおんな”。
ニワトリの首に噛みつき、血まみれになった、おどろおどろしい姿を今でも覚えてます。
そんなちょっぴり妖しげな魅力が、見世物小屋にはありました。この映画も、舞台はカーニバルから。観客の深層心理を鷲づかみにすることに、いきなり成功するはずです。
カーニバルで、スタンはギークの作り方を聞かされるのですが、その根本は人間の弱みを熟知することにありました。
映画の中に、いくつも存在するタブー。これにも興味をそそされます。
書きたいことはいっぱいあるけど、あんまり書いちゃうとネタバレになっちゃうからなぁ(笑)。
全編、独特の暗いトーンに被われた映像。
人間の欲望には切りがないけど、そもそも人には器があって、溢れるほどに詰め込むと、器が割れちゃうのでしょう。
“足るを知る”。すごく大切なことだと、改めて思いました。満点!★5つ。
『ナイトメア・アリー』公式サイト


『ベルファスト』は、本年度アカデミー賞で史上最多の7部門にノミネートされた、北アイルランドの小さな町の物語。

1969年の北アイルランドの町、ベルファスト。
9歳の少年、バディはこの町で生まれ育ちました。
バディがパと呼ぶ父親は、イギリスに出稼ぎに行っていて、月に数回しか戻ってきませんが、マと呼ぶ、しっかりものの母が家を守っています。
さらに、優しくて頼りになる兄のウィル、大好きな祖父母のポップとグラニーがいて、学校帰りは必ずと言っていいぐらい、おじいちゃん、おばあちゃんの家に寄ってから帰宅します。
町全体が家族のような雰囲気で、すべての大人が近所の子どもたちを見守ってくれているから、町の全部がバディたちの遊び場所。バディはこのベルファストが大好きでした。
ところが、悲劇は突然訪れます。
北アイルランドは、プロテスタントとカトリックが混在する町。
ここで、信仰の違いによる住民の衝突が起こり、プロテスタントの武装集団が、カトリック住民たちを攻撃。紛争に発展したのです。
1969年8月15日。
この日を境に、ベルファストは、真っ二つに分断されてしまったのでした…。

俳優としても活躍する、ケネス・ブラナー監督の自伝的作品。自身もベルファストの出身で、プロテスタントの労働者階級の家に生まれており、9歳の少年バディを通して描かれる町の物語です。
映画は特別なものとして観客に印象づけられるようにと、モノクロになっていますが、狙いはズバリ。効果的な演出になっているなと感じました。
試写会の時点では、まだウクライナの戦争前。プレス資料にも、コロナ禍による分断が対比として取り上げられていましたが、不幸な偶然というか、兄弟のようと言われるウクライナとロシアの戦争が始まってしまいました。まさに、紛争による分断の構図。過去と現在です。
映画を観る前に、あまりいろいろなことを知りすぎないほうがいいというのが持論ですが、時に入れておくべき下知識というのもあります。
この映画『ベルファスト』においては、“北アイルランド紛争”と呼ばれるものについては、知っておいたほうがいいと思います。
詳しくは、公式サイトにもある専門家・佐藤泰人さんの解説を参照して欲しいのですが、ここにちょっぴり記しておきますね。
時は16世紀にさかのぼります。
国王ヘンリー8世の離婚問題で、イングランドはキリスト教最大教派のローマ・カトリック協会を離脱。このローマ・カトリックに反する宗派をまとめてプロテスタントというのですが、イングランドが勢力拡大のため、隣りのアイルランド島に入ると、人々から土地を奪っていきます。元々の住民たちはカトリック信者だったので、侵攻も、信仰も、どちらにおいても対立は深まるばかり。
それから泥沼の戦いが始まり、1921年にようやくイギリスとアイルランドが条約を締結。プロテスタントが多数いるアイルランド島の北部6つの州は、北アイルランドとしてイギリス領に残り、他はアイルランド自由国として独立します。
しかし、その後も北アイルランド内では両者の対立が続き、1960年代には、プロテスタントとカトリックによる北アイルランド紛争に突入。1998年の和平までに、数多くの犠牲者を出したそうです。
宗教を含む、イデオロギーの問題で人々が争うのは、昔も今も多くあり、この先もなくなることはないでしょう。
でも、個人個人にスポットライトをあててみれば、それぞれがそこで自分の人生を懸命に生きているわけで。ごく普通の幸せまでをも暴力で奪うのはあまりに理不尽なことだと、バディの姿やベルファストの町から、ボクらは感じとることができるはず。いや、感じなくてはならないのです。
危険と知っていても、祖国や故郷に残る人たちの気持ちも、痛いほど伝わってきます。
一方で、希望の光が消えることのないバディの瞳に、きっと勇気をもらえると思います。
是非、ご覧になってみて下さい。
また、ポップとグラニーがいいんですよ。どちらも素敵なおじいちゃんとおばあちゃん。ボクにはもう叶いませんが、永年連れ添ったごほうびに、神様はこんな素敵なシーンをくれるのかって(#^.^#)。うらやましかったです。
音楽は、こちらもベルファスト出身の世界的シンガー、ヴァン・モリソンが担当。監督にとっては、仕事を共にするのが夢だったそうです。
史上最多のアカデミー賞7部門ノミネートも納得。すごくいい映画です。満点!★5つ。
『ベルファスト』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.3.17
『ガンパウダー・ミルクシェイク』★★★
『ストレイ 犬が見た世界』★★★
『猫は逃げた』★★★
(満点は★★★★★)


1995年3月に日本で公開された映画『フォレストガンプ 一期一会』。
トム・ハンクス主演の感動作が、4Kニューマスター版として、3月18日(金)に公開となります。
実は、ボクが試写会で初めて観た映画がこの作品。
あれから27年かぁ…。
ちょっと感慨深いものがあります。
原点回帰じゃないけど、時間があったら観に行きたいものです。
さぁ、今週は3本です!

『ガンパウダー・ミルクシェイク』は、女性たちが主役のバイオレンス・アクション。

サムは組織に所属する、腕利きの女殺し屋。
あらゆる格闘技に長け、武器に関する知識も豊富に持っている一匹狼です。
今回下された指令は、組織の金を盗んだ会計士の抹殺と金の回収でした。
ターゲットと相対したサムは、彼が命を顧みず、なぜ組織の大金に手を出したのか、その理由を知ります。8歳9ヶ月の娘エミリーを誘拐され、身代金を要求されていたんですね。
幼い少女の命を最優先にと、サムはエミリーを救出に向かいますが、組織の命令に背くことになったサム自身が、今度は命を狙われる側になってしまいます。
エミリーを助け出すことに成功したサム。ふたりは行動を共にします。
実は、サムの母スカーレットも元殺し屋。15年前にサムを残して、忽然と姿を消してしまったのですが、その母と再会を果たします。
スカーレットの指示で、サムが向かったのは図書館。そこで働く3人の女性も、殺し屋の先輩たち。この図書館、その正体は武器のレンタル倉庫だったのです。
こうしてズラリ揃った女戦士たち。襲いかかる男たちとの、激しい戦闘の幕が切って落とされたのでした…。

この映画の予告編に、シスター・ハードボイルド・アクションとありました。いろんなキャッチフレーズを、上手く考えますよね。
まさに言い得て妙で、ポスターにもあるようなカラフルなネオン管のイメージは、今で言う“ばえる”映像。タイトルの“ミルクシェイク”も可愛らしいけど、トッピングはハードボイルドですから(笑)。
母娘2代の殺し屋に、図書館で働くアナ・メイ、フローレンス、マデリンの3人も、それぞれに得意技を持つ凄腕の殺し屋で、全員が力を合わせて野郎どもをぶっ倒していくというお話。
会社の男性上司なんかにイライラしている女性が観たら、スカッとするかも。
銃なんか持たなくても、女性は十分強いんですけどね(笑)。★3つ。
『ガンパウダー・ミルクシェイク』公式サイト


『ストレイ 犬が見た世界』は、犬が主人公のドキュメンタリー映画。

トルコの大都市、イスタンブール。
ここは野良犬と人が共存する街。
実は、トルコでは20世紀初頭に大規模な野犬狩りを行ったのですが、その残虐な行為の反省から、今は野良犬の捕獲や安楽死が違法とされているんですね。
街中のいたる所で、犬が闊歩しているのが当たり前の風景。
そんなトルコのイスタンブールを旅した、愛犬家のエリザベス・ロー監督が、半年をかけ、犬目線でカメラを回し、その映像をまとめたのがこの作品です。
登場するのは、3匹の犬。
凛としたメスの大型犬、ゼイティン。推定2歳。
シリア難民の少年たちと、廃墟となった建設現場で寝泊まりをするナザール。
別の建設現場で飼われている、まだ幼いブチのカルタル。
それぞれの犬たちが、人間といい距離感を持ちながら、自由に生きている様子をカメラが追い続けています。
トルコという国が抱える今の問題も映し出されていて、逆に犬に依存するのは人間のほうだったりもして。
何を考えて、人の行動や街並みを眺めているのか。犬好きの人には、そんなことまで見えてくるのかもしれません。
ほとんど台詞がない映画です。72分という尺も絶妙と言えそうです。★3つ。
『ストレイ 犬が見た世界』公式サイト


『猫は逃げた』は、R15+のラブストーリー“L/R15”の2作目。

漫画家の町田亜子と、雑誌記者の町田広重は、離婚寸前の夫婦。
ふたりとも、それぞれに年下の浮気相手と不倫中で、亜子の相手は編集者の松山俊也、広重の相手は編集部の部下の沢口真実子。
共に離婚は決意していましたが、ひとつ未解決の問題がありました。
それはふたりが飼っている、猫のカンタです。
亜子も、広重も、自分が引き取ると言って譲りません。
そんなある日のこと、カンタが姿を消してしまったのです。
果たして、カンタはどこに行ったのか?4人の男女の恋の行方は、いったいどうなるのでしょうか…。

L/R15のもう1本は、2月25日に公開になった、瀬戸康史主演の『愛なのに』。
ご覧になった方はわかると思いますが、ベッドシーンが結構多いんですよね(*^.^*)。なので、R15+。
『猫は逃げた』は、夫婦を繋ぐ唯一の細い糸だった愛猫のカンタがいなくなり、こんな家の雰囲気だから嫌になって飛び出していったんじゃないかと、亜子は自分を責めます。得意の似顔絵でポスターを作り、捜索を始めるふたり。
ところが、この失踪劇には思わぬ裏があって…というストーリー。
離婚や不倫を扱ってはいますが、ギスギスしたところをさほど感じない作りになっています。
これ、間違いなくカンタ効果。
物語の結末については、観る人によって感じ方は様々だと思いますが、ただひとつ、ペットは人間にとって、大切な相棒なんだなぁと。それを再確認させてくれるはずです。★3つ。
『猫は逃げた』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.3.10
『ウェディング・ハイ』★★★
『ハングリー 湖畔の謝肉祭』★★
(満点は★★★★★)


国内も、国外も、心休まる暇がない2022年。
せめて映画でホッと一息つけるといいですね…。
さぁ、今週は2本です!

『ウェディング・ハイ』は、お笑い芸人バカリズムのオリジナル脚本作品。

石川彰人と新田遥は、結婚を決めたカップル。
式場のウェディングプランナーの中越真帆が、ふたりの結婚式を担当します。
中越のポリシーは、決してNOと言わないこと。
しかし、彰人と遥の式には、予想もしなかった展開が待ち受けていたのです。
新郎の上司の財津は、今回の主賓の挨拶に命を賭けていて、新婦側も“宴会部長”の異名をとる上司の井上が乾杯の発声を務めます。
このふたりのスピーチが、長い、長い、超長い。
さらに新郎の父も叔父も、新婦の父も、余興がやりたくてしかたがない。
彰人の後輩に頼んだ新郎新婦の紹介VTRも、よくわからなくて、これまた長い。
友人の祝辞や出し物を入れたら、予定の時間内になんて、絶対に収まりません。
さらに、遥の元カレが花嫁を奪還しに式場に潜入。
加えて、見知らぬ謎の男が会場をウロウロ。
優秀な仲間を誇る“チーム中越”は、この結婚式を無事、お開きにまでもっていけるのでしょうか…。

ボクも知人の結婚式の司会をよく頼まれたので、裏方さんたちの苦労は本当にわかります。
基本的にタイムキープは司会の役目だったりもして、料理がここまで出たら、ここまでプログラムを進めてとか、結構細かい指示があって、実はいろいろ計算しながらしゃべってるんですョ。
優先順位は、新郎新郎の喜ぶ顔が一番。とはいえ、式場に迷惑がかからないようにすることも大切。
自ずと中越に自分を投影しながら、映画を観ていました。
その映画ですが、それはそれは出演者が豪華!公式サイトをご覧下さい。相関図を眺めているだけで、楽しくなりますから。
想像通りのドタバタコメディ。期待を裏切らないと思いますョ。
昔、ボクの友だちに、結婚式の司会をやる時だけ、名前を変えるというMCの女性がいました。その人のウェディング・ネーム?は、
“縁(えん)ゆかり”。
司会者の自己紹介で、会場にはクスッとひと笑いありそうですよね(笑)。★3つ。
『ウェディング・ハイ』公式サイト


『ハングリー 湖畔の謝肉祭』は、イギリスのカニバル・ホラー。

2002年の夏。
妊婦を含む男女3人組が、休暇を利用して、イングランド南部のアクアパークに遊びに来ていました。
ところが、3人共、行方不明になってしまったのです。
あれから約20年。
6人の若い男女が、秘密のフェスがあると聞き、1台のバンに乗って会場に向かう途中で道に迷ってしまうんですね。
辿り着いたのは、アクアパーク。
すると、仲間がレザーフェイスの連中に次々と捕らえられ、残忍な手口で殺されていきます。
しかし、それだけではありませんでした。なんと彼らは、殺した人間の肉を食べていたのです…。

おなじみ?TOCANAの配給作品。
カニバルとは“人肉喰い”のこと。実際にイギリスで起こった事件を題材にしているそう。
本当にいたんですって、レザーフェイスの食人一家。
レザーフェイスとは、剥いだ人の顔の皮で作ったマスクです。
信じられませんよね。
さらに、この凄惨な映像を撮ったルイーザ・ウォーレン監督は、なんと35歳の女性だというから驚きです。
オチというか、最後にきちんと着地するところはあるのですが、ややストーリーに深みが足りないかなぁ。
「カニバル・ムービーに、ストーリーの深さなんていらねえんだよっ」と、マニアの皆さんには怒られちゃうかも(笑)。★2つ。 『ハングリー 湖畔の謝肉祭』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.3.04
『永遠の1分。』★★
『ポゼッサー』★★★
『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』★★★★
『MEMORIA メモリア』★★★
(満点は★★★★★)


ウクライナとロシアの戦争。
世界中に紛争地域はあれど、開戦直前までウクライナの人々は、「大丈夫。戦争にまではならないから」と、笑顔で普通の生活を送っていたのに…。
報道で流れる映像を見て、心が痛みます。あんな映像は、あくまでバーチャルで作られた映画の中だけて十分です。
とにかく早く戦闘が終わり、平穏が戻るようにと祈るばかりです。
さぁ、今週は4本です!

『永遠の1分。』は、大ヒット映画『カメラを止めるな!』のスタッフが作ったヒューマンドラマ。

アメリカ人映像ディレクターのスティーブは、ボスから、日本に行って東日本大震災のドキュメンタリーを撮ってくるよう命じられます。
コメディが得意なスティーブは、気乗りがしないまま、カメラマンのボブと来日。
雑誌の女性記者のマキと知り合ったスティーブたちは、震災復興の演劇を紹介され、自由に表現してもいいんだと理解するんですね。
ならば震災を題材に、コメディで人を勇気づけるような作品をと意気込むのですが、いざとなると、外国人が3.11をコメディ化なんてとんでもないと、協力者は出てこないどころか、週刊誌にもバッシングの記事が掲載されてしまいます。
頭を抱えるスティーブ。
一方、アメリカでは、歌手になるため、夫と幼い息子を日本に残して渡米。その間に震災で息子を亡くしてしまったレイコが、自分と音楽を責めていたのです。
スティーブたちは、無事に思い通りの映像が撮れるのか。また、レイコは夢を叶え、日本に暮らす夫に会える日がやってくるのでしょうか…。

監督は“カメ止め”の撮影監督だった曽根剛、監督を務めた上田慎一郎が脚本を担当しています。
デリケートな題材をテーマにしている割には、少々設定が粗く…。
例えば、バッシングの記事も、マキの原稿をデスクが勝手に書き換えたり、スティーブたちの映画のテーマソングも、許可なく人の曲を使ったり。いやいや、著作権はどうなってんのって。
重箱の隅を突っつくような話…ではなくて、そういうのって大事だと思うんですよ。
「えっ?」と思ってしまうと、なかなか作品の世界に戻ってくるのは難しいものです。
すみません。あくまで個人の感想です。★2つ。
『永遠の1分。』公式サイト


『ポゼッサー』は、SFサスペンスノワール。

未来社会。暗殺の完全遂行を請け負う企業がありました。
手口は次のよう。
特殊なデバイスを工作員に装着し、ターゲットに近しい第三者の脳に入り込み、人格を乗っ取り、遠隔操作で殺人を敢行します。任務終了後、操られていた人間は自殺し、工作員の意識は自分の身体に戻るというもの。
タシャは、この組織の一員として高い信頼を得ている、ベテランの女性工作員です。
次々と任務をこなしていたタシャでしたが、ある男の脳内に入った時、彼女に異変が起きたのでした…。

ポゼッサーはPOSSESSOR。所有主、占有者の意。
発想がすごいですよね。
ちなみにR18+指定です。性描写に加え、殺戮シーンがあまりに残虐ということなのでしょう。
意識を自分の体に戻す前に「脱出」と口にするのですが、この言葉も、この映画のひとつのキーワード。
ラストは「そう終わるか…」となるはず。
いつかこんな犯罪が、現実のものになる日が来るのでしょうか。
刃物の入り方が、音が、痛い。流れ出る血が、飛び散る肉片が、すごい。
苦手な方はお控え下さい。★3つ。 『ポゼッサー』公式サイト


『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』は、女性を救う、アフリカの医師のドキュメンタリー。

アフリカのコンゴ民主共和国の東部にあるブカブ。
そこでパンジ病院を営む、デニ・ムクウェゲ医師。
彼が診るのは、この地域の女性たち。年間2500〜3000人もの女性が、性暴力によって心身を傷つけられ、この病院に運び込まれてくると言います。
レイプや殺戮といった惨劇が多いのは何故かというと、ブカブにはレアメタルなどの鉱物資源が豊富にあり、それを巡る武装勢力による紛争が、もう30年以上も続いているんだそう。
その兵士たちが、住民を圧倒的恐怖で支配するために、男性は殺害し、女性はレイプするのだそう。
当然、利権で、国や軍とつながりがあるから、罰せられることもなく。
そんな被害者女性を無償で助けているのが、ムクウェゲ医師なんですね。
鉱物資源の恩恵で潤っているはずの国なのに、生活のためのインフラすら整っておらず。富は一部の人間が、独り占めしている状態。
被害女性は20年で40万人以上だとか。
幼い頃に武装勢力に連れ去られたなら、レイプに疑問すら抱かず、行為は“当たり前”になる。
どこかで断ち切らないといけない、負の連鎖。
映画の中で、つらいにも関わらず、悲惨な過去を話してくれた、たくさんの女性たち。
家族を、幼い子どもを、殺され、失った女性が前を向いて「看護師になりたい」と語ります。
その理由は「今度は私が先生を助けたいから」。
2018年にノーベル平和賞を受賞したムクウェゲ医師のドキュメンタリーです。
止められるはずの惨劇は、戦争以外にも世界中で起こっています。まずは知ることが第一歩ではないでしょうか。★4つ。
『ムクウェゲ 「女性にとって世界最悪の場所」で闘う医師』公式サイト


『MEMORIA メモリア』は、タイの巨匠、アピチャッポン・ウィーラセタクン監督最新作。

ある朝の出来事です。寝ていたジェシカは、ドンという衝撃音で目が覚めます。
近隣で工事でも始まったのかと思ったけれど、そうではなく、ジェシカの頭の中で、その音は轟いていたのです。
ジェシカはそれを、“地球の核が震えるような音”と表現。その音を再現しようと、知り合いに紹介されたエルナンという音響技術者を訪ねます。
出来上がった音を聞いて、「これだ」と頷くジェシカ。
ところが、ジェシカが再びスタジオに行くと、「エルナンなんて男はいない」と言われてしまいます。
やがてジェシカが小さな村に辿りつくと、川沿いで魚の鱗取りをしている男性に出会います。
記憶についての話をするふたり。ジェシカは次第に、不思議な感覚にとらわれていくのでした…。

すみません。ボクには、あまりに難解でした。
あらすじをどう書いたらいいか、迷いに迷ったぐらいで。
今回の審査員賞で、カンヌ国際映画祭4度目の受賞となった今作。また、監督にとっては、初の自国以外でとなるコロンビアでの制作。加えて、第94回アカデミー賞国際長編映画賞のコロンビア代表に選出されたそうです。
確かに映像はキレイだし、風景の切り取り方へのこだわりは見事だと思います。
ただ、ストーリーが難解すぎて。ある意味、ラストは衝撃でした。
こういう作品を観るたびに、「やっぱり、映画評論家にはなれないな」と(笑)。
ちなみに、監督自身が“頭内爆発音症候群”なる病を患ったことがあり、着想はそこからだそう。
コメントのひとつに、「魅惑的で素晴らしく不可解」とありますが、言い得て妙な言葉だと思います。★3つ。
『MEMORIA メモリア』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.2.24
『愛なのに』★★★
『牛久』★★★
『選ばなかったみち』★★★
『劇場版 DEEMO サクラノオト あなたの奏でた音が、今も響く』★★★
『灰色の壁 大宮ノトーリアス』★★
『ハード・ヒット 発信制限』★★★
『ボブという名の猫2 幸せのギフト』★★★
『ライフ・ウィズ・ミュージック』★★★★
(満点は★★★★★)


今週はたくさんあります。
2つに分けようか、迷いましたが、一気にいっちゃいます(^-^)
最後まで、飽きずにお付き合い頂ければ幸いです(笑)。
さぁ、今週は8本です!

『愛なのに』は、R15+指定のラブストーリー企画「L/R15」の第1弾。

古本屋の店主、多田浩司は30歳。本を読むのが大好きな、どちらかといえば物静かな男性です。
ある日のこと、ひとりの女子高生が、本を万引きするのを目撃。追いかけて、捕まえると、多田のことが大好きで結婚して欲しいと言うではありませんか。
少女の名は岬。戸惑う多田。しかし、彼女は本気のようで、毎日のように店に来てはラブレターを置いていきます。
ところが多田には、忘れられない片思いの女性がいました。バイト仲間だった一花です。
その一花が結婚すると、周りの友だちから教えらされた多田。一花はなぜ知らせてくれないのか、気持ちは落ち込むばかり。
すると、一花から連絡が入ります。
話を聞くと、結婚相手の浮気が発覚し、自分も同じことをしてやりたいと。それでフィフティフィフティになって、彼を許したいと言うのです。
一花は、浮気の相手として、自分に好意を抱いていた多田を指名してきたのでした…。

R15+指定で、ややラブシーンが多いかなという1本。
ちなみに、女子高生はそれらのシーンとは無縁ですから、ご安心を(^-^)
他にも登場人物はたくさんいて、もらったチラシには相関図の矢印があるのですが、そのほとんどが一方通行で。
それがどう変化していくのか、いかないのか。下ネタチックな笑いも散りばめた、ちょっぴりエッチなラブコメディです。
猫が出てくるんですよ。カンタという名前の猫が。
これがまた「人間って、バカだなぁ」と達観してるみたいで。
古本屋さんに猫。ピッタリの相性ですよね。
誰です?可愛い女子高生から求婚されるなんて、うらやましいなぁと思ってるのは(笑)。★3つ。
『愛なのに』公式サイト


『牛久』は、入国管理センターに収容された人々の実態を捉えたドキュメンタリー。

全国に17ある入国管理施設。
その中のひとつが、茨城県牛久市にある東日本入国管理センター、通称“牛久”です。
ここは、在留資格がない外国人や、国外退去を命じられた人を強制的に収容している場所。難民申請をしても、なかなか認可が下りないのが現実で、何年も何年も、施設の中で暮らすことを余儀なくされています。
それも、聞けば非人道的な扱いがすごく、体だけでなく、心も蝕まれていくという。
アメリカ出身のドキュメンタリー映画の監督、トーマス・アッシュ監督が、1年半かけて牛久へ通い、9人の証言を隠し撮りしたもの。
プロパガンダではなく、これが実態なんだと考えざるを得ません。
昨年3月に、スリランカ人女性が、名古屋市の入管施設で収容中に亡くなり、遺族が来日して監視カメラの映像の公開を迫った出来事がありましたよね。入管について、我々日本国民の関心がいった事例でした。
不法滞在者がいるのも事実で、すべての面で悪法だとは言えませんが、映画の公式サイトの言葉を借りれば、「収容者を犯罪者扱いし、長期拘束し、家族を分断し、心を蝕み、死に追いやる構造」とあります。
それが日本で起きているのかと思うと、心が苦しくなります。
テーマと内容を考えたら★をつけることがためらわれましたが、あくまでエンタメとしての観点での★です。
ご覧になって、ご自身で考えてみて下さい。★3つ。
『牛久』公式サイト


『選ばなかったみち』は、認知症の父と介護する娘の24時間を描いた作品。

NYで暮らす作家のレオは、メキシコ移民。
認知症を患っていましたが、症状が進み、今では周りとの意志疎通すら、困難な状態になっていました。
そんな中、娘のモリーが、父を病院に連れて行こうと父の部屋を訪れます。
なんとか外には連れ出せたものの、出先で突然いなくなってしまったりと、とにかく思うように事が進みません。
その時、レオが見ていたのは、記憶の中の世界。初恋の女性ドロレスや、故郷のメキシコのこと、創作活動に行き詰まって旅したギリシャでの日々。
それらは、モリーが見ている現実の風景とは、まったく別のものだったのです…。

認知症の話。
ボクも父が認知症になったこともあり、見終えた時には、かなり重たい気持ちになってしまいました。
メガホンをとった、サリー・ポッター監督の弟が、実は若年性認知症と診断され、監督自らも介護にあたった経験があり、この映画を作るに至ったとか。
認知症の人の行動に、悪気があるわけではないのが、ツラいところですよね。
映画の中では、娘の父への深い愛情が救いかな。
その娘モリーを、ダコタ・ファニングの妹、エル・ファニングが演じています。★3つ。
『選ばなかったみち』公式サイト


『劇場版 DEEMO サクラノオト あなたの奏でた音が、今も響く』は、人気音楽アプリゲームの劇場アニメ化。

城の高い天窓から、ゆっくりと落ちてきた少女がひとり。
彼女は記憶を失っていましたが、真っ黒な出で立ちの紳士がDeemoであることは、何故か知っていたのです。
Deemoがピアノを弾くと、少女は自分がアリスという名前であることを思い出します。
そして、アリスがピアノを弾くと、音の木が伸びていき、この木が天窓にまで届けば、アリスは元の世界に帰れると考えたのです。
アリスを優しく見守る、猫のぬいぐるみのミライ、クルミ割り人形のくるみ割り、女の子の形をした匂い袋は、城にある楽譜を全部集めようと奮闘します。
しかし、この城にはもうひとり、謎多き白い仮面の少女がいました。
彼女はアリスに向かって、こう言い放ったのです。
「あなたなんて、嫌い」と…。

『DEEMO』は、世界で2800万ダウンロードされた、大人気ゲームアプリ。
いい加減なことを書くと、ファンに怒られそうですが(笑)、ゲームに疎いので、そこは優しくご了承下さい。
城の中のアリスのチャレンジと並行して、実はもうひとつの現実世界でも、物語は進行します。
そこの主人公もアリス。音楽学校でピアノを学ぶ少女です。
アリスが奏でるのは、聴く人すべてを魅了するような、美しいピアノの旋律。しかし、アリスはどこか人を遠ざけるようなところがありました。
それでも、同級生のサニアとロザリアが話しかけてくれ、だんだんと仲良しになっていきます。
ふたりのアリスに共通するのは?
城の中のアリスは元の世界に戻れるのか?
というお話。
ですよね、ファンの皆さん(笑)。
ゲームを知らないと、初見だと、ちょっとストーリーにはわかりづらいところがあるかも。
でも、映像はキレイですョ。音楽も素敵で。
感動して、涙が止まらないという感じでは、正直ありませんでしたが、いろんな意味でクオリティは高く。
美しく、不思議な感覚に包まれるファンタジーアニメ。大きなスクリーンで観たい1本です。★3つ。
『劇場版 DEEMO サクラノオト あなたの奏でた音が、今も響く』公式サイト


『灰色の壁 大宮ノトーリアス』は、実話に基づく物語。

今から15年前、1996年の埼玉県大宮。
そこでは暴走族の抗争が多発しており、最も勢力を伸ばしていたのが、吉田正樹率いる桜神會でした。
対抗勢力の魅死巌(みしがん)は、暴力団の青葉会と手を組み、罠を仕掛けて、正樹を少年院へと送り込んだのです。
懲役8年。すでに正樹には妻と娘がいて、とにかく真面目に過ごすことで、できれば模範囚となって、早く外の世界に戻りたいと頑張っていたのですが、塀の中の執拗な嫌がらせと暴力は、そんな正樹の思いを簡単には成し遂げさせてくれなかったのです。
さらに、信じていた仲間たちも手の平を返すように敵に寝返り、正樹の妻のさゆりをも苦しめていると知ったのです。
歯をくいしばって、遂に出所の日を迎えた正樹。そこから人生のリベンジが始まるのでした…。

暴走族というのは、ボクが中学生の頃ですかね、都内でもすごかった。
ただ、ボクらは小学校時代の同級生を次々とバイクの事故で亡くしました。毎月のように、友達の葬儀に参列。涙で目を腫らしたお母さんたちから、「危険なことは、お願いだからやめてね」と言われたのを今でも覚えています。ボクがオートバイに乗らない理由は、そんなところにあります。
バイクが危ないんじゃなくて、危険な運転が危ないのだということは重々承知です。でも、「ボクらの代はバイクをやめよう」と、よくみんなで話したものです。
若気の至りが、後に引けなくなって、人生を台無しにしてしまうことがある。大人になった人は、大なり小なり経験があるはず。この映画は、暴力と義理人情、贖罪と挑戦の映画だとありますが、それらの項目の中から、必要なものと不必要なものの区別ぐらいは出来ないとね。
モデルになった青年のルックスを知らないので何とも言えませんが、主演の奥野壮が暴走族の総長役にはイケメンすぎて(笑)、正直、線の細さが否めなかったかなと。
あえてそこにリアリティを求めなかったとしたら、それはそれで“あり”なのかもと思いつつ。辛口ですみません。★2つ。
『灰色の壁 大宮ノトーリアス』公式サイト


『ハード・ヒット 発信制限』は、韓国のサスペンス・アクション。

ソンギュは大手銀行の支店長。妻と娘と息子の家族4人で、裕福な暮らしを送っていました。
この日の朝も、通勤前に、車で子どもたちを学校に送るソンギュ。
すると、1本の非通知電話が入ります。
声の主は知らない男。車に爆弾を仕掛けたと言います。
イタズラだろうと初めは相手にしなかったのですが、シートの下には確かに爆弾らしきものと、起爆コードがありました。
男は「席を立ったら爆発する」と言います。
すると、副支店長から電話が入り、車に爆弾を仕掛けたという非通知電話があり、大事な会議に出られないと言うのです。
途中、助手席の妻と揉めている副支店長の車と遭遇。妻が制止を振り切って、車を降りたその瞬間、副支店長の車は木っ端微塵に吹き飛んだのでした。
イタズラではないとわかったソンギュ。後部座席には2人の子どもがいます。
犯人は誰で、なぜ自分たちが狙われたのか?
ソンギュたちは、この危機を乗り越えることが出来るのでしょうか…。

なかなか面白かったです。
非通知電話のことを、韓国では“発信番号表示制限電話”と言うようで、タイトルの“発信制限”は、そこから来ているのでしょう。
監督は、韓国映画界トップの編集マンと呼ばれた、キム・チャンジュ。これが長編初監督作品だそうです。
車の中で身動きがとれない状況で、どうやって事態を解決していくのか。何を書いてもネタバレになりそうなので(笑)、これ以上は控えておきます。
ドキドキハラハラの94分を楽しんで下さい!★3つ。
『ハード・ヒット 発信制限』公式サイト


『ボブという名の猫2 幸せのギフト』は、大ヒット映画の第2弾。

かつてのジェームズは、ホームレスのストリート・ミュージシャン。
ドラッグに溺れていたジェームズでしたが、更正プログラム中に与えられた1軒の家に、猫が住みつきます。
飼えないからと、何度追い払っても戻ってくる猫。隣人の言葉もあって、仕方なく飼うことを決意したジェームズは、この猫にボブと名付けて、雑誌“ビッグイシュー”の販売に同行させたのです。
ジェームズの肩の上には、いつもボブがいる。
これがSNSで話題となり、大人気に。
さらに『ボブという名のストリート・キャット』という本を出したら、これが世界中で大ベストセラーになったのです。
ジェームズは、今では人気の作家になりました。
ある年のクリスマス。出版社のパーティからの帰り道でのこと。ホームレスのミュージシャンが、警察官から路上演奏違反だと詰め寄られていたのです。
ジェームズは、機転をきかせて彼を助け、食事をごちそうします。
彼の名はベン。ジェームズにすら反抗的な態度を取るベンに、ジェームズは数年前、路上で過ごした最後のクリスマスの話を聞かせるのでした…。

日本では、2017年8月に公開となった『ボブという名の猫 幸せのハイタッチ』の続編で、全作に続き、今作も事実に基づくストーリーだそう。
紹介したあらすじも、実は前作をなぞったものが大半で、映画は出版社のパーティから始まります。
ジェームズがベンに語るのは、ホームレス最後のクリスマスに起こった、奇跡のような出来事。
ボブとジェームズが引き離されそうになったのですが、それを阻止できた理由とは…。答えは劇場で確かめて下さいね。
サイトによると、2020年にボブは亡くなったそうです。でも、今作でも前作同様、ボブはボブとしてジェームズの肩に乗っています。在りし日のボブに、是非会いに行って下さい。★3つ。
『ボブという名の猫2 幸せのギフト』公式サイト


『ライフ・ウィズ・ミュージック』は、オーストラリア出身の人気シンガー・ソングライターSiaの初監督作品。

アルコール依存症のリハビリテーションプログラムを受けるため、家族と離れて暮らしているズー。
彼女には、自閉症の妹ミュージックがいて、アパートの一室で、祖母と二人暮らし。周囲の助けもあって、毎日を楽しく過ごしていたミュージックでしたが、祖母が急死。急遽、ズーがミュージックの面倒を見ることになったのです。
感受性が強すぎるミュージックの世話は、想像以上に大変で。そんな時、隣りの部屋に住む、黒人男性のエポが助けてくれたのです。
これまでも手を差し伸べてくれていたエポのほうが、ミュージックを理解しているようで、次第に家族のように打ち解けていく3人。
自由奔放な性格で、アルコールのせいで人生につまずき、自暴自棄になっていたズーの心も、だんだんと溶かされていきます。
エポに対しても、好意を抱き始めたズー。
しかし、心優しいエポにも、人には言えない秘密があったのです…。

Siaの自伝的ストーリーに、ミュージシャンらしい味付けを加えた“ポップ・ミュージック・ムービー”。
とにかくカラフルで、書き下ろした12曲もの劇中歌と共に描かれる色鮮やかなシーンは、妹ミュージックが感じている脳内世界を表現したもの。
でも、妹の名前がミュージック=音楽ですから、自身の感性としても描かれているはず。
「もう映画を作る予定もない」とコメントしているSia。推測ですが、映画に関しては、今作ですべてを出しきったんじゃないかなと。
今後、新たな感性の貯蓄が溢れんばかりになったなら、その時はまたメガホンをとるのかもしれませんね。
“顔なきポップスター”の異名をとるSia。その名の如く、ニヤリとさせる形でカメオ出演しています。
そのシーンも、どうぞお楽しみに!★4つ。
『ライフ・ウィズ・ミュージック』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.2.17
『白い牛のバラッド』★★★
『真・事故物件 本当に怖い住民たち』★★★
『MIRRORLIAR FILMS Season2』★★★
『ドリームプラン』★★★★
(満点は★★★★★)


今週は23日(祝・水)公開の映画『ドリームプラン』も、ご紹介しておきます。
普段は五十音順で並べていますが、“ド”で始まる『ドリームプラン』が一番最後にあるのは、そういう訳だとご理解下さい。
さぁ、今週は4本です!

『白い牛のバラッド』は、イランとフランスの合作映画。

ミナはテヘランの牛乳工場で働く、シングルマザー。
夫のババクは、殺人罪で逮捕され、1年前に死刑に処されました。
遺された娘のビタには、聴覚の障がいがあり、しゃべることが出来ません。
それでも、ミナの心の支えは、愛娘ビタの存在にあったのです。
ある日のこと、ミナの元に夫の冤罪の報せが届きます。真犯人が見つかったというのです。
怒りに震えるミナは、裁判所に抗議に行くも、賠償金を払うの一言で門前払いに。担当していたアミニという判事への謝罪を求めても、会うことすら叶いません。
そんな時、ミナを訪ねてきた男性がひとり。ババクの友人だったというレザです。
レザは親身になって、ミナとビタの面倒をみてくれます。
次第に親密になっていく3人。
しかし、レザには、母娘には絶対に言えない秘密があったのです…。

イランとフランスの合作映画ですが、制作陣や役者がイラン人であること、イランの法制度、女性差別的な現状を描いている点からすれば、イラン映画と言っていいかと思います。
勘のいい方なら、レザの持つ秘密は読めちゃうはず。劇中では、早々に明かしているので、書いてもいいんですけどね(笑)。
ミナも夫を亡くし、男手は必要。ビタもなついているとなれば、ミナとレザと男女の関係になるのも自然の成り行き。
でも、実は…。
事実を知ったミナは一体どうするのか。その結末こそが、この映画の見どころになっています。
サスペンス・ミステリーの要素もあり、なかなか面白かったです。
ちなみに、女性の生きづらさを描いているせいか、自国の検閲を通らず、イランでは数回しか上映されていないそう。
ボクらも、イラン映画に触れる機会はそうないでしょう。こういう作品で体験するのはありだと思います。★3つ。
『白い牛のバラッド』公式サイト


『真・事故物件 本当に怖い住民たち』は、ホラー映画。

弱小芸能プロダクションに所属する3人の女性タレントに、仕事のオファーが来ます。
仕事と言っても、自主制作のYouTubeの配信番組で、上手くすれば、それがバズって、そこからチャンスが生まれるという程度のもの。
その番組企画は、郊外のいわゆる事故物件に住んで、怪奇現象をカメラに収めるまで帰らないという内容。
乗り気のしない3人でしたが、タレントと言っても、まだ知名度ゼロの彼女たち。首を縦に振らざるを得ませんでした。
到着したアパートは、確かに異様な雰囲気で、気味の悪い出来事が起こりますが、それはほんの序章に過ぎず。
この先に、本当の恐怖が3人を待っていたのです…。

このブログでも、たびたび紹介するホラー映画の配給会社TOCANAが、自社で作る映画製作第1弾として発表したのがこの作品です。
関連サイトを見ると、やたらと“ゴア表現”という言葉が出てくるので調べてみたら、ゴアとはドロッとした血のことだそうで、ゴア表現とは「血飛沫が飛び散るような残虐なシーン」のことを言うそうです。
この映画を撮った佐々木勝己監督は、“ジャパニーズ・ホラーの暴走王”と呼ばれているそうで、ゴア表現のマニアにはたまらない映像なのかもしれませんね。
確かにエグいです。
正直、B級感は拭えませんが、それもまたホラーにはいい味付け?
血に弱い方にはお勧めしませんが、TOCANAの第1弾ということで、次に繋がりますように。ご祝儀込みの★3つ。
『真・事故物件 本当に怖い住民たち』公式サイト


『MIRRORLIAR FILMS Season2』は、短編映画制作プロジェクトの第2弾。

計36人の監督が、15分以内という時間の縛りの中で、“変化”をテーマに短編映画を作り、それを4回に分けて発表していくプロジェクトの2回目。
実は、昨年9月のSeason1もオンラインで観ていたのですが、あろうことか、紹介を忘れてしまい…。本当に申し訳ない。
という訳で、今回も9人の監督作品がズラリ。シリアスなものからコメディまで、好きも嫌いも含め、いろんなタイプの映画が並んでいます。
ひとつひとつ取り上げることはしませんが、監督の名前だけは挙げておきましょう。
Azumi Hasegawa、阿部進之介、紀里谷和明、駒谷 揚、志尊 淳、柴咲コウ、柴田有磨、三島有紀子、山田佳奈。
「あれっ?」と思った人もいるかと思いますが、そう、志尊 淳、柴咲コウのふたりの俳優が、初メガホンを取っています。
どちらも、現代社会の闇にスポットを当てた意欲作。どんな仕上がりになっているかは、劇場でお確かめ下さい。
短編ならではの個性的な作品が9本。ちょっぴりお得感があるかもしれませんョ。★3つ。
『MIRRORLIAR FILMS Season2』公式サイト


『ドリームプラン』は、世界最強の女子テニスプレイヤー、ビーナスとセリーナのウィリアムズ姉妹を育てた、父親と家族の物語。

ある日のことです。テレビに映るテニスプレーヤーが、優勝賞金として、4万ドルの小切手を受け取るシーンを見たリチャード・ウィリアムズは、自身にテニスの経験がないにも関わらず、独学で「世界王者にする78ページの計画書」を作成。まだ生まれてもいない子どもたちを、プロのテニスプレーヤーにするための“ドリームプラン”を書き上げたのです。
再婚相手のオラシーンとの間に生まれたふたりの娘、ビーナスとセリーナは、家族のサポートを受け、決していいとは言えない環境の中、父の計画通りにテニス漬けの毎日を送ります。
才能の塊のような、ビーナスとセリーナ。
しかし、プロの指導が欠かせないのは明白。とは言っても、一流コーチに頼む余裕など、一家にはありませんでした。
すると、リチャードはジョン・マッケンローのコーチとして有名な、ポール・コーエンのところに二人を連れて行き、粘り腰で直談判。才能を認めさせたのです。
ビーナスとセリーナの腕は、メキメキと上達していきます。
さらに、リック・メイシーのテニスアカデミーに、特待生扱いで入れさせるなど、剛腕振りを発揮。フロリダの豪邸も、アカデミーが面倒を見るまでの待遇を勝ち取ったのです。
ところが、リチャードは自分で何でも決めないとすまないタイプ。育成方針にも口を出すし、10代は学業が優先だと、試合に出さない日々が続きます。
これでは、アカデミーとの軋轢を生むばかりか、妻や娘との間もギクシャクしていくことに。
果たして、リチャードは、“ドリームプラン”を実現させることが出来るのでしょうか…。

実話に基づくストーリー。
リチャードを演じるのは、ウィル・スミスです。
ドリームプランの実現については、皆さんご存じだと思いますが、ビーナスとセリーナで、グランドスラム30回優勝!大坂なおみ選手や、伊達公子さんとも戦ってきた姉妹は、テニス界の偉大なる存在となりました。
実は、リチャード・ウィリアムズ氏に関しては、いろんな噂や、いいとは言えない評判もあるようですが、映画の題材としての面白さ、ユニークさは突出しており、破天荒とも言える夢へのアプローチはまさにアメリカン・ドリーム。その一方で、家族の絆の物語でもあります。
オラシーンと前夫との間に娘が3人。ビーナスとセリーナは5人姉妹の4女と5女ということになります。その姉たちも、映画の制作に力を貸していて、それがウィリアムズ家のリアリティを描くことに寄与したようです。
144分。まったく飽きることなく見入ってしまいました。フィクションの部分もあるのは確かですが、それにしても、世界にはすごい話があるものだと驚かされます。
日本でも、間違いなく話題になるはずです。★4つ。
『ドリームプラン』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.2.9
『ちょっと思い出しただけ』★★★★★
『ブルー・バイユー』★★★★
(満点は★★★★★)


友人に勧められて、先週の映画ブログから、初めてハッシュタグなるものを付けてみました。
「せっかく書いてるんだから、もっとたくさんの人に読んでもらえばいいのに」と言われ、確かにそうだなと(笑)。
“いいね!”を打って下さった方のブログを読んだら、確かにハッシュタグが繋いでくれたかなというのもあって。
映画も、音楽も、自分に寄り添ってくれる作品との出会いが宝物だと思います。これからも率直な感想を書いていきます。大切な出会いの道標になれば幸いです(^-^)
さぁ、今週は2本です!

『ちょっと思い出しただけ』は、時を巻き戻すラブストーリー。

佐伯照生はステージ照明のスタッフ。元々はダンサーでしたが、足を傷めて踊れない体になってしまい、今の職業に就いています。
2021年7月26日。この日は、照生の34歳の誕生日。いつもと同じ時間に目覚ましが鳴り、朝のルーティーンから1日が始まります。
野原葉は、タクシー運転手。この日、彼女はひとりの男性ミュージシャンを車に乗せます。
トイレに行きたいという男性を一旦降ろしたのは、劇場の入った建物の前。
客が戻るのを待つ間に、葉は車を降り、音のする方へ、導かれるように入っていくと、そこには終演後のステージで、ひとり踊る照生の姿がありました。
じっとみつめる葉。
そこから1年、また1年と、ふたりが出会った6年前まで、思い出をさかのぼっていったのです…。

ボクは、基本的に試写を観る前には、何の下知識も入れないようにしています。
でも、たまに「前もって知っていればよかったかな」と思う映画があるのも事実。
この作品も、照生と葉の6年の恋愛をさかのぼる形で、物語が進むんだというのを、わかって観たほうがいいと思います。
だから、なるほど、タイトルは『ちょっと思い出しただけ』。
松居大悟監督の前作『くれなずめ』が、青春の友情の思い出なら、今回は恋愛のそれ。松居監督にとっては、初めてのラブストーリーだそうです。
忘れられそうでいて、忘れられない過去。忘れなくちゃいけないのかもしれないけど、「忘れなくていいんじゃない?」と、優しくささやいてくれるような映画です。
そのことは、公式サイトにある、監督と主演の池松壮亮、伊藤沙莉のコメントを読むと、より一層伝わります。
そう、あの頃があって、今がある。確かに“地続き”なんだよなぁ。
ボクが別れた元妻の思い出を話したり、書いたりするのは、まさにこんな感じ。もちろん本人には迷惑千万だろうけど(笑)。
ごめんね。
これを「未練がましい」と言う人もいるけど、そうじゃないんですョ。ちゃんと吹っ切れてるけど、それでも人生の大きくて、大切な時間だったから。大事に、心の中にしまっておきたいと思っているわけです。
こんな考え方の人には、メチャメチャ刺さる映画です。実は『ちょっと思い出しただけ』じゃなくて、かなり思い出してるはず(笑)。“ちょっと”は照れ隠しだと確信しています。
主演のふたりのやり取りが、本当の恋人同士のように自然で。
車の中で言い争うシーンなんて、どうしても自分のあの頃を思い出しちゃう。「そうだよな、わかる。わかるけど、そこまでにしておきなって。それ以上、言っちゃダメだよ。言ったら壊れるから。壊れるよって。あぁ、言っちゃった…」みたいな(笑)。
正直、心のかさぶたを剥がされるけど、これまで生きてきて、人を真剣に愛してきたんだなと。
松居作品、いいですね。次も期待しちゃいます。満点!★5つ。
『ちょっと思い出しただけ』公式サイト


『ブルー・バイユー』は、養子としてアメリカにやってきた韓国人移民の問題を描いた作品。

韓国生まれのアントニオは、3歳でアメリカ人の家庭に養子にもらわれ、移住。30年以上、アメリカで生活してきました。
今は、シングルマザーのキャシーと、彼女の娘のジェシーと3人で、貧しいながらも幸せに暮らし、キャシーのお腹の中には、アントニオとの子がいます。
過去の犯罪歴と出自が邪魔をして、なかなか新しい職に就けないアントニオ。
そんな時、キャシーの元夫で警察官のエースが、スーパーで買い物中の3人を見つけるんですね。
娘との接見を断り続けられてきたエースは、ここぞとばかりにキャシーに迫ると、アントニオがエースの前に立ちはだかります。
すると、明らかに人種差別主義者の同僚警官が、アントニオに対し、手荒な対応をし、遂には手錠をかけるんですね。
逮捕されたアントニオには、さらなる追い討ちが。それは、養子としてやってきた30年以上前の書類に不備があり、このままだと国外退去を余儀なくされ、二度とアメリカに帰ってこられなくなると言うのです。
移民局に身柄を移されたアントニオ。
弁護士に弁護を依頼すれば、高額な費用がかかります。さらに弁護士は言います。
「この国は、君みたいな人間を狙っているんだ」。
ようやく掴んだ家族の幸せを、アントニオはどう守るのでしょうか…。

主演のジャスティン・チョンが、監督、脚本も務めた作品。
韓国では、1950年に勃発した朝鮮戦争時に、米兵との間に出来た子や、戦災孤児をアメリカに送ったのが始まりと言われる養子移民問題。
ところが、その後は戦争とは関係のない、貧困や望まない出産などが理由で国際養子が広まり、韓国は、“赤ん坊の輸出国”などという、不名誉な言われ方をした時代があったそうです。
そうした頃の影響が、今も根強く残っているのが現実で、この映画も多くの当事者たちに取材をして、脚本を書いたとジャスティン・チョンは語っています。
ジェシーを演じた、シドニー・コワルスケという子役の女の子の演技が素晴らしく、次々と変化していく環境に、その都度、心が揺れ動く様を、見事に表現しています。
特に目がすごい。感情が無になったかと思わせるジェシーの表情には、観ているこちらが凍りつきますから。先々の活躍が楽しみ。名前を覚えておきたいと思います。
このジェシーが、おそらく、この物語の評価を左右する存在になっていきます。彼女の劇中の動向に注目してみて下さい。★4つ。
『ブルー・バイユー』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.2.3
『ギャング・オブ・アメリカ』★★★★
『再会の奈良』★★★
『パイプライン』★★★
『夕方のおともだち』★★★
(満点は★★★★★)


2月になりました。
コロナの影響が大きく出始めたのが2020年の2月の半ば頃ですから、丸2年ですかね。
まだ何が起こるかはわかりませんが、どんな変化にも対応出来るように、心は常に豊かにしておきたいものです。
映画はいいですョ。たくさんご覧になって下さい!
さぁ、今週は4本です!

『ギャング・オブ・アメリカ』は、実在の伝説のマフィアを描いたクライム・サスペンス。

1902年にユダヤ系ロシア人として生まれ、少年期にアメリカに移住してきた、マイヤー・ランスキー。
NYの不良たちを仕切っていた、ラッキー・ルチアーノと仲良くなると、ランスキーは犯罪の世界で頭角を現し、地下賭場の経営、酒の密輸、さらには殺しを生業とするマーダー・インクを設立。その勢力は全米へと広がっていったのです。
アル・カポネらと肩を並べる存在にまで登り詰めたランスキーは、キューバにも事業を拡大。FBIやCIAとの密約があったのか、周囲の仲間が次々と逮捕されても、ランスキーに警察の手は及びませんでした。
マイアミの隠れ家で余生を過ごしていた1981年、作家のデヴィット・ストーンが、ランスキーの伝記本を書きたいと、ランスキーに申し出ます。
ランスキーは、それを受諾。貧乏だった幼少期から、波乱の人生を語り始めたのです…。

1983年1月に肺ガンで亡くなったマイヤー・ランスキー。実在の伝説のマフィアです。
彼の人生は、20世紀アメリカの犯罪史そのものでもあると。ストーンとランスキーのやり取りから、映像は若き日のランスキーへとさかのぼり、当時の緊迫した場面が繰り広げられていきます。
ランスキーは結婚し、子どもを3人授かりますが、長男に障がいがあり、妻との不仲もあって、経済的には裕福でも、決して幸せな家族生活とは言えなかったようです。
一方のストーンも家庭に問題を抱えていて、出版までは、一切、他言は無用としたランスキーとの契約でしたが、ランスキーが隠し持っているとされる3億ドルもの資産をFBIが捜査。ストーンは情報提供を依頼され、心が揺れ動くんですね。
実は、この映画のエタン・ロッカウェイ監督の父が、アメリカ犯罪の歴史家で、実際にランスキーの死の直前に会ってインタビューをしたそう。
ストーンはそんな父親がモデルになっていて、息子であるロッカウェイ監督は、「神話のキャラクターを思わせる、邪悪な力と意志を持っていた」と、突き抜けた裏社会のトップに魅せられていたようです。
決して、暴力賛美の映画ではありませんが、そんな監督思いが伝わる1本に仕上がっています。
レベルの高い、クライム・サスペンス映画だと思います。★4つ。
『ギャング・オブ・アメリカ』公式サイト


『再会の奈良』は、日中合作映画。

奈良で暮らす、中国生まれの清水初美。中国名はシャオザー。
2005年、彼女のもとに、中国に暮らす陳ばあちゃんが来日すると連絡が入ります。
実は、陳ばあちゃん、中国残留孤児を養女にしていたのですが、94年の帰国政策で、養女の麗華を日本に帰すことにしたのです。
しばらくは定期的に手紙が届き、元気な様子が見てとれていたのですが、数年前から便りが途絶え、心配になって、単身、日本に探しに来たというわけです。
血のつながりはないけれど、孫娘のように可愛がっていたシャオザーを頼りに来日した陳ばあちゃん。
奈良に住む中国残留孤児は6人。しかし、日本名がわからないこともネックになって、麗華の所在はなかなか掴めません。
そんな時、ひょんなことから、元警察官だった吉澤一雄と知り合い、3人での麗華探しが始まったのです…。

日中国交正常化50周年記念の映画として制作された作品。
日本側のプロデューサーは河P直美。中国側は中国映画“第六世代”を代表するジャ・ジャンクー。
メガホンをとったのは中国のポンフェイ監督。
中国残留孤児の問題、課題は、今も根深く残っていて、残留日本人と血縁関係があるとして来日しても、それを証明出来ないと国外退去処分を課されたり、ブローカーの存在や、そもそもの生活や文化の違いなどに戸惑い、日本の社会生活に馴染めない人も多いようです。
また、2世や3世が、いわゆる中国マフィアになったりする例も多く、問題点が散見しているのが現実です。
映画も、日本国籍を持ちながら、言葉も少し中国訛りのあるシャオザーこと清水初美と、退官して孤独な初老の元警察官の吉澤一雄が、陳ばあちゃんが育てた日本人の残留孤児を探すという。
物語はすっきりとは終わりませんが、それがこの問題の“現実”ということなのかなと。以前ほど話題に挙がらなくなっていますが、実は進行形であるということを表しているのかなと感じました。
重たい話を音楽が和らげてくれていたり、物怖じしない陳ばあちゃんの行動が笑いを誘ったりと、劇中に“救い”も少々。
奈良・御所の風景もそのひとつになっているのかもしれません。★3つ。
『再会の奈良』公式サイト


『パイプライン』は、韓国のアクション・エンターテイメント。

石油の送油管に穴を開け、別の管をつないで石油を盗むという大胆不敵な犯行を“盗油”と言います。
その犯罪を完遂するには高い技術が必要で、ピンドリは究極の穿孔技術の持ち主。
そんなピンドリのもとに、数千億ウォンもの石油を盗まないかという話が舞い込みます。
持ちかけたのは、若き大企業の2代目、ゴヌ。もちろん、高額な報酬を提示してきたのです。
危険と知りながら、ピンドリは要請を受けるんですね。
チームには他に、溶接のプロ、チョプセ。地中のことは何でも知っているナ課長。“怪力人間掘削機”ビッグショベル。ITを駆使して、内外を監視するカウンターの5人。
限られた期限の中で、綿密に立てた計画通りに作業を進めたいピンドリたちでしたが、ハプニングやアクシデントが連発。思うように事は進みません。
冷徹なゴヌは、容赦なくチームを追い立てます。
遂には警察も事件を嗅ぎ付け、ピンドリたちに捜査の手が伸びてきたのです…。

韓国では実際にあったそうですね。盗油事件。
それを時にコミカルに、時にシリアスに描いた作品です。
これだけの大規模犯罪が、いくらプロ中のプロの集団とはいえ、この少人数で出来るのか。正直、ちょっとリアリティに欠けているんじゃない?と思っちゃいました。
韓国映画のすごいところは、緻密に計算し尽くされたストーリーの構築にあるので、それを期待しちゃうとちょっと…といった感じでしょうか。
でも、キャラの立った登場人物たちが、面白おかしく演じてる様に、コミックの側面が大きいのかと思って観れば、十分に楽しめると思います。★3つ。
『パイプライン』公式サイト


『夕方のおともだち』は、山本直樹の同名コミックの実写映画化。

ヨシダヨシオは、市の水道局に勤める平凡な男性。
父を亡くしてから寝たきりになってしまった、母の面倒を見ながらの二人暮らしでしたが、そんな彼にも、ひとつだけ趣味がありました。
それは、街に一軒だけあるSMクラブに通うこと。
同僚と遊びに行ったその店で、自分が真性のドMであることに気付いてしまったヨシオは、仕事が終わると店に赴き、ミホ女王様のお仕置きを受けることが生き甲斐になっていたのです。
ところが、最近はプレイの最中にも、どうにも気持ちが入らない。
原因を考えるに、ヨシオに初めてSMの快楽を教えたまま、忽然と姿を消してしまった“伝説の女王様”ユキ子のことが忘れられないからじゃなかろうかと。
そんなある日のことです。ユキ子が街に帰ってたという噂がヨシオの耳に入ります。
数日後、ヨシオは意外な形で、ユキ子との再会を果たしたのです…。

SMの女王様と奴隷という、一風変わった男女のヒューマン・ラヴ・ストーリー。
性描写はかなりストレートで、映倫区分はR18+です。
滑稽に見えて、真面目。真面目だからこそ、どこか哀愁漂うヨシオの毎日。
でも、何が正しくて、何が変かなんて、誰にもジャッジ出来ませんから。
世の中には凸と凹があって、ピタリとハマるなら、それはそのふたりにとって、互いが互いの運命の人。
他人に迷惑をかけないなら、どんなプレイも人にとやかく言われる筋合いはないわけで。あ、性行為に限らず、宗教だって、思想、生活習慣だって、そうですよね。
あなたのノーマルが、実はアブノーマルの可能性だって、なきにしもあらず。
ただ、尖った凸と凹は、見つけた相方を大切にしないとね。なかなかハマらないと思うから。
あぁ、幸せになりたい…(笑)。★3つ。
『夕方のおともだち』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.1.28
『クレッシェンド 音楽の架け橋』★★★★
『Pure Japanese』★★
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』★★★
『麻希のいる世界』★★★
(満点は★★★★★)


だいぶ試写室での試写も再開し、案内のハガキには「オンライン試写は実施致しません」等の文章が増えたのも束の間。オミクロン株の蔓延で、狭い試写室での鑑賞には、正直怖さが伴うようになりました。
ハガキの発送時を考えれば、仕方のないこと。こんなタイムラグも、コロナウイルスの特徴なのかも。うんざりしている人が多いのは、安易に想像できますよね…。
それでも映画は元気ですョ!
さぁ、今週は4本です!

『クレッシェンド 音楽の架け橋』は、実話に基づくストーリー。

世界にその名を轟かせるドイツ人名指揮者、エドゥアルト・スポルクの元に、イスラエルとパレスチナから若者を集めて、平和を祈ってのコンサートを開かないかという打診が届きます。
不可能だと一蹴するスポルクでしたが、説得され、オーディションを開くことに。
パレスチナ側からやってきた、バイオリニストのレイラ、クラリネットを吹くオマルは、検問を通ることすら困難で、特にレイラは母親が猛反対。
一方のイスラエル側は、バイオリニストのロンを中心に、経済的にも恵まれた若者たちが多く、オーディションの場から、アラブ人とユダヤ人の、ピリピリした空気が漂っていたのです。
スポルクが選んだのは、20数名の若き音楽家。ところが、何かと揉めるばかりで、練習は遅々として進まず。
そこでスポルクは、全員を連れて、南チロルでの21日間の合宿を敢行します。
憎しみ合う民族同士の共同生活には難題がつきまといます。
この複雑な関係を修復し、無事コンサートを開くことは出来るのでしょうか…。

ドイツ映画です。ドイツにもナチス時代の負の歴史が、今も消えることなく残っています。
紛争が続く、イスラエルとパレスチナ。世界で最も解決が難しいと言われる問題ですが、それでも音楽が垣根を越えて、両者が手を携えている実例があるのです。
それが指揮者のダニエル・バレンボイムと、文学者のエドワード・サイードが1999年に設立した“和平オーケストラ”のウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団。
この楽団には、イスラエル、パレスチナ、アラブ諸国からメンバーが集まり、今も世界中で演奏を続けているといいます。
中東の問題は、キレイ事で済むような話でないのは重々承知ですが、事実として、そういう楽団があるということに、感動と可能性を感じずにはいられません。
とはいえ、映画にも描かれていますが、ひとたび罵り合いが始まると、それはそれは凄まじいものがあり、我々日本人には理解不能な根深さがあるんだなと改めて痛感させられます。
映画の中は、どう揺れて、どう固まって、どう崩れて、最終的にはどうなるのか。それはあなたの目で確かめて欲しいのですが、100:0でなければ価値がないなんてことはないわけで。
個の積み重ねが、いつか憎しみの濃度を希釈してくれる日が来ないかな、なんて、こんな感動作を観てでさえ、難しいと感じるのですから。
悲しく厳しい現実ですが、100のうち、僅かですが、確実に差し込んだ光に触れることは出来ます。きっと、その光を神々しく感じるはずです。★4つ。
『クレッシェンド 音楽の架け橋』公式サイト


『Pure Japanese』は、ディーン・フジオカの企画、プロデュース、主演作。

地方のテーマパークで、忍者ショーのメンバーとして働く立石大輔。
殺陣やアクションのスキルに関しては、素晴らしいものを持っているのですが、過去に撮影現場で、過って人を殺してしまったトラウマから、芝居の途中で体が動かなくなってしまうことがあり、今は音響を担当。それでも日々、鍛練は欠かさずにいたのです。
仲間の送別会で行ったスナックでは、県議の黒崎が、地元のヤクザと酒を酌み交わしていました。
黒崎たちは、このあたりの土地を中国人ブローカーに売却して儲けようという計画を立てていたのですが、頑として立ち退きを拒否する住民がひとり。それが、この店でバイトをしている女子高生のアユミの祖父、隆三でした。
ヤクザたちは、酔って立石らに絡んで、ひと悶着。店の招き猫を壊したお詫びに、後日、店を訪れる立石。運命の糸は、一歩ずつ、立石とアユミたちを近づけていきます。
アユミと隆三に対し、立ち退きを迫る黒崎たちの嫌がらせはエスカレート。ついには隆三が命を落とすことになります。
「あいつら全員殺しちゃって:超びっくりマーク:」
そのアユミの一言が、立石の中の暴力へのリミッターを外したのです…。

ディーン・フジオカの映画です。
彼と彼のファンのための映画ですかね。
Wikipediaで調べてみると、ディーン・フジオカは、父親は中国生まれですが、両親も祖父母も日本人。自身は、アメリカ留学や海外渡航歴も多く、5ヶ国語を話せるとありました。
劇中、日本人の純度を計る試薬“Pキット”なるものが出てきて、立石は100%日本人という結果に高揚するという場面があるのですが、日本的なものにこだわった内容に、自分の何かを確かめたかったのかなと思い、出自を調べたくなりました。
グローバルな活躍や、そんなイメージが、逆にルーツを明確にしたくなったのでしょうか。
繰り返しになりますが、“ディーン・フジオカの映画”だと思います。
裏を返せば、ターゲットが明確で、それもまたエンタメのひとつの在り方だと思います。★2つ。
『Pure Japanese』公式サイト


『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』は、架空の街の、架空の雑誌の最終号のお話。

フランスのとある街にあるフレンチ・ディスパッチ誌の編集部。
この雑誌は、アメリカ出身の名物編集長が、超個性的な記者を集めて、グルメ、アート、ファッションから国際問題まで、幅広いテーマを、斬新な視点で取り扱った人気の1冊。
ところが、編集長が、心臓まひで突然亡くなってしまったのです。
遺書があり、編集長の他界と共に、雑誌は閉刊しなくてはなりません。
編集部としても、雑誌は続けたいけれど、大好きだった編集長の遺志も大切だと。
そこで下した結論は、次の号での廃刊でした。
そして、いよいよ最終号の制作、編集が始まったのです…。

ウェス・アンダーソン監督の記念すべき10作目だそう。
映画、フランス、活字カルチャーに愛をささげると、もらったプレス資料にはありました。
色使い、アングルへのこだわりはもちろん、セットのひとつとして計算されているであろう人ひとりひとりの動きまでもが美しく、観ていて、「ほぅ」と唸らされてしまいました。
映画は最終号に掲載する、1つのリポートと、3本の記事からなるオムニバス形式。
内容も面白いのですが、ボクのようなストーリー重視派向きではなく、散りばめられた仕掛けや、監督の意図を見つけるワクワクが、メインの楽しみ方としてあるんだろうなと。
いわば、通のための、玄人のための映画というか。
料理に例えれば、目で楽しみ、舌で隠し味を探し、その都度ワインを合わせる高級フレンチのような。
正直、ボクには、ちょっぴり高嶺の花(笑)。
とはいえ、あなたの感性には合うかもしれませんョ。どうぞ、お試しあれ!★3つ。
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』公式サイト


『麻希のいる世界』は、ふたりの女子高生の物語。

由希は高校2年生。
実は、重い持病があり、そのせいで常にもやもやしたものを抱えていて、学校にも、世の中にも馴染めずにいました。
そんな由希に好意を持っていたのが、軽音楽部でギターを弾く祐介でした。
ところが、由希の主治医でもある祐介の父親が、由希の母と真剣交際。子どもたちにとっては、あまりに複雑です。
そんな時、由希は同じ学校の“問題児”、麻希と出会うんですね。
何かと悪い噂が絶えない麻希でしたが、由希にはその強さが憧れに映ります。
徐々に仲良くなるふたり。
祐介は「あいつにだけは関わるな」と、しつこく忠告してきます。
ふとしたきっかけで、麻希の音楽の才能に気付いた由希は、祐介を巻き込んで、音楽で世の中を見返してやろうと考えます。
しかし、このことが、後に起こる事件の契機になろうとは、想像も出来なかったのです…。

ボクも大好きな映画『さよならくちびる』の塩田明彦監督の長編最新作。
単なる青春映画じゃないだろうなと思っていましたが、その予感は当たっていました。
10代の持つ“自分”が危ういことは、ボクらが大人になって振り返ればわかるけれど、あの頃はちょっと背伸びもして、当時の物差しでは精一杯の自分に価値を見出だしてましたもんね。
否定してるわけじゃありませんョ。だって、それが青春なんだから。
でも、この映画の登場人物は、みんな幸せじゃない方向へと向かって行ってしまう。
ネタバレだったら、ごめんなさい。
でも、誰か止められなかったのか。大人も含めてです。
もちろん、幸せも人それぞれだから、「何言ってんの?幸せじゃん」という、反論もあるかと思います。でもね。
ブレないって、なに?
世の中に媚びるって、本当にダメなことなの?
そんな議論を巻き起こすとしたら、それもまた映画の持つ意味なんじゃないかなと思います。★3つ。
『麻希のいる世界』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.1.20
『コーダ あいのうた』★★★★★
『さがす』★★★★
『シークレット・マツシタ 怨霊屋敷』★★★
『シルクロード.com 史上最大の闇サイト』★★★
『ブラックボックス 音声分析捜査』★★★★
『ライダーズ・オブ・ジャスティス』★★★
(満点は★★★★★)


首都圏の1都3県に、まん延防止等重点措置が発出されました。
感染のヤマは高いけれど、短いという、オミクロン株の海外サンプルが日本にも、ある意味、当てはまってくれるといいなぁと。短期決戦を願うばかりです。
加えて、これがコロナウイルスにとっての“終わりの始まり”であることを、エンタメに携わっているひとりとして、祈るばかりです。
さぁ、今週は6本です!

『コーダ あいのうた』は、2014年のフランス映画『エール!』のリメイク作品。

ルビーは、歌が大好きな女子高生。
明るい両親と、優しい兄との4人暮らしで、一家は漁で生計を立てていました。
実は、家族の中で健聴者は、ルビーただひとり。他のみんなは聴力に障がいがあり、漁の船にもルビーが乗船。家族の耳になっていたのです。
新学期になって、気になる男子のマイルズが合唱クラブに入ると知り、ルビーもあとを追うように入部するんですね。
すると、顧問の先生がルビーの才能に気付き、都会の名門音楽大学への入学を薦めます。
しかし、ルビーには、放ってはおけない家族の存在があったのです。
大好きな音楽と、家族の間で悩むルビー。彼女と彼女の家族が出した結論とは…。

いやぁ、泣けました。
笑って、泣けました。
実際に、耳の不自由な俳優さんを使って、キャスティングにもこだわった作品。
家族の明るさに救われながら、それゆえ自分に課せられた役割の重圧がルビーに重くのしかかります。
言い訳をしないルビーですが、体はひとつ、時間は1日24時間。次第に無理がたたっていきます。
“コーダ”というのは、耳が不自由な親に育てられた子どものことを言うそうです。
でも、そこには家族の愛があって、マイルズとの恋があって、何より音楽があります。
最後は、本当に涙、涙。ハンカチを2枚ぐらい持って、劇場にどうぞ!満点!★5つ。
『コーダ あいのうた』公式サイト


『さがす』は、佐藤二朗主演のサスペンス・スリラー。

大阪の下町に暮らす、智と楓は父と娘。
智は卓球センターを営んでいましたが、経営難で今は手放している状態。
それでも、ふたりは手を携え、懸命に生きていたのです。
そんなある日のこと、智がこんなことを言ったのです。
「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。警察に突き出したら300万やで」
すると、次の朝、智は忽然と姿を消してしまいます。
楓に好意を持つ同級生の豊と一緒に、父を探し始めますが、土地柄か、子どもだからか、警察はまったく相手にしてくれません。
そんな中、日雇い労働者の名簿に、父の名前があることを知った楓は、現場に駆けつけます。
ところが、父の名前で働いていたのは、父ではなく、まったく見ず知らずの若い男性でした。
父親探しが振り出しに戻ってしまった楓が、ふと町に貼られた指名手配犯のチラシに目をやると、そこにあったのは、山内照巳という、さっき父の名前で働いていた若い男の写真だったのです…。

メガホンをとった片山慎三監督が、大阪に住む父親から、「指名手配犯を見かけた」と言われた実体験からインスピレーションを得、ストーリーを紡いでいったという1本。
昨今、実際に起こった事件を彷彿とさせる内容で、人間の深い心の闇に踏み込んでいくストーリーは、確かに秀逸でした。
監督にとっては、問題作『岬の兄妹』に続く、2作目の長編映画。
40歳。これからが楽しみな才能に、今から触れておくことをオススメします!
大丈夫だョ。楓ちゃん、君の正義が、必ず君を幸せにしてくれるから!★4つ。
『さがす』公式サイト


『シークレット・マツシタ 怨霊屋敷』は、ペルーのホラー映画。

日本と関係の深い南米の国、ペルー共和国。
首都リマに、マツシタ邸という幽霊屋敷がありました。
旧くは日系人が住んでいたのですが、凄惨な殺人事件の現場となり、今は警備員が立ってはいるものの、人が住めない廃墟と化していたのです。
超常現象が多発すると噂のこの屋敷に、2013年、3人の若者が撮影チームを結成、霊媒師を呼び、4人で侵入。カメラを回します。
すると、遊び心と好奇心とでマツシタ邸に入った彼らを、想像を絶する恐怖が待ち受けていたのです…。

映像は撮影チームが消息を絶った6ケ月後に発見されたビデオデータで、映画のサイトではこれを事実だとしています。もちろん、アナログのボクには、マツシタ邸の存在を確かめようがなく、真実かどうかはあなた自身で判断して下さい。
2014年のペルー映画。ドキュメンタリータッチのホラー作品です。
自国では初登場1位になったそうで、“死”という文字が何度も浮かび上がってくるように、日本への神秘的なイメージも手伝ってのヒットだったのでしょうか。
ホラー好きの皆さんの感想が、逆に気になります。★3つ。
『シチリアを征服したクマ王国の物語』公式サイト


『シルクロード.com 史上最大の闇サイト』は、実話をもとにした”サイバー・ダーク・サスペンス“。

天才的頭脳を持つ若者、ロス・ウルブリヒト。
「何者かになりたい」。
しかし、ロスには明確な目標が立てられず、悶々としていたのです。
そんな時、ふと思いついたのが、絶対に足のつかない闇サイトの立ち上げでした。
検索エンジンではヒットせず、表では買えない違法ドラッグや、武器、さらには殺人の依頼まで、完全に匿名で売買し、暗号通貨のビットコインで取り引きをする、”シルクロード“というサイトを作ったのです。
これが瞬く間に大ヒット。1日の売上高が軽く1億円を超えるようになります。
当然、警察やFBIもサイトの存在は把握しますが、鉄壁の防御に、サイバー捜査班ですら歯が立たないんですね。
そんな時、麻薬捜査班で問題を起こし、サイバー犯罪課に左遷された、リック・ボーデンという刑事がいました。
すると、パソコンなんて使ったこともないアナログ人間が、思いもしない方法で、ロスを追い詰めていくことになるのです…。

事実に基づくということですが、”闇のAmazon“と言われた闇サイトが、2011年、実際に立ち上がったようです。
”シルクロード“は2013年に閉鎖されるまでに、約120万件もの違法取引があり、アメリカ・テキサス州に住むロス・ウィリアム・ウルブリヒトは、終身刑で、現在も監獄の中にいるそうです。
システムについてはまったくわかりませんが、”シルクロード“は、騙しのない安心、安全のサイトだったとか。何が安心、安全なんだか…(笑)。
それをアナログ刑事が、コツコツと証拠を積み上げて、追い詰めていくという。
個人的には、頑張れアナログですが(笑)、巨万の富を得るにも”器“があるのかなと。ロスにはそれがなかったということですかね。
壊れていく姿は、あまりに憐れ。やっぱり、ほどほどが一番かもしれません。★3つ。
『シルクロード.com 史上最大の闇サイト』公式サイト


『ブラックボックス 音声分析捜査』は、航空業界の闇を描いたサスペンス・スリラー。

航空事故調査局に勤める、音声分析官のマチューは、些細な音から、故障の箇所や、接触したものを判別する天才的な耳の持ち主。
しかし、それゆえに妥協を一切せず、孤立することも多かったのです。
そんなある日のこと、ヨーロピアン航空の最新型機がアルプスで墜落し、乗員、乗客316人全員の死亡が確認されたのです。
責任者のボロックは、なぜかこの事故の調査にマチューを同行させませんでした。
妻のノエミに「外された」とこぼすマチューでしたが、ブラックボックスを開けたボロックが、まもなくして姿を消してしまったのです。
代わりを任されたマチューは、ブラックボックスの音声を解析、テロの可能性が高いと結論づけます。
ところが、被害者のひとりの女性が、夫に遺した留守番電話のメッセージを聞いて、マチューは愕然とします。
事実はまったく違うと確信したマチュー。
しかし、真実を追求しようとすればするほど、そこには高い壁が立ちはだかり、深い闇が横たわっていたのでした…。

面白かったです。
事故の原因が何なのか、一件落着かと思いきや、次々と新たなる真実が出てきて、マチューの見解は上書きされていきます。
謎解きの映画ですから、あまりしゃべっちゃうとネタバレになるので、やめておきますが(笑)、頑なな正義がマチューにはある。それこそが音声分析捜査官のプライドで、そのプライドが彼を突き動かします。
絶対音感を持つ人が、街中の不協和音に不快になるように、マチューの耳も大変なんだろうなと。
この映画を観て、凡人でよかったと思うのは、ボクだけじゃないと思います(笑)。★4つ。

『ブラックボックス 音声分析捜査』公式サイト


『ライダーズ・オブ・ジャスティス』は、デンマークの”リベンジ・アクション・エンターテインメント“。

アフガニスタンで軍人としての任務に就いていたマークスのもとに、妻が列車の事故で亡くなったという報せが届きます。
同じ列車に乗っていた、娘のマチルデは放心状態。しかし、マークスは家族のことを何も知らず、どう接したらいいのか、わかりませんでした。
悲しみと後悔でいっぱいのマークスを、ふたりの男性が訪ねてきます。数学者のオットーとラースです。
オットーによれば、彼もまた妻や娘と同じ列車に乗っていて、今回の事故は事故じゃない。ライダーズ・オブ・ジャスティスという犯罪組織が、殺人事件の重要参考人を消すために、巧妙に計算した事件だと言うのです。
その証拠を並べるオットーの見解に、マークスの怒りは頂点に達し、犯罪組織への復讐を誓います。
さらに、もうひとりのパソコン・オタク、ニコラスが加わり、奇妙なリベンジ集団が立ち上がります。
ところがです。事は思わぬ方向へと進んで行ったのです…。

不思議な運命の糸が絡まって始まる悲劇。
発端は、マチルデの自転車が盗まれ、仕方なく、車で母に学校まで送ってもらうはずが、車が不調。落ち込んでいるマチルデに、母は学校をサボることを提案。母娘で楽しい時を過ごし、帰宅の列車に乗り込みます。すると、オットーが席を譲り、座席に座った母が命を落とすという。
あれがなければ、こうしていたら。そんな”たら“、”れば“に、マチルデは悩み続けるんですね。
口より先に手が出るような父と、数学オタクたち。警察が取り扱ってくれないなら、自分たちでやってやろうじゃないかと、数学的理論で周りを固め、復讐劇は始まるのです。
ところが、「へっ?」という方向に話は進みます。それをどう受け止めるかは、あなた次第。
ただ、スピーディーな展開は、飽きさせることなく、観ている人を楽しませてくれます。
時にプッと笑える、北欧のアクション映画。ご覧になってみて下さい。★3つ。
『ライダーズ・オブ・ジャスティス』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.1.13
『安魂』★★★
『エル プラネタ』★★★
『シチリアを征服したクマ王国の物語』★★★
『なん・なんだ』★★★
(満点は★★★★★)


新年最初の映画紹介です。
昨年は、150本の新作映画を観させてもらいました。
12月30日にオンラインで2本、大晦日に2本。きっちり追い込んで、ノルマ達成です(笑)。
2022年も、できるだけたくさんの映画を観て、ご紹介していけたらと思っています。
今年も、ご愛読よろしくお願い致します。
さぁ、今週は5本です!

『安魂』は、日中合作映画。

著名な作家である唐大道。彼には、英健というひとり息子がいました。
英健は、父の望む息子になろうと、真面目に働き、父の言うことをすべて受け入れてきました。
しかし、恋人の張爽は農村の出身。
結婚したいと両親に合わせたところ、「お前には相応しくない」と、大道は結婚を許してはくれません。
激しく食い下がる英健でしたが、自分が正しいと頑なな大道が、首を縦に振ることはありませんでした。
過労と心労が祟り、倒れてしまう英健。29歳の若さで、この世を去ってしまいます。
死の間際に、「父さんが好きなのは、自分の心の中の僕なんだ」と言われ、大道は愕然とします。
どんなに悔やんでも、息子はもういない。
しかし、死後の世界を描いた本を読み漁ると、まだ息子の魂は近くにあると。
そんな時、英健と瓜二つの若者を街で見つけるんですね。
あとを追うと、路地奥の家の中へ入っていくではありませんか。
そこは、心霊治療所なる怪しげな場所で、息子に似た若者は劉力宏という、その施設のスタッフでした。
あまりに息子に似ている彼をどうしても他人とは思えず、死者と繋がるという心療治療に多額の金を費やす大道。詐欺に決まってるという妻の反対には耳を貸さず、ついには妻も家を出て行ってしまいます。
さまよい続ける大道の心が、安寧を取り戻すことは出来るのでしょうか…。

監督、脚本は日本人が、キャストとロケ地は中国で、という日中合作映画。
日本からは、北原里英が星崎沙紀という日本人留学生の役で出ていて、英健が倒れた時に近くにいたことから、この件に関わっていく大切な役どころを演じています。
スピリチュアルな要素がたっぷりのサスペンス・スリラーでありながら、家族の愛も描いているという今作。
人生は後悔の連続だし、個人的に、ボクも父を亡くしていて、ああしておけばよかった、この言葉を伝えておけばよかったと、未だに思い出すとツラくなることばかり。
恋愛や結婚においても、ちょっと大道的な部分があっただけに、観ていてツラいところもありました。
でも、生きているのだから、前を向かなきゃ。そんな勇気を与えてくれる1本でもあります。
ちなみにこの映画が、東京では、岩波ホールでの上映(1月15日土曜日から2週間の特別先行ロードショー)となります。
名館のスクリーンで是非!★3つ。
『安魂』公式サイト


『エル プラネタ』は、ミレニアル世代を代表するアーティスト、アマリア・ウルマンの初長編監督作品。

レオは、ロンドンの学校でファッションを学んだ、駆け出しのスタイリスト。
母親が暮らす故郷、スペインの町、ヒホンに帰ると、アパートは家賃滞納で、電気も止められる寸前。
それでも母と娘は似たもの同士。まだカードが使えるからと、街に繰り出しては買い物をし、話す会話は虚勢にまみれたハッタリばかり。そうして、“映える”映像をSNSにUPし続けます。
レオが「ようやく出会えた」と思った男も、体を重ねたあとに妻子持ちだと発覚。
「私の人生って何?」と嘆いている時に、結末は突然やってきたのです…。

ミレニアル世代とは、“デジタル・ネイティヴ”とも言われ、2000年初頭に成人を迎えた世代。
次に控えし、Z世代とは、価値観の点で違うと言われます。
ミレニアル世代は好景気を知っていて、Z世代は不況の中で育ったと。
キャッチフレーズにもなっている、「みんな、飾って生きている」。
確かに、この映画を観ていると、母娘の見栄はミレニアル世代の一現象なのかなと思ってしまいます。
監督のアマリア・ウルマンは、1989年にアルゼンチンで生まれ、スペインで育った32歳。
SNSを駆使して、世界中で人気の彼女が、自ら主演、脚本、プロデュース、衣装デザインを務め、さらに母親役には実の母を起用。
自身の故郷で、自分の貧困生活を反映させた、リアリティもたっぷりな内容になっているそうです。
“パパ活”の交渉から始まる、この映画。観れば、どこまでがリアルなのか、知りたくなるはず(笑)。
逆に、これぐらい突き抜けてないと、世界を魅了するような人気のアーティストにはなれなのかなと。
平凡でも、穏やかな幸せがいいと感じるのは、“何世代”でしょう(笑)。★3つ。
『エル プラネタ』公式サイト


『シチリアを征服したクマ王国の物語』は、イタリアの童話を映画化したアニメ作品。

旅芸人のジュデオンとアルメリーナが、旅の途中で吹雪に見舞われ、洞窟に避難すると、中から冬眠を妨げられた老クマが現れます。
ふたりは食べられては困ると、『シチリアを征服したクマ王国の物語』を語り始めます。
その物語は、次のよう。
昔むかし、シチリアの山奥で平和に暮らす、クマの王国がありました。
王のレオンスが、川で息子のトニオに魚の捕り方を教えていると、トニオの姿が見えなくなってしまったのです。
悲しみに動けなくなったレオンスに、長老のテオフィルが、人間の暮らすシチリアに行けば、トニオが見つかるのではと進言。クマたちは一斉に山を下り、シチリアの街へ向かいます。
シチリアを治めていた大公は、魔術師デ・アンブロジスからクマの大群がやってくることを聞くと、友好的に接近してきたテオフィルをいきなり射殺してしまいます。
ここから人間とクマの戦いが始まったのです。
ことごとく大公側の作戦を打ち破ったクマたちは、サーカスを楽しんでいる大公の元を急襲。
するとそこに、綱渡りをするトニオの姿がありました。
再会を喜んだその時でした。大公の銃弾が、トニオの命を奪ったのです。
これには観客の人間たちも怒りをあらわにし、デ・アンブロジスは魔術でトニオを生き返らせます。
暴君の大公は処刑され、レオンスがシチリアの王になると、クマと人間の平和な暮らしが訪れたのでした。
ふたりの話がここで終わると、老クマが言いました。
「実は、その話には、続きがあるんだよ」と…。

イタリアとフランスの合作アニメ。
原作は、1945年に発表された、イタリア人作家の児童書です。
アニメーション先進国の作品ではない、個性的なタッチが光る映像で、色使いや、影の活かし方、大量のクマや人があえて機械的に一糸乱れず動く様など、確かに日本やアメリカのアニメーションとは一線を画していると感じます。
原作も、1945年発表の作品ですから、第二次世界大戦の真っ只中に作られたもの。
クマと人間ですから、本来は相容れない存在。それが一時は手を取り合えたのに、ほころびが見え始めると、関係が崩れていく。
それぞれの生き方、幸せの在りようは違うのに、同じ価値観の器に押し込めようとすること自体が間違いなんじゃないかと教えているようで。
寓話としての教訓も散りばめられた、大人向けのアニメーション作品。
原作は男(オス)ばかりの話だそうで、その原作にはなかった勇気を持つ少女が登場します。時代に合わせた変化が、物語をさらに膨らませているはずです。★3つ。
『シチリアを征服したクマ王国の物語』公式サイト


『なん・なんだ』は、結婚40年になる夫婦の物語。

横須賀の団地に暮らす、三郎と美智子は、結婚して40年になろうかという夫婦。
三郎は元大工。仕事を引退してしばらく経ちますが、これといってやることもなく。
ふたりには娘の知美がいて、結婚し、孫娘がひとり。
ある日のこと。妻の美智子が、入念に化粧をして外出しようとしていました。
「どこに行くんだ?」
「文学講座」
「まだ続けてたのか。化粧が濃いんじゃないか」
美智子は聞き流すかのように、「知美のところに持って行って下さい」と、届け物を頼みます。
美智子が外出し、三郎も頼まれた食料品を届けようと外に出たのですが、どこに持っていったらいいのか、わからなくなってしまうんですね。
仕方なく帰宅した三郎。
すると、携帯電話が鳴ります。美智子がひき逃げに遭い、意識不明で病院に運ばれたというのです。
しかし、美智子が入院したのは京都の病院でした。
「京都?なぜ」
娘の知美も駆けつけ、京都に行くと、ベッドで眠る美智子の姿が。荷物を確かめると、バッグの中には、古いアルバムとカメラがありました。
事故から1週間が経ちましたが、意識が戻らない美智子。
何があったのかを知ろうと、三郎が現像を頼んだ写真を受け取りに行くと、なんとその写真には見知らぬ男の姿が映っていたのです…。

三郎と知美が疎遠になっていた奈良の美智子の実家を訪れ、数珠繋ぎに糸を辿って行くのですが、知らなかった妻の、娘にとっては母の、知らなかった真実に触れることになります。
三郎は典型的な昭和の亭主関白。仕事一本に生きてきて、妻は夫に食わせてもらっているという考えの持ち主で、高圧的な態度がそこここに現れています。
意識が戻った美智子は、この状況を家族にどう説明するのか。夫婦の関係はどうなるのか。
メガホンをとった山嵜晋平監督は41歳。果たして、どんな着地点を設定したのか。ご覧になる方は、どうぞお楽しみに。★3つ。
『なん・なんだ』公式サイト


 
 
 
 
週末公開の映画……2022.1.5
『弟とアンドロイドと僕』★★★
『こんにちは、私のお母さん』★★★★★
『ジギー・スターダスト』★★★
『truth〜姦しき弔いの果て〜』★★★
『マークスマン』★★★
(満点は★★★★★)


新年最初の映画紹介です。
昨年は、150本の新作映画を観させてもらいました。
12月30日にオンラインで2本、大晦日に2本。きっちり追い込んで、ノルマ達成です(笑)。
2022年も、できるだけたくさんの映画を観て、ご紹介していけたらと思っています。
今年も、ご愛読よろしくお願い致します。
さぁ、今週は5本です!

『弟とアンドロイドと僕』は、阪本順治監督、豊川悦司主演作品。

工科大学でロボット工学を教える、准教授の桐生薫。
天才的IQの持ち主でしたが、かなりの変人で、講義は難解な数式をひたすら黒板に書き殴り、時にケンケンをしながら教室に入ってくるという。これには、学科長も頭を抱えていました。
薫が住むのは、高台にある古い洋館。そこはかつて、薫の母の両親が経営していた病院でした。
ところが、婿養子としてやってきた薫の父が、母子を置いて看護師と駆け落ちをし、それからというもの、病院は信用を失い、母は暖炉の前で、自ら命を絶ったのです。
薫には、ずーっと抱えている悩みがありました。
それは、自分が存在していることを確信できないということ。
特に右足が自分の身体の一部だと思えず、鏡にすら自分の姿が写らないのです。
そんな薫は、自分の分身とも言える、機械仕掛けのヒト型アンドロイドを作っていました。
これこそが自身の存在を確かめられる唯一のものだと。
そんな時です。腹違いの弟、求が血まみれになって、家の扉を開けて入ってきたのです…。

雨が降り続く映画です。
トーンは暗く、登場人物のすべてが闇を抱えている感じ。
薫の父は、今は寝たきりで、病院のベッドの上。看病するのは駆け落ちした看護師の女性。その息子である求は、父の入院費と称して、金をせびりに、薫の大学にもちょくちょくやってきていました。
この求を始めとする、希薄でありながら、ある意味、深い関連性の家族の存在が、薫の人生に絡んでいるのです。
この映画は、阪本順治監督の人生観や内面を映し出したものだそう。
極めて、私小説ふうですが、描かれているのは“究極の孤独”。これには世の中に共通するリアリティが残されているはず。
観る側が、そこまで辿り着ければ、感じ入るものがあるんじゃないかと思います。★3つ。
『弟とアンドロイドと僕』公式サイト


『こんにちは、私のお母さん』は、中国映画。

元気と明るさだけが取り柄の女子高生、ジア・シャオリン。
大好きなお母さんを喜ばせようと、ジアは演劇を学ぶ名門大学の本科に合格したと嘘をつきます。受かったのは二部なのに。
盛大に開いた合格祝賀会で恥をかいた母娘は、自転車に乗って帰途へ。それでも優しい母と話が弾んでいたその時です。交通事故に遭ってしまうんですね。
気づけば、病院のベッドの上。自身は助かり、母は瀕死の状態。
自分の存在が本当に嫌になったジアが廊下に飛び出すと、白黒テレビが懐かしい中国を映し出していたました。
なぜかジーっと魅せられるジア。
すると、ジアは画面の中に引き込まれてしまいます。
空から降った先は、なんと今から20年前、1981年の中国。そこには若き日の母の姿があったのです…。

監督、脚本、主演は、中国の人気喜劇女優、ジア・リン。
実際に、若くして交通事故で亡くなった母をモデルに、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』よろしく、タイムスリップして親子が出会う物語を描きました。
当時の中国は、言ってみれば昭和の日本。そこへ、未来からやってきたジアが、自らの存在はなくなってもいいからと、なんとか母を父ではなく、お金持ちと結婚させようと奮闘します。
中国映画とは言っても、香港映画と違って、どこか垢抜けない感じで、最初はただのおふざけの作品かと思って観ていたら、いやいやいやいや。最後に超絶感動の仕掛けが待っていました。
もう、大号泣…。
ボクも、母が入院していて、思えば親孝行な息子じゃなかったからなぁ。そんな自分自身とジアを重ねたのかもしれません。
誰にとっても、母の存在は特別ですからね。
なんと興行収入900億円を獲得したという話題作。
人口の多い自国での大ヒットが大きいようですが、テーマは国に関係なく、普遍的な親子愛。日本でも、多くの人に観てもらいたい感動の1本です。
ハンカチを2枚持っていって下さい(笑)。満点!★5つ!
『こんにちは、私のお母さん』公式サイト


『ジギー・スターダスト』は、デヴィッド・ボウイのライブ・ドキュメンタリー。

1947年1月、イギリス・ロンドンに生まれたデヴィッド・ロバート・ジョーンズ、後のデヴィッド・ボウイは、個性的なルックスとサウンドで、世界中にファンを持つロック・アーティスト。
1964年にデビュー。
しばらくはヒットが出なかったのですが、1969年に発売したアルバム『スペイス・オディティ』からのリード・シングル「スペイス・オディティ」が、スマッシュ・ヒットに。これで、人気アーティストの仲間入りを果たします。
その後、アメリカに渡ったデヴィッドですが、その時の苦労の物語は、昨年10月に公開された映画『スターダスト』に描かれています。ちなみに、こちらはドキュメンタリーではありませんが、興味があれば、併せて観てみて下さい。
デヴィッド・ボウイは、名前やバンド名を変えたり、コンセプト・アルバムを発表することも多く、今作のタイトルも、1972年のアルバム『ジギー・スターダスト』から。
“5年後に滅びようとする地球に異星からやってきたスーパースター、ジギー・スターダスト”をテーマに、17曲を収めたこのアルバムが、世界中で大ヒット。
この作品をひっさげて、ワールドツアーを敢行。来日も果たした後、1973年のロンドン、ハマースミス・オデオンで、ツアーの最終日を迎えることになります。
すると、突然、このステージでジギー・スターダストを封印すると発表。ファンを驚かせました。
この映画は、その最後のステージを収録したものです。
そのアルバムから、今年で50年。
2016年に、この世を去ったデヴィッド・ボウイですが、親日家であることはつとに知られていて、『ジギー・スターダスト』のツアーでも、若き日の山本寛斎を衣装に起用。大島渚監督の映画『戦場のメリークリスマス』への出演でも広く知られています。
ちなみに、今作は日本でも1984年12月に一度公開されていて、その“2002年サウンドリミックス・デジタルレストア版”。
伝説のスーパースターのライブドキュメンタリーです。当時の熱狂を、ご自身の目で確かめてみて下さい。★3つ。
『ギー・スターダスト』公式サイト


『truth〜姦しき弔いの果て〜』は、堤 幸彦監督50本目の記念作。

とある男が、交通事故で亡くなります。
葬儀が終わった後、恋人とおぼしき女性がひとり、男性のアトリエを訪れ、思い出に浸りながら哀しみに暮れていました。
体を重ねたベッドに入ろうとしたその時です。なんと布団の中から、もうひとり喪服の女性が現れたではありませんか。
「あんた、誰?」
「あんたこそ、誰よ?」
すると、扉が開いて、さらにもうひとりの女性が。
「あんたたち、誰?」
全員が、自分こそ、彼の本命だと言い張ります。
その根拠は、事故の直前に残された、彼からの留守電でした。
「帰ったら、大事な話があるんだ」
しかし、この留守電も、3人に、それもほぼ同時刻に届いていたのです。
髪をつかんでの大乱闘。そして、罵り合い。
さぁ、このドタバタ劇の結末やいかに…。

コロナ禍で仕事がなくなった3人の女優が、自ら企画を立て、プロデューサー兼トリプル主役を務めたという作品。
それに、堤 幸彦監督が乗り、50本目の記念作品が自主映画に。監督にとっては“原点回帰”の意味があるとか。
劇中の3人の女性は、それぞれ、元ヤンのシングルマザーのマロン、受付嬢の真弓、女医のさな。タイプも価値観も違う女性たちの自己主張の中に、現代の男女の問題点が詰まっているかのよう。
女性3人による会話劇ですが、カメラワークからして、かなりの長回しに見えます。舞台の演劇をそのまま映画にしたような1本です。
どう着地するのかと思って観てましたが、きちんとオチるので、ご安心を。あ、これはネタバレにはなりませんよね(笑)。
71分。時間的にも、ちょうどいいかも。
やる気というか、本気が人を動かすんだなぁと。こうして、映画という形になったことに敬意を表します。★3つ。
『truth〜姦しき弔いの果て〜』公式サイト


『マークスマン』は、メキシコの凶悪麻薬カルテルと戦う、元海兵隊員とメキシコ人少年の物語。

メキシコとの国境付近で牧場を営む、ジム・ハンソンは元海兵隊員で、腕利きの狙撃兵。
妻に先立たれ、今は愛犬と暮らすジムでしたが、密入国者を見つけたら、国境警備隊に知らせるのも彼の役目のひとつ。
ある日のこと、母親とひとりの少年が、国境の柵を越え、アメリカへと入ってきます。
すると、ふたりを追いかけてきた車が1台。麻薬カルテルです。
母子を保護したジムでしたが、柵を挟んで、カルテルは引き渡しを要求。ジムが拒むと銃撃戦になり、母親が撃たれてしまうんですね。
逃亡のための資金をすべてジムに渡し、シカゴに親戚がいるからと、息子をジムに託して息を引き取った母親。
「巻き込みやがって」と、最初は憤っていたジムでしたが、亡くなった母親のため、そして金のために、少年をシカゴまで送り届けることを決意します。
しかし、銃撃戦で命を落としたのは、カルテル側も同じ。リーダーの弟がジムの弾丸で亡くなっていたのです。
復讐に燃えるカルテルは、難なくアメリカに潜入。ふたりを執拗に追いかけます。
1400マイルに渡る逃亡劇。果たして、ジムたちは、無事シカゴにたどり着けるのでしょうか…。

メキシコ人少年の名前はミゲル、11歳。
祖父と孫ほど、年の離れたふたりですが、共通するのは、家族を失い、孤独だということ。
そんなふたりだからこそ、通じる部分があったのでしょう。次第に心通わせるようになります。
しかし、この麻薬カルテルが、あまりにも残忍で。いとも簡単に人を殺しちゃうんですね。
そんな凶悪な追っ手が、あらゆる手段を使ってふたりを追い詰めます。
物語に斬新さはありませんが、古い車と銃、そして正義。アメリカの安定のヒーロー像です。
ジムを演じるのは、リーアム・ニーソン。好きな人は好きなタイプの映画だと思います。★3つ。
『マークスマン』公式サイト